大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・堕天使マヤ・第三章 遍路歴程・16『「し」んだいしゃ・2』

2019-01-31 15:22:17 | ノベル

堕天使マヤ・第三章 遍路歴程・16
『「し」んだいしゃ・2』
        

 

 

 閉じ込められてしまった。

 

 寝台車なのだから寝ていればいいのだろうが、一方的に閉じ込められるのは面白くない。

 マヤ一人だけなら抜けられないことも無いのだが、閉じ込めるということは出て来て欲しくない事情があるのだろう。

 わざわざ出て行ってもめ事に巻き込まれるのもご免だし、恵美の顔を見てため息一つついてシートに腰掛ける。

「次の駅までこのままなのかなあ」

 上目遣いに恵美がこぼす。

「さっさと寝ようか」

「なんだかつまらない。高級そうな寝台車だからさ、ちょっと探検とかしてみたくない?」

 ちょっと意外な気がした。

 出会ってからこっち、マヤの言う通りに付いてきた恵美、自分の意思を言うのは珍しい。少し突っ込んでみたくなった。

「どんなところを探検したい?」

「そりゃ、寝台特急なんだからさ、特等車とかあるんじゃない? お客さんが起きてるようなら『ちょっと見せてください』とかさ。展望デッキとか付いてりかもしれないし」

「なるほど」

 探検というから、あのことに気づいているのかと思ったが、そうではないようだ。

 

「スマホのCMでやってたじゃん、オリエント急行みたいに豪華な寝台車でさ。そうそう、食堂車とかもゴージャスそうじゃない!」

 食堂車と言ったとたんに恵美のお腹が鳴った。健康なやつだ。

「あ~~~~「こ」の寺町でお味噌汁頂いてからなにも食べてないよう……」

 驚いた、恵美と旅をするようになって食べ物を口にしたのは「こ」の寺町の味噌汁だけなのだ。マヤと旅をしている限り進んで食べる必要は無いのだ。

「食堂車でどんなものが食べたい?」

「そりゃ、おしゃれなものでしょ。フレンチとかイタリアンとか! ああ、でもさ、焼き魚にとかもいいかも……」

 ピ

 電子音がしたかと思うと、進行方向の壁にオレンジ色のランプが灯った。

「なんだろ?」

「ランプに触れてごらん」

 恵美が指先で触れると、ランプの下がテレビの画面ほどに開いて二人分の食事が出てきた。

 フレンチとイタリアンと焼き魚という注文通りのメニューだ。

「わー、すごいすごい!」

「思い浮かべたものが出てくるようだな」

「あ、でも、オデンが付いてない」

 すると取り出し口の所にテロップが現れた。

――オーバーカロリーになりますのでオデンは割愛しました――

「健康にも気をつかってくれるようだな」

 一口食べて恵美は、とても嬉しそうな顔になった。恵美にあう味付けになっているようで、瞬くうちに平らげた。

「……食後に言うのもなんだけど、閉じ込められたということは……お手洗いにもいけないんだよね」

「どうだろ? お手洗いって言ってみたらどうだ」

「あ、えと……お手洗い」

 すると、窓側の壁に『Water Closet』の表示が現れた。

「なにこれ?」

「ちょっと古風な表示だな」

 すると「restroom」に変わった、恵美がキョトンとしていると「化粧室」に変わって、やっと恵美も納得した。

「ちょっと行ってくる」

 恵美は「化粧室」の中に入っていった……。

 

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高校ライトノベル・🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・25『災難だ!』

2019-01-31 06:57:09 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい! 

25『災難だ!』


 災難だ!

 面と向かって「でも、この次こんなことがあったら、放っといて。一緒に走ってる女子もいるから、百戸くんに救けてもらわなくても……ね」 
 陰に回って「デブって……キモ……」とまで言った三好紀香を救けてしまったのだ。
 お地蔵様の後ろで死んだようにへばっている姿を見ては放ってはおけない。
 そいで背中にオンブして、とたんにゲロをぶちまけられた。
 首筋にはダイレクトに、背中はジャージの上からだけど、直ぐにジャージを通して冷えたゲロのジトジトが伝わる。

 しかし、放り出すわけにはいかない。

 校舎裏の角で時間を食ったので、持久走のドンケツは三好を背負ったオレだ。要保護者を遺棄することはできない。
 で、オレも災難だけど、救けてもらったデブの背中にゲロをぶちまけた無様な姿を、クラスメートたちの目に晒されることは、三好にとっても屈辱だろう。
 オレは正門に入ると、折よく学校に入ろうとしていた業者のボックスカーの後ろ、続いて、すぐ脇の守衛室の裏にまわり、すでにゴールした奴らの視線を受けないようにして保健室に向かった。

「あら、百戸君また……ウ!?」

 ドアを開けると、養護教諭の春奈先生が目を剥いた。背中の三好もオンブしているオレも、すさまじい姿のようだ。
「あとは任せて……と言っても、百戸君もジャージ脱いで、これに着替えて」
 オレの惨状を見かねて、春奈先生は保健室にある予備のジャージを渡してくれた。
「あの……こんな状態になったのは、秘密にしてやってもらえませんか。三好もいちおう女子ですから」
「うん、そのつもりでジャージ渡したの。さ、三好さんも着替えさせるから行ってちょうだい」

 体育の先生に報告した。

 三好を救助したことで、少しはオマケしてもらえるかと思ったが、着順表にはドンケツを意味する70という数字が書かれた。

 持久走が終わって、オレが三好を救けたことが広まった。
「百戸のやつ、紀香を狙ってたんじゃない?」
「そうだよ、二回目だしね」
「キモイよね」
「「「「「「「キモイ!キモイ!」」」」」」」
 などと女子たちがかまびすしかった。

 くそ、災難だ!!

 救けたのを後悔したが、女子たちのヒソヒソ話は、終礼が終わるころにはピタっと止んだ。止んでしまうと、災難と思っていた気持ちも冷めて、まあ、このことは忘れてしまおうと思った。
「「先輩、すごいですよ! 先輩はやっぱりデブの鑑です!」」
 野呂と沙紀が口をそろえて誉めそやすのを、這う這うの体で逃げ帰った。

――三好さんを救けたんだね  桜子――

 論評抜きのメールが桜子から来た。お友だちのカテゴリーぐらいには戻してくれるんだろうか?

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高校ライトノベル・🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・24『最後の持久走』

2019-01-30 06:16:57 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

24『最後の持久走』


――もう、ほっといて!――

 つれないメールが返って来た。
 肋骨にヒビが入って遅刻した桜子が「ここを触診された」と胸を示して、想像力旺盛なオレは、桜子のオッパイむき出しの上半身裸を思い浮かべた。
 で、不覚にも桜子の前で鼻血を垂らすという醜態を演じた。
「もう、最低のエロデブ!」と罵られ、やっと取り戻した『お友だち』のカテゴリーから外されそうなので、気配りのメールを打った。
 で、そのお返しが、ケンモホロロの――もう、ほっといて!――なのだった。
 元はといえば、おとつい国富川の土手で、先に『子どもスイッチ』が入って「よし、じゃあ走ってみよう!」と言ったのは桜子の方だ。
 しかし、そんな因果論は桜子には通じない。
 ここは隠忍自重して、桜子の機嫌が戻るのを待つしかない。

 そうなんだけどなあ……。

 そう思いながら、学校の外周を走っている。

 今日は年明けから始まった持久走の最終日。これが終われば、小学校の高学年から始まった持久走という労役から完全に開放される。
 三年生の体育には持久走は無いのだ。
 それまで、二回に一回は、旧演劇部の部室で中抜けのサボりをやっていたが、最後ぐらいは走っておこうと思う。
 マジメ教の信者になったわけじゃない。
 110キロの体重にもかかわらず完走したという実績を残しておきたかった。そうすれば、回りまわって桜子の耳に入り『お友だち』のステータスを取り戻し、あわよくば百戸桃斗の彼女という立ち位置に戻ってくれるかもしれない。そして訳もなくオレを応援してくれている野呂や沙紀たちの『デブの会』をガッカリさせることも無い。

 ……それは二周目の学校の裏側だった。

 学校の裏側は時代劇のロケにも使われる旧街道が通っていて、そこここに古い家並が残っている。
 お地蔵さんの祠を通り過ぎた時に、赤いジャージがうずくまっているのを発見した。
――あ、三好紀香――
 赤いジャージは、クラスの三好紀香。こないだも持久走の途中でひっくり返り、お姫様抱っこで保健室に運んでやった。純粋に救けなくっちゃという気持ちではなかった。三好を救ければ持久走をサボれるという下心があった。でも下心だけかと言うと、そうでもない。
 幾分かは「救けなきゃ」という、純粋なレスキューの気持ちもあった。で、このレスキューに対する三好の言葉は、こうだ。
「でも、この次こんなことがあったら、放っといて。一緒に走ってる女子もいるから、百戸くんに救けてもらわなくても……ね」だったし、女の子同士の内緒話では「デブって……キモ……」だった。

 一瞬目が合ったけど、三好はジト目で、すぐに祠の陰に身を移した。

――他の女子に救けてもらえ――

 背後にレベルマックスのジト目を感じながら角までダッシュ。ジト目というのはかなわない。昨日の桜子もそうだけど、女子って、どうして、あんな目で人を見るんだろう。
 批判的に人を見るのはかまわないとしても、ジト目はだめだ。あれは、言葉にすれば「きもい」と同じくらいに浅はかなステレオタイプで、フェミニストのオレには耐えられない。桜子の裸の胸を想像して鼻血するオレだが、女子に精神的に幼稚でグロテスクな顔をされるのは願い下げだ。

 ダッシュがいけなかった。

 角を曲がったところで走れなくなってしまった。
 ゼーゼー息をついていると、後続の生徒が何人も追い越していく。その追い越し組の中に三好を背負っている者はいなかった。
――だいじょうぶか、三好?――
 戻ってみると、お地蔵様の祠の裏。真っ青な顔で三好がひっくり返っている。
 お姫様抱っこをする体力がないので、深呼吸して息を整えてから三好をおんぶした。
「がんばれ、すぐに保健室に連れて行ってやるから!」
 意識もうろうな三好は、微かに「ウ……」と言った後、様子がおかしくなった。
「ゲボ!」っというと、オレの首に生温かくドロっとしたものが吐き出された……。
  

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高校ライトノベル・堕天使マヤ・第三章 遍路歴程・15『「し」んだいしゃ・1』

2019-01-29 14:04:06 | ノベル

堕天使マヤ・第三章 遍路歴程・15
『「し」んだいしゃ・1』
        

 

 

 いつもとちがう……

 

 列車に圧倒されて恵美が呟くように言った。

 十二両連結のそれは、濃紺の車体もさることながら、並の列車よりも背が高くて、ホームに入ってきた時の威圧感はベルリンの壁の前に立ったようだった。

 どうやら寝台車だ。

 鉄道博物館の展示車両のように静かだ……微かにコンプレッサーやベントの開閉音はするのだけども、とても小さい音だ。

 夕暮れ間近とはいえ、乗客みんなが就寝するには早すぎる。

――ご乗車ありがとうございます、この列車は18:15分発車の○○行き寝台車でございます。お手元の寝台特急券で座席番号をご確認のうえお席におつきくださいませ。なお、お休みになられているお客様がいらっしゃいますので車内放送はこれにて終了させていただきます。ご用の方は十三両目の車掌室までお越し願います――

 車内放送は、息をひそめるくらいに小さな声だった。

 ま、しかし、車内放送というのは定型文なので、乗った列車がなんなのかが分かっていれば聞かなくても分かる。

「特急寝台券て……」

 心細そうに恵美が振り返る。

「ポケットを探ってみ」

 ……あった。

 

 ガックン

 

 唐突に列車が動き出した。勢いで恵美が倒れ込んでくる。

 抱きかかえるようにして支えてやる。当たり前だが、服を通して恵美の温もりが伝わってくる。

 わたしに百合の趣味は無いが、いつになく、この温もりが愛おしい。

 十数秒、そのままでいると、わたしの方が恥ずかしくなってきて、恵美を引き剥がす。

「さ、席に着こう」

 寝台特急券には四号車堕天使・1、恵美のは堕天使・2とある。

「わたし、堕天使なの?」

「わたしの相棒だからだろう」

「ふふ、相棒なんだ(n*´ω`*n)」

「喜ぶところじゃない、チケットの便宜上の表現だ」

「わたしって、寝台車初めてなの、すごいね、通路が端っこに寄ってるんだ!」

「これが普通だ」

「マヤさんには普通なんだろうけど、わたし的には新鮮なんだよ~🎵」

「あんまり喋るな」

「ハ、ハイ!」

「声大きい!」

 

 お静かに願います

 

 四号車めざしてデッキに出たところで声を掛けられた。

 白衣の老医者が怖い顔で睨んでいった。

「なんだ、あいつ……」

「お客さん? ま、静かにと言う注意はあってるんだから、静かにいこ」

 

 四号車はコンパートメント(個室)になっていた。

 

「カッコいい、これならゆっくり休めるよ~🎵」

 堕天使と書かれたコンパートメントに入る。

「わ~~~~~!」

 凄かった。

 乗ったことは無いけど、オリエント急行というのはこういう感じなんじゃないかと思うくらいにシックで豪華だ。

 

 カチャリ

 

 背後で音がしたかと思うと、コンパートメントの外から鍵を掛けられてしまった!

 

 

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高校ライトノベル・🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・23『桜子の肋骨』

2019-01-29 06:40:41 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

23『桜子の肋骨』


 食堂へ行こうとして階段を下りたところで桜子に会った。

 カバンをぶら下げて、首にマフラーを巻いている。
「なんだ、いま来たところか?」
「桃斗のせいよ」
 ジト目の桜子は怖い。
「え、オレ……?」
「肋骨にヒビが入ってた」
「あ…………」
 きのう国富川の土手を歩いていて、オレも桜子も『子どもスイッチ』が入ってしまい、土手道を100メートルほどダッシュした。で、よろけてしまって、二人そろって土手下に転落。桜子はオレの下になって、瞬間気絶した。
 元気にプリプリしていたので、なんともないと思っていた。
「110キロが被さってきたら、瞬間300キロぐらいの衝撃があるんだって! 死ぬかと思ったけど、ほんと、そのとおりだった!」
「CTとか撮ったのか?」
 八瀬が顔を曇らせて聞いた。
「ううん、レントゲンと触診」
「ショクシン?」
「お医者さんが触んの、ここんとこにバシっとヒビ」
 桜子は、自分で右の胸を示した。
「触った……」
 桜子の裸の胸が思い浮かんで、ドキッとする。
「変なこと想像したでしょ!」
「いや、そんな……ウ!」
 鼻血が垂れるのが自分でも分かった。
「もう、サイッテーのエロデブ!」

 その昼の校内放送、桜子のアナウンスには棘があった。
「こういう桜子もクールでいいよな」
 デザ-トのラーメンをすすりながら、八瀬が呟く。他の男子にも聞き耳を立てている者がいる。桜子の人気はすごい。オレは桜子のお友だちレベルからも陥落したような気がした。
「「先輩、がんばってくださいね!」」
 デブの会の沙紀が、友だちを連れ、オレの前に座ってエールを送ってくれる。
「先輩、これ食べて元気出してください!」
 野呂がブタまん大を差し出す。
「あ、すまんな……」
 近頃は、デザートのラーメンもひかえている。しかし、後輩たちの円らな瞳に、ダイエットの決心は脆くも潰えていく……。
 

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高校ライトノベル・🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・22『子どもスイッチ』

2019-01-28 07:19:45 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

22『子どもスイッチ』

「……もう満開なんだ」

 横を歩いている桜子が、ポツリと言った。
「ほんとだ……」
「感動のない言い方ね……」
 八瀬の家からの帰り道、思い立って国富川の土手道を歩いている。土手道の梅が満開になっていたのだ。
 
 思い立ったと言っても、どちらかが提案して「そうしよう」と言ったわけではない。気障な言い方をすれば阿吽の呼吸だ。お互いの歩調や視線の向きを察して、ちょっと遠回りになる土手道に来た。考えて見たら、子どものころ駆けっこをしたコースだ。あのころは、桜子は、いつもドンケツだった。

「……妻鹿さんて、亡くなっていたのね」
「うん、だから、妻鹿さんの代で演劇部潰れたんだな」
 八瀬は二日かけて『最新の鞄やろー!』の言葉を残した妻鹿というおデブのことを調べていた。
『最新の鞄やろー!』というナゾは『審査員のバカヤロー!』という意味だった。
 狭い主観と思い込みで「作品に血が通っていない、思考回路、行動原理が、高校生のそれではない」と切り捨てられた不満……というよりは、情けなさと、高校演劇への危機感の発露であるように思えた。
「想像だけど、はっきり『審査員のバカヤロー!』とは言えない状況だったんだろうな」
「そうでしょうね……もう、うちの県で残ってる演劇部って20校切ってるのよね」
「もう隣接の県と合同でなきゃ、コンクールもできないってか」
 この情報は、八瀬が調べてくれた。妻鹿さんは、そういうことを見越して想いを残していた。高校演劇という言葉はハイスクールドラマと置き換えられていたので、ネットの中で埋もれていたということだった。
「素敵な人ね、妻鹿さんて……あたしも、あのころの妻鹿さんと同じ二年生だけど、あんなにエキセントリックな生き方はできないなあ」
「デブでも?」
「うん……て、桃斗のデブを許してるわけじやないからね。今の桃斗見てると友だち以上には戻れないよ……傷ついた?」
「デブだって、デリケートなんだぞ」
「ハハハ」
 桜子が遠慮なく笑う。梅の並木が途切れ、まだ蕾も硬い桜の並木にさしかかる。

「今年の桜は早そうだな」
「追いつけない……」

 笑顔を萎ませて桜子が呟く。春からの転校しなければならない運命を受け入れかねているのが分かる。桜子も懸命なんだ。
「そうだよ、桜子は、いつもドンケツだった!」
「なによ、小学校のころでしょ!」
「さて、どうかな?」
「よし、じゃあ走ってみよう!」
「い、今か!?」
「そうよ、思い知らせてやる!」
 そういうと、桜子は陸上選手のように、スタートの姿勢をとった。
「よーい……ドン!」
 オレも桜子も子どもスイッチが入って、鬼のように走った。
 デブの割には体力は落ちていない、50メートルほどはいい勝負だ……と、思ったら。
「ここから本気よ!」
 桜子がダッシュ! そうはさせじと速度を上げたところで、二人の足が絡んだ。
「「ウワッ!!」」
 景色が回転して、土手を絡みながら転げ落ちた。

 身体の下の柔らかい感触で気が付いた。桜子に重なるようにして土手の下まで転げ落ちていた。

「おい、桜子!」
「う~ん……」
 一声唸って、桜子の意識がもどった。
「だいじょうぶか?」
「もう……死ぬかと思った! なんとかしなさいよ! クソデブ!」

 デブの上にクソを付けることはないだろう……。
 


 

🍑・主な登場人物

  百戸  桃斗……体重110キロの高校生

  百戸  佐江……桃斗の母、桃斗を連れて十六年前に信二と再婚

  百戸  信二……桃斗の父、母とは再婚なので、桃斗と血の繋がりは無い

  百戸  桃 ……信二と佐江の間に生まれた、桃斗の妹 去年の春に死んでいる

  百戸  信子……桃斗の祖母 信二の母

  八瀬  竜馬……桃斗の親友

  外村  桜子……桃斗の元カノ 桃斗が90キロを超えた時に絶交を言い渡した

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高校ライトノベル・堕天使マヤ・第三章 遍路歴程・14『「さ」すけ村・3』

2019-01-27 16:46:50 | ノベル

堕天使マヤ・第三章 遍路歴程・14
『「さ」すけ村・3』
        

 

 

 見破ってしまったんだ……

 

 目が合ったそいつは、少し照れたように鼻の頭を掻いた。

 ポリポリと擬音を入れたくなるような愛嬌がある、それでいて、すごい敏捷さを秘めたような油断のならない若者だった。

 で、真っ黒な忍者衣装に身を固めている。

「さすけ村の観光課の人ね?」

「ええ、まあ……正確には総務課観光係です。観光だけで課を構成できるほどの村じゃないもんで」

 そう言うと、懐からIDを出して首からぶら下げた。

「らしく見える」

「アハハ、これ掛けてないと、ただのコスプレだから(*ノωノ)」

 

 IDには『さすけ村 総務課観光係 主査 猿飛佐助』とあった。

 

「へえ、猿飛佐助さんなんだ!」

 恵美が単純に喜んだ。

「ハハ、本名じゃないわよ、でしょ?」

「かなわないなあ、 こうするとね……」

 指でひと撫ですると西村慎吾という名前に変わった。

「そういうところで雰囲気を出しているのね」

「はい、名前を変えても費用は掛かりませんからね」

「でも、えらいわね。お若いのに主査なんだ。ふつう、その年なら主事くらいでしょ」

「え、どう違うの主査と主事?」

「係長と平社員くらい」

「いや、お恥ずかしい。観光係にまわされた時に主査になったんです」

「そうなんだ」

 役職を一つ上げても大した出費にはならない。でも、本人のやる気とかモチベーションは上がるだろうから、うまいやり方だと思うマヤだ。

 

 もう、こんなところに!

 

 声がしたかと思うと、赤い忍者衣装の女の子が現れた。

「あ、すみれさん」

 西村君が頭を掻く。

「どうも起こしなさいませ、わたし下忍の猿飛すみれと申します。だめじゃない、IDの肩書は忍者でなくちゃ」

 ヒョイと西村君のIDを掴むと、ひと撫でする。肩書が中忍と変わった。

「SASUKEを突破した人がいると言うので駆けつけてきたんです。女子高生さんなのでビックリしました!」

「まぐれです、ね、恵美ちゃん」

「え、あ、ですよね」

「本格的なバーチャル体験型の忍者村を目指して整備中なんです。ほとんど出来あがってるんですけど総務省とか県の観光局とかの手続きがありましてね。でも、こうやって突破されたんですから特別に体験していただきます。佐助さん、それを……」

「はい、どうぞ、このゴーグルを掛けてください」

 それはVRのヘッドマウントディスプレーのようなものだ。なるほど体験型というのはVRだったんだと納得する二人。

「セットアップされるまでは砂時計が表示されます、それが終わったらVR表示になりますので、お掛けになってお待ちください」

 言われた通りゴーグルを着けると砂時計が現れる、十数秒たったであろうか、3DのVR映像が現れた。

「……なんだか駅のホームみたい。すごいね、めちゃくちゃリアル!」

「あ……しまった」

 そう言うと、マヤはゴーグルを外した。恵美の肩を叩いて――外してみ――と促す。

「え、あ……どういうこと?」

 ゴーグルを外しても、そこは駅だった。表示は『さすけ村』となっており、その横に時刻表。

「もうすぐ列車が来る!」

「ち、今日の最終列車ってか」

「乗る以外にないね……」

 気が付くと、さすけ村に入って憶えているのは西村君の佐助と猿飛すみれだけだった。他の風景だとかは夢の中のそれのようにおぼろになって思い出せない。汽笛が鳴って列車が入ってきたときには、それさえ忘れてしまった二人だった。

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高校ライトノベル・🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・21『最新の鞄やろー!・5』

2019-01-27 06:07:37 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

21『最新の鞄やろー!・5』  


 作品に血が通っていない、思考回路、行動原理が、高校生のそれではない。

 死亡宣告のような一文がパソコンの画面に浮かんでいた。
「これは……?」
「なんなのよ?」
 オレと桜子の言葉が重なった。

「これが『最新の鞄やろー!』に繋がるんだけど、まずは、話を聞け」

 気だるそうに脚を組み直して八瀬が言う。どうやら体調が悪いのは本当のようだ。
「妻鹿悦子の『最新の鞄やろー!』は、県大会じゃ最優秀だったが、その上の地方大会じゃ選外になってる。で、作品に血が通っていない以下が、その時の審査評だ」
「え、ちょっとひどいんじゃ……ウ!」
 桜子は、紅茶を口に含んで固まってしまった。
「ちょっと渋すぎるんじゃ……」
「そうか?」
 八瀬は平気なようだ。で、オレが飲むと……やっぱり渋い。
「すまん、熱のせいで味覚が変になっている。入れ直してくる。地方大会の映像があるから観ていてくれ」
 八瀬がキッチンに立っている間に画像を観た。実上演では40分ほどあるようだが、10分ほどのダイジェストに編集されていた。
「……わ、すごい!」
 桜子もオレも身を乗り出した。悦子演ずる大山満代は下着姿で喚いている。高校生のそれはもちろん、それ以外の芝居も観たことないが、大人の芝居でも、こんな大胆なことはしないだろうと思った。悦子は下着姿であるばかりではなく、110キロのオレが親近感を覚えるほどのデブだった。
「でも、グロテスクじゃないわね……なんとも健康的で、素敵に傍若無人」
 観客は恥ずかしさと面白さが入り混じった笑い声をあげている。

 そして、次のシーンが衝撃的! なんと満代は素っ裸!!! 桜子は思わず両手で顔を覆った。

「よく見ろよ、ちゃんと肉襦袢を着てる」
 紅茶の代わりにお汁粉を持って八瀬が、静止画のアップにした……なるほど、首のところにウッスラとラインが出ている。
「照明と道具で大事なところは見えないように工夫している……観客のどよめきは本物だ」
 満代の行動は突拍子も無いが、青春そのものが、本人は真剣でも、他人には突拍子の無いもので、時に反感や顰蹙を買う。
 でも、妻鹿悦子というおデブには、そういう青春が、とても愛おしいものだというメッセージがしっかりとある。
 顔を伏せていた桜子も、最後には涙をにじませながら笑っている。

「これが、ただセンセーショナルなウケ狙いで『作品に血が通っていない、思考回路、行動原理が、高校生のそれではない』になるらしい」

 お汁粉を啜りながら、八瀬が締めくくった。
「で、最新の鞄やろー!は、どうなるんだ?」
「ああ、ここ」
 八瀬がジャンプさせた映像は審査発表のところで、審査員が国富高校の評を言い終わったところで声が入っていた。

――最新の鞄やろー!――

「これを平がなにし、順序を変える……」
 八瀬は、一枚に一文字ずつ書いたメモ用紙の順番を入れ替えた。

 さ・い・し・ん・の・か・ば・ん・や・ろ・ー・!

 し・ん・さ・い・ん・の・ば・か・や・ろ・ー・!

 審査員のバカヤロー!

「「なるほどー!」」

 オレと桜子の声が揃った……が、八瀬は深呼吸して、話を続けた。


 

🍑・主な登場人物

  百戸  桃斗……体重110キロの高校生

  百戸  佐江……桃斗の母、桃斗を連れて十六年前に信二と再婚

  百戸  信二……桃斗の父、母とは再婚なので、桃斗と血の繋がりは無い

  百戸  桃 ……信二と佐江の間に生まれた、桃斗の妹 去年の春に死んでいる

  百戸  信子……桃斗の祖母 信二の母

  八瀬  竜馬……桃斗の親友

  外村  桜子……桃斗の元カノ 桃斗が90キロを超えた時に絶交を言い渡した

 

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高校ライトノベル・🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・20『最新の鞄やろー!・4』

2019-01-26 06:21:42 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

20『最新の鞄やろー!・3』  



 めずらしく八瀬が休んでいる。

 休んでいるからと言って、すぐに連絡したりはしない。なんか言えない事情があるのかも……ってか、男友達ってのはこんなもんだろう。

「桃斗、すごかった!」

 一時間目が終わるやいなや、桜子が飛び込んできて、オレの鼻先で叫ぶ。文字通り鼻先なんで、桜子の良い匂いがホワッとして、クラっというかムラっというか……。こういうことは桜子自身よく知っているので、不用意にこんな距離を取ることは、めったにない。それどころか、授業直後の人の目がいっぱいの教室に来ることなどあり得ない。

 だから、この「すごかった!」は、AKBの総選挙で指原莉乃が一等賞になって以来だ。

「だからね……」
 そこまで言って、ようやくクラスのみんなの視線に気づいて、廊下に引っ張っていかれた。
 ミスコンをやったら優勝間違いなしの女生徒が、学校一番のデブの手を引いていくのだ、目立たないわけがない。
「で、どうしたんだよ?」
 屋上に向かう階段の踊り場で、やっと聞くことができた。
「『山のようなインナー(取り扱い注意)』よ、傑作だったわよ!」
 そこから始まって、ほとんど息もすることなく感想というよりは賞賛しまくった。

 山のような下着は、主人公の大山満代の不満と我慢の象徴で、学校へ行ったり友だちと関わっていく中でどんどん増えていく。日ごろは制服や私服で隠していて分からない。そして、ある日、服を着ることで本来の自分を隠していることに気付き、下着だけで学校に行く。
 当然、クラスメートも街の人間にも驚かれ「あいつはおかしい!」「狂ってる!」「露出狂!」などと騒がれ、迷惑防止条例で検挙される。その後「下着で出歩くことがいけないんだ!」と、先生やお巡りさんから言われる。満代は真剣に考えて「そうだ!」と膝を叩く。
 なんと、満代は素っ裸で学校に行くことにした!
 で、そんなことが許されるわけもなく、満代は猥褻物陳列罪で捕まり、家に閉じ込められ精神的な治療を受けることになる。瞬間しょげかえる満代だったが、山のようなインナーをSNSで公開。あっという間にネット社会で有名人になる……という話だ。

「で、この満代の役を演った妻鹿悦子さんは、写真で見た通りの体格なのよ」

 オレと桜子は、写真の妻鹿悦子を思い出した……あの台本であの体格、そして、あの底抜けに明るい笑顔。県大会で一等賞が取れるわけだ。

 そう感心して昼休み、休んでいた八瀬からメールがきた。

――「最新の鞄やろー!」の秘密が分かった。放課後、オレの家に来い!――

  

🍑・主な登場人物

  百戸  桃斗……体重110キロの高校生

  百戸  佐江……桃斗の母、桃斗を連れて十六年前に信二と再婚

  百戸  信二……桃斗の父、母とは再婚なので、桃斗と血の繋がりは無い

  百戸  桃 ……信二と佐江の間に生まれた、桃斗の妹 去年の春に死んでいる

  百戸  信子……桃斗の祖母 信二の母

  八瀬  竜馬……桃斗の親友

  外村  桜子……桃斗の元カノ 桃斗が90キロを超えた時に絶交を言い渡した

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高校ライトノベル・堕天使マヤ・第三章 遍路歴程・13『「さ」すけ村・2』

2019-01-25 11:46:11 | ノベル

堕天使マヤ・第三章 遍路歴程・13
『「さ」すけ村・2』
        

 

 

 無理です……

 

 恵美が怖気づいてしまった。

 仕方がないだろう、SASUKEのフルコースをコンプリートしなければ先へ進めないのだから。

「まあ、しばらく眺めていようよ」

 マヤは傍らの岩に腰掛け、すぐ横の岩をトンと叩いた。横に座れと言うことだ。

 座ってどうするんだという気持ちはあったが、マヤの圧に負けて、とりあえず腰を掛ける。

「えと……眺めて、どうするのかな……」

「座ってりゃ分かる」

「……ですか」

 

 しばらくすると、峠を越えてくる何人かの声が聞こえてきた。

 

「ほら、やってきた」

 声の主は、虚空蔵菩薩さんのところで十三参りを済ませた中坊たちだ。ほとんどの中坊はお参りしたことで満足したり納得したりしているが、やはり個性なんだろう。何パーセントかの中坊はさすけ村への道に気づいてやってきたのだ。「これは無理だ」と引き返す者がほとんどだが、数名の中坊が腕まくりをして靴ひもを締め直してチャレンジすることになった。

「知恵の信奉者が、なんで、こんな筋肉バカみたいなことを……」

「見ていれば分かるわ」

 体格の良い十人ほどがスタート台に並んだ。

 後から続いてきた者たちは、あちこちで見物を決め込んだり自分もやってみようかと並んだりする。

 MCをかって出る者も出てきて、ちょっとしたお祭り騒ぎになってしまった。

 

 ヨーーーーイ……スタート!

 

 お祭りが始まった。

 二人だけが難関の『そそり立つ壁』までこぎつけて、一人が成功して第二ステージへ進んだがクリフハンガーで失敗した。

 ギャラリーが悲鳴とも歓声ともつかぬ声をあげる。すると、その声に酔ったように次の十人がスタート台を目指した。

 結果的に百人近い中坊たちがチャレンジして、数人が怪我をして二人が救急車で搬送され、お祭りは終わった。

「だれもクリアーできなかったね」

「勢いでやっただけだからね」

「知恵の勢い?」

「うん、文殊菩薩さんは、こういうのが嫌だったんだよね……さ、行こうか」

「どこへ?」

「決まってる、さすけ村」

「無理だよ、こんなの」

「そこ、見てみ」

 マヤが指差した方にはスタッフオンリーと札とプラスチックのチェーンで通せんぼされた小道があった。

「いくよ」

「あ、だって」

 マヤはチェーンを外して入っていく、恵美はおっかなびっくりで続いた。

 

 小道を進んでいくと、SASUKEのコースを横に見ながら進むことになる。

 そしてビックリした!

 あれこれのコース設備が消えていくのだ。

 しまいには、SASUKEの設備は全部消えてしまって、ただの田舎道に変わってしまった。

「フフ、ただの3Dだったのよ」

「バーチャルだったの!?」

 

 小道がおしまいになると、前方に人の気配がした……。

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🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・19『最新の鞄やろー!・3』

2019-01-25 06:06:14 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

19『最新の鞄やろー!・3』  

 デブの演劇部員は妻鹿悦子という名前であることが分かった。

 一言コーナーの模造紙には、大山満世という役の名前でしか書かれていなかったので、日誌を読んで初めて分かった。
――三人……嗚呼、国富高校始まって以来の最少人数の演劇部! でも、だからこそ、きっと出来ることもあるはず!――
 日付を見ると二十年前。廃部寸前の心細さと、諦めないファイトが読み取れた。
――一人芝居でやるしかない。半葉(なかば)も小夜も役者で出て欲しいけど、無理は言えない。やっるっきゃないか!――
 悦子は苦労していたようだ。どうやら、いろんな苦労を一人でしょい込むタイプのようだ。
――あたしが一人芝居をやるしかない。デブ女の一人芝居……探せばきっとあるだろう! 探すぞ!――
 悦子は、ポジティブなデブのようだ。ガンバレという気持ちになってきた。
――そんな都合のいい本は、なかなか見つからない。でも希望は捨てない――
 がんばれ悦子! という気になる。
――『夕鶴』をデブのあたしがやる! ってどーよ?『まあ、こんなに痩せてしまって……』この台詞はウケると思う!――
 アイデアだ、捨て身で笑いを取ろうという気持ちは大絶賛されていい。
――やっぱ、半葉も小夜ものってこない。いろいろ理由は言うけど、『夕鶴』をやったら、二人とも役者で出なくちゃならない。役者で出るのが嫌なんだろう。無理は言えない、考えよう――
 こうまでして芝居をやりたいというのは、オレの理解を超えている。でも、悦子の頑張りで、先を読んでしまう。
――もう二週間探した。デブの一人芝居ってなかなかない。「一本刀土俵入り」なんてのはあったけど、男の芝居だ。それに、やっぱ高校生の心情とか問題を感じる芝居がしたいし――
 単にやりたいというだけではなくて、悦子さんにはコンセプトがあるようだ。

 それからは、しばらく日付だけで中身のないペ-ジが続く。

――デブでなきゃ、一人でもやれる芝居はある……デブであることが恨めしい。半葉も小夜も分かっているのか、昨日からクラブに来ない。なんときゃしなきゃ――
――ネットで同じような悩みの子を発見。長文だけど面白かった。まるで自分の事のよう……そっか! 自分のことを書けばいいんだ!――
 
 悦子さんは閃いたんだ!

――あたしには早合点なところと鈍いところが同居している。イイコちゃんブッテいるけど自分でも嫌になるところもある。デブなのに神経は細い。そういうところをありのままに……でも、単なる告白劇じゃ独りよがり、エンタメ性がいる。これは難問だ――

 それからの部活の様子は専門的すぎるので読み飛ばした。
 でも、苦労の末に『山のようなインナー(取り扱い注意)』が生まれたことは確かなようだ。

 稽古中は忙しいようで、稽古の内容など事務的なことしか書かれていなかった。
 ただ、県大会の日に一言だけ。

 最新の鞄やろー! とだけあった。

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高校ライトノベル・堕天使マヤ・第三章 遍路歴程・12『「さ」すけ村・1』

2019-01-24 09:18:41 | ノベル

堕天使マヤ・第三章 遍路歴程・12
『「さ」すけ村・1』
        

 

 

 ここも大概だけどお隣もね……

 

 味噌天神のお味噌汁を飲み干すと、ポツンとこぼす虚空蔵菩薩さんだ。

 厨房では菅原道真さんがマヤと同じような微笑みを浮かべている。

「さすけ村へは電車で行ったほうがいいかもしれない」

「どうしてですか?」

 さすけ村は味噌天神の裏手から峠を越えればすぐだ。駅まで戻って電車を待っていると一時間以上のロスになる。ロケーション的にも峠を周って行った方が面白いように思える。

「そうか、堕天使さんなんだ、大丈夫だよね」

 笑顔で訂正すると、道真さんといっしょにお店の前に幟を出し始めた。

――名物 知恵味噌ランチ――

 黄色地に朱色という食欲をそそりそうな幟が数十本立てられ、ポールの上の『味噌天神』の文字の横には『民芸レストラン』の文字が付けられて、文字通り幹線道路沿いなどにあるファミレスのようなしつらえになってきた。塀が胸の高さのところまで下がって来たかと思うとクレープ屋とたこ焼き屋とホットドッグ屋のカウンターが現れた。

 甘味噌クレープとか味噌たこ焼きとか味噌カツドッグとか、メニューだけ見たら引いてしまいそうだけど、下準備が終わっていたのだろう、じきにお味噌の焦げるいい匂いが漂い始めた。

「みそ汁はディスペンサーで無料サービスなんだ」

 これだけいい匂いがしていたら、よっぽどの味噌嫌いでなければ立ち寄るだろう。

「お味噌は知恵にいいんですよね?」

 自分が美味しくいただいたので、効能があるに違いないと恵美が聞く。

「知恵のご利益を半分にします」

「ええーー半分に!?」

「付きすぎた知恵は毒です、だから、ここに吸い寄せてご利益を半減させるんですよ」

「じゃあ……わたしの知恵も半減しちゃうんですか!? お参りとかしてないから、今ある知恵はデフォルトなんですけど!」

「それは大丈夫、半減は虚空蔵菩薩で得たものだけだから」

「そうなんだ、じゃ、行きますか!」

「ごちそうさまでした」

 

 お礼を言うと、二人は峠周りでさすけ村を目指すことにした。

 手入れの行き届いた森を抜けると、道はゆるやかな下り坂。どうやら峠を越えた。

「虚空蔵さんが言うほど大変じゃなかったね」

「ですね、あたしたちが丈夫になったのかな(^▽^)/」

 

――ここよりさすけ村――

 

 標識を過ぎてビックリした。

 SASUKEに出てきそうなスポーツエンタティンメントの設備がズラリと連結されて並んでいる。

 どうやら、これをクリヤしなければ村には入れてもらえないような雰囲気だった。

 

 

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高校ライトノベル・🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・18『最新の鞄やろー!・2』

2019-01-24 06:02:33 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

18『最新の鞄やろー!・2』  



 旧演劇部の部室にはロッカーがある。

 単なる隠れ家に使っていたので、ロッカーには興味は無かった。
 でも、『山のようなインナー(取り扱い注意)』という妙な芝居で、県大会で一位になっていたこと、小道具に山のような女物の下着を使っていたこと、そして「最新の鞄やろー!」という暗号に俄然興味がわいた。

 ロッカーの中には、まだ演劇部が存在していたころの台本や日誌が入っていた。

 その中から『山のようなインナー(取り扱い注意)』という台本と、県大会で一位になった年の日誌を取り出して部室を出た。
「ちょっと、息が詰まりそうだったわね!」
 部室を出ると、桜子は盛大に息を吐いて、制服の胸をパカパカやった。桜子ほどではないけど、オレも八瀬もうっすらと汗をかいていた。なんせ、軽のワンボックスカーほどしかない部室に三十分以上三人でいたのだ、軽い酸欠にもなる。
「四人分よ! 桃斗一人で二人分はあるでしょ!」
「百戸一人に、ほとんどの酸素吸いつくされたぜ」
 桜子も八瀬も容赦がない。

 桜子は台本を、八瀬は撮りまくった部室の写メを、オレはクラブ日誌を持って帰った。

 久々に三人揃って帰ろうということになった……とたんにメールが入ってきた。
「残念……二人で帰ってくれ」
「なんだ、彼女からか?」
「んなワケねーだろ! 親父だよ親父!」
 夜、三時間ほど空いたので、三人で食事をしようというメールだった。

 駅のホームは桜子と八瀬の向かい側になった。何とも寂しい。

 部室の中では、あれこれ探すのに夢中だったけど、ごく近くで桜子を感じていたことを思い出す。
――そういや、瞬間だけど桜子に触ったなあ――
 ロッカーを開ける時に、左の肘が、桜子の柔らかい胸に触れた。今になってドギマギする。
 気づくと、向かいの桜子と八瀬の姿が無い。電車の尻が遠ざかっていく。

 隣の駅の改札で、親父とお袋と待ち合わせ。

「新しい店を見つけたんだ、さ、行こう」
 親父は、そういうとスマホのナビを開いた。

 ナビに変わる寸前、一瞬マチウケ画面が見えた。
 桃の入学式、入学式の看板の前で撮った桃のアップ。葬式の日、桃の遺影に使ったやつだ。
 入学式では、いっぱい写真を撮った。一枚だけ、ちょっと実年齢より上に見えるのがあって、桃のお気に入りだった。
「高校生に見えるね!」
 桃は、その画像を細工して高校の制服にしてしまった。
「三年たったら、この制服だね!」
 喜んでいたけど、桃は、この制服を着ることなく、一か月後には帰らぬ人になってしまった。
「ちょっと、この子だれよ!?」
 一度マチウケを見られて、桜子に詰め寄られたことがる。
「スタイルもルックスも、良すぎ! ん? 組章……うちのクラス!? ちょっと桃斗!」
「それ、桃だよ」
 答えを言うと、桜子はビックリした。
「桃ちゃんて、美人になるよ! スタイルもイケて……あ、これはハメこみか!」
 そのあと桃に聞くと、桃は、こう言った。
「首から下は、桜子さんだよ」
 オレは、桜子と桃の両方を見直した。

 そんなことをポワポワ思っているうちに親父とのディナーが終わった。

「なかなか美味いフランス料理だった!」
「ハハ、桃斗は味オンチだなあ、今のはイタリア料理だぞ」
「ホホ、ほんと、この子ったら」
「アハハ」

 笑っておいたが、何を食べたか覚えていなかった……。

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高校ライトノベル・堕天使マヤ・第三章 遍路歴程・11『「こ」の寺町』

2019-01-23 08:38:28 | ノベル

堕天使マヤ・第三章 遍路歴程・11
『「こ」の寺町』
        

 

 列車は静かに「こ」の寺町駅についた。

 

「……なんか重い」

 恵美の呟きには「?」だったが、ホームに滑り込んで停車するまでの時間が長いので合点がいった。

 二両連結にしては停車するまでに時間がかかりすぎるのだ。なんだか、十両以上も連結されているようで、長いホームを目いっぱい使って、やっと停車した。それをブレーキがかかる前に読み取ったんだから恵美の感覚は鋭すぎるのかもしれない……思ったが、指摘すれば落ち込ませるだけなのだろうと、あいまいな微笑みを返すだけで済ませた。

 車内放送がされているようだが、マヤの車両には必要がないのかスピーカーは沈黙している。くぐもった車内放送は意味までは分からないが、なんだか注意事項を言っているように思えた。

 車内放送が終わって、やっとドアが開いた。

 連結した車両からどよめきが起こって、信じられないくらいの人たちが下りてくる。

 連結されていたのは十両以上もあって、全部で二十を超えるドアから一斉に出てくる……みんな若い……というか中学生だ!

「中坊列車?」

 恵美も小柄な女子高生だが、恵美よりも幼い制服姿の中坊たちがゾロゾロと改札に向かっていく。

「高校の入試でもあるのかなあ?」

「この子たち中三には見えないよ」

「ちょっと君たち、どこへ行くの?」

 赤いホッペの女子に聞く。赤ホッペは立ち止まりはしないが、それでも答えてくれた。

「十三参りです」

「十三参り?」

「はい、十三歳になったら虚空蔵菩薩さまにお参りに行くんです、虚空蔵菩薩さまは知恵とか記憶力を高めてくださって、勉強できるようにしてくださるんです。じゃ、いいですか」

 急いでいるんだろう、ペコリとお辞儀すると、急いで十三参りの行進の列に混じっていった。

 ほんの三十秒ほどでホームは人気が無くなり、喧騒は駅舎の向こうの参詣道に移っていった。

 

 プシューーー

 

 列車が一息ついたような音をさせて、最後尾の車両から車掌さんが下りてきた。

「あなたたちは、十三参りにはいかないんですか?」

「ハハ、十三歳はとっくに過ぎちゃったから」

「ああ、そうですか」

 声にピンときた。

「車内放送してたのは車掌さんですね?」

「ええ、お参りに着いての注意事項をね……」

「注意事項?」

「え、まあ、よく考えてからお参りしてください的な」

 あいまいな言い方には、なんだか諦めの響きがあるように感じる。

「次の列車は三時間後です。では、じぶんはこれで」

 車掌さんは制服に相応しい実直な足どりで行ってしまった。

 

 出発まで「こ」の寺町を歩く。

 

 一休さんのような小僧さんと目が合った。

「あなたは……」

 一発で正体が分かるマヤだ。

「ハハ、堕天使さんにかかっては仕方がないですね」

「えと、ハナマルキのCMキャラ?」

 恵美が指を立てる。恵美が得意になった時のポーズだ。トンチンカンな答えだが無理もない、小僧さんは味噌屋の前に立っていたのだから。

「虚空蔵菩薩さんよ」

「え、あ、失礼しました!」

「持て余してるんですね」

「ハハ、知恵とか記憶力とかだけ伸びてもねえ……しかし、授けないわけにもいかなくて……仕事は分身に任せてあります。そうだ、ここで会ったのも何かの縁です、この店でお味噌汁でもいかがですか」

 味噌屋さんにはイートインがあって、お味噌汁がいただけるようだ。

「九州の味噌天神さんが出していらっしゃるんですよ、なかなかの味です」

 

 店内には優しそうなおじさんが店番、一杯のお味噌汁にホッとしたマヤと恵美。

 ふと、おじさんの横顔が菅原道真さんに見えたが、黙って微笑むだけにしておいたマヤでありました。

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高校ライトノベル・🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!・17『最新の鞄やろー!・1』

2019-01-23 06:36:28 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

17『最新の鞄やろー!・1』  


「だから、これは違うんだって……」

 何度言っても通じない。
 仕方がない、夕方の人気のない校舎。その廊下で意味ありげなゴミ袋とブラジャーを持っていたら変質者と思われる。
 だから桜子は逃げた。で、駆け下りた一階でつまづいて、追いかけたオレもつまづいて、倒れた桜子を襲うような格好で覆いかぶさってしまった。
 桜子一人の誤解を解くのも大変なのに、通りがかった八瀬にも見られて、大誤解されてしまう。
 やっと撚りが戻りかけている彼女と親友を一度に失うところだ。

「とにかく! とにかく! とにかく! 現場を見てくれよ!!」

 目玉が飛び出しそうに、喉がひっくりかりそうなぐらいに叫んで、なんとか階段下の旧演劇部の部室まで、二人を連れて行く。
「ほら、こんな状態なんだ!」
「そうだったのか………」
「そうだったのね………」
 期待していた反応だが、トーンが違う。
「重症だぜ、百戸……」
 桜子は、ショックで声も出ないようだ。
「下着泥棒やって、こんなところに隠していたのか……」
 親友の目は、もう怒ってはいなかったが、覚せい剤使用の現場を見たような情けなさだった。
「違うって、これは、昔の演劇部の……」
 そこまで言って気が付いた。押し花のようにペッタンコになった下着は、どれも新品だ。
「新品フェチなの…………?」
「違うって!」
「ちょっと様子が変だ……」
 八瀬は、やっとおかしいと思い始め、自分で下着の地層を発掘しだした。
「これは……」
 段ボールに貼られたメモに気づいた。

――第48回コンクール用小道具・山のようなインナー(取り扱い注意)――と書かれている。

 さらに発掘すると、袋に入った写真が出てきた。
「舞台いっぱいに下着を吊るしてる……」
「おお……タイトルそのものが『山のようなインナー(取り扱い注意)』なんだ」
「変なタイトル」
「……でも、これって県大会で優勝してるんだ……」
 写真の一枚は、優勝のトロフィーと賞状を持った三人の演劇部員。三人とも女子だということを除けば、デブとホドホドとヤセッポチという点で、オレたちと似ている。
「このおデブさん、主役だったんだ……」
 桜子が写真を繰っていて結論付けた。確かに、どの写真にも下着の山の中で熱演するデブ子が写っている。
「……おい、これ」
 八瀬が、折りたたんだ模造紙を取り上げた。

 模造紙は会場の一言コーナーに貼られたもののようで、カラフルなマジックでいろんな感想が書かれている。

「評判よかったみたいね、誉め言葉ばっかり」
 自分の事のように、桜子の目が優しくなった。こういう桜子が好きだ。
「感想のところどころに、赤丸がしてあるなあ……」
「ほんとだ……」
 赤丸は、言葉ではなく、文字に付けてある。
「普通、重要な言葉にアンダーラインとかするわよね……」
 数分眺めていて、気が付いた。赤丸の字を繋げると、こう読める。

 さ・い・し・ん・の・か・ば・ん・や・ろ・ー!

「最新の鞄やろー!」ってなんだろう?……三人は顔を見合わせた。 
 


🍑・主な登場人物

  百戸  桃斗……体重110キロの高校生

  百戸  佐江……桃斗の母、桃斗を連れて十六年前に信二と再婚

  百戸  信二……桃斗の父、母とは再婚なので、桃斗と血の繋がりは無い

  百戸  桃 ……信二と佐江の間に生まれた、桃斗の妹 去年の春に死んでいる

  百戸  信子……桃斗の祖母 信二の母

  八瀬  竜馬……桃斗の親友

  外村  桜子……桃斗の元カノ 桃斗が90キロを超えた時に絶交を言い渡した

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