大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・376『四回目の大晦日』

2022-12-31 14:26:35 | ノベル

・376

『四回目の大晦日』さくら    

 

 

 

「みなさん、大晦日の夜をいかがお過ごしでしょうか? わたしは、日本最大の湖である琵琶湖の近くのお寺に学校の友だちと来ています。日本では、大晦日の夜から新年にかけて、お寺の鐘を108回鳴らす習慣があります。ヤマセンブルグでも年明けと同時に新年を祝って教会の鐘が鳴りますが、日本の108回の鐘は意味が違うんですよ。人間には煩悩という108の良くない心があると言われています。キリスト教でも『七つの大罪』というのがありますが、それに近いものでしょう、それを打ち払うために鳴らすのが元々の意味だと言われています。でも、じっさいに鐘を撞く人たちは――ゆく年を惜しみ、来たるべき新年良かれ――と願うんだそうです。わたしは、18年間、わたしを育ててくれた人たちと日本に感謝して愛しみながら鐘を突きたいと思います。そして、来年はセントヤマセン大聖堂の新年の鐘をみなさんと聞くことをお約束します。それでは、ヤマセンブルグに幸あれ、日本に幸あれ、そして、世界に平和と幸あれかしと祈ります……」

 そう締めくくると、頼子さんは胸の前で指を組んで、静かに瞑目するのでありました……。

「う~~ん…………まあいいでしょう」

「だあああ、やっと解放されたあ!」

 それまで真っ直ぐ背筋を伸ばして座ってた頼子さんは、足を投げ出し、電車の中でやったら絶対ヒンシュクやいう姿勢になって、一気にダレた(^_^;)

 年末の夜回りは、他の町内で夜回りの人が車にはねられるという事件のために、未成年は中止。

 それで、テイ兄ちゃんが話を付けてくれて、大晦日の今日は四年前にお世話になった東近江市のお寺に来てます。

『除夜の鐘お助け隊!』

 頼子さんは、領事館で新年の挨拶をヤマセンブルグの国民にライブで流す予定やった。

 それを行った先のお寺からやるということで、やっと許可が下りて、五回目のリハーサルでOKが出たというわけです。ちなみに、実際は次のように英語でやらはりました。

「How are you all doing on New Year's Eve? I am visiting a temple near Lake Biwa, Japan's largest lake, with my school friends. In Japan, there is a custom of ringing temple bells 108 times from New Year's Eve through the New Year. Even in Yamasenburg, church bells ring to celebrate the New Year at the same time as the beginning of the year, but the meaning of the 108 bells in Japan is different. It is said that human beings have 108 bad thoughts called earthly desires. Even in Christianity, there is "The Seven Deadly Sins", but it is similar to that, and it is said that the original meaning was to ring to drive away them. However, it is said that the people who ring the bell actually wish for the coming year and wish them a happy new year. I would like to ring the bell while appreciating and loving Japan and the people who raised me for 18 years. And I promise that next year we will all hear the New Year's bells of St. Yamasen's Cathedral. Well then, I pray for Yamasenburg, Japan, and peace and happiness in the world...」

「こら、さくら! そんなの見せなくていいからあ!」

 怒られてしまいました(^_^;) ちなみに、うちらはオーディエンス。

「みんな、お餅つくぞぉ! リッチも、へたってないで! 餅つきしなさい!」

 ソフィーが腕組みして、本堂のうちらを睨んでる。

 あ、リッチいうのは頼子っち⇒ヨリッチ⇒リッチです。

「ソフィー怖いよぉ」

「友だちモードでやれって言ったのは殿下の方じゃなかったですかぁ」

 カメラを片付けながらジョン・スミス。

 

 えい! ペッタン ほ! えい! ペッタン ほ! えい! ペッタン ほ! えい! ペッタン ほ!

 

 境内の臼を囲んで、湯気と歓声が木霊します。

 ちなみに「えい!」はめぐりん、「ほ!」は留美ちゃん、残りのもんは臼の周りで待機。

 つきあがったら、総勢でお餅を丸めたり伸ばしたり。つき手と合いの手は交代。

「あ、ごえんさん、うちが持ちますよって!」

「ありがとう如来寺さん」

 蒸し終わったもち米を抱えてくるごえんさん、年が明けたら七十の大台やそうです。

 うちの倍の規模のお寺を一人で切り盛りしてはります。四年近いお寺生活で、うちも手伝いの呼吸がちょっとは分かってきた。

「ごえんさんてなに?」

 お姉ちゃんに負けず劣らず日本語ペラペラのソニーやけど、さすがに『ごえんさん』は分からへん。

「お寺の住職」

「ジューショク?」

「えと、神父さんとか牧師さん的な?」

「ああ、なるほど」

 

「ウァッチლ(‘꒪д꒪’)ლ!!」

 

 ジョン・スミスが丸めようとしたお餅を落としてしまう。 

「これ、めちゃくちゃ熱いよ!」

「 部長、修業が足りません」

 ソフィーが冷やかす。ソフィーはポーカーフェイスちゅうかジト目やから、ちょっと怖い。

 

 キャーキャー ワハハと笑って、はしゃいで早くも夕方。

 

『おお! いいなあ! わたしも行きたかったあ!』

 頼子先輩に真鈴先輩から電話。

「どうだ、羨ましいだろ!」

 イチビリの頼子さんは、スマホをカメラに切り替えて、うちらを写す。

 真鈴先輩は、年明けに始まる新作アニメのアフレコで東京のスタジオ。

 なんでも、監督の絵コンテがなかなか上がってこなくて、予定よりも十日も遅れてるらしい。

『え、あ、ちょ……ちょっと監督!』

 なんかゴチャゴチャ、なんか揉めてる?

 と、急にオッサンの声になった!

『頼子さん、いる?』

「あ、はい、頼子ですが」

『マネキンではお世話になりました!』

「あ、わたしの方こそ」

『そっち、さくらさん居ます?』

「あ、はい、いま写します」

 え、なんでうち!?

『ども、文化祭の動画見ました。いちどご挨拶と思って、真鈴がいろいろ引っ張りまわして、ごめんなさいね』

「いえいえ、うち、いえ、わたしも楽しかったですから。あ、えと、監督さんのお声聞けて嬉しかったです」

『アハハ、それは何より……え、もう時間? それじゃ、頼子さん、みなさん、よいお年を!』

 後ろの方で――かんとく!――と――あ、ちょ!――の声が重なって切れてしもた。

 

 日が西に傾いて、年越しそばの下準備にかかり始めると、境内に見慣れた車。

「え?」

「あの車動くんや!」

 留美ちゃんと二人びっくり。

 その車は、この四年で二回ほどしか動いてるとこを見たことが無いミニクーパ。

「まさか!?」

 車から出てきたんは、お祖父ちゃんと詩(ことは)ちゃん。

「お祖父ちゃんが運転してきたん!?」

 たしか詩ちゃんは免許持ってへん。

「あはは、午後から空いちゃったら、お祖父ちゃんが『連れてってやる!』って」

 よかった! いや、よくない!

 詩ちゃんが来たんはええけど、うちが如来寺に来て、一回も運転してるとこ見たことないお祖父ちゃんが堺から車運転してきたのはめちゃくちゃよくない!

 折り返し帰るいうお祖父ちゃんを引き留めて、こっちで年越しさせるのは一苦労でした(^_^;)

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか      さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首  

 

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宇宙戦艦三笠17[クレアの役割]

2022-12-31 09:33:42 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

17[クレアの役割]   

 

 


 宇宙戦艦三笠は4人で十分コントロールできるようになっている。

 艦長:東郷修一  副長兼航海長:秋野樟葉  砲術長:山本天音  機関長:秋山昭利

 これで十分だった。そこにボイジャーから変態したクレアが加わった。アナライズの補助ということになっているが、三笠にはAIの立派なアナライザーが付いていて、クレアにはやることがない。


 クレアは、一見どうでもいいことをやりだした。


 艦内のあちこちに、小ぶりな一輪挿しを付けて、コスモスのような小さな花を活けたりした。

「あら、コスモス」

 樟葉が二日目に気づいて、それっきりで、なんの効果もないようだったが「あれクレアが活けてくれたの?」「はい……」それだけで、三笠の何かが温まった。

 でも、三笠のどこにコスモスが咲いていたんだろう?

 ちょっとだけ不思議になった。

 樟葉が航路の確認をしようと宇宙海図を広げると、直ぐ上の戦闘指揮所でなにやら気配。

 あら?

 ラッタルを上がると、ネコメイドたちがしゃがんで何かを見ている。

 邪魔しちゃ悪いと待っていると、反対側のラッタルを下りていく。

 なんだろ……上がってみると東郷提督の標の前にフラワーポッド。いくつもの花が芽を出したり蕾を膨らませていたよって、目をへの字にしていた。

 その話を聞いて、小学校で生き物係だったのを思い出した。ウサギとか飼いたかったんだけど、先生にダメだと言われて、樟葉は花の世話を始めた。あれ、すみれだったかな? 見に行こうかと思ったら、トシが叫んだ。


「おれグリンピース食っちゃった!」


 夕食の肉じゃがにグリンピースが入っていた。トシはグリンピースが苦手だ。だから三笠のアナライザーはメニューの中にグリンピースは入れなかった。クレアは、それに干渉してグリンピースを入れたんだ。クレアと目が合うと、クレアは「え?」という顔をしている。

 トシは考えた……というより思い出した。

 トシは妹を亡くしてからグリンピースを食べなくなった。トシの母は、トシの食べるものにグリンピースを入れなくなった。

―― よかったね、一つ克服できた ――

 クレアの小さな声が、直接心に響いてきた。

―― 克服……そうだ。グリンピースは由美が好きだったんだ ――

 妹が死んでから、トシはグリンピースを食べなくなったことを思い出した。


「0・2パーセクの座標に船の残骸。モニターに出すわね」


 樟葉がモニターに出した映像には、定遠の残骸が映し出されていた。テネシーの時とは違って、船の形を留めないほどに壊されていた。

「生命反応は?」

「ない……」

「全滅か……?」

「いや、痕跡もないから、元々無人の船だったようね」

「もともとハリボテのレプリカだったからね」

「贅沢なドローンだ」

 天音が、無感動に締めくくった。

「じゃ、記録だけして、先を急ごう」

 三笠のアナライザーは数秒で記憶し終えると、乗組員たちといっしょに定遠のことは忘れてしまった。三笠は絶えず前を向いている船なのだ。

「定遠から光子魚雷」

 クレアが短く言った。

「え!?」

 樟葉の手が反応した。後部バリアーを張り、フレアーを放ち、船を面舵に切った。その間0・2秒。

 連携が良くなった。


 ドーーン!


 艦尾の方で大きな衝撃があった。

 フレアーと艦尾のバリアーに光子魚雷が命中した。三笠自体には損傷はない。

「危ないところだった……」

「定遠の残骸をダミーにして、光子魚雷を仕込んでいたんです。シュトルフハーヘンの得意技です」

「クレア、よく知ってたわね」

「ボイジャーでいたころに、いろんなことを経験しましたから……」

 チョコレートのような香りがしているのに気付いた。

 調べてみるとコスモスの香りだった。コスモスはチョコレートのような香りを放つ。その香りには鎮静作用があることも分かった。クレアに目をやると、少しニコリとした。


 トシは気づいた。


 グリンピースが嫌いだったのは、妹が死んだのは親が新しくても身に合わない自転車を買ってやったから……トシは、妹の死は自分にあると思って引きこもりになってしまったと思っていた。

 だけど意識の底で、妹が死んだのは、半分は親のせいだとも思っていた。

 臆病と裏表のトシの優しさは、それを押し殺して、グリンピースが嫌いということで現していたのかもしれない。

 でも、知らずにグリンピースを食べてしまった。

 アハハハ

 士官食堂のみんなが笑った。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・70『誕生日』

2022-12-31 07:04:46 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

70『誕生日』 

 

 

 それからの潤香先輩は回復の兆し。

 病室は胡蝶蘭の造花と貴崎イエローの洗い観音さまを洗ったハンカチでいっぱいになった。

 その日の夕方、忠クンからメールが来た。


―― 誕生日おめでとう。誕生日のお祝いをしたいので、よかったら返事ください ――


 で、わたしたちは定期で行けるTAKEYONAの一番奥の席に収まっている。

 テーブルの上には、とりあえず「海の幸ホワイトソ-スのパスタ」ジンジャエールで乾杯したところに、サラダとチーズのセットがやってきた。

「やっと同い年だな」

「うん。四捨五入したら二十歳だぞ!」

 自分で言ってドッキリした。

 二十歳って重たくて嬉しい年齢……実際にはもう少しかかるけど、あっという間なんだろうなあ……忠クンの顔が眩しく見えた。

 十六歳というのもなかなかの歳だ。ゲンチャの免許もとれるし、その気になれば、ウフフ……結婚だってできちゃうぞ。目の前の糸の切れた凧は、まだ二年しなきゃ……ジンジャエールってノンアルコールだったわよね?

「これ、ささやかな誕生日のお祝い」

「え、こんなにご馳走になってんのに」

「大したもんじゃないから」

 ……大した物じゃなかったけど、心のこもったものだった。折り紙の胡蝶蘭。

「今日の誕生花なんだよな。本物は高くて手が出ないけど。オレ必死で折ったから」

「ううん……本物より、こっちがずっといい。だって、これだったら枯れることないもん」

「そか……そう言われると嬉しいな。なんだか、まどか十六になったとたん口が上手くなったな」

「心から、そう思ってるんだよ」

 クチバシッテしまった。目が潤んできた……いけません。フライングはしません!

 封筒に、まだなにか入っている……これは!?

 リングでもラブレターでもありません。念のため。

 それは自衛隊体験入隊のパンフレットだった。

「忠クン……これは?」

「高等少年工科学校は反対されてあきらめた。で、一回体験入隊だけでもって思って……あ、まどかを誘ってるわけじゃないんだぜ。一応知っておいてもらいたかったから」

「そうなんだ……」

 そのとき、観葉植物を挟んだカウンター席から、聞き覚えのある声がしてきた。

「え、マリちゃん、本気かよ……」

 この品のいいバリトンは、忘れもしないわ。

 コンクールで乃木坂を落とした高橋誠司……!

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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鳴かぬなら 信長転生記 100『指南街 窯変』

2022-12-30 10:18:57 | ノベル2

ら 信長転生記

100『指南街 窯変』織部 

 

 

 焼き物が窯の中の火の具合や灰の被り方で、思わぬ景色に変わることを窯変(ようへん)という。

 

 備前焼や信楽焼など、釉薬を用いない酸化焔焼成が有名だが、信長の窯変天目茶碗のように釉薬を用いたものでも窯変を起こす。

 万に一つほどは、茶碗の中に宇宙を見る如き深さを感じさせるものがあって、信長のコレクションの中にも震えが出るほどの名品があった。数ある信長のコレクションのどれであったかは言わない。言ってしまえば、この織部の目にかなった器として名が出てしまう。名が出てしまえば、次に転生した時に人の手に渡るか、知ってしまった信長が手放さなくなるだろうからな。

 その窯変に似ている。劉度(リュドミラ)の胡旋舞がだ。

 元々は、故郷のウクライナで、流浪の楽団や村人に教わった見様見真似の自己流であったらしい。容姿にコンプレックスのある劉度は、村の祭りで人並みに踊れれば人が振り向いてくれるかと、なかば自己流。

 劉度に人の半分も愛嬌があれば、名うての踊り子として幸せな人生が送れたかもしれない。

 じっさい、指南街の古屋敷の庭や跡地で踊らせてみると、窯変と言っていいほどのパフォーマンスを見せてくれる。

 プロポーションもルックスも悪くない、ただただ愛想が無いという一点で、この隠れ美少女は損をしてきたのだ。

 それに、劉度には、度外れたスナイパーの才能もあった。人も国も、そのスナイパーの才能しか見てこなかった。

 惜しい、こんなことなら、ガードなど宮本武蔵にやらせるんだった。

 いや、こうやって三国志に連れてきたからこその窯変。

 

 そのジレンマに爪を噛みながら撮影を見ていると、ひとりの女が塀の破れから飛び込んできた。

 

「陳麗、撮影中よ!」

 明花がたしなめると、手をワイパーのように振りながらまくし立てた。

「曹素の部隊が酉盃までやってきた! そのうち、この指南街にもやってくるよ!」

 根は明るい性格のようだが、迫った危機に頬が引きつって神経質の三文字を擬人化したような様子だ。

「くそ、みんな、ここまでだ!」

 手慣れた手つきでカメラを仕舞うと、孫権は助手の女をわたしの前に突き出した。

「越後屋さん、この人を扶桑に避難させて!」

「え、この助手を?」

「帽子とメガネをとって」

 

 え、ええ!?

 

 目を剥いて驚いたのは大橋だ。

 たしかに、帽子とメガネをとった助手は、キリリとした美人だけども……いや、この迫力は?

「曹茶姫さんです、曹素は茶姫さんを捕まえにやってきているんだ。一刻を争う、この場から扶桑に連れて行ってあげて!」

「茶姫さん、無事だったのね!」

「ああ、孫権が骨を折ってくれてね。事情を説明してからのつもりだったけど、そうもいかなくなってきた。お願いできないだろうか越後屋……いや、古田織部殿」

「わ、分かりました!」

 美しいものにしか関心のないわたしだが、いや、美しさが分かるからこそ、孫権が智謀と力技で組み立てた茶姫脱出劇の最後の一筆を美しく捌いてやらなければと思った。

「ならば、わたしも行くぞ!」

「いや、リュドミラは孫権と大橋さんに預ける。どうか舞姫としての芽を育ててやってくれ。孫堅が写真を撮りたいと思った心も本音だろうからね」

「分かってるなあ、越後屋さん、いや織部さんもぉ(^▽^)」

「劉度さんのことは任せてください!」

 大橋も胸を叩いてくれる。

「しかし、わたしは織部のガードだ!」

「大丈夫、いつかリュドミラのすごい胡旋舞が見られるかと思ったら、それだけで、この身が惜しい。無事に茶姫さんを送り届けたら、戻って来るよ」

「じゃ、紙飛行機を飛ばしておくよ」

「ありがとう! じゃあ、行きましょう、茶姫さん!」

「ああ、すまない!」

 キリリと礼を言うと、茶姫は三人の娘に体を向けた。

「明花、静花、陳麗、世話になった!」

「いいえ、わたしたちこそ。いま、こうして命のあるのは茶姫さまのお蔭です」

「茶姫さまに助けていただかなければ、明花姉さんともども、あの森の中で骨になっているところでした」

「陳麗、そなたにも世話になった。陳麗が着替えを持ってきてくたからこそ抜け出すことができた」

「そんな、曹素の兵隊でさえ手を出さなかった陳麗に、もったいないお言葉です」

「では、天下が落ち着いたら、また会おう!」

「「「茶姫さま!」」」

 

 茶姫さんを伴って指南街の路地を拾って走る。追手が迫っている時は人の脚がいい。

 茶姫さんと二人、旧知の友のように足並みが揃う。

 言わずとも思いが揃ったのは、茶姫さんも、この織部も戦国を生きる武人という属性が強いからだろう。

 

 指南街を北に抜けたところで、頭の上を航空迷彩柄の紙飛行機が追い越していった。

 紙飛行機は白しかないはず……どうやら、紙飛行機まで窯変してしまったらしい。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟

 

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・69『胡蝶蘭と黄色いハンカチ』

2022-12-30 06:43:01 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

69『胡蝶蘭と黄色いハンカチ』 

 

 

「遅いなあ……もう三分も遅れてる」

 里沙がぼやいた。

「仕方ないよ、お誕生日祝いかさばるんだもん……」

 夏鈴を弁護した。

 誕生日の良き日は日曜だったので、わたしたちは病院のロビーで待ち合わせしている。

 三年前に建て替えられた病院はピカピカで、吹き抜けのロビーの南側は一面のガラス張りになっていて、一月も半ば過ぎだとは思えない暖かさ。これでシートが劇場みたいでなければ、ちょっとしたリゾートホテルみたい……。

「寝るな、まどか」

「あ、ごめん、ついウトウトして(^_^;)」

「まどかは病院慣れしてるんだ」

「あ、その言い方は、ちょっと傷つくかも……」

「あ、ごめんごめん」

 里沙は病院が嫌いなわけじゃない、物事が計画通りに進まないことに、ちょびっとだけイラついている。夏鈴はのんびり屋さんだし、わたしは、その中間ぐらいだし。いい組み合わせなんだ。


「あ、君たち乃木坂の……」


 潤香先輩のお父さんとお母さんが並んでエレベーターから出てきた。今まで看病されていたんだろうね。

「よく来てくれているのね。紀香が言ってた。本当にありがとう」

「いいえ、潤香先輩はわたしたちの希望の星ですから!」

 待っていた分、思いが募って宣言するみたいに立ち上がる里沙。あ、わたしも挨拶しなきゃ!

「今日は先輩のお誕生日なんですよね。おめでとうございます!」

 少し後悔した。今年の誕生日はそんなにめでたくもないことなのに。やっぱ、わたしは口先女だ。

「覚えていてくれたのね、ありがとう!」

「いま、親子四人で、ささやかにお祝いしたとこなんだよ!」

 ご両親で喜んでくださって一安心。

「さ、どうぞ上がってちょうだい。紀香も一人だから喜ぶわ」

「もう一人来ますんで、揃ってから伺います」

「そう、じゃ、わたしたち、これで失礼するけど。ゆっくりしてってちょうだいね」


 夏鈴が入れ違いにやってきて、やっと潤夏先輩の病室へ。


「えー! こんなのもらっていいのぉ? 高かったでしょう?」

 一抱えもある胡蝶蘭……の造花に、お姉さんは驚きの声をあげた。

「いいえ、造花ですし、お父さんの仕事関係だから安くしてもらったんです」

 夏鈴が正直に答える。

「知ってるわ、ネットで検索したことがある。考えたわね、病人のお見舞いに鉢植えは禁物なんだけど、造花ならいけるもんね。おまけに抗菌作用まであるんだもん。だれが考えたの?」

「はい、わたしです!」

「まあ、夏鈴ちゃんが」

「それに、潤香先輩が良くなったら、これを小道具にしてお芝居できたら……いいなって」

「ありがとう、里沙ちゃんも」

 おいしいとこを、二人にもっていかれて、わたしは言葉が出ない。

 自然に潤香先輩に目がいく。

「先輩の髪の毛、また伸びましたね」

「そうよ、宝塚の男役ぐらい。もう、クソボウズなんて言えなくなっちゃった」

「先輩って、どんな髪にしても似合うんですよね。わたしなんか、頭のカタチ悪いから伸ばしてなきゃ、みっともなくって」

 里沙と夏鈴が同時にうなずく。あんたたちねえ……!

「ハハ、そんなことないわよ。あなたたちの年頃って、欠点ばかり目につくものよ。どうってないことでも、そう思えちゃう。わたしも、そうだった……潤香もね」

「色の白いの気にしてたんですよね……こんなに美白美人なのに」

「なんだか……眠れるジャンヌダルクですね!」

 わたしってば、ナーバスになっちゃって、自分がいま思いついてクチバシッタ言葉にウルっときちゃった。

「ジャンヌダルク……なんだか、おいしそうなスゥイーツみたい」

「人の名前だわよ。グリム童話に出てくるでしょうが!」

 二人がうしろで漫才を始めた……と、そのとき、潤香先輩の左手の小指がピクリと動いた!

「……いま、指が動きましたよ!」

「え……うそ……潤香!……潤香あ!」

 そのあと、お医者さんがきて脳波検査をやった。

 微かだけど反応が続いた。

「実はね、昨日貴崎先生がいらっしゃったの……」

 脳波計を見つめながら、紀香さんが口を開いた。

「誕生日だと、両親も来るし、あなたたちも来るかも知れないって……前日にね」

「先生……どんな様子でした?」

「先生は……普通よ、元気で明るくって……そうだ!?」

 紀香さんは、ベッドの脇から一枚の黄色いハンカチを取り出した。

 それは、紛れもなく、神々しいまでの貴崎イエロー!

「そう、貴崎先生がね。お祖母様のために巣鴨のとげ抜き地蔵に行ってね、洗い観音さまを洗ったハンカチ。お祖母様は腰だけど、潤香のことを思い出されてね、潤香のためにね、このハンカチで観音さまの頭を洗ってくださって……ほんの、おまじないですって置いていかれたの。で、あなたたちが来る直前に潤香、汗かいてたから、これでオデコ拭いて……でも、あなたたちも胡蝶蘭の造花持ってきてくれたわよね!」

「これは、今日の誕生花が胡蝶蘭だったから……」

「そんなに誇張して考えなくても」

 また、うしろで絶好調な漫才が始まりかけた。

 そこに、知らせを聞いたお父さんとお母さんが戻ってこられて、病室は嬉しい大混乱になりました。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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せやさかい・374『ショック!』

2022-12-29 16:22:22 | ノベル

・375

『ショック!』さくら    

 

 

 ちょっとショック!

 

 夜回りのコースの下見を終わって帰ってみると、山門入ったとこでテイ兄ちゃんに呼び止められた。

「未成年の夜回りはやんぺになるかもや」

「え、なんで!?」

「夕べ、よその町内で夜回り中に事故があって二人亡くなってなあ、それでやと思う。今から町会長さんと市役所に事情聞きに行くとこやねんけどな」

 そこまで言うと、テイ兄ちゃんは町会長さんを車に乗せて市役所に走って行った。

「さくらぁ」

 留美ちゃんがビッコ曳きながらこっちに来る。

「あ、うちの方が行くよって!」

 留美ちゃんは本堂の大掃除で足をグネってしもてるんや。

「やっぱり中止って言ってた?」

「うん、いま、町会長さんと市役所行きやったとこ」

「だったら、まだ決まったわけじゃないんだね?」

 留美ちゃんはええ子や。

 足グネて、自分は行かれんくなってしもたけど、みんな楽しみにしてるのん知ってるから、自分の事のように心配してるんや。

「うん、テイ兄ちゃん帰ってこんと分からへんと思う」

 

 コンコン

 

 リビングのガラスが鳴って、振り返るとお祖父ちゃんが右手でオイデオイデして、左手でメモをガラスに貼り付けてる。

―― 善哉食べにおいで ――

「「わ、善哉!」」

 脊髄反射で玄関に向かう。

「ちょ、さくら!」

「あ、ごめんごめん(^_^;)」

 留美ちゃんに肩を貸してキッチンへ。

「本堂の方に出そうと思ったんだけど、ちょっとごたついてるから、お祖父ちゃんと先に食べて」

 伯母ちゃんがお椀によそってくれる。

 ドン

 伯母ちゃんが乱暴なんとちゃうんです。丼鉢みたいなお椀にドッチャリ入ってるんで、テーブルに置いただけで充実した音がするんです(^〇^;)。

 お寺で言う小餅、世間的には中餅が二個も入って、塩こんぶまで付いて、もう世間の憂さなんか飛んでしまいそう!

「諦一が町会長と行きよったんは、みんなの顔たてるための……優しさや」

「……いま、方便て言いそうになりました?」

 留美ちゃんは鋭い。

「まあ、あけすけに言うたらな。役所の方でも『慎重にやってください』くらいの言い回しやねんやろけどな。まあ、町会の判断いうことになるねんやろなあ」

 ずっこい!……中学生やったら、そない思たやろね。

「頼子さん、楽しみにしてたのにね」

 せや、頼子さんは日本で最後の冬休みやったんや……。

「頼ちゃんは、警護のこともあるやろから、もう連絡してあげた方がええかもしれんで」

「せやねえ……」

 

 うちは、ポケットからスマホを取り出して頼子さんの番号をクリックした。

 

『ちょっと、さくら!』

 ワンコールで出た頼子さんは、もう機嫌が悪い。

「ちょ、怒らんと聞いてくださいよ(;'∀')」

『あ、ごめん』

「…………というわけで、中止みたいなんですわ」

『ああ…………そうだったんだ。うちは、ソフィーがさ「領事からお控えくださいと要請されました」って、それだけなんだもん。そうか、そういう事情だったんだね』

「正式に決まったら、また電話しますから」

『あ、うん、待ってるね……ひょっとして、さくら、お善哉とか食べてるぅ?』

「え、なんで分かったんですか!?」

 いっしゅん、ソフィーかソニーに隠しカメラを仕掛けられたかと思た!

『いや、匂いがね』

 え、こないだアップグレードしたかと思たら匂いを送る機能が付いたか!?

『え、そっちもリアルお善哉?』

―― 殿下、冷めないうちに召し上がってください ――

 ソフィーの声がしてる。

「なんや、そっちもお善哉やったんですかぁ!」

『アハハ、偶然の一致だね。そうだ、お善哉の見せあいっこしようよ、写真送って! こっちも送るから!』

「ラジャー(^^ゞ!」

 

 一度電話を切って、まだ手を付けていない留美ちゃんのを撮って送る。

 同時に、向こうの写真も着信。

―― そっちの方が大きい! そっちの食べたいぞ! ――

 子どもみたいなメールも来る。

 分かってんねん、こうやって子どもっぽくすることで、お互いに残念なことを吹き飛ばそうという心遣い。

 頼子さんが日本に居てるのは、あと二か月あるかどうか。

 楽しい思い出作ってあげなら……さ、とりあえずは食べよ。

「え、お餅無い(⊙▃⊙)!」

「え、電話する前に食べたじゃない」

「え、ウソお!?」

 あたしのんは、ホンマのボケです(-_-;)。

 ワハハハハハハハ!

 お祖父ちゃんが、入れ歯が飛び出しそうなくらい笑って、お餅を一個分けてくれました。

 

 そのあと、テイ兄ちゃんが帰ってきて、正式に未成年の夜回り中止を宣言。

 

 せやけど、とっても、むっちゃステキな提案もしてくれて、みんなへのメールも楽しく送れたぜ(≧∇≦)!

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか      さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首  

 

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・68『部活の帰り道 乃木坂にて』

2022-12-29 07:08:19 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

68『部活の帰り道 乃木坂にて』 

 

 

 話しは前後するんだけど、『風と共に去りぬ』を観た部活の帰り道。乃木坂に立ったわたしは夕陽を浴びてスカーレットオハラみたく背筋を伸ばして歩いていた。

 ヴィヴィアンリーがパン屋さんのウィンドウに映って……やっぱりジュディーガーランド(-_-;)。

 どうも、この鼻がね……と、凹みながら思い出した。

 もうい~くつ寝ると、お正月……は、とっくに過ぎちゃったけど、わたしの誕生日!

 そんでもって、わたしの記憶に間違いがなければ……。

「ねえ、潤香先輩の誕生日って?」

 さっさと前を歩いている里沙に声をかけた。

「今月の十七日」

「やっぱし……」

「そうよ、まどかの誕生日と重なってんの」

 そのとき、坂の下の方から夏鈴が、スマホを握って走ってきた。

「ねえ、話しついたわよ!」

「夏鈴て、普通に歩くとトロイのに、スマホで話しながらだと速いんだね」

 里沙が冷やかした。夏鈴はおかまいなしに喋り続けた。

「半額でいいって、お父さんが話しつけてくれてさ。そんかわり、あさって、自分でとりに行かなきゃなんないんだけどね、部活終わってからにするね。お誕生日も大事だけど部活もね。なんたって三人ぽっきりなんだからさ」

「あ……なんだか、気を遣わせちゃって。ハハ、もうしわけないね」

「「なにが……?」」

「え……わたしのお誕生祝いのことじゃ……アハハ、ないんだよね」

「あたりまえでしょ、わたしも夏鈴も去年だったけど、なんにもしてもらってないわよ」

「だって、そんときゃ、まだ知らなかったんだからさ」

「そんなこと言う?」

「入部の自己紹介で言ったわよ」

「え、ええ……そうだっけ?」

「ちゃんと記録してあるわよ。わたしってアドリブきかないからさ」

「夏鈴は覚えてないわよね?」

「そんなことないわよ。わたしって継続的な努力は苦手だけど、最初だけはきちんとしてんだから」

 この自慢だか自虐だか分からない夏鈴。こやつにさえ対抗できないまどかでありました。


 はるかちゃんは他にもいろいろ教えてくれた。


 基本的に、ウソつきになるテクニック……といっても、ドロボウさんの始まりではない。

 役者の基本なんだよ。

 マリ先生は、型とイマジネーションを大事にしていた。だから、知らず知らずのうちに、貴崎流というか、乃木坂節というのが身に付いていく。

 良く言えば、それが乃木高の魅力だった。

 悪く言えばクセ。

 むろん悪く言う人なんてめったにいない。コンクールのときの高橋っていう審査員ぐらいのもの。

 もっと後になって分かったことなんだけど、大学の演劇科にいった先輩たちは、そのクセから抜け出すのに苦労したみたい。

 いずれにせよ、その型を教えてくれる先生がいないのだから、自分たちでメソードを持たざるを得ない。


 で、その最初がウソつきになるテクニック。


 だれにウソをつくかというと、自分に対して。

 まあ百聞は一見にしかず。ということで、はるかちゃんが演ってくれたことを録画して再生。

 はるかちゃんが針に糸を通しハンカチを縫った……ように見えた。

 でも不思議、アップにしてみると針も糸もない。マジック見てるみたいなのよ。

「簡単なことよ。両手の人差し指と親指をくっつけるの。で、じっとそこを見つめて、左手が針、右手が糸と思うわけ……するとこうなっちゃう」

 三人でやってみる……ナルホドナルホドと納得。

 こういうのを無対象演技というらしい。

 日を追う事にむつかしく、でも面白くなってくる。

 卵を割ったり、コーヒーを飲んでみたり。

 何日か目には、五人で集団縄跳びをやって見せてくれた。むろん縄は無対象。

 わたしたちは三人しかいないので、隣の文芸部を誘ってグラウンドで六人でやってみた。

 なんという不思議! 簡単にできちゃった!

 六人とも見えない縄を見ている。体でリズムをとって縄に入るタイミングを計っている。縄が足にひっかかると「アチャー」 ぎりぎりセーフだと「オオー」ということになる。縄を回す方も、最後は四人が縄の中に入っているので、中の人の頭や足が引っかからないように自然と大きく回す。

 野球部やテニス部が、感心して見ているのが嬉しかった(^▽^)。

 チャットでそれを言うと、はるかちゃんは我がことのように喜んでくれて、こう言った。

「それが演劇の基本なのよ。縄跳びが戯曲、演ったまどかたちが役者、で、感心して見ていた野球部とテニス部が観客。この、戯曲、役者、観客のことを演劇の三要素っていうんだよ」

「これ、やっぱり白羽さんのNOZOMIプロで習ったの?」

「ううん、うちのクラブのコーチに教わったの」

「いいなあ」

 で、詳しくは、はるかちゃんの『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』を読んでくださいってことでした。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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せやさかい・373『さくらのアップグレード』

2022-12-28 12:09:16 | ノベル

・374

『さくらのアップグレード』さくら    

 

 

 あっという間に冬休み。

 

 学校案内のプロモーションビデオで大いに盛り上がった。

 終業式も、けっこうおもしろかったんやけど、今日から歳末特別警戒の夜回りが始まります。

 今年は町の集会所が雨漏りやら傷みやら隙間風やらで使われへんので、急きょ、うちの本堂が本部。

 山門の前には『歳末特別警戒』の提灯が二つも出て、なんか堺奉行所か新選組の屯所かいうくらいの雰囲気。

「やっぱり、提灯は、こういうとこに掛けるのんがええなあ!」

 曲がった腰を伸ばして喜んでるのは、お寺の婦人部長をやってる田中のお婆ちゃん。

「ウンショっと……ほら、温いうちにおあがり」

 ゴロゴロ(年寄りがよう押してるカート)を本堂の階の前に据えてお婆ちゃん。

 開ける前に分かってる。中身は焼き芋。匂いしてたしね(^_^;)。

 米屋が本業やねんけど、秋冬は焼き芋も売ってる。それを持ってきてくれたんです。

 中学のころも、部活でランニングとかしてたら焼き芋をくれた。

 三回続いたら、なんか申し訳なかったんやけど「さくらちゃん、朝顔で世話になったやんか」と目をへの字にするお婆ちゃん。

「それに、若い子ぉが、毎日元気に家の前走ってくれてるだけで、ナマンダブやし」

 そない言うて手合されたり。

「あんたらも、年寄りは大事にせなあかんで」

 本堂に居てる町会のオッチャンやらお爺さんやらに檄を飛ばす。

 なんせ、お婆ちゃんは女子挺身隊に行ってた。戦後生まれの六十代七十代は鼻たれ小僧。

 アハハハ(^_^;)

 昔はヤンチャやったいう町会長さんも、頭掻いて笑うしかない。

 夜回りとかは陽が落ちてからやけど、こないやって、みんなが火鉢囲んで無駄話やってんのんがええんや。

「学校のお仲間は、いつ来るんや?」

「あ、午後には来ます。せや、夜回りのコース、下見しとかなら!」

「いやあ、さくらちゃんは真面目やなあ」

 町会長さんがヨイショしてくれる。

「ほな、ちょっと行ってきます」

 夜回りのコースを書いた地図を持って立ち上がる。

「ごめんね、つきあえなくて」

 留美ちゃんが手を合わせる。留美ちゃんは本堂の掃除してて、内陣から外陣に降りる時に脚をグネてしもた。

 詩(ことは)ちゃんは、進路の書類の事で午前中は大学。

 

 地図を見ながら角を曲がる。

 

 もう二十メートルも行ったら公園……やと思たら『鎌倉殿の十三人』に出てくるみたいな女の人が出てきた。

 長い黒髪に緋の袴、ゴ-ジャスな十二単、遠目にはお内裏さんやねんけど、近づくと眉毛は無いし、ニッコリ笑った口の中はお歯黒で真っ黒やし。初対面やったら、ぜったい逃げてる。

 このお雛さんの化け物みたいなんは、お母さんのお雛さんのメンバーやった三人官女の三方(さんぽう)さん。

 こいつが……この人がしゃしゃり出てくるには訳があるんやけど、ややこしいから省略。

「ご無沙汰いたしております、さくらさま」

「あ、はあ……て、オジャリマス言葉はやめたん?」

「はい、いまお仕えしているお方が、当世風にしなさいとおっしゃいますので、及ばずながら改めました」

「え、再就職できたん!?」

「はい、おかげさまで」

「おめでとう! 三方さん!」

「はい、二君に仕えずというのが、官女の矜持ではございますが。いとやんごとなききわからの思し召しでございましたので……わたくしのことはよろしいのです。我が主が、さくらさまにお話があると仰せになりますので、その先ぶれとしてお供してまいりました」

「やんごとなきお方?」

「はい、あちらに……」

 三方さんが示したのは公園の奥……源氏物語に出てきそうな牛車が停まってた!

 

 よっこいしょっ……と。

 

 牛車の簾を自分で上げて衣冠束帯のオッサンが出てきた。

 どこのお内裏さんや!?

 お内裏さんは、牛車の横に立つと笏(しゃく)でオイデオイデという風に手招き。

 怪しいお内裏さんや、髭なんか生やして、微妙にメタボやし。

「あ、わたしだよ、わたし」

 なんか気安い……

「ほら、ごりょうさんの堀端で自転車借りただろ」

「あ、赤い馬の!?」

「そうそう、夢にも何度か出てきたんだよ」

「え?」

「やっぱ、夢は憶えてないか。オオサザキですよ」

「オオサザキ?」

 どっかで聞いたことがある。

「えと、ごりょうさんと、堺のみんなは呼んでくれる」

「え、仁徳天皇?」

「うん」

「いやあ、今風にスタジャンとかブルゾンとか、スェットでジョギングしてるオジサンでもいいと思ったんだけどね、三方さんが、これにしろって。まあ、彼女も今風にやろうと努力してくれてるしね」

 ああ、牛車に衣冠束帯では古墳時代には合わないかな(^_^;)

「わたしは五世紀だし、衣冠束帯って九世紀……まあいい、まずはお礼を言うよ」

「お礼ですか?」

「うん、あしかけ四年前……年号はまだ平成だったね、お母さんに連れられて堺の街にやってきて、如来寺でもご町内でも、明るく元気にやってくれて、堺のいろんな人たちの心を温めてくれた」

「いえ、そんな大層なことは(#^_^#)」

「いや、まさに民の竈ならぬ民の心は潤いにけり。ほんとうにありがとう。そして、よくがんばりましたね」

「い、いえ、ぜんぜん、そんなことは。期末テストも赤点ギリギリやったし、下駄はかしてもらえへんかったら、三つぐらい赤点でした」

「赤点は、人生の色どりだ」

 ああ、なんか頬っぺたが熱つなってきたし。

「ほんとうに、よく頑張ったね」

「は、はい!」

「これからも、いろいろあると思うけど、陰ながら応援しています」

「はい!」

「友だちの中には日本を離れる者もいる、進路に悩む者、家族や友だちのことに心を痛める者、そういう者たちに寄り添ってあげておくれ」

「え、わたしみたいなオッチョコチョイがですか」

「オッチョコチョイには熱がある、心がある、恥じることはないぞ」

「は、はい」

「アハハ、なんだか金八先生みたいになってきたなあ。じゃあね、この四年あまりの頑張りに感謝して御褒美をあげます」

「そんな、わたしこそ、みんなに助けられて、ここまで来たんです。感謝するのはわたしの方です」

 謙遜やない、ほんまにそない思てるし。

「……じゃあ、これからも頑張ってくださいと思いを込めてのアップグレードだ」

「アップグレード!」

 ごりょうさんが指を動かすとインターフェイスが現れた。

 ピピピピ……ピ!  さくらバージョン1.00の下一桁が上がって1.05になった。

 なんか分かりやすい。

「三つ願いが叶うようになった」

「え、願いが叶うんですか!?」

「あ、大層なものはダメだぞ。世界征服したいとか魔王をやっつけて世界を助けたいとか、財布の中のお金を増やしてほしいとか、男を惚れさせたいとか、そいうのは無し!」

 両手を✕にするごりょうさん。

「は、はい、ありがとうございます」

「お願いをするときは、心に念ずればいい。念ずれば、このインタフェイスが現れる。無事に叶えば星が一つ消える」

「は、はい」

「では、これからも息災でな」

「はい、ありがとうございました!」

 

 ペコリとお辞儀をして顔をあげたら、牛車もごりょうさんも消えてた……というか、公園そのものが無くなって、うちは家の一本向こうの道路に立ってるだけやった。

 そもそも、うちの裏に公園なんてあれへんしね。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか      さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首  

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・67『三学期最初のクラブ』

2022-12-28 06:56:36 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

67『三学期最初のクラブ』 

 

 

「なんか、赤ちゃんのお手々みたいだね」

 三学期最初のクラブでの二番目の言葉。

「おっす、アケオメ」

 これが一番目。で二番目は、わたしが手のひらに乗っけてたそれを見た里沙の感想。

「ヒトデのミイラ」

 これは夏鈴の感想。例外的に里沙の方がデリカシーがある。

 で、その赤ちゃんのお手々のような、ヒトデのミイラみたいなものの正体は。

 マルチヘッドフォンタップと申します!

 何に使うかというと、テレビやオーディオに繋いで、最大五人まで同時にヘッドフォンが使えるという優れもの。


 で、なんで、新学期早々の部活でこれが必要だったかと言うと、以下の通りなんです。


「じゃあ、テレビとデッキ運ぶよ」

「「「おー!」」」

 と、元気はよかった……しかし現物を目にするとため息。別にイケメンを発見したわけではないのよね。

「どれでも好きなの持っていきな」

 技能員のおじさんは、フレンドリーに言ってくれたのよね。

「どうせなら、おっきいのがいいよね」

「40インチくらいなら、持てるけど……」

 わたしたちは、テレビの品定めをしている。

 テレビやネットが4K対応になって液晶テレビが更新されて、学校中のハイビジョンテレビが使えなくなり、倉庫に集められれていた。

 いずれ廃棄になるんだけども、デッキに繋げばDVDのモニターとして使えるので、技能員のおじさんが倉庫にとっておいた。それをいただきにきたってわけ。

 液晶テレビって、軽い! 薄い! 高い! と決まったものなんだ。まあ、高いものだから学校もなかなか廃棄せずに残してある。
 初期のハイビジョンテレビは今の数倍から十倍の値段だし、廃棄するにも一台5000円はするし、まだ使えるし。もったいないので残してある。
 
「この50インチくらいかな」

 夏鈴が、お気楽に指差した。クリスマスの我が家でも50インチだったしね。

「ヨイショ……重い(;'∀')」

 初期のハイビジョンは厚さが10センチほどもあって、スタンドのとこが転倒防止や角度調整機能とかで、見た目よりも、うんと重い。

 三人がかりでやっと台車に載せてゴロゴロと押していく。

「「「はあ……」」」

 三人そろってため息をついく。

 わたしたちの部室は、クラブハウスの二階にある。階段の幅も狭く、上と下に一人ずつ付くしかない。

「「「無理……!」」」

 これも三人そろった。

「テレビ運ぶのか?」

 その声に振り返ると、山埼先輩が立っていた。先輩とはジャンケン勝負以来だ。

「ここでいいか?」

 山埼先輩は、なんと一人でテレビを持ち上げ、マッカーサーの机まで運んでくれた。

「……観ることから始める。いいんじゃないか。マリ先生がいないんじゃ、今までみたいな芝居はできないもんな」

「機材もないし、人もいませんから」

 取りようによっては嫌みな里沙のグチを、先輩はサラリと受け流した。

「まあ、事の始まりってのは、こんなもんさ。ま、力仕事で間に合うことがあったら言ってくれよ。オレとか宮里は慣れてっから」

「先輩たちは、どうしてるんですか?」

 ペットボトルのお茶を注ぎながら聞いた。

「二年のあらかたは、G劇団に流れた。あそこ、うちの卒業生が多いから、違和感ないし。でも、ここに居てこそデカイ面できたけど、大人の中に入っちゃうとペーペー。勝呂だって、その他大勢だもんな」

「ま、事の始まりってのは、そんなもんですよ」

「ハハハ、そうだな。おまえらもがんばれや」

 そう言って、お茶を一気のみして爽やかに行ってしまった。

 DVDプレイヤーは、パソコンの方が便利だろうと、柚木先生がお古を無償貸与してくださった。


 一応柚木先生が正顧問。

 でも、自分は演劇には素人だからと、部活の内容には口出しされない。先輩たちとも先生とも良い距離の取り方。

 明朗闊達、自主独立。久方ぶりに生徒手帳の最初に書いてある建学の精神を思い出した……正確には、里沙が呟いたのに、わたしと夏鈴がうなづいたってことなんだけどね。

 それから、わたしたちは観まくった!

 古い順に、『風と共に去りぬ』『野のユリ』『冒険者たち』『スティング』『ロンゲストヤード』『ロッキー』『フットルース』『ショーシャンク』『クリムゾンタイト』『ラブアクチュアリー』『プラダを着た悪魔』『最高の人生の見つけ方』『インヴィキタス』『パイレーツロック』『英国王のスピーチ』『人生ここにあり』

 いずれも、不屈であり、我が道を行き、不利な状況を打ち破るお話ばかりで、広い意味で、お芝居って、人を元気にさせるものなんだと感じたよ。

 とても全部について感想言ってる余裕はないけど、『人生ここにあり』は笑って、大笑いして、大爆笑! なんだか「馬から落ちて落馬して」みたいな言い方だけど、その通り。イタリア映画で言葉なんか分からない。字幕みてる余裕もないんだけど、とにかくダイレクトで伝わってきた。ストーリーは、まだ観てない人のために言えないけど。

―― クラブを続けてよかったんだ。きっといいものが創れるんだ! ――

 そう確信できたことは確か。

 ちなみに、これらの映画は、はるかちゃん経由で、大阪のタキさん(チョンマゲのオーナーシェフの『押しつけ映画評』を門土社で連載やってるおじさん)のお勧め。

 で、DVDの大半は、はるかちゃんのお父さんからの借り物。

 非常に経済的なクラブ運営に、里沙でさえほくそ笑んでおりました。だって使い残した部費を年度末にはパーっと使えるでしょ~が(^▽^)/

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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銀河太平記・138『ドッグの昼休』

2022-12-27 13:12:13 | 小説4

・138

『ドッグの昼休』お岩  

 

 

 ドッグの水を抜き始めて三十分、漢明巡洋艦洛陽号の赤い喫水線下が露わになった。宇宙船の下半分をハルレッドに塗ることに意味はないと思うんだけど、今でも宇宙船の半分は、こういう塗装だ。まあ、翼端灯も船の舷灯に倣って赤と緑になっているんだから、伝統というものはバカにできない。

 

「……宇宙船にバルバスバウ(球状艦首)なんていらないと思うんですけどね」

 水が抜けていくのを黙って見ていた及川市長が、ポツリと言う。

「あそこには、ソナーやパルスレーダーが入ってるんですよ」

「専門的なことは分かりませんが、宇宙空間なら三次元サーチなんだから、船体の構造の対角線方向に備えた方がいいと思うんですがねえ」

「今のパルステクノロジーなら、船のどこにつけても同じなんです。軍艦だから、予備を含めて八カ所設置されてます。主機はバルバスバウですけどね」

 思わず付けてしまったケチに、ラボのメグミが付き合っている。

 

 気持ちは分かるさ。

 

 今回の停戦は、漢明の劉宏大統領の大幅な譲歩で実現した。

 漢明の艦隊と陸戦隊の撤収、在留漢明人の引き上げという提案は、完全な戦時ならば敗北に等しいだろうねえ。

 当然、漢明国内からは反対の声が上がったけど、満州戦争で漢明の崩壊を食い止めた功績は大きく。「それほど言うなら」ということで、大方の漢明人は積極的ではないにしろ納得しているよ。

 その劉宏大統領がただ一つ押し通したのが洛陽号の西之島での修理。

 もともと満州戦争の生き残りの三世代も前の宇宙船、三か月も洋上にあったので痛みもひどく、宇宙船として飛び立つのは困難だったさ。

 それなら昔の船のように僚船に曳航させればいいんだけど、故障した車を押して帰れというのに等しく、アメリカでさえ同情の意思を表したさ。

 日本政府は1000キロの彼方、洛陽号を西之島に押し付けるだけで、忌まわしい紛争が解決できるのだから否やは無い。

『加油洛陽号!』のハッシュタグは、ここ三週間トレンド入りしたままで、日本本土では『加油洛陽号!』のTシャツが流行り出している。

 そういう状況で、西之島としても粗略に扱うことはできず、今日のドック入りに及川市長も付き合わざるを得ないというわけさ。

 それで、無事に排水も終わって、一言グチってみたかったんだね。

「でも、市長。宇宙船の六割にバルバスバウが付いているのは日本のヤマトが源流なんですよ。まあ、リスペクトしてくれてると思えば……」

「知っていますよメグミさん。某国と某国は、そのバルバスバウさえ自分の国が発祥だとうそぶいておりますがね」

「だいぶ溜まってるねえ、及川さん。もうじき弁当も届くから、久々に売り子してみる?」

 市長は、元々は国交省の役人。島民といざこざの末に免職になって、うちの食堂で働いていた。

「え、お岩さんはお弁当売りに!?」

「そうさ、食い物なんてレプリケーターで十分なんだけどさ」

「やっぱり、アナログは理屈じゃないんですよ。サーターアンダギーは入ってる、お岩さん?」

「え、メグちゃん、うちのじゃダメなのかい?」

「あはは、お岩さんのもおいしいんだけど、たまには沖縄のもね(^_^;)」

「まあ、洛陽号の修理が本格化すれば、連絡船も入ってきます。港湾課の方でも予定しています……あ、届いたようですよ」

 

 てんちょ~~~!

 

「ハナぁ、巫女服のままじゃないかぁ!」

「アハハ、直前まで福笹売ってたしぃ」

「西之島の島民はたくましい、どうれ、わたしもあのころを思い出して……」

 市長もその気になって腕まくりをすると、ドッグの構内放送がかかった。

―― 及川市長、及川市長、市役所からお迎えが来ております。ゲートまでお越しください ――

「仕方がない、じゃ、お岩さん、また今度」

「ああ、こき使ってやるから。鈍るんじゃないよ!」

 

 ウウウ~~~~~~

 

 ドッグ設置以来のサイレンが昼休憩を告げた。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王

 

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・66『雪と苗字とお線香』

2022-12-27 08:31:14 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

66『雪と苗字とお線香』 

 

 

「お互いに、ここまで言うてしもうたんだ。もうワシから言うことはない。彦君とお二人には申し訳ないが、今日のところは諦めてください。大雪の中、済まんことでした」

 お祖父ちゃんが頭を下げた。

「貴崎先生、この高山彦九郎、乃木高の門はいつでも開けておきますからな」

「校門は八時半閉門と決まっておりますが……」

 バーコードのトンチンカンにみんなが笑った。

「ありがとうございました……」

 わたしは、そう言って、その場で見送るのがやっとだった。

 

 雪が左から右に降っている。

 と……いうわけではなく。ただ単に、わたしが右を下にして寝っ転がっていただけ。

 

 ゆっくりと起きあがる……当たり前だけど、雪は上から下に降っている。

 ちょっと感覚をずらすと、自分が空に昇っていくようにも感じる。

 昼過ぎに潤香の病室でも同じように感じた。

 ほんの、三時間ほど前のことなのに、今は、それを痛みをもって感じる。

 夕闇が近く、庭灯に照らし出され、いっそうそれが際だつ。

 まるで無数のガラス片が落ちてきて、チクチクと心に刺さるよう。

 物の見え方というのは、自分の身の置き所だけでなく、心の有りようでこんなに違う。

 

 あれから仏間に行った。

 

 久々に「我が家」の仏壇に手を合わせる。

 この仏壇の過去帳に両親の法名が書かれている。

 一度も開いてみたことはない。

 お祖父ちゃんは、両親が亡くなってからも「いっぱしの何かになればいい」とだけ言って自由にさせてくれた。一時は両親の後を継いでとも思ったけど、言葉に甘えて、それでもいっぱしの教師になった……つもりだった。

 寝起きしている我が家の方にも玩具のような仏壇がある。お線香臭くなるのが嫌で、毎朝お水をあげている。「我が家」のしきたりを思い出して、輪棒に向けた手をお線香立てに伸ばす。

 あ……

 三つに折ったお線香が、まだ小さな炎(ほむら)を残していた。

 

「お嬢さま」

 

 驚いて振り返ると、峰岸クンが立っている。

「なあに?」

「あの、お申し付けの年賀状です」

「あ、そうだったわね。ありがとう……あのね」

「はい、お嬢さま」

「その……お嬢さまって呼び方、なんとかなんない?」

「じゃあ……先生っていう呼び方になれるようにしていただけますか」

「ハハ、それは無理な相談だな……あ、年賀状こんなに要らないわ」

「書き損じ用の予備です」

「わたしが書き損じするわけ……あるかもね。ありがとう」

 わたしが、たった三枚の年賀状を書いているうちに、峰岸クンは暖炉の火を強くしてくれていた。温もりが心地よく伝わってくる。

「ひとつ聞いてもいいですか」

 温もった分、距離の近い言葉で聞いてきた。

「なあに……?」

 わたしは、三枚目まどかへのを……と、思って笑ってしまった。

「思い出し笑いですか?」

「ううん。三枚目がまどかなんで、おかしくなっちゃって」

「え……ああ、確かにあいつは三枚目だ」

 少しの間、二人で笑った。

「で、質問て……?」

「どうして、苗字が貴崎と木崎なんですか?」

「ああ、それはね戦争で区役所が焼けちゃってね。新しく戸籍を作ることになって、お祖父ちゃん、書類の苗字のところを平仮名で書いたの」

「どうして、そんなことを?」

「当然、係の人に聞かれるでしょ。で、係の人がどう対応するか試したの」

「ハハ、オチャメだったんですね」

「で、キサキさん、このキサキはどんな字なんですか。と、聞くわけ」

「ハハハ、それで?」

 暖炉の火が頃合いになってきた。

「で、普通のキサキだよって答えたら木崎と書かれてそのまんま。会社の方は片仮名の『キサキ』だし、わたしは『貴崎』の方が……」

 そこまで言うと、峰岸君が人を招じ入れる気配。

 
 振り返ると、わたしより先にお線香を立てた木崎が立っていた……。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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せやさかい・372『モデル! モデル!! モデル!!!』

2022-12-26 16:04:36 | ノベル

・373

『モデル! モデル!! モデル!!!』さくら    

 

 

 登校風景は普通に撮った。

 

 普通と言うてもスケールアップ。

 なんせ、高校生声優で前生徒会長の百武真鈴! ヤマセンブルグ王女の頼子先輩!

 後輩やら取り巻きやらファンやら、その場に居てた者が三十人ほど、最初は観てるだけやったんやけど「登校風景だから、いっぱいいた方がいいよ!」と真鈴先輩の呼びかけで、五分後には百人ぐらいに増えた。

「う~ん、百人じゃ途切れてしまうなあ」

 頼子さんが言うと真鈴先輩が手を叩く。

「昇降口まで行ったら、通用門から出て正門に戻って、OK出るまで通ってくれる? カメラ目線にだけはならないようにね!」

 ということで、リアルの登校風景みたいな迫力になってきた。

 みんな、撮影とあって、日ごろ以上に丁寧で、急きょ職員室から出てきた先生らも登校指導いう感じで正門の両脇に居並ぶ。

「カットカット!」

 真鈴先輩がNGを叫ぶ。

「ダメですよ、そんなに先生が並んじゃったら、めちゃくちゃ指導のキツイ学校に見えますから! 長瀬先生と校長先生だけにしてください。他の先生方は……」

 生徒と一緒に出勤する先生、授業の準備風に遠くを歩く先生、職員室の窓を開ける先生、開けた窓の中で一瞬だけ見える先生……と、完全にモブ配置。

 いつもやったら、十人に一人ぐらいは服装やらマリア様への礼の仕方で注意されるんやけど、注意されたんはうち一人。

「さくら! 芝居のやり過ぎ!」

 マリア様のありがたさに立ち眩む 涙ぐむ 投げキッス 最敬礼……全部NG

 

 昇降口では真鈴先輩の演出が滑った(^_^;)

 下足ロッカー開けたら……ゴキブリが出てきた! 手紙が入ってた! 人の上履きが入ってたと思たら隣のロッカー開けてた! ノブを曳いたら蓋ごと取れた! 

「ぜんぶ、実際にあったことなんですけど(^0^;)」

 みんな喜んだんやけど、長瀬先生の「NG!」には逆らえません。

 

「餌場に行くサルみたい!」

 学食へ行くシーンでは、またうち一人怒られる(;'∀')

 

 保健室のシーンでは、ソニーが軍隊式に負傷者を運んできて(負傷者の襟首掴んで匍匐前進で引っ張って来る)NG

 それではと、体育の授業風景……創作ダンスをやったら、真鈴先輩は決まり過ぎてNG

「じゃ、さくら組が真似してやってみなさい」

 うちらが真似してやったら、一発でOK。うちらの普通っぽいとこがええのやそうです。

 

 百メートル走をヒギンズ姉妹(ソフィーとソニー)でやったら日本新記録でNG

「では、世界新で走ります」

「いや、そういう話じゃないから(-_-;)」

 

 チャペルのシーンでは頼子さんの祈りを捧げるシーンが真に迫って、ついつい見とれる。

 やっぱり本物はちゃいます。

 

 休み時間のシーンでは、あえて脚だけ撮りました。

「全身の演技は難しいけど、脚だけだったら、わりと普通に撮れるし、いい表情出るかも」

 これも真鈴さん。

 で、やってみたら、なるほど足は口ほどにものを言いです。

「京アニが、足とか手とかだけの描写がいいですよね」

 留美ちゃんの指摘。

「アハハ、京アニのパクリ、やっぱバレたぁ?」

 と頭を掻く真鈴先輩。

 

 と、いろいろ撮った最後に校長先生の談話をチャペルで撮ります。

 

「ご覧になったように、我が校の生徒も先生方も、ほんとうに多士済々。みんな、自然な環境と云うか校風の中で教え教えられ、楽しくやっています。みなさんも、どうぞ、この聖真理愛学院の輪の中に加わってみてください。マリア様と共にお待ち申し上げております」

 めちゃくちゃ自然な微笑みになって、見ていたうちらも―― 校長先生に全部持っていかれてしもた ――と思いました。

 せやけどね、校長先生は、こうおっしゃるんです。

「いえいえ、みなさんが楽しそうにやっているところを見せてもらって、本当に嬉しくって、楽しくって、幸せな気分になって、自然に喋っただけです。わたしこそ、ほんとうにありがとう」

 そう言って、にっこり微笑まはって、期せずして、みんなで拍手してしまいました。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか      さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首  

 

 

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くノ一その一今のうち・32『王子を逃がす』

2022-12-26 13:27:47 | 小説3

くノ一その一今のうち

32『王子を逃がす』 

 

 

 街を出てからどうするんだろう?

 

 敵の大方を撒いて、あとは街を抜け出すばかりになった。

 社長は、ざっくりとした指示しかしない。

 敵の出方で、戦術を変えなければならないこともあるし、一人が捕まった場合、全てが敵に知られてしまう恐れもある。

 そのために、頭の忍者は、いくつもの手立てを組んでおく。松ぼっくりの他にも、社長は手立てをしているはずだ。

 だから、一瞬頭に浮かんだ―― どうするんだろう? ――は胸の底に沈める。

―― 間もなく、ラクダが走り出して追跡の車が出る。その一台を奪う ――

「「「承知」」」

 わざわざ声に出したのは、王子に聞かせるためだ。素人の王子は先が読めなければ不安に思って混乱する。混乱した人間を無事に逃がすのは難しい。だから声に出した。闇語りした社長も含めて。

「わたしはラクダで」

「「承知」」

 わたしのアドリブに、社長も嫁持ちさんが返事。

 

 ンゴオオオオオオ!

 

 グロテスクな声をあげてラクダたちが駆けだす。社長がなにか仕掛けていたんだろう、あれは、人間で言えば「イテエ!」と悲鳴をあげたみたいだった。

「「「散!」」」 

 一頭残ったラクダの背に跨って腹を蹴る。

 ンゴオ!

 ラクダに乗るのは初めてだけど、馬の要領と変わらない。わたしに御せている、社長は一番穏やかな奴を残してくれたんだ。

 シュッ シュッ

 空気を裂くような音。

 パンパン 

 一秒遅れて銃声。

 ……300メートルは離れている。草原のわずかな高低差を読みながら走る。

 ブオーーー 

 車の追跡も始まった、月明かりもある。姿をくらますのが肝要だ。

 ブオー

 車の音があさっての方角に外れる。よし、あの稜線を超えたら、もう一度方向を変えよう。

 セイ!

 勢いをつけて稜線を超える。

 ズサッ!!

 ラクダの着地にしては音が大きいと思ったら、社長たちの車が目の前で停車。

 運転席から嫁持ちさんが飛び出す。

 目線で分かる―― 交代 ――のサインだ。

 ラクダの背中に王子を乗せ、嫁持ちさんが鞭を当てて先に進む。

「あのグリーン手前のバンカーに車を落とす。そこから一打でオンしてパーセーブだ。キャディーを見失うな」

 ゴルフのような事を言う。要は、車を捨てて真っ直ぐ突き進み、嫁持ちさんと合流のうえ、王子を城内に送り届けるということだ。

 

 ズザザザザ! ボン!

 

 バンカーを転がり落ちたと思ったら車はボンネット付近で爆発炎上してしまった。

 なるほど、これなら追跡者も城の者たちもバンカーに目を奪われる。

 90度回り込んで西門を目指す。

 嫁持ちさんが間に合って、西門は開いている。

 ギイイイ ガチャン!

 だが、今の爆発で警戒されて、あと50メートルというところで門が閉じられてしまう。

 社長が懐に手を突っ込む。コンマ二秒遅れて、社長に倣って鉤爪を出す。

 

 カラン

 

 鉤爪を投げる寸前に城壁の向こうから鉤爪が投げ出され、ガチッと胸壁を噛んだ。

 エ?

 ほんのコンマ2秒ゲシュタルト崩壊。コンマ3秒後には社長に倣って後方に飛び退る。

 トン

 かそけき音をさせて飛び入りてきたのは嫁持ちさんだ。

―― 罠だ! ――

 忍んだ叫び声で後ろざまに飛び退り逃走退散の姿勢!

 トン

 黒い影が城壁から飛んで、わたしたちの前に立ちふさがった!

 無言で立ち上がったそいつは…………嫁持ちさんが送り届けたばかりの王子だった!

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍)
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者

 

 

 

 

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宇宙戦艦三笠16[ボイジャーが仲間に]

2022-12-26 08:58:11 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

16[ボイジャーが仲間に]   

 

 


 ボイジャーは回収されると、すぐに医務室に運ばれた。

 

 不思議だった。

 光子レーダーで確認した時は、お猪口にアンテナを付けたような古いタイプの人工衛星だった。

 それがモニターで女の子の姿になっていることは確認していたが、こうやって生で見ると、とても不思議になる。頬はほのかなバラ色で、胸は呼吸に合わせてゆっくり上下している。そして、まるで夢を見ているように瞼の下で目が動いているし。

「可愛い子だな……」

「うん、初めて見るのに、なんだか懐かしい」

 顔かたちに敏感なのは、やはり女子だ。天音と樟葉が最初に反応した。男子は、こういう時は驚きが直ぐには顔に出ない。ただ、目を丸くして見つめるだけだ。

「これ、ヘラクレアの娘さんの姿だよ……」

 みかさんが、しみじみと言った。

「どうして、あのオッサンの娘さんの姿に……ってか、あのオッサンの娘が、こんなに可愛いわけ?」

 引きこもりが長かった分、トシの反応は遠慮がない。

「ヘラクレアさん、娘さんのことは、ほとんど口にしなかったけど、それだけ印象としては強くわたしの心に残ったのね。だから、こんなに似ちゃったんだ。なんとなく懐かしく感じるのは、みんなも無意識にヘラクレアさんの影響を受けていたからかな」

 みかさんは、思いのこもったものに容を与える力があるようだ。

 みかさんは暖かい口調のまま続けた。

「人の心って、こんなに共鳴するものなのよ。ボイジャーも40年あまりの宇宙旅行で、いろんな宇宙人に空間や次元を超えて書き込みをされている。まだ未整理だけど」

「50年前のCPにそんなに記録容量はないんじゃない?」

「それは、あなたたちの概念よ。その気になれば、何もない空間にでも記録は残せるわ。わたしみたいな船霊も、いろんな人の思いの結晶だとも言えるかもしれない……さ、ボイジャーが目を覚ますのには、少し時間がかかるわ。あなたたちのむき出しの好奇心に、いきなりご対面しちゃ混乱する。わたしがいいというまでは面会謝絶です」

 四人のクルーは医務室を出された。

 分からないということは、想像力を刺激する。

 ブリッジで待っている間に、100通りぐらいのボイジャーのイメージが4人の頭に喚起された。美奈穂は中東で死んだ父への反発から母親の少女時代のイメージを。トシは、亡くした妹や、自分をストーカー扱いした美紀のイメージに。俺と樟葉は、ラノベかアニメのそれだろうか……自分でも覚えのない少女たちのイメージが浮かんだ。

 みかさんの言葉が思い出された。

「二人の心には、もっと奥があるわ」

 改めてみかさんの言葉が思い出された。

 ボイジャーは三日目に目覚めた。

「みんな医務室に来て」

 みかさんの声で、四人は心弾ませて医務室に向かった。

「みなさんよろしく。えと……あたしがボイジャーです」

 ボイジャーは、転校生のように硬い笑顔で挨拶した。ワンピースが黒の花柄から淡いグリーンの花柄に変わっていた。

「あ、その方が可愛い!」「黒は魔女っぽかったし」「ツインテールが似合いそう!」

「あ、ども……です(-o-;)」

「まだ、この子の心は整理ができてないの。だからちょっとぎこちないけど、少しずつ慣れていって。ボイジャー、あなたの呼び方、どうしようか?」

「……できたら、クレアって呼んでください。いろんな意味で、これが一番しっくりくるんです」

「じゃあ、ようこそクレア。君が三笠の最初のゲストだ」

「いえ、あたしはクルーです。役割はアナライザーです」

 みんな戸惑った顔になった。アナライズ機能は、すでに三笠には付いている。

「三笠については、補助的なアナライズをやります。本務は、あなたたちの心のアナライズです。修一さん、トシくん、天音さん、樟葉さん、よろしく」

「これからは、クレアさんが、わたしの代わりだと思って。わたしは本来の船霊の役割に戻ります」

 みかさんは、そう言うと、姿が朧になってホールの神棚の方に消えていった。

 ブリッジに戻ると、ネコメイドたちが模様替えを終えたところだ。

 俺の艦長席の横に一回り小さなアナライザーのシートが出来ている。

 シートに着いてポチポチとキーボドを操作するクレア。

 インタフェイスの光が柔らかくクレアを包んで、とてもしっくりいっている。

 見渡すと、他の四人も、それぞれのコンソールやらインタフェイスの光に柔らかく包まれている。

 視線を戻すと、クレアが上目遣いに微笑んでくれる。

 なんとなく、みかさんの筋書通りのような気がした……。

 

☆ 主な登場人物

 修一          横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉          横須賀国際高校二年 航海長
 天音          横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ          横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  

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宇宙戦艦三笠15[ボイジャーとの遭遇]

2022-12-26 08:30:55 | 真夏ダイアリー

 宇宙戦艦

15[ボイジャーとの遭遇]   

 

 

 フワァワァァ……………………プ

 

 三回目のアクビをしたら、いっしょにオナラが出てしまった。

 最初トシがクスっと笑い、ややあって天音、樟葉へと伝染するころには爆笑になってしまった。ただ船霊のみかさんはニコっとしただけだ。

 ヘラクレアを出てから一週間がたっていた。その間、三笠は、ただただ、星たちがきらめく宇宙を走っているだけだ。

 

 要するに退屈なんだ。

 

 三笠は21世紀の概念では、それほど大きな船ではないけど、たった四人、みかさんを入れて五人、ネコメイドも入れて九人の乗組員には広すぎた。各自自分のキャビンは持っているけど、ブリッジに集まることが多くなった。

 あ、ネコメイドたちのキャビンは分からない。艦内のどこかに居るんだろうけど、元々は横須賀の野良猫だとか、だったら簡単には見つからないだろうしな。
 時どき、デッキの端っことか内火艇やボートのキャンパスやマストの上で日向ぼっこ、いや星空ぼっこしてる。目が合うと律儀にお辞儀してくれるんだけど、すぐに居なくなる。気を遣わせてもいけないので、視界に入っても見つめないように気を付ける。

 みんないっしょなんだ。真っ暗な星空とはいえ、やっぱり外の景色が見えることは、単調な宇宙旅行の慰めなんだ。

「……東郷先輩のオナラ、初めて聞きました」

 やっと笑いの収まったトシが言った。

「そうね、あたしも小学校以来だな。保育所の頃はしょっちゅうだったけど」

「みんな退屈そうだから、一発かましたの!」

「ハハハ、でもオナラ一つで、ここまで笑えるんだ、アハハハ(≧艸≦)」

 天音が収まらない笑いのままで言った。

「みかさん、ヘラクレアを出てから亜光速でしか走ってないけど、みんなに先越されないないかなあ」

「早いだけが取り柄じゃないのよ。ゲームで言えばRPG、経験値を積んでおかないと、ゲームはクリアーできないわ」

「例えば、ヘラクレアみたいな?」

「そう、あそこでテキサスに出会えて、ヘラクレアさんにも会えたことは大きいわ」

「どんな意味で?」

 みかさんは、しばらく考えた。みかさんは神さまだから、考えている姿もさまになる。こういうことでは自信のある樟葉でも見とれてしまう。

「……悲しい思い出も、大事に守っていれば、美しいものになって、その人の心を高めてくれる」

「え、あのヘラクレアのオッサンが?」

「娘さんの魂を悲しませずに記憶し続けるのには、あんなオッサンの姿がいいのよ。辛い思い出も大事にしていれば、素敵な光になるわ」

「みかさんが言うと、なんだかとても良いことのように思えるわ」

「でも、修一さんのオナラには負けますぅ」

 アハハハハ(((^0^)))

 みんなが笑った。

「どうせ、オレは屁をかますぐらいしか能がねえよ!」

 ピピピ ピピピ ピピピピ

 光子レーダーが、アンノウン発見のアラームを発した。

 ブリッジは活気づいた。

「焦点を合わせて、解像度をあげて」

 指示するまでもなく樟葉がレーダーを操作。ボンヤリした画面がくっきりしてきた。

「え……あ、ボイジャー……!?」

 みかさんが感動の声を上げた。

「ボイジャーって?」

 天音が素朴な質問をした。

「1977年に打ち上げられた人工衛星です。太陽系を飛び出した、たった二つの人工物の一つです」

 ミカさんが応える前にトシが意外な知識を披歴した。

 ボイジャーは、三本のアンテナとテレビの衛星放送用のアンテナのようなものでできていた。

「あれは、一号ね。二号は……近くにはいないようね……」

「あ、解像度が落ちてきた」

 樟葉が慌ててキーボードをたたいてマウスをグルグル回す。

「……違うわ、変態し始めてるんだ」

「へ、変態!?」

「メタモルフォーゼのことよ……」

 ミカさんの言葉に、みんなはメインモニターに見入った。いつの間にかネコメイドたちも乗員の間から顔を出して注目している。

 そして。

 ボイジャーは5分ほどかけて変態した……その姿は栗色ショ-トヘアーの女の子だった。

「ちょっと男子は向こう向いててくれますぅ」

 みかさんが優しく言って、すぐに理解した。女の子は裸だった。

「……いいですよぉ」

 男子二人が振り返ると女の子は、黒字に赤い花柄のワンピに黒のスパッツ姿になっていた。意識はないようだ。

「面舵二十(ふたじゅう)、ボイジャーの回収に向かう」

 静かに命ずると、樟葉はレーダーを睨みながら、ゆっくりと舵を切ったのだった。
 

 

☆ 主な登場人物

 修一          横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉          横須賀国際高校二年 航海長
 天音          横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ          横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  

コメント
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