やくもあやかし物語 2
ザワワァ……ザワワァ……ザワワァ……
風が草原(くさはら)……ううん、草原を(そうげん)を渡っていく。
戦いが始まるまでは草原(くさはら)だったんだけど、魔王子やっつけて、魔王女のスカート結界が消えてしまうと、腰砕けになってしまいそうなくらいに広い。
これは立派な草原(そうげん)だよ。
クサハラなら、ちょっと走ったら道路や街やらが見えてくる。そして、まあ一区切り、ちょっと休もうかという気になる。
ソウゲンは違う。
例えばモンゴル草原。何日走っても草が続いて果てしがない。
世界征服をやるんだ! ってチンギスハン並の根性がないと前に進めない。
ひょっとしたら、あの姉弟が最後っ屁の魔法を使ったのかと思ったよ。
だけど、わたしの妖慣れした勘は同じものだと言っている。
つまりは、わたしの中の『がんばる気持ち』が萎えてきたんだ。
草のまばらなところを選んで腰を下ろす。
ほんとうは寝っ転がりたいんだけど、リュックを腰に当てて足を延ばすだけにする。
いま、寝っ転がったら起き上がれなくなるからね。
さっきまではメイソンたちが居てくれて賑やかだった。
荷物の運搬に来てくれただけで、いつまでも居られるわけじゃないのは分かってるけど、いざ居なくなると、とても寂しい。
メイソンなんか一番の男友達とか言ってくれた。まあ、言葉のアヤだけどね。戦いの最中に少しでも景気を付けようって、いわばノリだけどね。
そういうことを言ってくれる人間が居るのと居ないのとじゃ大違い。
こんな時だから憎まれ口でもいい……ポケットに触ってみると、感触だけで分かる。相棒の御息所はとうぶん起きない。
ミチビキ鉛筆……も口を利かずにただの鉛筆になっている。
激しい戦いだったし……そうだ、こっちに来てからは喋ってないよ。
気の弱いヤクモはリュックのポケットを探ってスマホを出す。異世界だから通じるわけも無いんだけど、黒電話の交換手さんなら……電池が切れてる。
充電ケーブルはあるけど、ソウゲンじゃどうしようもない。
スマホも無しにチンギスハンはどうやってたんだろ?
ああ、ダメだダメだ。
エイヤ!
チンギスハンに成れないヤクモはなけなしの力を振り絞って立ち上がる。
いちおうは気持ちを切り替えたからね。しばらくは歩けそう。
知ってる歌を唄う。頭からシッポまで知ってる歌は少ないので、十分ほどしか続かない。
中学の校歌が一分持たなくて、お母さんのオハコだった『帝國歌撃団』を歌う。
うん、調子が出て来た!
出て来た調子のままに走る!
すると。
突然ソウゲンが終わって海が現れた。
☆彡主な登場人物
- やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
- ネル コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
- ヨリコ王女 ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
- ソフィー ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
- メグ・キャリバーン 教頭先生
- カーナボン卿 校長先生
- 酒井 詩 コトハ 聴講生
- 同級生たち アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ ヒトビッチ・アルカード ヒューゴ・プライス ベラ・グリフィス アイネ・シュタインベルグ アンナ・ハーマスティン
- 先生たち マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
- あやかしたち デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人) トバル(魔王子) トバリ(魔王女)