大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・189『王女旗はためかせ』

2021-01-31 14:16:20 | ノベル

・189

王女旗はためかせヨリコ   

 

 

 お婆さまは危機を感じている。

 まず、コロナでしょ。コロナって中共ウイルスのことなんだけど、バイデンが中共ウイルスっと言ってはいけないという大統領令を出したので使用を控えているのよ。

 べつにヤマセンブルグ公国はアメリカの属国じゃないんだけどね、弱小国はアメリカを立てておかなきゃならないしね。

 コロナの事は、お婆さま自身が高齢者なんで、本人も周囲の人たちも心配。

 なんせ、ヤマセンブルグの跡継ぎは正式には決まっていない。

 理由は簡単。

 わたしが日本国籍を放棄していないから。国王の二重国籍は認められない。お婆さまにもヤマセンブルグの国民にも申し訳ないんだけど、わたしは、まだ母の国の国籍を捨てられない。

 そのかわり、お婆さまの言うことはきちんと聞いている。

 高校に進学するときに専用のガードを付けるのに同意した。正式にはベテランガードのジョン・スミスなんだけど、身長が190もあって、胸の厚さがわたしの肩幅よりも大きいマッチョに付きまとわれるのは願い下げだから、わたしと同い年のソフィアについてもらっている。

 ソフィアは、ヤマセンブルク王家に代々仕えている魔法使いの家系で、わたしをガードすることが人生の全てを掛けた使命だと思っている。この子の使命感は筋金入りで、日本に来ただけじゃなくて、同じ聖真理愛女学院に入学して同じクラスで、部活も、最初は剣道部に入っていたんだけど、わたしが散策部を作ると、剣道部に籍を置いたまま散策部に入ってきた。

 その散策部も、コロナが心配なお婆さまの意向で休部状態。

 年が明けてからは、コロナと警備の問題で、とうとう自宅を領事館に移されてしまった。

 週に一回はPCR検査受けさせられて、そのたびに綿棒を突っ込まれるんで、鼻の奥の粘膜は三年物のスルメみたいに丈夫になったわよ(^_^;)。

 親類のイギリス王室に頼めばワクチン接種もしてもらえるんだけど、お婆さまは自分はワクチン打ってもらったのに、わたしが打つことは許さない。

「なんでよ、ワクチン打ったらお祖母ちゃん(プライベートではお婆さまとは呼ばない)だって安心でしょうが!?」

 画面に怒鳴ったら、こう答えた。

「それについては、ジョン・スミスにお聞きなさい」

「なんで!?」

「ネットは情報を盗まれる恐れがあるからよ。じゃ、お祖母ちゃんは、もう寝る時間だから。ジョン、そこに居るんでしょ? よろしくね」

 そこまで言うと、一方的にクソババアは通話を切った。

「なんで、わたしはワクチン打てないの!?」

 綿棒を持って構えているジョン・スミスを詰問した。

「確率は低いのですが、深刻な副作用の可能性があります」

「副作用なら、クソバ……お婆さまのほうが心配でしょ!?」

「女王陛下は、もうお世継ぎをお産みになることはありませんから」

「え、それって……(#゚Д゚#)!?」

 16歳の純真少女としては、それ以上のツッコミが出来なくなってしまう。

 グニュ!

 油断していると、いつものように綿棒を突っ込まれ、不覚にもクシャミが出てしまう。

 ヘプチ!

 かろうじて、女の子らしいクシャミに留めると、反動でポタポタと涙がこぼれる。

「では、殿下、如来寺に行くことは禁じられていませんので、参りますか?」

 ジョン・スミスが妥協案(たぶん、お婆さまとは示し合わせてるんだろうけど)。

 そこへ、前回に出ていたさくらからの電話があったというわけ。

 あの角を曲がれば、ちょっと久しぶりの如来寺。

 着く前に車のノーズに掛けた小旗を引っ込めてくれないかしら。

 わたしだって恥ずかしいわよ、いちいち王家の王女旗をはためかせられるのは!

 

 

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かの世界この世界:168『ほとんど元の世界』

2021-01-31 08:54:46 | 小説5

かの世界この世界:168

『ほとんど元の世界』語り手:テル(光子)    

 

 

 学校の中を一通りまわった。

 冴子が他人になってしまった以外は何も変わっていないように感じた。

 クラスの友だちは普通に話しかけてくれるし、席に戻って五時間目の教科書を出すと、表紙の隅に憶えのあるシミがちゃんとついている。

 黒板に目を向けると、今日は日直だ。

 そうだ、日直だった。

 日直の最大の仕事は黒板を消すことだ。

 改めて確認すると、四時間目の板書はきれいに消してある。

 相棒の戸倉さんがやってくれたんだ。

「ごめん、戸倉さん、ボーっとしてて日直忘れてた(^_^;)」

「いいわよ、寺井さん考え事してたみたいだったし」

「え、あ、ちょっとね」

「よかったら、学級日誌とってきてくれる? ちょっと担任には会いにくくって」

 そう言うと、戸倉さんは手元のプリントに視線を落とす。

 プリントは進路希望調査だ。文系・理系・就職・その他の四択の欄は白紙のまんま。提出期限は二日前。

「任しといて」

「ありがと(^▽^)」

 事情を察して職員室に向かう。

 うちの学校は規模の割に職員室が狭い。半分くらいの先生が担任をやっていても準備室などに籠っている。連携の悪い学校だと思うんだけど、それで回っているんだから、まあいい。そんな中でもうちの担任は朝から職員室に居る。ちゃんとした先生なんだ。でも、戸倉さんは、そういうのが苦手なんだ。

「おう、寺井、ちょっと」

 日誌をとって「失礼しました」を言おうとしたら担任に呼び止められる。

「はい、なんでしょうか?」

「進路希望なんだけど」

「はい」

「その他はいいんだけど、異世界・勇者というのはなんだ?」

「え……あ……(;゚Д゚)」

「なにかのナゾか?」

「あ、ラノベとか読んでたんで、ちょっとボーっとしていて……書き直します!」

 ふんだくるようにして教室に戻り、戸倉さんに「わたし書いとくから」と学級日誌を示すと中庭に向かった。

 ここは、ほとんど元の世界だ。冴子が他人だと言うことを除いて、とても穏やかな感じ。この分だと、ヤックンともうまくいってるような気がする。ヤックンと言う名前を思い浮かべても、穏やかに温もって、胸を刺すような痛みが無いもの。

 いっそ、ここに留まれば……という気持ちもしないではないけど、わたしは中庭を素通りして部室に向かった。

 

☆ 主な登場人物

―― この世界 ――

  •  寺井光子  二年生   この長い物語の主人公
  •  二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば逆に光子の命が無い
  •   中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
  •   志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

―― かの世界 ――

  •   テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
  •  ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
  •  タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
  •  タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
  •  ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
  •  ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態

 

 

 

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誤訳怪訳日本の神話・18『姫を櫛に変えて(#´ω`*#)』

2021-01-31 06:45:55 | 評論

訳日本の神話・18
『姫を櫛に変えて(#´ω`*#)    

 

 大宜都比売(オオゲツヒメ)をブチ殺した後のスサノオは様子が変わります。

 それまでの乱暴者は影を潜めて、普通のヒーローになっていきます。

 普通と書いたのは個人的な趣味です。読んでいる限りでは高天原までのスサノオの方が断然面白いと思います。

 スサノオは、出雲の国のトリカミという所にやってきます。何気に川に目をやると上流から箸が流れてきます。

「……箸が流れてくるということは、この上流に人が住んでいるんだなあ(^▽^)/」

 人恋しいスサノオは、エッチラオッチラ川に沿って歩いて行きます。

 

 一軒の家から爺さん婆さんの泣き声が聞こえてきました。

 

 年寄りが泣いているのを見過ごせるスサノオではありません。キャラ変してしまったようですが先に進みます。

「通りがかりのもんだけど、年寄り二人が泣いているのはただ事じゃないぜ、いったいどうした……」

 そこまで言って、言葉が止まってしまうスサノオ。

「か、かわいい……(#´ω`*#)」

 えと、婆さんを見て「かわいい」のではないのです。

 爺さん婆さんに挟まれて美少女が悄然と俯いているのです。

「なにから申し上げましょう……わたしは手摩霊(テナヅチ)、婆さんの方を足摩霊(アシナヅチ)と申します。で、これは、わたしどもの娘で櫛稲田(クシナダ)姫と申します」

 テナヅチというのは手で撫でる。アシナヅチは足で撫でるという意味で、要は撫でまくりたいほどに娘を可愛がっているという意味になります。

「それが、どうして泣いてるんだい?」

「はい、ここいらには八岐大蛇(やまたのおろち)という頭が八つもある蛇の化け物がおります。その八岐大蛇が毎年かわいい女の子を一人生贄に寄越せと申します。生贄を渡さなければオロチは大暴れをして、住民みんなを困らせます」

「チョ-我儘なヘビ野郎だな!」

 高天原でのことは棚に上げて老夫婦を慰めます。スサノオというのはなかなかの神経をしております。

 でも、キャラ変したのだから仕方ありません。

「八人の娘がおりましたが、毎年生贄に取られてしまって、とうとう、このクシナダ一人になってしまいました」

「そうだったのか……いや、お二人が涙にくれるのももっともだぜ……よし、では、このオレ様がオロチから護ってやろうではないか」

「ほんとうでございますか!?」

「そ、そうおっしゃるあなた様は?」

「あ、スサノオって言うんだ。よろしくな」

 高天原の事には触れてほしくないので、名前だけをサラッと言います。

「ス、スサノオノミコトと言えばイザナギ・イザナミのご子息で、高天原をしろしめす天照大神さまの弟君ではありませんか!?」

「ドッヒャー! チョーセレブなお坊ちゃんではないですか! サインもらわなきゃ!」

「握手じゃ! 写メじゃ!」

 三人並んで写メをとります。

「えーーあのーーちょっと違うんじゃ……」

 クシナダが遠慮気味に言います。

「そーだそ-だ、いっそクシナダを嫁に差し上げます!」

「え、オレの嫁? いいの、嫁さんにもらっちゃって!?」

「はい、助けていただけるんなら、いえ、助ける力のあることに疑いは有りません。どーぞ、もらってやってくださいまし~!」

「そ、そーか、そーか、そーであるか、ならば、無くしちゃいけないから、こうしよう!」

 スサノオが指を一振りするとクシナダは小振りな櫛になってしまいます。そして、その櫛を髪に差しますととっておきの作戦を披露するのでありました。

 

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妹が憎たらしいのには訳がある・47『優奈と幸子の二転三転』

2021-01-31 06:30:16 | 小説3

たらしいのにはがある・47
『優奈と幸子の二転三転』
         

 


      

 そこにはねねちゃんが立っていた……。

「これ、警察病院からもらってきたの。亡くなる前にママが、一時的に元気になった時の薬剤」
「これは……」
 そうだ、里中ミッション・4でねねちゃんの義体にインストールされた俺が里中リサを看取った時のものだ。まだ残っていたんだ。
「優奈ちゃんにも効くわ、元々は、戦闘中に負傷した者を一時的に健常にもどし、あとで治療するためのものだから」
「じゃ、優奈ちゃん出場できるのね!」
 みんなが喜んだ。幸子も喜んだが、仕様書を読んで顔が曇った。
「心臓に負担が……15%の確率で効かないこともあるのね」
「……ええ、それに状態によっては、完全に戻らないこともあるわ。使うかどうかは、あなた達次第。じゃ、明日は会場で見てるわ。チサちゃんも来るんでしょ?」
「うん、えと……D列の35番。みんなそのへんよ」
「わたしも、そのあたり確保しとくわ」
「でも、予約いっぱいよ」
――甲殻機動隊に不可能はないの(^▽^)――
 高機動車のハナちゃんが、車体をガシャガシャ揺すって笑った。

「優奈ちゃんも飲む?」

 開演前、みんなで特製のジンジャエールをまわした。よく冷えていて、喉がスッキリする。
 みんなのスッキリ顔を見て、自分も飲みたくなったのであろう、優奈は進んで手を出した。
「ぼんど、ズッギリじまず……」
「酷い声だなあ」
「あい、おどなじぐ、ごごで見でまず( ;∀;)」
「じゃ、わたしリハーサル室行ってるね。またあとで見に来るからね」
 幸子と俺はリハーサル室へ向かった。

 そして蟹江先生と加藤先輩には、ジンジャエールに薬を混ぜて優奈に飲ませたことを伝えた。二人とも驚いていたが、喜んでくれた。
「いっしょに苦労したんや、優奈が歌うのがベストやで!」
 珍しく加藤先輩が目を潤ませた。

 午前中の会場は、まだいくらか空席があったが、午後には強豪校の出場が目白押しなるので、満席になった。

「……声が出る!」


 午前中最後の茶屋町高校の曲は、優奈の好きな曲だったので、口パクでナゾって、気づいたら自然に歌えたのである。
「優奈ちゃん、リハーサル室へ行って!」
 チサちゃんが促す。ちょうど様子を見に来た俺といっしょになったので、足を弾ませてリハーサル室に向かった。
「なんで、そんなに楽しそうなの?」
 出られることを知らない優奈には、俺は本番を前にハイテンションになったバカにしか見えなかっただろう。え、いつもバカみたいだから目立たなかっただろうって……はい、そのとおり(o^―^o)!

 いよいよ、俺たち真田山高校の出番が回ってきた。

――さて、急遽予定を変更。ボーカルは、山下優奈さん回復して、もとの編成に戻り、真田山高校は審査対象になります――
 幸子の出演を楽しみにしていたファンの中からはブーイングも起こったが、概ね会場の反応は暖かかった。
――なお、終演後ファンのみなさんのため、佐伯幸子の30分ミニライブをおこないま~す!!――
 会場は、どよめきにつつまれ、あとのアナウンスは、ろくに聞こえなかった。

 そして、これが大きな悲劇を生むことになるとは、誰も気づかなかった……。

 

※ 主な登場人物

  • 佐伯 太一      真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄
  • 佐伯 幸子      真田山高校一年演劇部 
  • 千草子(ちさこ)   パラレルワールドの幸子
  • 大村 佳子      筋向いの真田山高校一年生
  • 大村 優子      佳子の妹(6歳)
  • 桃畑中佐       桃畑律子の兄
  • 青木 拓磨      ねねを好きな大阪修学院高校の二年生
  • 学校の人たち     加藤先輩(軽音) 倉持祐介(ベース) 優奈(ボーカル) 謙三(ドラム) 真希(軽音)
  • グノーシスたち    ビシリ三姉妹(ミー ミル ミデット) ハンス
  • 甲殻機動隊      里中副長  ねね(里中副長の娘) 里中リサ(ねねの母) 高機動車のハナちゃん
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魔法少女マヂカ・194『霧子の決心』

2021-01-30 10:17:53 | 小説

魔法少女マヂカ・194

『霧子の決心』語り手:マヂカ  

 

 

 食べ過ぎです!

 

 ダイニングに入ってきた春日が目を三角にした。

 キッチンに繋がるドアの所でメイドのクマちゃんがお握りを載せたトレーを捧げ持ったまま笑いをこらえている。

 わたしはノンコと顔を見合わせて、三枚目のトーストに伸ばした手を引っ込めた。

「あなたたちは食べてください。お嬢様のお供をするには体力も精力もいりますからね。クマは、いちいち笑わない。そのお結びは……」

「これでおしまいだから!」

「では、さっさとお食べになってくださいまし。早くしないと学校に間に合いません」

 そう言うと、メイド長の春日はあくびを噛み殺しながらダイニングを出て言った。

 ムシャムシャムシャ

 十秒もかからずにお握りを食べてしまうと、お皿を七枚重なったトーストのお皿の上に載せて立ち上がる。

「さ、今日も一日張り切っていくわよ!」

「「よし!」」

 わたしたちの出で立ちは、ちょっと恥ずかしい……。

 上は制服のセーラー服なのだが、下はブルマーなのだ。

 ブルマーと言ってもハーパンに駆逐される寸前の昭和・平成のころのパンツ同然のそれではない。

 スカート同様にプリーツになっていて、ひざ丈の所で絞り込んである。大正時代のブルマーなのだ。

 まだ体操服という名前も無くて運動服と言う。

「ピエロのズボンみたいだよ((ノェ`*))」

 ノンコは、ダサくて恥ずかしくてたまらん顔をしている。

 しかし、大正時代にあっては、これが女子のスポーツウェアなのだから仕方がない。

 

「お早うございます、お支度はよろしいですか?」

 

 運転手の松本が、パッカードのドアを開けて出迎えてくれる。

「お早う、今朝もよろしくね」

 ブルマのお尻をバサバサ言わせながら後部座席に収まる。助手席にはクマちゃんがわたしたちの着替えやカバンを持って収まっている。

 主人よりも先に車に乗るのは使用人としては僭越なのだが、なんせ荷物が多いので、後から乗っては時間がかかるので、霧子の指示で、そうなっている。

「行ってらっしゃいませ」

 春日の見送りを受けながら、屋敷の門を出る。

 さすがに、使用人全員が見送ることは無い。九月の初旬だと言うのに、ようやく東の空が白んできたところなのだ。

 それでも、門の脇には請願巡査の田中が折り目正しく敬礼してくれている。

 請願巡査と言うのは、華族や財閥が給与などの費用を支払うことを条件に個人的に配置してもらう住み込みの巡査の事だ。震災後の治安悪化のため、請願していたのが認められ、一昨日から配置されることになったのだ。

 デバックがあると言いながら新畑はそれっきりだ。

 礼法室の望楼も閉ざされて様子を見ることもできないと言う。

 情熱を持て余した霧子は、つてを頼ってジョギングを始めたのだ。

 ジョギングなら、ジャージに着替え、タオル一本首に巻けば出発できるというのは、もっとのちの時代だ。

 大正時代は、女子が街中を走ると言うようなハシタナイことはやりにくい、まして華族の娘においておやである。

 学習院が女子の徒走を始めたところ父兄の元大名の華族から『足軽のようなことをさせる』と苦情を言われる時代なのだ。

「今日はアメリカ大使館のゴルフ場を借りております」

 松本がハンドルを切りながら変更を言う。

「岩崎に断られたのか?」

「ご都合が合わなかっただけでございます。少し速度をあげます」

 車は山の手を北西に進んだ。

 山の手を過ぎると地盤がしっかりしているのか、都心ほどには震災の爪痕が無いことが幸いだった。

 

※ 主な登場人物

  • 渡辺真智香(マヂカ)   魔法少女 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 要海友里(ユリ)     魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 藤本清美(キヨミ)    魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員 
  • 野々村典子(ノンコ)   魔法少女候補生 2年B組 調理研 特務師団隊員
  • 安倍晴美         日暮里高校講師 担任代行 調理研顧問 特務師団隊長
  • 来栖種次         陸上自衛隊特務師団司令
  • 渡辺綾香(ケルベロス)  魔王の秘書 東池袋に真智香の姉として済むようになって綾香を名乗る
  • ブリンダ・マクギャバン  魔法少女(アメリカ) 千駄木女学院2年 特務師団隊員
  • ガーゴイル        ブリンダの使い魔

※ この章の登場人物

  • 高坂霧子       原宿にある高坂侯爵家の娘 
  • 春日         高坂家のメイド長
  • 田中         高坂家の執事長
  • 虎沢クマ       霧子お付きのメイド
  • 松本         高坂家の運転手 
  • 新畑         インバネスの男

 

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誤訳怪訳日本の神話・17『スサノオ追放!』

2021-01-30 06:50:48 | 評論

訳日本の神話・17
『スサノオ追放!』    

 

 天岩戸をお出ましになったアマテラスはスサノオを高天原から追放します。

 

 スサノオの持っていた珍しいお宝を全部召し上げた上、スサノオのシンボルであった髭を剃らせ手足の爪を全部抜かれてしまいます。

 ちょっとエゲツナイですなあ。

 1945年に連合軍によってパリが解放されると、パリ市民はドイツ軍に協力的であった女性をとっ捕まえては丸坊主にして大通りを歩かせ、みんなで罵倒しました。ちょっと似てます。

 スサノオとアマテラスの関係なのですが、どうも血肉を分けた姉弟には見えません。スサノオが高天原に現れた時も、アマテラスは姫騎士のように完全武装し、高天原の軍勢を従えて迎え撃とうとしています。

 アマテラスはご存知の伊勢神宮の主神であり皇祖神であり天津神(あまつかみ)の代表であります。方やスサノオの子孫である大国主は出雲地方の国津神(くにつかみ)の代表で、のちに高天原の勢力に国譲りして出雲大社に祀られます。

 どうも四五世紀、大和朝廷が勢力を広げて行って出雲地方の勢力を従えたことが反映された神話のようであります。

 余談ですが、アイヌ民族を先住民族とする考え方が国会で決議され、中にはアイヌに自治権を与え分離独立まで言い出す人たちがおられます。その是非はともかくとして、盛大に日本の一部を分離独立させるなら出雲地方の方がドラマチックでしょう。あきらかに大和政権とは別物でした。二十一世紀の今日でも出雲大社の神主は『国造(くにのみやつこ)』の肩書があって元日の地元紙の一面に県知事と並んで賀詞を述べられておられます。むろん、伝統ということで、スサノオとアマテラスの争いに火をつけて出雲地方の人たちに独立しようという気運はありません。

 こういうことで分離独立していたら、世界は今の数十倍に分裂してしまうでしょう。

 地上に放逐されたスサノオは腹ペコで仕方ありません。

 これだけの目に遭って腹が減るのですから、やっぱ、神経のぶっ飛んだ神さまなのです。ですが、「どうして、おいらにゃオカンがおれへんのや~!!」と泣き叫んでは駄々をこねていた(体よく親父のイザナギから追っ払われた)ころのことを重ね合わせますと、かなり子どもじみたヤンチャクレのように思えます。

 腹を減らしていると、大宜都比売(オオゲツヒメ)に出会います。名前からケツのデカい女神様という感じで、どうも作物の豊かさを現わした女神様のようです。

 スサノオに同情したオオゲツヒメは、たくさんの食べ物を出してやります。

 ただ、出し方がぶっ飛んでおります。

「さあ、腹減ってんでしょ、どんどん食ってね!」

 彼女は、鼻や口やお尻の穴から出すのであります!

 これに擬音を付けると、このようでしょうか。

 

 ウ ウゲーーーゲロゲロ プープリプリ ブーブリブリー💦

 

 音だけでも ナンダカ……ですねえ(;^_^A

 それもスサノオの目の前でやって見せるのです!

 ウ、ウ、こいつ、きったねええええええええええええええ!

 スサノオはオオゲツヒメをブチ殺してしまいます。やっぱ、スサノオは切れやすいんでしょうなあ……。

 ブチ殺されたオオゲツヒメの体からに色々の物ができます。

 頭に蠶(かいこ)が、二つの目に稻種(いねもみ)が、耳にアワが、鼻にアズキが、股(また)の間にムギができ、尻にはマメができました。カムムスビの命が現れて、これらを種としたので、その後の日本の農業の基本になりました。

 

 

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妹が憎たらしいのには訳がある・46『栄光へのダッシュ・2』 

2021-01-30 06:25:07 | 小説3

たらしいのにはがある・46
『栄光へのダッシュ・2』
         

   


 優奈が倒れた。
 
 明後日が本番という稽古中に!

「ゲホ」っと口を押さえた優奈の手に赤いものが溢れ、そのまま前のめりに倒れて意識を失った。

「顔を横向きにしろ、窒息するぞ!」
 蟹江先生が、すぐステージに駆け上がり、狼狽えるだけの加藤先輩を押しのけた。
「無し無し(無呼吸、無拍動)なんだな!?」
「はい」
「救急車を呼べ!」
 そう叫んで蟹江先生は優奈の胸をはだけ、気道を確保すると人工呼吸を始めた。
 祐介は、顕わになった優奈の胸にたじろいで、一瞬目を背けた。
「アホ! こんな時は声をかけてやらなあかんのよ。みんな寄って、声を掛けて、マッサージしてやる!」
 加藤先輩が怒鳴り、みんなが優奈の側に寄り、手足をさすりながら声をかけた。
「優奈!」
「優奈先輩!」
「山下優奈!」
 蟹江先生と加藤先輩たちの介抱と処置で、優奈は救急隊が到着するころには息を吹き返していた。

「みなさんの素早い処置が適切だったので、脳への障害はありません。声帯と気管を痛めているほかは、全身疲労だけです。とうぶん喉を使わずに安静にしていればいいでしょう」
 病院の先生は、本人を勇気づけるために、あえて、優奈の病室でみんなに告げた。しかし、優奈には逆効果であった。
「ダメです……明後日は本番なんです。なんとしても、明後日までには治してください!」
「無理を言っちゃ……!」
 優奈は、医者のネクタイを締め上げていた……。

「参加辞退ですか……」

「仕方ないでしょう、ボーカルが倒れちゃったんだから」
「加藤先輩一人じゃだめなんですか?」
「ずっとデュオで練習してきたんや、簡単にソロには戻されへん。それに、バンドの編成もデュオのまんまや……」
 ケイオンの全員が集められ、視聴覚教室でミーティングをしたが、結論は参加辞退に傾いていく。あちこちから、すすり泣く声があがった。


 いやな沈黙が続いた。
 

 田原先輩が、謙三を促してステージに上がった。
 そして、ギターとドラムを即興で、めちゃくちゃに鳴らした。
「景子(加藤先輩の名前)、これで勢いついたやろ。蟹江先生に結論言いに行け!」
「分かった、長いことケイオンやってると、こういうこともあるよ。今度のレッスンで学んだことは、来年、あんたらが活かしたらええ」

「待って下さい」

 ドアから出て行こうとした、加藤先輩を幸子が呼び止めた。

「わたしが、代わりにやります」
「……そんな、サッチャンが出たら審査対象外やで」
「対象外でもいいじゃないですか。たとえ審査対象外でも、演奏すればスピリットは通じます。わたしたちが血を吐く思いでつかみ取ったメッセージを、みんなに伝えようじゃないですか!」
「メッセージ……」
「スピリット……」
「ようし、それでええ。賞がなんぼのもんじゃ。予定通り参加や!」
 蟹江先生が、入ってきてガッツポーズを決めた。
「桃畑中佐から、極東戦争当時の戦闘服借りてきた。みんな、これ着て、本番の舞台に立て!」
「ウオー!」
 メンバーから、どよめきが起こった。
「ボーカルは、元祖オモクロのステージ衣装貸してもろた、せいだいがんばれ!」

 この開き直りの出場は、マスコミやネットを通じて、その日の内に世界中に広まった。

 火付け役は、お馴染みナニワテレビのセリナさんだ。急遽、プロで人気上昇中の幸子が出るので、予備の座席200が追加された。

 その日、家に帰ると、チサちゃんが玄関で待ち受けていた。

「すごいわよ、ネットが炎上してる!」
 幸子のブログは、大会参加を祝するコメントであふれかえっていた。むろん中には人の不幸を利用した売名行為であると非難するものもあったが、大半の賛成派と、ネット上で大論争になっていた。
「むかし、キンタローがデビューしたとき以来のブログ炎上ね!」
 お母さんまで興奮していた。幸子も面白がっていたが、プログラムモードである。
「これで、良かったとは思えない」
 あとで、幸子の部屋に行ったとき、幸子はニュートラルモードで、冷ややかにニクソクつぶやいた。

「……幸子は、複雑だな」

 精一杯の皮肉を言ってやると、ドアホンを兼ねているハナちゃんが来客がきたことを告げた。

 ドアをあけると、ねねちゃんが立っていた……。

 

※ 主な登場人物

  • 佐伯 太一      真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄
  • 佐伯 幸子      真田山高校一年演劇部 
  • 千草子(ちさこ)   パラレルワールドの幸子
  • 大村 佳子      筋向いの真田山高校一年生
  • 大村 優子      佳子の妹(6歳)
  • 桃畑中佐       桃畑律子の兄
  • 青木 拓磨      ねねを好きな大阪修学院高校の二年生
  • 学校の人たち     加藤先輩(軽音) 倉持祐介(ベース) 優奈(ボーカル) 謙三(ドラム) 真希(軽音)
  • グノーシスたち    ビシリ三姉妹(ミー ミル ミデット) ハンス
  • 甲殻機動隊      里中副長  ねね(里中副長の娘) 里中リサ(ねねの母) 高機動車のハナちゃん
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銀河太平記・027『宮さまの裏ワザ』

2021-01-29 10:21:37 | 小説4

・027

『宮さまの裏ワザ』 ダッシュ           

 

 

 13号艇はボートに分類される雑役艇だ。

 

 動力はイオン電池で200年前の小惑星探査機のそれと原理的にはいっしょだ。

 スピードは全然で、並みの船(宇宙船)がリニア新幹線だとしたら、やっと自転車ほどの速度でしかない。

 月と地球は目と鼻の先なので、船なら30分ほどのところを丸一日はかかってしまう。

「君たちは、将軍には会ったことはあるのかい?」

 森ノ宮さまが学校の先輩みたいな気楽さで声をかけてくださる。たった一つのキャビンなので黙っていては気づまりだろうとのお気遣いなんだ。学園艦が何者かによって撃沈されてショックを受けている俺たちへの気遣いでもあるんだろう。

「えと、お見受けするという点では週に一回くらいですけど、学期に一回は学校に来て、気さくに生徒にも声をかけてくれます」

「たいていの生徒は、卒業までに一度は声をかけていただいております」

 きちんと敬語が使えない俺をヒコがフォローしてくれる。

「とっても、優しいニャ(^▽^)/ テルと喋る時は、ちゃんと目の高さを合わせてくれるニャ」

「修学旅行に出発するときも『散歩のついで』とかおっしゃって、宇宙港まで見送ってくださったんです」

「そうか、それは、なかなか出来ないことだね」

「帰ったら地球の話を聞かせて欲しいニャって、タラップ上る時まで手を振って……」

 テルが言葉に詰まる。学園艦の最後が頭をよぎったんだ。

「ああ、そうだ、レプリケーターの裏ワザを見せてあげよう」

「え、レプリケーターに裏ワザなんてあるんですか?」

「うん、僕も学生の頃はいろいろやったからね」

 そう言うと、宮さまはレプリケーターのマイクに数ミリというところまで口をせて、何事かを囁いた。

「……………」

 レプリケーターは画面のメニューをタッチするやり方と、音声入力の二通りあって、音声入力は世界中の120の言語に対応している。対応しているということは、それだけの文化圏のメニューに対応しているということで、万一漂流しても食べ物の嗜好で悩まなくていい仕組みになっている。

「なにが出てくりゅんだろ(^▽^)」

「テル、よだれ~(^_^;)」

 未来が涎を拭いてやっているうちに、マシンはブツを吐き出した。

「え、たこ焼き?」

 それは、定番の普通のたこ焼きだ。

「テルくん、食べさせてあげよう」

「うわ、いいの? なんか畏れ多いニャ(^▽^)/ けど、テル猫舌ニャ」

「大丈夫、40度設定だから、ちょうど頃合いだよ」

「エヘ、そいじゃ……ハム……ん!?」

 テルが分かりやすく驚いて、たこ焼きを咀嚼しながら、とびきりの笑顔になった。

 俺たちも続いて、ビックリした。

 たこ焼きソックリな、なんと言うんだろ、クッキー? というか、味はたこ焼きそのものなんだけど、水分が無くって、カリカリの食感、これは面白い!

「なんなんですか、これ!?」

 子どもの頃の夢はラーメン屋のおかみさんだった未来が目を輝かせる。

「たこ焼きをフリーズドライさせて油で揚げ直ししたものさ」

「メニューには『たこ焼き』しかありませんよね」

「昔は、売れ残ったたこ焼きは廃棄していたんだけどね、もったいないと言うんで、大阪のたこ焼き屋さんが開発したんだ。日持ちはするし、水分が飛んだ分軽くなってるし、レプリケーターが登場するまでは大阪土産で、ずいぶん評判だったんだよ」

「なるほどおおおおおおお!」

「商品名は『再生たこ焼』とか、いろいろなんだけど、イメージを言ってやるとレプリケーターは、メモリーから類推して合成してくれるんだよ」

 俺たちは、決まったメニューしか言わないし、そういうもんだと思っていたけど、こんな能力がマシンにはあったんだ。

 学生時代の宮さまは、そういう食文化にご興味を持っておられたようで、学園艦の悲劇は少し忘れることができた。

「で、宮しゃまは、どこへ行くのよしゃ?」

 テルが遠慮のない質問をする。

 わずかに間をおいて、宮さまはお顔をあげられた。

「僕も、火星に付いていくよ」

 その声を聞いて、元帥は後姿のまま頷いた。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 児玉元帥
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官

 ※ 事項

  • 扶桑政府   火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる

 

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誤訳怪訳日本の神話・16『天岩戸(あまのいわと)を開く!』

2021-01-29 07:15:02 | 評論

訳日本の神話・16
『天岩戸(あまのいわと)を開く!』 

 

 

 天の安河原の会議のつづきからです。

 

 高御産巣日神(タカミムスビノカミ)の息子である思金神(オモイカネノカミ)が提案します。

「どうだろう、天照大神よりも偉い神さまにやってきてもらうというのは?」

 なんだとおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!? 

 一同息をのみます。

「バカなこと言うなよ、アマテラスさまは最高神であられるのだ、アマテラスさま以上に偉い神さまなんているわけねえだろーが」

「一芝居うつんだよ。じつはな……かくかくしかじか」

 プランを述べるオモイカネ。

 テレビのヤラセ番組のようなことを言いますが、日ごろから思慮深い知恵者として有名なことが幸いしたのか、一同は賛成することになります。

    

 

 まず常世長鳴鳥(とこよのながなきどり)を集めて鳴かせます。

 いかめしい名前ですが常世長鳴鳥とはニワトリのことであります。

 夜明け直前にコケコッコーと鳴くニワトリは「太陽を呼んでくる目出度い鳥」ということになっています。

 のち、五世紀ごろに作られた前方後円墳の前方部と後円部の境目にはニワトリの埴輪がよく置かれています。

 前方後円墳の主体は墓地である後円部にあります。前方部は会葬者のためのスペースです。

 だから、後円部の方が尊いので前方部の方が高くなっています。前方部は会葬者が儀式がよく見えるように、末広がりになって、後ろに行くにしたがって高くなっています。劇場の構造に似てますね。

 後円部に大王などの被葬者が埋葬され、埋葬した夜は跡継ぎの皇太子や皇子が守をします。

 一晩被葬者の守をしたあと、夜明けとともに後円部から降りてきて帝位や族長の地位を継いだことを宣言します。

 つまり、ニワトリの埴輪が置いてあるところが、黄泉の国と常世の結界になっており、ニワトリが日の出を招くことになぞらえているのです。つまりつまり、夜と朝の境目を超えて新天皇や族長の権威の再生を現わしているのです。

 身も蓋もなく言えば、ニワトリが鳴いたことで夜明けが来たぞ=アマテラスに代わる新しい太陽神が来たというフェイクをかますわけですなあ。

 しかし、ニワトリはきっかけに過ぎません。あれ? ニワトリが鳴いた? とアマテラス「あれ?」と思わせるだけです。

 そこで、神さまたちはヤラセの大宴会を催します。

 天宇受売命(アメノウズメノミコト)がお立ち台に立って舞い踊ります。

 ヤラセとは言え、本当にエンジョイして楽しくならなければフェイクであるとアマテラスにバレてしまいます。

 アメノウズメは日本で最初のストリップをいたします。

 神懸(かみがか)りして裳の紐を陰(ほと)に垂らしまして……古事記にあります。

 トランス状態になって、着物の紐を解いて陰(ほと)とありますから、えと……エロゲでなければ表現できないようなところまで下ろして……つまりストリップであります。

 それを見て、神さまたちはノリノリになったわけであります。

 この大宴会の中には男神だけではなく女神もおりました。今の時代に女性も参加する宴会でやったら完全にセクハラをとられます。日本では男女共々大らかであった時代があったのですね。

 まあ、本気でお楽しみの大宴会を催したんですなあ。自分たちが本気でなければ騙せません。

 その甲斐あって、いったい何事か? アマテラスは岩戸をちょっとだけ開いて様子を見ます。

 それに気づいたウズメが猥褻物陳列の姿のままでお立ち台から岩戸にジャンプ!

「あんたよりマブくて尊い神樣がおいでになるんでよろしくやってんのよ!」と、かまします!

「な、なんと!?」

 すかさずアメノコヤネの命とフトダマの命とが、鏡をさし出してアマテラスの前に掲げます。

「な、なに、なによ、このイカシた女は!? めっちゃ美人過ぎるんですけどおおお!!」

 アマテラスが動揺したところを、天手力男神タヂカラヲノカミ)が引っ張り出して、天岩戸はしめ縄を張ってもどれなくします。

「ま、その、あ、あんたたちが、それほど言うなら(#^_^#)、言うならあ、戻ってあげなくもない……かな?」

 ということで、高天原にも地上にも光が戻ってくるのでありました。

 

 ちなみに天宇受売命は芸能や芸能人の神さまに、天手力男神は相撲取りの神さまになりました。

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妹が憎たらしいのには訳がある・45『栄光へのダッシュ・1』

2021-01-29 06:52:48 | 小説3

たらしいのにはがある・45
『桃畑律子の想い』
         

  

 


 優奈は懸命に練習した。

 桃畑律子の想いが分かったからだ。

 自分たちが生まれる前に、自分たちと同じ年頃の少女たちが対馬の山中で戦って死んでいった。そして、それは軍や政府の一部の人間しか知られず、評価もされないどころか、存在さえ認知されていないことを。

 優奈は知ってしまった。

 あの少女部隊のことは公表することはできないが、その想いは伝えたいと思った。

「声で歌うんじゃない、体で歌うんだ! 体が弾けて、その結果想いが歌になるんだ!」
 加藤先輩の指摘は厳しかった。そして、加藤先輩自身も壁にぶつかってしまった。叱咤激励はできてもイメージを伝える段階で自分のイメージもエモーションも希薄になっていく。
「これじゃ、ただのサバゲーのプロモだ。覚めたままビビットにならなきゃ!」
 冷蔵庫の中でお湯を沸かすような無茶を言う。


 俺たちは国防軍のシュミレーションを受けることにした。 


「謙三、祐介、左翼から陽動。太一はここを動かないで。真希、優奈は、わたしに続いて!」

 しかし、その動きは読まれていた。

 敵は謙三たちの陽動にひっかかったフリをして、圧力かけてきた。


「ハハ、大丈夫、陽動のまんま敵のど真ん中に突っ込めますよ!」
「余計なことはするな、おまえたちはあくまで陽動なんだ。太一、ブラフで指揮をとって!」
「了解」
 加藤先輩は、上手くいきすぎているような気がした。でも、それは、すでに真希と優奈に突撃を指示した後だった。「あ!」と思った時には、真希と優奈がパルス機関砲にロックされていることが分かった。
 閃光が走り、真希と、優奈は、粉みじんの肉片になって飛び散ってしまった。二人の血を全身に浴びた加藤先輩は、それでも冷静だった。

「総員合流、撤収す……」

 先輩の意識は、そこまでだった。

 敵は劣化パルス弾を撃ってきた。

 瞬間の判断で先輩は身をかわしたが、パルス弾は至近距離で炸裂した。


 炸裂の勢いがハンパではないために、先輩はグニャリと曲がったかと思うと、衝撃を受けた反対側の体が裂けて、体液や内臓が噴きだしていった。俺たちの分隊は壊滅してしまった……。

「これが、対馬の前哨戦だよ」

 桃畑中佐の声がした。

 訓練用の筐体から出てくるのには、みんな時間がかかった。あらかじめ衝撃緩和剤を服用していたが、それでも、今の戦闘のショックはハンパではなかった。


「緩和剤無しでは、発狂してしまうこともある」
「……これ、実戦記録がもとになってるんですよね」
「そうだよ、この分隊は運良く生き残った。隊員一人だけだけどね。その記録を元に作った訓練用シュミレーションだよ……ようし、全員心身共に影響なし」
 アナライザーの記録を見ながら、桃畑中佐が笑顔で告げた。
「この戦闘で、彼女たちは今のように……?」
「あの程度のブラフは簡単に読める。この戦闘では死傷者はいない。分隊がたった一人になったのは次の戦闘だ。ただ民間人の君たちにシュミレートしてもらえるのは、ここまでだ。むろん現役の部隊には最後までやらせている。失敗するものはいない。だから先日の防衛省への攻撃を陽動とした敵の侵攻は100%防ぐことができた」
 俺は、それを防いだのは、ねねちゃんにインスト-ルされた里中マキ中尉のおかげだと知っていたが、話さなかった。ねねちゃんも、お母さんのマキ中尉もそれを望んでいないことを知っていたから……。

 国防省で、シュミレートの体験をしてからの俺たちは変わった。

 プロの軍人から見れば遊びのようなものかもしれないが。毎日1000メートルの全力疾走と、バク転の練習を始めた。顧問の蟹江先生が、たえず脈拍や、心拍数を計測している。1000メートルの全力疾走というのは、古武道で言うところの死域に入ることに近い。死んだ肉体を精神力でもたせ、その能力を最大限に引き出す。俺たちは、それで限界の力を出そうとした。バク転は、恐怖心の克服である。短期間で、成果を出すのには、一番手っ取り早い。
 それをみっちり一時間やったあと、やっと演奏の練習。最初の三日間ほどは、全力疾走とバク転の練習でへげへげになり、とても演奏どころではなかったが、四日目には変わった!

 

《出撃 レイブン少女隊!》 

 GO A HED! GO A HED! For The People! For The World! みんなのために

 放課後、校舎の陰 スマホの#ボタン押したらレイブンさ

 世界が見放してしまった 平和と愛とを守るため わたし達はレイブンリクルート

 エンプロイヤー それは世界の平和願う君たちさ 一人一人の愛の力 夢見る力

 手にする武器は 愛する心 籠める弾丸 それは愛と正義と 胸にあふれる勇気と 頬を濡らす涙と汗さ!

 邪悪なデーモン倒すため 巨悪のサタンを倒すため

 わたし達 ここに立ち上がる その名は終末傭兵 レイブン少女隊

 GO A HED! GO A HED! For The People! For The World! For The Love!

 ああ ああ レイブン レイブン レイブン 傭兵少女隊……ただ今参上!

 


 あきらかに歌にも演奏にも厚みと奥行きがでた。いけると思った。

「あかん、真剣すぎる。この厚みと奥行きを持ったまま、楽しいやらなあかん。うちらのは音楽で、演説やないねんさかい」

 俺たちは、加藤先輩の意見に、進んで手をあげることができた……。

 

※ 主な登場人物

  • 佐伯 太一      真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄
  • 佐伯 幸子      真田山高校一年演劇部 
  • 千草子(ちさこ)   パラレルワールドの幸子
  • 大村 佳子      筋向いの真田山高校一年生
  • 大村 優子      佳子の妹(6歳)
  • 桃畑中佐       桃畑律子の兄
  • 青木 拓磨      ねねを好きな大阪修学院高校の二年生
  • 学校の人たち     加藤先輩(軽音) 倉持祐介(ベース) 優奈(ボーカル) 謙三(ドラム) 真希(軽音)
  • グノーシスたち    ビシリ三姉妹(ミー ミル ミデット) ハンス
  • 甲殻機動隊      里中副長  ねね(里中副長の娘) 里中リサ(ねねの母) 高機動車のハナちゃん
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滅鬼の刃・9『水たまり』

2021-01-28 09:43:01 | エッセー

 エッセーノベル    

9・『水たまり』   

 

 

 昔は、あちこちに水たまりがありました。

 水たまりと言うのは沼とか池とかいうものではありません。沼とか池なら天気に関わらず存在します。

 水たまりは、雨が降らなければ出現しません。

 ちょっとした大雨が降った後など、ここはベニスか!?というくらい風景が一変したものです。

 

 低学年のころ、家から小学校までの舗装道路というと、学校の前の150メートルほどだけでした。

 学校までは一キロ近くありましたから、ほとんどが明治のころからそのまんまというような地道でした。

 地道と言っても、二車線半くらいの道幅で、地域に中小企業も多くあって9時ごろには、けっこうな交通量になります。

 小中学生の登校は、その三十分ほど前には完了しているので、交通安全的には黄色い帽子を被る程度の事でした。先生たちが通学路に立つことも、PTAや地域の人たちが交通安全の旗を持って横断歩道に立っていることもありません。そもそも横断歩道がありませんでした、横断歩道の縞模様というのは舗装道路がなければ描けませんしね。横断歩道が、あると、ちょっと都会だなあという感じがしたものです。

 横断歩道があるようなところには水たまりは少なかったように思います。道を舗装するということは、下水や排水の設備も充実させることだったんでしょう。地道には下水の存在を示すマンホールは無かったように思います。

 その地道でも、登校時間を外れた時間帯にはけっこうな交通量です、車が通るので道路にはけっこうな凹凸がありました。

 そこに雨が降ると、ここは川か湖かというくらいの水たまりができました。

 途中に五十メートルほど暗渠工事がされていない昔の農業用水路が残っていて、近隣の雨水が、そこをめがけて流れ込んでいきます。ひどいときは、水没した道路と旧農業用水路との区別がつかなくなって、いささか危険でした。高学年のニイチャンやネエチャンが手を引いてくれたりオンブしてくれたりということもありました。

 ときどき、車が脇を通って盛大な水しぶきをあげます。とっさに傘を傾けるのですが、腰から下に水を浴びるのはしょっちゅうでした。

 女の子は、すかさずハンカチを出して拭いたりしていましたが、男子は、構わずにそのままにして、乾くと、迷彩のシャツのようになることもあります。靴は、学校に着くころにはグチュグチュと小動物の鳴き声のような音をあげたりしました。

 当時の校舎は木造で、教室も廊下も板張りです。板張りと言うのは、けっこう吸水性があるので、傘や靴から(時にはずぶ濡れになった服から)漏れ出た雨水で濡れることはあっても、後年のリノリウムのように滑ることは無かったように思います。

 後年、自分が教師になったころは完全なリノリウムになり果てていて、大雨が降った時は、昇降口から階段にかけて何度もモップ掛けをしたものです。日ごろ、ていねいな掃除をしていないこともあって、あちこちに黒くなったジュースのシミができていて、雨水を吸ったモップはシミを拭うのにもってこい……ズボラなことをしていたものです。

 雨にはニオイがあります。

 軽い雨だと、埃のニオイ。雨が微細な砂や埃を舞いあげるので、今のように湿っただけのニオイではありません。

 片仮名でニオイとしたのは『臭い』と『匂い』の両方の意味があるからです。

 わたしには『匂い』でしたね。

 激しい雨になると、地面や建物に染みついアレコレが溶け出てきて、ちょっと妖めいたニオイになります。日ごろは、穏やかなすまし顔でいる街が、その身に秘めた、大げさに言うと古代のヤマト時代からの本性を現したようで、ちょっとワクワクしました。

 水たまりというのは絶好の遊び場にもなるもので、わざと長靴で水たまりに入って、水を蹴飛ばしたり、長靴を通して感じる水圧やヒンヤリと足が冷やされるのを楽しんでいました。

 運動場や近くの公園などは、半分以上が海のような水たまり。

 学校の運動場は無理でしたが、近所の公園には家に帰ってから自転車で出撃して、まるで大海原を最大戦速で突っ走る駆逐艦みたいに水しぶきあげて喜んでいました。

 昔の水たまりは、こんなもんじゃない。

 高校の時、大雨が降った日の授業で先生が言いました。

 先生は台湾からの引揚者で、わたしが通っていた高校の卒業生でもありました。二期生とおっしゃっていましたので、入学は昭和29年ごろでしょう。

 学校は、校舎こそできていましたが、塀をつくる余裕がありません。グラウンドの周囲は道路との境が判然としていなくて、生徒たちは、好きなところから校舎に入ってきました。

 むろん、雨が降ると、あちこち水たまりだらけです。

 日直で早く来た先生は、そんな雨降りの風景を三階の窓から見ておられました。

 もう、ほとんど雨は止んでいたのですが、女生徒たちは制服が濡れるのを気にして傘をさしています。男の傘は、たいてい黒一色ですが、女子の傘は、赤やピンクや色とりどりで、きれいなものです。

 その傘の一つが、突然水たまりに花が落ちたように浮かんでしまいます。

 瞬間で傘の持ち主が異世界に転送されて傘だけが残されたようになりました。

 アニメならここからワンクール13回のドラマが始まるでしょう。

 直後、周囲の生徒たちが騒ぎ始め、男子二人が上着を脱いで腕まくりして水たまりに腕を突っ込みます。

 やがて、全身水浸しの女子が助け上げられ、女子は、少し逡巡したあと、男子にお礼を言って、そのまま家に帰っていきました。

 その水たまりは、空襲で出来た穴で、日ごろ人の通る道筋でもないので埋め戻しが遅れていたもののようでした。

 さすがに、わたしたちのころは、そういう気合いの入った水たまりは無かったですね(^_^;)

 

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誤訳怪訳日本の神話・15『天岩戸(あまのいわと)』

2021-01-28 06:37:20 | 評論

訳日本の神話・15
『天岩戸(あまのいわと)』   

 

 日本史上はじめての引きこもりです。

 

 スサノオの乱暴にブチギレたアマテラスは天岩戸に引きこもり、固く入り口を閉ざしてしまいます。

 やってられっかあああああああああ!!

 すごい怒りで岩戸を閉ざします。現代の引きこもりのような湿っぽさは微塵もありません。いじけた様子もありません。

 湿っぽくいじけたようになってしまったのは、岩戸の外の世界です。

 なんといっても、アマテラスは名前の如く太陽神で、それが隠れてしまったのですから世の中は真っ暗です。

 疫病や天変地異の災いが頻発し、高天原でさえ院隠滅滅のありさまです。

 

 こういう危機的な状況には英雄が現れ、艱難辛苦の果て、多大な犠牲を払った上で解決します。RPGで勇者や姫騎士、魔導士などが活躍するパターンですね。危機的状況=英雄出現フラグであります。

 ところが、記紀神話では困じ果てた神さまたちが天の安河原(あめのやすのかわら)に大集合して対策会議を始めます。

 なんとも日本的な景色ですなあ。和を以て貴しとなすであります。

 日本は緊急事態になった場合、往々にして出足が遅れます。和を以て貴しとなすために容易に結論が出ません。時間がかかり審議審議で時間ばかりがたって、ようやく決まった時には時間遅れだったり、変化した状況にあわず失敗することもあります。頭のいい奴が「これでいこう!」と提案しても「前例に無い」「共通理解に至らない」とかで却下されてしまいます。欧米的に「そいつにかけてみよう!」には、なかなかなりません。従ってドラマにもRPGにもなりません。

 東日本大震災のおり、いち早く米軍が救援の手を挙げて『ミッショントモダチ』で助けてくれたのは記憶にも残っていると思います。

 阪神淡路大震災のときも米軍は神戸沖に空母を派遣して物資輸送やヘリコプターの展開の拠点にしようと提案しましたが、時の政府はあっさりと断っています。会議と情報収集の繰り返しに時間がとられ、本格的な救援活動はあくる日にずれ込んだという体たらくでした。

 しかし、いったん話し合いで結論を出し行動にうつすと世界に類のない力を発揮します。

 万博やオリンピックなどの国家的なプロジェクトが概ね上手くいったのは、そういう国民性の現れなのでしょう。

 近代国家には学校教育が不可欠!

 そう決まると、一心不乱に制度と学校を作り、二十年もかからずに世界に冠たる義務教育とそれ以上のハードとソフトを整えてしまいました。

 例えば、国内の小中高の学校でプールの無い学校はありません。

 これは、世界的には非常に珍しいことなのですが、昭和何年だったかに、水泳教育は必須であるということに決まり、決めたことによって、予算化され設置計画が立てられ、きわめて短時日の間に成し遂げてしまうのです。

 横道に入り過ぎました、次回は天の安河原の会議と天岩戸解放作戦の中身に触れたいと思います。

 

 

 

  

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妹が憎たらしいのには訳がある・44『桃畑律子の想い』

2021-01-28 06:18:37 | 小説3

たらしいのにはがある・44
『桃畑律子の想い』
         

    


 エレベーターのドアが開くと中年の男性が降りてきた。

 頭頂部が禿げかかって、どこか人生に疲れた中間管理職風だ。

 男は二三歩歩いたところで、緩んだオナラをした。それが情けないのか、ため息一つついて、再びトボトボと廊下を歩き出した。
 突き当たりの廊下を曲がって、バンケットサービスの女の子がワゴンを押しながらやってきた。女の子は壁際に寄り男性に道を譲って一礼をする。
 そして、男性を体一つ分見送ると、ワゴンからパルス銃を取りだして男性の背中を至近距離で撃った。男性は、また緩んだオナラをすると、前のめりに倒れ、廊下の絨毯を朱に染めた。同時にスタッフオンリーのドアから警察官が現れ、一瞬状況の判断に迷って隙ができた。女の子は、警察官を羽交い締めすると、持っていた銃で、警察官のこめかみを撃ち抜き、パルス銃を握らせると、派手な悲鳴を上げてその場にくずおれ失禁した。

「これは……」
 優奈はじめ、ケイオンの一同は声も出なかった。
「この録画が、律子を変えたんだよ……」
 桃畑中佐が、静かに言った。

 ケイオンの選抜メンバーは《出撃 レイブン少女隊!》をより完ぺきなものにするために、極東戦争で亡くなったアイドル桃畑律子の兄である桃畑空軍中佐の家を訪れていた。そして、見せられた映像が、これであった。
「これは、後で解析した映像なんだ、もとのダミー映像が、これだ」


 女の子が、ワゴンを押しながら壁際に寄ったところまでは、いっしょだが、そのあとが違った。警察官がスタッフオンリーのドアから現れて、いきなり男の背中を撃った後、自分のこめかみを撃って自殺している。


「我々は、この映像に三時間だまされた。警官がC国の潜入者か被洗脳者かと思い、その身辺を洗うことに時間と力を削がれた」
「殺された男性は」
 加藤先輩が、冷静に質問した。あとのメンバーは声もない……俺も含めて。
「統合参謀本部の橘大佐。C国K国との戦争を予期して、極秘で作戦の立案をやっていた。正体が見破られないように、あちこちのホテルや宿泊所を渡り歩いていた」
「あのオナラには、意味がありますね……」
 幸子がポツリと言った。
「さすがに佐伯幸子君だ。あのオナラは、参謀本部のコンピューターで解析すると圧縮された作戦案だということが分かった。で、二回目のオナラはセキュリティーだ。自分に危害を加えたものにかます最後ッペ。ナノ粒子が、加害者の体に被爆されるようにできている。ナノ粒子なんで、服を通して肌に付着し、さらに、吸引されることによって、半月は、その痕跡が残る。C国はそこまでは気づかなかったようだ」
「でも、同じ現場に居たわけだから、ナノ粒子を被爆していてもわからないんじゃないですか?」
「至近距離にいた警官よりも、離れていたバンケットサービスの女の子の被爆量が多いのは不自然じゃないかね……」
 中佐は、録画の先を回した。

「君の被爆量が多いのは不自然だね……」

 ホテルの職員出口を出たところで、バンケットサービスの女の子は呼び止められた。とっさに女の子は、五メートルほど飛び上がると、走っている自動車のルーフに飛び乗った。次々に車を飛び移ったあと、急に彼女は、どこからか狙撃されて道路に転げ落ち、併走していた大型トラックの前輪と後輪の間に滑り込み、無惨にも頭を轢かれてしまった。その場面は我々にも見せられるようにモザイクがかけられていた。
 幸子には辛かっただろう。幸子の目にモザイクなんかは利かない。そして、なにより自分が死んだときとそっくりな状況だったから。でも、プログラムモードの幸子は、他のメンバーと同じような反応しかしなかった。

「これを見て律子さんは……」

「亡くなった警官は、メンバーの恋人だった。そのころは公表できなかったけどね」
「そうなんだ……」
 優奈は、ショックを受けたようだ。
「でも、これはきっかけに過ぎない。律子は勘の良い子でね『同じようなこと、日本もやってるんじゃないの?』と、聞いてきた」
「日本にもあるんですか?」
「近接戦闘や策敵は、素質的には女性の方が向いている。ほら、女の人って、身の回りのささいな変化に敏感だろう」
「家のオヤジ、それで浮気がばれた!」
 ドン謙三が言って、空気が少し和んだ。
「で、この能力は15~18歳ぐらいの女の子が一番発達している。身体能力もね。そこで、空軍の幼年学校の生徒から志願者を募り、一個大隊の特殊部隊を編成した。戦史には残っていないが、これが対馬戦争の前哨戦だよ」

 映像の続きが流れた。

 対馬の山中での百名規模の戦いだ。主に夜戦なので、画面は暗視スコープを通した緑色の画面ばかり。でも、息づかいや、押し殺した悲鳴、ちぎれ飛ぶ体などが分かった。


「これで、対馬の基地への敵の潜入が防げた」
「これって、宣戦布告前ですよね」
「ああ」
「これ、政府のトップは知っていたんですか?」
「……知ってはいたが、無視された」
 ねねちゃんといっしょにお仕置きした的場防衛大臣の顔が浮かんだ。
「この大隊長は、里中……」
「ん?」
「いえ、なんでもありません」
 俺は、ねねちゃんのお母さん里中マキが隊長であったと確信した。

「律子は、これを見て《出撃 レイブン少女隊!》を書き上げて作曲し、怒りと悲しみをぶつけて平和を勝ち取ろうとしたんだよ」

 桃畑中佐は、そう言うとリビングのカーテンをサッと開けた。モニターの画面は薄くなったが、みんなの心は火が点いたままだった……。  

 

※ 主な登場人物

  • 佐伯 太一      真田山高校二年軽音楽部 幸子の兄
  • 佐伯 幸子      真田山高校一年演劇部 
  • 千草子(ちさこ)   パラレルワールドの幸子
  • 大村 佳子      筋向いの真田山高校一年生
  • 大村 優子      佳子の妹(6歳)
  • 桃畑中佐       桃畑律子の兄
  • 青木 拓磨      ねねを好きな大阪修学院高校の二年生
  • 学校の人たち     加藤先輩(軽音) 倉持祐介(ベース) 優奈(ボーカル) 謙三(ドラム) 真希(軽音)
  • グノーシスたち    ビシリ三姉妹(ミー ミル ミデット) ハンス
  • 甲殻機動隊      里中副長  ねね(里中副長の娘) 里中リサ(ねねの母) 高機動車のハナちゃん
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やくもあやかし物語・61『杉野君の視線の先……』

2021-01-27 15:06:10 | ライトノベルセレクト

物語・61

『杉野君の視線の先……』    

 

 

 小出先生に書庫の整理を頼まれた。

 

 べつに図書の当番じゃなかったんだけど、廊下を歩いていたら、小出先生が事務室から出てくるところで、出てきたところから目が合ってしまって、逸らすことも逃げることもできずに、とうとう目の前まで来ちゃったので、ペコリお化けみたく頭を下げて行こうとしたのよ。

「あ、小泉さん」

 すれ違って油断したところに声をかけられてしまった。

「今日の放課後なんだけど、急用で二時間ほど学校出なきゃならないの……」

 そういう切り出し方で頼まれてしまった。

 蔵書点検というのが学年末にあるんだけど、その準備作業みたいなこと。

 図書当番じゃないので、直接司書室から書庫に向かう。

 あ、見えるんだ。

 書庫と司書室の間にはドアとガラス窓があって、司書室出たところの閲覧室のカウンターとかが見えるのを発見。

 書庫は暗いので、照明の明るい閲覧室からは書庫の様子はうかがえない。今日は暗い側の書庫にいるので、閲覧室がよく見えるのだ。

 コンコン

「え?」

「ええ、なにやってんの?」

 当番でやってきた小桜さんが、なぜか書庫のわたしに気付いてガラス窓を叩いた。

「ええ、そっちから見えるの?」

「いま、そっちで電気点けたでしょ」

「あ、ああ」

 作業のために電気を点けたので、閲覧室からでも見えるようになったんだ。

「入っていい?」

「あ……うん」

 カウンターに杉野君が座っているので、まあ、いいかと入ってもらう。

 バタン

「あ、ちょ……」

「シーー!」

 書庫に入って来ると、わたしの肩を押えて、窓枠の下までしゃがませた。

「杉野の奴、変なのよ」

「え、変?」

「だれも居ないとこを見て、顔赤くして、溜息ついたりして。ちょっと気持ち悪いから、こっち来たの」

「え?」

「だめ、見ちゃ。キモイのが伝染る!」

「見なきゃ、分からないよ」

「でも、ほんとにキモイんだから(^_^;)」

「じゃ、こうして……」

 壁掛けの鏡を外して閲覧室の様子を映してみる。

 鏡には杉野君の背中が映っている。

「なにか見てる……」

 杉野君はドアからすぐのカウンターに座っているので、上半身全部が見えるけど、彼の視線の先は、司書室と閲覧室を遮る窓枠が邪魔で視界に入ってこない。

「見えない……」

 小桜さんは、鏡を持ったまま姿勢を高くして、鏡の向きを変えてみるが、やっぱり見えない様子だ。

「やっぱ、あいつおかしいよ」

「わたしも、やってみる……」

 しゃがんだまま鏡を受け取って、ちょっと苦労して、視線の先らしい閲覧室の奥を映してみる。

「女子がいる……」

 うちの制服着た女子が、本を数冊積んで熱心に読んでいる。

 視線を落としているので顔まではよく分からない。

 待つこと数十秒……ちょっと手がしびれてきたころ、念が届いたのか、その女子が顔をあげる。

 ちょっと斜め前の角度だけども、はっきりと見えた。

 え!?

 それは…………わたしだった。

 

☆ 主な登場人物

  • やくも       一丁目に越してきた三丁目の学校に通う中学二年生
  • お母さん      やくもとは血の繋がりは無い 陽子
  • お爺ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い 昭介
  • お婆ちゃん     やくもともお母さんとも血の繋がりは無い
  • 小出先生      図書部の先生
  • 杉野君        図書委員仲間 やくものことが好き
  • 小桜さん       図書委員仲間
  • あやかしたち    交換手さん メイドお化け ペコリお化け えりかちゃん 四毛猫 愛さん(愛の銅像) 染井さん(校門脇の桜) お守り石

 

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せやさかい・188『不敬罪ですよ!』

2021-01-27 08:54:04 | ノベル

・188

不敬罪ですよ!さくら   

 

 

 留美ちゃんのお母さんは七日間コロナと戦った。

 

 自発呼吸もでけへんようになって人工呼吸器。これがお年寄りやったら命が無いとこや。

 せやけど、留美ちゃんのお母さんは、まだ四十代やったんで、命は助かった。

 せやけど、意識が戻ってこーへん。

 主治医の先生は『脳の一部が機能を失ってる、見込みがないわけではないが、時間がかかるかもしれない』と防護服を着てアクリルのバリヤー越しに説明しはったらしい。

「うちに来てもらい!」

 わたしの説明を聞くと、テイ兄ちゃんは一言で結論を出した。

「せやけど……」

「中二の女の子が背負うには重すぎる。さいわい、うちは間数だけは多い。文芸部でも使てたし、馴染みやすいやろ」

 そこまで言うと、すぐに家族全員を本堂の阿弥陀さんの前に集めて話を決めてしもた。

「ほんなら、すぐに迎えにいこ」

 あっという間に車を出して、あたしを助手席に座らせた。

「いちおう、とりあえずいうことにしとこ」

「うん」

「いつまでも居てもろてええねんけど、留美ちゃん遠慮するやろ。あ、連絡したか?」

「あ!?」

 慌ててスマホを出してメールを打つ。

「せや」

「お、頼子さんにも打つんか(^▽^)」

「先輩やさかいね……って、すけべな顔せんとって」

「してへんしてへん(;'∀')」

 テイ兄ちゃんは、坊主にしては軽すぎる。本堂裏のうちらの部室にもしょっちゅう顔出すし、なにかっちゅうと、車に乗せてあちこち連れ出される。頼子さんが目当てらしいねんけど、露骨にひいきもでけへんので、うちら文芸部がダシに使われるんやろけど、ダシやいう気楽さが、この場合役に立つと思う。

「え、お兄さんまで……」

 テイ兄ちゃんが来るとまではメールに書いてなかったんで、玄関を開けた留美ちゃんはビックリした。

「とりあえず要るもん持ってうちにおいで」

「おいでって……」

 案の定、留美ちゃんは尻込みする。

「遠慮なんかせんとき、留美ちゃんに来てもらわんと、うちのもんは、家の事も寺の事も手につかん。頼子さんかて……」

 テイ兄ちゃんが、そこまで言うと、うちのスマホが鳴った。

「あ、頼子先輩!」

『さくら、わたしも車で向かってるところだから、え? 留美ちゃんちに居るの? ちょっと代わって』

「代わってやて」

『留美ちゃん、さっさと行かなきゃダメよ。わたしが行くまでにさくらんちに行ってること。王女様を待たせたら不敬罪ですよ!』

「は、はい」

 わたしらだけやったら説得に半日かかったかもしれへんけど、プリンセスの一言は圧倒的やった。

 ヨーロッパや日本に王制や皇室が残ってる意味を実感した。

 

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