大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・メタモルフォーゼ・1・ここまでやるとは思わなかった!

2019-02-28 06:55:30 | 小説3

メタモルフォーゼ・1

『ここまでやるとは思わなかった!』   


 ここまでやるとは思わなかった!

 ツルツルに剃られた足がヒリヒリする。なけなしの産毛のようなヒゲまで剃られた。
 なによりも、内股が擦れ合う違和感には閉口した。

 部活のディベートに負けてぼくは女装させられているのだ。

 ワケはこうだ。

 コンクールを目前にして、わが受売(うずめ)高校演劇部の台本が決まらない。そんな土壇場に、やっと顧問の秋元先生が書き上げた本にケチを付けてしまったのだ。

 他の部員は、先生の本がいい(本当のところは、なんでもいいから、とにかく間に合わせたい)ので、反対者はぼく一人だった。
 
 ぼくが反対したのは作品がウケネライだからだ。これが喜劇のウケネライなら、多少凹んだ本でも反対しない。

 でも、タイトルも決まっていない秋元先生の本をざっくり読んで、このウケネライはダメだろうと思った。
 震災で疎開した冴子という少女が、津波に流されるうちに妹の手を離してしまう。数日後妹は死体で発見される。それが、冴子のトラウマになり、妹の姿を見るようになる。むろん幻だ。
 妹の幻が無言で現れはじめてから、ある男の子と仲良くなって、疎開先で少ない友だちの一人になる。やがて、その子にも妹の姿が見えていることが分かる。
「実は、ぼくは幽霊なんだ。交通事故で死んだんだ。冴子ちゃんに見えているのが幽霊か幻か、ぼくには分からない。でも、これは言える。冴子ちゃんが妹を殺したんじゃない。事故死なんだ、事故死ということでは、ぼくも冴子ちゃんの妹も変わらない。だから、そんなに気に病むことはないよ」
 そう言うと、男の子と妹はニコニコしながら消えていく……ファンタスティックな大団円。

 ぼくが反対したのは、交通事故と、あの震災で死んだのは……うまく言えないけど。違うと思ったからだ。
 秋元先生の本は、最初に和解によるカタルシスがあって、そのための材料としてしか震災を捉えていない。だから読み終わって後味が悪かった、これが反対の理由。

 カタルシスのウケネライはダメだろうと思った。そのために震災をもってくるのはもっと悪い。

 また、変な験担ぎかもしれないけど、秋元先生はフルネームで秋元康という。そうAKBのドンと同姓同名。で、去年も先生の本で県大会までいった。「作:秋元康」のアナウンスではどよめきが起こったぐらい。
「まあ、みんなで話し合えよ」
 先生は、そう言って職員室に戻ってしまった。
 で、ディベートみたくなって、「負けたら女装して、女子の場合は男装して、校内一周!」と言うことになった。
 で、6:2で負けてしまった。勝ったのは全員女子。もう一人の杉村という男子はガタイがデカく、用意した女子の制服が入らない。それに一年生なのでボクが引き受けることになってしまった。

 こういうときの女子というのは残酷なもので、目に付くむだ毛は全部剃られてしまった。髪もセミロングのウィッグ。カチュ-シャまでされて、もう、どうにでもしてくれという気持ち。

「あ、これって優香のじゃん……」
「当たり前じゃん。自分のって貸せないわよ」
 ヨッコが言うと、杉村以外のみんなが頷く。

 上着を着せられるとき、身ごろ裏の名前で分かった。優香は、この春に大阪に転校。制服一式をクラブに蝉の抜け殻のように置いていった。身長は同じくらいだったけど、こんなに適うとは思わなかった。
「あたしが後ろから付いていく。ちゃんと校内回ってるの確認」

「「「「「「トーゼン!」」」」」」」

 女子の声が揃った。

 部室を出て、いったんグランドに出て、練習まっさかりの運動部員の目に晒される。
「そこのベンチに座って」
 意地悪くヨッコが言う。チラチラ集まる視線。自分でも顔が赤くなるのが分かった。
「次ぎ、中庭」
 あそこは、ブラバンなんかが至近距離で練習している。正直勘弁して欲しい。
 でも、中庭のブラバンは秋の大会のために、懸命な個人やパートの練習で、女装のぼくに気づく者はほとんどいなかった。同級の新垣がテナーサックスを吹きながらスゥィングしていた。
「後ろ通る」ヨッコは容赦がない。
 新垣の後ろは桜の木があって、隙間は四十センチも無い。

 あに図らんや、やっぱ、新垣の背中に当たってしまった。
「ごめんなさい~!」
 頭のテッペンから声が出た。
 新垣は怒った顔でこちらをみて、そして……呆然とした。後ろで、ヨッコが笑いをかみ殺している。
「次ぎ、食堂行ってみそ……」
「え……」

 こんなに食べにくいとは思わなかった。

 髪がどうしても前に落ちてくる。ソバを音立てて食べるのもはばかられた。ここでも帰宅部やバイトまでの時間調整に利用している生徒が多く、視線を感じる。中にははっきりこっちを見てささやきあっている女生徒のグループもいる。
「カオルちゃん、食べにくそうね」
 ヨッコがニタニタ笑いながら、横の髪を後ろでまとめてくれる。これは断じて親切ではないぞ、完全なオチョクリだ!
「次ぎ、職員室」
「ゲ!」
 どうやらヨッコは、仲間とスマホで連絡を取り合い、仲間はぼくが分からないところから観賞して、指示を出しているようだ。

 職員室の前には芳美が待っていた。

「部室閉めたから鍵返してくれる。荷物とかは、あの角で他の子が持ってるから」
「さあ、行って」
 ヨッコが親指で職員室のドアを指す。芳美がノックして作り声で言う。
「演劇部、終わりました。鍵を返しにきました」
 部室の鍵かけは教頭先生の横にある。なるべく顔を伏せていくんだけど、ここでも惜しみない視線を感じる。
 なんとか終わって「失礼しました」と、無声音で言う。で、ドアを開けると、なんと顧問の秋元先生。
「うん……」
 万事休す。ヨッコたちはカバンとサブバッグだけ置いて影も形もない。
 秋元先生は、幸いそれだけで職員室に入った。
 
 もうトイレで着替えるしかない。

 男子トイレに入ろうとすると、まさに用を足している三年生と目が合う。きまりが悪くなって、今は使っていない購買部の横に行く。
 そこで気がついた。カバンまで優香のと替えられていた。

 そして、あろうことか、ぼくの制服が無かった……!?

 つづく

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高校ライトノベル・時かける少女・23『プリンセス ミナコ・5』

2019-02-28 06:40:10 | 時かける少女

時かける少女・23 
『プリンセス ミナコ・5』 
       



「オネーチャン、大変だよ!」妹の真奈美がドタドタとやってきた。

「なんやのん、ドタバタとお。真奈美が標準語で騒ぐと……」
「ろくでもないんよ! 見てよ、この号外!」

 号外を見てミナコはタマゲタ。電車の中でボンヤリ生駒山を見つめている上半身の自分の姿が『ミナコ公国王女確定!』のキャプションとともに写っていた。ただし、目の所は緩いモザイクをかけてあるが、ミナコを知っているものには一目で分かる。
「ええ、これはヤバイやんか!?」
「大阪市在住の未成年の女性……こんなもん、噂たつのん一発やで、トコとかメグとか、放送局やで!」

 そこに、スマホがかかってきた。

「ダニエルだ、号外は気にするな。手は打ってある。ちょうどニュースの時間だ、テレビを見てごらん」
 あとを聞こうとしたが、ダニエルはすぐに切ってしまった。姉妹は母親と共にテレビに釘付けになった。

「「「え……うそ!?」」」

 母子三人は、同時に声をあげた。
 テレビのリポーターは興奮した声をあげていた。
「いま、号外通りのワンピースを着て、松下リノが事務所に入って行きました。リノさん、あなたが王女だってもっぱらの噂ですが、本当なんですか? ねえ、リノさん! 一言リノさん!」

 それはMNB48の松下リノであった。アイドルにしては地味なセミロング。母親がフランス人なので、同じワンピースを着ると、ミナコと区別がつかない。こんな偶然が……。
 そこに再びダニエルからスマホに電話がかかってきた。

「うまくいった。リノはきのう同じ電車に乗っていたんだ。もっとも一本あとの快速だけど……ああ、むろん、あのワンピースは着ていない。暗示をかけて、リノの部屋のクローゼットに同じワンピースをしこんでおいた。で、暗示通りに、あの服を着て、事務所にいかせた……都合が良すぎる? ハハ、これがおれ達の仕事だからさ。いっそミナコに暗示を掛けた方が早いんだが、ボスから硬く禁止されている……ボス? ミナコのパパの母親さ。ま、こんな小細工、いつまでも持たない。早く決心してくれることを望んでいるぜ。それから、しばらくは学校に迎えがくるから、大人しく乗ってくれ」

 また切れてしまった。

 明くる日、テスト後で、そんなこと忘れてメグやトコといっしょにマクドに行こうと校門を出たところで掴まった。近所の竹内のオッチャンだ。
「お母さんが用事あるて呼んではる。すぐ車に乗って!」
 わたしはダニエルは警戒していたが、竹内のオッチャンに警戒心はない。あっさりと乗ってしまった。

 四天王寺の東側の、地味な道路で青色ナンバーのリムジンに乗り換えさせられた。案の定ダニエルが乗っている。
「竹内さんは仕事に困ってらっしゃったので、とりあえずミナコ公国の臨時職員になっていただいた。むろん日本の企業名にはなっているがね」
「ほんなら、竹内さんに、そのまま領事館に行ってもらうか、ダニエルが直接迎えにきたらええやんか!」
「毎日、彼の車が領事館に来たら怪しまれる。オレがリムジンで学校に行ったら、もっと目立つ」

「ごめんなさいね。昨日の今日の呼び出しで」

「はい、こんなに早いとは……」
「ヨーロッパの事態は、日本ほど安定していないのよ。あれを見て、ミナコ」
 お祖母様が指差した方向にヤジロベエ式の振り子が付いた時計があった。振り子の両側には「ヨー」と「ロッパ」という文字がダイヤで飾られていて、支点は「MINAKO」と小さな文字盤を足もとにはめ込んだ女神像になっている。
「EUが出来たときに、エリザベス女王に頂いたの」
「え……イギリスってEUに加盟してたっけ?」
「してますよ。ただ、ユーロはつかってないけどね。まあ、ミナコの知識は、平均的な日本人のそれでしょう」
「そやけど、この時計の意味は解ります。ミナコ公国がヨーロッパ安定の支点になってることは」
「支点というのは外交辞令。我が国に、それほどの力はありません。ただ指標にはなっています」
「指標?」
「昔、炭坑夫が炭坑に入るとき、必ずカナリアの鳥かごを持っていったの。これぐらいはわかるでしょ?」
「有毒ガスが出たとき、まっさきにカナリアが死ぬから……」
「そう、水準ちょっと上の答えです」
「つまり……ミナコはヨーロッパのカナリアということ?」
「そう、それを美しく表現すると、あの時計になるの。その役割は十分理解しています」
「そやから、お祖母様は1975年のクーデターも、自分でドガチャガにしたんですね」
「ドガチャガ?」
「ああ、大きなとこでがっちり掴んで、物事を上手く処理することです」
「そう、まさにドガチャガだったわ。あれを放置していたらヨーロッパ中に波及したでしょう。ダニエルの本を読んだのね?」
「ええ、感動しました」
「ありがとう。今は、あの時ほどのパワーは無いけどね」

 そのとき、ノックしてダニエルと、お医者さんが入ってきた。

「陛下、お注射の時間でございます」
「もう、そんな時間……ほんと、じゃ、お願い」
 女王は、慣れた手つきで腕をまくった。注射のあとが点々とついていた。
「お祖母様、どこか悪いのん?」
「大したことは無いの、ちょっとしたガン」
 医者とダニエルが慌てた。ミナコも心臓がドキンとした。
「いいの、国家機密だけど、この子には知ってもらっていたほうがいい」
「どこのガンなんですか……?」
「それ以上は言えないわ。ただ見かけより歳をとっているから進行は遅いのよ。気にしないで」

 女王が、始めて気弱に笑った。医者もダニエルも俯いて涙を堪えているのがよく分かった。
 ミナコは、涙目になって、せき上げる思いを吐き出した。

「わたし、王女になります。お祖母ちゃんみたいに偉いことは、ようせんけど、それでお祖母ちゃんが、ちょっとでも楽になって、ヨーロッパやら世界の人のためになるんやったら……!」
「ミナコ!」
「お祖母ちゃん!」

 互いに椅子から立ち上がり、ハッシと抱き合う祖母と孫であった……。

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高校ライトノベル🍑MOMOTO🍑デブだって彼女が欲しい!・53『そこじゃないとこ』

2019-02-28 06:28:41 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

53『そこじゃないとこ』


 普通エキストラは下請けのプロダクションが引き受ける。

 ただ、急に特殊なエキストラが欲しい時は間に合わないで、助監督がツテやコネを使って個人技で集めてくる。
 オレたち15人のデブがそうだ。
 バスタオルをまとった桜子たちは、ごく当たり前の女子学生エキストラとして、きちんと某プロダクションから派遣されて来ている。だから、きちんとマネージャが付いている。

 そのマネージャが、小出助監督に噛みついている。

「だまし討ちみたいな撮影に抗議します! 入浴はあくまでオフの時間です。それをドッキリカメラみたいな仕掛けで撮影して! 許せないわよ!」
「それはお詫びします。ここじゃなんですから、応接室借りてますんで、そちらの方へ。女の子たち風邪ひかないように、スタッフよろしく……」
 小出助監督と女性マネージャが建物に消えて行くと、スタッフたちが厚めのパーカーを着せながら女の子たちを誘導し始めた。

「ワクワクするわね!」

 女の子の群から抜け出て、桜子が寄って来た。
「か、風邪ひくぞ」
「大丈夫、しっかり浸かって上がったところだったから」
「え、えと、どうして、ここにいるんだ?」
「桃斗のメール見て、あたしもエキストラのアルバイト。エントリーしたら、ドンピシャここだった」
 桜子は、入浴中に15人のデブが覗きの果てに、浴室の壁をぶち破って乱入してきたことを楽しんでいるようだった。
「やるもんよね。バスが遅れたんで、撮影は明日から。で、油断させて、こんなの撮るんだもんね」
 ちょっと上気して、桜子は勢いを付けて腕を組む。パーカーがパフっと鳴って空気が漏れた。湯上りの香りがホワッとオレの鼻を刺激する。撮影現場という非日常性が大胆にさせているんだろうか、いつもの桜子では考えられないことだ。そんな桜子に、ちょっと意地悪を言ってみたくなる。
「桜子、ホクロがあったのな」
「ホクロ……首筋?」
 そこは以前から知っている。
「そこじゃないとこ」
 それで分かったんだろう、桜子の頬がカッと赤くなった。

 寝床の会議室に戻ると、親父からメールが入っていた。

――お母さんの居所を教えてくれ――
 アっと思った。お袋は若作りしてバイトに行ってしまったが、オレはバイト先を知らない。知らないことに疑問も感じていなかった。
――泊りがけでアルバイトに行くって言ってた。バイト先はわからない。ごめん――
 そう返事して考えた。前の親父と別れてからは、スーパーとかホカ弁のパートに行っていたのは知っているが、泊りがけで行くようなもんじゃないだろ。正直に分からないと答えるしかなかった。
 
 寝床に入ると、また桃が現れた。

「大丈夫、ほかの人たちはしっかり眠ってもらっているから」
 少し怒ったような声で文句を言いそうなオレの機先を制した。どうも桃は反則技を使ったようで、同室のデブたちは静かな寝息を立てて熟睡しているようだ。
「しかたないなあ」
 いつものように、ヒッツキ虫の桃を抱っこした。ちょっと子どもじみて感じたが、すぐに眠りに落ちてしまった……。

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高校ライトノベル・時かける少女・22 『プリンセス ミナコ・4』

2019-02-27 06:36:05 | 時かける少女

時かける少女・22
『プリンセス ミナコ・4』
       


 

 家に帰ると、感動か動揺か分からない気持ちになった。

 お母さんは真奈美を連れて、買い物にいったようで、留守だった。

 買い物は、お母さんが、なにか素敵なことや不安な気持ちになったときのクセ。いつもミナコか真奈美が付いていく。度はずれた買い物をしないためのお目付役であり、おこぼれに預かるため。ただし条件がある。原稿料か印税が入ってきたときだけ。で、お目付役は、その衝動買いの上限が、収入の1/10を超えないように注意している。

 シャワーを浴びて、スェットに着替えベッドにひっくり返った。ミナコが一番落ち着ける場所だ。
 二段ベッドの上なので天井が近い。天井のクロスは白い微妙なまだら模様。気分次第でいろんなカタチに見える。今日は、その一つがお祖母様の横顔に見えた。

 戦車……いや装甲戦闘車だったっけ、あそこからお祖母様が出てきたときにはびっくりした。オテンバをそのままオバサンにしたような。そう、思ったよりずっと身軽でイケテた。とても孫の居る歳には見えなかった。
 部屋に通されてからのお祖母様は、ハグして、いきなりお尻をもんできたりしたが、受けた印象はとても素直なものだった。女王としても祖母としても。
 王位継承者に成って欲しいことを冷静だけど威厳をもってじゃなくて、手作りケーキの試食を頼むような気楽さで言った。
 武器輸出三原則にひっかけて断ったのは、我ながら上出来だった。だけど、これは、その前の防衛大臣の言葉を借りただけ。ミナコは、人の言ったことやしていることからヒントを得て自分のものにすることは得意だった。志望している役者の大事な条件だとも思っていた。
 お祖母様は、それをさらりと誉めて、次は自然に祖母としての情に訴えかけてきた。目に一杯涙を浮かべながら、でも、次ぎに女王として待っている仕事に支障をきたすような崩れ方はしなかった。ちゃんと許された時間の中で、必要十分な自分と、その気持ちを伝え、ミナコの中に少なからぬ影響を感動とも動揺ともつかぬ気持ちで置いていった。

 ダニエルがくれた本を出してみた。

 部外秘と英語で書かれていたが、中身は日本語になっていた。
『ジュリア・クルーゼ・アントナーペ・レジオン・ド・ヌープ・ミナコ・シュナーベ女王の1975年のミナコ公国における影響』と長ったらしいタイトルが付いていた。

 1975年、ミナコ公国で、クーデターが起こった。社会民衆党が、観光を主要な収入とする国政を「飾り窓の国のようだ」と言って、ソ連の援助などを受けて、貿易国家にしようとして、軍の若手将校たちと議会、警察、放送局を占拠した。要はソ連の傀儡になり、美しいミナコ港を軍港兼ソ連の地中海における中継港にしようとしたのである。
 しかし、彼らの目論見は外れた。アテにしていた民衆が、いっこうに付いてこないのである。国民の多数は、貿易ビジネスなどやろうと思わず、カジノやホテル、土産物や伝統的なワインの製造で満足していた。
 放送も、隣のフランスの放送局を使って、ミナコの放送をやったので、反乱軍が、いくら占拠した放送局から放送しても、見てくれる視聴者はほとんどいなかった。
 海外のセレブたちもミナコのカジノ閉鎖には怒り、自分たちの政府に働きかけ、反乱軍を非難させ、三日目にはソ連の関係者が逃亡。あっけなくクーデターは終わった。

 で……この手を打ったのが全て若き日の女王であった。

 でも、女王は表面に出ることはなく、全て当時のコナミ首相の手柄とし、自分は投降してきた反乱軍を寛容に処遇するように声明を発表した。

 ジュリア・クルーゼ・アントナーペ・レジオン・ド・ヌープ・ミナコ・シュナーベ女王の機転と国民の信頼がなければミナコ公国は、さらに小さな分裂国家になっていたであろう。

 政府部外秘1231号

「へー、あのお祖母ちゃん、こんなことやったんだ……」
 お祖母ちゃんの力を知ると共に、女王の大変さ、そしてやり甲斐を不覚にも感じたミナコであった。
 
「え、でも、どうして、こんな部外秘資料が、日本語に訳されて、挿絵までついて本になってるのよ!?」

 で、奥付を見ると、こう書いてあった。
――2013年、部外秘解除。ミナコ公国、建国800年記念出版――

「なるほどね……」

 そこに、真奈美がドタドタとやってきた。

「オネーチャン、大変だよ!」

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高校ライトノベル🍑MOMOTO🍑デブだって彼女が欲しい!・52『ギョエ!』

2019-02-27 06:27:05 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

52『ギョエ!』


 朝になって、自分たちが出ている映画のタイトルが分かった。

『あすまろ』というらしい。

 らしいというのは、きちんと分かったわけではないからだ。
 朝食の仕出し弁当を入れた段ボール箱に「『あすまろ』撮影隊様」とあったからである。
「これって、映画のタイトルですか?」
 そう聞くと、いっしょに弁当を食べ始めた小出助監督が「え……そうです」と相槌を打った。くったく有り気な反応だったけど、エキストラの身なので、それ以上聞くことははばかられた。

 朝食のあと腹ごなしに大学の構内を散歩してみた。

 ここにはバスでやってきたので、我が街国富市のどのあたりになるのか分からない。そこで6階建ての大学本館のてっぺんに上がってみる。
「意外と内陸なんだな」
 思ったよりも海が遠く、国富市も意外と広いことを実感。モヤっている遠景に確かな春の訪れを知る。
「あれは……」
 眼下の構内に見慣れたジャージ姿を発見。いそいで下りのエレベーターに飛び乗る。

「よお、昨日は張り切ってたなあ」

 少し意地悪な声を掛けたら、ジャージ姿はびっくりして振り返った。
「お、おお……昨日はすまなかったな」
 予想以上の恐縮ぶりに、オレは声のトーンを明るくした。
「八瀬こそ大変だったじゃないか。おまえがフルチンのエキストラだとは思わなかったぜ」
「あ、あれはちゃんと前張り付けてるんだ!」
「ハハ、分かってるって。あれを見て八瀬も犠牲者なんだろうって見当がついた」
 八瀬は正直に安堵のため息をついて、一歩オレに近づいた。
「小出助監督がオレの従兄弟でな。急な撮影の変更に困ってたんで、その……協力してんだ」
「ああ、あの人柄の良さそうな助監督?」
「うん、監督と会社の方針がクルクル変わって、急にラグビー部の設定が相撲部になっちまうし。水泳部は罰ゲームでフルチンランニングすることになっちまうし……朝飯だって、ほんとは部活の雰囲気出すために自炊ってことになってたのが、炊事場が足りないんで弁当になっちまうし、大変なんだ」
「気にすんなよ、困ったときはお互い様だ。オレも貴重な体験ができて喜んでんだから」
「すまん、桃斗……」
 目を合わせない八瀬に――これは、まだ何かあるなあ――と思ったが、これ以上聞くのは躊躇われた。

 で、その何かは、夕方の撮影で起こってしまった。

「これから相撲部のメンバーが入浴中の女子運動部員たちを覗き見するシーンを撮ります。場所は夕べ入った大浴場です。浴場には音声さんがスピーカーを仕掛けていて、リアルな音や声がします。自然に反応してもらえればけっこうです。ぶっつけ本番の一回勝負なので、よろしくお願いします。じゃ、本番3分前!」
 オレたち15人のデブは、旧館の陰から木造の浴場を目指す。覗きの設定なので、演技指導をしてもらわなくても泥棒のような足取りになる。近づくと女子学生たちの声や水しぶきの音などが湯気といっしょにボロ浴場の隙間から漏れてくる。
 映画のスタッフというのは大したもんだと思った。音や声は3Dサラウンドだし、漏れてくる湯気には石鹸やシャンプーの香りまでして、15人のデブは本気になってしまった。
「湯気の出てるところなら覗けるなあ……」
 先頭のデブが上ずった声で呟くと、残りのデブも、それぞれにポイントを探す。
「ん~……湯気ばっかりで、見えそうで……見えない」
 もう、効果用の音声であることも忘れて、オレたちは必死になった。
 そのうちに貼りついていた壁面がユラリと揺れたような気がした。

「「「「「「「「「「「「「ノワー!!!」」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「「「キャー!!!」」」」」」」」」」」」


 叫び声が重なった!

 崩れた壁の向こうには、リアル女の子たちが悲鳴を上げて体のあちこちを隠していた。とっさのことで隠しきれないんだけど。
 風呂側に倒れたオレたちと女の子たちの隔たりは、ほとんどゼロ距離だった。

「ギョエ!」オレの目の前で胸の片方だけ隠して立ちすくんでいたのは予想もしない人物だった。

「さ、桜子……!?」

 オレは生まれて初めて桜子のスッポンポンを観てしまった!

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高校ライトノベル・クリーチャー瑠衣・10『今日から新学年の新学期』

2019-02-26 06:57:47 | 小説3

クリーチャー瑠衣・10
『今日から新学年の新学期』



 Creature:[名]1創造されたもの,(神の)被造物.2 生命のあるもの


 目覚めたらミューがいなかった。いつも寝ていた菓子箱のベッドの中はもぬけの殻。

 小さな乃木坂学院の制服がたたんで置いてあった。1/6の制服を手に取ると、その下にはアナ雪キャラがプリントされた小さなブラとパンツも畳まれて置いてあった。
――悪いけど、人形は借りていく。なんたって体が動かないんで人形の体を使うしかないの。制服は置いておきます。人形が返せたら、また着せてやって。瑠衣がクリーチャーで、かなりの力があることは分かったと思う。あとの力は自分で見つけて磨きをかけてね。それから、クリーチャーは瑠衣一人じゃないから。気を付けて――
 そんな残留思念が置手紙のように残っていた。

「行ってきまーす!」

 今日は希望野高校の新学年の新学期だ。学校はあんまり好きじゃないけど年に一回の改まった空気は好きだ。
 ミューが言い残していったクリーチャーは瑠衣の味方ではないだろう。そして生まれながらのクリーチャーではなく、急きょ送られてきたものに違いない。

 通学途中は気を付けた。

 見知らぬ誰がクリーチャーか分からないからだ。クリーチャーたちは瑠衣が覚醒したことを知って、瑠衣を抹殺しにきた敵だ。ミューの思念で、そこまでは分かる。だが敵の実態や、姿かたちは分からない。ミューにそこまで言い残す余裕が無かったのか、まだ理解する能力が瑠衣に無いかのどちらかだ。

 意外にも学校までは無事だった。

 学校に入って違和感があった。具体的には分からないが、何かがいつもと違う。
 新しいクラスの一覧が下足室の前に貼りだしてあった。

「瑠衣、同じクラスだぞ!」

 野球部の杉本が上履きに履き替え、体育館に向かっていた。あいつが瑠衣に気があることは知っていた。
――同じクラスになったんだ、少しは仲良くしてやるか――
 そう思ったとき、杉本が笑顔でボールを投げてきた。まるで青春ドラマの始まりだ。

 笑顔でボールを受け止めようとした瞬間、ボールは鋭利な刃物に変わっていた。瑠衣の右の手の平の上半分が切れて吹っ飛んだ。
 あいつ、クリーチャー!?
 気づいた時には、左腕の付け根から先が無くなっていた。前のクラスから一緒だったスーちゃんが、ちょっとした悪戯をしたような笑顔で、血の滴る瑠衣の左腕を持って立っている。

――ここにいちゃ、殺される!――

 そう思った瑠衣は、無意識に英語の準備室にテレポした。両手の欠損したところは直っていた。
――あたしも大したもんだ――
 そう思った時、高坂先生が机の向こうから顔を出した。
「あら、もう始業式始まるわよ」
 高坂先生は、岸本との傷も癒えたのだろうか明るい笑顔で、出口の方を指さした。反射で出口の方を見ると、音もなく、後ろの背の高さ以上もある本棚が倒れてきて、瑠衣は下敷きになってしまった。
 胸が痛い。肋骨が何本か折れたみたいだ。
「さあ、あなたを生贄にして新学年が始まるのよ……」

 高坂先生は、準備室の隅に立てかけてあった槍を手に取り、本棚の下敷きになった、瑠衣を串刺しにしようとした。
「高坂先生までクリーチャー!?」
 思った瞬間、鼻先まで伸びてきた槍は消え、高坂先生の体がねじ切れた。血しぶきと内蔵をまき散らしながら、高坂先生の上半身が目の前に落ちてきた。

 学校にはバリアーが張られているようで、外に出ることはできなかった。

 三十分ほどで、学校中のクリーチャーを片付けた。最初の十分で瑠衣は二度死にかけたが、そのたびに回復し、あとの二十分は一方的にクリーチャーを殺していき、学校で生きているのは瑠衣一人になってしまった。

 どうやら、瑠衣の本格的な戦いが始まったようだった……。


 クリーチャー瑠衣  第一期 完
 

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高校ライトノベル・時かける少女・21『プリンセス ミナコ・3』

2019-02-26 06:50:09 | 時かける少女

時かける少女・21 
『プリンセス ミナコ・3』 
      



 まさか自衛隊の駐屯地でお祖母様に会うことになるとは思わなかった。

 信太山駐屯地のゲートには、なぜか日の丸が二つも掲げられていた。良く近づいてみると頃合いの風が吹き、二つの旗が翩翻と翻る。
「あ、日の丸とちがう」
 そう、一つの旗は、白地に赤い五角形で、真ん中に王冠があしらってある。遠目には日の丸と区別がつかない。それがミナコ公国の国旗であることはネットで検索済みだ。

「あのう……大谷ミナコと申します。お祖母ちゃんから、ここに来るように言われたんですけど……」
「大谷ミナコさんですか……」
 門衛の隊員さんは、ミナコの見かけにたじろいだ。首から下は普通の女子高生だが、顔はどう見ても欧米人、青い目にブロンド。でも、表情や佇まいは、どうも日本人で、言葉にも大阪弁の訛りがあった。
「お祖母様のお名前は?」
「ええと……」
 ミナコが、メモ帳を出して、長ったらしいお祖母ちゃんの名前を確認している最中に、軍服いっぱいに勲章やら徽章やら金の肩ひもやらぶら下げた巨漢が部下の下士官を連れて現れ、部下と二人直立不動の敬礼をした。
「これは、ジュリア・クルーゼ・アントナーペ・レジオン・ド・ヌープ・ミナコ・シュナーベ女王陛下の孫殿下であらせられ、故ジョルジュ・ジュリア・クルーゼ・アントナーペ・レジオン・ド・ヌープ・ミナコ・シュナーベ皇太子の王女であらせられるミナコ・ジュリア・クルーゼ・アントナーペ・レジオン・ド・ヌープ・ミナコ・シュナーベ姫。わたくしは侍従武官長のクルス・ド・ダンカン大佐であります! お待ち申し上げておりました!」
「は、あ、いらっしゃいませ!」
 ミナコは、つい昨日までやっていたコンビニ店員さんの挨拶をしてしまった。
「きょ、恐縮であります『曹長、車のご用意!』」
『アイアイア、サー!』
 この大佐のおかげで、自衛隊の門衛の隊員さんまで気を付けになってしまった。

 ほんの五百メートルほどをリムジンはしずしずと進み、どこにいたのか自衛隊の儀仗隊一個小隊が前後に付いた。

 駐屯地のグラウンドまで来ると、向こうから凄いスピードで戦車がやってきて、リムジンの近くで前のめりになって急停車した。
 で、ドライバーズハッチから出てきたのが、なんと、戦闘服に身を包んだお祖母様だ。儀仗隊がいるはずだ。
「さすが、自衛隊の装甲戦闘車。機動性がいいですね、ガンポートの死角も少なそうで、十両ばかり譲っていただけないかしら?」
「は、申し訳ございません。我が国には武器輸出三原則が、ございまして……」
「そうだったわね、残念ですが防衛大臣。お国の決まりじゃ仕方ありませんね」
『陛下、王女がこられました』
『ダンカン、まだ、この子は決心したわけではありません。ミナコ・オオタニです。防衛大臣閣下、どこか二人で話せるお部屋、貸していただけません』
「承知いたしました。連隊長、ご案内を」
「ハ!」

 二人は応接室に通された。お祖母様の態度がそっけないのには少し驚いたミナコだった。

「会いたかったわ、ミナコ! ジョルジュに……大昔のわたくしにそっくり!」
 お祖母様は、ドアを閉めるなり抱きついてきた。で、体のあちこちを触られるのには閉口するミナコであった。
「あ、あ……お会いできて光栄です……ウッ!」
 やっと教えられた挨拶の頭の部分を言ったとき、思わず悲鳴をあげるところだった。両手でムンズとお尻を掴まれてしまった。
「この形、この張り。これが、わがミナコ王家の女の証し……ちょっと小ぶりだけど」
「あ、首から下は、お母さん似なんです」
「奈美子さんの体を触ったことは無いけど、わたくしは、あきらかにミナコは、我が王家の血を引いていると思います」
「ええ、子どものころから、外人だって……良くも悪くも言われました」
「そう、苦労したんでしょうね」
「でも、あたしはお母さんの娘ですから。ケセラセラです」
「そう、奈美子も、そう言って赤ちゃんのミナコを連れて日本に帰っていったわ……」
 女王は、祖母として寂しさを隠さずに言った。目に光るものがあった。ミナコはウルっときた。

「そして、お母さんが愛した、お父さんの娘でもあるんです……」
 
 不覚にも、ミナコは想定外の言葉を口にした……。

「あなたを、ぜひ、わたくしの後継者として国に迎えたいの」
「あ……でも、日本には武器輸出三原則があります」
「ミナコは、武器なの?」
「はい……ミナコ公国には、この上ない武器になる。そうとちがいますか?」
「あなたは賢い、思った以上です。女王の役割は大変です。いつも国の内外から尊敬され、愛されていなければなりません」
「お祖母様、あたしに、そんなこと……」
「そう、どうしてもダメだったら、断ってくれてもいい……でも、ミナコがわたくしの孫であることは消せない事実。例え悪魔に魂を売り渡してもよ、ミナコ……」

 女王の両の目に涙が溢れた。でも、今度は気持ちを抑えている。その時間を計ったようにドアがノックされた。

「陛下、お時間です」
「分かっています」
 ダニエルが入ってきた。今まで、ずっと部屋の外にいたんだろうか。ミナコは意識もしていなかった。
「今度は、領事館の方にでも来てちょうだい。会えて良かったわ」
 女王は軽くハグすると、他の侍従といっしょに行ってしまった。
「ほら、ミナコ、今日のお土産」
 ダニエルは気楽に、包みを放り投げた。感触から本だと分かった。
「ずいぶん乱暴やねんね」
「決まるまでは、ただの友だちの娘だ。いや、オレたち、もう友だちかもな。じゃ、また」

 ミナコは、行きと同じようにJRの関西本線で家に帰った。

 ふとポケットに手を入れると小さなメモが入っていた。
「ああ、これか『やまのちゅうい』。さあて、信太山は鬼門筋だったかな……」
 そのメモは、高校に入ったころからポケットにあった。なんだか謎めいているので捨てられずに持っている。
 それを、ポケットにしまい込み、ボンヤリ生駒山を見ているところをシャメられているとは気づかないミナコであった。

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高校ライトノベル🍑MOMOTO🍑デブだって彼女が欲しい!・51『エヘヘ……』

2019-02-26 06:41:37 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

51『エヘヘ……』


 桜がほころんだとは言え、まわし一丁の裸ではデブでも寒い。

 ラグビーではなく相撲だと分かって、5人のデブが、その場で辞めた。
 オレは、こういう場では決心がつかない。だから積極的に監督の芸術的使命感に共感したんじゃない。
 このバイトを紹介した八瀬に義理立てするつもりもない。驚きが大きくてとっさの判断がつかず、グズグズしているうちに「NO」が言えなくなったんだ。

 その結果15人のデブが、まわし一丁でグラウンドをランニングしている。

 この走っているシーンが映画のどの部分になるのかなどはさっぱり分からない。エキストラだから台本などはもらえないのだ。
 一周200メートルほどのコースを何度も走らされる。
「OK! 今のよかったから、もう一遍走ります!」
 助監督らしいニイチャンがメガホンで叫ぶ。カメラの前に監督らしい姿は見えない。ときどきADのようなのがグラウンドと建物の向こうとを往復するので、並行して他のシーンも撮っているのかなあと推測する。

 テイク5でデブたちはバテ始めた。

「OK!」と叫ぶメガホンに安心はしなかった。
 ついさっき「OK!」と叫びながら、もう一周走らされている。オレは歩きながら息を整えるだけで、座り込んだりはしない。座ってしまっては、もう走れなくなるからだ。つい半月前までやっていた持久走の経験からだ。
「うん……4周目のがいいな」
 助監督が撮ったばかりの映像を見ながら呟く。物腰や言い方がだれかに似ている、それが中間管理職の代表みたいなうちの教頭先生に似ていると思い至ったのは、そのあとの休憩の時間だった。
「よかったですよ。馬力は2周目がよかったんだけど、肌がね、4周目はパーっと桜色になって、いかにも稽古中の相撲部って感じが出てました。主人公の生活環境を描写するシーンが、とても自然に撮れてよかったです」
 休憩中のオレたちに、わざわざ話してくれる。
「昼からは股ワリとかの相撲の基本稽古のシーン撮りますんで、体は冷やさないようにしてください」
 簡単だけど、オレたち15人のデブが置かれた状況を説明してくれる。その笑顔も含めて好感が持てた。

 八瀬に一言文句を言ってやろうと思った。やっぱまわし一丁でランニングというのはあんまりだと思う。

「オオ!」と「キャー!」が同時に起こった。

 なんと10人ほどのニイチャンが素っ裸でランニングをしている! その前後と途中にカメラがあるので撮影だとは分かるが、相撲部のオレたちよりも悲惨だ。グラウンドに居合わせた男女の学生たちが驚きと好奇の目で見ている。
 素っ裸たちが「カット!」の声で振り返る。よく見ると股間に前張りをしている。撮影のためとは言えフルチンではまずいのだろう。
「ええ!?」
 テイク3の声がかかったところで気づいた。
「八瀬……」
 なんと素っ裸組の中に八瀬の姿があった。身体検査で上半身裸になることも嫌がる八瀬だ……さっきの怒りが消えていった。

 撮影は稽古場と夕食のチャンコを撮って終わった。

 大学の浴場で疲れをとって就寝の流れになる。
「……時代物の風呂だなあ」
 いっしょに入っていたデブがため息をつく。
「これも味なんで、明日は、ここでの撮影もあります」
 いっしょに入っていた助監督が、なにげに恐ろしいことを言う。
「あ、君たちの入浴シーンじゃないから。アハハ」
 中間管理職的な笑みでオレたちの不安を解く。

 その夜、雑魚寝の布団で寝がえりを打った。

「……ん!?」
「エヘヘ……」

 寝返りを打ったそこには、桃が寝ていた!
「なんで……こんなとこに居るんだ?」
「お兄ちゃんの居る寝床に出てくるんだよ、桃は。ね、抱っこ!」
「こんなとこに出てくるんじゃないよ!」
「だって……」
「頼むから!」
 我ながら怖い顔になる。
「意地悪な桃斗だ……!」

 ジト目になりながらも桃は消えてくれた。
 

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高校ライトノベル・クリーチャー瑠衣・9『一休みしにきた宇宙人・4』

2019-02-25 06:33:31 | 小説3

クリーチャー瑠衣・9
『一休みしにきた宇宙人・4』



 Creature:[名]1創造されたもの,(神の)被造物.2 生命のあるもの 


「さあ、次の課題だよ!」


 春休みも、もうあと二日。もう少し惰眠をむさぼっていたい瑠衣は、朝の六時からミユーに起こされた。
 これがお母さんなら、グズグズ言いながら、もう一時間は寝て居られる。
 しかし、ミューは1/6サイズの人形の姿をしており、ニクソイことに、瑠衣が入りたかった乃木坂学院の制服を着ている。それが耳元でキンキン怒鳴ってくるのだから、むかついて起きてしまう。

「今日はどこなの……?」

「尖閣諸島の空の上。もう時間ないから、そのパジャマ代わりのスェットでいいわよ」
「センカク……どこの中華料理屋?」
 寝ぼけているうちに、瑠衣の体は宙に浮き、窓のサッシが開いたかと思うと、ピーターパンのように飛び出し、ついたところはネバーランドならぬ尖閣諸島の上空だった。

 見下ろすと、中国の海監と呼ばれる監視船が、日本の海上保安庁の巡視船二隻をオチョクリながら、領海を出たり入ったりしている。

「あれ、なんとかするのが課題。こういうことを繰り返しているうちに南沙諸島みたいにとられちゃうんだよ」
「えー、こんなムズイのが課題!?」
 瑠衣は尖閣の名前くらいは知っていたが、こんなにいくつもの島でできているとは思わなかった。まして海上保安庁がこんなに苦労していることなど想像もできなかった。
「もう、こんなちっぽけな島なんか、くれてやりゃいいのに」
 まだ眠かったので、ついヤケクソを言ってしまう。
「バカなこと言うんじゃないわよ。瑠衣には力があるんだからね……ほら、もう変わっちゃった」

 なんと、尖閣の一番大きな島に五星紅旗がたなびいている。

「あら~」
「尖閣を失うと、その周囲の経済水域が海底資源ごと持ってかれるのよ。それどころか……」
 今度は、沖縄の上空にやってきた。
「あれ、県庁に変な旗がたなびいている」
「日本から独立しちゃって、琉球民主国になってる。港をみてごらん」
「あ、中国の船がいっぱい!」
「そう、実質的には中国の属国だね。放っとくとこうなっちゃう」

「ううん……巻き戻す!」

 再び尖閣の上空。海監三隻と巡視船二隻のいたちごっこが、まだ続いていた。
「さあ、なんとかしなくちゃね」
「う~ん……海上自衛隊にきてもらうとか。なんなら、佐世保にいるのを二三隻テレポさせようか?」
「こじれるだけよ。それに自衛隊の船は中国や不審船には手が出せないのよ」
「なんで、なんのための自衛隊なのよさ!」
「法律で縛っているんだから仕方ないでしょ」
「……じゃあ、あり得ない方法で追っ払えばいいのね」

 瑠衣が指を鳴らすと、海監の船を挟み込むように二隻の巨大な船が、浮上した。

「戦艦大和と武蔵!?」
「これなら、ありえないでしょ」
 大和と武蔵は46サンチの主砲を海監に向けた。海監三隻は泡を食って領海の外へ全速で出て行った。水平線のかなたに海監の船が見えなくなると二隻の巨大戦艦は、再び海中に潜航し、姿を消した。

 日中双方から、その映像は公表されたが、あまりに荒唐無稽なので、世界中がCGの合成か、日本の無邪気なトリックだと喝采をあげた。

「まあ、アイデア賞だけど、本質的な解決にはならないわね」
「いいじゃん。しばらくは、尖閣のあたりは平和だよ」
「まあ、60点。ギリギリ合格かな」

 甘い点数だが、ミューには時間が無かった……。

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高校ライトノベル・時かける少女・20『プリンセス ミナコ・2』

2019-02-25 06:28:26 | 時かける少女

時かける少女・20 
『プリンセス ミナコ・2』 
           



 あまりに素敵なバリトンで、流ちょうな日本語だったので、ろくに確認もしないでドアを開けてしまった。

「こんばんは。大谷奈美子さん」
 うっかり出てしまった母は、しばらく言葉がなかった。
「……少し老けたかしら、ダニエル?」
 このダニエル・クレイグ似のオッサンは、ほんとうにダニエルというらしい。
「あいかわらず、率直でいらっしゃる。奈美子さんは、とても十六年の歳月を感じさせない」
「で、十六年ぶりのご用はなにかしら?」
 
 多少のやりとりがあって、ダニエルは黒塗りのハーレーに、ミナコ親子は「わ」印のボックスカー・エリシオンに乗って堺筋を南に向かった。
 MS銀行が見え、南森町であることが知れた。堺筋を一本西へ入ったところで、エリシオンを降り、志忠屋という小さなイタメシ屋のような店に入った。
「よう、タキさん。たのむよ」
「ダニエル、やることが早いなあ」
 タキさんという怪しげなマスターが、店の看板を「貸し切り」に変えた。
「お食事は?」
 ダニエルが優しく聞いた。
「済ませて……」
 母の言葉をさえぎって、真奈美が言った。
「まだ別腹があるさかい、いただきます!」
 ミナコは、夕食がまだだったので異議は無かった。

 牛と真鯛のカルパッチョ。それにカルボナーラと、若者向きの海山のパスタが、それぞれ特盛りで出てきた。
 母は、少しのチーズとワインを口に含んだだけだ。あきらかにダニエルを警戒している。
「真奈美ちゃんは、ほんとにAKBの……ナンタラさんに似てるね。こないだのソックリショ-は惜しいことしたね」
「まあ、ええんです。賞金は残念でしたけど」
「ミナコさんは、ますます……似てきましたね」
 母の奈美子は、厳しい目でダニエルを見た。ダニエルは臆することなく続けた。
「先月で……丸三年がたちました」
「でも、ジョルジュは……」
「これは、我が国の法律で、身分には関係ありません」
「でも、ミナコは、まだ十七歳です」
「だから、事前に私が話しにきたのです」
 ダニエルは、少し微笑んで、ワイングラスを干した。
「なんか、うちに関係有る話やのん?」
 ミナコも、さすがにカルボナーラを食べる手を休めて聞いた。
「いいですか、奈美子さん?」

「いえ、あたしから話します。ミナコ、あなたはミナコ公国の王位継承者なの」

 ミナコは、口の中に何も入って無くてよかったと思った。妹の真奈美は運悪くジンジャエールを飲もうとしたところで、口を閉じた分、鼻からジンジャエールが拭きだし、悶絶していた。
「ゲホ、ゲホ、ゲホ、ゲホ……!」
「あんた、これで拭き」
 マスターが、オシボリを二本渡してくれた。
「……王位継承者って?」
「王女さまってこと。ただし、あなたが決心したらね」
「え……え……あたし意味分からへん」
「ミナコのお父さんは、ミナコ公国の皇太子。それが、三年前NATO軍の部隊長として、フリカに送られて、戦闘中に行方不明になって……」
「訓練中の事故です」
「そら、表向きやろ。訓練中に敵と遭遇して、やむを得なく自衛的な戦闘になった」
「タッキー!」
「この子には、全部ほんまのことを言うたほうがええ。ゴマカシやらウソが入ったら、この子は全部拒否しよるで。そんな面構えや」
「ああ、おまえは外人部隊でも、一番のヒューマニクスドクターだったな……お説に従うよ」
「つまり……」
「ここからは、わたしに話させてください、奈美子さん」
「お姉ちゃんが王女さま……?」
「我が国では、三年間音信不通の者は死んだと法的に解釈されます。むろん裁判所に提訴して例外規定をあてはめてもらうこともできます。しかし、お父様は戦場で行方不明になられた。おびただしい血と戦闘服の切れ端などをを残して。一般の兵隊なら、状況から戦死と判断されますが、お父様は、お立場上行方不明とされたというのが正しい説明になるでしょう。で、三日前に三年になった。今はお祖母様の女王陛下がいらっしゃいますが、ご高齢でもあり、王位継承者を未定のままにしておくことはできません」

 誰も口をきかなくなった。FMが流す『さくらんぼの実るころ』だけが流れていた。

「……お父様が好きな曲でした」

「この曲を聞きながら、ジョルジュは『皇太子にはならない』って言ったのよ」
 奈美子がポツンと言った。
「あたしのミナコいうのは、国の名前からとったんですか?」
「これは、お父様と奈美子さんの秘密です」
「どないやのん、お母さん?」
「奈美子の字をバラバラにして、組み合わせを考えたの。ナミコを外して残ったのがミナコ、コナミ、コミナ、ミコナ、ナコミ。で、一番名前らしいミナコにしたの。ほんとよ」
「国の名前のミはミとムの中間音になります」
「ほんなら、うちの真奈美は?」
「わたしが果たせなかったようなことが実現できるように、真実の奈美子で真奈美。真奈美子じゃ変でしょ」
「そらそや、アハハ」

 真奈美には、こういう生まれついての明るくマイペースなセンスがあった。これでほぐれて、ミナコは聞いた。

「あたしが断ったら、どないなりますのん?」
「王家は五代遡って、フランスから迎えることになります」
「五代前て、ほとんど他人ですやん」
「率直に言って、今のミナコ公国は断絶します」
「……むつかしいことですね」
「簡単やん。お姉ちゃんの国籍が確定するのは、まだ十か月あるさかい、ちょっとお試し期間つくったら?」
「おお、それはいい。体験入学のおつもりで!」
 ダニエルが身を乗り出した。
「むろん、クーリングオフは付いているんでしょうね?」
 母がたたみかけてきた。
「もちろん。その時は、世界地図から、ちっぽけな国の名前が一つ変わるだけですから」
「で、取りあえず、なにしたらええんですか?」
「女王陛下が、大阪にこられています」

 ダニエルがニンマリと笑い、ミナコのプリンセスへの道が開いてしまった……。

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高校ライトノベル🍑MOMOTO🍑デブだって彼女が欲しい!・50『え……!?』

2019-02-25 06:18:56 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

50『え……!?』


 アゴアシ付き、一日12000円。

 なんとも魅力的なアルバイトだ。いや、魅力的すぎる。
 ひょっとしてヤバイ仕事だろうか……? 

 うかつにも、八瀬が電話してきたときに聞くのを忘れた。春休みの朝という弛んだ時間のせいか、お袋が若作りして泊りがけのバイトに行くと宣言したためか、桜子との繋がりがもどったせいか。
 八瀬に訊ねればいいんだという当たり前の結論に達した時には、集合場所の駅前ロータリーに着いてしまった。

 集合場所にはオレと同年配のアンチャンが10人ほどたむろしていた。で、その半分がオレといい勝負のデブだった。

「エキストラのバイトだ。デブ以外は10000円なんだぞ」
 集合した人間のチェックをしながら、八瀬が恩ぎせがましく言う。黒のパーカーにウエストポーチをした姿は、なんだか手配師のイメージだ。やがて迎えのバスがやってきた。
「おお……!」
 バスの中には先客のアンチャンたち、その半分以上が、やっぱりデブだった。
「デブのエキストラって、どんな役なんだ?」
「まあ、着いたら分かる」
 そう言うと、八瀬は一番前のシートでキャップを目深にして眠り始めた。
「急な変更だったので、人集めが大変だったんですよ」
 八瀬の横に座っていたスタッフ風がにこやかに答える。答えるけれど、詳しくは説明してくれない。周囲のデブたちの顔を窺うが苦笑いが返ってくる。どうやら、みんなも分かっていないようだった。

 バスは一時間ほど走って、国富大学の門をくぐった。

「体重100キロ越えの人は付いて来てください」
 女性スタッフが、停車したバスに乗り込んできてデブたちを誘導した。
「これは、流行りのラグビー部員のエキストラじゃないかなあ」
 オレの横に居た気の良さそうなデブが呟いた。じっさいグラウンドでは本物のラグビー部のアンチャンたちが練習に余念がない。

――おはよう、今朝からエキストラのバイト。どうやらラグビー部員の役のようだ!――

 桜子に、グランウンドのラグビー部員たちの写メを付けてメールを送る。
――スゴイじゃん! 桃斗はやっぱ、ただのデブじゃなかったんだ! あたしもエキストラとかやってみたいな!(#^.^#)!――
 可愛い返事が返ってきた。桜子の引っ越しまで7日あまり、少しでもいいイメージを、少しでも近づいてと願った。

「じゃ、100キロ越えのみなさんは、こちらに」

 さっきの女性スタッフが誘導してくれた。
「みなさん、突然にもかかわらず、引き受けてくださって、本当にありがとうございました」
 女性スタッフは、歩きながらではあるが、目を潤ませて挨拶してくれる。なんだか、とてもいい人なんだと感動する。
「じゃ、こちらです」
 案内されたのは教室二つ分ほどの会議室のようなところだった。部屋の窓からはラグビー部の練習が間近。窓際近くの外はゼミテーブルが置いてあって、マネージャーらしき女子学生の後姿が見える。スコアを付けているのが、とても甲斐甲斐しい。
 キャプテンだろうか、筋骨たくましいのが寄ってきて話しかけ、女子学生は、一言二言言って、スコアの説明。なんか、そのやりとりが、とてもイカシテいる。筋骨の白い歯が、オレが見てもカッコいい。
「それでは、説明しますので、注目してください」
 いかにも監督風のサングラスが入ってきて説明を始めた。
「みなさんには『スクラム!』というドラマのエキストラをやっていただきます」
 スクラム!……いいタイトルだ。
「このドラマは、大学のラグビー部を舞台にしたもので、青春群像劇と言っていいでしょう。みなさんはエキストラではありますが、撮影の進展によっては、群像劇ですので、スポットライトが当たることもあります。臨機応変に発展させようと思いますので、励んでください」
 もうスポットライトが当たっているような気がしてきた。
「臨機応変に出てきたパッションで台本にも手を加えます。加えました。結果、とてもいいアイデアが浮かび、急きょラグビー部を……相撲部に変更いたします!」

「「「「「「「「「「「「「え……!?」」」」」」」」」」」」

 デブたちの驚きが、部屋の壁や窓ガラスを震わせたのだった……。

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高校ライトノベル・クリーチャー瑠衣・8『一休みしにきた宇宙人・3』

2019-02-24 07:09:23 | 小説3

クリーチャー瑠衣・8
『一休みしにきた宇宙人・3』



 Creature:[名]1創造されたもの,(神の)被造物.2 生命のあるもの 


 駅までの五分で最初の試練に遭遇した……お坊さんとお巡りさんが、なにかもめている。


「こんなところで、駐禁とるなよ」
「でも、このあたりは、道幅が5メートル以下なんで駐禁なんですよね」
「あのね、うちの寺は江戸時代から三百年もやってんだぜ。あんたの警察よりも二百年は古いよ。ここの檀家も先祖代々だ。それもスクーターだぜ、駐禁なんかとんなよ」
「でもね、あそこにちゃんと駐車禁止の標識が……」
「あんなものは、こないだまで無かったよ」
「ちゃんと回覧板でまわしたんですけどね」
「おいらの寺は、この町内じゃないの!」
「だったら、檀家さんからお寺さんに伝えてもらわないと」
「あ、そんな檀家さんに責任転嫁なんかできるかよ。三百年も檀家回りして、お上からこんな理不尽な目に遭ったのは初めてだぜ。月回りのお参りに来てさ、お布施3000円いただいて、9000円も違反料金。江戸幕府だって戦時中のお国だって、こんな理不尽なことはしなかったぜ」
「しかし、違反は違反ですからね」

 道幅4メートルほどの生活道路で、交通課の新米巡査とオッサンの坊主が駐禁をめぐってもめているのだ。お巡りさんにとっては真剣な警邏勤務の一つであるし、お坊さんにとっては、300年の檀家回りに、帝国主義の大日本帝国からでさえ受けたことのない弾圧に感じられた。

「あれ、どうやって丸く収める?」
「うーん、どっちも分かるからなあ……」
 ミユーは鞄から顔を出しニヤニヤ。瑠衣は腕を組んだ。

「あ、そうだ!」

 瑠衣は閃いて、お巡りさんに声を掛けた。
「あの、通りがかりの高校生なんで、失礼なんですけど。あの標識間違えてません?」
「そんなことはないよ。本官はちゃんと……」
「五メートル以上あったら、ノープロブレムなんでしょ?」
 瑠衣は鞄から、五メートルの巻き尺を出して、道路の幅を測りなおした。
「五メートルと、一センチ!」
「そんな馬鹿な!?」
 お巡りさんは、巻き尺を見てびっくりし、本署の交通課に連絡、測量のやり直しをやった。

 結果、五メートル一センチに変わりはなく、駐禁の規制は解除された。

「どうよ、丸く収まったでしょうが!」
「まああね……」
 ミューは、あまり感心した顔をしない。
「なにか不足?」

 テレビをつけると臨時ニュースをやっていた。

「東京葛飾の南部を中心に最大で一メートル五センチ、地殻のずれがあることが人工衛星の観測によって明らかになりました。地震予知連絡会では、葛飾を中心とした浅い震源の直下型地震が起こる前触れではないかと、地震警報を……」
「ちょっと騒ぎになったようね」
「でも、地震なんか起こらないもの」
 瑠衣は口を尖らせた。

「じゃ、次は、もうちょっと難しい課題に取り組んでもらうわ」

 宇宙人のミユーがニンマリと笑った……。
 

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高校ライトノベル・時かける少女・19『プリンセス ミナコ・1』

2019-02-24 06:58:25 | 時かける少女

時かける少女・19 
『プリンセス ミナコ・1』 
      


 


 アベノハルカスを横目で殺して、いつものようにミナコは環状線に乗った。

 先輩や仲間たちは送別会をやろうと言ってくれたが断った。
「そやかて、またすぐにお世話になるかもしれへんし!」
「ありうる!」
 ミヤちゃんが突っこんでくれたので、笑えた。
「ミナコちゃんやったら、いつでも大歓迎。いつでも帰っといでや」
 桂文枝に似たマスターの一言にウルっときたけど、涙を見せずにバイト先のコンビニを後にできた。
 でも、環状線に乗ると、涙が滲んできた。
 鼻をかむふりをして涙を拭くと、もう気持ちは切り替わっていた。もうバイトの段階は過ぎた。これからは勉強だ。そして、一年半後には大学の入試だ。

 ミナコは俳優になりたかった、それもイッパシの俳優に。

 

 だから演劇部にも入らなかった。高校演劇は妙なクセがつくだけで、演劇科のあるどこの大学でも、劇団でも、高校演劇経験者は敬遠される。歓迎してくれるのは、コンクールの審査員がやっているような泣かず飛ばずで、傾向の強い、学校の移動公演などで、高校としがらみができたような劇団だけだ。
 去年、義理で大阪のコンクールの本選を観にいったが、芝居も審査もお粗末の極みだった。最優秀をとったR高校は、大阪一の名門演劇部で、みんな熱狂して観ていたが、周囲では、ミナコ一人が白けていた。人の台詞が聞けていない。だから生きた台詞が吐けない。舞台に意味を持って存在している役者が一人もいない。
 義理でも、ミナコは全部の芝居を観たので、その感想をブログに書いた。アクセスが一晩で千を超え、コメントや、トラックバックが二十ほどきたが、その一つ一つに論理的に答を書いた。
 そのあと返ってきたのは、感情的なものばかりだたので、

――感情的な書き込みにはお答えしません――

 と、シャットダウンした。
 その後、最優秀のR高校の顧問が、日本でも有数の演劇科の卒業生であると知って、ショックをうけた。
 その大学は、ミナコが入りたかった演劇科の大学の一つだったから。
 ミナコの決心は固くなった。
 大学は踏み台に留め、大学でコネをつけ、アメリカのアクターズスタジオに入ることである。で、とりあえず大学に入って三か月はやっていけるだけの資金を一年ちょっとで貯めたわけである。

「ごめん、真奈美。明日から晩ご飯は、あたしがつくるさかいに」

 この一年ちょっと、家事の半分。特に食事は、中学生の真奈美に頼り切っていた。お母さんも家事はやるが、料理はてんでダメ。小学校の最初の遠足で友だちの玉子焼きをもらって、初めて玉子焼きのなんたるかを知った。
 それから、学校の先生や給食室のオバサンたちに料理を習い、真奈美も高学年になると、イッチョマエに料理ができるようになった。

 母のことは嫌いでは無かったが、期待はしていなかった。母の奈美子はハンパな作家で、並のOLの三分の二ほどの収入しかなく、昼間は、この料理下手がレストランのパートに出ている。むろんオーダーを取ったり、配膳をしたりで、けっして厨房に立ったりはしない。
 母には、不思議でご陽気な性格に集客力があり、マスターも、ランチが終わった後、彼女が二時間ほど原稿を書くのを許している。

 親子の仲は、互いに楽観論者であることもあり、悪くはなかった。
 ただ、違うのは。母は根拠のない楽観であるが、姉妹のそれは、将来を見据えた計画性があることである。

 もう一つ、小さな不満は、姉妹二人の父親が違うこと、そのいずれとも縁が切れていることである。
 
 ミナコの父は外国人であった。ミナコは、遺伝子の三分の二は父からもらったようで、特にその外見は、どう見ても欧米人である。
 かたや、真奈美は純和風。AKBのなんとか言う子に似ていて、テレビのソックリショーで二等賞をとったほどである。真奈美も天然で、似せようという努力をいっさいしない。AKBのソックリさんで出て、歌いも踊りもせず落語の小話をやっては一等賞は無理だ。もっとも審査員の落語家が、その道を勧めたが、本人は明るく笑い飛ばし、その実、どこか真剣に考えてもいる。

 その夜、静かだがお腹に響くエンジン音をさせて、ダニエル・クレイグみたいなオッサンがミナコの家を訪れた……。

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高校ライトノベル🍑MOMOTO🍑デブだって彼女が欲しい!・49『……うちの家』

2019-02-24 06:48:30 | ノベル2

🍑・MOMOTO・🍑デブだって彼女が欲しい!

49『……うちの家』


 
 これには二つの理由がある。

 一つは、お袋が起こしにきたこと。
 オレは常日頃から朝は自分で起きる。とくに寝起きがいいわけじゃないけど、ベタベタした母子関係が嫌なんで、起こされる前に起きる。で、いまは春休みなんで、いつもの時間に起きる必要が無い。だから、朝の9時半に起こされたとき、なにかとんでもないことが起きたんじゃないかと(たとえば親父が殉職したとか)ドキっとした。
 二つ目は、お袋の様子。
 ジーパンに赤のキャミソール、手には丈の短いオフホワイトのスプリングコート。お袋の実年齢よりは10歳は若いナリだ。
「泊りがけでバイトに行くことになったから、一週間ほどは帰らない。机の上に生活費置いといたから」
 それだけ言うと、さっそうと回れ右して階段を下りて行った。
「なんだよ……」
 そう呟くのがやっと。起き抜けの頭は、まだ二割程度しか働かない。
――あ、それから、週末にはお祖母ちゃん看にいったげてね!――
 若やいだ追伸が聞こえて、玄関のドアが開閉する音がした。

 そして静寂。

「ひょっとしたら、バラバラになるかもしれないね……うちの家」

 ゆうべ、ベッドの中で桃が呟いた言葉が蘇る。呟いた後、桃は赤ん坊のようにしがみついてきた。
 不憫な妹だ。幽霊になってなお、生きている家族のことに胸を痛めている。

 不甲斐ないデブ兄貴ですまない。

 こういう時は習慣の中に潜り込むのが一番だ。
 もっとも習慣といっても春休み。飯を食って顔を洗ってトイレに行ったらやることがない。
――桜子の顔見に行こうか――
 そう思ったが、こんな低いテンションで会っては、せっかく取り返した二人の関係を危うくしそうなので、すぐに頭から消した。

 冷凍庫を開けて大盛りのナポリタンを取り出す。

 レンジに放り込もうとしてためらう。エイヤ! と冷凍庫からもう一つ取り出して、二つをレンジの中に安置する。
 朝食はナポリタンの大盛り一つと決めていたが――きょうぐらいはな――と言い訳する。
 ナポリタンが熱々になるまでテレビを点ける。たまさかのNHK、四月から始まる連ドラの紹介をやっている。ついこないだ『まんぷく』が始まったと思っていたら、もう半年がたっているんだとため息が出る。
 この半年のオレの変化……体重が110キロになっちまった。でも、桜子との関係は、桜子にヘゲモニーを握られているとは言え取り戻せた。家族がバラバラ……それは考えないようにしようとしたところで、レンジが任務終了のチン!

 フォークにパスタを絡めたところで、スマホが鳴った。

 一瞬迷って、ナポリタンのトレーを持ったまま二階に戻る。八瀬からの電話だ。
――お、起きてたか親友!?――
「なんだ、朝からハイテンションだな」
――ハハ、いいニュースだ。泊りがけでバイトしないか!?――

 10分後、オレは泊りがけのバイトに行くために駅前を目指した。百戸家解体の危機を感じながら……。

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高校ライトノベル・クリーチャー瑠衣・7『一休みしにきた宇宙人・2』

2019-02-23 06:57:20 | 小説3

クリーチャー瑠衣・7
『一休みしにきた宇宙人・2』



 Creature:[名]1創造されたもの,(神の)被造物.2 生命のあるもの 


「フワ~~~~~~……瑠衣は消去されるところだったのよ」

 瑠衣によく似た人形の宇宙人ミューはアクビをしながら言った。
「なんで、あたしが消去!?」
「だって、自分の力に目覚めちゃったでしょ。瑠衣の力って、使いようによっちゃ人類の滅亡だってしでかしかねない……から」
「人類滅亡、あたしが!?」
 瑠衣は笑い転げてベッドから落ちてしまった。
「学校の校長先生の首を挿げ替えたり、岸本先生を非常階段から落として殺しかけたり……覚えあるでしょ?」
「殺すつもりなんかなかったわよ。ただ高坂先生にひどいふり方をしたから、同じ苦しみを味わってもらおうと……思ったんだと思う」
「もうちょっと思いが強かったら殺してたよ」
「でも、殺さなかった」
「この次は分からない。瑠衣が街を歩いていただけで、歩きスマホしてた人のスマホを何百も壊したんだよ」
「ほんと?……でもさ、それって歩きスマホしてた人も悪いんじゃないの?」
「みんなが、みんなどうでもいい話やメールをしてたわけじゃないんだよ。取引の大事なメールだったり、人生ここ一番の告白してた人もいたんだよ」
「スマホの告白なんてサイテー!」
「でもね、そのために結婚するはずだった二人は切れてしまって、その結果生まれるはずだった子供が生んでもらえなくなっちゃうんだよ」
「そんなとこまで責任もてないよ」
「ね、そーゆー開き直りするでしょ。放っておくと、だんだんとんでもないことをやりかねないのよ。だから、瑠衣は消去!」
「そんな、そんなのって瑠衣が可哀想すぎるわよ!」
「人類を滅亡させるよりはまし」
「だって……こんな力があるのはあたしが望んだことじゃないわよさ!」
「そう……17年前に、瑠衣のお父さんがお母さんを助けて、互いの寂しさを埋めあってできたのが瑠衣だもんね。こういうのをクリーチャーっていうの。ま、地球人と宇宙人の孤独の副産物。でも、それじゃ瑠衣が可哀想だから、あたしが休息を兼ねて、アシストしに来たってわけ。で、あたしのアシストでもうまくいかなきゃ瑠衣は消去」
「そんなことしたらお母さんが悲しむよ!」
 瑠衣は思い切り枕を投げつけてやったが、ミューは器用にかわした。
「なに暴れてんのよ!」
 お母さんがリビングで怒っている声がした。
「なんでもない。久々にいい天気だから、力はいっちゃったの」
「変なの。あーあ、早く春休み終わってくれないかなあ」
「あのね、瑠衣を消去したら、生まれてこなかったことになるから、お母さん悲しみようもないの」

 お母さんとミューの無慈悲な言葉を聞いて、朝ごはんもそこそこに、ミューをバッグに入れて、瑠衣は家をとびだした。

 駅までの五分も行くと、最初の試練に遭遇した……お坊さんと、お巡りさんが、なにかもめていた。 

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