大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

大阪ガールズコレクション:12『グーグルアース・馬場町・3』

2020-08-31 13:53:47 | カントリーロード

大阪ガールズコレクション:12

『グーグルアース・馬場町・3』  

 

 

 これと言って趣味の無いわたしがハマってしまった。

 

 VRですよ、VR、ヴァーチャルリアリティですよ!

 日本橋で友だちと待ち合わせ。

 ドジな私は、時間を間違えて一時間も早く着いてしまったので、ウィンドショッピングで時間を潰す。

 そこで出会ったのがプレステVR。

 体験会をやっていたので、列に並んで、サメとかジェットコースターのVRをやらせてもらった。

 こ、これはスゴイ!

 感激したんだけど、体験会なので、その場では買えない。

 SONYのスタッフに販売スケジュールを聞いて、二週間後に数量限定の販売があることを確認。

 当日は年休をとった上で、前の晩から難波のホテルに泊まって(家から電車の乗ったら間に合わない)夜明け前から並んだ。

 行ってビックリ、コアなファンや再販で儲けようと言う転売屋と思しきオッサンたちが並んでいて、初心なわたしには無理かと思ったけど、なんとかゲット。

 その後、もっとスゴイVRがあると知って、オキュラスに手を出す。

 買って愕然、わたしのパソコンはスペックが低くてオキュラスが見れないのだ!

 プレステVRならプレステ4に繋ぐだけで観れるのにヽ(`Д´)ノプンプン!

 

 オキュラスのすごいところはグーグルアースがVRでできることなんだよね。

 世界中のたいていの所に行ける。ニューヨークのタイムズスクエアにもパリのエッフェル塔やシャンゼリゼにも、エジプトのピラミッドにも、富士登山だってできてしまう。

 毎晩、世界のあちこちに飛んで楽しんでいた。

 一年もたたないうちにオキュラス・Sという新製品が出てそれもあっさりゲット!

 解像度が良くなって、画面が明るくなる。数字的に言うと20%ほど向上した。

 新製品に慣れてしまうと、もう一つ前の普通のオキュラスには戻れない。両方置いておくわけにはいかないので、古い方は箱に仕舞った。

 

 図書室当番に来た田中先生がパソコンを買い替えたいとおっしゃる。

 

 話をうかがうと、これが同好の士で、グーグルアースであちこち行ってみたいのだとおっしゃる。

 そこで「思い切ってゲームパソコンにしてもませんか?」と聞いてみる。

「いや、ゲームとかはしないから」

「いえいえ、グラボの性能が違いますから」

「グラボって?」

「グラフィックボードって言いまして、高画質の画像を楽しもうと思ったら必須です。グーグルアースだってサクサクできちゃいますよ」

 同好の士が居ると言うのは嬉しいもので、思わず布教してしまい、その場でオークションサイトで中古を見つけて差し上げる。

 女性の中には「中古はちょっと……」という人もいるんだけど、田中先生はお気になさらない。

 嬉しくなって「よかったら、これも使ってみてください」と、使わなくなったオキュラスを差し上げる。VRやらパソコン機材やらで足の踏み場もなかったので、喜んでもらえれば一石二鳥。オキュラスは本体のヘッドマウントディスプレイの他にオキュラスハンマーと呼ばれるセンサーが二つもあったりで箱に戻しても特大のクリスマスケーキの箱ほどの大きさがあって持て余していたのだ。

 ネットオークションに出してもよかったんだけど、見ず知らずのオッサンなんかに使われたんじゃ、なんだか娘を身売りに出す親のようで、田中先生に使ってもらえたら嬉しい。

 布教の甲斐あって、田中先生はVR信者になってくださった。

「いやあ、高校生の頃の通学路を発見しちゃって、懐かしく歩いているわよ!」

 先生は、女生徒だったころに憧れの先輩が居て、その先輩が乗る地下鉄の隣の車両に乗って後を着けていたそうだ。

「なんだか、そのころに戻ったみたいでドキドキしちゃって(;^_^A」

 女生徒に戻ったように頬を染める先生は、とても可愛かった。

「先輩は、NHK付属劇団の研究生をやってることが分かってね、スゴイと思ったの。ますます声なんかかけられなくなって、週に二度ほどね、馬場町のNHKの近くまで……あ、一応はね、松屋町の自分の家まで健康の為に歩くって、自分に言い訳してたんだけどね(n*´ω`*n)」

「アハハ、で、どうでした?」

「でって……あとを付けただけよ」

「いえ、VRで行ってみて、馬場町とかどうでした?」

「いや、それが……谷四の駅から先には、まだ行けなくって。なんたってVRってリアルでしょ、360度景色が広がってて、ドキドキだって、ほんとに昔のまま蘇ってくるんだもん……」

「アハ、まだ行けてないんですか?」

「う、うん」

「じゃ、図書室のパソコンで下見します?」

「え、図書室の?」

「むろんVRじゃないですけど、わたしもいっしょに居ますし、お茶でも飲みながら」

「う、うん、そうね、岩波さんが付いていてくれたら(n*´ω`*n)」

 とっておきの紅茶を淹れて、司書室のパソコンの前に並んで座る。

 それだけで、ポッと頬を染める先生は、司書室のガラスの向こうでマンガを読んでケラケラ笑っている現役の生徒よりも初々し少女になっていた。

 

 

 

 

 

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ぜっさん・15『プロムナード』

2020-08-31 06:25:19 | 小説3

・15
『プロムナード』     


 

 

 ここでは暑いだろうと思った。

 なんたって、真昼の校舎の外。中庭とグラウンドを繋ぐ通路のようなところ。
 プロムナードと書いてあったので、最初は分からなかった。
 この五月に転校してきたばかりなので、校内の施設の名前までは分からない。
「あの……プロムナードってどこですか?」
 メガちゃんに聞いた。
 メガちゃんは、担任の妻鹿先生。ほら、夏休みに瑠美奈と三人でエキストラのバイトに行ったでしょう。
 あのメガちゃん。

「え……ひょっとして、オトコ!?」

 あやうく、他の生徒に知られるところだ。
 噂とかになりたくないからメガちゃんに聞いたのに、瞬間後悔した。
 メガちゃんは、こういうところが軽い。
 エキストラやってても女子高生で通るくらいチャーミングなんだけど、こういう相談をしても軽いとは思わなかった。
「場所教えてください、場所です!」
 そう言うと、恐縮な顔になり、やっと教えてくれた。

 プロムナードは、単なる連絡通路ではなかった。

 何度も通っているんだけど、生け垣の向こうが奥まっていて、奥まったところにはベンチがある。短時間なら人目につかずに話ができる。校舎の東側なので、午後には日陰になり、予想していたよりも涼しい。

 この場所を指定してきた長谷川要という男子は、この点では、文字通りクールだ。

 そう、二通目の手紙は長谷川要君だ。

 萌黄色の封筒の中は、真っ白な便箋で、こう書いてあった。

 突然の手紙で恐縮です。五月に転校してこられた時から貴女のことが気になっていました。いちどお会いして、きちんと気持ちを伝えたく思います。明日の放課後、プロムナードでお待ちしております。 敷島絶子様  長谷川要 

 ハネやトメに過不足のない力が籠っていて、男らしいきれいなな字だ。萌黄の封筒と言い、飾り気のない白い便箋と言い、とても印象が良い。
 これがチャラチャラした手紙なら、この場所に来ることも無かっただろう。
 先に読んだ牧野卓司の手紙の方が、印象としてはナヨっとしている。
 告白されたからと言って、軽々しく付き合うつもりはないけれど、お友だちの一人ぐらいにはなっていいと思った。

 さっきから、生け垣の向こうを何人も生徒が通り過ぎて行く。当然半分が男の子。
 カッコいい男子が通るたびにドキドキする。
 現金なもので、カッコいいのが目につくたびに、この子なら付き合っても! なんて衝動みたいなのがせきあげて来る。
 敷島絶子は自覚していたよりも、ずっとミーハーなのかもしれない……。

 絶子……さん。

 思いがけず後ろから声がかかった!

 主な登場人物

 敷島絶子    日本橋高校二年生 あだ名はぜっさん
 加藤瑠美奈   日本橋高校二年生 演劇部次期部長
 牧野卓司    広島水瀬高校二年生
 藤吉大樹    クラスの男子 大樹ではなく藤吉(とうきち)と呼ばれる
 妻鹿先生    絶子たちの担任
 毒島恵子    日本橋高校二年生でメイド喫茶ホワイトピナフォーの神メイド

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ポナの季節・20『ポチ……ポチ!』

2020-08-31 06:16:14 | 小説6

・20
『ポチ……ポチ!』
        


 ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名


 由紀の祝勝に沸いて家に帰ると鍵がかかっていた。


 この時間帯なら必ず家にいるポチの気配もない。
 鍵を開けて家に入ると、キッチンには夕食の準備のために、野菜が切りかけのままのまな板、お母さんのエプロンが畳まれもせずにダイニングの椅子に無造作に掛けられていた。

 そして、リビングの定位置にポチの姿も無かった……急いでお母さんに電話した。

「もしもし、お母さん。いったい何があったの?」

 母の答えは衝撃的だった。

 ポナは急いで自転車で、今朝まで居た大川病院とは違う病院に急いだ。

「お母さん!」
「声大きい。こっちに!」
 母に促されて、ポナは診察室に入った。

 ポチが、酸素吸入器を付けられて診察台に横たわっていた。

「ポチ……!」
 ポチは、うっすらと目を開けて弱々しく尻尾を振った。
「抱っこしてやってください。この子は君を待っていたんだ」
 獣医の先生が優しく言ってくれた。ポチは元気な子で、パイプカットに来て以来獣医さんのところには来たことがない。幼かったポナは、獣医の先生にほとんど記憶は無かった。
 今も先生の顔は見えない。視野の端にぼんやり眼鏡の顔が見えるだけ。涙に溢れる目にはポチの姿しか見えなかった。
「急性肺炎です。歳なんで抵抗力が無い……しかり抱いてやって」
 閉じかけた目をうっすらと開け、口の形だけで「ワン」と言った。

 そして、そのままポチの体から力が抜けていった。

「ポチ……ポチ! ポチ!!」
 いくら呼びかけても、ポチは返事しなかった。尻尾も振らなかった。
「……いま、逝きました。十八時一分」

 自転車を片手運転し、もう片方の手で毛布にくるまれたポチを抱いて家に帰った。後悔がどす黒く胸にわだかまっている。
 河川敷にボール遊びに行かなければ……あたしが溺れさえしなければ……。

 お父さんとチイニイが帰ってきたころには、ポチはすっかり冷たくなって硬直が始まっていた。
「人間の十六は青春の始めだけど、犬は、もう八十ぐらいだもんな……」
「あたしが……あたしが、ポチを殺したんだ」
「バカ言うな、ポチは本望だったんだよ。最後まで新子と遊べて、最後の最後は溺れる新子を助けられて……」
 助けてくれたのは、チイニイだけど、ポチは溺れながら精一杯助けを呼んでくれた。いま思えば、けして声の届く距離じゃなかった、ポチの気持ちがチイニイに届いたんだ。
「明日、ポチの葬式をやろう。もう犬の葬儀屋さんには電話しておいた。お父さんは年休とるよ。新子もくるか?」
「もちろん……」

 チイニイは、採用されたばかりで学校を休めなかった。大ネエは、ポナが溺れたときに夜勤を代わってもらっていたので、やはり休めない。チイネエは大学休んできてくれた。
 残念なのは、大ニイだ。ポナが生まれた日に子犬のポチを拾ってきてくれたのは大ニイだ。大ニイは任務行動中で、連絡をとることさえできなかった。

 ポチがお骨になる間、みんなほとんど口を利かなかった。

 ポナは赤ちゃんのころから、ポチを双子の姉弟のように思っていた。物心ついて人と犬の区別がついても気持ちは変わらなかった。ポチは犬語しか喋らないけど、ポナには全て分かった。ポチは、死ぬまで自分の事をポナと同様に十六歳の男の子と思っていたのだろうか……いや、やっぱり自分の歳は感じていたんだ。ボール遊びだって、若いころのようにポナが嫌になっても止めるようなことは無かった。二十回もやるとアゴが出ていた。ガンバってポナに付き合ってくれたんだ。

 二時間後、ポチは牛乳パックぐらいの箱に収まってポナの手にもどってきた。

「こんなに小さくなっちゃった……」
「遺骨の一部はナンチャラ加工して、ペンダントにしてもらう。一週間ほどでできる。新子にやるから身につけてろ」
 お父さんが車の中で言った。嬉しかったけど、ポチが戻ってくるわけじゃない。

 車窓から見える小さな雲がポチに似ていた。ポナにはポチが雲になって付いて来ているような気がしていた……。



※ ポナの家族構成と主な知り合い


父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長

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かの世界この世界:57『さらばシュタインドルフ!』

2020-08-31 05:59:43 | 小説5

かの世界この世界:57     

『さらばシュタインドルフ!』    

 

 

 え、あいつか!?

 

 ジャンケン勝負は一発で付いた。

 連れて行くなら、子どもながらにイケメンで品行方正なフレイがいいと思った。

 フレイアも女の子なので、少々お転婆でも扱いやすいだろう。それが、わんぱく坊主のロキだ。

 ただのわんぱくなら、まだいい。

 カエルを投げつけてきた首謀者、それも、捕まっても素直に認めずフレイやフレイアのせいにしようとした。

 そういう性格が気に入らない。

 

 それに、なんでジャンケンなんだ?

 なんだか、院長先生にしてやられた感じがしないでもない。十三人の子どもたちの中から、よりにもよって。

 単に、厄介者のロキを放り出したいから……そう勘ぐってしまうほど、ロキを連れて行くのには気が進まない。

 

 この旅に神のご加護のあらんことを!

 

 ウダウダ思っているうちに、院長先生とフリッグ先生は送別会の準備を整えてしまった。

「ロキ、みんなに旅立ちのご挨拶をなさい」

「そ、そんなのいいよ……」

「ロキ、元気でね」

「お便りちょうだいね」

「水には気を付けて」

「オネショすんなよ」

「食事の時は、ロキの席に写真を置いとくからね」

「そうだよ、旅に出ても、心は一つだからね」

「いつか帰って来いよ」

「ロキが居なくなってせいせいする……と思ってたのに、寂しいよ」

 最後の言葉はフレイアだ。なにか言おうとするのだが、涙を浮かべてアワアワするばかり。

 いやなガキだと思っていたけど、こいつなりに受け入れられていたんだと、ちょっとだけ目頭が熱くなる。

 

 ……ロキ!

 

 感極まってフレイアが抱き付く。すると、他の子どもたちも寄ってきて、泣きながら抱き付いて、モミクチャの団子になった。

「さあ、泣いてばかりいたら出発できなくなるわ。ゲートに並んでお見送りしましょう」

 促された子供たちは、涙をぬぐいながらゲートに並んだ。

「ちょっと待って!」

 フレイアが建物に戻って一分ほどで荷物を作って戻ってきた。

「枕がかわったら寝られないっていうから、枕と着替え。いいでしょ先生?」

「う、うん、構わないわよ」

 先生は、渡すべき荷物を用意していたようだが、フレイアの気持ちを大事にするんだろう、フレイアには見えないように荷物を減らしている。二号よりは大きいと言え四号も狭苦しい戦車だ、荷物は少ない方がいい。

「わたしたちから渡す荷物はこれだけです、よろしくお願いします」

「お預かりします」

 

 旅立ちに四号戦車はピッタリだ。

 

 砲塔のキューポラだけではなく、側面のハッチ、操縦手と通信手のハッチからも半身を乗り出して、お別れの手を振る。

 ゲートまでと言われた子どもたちは、坂を下って村の境まで付いてきた。

 もう、涙涙でグシャグシャだ。

 ついさっきまでは、このクソガキと思っていたけど、涙と鼻水でヨレヨレになったロキも可愛い。

「さ、ここまでですよ」

 オーディンシュタインの効き目は村はずれの峠までだ。峠のてっぺんで二人の先生は促した。

 五つのハッチから身を乗り出した我々は改めて敬礼。無理な魔法を使ったブリはヘロヘロだったが、なんとか笑顔で手を振っている。

 峠を下ると、道は『く』の字に曲がってしまって孤児院のみんなは見えなくなる。

「全員車内へ、警戒しつつ前進!」

 グリが車長として指示し、車内に収まる。

「ん? ロキ、お前のポケット……」

 ケイトがロキの上着のポケットを指さした。

「え? あ、う、うわー!」

 ポケットの中でグニグニ動くものがあって、ロキはアタフタと上着を脱いで。ハタハタと振る。

「バカ、車内でやるんじゃ……!」

 注意するのが遅かった。

 ポケットの中から転がり出てきたのは、子どもの拳ほどのシリンダーだった。

 とうぜん車内は大騒ぎになるが、もっとビックリした。

「ポ、ポチ!?」

 ロキが、シリンダーを名前で呼んだではないか!

 

☆ ステータス

 HP:2000 MP:1000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・25 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル

 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘

 グリ(タングリス)   トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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せやさかい・166『返ってきた手紙』

2020-08-30 13:15:45 | ノベル

せやさかい・166

『返ってきた手紙』    

 

 

 なんでもメールやラインで済ませる現代、手紙は出すことももらうことも珍しくなった。

 

 直近で手紙を出したのは年賀状。

 厳密には年賀状は葉書やさかいに手紙ではない。

 便箋にお便りを書いて封筒に入れて切手を貼ってポストに入れたのは……ええと……ええと……小学校の時に『お手紙の練習』というのんで、授業でお母さんに手紙を書いて出して以来?

 ってゆーか、きちんと手紙を出したことが無い!

 そのわたしが手紙を出した。

 

 というのは、小学校でいっしょやったAさんのことが気になったから。

 

 留美ちゃんのお母さんが看護師やってはるのは、どこかで紹介したわよね。

 コロナ感染者を引き受けてる病院で、留美ちゃんのお母さんはめっさ忙しくって、何日も家に帰られへんのやそうです。

 そのお母さんが帰ってきはって、久々の親子の会話で入院患者の中にAさんのお母さんらしい人が居てるのが分かった。

 人違いかもしれへんねんけど、めっさ気になったわたしはAさんに手紙を書いたというわけです。

 

 その手紙が戻ってきた!

 

 え、なんでえ!?

 封書の表を見たら『料金不足』の紙が貼ったーる!

 わたしはテイ兄ちゃんを恨んだ。

 なんで手紙が戻ってきてテイ兄ちゃんを恨むかと言うと、封書の料金が分からへんので、テイ兄ちゃんに聞いたわけ。

「ああ、82円や」

 そない言うたさかい、おばちゃんに八十円と一円切手二枚をもらって出したわけなんです。

 ググってみると84円。

 たった二円の不足で、わたしの純情は届かなかった!

「テイ兄ちゃん、封書は84円やったやんか!」

 檀家周りから帰ってきたテイ兄ちゃんに詰め寄った。

「え、うそ、82円やろ」

「ほれ、料金不足で帰ってきたし!」

「え、え?」

 テイ兄ちゃんもスマホでググって84円を確認してビックリしてる。

「いつの間に値上がりしたんや?」

「いつの間にて、毎月『如来寺便り』とか出してるんちゃうん?」

「あれは料金別納やさかい、気ぃつけへんかった」

「りょーきんべつのう?」

「数が多いさかい、料金は別払いで、いちいち切手貼れへんいうこっちゃ。しかし、いつの間に」

 改めて、スマホ確認のテイ兄ちゃん。

「なんと、2017年……いやはや三年も気ぃつけへんかったんやなあ」

 感心すると、わたしなんか、居らんかったみたいに冷蔵庫からアイスを出して自分の部屋に行ってしまいよった。

 はてさて、もっかいやり直そか。

 そう思って、手紙を読み返すと――これは書き直さならあかんやろ――いうくらいにひどい。

 まあ、明日にでも書きなおそ。

 そう思って四日がたって、まだ、よう出せへんさくらでした。

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ぜっさん・14『ぜっさん手紙を読む』

2020-08-30 06:43:48 | 小説3

・14
『ぜっさん手紙を読む』     



 ジャージにTシャツ。

 これって、自宅における女子高生の定番だと思う。

 ラフな格好なので、いきおい姿勢もチョーらくちんにしている。らくちんな格好というのは人さまざまなんだと思う。
 わたしの場合は『ビルマの竪琴』に出てくる寝仏(ねぼとけ)みたいな恰好。
 右を下にして、右手で頭を支える。
 寝仏と違うのは、左足を立ててマタグラむき出しにしていること。スカートだったら絶対NGな格好。
 でもって、左手でテレビのリモコン持ったり、マンガのページめっくたり、スナックをつまんだりする。お母さんが入ってきたら立てた左足だけ、お行儀よく右足に揃える。

 要は行儀が悪い。

 その、悪い行儀のまま(あとで後悔するんだけど)例の二通の手紙を読んでいる。

 ようやく夏も盛りを過ぎたようですね。
 学校も始まってしまいました。親の時代は八月いっぱい夏休みだったとか、昔は良かったんですね、って、なんだか年寄りじみてしまいます。
 僕の学校での席は窓際です。窓は東向きなので、冷房していてもかなり暑いです。
 うちは共学校なんだけど、女子のお行儀は女子高並みです。
 女子高並みと言っても、女子高を覗いたわけじゃなく、女子たちが話しているのを聞いて「そうなんだ」と思っている次第。
 下に着ているとは言え、第二ボタンまで外すのは、ちょっといただけません。
 中には、椅子の上で胡坐をかいて、団扇で風を入れているのもいます。
「おまえら、もう女捨ててるなあ」と担任は言うけど「捨てても有り余る女子力だもん!」と意気軒昂です。
 放課後は、部活に行きます。
 本当は部活のことを書きたかったんだけど、教室の描写で終わってしまいそうです。
 今日は、演劇部の在り方というような難しいことを話し合います。
 僕は、こういう原則論と言うかベキ論というか、そういう話はするべきではないと考えます。
 楽しい芝居を創ろう! これだけでいいと思うんですけどね。

 じゃ、また手紙書きます。   
 
                  牧野卓司
 PS 男と女の間に友情は成立すると思いますか? 
 

 思わず、姿勢を正してしまった。
 さて、二通目の萌黄色の封筒……。

 これを読んで、わたしはドキっとしてしまった!



主な登場人物

 敷島絶子    日本橋高校二年生 あだ名はぜっさん
 加藤瑠美奈   日本橋高校二年生 演劇部次期部長
 牧野卓司    広島水瀬高校二年生
 藤吉大樹    クラスの男子 大樹ではなく藤吉(とうきち)と呼ばれる
 妻鹿先生    絶子たちの担任
 毒島恵子    日本橋高校二年生でメイド喫茶ホワイトピナフォーの神メイド

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ポナの季節・19『溺れたそのあと……』

2020-08-30 06:36:11 | 小説6

・19
『溺れたそのあと……』
        


 ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名


 

 

 溺れたその日は大事をとって入院した。贅沢なことに個室だった。そこしか空きが無かったから。

 ポチのことが気になったけど、犬は病院には入れない。ま、救急車の中では元気だったから大丈夫だろう。
 夕方までは、みなみとチイニイが付き添ってくれて……二人で喋ってばかりいた。溺れてグッタリだったので気遣いなんだと思うんだけど、ベッドで二人の会話を聞いているだけなのは寂しかった。

「ねえ、チイニイ、ポチ大丈夫かな?」

 分かっていながら聞く。

 わたしだって話に参加したい。そのきっかけにポチをダシに使った。

「大丈夫だろ、お袋が連れて帰ったけど、車の窓からワンワン吠えてたぞ。カナヅチのくせして川に飛び込むなって」
「もう、あたしが溺れたのは脚がツッタから。溺れかけはポチだったんだから」
「うそうそ、感謝して、ポナのこと心配してたよ」
 みなみがフォローする。みなみも小学一年からポチとも友だちだ。あたしほどじゃないけど、ポチのことは分かっている。

 夕方になって大ニイ以外の家族がとっかえひっかえやってきた。あたしのことを心配してのことではないことは明らかだ。

 大ネエは、あたしのことを口実に夜勤を人に代わってもらって、自分はそのまま非番になる。つまり夜から、あくる日いっぱい休みになる。大学生のチイネエは、見舞いをダシに親に生活費のカンパを頼んでいたし、お母さんは病院食に興味があるみたい。来年定年というお父さんは、お母さんの出産の時以外病院なんか来たことが無い。入院した大川病院は看護師さんが可愛いと評判なので、スケベ根性で来ている。その証拠に病室にはほとんどいなくて、ナースセンターのあたりをウロウロしている。「看護婦さーん」と時代遅れの呼び方で、なにくれとなく余計な話をしている。

 かくして、一晩の入院は病室が個室であることをいいことに、家族に談話室を提供して、あくる日には家に帰った。

 だれか付き添ってくれるかと思ったけど、目的を果たした家族は仕事やなんやらを理由に誰も来なかった。ま、ミソッカスだから仕方ないと思うと同時に、こういう形で、おおげさに言えば家族愛を示してくれることに感謝……分かってるんだけど、たった一人の退院は面白くなかった。

 お父さんの意見で学校には内緒だった。連絡すれば職務や義理で先生やみんなが見舞いにくる。同じ高校の先生なので、そのへんは気配りのようだ。

 昨日の差し入れに制服と鞄があったので(見た時は薄情な家族だと思った)そのまま遅刻で学校へ。月曜は生徒会の選挙がある、由紀のためにも休めない。奈菜も由紀も選挙のことでぶっ飛んでいたので、あたしの遅刻を気に留めなかった。
 由紀には二年生の対立候補がいる。ぽっと出の一年生は、どうしても不利だ。しゃかりきになるのも無理はない。
 結果、二期連続の副会長は、フレッシュというか圧の強い由紀に位負け。半分以上の票をかっさらって当選した。
「よ、女橋下! 世田谷維新の会!」
 と、もてはやされたが、由紀は怒っていた。由紀は前の生徒会が勝手きままにやってきたことを元に戻すことが目的で、維新の会とは規模は違うが真逆なことをやろうとしているのだ。

「ほんとに一般大衆というのは、度し難い!」

 由紀というのは事の本質を大事にする子だと感心。

 放課後には前日溺れたことなどすっかり忘れてしまった。


※ ポナの家族構成と主な知り合い

父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長候補

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かの世界この世界:56『堕天使ブリュンヒルデだぞ!』

2020-08-30 06:25:21 | 小説5

かの世界この世界:56     

『堕天使ブリュンヒルデだぞ!』   

 

 

 二号のエンジンでポンプを動かすのだ!

 

 普段の倍ほどに目を輝かせて、ブリは宣言した。

 無辺街道での出会い以来、中二病的言動が大げさなブリだが、この時は最高に大げさだった。

「グニが主命により四号を運んできたのは天啓である! シュタインドルフの村とヴァイゼンハオスを救い、その善行により我と眷属たちのステータスを上げるのだ! さあ、みなうち揃いて庭に集い、堕天使ブリュンヒルデの奇跡を目に焼けつけるがいい!」

「無理です、二号は十トンに満たない軽戦車とは言え、エンジンの重量だけで七百キロはあります。クレーンはおろか、目ぼしい工具も無い状態では作業できません」

 ここに至って身分を隠しても仕方がないので、グリは臣下の物言いで、でも、キッパリとNOを突き付けた。

 グリは正しいと思う。ブリは確かにオーディンの娘で姫騎士で多少の武術には秀でているが、それは、わたしやケイトと変わらない駆け出し勇者のレベルで、とても戦車のエンジンを抜いてポンプに付け替えるような力は無い。いや、魔法だ。小なりと言えど戦車だ。その戦車のエンジンを取り外すのにはクレーンが無い現状では重力魔法を使う以外に道はない。ブリの魔力は戦闘において三十キロそこそこの自分の体を飛ばせる程度でしかない。とても七百キロのエンジンを浮遊させてポンプ小屋に運べるものではない。それに、運んだ後にいろいろ繋いで、きちんと動かすには、電気技師のスキルか機械を魔法で操るマキナ系の魔力がいるだろう。

「なにを益体もないことを、我は、主神オーディーンの娘にして堕天使のブリュンヒルデなるぞ。エンジンの一つや二つ意のままに動かせるわ! 見よ!」

 ガチャ ゴトゴト ゴトン ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 庭の方で音がする。みんなで飛び出すと、二号のエンジンルームのカバーが開き、七百キロのエンジンが宙に浮きつつあった! 子どもたちは、それを取り巻いて胸をときめかせているではないか!

「みんな、危ないから、下がりなさい!」

 若いフリッグ先生が呼びかけるが、だれも言うことを聞かない、いや、耳に入っていない。

「目に焼き付けるがいい、堕天使の秘めたる力を! さあ、エンジン! 汝は、この時よりシュタインドルフの命の水を絶やさず汲み上げる力となるのだ……汝に命ず! エンジンとしてあるべき所に収まりて、モーターに力を与え、ポンプを稼働せしめよ!」

 ブリが身をのけ反らしながら、高々と両の手を挙げる!

 すると、屋根ほどの高さに上がったエンジンはクルクルと旋回し、壊れたポンプ小屋からは、さまざまのパーツが磁石に吸い上げられるようにして衛星のようにエンジンの周囲を回り、次々とエンジンに接合。接合し終えると、エンジンは旋回を止め、そろりそろりと下りてきて、ジェネレーターに結合。

 ブルン ブルブル ブルン

 エンジンが動き出し、同時にジェネレーターが発電を始めてモーターを動かしポンプが稼働した。

「見たか! 堕天使ブリュンヒルデの力を!」

 決めポーズをとると、ブリはポーズのまま仰向けに倒れ、ケイトがかろうじて受け止めた。

「気絶しています」

 

 うわー、ほんとに堕天使だったんだ!

 

 子どもたちが畏敬……というよりはヒーローショーの主役を見る眼差しで中二病の貴人をとりかこむ。何人かは、目が覚めたらサインをしてもらおうと色紙とサインペンを構えている。

「きみたち!」

 グリが忌々しそうに子どもたちに呼びかける。

「この人は堕天使なんかじゃないよ。もう、隠し立てしても仕方がないから言うよ!」

 子どもたちは期待の眼差しでグリを見上げる。コホンと勿体を付けて、グリは宣言する。

「この人はね、主神オーディーンの娘のブリュンヒルデ姫殿下だ!」

「え、ただの姫さま……?」

「オーディンの娘ってことは、ただの神さま」

「神さまの娘だから……ま、見習いってとこ?」

「……」

 口に出しては言わないが、子どもたちは、あきらかに失望している。わけがわからん。

 

「みんなに話があります」

 

 院長先生が言うと、さすがに口をつぐむ子どもたち。

「魔法とか堕天使とかはいいんです。ブリュンヒルデ姫が渾身の力でポンプを動かしてくれたことをこそ喜び、その感謝を捧げなければなりません。そうでしょ?」

 子どもたちを促すように神妙な顔でコクコク頷くフリッグ先生。わたしたちも真似て頷くと、ようやく子どもたちも大人しくなった。

「ブリュンヒルデ姫とお付きの方々はヴァルハラを目指されます。ポンプも無事に直った今、みなさんの中から一人、お供をしてもらいます。ただのお供ではありません。あなたたちのお母さんの元に戻ってお母さんを助け、この世界に真の平和が訪れる手助けをするのです。もちろん、今回はお母さんの存在がはっきりした人になります。他の人も残念に思ってはいけません。いつの日か、お母さんかお父さんか、または、それに代わる人を見つけて、あるいは、十分な力を付けて、ここを巣立っていくのですからね」

 はーい

 みんな、お利口に返事する。おそらく、院長先生は、ここ一番というところでしか、こういう話をしないのだろう。

「ブァルハラへの旅は過酷です、厳しいものです、また、姫さまたちのお邪魔になってもいけません。ですので、一人に絞ります。ロキ、フレイ、フレイア、前に出て」

 三人は、一様にどきりとした顔になった。

 おずおずと前に出ては来たけれど、その緊張が喜びによるものなのか、未知と言っていいところへの旅に対する不安なのか、わたしたちには分からなかった。

「それでは、決めます……ジャンケンで!」

 

 ズッコケてしまった。

 

☆ ステータス

 HP:2000 MP:1000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・25 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル

 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘

 グリ(タングリス)   トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

 

 

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魔法少女マヂカ・172『秘密基地の宿題会』

2020-08-29 14:46:01 | 小説

魔法少女マヂカ・172

『秘密基地の宿題会』語り手:マヂカ    

 

 

 毎年、夏休みが残り僅かになって来るとジタバタする。

 

 ジタバタには二種類あって、一杯残してしまった宿題をどう片付けようかと冷や汗を流すジタバタ。

 もう一つは、夏の思い出にどこかに行きたい、何かをしたいというジタバタ。

 

 思い出ジタバタは、夏がいよいよ断末魔ということに関係がある。

 あれほど恨めしく感じられた蝉の声も途絶え、通り雨の後、ふと涼しいと感じたりすると、あの身を焼くようだった夏の暑さが懐かしく思われる。

 夏の終わりというのは、なんだか夏に人格を感じてしまって――夏が、なんとか元気なうちにやっておきたい、行っておきたい――と思ってしまうから。

「そりゃ日本人の感傷だよ」

 アメリカ魔法少女のブリンダはニベもない。

「軽井沢が、あんなに開けたのは、明治のころに外国人が避暑にいったからなんだぞ。人類にとって夏と言うのは災厄なんだよ、ちょっとマシになったからと言って懐かしがるのは間違ってると思うぞ」

「だってえ(;゚Д゚)」

「「「おまえは、さっさと宿題やっつけろ!」」」

 ノンコ以外の声が揃う。

 大塚台公園の特務師団基地で夏休みの宿題合宿をやっている。

 少しづつ残っていた宿題はノンコを除いて全員が終了。ブリンダは美術の課題が残っていたのだが、それもねじり鉢巻きで宿題に取り組むノンコをモデルにして水彩で十分前には描き終えている。

 そこで、無駄話に興じていると、夏の終わりにつての感覚が日本とアメリカでは違うという話になったのだ。

「じゃ、ブリンダは、屋内でジッとしてるのがいいって言うの?」

「どこかへ行ってみるとか、なにかやってみるというのは賛成だぞ」

「「「え、そうなんだ」」」

「だったら、どっか行こうよ」

「「「ノンコは宿題!」」」

「みんながイジメるううう(´;ω;`)ウゥゥ」

 コンコン

 その時、ブリーフィングルームのドアがノックされて、テディ―が入ってきた。

「みなさん、お茶の時間です」

「あ、もうそんな時間なんだ」

「よし、休憩だあ!」

 異世界人のサムが宣言したのはノンコへの優しさだったのかもしれない。

 秘密基地で宿題をやっているのは効率を図るためなので、ハンガー以外では一番殺風景なブリーフィングルームでやっている。お茶はくつろぎの時間なので休憩室に移動する。

 自分のスコーンとティーカップを持ってテーブルに着く、ノンコが甲斐甲斐しくティーポットを持ってみんなにサービス。友里が息抜きにモニターのスイッチを入れ、清美といっしょに動画を選んでいる。

「「あ」」

 スクロールする百合の手が止まって、みんなの視線がモニターに向けられる。

 モニターには、いよいよ解体が始まる原宿駅の旧駅舎の様子が映し出されていた……。

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ぜっさん・13『二通の手紙』

2020-08-29 05:56:37 | 小説3

・13
『二通の手紙』     


 

 ぜっさん!

 なんか気まずいことだなと思った。
 言葉の響きで気分が分かるほどに瑠美奈とは親友になった……ということなんだけど。
「かんにん、野暮用でいっしょに帰られへん。ごめんな」
 頭が「かんにん」で、尻尾が「ごめん」。 この過剰な言い回しは、瑠美奈が、かなり困っていることの現れだ。

 多分、演劇部のこと。

「いいよいいよ、たまには一人で歩かなきゃ、道おぼえないもんね」
 昨日の天王寺公園でのことがあったので、明るく答えておく。
「ほんま、ごめん……あ、せや。ぜっさん宛てに手紙きてたよ」
 学校宛てに、わたしへの手紙?
 受け取った封筒で分かった。広島で一緒になった牧野卓司だ。
 ほら、高校演劇の全国大会で言い寄って来たミスター高校生。

「ありがとう」

 まさか廊下で読むわけにもいかず、とりあえずは通学カバンに入れておく。
「……よっこいしょっと」
 掛け声かけて通学カバンを肩にかける。今日は辞書2冊を持って帰るので、けっこうな重さなのだ。
「声だけ聞いたら、お婆ちゃんみたいやで!」
 追い越しざまに藤吉が余計なことを言う。
「ヘソ噛んで死ね!」
 江戸前で返すが、大阪ではインパクトが弱い。藤吉はヘラヘラしたまま階段を下りて行った。

「さてと……」

 いちいち掛け声がかかるのは、夏の疲れだろうか。
「あれ……」
 下足のロッカーを開けると、萌黄色(もえぎいろ)の封筒が入っている。
「え、なんで……」
 疑問が先に立つ。だってロッカーには鍵をかけてある。手紙が入っていると気持ちが悪いよ。
「それね……」
 毒島さんが寄り添ってきた。
 相変わらず学校では暗いけど、バイトが決まってからは微妙に距離が近くなってきた……ような気がする。

 敷島絶子さまへ……と、宛名があり、裏には、長谷川要とある……はせがわかなめ?

 名前もさることながら、こんなのが入っていたことが気持ち悪い。
「ロッカーの下に2ミリほどの隙間があるの……鍵かけていても、その隙間からなら入れられるわ」
「あ、そ、そうなんだ」
 妙に狼狽えてしまって、その手紙も通学カバンにしまって、そそくさと下足室を出てしまった。

 後ろで、毒島さんが、なにか言いかけたみたいなんだけど、息出でそのまま下足室を出てしまった。

 台風の影響で思わぬ雨脚になっていた。この雨が無ければ、毒島さんの知恵を借りていたかもしれない……。



 

 主な登場人物

 敷島絶子    日本橋高校二年生 あだ名はぜっさん
 加藤瑠美奈   日本橋高校二年生 演劇部次期部長
 牧野卓司    広島水瀬高校二年生
 藤吉大樹    クラスの男子 大樹ではなく藤吉(とうきち)と呼ばれる
 妻鹿先生    絶子たちの担任
 毒島恵子    日本橋高校二年生でメイド喫茶ホワイトピナフォーの神メイド

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ポナの季節・18『昨日のポナは最悪だった』

2020-08-29 05:46:15 | 小説6

・18
『昨日のポナは最悪だった』
        


 ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名


 昨日のポナは記事にも話にもならないほどミゼラブルだった。

 最初はドラマチックで楽しげな朝の始まりだった。
 いつものように、ポチを連れ薮医院の前を通って大川の河川敷にボール遊びにいくところだった。

 そこにみなみのメールが入った。

――寺沢先生って、ポナの兄貴じゃん! 話ししたら遊びにきていいって。今からいく!――
――え、ほんと!?――

 チイニイが乃木坂の講師になったことは知っている。それが、こともあろうにみなみのクラスを持っている。で、お気楽みなみは、チイニイとお友だちみたくなって、これからうちに来るというのだ。

――あたし、大川にポチ連れてお散歩だよ――
――じゃ、ちょっと調整する――

 みなみは積極的な子だ、授業うけてピンときて、話をしたら親友の兄貴だということが分かり、チイニイも調子いいから、昔の感覚で「遊びに来いよ」になったんだろう。でも、みなみはバランス感覚もいいから、ポナと一緒じゃないと、ちょっと薄情な気がしたんだろう。

「なんだポナ、日曜もポチのしごきか?」
 医者の不養生のいいわけに、藪先生がウォーキングしているところに出くわした。
「ポチの健康維持にはちょうどいいんです。明日から平常通りの学校だし、今日が最後なんです」

 最後と言って、ポナは自分でもドキンとした。

 犬は暑さに弱いので、夏休みは老犬ポチには無理だ。冬休みもダメだろう。でも普段の休みならやってこられる。でも、きちんと時間を決めて散歩できるのは今日限り、それを端折って「最後」と言ってしまった。
 天気予報でも、そろそろ梅雨とか真夏日とか言い始めてる。だから無意識に……そこまで理由を考えて、ポナは思考を停止した。あまり暗いことは考えたくなかったし、ちょうど大川の土手に着いたところだったし。
「さあ、ポチいくよ!」
 土手の上から河川敷に投げると、ポチは十六歳とは思えない素早さでボールを追いかけ、ポナが河川敷に着いたころには、ボールを咥えてもどってきた。
「調子いいじゃん、ようし、今日は二十回目標でやってみよう!」

 ポナの周囲は、この十年で少しずつ変わっていった。

 四人もいた兄姉が、大ニイの防大受験から始まり、チイニイと大ネエが家を出て、去年の春からはチイネエも大学進学といっしょに家を出た。家にいるのは両親とポチだけである。立場はもうミソッカスじゃないけど、ポナはどこか寂しい。ミソッカスもやだったけど、ミソッカスでなくなることも寂しく。チイネエが家を出るころに、辞書を引いてPerson Of No Account という言葉を知った。頭文字をとればPONA=ポナだ。字がポチに似ているのも気に入った。SNSのハンドルネームに使ったのが最初で、三月も自分で使っていると、周囲もポナと呼ぶようになった。

「ようし、これで最後。いくぞポチ!」

 力が入りすぎ、河川敷のコンクリートで大きくバウンドして、ボールは川に落ちてしまった。
「ポチ、いいよ!」
 と叫んだ時には、ポチは川に飛び込んでいた。川の流れは意外に速く、二呼吸するほどの間に岸からかなり離れた。

 ポチが溺れた。

「ポチ!」

 叫ぶと同時にポナは、大川に飛び込んだ。
 岸を蹴った時に右足に違和感があった。ポチの傍まで泳ぐと、脚がつって泳げなくなってしまった。痛さのために声も出なかった。
 ポチは、力を振り絞って岸に向かって吠えた。犬語ではあるが救助を求めていることは、誰にでも分かった。

 そして……気が付いたのは救急車の中だった。

 救急隊員の他に、チイニイとみなみがいっしょだった。チイニイがびしょ濡れなところを見ると、どうやら助けてくれたのはチイニイのようだ。ポチも毛布にくるまれてみなみが抱っこしてくれている。

――ああ、助かった……――

 そう思うと再びポナは意識を失った。


 

※ ポナの家族構成と主な知り合い


父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長候補

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かの世界この世界:55『女神の子たち』

2020-08-29 05:28:18 | 小説5

かの世界この世界:55     

『女神の子たち』          

 

 

 ユグドラシルはご存知ですか?

 

 朝食が終わって、子どもたちが後片付けや掃除に取り掛かる時間、院長先生が穏やかに聞いた。

「はい、世界の時間を司っているという伝説の木ですね」

「子どものころに、おとぎ話で聞いたような」

「伝説でもおとぎ話でもなく、ユグドラシルは存在します。この世界とは、ほんの少しだけズレた亜空間に存在するので、世界樹とはいえ、普段は目に見えません。先の聖戦での無理がたたってユグドラシルは枯れてしまいそうになりました。ユグドラシルは三人の女神によって守られているのですが、女神たちはユグドラシルの回復に全力を注がねばならず、子どもたちの世話が出来なくなってしまいました。それで、十年前にわたしが預かることになったのです」

「女神の子ども?」

「はい、女神にはそれぞれ一人の子どもが居て、女神たちの希望なのです。その希望にかまけていられないほどに、世界樹の再生は大変な仕事だったのです。そして、一段落したいま、子どもたちの力が必要になってきたのです」

「子どもが働くんですか?」

「よくは分かりません、後継ぎが必要な段階になったのか、はたまた、子どもたちが女神の力を十二分に発揮するためのブースターになるのか。言えるのは、子どもたちの帰還を喜ばない者たちがいるということです。孤児院に居る限り手出しは出来ませんが、一歩シュタインドルフを出てしまえば守り切れるものではありません」

「それで、わたしたちに」

 グリの声には困惑の響きがあった。

 ブリュンヒルデの供をするだけで一杯なのだ。子どもの世話、それも、どこにあるか分からない世界樹の根元の国にまで届けることは余計なことだ。

「お気持ちは分かります、でも、余計なことに見えて、この仕事はブリュンヒルデ姫さまのおためにもなることなのです」

「姫さまの……」

「創世記二十四章、獄を出でし子らは……」

「あれが姫様の事だと……」

「山羊たちを供として父に見参せんと……試練の子たちと……川を渡りて……共に手を……」

 わたしには分からない神話世界の話のようだ。瞬間視線を落としたグニだったが、顔を上げるとキッパリと言った。

「分かりました。それで、その子らとは……?」

 

 そのタイミングで掃除を終えた子どもたちが入ってきた。

 

 終わりました、院長先生!

 

「ご苦労さま、じゃ、勉強の時間まで遊んでらっしゃい、あ、三人は残って」

 三人だけで通じるようだ。ロキとフレイとフレアが顔を見合わせながら、こちらを向いた。

 三人は連れていけないぞ~(^_^;)

 子どもたちなりに戸惑っていると、庭に通じるドアを開けて、グニとブリとケイトが入ってきた。

「いいことを思いついたわ!」

 明るく言ったブリだったが、わたしたちの様子に戸惑ってしまった。

 

 なにかあった……?

 

☆ ステータス

 HP:2000 MP:1000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・25 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル

 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘

 グリ(タングリス)   トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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ぜっさん・12『当然凹む』

2020-08-28 06:51:27 | 小説3

・12
『当然凹む』     



 大阪に来て三か月ちょっと。

 転校してきたその日に瑠美奈って親友ができたこともあって、大阪には疎い。
 だって、そうでしょ、基本的には家と学校の往復だし、出かけるときも瑠美奈といっしょ。
 たまの外出も出かけるというよりは、連れてもらっている感じ。
 だから大阪のことには慣れない。特に地理的にはね。

 地理的どころか、エスカレーターでも失敗する。

 うっかり右側を空けて、後ろから咳払いされることがある。
 なんで大阪は左側を空けるんだ! 最初はそう思った。瑠美奈には言えないけど、大阪は野蛮だ! と思ったよ。
 ま、理屈じゃないんだけどね。横断歩道のフライング、これはいただけない。梅田の横断歩道で実感、なんたって信号の横に「青信号まで〇秒」ってシグナルが出る。それが出ているのに大勢がフライングする。この時の憤りがあるので、エスカレーターの左空けにも腹が立つ。
「ハハハ、ほんでも左側空けるのが、世界的には標準やねんで!」
「うそだ!」
 瑠美奈に言われて検索したら、その通りだったので、余計にムカつくのよ!

 で、たまには一人で出かけて大阪に慣れようと努力をするのだ!

 お気に入りのワンピにストローハットで家を出る。
 目指すは天王寺公園。ゆっくり季節の花を愛でることにした。
 エスカレーターも、ちゃんと左側を空け、無事に四天王寺前夕陽ヶ丘の駅に着く。
 ほんとうは、もう一駅向こうの天王寺なんだけど、ある程度歩いておかなきゃ距離感や方向感覚が成長しない。

 えと……こっちだな。

 地下鉄の階段を上がって、一度だけスマホで確認。
 地下鉄の出口を間違えると、うっかり南北を間違えて反対側に行ってしまう。
 方角を見定めて歩きはじめると、押しボタン式の横断歩道でお婆さんがオロオロしている。押しボタン式というのは青の時間が短い。きっと渡るきっかけを失ってテンパってるんだ!
「お婆さん、おぶさって!」
 ちょうど信号が青になったので、わたしはしゃがんでオンブするようにお婆さんを促した。
「行きますよーーーーー!」
 四車線を跨いでいる横断歩道を、お婆さんをおんぶして、小走りで渡る。
 信号待ちしている車の運ちゃんが、微笑ましそうに笑っているのがこそばゆい。

 美少女がお婆さんを助ける爽やかな夏の一コマ! うん、絵になるだろうなあ……なんて妄想してしまう。

「はい、お婆ちゃん、渡れましたよ!」
 吹き出す汗も清々しい。
「あのなあ……さっき苦労して、あっちに渡ったとこやねんがな」
「え、えーーー!?」
「もー、きょうびの若いもんは」
 で、押しボタンを押して、次の青で渡りなおした。

 当然凹む。

「ごめん、遅くなっちゃった!」
 天王寺公園の前で待っていた瑠美奈に謝る。
「どないしたんよ?」
「いや、実はね……」
 遅れた理由を言うと、笑い声がステレオになった。
 いっしょに待ちをきっていた藤吉が瑠美奈といっしょになって笑っている。
「もーー、なによ二人して!」
「あのお婆ちゃんは有名人でな……」

 この界隈では有名なお婆ちゃんで、若い者をおちょくっては喜んでいるお滝婆さんということだった。

 もーーーーー! 大阪って嫌いだーーーーーー!

 

主な登場人物

 敷島絶子    日本橋高校二年生 あだ名はぜっさん
 加藤瑠美奈   日本橋高校二年生 演劇部次期部長
 牧野卓司    広島水瀬高校二年生
 藤吉大樹    クラスの男子 大樹ではなく藤吉(とうきち)と呼ばれる
 妻鹿先生    絶子たちの担任
 毒島恵子    日本橋高校二年生でメイド喫茶ホワイトピナフォーの神メイド

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ポナの季節・17『チイニイの乃木坂講師初日』

2020-08-28 06:41:15 | 小説6

・17
『チイニイの乃木坂講師初日』
        


ポナとは:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとった新子が自分で付けたあだ名



 ポナの世田谷女学院は土日は休みだけど、乃木坂学院は土曜日でも授業がある。私学としては乃木坂の方が多数派だ。

 みなみはポナが乃木坂でなく世田谷を選んだのは、そのせいだと思っている。ポナは、ただチイネエのお下がりの制服が嫌だっただけなのだが、親友でも、そこのところは分かってもらえない。

――いいなあ、ポナは土曜が休みで。こちとら朝から大嫌いな現社の椋梨だぜ!――

 ポナは、このメールで起こされた。
「チェ、もうちょっと寝てようと思ったのに……」

――人生ヤナこと半分、残り半分の90%はど-でもいいこと。素敵なことって、その10%もないよ――

 と、教訓じみたことを返事して、再びベッドに。

「起立!」の掛け声で、アレっと、みなみは思った。
 朝礼に、担任の他に、もう一人知らない男の人がいたからだ。
「ええ、現社の椋梨先生が病気でしばらく休まれます。その間代わりに教えていただく寺沢先生です。自己紹介とかは、授業が始まってからということで、今日の連絡……」
 担任の事務的な連絡が終わると、とたんに一時間目開始の鐘が鳴った。

 また起立・礼のやり直し。

「初めまして。しばらく椋梨先生のピンチヒッターをやる寺沢です。よろしく」
 ポナと同じ苗字だったが、まさかポナのアニキだとは思わなかった。いかにも先生然としたダサさい見てくれに、これはハズレとクラスの大半が思った。


A   <――――>


B   >――――<


 孝史は、いきなり上の図を書いて、いきなり質問した。
「AとBの真ん中の直線、どっちが長い?」
 二択問題だ。Aが長い、Bが長い。ほとんどがBに手を挙げた。

 孝史は両方の<と>を消した。
 あれ?……とたんにAとBは同じ長さになった。まるでマジックだ。
「これ、錯視って言うんだ。<や>が付くことで真ん中の線の長さが変わって見える。そういうと……ほら、みんな分かった顔になるだろ」
「う~ん」
 みなみは、他のクラスメートといっしょに唸った。
「理解できるだろ。ところが小学校の低学年に見せると理解できない、最後まで首を捻る子がほとんどだ。しかし、君たちは分かった。これで小学生よりは賢いということが実証できた!」
 みんなから笑い声がもれた。
「世の中のことって、みんなこうなんだ。正しいことに<とか>が付くことで、実際とは違うものに見えたり思えたりする。例えば橋下徹という政治家がいる。この人にはカギカッコがついている。<か>は分からないし、君たちに言うべきでもない」
 孝史は、橋下徹の三枚の写真を貼った。タレント弁護士時代、知事時代、大阪都構想が大阪市民からNOを突き付けられた時。
「同じ人間とは思えないくらい違って見える。この人は、おそらくこのままでは終わらない。君たちが大人になったとき、また判断を迫られるだろう。オレの授業は、そういう世の中や人間に付いている<による錯視を見抜く力を付けることだ。じゃ、ボチボチがんばろうか」

 みなみを始め、クラスの者たちの孝史への認識は百八十度変わった。

――現社の新しい先生大当たり! 苗字はポナと同じ寺沢っていうんだよ!――

 ゲゲゲ…………

 メールを見たポナは言葉も無かった。


※ ポナの家族構成と主な知り合い


父     寺沢達孝(59歳)   定年間近の高校教師
母     寺沢豊子(49歳)   父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男    寺沢達幸(30歳)   海上自衛隊 一等海尉
次男    寺沢孝史(28歳)   元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女    寺沢優奈(26歳)   横浜中央署の女性警官
次女    寺沢優里(19歳)   城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女    寺沢新子(15歳)   世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ    寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。

高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜  ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀  ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長候補


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かの世界この世界:54『早朝の四号』

2020-08-28 06:15:00 | 小説5

かの世界この世界:54     

『早朝の四号』     

 

 

 朝の諸々の音で目が覚めた。     IV号戦車E型

 

 子どもたちのさんざめき、キッチンでお湯が沸いて食器を並べる音、古びた床の軋みと軋ませている足音、野鳥のさえずり、微かな瀬音……それらは騒音ではなく、朝の微睡みをいやますような心地よさがあった。遠い子どものころ、ひょっとしたらわたしが、いまのわたしであるもっと前のわたしであったころに田舎の祖父母の家で目覚めた時のような安堵感のある諸々の音。

 その優しい音たちに、もう一つの聞き慣れた音が混じって来た。

 キュロキュロキュロキュロ……

 二号ではない、三号……四号か……?

 四号の履帯の音であると気づくと同時に、一気に現実に戻った。

 パンツァージャケットを掴むと片方袖を通しただけで庭に出た。

 子どもたちも二人の先生も出ていたが、上り坂に差し掛かった四号に目を奪われて、お早うの挨拶も返ってこない。

「グニが四号で追いかけてきました」

「グニさんが?」

 村のあちこちに散らばっている赤さびた戦車の残骸の中を生きた戦車が通ると豆戦車の二号でも逞しく見えるが、二号よりも二回りも大きな四号は神がかって見えるほどだ。

 四号がゲートから入ってくると、子どもたちが一斉に駆け寄る。

 わーー! おっきい! つよそー! 昨日のよりかっくいい!

 事故が起こってはいけないので、四号はゲートを入っていくらも進まないところで停車した。

 むろん先生たちや、いつのまにか混じって来たブリとケイトも制止しているんだけども、言うことを聞くような子たちじゃない。

 ガチャリ

 砲塔のキューポラではなくて、一段下のドライバーズハッチが開いた。

「トール元帥のご指示で伺いました、元帥副官のタングニョーストです。早朝からお騒がせして申し訳ありません」

 院長先生への挨拶が終わると、申し訳なさそうな顔で近づいてきた。

「元帥にバレてしまいましてね、わたしが二号を回したことが」

 まさか、二号を取り上げて、ここからは歩いて行けってか……。

「二号では力不足だろうとおっしゃって、急きょ四号を持ってきた次第です」

 

 四号は重量で二号の三倍近くあり、武装が優れているだけでなく、居住性も段違い。例えば、二号の出入りは砲塔のキューポラ一か所だけだが、四号は定員五人に対して一つづつのハッチがある。走破性にも優れ、整備も簡単だ。

「ちょうどいいわ、四号のタングニョーストさんもいっしょに朝ごはんにしましょう。今朝は水も豊富なので、パンも柔らかいし、スープも付けたわよ」

 子どもたちの目が輝く。好奇心より食欲が優先されるのは、やっぱり、シュタインドルフの厳しさなのかもしれない。

「で、グニは帰りどうするんだ?」

「二号に乗って帰るつもりだ」

 グリもわたしも順当な考えだと思ったが、ブリが飛躍したことを思いつてしまった。

 

「ね、二号のエンジンを外してジェネレーターにすればポンプが生き返るんじゃない!?」

 

 先生たちは遠慮気味に、子どもたちは、とても無邪気に――それがいい!――と思った。

 そのことと、例の子どもを一人連れて行くことで、事態は二転三転することになった。

 

☆ ステータス

 HP:2000 MP:1000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー

 持ち物:ポーション・25 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル

 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)

 

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫

 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる

 ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘

 グリ(タングリス)   トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い

  中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長

  志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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