正直、創作劇を書くのは難しいのですが。世の中にはアイデアで、けっこうイタシテしまう人もいますので、『創作劇の書き方』を、お話します。
【弱い人ほど良く書ける】戯曲を始め、書き物というのは、「弱い人ほど良く書ける」と思っています。弱い人間というのは、感じやすい人です。感じやすい人は、強い人なら何にも感じないことに、ひっかかるものです。そのひっかかるものに、表現意欲と、表現力がつけば、そこに作品が生まれます。
【恋いの三段跳び】という詩をつくった子がいました。今から40年ほど昔の女子高生です。こっそりわたしに見せてくれました。
ホップ、あなたに恋いをして。 ステップ、あなたに近づいて。 ジャンプ……しても、とどかなかった。
良い詩だと思いませんか。失恋した自分の心を癒すために書いた詩です。傷ついてはいますが、そういう自分を、カラッと、可愛く突き放して書いています。本人の名誉のために言っておきますが、とても可愛い子でした。松田聖子によく似ていて……彼は、松田聖子が好きではなかったようです。
【わたしは、とんでもないフラレ男でした】50回は失恋しています。だから、モテル人よりも、モテナイ人の心情がよく分かります。その心で、『ロミオにふられた、ロザライン』を書きました。モテル人が、『ロミジュリ』を読むと、ロミオとジュリエットに心が傾斜していって」しまいます。わたしのようにフラレっぱなしの男が『ロミジュリ』を読むと、あることに気づきます。 ロミオはジュリエットと知り合うまでに、ロザラインという彼女がいたのです。飲み屋の娘で、ロミオもかなり熱を上げていたことが分かります。登場はしません。ロミオと彼の友人の会話の中に2度ほど出てくるだけですが、ストーリーの結果から、ロザラインはフラレたことには間違いありません。そのロザラインの心情に立って、ジュリエットの亡霊とお話させてみました。放っておくと、原稿用紙の中で大げんかを始めました。公平、公正を旨とするわたしは、ジュリエットを太陽の光で消滅させ、ロザラインは毒薬で、ロミオの頭蓋骨を抱きながら死なせました。ただ、その頭蓋骨は、墓から取り出すときに失敗して、ジュリエットの頭蓋骨ではありましたが……天王寺区にある女子校が一度演ってくれましたが、シェ-クスピアの文体模写をやったので、苦労されたようです。
【白雪姫に王子さまがキスをしなっかったら】白雪姫は、毒リンゴを食べたあと仮死状態になり、白馬の王子さまがキスをして生き返り、めでたくハッピーエンドになります。そこで、王子さまがキスをしなければ……と、ふられ男のわたしは考えました。王子さまがキスをするのは求婚の象徴です。結婚というのは、人にもよりますが、かなりの決心がいります。わたしも長い人生の中で、女の子のほうから告白されたことがあります。わたしも憎からず思っていたのですが、いざというと躊躇する自分がいました。結婚とは、互いが、互いの人生に責任をもつことです。で、考えてしまうのです。当時のわたしはフリーター同然の非常勤講師でした。大学も当時世間では三流大学と言われた桃山学院を出たところで、赴任先の校長に、こう言われました「大橋君(先生ともよんでもらえませんでした)桃山出て、高校の採用試験通ったやつ、おらへんで、悪いこと言わへん、進路変更しぃ」ただでも自信の無かったわたしはオチコミました。しかし桃山学院の名誉のために申しあげておきますが、教師になってから分かりました。二人、わたしより先に採用試験に通り、高校の先生をしている先輩がいました(校長は偏見と予断で、わたしに言ったのです) 非常勤だけでは食えないので、テレビのエキストラもやっていました。ちょい役でしたが、台本に役名が載り、大女優さんと同じフレームに収まっていたりしました。しかし、実態はフリーター同然でした。彼女が告るのには、相当な勇気と、わたしへの信頼があったのでしょう。でも、そのときのわたしには主に経済的な見通しから、彼女を幸せにする自信がありませんでした。だから、刹那(一瞬)躊躇してしまったのです。時間にして十秒ほどの間が空きました。その十秒で、彼女は話題を変えてしまいました。今と違い、女の子のほうから告るのはとても勇気のいる時代でした『時をかける少女』の実写版で主人公のアカリが1974年にタイムリープして、こんな台詞がありました「この時代のオトコってめんどくさいね」 まさにそうでした。で、そのころに『白雪姫』を読み直してみたのです。「王子さまて、勇気あるなあ」と、感じました。白雪姫と結婚するということは、彼女にまつわる問題を背負い込まなくちゃならないのです。悪い妃によって荒れ果てた領地の回復、離れてしまった民心を取り戻すこと(今の日本の首相を見ていても民心が、離れ、国難にあった政治家はむつかしいということが分かると思います) 白雪の領地を自分の領地に併合することで、まわりの国から見られる疑心暗鬼は、王子の国の外交をひどく難しいものにしてしまいます。だから「オレが王子さまやったら、きっとためらうなあ……」 ここから生殺しのような状態におかれた白雪の悲劇が始まる……『ステルスドラゴンとグリムの森』という作品になりました。
【走れメロス】をご存じですよね、友人セリヌンティウスを救うため、メロスは、自分に打ち勝ち、友人を助けるという太宰治の名作です。あれは、太宰の体験が基になっています。 友人たちと箱根かどこかの旅館にとまり大騒ぎ、ところが、だれもお金を持っていません。そこで太宰は、「知り合いの偉い人から借りてくる」と言って一人東京にもどります。しかし、太宰は戻ってはきませんでした。後日、それを「よく、そんなことができたな!」と詰め寄られると、太宰はこう言いました「君たちは分からないだろう、待つ者の苦悩より、待たせる者の苦悩の方が、何倍も強く、苦しいのを」 実に勝手な言い分ですが、ここから、「待たせる者の苦悩」を描いた名作『走れメロス』は生まれたのです。
【少し畑はちがいますが】小説の作方で、お話したいと思います。一昨年のことになりますが、出版社 から、「高校演劇の基礎練習について書いて欲しい」と言われました。売れない本書きなので、断ったら、あとの仕事がありません。「喜んで!」と、返事はしましたが、鉛を飲んだように、気が重かったです。この手の入門書、めったに売れません。演劇の基礎練習など、口で説明するのも難しいのに、文章では……
【もう一つ、エライことを引き受けました】ある、大阪市立の演劇部が、わたしの作品を演るというので見に行ってしまったのです。そしてシマッタのです! 一年間、その演劇部のコーチをやるハメになりました。現場で指導されている先生なら、よくお分かりだと思うのですが、クラブというのは思ったようにはいきません、進路やバイト、ほかの部活との兼業、演劇部に独特な人間関係の難しさ(ガラスと、鉄が入り交じったような心をした子が多く、ひどく傷つきやすく、反面傷つけやすい子が多いです。まあ、こういう感受性をしていないと、感受性そのものである芝居など出来ませんが)
【そこで閃きました!】この感受性の相克そのものを書いてみれば、技術面だけでなく、メンタルな面も含めて、高校演劇全体のマネジメントを表現できるのではないかと……演劇部の生徒は部活を通して、技術的に成長するだけでなく、人間的にも成長(少なくとも変化)していきます。本が全国紙であるため、大阪弁だけで書くことはできません。そこで、東京から、親の離婚がもとで大阪のY高校に転校してきた坂東はるかという少女を主人公にしました。顧問の強引さから、演劇部に入れられ、そこで、たった二人の先輩部員と、コーチに出会います。大阪と東京の文化の違いにとまどう主人公。大阪での親友に由香という子を、高校を少し斜めに見ている生徒会長吉川を配置しました。吉川は中学のときに横浜から大阪に来た子で、大阪と、高校の部活に斜めの思いがあります。サックスが上手く前の学校では軽音に入っていましたが、あまりの技術の差から、トラブルを起こし、過年度生として、このY高校に入ってきています。彼は部活を「遊び」だと定義づけます。だから、しだいに演劇部にのめり込んでいく、はるかを見る目は複雑です。最初は同じ演劇部員だった親友の由香は、家庭事情で、演劇部を離れていきます。はるかは、両親の仲をもとにもどそうとひそかにタクラミも持っています。吉川 と、はるかの連絡役をやっていた、由香はいつのまにか吉川に心が惹かれ、はるかとの友情の板挟みに悩みます(由香は、はるかと吉川は、いい仲だと思って います) 三回の公演とコンクールと、はるかの、坂東家復活のタクラミが並行して進んでいきます。その中で、仲間の退部、それに伴う人間関係のこじれ、役者としての頭打ち。吉川との人間関係の変化(吉川は、最初は同じ関東人としての親近感から、はるかに関心を持ち始め、恋心に変化し、やがては、ジャンルこそ違い、同じ「物事に打ち込む者」同志として、はるかを陰日向に応援します。結果的に、はるかの坂東家復活も、コンクールでの最優秀受賞も果たせませんが、演劇人として、高校生として大きく成長していきます。はるかの成長と共に、演劇部のあり方、練習の仕方、マネジメントの仕方がわかるように書けました。
【本題】に戻ります。本の書き方は多様ですが、本の中で、同調者と対立者を設定しておくことと、主人公に行動の目的を持たせること。そして、その問題解決のための反対行動(事件や人間)を設定しておき、そこで葛藤がおこり、人間関係に化学変化が起こる(前述の由香や、吉川) そして、結末は書かない方がいいでしょう。ほのめかすだけでいいと思います。本の書き方には、大きく二種類あります。一つは「落語形」 最初にオチ(結末)が決まっていて、そこに向けて本を書いていきます。話としては安定感がありますが、話がパターン化し、わるくすると最初から結末が分かってしまう欠点があります。テレビの『水戸黄門』などは、その典型です。 もうひとつは赤塚不仁夫形、話の最初だけ考えておき、あとは、気の向くままというか、登場人物におまかせ。なんせ、書き始めた時には、作者にも結論が分かっていないですのですから、話の展開が面白くなります。ただ欠点としては、話が破綻(メチャクチャ)しやすいことです。赤塚さんのように「これでいいのだ!」と、言い切るのには、相当の努力と才能が必要です。 実際の劇作家は、この両方を混ぜて使っています。故井上ひさしさんなどは、その典型であったと思っています。
【どちらにせよ】「書きたい」という気持ちだけでは本は書けません。物事へのこだわりと、努力、時間が必要です。ジブリの作品に「耳をすませば」というのがあります。本が大好きな雫(しずく)という中三の少女が、聖司君というバイオリン作りの職人を目指す彼ができ、いい意味で対抗するために本を書きはじめます。苦悩につぐ苦悩、夏の終わり頃に「書こう!」と決心し、書き上がったのは初冬。期間にして三ヶ月ほどです。わたしも、一本の本が書き上がるのにそれくらいかかります。前述した『ホンワカ女子高生HBが本格的に演劇部にとりくむまで』略称『女子高生HB』を書き上げるのにも、それくらいかかりました。コンクール、文化祭に向けては、すこし厳しい時間にきています。他のブログでも述べましたが、先輩たちが残した創作劇に手を加えてみるのもいいと思います。 以上、参考になれば幸いです。 大橋 むつお
『ノラ バーチャルからの旅立ち』ノラ バーチャルからの旅立ち:クララ ハイジを待ちながら:星に願いを:すみれの花さくころの4編入り(税込1080円) 『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』 (税込み799円=本体740円+税) 東京から転校してきた坂東はるかが苦難を乗り越えていっぱしの演劇部員になるまでをドラマにしました。店頭では売切れはじめています。ネット通販で少し残っています。タイトルをコピーして検索してください。また、星雲書房に直接注文していただくのが確実かと思います。 『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』 青雲書房より発売中。大橋むつおの最新小説と戯曲集! △▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼ ラノベとして読んでアハハと笑い、ホロリと泣いて、気が付けば演劇部のマネジメントが身に付く! 著者、大橋むつおの高校演劇45年の経験からうまれた、分類不可能な新型高校演劇入門ノベルシリーズと戯曲! ネット通販ではアマゾンや楽天があります。青雲書房に直接ご注文頂ければ下記の定価でお求めいただけます。 青雲書房直接お申し込みは、下記のお電話かウェブでどうぞ。送料無料。送金は着荷後、同封の〒振替え用紙をご利用ください。 お申込の際は住所・お名前・電話番号をお忘れなく。 青雲書房。 mail:seiun39@k5.dion.ne.jp ℡:03-6677-4351