大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・298『桟橋を転がる』

2022-11-30 16:20:27 | 小説

魔法少女マヂカ・298

『桟橋を転がる語り手:マヂカ 

 

 

 南無三!

 

 海面まで数十メートルを残すのみ! 

 わたしは最後の決意をした!

 セイ!!

 キャーーーーーー(≧∇≦)!

 渾身の力でクマさんを放り上げた。見届ける余裕はないが、いまの馬力とクマさんの悲鳴なら百メートルの高さは確実だ。

 出でよ風切丸!

 シャリーーン!

 顕現した風切丸を一角獣の角のように構えると、全身の力をその先端に籠めアリヨールを貫かんとする!

 一撃で倒せれば、そのまま海面を蹴って落下してくるクマさんを受け止めて着水。うまくいけば視野の端に見えている桟橋に濡れずに着地できるだろう。

 ピカ!

 その桟橋の先端が光ったかと思うと、一条の光芒が発せられ、瞬時にオリヨールを包み込んで北方の水平線の彼方に消えていった。

 ズシャ!

 落下しつつ風切丸を一閃する。たった今までオリヨールを倒すべく渾身の力が溜められていたので、その反動で上空に弾き飛ばされる。

 姿勢を立て直して腕をいっぱいに広げ、落下してくるクマさんを視界にとらえると、すこし逸らして横ざまにさらうようにしてクマさんを抱きとめる!

 キャ!

 余力を持って、そのまま桟橋に突っ込み、クマさんを抱えたまま二転三転!

 

 ゴロゴロゴロ……ゴロ…………やったあ!

 

「大丈夫、クマさん……もう目を開けていいぞ」

「……あ、真智香さん」

「なんとか助かったようだ……ん、どこを見ている?」

 クマさんは、わたしの肩越しに別のものを見ている。

 振り返ると、桟橋の前の方に数十人の兵士……いや、復員兵たちが佇立していた。

「あなたがたは……」

 その中の一人、髭づらの将校外套が―― 助かってよかった ――口の形で言うと、みな声も無く雲間から差し始めた日の光に姿を消していった。

「いまの人たちは?」

「シベリアからの復員兵だ……たぶん、帰還の途中で命を落としたか……復員したものの、家族や知り合いが全滅していた者たちだろう。彼らが、残った最後の力でアリヨールをやっつけてくれたんだ……」

「シベリア……ですか?」

 そうか、関東大震災の後に拉致されたクマさんにはシベリア抑留は分からないんだ。

 さて、どこから話したものか……。

 

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長 アキバのメイドクィーン(バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世)
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔
  • サム(サマンサ)     霊雁島の第七艦隊の魔法少女
  • ソーリャ         ロシアの魔法少女
  • 孫悟嬢          中国の魔法少女

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
  • ファントム      時空を超えたお尋ね者

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・39『なにかがタギリはじめた……』

2022-11-30 06:54:55 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

39『なにかがタギリはじめた……』  

 

 

 ガタガタガタ……気の早い木枯らしが脅かすように立て付けの悪い窓を揺すった。

 一瞬そちらに目を奪われたけど、すぐに机の上のSDメモリーカードを見つめる視線の中に戻った。

「再生してみますか……」

 加藤先輩が小型のレコーダーを出した……ほんとは気の利いたカタカナの名前がついてんだけど、こういうのはスマホとパソコンの一部の機能しか分からないわたしには、そう表現するしかない。

「マリ先生が再生するなって……」

「じゃ、マリ先生は……」

 わたしは持って行き場のない怒りに拳を握って立ち上がった。

「そう……じゃ、マリ先生は、全てを知った上で辞めていかれたのね」

 柚木先生が腰を下ろした。木枯らしはまだ窓を揺すっていたが、もう振り返る者はいなかった。

「あとは山埼、おまえがやれ」

 峰岸先輩は山埼先輩にふった。

「……今日は結論を出そうと思う」

 山埼先輩が立ちながら言った。

―― 結論……? ――

「部員も、この一週間で半分以上減った。このままでは演劇部は自滅してしまう。倉庫も、機材ごと丸焼けになってしまった。今さらながら乃木坂学院高校演劇部の名前の重さとマリ先生の力を思い知った」

―― 思い知って、だからどうだと言うんですか ――

「忍びがたいことだが、まだオレたちが乃木坂学院高校演劇部である今のうちに、我々の手で演劇部に幕を降ろしたい」

 みんなウツムイテしまった……。

「……いやです。こんなところで、こんなカタチで演劇部止めるなんて」

「気持ちは分かるけどよ、もうマリ先生もいない、倉庫も機材もない、人だって、こんなに減っちまって、どうやって今までの乃木坂の芝居が続けられるんだよ!」

「でも、いや……絶対にいや」

「まどか……」

「わたしたちの夢って……演劇部ってこんなヤワなもんだったんですか」

「あのな、まどか……」

「わたし、インフルエンザで一週間学校休みました。そしたら、たった一週間でこんなになっちゃって……駅前のちょっと行ったところが更地になっていました。いつもパン買ってるお店のすぐ近く。もう半年以上もあの道通っていたのに、なにがあったのか思い出せないんです」

 なにを言い出すんだ、わたしってば……。

「ああ、あそこ?」

「なんだったけ?」

「そんなのあった?」

 などの声が続いた。外はあいかわらずの木枯らし。

「今朝、グラウンドに立ってみました。倉庫のあったとこが、あっさり更地になっちゃって。他の生徒たちはもう慣れっこ。体育の時間、ボールが転がっていっても平気でボールを取りにいきます。あたりまえっちゃ、あたりまえなんですけど。わたしには、わたしたちには永遠の思い出の場所です」

「なにが言いたいんだ、まどか」

「今、ここで演劇部止めちゃったら……青春のこの時期、この時が、駅前のちょっと行ったところの更地みたく、何があったか分からない心の更地になっちゃうような気がするんです。たとえ燃え尽きてもいい。今のこの時期を、この時間を、あの更地のようにはしたくないんです……」

「まどか……」

 里沙と夏鈴が心細げに引き留めるように言った。

「それは感傷だな……」

 峰岸先輩が呟いた。

 ガタガタガタ!

 一段と強い木枯らしが校舎を揺すった。

 わたしの中で、なにかがタギリはじめた……。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母
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くノ一その一今のうち・28『潜入・1・草原を走る』

2022-11-29 11:43:38 | 小説3

くノ一その一今のうち

28『潜入・1・草原を走る』 

 

 

 たぶん中央アジアのどこか。

 

 小さいころから、お祖母ちゃんに日本の地理については教えられた。

 物心ついたころの玩具は、都道府県の形をしたブロックだった。

 毎日、それを組み立てて、保育所に行く頃には都道府県名と旧分国名を県庁所在地と合わせて憶えていた。

 小学校に入ると、都道府県別のブロックになって、国内の地理に関しては、そこいらへんの教師よりも詳しくなった。

 ただ、世界地図になるとお手上げだ。ざっくりと五大陸が分かって、ニ十個ほどの国の位置と名前が分かる程度。

 まあ、並みの高校生レベル。

 これで、観光バスのバスガイドになれるかなあと四年生になるくらいまでは思っていた。

 五年生になると、鏡に映る自分の顔を見てバスガイドじゃなくてブスガイドになると思った。

 お祖母ちゃんは、万一忍者になることを考えて教えてくれたんだと思う。

 それでも、地理は国内だけで、世界地図には踏み込まなかった。

 空飛ぶ犬や猫が居ないように、忍者が世界を舞台に働くことがあるとは思わなかったんだ。

 

 原チャで爆走しているところは見渡す限りの草原。だから漠然と中央アジアだとしか分からない。

 

「ここからは、脚でいく」

 わたしと同じ姿で社長が宣言し、わたしと嫁持ちさんも停車。社長に倣って原チャを茂みの中に隠す。

 C130を降りてから二時間ほどたっている。たっているけど、相変わらず草原のど真ん中。どうするんだろうと思うけど、質問はしない。

 忍びの任務に就いたら、あとは指示に従って動くだけだ。上司がそこにいるいないは関係が無い。

「横一列で走る」

 セオリー通り。縦列で走ると序列が知れてしまう。今日日は、はるか成層圏からでも、人工衛星が地上を覗いている。油断ができない。

 ニ十分ほど走ったところで匍匐前進。

 匍匐前進には五段階あって、五分おきに姿勢を変え、最後は蛇がのたうつような第一匍匐で十分あまり。

 

 あ……!

 

 声には出さないけど驚いた。

 草原は、そこから緩やかな下り坂になっていて、五キロほど先にゲームに出てきそうな街が見える。

 街の向こうには、さらに草原が広がっていて、山々を背景に三つばかりの街が霞んでいる。

 どうやら、C130で降り立ったのは広大な台地の上で、そこから、原チャと足で人界に近づいているらしい。

「あの街に潜入する」

 いつの間にか、社長が左に、嫁持ちさんが右に寄ってきて匍匐姿勢のままブリーフィングになる。

「街の寺院に、この国の王子が幽閉されている。その救助が目的だ」

 そう言って、A4サイズの紙を二枚広げた。

「こっちが、街の地図。三方から別々に侵入する。こことこことここだ、仮にA・B・Cとする。Aは嫁持ち、Bは儂、Cがソノッチだ。そして、これが寺院の見取り図。王子はこの経蔵庫の中。五時間後に二つ西側の什器倉庫の屋根裏で落ち合う。一分で地図と見取り図を憶えろ」

「「………………………………………………………………」」

 一分後、社長は地図と見取り図を粉々に引き裂いて風に飛ばした。

「食べてしまわなくていいんですか?」

 忍者は、命令書などは目を通したあと、証拠を残さないために食べてしまうものなんだ。

「紫外線にあたると半日で分解される。時計を合わせるぞ」

「え、電波時計でしょ?」

「気分の問題なんだよ」

 嫁持ちさんが注釈して、三人で時計を見つめる。

「5秒前、4、3、2、1、テー!」

 それを合図に、わたしたちは三方に散った。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍)
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・38『……九人しかいない』

2022-11-29 07:13:41 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

38『……九人しかいない』  

 

 

 部活の稽古場になっている視聴覚教室に向かう。

 

 思わず急ぎ足になる。

 ―― 早く、お礼とお詫びを言わなっくっちゃ ――

 わたしは、二十七人の部員一人一人に言葉をかけようと、夕べはみんなからのメ-ルをもう一度見なおした。

 忠クンへのお礼ってか、想いは昨日伝えた。

 これでほとんど終わったつもりでいたんだけど、あらためてみんなのお見舞いメールを見ると、それぞれに個性がある。アイドルグル-プのMCの子がコンサートの終わりでやるような全体への挨拶じゃいけない。一人一人に言葉をかけなくちゃ……って、ついさっきも言ったよね(^_^;)。

 緊張してんのよ、わたしって……そうだ副顧問の柚木先生……ま、普段の部活には来ないから、あとで教官室に行けばいいや。お礼は、それまでに考えればいい……。

 

「おはようございまーす!」

「おはよう……」「おは……」「おう……」

 まばらで、元気のない返事が返ってきた。

 あ……

 予想に反して柚木先生がいたので面食らった。まだ、お礼の言葉考えてない……。

 で、次に目についたのが、集まってる部員の少なさ……九人しかいない。

「さあ、まどかも来たことだし、始めようか」

 峰岸先輩がポーカーフェイスで言った。

「あの、最初にみんなに……」

「お礼ならいいよ、メールもらったし。早く本題に入ろう」

 勝呂先輩がいらついて言った。勝呂先輩のこんな物言いを聞くのは初めてだった。

「いらつくなよ勝呂。まどかは、まだ何も知らないんだから。まどかへの説明を兼ねて、問題を整理しよう」

―― いったい、何があったの……? ――

「まどか」

「はい……」

「まず、座れ。落ち着かなくっていけないよ」

「立ったままだと、倒れるかもしれないからな」

「勝呂!」

 ポ-カーフェイスの叱責がとんだ。

「じつは、まどか……マリ先生がお辞めになった」


 え?


 足が震えた……。

「顧問をですか……?」

 恐れてはいたが、かすかに予想はしていた。

「いいや、この乃木坂学院高校をだ」

 教室がグラッと揺れた……立っていたら倒れていた。むろん地震なんかじゃない。

「今回のことで責任をとってお辞めになった」

「学校が辞めさせたんですか!?」

「少し違う……」

 峰岸先輩がメガネを拭きながら、つぶやいた。

「それについては、わたしが話すわ」

 柚木先生が間に入った。

「今から話すことは部外秘。いいわね」

 みんなが頷く。

「理事会で少し問題になったみたいだけど、潤香のことも火事のことも……本人を前に、なんだけど、まどかのこともマリ先生の責任じゃない。詳しくは分からないけど、理事会としてはお構いなしということになった」

「じゃ、なぜ……」

「ご自分から辞表を出されたらしいわ」

 柚木先生は目を伏せた。

「それは違います」

 峰岸先輩が静かに異を唱えた。

「峰岸君」

 上げた先生の目は、鋭く峰岸先輩に向けられた。

 先輩は静かに続けた。


「柚木先生のお言葉は事実ですが、部分にすぎません。大事なポイントが抜けています。学校は先週のスポ-ツ新聞が取り上げた記事を気にしているんです」

「なんですか、それ?」

「ほら、コンクールで、うちの地区の審査員をやった高橋って人。マリ先生とは大学の先輩と後輩になるんだ。この二人の関係がスキャンダルになった。コンクールが終わった後、先生が立ち寄ったイタメシ屋で二人はいっしょになった。新聞には待ち合わせてと書いてあった」

「ウソでしょ……」

「乃木坂を落とした理由を説明するために、高橋って人はイタメシ屋に行ったんだ。それは、うちの警備員のおじさんも、店のマスターも証言している。店では大論争になったらしいよ。で、店を出た二人は地下鉄の駅に向かい、たまたま通りかかったホテルの前で写真を撮られたんだ。そして『新進俳優、高橋誠司、某私立女性教師と不倫!』という見出しで書かれてしまった」

「そのホテルなら知ってるよ。六本木寄りにある『ラ ボエーム』って言うホテルだ。店の面構えですぐに分かった」

 宮里先輩が言った。

「なんで高校生のオマエが知ってるんだよ?」

 と、山埼先輩。

「そりゃあ、道具係だもんよ。日頃から、いろんなもの観察してんだよ」

「あ、その気持ち分かります!」

 これは衣装係のイトちゃん。

「それって、濡れ衣だって分かったんでしょ。先輩……」

「むろんだよ、明くる日には謝罪訂正記事が出た。隅っこの方に小さくね。で、学校の一部の理事や管理職は気にしたようだね。マリ先生にこう言った。『丸く収めるために形だけ辞表を出してもらえませんか。いや、すぐに却下ということで処理しますから』で、先生は、その通りにした。『ご本人の硬い意思ですから』と理事長を納得させた」

「うそでしょ……」

 柚木先生の顔が青くなった。

「本当です。ここに証拠があります……」

 先輩は、小さなSDメモリーカードを出した。

「これは……」

「マリ先生とバーコードとの会話が入っています。ときどき校長と、ある理事の声も」

「峰岸君、キミって……」

「こんなもの、今時ちょっと気の利いた中学生でもやりますよ。な、加藤」

「え、ええ……」

 音響係の加藤先輩があいまいな返事をした。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母
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鳴かぬなら 信長転生記 95『毒食わば皿ま……わし』

2022-11-28 11:10:36 | ノベル2

ら 信長転生記

95『毒食わば皿ま……わし』織部 

 

 

「大橋(だいきょう)さま。ムースが仕上がりました」

 

 鈴を転がすような声がして、案内のそれとは別の小女がお茶とお菓子を捧げてきた。

「あら、うまく仕上がったようね。では、お客人といっしょに試食してみましょう。そうね、あなたたちも、これに合うようにお召し替えしましょうね」

 クリン

 大橋が指を振ると、二人の小女はメイド服に変わった。

「豊盃でカフェを出しているお友だちに教わりましたの、フワフワで、とても美味しいのだそうです。実験台になってくださいな」

 茶道で供されるお菓子は、干菓子と主菓子(生菓子)と決まっているが、このガラスの器に収まっているのは褐色の泡立ち。茶筅で泡立てたばかりの茶に似ているが、これは、食品サンプルのように固まっている。固まってはいるが、卓に置かれた瞬間は小さくフルフルと揺れて、いささかの粘りがあるようにも見える。

「ババロアに似ていますが、ゼラチンを使っていません。どうぞお召し上がれ」

 リュドミラは、ちょっとたじろいだような顔をしている。食に関しては保守的なんだろうね。

「いただきます」

 小さく手を合わせて、一口いただく。

「……口の中で溶けるよう……いえ、解けると書いた方が適切ですね。ふんわりと閉じ込められていた甘さと、チョコの香りと、ほんのりした香ばしさが解れて、とても新鮮です」

「そうなのか?」

 リュドミラも、おそるおそる一すくい口に運ぶ。

「!……おお、味覚の的のど真ん中を射抜かれた感じだ!」

「喜んでいただけてなによりです(^▽^)。鶏卵とクリームとチョコが最高の塩梅でハーモニーを醸し出してくれますでしょ」

「たしかに、味覚の三位一体です」

 これは濃茶にも合うかもしれない。茶道は完成されたものだとする者が多いが、新発見があれば、進んで取り入れるべきだと思う。織部の美意識は絶えず進歩と発見を欲するのだ。

「この庭も、魏・呉・蜀の職人たちに競わせましたのよ。まだまだムースのように昇華するところまではいきませんが、いずれは良いものになるだろうと期待しています」

「そうだったんですね」

 癪だけども、信長に似た感性を感じた。あやつの珍しもの好きは、子どものガラクタ集めに似ているが、十に一つほど見事な調和と飛躍を感じさせる。

「それで、こちらのリュドミラさんの胡旋舞を見せていただいて、インスピレーションを感じましたの」

「わたしの胡旋舞に?」

「はい、三国の舞姫たちは器用に胡旋舞を舞ってくれますが、芯のところで力がありません」

「うん、あれでは、酒の蒸気に火をつけたようなものだ。香りはするが、ぜんぜん力が無い」

「そうなんです、リュドミラさんのように大松明のような力がありません。爆ぜるような力が無ければ真の胡旋舞にはならないのです」

「大橋さま、おっしゃる通りです。しかし、リュドミラの胡旋舞は時と場所を選びます。花を愛でる園遊会や、祝言の宴席、老人の慰労などには不向きです」

「そうですね、だからこそ、その塩梅を見極め、他のものと掛け合わせる目が必要なのです。それは、織部さん、あなたの役割だと思います。いかがですか?」

「大橋さま……」

「市での、あなたの商いぶりも見せていただきました。あなたも、今少し大きな所で踊ってみてはいかがでしょう?」

「う…………」

 見抜かれている。だけど、けして嫌な感じではない。平蜘蛛の茶釜を初めて見た時の高揚だ。

 あの時は目の前に信長が居て――お前も同類よのう――という顔をされ、それ以来、奴に取り込まれたようになってしまった。

 その恍惚と危うさが同時に沸き起こってせめぎ合っている。

「どう、いっしょにやって頂けるかしら?」

 けして、その嫣然とした微笑みに絡めとられたわけじゃない。

 

 毒食わば皿……まわし。

 ……下手な洒落が浮かんで、承知した。

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生(三国志ではニイ)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹(三国志ではシイ)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
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宇宙戦艦三笠12[ステルスアンカー]

2022-11-28 08:49:42 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

12[ステルスアンカー]   

 

 

 ステルスアンカーとは、巨大な銛(もり)のようなものだ。

 大きさは10メートルほどであろうか、テキサスの艦尾に食い込み、その端には丈夫な鎖が付いていて、鎖の端は虚空に溶けて見えないし、コスモレーダーにも映らない。テキサスは出力一杯にして振り切ろうとしたが、まるで弱った鯨が捕鯨船の銛にかかったように、艦尾を振り回すだけだった。

「修一くん、直ぐに助けてあげて。時間がたつほどあのアンカーは抜けなくなるから!」

 みかさんの声にこたえ、修一は樟葉とトシに命じた。

「テキサスの前方に出る。艦尾のワイヤーを全部使ってテキサスの艦首のキャプスタン(巻き上げ機)やボラート(固定金具)に結束!」

「了解、全ワイヤーをテキサスの艦首に固定!」

 三笠の艦尾から、ありったけのワイヤーが発射され、自動的にテキサスのキャプスタンや、ボラートに絡みついた」

「微速前進いっぱーい!」

「了解、微速前進いっぱーい!」

 トシが復唱し、エンジンテレグラムの針は、いっぱいに振れた。

「三笠は、見かけによらず出力は20万馬力です。必ず引っ張り出します!」

 引きこもりのトシが、こんなに真剣にやる気を見せるのは初めてだった。やがて、テキサスの艦体は軋みだし、軋みは、やがて苦悶の悲鳴に変わっていった。

 ギシギシ……ギギギ……グギギ……グキーン! ゴキーン! ガキゴキン!

「ジェーン、大丈夫か!?」

―― 大丈夫。テキサスは110年も生きてきた丈夫な子だから……! ――

 テキサスの軋みは、やがて言葉になってきた。

―― 公民権運動……ヴェトナム戦争……奴隷制……マンハッタン計画……大統領暗殺……イラク戦争……ポリコレ……TPP……排出権取引……キューバ危機……南北戦争……移民問題…… ――

 アメリカにとって、過去の過ちや、暗礁に乗り上げている問題などが、次々と悲鳴になって出てくる。ステルスアンカーというのは、その船の所属する国が苦悶している過去と現在の問題を引きずるようにして、船の自由を奪うもののようだ。

―― あ、ああーーー(##゜Д゜)!! ――

 ブッチーーーン!!

 ジェーンの声が悲鳴になったかと思うと、テキサスは艦尾1/4をアンカーに食いちぎられて、スクリューや舵を失って、やっとアンカーから離れた……海に浮かぶ船なら、もう沈没状態だ。

「ジェーン、大丈夫!? 大丈夫、ジェーン!?」

 しばらく、テキサスもジェーンも沈黙していた。もう船としては死んだかもしれない。

―― ……なんとか生きてる。しばらく曳航してくれる? そいで、ちょっと……むちゃくちゃになったから、しばらく居候させてくれないかしら…… ――


「いいよ。なんたって、こっちは4人しかいないんだから大歓迎だよ!」

 やってきたジェーンはボロボロだった。髪はあちこち引きむしられたようになり、シャツもジーパンもかぎ裂きや、破れ目だらけになっていた。

「ジェーンを、中央ホールの神棚の下へ。わたしが看病するわ」

 へたりこんだジェーンをみかさんが助けようとすると、ジェーンは、キッパリとその手を払いのけた。

「あのステルスアンカーは、アメリカの矛盾を引き出し、拡大させて自縄自縛にし動けなくする。無理に引っ張ろうとすると艦体がバラバラになる。艦尾だけで済んだのは三笠のお蔭よ。でも、このままじゃ、いずれメリカ艦隊は全滅する……電信室を貸して、今からワクチンを作る」

「わかった。その間に、テキサスの修復工事をやっておくわ」

「ありがとう、日本の技術なら安心だわ」

「でも、とりあえずは、治療を優先!」

 ミカさんがまなじりを上げる。

「ミケメ、おまえたちでジェーンを医務室へ!」

「「「「ラジャー!('◇')ゞ」」」」

 ジェーンは、ネコメイドたちに助けられて電信室に向かった。その間にもジェーンの服は、さらにズタボロになっていき、ほとんど裸と変わらないかっこうになっていた。なんとも痛ましくはあるが、見上げた根性だと思った。

「こら、なに見てたのよ。CICに行ってテキサスの修復工事の段取りよ!」

「あ、そんなヤラシイ意味で見てたわけじゃないから……」

「うそ、二人からはイヤラシオーラが出てるわよ!」

 神さまとは言え、女子高生のナリをされていると、つい口ごたえしてしまう。第一オレに関しては誤解だし。

「トシ、離れて歩け。オレが誤解される」

「そんな、オレのせいにしないでくださいよ!」

「どっちもどっちよ。さあ、CICに急ぐわよ!」

 とりあえずグリンヘルドの脅威からは離れた……ように感じられた。

 

☆ 主な登場人物

 修一          横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉          横須賀国際高校二年 航海長
 天音          横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ          横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・37『火事の痕跡』

2022-11-28 07:16:26 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

37『火事の痕跡』  

 

 

 あの火事騒ぎから一週間、わたしは久々に学校へ行った。

 久々という感覚は人によって違うんだろうけど、なんせひいじいちゃんの忌引きで、小学校のとき二日しか休んだことのないわたしは、本当に久しぶり。

 地下鉄の出口を出て、百メートルほど歩いて発見。

 え?

 斜め向かいのお店が並んだ一角が工事用シートで囲まれている。シートに隙間があって、中が見える。シートの中は……更地になっていた。更地……つまり何もない空き地。

 こないだまで、ここには何かのお店があったはず……はずなんだけど……思い出せない。

 駅の出口を出ると、ちょっと行って乃木神社。道路を挟んで乃木ビル。ブライダルのお店、飲み屋さん、コンビニと続いて……あとはそんなに意識して歩いているわけじゃないから記憶もおぼろ……パン屋さん。うん、あそこは覚えてるってか、時々お弁当代わりにパンを買っていく。
 で、その隣り……へー、建築事務所だったんだ。その上は五階までテナントの入ったビル。ビルの名前は街路樹に隠れて見えない……で、その隣りが、シートで囲まれた更地。

 一週間前には何かがあった。もう半年以上この道を通っているのに思い出せない。

 気になるなあ……と、思っているうちに通り過ぎてしまった。

 コンクールの明くる日は、ここをダッシュで走ったんだ。三百メートルを五十秒。

 思えば、あれで汗だくになり、オッサンみたいなくしゃみ……あれがインフルエンザの始まりだったのかもしれない。


 学校に着いて、そのままグラウンドに行ってみた。

 焼けた倉庫は、きれいサッパリ片づけられていた。

 土まで入れ替えられたようで、火事の痕跡は、コンクリ-トの塀と、側の桜の木が半身焼けこげて立っていることだけだ。

 知らない人が見たら、ただの更地だよ。そこに戦争の空襲からもGHQの接収からも逃れた古ぼけた倉庫があったなんて想像もできないだろう……。

 わたしは、この倉庫とは半年あまりの付き合いしかなかった。

 でも、その思い出の中には、潤香先輩への憧れ。マリ先生の厳しい指導。里沙や夏鈴とのズッコケた失敗なんかが……そして、なによりわたしはここで死にかけた。
 それを救ってくれた忠クンのことといっしょに、思い出というには、まだ生々しい記憶がここにはある。

「まどか、もう予鈴鳴ったよ!」

 中庭から、わたしを呼ばわる里沙の声がした。夏鈴が横にくっついている。

 わたしは予鈴が鳴るのにも気づかないで二十分近く、そこに立っていたようだ(^_^;)。


 里沙がノートをパソコンで送ってくれていたので助かったけど、やっぱり授業というのは受けてみないと分からないものなのだ(受けていても、分かんないこといっぱいあるんだけど)。

 休み時間も昼休みも、友だちや先生に聞きまくり。

 最初にも言ったけど、わたしってひいじいちゃんの忌引きで、小学校で二日休んだだけ――授業分かんないのは休んだからだ……と、思いこんじゃうわけ。

 もともとそんなにできるわけじゃない、だから、ちゃんと授業受けていても結果的には変わんないんだけど。潜在的には「わたしは、デキル子」という、身の程知らずのオメデタイとこがある。

 だから、コンクールのときでも潤香先輩のアンダースタディーに手を挙げちゃうし、倉庫の火事でも、半ば無意識とはいえ飛び込んじゃうわけ……で、結果は意気込みほどじゃないことは、みなさんもよくご存じの通りってわけなのです。

 やっと放課後になって、クラブ……に直行したかったんだけど、掃除当番。

 それに担任の鈴木先生に、狸の薮先生からもらった登校許可に関する意見書(インフルエンザは法定伝染病なんで、登校するのには、正式には診断書。これだとお金かかっちゃうので、意見書でいいことになっている)を渡さなければならない。朝ドタバタして渡し損ねたのだ。

 鈴木先生は女バレの顧問。体育館に行くと、練習前のミーティング。それが終わるのを待って、ようやく手渡し。先生も朝、言葉がかけられなかったので、慰労と励ましのお言葉をくださる――はしょってください――とも言えず、神妙に聞いていると、もう四時二十分。とっくにクラブが始まっている。

 急がなくっちゃ(><)!

 

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母
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漆黒のブリュンヒルデQ・097『騒めくお札たち』

2022-11-27 15:40:31 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

097『騒めくお札たち』   

 

 

 駅前通りはお札と、お札の欠片でいっぱいになった。

 

 まともなお札は平気でいるけど、切られたお札の中にはウンウン唸っているものもいる。

「肖像のところで切られたのは死んでるみたいニャ」

 ねね子が拾った一万円札は諭吉が痛そうに左腕を押えている。このお札は左の四半分が切れて無くなっていた。

「こちらんお札はけしんじょるようじゃ」

 玉ちゃんが拾った五千円札は肖像のところで斜めに切られ、袈裟懸けに切られた樋口一葉が血反吐を吐いてこと切れている。

「これは、いったい……」

 豪徳寺に武笠ひるでとして降臨して以来、数百数千の妖や怪異と遭遇したが、こういうのは初めてだ。

「お札だったら、銀行と関係はないのかニャ?」

 みそな銀行を指さすねね子。

「銀行には、特別あやしか空気は感じんど。大金庫ん中にけっこうなお金があっどん、みんな穏やかに眠っちょっごたっ」

「そうだニャ、銀行に怪しいお金があったら日本の経済は危ないのニャ」

「それもそうじゃ(^_^;)」

 ねね子の洒落に、少しだけ空気が和む。

 

 ザワザワザワザワザワ ザワザワザワザワザワ

 

 生き残ったのやら瀕死なのやら、お札たちが騒めき始めた。

 死んだお札たちは、そのあおりを受けて舞い上がったかと思うと、真っ黒な切れ端になって、それも、すぐに粉々になって吹き消すように消えてしまった。

 ザワザワザワザワザワ ザワザワザワザワザワ ザワザワザワザワザワ 

 ざわめきが、さらに激しくなったかと思うと、お札たちは無数のカラスに身を変えていく。

「こいつら、カラスの化身だったのか!?」

 スパスパ スパパパパ スパパパパ

 小気味いい音がしたかと思うと、カラスたちはカマイタチのように見えない刃物で次々に切られ始めた。

「避難するぞ!」

「「う、うん」」

 セイ!

 三人別々にジャンプして、電柱や商店や駅の高架の上に居場所を移す。

 やがて、半分ちょっとのカラスがやっつけられ、残り半分近くが逃げ散ったところで、抜き身を下げたお侍風が現れた。

「いやあ、すまん、余裕がのうてな。ちいと脅かしてしもうたな」

 刀を収めると、お侍風はガシガシと頭を掻いた。

 え、ザンギリ頭?

 お侍ではなく、お侍風に見えたのは、ちょんまげではないからだ。

 体つきも華奢で、大きな口がへの字に結ばれて、わんぱく坊主が、そのまま大人になって刀を振り回しているような感じだ。

「ああ、おめ、長州ん高杉晋作じゃなかと!?」

 玉ちゃんの頬が緩んだ。

「え、おまえが、高杉晋作か?」

「ああ、そねーな名前じゃったこともあるかなあ……他にも、谷 潜蔵、谷 梅之助、備後屋助一郎、三谷和助、祝部太郎、宍戸刑馬、西浦松助やらがあるけぇ、好きに呼んでくれたらええ。お嬢ちゃんらは何者や?」

「荒田八幡宮ん玉依姫じゃ、会うたぁはいめっだじゃっどん、お参りけ来た薩摩ん者からはよう聞いちょった」

「おお、荒田八幡の神さまか」

「わたしは武笠ひるでだ」

 本名を名乗ってもいいんだが、北欧神話は知らんだろうしな。

「ねね子ニャ、豪徳寺の招き猫ニャ(^▽^)/」

「なんか面白い組み合わせじゃ……それ!」

 晋作は軽くジャンプすると、高架の上、わたしの横に並んだ。

「なんだ、高いところが好きなのか?」

「高好き晋作じゃけぇな」

「フ、ダジャレか」

 それには応えず、なにやら算盤を取り出した。

「セイ」「ニャン」

 興味を持った二人も、こちらにやってきた。

「侍が算盤をやるのか?」

「薩摩ん侍も算盤はやっちょった、西郷吉之助なんか、そけらん商売人よりも計算が早かったよ」

「それで、なんの計算をやっているのかニャン?」

「これまでに退治したカラスの数じゃ……今日の分を足さんにゃあなあ……さっきのが13734……そっちの辻に503……高架の上に27……」

「世田谷の衛生局からカラス退治とか頼まれたのかニャ?」

「そっちに308……こっちに72……ああ、まだまだじゃのぉ」

 盤面にため息をつく晋作。我々もつい覗き込んでしまう。

「あ、ひょっとしてもしかしたらあれじゃらせんかなあ?」

 さすがは神さま、玉ちゃんがなにか思い当たる。

「お、あっちに、まだ討ち漏らしのカラスが居る! せっかくじゃが、またな!」

 算盤を懐にねじ込むと、晋作はジャンプしながら刀を抜いて虚空に消えた。

「……忙しい奴なのニャ」

「で、玉ちゃん、なにがもしかしたのだ?」

「あや、三千世界んカラスを打ち平らげようとしちょっど……」

「ああ……朝寝がしてみたいってやつニャ……」

「朝寝? 三千世界?」

 ひとり首をひねるばかりのわたしであった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

 

 

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せやさかい・364『ドイツに勝ったぁ!!』

2022-11-26 20:39:21 | ノベル

・364

『ドイツに勝ったぁ!!』さくら    

 

 

 ドイツに勝ったぁ!!

 ウワアアア!!

 

 オッサンの叫び声と窓ガラスが震えるほどの歓声で目が覚めた。

「「ふぇ?」」

 横のベッドで寝てた留美ちゃんも半ボケで目を覚ました。

 ウワアアアアアアアア!!

 今度は閉めた窓の外からも歓声。

「ええ、戦争……?」

「か、勝ったんだよ! ドイツに勝ったんだよ!」

 外の歓声で完全に覚醒した留美ちゃんは半纏を羽織って、リビングに下りて行った。

 ちょっと待ってえよ、ウクライナが戦ってるんはロシアで、ドイツやなかったはずやで。

 いや、日本でこれだけ喜んでるんやから、うちの知らん間に知らんとこで戦争やってた?

 ここんとこ文化祭の事で頭いっぱいで、全然気ぃつけへんかった!?

 今日は、家帰って、ご飯もそこそこ、お風呂入って寝てしもたさかい……うちも半纏を羽織ってリビングへ。

 ニャア

 ダミアがリビングの興奮ぶりに恐れをなして、階段の上まで逃げてきてる。

 子ネコの頃やったら「おーよしよし」って抱っこしたんねんけど、10キロ超えのブタネコは放っとく。

 リビングに足を踏み込むと、アホのうちでも分かった。

 なんかの試合に勝ったんや。

 アナウンサーとコメンテーターが興奮組に「奇跡の勝利!」「大金星!」とか言うてて、会場の歓声が怒涛の波音みたいに木霊してる。

「さくら、勝ったよ! 日本勝った!」

 詩ちゃんがパジャマにカーディガンで抱き付いてくる。ついさっきまで、うちといっしょに寝ぼけてた留美ちゃんはソファーでおばちゃんと手ぇとりあってるし、テイ兄ちゃんはおっちゃんとジョッキ片手にできあがってる。お祖父ちゃんまでワンカップの蓋あけながら、もう目つきがおかしい。

「ほら、さくらも、こっちおいで!」

「え、あ、うん……お祖父ちゃん、酒臭い~(^_^;)」

「ほら、感動の瞬間! リプレイやぞぉ」

 浅野おおおおおお スーパーゴーーーーーール!! ウオオオオオオ!!

「うわあ!」「キャー!」「かっこいい!」「惚れるううう!」「ニャアア!」

 みんなすごい興奮で、繰り返されるゴールの瞬間に痺れまくり。

 うちもお祭り騒ぎは好きやから、いっしょに「うわああ!」とかやりたいんやけど、ちょっと乗り損ねる。

 留美ちゃんも文化祭で疲れてるはずやねんけど、もう、お目々ギンギラギン。

 

 文化祭の代休を挟んだ昨日の学校でも、みんなサッカーの話があちこちでやってて、授業に来る先生らも最初にもサッカーの話をしてて、保健の長瀬先生なんか半分サッカーの話で潰してしもた。

 お目出度いのは分かるねんけど、うちは、もう一つ入っていかれへん。

「むう、なんか共産党の議員みたいだぞ」

 頼子先輩にも意地悪を言われる。

「頼子さん、もしさ、ホットドッグ早食い世界大会があって、日本人が優勝しても、そんな風にホットになれます?」

「え、なにそれ?」

「金魚すくい世界大会とか」

「うん?」

「ハナクソ飛ばし世界一とか」

「さくらぁ、ちょっと変」

「あ、いやいや、すんません。で、なんで共産党さんがでてくるんですか?」

「ネットでいいからニュースぐらい見なさいよね」

 そう言いながら、頼子さんはスマホでニュースを見せてくれます。

―― 日本勝っちゃうしで、残念 ――というツイート。

 スクロールすると、日本人ならみんな喜ばなければならないのはおかしい的な話もあってビックリ。

「まあ、あとで謝ったり訂正したりしてるんだけどね」

「あ、うちは、そんなんとはちゃいますから」

「ああ、ごめんごめん。これ見た後だったから、ちょっと重なっちゃった」

「うちて、サッカーだけちごて、スポーツ一般苦手っちゅうか……」

 言葉を濁してると、頼子さんは椅子を回して向き合ってくれる。

「いや、そんな大層なことちゃいますねんけど」

 なんかシビアになりそうと思てると、ソフィーが呼びに来て中断。

 ああ、話が横っちょいきそう。

 続きは、また今度ね(^_^;)

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか      さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首  

 

 

 

 

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ピボット高校アーカイ部・32『再生リボンからいきなりの勝負』

2022-11-26 11:50:26 | 小説6

高校部     

32『再生リボンからいきなりの勝負』 

 

 

「こちらに、青山さんのお店でよろしいでしょうか?」

 

 帳場の女の子が「はい、姓は青山、屋号は肥前屋ですが」と笑顔を向けてくる。

「キャ、かわいい……」

 揃って横に立っている麗二郎、いや麗が恥ずかしくなるほどときめいて、巾着持ったままの手を口元に持っていく。

 カミングアウトしたんじゃねえのか! つっこみたいけど我慢。

「こちらに、おリボン置いてらっしゃるって伺ってきたんですけど」

「あら、よくご存じですね、リボンはこちらです。あまり出ないもんだから、お父さんが奥に引っ込めちゃって……こっちに……」

 左手で袂を押え、身を乗り出してリボンが入った箱に腕を伸ばす。

 うなじと右手の肘から先が露わになる。その色の白さと容の良さに、僕もドキッとする。

 うなじも肘の裏側も、街でも学校でも普通に見てるんだけどね……お祖父ちゃんが言っていた『秘すれば華』という言葉が浮かぶ。

 いやいや、僕まで時めいてどうするんだ(^_^;)

「ご維新も二十五年、そうそう古着も売れないんで、いいところを採って、小間物が作れないかって、取りあえずリボンから初めてみたんです」

 籐籠の中には再生品と言われなければ分からない、きれいなリボンが一クラス分ほど並んでいる。

「左前の打合せとか帯で隠れるところとか、けっこう状態のいい生地が採れるんですよ。古着の売れ残りは、雑巾ぐらいにしかならないんです。西洋じゃパッチワークなんてツギハギが伝統的だったりするんですけどね、日本人は好みません。それで、こんな風に」

「そうですね、古手を粗末に扱えば付喪神(つくもがみ)が祟るって言いますものね」

「あら、女学生さんなのに、古風なことをご存知ね」

「貧乏旗本の裔ですからね、モノは大事にいたします」

「それは、よい心がけですね。わたしも同様ですよ、そして、古いものを新しく。明治を生きる古道具屋の心意気です」

 ポンと、小気味いい音をさせて帯を叩く。

 令和の時代なら中学生かというくらいに小柄な人だけど、言葉や表情が小気味よくって先輩と対等に会話ができている。

「過ぎたお洒落はひかえなくてはいけないんですけど、おリボンぐらいは……女学生の心意気!」

 ポン

 アハハハハ

 先輩も帯を叩いて調子が揃って、店の中に花が咲いたようになる。

 その明るさにつられたのか、数人のお客が店を覗き始め、奥から主人が出てきて対応を始める。

 こういうのも女子力って言うんだろうか、傍で見ているだけで楽しくなってくる。

―― 勝負に出る、お前たちもリボンを手にとれ ――

 え、勝負?

 任務の詳細を聞いていないので面食らう、でも、慣れている「これなんかもいいなあ」と呟いてオレンジ色のリボンを手に取る。麗もエンジ色を髪にかざしている。

「着物との釣り合いを見たいから、表で見比べていいかしら?」

「そうですね、お日様にあてると色合いがかわりますからね」

 四人でウキウキしながら通りに出て、髪にリボンをかざしてみる。

―― 脇に寄れ! ――

 先輩の命令は、いつも突然。反射的に看板の方に身を寄せ、先輩は逆に道の真ん中に近づく。

 ガラス戸を鏡にしてリボンの映り具合を見ている感じになる。

 

 ドン!

 

 通行人とぶつかって先輩が倒れ、通行人の大男がタタラを踏む。

「オウ、コレハ、スミマッセーン」

 大男が片言の日本語で謝りながら先輩に手を差し伸べる。

「いえ、わたしこそ、往来の真ん中で……」

 そこで、先輩と大男の目が合った。

 ドッキン

 アニメならエフェクト付きで心臓の音がしただろう。

 大男は、先輩に一目ぼれしてしまった。

 

―― チ、しまった! ――

 

 先輩の舌打ちが盛大に頭に響いて、僕らは緊急タイムリープした……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 田中 鋲(たなか びょう)        ピボット高校一年 アーカイ部
  • 真中 螺子(まなか らこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長
  • 中井さん                 ピボット高校一年 鋲のクラスメート
  • 西郷 麗二郎 or 麗           ピボット高校一年三組 
  • 田中 勲(たなか いさお)        鋲の祖父
  • 田中 博(たなか ひろし)        鋲の叔父 新聞社勤務
  • プッペの人たち              マスター  イルネ  ろって
  • 一石 軍太                ドイツ名(ギュンター・アインシュタイン)  精霊技師 

 

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宇宙戦艦三笠11[テキサスジェーン・2]

2022-11-26 09:08:29 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

11[テキサスジェーン・2]   

 

 

「えーーーーーーあなたたち人間なの!?」

 歓迎の握手を交わすと、その感触で分かったのか、妙なところで驚くジェーン。

「あなたは違うの?」

 樟葉が、まっとうな質問をした。

「あたしはguardian god of a boat……日本語でなんて言うんだろう?」

「船霊よ」

 ミカさんが、まるで、ずっとそこに居たかのように一番砲塔の脇から声を上げた。

「あ、あなたが三笠のguardian god of a boat?」

「うん、だけど日本の船霊というのは、ちょっと違うの。ジェーンは、テキサスが出来た時に生まれた精霊のようなもんでしょ?」

「そうよ。だから、今年で110歳。ミカさんもそのくらいじゃないの?」

「日本の船霊は、船が出来た時に、縁のある神社から分祀されるの」

「ブンシ?」

「アルターエゴ(alter ego)って言葉が直訳だけど、ちょっと違う。コンピューターで言うダウンロードって感じが近い……かな?」

 みかさんはお下げのまま小首を傾げた。

「なるほど、ダウンロードしたら、どれも本物だもんね……で、ミカサはどこからダウンロードしてきたの?」

「ウフフ……」

 みかさんが笑って答えないもんだから、俺(修一)が代わって答えた。

「天照大神……らしいよ」

「アマテラス……それって、アニメでよく出てくる! 日本で一番のボスゴッドじゃないの!!」

 それにしては、可愛らしいナリだという顔を、ジェーンはしている。

「まあ、その場その場に合うような姿になっちゃう。うちはみんな高校生だから、自然にこういうふうになるの……かな?」

「ちょっとジブリ風ね。アメリカでも人気よ。でもさ、どーして人間といっしょにやるわけ? 人間って酸素も要るし、水も食料も要るし、オナラはするし、夜は寝ちゃうし、寝言は言うし……」

 なんだか、すごい言われようだ。

「あたしたち日本の神さまは、人間といっしょになって初めて十分な力が発揮できるの。guardian god of a boatだけでやるアメリカとは……まあ『有り方の違い』的な?」

「でもさ……」

 言いかけて、ジェーンはみかさんにオイデオイデして、なにやら密談ぽくなった。


「なに……」「話して……」「るんだろ……」


 ちょっと感じ悪い……と思ったら、俺の横にシロメとクロメが立った。

「『でも、なにもかも神さまがやったら、あとで文句出ません?』と、ミカさんがおっしゃってます」

「『アマテラスって、ボス神じゃないの? タカマガハラから上から目線で仕切ってますって感じするけど』ジェーンさんがおっしゃってます」

 二人は、神さまの内緒話を読んで中継してくれるようだ。トシ、天音、樟葉も寄ってきた。

「『う~ん、ボスって言うよりは委員長って感じですかね?』と、ミカさんです」
 
 確かに、あれで眼鏡を掛けたら、委員長キャラだ。

「『なるほど、失敗したら連帯責任か』と、ジェーンさん」

「『ちょっと違います。右手と左手が無きゃ拍手は出来ない的な?』と、ミカさん」

「『片手でも指は鳴らせるよ』と、ジェーンさん」

「『指パッチンは、ちょっと品が無い的かも』と、ミカさん」

「『ちょっと待って』と、ジェーンさん」

「『あら?』っと、ミカさん」


「「気づかれてしまいました!」」

 ピューーー!


 あっと言う間に居なくなった。

 代わりにチャメとミケメがやってきて「「お茶の用意ができました」」と声を揃えた。


 長官室でお茶にして隣の家で寛いだようにリラックスして帰っていった。

 その数分後だった。


―― ステルスアンカーをかまされた! ――


 ジェーンの悲壮な声が届いてきた。

 

☆ 主な登場人物

 修一          横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉          横須賀国際高校二年 航海長
 天音          横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ          横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・36『ジャンケン必勝法』

2022-11-26 06:57:00 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

36『ジャンケン必勝法』  

 

 

 愛おしさがマックスになってきた……。

 まどか……

 

 忠クンの手が、わたしの肩に伸びてきた……引き寄せられるわたし……去年のクチビルの感覚が蘇ってくる……観覧車のときのようにドギマギはしない。ごく自然な感覚……これなんだ!

「ね、なんで、ここ『アリスの広場』って言うか知ってる?」

 薮先生のおまじないが口をついて出てきた。

「……え、なんで……」

「アリスの『ア』は荒川のア。『リ』はリバーサイドのリ。『ス』はステージのス。ね、ダジャレ。笑っちゃうけど、ほんとの話なんだよ」

「「「へえ、そうなんだ!」」」

 二段上の観客席で声がして、振り返るとクソガキ三人が感心している。

「どーよ、勉強になったでしょ<(`^´)>?」

 怖い顔でにらみつけてやる。

「「「は、はひ(;'∀')」」」

 クソガキ三人が頭をペコリと下げて、川べりに駆けていった。

「まどか……」

 忠クンが夢から覚めたようにつぶやいた。

 マックスな想いは、表面張力ギリギリのところで溢れずにすんだ。

 出番を間違えて舞台に立った役者みたく突っ立て居る忠クン……これじゃあんまり。

「これ……」

 わたしは、ポシェットから花柄の紙の小袋に入れたそれを渡した。

 忠クンは、スパイが秘密の情報の入ったUSBを取り出すように。子袋のそれを出した。

「これは……」

「リハの日にフェリペの切り通しで見つけたの」

 わたしは、台本の間で押し花になったコスモスを兄貴に頼んで、アクリルの板の間に封印してもらった。以前、そうやって香里さんの写真を永久保存版にしていたのを見ていたから。兄貴はニヤッと方頬で笑ってやってくれた。

「え? あ! オレも、持ってるんだ!」

 忠クンは、定期入れから同じようにアクリルに封印したコスモスを出した。

「友だちに頼んでやってもらった。理由聞かれてごまかすのに苦労した」

「これ……あのときの!?」

「うん。花言葉だって調べたんだぜ」

「え……?」

―― よしてよ、また雰囲気になっちゃうじゃない ――

「赤いコスモスだから……調和。友だちでいようって意味だったんだよな」

―― 違うって、わたしそこまで詳しく知らないよ、コスモスの花言葉 ――

「今度のは白だな。また、帰って調べるよ」

「う、うん。そうして」

―― 白のコスモスって……わたしも帰って調べよう(^_^;) ――

 川面を水上バスがゆっくり走っていく。西の空には冬の訪れを予感させる重そうな雲。でも、わたしの冬は熱くなりそうな予感……。

「オレも、もう一つ、ささやかなプレゼント」

「なに……」

 ト、トキメイタ(#^△^#)。

「大久保家伝来のジャンケン必勝法!」

「アハハ……!」

 思わずズッコケ笑いになっちゃった。

「一子相伝の秘方なんだぜ。ご先祖の大久保彦左衛門が戦の最中に退屈しのぎに仲間と『あっち向いてホイ』をやって全勝。神君家康公からご褒美までもらったって秘伝の技なんだぞ」

「そりゃ、たいへんなシロモノね」

「いいか、ジャンケンてのは、『最初はグー!』で始まるだろ」

「うん」

「そこで秘伝の技!」

「はい!」

「次には、必ずチョキを出す……」

 忠クンは胸を張った。

「……そいで?」

「……それだけ」

 わたしは本格的にズッコケた。

「これはな、人間の心理を利用してんだよ。いいか、最初にグーを出すと、次は人間自然に違うものを出すんだよ。違うものって言うと?」

「チョキかパー」

「で、そこでパーを出すとアイコになるかチョキを出されて負けになる……だろ?」

「……だよね」

「ところが、チョキを出すと、アイコか勝つしかないんだ」

「なるほど……さすが大久保彦左衛門!」

「でも、人には喋るなよ!」

「大久保家の秘伝だもんね……でも、これを教えてくれたってことは……」

「あ、そんな深い意味ないから。まどかだからさ、つい……アハハハ」

「アハハハ、だよね」

 笑ってごまかす二人の影は、たそがれの夕陽に長く伸びていった。

 そいで……このジャンケン必勝法は、始まりかけた熱い冬の決戦兵器になるんだよ。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母
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銀河太平記・133『日漢秘密会談・1』

2022-11-25 15:35:41 | 小説4

・133

『日漢秘密会談・1』越萌マイ  

 

 

 少し後悔しているのかもしれない。

 

 北大街大酒店、日本語風に言うならば北大街グランドホテルになるだろうか。

 この五年ほど漢明国では、ちょっとした満州ブーム。それにあやかって、漢明財閥が金にものを言わせて世界中に展開したのが北大街酒店集団だ。名前に漢明や中華を冠していないところがミソだ。

 五年前に『北大街』という漢明製大河ドラマが流行った。

 かつての敵国マンチュリアの話などもってのほかという反対も起こらないでは無かったが、大方の漢明国民には好意的に受け止められた。

 いまは無きマンチュリア、その国際色豊かな文化は漢明でもノスタルジーをもって語られることが多い。

 マンチュリアは、日本が主導して満州平原に作り上げた新興国だったが、四百年前の満州国のイメージを払しょくするために、完ぺきな民主制を貫かれた。その自由闊達な空気は、マンチュリアの首都奉天の北大街に象徴されて、その北大街での漢・日・満・露・朝、五族の有名無名の人々が北大街を守るために奮闘する姿を描いた群像劇、それが『北大街』だ。

 かつて敵国であったマンチュリアのドラマを、漢明政府がよく許したものだと日本でも評判になった。

 だが、ドラマの主人公は北大街の漢明人だ。かれらの活躍があったからこそ現在でも奉天が国際自由都市を標榜していられるという結論で、漢明国は、この奉天のカルチェラタンと言われた北大街をこそ鏡にしなければならないというメッセージが込められている。

『北大街』に描かれた精神に学ばなければならないと、時の漢明国大統領が試写会で漏らした感想がブームに火をつけた。

『今の漢明はまだまだですが、目指すべき見本は、漢明の先人たちが北大街で示してくれています。今の漢明は、まだまだ建設途上、いささかの逸脱はありましょうが、どうかご寛恕いただき、国家建設の大行進の列に加わってください』

 ニ十三世紀の劉邦と言われた大統領の言葉は、大方の共感をもって漢明国内に受け入れられた。

 今の漢明には不満いっぱいの民衆たちであったが、今劉邦の大統領が謙虚に『北大街』の理想を目指すのなら、今の漢明の矛盾にも目をつぶろうという空気が生まれた。

 そして、その名も北大街大酒店に向かう日本国総理専用車に岩田総理を乗せて、その運転手兼通訳の秘書としてわたしが乗っている。

 このわたし、シマイルカンパニーCEO、越萌マイ。カンパニーの経営は妹分のメイに委ね岩田総理の懐刀として動いていることは、漢日首脳陣の中では公然の秘密になっている。

 さて、後悔。

 ニ十一世紀に道半ばで凶弾に倒れたA首相を見習って、フットワークの軽さを心情にと進めてきたが、今夜の判断は間違っているような気がし始めている。

「申し訳ないね、また付き合わせてしまって」

「いいえ、総理の任期中、特に漢明相手の時はお付き合いいたします」

「いや、助かってはいる……マイさんが付いているからこそ『岩田にハニトラ効かない』と伝説ができた」

「恐縮です、でも油断は禁物です、篭絡の手段はハニトラとは限りませんし、敵はハニトラを諦めたわけでもありません」

「しかし、マイさんは仮にもシマイルカンパニーのCEO、その上、独身ときている……」

「いえ、覚悟はしています。だいたい、出会いの時が出会いの時ですから」

「あ、ああ、いきなりハニトラの刺客を張り倒すんだもんな。それもシマイルカンパニーの越萌マイと啖呵を切ってだ。僕は、ただただ目を白黒させるだけだった」

「あれでよかったんですよ、天下の日本国総理の心情迫る慌てぶり、誰もが、二人の関係は本物だと思ってくれています」

 いや、一人だけは知っている、わたしの本性は満州戦争でPIした児玉であることを。妹分の越萌メイ。

「すまない、当分の間シマイルカンパニーを任せる」

 そう言った時のメイは噴き出すのをこらえるのに必死だった。

 他にも、孫大人……桜を見る会で見かけた時はビールが横っちょに入ったふりをして盛大にむせかえっていた。

 もう一人、天皇誕生日でお見かけした時は、ただおだやかに「ごきげんよう」とご挨拶された。

 二千年の歴史に裏打ちされたポーカーフェイスは、いやはや身の縮む思いだった。

 さて、信号の向こうに北大街大酒店が見えてきた。

 できれば、この一戦で西之島事件の始末を……思わずバックミラーの総理を見てしまう。

 総理もコクンと頷いて、いよいよ日漢首脳の秘密会談が始まる。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  •  

   

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・35『アリスの広場』

2022-11-25 07:08:25 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

35『アリスの広場』  

 

 

 アリスの広場に出てきた。狸先生おすすめのスポット。

 アリスの広場は、あらかわ遊園の一番北にあって隅田川に面した観客席八百の水上ステージ。

 時々イベントが行われるんだけど、晩秋の今日はなにもやっていない。

 野外の観客席は人もまばら。


「……わたし、きちんと言っておきたいの」

「……なにを?」

「ほんとうに、ありがとう。あの火事の中助けてくれて……忠クンが助けてくれなかったら、わたし焼け死んでた。ほんとうにありがとう!」

 わたしは川に向いたまま頭を下げた。

 コンクリートの床に、ポツリポツリとシミが浮かぶ。

「顔あげてくれよ。オレ、こういうの苦手なんだ」

 忠クンも川を向いたまま言った。

「わたし、病院じゃボケちゃってて、きちんとお礼も言えてなかったから」

「いいよ、お父さんがキチンと言ってくださったし。メールもくれたじゃん」

「でも、でも、自分の口で言っておかなきゃ。ほんとうにありがとう……」

「だから、もう分かったからさ。頼むから顔あげてくれよ(^_^;)」

「……」

 わたしは、なにも言えなかった。顔もあげられなかった。

「まどか……」

 やっとあげた目に、忠クンの顔がにじんで見えた。晩秋のそよ風は、涙を乾かすには優しすぎる……愛しさがこみ上げてきた。

「オレこそ……お礼が言いたくて。んで、顔が見たくて。乃木坂の裏門のとこに行ったんだ。あそこ、演劇部の倉庫がよく見えるだろ」

「……わたしに、お礼?」

 右のこぶしで明るく涙を拭った。

「まどかのアンダスタンド……じゃなくて……」

「ハハ、アンダスタディー」

 拭った涙が乾かないままのこぶしで忠クンの胸を小突いた。

「うん、それそれ。すごかった。なんかわたしの青春はこれなんだって、自己主張してるみたいだったぞ」

 忠クンは照れて、頭を掻いた。

「わたしは、ただ憧れの潤香先輩のマネしてただけだよ。マネはマネ。お決まりの一等賞もとれなかったし……エヘヘ」

「それでも感動したもん。なんてのかな……うん。オレも、これくらい打ち込めるものがなきゃって、そう感じさせてくれた……オレ、高校入ってから、ずっと感じてたんだ。もう、ただのお祭り大好き人間じゃダメなんだって」

「忠クン……」

 忠クンは無意識に髪をかき上げ、かき上げた手を、そのまま頭の形をなぞるようにもっていき、もどかしそうに頭を叩いた。

 そのもどかしさが、切なくて、愛おしい。

「学校の先輩たちには、すごい人がいっぱいいるもん。ただの勉強だけじゃなくてさ、人生に目標持って勉強してるような人とかさ。クラブとかもさ、『オレはこの道極めるんだ』みたいな人がさ……オレ、入学以来ずっとクスブっていたんだ。オレは、とても、そんな先輩みたくにはなれないって……そしたら、なんと、まどかがそうなっちゃってるんだもん。アハハ、まいっちゃうよな。でも、オレも、クスブリのオレだって、ガンバったらそうなれるんじゃないかって希望をくれたんだよ、まどかは。そんなまどかにお礼が……ってか、一目会いたくって裏門のとこに行ったんだ。そしたら倉庫から煙りが出てきて、火事騒ぎになって……みんなが『まどか!』って叫ぶのが聞こえてきて……あとは切れ切れの記憶……自転車乗ったまま、グラウンドを斜めに走って、中庭の池に飛び込んで、水浸しになって……燃えてるパネルの下敷きになってるまどか見つけて……体がカッと熱くなって……気づいたら、担架にまどかを寝かしてた」

「忠クン……(灬⁺д⁺灬)」

 拭った涙が、また、とどめなく頬をつたって落ちていく。

 さっきまで聞こえていた、子どもたちの遠いさんざめきも、川面を撫でていく風の音も、なにも聞こえなくなった……。

 景色さえ、おぼろになり、際だって見えるのは忠クンの顔だけ……目だけ……ちょっとヤバイ。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 夏鈴          乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母 兄 祖父 祖母
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せやさかい・363『文化祭本番です!』

2022-11-24 16:20:38 | ノベル

・363

『文化祭本番です!』さくら    

 

 

 昼行燈(ひるあんどん)いう言葉があるやんか。

 

 ボンヤリっちゅうか、ボーっとしてるやつを指して言う言葉で、あんまりええ言葉やない。

「まあ、あの人すてきね! まるで昼行燈みたいに優しそう!」「そのセーター、淡い色合いがステキ! まるで昼行燈!」「このお弁当、昼行燈みたいに優しいお味ねえ!」とか言うて褒めたとしたら、アホかと思われる、場合によっては張り倒される。

 例外は、吉良上野介を討ち取るまでの大石内蔵助。色町で遊びまくったりしてて昼行燈みたいやと言われてて、あれでは討ち入りなんて企んでるはずないと世間を欺いた。

 そういう昼行燈みたいなもんやと思て期待はしてなかった。

 なにかっちゅうと、花火です。

 三年ぶりに行われる聖真理愛学院の大文化祭!

 ほとんどの取り組みが三年生中心、一二年生はサポートとかアシスタントにまわります。

 屋台とかの飲食店の大半は中庭のフードコートにまとめてある。入り口のとこに各店共通の食券売り場があって、各店舗で買ったもんは、どこで食べてもええねんけど、中庭のあちこちに特設のベンチとテーブルが設置されてて、半分以上のお客さんは中庭で食べます。

 中庭の花とか植栽は園芸部と総合授業で園芸をとってる子ぉらで、あちこちに油絵やイラストや彫刻の展示、むろん美術部、漫研の作品。

 中庭の中央には十二畳ほどの特設ステージ。ここでは、音楽部、軽音、筝曲なんかがBG的に演奏。あくまでBGなんで、エレキなんかはありません。

 グラウンドには、それよりも大きな野外ステージ。

 軽音、ブラバン、有志参加のバンドなんかの音の大きい出し物をやってます。

 むろん、体育館やら本館の教室では普通にクラスやらクラブの取り組みも。

 そのいちいちを説明したいねんけど、やっぱり『サクラウメ大戦』です。全部で四チームで四回の公演を体育館の出し物として上演したあと、昼の一番にピロティー前の野外公演。

 頼子先輩の園城寺ゆき、百武真鈴の長船さくら。

 なんちゅうても、百武真鈴は高校生声優で『恋するマネキン』で一躍人気声優のベストスリー入りした期待の新人、いや、中学三年でデビューしてるから、もう中堅、いや、ベテランの貫録。

 頼子先輩も『恋するマネキン』の最後四回は声優として参加(285『「恋するマネキン」を観る』)、この夏には正式にヤマセンブルグ公国の王女になったし、話題性も充分。

 わずか十分ちょっとの芝居やけど、半分近くは園城寺ゆきの「やさぐれ白梅隊」と長船さくらの「はみだし八重桜隊」の戦闘シーン! 双方にソフィーとソニーという現役の諜報部員兼シークレットサービスが入ってて迫力満点!

 そして『サクラウメ大戦』が終わったあとは、そのまま、ブラバンを先頭に参加者全員と希望者がハローウィンの仮装衣装を着てパレード!

 むろん事前に警察への届け出も怠りなく、校門前と駅前には地元警察のお巡りさんが出動してくれてます。

 

 ドーーーーン パチパチパチ ドーーーーン パチパチパチ ドーーーーン パチパチパチ

 

「昼行燈って、花火のことだったんだね!」

 メグリンが、空を見上げて感心。うちらも行進しながら空を見上げる。

「少しは前向いた方がいいよ(^_^;)」

 留美ちゃんのチェックが入る。

「せやかて、こんなんやと思わへんかったし……」

「昼間の花火って、煙と音だけになるかと思ってた……」

 その名も真鈴スペシャルという花火は、空中で破裂すると、一発当たり十個ぐらいの落下傘と無数のスパンコールをまき散らす。

 全部で百個ぐらいの落下傘がキラキラ光るスパンコールの中をユラユラと落ちてくるのは、ディズニーランドのパレードかっちゅうくらいのもんで、ほんまにスゴイ!

「キャ!」

 留美ちゃんがけ躓いて、メグリンが受け止める。

「ごめん、わたしも見入っちゃった(^o^;)……でも、あとの掃除大変そう……」

「苦労性だね留美ちゃんは(^_^;)」

「あ、ほら見てみぃ!」

 PTAのお母ちゃんらと先生、それに、学校に残った生徒らで掃除にかかってる。

「あれも、真鈴先輩が手配しておいたんだろうね」

「すごい人だね、頼子先輩も真鈴先輩も」

『こら、さくら隊、遅れてるぞ!』

 骨伝導イヤホンから真鈴先輩の声。

「「「は、はひ!」」」

 グループに一個づつ渡された時は、こんなもんいらんやろと思たんやけど、いやはや……。

「最初で最後の文化祭だから自由にさせてくれって言ってたけど」

「やっぱ、キチンとしてるよね先輩たち」

『ヘックチ!』

 イヤホンを通して、どっちの先輩かわからないクシャミが聞こえてきた。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら     この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌       さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観      さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念      さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一      さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)  さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保      さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美      さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子      さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー        ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか      さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央) 高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下       頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首  

 

 

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