鳴かぬなら 信長転生記
放送部と交渉しました!
放課後の学食で『天ぷらきしめん大盛り』をトレーに載せてテーブルに着こうとしたら、腋に何やら挟んで、味噌カツ丼特盛を左手に、右手に箸を構えた格好で織部が隣に腰を下ろした。
昼飯の味噌カツ丼を食べていたら、俺の姿を見つけたので、そのまま席を移してきたのだ。
それまで居たテーブルにはトレーが載ったままで、通路には味噌カツの味噌やらご飯粒が落ちている。
よっぽど、俺に伝えたいことがありそうなので「落ち着いて食え」と注意して、いっしょに昼飯にする。土曜の半日授業なので、しっかり昼飯を食べて、例の茶席の結果を待とうというわけだ。織部も同じで、学食に入ってきた俺を見つけて、慌てて寄ってきた。
ツルツル
「で、なんで放送部なんだ?」
「茶席の中継です!」
モグモグ
「ああ、生徒会長との?」
ツルツル
「はい、例のアクセントの件で、同席は出来ませんから、カメラを仕込んで中継……、あ、きっと、もう始まってます」
そう言うと、味噌ダレを頬っぺたにくっつけたまま、腋に挟んだタブレットをテーブルに置いた。
『……と言う次第なんだ、会長、よろしく頼む』
信玄は頼みごとをしても、なんだか偉そうなのだが、少しも嫌味とか威圧感にはならない。
大柄で、ちょっとふくよかな体形もあるんだろうが、持って生まれた押し出しなんだろう。
『ちょっと待ってください……』
前置きすると今川生徒会長は、美しく茶を喫する。
茶碗を持つ手も、白魚のような指先も、喫するにつれてコクコクと動く喉も顎も、どこをとっても学院一番の評判も高き美少女のそれだ。
「信長先輩もなかなかのものですよ(^_^;)」
「世辞はいい、今川は源家嫡流に繋がる家だ、やはり年月に磨かれた美しさは格別だなア」
「は、はい、いかにも」
転生学院はロン毛の者が多いが、ヨシモトは姫カットがメチャクチャ似合って、そのまま大河ドラマの姫役が務まりそうだ。
『良いお服加減でした』
お約束の茶席のあいさつなのだが、茶器のさばき方から目の伏せ方、観音菩薩のような微笑、どれをとっても、一級品だ。
『いやはや、ことの重さに、いささか急いてしまった。わたしも、まず一服……』
信玄が茶碗に手を掛ける。美少女にしては、やや大きな手なのだが、包み込むような温かさとたくましさがある。
並んで控えている謙信は、一服目を喫し終わって、この場の主役を信玄とヨシモトに譲っている。
茶席の穏やかさから察すると、ここまでは謙信が主導していたんだろう、例のアクセントも問題になることなく、みなで、二服めの茶を喫するところのようだ。
『ご懸念のほどは承知しましたが、ことは学院の枠を超えているように思います』
『いかにも、三国志の侵入は、扶桑全体で受け止めなければならない懸念ではある……』
『しかし、信玄さん、大っぴらにしてはいたずらに不安をあおってしまいますよね』
『やはり、特別予算は……』
『むつかしいでしょう』
『そこをなんとか……同じ源氏の流れ、斟酌してはもらえないだろうか』
『…………』
『ヨシモト殿』
『いまも申した通り……と言っては、身も蓋もありませんね……ところで、仮に、偵察に出るとして、信玄さんや謙信さんは、どなたを派遣しようと?』
『それは、扶桑の一大事、率先垂範、わたしと謙信で……』
『それはいけません。お二人は転生学院の重鎮、お二人が偵察のため姿を消されては、学院に動揺が走ります』
『しかし、吉本どの……』
『アン……(//∇//)』
ちょっと色っぽい声を出して眉根を寄せる会長。信玄はアクセントを間違えたのだ。
『これは申し訳ない(^_^;)』
『わ、分かりました。学園の会長とも相談して、早急に答えを出しましょう』
『吉本殿!』
『アン……(//∇//)』
『あ、すまん』
『あ、いえ、ですから信玄さん』
『だから、ヨシモト殿』
『アン(//∇//)』
『あ、いやすまんすまん(^_^;)』
『信玄、会長もご理解いただいた様子、これくらいで』
謙信が膝立ちになって信玄の袖を引く。
『会長、このくらいで』
とうとう三成が止めに入った。
『そ、そうですね、ちょっと目眩が……』
『それでは、これにて……』
利休がしめて、ホッとした空気が茶室に流れる。
一礼し合って、会長が立ちかけ……よろめいてしまった。
『吉本どの!』
『アア~(//∇//)』
機敏に会長を支える信玄……しかし、止めにアクセントを間違えてしまい、会長は美しく手足を痙攣させて気を失った。
『会長!』
『中継を切れ!』
プツン……
大丈夫か?
☆ 主な登場人物
- 織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生
- 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
- 織田 市 信長の妹
- 平手 美姫 信長のクラス担任
- 武田 信玄 同級生
- 上杉 謙信 同級生
- 古田 織部 茶華道部の眼鏡っこ
- 宮本 武蔵 孤高の剣聖
- 今川 義元 生徒会長