大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・093『M資金・25 ハートの女王・6』

2019-10-31 15:11:08 | 小説

魔法少女マヂカ・093  

『M資金・25 ハートの女王・6』語り手:ブリンダ 

 

 

 つ、疲れる……

 

 ついさっきまで牛と合体していたマヂカは宮殿の地下室に着くまでに顎を出している。

 牛女になっている間、自分の足を使っていない。下半身は牛だったのだし、大半はオレの胸の谷間にいたのだから無理もないんだが、天下無双の魔法少女としては、いささか情けない。

「しかしだな……」

 言わんとすることは分かる。

 衛兵長の指示は――宮殿の東口から地下一階の収監室に入れ――ということだった。「わたしが案内する」とビーフィーターのキャロラインが言ったが、「ここから先は衛兵の管轄だ」と一蹴され、「それでは自分が」と進み出たハリー伍長も退けられた。ハートの女王の国は慣習と官僚主義が蔓延しているようだ。先が思いやられる。

 収監室の前に来ると――収監室は西口に変更――と張り紙がしてあった。

 いったん東口から出て西口に回ろうとすると「いったん入った者を出すわけにはいかん!」と言われ、宮殿内部を迂回していかざるを得なくなった。

 その迂回路がふざけている。

 いったん、地下二階まで下りて、地下一階まで上がる。すると、そこは行きどまりになっていて、廊下の先に下りの階段。正直に下りていくと地下三階で行き止まり。廊下の先の上り階段を地下一階まで上がると、同じようになっていて、今度は地下四階まで……上り下りをを繰り返して、とうとう地下百階まで下りてしまい、いまは百回目の地下一階を目指している。

「どうなってんのよ、この宮殿……ん?」

「マヂカがボヤクから、なんか出てきたぞ」

 階段の壁に文字が現れた。

―― 議会制民主主義を身をもって感じられる階段 謹んで体感せよ! 女王署名 ――

 この無駄な上り下りを議会制民主主義の象徴に例えているのだろうが、どうにもアホらしい。いや、このアホらしいのが議会制民主主義なら当を得ているぞ。

「女王のいやがらせかあ?」

 マヂカがプンスカ怒ると、かすかにネコの笑い声。チェシャネコのいたずらかもしれないが、やつの名前を出せば、さらに何をされるか分からないので沈黙して置く。

 

『収監室』

 

 やっとたどり着いた部屋にはA4の紙にプリントされたものが貼られている。なんだか、急ごしらえで間に合わせた感じだ。

「やれやれ、入るぞ」

 ドアノブに手をかけると『収監室』の紙がペロリと剥がれる。

「なに……ロウソク倉庫?」

「ああ、衛兵長が言ってたじゃない。法改正ができて宮殿が電化されたって。電化されたために不要になったロウソクが収められてるんだ」

「ま、とにかく入るぞ」

 入ると、マヂカは崩れるように横になる。

「じかに寝たら風邪ひくぞ」

「ああ……」 

 右手をヒョロッと動かしてブランケットを出した。魔力も戻りつつあるようだ。

「しかし、膨大な量のロウソクだなあ」

「消耗品だからでしょ、はやく議会が終わらないかなあ……とりあえず寝よ。あ、ブランケット出したげるね」

「オレは、ちゃんとしたベッドを……」

 タイミングがいいのか悪いのか、二人の魔法が空中でガチンコして火花が散った!

 

 バチバチバチ!

 

 火花は壁にウサギの巣穴ほどの穴を開けてしまった。

 

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真夏ダイアリー・56 『ニューヨークへの原爆投下』

2019-10-31 07:13:33 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・56 
『ニューヨークへの原爆投下』    
 
   


「遊覧飛行をやろう」

「何がしたいの……?」
「この飛行機は、ダグラスDC3。日本でライセンス生産しているけど、アメリカ人には見慣れた機体だ。低空でデモンストレーションやっておかないと、日本の飛行機だと分かってもらえない」
 トニーは緩降下すると、ニューヨークのビルの間を縫うように飛び回った。道行く人たちや、ビルの窓から覗く人たちの顔は、一様にびっくりし、やがて恐怖に変わっていく。「ジャップ!」「シット(ちくしょう)!」「オーマイガー!」などと叫んでいるのが分かる。
「空軍がきて、墜とされてしまうわよ」
「その前に、仕事は終わらせる……ミリー、すまないね。こんなことに付き合わせて。大丈夫、撃墜される前にテレポで戻るから。あのミリーにそっくりな奴に邪魔させないためなんだ、しばらく辛抱してくれ。ちょっとイタズラするよ……」
 トニーがボタンを押すと、翼から機関銃が出てきた。 
「何を撃つつもりなの!?」
 トニーは黙って、トリガーを引いた。アイスキャンディーのような光の列が両翼から打ち出され、エンパイアーステイトビルの最上階のアンテナが粉々に吹き飛び、ゆっくりと落ちていった。
「400メートルもあるんだ。下敷きになる人はいないさ」
 それから、トニーはマンハッタンの低空をゆっくり旋回して、機体の下に付けてある三発の爆弾をひけらかした。
 セントラルパークの上空3000メートルまで上昇したところで、二発の爆弾が落とされた。爆弾は「ヒュー」という音を残し、高度2000メートルのところで、小さく爆発し、無数のビラをまき散らした。
「これが、ビラの見本だよ」

 『アメリカ市民に告ぐ』
 
 ただ今より、ニューヨーク湾の真ん中に原子爆弾を投下する。
 この爆弾は、普通の爆弾の数万倍の威力がる。
 けして爆発の瞬間は見ないように。太陽のような閃光がするので、見れば失明する。
 大日本帝国は、貴国との講和を希望する。
 講和のテーブルに着かなければ、以後同じ爆弾を、アメリカの諸都市に落とすであろう。

「同じ内容をラジオの電波でも流している。できるだけ人の命は損なわないようにしている」
「爆弾はダミー……本体は、そのトランクの中でしょう?」
 機体が一瞬揺れた。
「ミリー、どうして、そんなことを……」
「わたしは真夏。IDリングはミリーの頭に付けてきたわ」
「真夏……!」
「さあ、そろそろ、戻りましょうか。後ろにグラマンが貼り付いているわ」

 一瞬光が走り、わたしとトニーは、元の空港にテレポした……。
 
 
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まどか乃木坂学院高校演劇部物語・21『……と言えば大阪だ』

2019-10-31 07:07:44 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・21   

『……と言えば大阪だ』 

 
 課題は、社会科(正式には地歴公民科っていうんだけど、だれも、そんな長ったらしい名前で呼ぶ者はいない)共通のもので、日本の白地図に都道府県名を書きなさいという小学生レベル。ただし、貴崎先生……(わたしまで改まっちゃった)のは――好きな道府県を(東京は地元なので除く)一つ選び、思うところを八百字以内にまとめて書くこと――なのよ。

 五分ほどで道府県名を書き終えて、考えた……気になる道府県……と言えば大阪だ。正確に言えば、大阪に転校しちゃった三軒隣のはるかちゃん。

 一昨日、なぜか、お父さん朝からイソイソと出かけていった。

 わたしはコンクールの初日だったので気にもとめなかったんだけど。フェリペから帰ってみると、南千住の駅でいっしょになった。
 なぜだか、はるかちゃんのお父さんとその奥さんも一緒だった。
 奥さんてのは、はるかちゃんがお母さんにくっついて、大阪に行ったあと一緒になった新しい奥さん。つい先月入籍して、ご挨拶に来られた。
 玄関で声がするんで、ヒョイと覗いたら。奥さんてのは、おじさんと一緒に今の通販会社を立ち上げた女の人。
 あか抜けて、どこかの社長秘書って感じ。あとで柳井のオイチャンが教えてくれた……。
――あの人は、はるかちゃんのお父さんが、まだベンチャー企業の社長をやっていたころの本物の秘書さん……なんだって。
 テレビのドラマみたいなことが、ついご近所、それも幼なじみのお家で起こったんで、正直ビックリ!
 でも他人様の家庭事情にあれこれ言うのは、下町のシキタリに反する。と、柳井のオイチャンは釘を刺すのは忘れなかった。だから、興味津々だったけど普通にご挨拶。
 それが、夜中の十時過ぎ。お父さんといっしょに上機嫌で南千住の駅にいるんだから、あらためてビックリ!
 そいで、お父さん。改札出るとき、切符を出そうとしてポケットから落としたレシート、なにげに拾ったら大阪のコンビニだった……。
 ピンときた! でもお父さんから見れば、まだまだガキンチョ。わたしから聞くわけにはいかない。

 三人とも上機嫌なんで、なにか言ってくれるかな……と、期待したところで、はるかちゃんのお父さんの携帯が鳴った。
 歩きながら携帯と話していたお父さんの足が止まった。
 うちのお父さんが寄っていった。
「え……」
 という声がしたきり三人は黙ってしまった。

 昨日の本番の朝、出かけようとしたら、お父さんの方から声をかけてきた。
「まどか……」
「なに、お父さん?」
「あ……いや、なんでもない」
「……はるかちゃんになにかあったの?」
「そんなんじゃねえよ」
「……へんなの」
「おめえも、今日は本番だろ。その他大勢だろうけど……ま、がんばれよ」
 それだけ言うと、つっかけの音をさせて工場の方へ行ってしまった。

――も、って言ったわよね。おとうさん「おめえも」……も。

 まあ、帰ってから聞いてみよう……ぐらいの気持ちで家を出た。で、あとは、みなさんご存じのような波瀾万丈な一日。
 帰ったら、お風呂だけ入って、バタンキュー。
 で、今日は朝からスカートひらり、ひらめかせっぱなし。
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宇宙戦艦三笠・47[小惑星ピレウス・4]

2019-10-31 06:50:52 | 小説6
宇宙戦艦三笠・47
[小惑星ピレウス・4] 


 

 

 同じジャングルのいくらも離れていないところにテキサスは着陸していた。

「こんな近くで、どうして探知できなかったんだろう?」
 クレアが、半ば不服そうに言った。
「三笠の倍の航路をとって、惑星直列になるのを待ってピレウスに来たの。三笠程じゃないけど、レイマ姫が時間をかけてステルスにしてくれたから」
「他のアメリカ艦隊は?」
 修一が艦長として聞くと、ジェーンは視線を修一に向けたまま言った。
「敵と大規模な戦闘になることが避けられないので、戦略的に撤退したの。で、テキサスだけが大回りしてピレウスに着陸、三笠と連携して作戦行動をとるの。日本とは集団的自衛権を互いに認め合っているから、合理的な判断よ」
「ハハ、アメリカ人が自信満々で言う時は、どこかに嘘か無理があるんだよな。要はアメリカが全面撤退した中で、ジェーンはオレタチとの義理のために単独行動しているってことじゃないの?」
「違う! 義理じゃなくて友情よ。作戦行動計画も正式なもの」

 アメリカにとっては正式かもしれないが、日本代表たる三笠には何も知らされていない。しかし、ジェーンの友情には変わりのないことだろう。修一は、それ以上このことに触れるのはよした。なによりも、地球寒冷化装置を独り占めにしないで三笠を待っていてくれたのだから。

「一つ分かんないことがあるんだけど」

 樟葉が儀礼的な微笑みのまま聞いた。
「ピレウスは、グリンヘルドとシュトルハーヘンと同じ恒星系にあるのに、どうしてグリンヘルドもシュトルハーヘンも、この星への移住を考えないの。地球にくる何百倍もお手軽なのに」
 ジェーンは沈黙し、レイマ姫は静かに息を吸ってから、こう言った。
「話をするよりも、実物を見てもらったほうがいいべ。こっちさきてけんにか」

 テキサスを出ると、直ぐ近くになんの変哲もない岩が苔むしていた。

「この岩?」
「ここが入口だす」
 一瞬目の前が白くなったかと思うと、目の前に長い廊下が現れた。
 歩くにしたがって、様々な大きさのクリスタルが廊下の両側に並んでいるのが分かった。
 クリスタルの中身は、すぐそばまで行かなければ見えない仕掛けになっていて、好奇心の強い美奈穂が先頭に歩いていたが、見た順に美奈穂は悲鳴を上げ、他の面々も、怖気をふるった。

「……これは人工生命の失敗作ですね」

 クレア一人が冷静に見抜いた。

「んだ……ピレウス人の遺体から採取したDNAを操作して、いろいろ作ったんだども、みんな魔物みたくなっちまっで……納得したら、あんまし見ねえ方がええだす」
「人間らしいものもあるけど……?」
 気丈な樟葉は、その先のクリスタルを見て言った。
「それは、ピレウスの調査に来たグリンヘルドとシュトルハーヘンの人たちだす。ピレウスに来るど、三日と命がもたねえんだす」
「それで、あいつらはピレウスには手を出さないのか」
「昔のピレウス人の最終戦争で使われたのが、この結果だす。みんなDNAに異常をきたして死ぬか魔物になっでしまうんだす」

 グリンヘルド、シュトルハーヘン、ピレウスの秘密に愕然とする三笠のクルーたちだった。

「あ……ということは!?」
 トシが声をあげた。同じ思いはみんなの心の中で湧きあがった……。
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小悪魔マユの魔法日記・80『期間限定の恋人・12』

2019-10-31 06:30:55 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・80
『期間限定の恋人・12』    



 
 暗証番号を入れなければ開けないファイルが一つだけあった。
 それが、まさにその8桁……。

 8桁の数字を入れエンターキーを押した……数秒して父が画像になって現れた。

――ハハ、見つかってしまったな。もう見つかった……やっと見つかった……どっちだろう?
 多分やっとだと思う。
 美智子のことだから、わたしの部屋はしばらく手を付けないで、そのままにしているんじゃないかと思ってる。
 だから、これを見つけたということは、わたしの部屋を他の目的に使う必要が出てきたことだろう。
 どうだい、それも美優が必要になったからだと……当たったかな?
 美優は自分の部屋を持っているから、この部屋の使い道は……お母さんを助けて店の手伝い。
 そして、そんな美優を助けてくれる素敵な男性が見つかったから。お父さんは、そう思っている。
 美優は、一人っ子で優しい子だから、きっとそうだと思っているよ。もし違っていたら、腹を抱えて笑ってくれ。
 店は、繁盛しているだろう。美智子はバブル真っ最中でも下手に仕事を広げたりはしなかった。
 堅実に店を守り、マスコミ関係の仕事も確実に取り込んでいる。
 HIKARIプロの事務所移転と拡張にも目を付けている。わたしも、あそこは先物買いとしては狙い目だと思う。
 ヒカリミツルはビートたけしと同じくらい奇行の多い人だが、しっかりした経営戦略を持っている。
 彼は、芸能界……古いなあ、エンタテイメントの世界に、新しいスタイルを提示してくるだろう。
 話が、仕事っぽくていけない。
 一つ心配事……お父さんの家系はガンに罹る者が多い。親父も祖父さんもそうだった。
 まさか三代続くとは思わなかった。お父さんの数少ない、でも大きな見込み違いだった。
 美優がお母さんの血を多く受け継いでいることを願っているよ。
 でも、検診はしっかり受けてな……ええと、このドロシーの胸像の下のロゴに暗証番号……。
 ハハ、ばかだな。見つけたから、これを見てるんだよね。
 ドロシーのお下げを両方いっしょに四回叩くと……ほら、『オーバーザレインボー』が聞こえる。
 これを見ている美優とお母さんが、虹の彼方に着いていることを願っているよ。
 あ、もし、美優の彼がこれを一緒に見ていたら……二人のことをよろしく――

 そこで、父はバイバイと手を振った。そして……『オーバーザレインボー』がステレオになった。

「こんな男で……こんな事情で申し訳ありません」
 黒羽が、ドロシーの胸像を手に、二人の後ろに立っていた。
「英二さん……」
「一応、声はかけたんですけど、無断ですみません。お父さん、素敵な人だったんですね」
「あ……この部屋、黒羽さんに使っていただこうと思って、美優といっしょに片づけていて」
「今度の新曲、勝負なんでしょ!?」
「うん。ありがたく使わせてもらうよ、今週いっぱい。しかし、本当にお父さんは先見の明だな」
「夢ばっかり、思いこみの強い人だったから」
「いいえ、このお店のことも、うちの事務所のことも、ちゃんと見通していらっしゃる。それに、なにより、病気のこと、ちゃんと気にかけていらっしゃって、その甲斐あって、美優ちゃんも、早期治療でこんなに元気になったじゃないか」
「ハハ、そうよね。お父さん大したもんだ。ね、お母さん!」
「ハハ、そうよね」
 三人の明るい笑い声が部屋に満ちた。

 美優の命は、あと六日と三十分……にしちゃいけない。美優の体の中でマユは決心した。
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せやさかい・085『マリーアントワネットの呪い・1』

2019-10-30 12:52:37 | ノベル

せやさかい・085

 

『マリーアントワネットの呪い・1』 

 

 

 君はマリーアントワネットの飼い猫だったのね。

 

 チリン……

 

 炬燵にアゴを載せたまま頼子さんが言うと、ダミアは首を一振りしてペットハウスに潜り込んだ。

 部活の間はペットハウスを持ってきてやってる。ほっとくと、あたしらの足にまとわりついたりコタツの中で暴れたり。あたしらも、ダミアにケガさせたりしたらあかんので、部屋からペットハウス(カイロ付き)を持ってきてやって、おいたが過ぎる時は移動させてる。

 かしこい子で、二日ほどで、そのルールに慣れてきたんやけど、自分からすすんで行くことは無かった。

「やっぱり、触れられたくないんですかね?」

 留美ちゃんの中では決定事項。ダミアはマリーアントワネットの飼い猫の生まれかわり。

 むろん、あたしが夢の話をしたから。

「でも、オリンピックにマリーアントワネットが生まれかわるって、どうなんやろか?」

 あたしが心配したのは「オリンピックには生まれかわるから、その時には、わたしの側にいてちょうだいね」という言葉。

 文字通りやったら、来年のオリンピックのころに王妃マリーアントワネットが生まれかわり、それに合わせてダミアも生まれかわるということになる。

 つまり、ダミアは来年の七月までには死んでしまう!

 そこんとこが心配やったから、アホな話と思いながらも頼子さんと留美ちゃんに話したわけ。ダミアはマリーアントワネットの飼い猫やった言いだしたのも頼子さんやし。

 来年の七月やとしたら、ダミアは生後十カ月ほど、人間で言うたら小学校の低学年。まだまだ子ネコや。

 ぜったいイヤや!

「東京オリンピックじゃないと思うよ」

「え、そやかて……」

「うん、変だよ。マリーアントワネットってクーベルタンがオリンピック始めるずっと前に死んでるし、東京にも縁がないよ」

 留美ちゃんが冷静に判断する。

「東京は、まだ江戸だったし」

「ほんなら……?」

「ちょっと待ってね……」

 スマホを出してググる頼子さん。

「あ、東京の次はフランスのパリだ!」

「え、次ですか?」

 パリなら頷ける。マリーアントワネットのすべてがある街やし、終焉の地でもある。オリンピックに集まった世界各国の人らのエネルギーやら魂やらを吸い取って、薄幸の王妃の蘇り!

 ゾンビだらけのパリで、蘇ったマリーアントワネットが高笑いしてる! 妄想のし過ぎや!

 そんなあたしを横目に、留美ちゃんまでがググりだした。

「マリーアントワネットには首が無かったんだよね?」

「ううん、夢では、首が飛んでしまうんだけど、ダミアが直してやるのん」

「じつはね……ギロチンで切られた王妃の首は持ち去られたんだって」

 えーーーーーー!!?

「グロイ話は……」

 頼子さんがたしなめるが、留美ちゃんは停まらへん。

「蝋人形館のマダムタッソーが持ち帰って、蝋人形の複製をいっぱい作って……」

「………………」

「それくらいにしとこ。ほら、ダミアも……」

 

 ペットハウスを見ると、今の話が分かったのか、ダミアがうな垂れて涙を流してた。

 

「この子、人の言葉が分かるのかなあ……」

「ヤバくないですか、先輩……」

「あ、これは、もうお祓いだ!」

 幸い、部室は本堂の後ろ。

 あたしらは、ダミアを連れて本堂に移り、阿弥陀さんにひたすら祈るのでありました。

 

 

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真夏ダイアリー・55『人質になる』

2019-10-30 06:41:42 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・55
『人質になる』
    


 わたしたちは、ハドソン川を挟んだ小さな民間航空会社の空港にきていた。

 さすがのアメリカも、この時期、優秀なパイロットを集めていて、この航空会社も、若いパイロットを引き抜かれたばかり、会社も親会社に吸収され、この飛行場は事実上閉鎖されていた。
 もう午後四時をまわっていたけど、夏も近い6月の太陽は、ほとんど真上にあった。

「……どうやって、ここに来られたの?」
 手にした銃が無くなっていることにも気づかずに、ジェシカが呟いた。事前にテレポの説明はしたが、実際やってみると、衝撃であるようだ。ミリーもショックで固まっている。
「で、トニーも、あなたと同じアバターとかいうにせ者なの……?」
「会ってみなければ分からない。コネクションを全部切られてるから、トニーが、ここに居るということしか分からない」
 ここを探り当てることも大変だった。インストールされた能力では探すことができず、教科書の中に隠していたアナライザーを使って、やっと探り当てたのだ。

 目星をつけた格納庫に向かうと、途中で、格納庫のシャッターが開いた。わたしたちは駆け足になった。
 あと三十メートルというところで、エンジンの始動音がした。ダグラスDCー3が動き始めた。

「ストップ!!」

 わたしたちは、三人でダグラスの前に立ちふさがった。やがてトニーの姿をした省吾がタラップを降りてきた。
「あなたはトニーなの? それともトニーに化けたアバターとかいう化け物なの?」
 ジェシカが、銃を構えた。
「引き金は引かないほうがいい。そこのアバターと違って、僕はトニーの体そのものを借りてるからね」
「くそ……」
 悔しそうに、ジェシカは銃を下ろした。
「もう、ここまで来たら後戻りはできない。もうエンジン回しちゃったからね」
「……このダグラス、ミートボール(日の丸)が付いてる!」
「この戦争で唯一、アメリカと日本で使った同じ機種。日本じゃ、ライセンス生産で零式輸送機っていうんだけどね」
「トニー、何をするつもり!?」
「戦争を終わらせる。多少強引なやり方だけど……おっとアバターの真夏君は大人しくしてもらおうか……ミリーおいで。いっしょにニューヨークの空を飛ぼう」
「だめよミリー!」
「だって……」
 意思に反してミリーの体は、トニーに近づき腕の中に絡め取られた。
「やることが終わったら、ミリーもトニーも返すよ。むろんトニー本人としてね」
 そう言うと、トニーはミリーといっしょにダグラスの中に消えた。
 ダグラスは、そのまま速度を上げて、ニューヨークの空に飛び立っていった……。

「……これで、よかったの?」
 ジェシカが、ポツンと呟いた……。
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まどか乃木坂学院高校演劇部物語・20『武藤さんの言うとおりね』

2019-10-30 06:33:30 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・20 
 『武藤さんの言うとおりね』 






 昇降口まで走って気がついた、一時間目はマリ先生の現代社会……。

 晩秋だっていうのに、どっと汗が流れてきた。
 職員室は、教室のある新館とは中庭を隔てた反対側の本館。授業の準備なんかしていたら、わたしよりは二三分は遅くなる。
 わたしは、余裕で階段を上り始めた。ただ、噴き出す汗がたまんなくて、三階の踊り場で立ち止まった。タオル(クラブ用なのでタオルハンカチのようなカワユゲなものじゃない)で、顔、首、そいでもって、セーラー服の脇のファスナーをくつろげ、脇の下まで拭いちゃった……われながらオッサンであります。
「ハーックショ……!」
 慌てて、手をあてたが間に合わなかった。「ン」はかろうじて手で押さえられたが、大量の鼻水とヨダレが押さえきれない手から溢れ出た。すぐにタオルで拭いたけど。だれが聞いても、今のは立派なオッサン。
 風邪をひいたか、だれかが噂をしてくれているか……。

 教室に入ると里沙がプリントを配っていた。里沙と夏鈴は同じクラス。
「運良かったね、マリ先生遅刻で一時間目自習だよ」
 最後の一枚をくれて里沙が言った。
「でも、わたしといっしょに学校入ったから、もう来るよ」
「ええ、もう自習課題配って説明もしちゃったよ!」

 そこに、汗を滲ませながらマリ先生が入ってきた。みんな呆然としている。

「……どうしたの。みんな起立。授業始めるよ!」
「だって、先生。もう自習課題配ってしまいました……説明もしちゃいましたし」
「でも、わたし間に合っちゃったんだから」
「教務の黒板にも、そう書いてあったし。公には自習になると思うんですけど」
 里沙は、こういうところがある。真面目で決められたことは、きちんとこなすけれど、融通がきかない。みんなは自習課題を持てあまして、どうしていいか分からないでいる。
「……そうね、武藤さんの言うとおりね。自習って届け、出したの先生のほうだもんね。じゃ、この時間はその課題やってて」
 マリ先生は、里沙とは違う意味でけじめがある。授業では、けして「里沙」とか「まどか」とかは呼ばない。自分のことも「わたし」ではなく「先生」である。
「できた人は先生のとこ持ってきて。あとは自由にしてていいから。ただし、おしゃべりや携帯はいけません。早弁もね、須藤君」
 大メシ食いの須藤クンが頭をかいた。
「あの、ラノベ読んでもかまいませんか?」夏鈴が聞いた。
「いいわよ、十八禁でなきゃ」
 たまには芝居の本も読めよな、四ヶ月もしたら後輩ができるんだぞ。人のこと言えないけど。自分のことを棚にあげんのは女子の特権……そのときのわたしは、この名門乃木坂学院高校演劇部が存亡の危機に立たされるなんて想像もできなかった。
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宇宙戦艦三笠・46[小惑星ピレウス・3]

2019-10-30 06:13:25 | 小説6
宇宙戦艦三笠・46
[小惑星ピレウス・3] 



 その人は、ゆっくりと近づいてきた。

 近づくにつれて知っている人だと分かってきた。だが、分かるのは知っているということだけで、どこの誰かは分からない。
 まるで、夢の中で出会った人のように、その人に関する記憶はおぼろの中であった。

「みなさん、お元気だったすか」

 その訛言葉で思い出した。暗黒星雲のレイマ姫だ!。
「レイマ姫、どうして……」
 クルーの誰もが混乱した。ナンノ・ヨーダから姫の事を託され、アクアリンドに着くまでは姫の記憶は有った。そして、あの忘却の星アクアリンドに着いた時には、姫の存在はきれいに忘れてしまっていた。それが今、その姿を、訛った声を聞いて忘れた夢を思い出したようにレイマ姫のあれこれが思い出された。
「おもさげねえす。アクアリンドのあと三笠にとって致命的な戦闘になることが予見されちまっで、みんなの記憶からあだしを消したのす」

 修一たちには分からないことだらけだった。予見したのなら、なぜ言ってくれなかったのか、なぜ、みんなの記憶を消して消えてしまったのか。そして20年の冬眠状態の間、どこで何をしていたのか。どうして歳をとっていないのか……?
「分かってもらえっか分かんねだども、聞いてもらえねえべか?」
 みんなは、黙ってうなづいた。
「あだしは、ほんどはピレウスの星のソウルなんだす。クレアさんのアナライズでも分かんねほど人間そっくりだども、あだしには実態はねえのす。三笠のみかさんや、テキサスのジェーンをバージョンアップしだもんだと思ってもらえば、分かっかな?」
「言葉悪いけど、レイマ姫は、三笠が必死の戦いをやることを予見して逃げたんじゃないの?」
 トシが、不服そうに言った。
「んだな。三笠のみんなからは、そう思われでも仕方なかんすべ……」

 レイマ姫は大きなため息をついて、空を見上げた。

「助けすぎないため……?」
 樟葉が探るように言った。
「んだす。あだし危うくなっちまうど、後先考えねぐなっで、けっきょくみんなをダメにしてしまうがら……でも、おもさげねす。大変な思いをさせちまっで……」

 その時、ジャングルから陽気なオーラをまき散らしながら現れた者がいた。

「まどろっこしい話は止しにして、あたしの船においでよ。三笠の諸君!」

「ああ!?」
 三笠のクルーは驚嘆の声をあげた。

 テンガロンハットをクイっと上げた顔は、戦艦テキサスのジェーンだった……!
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小悪魔マユの魔法日記・79『期間限定の恋人・11』

2019-10-30 06:05:54 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・79
『期間限定の恋人・11』    



 マユは美優の心が少しずつ変化していっているように感じた。
 美優の命は、あと6日と4時間になっていた……。

 マユは、美優の体の中で必死にガン細胞と戦っている。
 最初は、そこまでやるつもりは無かった。一週間だけ美優の体を元気に生かし、生きることの意味を少しでも悟らせようとしただけである。
 生きることは、楽しい事なんて一割もない。残りの半分は、その楽しみを得るための、ルーチンワークのような、そっけない日常。そして残り半分は失敗や努力のための苦痛である。苦痛には、仕事の失敗、病気や事故、愛する者との別れなど目に見え自覚できるものもあるが、老いなどという緩慢な苦痛もある。それでも人間は人生を愛おしいものと思って生きていく。
 その苦痛を伴う愛おしさを、ほんのちょっぴり感じさせるだけのつもりでいた。だから簡単に一週間だけ、美優を健常にしてやるために美優の体の中に入った。

 しかし、美優の中で変化が起こった。黒羽との出会いである。
 
 黒羽は、店のお得意のプロディユーサーで、高校時代にほのかな恋心を抱いただけである。しかし、その黒羽が父の死を目前にして苦悩しているところに出くわしてしまった。
 そして、自分の死が訪れるまで、期間限定の恋人になってやることにしたのだ。生真面目な美優は、恋人らしく見えるように、ランチの帰り道、偶然を装ってキスまでした。しかし、それは、生涯をともに生きることを覚悟した婚約者の重さから見れば、ほんのイタズラのようなものに過ぎない。

 でも、美優は半日、モニター越しではあるが、黒羽の仕事ぶりを見てしまった。
 一見少年のような無邪気さでレッスンを見ている黒羽……でも、それはプロのディレクターの顔であった。観客の立場になり、どうやったら最高のAKRを人に見せられるか、真剣な無邪気さであった。
 そして、美優は、そんな黒羽を本気で愛し始めていた。そこで、マユは小悪魔の微力ではあるが、不可能に挑戦することにした。
 マユにできることは、美優の体の中でガン細胞を眠らせ、衰えた美優の体にエネルギーを与えることだけだった。そして、それは、あと6日と4時間で切れてしまう。

 マユは、美優のガン細胞を壊しにかかった。ただ小悪魔の力では、一日に1000個ほどのガン細胞を殺すことしかできなかった。ガン細胞は少なく見積もっても数億個ある。人体の細胞の数は70兆個の細胞でできている。それから見れば微々たるものであるが、一日に1000個の破壊では焼け石に水である。
 マユは期待していた。殺したガン細胞が、他のガン細胞を腐らせ殺していくのを。そして、それは美優の「生きる」気持ちと奇跡にかかっていた……。

「ねえ、お母さん。今夜からうちに黒羽さん下宿させてあげちゃいけないかしら」

 美優は、AKRの事務所から帰ってきて、母の手が空くのを待って切り出した。
「下宿……?」
「そう。お父さんの部屋……ダメ?」
 母は、わずか数秒で驚き、考え、そして結論を出した。
「いいわよ。わたしたちも、お父さんのこと、そろそろ整理しなくっちゃいけない時期かもしれないしね」
 父は、美優が小学校の時にガンで亡くなった。会社の定期検診でひっかり、入院し、亡くなるまでは半年しかなかった。父は商社の営業マンで、しょっちゅう海外に出張していた。だから父との思い出は、母子ともども並の家庭の1/10ほどしかなかった。それで父の思い出を大切にするために、父の部屋は生前のままにしてある。
「こんなことに未練もってたから……」
 父の部屋のドアを開けながら、母がつぶやいた。
「なに……?」
「ううん、なんでも……」
 父は、あまり整理上手な方ではなかった。だから、父が最後に部屋を使った散らかしようを維持しながら、掃除をするのは、大変だった。でも、そのぶん部屋の中にあるものは、全て把握していた……つもりであった。
 それは、机の上のドロシー・ゲイルの1/3サイズの胸像を持ち上げた時に気がついた。
 マユが、ちょっとビックリしたことが美優に影響したのかもしれない。そのドロシー・ゲイルの1/3サイズの胸像は、マユがフェアリーテールの世界で別れてきたドロシーにそっくりであった。
「お母さん、このドロシーの台座の底……」
「なに……?」
「この数字……」
「ああ、シリアルナンバーよ」
 母は、146/200を見て興味を失った。
「ちがうよ、このOZのOの中の数字よ」
 そこには、ロゴやシリアルと同じ金色で19851010と書いてあった。
「……これ、お父さんと結婚した日付だわ……どうして、こんなところに」
「なにかの暗証番号……じゃない?」
「カードの暗証番号にしては、ハンパな桁ねえ……」

 マユは、美優の記憶をちょっと刺激してやった。

「あ、ひょっとして……」
 美優は、父が使っていたパソコンのスイッチを入れた。
「これよ、きっと……」
 
 デスクトップのファイルに暗証番号を入れなければ開けないものが一つだけあった。それが、まさに8桁であった……。
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魔法少女マヂカ・092『M資金・24 ハートの女王・5』

2019-10-29 12:53:05 | 小説

魔法少女マヂカ・092  

『M資金・24 ハートの女王・5』語り手:ブリンダ 

 

 

 たとえ国会議員でも牛を通すわけにはいかないのだ!

 

 護送車が宮殿の前に着くと、大きな黒熊の帽子に赤い制服、袖にぶっとい金筋の入った衛兵長が通せんぼをする。

 オレの胸の谷間に収まっているマヂカを見咎めたのだ。マヂカはロデオから牛女の姿になったままだ。

「女王陛下と議会の要請なのだ」

 ビーフィーターのキャロラインが詰め寄るが、衛兵長はウンとは言わない。

「我が国は法治国家なのだ、君主も議会も法を違える決定はできないのだ。どうしても通りたければ法を改正せよ!」

「その法を改正するには議会を開かなければならないが、議会の人質が宮殿に収まらなければ、開けないんだぞ!」

「それは小官が関知するところではない。とにかく法を守れ! 法こそが世界の柱、法こそが国の根幹なのだ! 法こそが!」

「ホーホーと間抜けなフクロウのように言わないでいただきたい! そんなだから、旧法に拘泥するあまり、いまだに宮殿には電気も通わないではないか! エアコンどころか、電気ストーブも使えないから、お互い真っ赤っかの制服で誤魔化しているのではないか!」

「あ、それはチューダー朝からの秘密……んなことはいいのだ、昨日の法改正で宮殿にも、この夕方から電気が点くのだ!」

「え!?」

 すると、ちょうど時間になったのだろう、宮殿の内外に一斉にLEDやら蛍光灯やらが灯り始めた。

「ずっと辛抱していたが、その甲斐あって、誰を憚ることもなく電気が使える。法治主義のありがたみだ! だから、おまえたちも法律が改正されるのを待って出直してこい!」

「いや、だから、人質が入らなければ議会が開けない!」

 面白いことになってきた。マヂカとニヤニヤしていると、一人の衛兵が衛兵長に耳打ちした。

「なになに……そうか、なかなか良いことを言う、ハリー伍長。では、おまえに任せる」

 衛兵長はハリー伍長の肩を叩くと、鷹揚に門の中に帰って行った。

「警衛中に事故者や病人を発見した場合は、衛兵は救急措置をとることになっているんです」

 ハリー伍長は、目深に被った毛皮帽の下から眼鏡越しに優しい瞳を向けてきた。

「どういうことなのだ?」

「胸の谷間に挟まれている人は病気です」

「え、マヂカ、病気だったのか?」

「え、いや、特には、そんなことより……」

「いえ、病気です。人牛合体病、至急に直さなければ」

「そうか、ハリーの言う通りだ!」

 キャロラインまで調子に乗り出した。

「ハリーは魔法学校を出ているんだ、マヂカの牛女を解除すれば宮殿に入れる!」

「そういうことか!」

「それじゃ、頼む。ブリンダの胸にも飽きてきたからね」

「オレもとっくに飽きてるわ!」

「じゃ、始めます」

 

 真面目な顔になったハリー伍長は両手をかざすと、ゆっくりと呪文を唱え始めた。秘伝の呪文なので呪文そのものを書くわけにはいかないが、すぐに体が暖まり、周囲の空気までホワホワとして、一瞬、炸裂した打ち上げ花火の真ん中にいるようになった。

 すると、マヂカと牛が分離して、身の丈も元に戻った。牛も「モーーー」と声をあげるとポクポクと歩き去っていった。

「おう、議会の人質の到着か、待ちくたびれていた、急いで宮殿内に収監するぞ!」

 衛兵長が、初めて気が付いたように部下に命じた。

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真夏ダイアリー・54『二人のミリー』

2019-10-29 07:16:13 | 真夏ダイアリー
真夏ダイアリー・54
『二人のミリー』     


 
 
 
「誰よ、あなた……!?」



 本物がスゴミのある笑顔で詰問した。瞬間の動揺、やつはテレポしてしまった……。

 わたしは一瞬、省吾のあとを追ってテレポートしようと思った。
 しかし、同時にジェシカが壁に掛けてあるライフルを持って銃口を向けてきた。

 選択肢は二つだ。ジェシカと本物のミリーの心臓を止めてしまうこと。これなら秘密を知る人間はいなくなる。でも、あまりにも残酷だ。
 もう一つは、本当のことを話して二人を味方にしてしまうこと。
 テレポ-トして、この場から逃げる手もあったけど、ジェシカの銃の腕から、無事にテレポートできる確率は1/4ほどでしかない。わたしは両手を挙げて、第二の選択肢を選んだ。

「分かった、わけを話すから、銃を降ろしてくれない」
「だめ、わけが分かるまでは、油断はしない……」 
 そう言いながら、ジェシカは、わたしの背後に回った。
「あなた、いったい誰? わたしには双子の姉妹なんかいないわよ」
「わたしは、未来から来たの。この戦争を終わらせるために」
「ウソよ、そんなオーソン・ウェルズの『宇宙戦争』じゃあるまいし」
「じゃ、どうして、わたしはミリーにソックリなのかしら?」
「変装に決まってるじゃない。ハリウッドのテクニックなら、それぐらいのことはやるわよ」
「側まで来てよく見てよ」
 ミリーの足が半歩近づいた。
「だめよミリー、側に寄ったら何をするか分からないわよ!」
 ミリーは、サイドテーブルの上の双眼鏡を手にとって、わたしを眺めた。そして壁の鏡に写る自分の姿と見比べた。
「……信じられない。ソバカスの位置と数までいっしょ……ワンピースのギンガムチェックの柄の縫い合わせも同じ」
「よかったら、わたしの手のひらも見て。指紋もいっしょだから」
「……うそ……信じられない」
 ジェシカは、銃口でわたしの髪をすくい上げた。
「……小学校の時の傷も同じ」
「そう、トニーとミリーが、あんまり仲良くしてるもんだから、ジェシカ、石ころ投げたのよね」
「当てるつもりは無かった……それって、わたしとミリーだけの秘密。トニーだって知らないわよ!?」
 銃を持つミリーの手に力が入った。
「あ、興奮して引き金ひかないでね……で、分かってもらえた?」
「ミリーとそっくりだってことはね。ミリー、ハンカチを自分の手首に巻いて。区別がつかなくなる」
 ミリーが急いでハンカチを巻いた。ジェシカは、わたしのポケットの同じハンカチを取り上げた。



 窓の外でレシプロ飛行機の爆音がした。


 ジェット機の音に慣れたわたしには、ひどくノドカな音に聞こえたが、ガラス越しに見える小さな三機編隊はグラマンF4F。いまが、戦時なのだということが、改めて思い起こされた。
「この戦争で、アメリカは160万の兵隊を出して、40万人の戦死者を出すわ」
「四人に一人が……」
「ジェシカ、あなたのお兄さん……この夏にアナポリスを卒業するのよね」
 わたしは、ジェシカの兄の映像を映してやった。突然暖炉の上に現れたリアルタイムの兄の姿を見て、ジェシカもミリーもビックリしていた。この程度のことは体を動かさずにやれる。これをチャンスにテレポすることもできたが、わたしは二人の信頼を勝ち得ようと思った。
「ショーン……!」
「そして、これが三年後のショーン。海兵隊の中尉になってる。で……」
 わたしは、硫黄島の戦いの映像を出した。気持ちが入りすぎて、映像は3Dになってしまったが、その変化は、ジェシカもミリーも気づかない。

 ショ-ンは、中隊を率いて岩場を前進していた。突然、数発の銃声。スイッチが切れたように倒れ込むショーン。部下達がショーンを岩陰に運ぶ。ショ-ンは頭を打ち抜かれ即死していた。

「ショーン!」
「……どう、こんなバカげた戦争、止めようとは思わない?」
「これ……ほんとうに起こるの?」
「あなたたちには未来だけど、わたしには過去。なにもしなければ、40万人のアメリカの若者が死ぬ。ショーンも、その中の一人になる」
「トニーは。いったいなにを……?」
「いっしょよ。戦争を終わらせようとしている。ただ、やり方が乱暴なの。で、わたしは、それを止めさせるために来たの。急場のことで、ミリーのコピーをアバターにせざるを得なかったけど」

 わたしは、この時、まだ、わたしの本来の任務を理解していなかった。
 ただ戦争を止めさせ、未来を変えることだけだと思っていた。
 未来は、そんなに甘いものではない。それに気づくのには、まだ少し時間が必要だった……。
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まどか乃木坂学院高校演劇部物語・19『スカートひらり!』

2019-10-29 07:05:26 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・19   
『スカートひらり!』 

 
 
 スカートひらり ひるがえし……愛に向かっていたわけではない。

 小学校から元気だけが取り柄のわたし、ひいじいちゃんのお葬式で忌引きになった以外、無遅刻、無欠席。まあ家業が零細鉄工所、従業員もゲンちゃんとマサちゃんが辞めて、柳井のオイチャン一人になっちゃったけど。日々の生活と仕事のリズムに狂いはなく、わたしも自然と身に付いた生活習慣。

 それが今日に限って……それだけ昨日のコンクールは身に応えた……と、こぼしたら、

「てめえの甲斐性でやってるクラブだろ。言い訳にすんじゃねえ!」
 
 オヤジにに叱られた。
 
 だから、家の玄関から地下鉄の車中を除いて、わたしのスカートはひるがえりっぱなし。
 わたし乃木坂って好きだけど、この時ばかりは恨んだわよ。乃木神社を横目に坂道を三百メートル……五十秒でいかなきゃ、無慈悲にも正門は閉められ、脇の潜り戸。くぐったとこで、生活指導の先生の「待ってました」とばかりのお説教受けて、入室許可書もらって、授業中の教室にスゴスゴと入って……痛いみんなの視線。で、一時間目の先生に出席簿に/の線をいれられて、痛ましく×(遅刻のシルシ)となる。

 だいたい乃木高って、お行儀いいから、遅刻って日に一人か二人。たまに常習の子がいて、年度末には消えていなくなる……。
 わたしも転落の第一歩……かな。明くる日からは、汗と油にまみれて、慣れない手つきで溶接なんかやらされる。そのたんびに失敗ばかりやってオヤジに叱られて、さっさと大学いって公務員の道まっしぐらの兄貴。兄貴はまめな性格とアンニュイな表情がアンバランスなんだけど、なぜかモテんのよね。で、さっさと結婚。相手は、今の彼女の香里さんか……。
 行き着く先は行かず後家の小姑……香里さんとは相性わるそうなのよね。こないだもデートのダシに使われて、いっしょにホテルのケ-キバイキング。伸ばした手の先に、ナントカいうスィーツ。
 一瞬目が合っちゃって、わたしったらニッコリ笑って取っちゃった。
 恨んでんだろうなあ……こんなことなら、オクユカシく譲っておくべきだった……。
 われながら、五十秒の間に、これだけ妄想できるもんだ……門だ。今まさに正門が閉じられようときしみ軋みはじめた!

 ガチャンと音がして、わたしの背後で正門が閉じられた。

 やったー、セーフ! 
 
 と、その横をわたしといっしょにスカートひらりとはためかせ、正門をくぐってきた人がいる……マリ先生だ!
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宇宙戦艦三笠・45[小惑星ピレウス・2]

2019-10-29 06:40:30 | 小説6
宇宙戦艦三笠・45
[小惑星ピレウス・2] 


 
「間もなく完全惑星直列。一時間でピレウスに着けば、見つかる可能性はほとんどないわ」

 修一は、完全に惑星が直列になるのを待っていた。それが今、グリンヘルド、ピレウス、シュトルハーヘンの三ツ星が串刺し団子のように一列になりかけている。一番発見されにくい瞬間だ。
 
「最大戦速で10分。あとは慣性速度でピレウスに到達」
「周回軌道に入ったら発見されてしまうわ」
「周回軌道は1/6周で、ピレウス火山風上の森の中に着陸」
「針の穴に馬を通すようなものね」
「樟葉の腕を信じてるよ……」
「横須賀に帰ったら、ホテルのスィーツバイキングおごりね……クレア、目的地までアナログでいくから」
「大丈夫……?」
「デジタルのオートだと、0・005秒惑星直列から外れる。発見される恐れがあるわ。トシ、出力は最大戦速9分45秒。それ以上だと、エネルギー残滓を検知される。いいわね」
「分かりました。タイミングだけはきっちり教えてください」
 トシは、死んだ妹を思った。自分が気づいてやるタイミングが、もう少し早ければ、妹は死なずにすんだ……。
「発進まで10秒……」
 ブリッジの全員がデジタルカウンターを見た。5秒でトシは目をつぶり、カウンターではなく樟葉の呼吸に集中した。これに成功すれば、妹が生き返る……そんな妄想が頭を占めた。
「5……4……3……2……今!」

 三笠のクルーの心が一つになった。完全なタイミングで三笠は発進した。

「……うまくいきました。三笠の発進エネルギーの残滓は探知レベル以下、着地点は目標から30メートルずれただけです。デジタルでも、ここまで正確にはいきません!」
 クレアが感動の声をあげた。偶然であるが、目標地点は地面の傾斜角が30度もあり、そこに着地していれば三笠は転覆していたかもしれない。ブリッジの窓から見える風景は、地球で言うカンブリア紀のようで、周囲の木々の高さは十分に三笠を隠していた。
 
 そのまま三日が過ぎた。
 なんの変化もなかった。

 ピレウスの森は原始のジャングルのように鬱蒼としていたが、予想していた生物反応は無かった。外からの観察では人類以外の生物の反応があったのだ。そして、植物系以外の生命反応は無い。
「三笠にも、みんなにも劣化や老化の兆候がありません……」
 トシが、首を捻りながら呟いた。
「三笠にバリアーが張ってあるからじゃないの」
「この程度のバリアーなら、ピレウスの滅んだ文明にもあったと思います。このジャングルの下にはピレウス古代文明の軍事基地の残滓があります。ジャングルに覆われているので比較的劣化が遅いので、技術レベルが分かります」
 クレアが、三笠の下の軍事基地の残滓をモニターに写した。残滓からでもかなり進んだ文明の様子が読み取れた。

「火山の方角から生命反応……微弱だけれど……人間よ!」

 その人間は、ピレウス火山を背に、ゆっくりと三笠に近づいてきた……。
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小悪魔マユの魔法日記・78『期間限定の恋人・10』

2019-10-29 06:27:34 | 小説5
小悪魔マユの魔法日記・78
『期間限定の恋人・10』     



「道に迷ったな、この先進入禁止。大通りに出て、やっぱりタクシーにしよう」
 
 黒羽はディレクターの顔になって、道を戻り始めた……。

 店にもどると、お母さんが、なにか言いたげ聞きたげだったけど、すぐにHIKARIプロの事務所の会長室に向かった。
 ノックをしたが返事は返ってこない。
「失礼しま~す……」
 会長室に人の気配はなかったが、モニターが降りていたので、コントローラーを手にとって起動ボタンを押す。メニュー画面が出てくる。ユーザー名の下に「MITSURU」と「MIYU」が出てくるので、迷わず「MIYU」選ぶ。設定・フォト・ミュ-ジック・ビデオとメニューが並び、ビデオの下に「スタジオカメラ」が出てきた。
 〇ボタンを押すと、ブースから見たスタジオの全景が見える。右のスティックでカメラが上下左右に、左スティックでカメラが移動する。不用意に動かすとダンスレッスン中のメンバーの子のお尻にピントが合ってしまった。慌てて右スティックを押し込むとオートフォローになり、カメラの方向を変えてもカメラはその子のお尻を追いかけたままになる。
 ×ボタンを押すと、メンバーは替わるが同じお尻。
「もう、こんなのじゃなくって……」
「R1ボタン」
「R1……」
 声に従ってR1ボタンを押すと胸のアップ……!?
「それ、服部八重。イイカタチしてんだろう」
 
 ワッ!
 
 そこで気づいた。いつの間にか、会長が後ろに立っている。
「もう、会長さん、こんなことして喜んでるんですか!?」
「そりゃ、美優ちゃんが勝手に操作した結果だよ。まあ、そんな顔しないで、△ボタンで、メニューを呼んで……そう。で、操作クラシック……ね、それでカメラがアナログで動かせるだろう」
 しばらくカメラを動かしていると慣れてきた。
 改めて全景にすると、メンバーやスタッフの熱が伝わってくる。

 ――特急電車、準急停車と間違えて、ボクはホームで吹き飛ばされた。
 二回転ショック!ショック!
 手にした花束、コスモストルネード!――

 歌詞に沿って、旋回二回転……したところで、振り付けの春まゆみの声が飛ぶ。
「堀部え、あんた切れはいいんだけど力みすぎ。敵討ちじゃないんだからね。小野寺あんたドヤ顔しない。みんな全体にカタイよ。急に強い風に吹かれて、ビックリ、そして、ちょい困り顔のモエ~って一瞬だよ。あとは、パンチと切れ。萌だけじゃ、オモクロには勝てないからね。はい、もう一度サビの前から」
「はい!」
 と、みんなで返事をして、また延々とレッスンは続く。そしていつしかカメラは、後ろでヘッドセット付けた黒羽に固定された。
 軽くリズムに乗りながら、黒羽は前面の鏡に映るメンバーのカメラ写りをチェック。時々立ち位置を変えて観客のあらゆる視点を試していく。そしてモニターに映るメンバーのカメラ写りもチェック。そして常に黒羽の横に付いている専属ADに指示を与えていく。
 美優は、もっと真剣な顔をした黒羽を想像していたが、なんだか文化祭の前日に出し物の準備をしているヤリタガリの男の子のような無邪気さだった。
「意外かい?」
 それを見透かしたように、会長はエビせんべいを差し出した。一枚いただくと意外においしかった。
「もっと真剣な顔してやってるかと思いました……」
「真剣だよ。真剣に遊んでんの。そりゃ、歌や振りを最初に覚えるときは真剣一本だけどね。覚えちゃったら遊ぶ。オレたちエンタメは観てる人に楽しんでもらってナンボだからね。いかにステキに遊べるか、それを黒羽は探ってんの」

 そういう会長も嬉しそう。エビせんべいをかじっている、その姿はガキ大将。
 そのガキ大将といっしょに、美優は日が傾くまでモニターに釘付けだった。

 マユは、美優の中にいて、美優の心が少しずつ変化していっているように感じた。
 美優の命は、あと6日と4時間になっていた……。
 
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