大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・078『ほんとうは寝っ転がりたい』

2024-10-23 15:26:20 | カントリーロード
くもやかし物語 2
078『ほんとうは寝っ転がりたい』 




 ザワワァ……ザワワァ……ザワワァ……


 風が草原(くさはら)……ううん、草原を(そうげん)を渡っていく。

 戦いが始まるまでは草原(くさはら)だったんだけど、魔王子やっつけて、魔王女のスカート結界が消えてしまうと、腰砕けになってしまいそうなくらいに広い。

 これは立派な草原(そうげん)だよ。

 クサハラなら、ちょっと走ったら道路や街やらが見えてくる。そして、まあ一区切り、ちょっと休もうかという気になる。

 ソウゲンは違う。

 例えばモンゴル草原。何日走っても草が続いて果てしがない。

 世界征服をやるんだ! ってチンギスハン並の根性がないと前に進めない。

 ひょっとしたら、あの姉弟が最後っ屁の魔法を使ったのかと思ったよ。

 だけど、わたしの妖慣れした勘は同じものだと言っている。

 つまりは、わたしの中の『がんばる気持ち』が萎えてきたんだ。


 草のまばらなところを選んで腰を下ろす。


 ほんとうは寝っ転がりたいんだけど、リュックを腰に当てて足を延ばすだけにする。

 いま、寝っ転がったら起き上がれなくなるからね。

 さっきまではメイソンたちが居てくれて賑やかだった。

 荷物の運搬に来てくれただけで、いつまでも居られるわけじゃないのは分かってるけど、いざ居なくなると、とても寂しい。

 メイソンなんか一番の男友達とか言ってくれた。まあ、言葉のアヤだけどね。戦いの最中に少しでも景気を付けようって、いわばノリだけどね。

 そういうことを言ってくれる人間が居るのと居ないのとじゃ大違い。

 こんな時だから憎まれ口でもいい……ポケットに触ってみると、感触だけで分かる。相棒の御息所はとうぶん起きない。

 ミチビキ鉛筆……も口を利かずにただの鉛筆になっている。

 激しい戦いだったし……そうだ、こっちに来てからは喋ってないよ。

 気の弱いヤクモはリュックのポケットを探ってスマホを出す。異世界だから通じるわけも無いんだけど、黒電話の交換手さんなら……電池が切れてる。

 充電ケーブルはあるけど、ソウゲンじゃどうしようもない。

 スマホも無しにチンギスハンはどうやってたんだろ?

 ああ、ダメだダメだ。


 エイヤ!


 チンギスハンに成れないヤクモはなけなしの力を振り絞って立ち上がる。


 いちおうは気持ちを切り替えたからね。しばらくは歩けそう。

 知ってる歌を唄う。頭からシッポまで知ってる歌は少ないので、十分ほどしか続かない。

 中学の校歌が一分持たなくて、お母さんのオハコだった『帝國歌撃団』を歌う。

 うん、調子が出て来た!

 出て来た調子のままに走る!

 すると。

 突然ソウゲンが終わって海が現れた。

 

☆彡主な登場人物 
  • やくも        ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド  メイソン・ヒル  オリビア・トンプソン  ロージー・エドワーズ  ヒトビッチ・アルカード  ヒューゴ・プライス  ベラ・グリフィス  アイネ・シュタインベルグ  アンナ・ハーマスティン
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人) トバル(魔王子)  トバリ(魔王女)
 
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やくもあやかし物語2・077『魔王子トバルと御息所の激闘』

2024-10-14 11:01:52 | カントリーロード
くもやかし物語 2
077『魔王子トバルと御息所の激闘』 




「ミヤスドコロぉ?」「 なんだ、その観光地の休憩場所みたいな名前はぁ?」

「ふん、哀れなな異世界王子よ。読み仮名だけ拾っても妾(わらわ)の値打ちは分かるまいぞ」

「なにを……ぼくは世界中の言語を理解する力があるんだぞ」「六条御息所……か、フフ、休憩所どころか京都の公衆トイレみたいな字面ね」「トバリヤクモは容赦ないね」「あなたは力でおしていきなさい」「ああ、リアルメイソンと同じ力だからね」「その意気よトバルメイソン」

 トバルヤクモとトバルメイソンが交互に反論してくる。

「フン、では、その公衆トイレに勝ってみよ!」

「「望むところ!」」

「あぶない、御息所ぉ!」

 ブン! ブブン! ブン!

 姉のトバリと同じような音をさせて御息所に攻撃を仕掛ける二人の分身トバル。

 フワリ フワフワ  

 ブブン! ブン!  

 フワ  

 ブブン!  

 フワリ

 トバルヤクモとトバルメイソンに分身してるんで敵わないかと心配になったけど、けっこう身軽に躱していく御息所。

「なかなかやるじゃないか、おチビちゃん」

 悪気無く禁句を使って応援するメイソン。いつもだったら「おチビちゃん言うなあ!」と文句を言うんだけど、黙々と異世界王子の攻撃をかわしていく御息所!

 ブン! ブブン! ブン! 

 フワ フワ ヒラリ フワワ 

 ブブン! ブン! 

 フワリ フワフワ ヒラリ

「頑張ってるけど、なんだか躱してばかりだなあ……だいじょうぶか?」

「だいじょうぶ、なにか考えがあってのことだと思う」

「フワフワ逃げてばかりいないでぇ」「かかってこいぃ!」

 ブブン! ブン! 

 ハラリ フワフワ ヒラリ

『よし、もうこのくらいで良いであろう』

「「なんだと?」」


 呆気にとられるトバルを尻目に両手を広げてトバリの周囲をグルリと回る御息所。
 その入っている手袋からはハラハラと星くずみたいな花粉みたいなのが振りまかれ、二人のトバリは急速に眠くなってきて一つになって元の一人トバリの姿になったよ。

『トドメじゃ!』

 ウワァアアア!

 トバルは目をつぶったまま恐慌状態になって、叫び声をあげると逃げるように急上昇した。

 ズゴン! ギャフン!

 衝撃音と悲鳴があがる。

 急上昇したトバルは、そのまま結界の頂点にいた姉のトバリに激突して消えてしまった。


 ピ~~ピピ~


 ヒバリの声だけがして、あたりは元の穏やかな草原に戻ったよ。


 でも、メイソンも他の仲間も姿が見えない。

 時間切れになったんだ。

 メイソンも言ってたし、ちょっと寂しいけど……まあ、仕方がない。

「ねえ、どうやってやっつけたの?」

 御息所に聞いてみる。

『あれはね、あいつがこれまで見た悪夢をぜんぶ思い出させてやったのよ』

 もう通常モードになって、それだけ言うとポケットの中に戻ってしまう御息所。

 ZZZZ……ZZZZ……ZZZZZZ……

「疲れちゃったんだね……しかたない、一人で行くかぁ」

 メイソンたちが持ってきてくれた食料の中からチキンラーメンを出して、ボリボリ齧りながら先に進んだ。

 ゲフ

 一袋まるまるかじって食べたら、けっこうお腹がいっぱいになった。


 キーストーンを取り返す旅はまだまだ続いていきそうだ……。



☆彡主な登場人物 
  • やくも        ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド  メイソン・ヒル  オリビア・トンプソン  ロージー・エドワーズ  ヒトビッチ・アルカード  ヒューゴ・プライス  ベラ・グリフィス  アイネ・シュタインベルグ  アンナ・ハーマスティン
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人) トバル(魔王子)  トバリ(魔王女)
 
 
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やくもあやかし物語2・076『魔王子トバル』

2024-10-10 14:38:42 | カントリーロード
くもやかし物語 2
076『魔王子トバル』 




「魔王女トバリの弟、魔王子トバルだ。見知りおけ」

 姉のトバリそっくりのニクソイ笑顔でマウントをとりに来る。

「あなたたち双子なの?」

「ああ、そうだよ。でも、戦い方は違うよ。トバリは結界を張って地霊どもを従えて戦うけど、ぼくは、こうやって戦うんだ……」

 顔の前で腕をXに組んだかと思うと、トバルの体はボンヤリと滲んで6:4くらいに分裂。そして、ふたたびハッキリしてきたと思ったら、6の方がメイソンに4の方がわたしソックリになった!

「ええ!?」

 シャキーーン

「こいつは、相手ソックリに擬態して戦うんだ……トオオオ!」

 剣を構えると、最後まで言い切らずに打ちかかるメイソン! トバルメイソンも同時に打ちかかって来る。なんだか、左右を逆に映す鏡みたいだ。

 トオーー!

 安心してはいられない、わたしにソックリなトバルヤクモの方は先手を取って討ちかかってきたよ(''◇'')!

 右手に思い槍、左手にミチビキ鉛筆を持って、トバルヤクモの攻撃を受け止める!

 ガシ!

 互いに同じ武器、同じ力なんだから打ち消し合う……と思ったら、ジリジリと押し込まれる。

 ええ、なんでぇ( >Д<)?

「相手は高い位置からダッシュしてきて勢いがついてるからだ! 少し踏みとどまればチャンスも見えてくる!」

 自分も苦しい戦いをしているのに、ちゃんとアドバイスをしてくれるメイソン。ノブリスオブリージュ! 貴族の息子だけのことはある!

 カシーン! ブンブン! ジャキーン! ガシガシ!

 メイソンは、攻撃をいなして相手の隙を誘っては攻撃を加えるけど、やっぱり同じスキルなのでラチが明かない。助けて欲しいけど、どうも無理っぽい。

 グヌヌヌ("皿″)……グギギギ(>皿<)……歯を食いしばって押し込まれないようにがんばるけど、こっちは互いに運動神経が悪いので、ひたすら押し合うだけだよ。

 ズズ……ズズズ……ズズ……

「まずい……」

 変な音がするのでなんだろうと思っていたら、メイソンの方が気づいた。

「トバリが結界をすぼめてきている、結界がすぼまると、こいつの力が増していくみたいだ!」

「ええ!? あ、ほんとだぁ……(''◇'')」

 押し込まれる力が微妙に強くなってきている」

「ほかの子たちはどうしてるんだろッ……」

 ほんとは「なにをしてんのよ!」なんだけど、優しく言ってみる。

「力を使い果たしたんだろ、もう気配がしない……」

「そんなぁ」

「僕も、そろそろ危ないかもしれない……」

「あ、ちょ……メイソン!」


 ああ、絶体絶命……と思ったら、ポケットから御息所がフワフワ浮き出て来た。


「「なんだ、おまえは?」」

 トバルヤクモとトバルメイソンが同時に声を上げる。

 そうか、御息所はコピーできていないんだ。でも、御息所の力ってたかが知れてるっぽい。

『妾は六条の御息所じゃ、畏れ多くも先の東宮殿下の妻である。見知りおけ』

 おお、バリバリのお局言葉! これは勝算があるのかも!

 

☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド  メイソン・ヒル  オリビア・トンプソン  ロージー・エドワーズ  ヒトビッチ・アルカード  ヒューゴ・プライス  ベラ・グリフィス  アイネ・シュタインベルグ  アンナ・ハーマスティン
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人) トバル(魔王子)  トバリ(魔王女)
 
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やくもあやかし物語2・075『魔王女トバリ』

2024-10-06 11:27:11 | カントリーロード
くもやかし物語 2
075『魔王女トバリ』 




「あたしが魔王女、トバリ姫よ。見知りおきなさい」

 グ

 思わず息をのんだ。

 そいつ、トバリ姫はフレアの効いたロン毛で、はっきりした目鼻立ちといい、スタイルの良さといい、等身大……よりもちょっと小さいドールのように見えた。しゃくだけど、ちょっと可愛い。

「……わたしのこと小さいと思ったでしょ?」

「あ、それは……(;'∀')」

「まあいいわ。可愛いとも思ってくれたみたいだし」

「そのトバリが何の用だ!」

 メイソンが男らしく前に立ってくれる。御息所はいつものようにポケットに隠れてしまっている。

「フフフ、辛いわね。没落貴族とはいえノブレスオブリージュ。こういう時には前に出なくちゃならないんですものね」

「用件を言え!」

「用件は知れたこと、あなたたちを抹殺することよ。キーストーンを取り返そうだなんて生意気すぎるもの」

「そうはさせん、お前も魔王子も打ち倒して先に進むだけだ」

「おお、勇ましい。それでこそ英国騎士、相手になってあげるわ!」

 ピシ!

 鋭い音がしたかと思うと、トバリの髪が静電気を帯びたみたいに四方に広がり、先っぽの方がピリピリとスパークを放ったよ!

『気を付けなさい、あいつ、ここいらの悪霊を呼び集めてるわよ』

 御息所がふつうの言葉で注意する。こういう時の御息所はあてにならない。

「やくも、囲まれている!」

 メイソンが庇いながら注意してくれる。見渡すと四方八方にモノクロで半透明なあやかしめいたのがウジャウジャとわいている。

「やくもも戦う!」

 いっしゅん迷って近衛の剣を手にして、手近のあやかしに切りかかる。

 ブン! ブブン! ブン!

 剣はむなしく空を切るばかりで、ぜんぜんヒットしない。メイソンは討ち漏らしたあやかしをどんどん切っていく。

 申し訳ない、わたしのリカバーばっかし(-_-;)。

 気を取り直して思い槍に持ち換える。

 ブン! ドシ! ブブン! ザク! ズサ!

 空振りも多いけど、リーチが長い分、そこそこにヒットする。メイソンも少しだけわたしのそばを離れて敵をぶちのめしていく。

 すこしは冒険者らしく戦えているかも(^_^;)。

 あ!?

 ちょっと油断した。斧を持ったあやかしが打ちかかってきて、さばききれずに尻もちをついてしまったよ!

『慮外者め!』

 お局言葉がしたかと思うと御息所があやかしの脳天をミチビキ鉛筆で刺し貫いてやっつけてしまう!

「ありがと、御息所!」

『貸じゃからな!』

 さっさとポケットに戻ってしまう。

「え、一回だけぇ?」

『あとはがんばりなさい』

 チ

『舌打ちすんな!』

 それだけ言うとまた引っ込む。

「メイソン、がんばって!」

 それから、メイソンと二人で暴れまわって半分ほどやっつけられて、残りの半分は分が悪いと思ったのか消えてしまった。


「少しは歯応えがありそうね」


 トバリが現れる。憎たらしいけど余裕の表情だよ。

「じゃあ、そろそろ本気でやらせてもらおうかしらぁ」

 そう言うとトバリは両手でスカートの裾をつまんで、お姫さまらしく挨拶したよ。

「いや、あれは挨拶なんかじゃない!」

 メイソンが押しのけるように前に出てかばってくれる。

「そうよ、わたしのスカートは結界なのよ。さっきは広げ過ぎて破られてしまったけど、こんどはほど良く広げて、あなたたちのシュラフにしてあげる」

「シュラフ?」

「死体袋のことだよ。気を付けて!」

「うん!」

 シュボン!

 広がるような窄まるような音がしたかと思うと、あっという間にドーム球場ほどの結界が展開され、見上げると結界のてっぺんから小さな足が吸い込まれるようにして格納されたよ。

『トバル、あなたの出番よ!』

 てっぺんから声が降ってきたと思うと、やくもたちの前にトバリによく似た王子さまみたいなのが現れたよ!



☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド  メイソン・ヒル  オリビア・トンプソン  ロージー・エドワーズ  ヒトビッチ・アルカード  ヒューゴ・プライス  ベラ・グリフィス  アイネ・シュタインベルグ  アンナ・ハーマスティン
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人) トバル(魔王子)  トバリ(魔王女)
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やくもあやかし物語2・074『メイソンが一番の男友達になる』

2024-09-30 12:29:50 | カントリーロード
くもやかし物語 2
074『メイソンが一番の男友達になる』 



 

 黒雲はみるみるうちに広がって、見上げる空のほとんどを覆いつくしていく!

 覆いつくすにしたがって伸びていくためか、厚みが薄くなって、微妙に血の色を含んだ灰色に変わっていく。端っこの方は山や草原の彼方で見えないんだけど、大地そのものを覆うところまではいかないみたい。四方の空の底からは光が入って来て、チョー巨大なドーム球場の中にいるみたい。

「サーカスのテント小屋みたいだ」「夕焼け空を映したプラネタリウム」「巨大なクラゲの下に潜ったみたい」「火星の空みたいだ」

 みんな口々に感想を言う。出身がバラバラだから、みんなイメージが違うんだけどね。

 ギャーギャー ギャーギャー ギャーギャー

 どこに居たのか鳥たちが怯えて、てんでに飛び始める。

 ピシ ピシ ピシピシ ピシ ピシピシ

 高く飛んだ鳥たちが雲の底まで来ると、電気みたいなのに撃たれ、しゅんかん光を放って消えていく。

 ピシ ピシ ピシピシ ピシ ピシピシ ピシ ピシ ピシピシ ピシ 

 それでも鳥たちは、パニックみたいになって電撃を喰らっては蒸発していく!

「ちょっと、下がって来ていないか?」

 ヒューゴが指摘して、みんな空を見渡す。

「うん」「やっぱり下がって来てる」

 ベラ・グリフィスとアイネ・シュタインベルグが怯えた声を上げ、アンナ・ハーマスティンは口に手を当てたまま声も出せない。

「あれが下りきったら、ちょっとまずいかもね」

 ロージーは冷静だけど、ではどうするかというところまでは言えないみたい。メイソンとヒューゴは叶わぬまでも、近衛の剣を抜いて空に突きつけている。

『みなのもの! 空の端っこで雲の裾を掴んで引っ張ってる魔物がいるぞよ!』

 御息所がお局言葉で状況を報告というか叫ぶ!

『ひい ふう みい よぉ……全部で八匹! やつらをやっつけたら、この怪しの雲は消えていきそうじゃぞ! みんなレベル30のゴブリン程度じゃ! わらわが指し示す、みなで退治せよ!』

「よし、じっとしていても始まらない。みんなでやっつけよう!」

 おお!!

 ロージーが声を上げると、全員が雄たけびを上げ、近衛の剣を振るって、四方に散っていった。むろん、御息所も飛んで行ったよ。

 だ、だいじょうぶかなあ。

 ひとり心配になっていると、横の薮がガサッと音がして、メイソンが戻ってきた。

「メイソン!?」

「八人で間に合うからね。ぼくたちは十人。ヒューゴはアンナのサポートに回って、このメイソン・ヒルはヤクモのガードにまわることにした」

「あ、ありがとう。でも大丈夫?」

「ああ、キミの使い魔が力を貸してくれている。きっと大丈夫さ」

 ああ、まだキチンと紹介してないから、御息所は使い魔の認識なんだ(^_^;)

 ゾワゾワゾワ……

 気配に振り仰ぐと、雲はさらに下がって来て、鳥たちが焼き殺される音は間遠になってきた。

「鳥たちは、ほとんどやっつけられたみたいね」

「だいじょうぶ、きっと間に合うさ」

「う、うん」

「ぼくの先祖はアーサー王に仕えていたんだ」

「あ、それでナイトの称号を」

「アーサー王の城の補修をする石工だったんだ。メイソンというのは元来石工という意味だからね」

「そうなんだ」

「ある日、騎士たちの大半が戦に出ていた時、城の隙をついて攻めて来た敵を留守番の騎士たちといっしょにやっつけて、その功績でナイトに叙せられたんだ」

「あ、わたしをガードしてもあげられる称号がないわ」

「きみの第一の友だちの称号でいいさ」

「あ、その席にはネルとハイジが……」

 あ、わたしって、なんて気の利かないことを言うんだ(;'∀')。

「残念」

「あ、いや、それはちがくて……」

「なら、一番の男友達の称号だ!」

「あ、それなら」

「よかった」

 え、あ、一番の男友達ってぇ(#'∀'#)!?


 プッツン!!


 その時、四方でブチギレる音がしたかと思うと血灰色の雲はみるみる縮んでいって、ほとんど真上で広げた傘ほどに縮んでしまった。

「「やったあ!」」

 傘は、あちこち穴が開いている。能力いっぱいに広げたんで支えを失って綻びが出てしまったんだ。

「「あれ?」」

 ゆっくり傘が下りてくると、傘の真ん中から二本の脚が生えてきて、地面に近くなって表の方も見えてくると胴体が付いている。

 胴体の上には首と腕も生えてきて、地上二メートルぐらいの高さにおりてくると、ひどく憎そげなお姫さまになった!

 

☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド  メイソン・ヒル  オリビア・トンプソン  ロージー・エドワーズ  ヒトビッチ・アルカード  ヒューゴ・プライス  ベラ・グリフィス  アイネ・シュタインベルグ  アンナ・ハーマスティン
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やくもあやかし物語2・073『敵の本性は魔王子らしい』

2024-09-25 11:18:45 | カントリーロード
くもやかし物語 2
073『敵の本性は魔王子らしい』 




「ハイジはね、寸前でお腹の調子が悪くなって」

『プ( ´艸`)』


 ロージーがちょっとだけ眉を吊り上げて言うと、御息所が噴きかける。

『あ、いや、ごめん』

 わたしと二人だけだったら遠慮のない御息所だけど、みんなが居ると少しは遠慮するのかもしれない。

「ああ、ごめん。タイミングがずれたら全員で来るのは無理だと思ってさ」

 メイソンとヒューゴも気を遣ってくれる。メイソンはイギリスの貴族、ヒューゴは相場師。ルームメイトじゃないけど、共通の任務ができると自然と力を合わせられるのは英国紳士だから? ううん、みんな危険を冒してきてくれてるんだ。他のみんなも――すまなかった――という顔をしている。みんなにありがとうだよ。

「うん、そうなんだ」

 入学したころは、みんなピリピリしてたけど、やっと思いやれる感じになってきたんだ。だから「うん、そうなんだ」と普通に返しておく。そして、もう一言付け加える。

「そして、ありがとう」

「よしなさいよ、運よく来れただけ。まだキーストーンが取り返せたわけじゃないんだから。ね、みんな」

「ああ」「うん」「そうさ」

 ロージーがさっぱりした笑顔で言うと、みんなドンマイの笑顔で返してくれる。

「オリビアから聞いてるんだけど、なかなか魔物たちもやってくれるみたいじゃない」

「ああ、ちょっとね(^_^;)」

「ナザニエル卿が結界を繕いながら話してくれたんだけどね、どうも敵の本性は魔王子らしいわよ」

「魔王子ぃ(''◇'')?」

 初めて聞くけど、ゾゾっとした。みんなの顔が曇ったせいかも、わたしの中に――こいつはヤバイ――という直感が働いたせいかもしれない。

 ロージーは、きれいな顔で、でも、ちょっと不敵な笑みを浮かべて続ける。

「うん、なんでも、魔王には王子と王女がいて、跡継ぎを巡って争っているらしいわ」

「そ、そうなんだ(^_^;)」

「くわせものとかの手下をいろいろ使っているから、真の敵が分からなかったけど、ヤクモが突き進んでくれたんで、ハッキリして来たみたいよ」

「そ、そうなんだ(;'∀')」

「でも、だいじょうぶ。ヒューゴがピッタリのタイミングを計ってくれて、メイソンがリーダーシップを発揮してくれたから、大丈夫、みんなで戦えるわよ」

「そ、そうなんだ('◎◇◎')」

「ちょっと、だいじょうぶ?」

「だいじょうぶよ!」

『こういう時のヤクモはいちばんヤバイから』

「うるさい、御息所ッ!」

「わたしたち、ソフィー先生から近衛の剣を持たされてきたんだけど、ヤクモはだいじょうぶ?」

「うん、三つあるし!」

 シャキーーン!

 近衛の剣とミチビキ鉛筆と思い槍が光った。

 ウワア!

 みんなが感動の声を上げた……と思ったら、わたしの後ろの方に黒い雲が現われて、みんなが驚いていたよ!

 えええ( ゚Д゚)!?

 遅れた分、みんなの三倍も驚いて、ワチャワチャするヤクモだったよ。



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  • 同級生たち      アーデルハイド  メイソン・ヒル  オリビア・トンプソン  ロージー・エドワーズ  ヒトビッチ・アルカード  ヒューゴ・プライス  ベラ・グリフィス  アイネ・シュタインベルグ  アンナ・ハーマスティン
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人) 魔王子 魔王女
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やくもあやかし物語2・072『みんな来てくれた!』

2024-09-17 14:20:16 | カントリーロード
くもやかし物語 2
072『みんな来てくれた!』 




 しばらく行くと草原は胸の高さに迫ってきた。

『やっぱり、半魚人の水のせいだろうね、伸びているだけではなくてツヤツヤとしているわ』

「感心してないで、しっかり前を見てよね。方角見失ったら元も子もないんだからね」

『分かってるわよ、だいたい合ってる。ずっとホバリングしていたから』

「たのむわよ」

 御息所の言葉が微妙に元に戻ってる。

 お局言葉っていうんだろうか、むかしの貴族女性みたいな言葉の時はアグレッシブで、率先して戦ってくれてる感じ。
 それが、ふつうの言葉遣いになると、ズボラになってくる。ふつうといっても、ちょっとわがままな感じなんだけどね。

 いまは、その『ちょっとわがままモード』なんだ。

 日本にいたころからの付き合いだから、こういう時は放っておく。

「しかたない!」

 シャラン

 左肩に掛けた近衛の剣を抜く。

 セイ! ヤー! トォー!

 恰好をつけて、佐々木小次郎みたいにぶん回す。

 バサバサと鳥が飛びたつような音がして目の前の草原が開けて、ちょっとだけ気持ちよくなる。

『その意気その意気、方角もだいたい合ってるでしょうから、がんばってね』

「んもー、時どきは確認してよね、道が合ってるかどうか」

『ん、いまさっき『こういう時は放っておく』とか思わなかったぁ?」

 チ、付き合いが長いのも考えものだよね。

 半魚人と戦った丘の位置を確認しながらでないと、ぜんぜん別の方角に向かってしまいそう。

 セイ! ヤー!  ヤー! トォー!  ヤー!  トォー! ヤー! トォー!ヤー! トォー! ヤー! トォー! ヤー! トォー!

 え、わたし以外にも声がする!?

 ちょっと数が多い、一人や二人じゃない。

 魔物とかだったらばんじきゅうす!

「ここで戦闘になったらたちうちできないよぉ(;゚Д゚)」

『しかたないわねぇ』

 ポケットから飛び出すと、頭の上でホバリングする御息所。

『……あ、学校のみんなよ! ヒイ フウ ミイ……女4人に男6人』

「ええ?」

 ここへは一度に一人しか来れないはずだよ。さっきは変換魔法でハンターがオリビアに付いてきたけど、やっぱり無理があって、すぐに消えてしまって、あらためて来たと思ったら近衛の剣だけ残してしゅんかんで戻ってしまったし。いったい何が?

「おーーい、こっちだよ、みんなあ!」

『こっちこっちぃ!』

 御息所と二人で声を張り上げると、ワサワサと草をかき分けながらみんなが集まってきた。

「みんな、どうしたの?」

 息を切らしながらも、ロージー・エドワーズが説明してくれる。

「いやあ、一人ずつ来ても、ラチ開かないでしょ。それで、ダメもとでね、みんなでジャンプしたのよ」

「よく来れたわねぇ」

「力を合わせたのよ。メイソン・ヒルが変換魔法、ヒトビッチ・アルカードが補助魔法……」

「補助魔法?」

「ああ、それはね……」

 ロージーが説明しようとするとヒトビッチ・アルカード自身が前に出てきた。

「うん、先祖から受け継いだ魔法なんだけどね、ダメもとでやってみたら意外と効果があった」

「ヒトビッチの七代前は吸血鬼だったのよ」

「え、吸血鬼( ゚Д゚)!?」

「ああ、伝説だよ伝説(^▭^;)」

「でも、ちゃんと魔力はあったじゃない!」

「ま、まあね(^_^;)」

「先祖はなんだっていいのよ、力を合わせて、それで効果があるなら。あとはタイミングね。大三角の真ん中目指して、みんなが息を合わすのはタイミングが大事」

「それについては、ヒューゴ・プライスの功績さ」

 メイソンがヒューゴの背中を叩いた。

「うちは株屋っていうか、相場師だからね。魔法のタイミングまで計れるかどうか、分からなかったけど、やったらできた。でも、みんなを引っ張ってきたのはメイソン・ヒルと」

「「「ロージー・エドワーズよ!」」」

 声をそろえたのはベラ・グリフィスとアイネ・シュタインベルグとアンナ・ハーマスティン。

「ああ、ロージーはゴッドファーザーの孫娘なんだ」

 ヒューゴがすごいことを言う。

「あ、それはお婆ちゃんの家系で、今は、みんな堅気の市民だからね(#^_^#)」

 喋っているうちにロージーとメイソンが中心になっている。

 二人がリーダーになって、みんなを引っ張って来てくれたのは事実のようだ。

 わたしって、日ごろはネルとハイジ以外とはあまり親しくしてなかったから、ちょっと感動だよ。

 ……て……あれ、ハイジはどうしたんだろう?

 

☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド  メイソン・ヒル  オリビア・トンプソン  ロージー・エドワーズ  ヒトビッチ・アルカード  ヒューゴ・プライス  ベラ・グリフィス  アイネ・シュタインベルグ  アンナ・ハーマスティン
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人

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やくもあやかし物語2・071『ハンター再び現れて近衛の剣を残す』

2024-09-04 14:04:16 | カントリーロード
くもやかし物語 2
071『ハンター再び現れて近衛の剣を残す』 




「時間切れで戻ったんじゃないの!?」


 マーフォーク(半魚人)とともに海になりかけていた水も消えた草原。剣を地面についてゼーゼーいうハンターに声をかける。
 
「もう一度試してみたんだ。親父が野球の監督でね、9回の裏に同点にして延長戦て感じかな(^_^;)。ソフィー先生が近衛の剣を持ってきてくれていてね――あ、使ってみたい――と思ったら、来られたというわけさ」

「あ、待ってて、すぐにあがるから!」

『ちょ、やくも!』

 御息所が急降下して来てタオルで隠してくれる。

 間一髪のところを助けてもらったんで、思わず裸のままで飛び出すところだったよ(^_^;)。

 で、服を着て出て見ると……あれ?……近衛の剣だけが残っていてハンターの姿は無かった。

「もう帰っちゃった? 9回の裏のピンチヒッターって感じだったねぇ」

『はつらつとした男だと思っていたけど、野球選手の息子だったんだ』

「監督って言っていたよ」

『か、監督は元々は選手であろうが』

「そうだね……剣、どうしよう」

『持っていくしかないだろ』

「そうね……よいしょ……ちょっと長い(^_^;)」

 腰につけてみるんだけど、地面をこすってしまう。

「肩に担ぐか……」

 忍者みたいに担いでみる。ちょっとカッコいいかもしれない。

『おお、佐々木小次郎みたいじゃ』

「ささきこじろう?」

『宮本武蔵を知っておろうが』

「あ、ああ、宮本武蔵にやっつけられる人!」

『あれは、武蔵がゴチャゴチャ言ってイラつかせるから。ほんとは、武蔵に負けないくらい強いのじゃ!』

「そ、そうか、ならいいか……でも、わたしにはミチビキ鉛筆があるよ」

『武士は二本差しと言って、大小二本の刀を持っているもんじゃ』

「そうか、ならいいや」

『ふふふ( *´艸`)』

「なによ」

『では、参るか』

「おお!」

 緩やかな坂を下っていくんだけど、マーフォーク(半魚人)があれだけの勢いで出した海は水たまりさえ残っていない。振り返るとカルデラからは春のタケノコよりも早いスピードで木が生え始めている。

「ふふ、あの半魚人、見た目にエネルギーを使いすぎなんだよね」

『ふふ、けっこう必死だったけど……まあいい、意気軒昂なのはいいことじゃ』

「見た目も実力もなかなかよ、見てなさい……」

 トォォォーーーー!

 ジャンプすると同時に旋回して、カッコよく背中の剣を抜く!

 グヌ!?

 旋回はできたけど、着地しても剣が抜けない。先っぽの方が鞘に入ったままで、うでは伸びきって突っ張らかってしまう。

『アハハ、なるほど、カッコいいのう』

「なんで、こうなるの?」

『右肩に掛けておるからじゃ』

「ええ、だってドラマとか映画とか、右肩じゃない」

『ためしに左掛けでやってみ』

「……こう?」

『それで、さっきみたいに抜いてみよ』

 トォォォーーーー! シャラン!

「抜けた!」

『さあ、参るぞ』

「お、おお」

 なんで?

『行くぞ』

「うん」

 御息所と二人、さらに先に進んだ。



☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
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やくもあやかし物語2・070『マーフォークに一撃くらわせたんだけども』

2024-08-31 10:51:11 | カントリーロード
くもやかし物語 2
070『マーフォークに一撃くらわせたんだけども』 





 ズボゥーーーン!! ザッパーーーン!! ドッブーーーン!!

 半魚人マーフォークが電柱ほどの化物フォークを振るう! その度にカルデラから水が噴き出し低地の野原を沈め、林を洗う!

 ザプーーン グァラーーン ドプーーン

 水が噴き出す度に燗風呂はわたし一人を入れたままもみくちゃになる。

 このままでは沈んでしまう……ゲホ! ゲホゲホ!

 このままでは湯船に水が入って沈んでしまう、ゲホ! いやだ、だってお風呂に入っているんだからすっ裸なわけで、このまま溺れ死んだらメチャクチャみっともない!

 ザプーーン!

 あ、沈むぅ……と思ったけど沈まない。

 相変わらず、湯船の中はお湯のまま。いっしゅん水は入って来るんだけど、すぐに湯船の外に弾かれて、湯船の中はずっと同じ量のお湯のまま。

『それは、元々は八犬伝の八房がお礼にくれた神木の風呂じゃ(やくもあやかし物語128『八房のお礼』)。誇り高き風呂なのじゃ! 風呂の湯と定められた水しか受け付けないのじゃろ!』

 手袋を寄せてきて、それだけを言うと、次に来た波を躱してまた飛び去って行く御息所。

 沈む心配は無いと分かったけど、このままだと、ただ波に翻弄されているだけで何もできない。

 あ、大きいのが来る!

 調子に乗ったマーフォークが大きくフォークを振るうと怪獣みたいに凶暴な大波が起こって向かって来る!

「あれに掴まったら、さすがに飛ばされてしまうよ(;'∀')」

『これを使えぇ!』

 御息所がミチビキ鉛筆を投げてくる。

「ありがとう!」

 取りあえずお礼を言うのは、我ながら性格だろうね(^_^;)。

 どうしたらいいんだろう!?

 怖気づいていると、握ったミチビキ鉛筆がプルっと震えて空を指した。

 すると、湯船からマーフォークの首までチャートみたいに点線とポイントが現れた。

 え、これってチャートをたどってマーフォークの首まで行けってこと?

『行って、こやつをやっつけろということじゃろ!』

「簡単に言わないでよ(´;△;`)」

『なんとかしろぉ(>○<)』

「そう言われてもぉ」

 チャートは、マーフォークの動きに合わせて絶えず変化している。こんなのどうやってトレースしていきゃいいのよ。

 ブルン!

 湯船が一瞬震えた、いや武者震い?

 ビュン!

「あ、ちょ!」

 焦れた燗風呂はわたしを乗せたまま、チャートのポイントをなぞって飛んでいく。

 そうだ、元々はミチビキ鉛筆は目的地やら、目的地までの道筋を示してくれる魔道具なんだ。

「よし、信じて行くよ!」

 ビュン ビュンビュン

 わたしの言葉に勇気づいてミチビキ鉛筆は燗風呂とともにマーフォークの首筋までわたしを運んで行った!

「成敗!」

 ミチビキ鉛筆をソードモードにし、横殴りにマーフォークの首を切る!

 チャリン

 めちゃくちゃショボい音がして鉛筆はやつの首をこすっただけだ(;'▢')。

 ギロ

 に、睨んできた(;'△')!

 ビュン!

 とりあえず逃げる!

 ブブン!

 やつのフォークが頭上に振るわれて生きた心地がしない!

 ブン! ブブン! ブンブン!

 ビュン ビュンビュン ビュン!

 ひたすら逃げる!

 ブブン! ブンブン! ブン!

 何十回か逃げて、もうダメだと思った時だった。

 ズサッ!!!

 すごい斬撃の音がしたかと思うと、マーフォークは真っ二つに切られ、切られた部分は、人と魚に分かれて、分かれるととても弱っちくって、それぞれ別々に逃げて行ったよ!?

 見下ろすと、時間切れで戻ったはずのハンターがごっつい剣を地面に突き刺して、ゼーゼーあえいでいた。

 
☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
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  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
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やくもあやかし物語2・069『マーフォーク現る!』

2024-08-27 08:28:12 | カントリーロード
くもやかし物語 2
069『マーフォーク現る!』 



 あ……


 オリビアがきれいな横顔で驚いた。

 鼻筋もきれいで、顎から喉にかけてのラインがディズニーのプリンセスみたいに優雅。

「虹が掛かってるわ」

「フヘ?」

 もうかれこれ三十分もお湯に浸かっているのでふやけた返事になる。

「ほら」

 首をひねるとカルデラの上に『オーバーザレインボー』を歌いたくなるような、おあつらえ向きの虹が出ている。

「ああ、まだポンプが回ってるんだ」

 カルデラから引いたホースは、あちこち穴が開いていてミスト発生機みたいに水を噴き出し続けていたんだ。それに、太陽の角度がドンピシャで虹を描いてる。

『ポンプのスイッチはとっくに切ってあるぞよ』

「え……」「だってぇ……」

 虹に見惚れて、お風呂の湯気みたいにあいまいな返事をしてしまう。

『……おかしい!』

 ジャブ

 お風呂から跳びあがると、手袋に収まってポンプを見に行く御息所。

 ザッパーーーーン!!

 盛大に水が噴き上がったかと思うと、身の丈20メートルはあろうかという半魚人が空中に躍り出た!

「グゥワハッハッハ! 礼を言うぞ人間! 我は、この海に君臨し、このあたりを知ろしめていたマーフォークだ!」

 そう言うと、噴き上がっていた水の一部が凝り固まってでっかいフォークみたいに変わってマーフォークの手に収まった。

『な、なにを申しておる、ここは一面の野原とか林とかではないか!』

「ここは、元々は海だったのじゃ。それが、要らざる神が現われて海の水を大地の底に、このマーフォークと共に落とし込み、このカルデラに儂を封印したのだ」

「そのフォークさんが、どうして……」
「怪獣みたいに現れたのよ!?」

「ワハハハハハハ!!」

 チャプチャプ グラグラグラ

「「キャァ~~((>〇<))」」

 カルデラも地面も振動し、わたしはオリビアと鍋の中のゆで卵みたいに揺れてしまう。

『あ、ゆで卵みたいだなんて思うではない!』

 御息所の忠告は遅かった!

 ピキ ピキピキ ピキ!

 オリビアの体にひびが入った!

「オリビア!」

「あ、だめ、もうここに居られないわ(''◇'')」

 ヒビが全身にまわったかと思うと、割れ目からタマシイみたいなのが滲み出てすぐに消えて行ってしまった!

 学校の仲間は魔法の効果で助けに来てくれているんだけど、まだまだ未熟なので時間に制限があるんだ! マーフォークの出現にビックリして、それが早まってしまったんだ!

 くそ、せっかく裸の付き合いができたところだったのにぃ!

『やくも、あぶない!』

 御息所の声に振り仰ぐと、まさにマーフォークの化物フォークが振り下ろされるところだったよ!



☆彡主な登場人物 
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やくもあやかし物語2・068『オリビアとお風呂に入る』

2024-08-23 14:55:25 | カントリーロード
くもやかし物語 2
068『オリビアとお風呂に入る』 




「……ということは、今のわたしたちはお酒のとっくりということね(^▽^)」

 お風呂のお湯が沸くのを待ちながら燗風呂の説明をしてあげると、子どものようにおもしろがるオリビア。燗風呂は元々はお酒をお燗するものだからね。
 
 お風呂の湯は「わらわの風呂だからわらわが沸かす」と御息所がいっしゅんで水をお湯にした。日本に居たころから好きな時にお風呂に入るため、自然に覚えた魔法らしい。

 で、お風呂が沸くと、三人でいっせいにお風呂に入る。

 女同士だけど、すっ裸は恥ずかしがるかと思ったんだけど、オリビアはこだわりはないようで、わたしより先にスッポンポンになる。

「ああ、木の香りがとてもいいですね。なんだか、森林浴とお風呂を同時にやってるみたいですぅ」

「プリンスエドワード島は木のお風呂だったの?」

「ううん、FRPというのかしら、プラスチックの一種だと思うわ。学校の『福の湯』もいいけれど、こういうお風呂も素敵よ。日本はいろんなお風呂があって羨ましいわ。ね、御息所さん……あら?」

 御息所は、わたしの肩に乗っかり首に寄りかかって居眠っている。

「まあ、かわいい。恋人たちの小道で出くわす妖精みたい」

 恋人たちの小道で思い出した!

「プリンスエドワード島って『赤毛のアン』の島じゃない?」

「え、ええそうよ。そうか、やくもは『赤毛のアン』を知ってる人なんだ!」

「うん、愛読書だったからね(^_^;)」

 他に『怪談奇談』とか『ゲゲゲの鬼太郎』とかあるんだけど、それは言わない。

「ということは孤児院から……」

 言いかけて失礼だと思って口をつぐんでしまう。

「アハハ、アン・シャーリーじゃないわ。でも……ちょっと似てるかなあ」

「どういうこと?」

 不躾だとは思いながら、つい身を乗り出してしまう。

「元々はトロント。でも、賑やかでごちゃごちゃしてるんで、お父さまが『大学に行くまでは静かで環境のいいところに住むべきだ』とおっしゃって、12歳の秋からプリンスエドワード島で暮らしているの」

「ひとりで?」

「ううん、家庭教師を兼ねたメイドさんがいっしょに、他にも交代で、島には、わたしの家の他にも会社の保養所があって。あ、もともと保養所があるんで、こっちの方がついでなのかもしれないわ」

「オリビアのお家って、会社を経営してるの?」

「あ、うん……」

 あんまり家の事には触れない方がいいみたい。

「あ、そんなことない」

「え?」

「あ……」

「オリビアって、人の心が読めたり……?」

「え、あ、いや、そ、それはね(#'∀'#)」

 あ、地雷を踏んでしまった?



☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
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  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
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  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
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やくもあやかし物語2・067『ポンプで水を入れる』

2024-08-19 13:05:47 | カントリーロード
くもやかし物語 2
067『ポンプで水を入れる』 




『あっちに水があるーーー(>〇<)!』


 デラシネの手袋に入れて放り上げると、校舎の屋上ぐらいの高さで御息所が叫んだよ。

「行ってみましょうか(^▽^)!」

 オリビアが元気に前に出て、二人で御息所が指差したところに向かった。

 そこは、草むらが少し高くなっていて、丘というほどじゃないんだけど、遊園地の広場なんかで人工的に作られた山ぐらいの感じ。
 浅間山のカルデラを1/100ぐらいにしたら、こんな具合という感じで、カルデラの中にはきれいな水が漲っている。

「火山みたいだから濁っているかと思ったら」

「けっこうきれいですねぇ」

『ほれ、これを使って水を汲め』

 御息所が、キャンパス地の布バケツを放って寄こす。

「ありがたいけど、これだと何十回も往復して、お風呂入る前にくたびれてしまう」

『わたしも手伝うぞ!』

 えらそうに差し出したのは、デパ地下でジュースの試飲に使うような小さな紙コップ。

「お気持ちは嬉しいのですが(^_^;)」

 オリビアも笑顔のまま困ってるし。

『う~ん……じゃあ、あれはどうだ!』

 御息所の後をついていくと、カルデラの縁の草むらにポンプとホースが置いてある。

「看板になにか書いてありますわよ」

 オリビアが倒れた看板を起こすと――水を使う時は、これを使用してください――と書いてある。

「なかなか行き届いているわね。でも使い方は……」

「ええと……」

 オリビアが操作するとパイロットランプが数回点滅して、その横の赤ランプが緑に変わった。

 ブィーン

 ポンプが動き始めた!

『オリビア、慣れてるみたいだな』

「ええ、プリンスエドワード島に住んでいたころに、使ったことがあるの」

 プリンスエドワード島、どこかで聞いたことがある。

『あ、ダメだ、ホースに穴が開いていて水がダダモレだぞよ!』

「あらあら」
 
「ちょっと見てみる!」

 ホースを伸ばして、先の方からチョロチョロ出てくる水を確かめてみる。

『どうだぁ?』「どうかしらぁ?」

「うん、勢いは無いけど、いけるみたい。水もきれいなままだし」

「じゃあ、ちょっと時間はかかるけど、このままお風呂に入れてみましょうか」

「うん、そうだね。バケツで汲むよりはウンとましみたい」

 カルデラからホースを伸ばして風呂桶に先っぽを入れる。水の勢いでホースが暴れてはいけないので、しっかりと押さえたよ。

「ヤクモさんも、慣れてらっしゃるみたいですねぇ」

「あ、実家で庭掃除とお風呂掃除は、わたしの仕事だったし。オリビアは?」

「わたしもお風呂を沸かすのはやりましたけど、掃除や片づけは通いのメイドさんがしてくれましたので」

「あ、やっぱりオリビアはお嬢さまなんだぁ」

「いえいえ、父や母が心配性なだけで(^_^;)」

 いや、ぜったいお嬢さまだよ。でも、こういうことを深入りして聞くのは下品だからね。

 わたしも、中学を卒業して、今の学校に入って、ずいぶん賢くなったと思うよ。

『じゃあ、もっかい水を流すぞよぉ』

 御息所がスイッチを入れて、ホースが生き物のようにピクピクして水が流れ始める。

 プシューー

 数秒して水がやってきたけど、あちこち何十か所も水漏れ。

 でも、漏れた水は盛大なミストみたいになってクッキリと虹を映した。

 ウワァ!

 少しの間、三人で見とれてしまったよ。

 
 
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やくもあやかし物語2・066『お風呂に入ろう!』

2024-08-15 14:12:50 | カントリーロード
くもやかし物語 2
066『お風呂に入ろう!』 



 せっかくだからお風呂に入ろうということになった。

『いくわよぉ……一の二の三(ヒのフのミ)!』

 メキメキメキ!

 御息所がデラシネからもらった手袋(036『交換手さんの提案』)を振ると、飯盒ほどの大きさだった燗風呂が立派なヒノキ造りのお風呂になった。

 おお(^〇^)(^◇^)!

『うん、今日は調子がいい。おまけよ!』

 ザザザザ!

 草原の草がひしめくように寄り集まって、脱衣所と囲いができる。

「あらあ、脱衣カゴにバスタオルもあるじゃありませんか(^▽^)」

『一通りはそろっておるぞよ』

「ほんとだ、洗い場にシャンプーとボディーソープもあるよ、御息所って、ここまでできたんだぁ!」

『うん、温泉の素とかもあるからなぁ……箱根の湯なんかどうだぁ?』

「すてき」

『ふふふ、看板も付けようか……それ!』

 囲いの上に『御息所温泉』の看板、入り口には『ゆ』のノレンまで付いた。

「さあ、あとはお水を入れて、お湯を沸かすだけですねえ」

「じゃあ、お湯を頼むよ、御息所」

『よし!…………それ!……えい!……やぁ!…………(;'∀')』

「どうしたぁ?」

『ま、魔力が切れた……(-_-;)』

「もう、肝心のお湯が無かったらなんにもならないじゃないよ!」

『し、仕方がないだろ、無いものは無いんだから(''◇'')』

「ここまでそろったのに、もったいないわ。近くに川とか池とかは無いのかしら?」

「そうだ、樺太の時みたいに空を飛んで探してみてよ」

『え、わらわがか!?』

「いくよぉ」

『ちょ、待っ……!!?』

 ビュン

 手袋に突っ込んで、空高く放り上げてやる。

 ウワアアアアアアアア!

 さすがデラシネの手袋、あっという間に空高く上がってしまったよ。



☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女
 
 

 


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やくもあやかし物語2・065『オリビアの御息所観』

2024-08-09 15:18:47 | カントリーロード
くもやかし物語 2
065『オリビアの御息所観』 




「ねえ、もうなにか魔物とか妖とか出たかしらぁ(^▽^)?」

 肝試しの順番が回ってきて、ちょうど戻ってきた友だちに聞くように目を輝かせるオリビア。

 聴講生の詩(ことは)さんと並ぶ清楚な子なので、いいところのお嬢さんと思って、あんまり話したことも無い。
 ハイジのルームメイトでもあるんだけど、あまりハイジに打ち解けた様子もないので、美人だけど堅物な子なんだと思っていたよ。

「アーデルハイド(ハイジの本名)はね、表面のわたしだけを見て、そう思ってるんだと思うわ。あんまり自分を前に出すのも気が引けて、日常のあいさつ程度にしか話せてはいないですからね。同じ部屋にいるんだもの、一年生の内にはお友だちになれると思っていてよ」

 ああ、この喋り方じゃダメだろうなぁと思う。あまり人のことは言えないけど。

 でも、とくにメゲてもいないし、悪口を言う感じでもないので、いい子なんだと思う。わたしも、自分から進んで友だちを作るタイプじゃないので、これはいい機会になるかもと思ったよ。

「うん、化物めいた感じじゃないんだけどね……」

 織姫に出会って、額田王(ぬかだのおおきみ)や間人皇女(はしひとのひめみこ)に出くわしたことを話したよ。むろん、日本の万葉集の人物なんで、簡単に時代背景の話しとかもしながらね。

「まあ、それは素敵! あ、ごめんなさい。実際に戦ったら大変だったんでしょうけど」

「ううん、ネル、コーネリアもがんばってくれたしね」

「あ、コーネリアのことはネルって呼んでるの?」

「あ、うん、ルームメイトだしね」

「あ、そうよね……」

 あ、オリビアはハイジとは打ち解けられてはいないんだった(^_^;)。

「でもでも」

 リカバーしようと思ったら、オリビアの方が身を乗り出してきたよ。

「そういうマンヨウシュウ系の妖が出てくるのは、やくもの知識とか才能に感応してのことじゃないかしら?」

「え、そうなのかなあ( ゚Д゚)?」

 こっちがビックリしたけど、ひょっとしたらそういうものなのかもしれないという気もしてきたよ。

「ええ、魔物の中には、その人の知識や思い出の力を借りて姿を現すのもあるというわよ」

「え、そうなの?」

「とんでもない魔物や妖が出るかと覚悟して来たけど、ちょっと楽しみになったかもしれないわ(^○^)」

『それは違うぞよ!』

「きゃ(>○<)!」

 ポケットからいきなり御息所が飛び出してきて、座ったまま跳びあがるオリビア。

「いきなり出てきちゃダメでしょうがぁ」

『そなたらが間違った認識をしておるからよヽ(`Д´)ノ』

「な、なになのかしら、この子は?」

「驚かしてごめんね。日本から付いてきた妖……」

『あやかしだってぇ!?』

 二人の顔の高さまで飛び出て文句を言うミヤスドコロ。

「あ、いや、実はねぇ、この子は六条の御息所って云って……」

 ちょっと込み入ってるけど、御息所の話しを源氏物語から説き起こして説明する。

「源氏物語なら少し知ってるわ。今年は大河ドラマにもなっているし、ドナルド・キーンさんの本も読んだわ」

「アヒルのドナルドなら知ってるんだけどぉ(^○^;)」

 学校のみんなが交代でサポートしに来てくれるのは嬉しいけど、ちょっとめんどくさいかもしれないと思ったよ。

「あ、いろんな人が言ってるんだけど、六条の御息所は寝ている間に鬼になって人を呪い殺すって……」

『ゆ、ゆうなあ(>△<)!』

「違うのよ。夕顔って可愛くて儚げな女の子を取り殺してしまうところがあるでしょ『廃院の怪』というくだり」

『わあーわあー、ゆうなあ(>▢<)!』

「あれって、物の怪が夕顔を殺して、その物の怪が六条の御息所と……」

『ゆうなあ(*◎皿◎*)!!』

「あれって、源氏の君が夕顔を廃院に連れ出して三日三晩……励んだ結果夕顔が突然死んでしまって、それを物の怪のせいにした……という話でしょ。もともと丈夫じゃなかった夕顔には無理だったのよ。それを六条の御息所のせいにして、それも、文中じゃあくまでも物の怪と書いて、読者は『ぜったい六条の御息所』が取り殺したと思うようにしてあるのよ」

『そ、そう思ってくれるのかぁ?』

「ええ、絶対そうよ!」

『オリビア、いいやつだなぁ、おまえ( ノД`)』

「サキュバスは、あんな殺し方はしないものよ」

『だからぁ、そういうサキュバスちがうしぃ!』

 ああ、やっぱりややこしくなる(^_^;)


☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女
 
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やくもあやかし物語2・064『ハンターとオリビア』

2024-08-05 11:16:01 | カントリーロード
くもやかし物語 2
064『ハンターとオリビア』 




 お別れの言葉も言えずに消えて行ったネルに、少しの間呆然としてしまう。

 分かってはいたけど、ワタワタして、そして寂しくなって。それでも、キーストーンを取り返す旅は続けなくちゃならない。

 よし!

 気合いを入れ直して、少しでも進んでおくことにする。

 う……(;'○')

 一歩ふみだそうとしたら、縁起の悪いことに靴ひもが切れてしまった。

 いっしゅん、ほんのいっしゅんだけど、靴ひもが切れたのを言いわけにして、こんな旅は止めてしまおうかと思ったよ。

 一面の野原の異世界。

 この異世界にいる普通の人間は自分一人だけなんだと思うと、無性に心細い。

 魔法特性が高いから、このキーストーン奪還の役目を仰せつかったんだけど。高いのは魔法特性だけで、それ以外は他の仲間と変わらないよ。歩いたらくたびれるし、お腹はへるし、眠くもなるし、汗もかくからお風呂にもはいりたいし、ときどきは「だいじょうぶ?」とか聞かれて「うん、だいじょうぶ(^_^;)」とか言ってみたいよ。

 こういう時、いつも憎まれ口を言う御息所は、くたびれたのか、ポケットで寝てるし。

 でも、仕方がない!

 ペシペシ

 ほっぺたを叩いて靴ひもを調べる……半分までならいけそう。

 靴の穴の下半分のところで靴ひもを結び直す。


 …………これ、結び直して立ち上がったら、ぜったいクラっとくるよ。


 用心してひもを結ぶ……やっと結び終えると、クラっときた!

 え、まだ立ち上がってないのに?

 と思ったら、目の前にハンター・ヤングとオリビア・トンプソンが現れた。

 クラっときたのは、二人の出現でいっしゅん空間がひずんだからなんだ。

 ハンターは脚を広げて尻餅をついているけど、オリビアはヘタりながらも、ちゃんとスカートの前を押えている。

 オリビアは良家の子女だから、こういうとっさの状況でもつつしみ深いんだ!

「あ、やっぱり二人で来られたわ。あ、こんにちはヤクモ」

「ごくろうさま! ネルが急に戻っちゃって、覚悟してたところだったから、嬉しいよ(#^▽^#)!」

 なんだか泣きそうになった。

「荷物多いし、女子を一人で行かせるのは心配だし、ダメもとで変換魔法を使ったんだ」

 変換魔法……そうだ、節分で豆まきするのに散らからないように、豆にかけた魔法だ(028『ソミア先生の変換魔法と豆まき』)。

「ほら、三日分の水と食料、他に小物いろいろ。それに、これだ」

「あ、それは!」

「聴講生の詩(ことは)さんが、これがあったら役に立つはずって、やくもの部屋から持ってきたんだ」

「あ」

 それは御息所用のお風呂だ。

 日本に居た時に、里見さんとこの八房がお礼にくれた(やくもあやかし物語128『八房のお礼』)やつ。ほんとはお酒の燗風呂なんだけど、魔法の燗風呂で、わたしでも使える。

「ほら、渡しとくよ……」

 荷物を差し出したところで、ハンターの体が消え始めた。

「あ、変換魔法かかってたからなあ……ごめん、やくも……」

 そうだ、変換魔法は節分の豆が散らからないよう、時間が経てば消えるように設定された魔法なんだった!

 ということは……?

「だいじょうぶ、消えたら元の世界に戻るだけだってソミア先生が言ってたわ」

「そ、そうなんだ」

 女子ふたりで、ちょっと心細い……とは言わなかったよ(^_^;)。



☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女
 
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