大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・230『赤城の頼み』

2021-08-31 09:38:39 | 小説

魔法少女マヂカ・230

『赤城の頼み語り手:マヂカ  

 

 

 

 えと……えと……船霊になったのは先週の火曜日なんです。

 

 少し言いよどんでから、赤城は切り出した。

 先週の火曜日と言うと、天城の自己犠牲で赤城の延命が決まったころ……十日がたっている。

「船霊は、艦内神社が作られて、正式に勧請されるまでは身動きが取れないんです」

「その勧請は無事にすんだのかしら?」

 公爵の娘で、自分自身、いろいろ制約のある霧子が同情の声で訊ねた。

「はい、でも、原宿までやってくると、力が尽きて、駅のベンチで座っていたんです」

「ああ、貧血みたいな?」

「ええ、そんな感じです。もう少し遅ければ実体化が解けてしまうところでした。そこを通りかかって声を掛けてくださったのがクマさんで……」

「クマさんが介抱してくれたんや!」

 ノンコが早手回しに感動する。

「クマさんは、恋をしてらっしゃって……」

「「「うんうん」」」

「その情熱がすごいもので、持ってらしたケーキのクリームが溶ける寸前でした」

「そうだったんだ」

 わたしたちも、朝から、それでヤキモキしていたんだ。

 相槌が揃う。

 それにしても、ケーキのクリームを溶かしてしまうとは、クマさんも熱い女の子だ!

「このままでは、お使い先に行った時にはケーキがダメになってしまいますから、せめてクマさんのお役に立てればと、少しだけ熱を取ってあげたんです。そうしたら、その情熱のお蔭で、わたしも回復して。お使いが済んでから、こちらに案内していただくことになって、ほんとうにクマさんには感謝です」

「そうやったんや!」

「わたしのケーキも無駄にならなかったのね!」

「それで、わたしたちに御用とは?」

「あ、はい、それでした!」

 清楚系のわりには、微妙に抜けている赤城さん。

「じつは、長門おねえさんのことなんです」

「長門?」

 令和高校生のノンコはピンとこない。

「「戦艦長門ね」」

 わたしと霧子の声は揃う。

 戦艦長門と言えば、18年後に戦艦大和が完成するまでは帝国海軍最大最強の戦艦で、長く連合艦隊の旗艦を務めた、世界の戦艦ビッグセブンの一つに数えられた名鑑だ。

 竣工は大正九年だから、完成して、まだ三年の新鋭艦。人間で言えば、ちょうど霧子ぐらいで元気いっぱいのお嬢さんというところだ。

「震災が起きた時は、大連沖で演習中だったんですが、震災の報を聞いて、ただちに演習を中止して全速力で東京に戻ってきたんです」

「聞いたわ、海軍の軍艦は、続々と東京湾に戻ってきて、乗組員の皆さんが被災者の救援に当たったって」

「うん、横須賀や横浜じゃ、最初に海軍さんの救援活動が早かったって」

「長門ねえさんは、途中で英国の巡洋艦に見つかってしまったんです」

「あ……」

 

 ピンときたわたしは、とっさには声が出なかった。

 

「見つかったって、大正時代は、イギリスと戦争なんか……してへんよね?」

「長門は優秀な戦艦で、最大速力が26ノットも出るんだ、そうだよね」

「ええ、正確には26.6ノットです」

「それて、どのくらい(^_^;)?」

「時速48キロぐらいよね。電車が普通に走ってるぐらいの速さ」

「はい、英国の巡洋艦は意地悪なことに、ずっと長門おねえさんを追跡してきたんです」

「ストーカーか」

「でも、英国は同盟国でしょ? いっしょに走って、都合の悪いことが?」

 霧子でも、このへんの事情は分からないようだ。

「長門のカタログデータでは22ノットなんだよね?」

「はい、真智香さんのおっしゃる通りです。26.6ノットの最大戦速は機密です。そのために、速力を22ノットに落とさざるを得ず、到着が遅れて、助けられる命も助けられなかったと、ずっと悔いておいでなのです」

 この時代は、人も船も誠実だ。

 平成の阪神大震災では米軍が救援を申し出たが政府は断った。米軍は神戸沖に空母を派遣して、救援活動の海上基地にしようとしたが実現していない。実現していれば、何百人という人命が救われただろう。

 その蹉跌は、東日本大震災では活かされて、初期救援に大きな力を発揮した。

 しかし、その時でも米空母の船霊が悔やんだという話は聞かない。

「それで、わたしたちに、どうしろと?」

「はい、震災直後に戻って、長門おねえさんの悔いを雪いであげて欲しいのです」

「「「え?」」」

 

 さすがに息をのんだ……。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査

 

 

 

 

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ライトノベルベスト『しつこいんだよ先生・2』

2021-08-31 06:21:29 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『しつこいんだよ先生・2』    




「へー、こんなとこから出られたんだ……」

「感心してねえで、メット被って後ろに乗れ」

「うん」

 美紀は、素直にバイクの後ろに跨り、俺は背中で美紀の胸のふくらみを感じた。まだ生で見たことはないけど。

 おれはメールで学校のごみ置き場の金網の観音開きが開くことを知っていた。美紀の学校の裏サイトで発見し、グーグルのストリートビューで確認しておいた。そのことと時間だけを指定しておいたんだ。

 5分だけ待つ、それが過ぎたら今日はNGだ。と……。

 美紀の学校から直角に伸びる道に入り、すぐに右折。少しでも美紀の中抜けがばれないための用心。500メーターほど遠回りして鈴木オートに着く。おれの行きつけのバイク屋だ。元族だけど、物わかりのいい鈴木さんに声をかける。

 

「すんません。こいつ着替えさせたいんで事務所借ります」

「いいよ、散らかってるけど」

「ほれ、これに着替えてこい」

 女もののジーパンとトレーナーを渡すと、美紀がウロンな目で俺を見た。

「ばか、姉貴のだよ。洗濯はしてある」

「すみません、じゃ着替えさせてもらいます」

「着替えた制服は、ロッカーの三つめ空いてるから」

「ども」

 美紀は、ついでのように頭を下げて事務所に入った。

「で、一時には帰ってくるんだな?」

「はい。中抜けだから、バレないようにやらないと」

「まあ、あんまりこじれないように。とりあえずは話を聞いてやれ。人間てのは、しゃべれば半分がとこ心が開く」

「お見通しなんですね」

「だてに十年も族はやってねえ。亮介が、こんな無茶やるんだ。本気で切羽詰ってんのは分かるよ。エンジンのチューンも女心もデリケートに変わりはねえ……このバイク、フレームが歪んでんな」

 鈴木さんが、バイクに熱中しはじめたころ、美紀が着替え終わって事務所から出てきた」

「お、髪も変えたんだな」

 美紀はセミロングからポニーテールに変わっていた。

「途中で誰に会うか分かんないからね」

「じゃ、時間厳守な。遅れたら誘拐で警察に電話するからな」

「はいはい」

 その時スマホにメールの着信音。

――素直に寝てますか? 声色上手な亮介くん?――

「ヤベ、副担のネネちゃんだ!」

――ありがとうございます。今から医者にいくとこです――

 と、返してバイクに跨る。

 スカートからジーパンに変わると開放的になる。おれは、そこまで読んでいた。効き目は駐車場に入って一回切れた。

「えー、ここって、いけないホテルじゃないの?」

「誰にも見られずに短時間で、コミニケーショとるのは、こういうとこが一番」

「コミニケーションだけだよね?」

「世界中の神様に誓って」

 おれはコミニケーションと言った。話とは言わなかったぜ……。

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銀河太平記・063『分析』

2021-08-30 14:07:07 | 小説4

・063

『分析』 越萌メイ(コスモス  

 

 

 24世紀だというのに、日本は、いまだに現物貨幣を使っている。

 いや、通用しているという表現が正しいだろう、実生活ではハンベによる決済がほとんどで、現実に見かけることはめったにない。21世紀中葉にスマホによるデジタル決済が定着してから、現物貨幣が流通しているのは、日本の他には数えるほどしかない。

 諸外国からは、皇室の存在と並んで美しい制度だと言われることもあるけど、相撲取りのチョンマゲを賞賛していることと大差のないことだと思う。

 知識としては知っていたけど、じっさいに目にすると新鮮な驚きがある。

 高安の町には、昔ながらの……おそらく昭和の時代と変わらない駄菓子屋などの実物店舗がある。

 子どもたちは、親からもらった現物貨幣を持って買い物に来る。

 そして、お店に並んだあれこれを見回して、気に入った駄菓子やオモチャと実物貨幣とを交換する。

 ホログラムのバーチャルショップには無い、生の感触が、そこにはある。

 交換するにあたっては、ささやかな会話がある。

 

「おばちゃん、これちょうだい」

「まいど、40円やから、60円のお釣り」

「ありがとう」

「おおきに」

 

 商品と共に、言葉の交流がある。おばちゃんは、小さな子どもがお釣りをこぼさないように手を添えてやる。

 添えた手には温もりがあって、それは、子どもとて同じで、お釣りを温もりや大人の手の大きさとともに感じる。

 駄菓子屋のおばちゃんは、一家の主婦でもあるので、その手には洗濯や料理の匂いが染みついているかもしれない。

 塗りたての肌荒れクリームの匂いかもしれない。

 おばちゃんは、何年もお釣りを渡して、子どもたちの手が大きくなっていくのを実感もするだろう。

 そういう人と人、人とお金、お金とモノの関りを肌感覚で教えていく。

 この地域では、ハンベやレプリケーターは小学校の修学旅行からという子供も多いと言う。

 

 むろん、そういう傾向は日本のあちこちで生き残っているのだけど、地域ぐるみというのは、この高安ならではなのだろう。

 

「金剛山でもやっていたようね……」

 OS基地から持ち帰ったデータを照合しながら社長が呟く。

「駄菓子屋?」

「お店っていうほどのものじゃないけど、基地の中に無人のコーナー作って、無人店みたいなことをやってたみたい」

「あえてアナログを楽しんでいたんですねえ、神戸や宝塚じゃ、ほとんど見かけません」

「他にもね……ゴミ箱のデータとか」

「えと、特徴があるの?」

 工場や基地のゴミ箱には投棄されたゴミの記録が残る。

 それは常識だから、すでに特科や北大街の社長がやり終えた形跡がある。

 ゴミは、工作ゴミと生活ゴミ、そして可燃ごみや資源ごみに分類されたままにデータが残っている。

「う~ん、一般の事業所と変わりませんねえ……」

 月城さんも腕組みしてモニターを見つめるが、特に発見はないようだ。

「……これなんかね」

 いくつかのサンプルを詳細表示する社長。

「ストローの袋……お弁当の紐……」

「これが……?」

「いくつか、結んであるのがあるでしょ……」

「うん、女の人じゃないかな?」

 わたしは、そういうものはクルクルまとめてお仕舞にするけど、女性の中にはきれいに結んで捨てる者もいる。

 そう珍しいことじゃない。

「宝塚でも、行儀よく捨ててましたよ」

「ふふ、清く正しく美しくですね」

「うん、音楽学校に入学した最初に陸軍から教官が来て集団行動とかやらされるんだけどね、なにごとにも色気を付けろって言われる」

「色気?」

「なにごとも綺麗にスマートにやれってことよ」

「これ、見てごらん」

 社長が示したモニターにはキレイに畳まれたストローの袋が表示されている。

「女の子が、よくやるやつですね」

「わたしは、クシャクシャにした袋に水を掛けて遊ぶ派でしたね」

「普通は、五角形になるだろ?」

「あ、六角形だ」

「特殊な折り方ですね」

 わたしも月城さんも、丸椅子を寄せてモニターに集中する。

「次は、これ……」

「お弁当の紐をまとまとめたものね」 

 何種類かあった。

 東大阪のオッサンらしく、荷造りの紐かコードのように八の字結びにしたものや、蝶々結び、自転車の荷台ロープのようにしたもの、オーソドックスな輪結び、いろいろあるんだけど、特に特殊というほでではない。

「これを見て」

「蝶々結び…………あ、違う」

「これは総角結び(あげまきむすび)という奴だ、几帳の装飾、甲冑の総角、軸の風鎮などに使う特殊な結び方よ……それから、これ」

「ええ、なんですか、これぇ!?」

 それは、トイレ清掃の記録だ。

 男性用の小便器の洗浄記録。

「男と言うのは、混んでいなければ、使う便器は、だいたい決まってしまう」

「ああ、女子でも、使う個室は固定される傾向がありますね」

「これに、注目してほしい」

「「え?」」

 モニターのホログラム記録といっても、マジマジと便器を見るのは、ちょっと恥ずかしい。

「左奥のがね、微妙に汚れが中央に集中している」

「え?」

「あ、ああ……」

「誤差の範囲と言えばそれまでなんだけど、かなり、行儀のいい男が使っていたような感じだ」

「行儀のいい……」

「例えば、古い神社に勤めていた巫女さん……」

「巫女は男子トイレは使わないでしょ」

「じゃ、禰宜とか神主」

「ああ」

「神主が秘密基地に?」

「あるいは……皇族級の男子とかね……」

「え?」

「ハハ、年寄りの勘、もうちょっと当たって見なければ何とも言えない……」

 

 なるほど、社長(お姉ちゃん)の本性は陸軍の元帥なんだった(^_^;)。

 

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
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ライトノベルベスト『しつこいんだよ先生・1』

2021-08-30 06:25:51 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『しつこいんだよ先生・1』       

 




「貴重なご意見ありがとうございました」

 チ、陳腐な常套句で終わりにしやがって……おれはしばらく受話器を睨んでいた。

 教師が、この言葉を吐くと、もう、そこで話はおしまいだ「もう、あんたの話は十分聞いた。特に対応はしないけど記録には残しとく。はい、おしまい」という意味なんだ。

 なんで、こんなことを知ってるかというと、うちの親が二人そろって教師だからだ。

 物心ついたころから学校や教師の裏の話は腐るほど耳にした。うちの親はバカじゃないから面と向かって、そんな話はしない。しかし狭い家だから、学校や保護者からかかってきた電話やグチは筒抜け。オンとオフに切り替えた時の変貌ぶりなんか我が親ながらびっくりしたことが何度もある。

 クラスの生徒が事故で亡くなったとき、ものすごく気の毒そうな声で電話に出て、ダークスーツに着替えながら、こう言ってた。

「とりあえず顔出すだけだから、予定通り晩飯は焼肉。先に食ってもいいけど、帰りに牛タンとロースのいいとこ800ほど買ってくるわ」

「なにか少しお腹に入れていけば。今日はお昼もろくに食べてないんでしょ?」

 禁止されてる自宅での成績処理をパソコンでやりながらお袋が、車のガソリンが足りない程度の感じで言う。

「ちょっとやつれたぐらいの感じでいいんだ、親は憔悴しきってるだろうからな。飯は帰ってからしっかり食う」

「校長さんには?」

「途中で携帯でいれとくわ。どうせ教委やら新聞社からは事情聞かれてるだろうし。細かい打ち合わせは向こうでいっしょになった時に」

 おれは、その時こう言った。

「それなら、家から電話してあげたら。其のほうが早いし、詳しい話ができるじゃん」

「家からしたら長話になっちゃうだろ。こういうときは、とり急ぎ伺いましたってぐらいでいいんだ。じゃ、行ってくる」

 で、その晩、保護者の憔悴が、そのまま伝染ったみたいな顔で帰ってきたけど、リビングに入ってきたときは恵比須顔で、肉の包みを目の前でぶら下げて見せた。

 この切り替えぶりは、ストレスを溜めないためと頭では分かっていたけど、気持ちは、どこか付いていけなかった。おれの親の常套句が「貴重なご意見ありがとうございました」だった。

「言うだけ言えば、たいていの人間はスッとするんだよ」

 そう言いながら、あとはメモだけ残して涼しい顔をしている。

 ウソのつき方も教わった。人間ウソを言うまえは必ず目線が逃げる。その瞬間「正直に言えよ」と畳かける。たいていの奴は、それで恐れ入ってしまう。だからおれは逆手にとった。

「ウソを言うときは、必ず相手の目から視線を逸らさないこと」

 小学校のころから、このテクニックは役に立った。で、高校生になったおれは、完全に学校も教師もなめていた。また、なめられて当然という教師のなんと多いことか。

 たった今も、オヤジの声色で学校に電話した。

 美紀とこじれっちまって、学校に行く気を無くしてた。で、オヤジの声色で、欠席連絡を入れたところだ。

 担任が席を外していて出てきたのは、教務の石橋だ。趣味が海釣りでFBのプロフに職業を『釣り師』とか書いているふざけたやつだ。本人は教師の仕事に支障はきたしていないというけど、おれたち生徒の評価は違った。ちょっとそのことに触れたら「貴重なご意見……」になったわけ。ま、説明もメンドイ。

 おれは、これから美紀とのこじれを修復に行く。

『もめ事は早めに手を打て』

 オヤジとお袋を見て覚えた人生訓だ。

 姉貴のクローゼットから、ジーパンとトレーナーを拝借。なんのためかって? 

 それは、またあとで。

 急ぐんでね。

 じゃ!

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せやさかい・240『ネットサーフィンと朝顔の種』

2021-08-29 14:40:22 | ノベル

・240

『ネットサーフィンと朝顔の種』さくら     

 

 

 留美ちゃんも詩(ことは)ちゃんも居てへん日曜日。

 

 留美ちゃんは奨学金のことで親類の人に会いに行ってる。

 詩ちゃんは、大学の友だちに会いに行って、夕方まではうち一人や

 こういう時は、ダラダラしてしまう。

 机の前に座って、ボーっとネットばっかし。

 こういうのネットサーフィンていうのんかなあ?

 ユーチューブとかで動画ばっかし。

 最初はね、コロナ第五波がピークを過ぎたかどうか、見たかった。

 正直ね、コロナはウンザリです。

 二学期になって、それまで自粛やった部活が禁止になった。

 文芸部は、ほとんど本堂裏の部屋を使うから、闇でやれんこともないねんけど、やっぱり無理。

 お寺発のコロナは、普通の家よりも影響が大きいからね。

 

 この二日ほど感染者グラフが穏やか……というか、減り始めてる。

 まだまだ油断はでけへんやろけど、ちょっと希望が見えてきたかな……。

 中国の大連いうとこでビル火災。

 上層階やから、まあ、そこから上が燃えるんやろと思たら、なんと下の階に燃え移って、ほぼ全焼。

 小中高生の自殺が増えて、この分では史上最高になるらしい。

 うちも留美ちゃんも、その心配はない。

 うちは、お寺やいうこともあるのんか、家族は七人と一匹。

 時にはウザいと思うこともあるけど、無事に15歳の夏を過ごせてるのんは、うちを除く6人と一匹のお蔭。

 南無阿弥陀仏……ポリ。

 ポリいうのんは、おかきを齧る音。

 お寺は、お供えとかがあるさかい、お八つには事欠きません。

 

 アフガニスタンで自爆テロ。

 最初、死者の数は60人やったけど、いま見たら100人超になってる。

 怖いなあ……世界が平和であることを祈ります……ポリ。

 次の動画……え……クリックする手ぇが停まってしまう。

 

 お、お母さん!?

 

 チャドルを被ってるけど、この特徴のある、でも愛想のない目ぇは、もう一年近く帰ってこーへん、うちのお母さん?

 カブール空港の前、事件後の殺伐とした映像に写ってる。

 ほんの数秒やから、すぐに過ぎてしまう。

 プレイバック!

 え、なんで?

 今度は見つけられへん。

 微妙にアングルが違う。

 たった今、更新された?

 

 見間違い……かなあ?

 

 うちでは、お母さんの話は、ちょっとタブー。

 あたしが口にせんかぎり話題になることはあれへん……今のはなんかの見間違いや。

 

 人参とジャガイモの油少なめでできる天ぷら。

 レシピを書き写す。

 よし、これならうちでもできる。

 キッチンへ行こうと階段を下りると、お祖父ちゃんの声。

『さくら、朝顔の種とれるようになったでえ!』

「うん、いま行く!」

 

 元気に返事して境内に向かう。

 頭を切り替えられるんやったらなんでもええ。

 ガラガラ

 ガラス戸を開けると、きつい日差しに、いっしゅんホワイトアウト。

 それが戻ると、お祖父ちゃんの笑顔。

 仲良く種を回収して、夕食の話題ができました。

 

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やくもあやかし物語・96『コルトガバメント・2』

2021-08-29 09:22:29 | ライトノベルセレクト

やく物語・96

『コルトガバメント・2』   

 

 

 お婆ちゃんがお風呂にいくのを見計らって、お爺ちゃんが寄ってきた。

 

「言い忘れてたけど、ピストルの銃口は覗いちゃいけない」

「そうなの? 壊れてるし、弾も入ってないけど」

「万一ってことがある」

「う、うん」

「人に向けてもいけない」

「うん」

「向けていいのは、ちゃんと装備したサバゲーの時だけだ」

「サバゲー?」

 並んだサバをエアガンで撃ってるとこが頭に浮かんだ。

「ゴーグルとかプロテクターとか装着して、きちんとサバゲーのフィールドって決められたとこだけさ」

「うん」

「それから、セーフティーなんだけど……」

 背中に手を回すと、どこに隠していたのか自分のコルトガバメントを取り出した。

「これがセーフティー、安全装置だ」

 グリップの上の突起を示した。

「こいつを上に上げるとロックが掛かって、引き金も撃鉄も動かない。遊ばない時は、必ず上の方に上げてロックしとく。それからグリップのとこ、握ると親指の根元に当るところもセーフティーなんだ。ほら……グリップを握らないと引き金、動かないだろう」

「なるほど……」

 

 部屋に戻って、さっそく自分のガバメントを確認。

 

 カチャ カチャ

 セーフティーを動かしてみる。

 ガシッ!

 上のとこを引いてみる。

 雰囲気だよぉ(#^▽^#)……ガンダムが準備動作してるみたいな、あるいは、宇宙戦艦ヤマトが波動砲発射の直前みたいなカッコよさ。

 お爺ちゃんは、安全のために説明をしてくれたんだけど、弄ってみると、逆に高揚してくる。

 なんだか、逆に、心のセーフティーが外れて行ってしまいそう。

 人に向けてはいけないので天上の隅に銃口を向けてみる。

 

 パン!

 

 ビックリした(*_*)!

 それまで、パスパスとしか鳴らなかったのが、しっかり吠えた。

 周囲から視線を感じる。

 

 机の上のフィギュアたちや、壁のアノマロカリスたちが目を剥いてる。

「アハハハ……ごめんね(^_^;)」

 セーフティーを掛けて、机の上……フィギュアたちがギョッとする。

 仕方がないので、グリップを握ったままベッドに寝転ぶ。今夜は、このまま寝てしまおう。

 

 プルルル プルルル

 

 黒電話が鳴って、慌てて受話器を取る。

「もしもし……」

『寝てるところをすまない』

 この声は俊徳丸。

『そのコルトガバメントを持って、すぐに来てくれないか』

「え、なんで(知ってるの)?」

『詳しく言ってる暇はない、すぐに!』

「う、うん」

 ベッドの足元を見ると、もう例の自動改札が現れていた。

 改札機の向こうは、わたしをせかすように黄色い灯りが明滅している。

 机の上に目をやると、黒猫のチカコが露骨に視線を避けるけど、無視してポケットの突っ込む。

 ヒエー

 チカコの悲鳴も無視して、イコカを改札機にあてるわたしだった。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきて三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 教頭先生
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石 光ファイバーのお化け 土の道のお化け 満開梅 春一番お化け 二丁目断層 親子(チカコ) 俊徳丸

 

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ライトノベルベスト『UZA』

2021-08-29 06:41:53 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『UZA』      




 UZA……って言われしまった。

「ウザイの……サブのそういうとこが」

 正確には、そう言った。

 でも、感じとしてはUZAだった。

 去り際に、もうヒトコト言おうとして息吸ったら、まるで、それを見抜いたように沙耶は、げんなり左向きに振り返って、そう言った。

 UZA……ぼくの心は、カビキラーをかけられたカビのようだった。

 最初にバシャッってかけられて、ショック。そして、ジワーっと心の奥まで染みこんでいく、浸透力のある言葉。そして、ぼくの心に残っていた沙耶への愛情は「痛い」というカタチのまま石化してしまった。

 自分で言うのもなんだけど、ぼくは人なつっこい。だから、元カノの沙耶が「ノート貸して」と言ってくれば「いいよ」とお気楽に貸しにいく。

 浩一なんかは、こういう。

「そういうとこが無節操てか、ケジメねーんだよ」

 で、ヘコンダまま駅のホームに立っている。

 ヘコンだ理由は、もう一つ、ウジウジ考えながら駅に向かったら、ホームに駆け上がった直後に電車が出てしまった。

「アチャー……」

 オッサンみたいな声をあげて、ノッソリとベンチに座り込む。

 向かいのホームの待合室に、その姿が映る。

 まるで、ヘコンで曲がったお茶の空き缶のようだ。

 我ながら嫌になって、時刻表を見る。見なくても登下校のダイヤぐらいは覚えてるんだけど、諦めがわるく見てしまう

 ひょっとして、ぼくの記憶が間違っていて、次の快速は二十五分後ではないことを期待しながら……こういうところの記憶は正しく、自分の念の押し方がいじましく思われる。

 ゴーーーーーーー

 未練たらしく、去りゆく快速のお尻を見たら、ホームの端に、もう一本お茶の空き缶が立っていた。

 でも、この空き缶は、ヘコミも曲がりもせずに、ぼくに軽く手を振った。

「田島くんよね?」

 空き缶が近寄って口をきいた。

「あ……碧(みどり)……さん」

「嬉し、覚えててくれたんや」

 この空き缶は、今日転校してきた、ナントカ碧だ。ぼくは、朝から沙耶のことばかり考えていて、朝のショートの時、担任が紹介したのも、この子の関西弁の自己紹介もほとんど聞いていない。ただ、すぐにクラスのみんなに馴染んで「ミドリちゃん」と呼ばれていたのと、碧って字が珍しくて記憶に残っている。

「L高の子らが『おーいお茶』て言うたんやけど、なんの意味?」

「あ、この制服」

「え……?」

「色が、そのお茶のボトルとか缶の色といっしょだろ」

「あ、ああ……あたしは、シックでええと思うけどなあ。ちょっと立ってみて」

 碧は遠慮無く、ぼくを立たせると、ホームの姿見に二人の姿を映した。

「うん、デザイン的にも男女のバランスええし、イケテルと思うよ」

 そう言うと、碧は遠慮無く、ぼくのベンチの真横に座った。

 そのとき碧のセミロングがフワっとして、ラベンダーの香りがした。

 そして何より近い。

 普通、転校したてだと、座るにしても、一人分ぐらいの距離を空けるだろう。

 ぼくは不覚にもドギマギしてしまった。人なつっこいぼくだけど。ほとんど初対面の人間への距離の取り方では無いと思った。

「田島くんは快速?」

「うん、たいてい今のか、もう一本前の快速……ってか、ぼくの名前覚えてくれてたんだ」

「フフ、渡り廊下に居てても聞こえてきたから」

「え……それって?」

「人からノート借りといて、UZAはないよねえ」

「聞いてたのか……」

「聞こえてきたの。二人とも声大きいし、あのトドメの一言はあかんなあ」

「ああ……UZAはないよなあ」

「ちゃうよ。UZAて言われて、呼び止めたらあかんわ」

「え、オレ呼び止めた?」

「うん、『沙耶あ!』て……覚えてへんのん?」

 ぼくは、ほんの二十分前のことを思い出した。で、碧が言ったことは、思い出さなかった。

 ホームの上を「アホー」と鳴きながら、カラスが一羽飛んでいく。

「あれえ、覚えてへんのん!?」

「うん……」

 ばつの悪い間が空いた。

 ぼくはお気楽なつもりでいたんだけど、実際は、みっともないほど未練たらしさのようだった。

 ゴオオオオオオオオオオオオオオオ!

 その時、特急が凄い轟音とともに駅を通過していった。

 おかげでぼくのため息は、碧にも気づかれずにすんだようだ。

「その、みっともないため息のつきかた、ちょっとも変わってへんなあ……」

 そう言うと、碧は、カバンから手紙のようなものを取りだして、ゴミ箱のところにいくと、ビリビリに破って捨てた。ぼくの、ばつの悪さを見ない心遣いのようにも、何かに怒っているようにも見えた。その姿が、なんか懐かしい。

「あたしのこと、思い出さない?」

 碧は、ゴミ箱のところで、東京弁でそう言った。

「あ……」

 バグった頭が再起動した。

「みどりちゃん……吉田さんちのみどりちゃん?」

「やっと思い出した、ちょっと遅いけど。やっぱ、手紙じゃなく、直に思い出してくれんのが一番だよね」

 小さかったから、字までは覚えていなかった。みどりは碧と書いたんだ。小学校にあがる寸前に関西の方に引っ越していった、吉田みどりだった。

「今は、苗字変わってしまったから。わからなくても、仕方ないっちゃ仕方ないけど。あたしは、一目見て分かったよ、サブちゃん。改めて言っとくね。あたし羽座碧」

「ウザ……?」

「うん、結婚して、苗字変わっちゃたから」

「け、結婚!」

「ばか、お母さんよ。三回目だけどね」

――二番線、間もなくY行きの準急がまいります。白線の後ろまで下がっておまちください――

 向かいのホームのアナウンスが聞こえた。

「じゃ、あたし行くね、向こうの準急だから。それから『沙耶!』って叫んではなかったよ。ただ顔は、そういう顔してたけどね……ほな、さいなら!」
 
 そう言うと、碧は、走って跨道橋を渡って、向かいのホームに急いだ。同時に準急が入ってきて、すぐに発車した。前から三両目の窓で碧が小さく手を振っているのが見えた。

 ぼくのUZAに、新しいニュアンスが加わった……。

 

 

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鳴かぬなら 信長転生記 27『ぼくは神さまじゃない』

2021-08-28 15:48:44 | ノベル2

ら 信長転生記

27『ぼくは神さまじゃない』  

 

 

 ちがうちがう!

 

 手のひらがプロペラなら、そのまま後ろに飛んで行ってしまいそうなくらいに振って否定した。

 人に、こういう拒絶をされると、たいていはブチギレる。

 しかし、忠八くんのそれには悪意が無い。無いからブチギレない。

 

「ぼくは神さまなんかじゃないよ」

「でも、敦子が言ってた」

「敦子さんて?」

「ああ、熱田神宮の神さま。古い付き合いだから敦子、普段はあっちゃんて呼んでる」

「そうなんだ、でも、ぼくは神さまじゃないから(^_^;)」

「そうなの?」

「ぼくはね、神社を作っただけで、神さまになったわけじゃない」

「どういうこと?」

「ぼくはね、エンジンを付けた飛行機を飛ばしたわけじゃないけど、飛行機が飛ぶ原理を発見してグライダーみたいなのを作ったんだ。それは、とても小さなことだったけど、ぼくの飛行機の原理に発奮して、いろんな人が努力して、短期間で飛行機を発展させたんだ……ほら」

 忠八くんが広げたのはズックのカバンから取り出した、補修の跡が目立つ図録だ。

「これが、ぼくの飛行器だよ」

「あ、なんか懐かしい……」

 オモチャみたいなもので、飛行機ではなくて飛行器。

 からす型と玉虫型がある。

 骨ばっかりが目立って、素人目にもカッコよくは無いけど、その分確実に飛びそうな頼もしさがある。

「懐かしい?」

「うん、兄きの守役やってた平手のジイというのがいたんだけどね、胴長短足、カッコよくはないんだけど、戦の時のかっこうが、これに似てる」

「お侍の戦装束が?」

「うん、幌武者って言ってね、大きな幌を背負ってるんだよ。竹籠みたいな芯の上に色とりどりの幌が掛けてあって、走ると裾の方は風になびいて、本来はカッコいい。だけど、平手のジイなんかがやると、主も馬も短足で、幌が上下にユサユサって、それに長槍なんか構えてるもんだから、なんかおかしくって、兄きがね『まるで血を吸い過ぎて飛べなくなった蚊のようだ』って笑ってた」

「アハハ、想像しただけで可笑しい」

「でしょでしょ」

「あ、でも、ぼくのはちゃんと飛んだから」

「ああ、ごめん。平手のジイも、戦場での働きはピカイチだったわよ」

「そうなんだ、ちゃんと機能するものって、そういうものなんだよ、うん」

「こっちのは?」

「ああ、フライヤー1号。エンジンを付けて飛ぶはずだったんだけどね、ライト兄弟が先にやっちゃって、飛ばすことができなかった」

「そうなんだ……こっちは?」

 ページはまだまだ続いている。

「それは、ぼくの後輩たちが作った飛行機だよ、機械の機が付く方の飛行機」

「ゼロ戦とかYS11とか……いろいろあるんだね」

「うん、みんな凄い人たちだよ」

「みんな忠八くんのお弟子さん?」

「ちがうちがう!」

 また手をブンブン振って否定する。

「みんな、自分で勉強して日本の飛行機を世界に通用するものにしていったんだ。それが嬉しくってね、こうやって図録にさせてもらってるんだ」

「あの……」

「え?」

「願いが叶ったっていうのは?」

 紙飛行機を飛ばすポーズをして話題を向ける。

「うん、飛行機には事故がつきものだからね。飛行機が普通に飛べるようになるまでには……飛んでからも。いっぱい人が亡くなって、それで……神社を作ろうって、視界没をやった時に……」

「閃いたんだ!」

「え、あ、まあ、そうだね(^_^;)」

 今度はチガウチガウをやりかけた手を引っ込めて頭を掻いた。

「だからね、ぼくは神社を作ったんであって、神さまになったわけじゃないんだ」

「そう? わたしには、もう神さまって名乗っていいような気がするけど」

「と、とんでもない」

 今度は手を振る(^_^;)、照れるから言わないけど、可愛いよ。

「だからね、織田さんだって、視界没やったら、きっと願いが叶うよ」

「うん、ありがとう、師匠!」

「し、師匠!?」

「うん、忠八くんは紙飛行機の師匠だ!」

「やめてよ、照れるから(^_^;)」

「ハハ、ね、もっかい飛ばそう!」

「うん、今度は滞空時間を伸ばすようにがんばってみよう」

 

 さあ飛ばすぞ!

 振り仰いだ空は、もう茜に染まっていた、紙飛行機修業の二日目だった。

 

☆ 主な登場人物

  •  織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生
  •  熱田敦子(熱田大神)  信長担当の尾張の神さま
  •  織田 市        信長の妹(兄を嫌っているので従姉妹の設定になる)
  •  平手 美姫       信長のクラス担任
  •  武田 信玄       同級生
  •  上杉 謙信       同級生
  •  古田 織部       茶華道部の眼鏡っこ
  •  パヴリィチェンコ    転生学園の狙撃手
  •  二宮忠八        紙飛行機の神さま
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誤訳怪訳日本の神話・57『ワタツミの神の宮』

2021-08-28 09:07:56 | 評論

訳日本の神話・57
『ワタツミの神の宮』  

 

 

  勝間の小船に乗って海底に向かったヤマサチは、やがてワタツミの神の宮にたどりつきます。

 

 シホツチに言われた通り、井戸の傍の桂の木の陰に隠れていますと、神の宮の侍女が発見し、トヨタマヒメに報告します。

「姫さま、姫さま!」

「なんです、騒々しい、埃がたつでしょ」

「海の底だから埃はたちません」

「水が濁ります!」

「すみません、実は……」

「え、そんなにいい男なら、すぐに食べ……いえ、お迎えしなければ!」

 

 桂の木の下まで出向くと、次女の報告よりも、自分の想像よりも清げで立派な若者です。

 こいつを逃す手はありません。

 

「まあ、なんと清げで凛々しい殿方でありましょう! お父様に紹介します、直に下りてきてくださいませ!」

「は、はあ(めっちゃきれいな女の人だなあ)」

 トヨタマヒメに連れられて宮殿の奥に行くと、三国志の劉備と曹操と孫権を足したような立派な王様が居ました。

 日本版ポセイドンのワタツミの神であります。

 

 ちょっとした矛盾があります。

 

 ワタツミの神はオオワタツミの神(大綿津見神・大海神)とも言いまして、イザナギ・イザナミの間に生まれた神では海を支配するように命ぜられます。後にスサノオが生まれた時に、イザナギは「スサノオ、おまえは海を支配しなさい」と命じています。

 海の神さまはどっちだ?

 子どものころに古事記を読んで、ちょっと混乱して投げ出したことがあります。

 日本人と言うのは、大ざっぱに言って、ツングース系(朝鮮半島、満州、シベリア)の北方民族、台湾・フィリピンから南西諸島に渡って来た南方の民族、大陸から渡ってきた中国南部などから渡ってきた人たちの混血だと言われています。

 それぞれの民族は、それぞれの神話を伝承していて、縄文・弥生と時代を経るうちに、神話が融合してできあがったのが記紀神話ではないかと思います。

 だから、まあ、ゴッチャになってしまったんでしょうね。

 ちなみにワタツミの神は、生まれた時の描写で途切れてしまって、この下りまで出てきません。

 

 それはさておき、ワタツミの神は、ヤマサチが貴人であることを見抜きます。

「これは、高天原系の偉い神さまではないか! どうか、このワタツミの神の宮に留まっておくつろぎのほどを。これ、皆の者、おもてなしをせぬか! トヨタマヒメ、しっかり励むのだぞ!」

「は、励むだなんて、お父様(n*´ω`*n)!」

 こうやって、ヤマサチは釣り針の事も忘れて、ワタツミの神の宮で何日も過ごします。

 

 勝間の小船とワタツミの神を除くと、デテールは『浦島太郎』とソックリです。いわゆるおとぎ話にも神話の影響が残っている証拠なんでしょうねえ。

 というか、神話とおとぎ話の境目と言うのは、そんなにハッキリしていないように思います。

 ようは、古事記・日本書紀に載っているかどうかの違いだけではないでしょうか。

 記紀神話の成立過程で取捨選択されたり、変形された話がいくつもあるのではと思ったりします。

 おとぎ話という括りでも構わないと思います。

 ちなみに、幼稚園の頃『因幡の白うさぎ』は『ぶんぶく茶釜』や『カチカチ山』と同じ並びの紙芝居で教わりました。

 

 さて、次回は、ヤマサチが釣り針のことを思いだすところから続けたいと思います(^_^;)。

 

  

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ライトノベルベスト・海岸通り バイト先まで④

2021-08-28 06:21:07 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『海岸通り バイト先まで・4』  

 

 

 

「あなた、風邪ひくわよ」

 

 四十何年前の悩みの種が声がして、ぼくは目が覚めた。

 エアコンの冷風が、まともに薄くなりはじめた頭頂部の髪をなぶっていく。

 パソコンがスリープになっていたので、マウスをクリックした。

 画面には、四十何年前、一夏バイトに行っていた町の小さな神社が再建されたニュースが出ていた。

 神社は、四十何年前、タンクローリーの事故の巻き添えで焼けてしまった。木花之佐久夜毘売(コノハナノサクヤヒメ)が御祭神で、浅間神社の末社であった。

 

「……これを観ているいるうちに眠ってしまったんだ」

「はい、コーヒー。目を覚まして台本読まなくっちゃね」

「台詞は、もう入ってるよ。端役だからね」

「その言葉、痛いわね」

「え……どうして?」

「だって、わたしのことが無ければ、あなた、高卒で、もっと早くデビューできたでしょ」

「よせよ、そんなカビの生えた話。いつデビューしていても、ぼくは、こういう役者だったよ。今の仕事も、ぼくは満足している」

 その時、パソコンにメール着信のシグナル。

 

―― おひさしぶり 窓の外を見て。 From その子 ――

 急いで窓の外を見た。大手スーパーの駐車場の上半分が見える。

「……あ」

 思わず声が出た。

 あのビーチパラソルの上半分とピョンピョン跳ねながら振られている手の先が見える。

 ベランダに出てみた。駐車場の全貌が見えるはずだ。

 

 予想はしていたが、その子の姿もビーチパラソルも見つけることはできなかった。

 

 

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せやさかい・239『進路希望調査票をもらって……』

2021-08-27 15:45:15 | ノベル

・239

『進路希望調査票をもらって……』さくら     

 

 

 進路希望調査票をもらった。

 

 もう、そんな季節なんや……というのが感想。

 ついこないだ、ダブダブの制服着て入学したばっかしやのに、もう卒業後の進路の準備。

 そんなことをしみじみ思ってると、前に座ってる男子が立ち上がる。

 立ち上がることに不思議はない。終礼も終わったし、掃除当番でもないし、家に帰るだけやからね。

 ちょっと感慨深かったんは、その男子のズボン、お尻のとこが光ってたから。

 べつに、蛍の化身やない。

 三年も履いてるズボンやさかい、お尻がテカってる。

 カバン持って歩き出したズボンのすそも、くるぶしが見えかけ。

 スカートと違て、ズボンは背が伸びたら、すぐに目立つ。

「酒井、○○のこと好きなんかあ~」

 瀬田がからんできよる。

 瀬田いうのんは、一年からクラスがいっしょのアホ。

 掃除さぼったんを注意したころから距離が近こなってしもた。チョッカイだすことでしか人と関われへん不幸な奴。

「ちゃうわ」

「せやかて、○○のことじっと見てたやんけ」

「瀬田、ちょっとケツ見してみ」

「なんや、おまえ、男のケツに興味あんのかあ(꒪∆꒪;)?」

「ええから、見せろ」

「しゃあないなあ、ちょっとだけやぞ~」

「突き出さんでもええ」

 振り向いた瀬田のオケツは光ってなかった。光ってへんけど、ズボンの裾はやっぱし短い。

「じぶん、ズボン買い換えた?」

「え、ああ、二年の二学期かなあ、背え伸びたから買い換えた」

「それで、テカってないんやなあ……それでも丈はツンツルテン、じぶん、成人式ごろは進撃の巨人ぐらいいくんちゃうかあ」

「オレはバケモンちゃうぞ」

「セイ」

「ヒャウ! なにすんねん!?」

「いっちょまえに、腹筋カチカチやあ……瀬田も男になったんやなあ」

「お、おう。せやけど、勝手に触んな(#^△^#)」

「なんやったら、あたしのん触ってみる~」

「え?」

「あ、なんで胸見てんねん!?」

「見てへんわ(;'∀')!」

「いやあ、瀬田君も男になったんやねえ(ー_ー)!!」

 

「瀬田君、酒井さん、掃除当番でしょ、さっさとやんなさい!」

 

 気いついたらペコちゃんセンセが怖い顔して立ってるやおまへんか。

 掃除当番仲間はクスクス笑って、留美ちゃんは黙々と箒を動かしておりました。

 えと、なんやったけ?

 せや、進路希望! で、掃除当番やったんや!

 言われへんかったら、そのまま帰ってるとこやった。

 進路希望は……また考えます。

 

 帰り道、留美ちゃんに言われた。

「瀬田君とジャレてなかったら、掃除当番忘れて帰るとこやったでしょ?」

 えと……はい、その通りです(^_^;)。

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魔法少女マヂカ・229『クマさんとケーキのお使い』

2021-08-27 09:29:35 | 小説

魔法少女マヂカ・229

『クマさんとケーキのお使い語り手:マヂカ   

 

 

 クマさんがお使いに出るのを見守っているだけの箕作巡査。

 

「ああ、じれったい!」

 二階の窓から偵察していた霧子は、歯ぎしりする。

「仕方ないじゃない」

 後ろから霧子を慰めるんだけど、良心的お節介焼きの霧子は収まらない。

「ええアイデアや思たんやけどね……」

 ノンコは、さっさと諦めてケーキにパクつく。

「普通さ、好きな女の子が重い荷物持ってたら手伝うでしょ!」

「あれが、箕作巡査のいいとこでもあるのよ」

「はああ……」

 ため息ついてカウチにへたり込んだ霧子は、上出来のケーキに手を付けようともしない。

「食べへんねやったら、あたし食べるよ」

「どうぞ」

「ほんなら遠慮なく(^▽^)/」

 

 霧子は、あれ以来進展しない箕作巡査とクマさんの関係を進めてやろうと、気をもんでいるのだ。

 

 朝からキッチンに籠って、あたしたちにも手伝わせて、スゴイ量のケーキを作った。

 家の者や使用人のお八つという名目なんだけど、それにしても多い。

「そんなに美味しいんだったら、倉西子爵さんのところにも差し上げよう!」

 と、言い出した。

 倉西子爵というのは、この原宿に屋敷を構える華族で、日ごろから付き合いがある。

 その倉西子爵へのお使いをクマさんに頼んだのだ。

 近所なので、むろん歩いて行ける距離。

 用件を済ませても十分もあれば帰って来れる。

 ケーキは崩れてはいけないので、丈夫な紙箱四つに分けてある。重さは知れているんだけども、一人で持つにはかさ高い。

 そこが狙いだ。

 小柄なクマさんが両手にケーキの箱をぶら下げて表門から出ようとすると、思った通りに箕作巡査が声を掛ける。

「大荷物だね」

「ええ、でも、そこの倉西子爵さまのお屋敷までですから」

「そうか……」

「…………」

「手伝ってあげられればいいんだけど、自分は、ここを離れられないから……申し訳ない!」

「いえいえ、箕作さんは、それがお仕事ですから(^_^;)」

「はい、そうであります(#'∀'#)」

「それでは、行ってまいります」

「お、お気を付けて!」

 箕作巡査は気を付けの姿勢のまま、クマさんが角を曲がるまで見送った。

 そして、霧子が歯ぎしりをしているというわけ。

 まあ、この二人は暖かく見守ってあげるしかない。

 

 しばらくすると、クマさんが帰って来るの見えた。

 

「あれ、女学生といっしょやで?」

 ケーキを手に持ったままノンコが窓辺に寄る。

「え、学校の人?」

 女学生というと、霧子や我々の守備範囲、三人窓辺に顔を付きあわす。

「制服が違う」

 学習院は白線三本に黒のリボンだけど、その子は赤線三本に赤のネクタイだ。

 しばらく三人で話し、箕作巡査とクマさんが優しく頷いて、クマさんが、我々のいる母屋に向かってきた。

 

「真智香さま、赤城さんという女学生さんが来られてます。なにかとても大事なお話がおありのようで……」

 用件を伝えに来たクマさんは軽く上気している。

 箕作巡査と話せたせいか、女学生のことでなのかは分からない。

 分からないけど、ケーキが、二人にコミニケーションのきっかけにはなったようなので、霧子も機嫌を直す。

 

 第二応接室に通された赤城さん。

 

 会ってビックリした。先日の天城にソックリ。

 わずか三日ほどしかたっていないけど、赤城には船霊が宿ったようだ。

「お初にお目にかかります。天城の妹の赤城です……」

 優しい笑顔なんだけど、天城の時とはまた違う緊張が走っている。

「どうぞ、お掛けになって、お話を伺います」

「はい、ありがとうございます」

 姿勢よく腰かけた赤城の目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。

 

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男
  • 箕作健人       請願巡査
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ライトノベルベスト『海岸通り バイト先まで3』

2021-08-27 06:18:32 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『海岸通り バイト先まで・3』  

 

 

 

 図星だった。

 ぼくは半年先に迫った進路のことで、親とも先生とも対立して、この海辺の町にやってきた。

 夏休みに入ってからのバイトだったので、民宿なんかの口は、あらかた詰まってしまい、滞在費でバイト代が半分近くとんでしまうことも構わずに、このバイトに決めた。

「大学……いくの?」

「あ、まだ未定」

「だめだなあ、進学するんだったら、夏が勝負でしょ。夏休みを制する者は受験を制す! だよ」

「行く気になれば、二期校ぐらいは狙える」

「へえ、国公立じゃん。頭いいんだ」

「ぼくぐらいのやつは、いっぱいいるよ」

「……じゃ、他にしたいことが、なにかあるんだ」

「まあ……それは」
 

 間が持たず、半ば無意識に水筒の水を飲んだ……すると。

 

「わたしにも、ちょうだい」

 そう言って、返事もろくに聞かなずに水筒をふんだくり、女の子とは思えない豪快さで飲み始めた。

「あ……」

「この水、神野郷の龍神さまの湧き水ね」

「分かるの、そんなことが」

「だって、地元だもん。あ、間接キスしちゃったね(^_^;)」

「そ、そうだね」

「はは、わたし、ちょっと泳ぐね。お水、ごちそうさま」

 そう言うと、彼女は、目の前でギンガムチェックのシャツと、ショ-トパンツを脱いだ。

「あ、あの」

「つまんない水着でしょ。白のワンピースなんて」

 その子は、腰に手を当て、惜しげもなく、金太郎のようなポーズで全身をさらした。

「ここって、遊泳禁止なんじゃ……」

「ははは、わたしは、いいの!」

 そう言葉を残すと、その子は、勢いよく砂浜を駆けて海に飛び込んだ。

 

 ドップーーン!!

 あっけにとられた。その子が駆けたあとには、やっぱり足跡がない。それに、海の町の子にしては、肌が抜けるように白い……惚れ惚れするような泳ぎっぷりに見とれていると、急に深みに潜り込んだ。

 三十秒……五十秒……一分を過ぎても、その子は海面に現れなかった。

「お、おーい、大丈夫か!?」

 ぼくは、波打ち際に膝まで漬かって、その子を呼んだ。

 これはただ事じゃない。そう思って潜ろうと思ったその時、後ろで笑い声がした。

「あはは、こっち、こっち!」

 その子は、ビーチパラソルの下で手を振っていた。

「いったい、どうやったの?」

「簡単よ……」

 その子は、タオルで髪を拭きながら、続けた。

「東の方に潜ったと見せかけて、水の中で反対の西側に行くの。で、あなたが心配顔して岸辺に来たころを見計らって、死角になった方から、岸に上がって、ここに戻っただけ」

「すごいんだね、きみって」

「だって、地元だもん」

「でもさ……」

「あなたって、進学以外にやりたいことがあるんじゃないの?」

「あ、ああ……」
 

 ……気が付いたら、喋っていた。

 

 ぼくは、役者になりたかった。

 高校に入ってから、ずっと演劇部。季節の休みごとにバイトに精を出し、軍資金を稼ぎ、労演を始め、赤テント、黒テントなどを見まくっていた。

 でも言い訳のように進学の準備も並行してやっていた。

 そして、三年生の、この春になって悩み出した。役者になりたくなったのだ。

「たいがいにしとけよ」

 言わずもがな、親は見通していた。でも親を口説くことはできると思っていた。いざとなったら、家を出てもいい。

「でも、まだ他にも問題があるのよね」

 その子は、いつの間にか、元の服装に戻っていた。髪も乾いて、風がそよいでいた。

「あ、バイトに遅れる」

「大丈夫、まだ、ほんの五分ほどしかたっていないわ」

「え……」

 このあと……その子が、ぼくの心を読んだように話を先回りした。不思議だけど先回りされていることを不思議には思わず、悩みの種を全て喋ってしまった。

「そうなんだ……ありがとう。二郎君のおかげで力がついたわ。わたしも踏ん切りがついた」

「ぼくも、すっきり……」

 つられて顔を上げるとモロに太陽が視界に入って目をつぶる。

 え?

 次に目を開けると、その子の姿も、ビーチパラソルも無くなっていた。

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銀河太平記・062『天狗党金剛基地跡』

2021-08-26 11:59:51 | 小説4

・062

『天狗党金剛基地跡』 越萌メイ(コスモス   

 

 

 ここじゃまずいなあ。

 

 破れたジーパンを繕わなければならないけど、山頂はまずい。

 遠足登山の小学生たちはじめ、登山客が数百人は居る。中には男の人のグループもあって、お姉ちゃんがジーパンを脱いで繕うのははばかられる。

 小学生の何人かが社長の災難に気づいて、ウフフと笑ったり、気の毒そうにしていたり。

「下の方でやろう……」

 そう言って、お尻を押えたまま柵の下を顎でしゃくる。

「ええ、そうですね(^_^;)」

 月城さんが後ろを庇って、柵の切れ目から下に下りる。山頂の人たちからは災難に追われた緊急避難に見えるだろう。

「ちょっと待ってね」

 藪の陰に入ると、潔くジーパンを脱ぐ社長。

 形のいい脚とお尻が露わになる。

「ふふ、自分と比べたでしょ?」

「さっさと履き替えて」

 社長のソウルは児玉元帥だけど、ボディは技研の敷島教授が作ったダンサーロボットのJQだ。古今東西の美女のデータを読み込んで作られているので、マーク船長の趣味で調整されたわたしのボディーよりもできがいい。

「お二人とも素敵ですよ」

 月城さんが間をとる。

 そう言えば、月城さんは人間のボディーなんだろうか?

「さ、行こうか」

 ジーパンを履き替えると、すぐに行動を起こす。

 今まで居た薮の切れ目には三人のホログラムをかましてある。数十分なら災難ついでに下の景色を堪能している三人連れに見えるだろう。

「こっちです」

 月城さんが指差したのは車一台分ほどの苔むした岩だ。

 ピ

 ハンベをかざすと数秒でロックが解除され、岩に人一人が通れる口が開く。

 

 ブーーーン

 

 聞き慣れない動力音がして岩室が息づく。

「ジェネレーターから特別制なのね」

 社長が感心する。

「はい、東大阪の工業力です」

「なるほど……」

 そのあとは、無口のまま岩室の奥に進む。

 進むにしたがって明かりがついていき、岩室は下り坂になったトンネル構造だと分かる。

「ここが天狗党の金剛基地だったのね」

「正確には、東大阪OS基地です」

「乗っ取られたんですよね……」

 

 そう、ここは満漢戦争のころ、東大阪のオッサンたちが立ち上げたパルス船の研究開発施設なのだ。

 OS基地のOSはOperating Systemの略ではない、オッサンのイニシャルなのだ。

 ごく初期は、24世紀に相応しい小型パルス船を開発しようという取り組みだった。

 オッサンたちは、平成・令和の昔に名を轟かせた日本の軽トラック的宇宙船を目指した。

 巨大なパルス船は大阪の中小企業では持て余す。そこで、ドアツードアをコンセプトに小型軽量、かつ高速のパルス船を作ることにした。

「試作船のハンガーですね……」

 二十メートルほど進むと、やや広いところに出てきて、そのスペースには五つの簡易ブースになっているのが分かる。

「宝石箱の区切を連想させますね」

 そう呟くと、月城さんがクスリと笑う。

「わたしは菓子箱の区切りを連想しました」

「社長は?」

「言ってもいいけど、ご飯が不味くなるわよ」

 そうだ、お姉ちゃんの正体は修羅場を潜り抜けてきた軍人だった(^_^;)

 

 月城さんも理解して、三人大人しく進む。

 

 ブースの床と天井にはフックが付けられていて、建造中の船を固定して作業していた様子が窺われる。

「完成していたら、個人所有の惑星間パルス船ができたでしょうね……」

「天狗の奴らが潰してしまったんだな」

「こちらが、ロボットブースのようです」

 月城さんが指差したのは、ブースをぶち抜いて大きな作業空間にしたスペースだ。

 一つの作業スペースが四つにされて、それぞれ作業台が置かれている。

 船に変わってロボットを作った様子が窺える。

「船の小型化は、量子CPの小型化や駆動・運動機構の小型化に結びつきます。それがロボットや、諸々の兵器開発やその小型化に結び付いて、やがて、それに目を付けた天狗党に乗っ取られる結果になったんだと思います」

「CPは撤去されています……」

 施設中央の、そこだけ若い床を指さす月城さん。

「各種機器はそのままのようだから、機器のデータを集めれば、なにか分かるかもしれない……ほら、これとか……」

 お姉ちゃんが触れたインタフェイスには3Dコピーの記録が出てきた。

「何を作ったか、解析すれば見えてくるものもある」

「レプリケーターからは、食品の嗜好が分かるし、通信端末にからは送受信の残滓、重量計からは荷重物の凡その記録、エアクリーナーやトイレからはサニタリーの記録、ダストやゴミ箱からは、ここに居た人間の残滓が見つかるかもしれないわ」

「北大街で遠足登山を企画しましょう」

「十人で五六回も通えば、かなりの情報が取れるでしょうね……取りあえず、レプリケーターとゴミ箱の記録を取っていこうか」

 十分ほどでデータを取ると、柵下の薮に戻り、ホログラムと入れ替わって頂上に戻る。

 小学生たちは、お弁当を食べ終わったところらしく、後片付けをしている。

 数人の女の子が、お姉ちゃんのジーパンが直っているのに気が付いて、ニッコリしてくれる。

 あとは、あちこち写真を撮って、商売のネタを集めて帰った。

 表稼業のシマイルカンパニーも軌道に載る予感。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信

 

 

 

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ライトノベルベスト『海岸通り バイト先まで・2』

2021-08-26 06:40:42 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『海岸通り バイト先まで・2』  

 

 

 

 しかし歩くことはないだろう――ぼくの中の横着さがグチを言う。

 

 ぼくは、一時間先のバスを待つよりも、五十分かけて、海岸通りをバイト先まで、歩くことに決めた。

 Tシャツに短パン。帽子は、民宿のおばさんの勧めで、ジャイアンツのキャップを止めて麦わら帽に替えた。大きめの水筒ごと氷らせた裏山の湧き水を肩から斜めにかけて、首にはタオルを巻いた。

 歩くと決めて、民宿のおばちゃんが、あっと言う間に、このナリにしてくれたのだ。

 民宿の寒暖計は、二十九度を指していたので、少し大げさかと思ったが、十分も歩くと、おばちゃんの正しさが分かった。

 民宿から続く切り通しを抜けると、見はるかす限り、右側は海。まともに真夏の太陽にさらされる。ぼくは海沿いの「海の家」のバイトと高をくくっていた。アスファルトの道は、もう四十度はあるだろう。

 通る車でもあれば乗せてもらおうかと思ったが、事故のせいか駅とは反対方向の、この道を走る車は無かった。

 砂浜でもあれば、波打ち際に足を晒して涼みながら歩くこともできるんだろうけど、切り通しを過ぎてからは、道は緩やかな登りになっていて、ガードレールの向こうは崖になって落ち込んでいる。

 水筒の氷が半分溶けてしまった。

 溶けた分は、ぼくの口に入り、すぐに汗になってしまう。

 しばらく行くと、ようやく道が下りになり、右手に砂浜が見えだした。

「足を漬けるぐらいならぐらいならいいよな……」

 そう独り言を言って、ボクは「遊泳禁止」の立て札を無視して、砂浜に降りた。

 

 岸辺の波打ち際、海水に脚を絡ませた瞬間、頭がクラっとした。

 

 ぼくは快感の一種だと思った。実際、海の水は、心地よくぼくの熱を冷ましてくれる。

 数メートル波打ち際を歩いて気づいた。波打ち際から四五メートル行くと、海の色はクロっぽくストンと落ち込んでいるのだ。

 なるほど、こんなところを遊泳場にしたら、日に何人も溺れてしまうだろう。

 

 しばらく行くと、遠目にイチゴのようなものが見えてきた。

 

 近づくと、赤と白のギンガムチェックのビーチパラソルだということが分かった。

 ちょっと傾げたビーチパラソルの下にはだれもいない。砂浜には自分が歩いてきた足跡しかついていなかった。

「ちょっとシュールだな」

 そう独り言を言って、パラソルの下……というより、パラソルが作り出している「木陰」の中に収まってみた。

 さやさやと、体から暑気が抜けていく。ほんのしばらくのつもりで、ぼくは憩う。
 
 気づくと、形の良い脚が目に入った。

「気持ちよさそうね」

 目を上げると、白のショートパンツに、赤いギンガムチェックの半袖のボタンを留めずに裾をしばり、栗色のセミロングが潮風にフワリとなびいている。

「あ、きみのビーチパラソル?」

「うん、そうよ」

「ごめん、勝手に使って」

「いいわよ、ちょっと詰めてくれる」

「あ……ああ」

 

 その子は、思い切りよく、ぼくの横に座り込んだ。その距離の近さにたじろいだ。

 

「この辺じゃ見かけないけど、あなた、夏休みの学生さん?」

「うん、東京。でも、遊びじゃないんだ。バイト、お盆まで……」

 そこまで言って、気が付いた。砂浜には、やはり、ぼくの足跡しか残っていない……。

「ふうん……東京だったら、もっと時給とか、条件のいいバイトあるんじゃないの?」

 足跡の謎を聞く前に、たたみかけるように、鋭い質問がきた。

「きみ……本当は、家から逃げ出してきたんじゃないの……?」

 え……?

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