アンドロイド アン・22
『アンの質問』
アンの質問には困ったもんだ
職員室に用事で行ったら、そんなことが聞こえてきた。
学年の先生たちが、一仕事終えたのを潮にティータイム。ちょっと盛り上がって、生徒の棚卸を始めたようだ。
むろん気楽な世間話で、ほんとうに困り果てているわけでもなく、アンの指導方針を真剣に議論しているわけでもない。
たぶん、俺が同居している従兄という設定になっていることも知らないだろう。
知っていれば、たとえ世間話でも、俺の聞こえるところでするはずもない。
質問しまくってるんだって?
食堂の食器返却口で一緒になったので、冷やかし半分に振ってみる。
「それだけ真面目に勉強してるってことよ。文句ある?」
アンと並んでいる玲奈がクスクス笑う。
「さ、いこいこ、日本史の質問あるんだから🎵」
玲奈と連れ立って行ってしまう。
分かっているんだ。
アンはアンドロイドだから、その気になれば世界中のコンピューターから情報が得られる。
高校の授業内容なんて屁でもない。
緊急事態以外では、標準的な高校生に相応しくないCPの領域を遮断している。遮断して、あたりまえの高校生らしくやっていこうとしているんだ。
あたりまえのアンは気のいい奴で、こないだも、早乙女采女が新型のスマホを見せびらかしながら手下どもの欠点や苦手を面白おかしく指摘していたのを見かけて、意外にいい奴なんだと思って、スマホのアプリの力をデフォルトの何倍にもしてやった。ま、結果は前回の『采女のスマホアプリ』を読んでもらえれば分かる。
そういう善意の失敗もあり、悪目立ちすることも避けたいので、普通の女生徒を目指しているんだ。
そう思うと、俺も面白くなってきて、アンと先生とのやり取りを覗いてみたい気になった。
やっぱりここだ。
日本史の先生は、昼飯を食べた後は中庭東側の目立たないベンチで昼寝をしている。
アンは、ちょうどミスター日本史を起こしたところだ。
「役者絵とか美人画だけじゃ、浮世絵は売れません」
「いや、そういうもんなんだよ」
「でも、先生。江戸の人工は百万で、地方の政令指定都市程度です。人口比から言って、浮世絵を買うのは……」
なんと、浮世絵の売り上げを人口や、町人の購買力、江戸の浮世絵の絵師の数から類推している。
「これだと、絵師の平均年収は五両前後で、絵の具代とか差っ引いたら、食べていくのがやっとです」
「いやあ、だからね……」
先生もタジタジだ。
いま習ってるのは江戸時代の化政文化のあたり。その中でも花形の浮世絵に目を付けたというかこだわってしまった様子だ。
考えたらそうだよな。百万くらいの都市でさ、俳優とかアイドルの似顔絵やブロマイドを製作販売する業者がいるとして、それが百人ほどの(俺も授業で習った)絵師を食わせることができるか? 版元や、そこで食ってる職人のことまで考えると、そこまでの需要は無いだろう。
しかし、こういう興味の持ち方は、実に高校生らしくない。くっついている玲奈が感心したような呆れたような顔をしている。
俺は、ミスター日本史が、どう答えるか、がぜん興味が湧いてきた。
「いやあ……実は、春画で稼いでいたんだよ」
ボソリと、すごいことを言う。
「「しゅんが?」」
「こ、声が大きいよ💦」
「つまり、R18というか、アダルト指定というか……」
「つ、つまりHなソフトみたいなもんですか!(n*´ω`*n)?」
玲奈のテンションまで上がって来た。
☆主な登場人物
新一 一人暮らしの高校二年生だったが、アンドロイドのアンがやってきてイレギュラーな生活が始まった
アン 新一の祖父新之助のところからやってきたアンドロイド、二百年未来からやってきたらしいが詳細は不明
町田夫人 町内の放送局と異名を持つおばさん
町田老人 町会長 息子の嫁が町田夫人
玲奈 アンと同じ三組の女生徒
小金沢灯里 新一憧れの女生徒
赤沢 新一の遅刻仲間
早乙女采女 学校一の美少女