REオフステージ (惣堀高校演劇部)
153・藤岡先生と織田信中の話を聞いてしまう 須磨
ギシ カチャ
椅子に座る音と車いすを停める音がして話が始まった。
「それで、手術はいつやのん、織田くん?」
「はい、年末には。手術後もリハビリがあるので三学期は休むことになると思います」
「そうか、出席日数は大丈夫やねんね?」
「はい、今年度は今のところ欠席ゼロですから、学年末テストも受けられそうですし、まあ、成績は下がりそうですけど」
「まあ、学年の成績は二学期まででほぼ決まりやし、留年するようなことにはなれへんのやろ」
「はい、それは無いと思います」
「そうか、それなら大丈夫やろねえ、ええと……ほんならこれが意見書。いちおう学校として病院に知っておいてもらいたいことが書いてあります」
「ありがとうございます」
「まあ、学校のアリバイみたいな書類やけど、学校と病院との連携の証しやさかい。入院の時に主治医の先生に渡して」
「ありがとうございます。なんだか内申書みたいですねえ」
「いちおう公文書やからね、無くさんようにね」
「はい」
「そうか、これで、春からは車いす無しで生活できそうやねえ……」
プルルル プルルル
「はい、保健室……あ、はい、今から伺います。ごめん、校長さんから呼び出しやから」
「はい、ありがとうございました」
カチャ ギシ……再び椅子と車いすが軋む音がして、二人は出て行った。
「いまの、織田君ですよね、近ごろ千歳と仲のええ?」
「なんだか手術して歩けるようになるみたいだねえ」
「千歳、どう思うかなあ……」
「あ、ミリーも思った?」
「え、あ、ちょっとだけ」
わたしも思っている。
千歳と織田信中が仲良くなったのは、互いの個性もあるんだろうけど、同じハンデを背負っているところが大きいと思う。
それに、二人の出会いはエレベーターの前で車いす同士が絡んで身動きが取れなくなったことがきっかけだ。織田君の担任が駆けつけるのが遅れて、三十分ほどもそのままだったらしい。
千歳自身も至近距離で放置プレーみたくなって、アタフタドキドキしたと言っていた。
まあ、一種の吊り橋効果。
「まあ、お節介にならない程度に見守ってやりますか」
「そうだね……ん、なんだか血色戻ってきたみたいだねえ」
「え、あ、アハハハ(^〇^;)」
毒リンゴで死にそうになっていた白雪姫が王子さまにキスされたみたいに元気になっていたミリーだった。
☆彡 主な登場人物とあれこれ
- 小山内啓介 演劇部部長
- 沢村千歳 車いすの一年生
- 沢村留美 千歳の姉
- ミリー 交換留学生 渡辺家に下宿
- 松井須磨 停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
- 瀬戸内美春 生徒会副会長
- ミッキー・ドナルド サンフランシスコの高校生
- シンディ― サンフランシスコの高校生
- 生徒たち セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口 織田信中 伊藤香里菜
- 先生たち 姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生) 大久保(生指部長) 藤岡(養護教諭)
- 惣堀商店街 ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)