大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・アンドロイド アン・22『アンの質問』

2018-09-30 14:28:29 | ノベル

アンドロイド アン・22

『アンの質問』

 

 

 アンの質問には困ったもんだ

 

 職員室に用事で行ったら、そんなことが聞こえてきた。

 学年の先生たちが、一仕事終えたのを潮にティータイム。ちょっと盛り上がって、生徒の棚卸を始めたようだ。

 むろん気楽な世間話で、ほんとうに困り果てているわけでもなく、アンの指導方針を真剣に議論しているわけでもない。

 たぶん、俺が同居している従兄という設定になっていることも知らないだろう。

 知っていれば、たとえ世間話でも、俺の聞こえるところでするはずもない。

 

 質問しまくってるんだって?

 

 食堂の食器返却口で一緒になったので、冷やかし半分に振ってみる。

「それだけ真面目に勉強してるってことよ。文句ある?」

 アンと並んでいる玲奈がクスクス笑う。

「さ、いこいこ、日本史の質問あるんだから🎵」

 

 玲奈と連れ立って行ってしまう。

 

 分かっているんだ。

 アンはアンドロイドだから、その気になれば世界中のコンピューターから情報が得られる。

 高校の授業内容なんて屁でもない。

 緊急事態以外では、標準的な高校生に相応しくないCPの領域を遮断している。遮断して、あたりまえの高校生らしくやっていこうとしているんだ。

 あたりまえのアンは気のいい奴で、こないだも、早乙女采女が新型のスマホを見せびらかしながら手下どもの欠点や苦手を面白おかしく指摘していたのを見かけて、意外にいい奴なんだと思って、スマホのアプリの力をデフォルトの何倍にもしてやった。ま、結果は前回の『采女のスマホアプリ』を読んでもらえれば分かる。

 そういう善意の失敗もあり、悪目立ちすることも避けたいので、普通の女生徒を目指しているんだ。

 そう思うと、俺も面白くなってきて、アンと先生とのやり取りを覗いてみたい気になった。

 やっぱりここだ。

 日本史の先生は、昼飯を食べた後は中庭東側の目立たないベンチで昼寝をしている。

 アンは、ちょうどミスター日本史を起こしたところだ。

 

「役者絵とか美人画だけじゃ、浮世絵は売れません」

「いや、そういうもんなんだよ」

「でも、先生。江戸の人工は百万で、地方の政令指定都市程度です。人口比から言って、浮世絵を買うのは……」

 なんと、浮世絵の売り上げを人口や、町人の購買力、江戸の浮世絵の絵師の数から類推している。

「これだと、絵師の平均年収は五両前後で、絵の具代とか差っ引いたら、食べていくのがやっとです」

「いやあ、だからね……」

 先生もタジタジだ。

 いま習ってるのは江戸時代の化政文化のあたり。その中でも花形の浮世絵に目を付けたというかこだわってしまった様子だ。

 考えたらそうだよな。百万くらいの都市でさ、俳優とかアイドルの似顔絵やブロマイドを製作販売する業者がいるとして、それが百人ほどの(俺も授業で習った)絵師を食わせることができるか? 版元や、そこで食ってる職人のことまで考えると、そこまでの需要は無いだろう。

 しかし、こういう興味の持ち方は、実に高校生らしくない。くっついている玲奈が感心したような呆れたような顔をしている。

 

 俺は、ミスター日本史が、どう答えるか、がぜん興味が湧いてきた。

 

「いやあ……実は、春画で稼いでいたんだよ」

 ボソリと、すごいことを言う。

「「しゅんが?」」

「こ、声が大きいよ💦」

「つまり、R18というか、アダルト指定というか……」

「つ、つまりHなソフトみたいなもんですか!(n*´ω`*n)?」

 玲奈のテンションまで上がって来た。

 

☆主な登場人物 

  新一    一人暮らしの高校二年生だったが、アンドロイドのアンがやってきてイレギュラーな生活が始まった

  アン    新一の祖父新之助のところからやってきたアンドロイド、二百年未来からやってきたらしいが詳細は不明

  町田夫人  町内の放送局と異名を持つおばさん

  町田老人  町会長 息子の嫁が町田夫人

  玲奈    アンと同じ三組の女生徒

  小金沢灯里 新一憧れの女生徒

  赤沢    新一の遅刻仲間

  早乙女采女 学校一の美少女

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・35『幸子の変化・1』

2018-09-30 06:57:07 | ボクの妹

が憎たらしいのには訳がある・35
『幸子の変化・1』
   


 その日は週間メガヒットの生放送の日だった。

 19時局入りだったので、幸子は演劇部の部活もケイオンの練習もしっかりやって、18時過ぎに高機動車ハナちゃんに乗って帝都テレビを目指した。念のため、ボクたちは大阪の真田山高校にいる。帝都テレビは東京の港区だ。1時間足らずで、500キロ以上移動しなくちゃならない。リニアでも無理だ。

 ハナちゃんは、高速に入ると急加速し、気がついたら空を飛んでいた。
「ハナちゃん、空も飛べるんだ!」
 お母さんが、無邪気に喜んだ。
『これでも、甲殻機動隊の高機動車ハナちゃんです。マッハ3で飛びます。今のうちに食事してください』
 お母さんは、用意しておいたハンバーガーのセットをみんなに配りだした。
「しかし、マッハ3で飛んでるのに、衝撃もGも感じないね」
『エッヘン、衝撃吸収はバッチリ。最先端の旅客機並ですよ』
「衝撃吸収装置って、小型自動車ぐらいの大きさじゃん。この小さなボディーに、よく収まったね」
『そこが、甲殻機動隊ですよ』
「里中さん、しばらく会ってないけど、元気?」
『ええ、こないだのねねちゃんの件、感謝してらっしゃいました』
「なに、ねねちゃんの件て?」
「みんな、早く食べないと、もう浜松上空よ」
 幸子が、あっさりと食べ終わって、チサちゃんがびっくりしている。チサちゃんも学校帰りに真田山にやってきて合流している。見学半分、家に帰っても、お父さんが帰ってくるまでは独りぼっちなんで着いてきたの半分。他にも佳子ちゃんが妹の優子ちゃんを連れて同席している。
「ハナちゃんが居るから大丈夫なんでしょうけど、ガードの方も大丈夫なんでしょうね」
『大丈夫、ハナを信じて。それに、もっと強力なガーディアンが……あ、これ内緒です。お母さん』
「え、どこ?」
 お母さんは、窓から外を見渡した。車内にソレが居ることは、そのときのボクにも分からなかった……。
 難しいことなんか考えてるヒマもなく、ハナちゃんは帝都放送の玄関前に着いた。
『じゃ、終わる頃には、関係者出口の方で待ってます』
 ハナちゃんは、みんなを降ろすと、さっさと駐車場の方へ行ってしまった。

「お母さん達はスタジオで待ってて。今日の準備は極秘なの」
 幸子は、そういうとみんなを楽屋から追い出した。こんなことは初めてだったけど、これも幸子の自律回復の兆しと納得して、スタジオに向かった。
 途中、お馴染みにになった、AKRのメンバーと廊下ですれ違う。小野寺さんを始め、みんなキチンと挨拶してくれる。アイドルも一流になると、このへんの礼儀もちがう。
 廊下を曲がるとき、小野寺さんがスタッフに呼ばれ、別室に向かうのがガラス窓に映った。メンバーの総監督ともなると忙しいもんだと……その時は思った。

 生放送だけど、リハーサルめいたことは何も無かった。ディレクターからザッと進行の説明があったあと、出演者の立ち位置、フォーメーションやマイク感度、照明のチェックが行われただけ。AKRのメンバーはひな壇で雑談しながら並び始めた。副調整室とやりとりがあって、ADさんの手が上がる。
「じゃ、本番いきます。10秒前……5・4・3・2……」
 Qが出て、テーマが流れ、みんなの拍手。
「週間メガヒット!! 今夜もみなさんにアーティストやその作品についての最新情報をビビットにお届けします」
「さて、今夜はいきなり特別ゲストの登場です!」
 スナップの居中、角江コンビのMCで、スタジオ奥のカーテンが開いた。
 数秒の拍手……そして、スタジオはどよめいた。ボクたちも驚いた。

 出てきたのは、AKR総監督の小野寺潤だった。そして、ひな壇にも小野寺潤が居た……。



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高校ライトノベル・トモコパラドクス・12『ルージュの錬金術師』

2018-09-30 06:49:54 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・12
『ルージュの錬金術師』
    


 玄関に、男物の靴が二足並んでいる。

 つまり主人公友子の父であり弟であるというややこしい関係の一郎以外に、もう一人来客があるということである。

 靴の片方は25・5EEという日本男性のほぼ標準をいくサイズで、性格も特に際だって可もなく不可もなしの一郎のものであり、もう一方は27・0EEEというやや度を超した大きな靴である。母であり義理の妹である母に頼まれて、来客用の昼ご飯と晩ご飯の材料を買って帰ってきた友子は、一郎の記憶には無いその男の靴のサイズを見て「バカの大足、マヌケの小足」という慣用句を思い出した。

「こんにちは、いらっしゃいませ」
 と、女子高生らしく含羞の籠もった挨拶をして、キッチンの方へまわった。
「ありがとう、トモちゃん」
 母であり、義理の妹である春奈が、慣れた主婦の目と営業職の勘で、友子が買ってきた食材が適量であることを一度で見抜き満足した。
「あら、とんがりコーンがこんなに」
「うん、ビールのおつまみにいいかと思って。お父さんの好物だし、余っても保存効くしね」
 と、自分の好物であることは一言も言わないでケロリと説明した。とんがりコーンは友子が、まだ義体になる前の1978年の発売で、当時小学校四年生であった友子は、小学一年生の一郎と取り合いをして、負けたことがなかった。義体の娘として戻ってきたとき、一郎は、このとんがりコーンを買っておき、とりあえず姉弟として早食い競争をやった。昔と変わらない姉の食べっぷりに目頭が熱くなる一郎を、事情を知らない春奈に説明するのに困った。十五歳の女子高生の姉が、四十五歳の弟に感涙にむせばせたとは言えない。

 男二人は、新作のルージュの試作品の絞り込みに困っていた。

「大人っぽい暗い色ってのは、もう出尽くしてるんで、その線はもう捨てました。明るくナチュラルな明色が、これからの主流だと思うんです」
「しかし、うちの重役の感覚は違うぜ、いまだにアンニュイの美とか言ってるんだもんなあ」
「とりあえず、カラー見本は、これで……」
「とりあえず、リラックスして、クールダウンしてお考え下さい」
 友子は、微糖のコーヒーと、とんがりコーンをお盆に載せてもってきた。
「いや、すまん友子。まあ、こいつでもがっつり食って、考えよう」
「あ、娘さんですか。太田っていいます。先輩に手伝っていただいてルージュの開発やってます」
 一瞬、太田の心に笑顔がよく似合う女の人の顔が浮かんだのを友子は見逃さずデータ化した。
「じゃ、今日はごゆっくり。いえ、しっかり頑張ってください」
 友子がリビングを出ると、太田は、お世辞ではなく、友子を誉めた。
「うん、いいですね友子さん。娘らしさの中に成熟した大人の女を予感させます。あ、これは、まだアイデアの段階なんですが、新製品には香料の他に、男を引きつける……あ、いやらしい意味じゃなくて、フト振り返らせるような、そんな成分を入れてみたいと思うんです」
――着想はいい――と思った。
「成分までは絞り込みました。ベータエンドルフィン、ドーパミン、セレトニンの三つです」
「ほう、それは」
「女性が楽しいと思ったときに出てくるホルモンなんです。量にもよりますが、薬事法には抵触しません」

 友子は「バカの大足」を見なおした。

 お昼は焼き肉とも思ったが、香りや色に関わる感覚が鈍りそうなので、山菜ご飯と素麺のセットにした。一郎は、ただ美味しそうに食べているだけだったが、太田は、素麺に付けておいた大葉の匂いの成分までパソコンで検索するほどの、熱の入れようだった。
「太田、まさかルージュに大葉入れるつもりじゃないだろうな?」
「あ、ついクセで、すぐに成分分析するんです。すみません」
「謝ることは、ないよ」
「そうよ。じっと見ると太田さんて、素敵だわ」
 半分本気、半分応援のつもりで、友子はエールを送った。
「でも、太田さんの彼女って大変でしょうね」
「え、そ、そうですか?」
 この時も、友子の心には、その女性の姿が浮かんだ、名前も笑子という分かり易いほど明るい女性である。太田は、無意識のうちに笑子に似合うルージュを考えている。

 友子は、太田のパソコンに入っているベータエンドルフィン、ドーパミン、セレトニンの混合比率を、最適な数字に書き換えてやった。

 昼食を挟んで、さらに仕事は続いた。

 一郎は二百件以上のルージュに関するウェブを開き、成分が公開されている古い物に絞ってサンプルのモデルをバーチャル化した。
「温故知新ですね。方向はボクも同じです。イメージ的には1950年代の無邪気な明るさなんですが、そこに何を足して引くのか……」
 色のサンプルは、紙に印刷されたものから、太田が持ってきたサンプルを混合し、春奈も友子も唇につけて試してみた。太田の熱気は、まだ五月のリビングに冷房を入れなければならないくらいのものだった。

 三時半を過ぎたころ、太田は幻覚を見た。

「……このリビングって、二階でしたよね」
「ああ、一階はガレージとオレの部屋だ」
 太田は、ついさっき、リビングの外を歩いている笑子の幻を見た。一瞬こちらを見てニッコリと微笑んだ笑子の唇には理想のルージュが光っていた。太田は記憶が薄れないうちにパソコンで色とグロスをバーチャル化した。
「これだ! この色とグロスです! あとは添加物。すみません先輩。いまから研究室に戻って試作します。あ、奥さんもありがとうございました。トモちゃんにもよろしく!」
 太田は、風のように去っていった。

「あの人の奥さんになる人は大変ね……でも、幸せだと思う」
 春奈が呟いた……。

 そのころ、友子は笑子に擬態したまま、姿見に映った姿を見て大納得していた。

「うん、こういう子、いいと思う。でも、簡単にはゴールインしないだろうなあ……」

 でも、外は五月晴れ。ま、いいか……。

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・34『青春の夕陽丘』

2018-09-29 07:03:57 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・34
『青春の夕陽丘』
        


 

 あのう……加藤先輩が話があるって、放送室まで!

 真希ちゃんは用件だけ言うとさっさと行ってしまった。
「なんやろ……?」
 ドラムの謙三が、真希ちゃんの残像に声をかけるように呟いた。
 
 わがケイオンは規模も大きく、技量も三年の選抜メンバーは、スニーカーエイジなどでもトップクラス。だけど、それ以外は、マッタリしたもので、軽音楽部というよりは、ケイオン。楽器を通じて結びついている友だち集団に過ぎず、そういう緩い結びつきのバンドの連合体みたいなのが実態で、加藤先輩と言えど、日頃の他のバンドを呼び出したり、指導したりということは、ほとんど無い。

 放送室の狭いスタジオは、先輩達とその楽器で一杯。ボクたち四人が入るとギュ-ギューだ。

「ごめん、こんなクソ狭いとこに呼び出して」
 加藤先輩が、そう言うと、他のメンバーが楽器をスタジオの隅に寄せて、スペースを造ってくれた。
「あのう、なんでしょうか?」
 一応リーダーの祐介が声を出した。
「メンバーの編成替えやりたいねん」

 唐突だった。

 メンバーの編成は、自然発生的に出来たものを優先し、先輩達が口を出すのは、編成が上手くいかなかった時に調停役をやるときぐらいで、今年の編成は、どのグル-プも出来上がっていた。

「太一、あんた、うちのギターに入ってくれる」
「え、ギターは田原さんが……」
「ギター二枚にしよ思て。ボーカルがウチとサッチャンやんか。自分で言うのもなんやけど、この二人のボーカル支えるのには、田原クン一枚では弱い」
「でも、ギターなら、他に上手い奴は一杯いますよ」
「そやけど、サッチャンの兄ちゃんは太一一人や。サッチャンは演劇部と兼部や。練習は、演劇部の休みの日と、向こうの稽古が終わった五時半からや。どうしてもツメがが甘なる。そこで太一やったら兄妹やさかいに、呼吸も合わせやすいし、家で細かいとこの調整もできるやんか」
「はあ……」
「そっちのギターは、もう決めたある。真希ちゃんに入ってもらう」

 真希ちゃんが、さっさと行ってしまったのは、このことを知っていたからだろう。ボクたちは決定事項の追認を迫られているだけだ。

――こんなの横暴だ――

 メンバーみんなが、そういう気持ちになったが、誰も口には出さなかった。

 加藤先輩たちに逆らって、この学校ではケイオンはやっていけない。

 それに、今年のスニーカーエイジを考えると、加藤先輩と幸子がボーカルをやるのはベストだし、そのメンバーにボクが入るのも妥当だろう……一般論では。
 幸子は義体で、普段人前で見せている幸子の個性はプログラムされたそれで、けしてオリジナルではない。ただ、そういう刺激が、幸子の中に僅かに残ったオリジナルな個性を、ゆっくり育てていることも確かだった。今度いっしょのメンバーになることが、どれだけ幸子にプラスになるか分からないが、俺は四捨五入して前向きに捉えようとした。

 その日は、練習そっちのけで、みんなで保津川下りに遊びにいく話ばかりした。むろん新メンバーの真希ちゃんも含めて。ボクたちは何より争うことを恐れる。だから、必死でたった今言い渡された理不尽を、触れないということで乗り越えようとした。

「太一、ちょっと付き合わへん?」

 保津川下りの話を過ぎるほど明るくしたあと、ボクたちは早めに帰ることにした。で、優奈がいきなり切り出してきた。
「え、ああ、いいけど」
「太一に見せたいもんがあるねん」
 
 そして、二十分後、ボクと優奈は四天王寺の山門前に来ていた。
「ここから見える夕陽は日本一やねん」
「え、ほんと?」
「昔はね……せやから、このへんのこと夕陽丘て言うねん。ナントカガ丘いう地名では、ここが一番古い。大昔は、ここまで海岸線で、海に落ちる夕陽が見事やねん」
 太陽は、高いビル群の間に落ちようとしていた。正直、東京で観る夕陽と代わり映えはしなかった。
「想像してみて、ここは波打ち際。見渡す限りの海の向こうにシルエットになった淡路島、六甲の山並み、その間をゆっくりと落ちていく夕陽……」
 優奈は目をつぶりながら話していた。優奈の目には古代の夕陽が見えているんだろう。
 一瞬微妙な加減で、夕陽がまともに優奈の横顔を照らした。優奈の横顔が鳥肌が立つほど美しく見えた。

 こんな優奈を見るのは初めてだ……。

 その微妙な一瞬が終わると同時に優奈は目を開けた。

「いま、ウチのこと見とれてたやろ!」
「え……うん」
「アホ。こういうとこはボケなあかんねん。シビアになってどないすんねん」
「だって、優奈が……」
 潤んだ優奈の目に、あとの言葉が続かなかった。
「バンド解散するときに、一回だけ太一に見せたかってん」
「夕陽をか?」
「うん。そんで、おしまい。明日は、また新しい朝日が昇る。そう言いたかってん」

 そして、優奈は目の前の道が「逢坂」といい「大阪」の語源になったことや、ここから北に向かって並んでいる天王寺七坂のことを説明してくれた。ずいぶん博識だと思ったら、お父さんが社会科の先生であることを教えてくれた。一年間同じバンドにいながら、ボクは優奈のことはほとんど知らなかったんだと思い知った。

 気づくと、優奈は『カントリーロード』を口ずさんでいた。

「……カントリー・ロード 明日は いつもの僕さ 帰りたい 帰れない さよなら カントリー・ロード♪」
「うまいな」
「当たり前、ボーカルやでウチは……あ、行きすぎてしもた」
 ボクたちは逢坂を下って、松屋町通りを北上していた。
「ま、ええわ。この先が源聖坂や。ええ坂やで」
 確かにいい坂道だった。道幅は狭いけど石畳で和風の壁に囲まれ、途中緩くZの形に道が曲がっている。坂を登り切って振り返ると、太陽はとっくに西の空に没し、残照が西にたなびく雲をファンタジックに染め上げていた。
「ほんと、きれいだなあ……来た甲斐あったよ」
「優奈のとっておきでした。ほな地下鉄乗ろか……」

 そうやって、振り返ると……その手のホテルが建っていた。

「あ……」
「惜しいなあ、制服着てなかったら入れたのにね……」
「ゆ、優奈!」
「アハハ、赤こなった。太一のエッチ!」

 優奈は、大阪の女の子らしく、ボクをイジリながら、コロコロ笑って地下鉄の駅にリ-ドした。
 大争乱が始まる前の、ボクたちのささやかな青春の最初の一コマだった……。

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高校ライトノベル・トモコパラドクス・11『新型スマホの特別機能』

2018-09-29 06:54:00 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・11
『新型スマホの特別機能』
     


 やっぱり、この人には笑顔が似合うと思った。

 この人とは、我が担任の柚木先生である。

 柚木先生は、久々にクラス全員が揃ったので、教室に入ってきたときから、終始笑顔である。でも、とくに長峰純子に声を掛けたりしない。ただ長欠だった生徒が登校してくれたことを素直に喜んでいる。それだけで、まだ二十代後半の柚木先生は女子高生のように華やいで見える。

 友子は、ふとこんな人が、こんな時につけたら栄えるようなファンデやルージュがあればいいなあ、と、弟であり父親である一郎のために思う。

 一郎はいま仕事で、新しいルージュの研究にとりくんでいるのだ。

 嬉しいついでにってか、半分照れかくしのつもりで、こんなことを言った。
「来週の月曜日には、卒業生で女優の仲まどかさんと、中退だけど、この乃木坂に二年まで在籍した坂東はるかさんが取材を兼ねて、来校されます」
――キャー――という歓声が上がった。
 坂東はるかと言えば、『春の足音』という連続ドラマで、彗星の如く現れた女優で、今やドラマや映画に、この人の名前を聞かない日はないというくらい。家庭事情で中退したけれども乃木坂学院を心から愛してくれている。
 かたや仲まどかは。わが演劇部の中興の祖といわれ、女子大生をやりながら女優としても芽を出しかけている。で、劇的なのは、二人が南千住の幼なじみであることと、ドキュメント小説と言っていい『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』の主役と重要な登場人物であるということである。
「演劇部って言えば、鈴木さんと浅田さんがそうよね、わたしも一応顧問だし。月曜はよろしくね」
 友子は無意識のうちに、先生や生徒達が放っている嬉しいときのホルモンであるベータエンドルフィン、ドーパミン、セレトニンの含有率を測定なんかしてしまった。

 休み時間に、そのホルモンをナノリペアに作らせ、試してみたら、効果覿面、肌に潤いと張りが出てきたばかりか、男を誘うフェロモンまで増加しているのには驚いた。廊下ですれ違った大佛聡の目の色が変わったので、友子は急いで数値を戻した。

 友子のクラスは、おおむね良い子が集まっているが、おのずと個性がある。

 蛸ウィンナーの池田妙子がその代表。

 新型のスマホが出たのでさっそく買って、最後の楽しみに取っておいた蛸ウィンナーを口に放り込むと、まるで手品のようにポケットからスマホを取りだした。
「へえ、これ昨日発売されたばかりのじゃん!」
 すっかり元気になった長峰純子が、意外にもキャピキャピとしゃべり出した。
「これ、シャメでホログラムが撮れるんだよね!」
「そうなんだ……ドーヨ!」
 なんとスマホの画面の上に実物大のガトーショコラが浮き出した。
「昨日、このスマホを買った記念にアキバのお店で買って写したの」
「写しただけ?」
「もちろん、あとは頂きました」
「タエちゃんが?」
「ううん、兄貴が。スマホ買うのに一昨日の晩から並んで、買った興奮で、限定何個のガトーショコラも並んで買っちゃって、その記念に写して、食べちゃった。で、罰に、今日は、あたしが独占!」
 女の子達がキャーキャー言ってると、つい友子もしゃしゃり出たくなる。
「これ、他にも機能ついてるよ」
「ほんと!?」
「うん……」
 友子はイジリながら、あんまり考えないでスマホを細工した。
「ほら、ここクリックすると匂いがする」
「……ほんとだ、高級チョコの匂いだ!」

 で、友子に悪意は無かった。ただ自分の能力がコントロールできなかっただけなのである。  「ガトーショコラ」の画像検索結果

 放課後、部室に行こうとしたら、教室のある校舎の方から、すごい悲鳴が聞こえてきた。
「友子、なんかやったね」
「ええ?」
 義体である友子と紀香には、悲鳴によって人の状況が分かる。今のは命に関わるような危険なものではない。ただ、とんでもないものに出くわした時に出る悲鳴である。
「ん、この臭い分子……」
「あ……!」
 友子は、ダッシュで教室に向かった、そして、その臭い分子の元を発見した。

 妙子の机には、例のスマホが放置され、みんながそれを遠巻きにしていた。

 友子は、スマホに匂い再生機能と共に、時間経過機能まで付けてしまっていた。確かにガトーショコラのホログラムは出ていたが、食後十数時間たった……その姿と臭いであった。
 

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・33『葉桜の木陰で』

2018-09-28 06:41:09 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・33
『葉桜の木陰で』
    


「おや、キミも僕の姿がみえるようだね……そして、僕が何者かも」

 言われてみれば、その通りだ。死んだ人が見えたり、その人が佐伯雄一さんだというのは俺の思いこみだ。
「思いこみじゃない。キミたち、兄妹の力だよ」
「ボクたちの?」
「ああ、向こうの妹さんも気づいているようだが、気づかないふりをしてくれている」
「佐伯さんは、その……」
「幽霊だよ、今日は、こんなに賑やかに墓参りに来てくれたんで嬉しくてね」
「すみません、亡くなった方を、こんな風に利用して」
「パパは、そんな風に思ってないわよ、お兄ちゃん」
「パパ?」
「墓石の横に、千草子の名前が彫ってあっただろう」
「ええ、今度のことで、ある組織がやったんです。申し訳ありません」
「いや、あれは、元からあるんだよ。ただ、赤く塗ったのは、その組織の人たちだがね」
「それって……」
「千草子ちゃんは、実在の人物だったの」
「もう、十年前になる。僕たち夫婦は離婚して、千草子はボクが引き取っていた。家内は女ながら事業家で、世界中を飛び回り。僕は絵描きで、ほとんどアトリエ住まい。で、子育ては、僕の方が適任なんで、そういうことにしたんだ……」
「月に一回は、家族三人で会うことにしていたの」
 チサちゃんは、まるで自分のことのように言う。
「あのときは、別れたカミサンが新車を買ったんで、試乗会を兼ねてドライブにいったんだ……」

 ボクには、その光景がありありと見えた。

 六甲のドライブウェーを一台の赤い車が走っている。
 車はオートで走っていて、親子三人は、後部座席でおしゃべりしていた。
「昔は、自動車って、人間が運転していたの?」
 幼い千草子ちゃんが、興味深げに質問した。
「今の車だって、できるわよ。千草子が乗るような幼稚園バスや、パパの車は、いつもはオートだけどね」
「パパは、実走免許じゃないからね。車任せさ」
「あたし、実走免許取ったのよ」
「ほんとかよ!?」
「ストレス解消よ。そうだ、ちょっとやって見せようか!?」
「うん、やって、やって!」
 千草子ちゃんが無邪気に笑うので、ママは、その気になった。
「おい、この道は実走禁止だろ。監視カメラもいっぱい……」
「ダミー走行のメモリーがかませるの。ウィークデイで道もガラガラだし」
 ママは、千草子ちゃんを連れて、前の座席に移った。

 そして悲劇が起こった。

 同じように実走してくる暴走車と、峠の右カーブを曲がったところで鉢合わせしてしまった。不法な実走をする者は、監視カメラや衛星画像にダミー走行のメモリーをかますために、衛星からの交通情報が受けられない。二台の実走車は前世紀のロ-リング族同様だった。ママの車は、ガードレールを突き破り、崖下に転落。
 パパは助かったが、ママと千草子は助からなかった。
 そして、佐伯家の墓に、最初に入ったのは千草子だった。

「で、先月、やっとわたしもこの墓に入ることになったんですよ……」
「チサちゃんは?」
「転生したか、ママのほうに行ったか。ここには居ませんでした」
「そうだったんですか……」
「千草子が生きていれば、ちょうどこんな感じの娘ですよ」
「感じも何も、わたしは、パパの娘だよ。パパこそ自分が死んでるってこと忘れないでよ」
「ああ、もちろんだよ。千草子、なにか飲み物がほしいなあ」
「なによ、自分じゃ飲めないくせに」
「雰囲気だよ、雰囲気」
「はいはい」
 チサちゃんが行くと、佐伯さんは真顔になった。
「太一君」
「はい」
「幽霊の勘だけどね。しばらくは平穏な日々が続くが、やがて大きな争乱になる。どうか、千草子……あの娘さんのことは守ってやって欲しい。君たちは巻き込まれる運命にあるし、それに立ち向かう勇気も力もある」
「佐伯さん……」
 握った、その手は、生きている人間のように温かかった。

「お兄ちゃん、パパは?」

「日差しが強くなってきたんで、お墓に退避中」

 ボクのいいかげんな説明を真に受けて、幸子に呼ばれるまで、葉桜の側を離れようとしないチサちゃんだった……。


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高校ライトノベル・トモコパラドクス・10『友子のダイハード・1』

2018-09-28 06:33:12 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・10
 『友子のダイハード・1』  
     


 純子の家は高級住宅街にある。

 高級住宅街と言っても、住宅が高級なのであって、住んでいる住人の品位まで保証するものではない。たいがい一代成金の芸能人や、会社の経営者や、儲け主義の医者などが多く、自然と、それが家の佇まいにも現れ、家を実際以上に大きく見せたり、一流建築家の住宅展示場を思わせるものが多かった。
 しかし、純子の家は違った。できるだけ小さく見えることをコンセプトにしているようで、建物にも外構にも大理石などという賤しげなものは使われておらず、屋根瓦も三州瓦と、実用本意のものであった。

 一筋離れた道路から、紀香と友子は建物と、その周辺を観察した。

「お手伝いさんはいないようね」
「早く帰らせたようね、パソコンに、お手伝いさんの勤務記録がある。いつもより一時間半早く帰らせたみたい。ここんとこずっとよ」
「家政婦会の記録じゃ、二人……まっとうな人たちね」
「リビングにご両親、二階に純子ちゃんがいる。柚木先生の記憶通り、真面目で大人しそうな子ね」
「ルックスも、トモちゃんといい勝負」
「それは、価値基準の置き方次第ね……どうやら客待ち。それもたちの悪い……」
「じゃ、わたしたちも中に」
 ほんの一飛びで、家の敷地に入り、庭の監視カメラにはダミーの映像をかまし、客間のサッシを解錠して中に潜り込んだ。

「来るのは三下だわ。こいつらノシてもラチがあかない。今日は、ちょっと工作して、情報集めることに専念しましょう。わたし純子ちゃんのとこに行く。ちょっとお出かけすることになるかも知れないけど、よろしくね」
「まあ、トモちゃん自身の性能テストだと思って、あまりやりすぎないように……来たようね、ゲスト」

 まもなく車の気配がして、二人の男が入ってくるのが分かった。上司の知恵がいいのか、車はレンタカーだった。友子はゆっくりと純子の部屋に入った。

「こんにちは……」
「あ、あなたは……?」

 純子は、思ったほど混乱はしなかった。友子が自分と同じ乃木坂学院の制服を着ていたこともあるが、どうやら、元来見かけによらず腹の据わった子なのかもしれない。万一純子がパニックをおこしても大丈夫なように目のビームを「精神安定」にしておいたが、その必要もなさそうだ。
「初めまして、わたし長峰さんと同じクラスに転校してきた鈴木友子。あなたのことが気になってお邪魔したの。よかったら、訳を話してもらえるかしら」
「ありがとう。でも、お話はできないわ。私たちの力じゃ、どうしようもないことなんだもの」
 友子は、その時、純子の心に浮かんだことから、おおよその事情は承知したが、自分から言うことは控えた。部屋のドアに鍵がかかっていなかったことで、純子の決心が分かったから。

「長峰さん。今日は、話し合いじゃない。お約束を実行しにきたんです」
 三下Aが、目だけ笑わない笑顔で言った。
「約束した覚えなんか無い。また、そちらの言う実行もさせない。ワッセナー条約にも外為法にも抵触はしていない。偽装していたのはそちらの……」
 純子の父が言い終わる前に、三下Bが胸ぐらを掴んだ。
「よせ、俺たちは、あくまで契約の実行にきたんだ。じゃ、念のため、契約書の写しを置いていきます。私どもは、仲介業者として、御社の取引先がワッセナー条約にも外為法にも違反していたこと、それに御社がそれに最初から気づいていたこと……」
「嘘だ。わたしは何も知らなかったんだ!」
「証拠はそろっています」
「みんなでっち上げだ」
「法廷じゃ有効な証拠になります。違約金の三十億は期日までにお振り込みねがいます」
「そんなもの!」
「あ、それと、お嬢さんの留学。期日も過ぎていますので、今日お連れいたします。ご心配なく。C国は民主的な国です。そこで心ゆくまでご勉学にいそしんでいただきます。おい」
 Aは、三下Bに二階へ上がるように指示した。

「わたし、知らない男の人に部屋を見られるのはイヤなの」

 純子が、制服姿に、旅行用のキャリーバッグを持って現れた。
「純子、何してんの、二階で鍵を閉めてなさいって……」
「大丈夫、この人達の顔も立ててあげなきゃ。ね、そうでしょ。今日手ぶらで帰ったら、あなたたちだってただじゃ済まないんだもんね」
「何を!」
 Bの目に、あきらかな動揺が見えた。
「じゃ、いきましょうか」
「分かりのいい、おじょうさんだ」
「おあいにく、顔を立てる以上のことをするつもりはないわ。じゃ、お父さん、お母さん、一時間ほど付き合ってきます」
「純子!」

「用意周到、レンタカー。別人が借りて面は割れないようにしてるんだろうけど、純子を迎えに来るには、ちょっとしけてるわね」
「すまないね、横浜までの辛抱だ。我慢してくれ」
「だったら、高速で行こうよ」
「高速じゃ、カメラに写るんでね」
「フフ、カメラ写りに自信がないんだ。でも、わたしは高速に乗りたいのっ!」
 純子が、そう言うと、車は勝手に高速に入ってしまった。
「ど、どうなってるんだ!?」
「兄貴、ブレーキを!」
「だめだ、ブレーキもハンドルも効かない!」
「せっかく高速にのったんだから、飛ばそうよ!」
 車は、急加速して、百八十キロまでスピードが上がった。
「こんなに飛ばしたら、警察が……」
「大丈夫、スピードレコーダーやカメラのあるとこじゃ、法定速度で行くから」
 と言う間に。八十キロまでスピードが落ち、三下A・Bの胸にシートベルトが食い込んで、肋骨にヒビが入った。そうやって、加速と、減速を繰り返し、横浜の波止場に着いた。しかし車は止まらない。
 岸壁で、完ぺきなカースタントを何度も繰り返した。

「あいつら、張り切りすぎだぜ……」

 C国の大型偽装船のボスは、部下の張り切りように苦笑いした。部下の三下A・Bは、それどころではなかった。左の鎖骨から、肋骨全てにヒビが入り、時に呼吸も困難になった。
 純子に化けた友子は、手下たちの首筋を噛んでおいた。手下たちは吸血鬼かと思ったが、友子は傷口からナノリペアーを二人の体内に注入した。これで、世界中のどこに隠れても居所が知れる。
「お、おたすけ!」
「そんなのじゃ、ディズニーランドのジェットコースターも無理ね。いいわ、一瞬減速するから、飛び降りて」
 ヘタレ三下が、命からがら飛び降りると、車は急加速して、岸壁を越え、大型偽装船のドテッパラに突っこんだ。激突の寸前に友子は飛び出し、両腕のジュニア波動砲をレベル3でぶちかました。人が見たら、車に仕掛けられたTNT火薬かなにかが爆発したと思っただろう。
 ジュニア波動砲をかました直後、ブリッジにいるボスの顔が目に入った。殺意と憎しみに滾っていた。
――やりすぎた――
 友子は、そう感じ、怒りに開きっぱなしになったボスの口に唾を飛ばした。ナノリペアーを送り込んだのである。

 友子は、その足で、二十分ほどで純子の部屋に戻った。

「明日から学校に来ても大丈夫よ」
「トモちゃん、リストカットでもやった?」
 紀香が冷やかす。
「あ、ちょっとこすっただけ」
 友子が、一撫ですると傷はきれいに無くなった。

 明くる日、C国の大型偽装船の爆発事故と、それに積まれていた長峰興産の品物が発見され、大規模な輸出サギがあることがわかり、長峰興産の無実が証明された。船長以下乗組員は取り調べを受けたが、そこにボスの姿は無かった。三下A・Bは水死体で、横浜の港に浮かんだ。

 そして、明くる日の教室には、長峰純子の元気な顔があったのだ。

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高校ライトノベル・アンドロイド アン・21『采女のスマホアプリ』

2018-09-27 14:45:07 | ノベル

アンドロイド アン・21

『采女のスマホアプリ』 

 

 

 放課後の食堂は憩いの場だ。

 

 パックジュースの一つも買えば、いつまでも喋ったり、昼寝を決め込んだり。

 第二次ベビーブームが高校生になるころに作られた食堂なので、座席に余裕がある。

 校舎の中では行儀にうるさい先生たちも、食堂では、あまりやかましいことを言わない。

 

 ウワーー、インスタ映えっすね!

 

 早乙女采女を取り巻いて、手下どもが采女の写メやら動画を絶賛している。

 どうも采女はスマホを新調し、珍しいアプリを入れて手下どもに見せびらかしている様子だ。

「これで驚いてちゃダメよ……こうやると……ほら!」

「「「「「「「オーーーーーー!!」」」」」」

 

 隣の島からでも良く分かった。

 

 スマホに取り込んだ画像が、どういう仕掛けか、スマホの画面の上で3Dと言うか、立体になって見えるのだ。

 テーブルに置かれたスマホの画面の上には、この秋流行のファッションに身を包んだ采女がフィギュアのように浮かんでいる。

「ホログラムの応用技術みたいね」

「スターウォーズとかであったわよね、レイア姫がアナキンに3Dレターを送ったりするの」

 玲奈が、お仲間と興味津々で見ている。

 普段だと、采女たちを眺めたりすると、逆に眼を飛ばされたりするんだけど、今日の采女は見せびらかしたいので、文句は言わない。

「ヨッチ、あんた撮ったげるわよ」

「え、わたしっすか?」

「遠慮しなくていいから、そこ立ってみ」

「え、あ、はい」

 ヨッチと呼ばれた手下は、写真写りに自信がないのか、ちょっと気まずそうに通路に立った。

「いくよ!」

 パシャリと撮って、数秒、ヨッチの3Dが浮き上がる。

「あ、いや、見ないでください」

 ヨッチはフルフルと両手を振るが、采女は遠慮なく操作して3D画像を倍ほどに拡大した。

「ほら、見てみ、ヨッチはスタイルいいのに、姿勢で損してるのよ。横から見たら猫背でしょ」

「あー、なるほど」

「次、トモエ!」

「は、はい」

「あんたは顔色、ほら、補整かけると、こんなに健康的」

「ユキは表情、ほら、目元と口元変えると……ね!」

 

 采女は、次々と手下を立たせてはホログラム映像にして批評している。

 

「ありかもしれない……」

 密やかにアンが感心した。

 はた目には、嫌がる手下たちを無理やり撮影して晒し者にしているようだが、一人一人改善すべき点を指摘してやって励ましているようにも見える。玲奈は眉をひそめているが、アンは分かっているようだ。

「いやあ、あたしたちに比べると、采女ねえさんなんか完璧っすね!」

「そんなことないわよ、服とかで誤魔化してるだけよ」

「「「「そんなことないです」」」」

「体つきがね、まだまだ子どもっぽくって、大人の魅力というにはね……夜になるとね、ほどよくむくみが出て、ちょっとだけマシにはなるんだけどね」

 残念ながら、そういう機能は付いては無いようだ。

 

 ブタまん半額! タイムサービスだよ!

 

 食堂のオバサンが、賞味期限の迫ったブタまんのタイムサービスを呼ばわる。

「ラッキー、わたし買って来る」

「自分が行きますよ」

「いいわよ、みんなで遊んでて」

 そう言うと、采女は、ブタまんの列に加わっていった。

「なかなかいい人なんだ……」

 アンは、さらに感心した。

「そうだ」

 アンは、チョイチョイと指を動かしてテーブルの上に仮想のインタフェイスを出した。

 俺は仕草で分かるんだけど、玲奈には、アンが暗算みたいなことをしているように見えている。

 

 え、あ、ちょ、ちょっ、ちょ、ヤバイ!

 

 手下たちが声をあげる。采女もブタまん一杯のトレーを持ったまま跳び上がる。

「ちょ、やめてえーーーーーー!」

 

 3Dの采女は、服を脱ぎだして、風呂に入る仕草をしている。

 あっという間にスッポンポンになると、鏡の前でポーズをつくりはじめる。

 慌てた手下が弄ると、3Dの采女はテーブルの上で等身大に拡大してしまった!

 

「み、見るなあーーーーー!!」

 

 電源を落とすまでの数秒間だったが、食堂に居るみんなが見てしまった。

 

「わ、悪いことをしてしまった……」

 今度はアンが落ち込んだ。

 アンは、アプリに時間経過の概念を与えたのが、状態ではなく、もろに時間を経過させてしまうため、入浴するときの采女を映し出してしまったのだ。

  

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高校ライトノベル・トモコパラドクス・9『空飛ぶ女子高生』

2018-09-27 06:40:39 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・9
 『空飛ぶ女子高生』  
     


 本当に野球をやってるみたいだった。
 
 カキーン!
 

 友子の投げた球は、紀香によって、ショートへのいい当たりになった。

 友子は俊足で球を追いかけ、野球部が本気で練習している対角線方向のグランドまで追いかけ、バックスタンドと仮定していたバックネットのところでジャンプ。バシッっとグラブの音と手応え。勢いでジャージはブラが見えそうなところまでずり上がり、形のいいオヘソが野球部員達に丸見えになった。

「ナイスキャッチ!」

 野球部の諸君から、拍手と賞賛が送られた。
「どーも、すみませんね。本職の邪魔しちゃって」
 友子は頭を掻き掻き、自分たちのダイヤモンドに戻り、ボールを投げ返した。
「オーライ、オーライ……」
 そう言いながら、妙子が少し前進してボールをとった。 
「取れた!」
 妙子は、ウサギのように飛び上がって喜んだ。

「今のを、無対象演技って言うんだ」

 紀香は、妙子から白い歯を見せながら、見えないボールを受け取った。
「トモちゃんが入ったら、とたんにボールが見えるようになった」
 あたりまえである。紀香も友子も義体である。だから無対象の見えないボールでも。相手の投球や打球を見て、瞬時に弾道計算をして、着地点に走り、ボールを、その球速に見合ったリアクションで取る。おまけに打ったときや、球を捕ったときの「カキーン」「バシッ」ってな擬音までついている。妙子も、それにつられて目が慣れて、有るはずもないボールが見えたような気がしたのである。

 あとは、三人でダチョウ倶楽部のコントの真似や、AKBの『フライングゲット』なんかを練習した。これも、義体である友子と紀香には朝飯前である。取り込んだダチョウ倶楽部やAKBのパフォーマンスを、そのままやればいいのである。さすがに声まで変えることはしなかったが、呼吸や動きはダチョウ倶楽部のままである。まるで森三中がダチョウ倶楽部のモノマネをやったようなできである。
 AKBでは、さらにノッテしまい、友子が前田敦子。紀香が大島優子を完ぺきにコピー。調子に乗って声のボリュ-ムをマイク並にしたので、グランド中に響き、そのそっくりぶりに、グランドで練習していた運動部の諸君が手を休めて見入ってしまうほどであった。妙子は並の人間ではあるが感化されやすい性格で、声のボリュームだけは及ばなかったものの、指原程度のスタンスを維持できた。

「すごい、今日の演劇部、入部して一番おもしろかったです!」
 部室で着替えながら、妙子が興奮して言った。
「よかった。タエちゃん、このごろ練習してても引きがちだったもんね」
「そりゃ、白石先輩一人だけすごいんだもん。部活に来ても凹みますよ」
「でも。トモちゃんもすごいよね。タエちゃんを、あそこまで、その気にさせちゃったんだから」
 紀香は、義体としても、友子の力はすごいと思い始めていた。
「でも、演劇部のノリって、あれでいいんですか。お芝居の練習とか」
 友子はマットーな質問をした。
「いいのよ、今時ハンパな創作劇を五十分も我慢して見てるのはオタク化した演劇部だけ。これからの演劇部は違う線狙わなきゃだめだと思うの。演劇の三要素知ってる?」
「えーと?」
 と、妙子。
「戯曲、観客、俳優」
 友子があっさり答えた。
「そう、わたしは、この戯曲をもっと幅のあるものに解釈したいわけよ。硬いドラマだけじゃなくTPOに合わせたパフォーマンスにしたいの。今日やった野球の無対象やら、ダチョウ倶楽部、AKBのモノマネでも、練習中の運動部の手を止めて観客にしちゃう力があるじゃない」
「わー、今日の白石先輩カッコイイです(#^0^#)!」
「いやー、アハハ」

 などと言っているうちに、駅前までやってきた。昨日までタイ焼き屋があった店は閉められていて、○○不動産の看板がかけられていた。

「今度は、どんな店ができるんだろうね」
「駅前にはファストフ-ドのお店が少ないから、その手の店が入るんじゃないかしら」
 友子は、駅から半径百メートルの地図から検索して推論した。
「まあ、我らが新生演劇部のように、先を楽しみにしていようよ」
「オオ、新生演劇部! 新生ファストフ-ド!」
 と気炎を上げて、地下鉄の駅に向かった、改札に入ると妙子は下りに、友子と紀香は上りのホームに向かった。

「ちょっと付き合ってもらえません」
「友子、そういう趣味?」
「茶化さないで。マジな話なんです」
「どんな?」
「うちのクラスに長峰純子って、長欠の子が居るんです……」
「ちょっと、こんぐらがった事情がありそうね」
「ここからだと、ちょっと距離があるんですけど」
「じゃ、地上からいきましょうか」

 二人は、次の駅で降りると、手頃なビルの上にジャンプし、時速百キロ以上のスピードで街を駆け抜け、数分で長峰純子の高級住宅についた。

 二人の姿は、たまたま残業していたサラリーマンが目撃し、シャメって動画サイトに『空飛ぶ女子高生』のタイトルで投稿したがCGの合成だろうとコメントで叩かれた……。

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・32『チサちゃんの墓参り』

2018-09-27 06:30:56 | ボクの妹

が憎たらしいのには訳がある・32
『チサちゃんの墓参り』
    


 日ごと、チサちゃんの様子が変わってくる。

 チサちゃんは、向こうの世界の幸子で、ひいひい祖父ちゃんの一人が違う(向こうの世界では、新潟に原爆が落とされ、源一というその人は亡くなっている)けども、五代もたつと、ひいひい孫になる幸子とチサちゃんのDNAの違いは6・25%に過ぎず、見た目には、まったく区別がつかない。だから、こちらの世界で保護するときには、髪を短くしたり、眉の形を変えたりしたが、挙措動作はまるで同じ。幸子がプログラムモードのときなど、薄暗がりだと区別がつかなかった。

 それが、最近微妙に変わってきた。

 例えば、ティーカップを持つときに小指を立てるようになった。呼びかけて振り返ったりすると微に小首を傾げて、幸子とは違った可愛さになる。念のため、幸子が可愛いのはプログラムモードのときだけ(ボク以外の第三者がいるとき)で、本来のニュートラムモードでは、あいかわらず愛想無しの憎たらしさである。ま、幸子本来の神経細胞は数パーセントしか生きておらず、うまく感情表現ができないのは仕方がない。

「お父さんのお墓参りがしたいんです」

 チサちゃんが言い出した時は驚いた。チサちゃんの記憶は全てがバーチャルである。甲殻機動隊の担当が、元ゲ-ムクリエーターで、そいつが創り上げたもので、バーチャルであるための不足や、矛盾が当然ある。
「ここがお墓。この日曜日が四十九日だから」
 ウェブで検索したら、《佐伯家の墓》というのが実際出てきた。

『その程度のことなら、もうバーチャル処理済みだ』

 里中副長の一言で墓参りに行くことになった。

 半分ピクニックみたいなお気軽なもの……それはチサちゃん自身の提案。幸子の企画で、筋向かいの佳子ちゃん優子ちゃん、バンドのみんなに里中副長親子、その他まで付いてきた。
「おい、あれ、ナニワテレビの車じゃないのか?」
 こちらは、今やちょっとしたスターになった幸子の取材で追っかけてきている。最初のサービスエリアに着いた時は、うちの車、高機動車のハナちゃん、レンタルのマイクロバスに、放送局と四台も車が並んでしまった。

 お墓は高台の墓地の一角にあり、真新しいオブジェのような墓石が建っていた。

 佐伯雄一というのが、チサちゃんのお父さんということになっていて、お父さんとは従兄弟ということになっている。
 ナニワテレビのクルーも含め、みんなでお墓に献花し、本来なんの関係もない佐伯雄一さんの四十九日の法要を勤めた。里中副長が、なぜか浄土真宗の僧侶の資格を持っていて、導師を勤めてくれる。
「お父さんて、いくつ顔持ってんの?」
「資格だけで、五十八。あと、わたしのCPに登録されていないものも幾つか……わたしにも分かんない」
 ねねちゃんは、にっこりと答えた。ああ、この笑顔が青木拓磨をメロメロにしたんだなあ……俺自身、ねねちゃんのCPにインストールして、一日使っていた義体なので、なんとも懐かしかった。拓磨は、ねねちゃんのガードと称して、くっついてきているが、さすがにちょっかいは出さない。ねねちゃんを見る目が、女の子へのそれではなく、なにか師匠を見るような目になっている。
 
 目というと、ボクがねねちゃんと喋っていると、佳子ちゃんと優奈の視線を時々感じる。この視線は、のちのち面倒の種になるのだけど、鈍感な俺は、まだ何も気がついてはいなかった。

 献花の途中で、墓石の横を見ると、佐伯雄一の名前の横に佐伯千草子という名前が彫り込まれて赤く塗られていた。これは将来、チサちゃんもこの墓に入ることを意味していて、ボクは、さすがにやりすぎだろうと感じた。

 あとは、墓場を少し下ったところにあるキャンプ場で焼き肉パーティーをやった。ナニワテレビは気を利かしてカラオケのセットを貸してくれて、カラオケ大会になった。むろん抜け目なくカメラを回し、セリナさんは、ちゃっかり幸子の独占インタビューなんかやっている。

 あちこちで盛り上がっていると、肝心のチサちゃんが居ないことに気づいた。さっきまでいたのに……。

 チサちゃんは、墓場からつづら折れになった小道が下りきった、葉桜の側にいた。
 側に寄ってみると、木の向こうの誰かと話している様子だった。
「チサちゃん……」
 声を掛けると、チサちゃんが振り返る。木の向こうの人も顕わになって振り返った。

 その人の姿に見覚え……それは、墓で眠っているはずの佐伯雄一さんだった!
 


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高校ライトノベル・トモコパラドクス・8『乃木坂の白い雲』

2018-09-26 06:50:29 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・8
 『乃木坂の白い雲』  
     


 連休明けの空には、ポッカリ雲が浮かんでいて、乃木坂を学校へ向かう友子は見とれていた。

 義体になる何年か前に、両親に連れられていった遊園地のことを思い出していた。いま父をやっている一郎は、まだ幼稚園で、ちょこまかとよく動き目が離せなかった。友子は、面倒なガキだと思いながら、姉として弟への愛情は十分持っていた。だから遊園地で一郎が急に走り出し「コラ!」と言って、背中のリュックを掴まえバランスを崩し姉弟重なって芝生に転んだときも、じゃれ合いながらケラケラ笑えた。その時も、こんな雲が浮かんでいたなあ……そう思ったら、歩道の敷石につまずいて、前を歩いていた担任の柚木先生のお尻を掴んでしまった。
「ウワー!」
「キャー!」
 という声が一度にして、通学通勤途中のみんなが注目した。
「また、友子!?」
「あ、すみません。つい空の雲見て、思い出にふけっていたもので……」
「あなたね」
「でも、先生って、いつも生徒が危ないというところにいらっしゃるんですね。教師の鑑です」
「それは嬉しいけど、今度は他の先生にしてちょうだい」
「はい、すみません」

 先生は、さっさと先を急いで行ってしまった。

「どうだった、柚木先生のお尻の感触は?」
 気がつくと、クラスの委員長大佛聡が、落っことしたカバンを拾ってニヤニヤしていた。
「それは個人情報で、その質問はセクハラよ、オサラギサトシ君。委員長としても問題ありだな」
「おれの名前、覚えていてくれたんだな。それも正確に。たいがいのやつはダイブツソウって読んじゃうんだぜ」
「カバン拾ってくれてアリガト!」
 そう言って、友子はさっさと歩き出した。
「おい、待ってくれよ!」
「また、教室でね!」
 友子は、その時、競歩なら世界新のスピードで校門へ向かった。大佛も走って追いかけてくるほどのバカではないようだ。

 友子は、まだ自分の力がコントロールできない。

 昨日は外交官を拉致から助けたとき擬態の能力があることが分かった。スゴイと思ったら、さっきみたいにズッコケる。初日は敵を誘い出すための計算した行動だったけど(それで白石紀香は姿を現したけど、もう、敵などという状況ではないことが分かった)今のは完全な不可抗力。どうやら、自分の中にはいろんなモードがあるようなんだけど、その種類も切り替え方も分からない。

 クラスはおろか、この二日あまりで見た生徒や先生の情報は全て記憶してしまった。

 今の大佛聡の情報が一瞬頭に浮かび、彼が一番好意を持つような対応をしたことなど、友子の意識の中にはなかった。
 これは、友子の親和的プログラムのなせるワザで、友子が義体を手に入れ、三十年ぶりに人と関係が持てる喜びから、発動されたもので、白石紀香が敵ではないこと、また、当面は戦わなければならない状況などにはならないだろうという安心感からも来ていた。

 そして、放課後までには、ほとんどのクラスメートと仲良しになってしまった。

 六時間目に柚木先生が授業に来たが、歩き方が微妙におかしい。他の生徒は気づかないが、先生のニュートラルな歩き方を覚えてしまった友子には分かった。朝、友子が掴んだお尻が、目を透視モードにすると青あざになっていることが分かった。申し訳ない気持ちになった。
 そして、先生の気持ちに曇りがあることにも気づいた。
 空席になっている長峰純子という生徒のことが気に掛かっているのだ。入学して一週間ほどで来なくなった、長欠の始まりだ。電話や家庭訪問をくり返しているがラチがあかないようだ。柚木先生の記憶を基に長峰純子の情報を取り込んだ。長峰興産という大きな会社の社長の一人娘だ。すると長峰興産の表と裏の情報が頭に流れ込んできて、友子は慄然とした。
「鈴木さん、十五ページの漢文読んでみて」
 柚木先生が、ボンヤリしている友子に当てた。目の奥には若干の意地悪が籠もっていたが気にもならなかった。
「はい、渭城朝雨潤輕塵 客舎青青柳色新 勧君更盡一杯酒 西出陽關無故人」

 教室中がシーンとなった。

 王維の『送元二使安西』を完全な中国語の発音でやってのけたのである。
――しまった――そう思った時は、華僑の生徒である王梨香が一人感激の眼差しで、見つめている。
「鈴木さん。中国語できるの……?」
「あ……NHKの中国語講座で、ちょっと」
「汝会说汉语! あ、あなたとっても中国語がうまいわ!」
 梨香(ワンちゃん)が感激のあまり、中国語と日本語で賛辞を送った。
「じゃ、ついでに訳してもらおうかしら」
「は、はい。渭城の朝の雨が軽い砂埃を潤している 旅館の前の柳の葉色も雨に洗われて瑞々しい 君にすすめる。昨夜は大いに飲み明かしたが、ここでもう一杯飲んでくれ。西域地方との境である陽関を出れば、もう友人は一人もいないだろうから……アハハ、こないだ中国語講座で出てきたとこなんです」
「ああ、ここの解説は、又今度にして、白楽天にいきます!」

 やってしまった。と、反省しきりの友子であった……。
 

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・31『里中ミッション・3』

2018-09-26 06:41:26 | ボクの妹

が憎たらしいのには訳がある・31
『里中ミッション・3』
    


 俺の脳みそとねねちゃんのCPが一緒になってのお仕置きが始まった……。

「大阪城の天守閣って、鉄筋コンクリートなんだよね」
 まずは、小学生レベルの話題で、拓磨の自尊心をくすぐる。
「ああ、そうや。昭和の6年に市民の寄付金で再建されたんや。150万円の寄付が集まったんやけど、5万円はうちのひいひい祖父ちゃんが寄付しよったんや」
 拓磨は、単純にのってきた。
「すごい、再建費用の5%だね!」
「ハハ……ねねは、数学弱いんだな」
「どうして?」
 拓磨は、アイスクリームを買いながら計算していた。
「150万円のうちの5万円なら、3・3%じゃん。ほら」
 アイスをくれた。
「このアイスいくら?」
「いいよ、こんなのオゴリの内にも入らへん」
「いいから、いくら?」
「うん、300円やけど」
「150円が儲けで、120円がアイス。30円がカップかな」
「なんや、原価計算か?」
「天守閣は50万円しか掛かってないんだよ。このアイスのカップみたいなもの」
「え……ほんなら残りの100万円は?」
「公園の整備費が20万円。残りは後ろの三階建て?」
「なんや、この地味なテーマパークのお城みたいなんは?」
「陸軍の師団司令部」
「こんなもんに金使うたんか!?」
「ここ軍用地だもん。バーター交換」
「せやけど、80万はエグイで。半分以上やないか」
「でも、それは大阪市民には内緒だったんだよ」
「それは、ひどい!」
「その提案したの、市会議員やってた拓磨のひいひい祖父ちゃんよ」
「うそ……!」
「『軍の要求分は、われわれ産業人で持ちましょ。市民からの寄付は、全て天守閣の再建に当てる』そう言って市議会の賛同を得たんだって」
 話題の効果か、拓磨はカップの先まで食べてしまった。
「うん、確かに、このアイスはカップまでおいしいなあ」
「そういう心意気と思いやりが、拓磨の血にも流れてるといいわね」
「そら、オレかて青木の跡取りやさかいな」

 この話で通じるようなら、これで許してやってもいいと思った。

 天守閣横の石垣のベンチに並んで、腰掛けた。

 目の前は膝の高さの石垣があり、それを超えると、15メートルほど下に西の丸公園が広がっている。旅行者とおぼしき家族連れが八割、残り二割がアベック。中には熱烈に身を寄せ合っているアベックもいる。どうも、拓磨は、その少数のアベックに触発され、ひいひい祖父ちゃんの高潔な血など、どこかへ吹っ飛んでしまったよう。

 目の輝きは、西空のお日さまの照り返しばかりではないようだ。
 ソヨソヨと拓磨の腕が、わたしの背中に回り始めた。肩を抱かれる寸前に、わたしは目の前の石垣にヒョイと飛び移った。

「うわー、気持ちいい!」
 わたしは、その場で軽くジャンプして拓磨の方を見た。勢いでスカートが翻り、太ももが顕わになった。
「危ない!」
 そう言って、拓磨は生唾を飲み込んだ。恐怖半分、スケベエ根性半分と言ったところ。
「拓磨も、こっちおいでよ」
「いや、おれは……」
「な~んだ。わたしのこと好きなのかと思ってたのに」
「え……分かってくれてたんか?」
「もろわかり。車のCPに細工して、わたしを怪しげなとこに連れていこうとしたのは、いただけないけどね」
「かんにん、そやけど……」
「そこまで好きなら、ここにおいでよ」
 拓磨は、へっぴり腰で、石垣の上に上がってきた。
「こ、これでええか……?」
「拓磨、初めて地下鉄のところで会ったときのこと覚えてる?」
「あ、ああ。忘れるもんかいな!」
「ほんと?」
「ああ、運命の出会いやったさかいな」
「じゃ、あのときの、やって見せてよ」
「え……なにを?」
「狭い歩道で、バク転やってくれたじゃん」
「え……それを、ここで!?」
「そう。愛のあかしに……拓磨の気持ちが愛と呼べるならね」
 拓磨は、半べそをかいていた。
「わたし、フィギヤスケートやってんの。さすがにトリプルアクセルは無理だけど、二回転ジャンプしてみせる。拓磨は、それに続いて」
 わたしは、きれいに二回転ジャンプをやってみせた。まわりの旅行客の人たちが拍手をしてくれた。

 さあ、勝負は、ここから……。

「おい、ニイチャン、自分も決めたらんかい!」
「せやせや!」
 オーディエンスから野次が飛ぶ。
「み、見とけよ……えい!」
 予想外に、拓磨はやる気になった。しかし、力みかえり過ぎてバランスを崩し、石垣を転げ落ちた。
 すかさず、わたしもジャンプした。拓磨の腕を掴み、もう片方の手で石垣の隙間に手を掛けた。
「不器用だけど、とことん気持ちは歪んでないみたいね。オトモダチならなってあげる。それ以上はゴメンよ」
「ねねちゃん……」
「あとは自分の力で、なんとかしなさい。手を離すわよ、ボクちゃん……」
「た、た……」
 助けての言葉を言い切るころに、拓磨は尻餅をついていた。なんたって、拓磨の足と地面は5センチもなかった。
「じゃ、今日はこれで、オトモダチの拓磨クン」
 わたしは、ヒラリと降りて、西の丸公園の外へと出て行った。

――ミッション、コンプリート!――

 里中さんの声が頭の中で聞こえて、俺は自分の体に戻った。
「思ったより、君とねねの相性はいいようだ。また、なにかあったら頼むよ」
「で、今日のボクの一日は、どうなるんですか?」
「病院に行ったことにしておいたよ。お腹痛でね」
「えーー! ボク皆勤なんですよ。せめて公欠に……」
「すまん、そういうコダワリは嫌いじゃないぜ。じゃ、伝染病かなにかに……」
「そんなの、あと何日も学校に行けないじゃないですか!」

 で、次ぎに気が付いたら、ボクは自分のベッドにいた。

「グノーシスも、甲殻機動隊も大嫌いだ!」

 幸子が、ドアを半開きにして、無機質に言った。

「近所迷惑なんだけど……お兄ちゃん」


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高校ライトノベル・トモコパラドクス・7『友子の連休』

2018-09-25 06:36:16 | トモコパラドクス

トモコパラドクス・7
   『友子の連休』        


 昨日の「こどもの日」は、お母さんはゴルフ。お父さんは家事にいそしんでいた。

 もっと詳しく言うと、母の春奈は大阪の大手デパートとの契約のための接待ゴルフ。父は新しいルージュの開発プロジェクトのため、アイデアを練っている。で、父の一郎は、家事をやっているときが一番思考に集中ができた。父が早く亡くなり、母が認知症で家事が出来なくなってからの習慣というかクセである。それもこれも、元を質せば三十年前、姉である友子が、あんな酷い死に方をしたのが原因ではある。

「一郎、そんなに根詰めるとバテちゃうよ」

 二階から降りてきた友子が、パジャマのまま、リビングの一郎に声をかけた。食器を整理していた一郎が手を休めて不足そうに言う。
「オレは、こうしてるときが一番なんだ。体は別のことに集中しているとき、感性がもっとも研ぎ澄まされる」
「ま、そりゃそれでいいけどさ……なんだか、申し訳ないわね。わたしの三十年間の不在が、一郎に、こんなクセつけさせたんだよね」
「そりゃあ、姉ちゃんのせいじゃないよ。あの訳の分からない未来の団体が悪いんだ」
 その未来の団体が利権化して、この三十年の不在には意味が無いんだ……とは言えない友子だった。

 ピンポーンとドアホンの音がした。

「あ、回覧板ですか、今すぐ……」
 と、一郎が対応したときには、友子が玄関を開けていた。
「すみません、こんな格好で。回覧板ですね」
「あ、あなたね、今度やってきた鈴木さんのお嬢ちゃんてのは」
 森久美子というか森三中というか、気のいいオバサンが気楽に声をかけてきた。ちなみに、このオバサンも森さんである。
「はい、友子っていいます。本当は遠縁なんですけど、事情があって義理の親子やらせてもらってます」
「事情……」
「あ、両親が亡くなったんで、こっちのお父さんは、亡くなった父の従兄弟の子になるんです」
 友子は、務めて明るく言った。こういうときの友子は、とてもイイ子に見える。
「……そうだったの。ごめんなさい、立ち入ったこと聞いちゃって。隣同士だから、なんかあったら遠慮無く」
「ありがとうございます……近頃空き巣が多いんですね」
 回覧板を見て、友子が言った。
「そう、先月は、町内で三件も。ぶっそうね」
「あ、お父さん、ハンコ!」
――うーん――という声がして、一郎がでてきた。
「どうも森さん。うん、姉ちゃん……」
 ハンコを渡す一郎に、森さんは目を見張った。
「ネエチャン……」
「あ……わたし、亡くなった母に似てるんで、お父さん間違えちゃったんです」
「あ、友子ちゃん。お隣にはオバサン持っていくわ。起きたとこなんでしょ?」
「あ、すみません。つい連休なんで油断しちゃって」
「その年頃は眠いものよ。じゃ、またよろしく」
 気のいい森さんは、その足で隣の中野さんの家に行った。

「一郎、気をつけてよね。人前では、ちゃんと友子っていうこと」
「え……言わなかったっけ?」
「言ってない」
 友子は、さっきの会話を再生して一郎に聞かせた。
「ありゃりゃ……」
「こうなったら、二人きりの時でも親子でいこうか。とにかく慣れだから……ん?」
「どうした、姉ちゃ……友子?」
「中野さんちは留守なの。朝出かけるの確認済み。森さんも郵便受けに回覧板置いていった……なのに、人の気配?」

 思いついたときは庭に出ていた。塀を一飛びすると、中野さんのリビングで物色している空き巣に気づいた。そのまま中に踏み込んでは、リビングをめちゃくちゃにしてしまう。
 そこで、友子は音もなくサッシを開けると、玄関とドアの間に入った。

「なにしてんの、人の家で」

 空き巣は、いきなりの声にぶったまげて、思惑通り庭に面したサッシから、外に逃げていった。
「待て!」
 空き巣は、あっけなく中野さんの前の路上で友子に取り押さえられた。
「森さん、空き巣。警察呼んで!」
 空き巣は十万馬力の友子に押さえられて身動きもできず、あっさり、駆けつけたお巡りさんに捕まえられた。
 たまたま近所にロケにきていたテレビ局が、これをスクープした。
「いやあ、火事場の馬鹿力ですう」
 と、友子は可愛くかわしておいた。
 ただ、夕方のニュースで、映し出された映像の友子はパジャマ姿のままで、第二ボタンが外れ、危うく胸が見えてしまいそうであった。一郎が叱られたのは言うまでもない。

 明くる日の代休は、家族三人で新宿に出かけた。そして、ここでも人知れず事件が起こった。
 ある外交官が拉致されようとしていたのだ。外交官は相手をただの商社の人間と思っている。そばには、すごい美人が寄り添っている。ハニートラップの最終仕上げのようだ。

「まあ、先生。こんなとこで何やってるんですか?」
 まるでゼミの学生が街中で教授に会ったような感じで寄って行った。
「先生?」
 被害者と加害者が、同時に不審な顔で友子を見た。同時に三人のスマホが鳴った。
「緊急連絡の着メロ、出なくていいの?」
 そういうと、三人は、それぞれスマホを取りだした。
「こ、これは!?」
「あなたたちが、やったスパイ行為、ハニートラップ、証拠写真、資料、経歴、載っているのはあなた方のスマホだけじゃないわ。ユーチュ-ブで世界中にばらまいちゃった。公安にはダイレクトでね」
 男が催涙スプレーを出したが、友子は手首を取ると、男の手首をへし折り、それを取り上げ、ごく微量を男と女の目に吹き付けた。そして、車のタイヤに蹴りを入れるとパンクさせ、通りかかったタクシーを止めて、そのスジまで送るように頼んだ。
「○○さん。外交官としては、もうおしまいだけど、この人達みたいに命に関わることはないから。おっと、ここで死んじゃ、タクシーの迷惑よ。いま二人が飲み込んだのは、ただの清涼剤。青酸カリは、預かった。それから、それミント味の睡眠薬……もう寝ちゃった」

 タクシーを見送って、ショウウインドウに映る自分の顔にびっくりした。いま売り出し中のアクション女優にそっくり。自分に擬態の能力があると知った瞬間だった……。

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高校ライトノベル・妹が憎たらしいのには訳がある・30『里中ミッション・2』

2018-09-25 06:26:11 | ボクの妹

妹が憎たらしいのには訳がある・30
『里中ミッション・2』
    


 ターゲットは帰り道の横断歩道にいた……。

 それまでフリーズされていた情報がいっぺんに解凍された。
 横断歩道の信号機に半身を預けて気障ったらしく(ボクの感性では、そう見えた)立っているのは、このところしつこく、ねねちゃんに言い寄って来ている大阪修学院高校二年生。

――青木拓磨――

 草食を装った肉食男子。

 姿勢が、いつも左右非対称。自分をかっこよく見せる演出以外に、狙った女の子が逃げられない位置を確保するための準備姿勢でもある。
 大阪市内にいくつもビルを持っている『青木ビル』社長の次男。凡庸な兄を幼稚園のころには追い抜き、『青木ビル』の後継者は自分であると思っている。
 修学院とフェリペは最寄りの駅がいっしょで、入学早々から、拓磨はねねちゃんに目を付けている。
 ねねちゃんは、自分や周囲の人間に危機が迫らない限り、人を拒絶しないようにプログラムされている。
 だから、拒絶しないまま、ここまで来て、拓磨は――ねねは、オレのもんだ――と、思いこんでいる。

――こいつを、どうにかしてくれということですね――
――そいつは、今日ねねをモノにしようとしている――
――それって…………――
――ねねは義体だ。肌を接すれば分かってしまう――
――ねねちゃんの生体部分は、人間と変わりません。幸子で慣れてますけど、並の人間じゃ区別つきませんよ――
――万が一ということがあるだろう!――
――フフ、里中さんが、ねねちゃんに愛情もってくれていて、嬉しいですよ――
――いや、これはあくまで!――
――わたしも、こんな奴に……まかしといて――

 俺……わたしは95%ねねちゃんをインスト-ルして青木拓磨の前に立つ、一人称が変わる。

「なにか考え事してた?」
「ううん、拓磨の印象を思い出してたの」
「嬉しいね、ボクのこと、初めて拓磨て呼んでくれたな」
「ちょっとした気分転換。あの車ね?」
 駅の入り口から百メートルほど離れたところに、後ろ半分スモークガラスになったセダンが止まっていた。
「先に乗っといて。駅の裏側で、オレ乗るから」

 わたしは、車に乗ると、車のCPにリンクした。

「例の場所に……チ、返事なしかよ」
「車も、気を遣ってるのよ」
「そ、そうかな。まあ、アズマの最新型だからな」
 さりげなく拓磨の手が膝に伸びてきた。わたしは偶然を装って、重いカバンを思い切り拓磨の手の上に載せ、可愛く窓の外を見た。
「わあ、阿倍野ハルカスの改修工事始まるんだ!」
「あ、ああ、もう完成から三十年やからな……」
「どうしたの、その手?」
「いや……」
「あ、ごめん。わたしカバン置いたから、下敷きになっっちゃったか……カバンの底の金具が壊れてるんだ(直前に壊しといたんだけど)血が出てきちゃったわね。ちょっと待ってて」

 わたしは、ティッシュで血を拭き、バンドエイドをしてやる。髪の香りが拓磨の鼻を通って高慢だけど、薄っぺらい脳みそを刺激する。車に急ハンドルを切らせた。拓磨が吹っ飛んできて、わたしの体に覆い被さってきた。バンドエイドをしてやったばかりの右手が、わたしの胸を掴んでいる。

「なに、すんのよ、どさくさに紛れて!」
「ご、ごめん、そういうつもりじゃ……」

 機先は制した。そして、車は目的地に着いた。

「え、大阪城公園……なんでや?」
「わたしがお願いしたの」
『雰囲気作りを優先しました』
 車のCPが仕込んだとおりの返事をした。
「そ、そうか、さすがアズマの最新型、まずは雰囲気、よう分かってるやんけ」
「まずは……て?」
「いや、アズマの言い間違い。若者は、まず、明るい日差しの下におらんとなあ……!」
 拓磨は、健康的に伸びをした。わたしも一応付き合ってやった。

 俺の脳みそと、ねねちゃんのCPが一緒になってのお仕置きが始まった……。


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高校ライトノベル・アンドロイド アン・20『アンとお彼岸・2』

2018-09-24 14:02:08 | ノベル

アンドロイド アン・20

『アンとお彼岸・2』  「彼岸花」の画像検索結果

 

 

 冷蔵庫からオレンジジュースを取り出して振り返る。

 

 連休三日目、二度寝から目覚めると昼に近いので、朝飯をジュースだけど済まそうと思ったのだ。

 で、振り返ると、リビングのテーブルの上に仏壇が存在している。

 え、ええ?

 不信心な我が家には仏壇が無い。

 アンが珍しがるので、いっしょに行ったスーパーで仏さんのお花を買った。

 まあ、珍しい花束くらいに思って、アンは花瓶に生けて喜んでいた。

 その仏さんのお花が、テーブルの上の仏壇の中で本来の位置を占めて役割を果たしている。

 

「ね、その方がいいでしょ」

 

 不思議がっていると、いつのまのかアンが立っていて、自慢げに鼻の穴を膨らませている。

「でも、どうしたんだよ、この仏壇?」

「納戸にあったカラーボックスに黒い紙やら貼っつけたの」

「そーなのか……お釈迦さんの掛け軸とかは?」

「ダウンロードしてカラーコピー。他のパーツもカラーコピーのペーパークラフトだよ」

 

 そう言われてみると、鶴の形の蝋燭立てや香炉はCGのポリゴンみたくカクカクしている。ペーパークラフトじゃ丸みは出しにくいもんな。

 チーーーン

 手前の鈴を叩いてみると、しっかり金属音だ。これは?

「町田さんの奥さんにいただいたの」

「町田さんに?」

「うん、宗派とか分からないでしょ。それで、お仏壇見せていただくついでに聞いたら『うち浄土真宗だから真似するといいわよ。そうだ、仏壇屋さんにもらった鈴があるから、これあげる』って、いただいたの」

 町田夫人と聞いて、悪い予感がした。

 

「うわーー、すごい。まるで本物のお仏壇じゃないの!」

 

 開け放したサッシに町田夫人の姿。直で庭の方からやってきたんだ。

 町田夫人とは適当な距離を置いておきたかったんだけど、アンは無頓着なようだ。

「専光寺さん、こっちこっち!」

 専光寺? え? ええ?

 

 なんと、町田夫人に誘われて本物の坊主が現れた。

 

「うちにお参りに来てもらったついでにお願いしたのよ🎵」

「は、はあ」

 オタオタしているうちに、町田夫人も坊主もリビングに上がり込んで、仏壇の前で、にわかの彼岸法要になってしまった。

「過去帳は?」

「とりあえず、お祖母ちゃんのを用意しました」

 アンは、半紙を半分にしたのに『釋明恵』と書いたのを鈴の横に置いた。

「しゃくあきえ?」

「しゃくみょうえと読みます。お祖母さんは門徒だったんですか?」

「はい、両親の代でやめてしまったみたいで」

 坊主の問いに、アンはしっかり答える。

「それなら、正式の法名ですなあ……できたら、お写真とかあったら、拝みやすいですが」

 お祖母ちゃんの写真なんかはお爺ちゃんちだ。うちには無いぞ。

「パソコンで検索したんで、こんなのしかないんですけど……」

 アンが差し出したのは……若すぎる。

 お祖母ちゃんは、セーラー服のお下げ髪だ。

 

「出身高校の集合写真から拾ってきたんです。いいですか?」

「ハハ、宜しいでしょ。それでは……」

 町田夫人も加わって、我が家のお彼岸法要が始まった。

 

 アンは行き届いていて、ちゃんとお布施まで用意していて「あっちゃん、若いのに行き届いてるわねえ」と町田夫人に感激された。

 お寺さんのお参りなど初めてで、粗相があってはいけないと思い、俺とアンは玄関を出て前の道路まで見送った。

「なんだか、とっても良いことしたような気になったわねえ」

「ああ、そうだなあ」

 アンには振り回されてばかりだけど、今日のことは素直に喜んでやれる。

 

 リビングに戻ってビックリした。

 

「ほんとうに、どうもありがとうね」

 

 ソファーに座ってお礼を言ったのは、集合写真の姿のまんまのお祖母ちゃんだ!?

「あ、え、えと、えと……」

「実は、昭雄くんフッて浩一くんと付き合おうと思ってたんだけど、こんな素敵な孫ができるんならって……決心できたの。本当にありがとう」

 そう言うと、若き日のお祖母ちゃんは、アイドルみたいにニッコリ笑って消えて行った。

「よかったね! 浩一くんてのと付き合っていたら新ちゃん、存在しなくなるとこだったわよ!」

 

 こいつ、計りやがった?

 

 

☆主な登場人物 

  新一    一人暮らしの高校二年生だったが、アンドロイドのアンがやってきてイレギュラーな生活が始まった

  アン    新一の祖父新之助のところからやってきたアンドロイド、二百年未来からやってきたらしいが詳細は不明

  町田夫人  町内の放送局と異名を持つおばさん

  町田老人  町会長 息子の嫁が町田夫人

  玲奈    アンと同じ三組の女生徒

  小金沢灯里 新一憧れの女生徒

  赤沢    新一の遅刻仲間

  早乙女采女 学校一の美少女

 

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