やくもあやかし物語 2
「罰に、露天風呂の掃除をやっとけ!」
ソフィー先生に叱られる。
夕べ、ネルに届いたお祖父さん(ヴォルフガング・フォン・ナザニエル卿)の手紙にビックリして福の湯の湯船の掃除を忘れてしまったからね(-_-;)。
それで、ジャージの裾をまくって露天風呂に。
「じゃあ、元栓停めるよ」
「まだ、いけるのになあ……」
露天風呂はかけ流しなんで、お湯を抜いてする掃除は週に一度。おとつい別の班がやったから、そこまでやる必要はないんだけど『ちゃんと湯を抜いてな!』とダメ押しされてるから仕方がない。
わたしは高圧洗浄機のホースをつなぐ。
ザッパーーン!!
いっしゅんネルが浴槽に落ちたのかと思った。元栓は湯船の岩の縁を周らなきゃいけないから足場が悪い。
でも、そうじゃなかった。
「お、お祖父ちゃん!?」
なんと、お湯の中に潜っていたんだろう、ナザニエル卿がスッポンポンで岩風呂の真ん中に立ってる。
「待っていたぞ、お前たちも入れ」
「あ、あたしたちは掃除に来たんだよ、お祖父ちゃんこそ(^_^;)」
「四の五の言うな!」
ヒエエエ(#*´▢`*#)! ザップーーン!
ナザニエル卿が指を動かすと、いっしゅんで服が消えて、そのままネルと二人、岩風呂に強制入浴させられた。
「セ、セクハラだよ祖父ちゃん!」
「ワハハ、気にするな」
「気にするわヽ(`Д´)ノ」
「…………」
「やくもだったか、君は、少しは分かっているようだな」
「あ、浴槽に投入される時に……」
ジャージと下着がしゅんかんで消えて、体が持ち上がって風呂に投入される時に、ゾゾっとくるものがあった。
「ああ、すでに入り込まれている。戦闘力は知れているが、諜報能力に優れた妖どもだ。なあに、しばらくはあの者たちが誤魔化してくれる」
「「あ」」
岩風呂の外では、ネルとわたしのジャージが生きてるみたいに掃除をしてくれている。
「敵には、おまえたち二人に見えている」
「じゃ、ここは?」
「無人に見えている。温泉の性質がいいんでな、魔法の効きがいい」
「で、なんなのよ祖父ちゃん?」
「今も言ったが、すでに入り込まれている。一重目の結界は張り終えたが、もう二重張り足そうと思う。わしは、その作業に専念するから、お前たちに、侵入者の退治をしてもらいたんだ」
「無理だよ、そんな力ないし、うちら、まだ魔法学校の生徒なんだし!」
「コーネリア、お前には力がある。やくも、君にもな。日本ではいろいろ活躍したようだしな」
「いいえ、そんな……」
「いやいや、ここに詳しく出ているぞ」
ナザニエル卿が指を動かすと、前作『やくもあやかし物語』がゾロゾロ現れた。
「ワシは、すでに女王陛下や森の女王ティターニアにも話をつけた。他にもデラシネが役に立ってくれそうだしな。そうそう、アーデルハイドも捨てたものじゃない。だれと、どう力を合わせるかはお前たち次第だが……」
「ちょ、待ってよお祖父ちゃん」
「グダグダ言うな。必要な情報は、その都度知らせてやる。励め」
「励めたって……」
「これ以上は、お祖父ちゃんではなくて、ツボルフからの命令になるぞ」
「グヌヌ……」
ツボルフ?
「さあ、では、当面の敵について……」
ナザニエル卿は、現時点で確認できている七種類の妖について説明してくださる。卿も退治してくださるようだけど、結界を張るのが第一の仕事なので、がんばって欲しいと……見つめられる目は、ちょっと怖いかも(^_^;)
「では、よろしくな」
そう言うと、卿はクルリンと指を回す。
「「ああああ!」」
ネルとふたり、岩風呂から放り出されたかと思うと、空中で一回転。あっという間に水気が抜けて、着地した時にはジャージを着ていた。
振り返ると、卿の姿はすでになかった。
朝になって、岩風呂の浴槽の掃除をし終わっていないことに気付いたけど、叱られることもやり直しを命じられることも無かったよ。
でも、卿が言ってたツボルフって何のことだろ?
☆彡主な登場人物
- やくも 斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
- ネル コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
- ヨリコ王女 ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
- ソフィー ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
- メグ・キャリバーン 教頭先生
- カーナボン卿 校長先生
- 酒井 詩 コトハ 聴講生
- 同級生たち アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
- 先生たち マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
- あやかしたち デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名