大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語・161『なんだか癪です』

2022-11-06 15:14:22 | ライトノベルセレクト

やく物語

161『なんだか癪です 

 

 

 あれから十日。

 

 わたしの部屋は殺風景なまま250時間経ってしまった。

 うう……時間に換算すると、めちゃくちゃ長い。

 勉強道具とか、生活に必要なもの以外のアイテムが無い。

 黒電話、相変わらず机の上に載ってるんだけど、うんともすんとも言わない。

 受話器を取っても、交換手さん出てこない。

 神保城で逓信大臣の仕事が忙しいのかもしれない。

 神保城にも行けなくなった。

 神保城に行くには眠らなくてはならない、半分くらい眠ったって時に神保城に通じる坂道が出てくるんだけど、それが出てこない。

 そもそも夢を見なくなった。見ても忘れてるのかもしれない。

 寝床に着くと、一日のあれこれがポワポワと浮いてくるんだけど、神保城や、フィギュアたちや、あやかしたちのことを思い浮かべると、いっしゅん思い浮かんで消えてしまう。

 数学の問題なんか解いていると、答えが浮かんでくるしゅんかんてあるよね。

 あ、分かった! っていう感じ。

 けども、次のしゅんかん、分かった先の答えが消えてしまう。えーと、なんだったっけ? なんだったっけ? 確かに思い浮かんだのにって、あのもどかしさ。

 あれに似てる。

 

 二丁目の坂道もただの坂道。

 以前は、いろいろ意識したんだけど、もう、ほとんど意識することも無い。

 どうかすると、通ったことも忘れて、気が付いたら学校に着いていたり、家に戻っていたり。

 昨日は、坂道のとっかかりで工事をしていて、ペコリお化けそっくりのガードマンさんが立っていたけど、目も合わせないで赤い指示棒を振っていただけ。

 まあ、わたしも試験に備えて単語帳繰っていたんだけどね。

 そろそろ高校入試のことも考えなきゃならない時期にはなってきたんだけどね。

 

 そうそう。

 

 杉野君が小桜さんにアタックしてるところを見てしまった!

 図書当番に行こうと、階段の踊り場にさしかかったらね、向こうの校舎の階段の踊り場で小桜さんに杉野君が迫っているのが見えたんだ。

 杉野君は、なんだか思い詰めたっぽい顔。小桜さんは胸のとこで両手を小さいワイパーみたいに振って、そのあと杉野君は、俯いたまま階段を駆け下りていった。

 杉野君は、わたしに気があるって思ってた。小桜さんも、そんなこと言ってたしね。

 まあ、本命は小桜さんで、わたしはカモフラージュだった。まあ、いいんだけどね。

 今日も、普通に図書当番やってきたしね。

 あいかわらず、図書当番は暇なんだけど、暇な時間、ラノベを読んだり、地図を広げてマップメジャーで遊んだりはしなくなった。二人とも、来週に迫ったテストの勉強。次のテストの結果で、希望できる高校の枠が決まってしまうからね。

 

 その机の上に、おミカンが二つ。

 

 ほら、ブンちゃんからもらった……これも夢だったかもしれないけど。

 ダイニングのテーブルの上にお婆ちゃんが買ってきたおミカンがザルに入って載っていて、色も形もいっしょだった。

 夕飯でおミカン食べて、お風呂上がりに――そろそろ食べなきゃ――と思って、食べたらお婆ちゃんのと同じ味がした。

 もう一個は、明日いただこう、そう思って寝たよ。

 起きてみると、その残り一個が無くなっていて、夢の欠片がキラリと蘇る。

 女の子のあやかしが食べていた。

 それが誰なのか、思い出そうとしたら、次の瞬間にはおぼろになってしまった。

 鼻の先まで出てきたクシャミがひっこんだみたいで、なんだか癪です。

 

 では、学校に行ってきます。

 

 やくもあやかし物語 第一期 完

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)

 

 

 

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やくもあやかし物語・160『千両みかん』

2022-10-28 11:16:50 | ライトノベルセレクト

やく物語

160『千両みかん 

 

 

「いえ、文章の文に子どもの子と書いて文子でございます」

「あ、ああ文子さん! あ、ごめんなさい」

「少々珍しい読み方をいたしますので、お間違いになってもしかたありません。両親は町人の娘らしく文と書いて『あや』と付けたのでございますが……」

「あ、あやちゃん、おあやさん、うんうん、普通だよね(^_^;)」

「文左衛門、祖父なのですが。あ、わたしの文は祖父の文左衛門の『文』からきているのですが『文だけではいかにも軽々しい、文の下に一字を付けて堂々とするべきだ』と申しまして『文子』とついた次第でございます」

 なるほど……文左衛門というお祖父ちゃんも、なかなか押し出しの強い人のようだ。

「親は、せめて『あやこ』と柔らかく読ませようとしたのですが『それでは天子様のお姫様のようだ』と反対してブンコと読むようになりました」

 あ、そういえば、うちの居候も親子と書いてチカコだったもんね、チカコどうしてるんだろう……

「しかし、ブンコで良かったと思います」

「そう?」

「はい、紀伊国屋文左衛門の文を頂いたからこそ、このようにミカンの神さまに御守護頂けているのです! 無事に江戸につきますまで、どうぞよろしくお守りいただけますよう、紀伊国屋文子、伏してお願い申し上げます~」

「は、はひ(^△^;)」

 

 ブンコおおお! 風が止んできたあああ!

 

 甲板の方から声がして、文子さんは「ほんとかあ!?」と声を上げて船室を出て行った。わたしも、なんとかバランスをとりながら揺れる船室を出て甲板に出ると、進行方向の雲が切れ始め、みるみる風が収まってきた。

「よーし、帆を上げろ! 今度は風の災いを福に変えて、一気に江戸を目指すぞ!」

「「「「合点!」」」」

 ふんどし一丁のおじさんたちが、いっせいにキビキビ動き出して、あっと言う間に〇の中に紀と染め上げた帆を張って、船はグングンと速度を上げていった。

 

「これも、神さまのおかげでございます!」

 

 江戸の港で無事に積み荷のミカンを下ろすと、文子さんはじめ乗り組みのおじさんたちが平伏した。

「いえ、そんな(^_^;)。みなさんの腕が良かったから乗り切れたんです、みなさん大したものです!」

「いえいえ、これで、文左衛門祖父ちゃんの跡を継げます、ほんとうにありがとうございました!」

「アハハ、喜んでいただけたら何よりです」

「ようがしたねぇ、これで、ブンちゃん……文子さんも、やっと一人前の紀伊国屋の跡取りだ! ほんとうによかった!」

 年かさのおじさんが、涙を流して喜んでる。

「ありがとう、みんな! 血のつながらない孫だけど、やっと面目が立ったよ!」

 え、文子さん、血のつながりがなかったの?

「赤ん坊を拾われてきた時は『お寺にでも預けちまいなさい』と言っていたところを、親方は『この子には福相がある、神さまの授かりものだよ』っていって、子どものねえ若旦那夫婦の子になさった。まさに、その通りになりやした!」

「うんうん、みんなありがとう。そうだ、神さまにお礼をしなくっちゃ!」

「文子さーん、売り上げの金が届きやしたああ!」

 船べりから外を見ると、千両箱を積んだ荷車が浜についている。

「しめて五千両か! 思った以上に高値で売れたねえ、とりあえず一箱持って上がっとくれ」

「へい!」

 ドサ

 重厚な音をさせて千両箱が置かれた。

「神さま、せめてものお賽銭です。千両お受け取り下さい」

「え!? いえ、そんな!」

「きちんとお礼をしないと、祖父、文左衛門の名も汚してしまいます。どうぞお納めを」

「え、あ、だって……」

「どうぞ!」

「そ、それじゃあ、おミカンいただいていきますぅ!」

 まだ積み下ろしていないミカンを両手に一個ずつ持つと……目が覚めた。

 

 突っ伏した机の上には、夢で掴んだミカンが二つ載っていたよ。 

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)
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やくもあやかし物語・159『びしょ濡れプンプン丸』

2022-10-18 14:46:22 | ライトノベルセレクト

やく物語

159『びしょ濡れプンプン丸 

 

 

 おまえは誰だ!

 

 びしょ濡れが赤い口を開いて怒鳴った。「誰だ!」と言うのだから、わたしのことを聞いているんだろうけど、勢いが強いので疑問というよりは攻撃だ。

「あ、あなたこそ誰よ!」

 むかしのわたしだったら、ワタワタして「あ、え、えと……(;'∀')」ということになるんだけど、少しはあやかし慣れしてきて、ちょっぴりだけど度胸も付いた。

 だから、ノッケにかましておく。

 体一つでやってきたんじゃなくて、とりあえず、机と椅子はわたしのだしね。

「ここは船長室だ、ひとの船長室に居るお前は密航者だ、密航者は、簀巻きにして海に放り込むのが海の掟だ!」

「え、海に放り込む( ゚Д゚)!」

 ドスン

 わたしの度胸はいっしゅんで崩れてしまった。

 衝撃がリアルだと思ったら、机は座卓ほどの、椅子は座椅子の低さに縮んでしまった。

「ああ、事と次第によってはな(;`O´)o」

 びしょ濡れのくせに、めちゃくちゃ怖い。びしょ濡れプンプン丸だ!

「えと、自分の部屋に戻ったら、机の上にミカンがあって『あ、ミカンだ』と思ったら、ここに来てた」

 手にしたミカンを、ズイっと突き出す。

「ミカンは、あるのが当たり前、この船はミカン船だ。てめえ、積み荷のミカンを勝手に食ったなあ」

「ち、ちがうちがう! この机だって……え、わたしのじゃない?」

 わたしのも木の机だけど、材質も色も違う。樫の木かなんかで、黒光りするごっつい木でできている。

「見え透いた言い訳しやがって」

「え、あ、あ……」

 チリリリン チリリリン

「ウワ!?」

 黒電話が鳴って、びしょ濡れプンプン丸はビックリして、ピョンと後ろに跳んだ。

 揺れる船の中なのに、跳んでもふらつかないのに感心。

 わたしは、ちょっと安心した。

 机も椅子も変わっているけど、黒電話だけは付いて来てくれたみたい。

 チリリリン チリリリン

「そ、その黒いのはなんだ! なんでリンリン鳴ってるんだ!?」

 チリリリン チリリリン

「えと、電話だから……出てもいい?」

 チリリリン チリリリン

「と、とにかく、その音を停めろ!」

 チリリリン チリリリン

「うん、分かった……もしもし」

『船長さんに替わってもらえますか』

 交換手さんが言うので、受話器を突き出す。

「替わってって」

「こ、これをか?」

「取らなきゃ、話ができない」

「お、おう……」

「あ、逆さま」

「逆さ……お、おお!?」

 正しく持つと交換手さんの声がしたようで、ビックリしている。

 ……交換手さんは、なにかうまいこと言ってくれているようで、びしょ濡れプンプン丸は目に見えて神妙になって、ふつうのびしょ濡れになった。

「は、はい、承知いたしました。そういうことであれば、きちんとお祀りいたします、は、は、はい、替わります!」

 びしょ濡れは、うやうやしく両手で受話器を捧げ持つと、わたしに手渡した。

「もしもし」

『みかんの神さまということにしました。やくもを大切に扱えば、無事に積み荷を届けられると言っておきましたので、大丈夫ですよ(^▽^)』

「みかんの神さま!?」

『そっちに行くわけにはいきませんが、がんばってくださいね』

「がんばるって、わたし、戻りたいんだけど」

『手立ては考えますが、無事に着けばなんとかなりそうですよ』

「あ、えと……」

『それでは、グッドラック』

「あ、ちょ……」

 プツン…………電話は一方的にきれてしまった。

「これは、航海安全の為に遣わされたミカンの神さまとは存じませんでした。まことにご無礼いたしましたっ!」

「あ、ども。そこまで平伏されなくても(^_^;)……それで、あなたと……この船はなんなの?」

「はい、改めて名乗らせていただきます」

 畏まると、ずぶ濡れは身にまとっていたずぶ濡れを脱いだ。

 ずぶ濡れは上にまとっていた蓑一つで、その下はお祭りの法被みたいな下に細身のパンツルック。

 ちょっとカッコいい女の子。 

「わたくし、紀伊国屋ブンコと申す若輩者でございまして……」

「紀伊国屋文庫?」

 頭の中にお馴染みのラノベ文庫のいくつかが点滅する。

 ☆角川……☆電撃……☆講談社……☆スニーカー……☆オレンジ……☆GA……

 

 ラノベの読み過ぎで、とうとう文庫のあやかしが出てきてしまった!?

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)
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やくもあやかし物語・158『自分の部屋にもミカン』

2022-10-09 14:55:57 | ライトノベルセレクト

やく物語

158『自分の部屋にもミカン 

 

 

 あれぇ?

 

 部屋に戻ると、机の上にミカンが載っている。

 学校のある日だったら、瞬間――あれ?――と思っても、すぐ意識の外にやって学校に行く。

 いちいち気にしたり考えていたら学校に遅刻しちゃうからね。

 でも、今日は休日だから、椅子に座って腕組みをする。

 腕組みをして、机の横棒に脚を乗せ、椅子の後ろ脚に重心を掛けてギーコギーコさせながら考える。

 夕べのと足して、二回目の不審ミカン。怪しいミカン。

 フィギュアたちは、みんな神保城。残った交換手さんも、あっちの逓信大臣を兼ねているので、今は黒電話もただの黒電話。

 だから、自分で考えるしかない。

 

 このミカンは、あやかし系?

 

 いや、食卓のミカンもそうだったけど、普通のミカンだった。

 おいしかったけどね。

 これも、見かけは普通のミカン。

 ギーコギーコ ギーコギーコ ギーコギーコ

 椅子を漕ぐなんて、しばらくぶり。

 これは、お父さんのクセだった。

 机に向かって考え事をするとき、考えがまとまらなかったりすると、やっていた。

 子ども心にもかっこいいと思って真似をした。

 学校でやったら「男みたい」とからかわれた。

 からかわれたけど平気だった。あのころ、お父さんは、ちゃんとお父さんだったからね。

 平気だと、みんな言わなくなるし、わたしも自然にやらなくなった。

 いっしゅん、小学生の頃のことを思い出し、それでもギーコギーコ……ギーコギーコ……

 

 ころん

 

 突然、ミカンが転がって、慌ててミカンを掴まえる。

「ヤバイところだった……(^_^;)」

 ちょっと下卑た言い方で安心してみる。

 たとえミカンでも、床に落ちてはかわいそうだ。

 ミカンとか果物は、衝撃を受けたところから腐っていくからね。食卓で食べたところだから、今は食べるつもりも無いしね。ミカンは完熟しているようで、たった一個なのに、柑橘系の香りが部屋に満ちている。

 ギーコギーコ ギーコギーコ ギーコギーコ

 あれ?

 椅子を漕ぐのを止めたのに揺れている。

 その理不尽に部屋を見渡した。

 

―― え、自分の部屋じゃない!? ――

 

 四方ぜんぶ木の壁、座っているところだけ二畳分の畳が布かれ、畳は床に打ち付けられた木の枠で固定されている。

 カンテラみたいなのが二つ揺れていて、その灯りだけが湿気った空気に滲んでいる。

 ミカンの香りも濃厚になってきて、目の前の木の壁だと思ったのは積まれた木箱の山で、木箱の中身は全部ミカンだと分かる。

 ギギギギ ギギギギ ギーー ギギギギ ギーー

 部屋とミカン箱が同時に軋んで、思いついた。

 これは、ひょっとしてミカンを積んだ船の中に居るんじゃないの!?

 

 ガチャン!

 

 積み荷の向こうで音がしたかと思うと、とたんに、霧吹きをかけられたみたいにミストというか水しぶき!

 ドップーーン ジャッパーーン

 船を打つ波音も聞こえる。

 ガチャン!

 扉が閉まる音がして、積み荷の向こうからびしょ濡れの女の子が現れた!

 

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)

 

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やくもあやかし物語・157『食後のおミカン』

2022-10-02 14:23:55 | ライトノベルセレクト

やく物語

157『食後のおミカン』 

 

 

 夕食の後は、たいてい果物が出てくる。

 

 リンゴだったりブドウだったり梨だったり。

 出すのはお婆ちゃん。

 お母さんと暮らしていたころは、毎食後に果物が出てくることは無かった。

 忙しいのと邪魔くさがりと、あまり果物が好きじゃなかったから。

「うん? 好きだよ果物。でも、生で食べるよりは、手間暇かけてお酒にした方は好きかなあ」

 なんて、横着を言っていた。

「それじゃ、栄養が偏っちゃうわよ」

 娘の横着を知ったお婆ちゃんは、それから毎夕食後に果物を欠かさなくなった。

 親が、そんなだから、わたしも、毎夕食後、どうかすると毎食後果物が出てくるのには閉口した時期もあったんだけどね。習慣とは恐ろしいもので果物を口に入れなきゃ夕飯が済んだ気がしなくなってきた。

 でもね、近ごろ、ときどき忘れることがある。

 果物は、最初から食卓に並んでいるんじゃなくて、頃合いを見て、お婆ちゃんが台所に行って準備をするんだ。

 皮を剥いたり器の盛ったりね。

 それが、話が盛り上がったり、面白いテレビがあったりすると忘れてしまう。

 お母さんは、もともと果物好きじゃないし、お爺ちゃんはどっちでもいい人だし。果物が出なくっても文句も言わないし注意もしない。お母さんなんかは――しめしめ――と思っている。

 わたしも「果物ないの?」とかは言わない。夕飯が済んだ気がしないんだけど、お母さんに楯突くみたいでね……夕飯の席にお母さんが居ない時に忘れたことは無い。今んとこ。

 たぶんね、お母さんが家に居たころは食後に果物を出すという習慣は無かったからなんだと思う。

 

 そんな、お母さんが夕食に間に合わなかった時のこと、蓬莱山から戻ってきていくらもたたない日。

 

 お婆ちゃんは果物を忘れてしまった。

 テレビでお笑い系のグルメ番組をやっていて、美味しそうなのとおもしろいので、アハハと笑っているうちに忘れてしまったんだと思う。

 ピンポーン

 ドアホンが鳴って、お隣さんが回覧板を持ってきてくださった。

「あ、わたし出る」

「そう、じゃお願い」

 無駄に広い家なんで、こういうことはかって出る。

 

 回覧板を受け取ってダイニングに戻ると、お婆ちゃんはキッチン、お爺ちゃんは読みかけの夕刊置いたまま、たぶんおトイレ。

 で、テーブルの真ん中にはおミカンを盛ったザルが置いてある。

―― ああ、思い出したんだ ――

 見たからには仕方がない。大人しく座って、おミカンをいただく。

 あら、美味しい!

 シーズンには間があるので、たぶん酸っぱいと覚悟していたから、ビックリした。

 お正月とかに出てくるような、甘くてジューシーなミカンだった。

 

「夕べのおミカン、美味しかった!」

 

 朝食のテーブルで、お婆ちゃんの偉業を褒めたたえる。

「え?」

「お婆ちゃんがデザートに出してくれた」

「あ、夕べは忘れてた!」

「え?」

 こういう行き違いは、深く追求しない方がいい。家庭の平和のためにも、あやかしとかに付け入られないためにも。

 その日、学校から帰ると、お婆ちゃんの古い友だちからおミカンの頂き物。

 夕食後に頂くと、とても美味しかった。

 でも、夕べ食べたミカンほどではなかったよ。

「やくもは予知能力があるのかもね」

 お婆ちゃんが言って、お爺ちゃんが笑って、遅く帰ってきたお母さんは酔っぱらっててそれどころじゃなかった。

 そして、みかんの話は、これでは終わらなかったんだよ。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)

 

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やくもあやかし物語・156『蓬莱山』

2022-09-24 16:01:02 | ライトノベルセレクト

やく物語

156『蓬莱山』 

 

 

 教頭先生を追いかけていくと、向こうに鳥居が見えてきた。

 

「阿須賀神社ですね」

 電話線のある所ならどこへでも行ける交換手さんは、まだ距離があるのに神社の名前を言い当てる。

「あれ?」

 てっきり神社の鳥居を潜るのかと思ったら、その手前で左に曲がった。

 新宮歴史民俗資料館への矢印があるので、そっちかな?

「いえ、ちがいます」

「ちがうの?」

「ちょっと巻き戻します」

 そう言うと、交換手さんの前に黒電話のダイヤルの部分だけが現れて、交換手さんは0と5を回した。

 ジーーコロコロコロ  ジーーコロコロ

 5が回り終って戻ってくると、鳥居と矢印の間に道が現れた。

「無線機のスイッチを入れてください」

「ラジャー!」

 バッグの中の無線機のスイッチを入れる。

 みかん畑のとこでも言ったけど、交換手さんは電話線のある所ならどこにでも行けるけど、電話線が無いところには踏み籠めない。

 そこで、お爺ちゃんからもらった無線機のスイッチを入れて延長する。一個は木の陰に置いて、もう一個を持って道に踏み込む。電波の届く範囲なら、これでだいじょうぶ。

 道は上り坂になっていて、道は丘の上に繋がっている。

「丘じゃありません、山です、蓬莱山です」

「え、徐福が目指した?」

「はい、時空の狭間からしか行けない蓬莱山ですけどね」

 普通の神経なら「なにそれ?」ってことになるんだろうけど、あやかし慣れしたわたしには分かる。世の中には、リアルの時間からは切り離された場所と云うのがあるんだ。

 教頭先生は、学校で、わたし以外であやかしが見えるただ一人の人。

 二度ほどあやかしについてアドバイスしてもらった。

 先生が忙しいのか、わたしが人見知りのせいか、必要以外でお話したことは無い。

 

 五分もかからずに山頂に着いたわたしと交換手さんは薮の陰に隠れて様子を窺ったよ。

 

 教頭先生は、こんな感じ。

 しまった、早く着いてしまったという感じで、上着を脱ぐとハンカチでオデコや顔を拭いた。

 ネクタイを緩めると、カバンからペットボトルを取り出して、グビグビと2/3ほども飲み干した。

 わたしは、のどが渇いていても半分も飲まないので、ずいぶん喉が渇いているんだと感心した。

「まあ、東京からは遠いですからね」

 まさか、東京から走ってきたわけじゃないよね?

「なにか現れます……」

 思わず、口に手をあてる。

 保育所の時、先生に「静かにしなさい!」と言われた時を思い出した。

 しばらくすると、山の向こう側から公園で見たのと同じ姿が現れた。

 徐福だ!?

 教頭先生は、立ち上がるとネクタイだけ直して、ペコリとお辞儀する。

 お辞儀の仕方がペコリお化けみたいなんで、ちょっと可笑しくなる。

 二言三言話すと、徐福は、うんうんと頷き、労わるように先生の肩を叩いた。

 それから、懐から、千疋屋とかで売ってそうな果物の包みを渡して、もう一度頷いたよ。

 果物の包みは、半分ほどほぐれていて、中身が見えそう……

 

 !!

 徐福と目が合いそうになって、急いで身を隠す。

 

 三十秒ほど息を殺して、おそるおそる顔を上げると……徐福も教頭先生の姿も無かった。

 交換手さんと頂上を横切って、山の向こう側を見ると、山肌は一面のみかん畑。みかん畑はかすみの向こうまで果てしなく広がっていたよ。

 一個ぐらいもいで帰ろうかと思ったけど、果てしなくあっても人のものなので我慢した。

 

 家に帰ると、交換手さんが電話してきた。

『教頭先生、ご苗字はなんと言いますか?』

「うん、ハタ先生だよ」

『ハタ……どんな字を書きますか?』

 え、あ、そう言えば、普通には先生も生徒も『教頭先生』と呼んでいる。ときどき、PTAとか校長先生とかが『ハタ先生』と呼んでいて、それで憶えたんだ。

「ちょっと待ってね」

 一学期の始業式でもらった学年通信を出してみる。

「ええと……春って字の日を禾(のぎへん)に変えた字だよ」

『あ……ああ、分かりました。ありがとうございます』

 自分でも紙に書いてみる。

 パソコンで『はた』で入力して、分かった、秦と書いて『ハタ』って読むんだ。

 で、これは秦国の秦だったよ。

 

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)
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やくもあやかし物語・155『徐福公園』

2022-09-16 15:34:10 | ライトノベルセレクト

やく物語・155

『徐福公園

 

 

 ……環境に優しい乗り物です

 

 視界が戻って目についたのが、この標語なので、いっしゅん黒電話のことかと思った。

 受話器が持ち上がってダイヤルが回って、ちょっと呼び出し音がしたかと思ったら、ここに着いている。

 電話線の中を通って来るんだから、炭素も排気ガスも騒音もないわけで、まさに環境に優しい乗り物!

 と思ったら『鉄道は環境に優しい乗り物です』という青い文字が、鉄筋の建物の幅広の入り口の上に書かれていて、JR新宮駅だということが分かる。

 視線を落とすと、目の前に緑の公衆電話。

 そうか、自分の部屋から電話線を伝って、新宮へやってきたんだ。グーグルアースよりも早いので、ちょっと感動。

 なにより、写真じゃなくてリアルだからね。うちの近所よりも日差しが眩しくて、ちょっとしかめっ面になる。

 ちょっぴり潮の香りもして、海が近いことも偲ばれる。

「ねえ……」

 振り返ると、交換手さんのコスが変わっている。

 なんと、女子高生の制服ですよ。

「あ、やくもさんと一緒なら、こういうのがいいかなって思ったもんですから(^_^;)」

「うんうん、とっても似合ってる!」

 交換手の制服の時は、ずいぶん年上のオネエサンという感じだったけど、JKの制服になると、二つぐらいしか離れてない感じで、とってもフレンドリーになる。

「ほんとうは高等女学校にいきたかったんで、ちょっと制服には憧れがあったんです」

 はにかむ顔は、もうほとんど同級生。

「あっちに行きます!」

 溌溂と指さしたのは、駅前通りを100メートルほどお日様の方向。

 

「あ、なんか中国みたい!」

 

 小走りで三十秒ほど、みかん色の瓦が雰囲気の中国式の門。

 門といっても、扉は無くって、真ん中と両脇に入り口があって、とってもイケイケ。

 横浜の中華街にも同じようなのがあるけど、それよりも大きい。

 徐福公園……と立派な扁額がかかっている。

「ヨフクコウエン?」

「ジョフクと読みます、ジョフク公園」

「じょふく……?」

「中に入ってみましょう」

「うん」

 ……そんなに広い公園じゃないんだけど、雰囲気がいい。

 真ん中に大きな木があって、その周囲に池やら記念碑めいたものやら、門と同じコンセプトの売店やら休憩所やらが並んでいる。

「あ、諸葛孔明!」

「いえ、徐福です(^_^;)」

 三国志でお馴染みって石像があったので、つい叫んでしまったら間違った。

 孔明と同じような冠で髭を生やしてるもんだから、アニメとかでお馴染みの諸葛孔明と思ってしまったよ。

「まあ、中国の学者は、みんな同じような服装ですからね」

 そう言われれば、孔明よりは恰幅がいいかも。

 というか、こういうコスの中国の人って孔明と閻魔さんぐらいしか知らない。

「なんで、中国の学者さんの石像が和歌山県に建ってるわけ?」

「徐福さんは、昔々の中国は秦という国の学者さんなんです。ええと、秦て分かります?」

「ええと……聞いたことはあるんだけどね……」

「始皇帝のご家来さんです」

「始皇帝……あ、キングダム! 政(せい)のことだよ!」

 キングダムは、小学校の頃からアニメでやっていて、お祖父ちゃんも観ていて共通の話題が出来て嬉しかった。

 お祖父ちゃんは無駄に知識があるもんで、政が皇帝になってから作った宮殿が、阿呆宮っていって、めちゃくちゃ大きくって、バカを表す阿呆(あほう)の語源になったとか、無駄な運河を作って民衆を困らせたとか意地悪ばかり言ったんだけどね。

「その始皇帝が、東南の海に蓬莱山をいただく島国があって、そこには不老長寿の薬があるそうだから、船団を仕立てて調べてくるように命じたんですよ……」

 そ、そうなのか、あの凛々しい少年王が……いつまでも、少年じゃないのは分かってるんだけどね、イメージはそうなのよ。命惜しさに家臣に無茶ブリしたんだ。

「そして、徐福は、ずんずん船を進めて、海の彼方に見つけたのが、ここ新宮にある蓬莱山だったんです!」

「え、ここにあったの!?」

「はい、この次に見に行きますけどね、徐福が見つけた不老長寿の薬はなんだと思います?」

「え、えと……」

 交換手さんはニヤニヤ笑って、早く降参しなさいって顔してるんだけど、なんせ女子高生の制服なもんで、中学の先輩にいたぶられてるみたいで、ナニクソって気になって「降参、教えて(^_^;)」にはならない。

 すると、さっき入ってきた門の前を、足早に横切っていくスーツ姿のおじさんが目に留まった。

「あ、あの人!?」

「え、知り合いの人?」

「う、うん……」

 それは、学校で、わたし以外であやかしが見える唯一の人。

 教頭先生だった!

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)
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やくもあやかし物語・154『部屋が広い』

2022-09-09 12:11:30 | ライトノベルセレクト

やく物語・154

『部屋が広い

 

 

 部屋が広い。

 

 こんなに広いと思うのは二度目だよ。

 一度目は、この家にやってきたときね。

 中学に上がるのをきっかけに、それまで住んでいたアパートを引き上げて、お母さんの実家である、このうちにやってきた。

 200坪っていうから、いままで居たアパート全体の敷地よりも広い。お母さんに聞いたら、アパートは全体でも100坪も無かったんだって。

 わたしの部屋は洋間で、畳に換算すると8畳くらいはあるそうだよ。

「え、もっとあるよ」

 お婆ちゃんに言うと「そうか、やくもとお婆ちゃんとは、畳一畳の大きさが違うんだわ」と答えた。

 アパートの畳は団地サイズで、縦で20センチ、横で10センチも小さいらしい。

 だから8畳換算だと縦横40センチも違うんだとか。

 

 二度目は、いまだよ。

 

 神保城をもらって、部屋の住人たちは、みんなあっちに行ってしまった。

 六条御息所は、神保城の総理大臣兼建設大臣。アノマロカリスは国防大臣。交換手さんは逓信大臣。

 他のフィギュアやグッズたちも、役職やら称号をもらって、あっちにいることがほとんど。

 それに、なによりチカコが居ないしね。

 

 あ、これはいいことなんだよ、喜ぶべきことなんだよ(^_^;)。

 

 チカコは、やっと旦那さんの家茂さんと心が通じて、家茂さんのところに行ったんだ。

 だからね、悲しんじゃいけないんだ。

 部屋が広くなったといっても、ちゃんと入り口のドアも、手を伸ばせば窓枠にも手が届いて、空気の入れ替えだってできる。

 

 お爺ちゃんから、コーヒーミルをもらった。

 

 鉄製で、横に大きな手回しハンドルが付いていて、人力でガリガリと豆を挽くやつ。

 それで、一杯分だけ豆を挽いてコーヒーを淹れる。

 淹れるまでの作業をやっているうちに、部屋はコーヒーの香りでいっぱいになる。

 それで、文庫とか読んだり、ボーっとしながらコーヒーをいただく。

 胃によくないから、コーヒー淹れるのは日に一回だけ。

 リビングで、家族と一緒にコーヒーとか紅茶飲むときもあるから、そう言う時はできない。

 

 あら?

 

 最後の一口飲んで、文庫にしおりを挟むと、黒電話の横に交換手さん。

「退屈じゃないですか?」「お城はいいの?」

 二人の言葉が重なって、フフって笑ってしまう。

「交換手さんから言って」

「はい、それでは、こちらは携帯が使えないので、そんなに仕事は無いんですよ。逓信大臣だなんて大層な肩書をいただきましたけど」

「改正電波事業法のやつね!」

「いえ、結果的には良かったんですよ。みんなスマホ漬けにならなくて済んでますから」

「あ、そうか、物事には裏表があるってことね」

「はい、万事塞翁が馬です」

「あ、チカコも御息所も居ないから、お座敷自由に使ってね」

 机の上には、二人が使っていた1/12サイズのお座敷とコタツがある。

「それよりも、ちょっと出かけませんか? 電話線のあるところなら、どこにでも行けますから」

「え、あ、そうだね……えと、どこか、お勧めとかある?」

「はい、いっぱいありますけど、もう一度和歌山に行ってみませんか?」

「和歌山?」

「はい、こんなところはどうでしょう」

 交換手さんが指差すと、机の上に中国風の立派な門の映像が現れた。

「……これって、日本なの?」

「はい、和歌山の新宮です。徐福伝説の街です」

「ジョフク?」

「はい、紀州みかんの、スゴイ伝説があるんです!」

「う、うん」

「それじゃ、お繋ぎしまーす(^▽^)!」

 交換手さんが元気に手を挙げると、黒電話の受話器が持ち上がり、ダイヤルが回り始めたよ……

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)

 

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やくもあやかし物語・153『夢役』

2022-09-02 15:03:25 | ライトノベルセレクト

やく物語・153

『夢役』 

 

 

 お地蔵イコカで高安に飛んだ。

 

 ほら、二丁目地蔵からもらった、全国のお地蔵さんの居るところだったらどこのでもいけるって、便利なカード。

「いやあ、おひさしぶりぃ(^0^)/」

 以前はシラミ地蔵の前に出て、エッチラオッチラ高安山の山裾の玉祖(たまおや)神社まで歩いたんだけど、もう慣れてしまって、いきなり玉祖神社の鳥居前。東高野街道に面した一の鳥居から、神社の前の二の鳥居までは1000メートル以上もある上り坂(ゆるいんだけど)なので、最初に来た時は遠足かってくらい歩いた。

 今度は、二の鳥居の真ん前だったので、俊徳丸さんがニコニコとお出迎えしてくれている。

 さあ、どうぞ。

 通されたのは、拝殿の上の亜空間に設えられた高安のかあやかし集会所。

「お知らせを受けてやってきました。いつも気にかけていただいてありがとうございます」

 久しぶりなので、きちんとご挨拶。チカコも交換手さんも、倣って挨拶してくれる。

「やあ、親子内親王様、交換手さん。どうぞどうぞ」

 境内に入って大阪平野を見下ろすと、業平さんと茶屋の娘さんとの一件やら、都から来た鬼をいっしょにやっつけたときのことを思い出す。

「結果的に御息所の面倒まで見てもらうことになって、ちょっと申し訳なく思っていたんですよ」

 頭を掻く俊徳丸。

 御息所は、鬼退治の記念にもらった鬼の手の中に、こっそり住み込んでいて、俊徳丸さんも分からなかった。

 それに、御息所は、もうチカコにもわたしにも姉妹みたいなもんだよ。かえってお礼を言わなくてはならないくらい。

 御息所が付いてこなかったのは、こういうことが照れ臭かったのかもしれないしね。

 

「実は、親子さん」

 

 俊徳丸は、チカコと片仮名ではなく真名として漢字で呼んでいる。

 それが分るんだ。チカコは背筋を伸ばして俊徳丸に向きあったよ。

「はい」

「じつはね、家茂さんはみかん畑を見たことが無いんですよ」

「「「え?」」」

「それどころか紀州に入ったことも無いんです」

「「「ええ!?」」」

 これには三人とも驚いた。

 将軍になる前の家茂さんは紀州藩の殿様だったよ。最初は知らなかったけど、御息所が教えてくれた――さすがに六条の御息所! 皇太子妃! 歴史に強いんだ!――ちょっと持ち上げ気味に感心したら――入試で日本史を選ぶくらいの子なら誰でも知ってるわよ――ときた。

「紀州藩は親藩だし、早くから十四代候補にも挙がっていたから、ついつい家茂さんは帰国する機会を失っていたんだ」

「でも、紀州藩の跡継ぎなんでしょ、子どもの時くらいに見てないの?」

「家茂さんは清水家から養子に来たのよ」

「養子か……だったら見てないかもね」

「でも、でもでも、紀州の養子になって、将軍になるまでは6年もあったのよ。一度くらいは戻っていると思ってた……家茂さん、そういうことは言わなかったから……」

 ちょっと重い沈黙が部屋を支配した。

「ご家来からは、聞かされていたんですよ、ご家老様とかね。どんなに紀州が素晴らしいか。大きな掛図や地図を持って来させましてね。ご家来たちは、養子の殿様がご領地の様子を知りたがって、いろいろ話を聞いてくださるのは、とても嬉しいことなんですよ」

「そうだろうね……」

 思い当たるところがあるよ。

 お祖父ちゃんもお祖母ちゃんも、わたしが、小泉の家の昔を聞いたり、お母さんが若かった頃のことを聞くと喜んでくれる。うちの家族は血のつながりが無いから、そういうことは、とても嬉しいんだ。

 たとえ追体験でも、思い出を共有できると、人も景色もグッと近くなるんだよ。

「家茂さんは、ご家来が『紀州は、かように素晴らしいいところでございます』という素晴らしさを自分の素晴らしさにしたんでしょうねえ」

「じゃあ、あの天守台でお話になった素晴らしさは……」

「はい、無意識だったのでしょうが、結果的にはそういう紀州人の素晴らしさに感動されたんだと思います」

 

 なんだか、シンとしてしまうよ。

 

「ひとつお伺いしてよろしいでしょうか?」

 交換手さんが控え目な声で訊ねたよ。

「なんでしょう?」

「不躾な質問ですが、高安の俊徳丸さんが、なぜ、そこまで家茂さんのことをご存じなのでしょうか?」

「あ、失敬。そこからお話しなければなりませんねえ……じつは、家茂さんの最期をみとったのは、この俊徳丸なんですよ」

「「「えええ!?」」」

「百五十年のむかし、家茂さんは、大阪城と二条城に腰を据えて朝廷や薩長のお相手をしておいででした」

「兄が皇位についていた時代ね」

「はい、できもしない攘夷決行を約束させられ、江戸に帰ることも許されず上方に留め置かれ、家茂さんは心痛のあまり命を削っておられました。これには、上方のあやかしたちも同情しましてね、せめて、夢の中でお慰めしようと……その夢役の一人に選ばれたのが、この俊徳丸なんです」

「そうだったんですか……」

 豊原の電話局で最期を迎えた自分と重なるんだろう、交換手さんは胸を押えたよ。

「家茂さんの胸には紀州の海と空がありました、海と空の間には明々とみかん畑が安らいでおりました……でも、それは想いであって、容を成しておりません。わたしは、その風景に容をあててご覧にかけたのです」

「俊徳丸さん、家茂さんは、なにかおっしゃいましたか!?」

「はい、『これです、これですよ、親子、これが紀州です。これこそが紀州のみかん畑ですよ……』」

「家茂さん…………!」

 膝立ちになったかと思うと、チカコの姿は白く輝き始め、俊徳丸さんの合わせた手の間にも光が生まれている。

 そして、少し前のめりになったかと思うと、たちまち二つの光は溶けあって、素通しになった天井を抜け、高安の空に舞い上がって、煌めく星々の一つになっていってしまったよ。

 

 これでよかったんですよね…………俊徳丸さんが呟いたよ。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
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  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
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  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)

 

 

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やくもあやかし物語・152『チカコを捜す・和歌山のみかん畑』

2022-08-25 11:16:14 | ライトノベルセレクト

やく物語・152

『チカコを捜す・和歌山のみかん畑

 

 

 電話線を伝って和歌山に来ている。

 

 ほら、江戸城の天守台で見たでしょ。

 チカコと家茂さんが寄り添ってお話してるところ。

 家茂さん、忙しくって、めったにチカコと話す機会がないもんだから、頑張らなくっちゃいけないと思っていたよ。

 いろいろ話題を投げかけて、しまいには『千両蜜柑』ていう落語のネタまで持ち出して、やっとチカコを和ませて。

 チカコもブキッチョ。

 家茂さんが投げかけてくる話題を真面目に受け止めるんだけど、受け止めているうちに話題が次に行ってしまって、喜んでいる暇がない。

 家茂さんの話が早いわけじゃない。

 もともとそうなのか、縁切り榎で――楽しむ心――を置いて来てしまったせいか、すぐに反応できないんだ(わたしにも、こう言うところがあって、オヘンコとか感動の薄い奴とか思われる)。

 それで、家茂さんが将軍になる前にお殿様を務めていた紀州の話になって、やっと追いついた。

―― ああ、家茂さんは、紀州の、それもみかん畑が見える風景が好きなんだ ――

 チカコは思った。

 海が臨めるみかん畑。そこに行けば、将軍職でアップアップしている家茂さんではなくて、本当の家茂さんに会えると思った。

 海の見えるみかん畑なら、二人で、いつまでも仲良く心を通い合わせると思ったんだ。

 

 み~かんの花が咲いている~ 思い出の道~ 丘の道~

 

 三回目になると憶えてしまった『みかんの花咲く丘』をリフレイン。

「気に入っていただいたようですね」

「そういうわけじゃないけど、もう百回くらいリフレインしてるしぃ」

 今日は逓信大臣の交換手さんと和歌山に来ている。

 和歌山は神田明神の守備範囲から離れすぎているのでアカミコさんは付いてこれないんだ。

 その交換手さんも電波通信事業法の嫌がらせで携帯に参入できないので、固定電話が通じるとこまでしか行けない。

 みかん農家さんまでは電話線は繋がってるけど、さすがにみかん畑までは伸びていない。

 交換手さんだって、みかん農家さんの家から先には出られないんだけど、お祖父ちゃんが現役時代に使っていた携帯無線機を借りてきた。これだと、携帯無線機の電波が届く範囲まで交換手さんに付いて来てもらえる。

 だから、エッチラオッチラ

 天守台で家茂さんの頭に浮かんだイメージのみかん畑を探索して、これで四つ目。

 

「ごめんなさいね、やくもさん」

「ううん、だって間違ってなかったよ、どのみかんの丘にもチカコの気配が残っていたもの」

 

 そうなんだ、チカコもイメージを追って同じところを周っている。

 それが後手に回って、わたしたちはいま一歩のところで間に合わない。

 だからね、実は、今から向かうのは五つ目のみかん畑。

 一つとばせばピッタリだろうって、聞き耳を立てていた御息所のアドバイスなんだよ。

 

 で、ドンピシャだった。

 

 チカコは、もうお雛さんみたいな親子(ちかこ)の姿もやめて、いつもの黒のゴスロリに戻って佇んでいた。

「チカコ……」

「あ、やくも……交換手さんも来てたんだ」

「今日のわたしは携帯無線機ですけど」

「差し出がましいとは思ったんだけど、チカコは、わたしたちの仲間だからね」

「うん、ありがとう。勝手に出てきてしまったのに、ごめんね二人とも」

「いいよいいよ(^_^;)」

 気の利いた言葉も浮かばないので、両手をパーにしてハタハタと振る。

「あんなにみかん畑のイメージがハッキリしていたから、ぜったい、ここに居ると思ったんだけどね……家茂さん」

「うん、だよね」

「やっぱり、わたしって、親子(ちかこ)の左手首だから、なにか足りないのかなあ、どこか届かないのかなあ……」

「そ、そんなことは無いと思うよ」

「わたしも、そう思いますよ、チカコさん」

「そうなのかなあ……もう自信なくなってきたよ」

「わたしなんか、真岡で果ててしまって、電話線か電話機の中でしか存在できませんけど、こうやって、お二人とお話ができていますもの」

「わたし、一度も家茂さんに寄り添ってあげられなかったから……ずっとほったらかしにしていたから……」

「チカコ……」

 不器用なわたしは名前を呼んでやることしかできない。

 なんか、もどかしい。

「あ、お電話です!」

「え?」

「大阪の俊徳丸さまです、いま、お繋ぎ……」

 そこまで言うと、交換手さんは急に影が薄くなって消えてしまった。

「交換手さん!」

「あ、電池切れじゃない?」

 

 わたしは急いで、ふもとのみかん農家さんまで走って戻った。

 とちゅう、二回も転んでしまった……。

 

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)

 

 

 

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やくもあやかし物語・151『チカコを捜す・天守台』

2022-08-01 14:40:34 | ライトノベルセレクト

やく物語・151

『チカコを捜す・天守台

 

 

 アカミコさんと天守台に向かう。

 

 そもそもが日本一大きな天守閣だったそうで、石垣だけになっても、その迫力はすごい。

 大奥の裏口っぽいところを出ると、もう目の前に天守台。

 おお……

 ゆるく間の抜けた感嘆の声しか出ない。

 小さいころから感激するのがヘタだった。クリスマスやお誕生会でプレゼントもらっても「おお……」だった。

 おともだちみたいに、キャーキャー言ったり、ピョンピョン撥ねるのは苦手。っていうか、反応が遅れるんだよ。

 おともだちが、キャーキャー、ピョンピョンやりだすと――あ、よろこばなくっちゃ――っておもうんだけど、ワンテンポ遅れてしまうと、もうダメになる。

 お父さんが居なくなってからは、先生とかも事情を知ってて――やくもちゃんは事情があるから――って深読みされて、そっとされた。

 だから、感謝とか嬉しさは、別の事で表すようになったよ。ラッピングの紙やらリボンやらは、きれいに巻いたり畳んだりしてファイルに入れたり、カバンに仕舞ったり。ラッピングの包装紙や梱包の紙くずとかで溢れたゴミを捨てに行ったり。でも、普通の子はそういうことしないから、オヘンコってことになる、なってしまう。

 そもそも、チカコを捜しにやってきて、こんなこと思うこと自体が変なんだけどね。

「チカコさんも、そうだったんですよ。ほら、天守台の上の方から、そういう戸惑いがこぼれてきています」

「え、この上にいるの!?」

「さっきみたいな残像かもしれませんが……行ってみましょう」

 

 えっちらおっちら、石段を上がる。

 居た。

 

 鉄漿(おはぐろ)に点眉さえしてなかったら、かわいいお雛様って感じのチカコ。その横には、葵の御紋の羽織着た小柄なイケメンさん。

「十四代将軍の家茂さんです」

 家茂さん、後姿で分かるよ。

「ですよね……望まない輿入れで、元気のないチカコさんを慰めていらっしゃるんですね」

 手を伸ばしたら届きそうな距離。

 新婚さんとしては離れすぎ、でも、ふんわり寄り添ってますって、そんな距離。

「お二人とも、やっと十六歳ですからね」

 十六歳……やっと高校一年生だ。

 

『……初めて見た時には驚いたものです』

 やっと家茂さんが口を開いたよ。

 え、チカコがギクってしたよ?

 

「自分の事を言われたんだと思ったんですね……」

「今のは違うよね、家茂さんは、目の前の江戸の街のことを言ったんだ」

「そうですね……」

 

『途方もない大きさです、江戸の街は。百万人以上が住んでいます。仏蘭西の公使が言っていました、百万を超える都市は世界に幾つも無いそうです。巴里や倫敦よりも多いんだそうです』

『あ……そうなんですね……えと……子どものころに嵐山から見た都よりも……大きいと思います』

『わたしは、この江戸の街と京の都と、それよりも広くて大きい日の本の国を護ってまいります。そして、親子さんと、親子さんの兄君である帝を安んじ奉ります……』

 なんか、カチコチだけど心は伝わるよ。

『…………………』

『その……ですから、どうぞ、心安らかにお暮しください……』

 チカコ焦ってる、好き好んでやってきたわけじゃないけど、この家茂さんの気持ちには応えなくちゃと焦ってるんだ。

『『あの……』』

『あ、どうぞ』

『いえ、上様から』

『いや、親子さんから』

『はい、えと……えと……』

『…………………』

『上様は将軍職に就かれる前は紀州藩の太守であられたのですね?』

『はい、紀州は良いところです!』

『はい、きっと良いところなのでしょうね(;'∀')!』

『緑が豊かな国で、物なりもよく、蜜柑などは紀伊国屋文左衛門のころからの名産で、江戸や坂東の人たちからも好まれております』

『そうなのですね』

『はい、江戸家老に聞いたのですが「千両蜜柑」という落語があるそうです』

『千両蜜柑?』

『病に臥せった大店の若旦那が苦しい息の下で「蜜柑が食べたい」と父に言うのです。大旦那である父は番頭に命じて、蜜柑を探させます。あいにく、蜜柑の季節は終わってしまって、どこに行ってもありません。そこで八方手を尽くした末に、さる青物問屋の蔵に一つだけ残っておりまして、なんと千両の値が付くというお話です。蜜柑は十房、若旦那が口に入れた一房が百両。それを見ていた番頭は……そこからの展開が……あ、落語と申すのは、噺家が、寄席という小屋で大勢を相手に噺を聞かせる芸だそうです』

『まあ』

『そこからの話が面白いのですが……世の中が落ち着いたら、噺家を城に呼んで聴かせてもらいましょう』

『それは……いっそ、しのびで寄席というところに参りましょう。噺家と申す者も人間、皆が裃を着たような殿中ではあがってしまって、芸の発揮のしようもございませんでしょう』

『そ、そうですね、良いところに気付かれた』

 

「あ、今のは……」

「優しい人ですね家茂さんは、チカコさんの気を引き立てようと必死です。連日公武合体とか攘夷の実行とか忙しい毎日、その間に無理くり時間を作って、チカコさんを慰めようとしておいでなのですね」

「チカコも、それを分かっていても、うまく応えられないし……」

 

『その蜜柑を作っているのが海辺の段々畑です、そこから見る紀州の海はなかなかのものです。紀州は山がちで田んぼの少ない国です。他国の者は秋の実りの田畑を見て豊かな平穏を感じるのですが、紀州は、木材と蜜柑です。そこに青い海と空が広がっていたら、もう、そのまま成仏してもいいと思うんだそうです』

『そんな景色、一度は上様といっしょに観てみたいものです』

『そ、そうですね。そうできるように努めます……ふふふ』

『どうかなさいました?』

『いえ、親子さんが蜜柑畑に立っているところを想像してしまいました』

『え、どんな?』

『段々畑の親子さんは、海から見ると、きっと雛人形のようでしょうねえ』

『まあ、わたしが雛人形だなんて』

『いけませんか?』

『女雛だけでは雛人形にはなりません、男雛が横に居なくては』

『いや、そうですね。これは一本取られました』

『そうでございましょ?』

『しかし、こまった』

『なにがですか?』

『わたしは、段々畑の親子さんが見たいのです。いっしょに雛壇に並んでしまっては、親子さんが見られません』

『フフ、そうですね( *´艸`)』

『ならば、こうしましょう。わたしは海から現れて、しばし親子さんを眺めて、そう、亜米利加公使からもらったフォトガラフで親子さんを撮って、それから段々畑に上がって親子さんの横に並びましょう』

『う~ん……フォトガラフは、上様が段々畑に上がってからにいたしましょう。どうせなら二人並んで撮りたいものです』

『そうですね……そうですね、それがいい。ぜひ、そうしましょう!』

 その時、近習の若侍が天守台に上がってきて、静かに蹲踞したよ。蹲踞したまま「上様」と一言。

 それだけで分かるのね、家茂さんはクルリとチカコの方を向いた。

『これから白書院で会議です。みんな揃っているようですから、これから参ります』

『はい、行ってらっしゃいませ』

『はい、行ってまいります』

 

 石段まではゆっくりと、石段を数段下りたところからは足早に駆け下りていく家茂さん。

 ギリギリまでチカコとの時間を大切にしたんだ。

 そして、そっと右手を左手に重ねるチカコ。家茂さんの背中に挨拶しているようにも、置いてきた左手をなだめているようにも、愛しんでいるようにも見えたよ。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)

 

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やくもあやかし物語・150『チカコを捜す・大奥』

2022-07-26 11:21:50 | ライトノベルセレクト

やく物語・150

『チカコを捜す・大奥

 

 

 大玄関を上がると和風のラビリンス。

 

 板敷や畳敷きの廊下が稲妻のように巡っていて、ゲームの迷宮ダンジョンに差し掛かると投げ出してしまうわたしは、早くも顎が出てしまう。

「大丈夫です」

 アカミコさんは、いくつもある分岐は完全に無視して黙々とわたしを先導していく。

「……人が居ないねえ」

「チカコさんを探すための捜索モードですから、捜索対象以外は見えない仕様にしています。見えるようにします?」

「あ、ちょっとだけ」

 昔のわたしなら、必要のない人には、なるべく会わないようにする。でも、あやかしとの関りが増えたせいか、ちょっとぐらいなら、この目で見てみたいって思ったりするんだよ。

「承知しました」

 アカミコさんが応えると、廊下の向こうから、袴姿のお侍さん……なんでか、お坊さんまで歩いてくる。後ろからも似たようなのがやってきて、前からやってきた方が廊下の端に寄って頭を下げる。

「こちらの方の方が格下なんです。礼儀作法が厳しいんですよ」

「そうなんだ、いちいち立ち止まって、下っ端はなかなか目的の場所に着けないねえ(^_^;)」

「あっちをご覧ください」

「え?」

 そっちを見ると、下っ端らしい人たちが部屋の中に居て、出番を待っている歌舞伎役者みたいに控えている。

「やり過ごしているんです。だいたい、役職によって通る時間決まってますからね。ああやった方が早いんです」

「なるほど……お坊さんみたいな人は?」

「茶坊主です。役割はメッセンジャーボーイでしょうか、人を案内したり取次をしたりします。身分的にはお坊さんです。お坊さんは法外という建前ですので、身分にかかわらずお城のどこへでも行けましたし、口をきくこともできました」

「なるほど……でも、男の人ばっかしね」

「男女の区別は厳しかったですからね、女性が居るのは大奥に限られています」

 ちょうど、その大奥が見えてきた。

 廊下の突き当りが黒い漆塗りの観音開きになっていて、観音開きの前には裃姿の若いお侍さんが二人で番をしている。

「お鈴口って言うんです。紫の房が下がっているでしょ。将軍が来られると、あの房紐を引くんです。すると、鈴が鳴って、向こう側で番をしている奥女中さんが開けてくれることになっています」

「そうなんだ……」

 小学校の正門を思い出した。正門には、朝なら先生、それ以外はお爺さんが居て出入りをチェックしていたよ。

「えと、わたしたちは……」

「これは、ただのイメージですから、わたしたちはすり抜けていきます」

 スーーーー

「なんだか幽霊になったみたい(^_^;)」

「ですね。死ぬというのは別の次元に行くのと同じですから、こんな感じかもしれませんね」

「フフ、そうなんだ。ちょっと面白いかもね」

 お鈴口を通ると、みごとに女の人ばかり。

 チカコを捜しに来たというのに、なんだかウキウキしてしまう。

「さっきの所よりも人が多いね」

「御台所のチカコさんにお仕えしている者だけで500人ほど居ますからね」

「500人!?」

 500人なんて、学校一つ分くらいだよ、さぞかし賑やかだろうなあ。

 

 シーーーーン

 

「あれ……静か……」

 あちこちに奥女中さんや、その世話をするお女中さんが見えてきたんだけど、話声が聞こえない。

 人が動く衣擦れの音やら、襖とかを開け閉めする音が微かにするんだけど、それ以外は、庭にやってきた小鳥のさえずりが聞こえるくらいのもの。

 キョロキョロしていると、たまに用事を伝えたり話をしたりを見かける。だけど、ぜんぜん声が聞こえない。

 思わずインタフェイスを開いて、音声ボリュームの設定を変えたくなる……というのはゲームのやり過ぎなんだろうね。

「これが、当時の作法なんです……ほら、あそこに御台所のチカコさん」

「え……あれ……が?」

 広い部屋の床の間の前にリアルサイズのお雛さん……と思ったら、雛人形みたいなコスの……ようく見たら眉毛が無い。

 でも、目鼻立ちにはチカコの面影?

「昔は、嫁いだ女性は眉を剃ったんですよ。まだ起きて間がないから点眉も引いてはいませんし」

「点眉?」

「あ、こんな感じです」

 アカミコさんが示すと、生え際の下あたりに、いかにも描きましたって感じの丸い眉が現れた。

「ああ、こんなコスとかメイクしてたら鬱になるわぁ」

「いいえ、これはチカコさんにとっては普通なんです。お嫁入の時に『すべて御所風でやっていく』って約束をとりつけていますから」

「そ、そうなんだ」

 あ、アクビした。

 さすがにお姫様の御台所なので、扇子で口を隠すんだけど、なぜか扇子が半透明になって見えてしまう。

「え、口の中真っ黒!?」

 なんか、悪い霊にでも憑りつかれてる?

「鉄漿(おはぐろ)です」

「オハグロ?」

「昔は、嫁いだ女は眉を剃って歯を黒く染めたんです。既婚者だって、いっぱつで分かるでしょ?」

「なるほど……」

「外国から不評だったので明治になって止めたんです。わたしだって……」

「え?」

 こっちを向いたアカミコさんは御息所のチカコと同じく、点眉の鉄漿!

「昔は、こうだったんですよ。でも、神田明神の神さまたちは『なにごとも当世風がいい』ということで、その時代時代に合ったナリをしています」

 つるりと顔を撫でると、いつものアカミコさんに戻った。

「早回しにします」

 スススススススススス

 小さな音をさせながら、チカコと、その部屋の様子が早回しになる。

 目がチカチカしてくる。数秒で昼夜が入れ替わっていくからだ。

 何カ月、何年もが動画の早回しのようにカクカクと過ぎていく。

 僅かなぐらつきはあるんだけど、チカコは、ずっと床の間の前に座ったまま。

「ほんとに、お人形さんみたい……」

「もちろん、夜は寝るし、食事もとるし、たまには出かけたりもありますけど、早回しにするとこうなるんです。少しだけ遅くします」

 たしかに、ほんの一瞬床の間の前をコマ落ちしたみたいに居なくなる。そのわずかの間に他の事をやってるんだ。

 再び早くなると、今度は目が慣れて、瞬間消えたところも分かってきて、チカコの後ろの床の間も重なって、幽霊じみて見える。

 なるほど、チカコが「お城は嫌い」と言っていた意味が分かった。

「あ、でも、ここに見えているチカコは昔の記録なんだよね。いまのチカコがいるかどうか探らなくっちゃ!」

「そうですね、もう一度探ってみましょう」

 アカミコさんがつまみを回すような仕草をすると、チカコの姿は逆廻しになった。

「……ありました、この瞬間です!」

 静止画になった。

 その瞬間、部屋は無人になったけど、アカミコさんは屋根の間に垣間見えている天守台を指さした……。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)
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やくもあやかし物語・149『チカコを捜す・江戸城』

2022-07-20 15:13:23 | ライトノベルセレクト

やく物語・149

『チカコを捜す・江戸城』   

 

 

 電波通信事業法が壁になっているらしい。

 難しい法律なんで、中学生のわたしにはよく分からないんだけどね。

 勝手に放送局作ったり、携帯電話の会社を作ってはいけないという法律。

 昭和59年に公衆電気通信法というのが改正されてできた法律らしい。

 通信事業の自由化のために改正されて作られた法律らしいんだけど、自由化のための法律が、なんで規制するのかよく分からない。

 自分の日常生活に関係なかったら、どうでもいいんだけどね。

 力のある法律は、時間がたつとオバケになって、オタクやファンタジーの世界まで影響を及ぼすんだって。

 いつも優しくシャキッとしている交換手さんが、ちょっとだけ悔しそうに言っていた。

 まあ、法律妖怪というか妖怪法律というか、そういうもんらしいです。

 

 そいつがね、神保城にやってきたんです。

 

「神保城と、その領内での携帯電話の普及は電波通信事業法によって、認められません!」と偉そうに言う。

「ここは、アキバのメイド王から小泉やくもがもらった異世界の領地です。リアル世界の法律の支配は受けません!」

 逓信大臣の交換手さんは、きっぱり断ったんだけど電波通信事業法は、グイッと顔を近づけてきて、交換手さんに言った。

「わがままを言ったら、道交法やら風営法に言って宗主国のアキバを締め上げるぞぉ!」

 アキバに迷惑をかけられないので、交換手さんは、やむなく固定電話の普及で妥協せざるを得なかった。

 

「それで、ご案内できるところは、電話線が通っているところに限られてしまうんです、申し訳ありません」

 

 自分の責任ではないのに、交換手さんはマンホールの上で深々と頭を下げる。

 なんで、マンホールの上かというと、千代田区の皇居前は電気や通信のケーブルは地下の共同溝に設置されていて、マンホールが、その出入り口だから。

「だいじょうぶですよ、千代田区は神田明神の膝元、わたしに任せてください」

 微笑んで胸を叩くのはアカミコさん。

 二人にガードされながら、神保城からやってきたところだよ。

 ジャリ ジャリ ジャリ……

「江戸城って、いまは皇居でしょ、中に入れるの?」

 皇居前広場の清らかな砂利を踏みながら、わたしはビビってる。

「大丈夫です。皇居や宮内庁があるのは西の丸です。天守閣や大奥があったのは本丸で、一般に公開されているから問題ありません」

「そ、そうなんだ」

 江戸城って言えば皇居で、お正月の一般参賀とかでなきゃ、一般国民は中に入れないと思っていた。

 

 チカコは十四代将軍家茂さんの正室で、家茂さんが亡くなるまでは江戸城の大奥に住んでいたはず。

 だから、うちの家から飛び出したチカコは、江戸城に戻ってるんじゃないかと、アカミコさんは推理する。

「チカコって、お城は嫌いだったと思うよ」

 そう言うと、アカミコさんは指を立てて、こう言った。

「大奥というのは、お城ってイメージは全然ないところだから可能性は高いです。お輿入れまでは、不安で嫌がっていたみたいですけど、十四代さまは、とてもお優しく、和宮さんのお心を解(ほぐ)しておあげになって、良いご夫婦になられたようですよ。行ってみれば、なにかヒントがあるかもしれません」

 桔梗門から窺える本丸は、木々が茂った大きな公園という感じだったけど、入ってビックリ!

「え、あ、うわ……お屋敷街だ!」

 お濠を渡って、門をくぐると、白壁が続くお屋敷の屋根が幾重にも重なって山岳地帯みたい。

「実際はこうですけどね……」

 アカミコさんが指を振ると、屋根の山岳地帯は半透明になって、現在の公園の姿とダブって見える。

「ちょっと目が疲れるかも(^_^;)」

 アカミコさんが指を下ろすと、またお屋敷街に戻った。

「本丸は平屋ばかりですからね、ザっと位置関係を掴んでおかないと迷子になりますからね」

「あ、昔の江戸城だから、天守閣とか?」

「三百年前に焼けてからは石垣だけですから、目標になりません。天守台って言うんですけど、ほら、屋根の隙間から、ちょっとだけ見えるでしょ?」

「あ、うん、分かりにくいね」

「では、参ります。幻の江戸城ですが、一応靴は脱いで上がりましょう」

 大きな玄関みたいなところで、靴を脱ぐと、靴を持ったまま奥へと進んでいった。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)

 

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やくもあやかし物語・148『再びの神保城』

2022-07-13 12:44:20 | ライトノベルセレクト

やく物語・148

『再びの神保城』   

 

 

 霞の真ん中がぼんやり滲むように開けていって、神保城の坂道が明らかになっていく。

 坂道は、神保城の東側。ぼんやりとしながらもフワフワと明るいので、日が昇って三時間くらいの初々しい朝だ。

 

 おお……

 

 思わず、都に着いた勇者みたいな声が出た。

 お城の周りは、四季折々の花がいっぺんに咲いていて、ミックスジュースを思わせるようないい香りがしている。

 見上げたファサード(城門を含む、正面のしつらえ)は、ゴブラン織りかなにかの幕やら旗やらが、垂れたり掲げられたり、なんともゴージャスで華やかで、勇者がミッションコンプリートで大団円に臨むって感じ。このまま、王様に出迎えられて「勇者殿、我が姫を妃として、末永くこの国を治めてくだされ」とか言われて、経験値マックス、トロコンして、経験値引き継いで『強くてニューゲーム』のフラグが立っていたり。

 でも、わたしは勇者じゃなくて男でもなくて、この城の女主なのよ。

「お、これは女王さま!」

 櫓の上から声がしたかと思うと、いつのまにか城門は開いていて、ガシャガシャと鎧の音をさせながらアノマロカリス将軍が駆けてくる。

「城も城下も、九分どうり整いまして、明日にでも女王陛下をお迎えしようと思っていたところです」

「あなたも、すっかり偉い将軍になっちゃったわね」

「はい、この神保城の安寧を保つべく、鋭意努力する所存にございます」

「それはそれは」

「本来なら、儀仗隊を並べファンファーレと花吹雪でお迎えしなければならんのですが、なにぶん、みな、陛下のおなりは、もう少し後であろうと思っております。今日の所はお忍びということで」

「うん、いいわよ、それで。で、御息所か黒電話さんに会いたいんだけど」

「はい、それでは……」

 髭を振り回してアノマロカリスがキョロキョロすると、後ろから声がかかった。

「わたくしがご案内いたします」

「あ、アカミコさん!」

 アカミコさんは、神田明神からの出向で、神保城でのわたしの身の回りの世話をしてくれる。

 わたしのフィギュアたちは舞い上がってしまっているので、仕方がない。

 

「三回目だけど、まだ慣れないなあ……」

 

 お城の中はラビリンス。アカミコさんが居なければ御息所たちに会うどころか、自分が迷子になってしまう。

 いや、それも無理っぽい。

 お城の中では、いっぱい気配がするんだけど、わたしが近づいていくと消えてしまう。

「みんな遠慮しているのです、やくもさんを煩わせてはいけないと思って。でも、みんな新しいお城が嬉しくって、子どもみたいに夢中で……」

 ドタドタドタ

 突き当りの回廊をフィギュアたちが大工道具や資材を持って走っている。

「こらあ、廊下は走っちゃダメでしょ!」

 メイドのフィギュアが拳を振り上げ、自分も走りながら叱っている。

「なんだか保育所の休憩時間みたい(^_^;)」

「フィギュアたちは、持ち主の心が反映されます。ちょっと騒々しいですが、みんな素直に嬉しくって無中なんです……いつか、やってくるご自分の姿だと大目に見てやっては、いかがでしょう」

「う、うん。これはこれでいいんだよ。でも、だからこそ……」

「チカコさんですね」

「うん、でも、わたし一人じゃ、どこをどう探していいか……」

「そうですね……こちらのお部屋です」

 

 黒書院

 

 なんだか、時代劇っぽい名前の部屋……入ってみると……あれ、うちの居間みたい。

 普段、食事の後は、リビングでお爺ちゃんお婆ちゃんと寛いでるんだけど、廊下を挟んだ向こうには十二畳の居間がある。居間の隣にはお茶室とかがあるんだけど、普段は使うことが無い。むかし、お婆ちゃんが小さいころは、大勢の家族で食事をしたり寛いだりする部屋だったそうだ。そこに似ている。

「もうひとつ向こうのお部屋になります」

 襖が開いて通されると、部屋は右側に一段下がって広がっている感じ。

 座布団が布いてあるところまで行くと、一段下がったところに逓信大臣の制服姿で交換手さんが畏まっていたよ。

 

「逓信大臣、面をお上げください」

 

 アカメイドさんが声を掛けると、やっと、顔を上げる交換手さん。

「交換手の制服に着替える間がありませんでしたので、こんなナリで申し訳ありません」

「ううん、急に来たのはわたしの方だし。気にしないで……えと、御息所は?」

「御息所は、総理大臣と建設大臣を引き受けまして、手が離せない状況です。申し訳ありません」

「あ、いいよいいよ。みんな楽しんでるというか、イキイキしていて、やくもは嬉しいよ(^_^;)」

「もったいないお言葉」

「あ、えと……もっと普通に喋ろうよ。なんか、殿様と家来みたい」

「総理大臣の指示で、このようなしきたりになっております」

「最初は、王朝風にやろうっておっしゃって、そこには御簾がかかっていました。直答が許されるのは三位以上の公卿に限るって、大変でした」

 アカミコさんも苦笑い。

「アカミコさんが間に入ってくださって、こういうお大名風に落ち着いたところなんです」

「あはは、目覚めちゃったって感じなんだね……まあ、ここは普通に話そうよ」

 わたしは、上段の間を下りて交換手さんの前に座りなおした。

「ウフフ、そうですね。わたしも、この方が断然楽ですから……ご用件はチカコさんのことですね」

「うん……」

「承知しました。わたしも豊原以来の交換手、電話線を使えばたいていのところには行けます。行先さへ教えていただければ、多少のお手伝いはできるでしょう」

「こっちの仕事はいいの?」

「基地局を建てる仕事が残っていますが、いいですよ。アナログ電話の回線は繋ぎ終えましたから」

「連絡はどうしたらいいんだろ、いちいち、こっちに来なくちゃいけないのかな?」

「いいえ、あっちの黒電話からお話しいただければ。スマホはダメですよ。まだ基地局できてませんからね」

「ありがとう、交換手さん!」

 ちょっとだけ光が見えてきた……気がしないでもない。

 

☆ 主な登場人物

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やくもあやかし物語・147『庭先で里見さんとお話する』

2022-07-08 09:58:44 | ライトノベルセレクト

やく物語・147

『庭先で里見さんとお話する

 

 

 里見フセです

 

 里見さんのお嬢さんは、キチンと目を見てあいさつしてくれる。

 白のワンピがよく似合って、黒のロングヘア―とも相まって、清潔な威圧感がする。

 むかしのわたしだったら、息苦しさに窒息しそうになって逃げだしたと思うよ。

「ごめんなさいね、急に庭先に現れてしまって。お玄関から伺うと、小父様や小母様に出くわすでしょ……」

「あ、いえいえ(^_^;)」

 お爺ちゃんもお婆ちゃんも、散歩の途中でよく出くわすお馴染みさん、今さらなんだけど……ま、いい。

「八房が、無理なお願いをしてごめんなさい」

 手をおなかの前で重ねて、きちんと頭を下げる里見さん。

 なんだか、皇族のお姫様みたいで、アセアセで頭を下げる。

「いえいえ、大してお役にも立ってませんし、八房もお礼にって檜ぶろくれましたし」

「それは……お気に召したのなら幸いなんですけど、あんなものではお礼にならないくらいやくもさんにはお世話になっています。将門さまにもお会いになって、わたしがやっていた時よりも沢山お引き受けになって」

「あ、ああ、ドンマイです。えと、けっこう楽しくやってますから。お礼に、お城とかも頂いちゃって、うちのフィギュアたちも気に入って、なんだか住み着いちゃいそうな勢いです」

「いえいえ、みんな、やくもさんの優しさに付け込んでいるんです。あちらの世界で、いくら御褒美をもらっても、こちらの世界では使えないものばかりでしょ?」

「え、まあ、それはそうなんですが……」

「わたしも、やっと回復してきました。八房も、近ごろでは車いすも使っていませんし、これからは、わたしがやります。もともとは、わたしがやっていたことなんですから」

「あ、でも……」

 元気になったとは言っても、目の前の里見さんは、白のワンピのせいかもしれないけど、首筋や手足の細さ白さが儚げすぎる。これは、敵をやっつけても、その代償に、この世から消えてしまいそうな感じだよ。とても「そうですか、じゃ、頑張ってください」にはならないよ。

「フフ、わたしが白いものを身に着けているのは、ちがうんですよ」

「ちがう?」

「白のワンピースといえば、なんですか?」

「ええと……え……まさか?」

「はい、ウェディングドレスです。まだ道半ばですから、こんなシンプルなワンピースですけど、成就すれば、ベールもブーケも、お花やリボンのフリフリも付いて、立派なウェディングドレスになります」

「だれのお嫁さんになるんですか?」

「八房のお嫁さんになるんですよ(^▽^)」

「え……ええ!?」

「そういう約束なのです。亡くなった父が『それはならん!』と言って、八房は身を引いたんですけど」

 だろうね、犬と人間……ありえないよ。

「でも、父は間違っています。ちゃんと、八房は父の言いつけを守って、二百年も前に仇をとったんですから、約束は守らなければなりません。そういうことですから、残りの任務は、わたしがいたします!」

「は、はい……」

「それよりも、今は、親子(ちかこ)さんのことでしょ?」

「はい……」

「やくもさん……ちょっと途方にくれていますね?」

「はい、チカコったら、どこにいるのか……」

「親子といういうのは、徳川家茂さんに嫁ぐと決まった時に帝がお与えになった諱(いみな)です」

「はい、それは調べました」

「親子と書いてチカコと読ませることは、ちょっと珍しいんですよ」

「そうなんですか?」

「スマホでひいてごらんなさい」

「はい」

 千賀子  千佳子  知加子  睦子  允子  俔子  史子  央子  周子  実子

「あれぇ?」

「親子と書いてチカコと読ませるのは変換候補に挙がってこないでしょ?」

「はい」

「帝は、諱に願いを込められたのです。朝廷と幕府の間を親しいものにしてくれるように……あの結婚は、公武合体の願いが籠められた結婚でしたからね」

「……でも、それって、十四歳の女の子が背負うのには重すぎませんか、可哀そうです」

「そうね、でも親しむのは、朝廷と幕府ばかりではないと思います。夫になる家茂さんとも親しく良い夫婦になって欲しいという願いも込められていますよ」

「……そうなんだ」

「親子の甥にあたる明治天皇の諱は睦仁です。睦は、仲睦まじくの睦で、親子の親と同じ意味です。そこを思って探したら、見つかるような気がします」

「は、はい」

「フフ、少し、余計なことを言いました。では、これからは、わたしが引き受けます。やくもさんは、まず親子さんを探してあげてください」

「はい」

「ま、ご近所の縁ですから、手に余ることがあったら、またお願いにあがるかもしれませんけども。それでは……」

「ありがとうございました」

「いいえ、お礼を言うのはわたしのほうです。それから、これからは『里見さん』ではなく『フセ』とか『フセちゃん』と呼んでくださると嬉しいです」

「わたしも、さん抜きの『やくも』でいいですから!」

「そう、嬉しい。それでは失礼します、やくも」

 里見……フセさんは、庭の隅から母屋の角を曲がって帰って行った。

 

 あ、カップ麺!?

 

 冷めて伸びまくっていると思ったけど、ちょうど食べごろに仕上がっていたので、美味しくいただいて寝たよ。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
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  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
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  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸 鬼の孫の手 六条の御息所 里見八犬伝 滝夜叉姫 将門 アカアオメイド アキバ子 青龍 メイド王 伏姫(里見伏)

 

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