魔法少女マヂカ・093
つ、疲れる……
ついさっきまで牛と合体していたマヂカは宮殿の地下室に着くまでに顎を出している。
牛女になっている間、自分の足を使っていない。下半身は牛だったのだし、大半はオレの胸の谷間にいたのだから無理もないんだが、天下無双の魔法少女としては、いささか情けない。
「しかしだな……」
言わんとすることは分かる。
衛兵長の指示は――宮殿の東口から地下一階の収監室に入れ――ということだった。「わたしが案内する」とビーフィーターのキャロラインが言ったが、「ここから先は衛兵の管轄だ」と一蹴され、「それでは自分が」と進み出たハリー伍長も退けられた。ハートの女王の国は慣習と官僚主義が蔓延しているようだ。先が思いやられる。
収監室の前に来ると――収監室は西口に変更――と張り紙がしてあった。
いったん東口から出て西口に回ろうとすると「いったん入った者を出すわけにはいかん!」と言われ、宮殿内部を迂回していかざるを得なくなった。
その迂回路がふざけている。
いったん、地下二階まで下りて、地下一階まで上がる。すると、そこは行きどまりになっていて、廊下の先に下りの階段。正直に下りていくと地下三階で行き止まり。廊下の先の上り階段を地下一階まで上がると、同じようになっていて、今度は地下四階まで……上り下りをを繰り返して、とうとう地下百階まで下りてしまい、いまは百回目の地下一階を目指している。
「どうなってんのよ、この宮殿……ん?」
「マヂカがボヤクから、なんか出てきたぞ」
階段の壁に文字が現れた。
―― 議会制民主主義を身をもって感じられる階段 謹んで体感せよ! 女王署名 ――
この無駄な上り下りを議会制民主主義の象徴に例えているのだろうが、どうにもアホらしい。いや、このアホらしいのが議会制民主主義なら当を得ているぞ。
「女王のいやがらせかあ?」
マヂカがプンスカ怒ると、かすかにネコの笑い声。チェシャネコのいたずらかもしれないが、やつの名前を出せば、さらに何をされるか分からないので沈黙して置く。
『収監室』
やっとたどり着いた部屋にはA4の紙にプリントされたものが貼られている。なんだか、急ごしらえで間に合わせた感じだ。
「やれやれ、入るぞ」
ドアノブに手をかけると『収監室』の紙がペロリと剥がれる。
「なに……ロウソク倉庫?」
「ああ、衛兵長が言ってたじゃない。法改正ができて宮殿が電化されたって。電化されたために不要になったロウソクが収められてるんだ」
「ま、とにかく入るぞ」
入ると、マヂカは崩れるように横になる。
「じかに寝たら風邪ひくぞ」
「ああ……」
右手をヒョロッと動かしてブランケットを出した。魔力も戻りつつあるようだ。
「しかし、膨大な量のロウソクだなあ」
「消耗品だからでしょ、はやく議会が終わらないかなあ……とりあえず寝よ。あ、ブランケット出したげるね」
「オレは、ちゃんとしたベッドを……」
タイミングがいいのか悪いのか、二人の魔法が空中でガチンコして火花が散った!
バチバチバチ!
火花は壁にウサギの巣穴ほどの穴を開けてしまった。