大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・106『エピロ-グに代えて』

2023-02-05 10:40:44 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

106『エピロ-グに代えて』 

 

 

 この作品は、横浜の出版社の依頼で書いた『はるか ワケあり転校生の7カ月』の姉妹本です。

『はるか』は、高校演劇の基礎練習や部活運営の入門書を書いてほしいという出版社の依頼で書き始めたラノベ形式のハウツー本でした。
 部活、特に文化部は技術的なことよりも人間関係で揺れることが多いので、技術面よりも人間関係の機微を軸に書き始め、書き終わってみると、ハウツー本というよりは、ほとんど小説になってしまいました。この変節を暖かく見守ってくださった編集さんには、ただただ感謝です。

 親の離婚で東京の南千住から大阪に越してきた坂東はるかは、東京でも演劇部だったこともあり、真田山学院高校に転校して演劇部に入ります。

 東西の文化の違い、演劇部の在り様の違いに、戸惑ったり人とぶつかったり、時には演劇部なんて辞めてしまおうと思いつめるはるかですが、7か月後のコンクールで様々な経験をして自分の居場所を見つけます。

 その『はるか』の話の中で、はるかが両親の仲を取り戻そうと南千住の家に戻るところがあります。

 その実家の二軒隣が幼なじみの仲まどかの家です。

 まどかは、一つ年下で、小さいころからはるかは憧れでありライバルでもありました。

 粗々のプロットが仕上がって、学校の名前を決めようとネットで東京のあちこちをロケハンして乃木坂にたどり着きました。

 乃木坂は、坂の途中に乃木神社があります。神社は乃木大将を祀って乃木邸に隣接して作られています。神社があるから乃木坂ではなく、生前乃木大将が馬に乗って院長を務めていた学習院に通っていたことから付いた名称です。
 実際に行ったことはありませんが、司馬遼太郎さんの小説等でお馴染みの場所でした。
 東京の中心からは離れたところで、緑の豊かな、ちょっと寂しいぐらいの静かな街というイメージです。乃木大将が亡くなる前までは幽霊坂と呼ばれていたくらいです。

 キャラクターの名前や学校名を決める時はネットで調べてみます。同名のものがあれば、なるべく避けます。以前、別の作品で希望が丘高校と付けようとしたら実在するので回避したことがあります。

 乃木坂学院高校で検索すると、音乃木坂学院高校が出てきました。調べてみるとアニメに出てくる架空の高校で、地名としての乃木坂を付けるのには問題はないと思いました。あとで、念のために音乃木坂学院のアニメ『ラブライブ』を観てハマってしまいましたが(笑)

 書き進めながらも時々は乃木坂を調べます。そのうちに、秋元康氏が、乃木坂を冠したアイドルグループを作るという記事が出るようになりました。

 これは、パクリとか便乗とか思われてしまう……むろん私の方がです(^_^;)

 でも、もう半ばあたりまで書き進め、乃木坂の佇まいで話が出来あがってしまっています。

 で、あえて、そのままに『乃木坂学院高校演劇部物語』を名乗り続けました。

 有名な方の乃木坂は、昨年目出度く十周年を迎えられました。

 あやかるわけではありませんが、こちらも十周年半を機会に大改訂を行おうと、昨年の秋に決心。
 これまでにも細かな書き直しはやってきましたが、今回は、ずっと気にかけていた大きな改稿をいたしました。

 主人公はるかのモチベーションの源流になる人物は三人です。

 姉妹作の主人公坂東はるか、男友達の大久保忠友、そして顧問の貴崎マリ。

 貴崎マリは、才色兼備のカリスマ的演劇部顧問ですが、芹沢絢香に怪我をさせ、倉庫を全焼させてしまった責任をとって教師を辞めることになります。

 どこまでも明るく話を進めたかったので、マリ先生は、退職後大学の先輩で新進俳優である高橋誠司の働きで上野百合として役者としてデビューすることにしました。

 十一年間、折に付け読み返して、ちょっと彼女の転身はウザイかもしれない(-_-;)と思うようになり、今回は根本的に書き換えました。

 大幅な改稿は、もうこれで終わりにしようと、タイトルにはREを冠しました。

 エピローグはハルサイの公演で幕が下りて、新しい乃木坂演劇部がスタートする話でしたが、乃木坂さんの昇天で幕を下ろします。作者が大団円を語るよりは、みなさんの思いの中で想像していただければと思いました。

 最後まで読んでいただいて、本当にありがとうございました。

 
          令和5年2月5日   武者走走九郎 or 大橋むつお

 

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・105『仰げば尊し』

2023-02-04 07:09:06 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

105『仰げば尊し』 

 


 話しは戻るけど、三月十日は乃木坂さんがいなかった。

 三月十日は東京大空襲の日。

 乃木坂さんの命日でもあるし、大事なあの人、マサカドさんと言おうか、三水偏の彼女と言おうか、その大切な人の命日でもあったんだもんね。

 乃木坂さん自身の平気な顔は――それには触れないでほしい――という意思表示。わたしたちも、聞かないことにした。

 潤香先輩はロケの疲れで二日ほど寝込んでいたけど、梅の花が満開になったころから、徐々に稽古を覗きにきてくれるようになっていた。


 そして……それは起こった。


 桜の蕾が膨らみ始め、新入生たちの教科書や制服やらの引き渡しの日。

 稽古場の同窓会館にいても、新入生たちの初々しいさんざめきが聞こえてくる。

 その日は、理事長先生と潤香先輩がピアノの傍で、乃木坂さんはバルコニー近くで、静かに稽古を見てくれていた。


 それはクライマックスのシーンで起こった。


 都ばあちゃんが、地上げ屋の三太にも三人の子供たちにも見放され、一人お茶をすする中、突然脚と腰に走る痛み。遠く聞こえる若き日のなつかしの歌。
 
 埴生の宿も わ~が宿 玉の装い羨まじ……♪

 都ばあちゃんの最後が迫る。登場人物みんなで「埴生の宿」の合唱になる。都ばあちゃんは最後の力をふりしぼって最後の一節を唄う。

「……楽しともぉ……頼もしや……♪」

 そこで見えてしまった。乃木坂さんの体が透けてきているのを……。

「乃木坂さん!」

 おきてを破って叫んでしまった。一瞬乃木坂さんは「だめじゃないか」という顔になり、そして……気がついた。

 自分にその時がやってきたことを……。

「あ、あなたは……」

 潤香先輩にも見えてしまったみたい。

「水島君……」

 理事長先生は、驚きもせずに、静かに、そして淋しそうに乃木坂さんの本名を呼んだ。

「……先生、ご存じだったんですか」

「三月の頭ごろからね……この歳になるととぼけることだけは上手くなるよ。本当は、イキイキとした君の姿を見られて、とても嬉しかったんだ」

「……僕の役目は、もう終わっていたんですよ……それが、この子達と居ることが楽しくて、嬉しくて……ちょっと長居をしすぎたようです」

「わたしを助けてくれたの……あなた……あなた、なんでしょ?」

 潤香先輩が、ささやくように言った。

「君は、こんなことで死んじゃいけない人だもの……僕は、昔、助けたくても助けられなかった人がいる。自分の命と引き替えにすることさえ出来なかった……みんな、最後は願ったんだ。自分は死んでも構わない。その代わり、他の誰かを生かして欲しい……親を、子を、孫を、妻を、夫を、教え子を、愛しい人を一人だけでも……みんな、そう思って、身も心も焼き尽くされて死んでいったんだ」

 わたしは、カバンから、あの写真を取りだした。

「この人だったんでしょ。乃木坂さ……水島さんが守りたかったのは、苗字の上の字が三水偏の女学生」

「……そうだよ。あの時は仲間に申し訳なくて言えなかった。今、ここに居る仲間は喜んで許してくれる。その子は、十二高女の池島潤子さん。潤子の潤は……」

「わたしと同じ……?」

「そう……不思議な縁だね」

「水島さん。下のお名前も教えてください。わたし一生、あなたのことを忘れません」

「それは、勘弁してくれたまえ。僕たちは『戦没者の霊』で一括りにされているんだ。こうやって、君達と話が出来ることも、とても贅沢で恵まれたことなんだよ。苗字を知ってもらったことだけで十分過ぎる。高山先生、こんな何十年も前の生徒の苗字、覚えていただいていて有難うございました」

「もう歳なんで下の名前は……忘れてしまった。でもね、僕は時々思うんだよ……この歳まで生かされてきたのは、君達の人生を頂いたからじゃないかと」

「先生……」

「だとしたら、そうだとしたら、僕はそれに相応しい……相応しい仕事ができたんだろうか」

 水島さんは、仲間の承諾を得るようにまわりを見渡し、ニッコリとした笑顔で大きくうなづいた。

「ありがとう、水島君。ありがとう、みなさん」

 空気が暖かくなってきたような気がした。水島さんの体がいっそう透けてきた。

「それじゃ……」

 と、水島さんが言いかけたとき、バルコニーの外の桜がいっせいに満開になった。

 最初、水島さんに会ったときの何倍も、花吹雪は壁やガラスも素通しで談話室に入ってくる。

 気づくと、壁に紅白の幕。理事長先生の後ろには金屏風、日の丸と校旗も下がっている。

「これは……」

 と言ったのは、水島さん。わたしは思った、ここにいる大勢の水島さんの仲間がはなむけにやった演出だ。

「ありがとう、みんな……先生、最後に一つだけお願いがあります」

「なんだろう、僕に出来ることなら……」

「『仰げば尊し』を唄わせてください。僕は唄えずに死んでしまいましたから、最後にこれを……」

「では、僕たちは『蛍の光』で送らせてくれたまえ」

「僕には、もう、そこまで時間が残っていません」

 水島さんの手足は、消え始めていた。

「じゃ、じゃあ、みんなで唄おう!」

 理事長先生はピアノに向かった。  

―― 仰げば尊し我が師の恩 教えの庭にも早幾年(はやいくとせ) 思えば いと疾し この年月 今こそ別れめ……いざ さらぁば ♪ ――

「さらば」のところでは、もう水島さんの声は聞こえなかった。そして、桜も金屏風も紅白幕も、日の丸も消えてしまった。

 でも、校旗だけがくすんで残っていた。

 いえ……最初からあったんだけど、だれも気がつかなかった。何ヶ月もここを使っていながら。

 そして……悔しかった。わたしたちだれも『仰げば尊し』を完全には唄えなかった。ちゃんと水島さんを送ってあげられなかった……わたし達は、この歌を教えてもらったことがない。

 でも歌の心は分かった。

 それを忘れるところまでわたし達のDNAは壊れてはいなかった。その心が少しでも水島さんに届いていればと願った。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・104『感情の記憶』

2023-02-03 06:43:19 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

104『感情の記憶』 

 

 


 柚木先生が慌てて稽古場にやってきた。


「たいへんよ、ハルサイの公演が早くなっちゃった!」

「「「「えーー、どういうことですか( ゚Д゚)!?」」」」」

 四人は声をそろえて驚いた(むろん乃木坂さんの声は、柚木先生には聞こえない)

「会場のフェリペがね、設備の故障で五月には工事に入るんで一ヶ月前倒しだって!」

「ええ、そんなあ……」

「間に合うかなあ……?」

「……なんとかしょう!」

 乃木坂さんが言った。

「なんとかなる?」

「だれと、しゃべってんの?」

 うかつに乃木坂さんに返した言葉を先生に聞きとがめられた。

「あ、二人に言ったんです! 里沙と夏鈴に。で、間をとって二人の真ん中に……はい(^_^;)」


 その日から稽古は百二十パーセントの力が入って、乃木坂さんの演出にも熱がこもってきた。


「君たちの演技は形にはなっているけど、真情がない。地上げの仕事への熱意が偽物だ。都婆ちゃんの子ども三人は、狡猾だけど、そうなってしまった人生の背景が感じられない。悪役は、ただ凄めばいいというものじゃないんだ。それに都婆ちゃんの孤独感というのはそんなものじゃない。他に迎合せず、孤高のうちにも孤独を貫き通す覚悟、そして、その覚悟をも超えてやってくる真の孤独の淵の深さ、それが出なくっちゃ(;`O´)!」

 はい……(-_-;)

 乃木坂さんの指摘は的確だけどキビシイ。だてに何十年も幽霊やっていない。

「君達の人生は、まだ浅い。理解しろと言う方が無理なのかもしれないなあ」

「だって、無理だよ。分かんないものは、分かんないもの」

 夏鈴が正直に弱音を吐く。

「馬鹿、そんなことを言っていたら、殺される演技や殺す演技は誰も出来ないことになるじゃないか!」

「それは……そうなんだけどね」

「……ごめん、つい感情的になってしまった。もっと分かり易く言わなくっちゃね」

 それから乃木坂さんは根気強く、かみ砕いて教えてくれた。

 たとえば、寂しさというのは、目の下の上顎洞という骨の空間から、暖かい液体が口、喉、胸、腹、脚を伝って地面に吸い込まれるイメージを持つこと。老人の腰は曲がるんじゃなくて、落ちる(後ろに傾く)ものなんだということ。で、そのバランスをとるために上半身が前傾し、膝が曲がる。そして、そのいくつかは、はるかちゃんがビデオチャットで教えてくれたことと同じだった。

 分からないことがもどかしかった。孤独を淋しさと置き換えてみた。

 ひいじいちゃんとのお別れ。これはガキンチョ過ぎて、分からない。

 中学の卒業……卒業してからもたびたび行ってたので、このイメージも希薄。

 忠クンとの空白の一年。いつでも、その気になれば会えるという、開き直ったお気楽さがあった。

 はるかちゃんの突然の引っ越し……これは心の底に残っているけど、去年のクリスマスで、再会。この傷は、完全に治ってしまった。

 感情の記憶は、その時の物理的な記憶を残しておかないともたないらしい。何を見て何を触って、なにが聞こえたか、その他モロモロ。

 マリ先生が学校を辞めて、乃木坂の演劇部がつぶれたのは記憶に新しいけど、これは、演劇部再建のバネになってしまって、思い出すと活力さえ湧いてくる(`0´)。

 人間の感情って複雑だってことが分かる程度には成長しました……はい。

 潤香先輩……これも奇跡の復活で、痛みは遠くなってしまっているし……。

 われながら、痛いことはすぐに忘れるお気楽人間だ(^_^;)。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・103『素顔のキャストとスタッフ』

2023-02-02 07:37:50 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

103『素顔のキャストとスタッフ』 

 

 

「自衛隊の体験入隊で、なんか変わった?」

「変わったってか……分かったよな」

「なにが……?」

「それは……」

「自分は、まだまだなんだけど、希望の持てる場所はここだ……かな?」

「先回りすんなよ、言葉が無くなっちまうじゃないか……」

「ごめん」

「い、いや、ありがとう……」

 ゆりかもめの一群が川面をなでるように飛んでいった、二人はそれを目で追う。ゆりかもめは、少し上流までいくと、さっと集団で舞い上がり。それにつれて二人の顔は上を向き、遠く彼方を見つめる目……少しはサマになる。

 すかさずレフ板の位置が変わって、カメラが切り替わる。


 ちょっと説明。


 これは、ちゃんとしたテレビの撮影なんだ。『春の足音』のね……って、別にわたしが主役になったわけじゃない。

 プロデューサーの白羽さんのアイデアで、毎回番組の最後に『素顔のキャストとスタッフ』というコーナーができて、二分間、毎回一人ずつ紹介していくわけ。


 やり方は基本その人の自由。この荒川の下町が舞台だから、町の紹介をしてもいいし、他のキャストやスタッフさんとのト-クもOK。順番はジャンケンで決める。そのジャンケン風景も撮って流すんだから、この業界の人のやることにムダはありません。


 で、わたしが大久保流ジャンケン術で勝利し、その栄えある第一回に選ばれた。

 むろん、ただのエキストラなんで、あらかじめ、はるかちゃんが紹介してくれて、わたしが映っている何秒間かが流れて、このシーンになるのね。

 わたしは、無理を言って忠クンを引っぱり出した。

 忠クンの体験入隊は、忠クンの中ではまだ未整理になっている。わたしへの気持ちもね。だから、こうやをって引っぱり出してやれば、いやでも考えるだろうって、わたしの高等戦術。いちおうわたしのカレだから、しっかりしてもらいたいわけ。


 え……「いちおう」……それはね、乙女心よ乙女心。最終章まできて、のらりくらりのカレを持った崖っぷちのオトメゴコロ!!

 分かんない人は、第一章から読み直して。序章には忠クン出てこないから。

 でも、わたし的には序章から読んでほしいかな。

 監督も、高校生の自衛隊の体験入隊がおもしろいらしく、A駐屯地まで行って取材もしてきた。教官ドノをはじめみなさん大張り切りだったみたいだけど、流れるのは、ほんの何十秒。それも大空さんがほとんど。テレビのクルーも絵になるものは心得ていらっしゃる。

 で、ゆりかもめを見つめて、なんとかサマになった忠クンは、こう締めくくった。

「大変なことを、自然にやってのける力……そういう心になれるまで……その、軽はずみな気持ちだけでフライングしちゃいけないんだなって、そう思った」

「ほんと?」

「うん。前さえ向いていたら……今はそれでいい」

「今度、火事になったら、また助けてくれる?」

「それは、もう勘弁してくれよ」

「それって、もう助けないってこと?」

「助けるよ。目の前で起こったら……そういうことも含めて、まず目の前にあることを一つずつやっていこうって。あのゆりかもめだって、最初から、あんなに自由に飛べるわけじゃないだろう」

「で、助けてどうすんの?」

「分かんねえよ」

「……そう」

「?」

 わたしは、立ち上がると、グイッと重心を前に移す。

「あぶねえ!」

 ドッポーーン!

「あ、ちょ、なんでこうなるの!?」

 助けようとした忠くんひとり川に落ちてしまう。わたしは、腰のところに落下傘のハーネスみたいなのが付いていて、その先をスタッフが持ってくれている。
 ちょっとしたドッキリカメラで、ふたりとも川には落ちない仕掛けになっている。

 それを、勢いの付いた忠くんは、抱きとめたわたしを軸にクルリンと回って、そのまま川に落ちてしまった!


 カットぉ! オッケー!

 
 監督の声がして、スタッフが駆け寄って来て、水面にロープを投げる。

 まあ、やっと三月の荒川。誰も飛び込もうとは思わないよね(^_^;)

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・102『二つのサプライズ』

2023-02-01 07:24:32 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

102『二つのサプライズ』 

 


 それは、ラストシーンの撮影が終わった直後におこった。

 監督さんがOKを出したあと、ディレクターとおぼしき(あとでNOZOMIプロの白羽さんだって分かる)人が、ADさんに軽くうなづく。

 ドドーン

 バサリ

 ロケバスの上から花火があがって、カメラ載っけたクレーンから垂れ幕!

――『春の足音』ロケ開始! 主演坂東はるか!――

「え、ええ……ちょっと、これってCMのロケじゃないんですか!?」

 驚きと、喜びのあまり、はるかちゃんはその場に泣き崩れてしまった。

「おどかしちゃって申し訳ない。むろんCMのロケだよ。でもカメラテストも兼ねていんだ。僕はせっかちでね、早くはるかちゃんのことを出したくって、スポンサーの了解を得て、CMそのものがドラマの冒頭になるようにしてもらったんだ。監督以下、スポンサーの方も文句なし、で、こういう次第。ほんと、おどかしてごめんねぇ(^_^;)」

 白羽さんの言葉の間に高橋さんが優しく抱き起こしていた。さすが名優、おいしいとこはご存じでありました。

「月に三回ほど東京に通ってもらわなきゃならないけど、学校を休むようなスケジュ-ルはたてないからね。それに相手役は堀西くんだ、きちんとサポートしてくれるよ」

「わたしも、この手で、この世界に入ったの。大丈夫よ。わたしも、きちんとプロになったのは高校出てからだったんだから」

 と、堀西さんから花束。うまいもんです、この業界は……と、思ったら、ほんとうに大した気配り。とてもこの物語には書ききれないけど。

 で、まだ、サプライズがある。

「ハイ、分かりました! ありがとうございました! わたしみたいなハンチクな者を、そこまでかっていただいて。あの……」

「なんですか?」

 このプロデューサーさんは、とことん優しい人なのだ。

「周り中偉い人だらけで、わたし見かけよりずっと気が小さいんです。人生で一等賞なんかとったことなんかありませんし。よかったら、交代でもいいですから、そこの仲間と先輩に、ロケのときなんか付いててもらっちゃいけませんか……?」

「いいよ……そうだ、そうだよ! ほんとうの仲間なんだからクラスメートの役で出てもらおう。きみたち、かまわないかな?」

 え……(*°∀°)!?

 というわけで、その場でカメラテスト。

 笑ったり、振り返ったり、反っくり返ったり……はなかったけど。歩いたり、走って振り返ったり。最後は音声さんが持っていたアイドルグループの音源で盛り上がったり。

「監督、変なものが写ってます!」

 編集のスタッフさんが叫んだ。みんなが小さなモニターに集中した。

 それは、わたしたちが一番盛り上がっているところに写りこんでいた。

「兵隊ですかね……」

「兵隊に黒い服はないよ……これは、学生だな……たぶん旧制中学だ」

 と、衣装さん。

「この顔色は、メイクじゃ出ませんよ」

 と、メイクさん。

「今年も、そろそろ大空襲の日が近くなってきたからなあ……」

 と、白羽ディレクター。

「これ、夏の怪奇特集に使えるなあ」

 と、監督。

 わたしたちはカメラの反対方向を向いてゴメンナサイをしている乃木坂さんを睨みつけておりました。

「「どうかした?」」

 潤香先輩と、堀西さんが同時に聞くので、ごまかすのにアセアセの三人でした(^_^;)。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・101『撮影本番』

2023-01-31 07:01:09 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

101『撮影本番』 

 


 自衛隊に似ている。

 監督から声が掛かるまでは、キャストもスタッフもてんでバラバラな感じなんだけど、みんななにかしら打ち合わせや準備をしている。リラックスはしてるけど無駄話したり、ボーっとしてる者はいない。

 機材の調整や確認をする照明や音響さん。キャストのメイク手直しするメイクさん。寒いわけでは無いんだけど、軽くジャンプしたり揺すったりしているキャスト。タブレット見ながらストップウォッチ見てるのはタイムキーパーかな。

 

「開始」

 

 監督さんが一声発すると、それまでの各々の作業や準備を止めて、特にバミってあるわけでもないのに、それぞれのポジションにつく。変な力みも狎れた緩みも無い。

 そういう自然体でキビキビしてるとこが、印象として自衛隊。

 乃木坂の演劇部も似たような感じだったけど、ちょっと緊張が過剰だったような気がする。
 
 マリ先生に率いられて、キビキビ動くことに変わりはないんだけど、一年生は無駄に緊張しているし、二三年生は微妙な陶酔感があったような気がする。
 よその学校からは羨み畏れられて、そう言う目で見られることが、どこか心地よかった。

 なんだか、ちょっと宗教的だったのかもしれない。

 マリ先生がよく言ってた「台詞を歌っちゃダメ!」って。芝居の調子が良くなると、演じていることに陶酔してしまうことがある。気持ちいい(=⊙ꇴ⊙=)って瞬間。アクターズハイって言うのかなあ……。

 そういうのが、目の前のロケ隊の人たちには無い。なんというか粛々とやってます的なね。

 監督さんから、いろいろと指示が出されている。そして何度かのカメラテストとリハーサルに一時間ほどかけて本番。

 女性はみんな女子高の制服。高橋さんは、いかにもありげな先生のかっこうで、自転車に乗って土手道をやってくる。

 土手の下では、堀西真希さんと上野百合さんが三年生の設定で、ポテチをかじりながら、二年間の高校生活を嘆いている。

 つまり設定は四月で、新学年の始まり。あちこちに造花のスミレやレンゲが何百本。美術さんが忙しそう。お気楽に見てるテレビだけど、頭が下がります。

 そこに本を読みながら、はるかちゃんが土手道を歩いてくる。前から自転車でやってきた高橋さんの先生が避けそこなって、自転車ごと土手を転げ落ちてしまう(もちろん、落ちるのは人形の吹き替え)。

「大丈夫ですかぁ!?」

 と、大阪弁で、はるかちゃんが駆け寄る。

「アイテテ……」

 と、うなる先生。

「ごめんなさい、ついボンヤリしてしもて」

「きみは……転校生の春野……お?」

 先生は、春野さんのバッグからはみ出しているポテチに気づく。同時に春野さんは、先生の自転車の前かごから飛び出したポテチに気づく。見交わす目と目、吹き出す二人。そして、その親密さに気づいて、草むらから立ち上がる堀西真希と上野百合。その二人の手にも同じポテチが……。


 で、二回目のテストのとき、監督さんがわたしたちに目をつけた……。


 わたしたちは同じ制服を着て、はるかちゃんの後ろを歩いてくる、文字通り通行人。で、先生が転げ落ちたあとは、土手から心配げに見ている背景の女学生。むろん顔なんかロングなんで分からないんだけど、思わぬテレビ初出演! 

 でも、病み上がりとはいえ、やっぱ、潤香先輩って映える。また、カメラ回っている間平然としている根性もやっぱ、潤香先輩ではありました。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・100『その日がやってきた!』

2023-01-30 11:08:40 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

100『その日がやってきた!』 

 

 


 いよいよロケの日がやってきた。

 ロケ現場は荒川の堤防と河川敷。

 自転車を連ねて堤防に登ったら、早咲きの菜の花の中にロケバスが来ていて、ADさんやスタッフの人たちが忙しそうに動き回っていた。


 梅の蕾も、まだ硬い二月の末日だけれど、まるで春の体験版のような暖かさだった。

 はるかちゃんは、まだロケバスの中なんだろう、姿が見えない。

 そのかわりロケバスや、撮影機材が珍しいのか、乃木坂さんがチョロチョロ。わたしたちに気づいても知らん顔。


 やがて、一段下の土手道を黒塗りのセダンが登ってきた。


「あ、あの運転手さん、西田さんだわよ!」

 夏鈴が手を振ると―― おお、戦友 ――って感じで、西田さんが手を振り返してくれる。

 五十メートルほど手前の土手道で車が停まると、運転席から西田さん。助手席からサングラスの男の人が出てきて伸びをして、西田さんが後ろのドアを開ける。

 伸びをしてサングラスをとった男の人は……ゲ、高橋誠司!?

 右のドアからは、キャピキャピの女の子が出てきて、目ざとくわたし達を見つけて駆け寄ってきた。

「お早う、乃木坂演劇部!」

「あ……ども」

 だれだろ……と、考えるヒマもなく、その子はロケバスの方へ。途中で気づいたように振り返って、戻ってきて挨拶した。

「NOZOMIプロの上野百合です。よろしくね!」

「上野百合って……?」

「まどかが言ってた新人さん……」

「たぶん……」

 似てる……と思いながら、三人とも口にはしなかった。

「おはよう、乃木坂の諸君」

「「「あ、お早うございます」」」

 上野百合に見惚れていたら、高橋誠司が、すぐそばに来ている!

「ほんとうは、姉妹揃って、うちの事務所に入れたかったんだけどね」

「え?」「じゃ?」「やっぱり!」

「お姉ちゃんの方は、アメリカに逃げられちまった」

「え?」「妹?」「アメリカ!?」

「河川敷のロケだっていうから、寒さ対策してきたんだけど、要らなかったなあ」

「はい、春の体験版です!」

「うまいこと言うねえ、さすがは個人演技賞! セーブデータは製品版でも使えますってね」

「「ハハハ」」

 わたしたちを煙に巻いて後ろ手でバイバイして行ってしまった。

 袖口から極暖が覗いていた。

 

 そうして、驚くことがもう一つ。

 

「あ、潤香先輩!」


 潤香先輩が、紀香さんに手をとられながらやってきた。

 さすがに立っているのは辛そうで、折りたたみの椅子が出された。

「ありがとう和子さん」

 それは、西田さんのお孫さんだった。

「お互いの、再出発の記念にしようって。お嬢の発案なんです」

「アメリカって聞きましたけど?」

 夏鈴が目を輝かせる。

「はい、九時半の飛行機です」

「向こうでも、演劇部の顧問やるのかなあ!」

「きっと海兵隊!」

「いえ、サキお嬢様と替わってニューヨーク支社でお勤めになられます」

 勤めるどころじゃない、たぶん支社長。TAKEYONAで聞いてしまった印象はそうだ。

「あ、たぶんあの飛行機」


 紀香さんが指差した空にはJALの後姿。手元のスマホを見ながらだからトレースしていたんだ。


「わたし、あなたたちに発表したいことがあるの。お姉ちゃん、ちょっと手をかして」

「大丈夫、潤香?」

「うん。この宣言は立ってやっときたいの」

 潤香先輩の真剣さに、わたし達は思わず気を付けしてしまった。


「わたし、この四月から、もう一度二年生をやりなおす」


「それって……」

「出席日数が足りなくて……つまり落第」

「学校は、補講をやって、進級させてやろうって言ってくださるんだけどね、潤香ったら……」

「そんなお情けにすがんのは、趣味じゃないの」

「一学期の欠席がなければ、いけたんだけどね……」

「怒るよ、お姉ちゃん。これは、全部わたしがしでかしたことなんだからね」

「先輩……」

 わたしも胸がつまってきた。

「ほらほら、まどかまで。わたし、この留年ラッキーだったと思ってんのよ。だってさ、あんたたちと、もう二年いっしょにクラブができるじゃない。いっしょにがんばろ! 今度は全国大会!」

「「「は、はい!!」」」

 元気に返事して、見上げた空には、もうJALの後姿は見えなかった。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・99『よ! 乃木坂屋! 日本一!』

2023-01-29 07:27:27 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

99『よ! 乃木坂屋! 日本一!』 

 

 

 稽古は順調に進んでいったよ。なんたって、乃木坂さんが堂々と演出してくれている。

 それまでは、里沙や夏鈴の目を気にしたり、古文みたいなメモを読解しなくちゃならなくって、とっても不便だったんだもんね。
 平台は一日一個作ることに決めた。なぜかというと、ちょうど最後の一個を作った明くる日が、はるかちゃんのロケになってキリがいい。


 そう、みんなで見に行くことに決めたんだ(^▽^)!


 乃木坂さんは、浅草の軽演劇や歌舞伎なんかにくわしくって、型をつけてくれる。最初の口上のところなんか、大向こうから、かけ声をかけてもらうことになった。
 最初は顧問の柚木先生に頼んだだけど、乃木坂さんがイマイチな顔をしている。
 そして、なんとなんと、理事長先生が聞き及んで、理事長先生自身がやってくださることになった!

 よ、乃木坂屋! 日本一!

 てな感じで、二日に一度くらいのわりで来てくださって、声をかけてくださる。

「高山先生もあいかわらずだなあ」

 理事長先生が機嫌よく出て行ったドアに向かって、乃木坂さんが頭を掻いた。

「乃木坂さん、理事長先生知ってんの?」

「うん、国史の先生。敗戦の前の年に出征されたんだ」

「あの、乃木坂さん。コクシとシュッセイってなんのこと?」

 夏鈴がソボクな質問をする。

「えと、国史は日本史、出征は兵隊に行くこと。高山先生は沖縄戦の生き残りなんだよ」

「へえ、戦争にいってたんだ、理事長先生……」

「沖縄じゃ、ほとんどの兵隊が戦死した。で、より安全な銃後にいた僕たちも死んだ。その中で生き延びてきたことを重荷に感じていらっしゃるんだ」

「ジュウゴって……?」

「銃の後ろって書くんだ。それくらい辞書ひきなよ。さ、一本通すぞ!」

「……なるほど」

 スマホで「銃後」を検索して、納得してから稽古にかかるわたし達に、苦笑いの乃木坂さんでした。

 この『I WANT YOU』という、お芝居は、歌舞伎、狂言、新派、新劇、今時のコメディー、それに、はやりの女性ユニットのポップな歌とダンスまで入っている。

 最初は楽しそうだと思って、次には、読むのと演るのは大違いということに気づいたころに、自衛隊の体験入隊。がんばろうとリセットができて乃木坂さんの姿が見えるようになって、乃木坂さんの指導よろしく、平台が十枚できたころにはようやくカタチにはなってきた。

 がんばろうとすると、ただ台詞を張って声が大きくなるだけで、芝居そのものは硬くつまらないものになっていく。

 乃木坂さんは、型になるところは見本までやってくれて、らしく見えるようにはしてくれた。
 そこから、あとは台詞を忘れて自然に反応できるようにしろって言うんだ。
 はるかちゃんも、チャットで同じようなことを言う。芝居の中で、見るもの聞くものを探し、それに集中しなさいって。でも、それをやると芝居のテンションが下がってくる。

 どうすりゃいいのよさ(;`O´)!?

 と、ヤケにになりかけたころに平台は、十六枚全部できてしまった。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・98『ビデオチャット』

2023-01-28 09:52:19 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

98『ビデオチャット』 

 

 


 その夜、はるかちゃんとビデオチャット。

 主に自衛隊の体験入隊の話で、ウフフとアハハだったんだけど、話が一区切りついたとこで、はるかちゃんが切り出した。


「月末の土日に例のCMのロケに行くの。荒川でよく紙ヒコーキ飛ばしてたあたり。時間があったら、家の方にも寄るんだけど、こういうのって団体行動だから、よかったら現場に来てよ」

「行く行く。お仲間みんな連れてっちゃうから。で、どんな役者さんが来るのよ?」

「堀西真希さんとか……」

「え、いま売り出し中の!?」

「うん。彼女がメイン。で、高橋誠司……」

「ゲ、あのおじさん!?」

「知ってんの?」

 わたしは(思い出したくもない)コンクールのいきさつを説明した。はるかちゃんは大笑い。

「アハハハ……それから、上野百合……この人も新人さんみたい。同年配だからちょっと安心」

 はるかちゃんたら、すっかりリラックスしてポテチを食べ出した。

「あ、はるかちゃんズル~イ」

「スポンサーさんから山ほどもらっちゃったから。う~ん、うまいなあ!」

「こういうこともあるかなって……ア!」

 バサバサバサ!

 机の上のポテチに手を伸ばした拍子に机の上のアレコレを落としてしまった(^_^;)。


「相変わらず、整理整頓できないヒトなんだね、まどかちゃん」

「はるかちゃんに言われたかないわよ……」

 わたしは、ポテチをたぐり寄せ、あとのアレコレを足でベッドの方へけ飛ばそうとして、あれが足先に当たったのに気づいた。

「どうした、ゴキブリでも出た?」

「ううん、薮先生から預かった写真け飛ばしそうになっちゃって」

「ホホ、早手回しのお見合い写真ってか。困ったもんだわね、まどかちゃんには大久保クンが……ね」

「そんなんじゃないよ……」


 わたしは、写真のいきさつを話した。自然にというか、当然乃木坂さんの話しにもなっていく。はるかちゃんのことだから笑ったりはしないだろうけど信じてもらえるか少し心配だった。


「そうか……そういうことって、あるのよね……」

 案外、わがことのようにシンミリしてくれた。

「で、これが、その写真なんだけどね……」

 カメラの前に写真を広げて見せた。


「……あ、マサカドさん!?」


「え……はるかちゃん知ってんの?」

 はるかちゃんは、迷っていた……そして、ためらいながらマサカドさんについて涙を堪えながら話してくれた。

 長い話だったけど時間なんか気にならなかった。わたしの中で、乃木坂さんと、写真の三水偏の女学生、そしてマサカドさんのことが一つになった。

 

 

 念のため、パソコンの電源まで落としてから仰向けにひっくり返る。

 たまに動画配信して、スイッチ切り忘れてあられもない姿を世界中に晒してしまうバカが居る。ことここに及んで、そういうドジは晒したくないからね。

 体のあちこちが音を上げている。支社長代理は両手を上げて喜んでいたけどね。
 
 ビデオチャットって、鎖骨から上の大首絵になりがちでしょ。事実、たった今までのわたしがそうだった。ベッドの上から撮ってたから、寝室のあれこれ写り込むのいやだったしね。

 でも、支社長代理のは、体の動きに合わせてカメラのアングルやフォーカスが変わるってしろもの。
 AIだかプログラムなのか、そういう仕掛けになっていて、まるでテレビの放送みたいにオシャレで自然なカメラワーク。なんだけど写り込んじゃいけないところは設定してある。テレワークに意を用いた前支社長の置き土産であるそうな。

 西田さんと峰岸君のサポートもあってボロを出さずに済んだけど、体験入隊はきつかった。

 並みの自衛隊員には負けないだけのスキルと体力はあるつもりだった。まして高校生になんか負けやしない。事実どっちにも負けなかった。

 でもね、わたしって、横でゴチャゴチャ言われるのは嫌いなんだ。だから、要求される五割り増しぐらいでサッサとやってしまう。体験入隊のメニューぐらいは朝めし前。なんと言っても、この手の事は西田曹長に習ってたしね。それに、体験入隊は、たったの二泊三日だしね。見栄もあったし、ちょっと頑張り過ぎ。で、このありさま。

 妹のサキは、こういうのは嫌いだった。サキは、みんなで仲良くおままごと的な子で、じっさい人を楽しませ、自分も楽しむことが天才的に上手だった。

 サキは、そのノリで仕事に成功し、そして失敗した。

「足して二で割ったぐらいがいいんだろうねぇ」

 TAKEYONAでは、相変わらず微温的なことを言う奴だと思ったけどね。この体験入隊に行って、サキの言うことも一理あると思ったよ。
 我の強いわたしは自分でやってみるまで分からなかった。テレワークだとか協調性だけの支社長もダメなんだろうけどさ。

 で、家に帰ると、このありさま(-_-;)。

 さて、めちゃくちゃ気は進まないけど、あいつに電話しなくっちゃ。

 転んでもただでは起きない、上から読んでもキサキサキ下から読んでもキサキサキ。

 お互い、やってみて、自分で結果を出すまでは納得しない。

 不器用で胸糞の悪い姉妹だ。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・97『発覚!』

2023-01-27 07:08:48 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

97『発覚!』 

 


「……じつはね、何を隠そう、僕は幽霊なんだよ」

 乃木坂さんが、もったいつけて言っても二人はキョトンとしていた。


「いや……だからね(^_^;)」

 乃木坂さんが、壁をすり抜けても。

「「オオ~(゚O゚)!」」

 奥の手で、周りを一瞬で春にしちゃっても。

「「ウワア~(*'▽'*)!」」


 いちおう驚くんだけども、幽霊さんに対する礼を欠いているというか、完全にミーハー。なんだか、マジックショーのノリになってしまった。


「喜んでくれるのは嬉しいけども、なんかねぇ……(´-﹏-;)」

 乃木坂さんは、頭をかいた。

「カッワイ~(*^o^*)!」

 と、夏鈴。

「これで稽古中の、まどかの不信な言動のわけが分かった(T-T)」

 と、納得の里沙。

「そうだ、トラックから材木降ろさなきゃ。乃木坂さん手伝って!」

 わたしまで、あたりまえのように言う。

 材木運びじゃ乃木坂さんの取り合いになった。だって乃木坂さんが見えるのは、わたしたち三人だけ。材木屋のオニイチャンも手伝ってくれるかなあと期待したんだけど、次の配達があるんで荷下ろしだけ。
 三人で運ぶと何往復もしなくちゃならない。かといって、乃木坂さんが一人で運んじゃ、材木の空中浮遊になって大騒ぎになっちゃう。で、乃木坂さんは介添え役。で、乃木坂さんに介添えしてもらうとチョーラクチン。で、取り合いになるわけ。

 運び終わると制服のあちこちに木くず。

「やだあ、冬休みにクリ-ニングしたとこなのに」

「じゃ、これはサービス」

 パチン

 乃木坂さんが指を鳴らすと、ハラハラと木くずが落ちていく。

「わあー、きれいになった! コーヒーの染みまで落ちてる!」

 わたしは素直に喜んだんだけど、夏鈴がセコイことを言う。

「ねえ、こんなことができるんだったら、平台とかもチョイチョイと……」

「ばか、それじゃ訓練にならないでしょうが、訓練に」

「自衛隊でも習ったでしょうが、敢闘精神よ、敢闘!」

 三バカのやりとりをにこやかに聞いていた乃木坂さんは暖かく言った。

「普通には手伝うよ。木を切ったり、釘を打ったり」
 

 それから、タヨリナ三人組と幽霊さんとの共同作業が始まった。
 

 ジャージに着替えるときに、夏鈴が聞いた。

「ひょっとして、着替えるとこなんか見てなかったでしょうね?」

「ないない、最初のは事故だったけど」

「最初のって、なによ?」

 やっぱ見られていたんだ……もういいけどね。

 男手が入ると作業効率が違う。ためしに三六(さぶろく)の平台一枚だけ作るつもりだったけど、一時間で三枚もできた。

 その作業の間、わたし達はしゃべりっぱなし。女を三つくっつけたら姦しい(かしましい)だもんね。って、これは乃木坂さんの感想。さすが旧制中学。

 でも、こうやってしゃべっていると、里沙や夏鈴に乃木坂さんが見えるようになったのが、理屈抜きで分かってくる。

 わたし達も、乃木坂さんも同世代だし、同じ演劇部。それに自衛隊の体験入隊も新学期に入ってからの稽古もずっといっしょだった。同じ空気を吸い……これひゆ比喩だからね。乃木坂さんは空気は吸いません。解説がつまらない? スミマセン。つまり感動を共有して、お互いに近しくなってきたからなのよ。

 でも、これが思いもかけない結果になるとは……だれも想像できませんでした。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・96『昼から学校に行った』

2023-01-26 05:35:27 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

96『昼から学校に行った』 

 

 

 薮先生に話すと元気が出て、昼から学校に行った。

 生活指導室で入室許可書をもらうと、市民派の先生に嫌みを言われた。

「自衛隊の体験入隊なんかに行くからだ……な、なんだよ(; ゚゚)」

 わたしは、恐い顔で先生を睨みつけていることに気がついた。

 教室に行くと、さんざ冷やかされた。

 インフルエンザを除いて無遅刻無欠席のわたしが欠席の連絡。それが、午後から元気に登校したものだから、恋煩いが一転オトコの心をゲットしたとか、親が危篤だったのが一転良くなったとか、自衛隊で食べ過ぎてお腹痛になったのが出すモノ出したら元気になった(これは夏鈴がたてたウワサ)とかね。


「まどか、今日から道具作りやるよ!」


 里沙が、鼻を膨らませて言った。

「え……『I WANT YOU』に道具なんか無いでしょ?」

「予算よ、予算。来月中に執行しないと生徒会に没収されんの。だからさ、まだ公演まで余裕のあるうちに、平台とか箱馬とか作っちゃおうと思ったわけ」

「むろん、稽古もやるわよ。その前にテンション上げるのにいいと思ったのよ( •̀∀•́ )!」

 腹痛デマ宣伝の犯人が息巻く。

「自衛隊の五千メートル走とか壕掘りとか、今思うと、けっこう敢闘精神湧いてくんのよね。で、どうせやるなら将来の役にも立って、予算の消化にもなる道具作りが一番と思ったわけ!」

 放課後、里沙も夏鈴も掃除当番なんで、わたしは一足先に稽古場の談話室に行った。


「やあ、今日は早いんだね。まどか君一人?」

 バルコニー脇の椅子に座った乃木坂さんは、もう幽霊って感じがしない。

「あの二人は掃除当番。そろう前に見てもらいたいものがあるの」

 わたしは例の写真を見せた。乃木坂さんは面白そうに表紙と和紙の薄紙をめくった。

 乃木坂さんの顔が一瞬赤くなったような気がした……でも。

「……僕と同じ時代の子だね」

「ひょっとして……!?」

「……別人だよ。この子も可愛い子だけど、世の中いろんな可愛さがあるんだね。当たり前だけど」

「……そうだよね。あの爆撃じゃ十万人も亡くなったんだもんね。ごめん、変なの見せて」

「ううん、いいよ。同じ時代の子だもの、知らない子でも懐かしい……あ、里沙君と夏鈴君が来る」

「なにやってんのよ(*’へ’*)、道具つくるんだから材木運び。もう材木屋さんのトラック来てるからさ!」

 ドアを開けるなり、夏鈴が眉毛をつりあげた。

「さっき、言ったとこ……」

 里沙がフリーズした。夏鈴も視線が、わたしから外れている。


「その人……」「だれなのよ……」


 里沙と夏鈴に乃木坂さんが初めて見えた瞬間だった……。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・95『思い切りブットイ注射をされた』

2023-01-25 06:38:26 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

95『思い切りブットイ注射をされた』 

 

 


 学校に欠席連絡を入れた。

 ひいじいちゃんの忌引きで休んで以来。

 あ、それと例のインフルエンザ。
 

 コンクールの明くる日だって、乃木坂をダッシュして間に合ったんだ。


 とりあえず、十一時ぐらいまで横になった。ようやく起きあがれるようになったので、薮医院に行った。いつもなら歩いても十分とかからないんだけど、二十分近くかかってしまった。

「さっき、忠友が来たとこだぜ」

「え、忠クンも……?」

「ああ、とりあえず点滴してやったら、少しは元気になって帰っていったけど、学校は休めと言っておいた」

「忠クンも、わたしみたいに……?」

「見かけはな。しかし、あれは精神的なもんだ。体験入隊で自分の想いと現実のギャップを思い知ったんだろうなあ……それに、不寝番やらされて何かあったみたいだな」

「あ……」

「まどか、なにか知ってんのか。忠の野郎、何も言いやがらねえ」

「あのぅ……」

「ん?」

「えと……」

「じれってえなあ、今時のガキは!」

「イテ……!」

 思い切りブットイ注射をされた(>_<;)。

 まさか、それに自白剤が入っていたわけではないだろうけど、気持ちが軽くなってきた。

 ガキンチョのころから、ここに来ると注射が仕上げで、それが終わると気が楽になり、たいていの病気は吹っ飛んでしまった。まあ、条件反射かもね。

「……なるほどな、乃木坂君てのから、そんな話しを聞かされたんだ」

「先生、素直に信じちゃうんですか?」

「ああ、昔はあったもんだよ。親父が体壊して、しばらく船を下りてるうちに、ミッドウェーで船が撃沈されっちまってさ。その晩、親父がここで何人かと話していたよ。むろん俺には親父の声しか聞こえなかったけどな……三月十日の大空襲もひどかったぁ。十万人が焼け死んじゃったけど、ほとんどは身元も分からないまま戦没者の霊で一括りさ。そりゃあ思いを残して残ってるやつも大勢いるだろうさ。幸か不幸か、俺は、そんなのが見えねえ体質なんだけどよ。信じるよ、そういうことは」

「先生はさ、その空襲の時はどうしていたんですか?」

「さあ……ただ逃げ回っていたことしか覚えてねえなぁ……人間てのはな、めっぽう怖ろしい目に遭っちまうと記憶がとんじまうものなんだ、そうしねえと神経がもたねえからな。で、いろいろ逃げ回って、てめえの家は焼け残っちまうんだもんな。皮肉なもんさ……そうだ、これを預かってくれねえか」

 先生はレントゲン写真を入れる黒い袋から表装された一枚の写真を取りだした。写真には早咲きの梅を前と後ろにして一人の女学生が写っていた。

「駅前で写真屋をやってた進ちゃんて同級生と逃げ回ってよ。そいつが最後まで後生大事にもってた写真なんだ。いっしょに手紙が入ってたんだけど、無くなっちまって、その写真の主がなあ……胸の名札がちょうど梅の花と重なって苗字の三水偏きゃ分かんねえ。制服は第十二高女ってことは分かるんだけどな。まあ、なんとかは藁をも掴むってことで、一度その乃木坂君に見てもらえないかい」

 先生は、もう休診にしてしまった。

 わたしのシンドサが伝ってしまったようだ。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・94『帰ってきた』

2023-01-24 05:41:27 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

94『帰ってきた』 

 

 


 横丁を曲がるまで心配だった。

 何かって……決まってるじゃん。

 あれよ、あれ、ジジババのコスプレ。


 顔から火の出る思い。で、尻に帆かけて……って慣用句で合ってたっけ。文才のあるはるかちゃんなら、こんな時でもぴったしの表現が浮かぶんだろうけど、ラノベ程度のものっきゃ読まないもんだから……でも、はるかちゃんに教わってシェ-クスピアの四大悲劇とか、チェーホフの何本かは読んだけど、後が続かない。これも根気がない江戸っ子の習い性。ええい、ままよ三度笠横ちょに被り……これ、おじいちゃんがよくお風呂で唸ってる浪曲じゃんよ! 

 とにかく、めちゃ恥ずかしかった。また、あのコスプレで出迎えられてはかなわない(≧Д≦)!

 横丁を曲がると、そこは雪国だった……なんか間違ってるよね。

 でも、いつもの我が町、我が家がそこにありました。はるかちゃんの「東京の母」秀美さんにも会ったけど、ごく普通。

「あら、まどかちゃん、お帰りなさい」

 で、これは家の中に入ってからだな……と、見当をつけ、深呼吸した。

「ただ今」

「「お帰り」」

 当たり前の返事。おじいちゃんもおばあちゃんも、いつもの成りでいつもの返事。

「タバコ屋のおたけ婆ちゃんに『無粋だね』って言われたのが応えたみたい。なんせジイチャンの寝小便時代も知ってる、元深川の芸者さんだったからな」

 狭い階段ですれ違う時に兄貴が言った。すれ違う時に胸がすれ合った。

「まどかでも、ちゃんと出るとこは出てきてんだな」

「なによ、このメタボ!」

 ハハハ……と笑って行っちゃった。これって言い返したことになってないよね。

 自分の部屋に入ると、思わず横向きになって自分の姿を鏡に映す。

 その夜、スゴイ夢を見た。

 正確には、スゴイ夢を見た余韻が残っているだけで、中味は覚えていない。

 起きあがろうとしたら、まるで体が動かない。金縛りでもない、指先ぐらいは動く。

 でも、寝床から起きあがろうとすると、身もだえするだけで体が言うことをきかない。

 時間になっても起きてこないので、お母さんがやってきた。


「まどか、どうかした?」

「……体が……重くて、動かない……(;▽;)」

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・93『解隊式』

2023-01-23 07:22:47 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

93『解隊式』 

 

 

 乃木坂さんの「手助け」もあって、わたしの班は二等賞!

 企業グル-プのみなさんは、お気の毒に又も腕立て伏せ(^_^;)。

 教官の皆さんは拍手してくださったけど、例の教官ドノはいささか首をひねっておられた。どう見てもか弱い女子高生四人(「マリちゃん」はにせ者だけど)が、現役の自衛隊員並の時間で、教則通り……ってか、昔の日本陸軍式の壕を掘ったんだから。

 得意技の女子高生歓喜(ウソー! マジ! ヤダー! キャハハ!)でゴマカシて昼食。

 昼食は、なんと炊事車がやってきた! 

 二トンぐらいのトラックなんだけど、荷台のところに、二百人分一度に作れるというキッチンセットが入ってんの。荷台の壁をはね上げると、そのまま庇になって、荷台の下からは二十人分の食卓と椅子が出てくるという優れもの。

 メニューは、焼きそばの上に焼き肉がドーンと載っかってんの。それに豚汁のセット。昨日のカツ丼といい、うな重定食といい、自衛隊はド-ンと載っけるのが好きなよう。むろんわたし達もね♪

 わたし達は、炊事車の椅子に予備の折りたたみの椅子を出してもらって、全員いっしょに昼食。これが体験入隊最後の食事……たった二日間だったけど、なんだか、とっても仲間って感じがした。教官の人たちも企業グル-プさんたちもね。

 いっしょに走ったり行進したり作業をしたり。西田さんにはずいぶん助けてもらったけど、基本は自分たちでやった。
 わたしは部活の基本と同じだと思った。乃木坂さんは、そんなわたし達を、ちょっと羨ましげに見ていたよ。

 見ていたというと、やはり教官ドノの視線を感じる。これはおっかなかった。

 忠クンのことは気になったけど、アカラサマに見たり話しかけるのははばかられた……って、そんな浮ついたことじゃなくって、昨日からの忠クンの心の揺れに対してはハンパな言葉はかけられなかったんだ。


 食事が終わりかけたころ、演習場の林の中から戦車が二台現れた!


「ワー、戦車だ!」「カッコイイ!」「一台でもセンシャなんちゃって!」

 思えば小学生並みのはしゃぎようでありました。

「あれは、戦車ではない」

 西田さんが呟き、里沙がメモ帳を出した。

「八十九式装甲戦闘車ですよね、通称ライトタイガー。歩兵戦闘車!」

「よく知ってんね」


 西田さんが驚いた。メモ帳を覗き込むと、『陸上自衛隊装備一覧』の縮尺コピーが貼り付けてあった。さすがマニュアルの里沙。


 で、昼からは、そのソウコウセントウシャってのに乗せてもらって、演習場を一周。見かけのイカツサのわりには乗り心地はよかった。ただ外の景色が防弾ガラスの覗き穴みたいな所からしか見えないのには弱りました。

「変速のタイミングが、やや遅い」

 西田さんは、自分で操縦したそうにぼやいておりました。

 宿舎に帰ると、企業グル-プさんの部屋から、悲鳴があがった。


『なんだよ、これは!』『こりゃないだろ!』『たまんねえなあ!』

 続いて教官ドノの罵声。

『おまえ達が、満足に寝床の始末もできんからだ。やり直し!』

「企業グル-プ、ベッドめちゃくちゃにされてた……」

 里沙が偵察報告をした。

「なんとぉ……(゚ロ゚;)」「最後まで自衛隊は容赦がないねえ……(ーー゛)」

 夏鈴と抱き合って廊下に出した首をひっこめた。

「フ……自衛隊だけじゃないぞぉ」

 マリちゃんが呟いた。


 その後、解隊式があって、修了書とパンフの入った封筒をもらった。


 中隊長さんが短いけどキビキビした訓辞をしてくださった。団結力と敢闘精神という言葉を一度だけ挟まれていた。大事な言葉の使い方を知っている人だと感じた。

 忠クンが感激の面持ちで、それを聞いていたのでホッとした。

 私服のジャージに着替えると、宿舎の入り口のところで、教官ドノが怖い顔をして立っていた。

「これを……」

 サッと小さなメモを渡された……これって……だめだよ、わたしには忠クンが……。

「貴崎マリさんに」

 なんだ、わたしをパシリに使おうってか……でも、頬を染めた教官ドノの顔は意外に若かった。ウフフ。

「ウフフ」

 不敵な笑みを浮かべるマリちゃんは異世界系アニメの最後に生き残った魔女みたいだった。

 帰りの西田さんのトラックの中。みんな、ほとんど居眠りしている。わたしは、タイミングを待って、教官ドノのメモを渡した。その結果が、この不敵な笑み。

「ホレ、まどかにも、大空さんから」

―― 演劇部がんばってくださいね。公演とかあったら知らせてください。都合が着いたら観させていただきます。わたしのカラーガードもよかったら見に来てください。 真央 ――

 助手席では運転をお孫さんに任せた西田さんが手紙を読んで神妙な顔。封筒にはA師団の印刷……きっと夕べのことなんだろうと思った。前の空席には乃木坂さんが座っていて、静かにうなづいた。

 見上げると、申し分のない日本晴れ。

 夕べ降った雪は陽炎(かげろう)となって何ものかを昇天させる聖霊の徴のよう。その陽炎の中、トラックは、東京の喧噪の中へと戻っていきました。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・92『演習場』

2023-01-22 07:10:27 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

92『演習場』 

 

 

 この日は、トラックに乗って演習場に行った。

 西田さんのとちがって七十三式大トラ。新型らしいけど乗り心地は西田さんのクラッシックな方がいい。ドライバーのテクニックかなあ……なんて思っていたら、いつの間にか一般道に出ていた。後ろから、ノーズが凹んだポルシェがついてきている。

―― よくやるよ。おまえら、何が悲しくって自衛隊なんかやってんだ ――てな顔したアベックが乗っていた。

―― お、自衛隊にもカワイイ子いるじゃん ―― なんて、思ったんだろう、女の子に携帯でボコられてやんの。

 でも、二人ともニヤツイテ感じわる~。

 一番後ろに座ってた西田さんが、ヘルメットを脱いで、ポルシェに向かってニターっと笑った。とたんにポルシェは運転がグニャグニャになり、ガードレールに左の横っ腹を思い切りこすって停まった。

「今度は廃車だな……」

 西田さんは小さく呟くと、ヘルメットをかぶり直した。

 演習場に着いた。一面雪の原野でチョー気持ちいい!

「まずは、演習場を一周ランニング。小休止のあとテント設営。壕掘りを行う」

 オッチ、ニ、ソーレ! オッチ、ニ、ソーレ!

 雪の進軍が始まった。

 昨日の五千もきつかったけど、雪の上のランニングもね……と思ったら、案外楽に行けた。やっぱ慣れってスゴイってか、自衛隊の絞り方がハンパじゃないのよねぇ。

 走り終わると、みんなの体から湯気がたっているのがおもしろかった。

「では、テントの設営にかかる。各自トラックから機材を取り出す……」

 教官ドノは、ここで西田さんと目が合って、言い淀んだ。

「教官。ただ命じてくださればよろしい。『かかれ』が言いにくければ『実施』とおっしゃればよろしい」

「テント張り方用意……実施!」

 教官ドノのヤケクソ気味の号令で始まった。支柱を立てて打ち込む。その間支柱を支えていることを「掌握」 支柱をロ-プで結びつけることを「結着」という。


 企業グル-プさんは手間取って、規定時間をオーバーしてしまった。


「腕立て伏せ、用意!」

 あらら……お気の毒。と、同情していたら、大空助教が宣告した。

「では、乃木坂班は、これより壕掘りにかかる。各自円匙(えんぴ)用意!」

「エンピツ!?」

 夏鈴が天然ボケをかます。大空助教が吹き出しかけた。

「円匙とはシャベルのことである。用意、実施!」

 大空さんも、西田さんを相手に「かかれ!」とは言いにくそう。

 結局、このカワユイ大空助教の「命令」が、一番きつかった。むろん夕べの不寝番は別にしてね。

 気がついたら、乃木坂さんがいっしょに壕を掘っている。

「これ、よくやらされたんだ。校庭の土は硬くてね。それに比べれば、ここは何度も掘ったり埋めたりしてるから、楽だよ」

「あのね、乃木坂さん……(^_^;)」

 ひとりでに動いているとしか見えない円匙を隠すのは大変でした……はい。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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