閉じ込められてしまった。
寝台車なのだから寝ていればいいのだろうが、一方的に閉じ込められるのは面白くない。
マヤ一人だけなら抜けられないことも無いのだが、閉じ込めるということは出て来て欲しくない事情があるのだろう。
わざわざ出て行ってもめ事に巻き込まれるのもご免だし、恵美の顔を見てため息一つついてシートに腰掛ける。
「次の駅までこのままなのかなあ」
上目遣いに恵美がこぼす。
「さっさと寝ようか」
「なんだかつまらない。高級そうな寝台車だからさ、ちょっと探検とかしてみたくない?」
ちょっと意外な気がした。
出会ってからこっち、マヤの言う通りに付いてきた恵美、自分の意思を言うのは珍しい。少し突っ込んでみたくなった。
「どんなところを探検したい?」
「そりゃ、寝台特急なんだからさ、特等車とかあるんじゃない? お客さんが起きてるようなら『ちょっと見せてください』とかさ。展望デッキとか付いてりかもしれないし」
「なるほど」
探検というから、あのことに気づいているのかと思ったが、そうではないようだ。
「スマホのCMでやってたじゃん、オリエント急行みたいに豪華な寝台車でさ。そうそう、食堂車とかもゴージャスそうじゃない!」
食堂車と言ったとたんに恵美のお腹が鳴った。健康なやつだ。
「あ~~~~「こ」の寺町でお味噌汁頂いてからなにも食べてないよう……」
驚いた、恵美と旅をするようになって食べ物を口にしたのは「こ」の寺町の味噌汁だけなのだ。マヤと旅をしている限り進んで食べる必要は無いのだ。
「食堂車でどんなものが食べたい?」
「そりゃ、おしゃれなものでしょ。フレンチとかイタリアンとか! ああ、でもさ、焼き魚にとかもいいかも……」
ピ
電子音がしたかと思うと、進行方向の壁にオレンジ色のランプが灯った。
「なんだろ?」
「ランプに触れてごらん」
恵美が指先で触れると、ランプの下がテレビの画面ほどに開いて二人分の食事が出てきた。
フレンチとイタリアンと焼き魚という注文通りのメニューだ。
「わー、すごいすごい!」
「思い浮かべたものが出てくるようだな」
「あ、でも、オデンが付いてない」
すると取り出し口の所にテロップが現れた。
――オーバーカロリーになりますのでオデンは割愛しました――
「健康にも気をつかってくれるようだな」
一口食べて恵美は、とても嬉しそうな顔になった。恵美にあう味付けになっているようで、瞬くうちに平らげた。
「……食後に言うのもなんだけど、閉じ込められたということは……お手洗いにもいけないんだよね」
「どうだろ? お手洗いって言ってみたらどうだ」
「あ、えと……お手洗い」
すると、窓側の壁に『Water Closet』の表示が現れた。
「なにこれ?」
「ちょっと古風な表示だな」
すると「restroom」に変わった、恵美がキョトンとしていると「化粧室」に変わって、やっと恵美も納得した。
「ちょっと行ってくる」
恵美は「化粧室」の中に入っていった……。