大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・123『アルルカンの秘密・1』

2022-08-30 14:31:41 | 小説4

・123

『アルルカンの秘密・1』心子内親王  

 

 

 巨大な戦艦でござるなあ……!

 

 客室の3D艦内案内図を眺めて、サンパチさんがため息をつく。

 見かけは小柄な女子高生という感じで、それが侍言葉、それでいて、小学生のようにポカンと口を開けて感心しているチグハグさ。西之島からの付き合いだけど、やっぱりおかしい。

 ウフフ

「おかしゅうござるか?」

「いいえ、サンパチさんには癒されますよ」

「アハハ、照れるでござる」

「しかし、ほんとうに大きいですね」

「全長1200メートル、火星航路の豪華客船よりも大きゅうござる」

「こんな大きな、それも軍艦でしょ。速度も大事でしょうし、動力はどうしているのかしら?」

「拙者も気になってツナカン殿に聞いたでござる」

「なんて、おっしゃってたの?」

「最新のパルス機関を搭載しているので、ノープロブレムだそうでござる」

「新造艦なのかなあ?」

 思わず呟くと、3Dインタフェイスに三頭身のアルルカンさんが現れた。

―― ヒンメルはピカピカの新造艦だよ! ――

「まあ、かわいい(^▽^)」

―― ナビゲーターのあるるかんだよ、分からないことがあったら聞いてね(^▽^)/ ――

「艦の動力はなんなのでござるか?」

―― パルスエンジンだよ ――

「え、ふつうのパルスエンジン?」

―― 原理はね、でも、燃料がパルスギだから、燃料効率が桁違いなのさ ――

「パルスギって、西之島の?」

―― エヘヘ、それは秘密だよ ――

 パルスギは、ちょっと前に西之島で発見されて、やっと商業ベースに乗ってきたばかりの燃料だよ。

 さっそく漢明国が目を付けてきて、理不尽な介入をしてきて、わたしが避難させられる原因にもなったんだ。

 そのパルスギが燃料に使われている。すごくビックリ!

「むむ、やはりアルルカン殿は油断がならないでござる」

―― そりゃあ、女海賊だしね。でも、普通の火星航路船と同じ三日で火星に着くから安心してね ――

「主砲の口径はいくらでござる?」

―― 45口径146サンチ砲だよ ――

「146サンチ砲!? そ、それだけ大きいと発射速度は遅いでござるな?」

―― う~んと……二発かな? ――

「二発? ちょっと……いや、かなり遅すぎではござるまいか?」

―― うん、毎秒二発じゃ並みのパルス砲並みだからね ――

「え、毎分ではござらぬのか!?」

―― アハハ、毎分二発じゃ三百年前の戦艦だよ。理論的には毎秒十発までは上げられるんだけどね、ハードの方が追いつかないんだよ ――

「ムムム、聞きしに勝る性能でござるなあ……」

「あ、船の真ん中辺でオレンジ色が灯り出したけど?」

「ああ、ヒンメル温泉だよ~。日に一回成分変更して、世界中の温泉を再現してるんだよ。長い艦内生活には潤いが必要だからね。ちなみに、今日は箱根温泉、入ってみる?」

「え、入れるの?」

―― ココちゃんはゲストだからね、遠慮しなくていいよ。入るんだったら、担当さん呼ぶけど ――

「え、そう……お願いしようかなあ」

―― 了解。サンパチさんは艦に興味ありそうだから、艦内見学してもいいよ ――

「しかし、殿下の傍を離れるわけには……」

「大丈夫だよ、お風呂入るだけだから」

―― うん、そうしなよ。サンパチさんには艦内案内図送るし ――

「お……おお、送られてきたでござる! これは、ワクワクするでござる!」

―― じゃ、そういうことで! ――

 

 トントン

 

 あるるかんさんが笑顔で消えると同時にドアがノックされる。

『案内係のアルミカンです、お風呂場までご案内いたします』

「「早!!」」

 そうして、サンパチさんは艦内見学に、わたしはヒンメル温泉に向かった。

 

 アルミカンさんからお風呂セットをもらって浴室に入ると、湯煙の向こうに先客のシルエット。

「ごいっしょさせてください」

「おお、これはこれは(^▽^)」

「え、アルルカンさん?」

「周回軌道を離れて航路についたので、一番風呂を頂いています。さあ、こっちへ、源泉かけ流しはこっちですよ」

「あ、じゃあ、失礼します」

 いっしょに並んで、アルルカンさんの視線をたどると、大窓の向こうに月と地球。それがゆっくりと、じっと見ていなければ分からないくらいのスピードで離れていく。

「もっとスピードは出るんですが、旅の始まりは、このくらいがいいと思いましてね……」

「そうですね……」

 考えたら暢気すぎる。

 仮にも、わたしは拉致されたんだ。それが、拉致した張本人のアルルカンさんと、のんびり湯船に浸かって、ゆっくりと遠のく地球を眺めている。

 諸事のんびり屋のわたしだけども、このノンビリは、多分にアルルカンさんの持ち味からも来ているんだと思う。

 不思議と気持ちは穏やかなんだけど、わたし以上にのどやかなアルルカンさんをいたぶってみたい気持ちになってきた。

 そうですよ、地球を眺めているアルルカンさんのまつ毛は、児玉元帥のそれを偲ばせるくらいに長くてきれい。あのまつ毛に、湯気の水玉を憩わせたら、なんだか物語が始まりそうな気がして、ちょっと意地悪を言ってみたくなった。

「アルルカンさんは、義体ですか?」

「ふふ、分かりますか?」

 こっちを向いたアルルカンさんの顔には、わたし以上に意地悪な微笑みが浮かんでいたわ。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首 パイレーツクィーン:メアリ・アン・アルルカン(手下=ツナカン、サケカン)
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  •  

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・50『よくできた過年度生』

2022-08-30 06:54:28 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

50『よくできた過年度生小菊 





 めったに「兄ちゃん」とは呼ばない。「腐れ童貞」とか「あんた」で済ましている。

 だって、あいつは本当に腐っているんだからね!

 あたしと同じDNAだからルックスが悪いわけじゃないんだ、根性が腑抜けなわけよ。

 人と争うことが嫌いってか、根性無しだから、人とぶつかりそうになったらフニフニ笑ってごまかす、かと言って、孤高の独立独歩なんて出来ないから上っ面だけ人や世間に迎合している。なにごとも普通がいいとか言って努力ってことをしない。

 ヘタレ中のヘタレなんよ。

 長年のフニフニが染み付いてしまって、口がωの形になってやんの。

 だから、人からは雄一とかゆう君とかは呼ばれないで「オメガ」だもんね。

 そんなあいつは、女の子とも、きちんと向き合えないから童貞なんだ。

 高校生で童貞ってのは不思議じゃないんだけど、あいつは改善の見込みがないから、一生童貞で終わること確定!

 江戸時代から続いてる妻鹿家も、あいつの後は続かなくなって絶えてしまうわね。

 伝統とか格式とかは興味ないんだけど、男として、人間としてヘタレてるのはサイテーだと思うわけよ。

 あいつは、頼まれたら断らない。断る勇気がないんだ。

 だから、緊急の事態でもあったから、つい命じてしまった。

 

「ちょ、あんた担いで!」
 

 昨日の話よ。

 食堂で増田さんが、熱々のラーメンを三杯もかぶってしまって大やけど。

 すぐに保健室に運ばなきゃならないんだけど、ああいう大勢人がいる状況では――だれかがやるだろう――という群集心理で、人は率先しては動こうとはしない。だから緊急避難的にあいつに命じたわけよ。

「妻鹿さんて、ほんとにステキですね!」

 水をかけまくるという初期対応が適切だったので、火傷の痕が残ることも無く、無事に増田さんは一泊二日で退院した。

「ほんとにオメガさんにはお世話になりました。わたしって見かけよりも重いから運ぶの大変だったと思うんですよね、それに運ぶだけじゃなくって『大丈夫! たくさん水で冷やしたから大丈夫!』って、ずっと励ましてくれて。ほんとに素敵な上級生です! で、その上級生にテキパキ指示を出す妻鹿さんは、もっと素敵です。お二人の息の合い方羨ましかったです、お姫様抱っこだったから、スカートとかが危うかったんですよね。オメガさんが『小菊!』って声を掛けると、すかさず妻鹿さんが上着で隠してくれたでしょ、すごいと思ったんです。だって苗字じゃなくて名前ですよ、妻鹿さんのことを下の名前で呼ぶなんて……それで、妻鹿さんも『うん!』と言って、ずっと上着でスカートを押えてくれて……あの呼吸の合い方……あれは……その……彼と彼女の関係だったんですね!

 目をキラキラさせて、増田さんはため息をつく。

「ちょ、あの、それはね(;'∀')」
「入学式の日から、たびたび二人の様子を見せてもらいました。お二人は理想的な高校生カップルです( #´艸`#)!」

 この思い込みに一言言おうとすると先生たちがやってきたので中断せざるを得なかった。

 増田さんの勢いは止まらずに、先生たちにも感動を与えてしまった。

 先生なんだからさ、誤解は正してほしかったんだけどね。

「個人情報は言えないからな……」

 あたしとあいつが兄妹だということは伝えてくれない。

「でも、留年生じゃないことは言っておいたぞ」

 田中先生ね……不器用すぎ!

 入学二週目の今日、あたしは、よくできた過年度生ということになってしまった!

 過年度生ってのは、前年度に別の高校を中退して、新たに受験した新入生のこと。で、これって、留年生であるよりも人の想像力を刺激してしまうのよね!

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田さん           小菊のクラスメート
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魔法少女マヂカ・287『八丈島沖空中戦・3』

2022-08-29 10:05:41 | 小説

魔法少女マヂカ・287

『八丈島沖空中戦・3語り手:マヂカ 

 

 

 定遠・鎮遠の船霊は中国どころかアジア系でもない。ブリンダやサム同様の欧米系だ。

「そうか……思い出した、あの二人はドイツ製だったんだ」

 孫悟嬢の呟きで思い出した。

 日清戦争の頃の中国艦艇はことごとく欧米製だ。

 かくいう日本も第一次大戦後に戦艦扶桑ができるまで、主力艦の大半は英国製だった。

 だったが、日本は輸入した艦艇にさまざまに手を加え、性能も姿形も日本の軍艦に変えていった。

 最後の輸入戦艦であった金剛は、終戦直後の呉港で見た時は、並んで擱座していた純国産の伊勢・日向と比べても遜色がないほどの日本美人だった。

 定遠・鎮遠の佇まいに中華を偲ばせるものは、艦首両舷に取り付けられた龍の彫り物ぐらいでしかない。

 人の姿になった定遠・鎮遠は頭にティアラを付けていて、そこに兜の飾りのように小さな龍が付いていることが、中国艦であった名残……いや、鎮遠の方は、戦闘で失われたのか、その龍さえ付いていない。

 

「おのれ、劣等魔法少女め……かくなる上は、この得物で勝負だ!」

 

 シャラン!

 

 意外に無骨なロングソードを抜いた。

 秀逸な容貌、それに相反するように無骨な長剣。

 シャラン

 こちらが実体化させた得物は反りの浅い村正の打ち刀。孫悟嬢は祖父ゆずりの如意棒だ!

 セイ!

 裂ぱくの気合いが揃った。

 ガシ! ゲシ! チュイン! カキーン!

 共に二合打ち合わせた後、再び距離を取り、睨み合いながら八丈島の上空を回った。

「二人とも、これは日本の悪党ファントムと魔法少女の戦いだ。なぜ、中国の船霊が出しゃばる!?」

「そういう、お前こそ孫悟空の孫娘でありながら日本の肩を持つ?」

「質問に質問で返すな!」

「サル女に返す答えなどもっておらん! 尋常に勝負しろ!」

「ムキー! サル女だとぉ!」

 トオオオオ!

 怒りに頬を染め、如意棒を上段に構えて突き進む孫悟嬢。

 横から手出しさせないために、鎮遠に打ちかかって牽制する。

 チュイン! カキーン! ガシ! ゲシ! ガキーン!

 トー! セイ! オリャー!

 ガシガシガシ! ガキーーーン! チュイーーン!

 激しい打ち合いのため、八丈島の海は、嵐のように沸き立って、港を出たフェリーや漁船が、港内に退避し始めている。

 出撃の度に思う。いまだに、人を巻き込んだことはないが、気象庁は、この突発的局地的な嵐をどう説明するんだろうと他人事ながら心配になる。

 ガキーーーン!

「ここらへんにしておこう……」

 防波堤を蹴って打ち込むと、鍔迫り合いの火花を散らせながら鎮遠が囁いた。

「なんだと?」

 不審の眼差しを向けると、剣を下段に構えたままプールの向こう側ほどの距離を置いて唇の形だけで伝えてきた。

―― 戦うのは本意ではない ――

「なんだと?」

―― こんど、ティアラに龍が付いていないことを説明する ――

「鎮遠……」

―― じゃあね ――

 そこまで言うと、数百メートルほども斜め上に飛んで、姉の定遠を横抱きに掴まえて虚空に向かってジャンプした。

「こら、離せ! 鎮遠!」

 瞬間、妹をなじる定遠の罵声の前半分だけが空に残響した。

 チンエーーーン!

 気象庁は、島の東西を吹いていた風が八丈島の山腹にぶつかることによって生じた自然現象であると、苦しい解説をしていた。

 

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長 アキバのメイドクィーン(バジーナ・ミカエル・フォン・クルゼンシュタイン一世)
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔
  • サム(サマンサ)     霊雁島の第七艦隊の魔法少女
  • ソーリャ         ロシアの魔法少女
  • 孫悟嬢          中国の魔法少女

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
  • ファントム      時空を超えたお尋ね者

 

 

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・49『キャーーーー!!』

2022-08-29 06:39:33 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

49『キャーーーー!!小菊 





 いくつかの原因があると思う。

① あたしの制服がピッタリサイズで、ブカブカサイズが多い一年には見えないこと。お祖父ちゃんが「小さくなったら、またあつらえりゃいいさ。お仕着せ(制服)は粋に着こなさなくっちゃ」と言て、ピッタリのをあつらえてくれたのが裏目に出た。

② 担任の田中先生が頼りない。配布物のことで一言言ったら、それからずっと頼りにされてしまっている。

③ 何の因果か、腐れ童貞の雄一が……いちおうアニキだったりするんだけど、何回も、うちの教室やら講堂やらにやってきてクラスメートの前に顔を晒す。信じらんないけど、あれがイケメンの上級生に見えているらしい。その雄一に対等以上の口の利き方をしている。

④ 出席番号いっこ前の増田さん(ほら、暗くて愛想のない子)が、変になついてきて、なんだかあたしの子分みたくなってきたこと。入学一週間目で子分を従えている一年生なんてありえないし。

 ……そんなこんなで、あたしは、しっかりものの留年生ということになってしまっている!

「だから、今日はあたしが買ってくるから!」

 食堂前で宣言した。

 学食は入学三日目から利用してんだけど、一年生には珍しいのね。増田さんは、教室でお弁当が食べられない子で、あたしにくっ付いてきた。で、券売機の列に並んでると担任の田中先生に放送で呼び出されて「あ、わたしが買っときます」と、増田さん。それ以来一週間、増田さんがパシリみたく券売機に並ぶようになってしまったのよ。で、ますます親分子分みたくなってきたので、今日こそは「あたしが買ってくるから!」になったわけよ。

 そんで、あと三人でランチの食券二枚が買えるところで悲鳴が上がった。

 キャーーーーーー!!

 悲鳴に続いてドヨメキやらザワメキ!

 なんかあったんだ!? 列を離れて駆けつけた。

 増田さんが倒れている。で、抱えた胸のあたりからは湯気立ってラーメンの出汁の匂いがする。傍らにはトレーとぶっちゃけられたラーメン鉢が三つ転がっている。

 あたしは、壁際にあったバケツを掴んで、張ってあった水を増田さんの胸にかけた。

「だれか、もっと水!」

 火傷は、その初期に大量の水を掛けて冷やすことが重要なんだ。でも、こういう時に大勢の人間がいると、誰も動かないもんだ。

「ちょっと、あんた水!」

 直ぐ近くに居た男子に命じる。

「お、おお!」

 返事はよかったけど、こいつはコップの水を持ってくる。

「バカ! もっとたくさん!」

 周囲のバカたちは、次々に水を満たしたコップを持ってくる。

「こんなんじゃ足りないわよ!」

 すると「南」という名札を付けた食堂のオバチャンがホースを持ってきてくれた。

「これでやんな!」

 上着を脱がして、まんべんなく水を掛けてやる。増田さんの目は虚ろになってきた。
 ほんとは上半身裸にして水を掛けてやらなきゃならないんだけど、なんせ食堂の中、それははばかられる。

「救急車、とりあえず保健室に運んだ方がいいよ」

 オバチャンの声をもっともだと思って顔を上げたところに腐れ童貞。

「ちょ、あんた担いで!」
「お、おお」
 
 胸を火傷しているので、兄貴はお姫様抱っこで増田さんを抱えて保健室に走った。

 しっかり者の留年生は、もう確定的になってきてしまった!
 
  

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田さん           小菊のクラスメート
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くノ一その一今のうち・17『総務二課の秘密・1』

2022-08-28 13:30:30 | 小説3

くノ一その一今のうち

17『総務二課の秘密・1』 

 

 

 銀行とかスマホの店に行ったらいるじゃない、コケシに手だけ付けたようななまっちろいロボット。

 胸のとこにモニターが付いていて、お客用のインタフェイスも兼ねてるやつ。

 そういうロボットが侍言葉で迫ってきた。

「どうぞ、お掛けになって、暫時お待ち下され」

「はい、ありがとうございます」

 ロボット相手だけど、きちんと受け答えしておく。ロボットはもちろん、部屋のあちこちにカメラやセンサーとかがあって、油断がならない。

 下げた頭の下にロボットの一本足、そのつま先にカメラ。スカートを押える手に力が入る。

 

 ロボットが引っ込んで、目だけで観察。

 

 観察と言っても、キョロキョロはしない。

 ソファーの背後は座る前に確認済み、ドアの周囲はソファーに腰を下ろす瞬間に、パーテーションの向こうは六人分の事務机とロッカー、窓に背を向けて管理職(たぶん部長)のデスク。壁の半分はロッカーやキャビネット。天井には冷暖房用のダクトの吹き出し口。観葉植物が二鉢。

 はっきりそれと分かるカメラは、おそらくダミー、実用はデスクライトのフレキシブルパイプやダクトのスノコの中。今どきの事務所には、ややそぐわない印象派の肖像画。その少女の視線がおかしい、瞳にカメラ……ダミーだ、本物は額縁に隠してある。ロッカーの前にはパンチカーペット、おそらく感圧のセンサーが仕込んである。

 数秒の内に気が付いたんだけど、ガン見はしていない。

 視界の端に捉えただけで見当はつくんだ。

「やあ、お待たせしてしまって申し訳ない!」

 え?

 元気な声で入ってきたのは、百地の社長室に来ていた狸じじいだ。

 多少驚いたけども、気取られないように立ち上がって頭を下げる。

「百地事務所の風魔そのさんだね、徳川物産社長の徳川です」

「は、はい、よろしくお願いします」

「総務二課は社長の直属なんだ。よろしくね」

「こちらこそ……紹介状と履歴書です。御検分ください」

「はい、おおよそは百地社長から伺っているよ……ほう、両方とも手書き、それも達筆だ……預かります」

「どうぞ……」

 秘書っぽいオネエサンがお茶を置いてくれる。

「ありがとうございます」

 ん、気配が事務服のオネエサンといっしょだ。

「秘書の桔梗君です、一課の樟葉君とは姉妹なんでね」

「あ、失礼しました」

「うちは『徳川物産』なんて大層な社名なんで、ちょっと驚いたでしょ」

「いえ、お名前の通り、立派な会社だと思いました」

「戦前からある会社だからね、設立は大正三年です」

「1914年ですね」

「ほう、直ぐに西暦換算ができるんだ」

「たまたまです、第一次大戦が始まった年ですから」

 英数は苦手だけど、社会は、ちょっとだけ得意。

「そうだね、うちも大戦景気をあてこんで設立した貿易会社です。本業を支えるためにね」

 本業?

 ちょっと意外。丸の内にビルを構えて物産会社を名乗っているんだから、堂々の貿易会社だよ。貿易が本業でなきゃ何が本業?

「徳川の二代将軍を知っているかなあ?」

「えと……徳川秀忠だと思います」

「そう、実直な人でね、側室を持たなかった」

「聞いたことあります、奥さんが側室を持つことを許さなかったんですね」

「うん、でも一回だけ浮気したことがあってね、それも男の子が生まれたんで、保科(ほしな)という大名の養子にしてしまうんだ」

「それは知ってます、保科正之ですよね、会津藩の殿さまになるんですよね」

「よく知ってるね、その通りでね、秀忠はお江が死んだあと、やっとお目通りを許して松平の姓を与えてやるんだ」

「…………」

「その子孫の殿様が、幕末に成り手の無かった京都守護職を引き受けて、新選組のスポンサーになって、そのために幕府が瓦解した後は薩長にいじめられちまった」

「白虎隊の悲劇とか……」

「そう、お取りつぶしは免れたけど、米の取れない下北半島に転封されて、ずいぶん苦労したんだ」

「下北半島って、恐山のあるところですよね?」

「そうだよ。でも、それが本題じゃないんだ」

「?」

「実はね、秀忠には、もう一人隠し子がいたんだ」

「え?」

「御庭番の娘とできてしまってね」

「おにわばん……御庭番……ああ、将軍直属の忍者ですね」

「この娘との間にも男の子が生まれてね。これは、さすがに言い出しかねて、歴史には残っていない」

 そこまで言うと、社長は、じっとわたしの顔を見る。

「見目麗しい……とは、女性を褒める言葉だけどね、まさに眉目秀麗な男子で、頭も良くて学問にも秀でていた。母親からは優れた身体能力を受け継ぎ、恐らくは、徳川三百年の歴史で随一であったであろうと言われている……」

 じっと目を見つめられて、次の言葉が出てこない。

「え、えと……」

「ここから先を聞いてしまったら後戻りはできなくなる」

「は、はい」

「実はね、その隠し子の子孫が……この、わたしなんだよ」

「え、え……はい……」

 

 いろんな意味で反応に困ってしまった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・48『(#^.^#)こんな顔して笑う風信子先輩』

2022-08-28 06:53:04 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

48『(#^.^#)こんな顔して笑う風信子先輩シグマ 




 ね、茶道部に入らない?

 優しい言葉の響きに、ついホロっとしてしまったけど、風信子先輩はとんでもないことを言っている。


 仮にも、あたしたちは新入部員の勧誘をやっているサブカル研究会の二年生と三年生なんだ。

 今日は一人も部員を獲得できなかったけど、一応独立した同好会なんだよ。

 そのあたしたちに勧誘を掛けてくるなんて、ちょっと心に隙間風。

「それって、坊主(釣りの用語で収穫無しの意味)の俺たちに、お茶でもって意味なんだよな?」

「それならコンビニでお茶菓子とか買ってくるぞ」

 オメガ、ノリスケ両先輩は風信子先輩とは幼なじみなので、言葉の裏を解釈している。

「ううん、文字通り勧誘してんの。でも、とりあえずお茶会でもいいわよね、ちょっと風が冷たくなってきたし」

 ノリスケ先輩はコンビニに、あたしたちは茶道部の部室になっている作法教室に向かった。

 

「いいなーいいなー、大きな和室が二つもあるじゃないですかー」

「待っててね、いま、お茶入れるから。オメガは、ちょっと手伝って」

「ああ、いいよ」

 本格的なお点前が始まるのかと思ったら、続きの板の間から、オメガ先輩が電気こたつを運んできた。

「真ん中だとコードが足りないから、床の間寄りにね」

「分かった」

「こたつのお布団とかあるんですか?」

 作法教室は純和風だけど、鉄筋校舎の一階なので、けっこう寒い。

「押し入れ開けたら座布団なんかと一緒に入ってる」

 こたつの用意をし終ると、風信子先輩がお茶道具一式を持って現れた。

「それ、普通の……」

「そうよ、キチンとしたお点前は、正式な部活の日か行事の時にしかやらないわ」

 出てきたのは、茶筒と電気ポットと急須と湯呑だよ。

 お湯が沸いたころにノリスケ先輩が、コンビニ袋をぶら下げて戻って来た。

 こたつの四辺に収まってお茶会が始まった。

「他の部員は来ないのか?」

「部活の日じゃないし、全員集まっても三人しかいないしね」

「さ、三人なんですか!?」

「そんなに少ないのか、茶道部って?」

「過疎のネトゲみたいだよなあ」

「卒業した三年生がいたころは七人だったんだけどね」

 そう言いながらコポコポとお茶を注ぐ風信子先輩。さすが茶道部で、あたしの湯呑には茶柱が立った。

「あ、あれ、みなさんの湯呑にも茶柱が……」

「へへ、一応茶道部の部長だからね」

 ホーっと、サブカル研の三人は感心する。

「茶道部もサブカルも頭文字は『さ』でしょ?」

「あ、そういえばそうだな」

「だから、気楽に『さ』道部っていうのはどうかしら?」

 風信子先輩が奇妙なことを言い出した。

「「「『さ』道部?」」」

「うちの正式な部活は、月に一度お茶の先生に来てもらって稽古するときだけなのよ、それ以外は好きな時に集まってお茶会やってるのが茶道部なの」

「へー、そうだったんだ」

「なんか、いつでも地味~にやってらっしゃるって感じだったんだけど」

「こんなきちんとした作法室使ってるもんね。でもね、部員が三人に減っちゃって寂しいのよ。お茶会やっても、部員が一人ってときもあるのよ」

「あーー、この和室で一人というのは寂しいですよね」

 あたしは『君といた季節』ってエロゲで、ヒロインが一人旅館に泊まるシーンを思い出していた。あれは、チョー寂しかった。ま、その効果で、彼との再会フラグが際立ってくるんだけどね」

「でさ、『さ』道部ってくくりでやってこーよ。むろんわたしも参加させてもらうからさ」

「え、それって、先輩もサブカル研やってもらえるってことなんですか?」

「まあね、ま、持ちつ持たれつということかなあ」

 そういうと、先輩は、いそいそと立ち上がり、隣の部屋にある水屋ダンスみたいなのを開けた。

 すると、ズイーンと音がして、パソコンが三台せり出してきたではないか!

「ま、お茶会しながらこんなこともやってるの。話題は豊富でなきゃね。奥には、もう二台ノートパソコンもあるわよ」

 (#^.^#)こんな顔して笑う風信子先輩はただものではないと感じたよぉ……。


☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田さん           小菊のクラスメート

 

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せやさかい・344『畳の温もり』

2022-08-27 15:08:40 | ノベル

・344

『畳の温もり』さくら   

 

 

 け躓いたら、そこに杖があったゆう感じ。

 

 ヤマセンブルグから帰って来ると、もう虚脱状態。

 行きしなの飛行機、オリエント急行、エディンバラのミリタリータトゥー、初めてのスコティッシュダンス、そして……ヤマセンブルグで正式な王女宣言をやった頼子さん。トドメの芋ほり。

 ほとんど半月にわたるあれやこれやが、整理のつかへんままに頭の中でグルグル回ってる。

 25日から学校が始まってる。

 午前中だけの短縮授業やねんけど、なんともしんどい。留美ちゃんの強い勧めで、旅行前に宿題をやっといて正解。

 

 やっぱりね、頼子さんが王女宣言してヤマセンブルグの人になってしもた……喪失感。

 

 自分にお姉ちゃんがおって、そのお姉ちゃんがお嫁に行ったらこんな感じ?

 卒業したらヤマセンブルグに行くんや。

 王女さまやし、将来自分が入るお墓まで用意されてて、めったに帰ってこられへんねやろなあ……あ、日本は行くとこで帰って来るとこやないねんわ。

 ウクライナが、あんなことで、ヨーロッパの国はどこも大変や。

 国民の結束が必要やから、自分が、お祖母ちゃんの女王陛下と立たならあかん。そない思ての決心。

 日本に帰ってから、頼子さんは、まだ学校に来てへん。手続きやら挨拶やら、いろいろあるんやろねえ。

 十七年の人生で、こんなに学校に行くのがしんどいのは初めてや。

 せやさかい、今日の日曜日は嬉しい。け躓いたら、そこに杖があったゆう感じ。

 

 詩(ことは)ちゃんは、あくる日から大学に行ってる。

 うちとは逆に、なんか掴んで帰ってきたみたい。話したら、なんか言ってくれそうやねんけど、きっと圧倒されそうで、詩ちゃんも、そういうとこ分かってるようで、うちには、そう言う話はせえへん。

 今朝は、留美ちゃんといっしょに本堂の大掃除。

 だだっ広い本堂やさかい、めっちゃ遣り甲斐があって、掃除してる間だけは忘れることができた。

 

 ……ちょっと暑なってきた。

 

 じつは、エアコンは止めてる。

 ほんで、本堂の外陣で寝てる。畳の自然な冷たさが気持ちようて、横になったんや。

 まだまだ夏やけど、それでも、今朝はだいぶマシで、それで寝てしもた。

 せやけど、さすがに畳が温もってしもて、ちょっと暑い。自分の温もりやねんけど、ちょっと疎ましい。

 コロン

 そのまんま、横に転がると、また冷こい畳。

 う……うちの放射熱やろか、思たほど冷こない。

 コロン

 もう一回転。

 ん……ハッキリと温い。だれか寝てた?

 留美ちゃん? いや、留美ちゃんは部屋で本読む言うてたし。

 

 ガバ

 

 起きてみると、広い本堂にうち一人。

 え、だれが、横で寝てたん?

「やっと起きたんか」

 後ろで声がしたかと思うと、寝起きには最悪の顔。

 作務衣姿のテイ兄ちゃんが、呆れた顔して立ってる。

「顔でも洗てこい、ぶちゃむくれやぞ」

「ふぇ?」

「惜しいことしたなあ」

「え、なにが?」

「今の今まで、さくらの横で頼子さん寝ててんぞ」

「え、ええ! ウソ!?」

「ひょこっとソフィーの車で来てな、そんで、さくらが気持ちよう寝てるさかい『わたしもいっしょに』云うて、一時間程や」

「ちょ、なんで起こしてくれへんかったんよ!」

 思わず、飛びかかってしまう!

「こら! なにすんねん!」

「おいおい、本堂で暴れたらあかんやないか」

 お祖父ちゃんの声で、ちょっとだけ正気に戻る。

「リビングの方は用意できてるで、早よおいでや」

「え、用意?」

「せや、久々に頼子ちゃん来てくれはったさかい、リビングで歓迎会、早よおいでや」

「アハハ、びっくりしたか!?」

「も、もおおおおお!」

「牛か、おまえは」

「クソ坊主!」

 本堂の縁側に出てみると、お馴染み青色ナンバーの車が停まってる。

 

 頼子さーーーん!!

 

 うん、明日からはニュートラル! いつものさくらでいけそうです! 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら    この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌      さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観     さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念     さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一     さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは) さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保     さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美     さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子     さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー      ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー       ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか     さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり) さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 女王陛下      頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首 

 

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漆黒のブリュンヒルデQ・087『駅前散歩・2』

2022-08-27 10:20:45 | 時かける少女

漆黒ブリュンヒルデQ 

087『駅前散歩・2』   

 

 

 フィギュアの大半はアニメキャラだ。

 それも、その大方が女の子のキャラだ。髪色は色鉛筆の見本のように様々で、なぜかミニスカで露出面積が大きい者が多い。

 タタタタタタタタ タタタタタタタタ タタタタタタタタ

 目の前を目まぐるしく走り回っているフィギュアたちも、その範疇に入っているのだが、ちょっと違う。

 顔つきがバタ臭い。彫が深くて口が大きく、張り付いたような笑顔だ。

 啓介流に言うと、ちょっと萌えにくい顔つき体つきなのだ。

「これって、アメコミにゃ!」

「アメコミ?」

「アメリカンコミックにゃ」

「アメリカのマンガなのにゃ、アキバの人気もいまいちニャ」

「それが、なんで豪徳寺に?」

「ニャニャ、今度は空から降って来るニャ!」

 フィギュアたちが一本棒になって、それが、何列も何列も束になって豪徳寺の街を縫っていく。

 幻なのは分かっている。

 いくら、激しく降り注いでも、建物にも道路にも傷一つ付くわけではない。

 3Dの実写映像にCGの映像を重ねたような感じなのだ。

 わたしは、ヴァルキリアの戦乙女だ。飛び来る矢玉は無意識に躱してしまう。

 本能的に、矢玉が落ちてこない道筋を数十メートル先まで察知して、眼前に迫った矢玉を駆けだしヒーローのように

叩き落とすようなことはなく、あたかも、矢玉など振っていないかのように進むことができる。

 バシ

 そういうことに飽きたのか、ネコの本性なのか、ねねこが一体のフィギュアを叩き落とした。

 別の一体が立ち止まって、叩き落とされた仲間を抱き起した。

「あんたたち、ひょっとして、あたしたちのこと見えてる?」

 バニーガールのそいつは、まるで、闇酒場に潜り込んだFBIを糾弾するような顔つきで指をさしてきた。

「ニャニャ!」

 ビックリしたねねこが、後ろにまわる。

「あんたたち、何者?」

「あたしは20ミリ、この子は12.7ミリ。500キロとか1Tとかが起きださないように走ってるのさ。そこのネコ、邪魔しないでよね!」

「ニャ!?」

 それだけ言うと、あとは無視して疾走するフィギュアたちに混じって走り去っていった。

 

 コトンコトン コトンコトン

 

 気が付くと、小田急の高架の上に立っていて、レールがときめいて列車の接近を知らせている。

「いくぞ、ねねこ」

「ニャ」

 運転手は、前方に女子高生二人の姿をみとめて、警笛を鳴らして急ブレーキを踏む寸前だった。

 あとでカメラを確認しても、なにも写っておらず。繁忙期の疲れが出たのかと思って休暇を取った。

 

「そんた、大戦中ん機銃弾たちじゃろう」

 祖父のマッサージを終えた玉代がのどかに答える。

「かごんまも爆撃されたで憶えちょっ、機銃弾は撃ちだされたや、ほんの何秒かん命じゃっでね。化くっ者もおっかもしれんね」

「そうか、八月は終戦の月だから、そういうこともあるかもニャ」

 興味薄げに冷蔵庫からアイスを取り出すねねこ。

 この夏は、クロノスに振り回されて家や町内のことがとんでしまっていた。

 祖父が読み残した新聞を拾い上げると、豪徳寺の北の建設現場から一トン爆弾の不発弾が見つかったと出ていた。

 ちょっと気にならないでもなかったが、ねねこが差し出したアイスを三人仲良く食べているうちに忘れてしまった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ
  • 福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員
  • 福田るり子             福田芳子の妹
  • 小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長
  • 猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
  • 門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ
  • おきながさん            気長足姫(おきながたらしひめ) 世田谷八幡の神さま
  • スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい
  • 玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
  • お祖父ちゃん  
  • お祖母ちゃん            武笠民子
  • レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女
  • 主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父
  •  

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・47『ため息が漏れる』

2022-08-27 06:55:12 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

47『ため息が漏れるシグマ 

 

 


 ついてない……今年も担任は堂本先生だ。

 先輩も昨年度と同じヨッチャン先生で、うっかりヨッチャンのために小間使いに使われているらしい。

 うちの学校は、もうちょっと考えた方がいいと思う。

 で、あたしは考えた。

 サブカル研究会の部員を増やしたい。いや増やす!

 部員は、今のところ、あたしとオメガ先輩とノリスケ先輩。

 二人の先輩に不足はないんだけど、三人だと部室がもらえない。

 べつに正規の部活にならなくてもいいんだけど、部室は絶対に必要だ。

 同好会だと、放課後の教室とか空き部屋とかを、その都度探さなきゃならない。

 サブカル研究会ってのはエロゲ専門の部活だから、そんな空き部屋とかでやるわけにはいかないよ。

「でも、どうやって勧誘とかするんだよ」

 ピロティーの下に机を持ち出し『サブカル研究会 部員募集中だよ!』って紙を貼りつけてるんだけどね。

「エロゲやりたい人ぉぉぉぉぉーーーーー!」と叫ぶわけにもいかない。

「いい男が二人いても、なにか呼び込みとかしなくちゃ誰も寄りつかないんじゃね……あ、シグマに言わせるわけにはいかないってことで、かわいい女の子が居ないって意味じゃ……」

「いいんです、あたしが正面に出ても逆効果だし……」

 ノリスケ先輩の言葉に素直に反応するけど、なんだか自虐的に響いてしまう。

「場所が悪かったかな……」

 オメガ先輩がさり気にフォローしてくれる。

「でも、ここが一番人通りが多いですから」

 

 三人の会話は微妙に噛みあわない。

 分かってるんだ、黙っていたら雰囲気悪いから喋ってるだけ。でも、収穫がないもんだから、ついネガティブになってしまう。

「アニメとかゲームとかで押し出してみたらどうかなあ」

「うーーーん、それだと入ってもらってから『じつは……』って説明しなきゃならないでしょ、そこでドン引きされても困るわけで……」

 あたしは以心伝心で、ある程度はいけると思っていたんだ。

 どんなことやるんですか? そう聞かれたら『君の名を』とか『君といた季節』とかのタイトルを言う。同好の士なら、それだけで分かる。は? てな顔をされたらそこでおしまい。とにかく、あと二人入れて部室をゲットできればそれでいい。

 むろん、最初からガチガチのZ指定のをやるつもりもない。最初はコンシューマー版。PSとかでやれる、そういうシーンはカットされてるやつ。それもラブコメ風とか萌え系。『ニャンパラ』とか『ほれきす』とか平気でアニメにもなってるやつ。そういうライトユーザーやライトユーザーを装ってる人もけっこう多い。やってるうちに「これって、パソコンでやれるのもあるよね?」「その方も隠れキリシタンか!?」ってことになって、いよいよ最前線に突入ってことになる。そういう展開を狙ってる。

 さっき、ノリスケ先輩が言った通りなんだけど、できたら――おぬし、分かっておるな――的なの。ノリスケ先輩もオメガ先輩も、程度の差はあるけど、そういうタイプだったしね。

 もしもし、ほんとうにコンシューマーで停まってる子なら、それはそれでいい。ふつうの部活ではプレステ4とかで大人しくコンシューマー。ときどきガチの部員だけで、神域の話ができたらいいしね。

 考えると、ノリスケ案に近くなって……やっぱ、間違ってたかな……でも……こだわりと妥協のループに陥ってしまう。

 ウオーーーー!  キャーーーー!

 ときどき周りで歓声があがる。

 ピロティーには他の部活もきているわけで、新入生を獲得できると、その都度部員たちが雄たけびを上げているんだ。

 野球部なんか胴上げなんかやったりしている。吹部なんか女子が多いので、たまに男子が入ると女子の可愛いのがハグなんかしてる。

 水泳部の女子は水着の上にジャージの上をひっかけただけのや、下にパレオ代わりにタオルを巻きつけただけとか、サブカル研究会よりも過激だ。

 四時半をまわると、さすがにピロティーも閑散としてくる。

 めぼしい一年生は、あらかた釣り上げられてしまったみたい。

 このあとは、見学とか体験入部で来る子を狙うことになるんだけど、部室が無いサブカル研究会はジエンドを意味する。

 ハーーーーーーーー(⑉·̆⌓·̆⑉)

 さすがのあたしもため息が漏れる。

 トントン 

 先輩が、やさしく頭を叩いてくれる。いまのあたしは盛大なΣ顔になっているはずなのに、さりげない優しさにウルっとなりかける。

 ね、茶道部に入らない?

 声を掛けられて顔を上げる。

 そこには夕陽を後光のように背負った風信子先輩が、ホワホワと微笑みながら立っていた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田さん           小菊のクラスメート

 

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ピボット高校アーカイ部・21『泰西寺の石垣』

2022-08-26 14:17:03 | 小説6

高校部     

21『泰西寺の石垣』 

 

 

 ブリキ橋に行くぞ!

 

 旧校舎の前で待ち受けていた先輩は、返事も待たずに自転車置き場に走り出した。

「ブリキ橋は、行ったばかりですよ!」

「思い出したんだ!」

 一瞬、両手の荷物を持て余す。今日は体育のジャージと美術の作品を持って帰るので、かなりの荷物なんだ。

「田中くん、預かるよ」

 ちょうど昇降口から出てきた中井さんと目が合って、一瞬で理解した中井さんが両手を伸ばしてくれる。

「ごめん」

 それだけ言って、もう自転車に跨っている先輩の後を追う。

「構わん、わたしにしがみ付け!」

 勢いで二人乗りになって、先輩の背中にしがみ付く。

 とても自転車とは思えないスピードでぶっ飛ばして、数分でブリキ橋に着く。

「まだ、なにかあるんですか?」

「今日は、この先だ」

「この先?」

 要は小さな街だけど、隅から隅まで知っているわけじゃない。

 ブリキ橋を渡った山の方角に行くのは初めてだ。

「泰西寺という寺があってな、そこにドイツ人捕虜の縁(ゆかり)のものがあるんだ」

「なんなんですか?」

「ブリキ橋の前身は嵐で壊れたんだが、嵐はブリキ橋にだけ吹いたわけじゃない」

「それはそうですね」

「泰西寺の裏の崖も崩れてな、ブリキ橋の近くでもあるし、ドイツ人捕虜が、ついでに直したんだ。それを見に行く」

 

 ちょうど住職さんがいらっしゃって「要高校の郷土史研究部の者なんですが……」という先輩の名乗りに、快く案内してくださる。

 

「いまもそうですけど、当時もうちの寺は貧乏でしてね、崩れた石垣を直すお金が無くて。以前、捕虜のお一人が亡くなられた時に、うちのお寺でお葬式を出して、お墓を建てさせていただいたんです。それを恩に感じてくださって直してくださって……ああ、あの法面(のりめん)がそうです」

 西と北西が法面になっていて石垣で補強がされている。ぱっと見は分からないけど、よく見ると北西側とは微妙に積み方が違う。

「戦後、北西側の法面も補強したんですけどね、戦後のは穴太衆(あのうしゅう)という石垣の専門業者にやってもらったんですが、西側の堅牢さには驚いていたって、祖父さんが言ってましたよ」

 ご住職は、高校生の僕たちにも丁寧に接してくださる。

「いいお話ですね……裏山に登ってもよろしいでしょうか?」

 先輩も、それに合わせて丁寧に申し出る。

「かまいませんが、その靴では滑ります。孫たちのがありますから、それにお穿き替えなさい」

 そう言って庫裏にいざなわれ、本堂とのつなぎ廊下のところでグリップの良さそうな靴に履き替える。

 ん?

 本堂の方で人の気配がして、振り向きかけるけど、先輩が目で制止した。

 

 たった十数メートルほどの山なんだけど、上ってみると、はるか西に要山地の山々が広がっていて、泰西寺の裏山は、そこから伸びた尾根の尻尾だということが分かる。

「……思った通りだ」

 頂に立つと、一つの自然石に目を落として先輩が呟く。

「この石ですか?」

「これを見ろ」

 石の裏側にまわって、草をかき分け、少し土を掘って、石の隠れた部分を指さした。

「〇に十の字…………えと……薩摩藩の紋所?」

 お祖父ちゃんの仕事柄、いろんな映像を見てきたので〇に十の字が薩摩島津家のものだと思った。

「いや、その下にラテン文字でS○○○○と彫ってあるだろう。ドイツで白魔法を使う時の十字だ。よく観れば十字は〇の内側とは接していないだろう」

「え……あ、ほんとだ」

「……ということは?」

「単に石垣を補修しただけでは無くて、白魔法で保護されている」

「やっぱり、ドイツ人捕虜たちが?」

「だろうな……ブリキ橋といい、ここの石垣といい、捕虜たちと要の関係は深くて温もりの有るものだったんだなあ……せっかくだ、お墓参りもしていこうか」

「はい」

 ドイツ兵捕虜のお墓は墓地の北側の日当たりのいいところにあった。

「和式なんだなあ」

 ちょっと意外だった。

 あんな器用にブリキ橋や、ここの石垣を作るんだから、墓石の一つや二つは朝めし目のはずなのに、わざわざ日本式の四角いお墓になっている。

 十 ヤコブ・ビルヘルム・バウマン軍曹   1890ー1918  

 名前と生没年だけが十字の下にドイツ語と日本語で刻まれている。

「書式はドイツ式だ。墓石は日本式。これだけで分かるじゃないか、墓の主は仲間からも要の人たちからも愛されていたんだ。そして、同じように日本も愛してくれていたんだ」

 墓は、墓地の他のお墓同様に手入れが行き届いている。

「大事にされているんだ……」

 先輩は跪くと、自然なキリスト教式の所作で十字を切って手を組んだ。

 僕は、ひい祖父ちゃんの葬式で憶えたやり方で、踵をくっつけ姿勢を正して手を合わせた。

 

 庫裏と本堂の間に戻って、靴を履き替え、ご住職にお礼を言ってから山門を出た。

 

「……やっぱり付いてきたか」

 山門を出たところで、先輩は足を停めて振り返った。

「え、なにがですか?」

「鋲には見えないんだな……こいつにも見えるようにしてやってもいいか? そうか、よし」

 そう言うと、先輩は窓を拭くように右手をワイプさせた。

 すると、七ハ歳の天使のような女の子が山門の柱の陰から恥ずかしそうに顔を出しているのが見え始めた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 田中 鋲(たなか びょう)        ピボット高校一年 アーカイ部
  • 真中 螺子(まなか らこ)        ピボット高校三年 アーカイブ部部長
  • 中井さん                 ピボット高校一年 鋲のクラスメート
  • 田中 勲(たなか いさお)        鋲の祖父
  • 田中 博(たなか ひろし)        鋲の叔父 新聞社勤務
  • プッペの人たち              マスター  イルネ
  • 一石 軍太                ドイツ名(ギュンター・アインシュタイン)  精霊技師 

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・46『しっかりものの留年生』

2022-08-26 06:10:49 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

46『しっかりものの留年生小菊 



 

 なんで神楽坂高校なんか受けたんだろう。

 入学二日目にして頭の中は「?」と「!」でいっぱいだ。

 入試の日は、みんな、あたしよりも賢そうで大人びて見えたのに、入学二日目の今日はバカで子供っぽく見えてしまう。

 高校生にもなってブカブカの制服なんてありえないけど、ま、中には発育途上の人もいるだろうから、それはそれ。
 
 でもさ、みんな下手なコスプレに見えてしまうってのは、なんともねえ、みっともねえ……韻を踏んでしまった。

 二日目の今日は、まだ授業は無くて、いろいろ書類とか書くのと体育館でオリエンテーション。

 クラスの子は男子も女子も漂白したみたいに青白いかハイジみたいにホッペの赤い顔。緊張してんだろうけどバッカみたい。

 二三人ずつ二組ほどペチャクチャ喋ってるのがウザったい。

 どうやら同じ中学から来た者同士たまたま同じクラスになったんだろーけど、新学期早々って空気読んで、らしくしてろよ。

 あたしの前の増田さん、配りもの回すときには「はい」とか「どうぞ」とかくらい言ってよね。

 あたしは「ども」とか「うん」とか返してるよ。

 配り物で机の上が一杯になって、増田さんが消しゴム落っことした。「はい」って言って拾ってあげた。こんなさりげないことが互いの距離を詰めてくれるから、ちゃんと目を見て微笑んで返してあげたのよ。だのに、増田さんは目も合わさずに「あ」よ「あ」。

 担任の田中先生。

 うだつの上がらない顔は仕方ないわよ。

 でもね、一本調子のベシャリはなんとかなんないの!? 二分も聞いてると眠気を催すのよ!

 ま、配ったプリントのまんまの説明だから読んでりゃ分かるんだけどね。

 いい加減にしてほしいのがプリントの枚数。

 配り物は男子の列から。先生は、人数を読んで列ごとに置いて「後ろに回して」と言うんだけど、あたしの列が最後のせいか、残ったプリントをまんま置いてしまうのよね。

 で、毎回余ってしまう配り物を教卓のとこまで持っていかなければならない。

 何回か持って行ったとき、次は生徒手帳だって分かった。

 生徒手帳というのは身分証を兼ねていて写真を貼らなきゃいけない。で、その写真は、まだ先生の書類箱に入ったまんま。

「先生、写真を先に配ったほうがいいですよ。他にも健康調査票とか生活指導のとか、写真貼るのはまとめた方がいいです」

「え、あ、あ、そうだね(;'∀')」

 生徒から言われると怒り出す先生も居るんだけど、田中先生は聞いてくれる……のはいいんだけど、そんなアワアワしないでほしい。

 休憩時間に廊下に出てみると、クラスの枠を超えてあちこちで話の輪が出来ている。

 みんな出身中学や友だち同士で喋っている。

 場慣れしない感じが初々しいとも言えるけど、なんともイモに見えてしょうがない。

――え、アキバに寄れるんだ!―― ――そっちは新宿?―― なんてのが聞こえてくる。

 電車通学の子たちだ。

 あたしが神楽坂に決めたのはいろんな事情があるんだけど、電車通学のことは頭に無かった。

 交通費気にせず定期であちこち行けるのは魅力だ。また家に帰って、ソファーにひっくり返ってため息をつきそうだ。

 オリエンテーションでもプリントばっか。

 いちおうザッとは見るけど、読み切れないし、全部理解なんかできっこないって!

 それに、今度は枚数が足りなくなったりしてるしーヽ(`Д´)ノプンプン

 さすがに先生のとこまで取りにはいかないけど、肩のところまで手を上げて――足りませーん!――と、アピール。

 すると、田中先生は手持ちがないのか狼狽えて周囲をキョロキョロ。

 そんな先生に気づいて、誰かが持ってきてくれる気配がする。

「はい、おまちどう」

 ありがとう……声に出かけてビックリ。

「なんで、あんたが!?」
「小菊!?」

 何の因果か腐れ童貞のお人よしが雑用に使われていた。

 すぐに口はつぐんだけど、これで噂が立ってしまった。

 あたしは、しっかりものの留年生で、二年生の彼氏がいるんだとさ! 

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
  • 増田さん           小菊のクラスメート

 

 

 

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やくもあやかし物語・152『チカコを捜す・和歌山のみかん畑』

2022-08-25 11:16:14 | ライトノベルセレクト

やく物語・152

『チカコを捜す・和歌山のみかん畑

 

 

 電話線を伝って和歌山に来ている。

 

 ほら、江戸城の天守台で見たでしょ。

 チカコと家茂さんが寄り添ってお話してるところ。

 家茂さん、忙しくって、めったにチカコと話す機会がないもんだから、頑張らなくっちゃいけないと思っていたよ。

 いろいろ話題を投げかけて、しまいには『千両蜜柑』ていう落語のネタまで持ち出して、やっとチカコを和ませて。

 チカコもブキッチョ。

 家茂さんが投げかけてくる話題を真面目に受け止めるんだけど、受け止めているうちに話題が次に行ってしまって、喜んでいる暇がない。

 家茂さんの話が早いわけじゃない。

 もともとそうなのか、縁切り榎で――楽しむ心――を置いて来てしまったせいか、すぐに反応できないんだ(わたしにも、こう言うところがあって、オヘンコとか感動の薄い奴とか思われる)。

 それで、家茂さんが将軍になる前にお殿様を務めていた紀州の話になって、やっと追いついた。

―― ああ、家茂さんは、紀州の、それもみかん畑が見える風景が好きなんだ ――

 チカコは思った。

 海が臨めるみかん畑。そこに行けば、将軍職でアップアップしている家茂さんではなくて、本当の家茂さんに会えると思った。

 海の見えるみかん畑なら、二人で、いつまでも仲良く心を通い合わせると思ったんだ。

 

 み~かんの花が咲いている~ 思い出の道~ 丘の道~

 

 三回目になると憶えてしまった『みかんの花咲く丘』をリフレイン。

「気に入っていただいたようですね」

「そういうわけじゃないけど、もう百回くらいリフレインしてるしぃ」

 今日は逓信大臣の交換手さんと和歌山に来ている。

 和歌山は神田明神の守備範囲から離れすぎているのでアカミコさんは付いてこれないんだ。

 その交換手さんも電波通信事業法の嫌がらせで携帯に参入できないので、固定電話が通じるとこまでしか行けない。

 みかん農家さんまでは電話線は繋がってるけど、さすがにみかん畑までは伸びていない。

 交換手さんだって、みかん農家さんの家から先には出られないんだけど、お祖父ちゃんが現役時代に使っていた携帯無線機を借りてきた。これだと、携帯無線機の電波が届く範囲まで交換手さんに付いて来てもらえる。

 だから、エッチラオッチラ

 天守台で家茂さんの頭に浮かんだイメージのみかん畑を探索して、これで四つ目。

 

「ごめんなさいね、やくもさん」

「ううん、だって間違ってなかったよ、どのみかんの丘にもチカコの気配が残っていたもの」

 

 そうなんだ、チカコもイメージを追って同じところを周っている。

 それが後手に回って、わたしたちはいま一歩のところで間に合わない。

 だからね、実は、今から向かうのは五つ目のみかん畑。

 一つとばせばピッタリだろうって、聞き耳を立てていた御息所のアドバイスなんだよ。

 

 で、ドンピシャだった。

 

 チカコは、もうお雛さんみたいな親子(ちかこ)の姿もやめて、いつもの黒のゴスロリに戻って佇んでいた。

「チカコ……」

「あ、やくも……交換手さんも来てたんだ」

「今日のわたしは携帯無線機ですけど」

「差し出がましいとは思ったんだけど、チカコは、わたしたちの仲間だからね」

「うん、ありがとう。勝手に出てきてしまったのに、ごめんね二人とも」

「いいよいいよ(^_^;)」

 気の利いた言葉も浮かばないので、両手をパーにしてハタハタと振る。

「あんなにみかん畑のイメージがハッキリしていたから、ぜったい、ここに居ると思ったんだけどね……家茂さん」

「うん、だよね」

「やっぱり、わたしって、親子(ちかこ)の左手首だから、なにか足りないのかなあ、どこか届かないのかなあ……」

「そ、そんなことは無いと思うよ」

「わたしも、そう思いますよ、チカコさん」

「そうなのかなあ……もう自信なくなってきたよ」

「わたしなんか、真岡で果ててしまって、電話線か電話機の中でしか存在できませんけど、こうやって、お二人とお話ができていますもの」

「わたし、一度も家茂さんに寄り添ってあげられなかったから……ずっとほったらかしにしていたから……」

「チカコ……」

 不器用なわたしは名前を呼んでやることしかできない。

 なんか、もどかしい。

「あ、お電話です!」

「え?」

「大阪の俊徳丸さまです、いま、お繋ぎ……」

 そこまで言うと、交換手さんは急に影が薄くなって消えてしまった。

「交換手さん!」

「あ、電池切れじゃない?」

 

 わたしは急いで、ふもとのみかん農家さんまで走って戻った。

 とちゅう、二回も転んでしまった……。

 

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)

 

 

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・45『ソファーの呟き』

2022-08-25 07:05:50 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

45『ソファーの呟きオメガ 





 他のにした方がよかったかなあ……

 日曜の朝、リビングに下りるとソファーが呟いたぞ!?
 
 うちのソファーは年代物で、たぶん、うちが置屋だったころからある代物だ。

 なんでも見番て、ここいらの置屋やら料理屋の総合事務所兼稽古場的なもんが隣接してて、その見番のだったとか。

 猫足の革張りで、妖怪じみた存在感がある。春めいた陽気に、とうとう化け物の本性を現したかと怖気を振るった。

 は~~~~~あ

 ついたため息は女の声をしている。俺は身構直して手近な得物を手に取った!

 グワーーーー!

 一声叫ぶと、ギシっとソファーは身震い。俺は得物をドラゴンに出くわした勇者みたいに構え直した!

 すると、ソファーに首が生えた!

 学校は他にもあったのにねえ……ん? なんでファブリーズなんか構えてんの?

「あ……小菊」

 ソファーが背中を向けていたので、小じんまりと横になっていた妹に気が付かなかったのだ。

「あ、夕べ焼肉だったじゃん、ちょっとな(^_^;)」

 プシュー プシュー 俺はCMのようにファブリーズを噴霧する。

「焼肉は一昨日だったんですけどー」

「あ、あ、そうだったな(^_^;)」

 バツが悪いので、そそくさとリビングを後にする。

 チ!

 背後で盛大な舌打ち。入学式の可愛らしさは微塵もない。

 でも……あいつ――学校はほかにもあったのに――って言ってたよな。

 やっぱ、入学式のこと気にしてんのかなあ……。

 式場での小菊は目立ちまくっていた。

 そりゃそうだ、男子列の端っこに一人座らされ、前にも後にも座っている者がいないので目立つったらありゃしない。

 そこへもってきて、隣の男子が気に入らないのか、小菊は座席一つ空けて座り直すもんだから、いっそうワケアリな目立ち方をしてしまった。

「あら、あの子……」「なんだか……」「ねえ……」「……見ない方がいいわよ」

 そんな声が保護者席から聞こえ出した。

 これは、やっぱ兄として、妹の心の声、いや、叫びに答えてやらなきゃ!

 よし!

 階段の二段目に掛けた足を戻してリビングに取って返した。

 

「やっぱ、学校でなんか言われたんだろ! 兄ちゃんが聞いてやっから、ドーンとこい!」

「は?」

「おまえ学校が辛いんだろ? やっぱ、なんか言われたんだろ?」

「え、なにトチ狂ってんのよ!」

「他の学校にしたら~とかため息ついてたじゃねーか!」

「あ~~~あれ?」

「心の叫びなんだろ、そのあとグワーーーーって吠えてたじゃねーか!」

「ああ……定期券持ってさ、電車通学とかよかったなーって。クラスのみんな電車通学なんだよね、徒歩通学ってあたしくらいのもんだしーーー」

 

 プシュー
 

 俺は二の句を継げず、ファブリーズ一吹きして部屋に戻ったのだった。

 でも、これって後を引くんだよなあ……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校三年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校二年
  • 妻鹿小菊           高校一年 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校三年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校三年 幼なじみの神社の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)

 

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鳴かぬなら 信長転生記 85『二つの救援隊』

2022-08-24 11:07:29 | ノベル2

ら 信長転生記

85『二つの救援隊』信長 

 

 

 乙女とは、市が通う転生学園の生徒会長の坂本乙女(坂本龍馬の姉)、武蔵は俺が通う転生学院の剣術少女で宮本武蔵の転生体であることは承知していると思うんだが、念のため。

 我が学院の生徒は、再度現世への転生を願っている者で、性別が逆転している。

 市の学園は、そのままで転生を期する者たちが通う学校で、生前の性別で姿かたちに変化はない。

 その二人が、中国娘のコスに身を固め、逃避行でボロボロになった我々の前に現れた。

 乙女は、格ゲー第一人気の女性キャラ春麗のような青のチャイナ格闘服。武蔵は、レイファンのように可憐だが、相変わらずの三白眼。

 

「間に合ったああああ!」

「キャーーー!」

 

 そう叫びながら駆けてくると、眼前でジャンプして馬上の市に抱き付く乙女。

 小柄な市は、乙女に抱きすくめられ、危うく馬の尻から落ちそうになるが、乙女が後ろに回した手で器用に手綱をさばいて馬と人間二人の合体オブジェのようになっている。

「茶姫、紹介しておく(前述の二人のプロフを説明する)」

「そうか……よい仲間ではないか、危険を冒して、二人を救いに来たのだな」

「それもあるが、茶姫殿、あなたも連れて戻ってこいというのが扶桑国、転生学院・学園両生徒会の総意なのですよ」

「まことか……というより、どうして、今のわたしの状況が分かったのだ?」

「市が送ってくれた紙飛行機のメモと、信玄と謙信の状況分析ですよ」

「ああ……転生の南境を示威行軍した時の……すごい洞察力だな」

 茶姫も二人の偵察には気づいていたようだ。なにをやらせても、抜かりの無い女将軍だ。曹操への観察以外だがな。

「最後、二つの砦は狼煙が立ち上がる前に潰しておいた。皆虎まで行けば国境を抜けられるぞ」

 三白眼の目を剃刀のように細めて武蔵が言う。

「うん、それは有り難いが、わたし一人三国志を出るわけにはいかない。残してきた部下たちもいるし、なにより、今度の行軍で、三国鼎立による平和を宣伝しているからな。それを知った民を裏切るわけにはいかない」

「しかし、曹操を相手にして勝ち目はないわよ」

「ありがとう、シイ……いや、市。蜀の諸葛孔明の天下三分の計も確認できた、孔明と共闘を組めば、まだ道はある」

 これは、俺と市を逃がしてやろうという茶姫のハッタリだ。たった今、首を刎ねろと言ったところだ。それに、曹操が茶姫を除こうとしている。孔明も天下三分の計は早々に引っ込めるだろう。

「だから、ここは、二人で扶桑に……」

 そこまで言いかけた時、武蔵の佩剣が空を切った。

 ビシュ!

「なに奴!?」

「ま、待ってください!」

 辛くも避けて草むらから出てきたのは、検品長と備忘録だ。

「二人とも無事だったのか!?」

「はい、茶姫さま」

「あのあと、備忘録が……」

「指揮を執ってくれたのか?」

「一言だけです」

「備忘録は『散れ!』とだけ叫びました。それだけで、みんな理解しました。三国志の各地に散って機を窺えということを」

「いずれ、茶姫さまが旗をお揚げになる時の為に雌伏いたします。それまでは、どうぞ、扶桑の国にお隠れなさいませ」

「検品長、備忘録……」

 

 その必要はないよーー

 

 武蔵の一閃でも届かないほどの遠くから声がかかった。

「孫権!」

「そこの目つきの怖い人、怪しい者じゃないからねぇ(^_^;)、カメラしか持ってないしぃ」

「呉の王弟の孫権殿だ、そう、睨むな、武蔵」

「睨んでなんかおらん」

「さっきはごめん、チャーねえさん。呉の王弟としてはまずいからね、あの場にいるのは。家来たちが引っ張っていくのに抵抗もできないしね。でも、チャーねえさんを放っておくようなことはしないよ。しばらくは呉に居てよ。子どもの頃の隠れ家がいっぱいあるし。孫策兄さんも本心ではチャーねえさんを認めてるし。でなきゃ、弟が、こんなに自由にしてるの放っておかないし」

「そうか……ならば、少しの間ケンボウの相手でもしていようか」

「ケンボウってのは勘弁してよぉ、もう中学生なんだし」

「そうか、じゃ、やっぱりチュウボウだな」

「う……まあ、いいや。ねえ、そこのめっぽう腕の立ちそうな子」

「儂のことか?」

「その顔だと、手配書が回ってなくても怪しまれるよ。殺気も出し過ぎだし」

「生まれつきだ」

「これ上げるから、使ってごらんよ」

 懐からなにか取り出す孫権、キャンディーの個包装に似ている。

「なんじゃ、これは?」

「コスプレに使うカラコン。瞳が大きくなるんだよ。兄の孫策の機嫌が悪いときは、これを付けていくんだよ。それで、口をこんな風に(ω)しとくと、人に怪しまれないし、めったに怒られることもないよ」

「こ、こんなものを……」

「チュウボウ、わたしと会う時も、これをしていたのか?」

「そんなわけないでしょ、チャーねえさんは、数少ない素顔で会える人なんだから」

「そ、そうか」

「ねえ、武蔵、付けて見せて!」

 がぜん乙女が興味を持って武蔵に襲い掛かる。

「な、なにをする!? よせ、よさんか!!」

 剣術は超一流だが、乙女生徒会長の無邪気さと足技に免疫のない武蔵は苦も無く押さえ込まれてカラコンを装着される。

「も、もう無茶をする奴だ!」

 カラコンを入れられ、涙目になって睨む武蔵は反則だ。

 

「「「「「か、かわいい( #´艸`#)!」」」」」

 

 その場の全員が萌えてしまったぞ!

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生(三国志ではニイ)
  • 熱田 敦子(熱田大神) 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹(三国志ではシイ)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(劉備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  •  

 

 

 

 

 

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泣いてもωオメガ 笑ってもΣシグマ・44『小菊のクレーム』

2022-08-24 06:41:35 | 青春高校

泣いてもω(オメガ) 笑ってもΣ(シグマ)

44『小菊のクレーム』オメガ 

 



 入学式も済ませてない新入生の振る舞いとしてありえねえだろ!?

 先生が説明している真っ最中だと言うのに教室を飛び出してきやがった。

「入学式に、あんな席はあり得ないわよ!」

 どうやら、式場での自分の席が気に入らないらしい。

「学校は集団生活だ、多少のことは辛抱! さっさと教室に戻れ!」

「だって、あれじゃ留年生だと思われちゃうよ!」

「な、なんだよ」

「ん!」

 小菊は一枚のプリントを突き出しやがった。なんか逮捕令状を突き付ける女刑事みたいにな。

 担任はよくできた先生のようで、式場での着席場所をプリントで配ってくれていたのだ。

 入学式は中央通路を挟んで上手側が女子、下手側が男子になっている。

 各クラスは男子20人女子22人……なんだけど、小菊の三組だけが女子23人。

 席は横方向に22個しかなくて、女子ドンケツの小菊はあぶれてしまう。

 で、あぶれた小菊は下手側の男子の一番端っこに飛ばされている。

 男子は全クラス20人なので、小菊の男子列だけが21人になり、それも女子の小菊が入るのでひどく目立ってしまう。

「ほらね」

「でも、なんで留年生なんだよ」

「いるって噂なのよ、女子でね」

 一瞬大丈夫だと思った。ダブった生徒は式には出してもらえないのだ。二年生以上になると、このことは知っている。だが新入生は知らないだろう。ひとりポツンと男子の横に座っていたらワケ有と思われても仕方がない。

 ためらいはあったけど、妹は一年三組の教室に戻った。

 小菊は先に席に戻し、廊下から他の生徒には見えないようにして担任の先生を呼んだ。

 俺に顔を向けたので分かった、担任は田中という目立たないオジサン先生だ。

「なにか、緊急連絡?」
「ま、そんなとこです」

 俺はかいつまんで、小菊の席の問題点を指摘した。

「うーーん、君の言うのももっともだね」

 堂本やヨッチャンと違って聞く耳は持っておいでのようだ。

「僭越な申し出ですみません」

 相手がちゃんと対応してくれると、こっちも丁寧な返答をする。

「ちょっと相談してみるよ」

 そう言うと田中先生は「二分間だけ待っていなさい」と教室の新入生に告げ、隣の四組の担任と相談し始めた。

 きっかり二分で済ませると「善処したよ」と言って戻って来た。

 結果、三組の女子は式場の椅子の間隔を詰め、小菊の席を増設することになった。

 だが、物言いがついてしまった。

「一列だけ間隔を詰めると列が乱れてみっともない」

 言い出したのは堂本だ。

 けっきょく式の開始を五分遅らせるという結果だけ残して、元のまま実施されることになってしまった。

 席には不満の残る小菊だったけど、俺や田中先生の気配りには納得している様子だ。

 やっぱ、高校生になって少しは成長したかと思う兄ちゃんであった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 妻鹿雄一 (オメガ)     高校二年  
  • 百地美子 (シグマ)     高校一年
  • 妻鹿小菊           中三 オメガの妹 
  • 妻鹿由紀夫          父
  • 鈴木典亮 (ノリスケ)    高校二年 雄一の数少ない友だち
  • 風信子            高校二年 幼なじみの神社の娘
  • 柊木小松(ひいらぎこまつ)  大学生 オメガの一歳上の従姉 松ねえ
  • ミリー・ニノミヤ       シグマの祖母
  • ヨッチャン(田島芳子)    雄一の担任
  • 木田さん           二年の時のクラスメート(副委員長)
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