大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・084『デラシネが来てくれた』

2024-12-14 10:35:51 | カントリーロード
くもやかし物語 2
084『デラシネが来てくれた』 




『なにかお困りですか?』

 ああ~なんか落ち着く(^_^;)。

 交換手さんの声は聞いているだけで落ち着くような気がするよ。いっそ送話器の穴に吸い込んでくれて学校の自分の部屋、いっそ、日本の自分の家に連れて行ってくれたらとか思ってしまう。

『あいにく、そういう技能は持ち合わせておりませんので』

 ああ、読まれてる(^△^;)。

『デラシネがこっちに来てくれたんだけどね、別次元化したみたいで、こっちはデラシネのこと見えてるんだけど、あの子からこっちは見えないし、話もできないなの。同じ砂浜なんだけど、ちがう砂浜になってて、へのへのもへじを描いたら切れ切れになって……』

「ああ、それじゃ分かんねえと思うぞ」

 ハイジがすごく真っ当なことを言う。

『いいえ、長い付き合いですから分かりますよ』

「「ほんと!?」」

『きっと、あの日の真岡のようなんですね……』

 あ……そうだった。交換手さんはソ連軍が攻めてくる真岡の電信局で、海の向こうの日本を思いながら死んでいったんだ。

『ミチビキ鉛筆さんは居ますか?』

「グタっとして使い物にならねえ」

 ハイジが先に応える。

『受話器をミチビキさんの耳もとに持って行ってください』

「あ、うん」

 一センチあるかないかの受話器を指でつまんでミチビキ鉛筆の芯の下に持っていく。

「そこが、こいつの耳なのかぁ?」

「たぶん……」

『…………………』

 場所は合っていたようで、ヒソヒソと交換手さんの声がする。

『……………だけでいいんです』

『…………………』

『はい、よろしくお願いします……話はつきました。ミチビキ鉛筆をオモイヤリの先っぽに載せて、鉛筆の芯が光った方角に進んでください。それじゃ、ミチビキさん、よろしくね』

 そこまで言うと、受話器は『ツーツーツー』と任務終了の音がして、御息所のポケットに戻しておく。

 オモイヤリの穂先の上で二三度回ったかと思うと、ピタッと二時の方角……一時の方角……六時の方角……と向きを変えて、その都度その方角に進む。

「あ、デラシネ来るぞ!」

 タタタタタタタタタタタタタタタタタタ!

「デラシネ!」

 フワ

 思わず声に出て、正面から掴まえようとすると。風圧だけを残してすり抜けていくデラシネ。

「風を感じた、もう少しだぜ!」

「うん、がんばろ!」

 オモイヤリのミチビキ鉛筆をかざして、さらに二度三度と次元の狭間を超えていく。

 ドッシン!

 右の肩に衝撃! と、思ったら、デラシネがタタラを踏んで三メートルほど先でひっくり返る。

「やったぜ!」 「やっと会えた!」「やっぱり居たんだ!」

 砂を払って立ち上がるデラシネ。

「あきらめないでよかった(#^▢^#)!」

 あんなに愛想のなかったデラシネ。やっと小さな声で、そっけなく喋るようにはなったけど、こんどはハイジに負けないくらいピョンピョンしておっきい声で叫んだよ!

「ありがとう、デラシネも手伝いに来てくれたんだね!」

「ううん、手伝いじゃない!」

「「え?」」

「じつは、もう解決したんだ」

「「ええ?」」

 ハイジといっしょにビックリすると、どこかであいつらも息をのむような気配がした。

「こないだ、ナザニエル卿と露天風呂で話しただろ」

「あ、うん」

 あの露天風呂で、ナザニエル卿はやつらのことや、学校を森や敷地ぐるみ包んでしまう大結界の話をしてくれたんだ(044『露天風呂のナザニエル卿』)。

「あの温泉は性質がいいんで魔法の効きがいいって言ってただろ」

「あ、うん」

「敵もそれに気づいて、キーストーンを露天風呂に隠したんだ」

「「ええーーー!?」」

「派手に暴れまわって持ち逃げしたように見せかけて、露天風呂の岩の隙間に隠して、後で取りに行く……マジックみたいなことを狙ったんだ」

「そうか、あそこは隠れるにはもってこいだから、秘密の話しもできたわけで、つまりはモノを隠すにももってこいなんだ!」

「ここにいたら、果てしない消耗戦が続くだけ。さっさと戻って、破れ目は封印してしまおう! そういうことになった!」

 ザワザワザワザワ!

 デラシネが言い切ると、海の上や砂浜の上の空が騒めき始めた!

「早く逃げなきゃみてえだぞ!」

「簡単に言うけど……」

 ここまでの道のりを思うと、走り終えたマラソンをもう一度やれと言われたみたいで腰砕けになりそうだよ。

「ちょっと貸して!」

「え?」

 返事も効かずにオモイヤリごとミチビキ鉛筆を取ると、グッと念を籠めるデラシネ!

 ビビビビビビ!

「セイ!」

 帯電したようにスパークを放つミチビキ鉛筆を投げると、ミチビキ鉛筆はオモイヤリの上で激しく回転すると三人の目の前を指した!

 ピシ!

 鋭い音がして、さっきとは比べ物にならないほどハッキリした脱出口が現れた。脱出口の向こうには露天風呂が見えてる!

 飛べええええ!!

 そう念じると、脱出口がググっと迫って来て三人を包んだ。

 ドッコーーン

 瞬間、後ろでくぐもった音がして、間一髪であいつらの攻撃を避けたことが分かったよ!


 ドッポーン!


 水しぶきを上げて露天風呂に落ちた。

 ちゃんと服も脱衣場の籠に収まっている。

「ああ~助かったんだぜ~~」

 ハイジが瞬間でくつろいで、オッサンみたいに岩を背に大の字になる。

「もう、寛いでる場合じゃないよ、みんなに報告しないと」

「あ、でも……」

「「ああ……」」

 籠がフワフワ浮いて、脱衣場の洗濯乾燥機の方に行ったかと思うと、中身を放り込んで洗濯が始まってしまった。

「洗濯が終わるまでは仕方ねえみてえだなあ」

「だね」

「そうねえ(^_^;)」


 開き直って、デラシネと並んで岩に背を預けて寛ぐ。

 かけ流しのお湯の音や森の木々が戦ぐ音……そうだ、もうそろそろ年の瀬なんだ。

 シミジミしかけると、脱衣場の方で人の気配。

 カラカラとガラス戸が開いた。

「あ、戻っていたんだ!」「ヤクモぉ!」「おかえりぃ!」

 ドップーン! ザッパーン! ジャッブーン!

 目をへの字にしてネル! そしてオリビア! ロージー! クラスの女子たちが次々に湯船に飛び込んでくる!

 まだ敵をやっつけたわけじゃないけど、勉強もまだまだこれからだけどね。

 みんなに助けられて、やっとここまでって感じ。

 
 中学入学と同時にお爺ちゃんちに越して、妖まみれの三年間。

 このヤマセンブルグ王立民族学校……中身は魔法学校に来て一年。


 いろんなことがあったけど、なんとかここまで来たよ。


 いつか、また出会ってあれこれお話ができるといいね。

 見上げた空は、いつの間にか暮れて、フルムーンにもうちょっとというお月様が顔を覗かせていたよ。



 やくもあやかし物語2   おしまい

 

☆彡主な登場人物 
  • やくも        ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド  メイソン・ヒル  オリビア・トンプソン  ロージー・エドワーズ  ヒトビッチ・アルカード  ヒューゴ・プライス  ベラ・グリフィス  アイネ・シュタインベルグ  アンナ・ハーマスティン
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人) トバル(魔王子)  トバリ(魔王女)
 
 

  

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

やくもあやかし物語2・083『別次元化された砂浜』

2024-12-10 11:34:47 | カントリーロード
くもやかし物語 2
083『別次元化された砂浜』 




 フッ…………………あ、あれ?


 デラシネはスピードを緩めることもなく突撃して来たかと思うと、わたしとハイジをすり抜けて走り去ってしまった!

 なんかVRゲームをやっていて、キャラやオブジェが手応えなくすり抜けていくみたいだ。

 ただただ、呆然としてデラシネの後姿を見送ってしまう。

「あ、ひょっとして!?」

 ハイジがなにかに気づいて、焚火の跡に手を伸ばす……生焼けの木切れを掴むと、二つになった。

「「え?」」

 掴んだ方は、ちゃんとハイジの手の中にあるんだけど、同じものが薪の跡に残っている。

 ガチャガチャ

 ハイジが焼け跡を足でかき回すと、木切れはあちこち飛び散ってしまうんだけど、もう一つの焼け跡はそのまま残っている。

「なんだこれえ!?」

「次元がズレてる……」

「なんだ、それ?」

 あやかし慣れしてるやくもはピンときた。だけど、ハイジはまだ腑に落ちない。

「走ってるうちに、次元が微妙にズレた。この焚火と散らばった焚火は別の次元なんだ。見てて!」

 木切れを拾って砂浜にへのへのもへじを描く。

「なんか、切れ切れだぞぉ?」

「あっちの砂浜とこっちの砂浜が重なってるんだ。わたしらとデラシネが走って、砂が蹴散らかされた状態で重なってるから、向こうの次元の砂浜には描けないんだ。だから切れ切れになるんだ!」

「ええ……じゃあ、どうすんだよ?」

「どこかに切れ目があるはず、そこを超えれば……」

 言ってはみたけど、それがどこだか見当もつかない。


 フフフ( ´艸`)……ウシシ(*`艸´)……

 あいつらの笑い声がするけどムシムシ。


 日本にいたころ『合わせ鏡のあやかし』にやられたことがある(やくも・03『フフフフ』)。左右に果てしなくやくもが居て、同じやら左右逆やらに動いて抜け出すのに苦労した。

 ポケットに手を突っ込んで御息所たちを引っ張り出す。

 力尽きて寝てるけどかまっちゃいられない。

「ちょっと、起きて、大変なのよ!」

『ムゥ……まだ無理ぃ……』

 目をつぶって、赤ちゃんみたいに丸まってしまう御息所。
 
 ミチビキ鉛筆も思いやりもピクリともしない。

「こいつら、ダメなのかあ?」

「うん、さっき激しく戦ったからね……」

 仕方がない、無理を言ってるのはヤクモの方だ。

 優しく掴んでポケットに戻そうとしたら、御息所が、弱々しく自分のポケットを指さす。

 ポケットからマチ針の頭みたいなのが覗いてる。

「あ、受話器だ!」

「ちっちぇ」

 そうか、これは交換手さんの黒電話!

 激しい戦いで壊れたり無くしたりしないように、御息所は自分のポケットにしまっていてくれていたんだ!

 一センチほどの受話器を、ちょっと迷ったけど、とりあえず口のところに持っていって呼びかけたよ。

 もしもし……もしもし……



 
☆彡主な登場人物 
  • やくも        ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド  メイソン・ヒル  オリビア・トンプソン  ロージー・エドワーズ  ヒトビッチ・アルカード  ヒューゴ・プライス  ベラ・グリフィス  アイネ・シュタインベルグ  アンナ・ハーマスティン
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人) トバル(魔王子)  トバリ(魔王女)
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

やくもあやかし物語2・082『笑い声を追って海辺を走る』

2024-12-04 14:48:58 | カントリーロード
くもやかし物語 2
082『笑い声を追って海辺を走る』 




 フフフ……ハハハ……フフフ……ハハハ……フフフ……ハハハ……


 笑い声を追って浜辺を走る!

 近くなったと思ったら遠くなり、遠くなったと思ったら近くなる。左手の草原の方に逃げて、それを追いかけて草原に踏み込むと、とたんに砂浜の方に笑い声が移動したりする。

 でも、けっして海の方からは聞こえないから、やくもたちの前を走っていることに変わりはない。なけなしの元気を振り絞って走る!

「こんちくしょー!」

 タタタタタタ!

 ハイジが頭に来て全力で追いかける!

 全力すぎてわたしの視界から消えてしまうんだけど、しばらく走ると、ヒトデみたく大の字になってひっくり返っている(^_^;)。

「がんばろ、上の方からは聞こえないから、あいつらも飛ぶ力はないんだよ」

「え、あいつら飛べるのかぁ?」

「あ、やっつける前は飛んでた。名前もトバリとトバルだから飛ぶっぽいかな」

 フフフッ……フハハハハ!

 かなり近くで聞こえて、ハイジと二人、めちゃくちゃ敵愾心が湧いて来て、思いっきり走った!

 タタタタタタタタタタタタタタタタタタ!

 どのくらい走っただろうか、あるものを、ちょっと追い過ごしたところで、二人とも立ち止まってしまった。

「いまの見たか……」

「う、うん、なんとなく……」

 なんとなくじゃない、実ははっきり見えて、見てしまって……立ち止まって見る勇気がないので、惰性で50メートルほど走ってしまった。

「ちょっと戻って確認しよう……」

「お、おお……」

 それは焚火の跡だ、ちょっと前まで二人で服を乾かしいた焚火の跡。

 燃え残りの木切れに見覚えがあるっぽいし、焚火を挟んでできた窪みは、やくもとハイジのお尻の痕っぽい。

「ひょっとして、ループしてるっぽい?」

「ま、まさかな(;'∀')」

「ていうか、笑い声がしなくなってるし……」

 ザザァァァァァ~~ ザザァァァァァ~~

 なんだか、波音だけが際立って……ちょっと怖くなってきた。

「あ、誰か来るぞ!?」

 ハイジが後ろの草原に駆けあがる。やくもも遅れてあがる。

「え、あれは……」

「デ、デラシネじゃねえか!」

「「オーーイ、デラシネぇ!!」」

 二人で手を振ると、デラシネは、それに気づいた様子も応える様子もなく、それでも、真剣な顔で真っ直ぐこっちに向かって走ってきた!

 

☆彡主な登場人物 
  • やくも        ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド  メイソン・ヒル  オリビア・トンプソン  ロージー・エドワーズ  ヒトビッチ・アルカード  ヒューゴ・プライス  ベラ・グリフィス  アイネ・シュタインベルグ  アンナ・ハーマスティン
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人) トバル(魔王子)  トバリ(魔王女)
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

やくもあやかし物語2・081『波音にハイジとシミジミ』

2024-12-01 16:18:17 | カントリーロード
くもやかし物語 2
081『波音にハイジとシミジミ』 




 ザザァァァァァ~~ ザザァァァァァ~~


 キャミが乾いて、パンツもゴムのところが少し湿ってる程度に回復……手を伸ばしたら乾かしていた服も十分に乾いてる。そろそろ動き出さなきゃと思って……でも、体が動かない。

 べつに呪いや魔法をかけられたわけじゃない。

 ここで、もう一度服を着て前進しても、前進した先は果てしない大海原で、すぐにびしょ濡れ。

 考えたら……考えなくても意味のないことをしていた。

 天の川を渡る時もいろいろあったけど、なんといっても向こう岸が見えていたから考えることもできたけど、こうも果てしない海を見ていては考えるどころか気持ちが萎えて、膝を抱えたまま本格的に寝てしまいそうだよ。

「まあ、いいじゃねえか、考えが浮かぶまでこうしているしかねえ」

「まあ、そうだけどね」

 ハイジは意外に落ち着いてる。大慌てでこっちにやって来て、勢い余って、ずっと向こうの海に落ちて来て魚雷みたいに泳いできたのが嘘みたい。

「スイス人は辛抱強いんだ」

「あ、うん……」

「いくらあせっても、羊の毛が早く生えるわけじゃねえし、牛がたくさん乳を出すわけでもねえからな」

「あ、そうだね」

 ザザァァァァァ~~ ザザァァァァァ~~

「無理をしたらろくなことにはならねえ」

「う、うん」

「オンジが若いころに傭兵に行ったことがあるんだ」

「ヨーヘイ?」

「雇われの兵隊だ。命の保証はねえけど、給料がいいからな。時どき行ってたんだ」

「そうなんだ……」

「何回かいって給料も上がって、はりきって突撃してよ、敵をバンバンやっつけて、先へ先へ進んでると、仲間とはぐれてよ。それでも戦争慣れしてっから、敵がいるところの見当がついてバンバンやっつけてると、向こうからも走りながら撃ってくる奴がいてよ。銃を構えた者同士出くわしたら、その敵は同じ村の友だちだった」

「ええ!?」

「傭兵募集はいろんな国でやってからな、たまにそういうことがあるみてえだ」

「ええ……」

「だから、いまのスイスは憲法で傭兵に出ること禁止してんだ。2002年までは国連にも加盟してなかったしな」

「そうなんだ」

 孫のハイジが生きてここにいるということは、その時生き延びたということで、その友だちは……聞いちゃいけないことなんだろうな。

 ハイジは違う言い方をした。

「どうしていいか分からない時は、じっとしていろってオンジは言うんだ。やみくもに進んだら……そういうことになっちまうからよ」

 ザザァァァァァ~~ ザザァァァァァ~~ ザザァァァァァ~~ 

 ハイジが話し終わって、また打ち寄せる波の音だけが際立ってきた。

 いつも子どもみたいに突拍子もないことを言ったりやったりするハイジが、シミジミ身の上話をするのは、この広々と果てしもない海と単調な波の音、そして、焚火の火でホコホコ温もったせいかもしれない。ついさっきは温もっても仕方がない的に思ってたけど、温もっただけで、とりあえず勝ちなのかもしれない。

 ウフフフ……アハハハ……

「「え?」」

 波音に混じる笑い声に、ハイジと同時に驚いた!

「この笑い声……」

「知ってんのか?」

「うん、魔王女のトバリと魔王子のトバルだ!」

 フフフ……ハハハ……フフフ……ハハハ……フフフ……ハハハ……

「くそ、癇に障る笑い方だぜ!」

 笑い声は、海の向こうから聞こえてくるような気がしたけど、さっきのハイジの言葉を思い出してジッとしてみる。

「やくも……これは、浜の向こうの方だ!」

「うん、わたしも、そう思う!」

 そう、笑い声は海の向こうじゃなくて、浜に沿った遠い方から聞こえてくる!

「海はフェイントのフェイクだぞ!」

「うん、追いかけよう!」

 ハイジと二人、左側の浜辺を走ったよ!



☆彡主な登場人物 
  • やくも        ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド  メイソン・ヒル  オリビア・トンプソン  ロージー・エドワーズ  ヒトビッチ・アルカード  ヒューゴ・プライス  ベラ・グリフィス  アイネ・シュタインベルグ  アンナ・ハーマスティン
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人) トバル(魔王子)  トバリ(魔王女)
  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

やくもあやかし物語2・080『こっちに進んでくる!』

2024-11-28 12:32:25 | カントリーロード
くもやかし物語 2
080『こっちに進んでくる!』 




 ヤバイ!

 
 いったん海に落ちたそいつは魚雷みたいに、こっちに進んでくる!

 こういう時は御息所とかミチビキ鉛筆とかオモイヤリの出番なんだけど、度重なる戦いでグロッキー、うんともすんとも言わないよ。

 仕方がないんで、体育2の腕前で泳いで逃げる!

 バチャバチャバチャバチャ! バチャバチャバチャバチャ!!

 盛大に水しぶきをあげるけど秒速20センチくらいしか進まない。

 溺れる者はわらを掴んで沈んでいく……日本でやっつけた妖の断末魔の声が蘇る(;'∀')!

 あの時は、こいつ間違えてやがると思ったけど、まさに、いまのやくもは、そんな感じ。あの言葉の意味と無力感が分かるよ(;゚Д゚)!

 分かったってしょうがないんだけどね(-_-;)。

 やくもの運命は風前の灯火、シリーズ2まで続いた『やくもあやかし物語』も累計241回で無念の最終回!?

 ジャッパーン!

 これから覚悟しようと思った時、そいつが水しぶきあげて現れた(>▭<)!

「ごめん、めちゃくちゃ遅くなっちまって!」

「キャ、海猿!?」

「ム、誉め言葉の海猿じゃねえな、まあ、いいけどよ」

 それは、ただひとり、まだ救援に来てなかったハイジだったよ。

「だいじょうぶ? お腹、もう治った?」 

 そう、ハイジは妖怪くわせものにいっぱい食べさせられて寝込んでいたんだ。

「うん、王女さまが見舞いに来てくれて、陀羅尼介くれて、飲んで寝てたら治っちまった(^_^;)」

「そう、それは良かった(^▽^)。でも、なんで海に落ちてきたの? それも、やくもの位置からはズレてるし」

「海に落ちたのは、やくもが海に居るからだ! 位置がズレたのは、少しでも早く行ってやりてえと、勢いが付きすぎたからだ!」

「あ、そうか、ごめん。で、どうもありがとう」

「それで、敵はどこにいやがるんだ!?」

「ああ、それがね……」

 トバリとトバルをやっつけて草原を歩いていたら、突然海になって困っていることを説明した。

「ウウ……そうだったのか。この海、やくものバタ足じゃきびしいもんなあ」

「アハハハ……」

「とにかく、ここで水に浸かっててもらちが明かねえ、とりあえず、浜にあがろうぜ」

「う、うん、だよね」

 二人で浜に上がって、火を起こして服を乾かした。

 二人ともビチャビチャで、キャミとパンツだけになって焚火の前でジッとしている。

 なんだか、遭難者みたいで落ち込んできたよ……。



 
☆彡主な登場人物 
  • やくも        ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド  メイソン・ヒル  オリビア・トンプソン  ロージー・エドワーズ  ヒトビッチ・アルカード  ヒューゴ・プライス  ベラ・グリフィス  アイネ・シュタインベルグ  アンナ・ハーマスティン
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人) トバル(魔王子)  トバリ(魔王女)
  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

やくもあやかし物語2・079『見渡す限りの海だよ』

2024-11-05 16:25:56 | カントリーロード
くもやかし物語 2
079『見渡す限りの海だよ』 




 ……呆然としてしまったよ。

 だって海だよ……見渡す限りの海だよ。

 トバリとトバルをやっとの思いでやっつけて、もう腰を上げることもできないくらいヘバッテいたんだ。御息所もミチビキ鉛筆も力を使い果たして、呼んでも起きてくれないし。

 それでも、キーストーンを取り返しに来たんだ。学校のみんなも来てくれて、せいっぱい助けてくれたよ。

 ここからしばらくはヤクモ一人だ。

 うんこらしょ……って、なんとか立ち上がって、顎を出しながらえっちらおっちら、足を引きずりながらやってきたら、とーとつにソウゲンが途切れて海ですよ。

 背中から風が吹いてきて頬をなぶっていくよ。

 亜麻色の~長い髪を~風が優しく包む~♪

 お祖父ちゃんのオハコの歌がうかんでくる。

 乙女は胸に白い花束を♪……駆け下りたら、そのまま海にドボンだよ(;'∀')!

 ヤクモはプールの端から端まで、25メートルが限界だよ。それも体育の成績は、やっと3のヤクモだよ!

 どう見ても水平線は25メートル以上向こうだしぃ!

 ペッペッ

 髪の毛が口に入るしぃ。

 樺太じゃ飛べたけど、あれは少彦名のお蔭だったし、あそこは樺太だったし。

 戦いの時も飛べたけど、あれはミチビキ鉛筆とかががんばってくれたからで、そのミチビキ鉛筆もくたびれて寝ちゃってるしぃ。

 えい!

 胸を張って足を開いて、おっきく海に両手を広げる!

「神よ、いまこそ御業をお示しになって海を割りたまえ!」

 だめか……。

 アニメでモーゼがやってたのを思い出してやってみるけど効き目がない。

 あたりまえだよね、ヤクモはクリスチャンじゃないし……。

 目玉を左右に動かして、波打ち際を探ってみる。

 ゲームだったら、チラチラとかピカピカ光るものがあって、そこに行くと問題解決のアイテムがあるとか、イベントが起こるとか?

 そんなものはかけらも見当たらない。

 あ!

 ひょっとしたら、海に見えているのはフェイクで、本当はソウゲンとか道とかが続いているのかも!

 ジャボジャボジャボ!

 思い切りよく前進してみたけど、やっぱり海で、パンツまでびしょ濡れになっておしまいだった。

 くそお!  バッシャーン!

 ヤケになって、体を大の字にして倒れる。

 盛大に波しぶきが上がって、そのまま浮いてみる。

 
 ドップーーーン


 ちょっと離れたところで何かが海に落ちてきたような音がした。

 

☆彡主な登場人物 
  • やくも        ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド  メイソン・ヒル  オリビア・トンプソン  ロージー・エドワーズ  ヒトビッチ・アルカード  ヒューゴ・プライス  ベラ・グリフィス  アイネ・シュタインベルグ  アンナ・ハーマスティン
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人) トバル(魔王子)  トバリ(魔王女)
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

やくもあやかし物語2・078『ほんとうは寝っ転がりたい』

2024-10-23 15:26:20 | カントリーロード
くもやかし物語 2
078『ほんとうは寝っ転がりたい』 




 ザワワァ……ザワワァ……ザワワァ……


 風が草原(くさはら)……ううん、草原を(そうげん)を渡っていく。

 戦いが始まるまでは草原(くさはら)だったんだけど、魔王子やっつけて、魔王女のスカート結界が消えてしまうと、腰砕けになってしまいそうなくらいに広い。

 これは立派な草原(そうげん)だよ。

 クサハラなら、ちょっと走ったら道路や街やらが見えてくる。そして、まあ一区切り、ちょっと休もうかという気になる。

 ソウゲンは違う。

 例えばモンゴル草原。何日走っても草が続いて果てしがない。

 世界征服をやるんだ! ってチンギスハン並の根性がないと前に進めない。

 ひょっとしたら、あの姉弟が最後っ屁の魔法を使ったのかと思ったよ。

 だけど、わたしの妖慣れした勘は同じものだと言っている。

 つまりは、わたしの中の『がんばる気持ち』が萎えてきたんだ。


 草のまばらなところを選んで腰を下ろす。


 ほんとうは寝っ転がりたいんだけど、リュックを腰に当てて足を延ばすだけにする。

 いま、寝っ転がったら起き上がれなくなるからね。

 さっきまではメイソンたちが居てくれて賑やかだった。

 荷物の運搬に来てくれただけで、いつまでも居られるわけじゃないのは分かってるけど、いざ居なくなると、とても寂しい。

 メイソンなんか一番の男友達とか言ってくれた。まあ、言葉のアヤだけどね。戦いの最中に少しでも景気を付けようって、いわばノリだけどね。

 そういうことを言ってくれる人間が居るのと居ないのとじゃ大違い。

 こんな時だから憎まれ口でもいい……ポケットに触ってみると、感触だけで分かる。相棒の御息所はとうぶん起きない。

 ミチビキ鉛筆……も口を利かずにただの鉛筆になっている。

 激しい戦いだったし……そうだ、こっちに来てからは喋ってないよ。

 気の弱いヤクモはリュックのポケットを探ってスマホを出す。異世界だから通じるわけも無いんだけど、黒電話の交換手さんなら……電池が切れてる。

 充電ケーブルはあるけど、ソウゲンじゃどうしようもない。

 スマホも無しにチンギスハンはどうやってたんだろ?

 ああ、ダメだダメだ。


 エイヤ!


 チンギスハンに成れないヤクモはなけなしの力を振り絞って立ち上がる。


 いちおうは気持ちを切り替えたからね。しばらくは歩けそう。

 知ってる歌を唄う。頭からシッポまで知ってる歌は少ないので、十分ほどしか続かない。

 中学の校歌が一分持たなくて、お母さんのオハコだった『帝國歌撃団』を歌う。

 うん、調子が出て来た!

 出て来た調子のままに走る!

 すると。

 突然ソウゲンが終わって海が現れた。

 

☆彡主な登場人物 
  • やくも        ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド  メイソン・ヒル  オリビア・トンプソン  ロージー・エドワーズ  ヒトビッチ・アルカード  ヒューゴ・プライス  ベラ・グリフィス  アイネ・シュタインベルグ  アンナ・ハーマスティン
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人) トバル(魔王子)  トバリ(魔王女)
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

やくもあやかし物語2・077『魔王子トバルと御息所の激闘』

2024-10-14 11:01:52 | カントリーロード
くもやかし物語 2
077『魔王子トバルと御息所の激闘』 




「ミヤスドコロぉ?」「 なんだ、その観光地の休憩場所みたいな名前はぁ?」

「ふん、哀れなな異世界王子よ。読み仮名だけ拾っても妾(わらわ)の値打ちは分かるまいぞ」

「なにを……ぼくは世界中の言語を理解する力があるんだぞ」「六条御息所……か、フフ、休憩所どころか京都の公衆トイレみたいな字面ね」「トバリヤクモは容赦ないね」「あなたは力でおしていきなさい」「ああ、リアルメイソンと同じ力だからね」「その意気よトバルメイソン」

 トバルヤクモとトバルメイソンが交互に反論してくる。

「フン、では、その公衆トイレに勝ってみよ!」

「「望むところ!」」

「あぶない、御息所ぉ!」

 ブン! ブブン! ブン!

 姉のトバリと同じような音をさせて御息所に攻撃を仕掛ける二人の分身トバル。

 フワリ フワフワ  

 ブブン! ブン!  

 フワ  

 ブブン!  

 フワリ

 トバルヤクモとトバルメイソンに分身してるんで敵わないかと心配になったけど、けっこう身軽に躱していく御息所。

「なかなかやるじゃないか、おチビちゃん」

 悪気無く禁句を使って応援するメイソン。いつもだったら「おチビちゃん言うなあ!」と文句を言うんだけど、黙々と異世界王子の攻撃をかわしていく御息所!

 ブン! ブブン! ブン! 

 フワ フワ ヒラリ フワワ 

 ブブン! ブン! 

 フワリ フワフワ ヒラリ

「頑張ってるけど、なんだか躱してばかりだなあ……だいじょうぶか?」

「だいじょうぶ、なにか考えがあってのことだと思う」

「フワフワ逃げてばかりいないでぇ」「かかってこいぃ!」

 ブブン! ブン! 

 ハラリ フワフワ ヒラリ

『よし、もうこのくらいで良いであろう』

「「なんだと?」」


 呆気にとられるトバルを尻目に両手を広げてトバリの周囲をグルリと回る御息所。
 その入っている手袋からはハラハラと星くずみたいな花粉みたいなのが振りまかれ、二人のトバリは急速に眠くなってきて一つになって元の一人トバリの姿になったよ。

『トドメじゃ!』

 ウワァアアア!

 トバルは目をつぶったまま恐慌状態になって、叫び声をあげると逃げるように急上昇した。

 ズゴン! ギャフン!

 衝撃音と悲鳴があがる。

 急上昇したトバルは、そのまま結界の頂点にいた姉のトバリに激突して消えてしまった。


 ピ~~ピピ~


 ヒバリの声だけがして、あたりは元の穏やかな草原に戻ったよ。


 でも、メイソンも他の仲間も姿が見えない。

 時間切れになったんだ。

 メイソンも言ってたし、ちょっと寂しいけど……まあ、仕方がない。

「ねえ、どうやってやっつけたの?」

 御息所に聞いてみる。

『あれはね、あいつがこれまで見た悪夢をぜんぶ思い出させてやったのよ』

 もう通常モードになって、それだけ言うとポケットの中に戻ってしまう御息所。

 ZZZZ……ZZZZ……ZZZZZZ……

「疲れちゃったんだね……しかたない、一人で行くかぁ」

 メイソンたちが持ってきてくれた食料の中からチキンラーメンを出して、ボリボリ齧りながら先に進んだ。

 ゲフ

 一袋まるまるかじって食べたら、けっこうお腹がいっぱいになった。


 キーストーンを取り返す旅はまだまだ続いていきそうだ……。



☆彡主な登場人物 
  • やくも        ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド  メイソン・ヒル  オリビア・トンプソン  ロージー・エドワーズ  ヒトビッチ・アルカード  ヒューゴ・プライス  ベラ・グリフィス  アイネ・シュタインベルグ  アンナ・ハーマスティン
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人) トバル(魔王子)  トバリ(魔王女)
 
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

やくもあやかし物語2・076『魔王子トバル』

2024-10-10 14:38:42 | カントリーロード
くもやかし物語 2
076『魔王子トバル』 




「魔王女トバリの弟、魔王子トバルだ。見知りおけ」

 姉のトバリそっくりのニクソイ笑顔でマウントをとりに来る。

「あなたたち双子なの?」

「ああ、そうだよ。でも、戦い方は違うよ。トバリは結界を張って地霊どもを従えて戦うけど、ぼくは、こうやって戦うんだ……」

 顔の前で腕をXに組んだかと思うと、トバルの体はボンヤリと滲んで6:4くらいに分裂。そして、ふたたびハッキリしてきたと思ったら、6の方がメイソンに4の方がわたしソックリになった!

「ええ!?」

 シャキーーン

「こいつは、相手ソックリに擬態して戦うんだ……トオオオ!」

 剣を構えると、最後まで言い切らずに打ちかかるメイソン! トバルメイソンも同時に打ちかかって来る。なんだか、左右を逆に映す鏡みたいだ。

 トオーー!

 安心してはいられない、わたしにソックリなトバルヤクモの方は先手を取って討ちかかってきたよ(''◇'')!

 右手に思い槍、左手にミチビキ鉛筆を持って、トバルヤクモの攻撃を受け止める!

 ガシ!

 互いに同じ武器、同じ力なんだから打ち消し合う……と思ったら、ジリジリと押し込まれる。

 ええ、なんでぇ( >Д<)?

「相手は高い位置からダッシュしてきて勢いがついてるからだ! 少し踏みとどまればチャンスも見えてくる!」

 自分も苦しい戦いをしているのに、ちゃんとアドバイスをしてくれるメイソン。ノブリスオブリージュ! 貴族の息子だけのことはある!

 カシーン! ブンブン! ジャキーン! ガシガシ!

 メイソンは、攻撃をいなして相手の隙を誘っては攻撃を加えるけど、やっぱり同じスキルなのでラチが明かない。助けて欲しいけど、どうも無理っぽい。

 グヌヌヌ("皿″)……グギギギ(>皿<)……歯を食いしばって押し込まれないようにがんばるけど、こっちは互いに運動神経が悪いので、ひたすら押し合うだけだよ。

 ズズ……ズズズ……ズズ……

「まずい……」

 変な音がするのでなんだろうと思っていたら、メイソンの方が気づいた。

「トバリが結界をすぼめてきている、結界がすぼまると、こいつの力が増していくみたいだ!」

「ええ!? あ、ほんとだぁ……(''◇'')」

 押し込まれる力が微妙に強くなってきている」

「ほかの子たちはどうしてるんだろッ……」

 ほんとは「なにをしてんのよ!」なんだけど、優しく言ってみる。

「力を使い果たしたんだろ、もう気配がしない……」

「そんなぁ」

「僕も、そろそろ危ないかもしれない……」

「あ、ちょ……メイソン!」


 ああ、絶体絶命……と思ったら、ポケットから御息所がフワフワ浮き出て来た。


「「なんだ、おまえは?」」

 トバルヤクモとトバルメイソンが同時に声を上げる。

 そうか、御息所はコピーできていないんだ。でも、御息所の力ってたかが知れてるっぽい。

『妾は六条の御息所じゃ、畏れ多くも先の東宮殿下の妻である。見知りおけ』

 おお、バリバリのお局言葉! これは勝算があるのかも!

 

☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド  メイソン・ヒル  オリビア・トンプソン  ロージー・エドワーズ  ヒトビッチ・アルカード  ヒューゴ・プライス  ベラ・グリフィス  アイネ・シュタインベルグ  アンナ・ハーマスティン
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人) トバル(魔王子)  トバリ(魔王女)
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

やくもあやかし物語2・075『魔王女トバリ』

2024-10-06 11:27:11 | カントリーロード
くもやかし物語 2
075『魔王女トバリ』 




「あたしが魔王女、トバリ姫よ。見知りおきなさい」

 グ

 思わず息をのんだ。

 そいつ、トバリ姫はフレアの効いたロン毛で、はっきりした目鼻立ちといい、スタイルの良さといい、等身大……よりもちょっと小さいドールのように見えた。しゃくだけど、ちょっと可愛い。

「……わたしのこと小さいと思ったでしょ?」

「あ、それは……(;'∀')」

「まあいいわ。可愛いとも思ってくれたみたいだし」

「そのトバリが何の用だ!」

 メイソンが男らしく前に立ってくれる。御息所はいつものようにポケットに隠れてしまっている。

「フフフ、辛いわね。没落貴族とはいえノブレスオブリージュ。こういう時には前に出なくちゃならないんですものね」

「用件を言え!」

「用件は知れたこと、あなたたちを抹殺することよ。キーストーンを取り返そうだなんて生意気すぎるもの」

「そうはさせん、お前も魔王子も打ち倒して先に進むだけだ」

「おお、勇ましい。それでこそ英国騎士、相手になってあげるわ!」

 ピシ!

 鋭い音がしたかと思うと、トバリの髪が静電気を帯びたみたいに四方に広がり、先っぽの方がピリピリとスパークを放ったよ!

『気を付けなさい、あいつ、ここいらの悪霊を呼び集めてるわよ』

 御息所がふつうの言葉で注意する。こういう時の御息所はあてにならない。

「やくも、囲まれている!」

 メイソンが庇いながら注意してくれる。見渡すと四方八方にモノクロで半透明なあやかしめいたのがウジャウジャとわいている。

「やくもも戦う!」

 いっしゅん迷って近衛の剣を手にして、手近のあやかしに切りかかる。

 ブン! ブブン! ブン!

 剣はむなしく空を切るばかりで、ぜんぜんヒットしない。メイソンは討ち漏らしたあやかしをどんどん切っていく。

 申し訳ない、わたしのリカバーばっかし(-_-;)。

 気を取り直して思い槍に持ち換える。

 ブン! ドシ! ブブン! ザク! ズサ!

 空振りも多いけど、リーチが長い分、そこそこにヒットする。メイソンも少しだけわたしのそばを離れて敵をぶちのめしていく。

 すこしは冒険者らしく戦えているかも(^_^;)。

 あ!?

 ちょっと油断した。斧を持ったあやかしが打ちかかってきて、さばききれずに尻もちをついてしまったよ!

『慮外者め!』

 お局言葉がしたかと思うと御息所があやかしの脳天をミチビキ鉛筆で刺し貫いてやっつけてしまう!

「ありがと、御息所!」

『貸じゃからな!』

 さっさとポケットに戻ってしまう。

「え、一回だけぇ?」

『あとはがんばりなさい』

 チ

『舌打ちすんな!』

 それだけ言うとまた引っ込む。

「メイソン、がんばって!」

 それから、メイソンと二人で暴れまわって半分ほどやっつけられて、残りの半分は分が悪いと思ったのか消えてしまった。


「少しは歯応えがありそうね」


 トバリが現れる。憎たらしいけど余裕の表情だよ。

「じゃあ、そろそろ本気でやらせてもらおうかしらぁ」

 そう言うとトバリは両手でスカートの裾をつまんで、お姫さまらしく挨拶したよ。

「いや、あれは挨拶なんかじゃない!」

 メイソンが押しのけるように前に出てかばってくれる。

「そうよ、わたしのスカートは結界なのよ。さっきは広げ過ぎて破られてしまったけど、こんどはほど良く広げて、あなたたちのシュラフにしてあげる」

「シュラフ?」

「死体袋のことだよ。気を付けて!」

「うん!」

 シュボン!

 広がるような窄まるような音がしたかと思うと、あっという間にドーム球場ほどの結界が展開され、見上げると結界のてっぺんから小さな足が吸い込まれるようにして格納されたよ。

『トバル、あなたの出番よ!』

 てっぺんから声が降ってきたと思うと、やくもたちの前にトバリによく似た王子さまみたいなのが現れたよ!



☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド  メイソン・ヒル  オリビア・トンプソン  ロージー・エドワーズ  ヒトビッチ・アルカード  ヒューゴ・プライス  ベラ・グリフィス  アイネ・シュタインベルグ  アンナ・ハーマスティン
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人) トバル(魔王子)  トバリ(魔王女)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

やくもあやかし物語2・074『メイソンが一番の男友達になる』

2024-09-30 12:29:50 | カントリーロード
くもやかし物語 2
074『メイソンが一番の男友達になる』 



 

 黒雲はみるみるうちに広がって、見上げる空のほとんどを覆いつくしていく!

 覆いつくすにしたがって伸びていくためか、厚みが薄くなって、微妙に血の色を含んだ灰色に変わっていく。端っこの方は山や草原の彼方で見えないんだけど、大地そのものを覆うところまではいかないみたい。四方の空の底からは光が入って来て、チョー巨大なドーム球場の中にいるみたい。

「サーカスのテント小屋みたいだ」「夕焼け空を映したプラネタリウム」「巨大なクラゲの下に潜ったみたい」「火星の空みたいだ」

 みんな口々に感想を言う。出身がバラバラだから、みんなイメージが違うんだけどね。

 ギャーギャー ギャーギャー ギャーギャー

 どこに居たのか鳥たちが怯えて、てんでに飛び始める。

 ピシ ピシ ピシピシ ピシ ピシピシ

 高く飛んだ鳥たちが雲の底まで来ると、電気みたいなのに撃たれ、しゅんかん光を放って消えていく。

 ピシ ピシ ピシピシ ピシ ピシピシ ピシ ピシ ピシピシ ピシ 

 それでも鳥たちは、パニックみたいになって電撃を喰らっては蒸発していく!

「ちょっと、下がって来ていないか?」

 ヒューゴが指摘して、みんな空を見渡す。

「うん」「やっぱり下がって来てる」

 ベラ・グリフィスとアイネ・シュタインベルグが怯えた声を上げ、アンナ・ハーマスティンは口に手を当てたまま声も出せない。

「あれが下りきったら、ちょっとまずいかもね」

 ロージーは冷静だけど、ではどうするかというところまでは言えないみたい。メイソンとヒューゴは叶わぬまでも、近衛の剣を抜いて空に突きつけている。

『みなのもの! 空の端っこで雲の裾を掴んで引っ張ってる魔物がいるぞよ!』

 御息所がお局言葉で状況を報告というか叫ぶ!

『ひい ふう みい よぉ……全部で八匹! やつらをやっつけたら、この怪しの雲は消えていきそうじゃぞ! みんなレベル30のゴブリン程度じゃ! わらわが指し示す、みなで退治せよ!』

「よし、じっとしていても始まらない。みんなでやっつけよう!」

 おお!!

 ロージーが声を上げると、全員が雄たけびを上げ、近衛の剣を振るって、四方に散っていった。むろん、御息所も飛んで行ったよ。

 だ、だいじょうぶかなあ。

 ひとり心配になっていると、横の薮がガサッと音がして、メイソンが戻ってきた。

「メイソン!?」

「八人で間に合うからね。ぼくたちは十人。ヒューゴはアンナのサポートに回って、このメイソン・ヒルはヤクモのガードにまわることにした」

「あ、ありがとう。でも大丈夫?」

「ああ、キミの使い魔が力を貸してくれている。きっと大丈夫さ」

 ああ、まだキチンと紹介してないから、御息所は使い魔の認識なんだ(^_^;)

 ゾワゾワゾワ……

 気配に振り仰ぐと、雲はさらに下がって来て、鳥たちが焼き殺される音は間遠になってきた。

「鳥たちは、ほとんどやっつけられたみたいね」

「だいじょうぶ、きっと間に合うさ」

「う、うん」

「ぼくの先祖はアーサー王に仕えていたんだ」

「あ、それでナイトの称号を」

「アーサー王の城の補修をする石工だったんだ。メイソンというのは元来石工という意味だからね」

「そうなんだ」

「ある日、騎士たちの大半が戦に出ていた時、城の隙をついて攻めて来た敵を留守番の騎士たちといっしょにやっつけて、その功績でナイトに叙せられたんだ」

「あ、わたしをガードしてもあげられる称号がないわ」

「きみの第一の友だちの称号でいいさ」

「あ、その席にはネルとハイジが……」

 あ、わたしって、なんて気の利かないことを言うんだ(;'∀')。

「残念」

「あ、いや、それはちがくて……」

「なら、一番の男友達の称号だ!」

「あ、それなら」

「よかった」

 え、あ、一番の男友達ってぇ(#'∀'#)!?


 プッツン!!


 その時、四方でブチギレる音がしたかと思うと血灰色の雲はみるみる縮んでいって、ほとんど真上で広げた傘ほどに縮んでしまった。

「「やったあ!」」

 傘は、あちこち穴が開いている。能力いっぱいに広げたんで支えを失って綻びが出てしまったんだ。

「「あれ?」」

 ゆっくり傘が下りてくると、傘の真ん中から二本の脚が生えてきて、地面に近くなって表の方も見えてくると胴体が付いている。

 胴体の上には首と腕も生えてきて、地上二メートルぐらいの高さにおりてくると、ひどく憎そげなお姫さまになった!

 

☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド  メイソン・ヒル  オリビア・トンプソン  ロージー・エドワーズ  ヒトビッチ・アルカード  ヒューゴ・プライス  ベラ・グリフィス  アイネ・シュタインベルグ  アンナ・ハーマスティン
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人) 魔王子 魔王女
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

やくもあやかし物語2・073『敵の本性は魔王子らしい』

2024-09-25 11:18:45 | カントリーロード
くもやかし物語 2
073『敵の本性は魔王子らしい』 




「ハイジはね、寸前でお腹の調子が悪くなって」

『プ( ´艸`)』


 ロージーがちょっとだけ眉を吊り上げて言うと、御息所が噴きかける。

『あ、いや、ごめん』

 わたしと二人だけだったら遠慮のない御息所だけど、みんなが居ると少しは遠慮するのかもしれない。

「ああ、ごめん。タイミングがずれたら全員で来るのは無理だと思ってさ」

 メイソンとヒューゴも気を遣ってくれる。メイソンはイギリスの貴族、ヒューゴは相場師。ルームメイトじゃないけど、共通の任務ができると自然と力を合わせられるのは英国紳士だから? ううん、みんな危険を冒してきてくれてるんだ。他のみんなも――すまなかった――という顔をしている。みんなにありがとうだよ。

「うん、そうなんだ」

 入学したころは、みんなピリピリしてたけど、やっと思いやれる感じになってきたんだ。だから「うん、そうなんだ」と普通に返しておく。そして、もう一言付け加える。

「そして、ありがとう」

「よしなさいよ、運よく来れただけ。まだキーストーンが取り返せたわけじゃないんだから。ね、みんな」

「ああ」「うん」「そうさ」

 ロージーがさっぱりした笑顔で言うと、みんなドンマイの笑顔で返してくれる。

「オリビアから聞いてるんだけど、なかなか魔物たちもやってくれるみたいじゃない」

「ああ、ちょっとね(^_^;)」

「ナザニエル卿が結界を繕いながら話してくれたんだけどね、どうも敵の本性は魔王子らしいわよ」

「魔王子ぃ(''◇'')?」

 初めて聞くけど、ゾゾっとした。みんなの顔が曇ったせいかも、わたしの中に――こいつはヤバイ――という直感が働いたせいかもしれない。

 ロージーは、きれいな顔で、でも、ちょっと不敵な笑みを浮かべて続ける。

「うん、なんでも、魔王には王子と王女がいて、跡継ぎを巡って争っているらしいわ」

「そ、そうなんだ(^_^;)」

「くわせものとかの手下をいろいろ使っているから、真の敵が分からなかったけど、ヤクモが突き進んでくれたんで、ハッキリして来たみたいよ」

「そ、そうなんだ(;'∀')」

「でも、だいじょうぶ。ヒューゴがピッタリのタイミングを計ってくれて、メイソンがリーダーシップを発揮してくれたから、大丈夫、みんなで戦えるわよ」

「そ、そうなんだ('◎◇◎')」

「ちょっと、だいじょうぶ?」

「だいじょうぶよ!」

『こういう時のヤクモはいちばんヤバイから』

「うるさい、御息所ッ!」

「わたしたち、ソフィー先生から近衛の剣を持たされてきたんだけど、ヤクモはだいじょうぶ?」

「うん、三つあるし!」

 シャキーーン!

 近衛の剣とミチビキ鉛筆と思い槍が光った。

 ウワア!

 みんなが感動の声を上げた……と思ったら、わたしの後ろの方に黒い雲が現われて、みんなが驚いていたよ!

 えええ( ゚Д゚)!?

 遅れた分、みんなの三倍も驚いて、ワチャワチャするヤクモだったよ。



☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド  メイソン・ヒル  オリビア・トンプソン  ロージー・エドワーズ  ヒトビッチ・アルカード  ヒューゴ・プライス  ベラ・グリフィス  アイネ・シュタインベルグ  アンナ・ハーマスティン
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人) 魔王子 魔王女
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

やくもあやかし物語2・072『みんな来てくれた!』

2024-09-17 14:20:16 | カントリーロード
くもやかし物語 2
072『みんな来てくれた!』 




 しばらく行くと草原は胸の高さに迫ってきた。

『やっぱり、半魚人の水のせいだろうね、伸びているだけではなくてツヤツヤとしているわ』

「感心してないで、しっかり前を見てよね。方角見失ったら元も子もないんだからね」

『分かってるわよ、だいたい合ってる。ずっとホバリングしていたから』

「たのむわよ」

 御息所の言葉が微妙に元に戻ってる。

 お局言葉っていうんだろうか、むかしの貴族女性みたいな言葉の時はアグレッシブで、率先して戦ってくれてる感じ。
 それが、ふつうの言葉遣いになると、ズボラになってくる。ふつうといっても、ちょっとわがままな感じなんだけどね。

 いまは、その『ちょっとわがままモード』なんだ。

 日本にいたころからの付き合いだから、こういう時は放っておく。

「しかたない!」

 シャラン

 左肩に掛けた近衛の剣を抜く。

 セイ! ヤー! トォー!

 恰好をつけて、佐々木小次郎みたいにぶん回す。

 バサバサと鳥が飛びたつような音がして目の前の草原が開けて、ちょっとだけ気持ちよくなる。

『その意気その意気、方角もだいたい合ってるでしょうから、がんばってね』

「んもー、時どきは確認してよね、道が合ってるかどうか」

『ん、いまさっき『こういう時は放っておく』とか思わなかったぁ?」

 チ、付き合いが長いのも考えものだよね。

 半魚人と戦った丘の位置を確認しながらでないと、ぜんぜん別の方角に向かってしまいそう。

 セイ! ヤー!  ヤー! トォー!  ヤー!  トォー! ヤー! トォー!ヤー! トォー! ヤー! トォー! ヤー! トォー!

 え、わたし以外にも声がする!?

 ちょっと数が多い、一人や二人じゃない。

 魔物とかだったらばんじきゅうす!

「ここで戦闘になったらたちうちできないよぉ(;゚Д゚)」

『しかたないわねぇ』

 ポケットから飛び出すと、頭の上でホバリングする御息所。

『……あ、学校のみんなよ! ヒイ フウ ミイ……女4人に男6人』

「ええ?」

 ここへは一度に一人しか来れないはずだよ。さっきは変換魔法でハンターがオリビアに付いてきたけど、やっぱり無理があって、すぐに消えてしまって、あらためて来たと思ったら近衛の剣だけ残してしゅんかんで戻ってしまったし。いったい何が?

「おーーい、こっちだよ、みんなあ!」

『こっちこっちぃ!』

 御息所と二人で声を張り上げると、ワサワサと草をかき分けながらみんなが集まってきた。

「みんな、どうしたの?」

 息を切らしながらも、ロージー・エドワーズが説明してくれる。

「いやあ、一人ずつ来ても、ラチ開かないでしょ。それで、ダメもとでね、みんなでジャンプしたのよ」

「よく来れたわねぇ」

「力を合わせたのよ。メイソン・ヒルが変換魔法、ヒトビッチ・アルカードが補助魔法……」

「補助魔法?」

「ああ、それはね……」

 ロージーが説明しようとするとヒトビッチ・アルカード自身が前に出てきた。

「うん、先祖から受け継いだ魔法なんだけどね、ダメもとでやってみたら意外と効果があった」

「ヒトビッチの七代前は吸血鬼だったのよ」

「え、吸血鬼( ゚Д゚)!?」

「ああ、伝説だよ伝説(^▭^;)」

「でも、ちゃんと魔力はあったじゃない!」

「ま、まあね(^_^;)」

「先祖はなんだっていいのよ、力を合わせて、それで効果があるなら。あとはタイミングね。大三角の真ん中目指して、みんなが息を合わすのはタイミングが大事」

「それについては、ヒューゴ・プライスの功績さ」

 メイソンがヒューゴの背中を叩いた。

「うちは株屋っていうか、相場師だからね。魔法のタイミングまで計れるかどうか、分からなかったけど、やったらできた。でも、みんなを引っ張ってきたのはメイソン・ヒルと」

「「「ロージー・エドワーズよ!」」」

 声をそろえたのはベラ・グリフィスとアイネ・シュタインベルグとアンナ・ハーマスティン。

「ああ、ロージーはゴッドファーザーの孫娘なんだ」

 ヒューゴがすごいことを言う。

「あ、それはお婆ちゃんの家系で、今は、みんな堅気の市民だからね(#^_^#)」

 喋っているうちにロージーとメイソンが中心になっている。

 二人がリーダーになって、みんなを引っ張って来てくれたのは事実のようだ。

 わたしって、日ごろはネルとハイジ以外とはあまり親しくしてなかったから、ちょっと感動だよ。

 ……て……あれ、ハイジはどうしたんだろう?

 

☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド  メイソン・ヒル  オリビア・トンプソン  ロージー・エドワーズ  ヒトビッチ・アルカード  ヒューゴ・プライス  ベラ・グリフィス  アイネ・シュタインベルグ  アンナ・ハーマスティン
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

やくもあやかし物語2・071『ハンター再び現れて近衛の剣を残す』

2024-09-04 14:04:16 | カントリーロード
くもやかし物語 2
071『ハンター再び現れて近衛の剣を残す』 




「時間切れで戻ったんじゃないの!?」


 マーフォーク(半魚人)とともに海になりかけていた水も消えた草原。剣を地面についてゼーゼーいうハンターに声をかける。
 
「もう一度試してみたんだ。親父が野球の監督でね、9回の裏に同点にして延長戦て感じかな(^_^;)。ソフィー先生が近衛の剣を持ってきてくれていてね――あ、使ってみたい――と思ったら、来られたというわけさ」

「あ、待ってて、すぐにあがるから!」

『ちょ、やくも!』

 御息所が急降下して来てタオルで隠してくれる。

 間一髪のところを助けてもらったんで、思わず裸のままで飛び出すところだったよ(^_^;)。

 で、服を着て出て見ると……あれ?……近衛の剣だけが残っていてハンターの姿は無かった。

「もう帰っちゃった? 9回の裏のピンチヒッターって感じだったねぇ」

『はつらつとした男だと思っていたけど、野球選手の息子だったんだ』

「監督って言っていたよ」

『か、監督は元々は選手であろうが』

「そうだね……剣、どうしよう」

『持っていくしかないだろ』

「そうね……よいしょ……ちょっと長い(^_^;)」

 腰につけてみるんだけど、地面をこすってしまう。

「肩に担ぐか……」

 忍者みたいに担いでみる。ちょっとカッコいいかもしれない。

『おお、佐々木小次郎みたいじゃ』

「ささきこじろう?」

『宮本武蔵を知っておろうが』

「あ、ああ、宮本武蔵にやっつけられる人!」

『あれは、武蔵がゴチャゴチャ言ってイラつかせるから。ほんとは、武蔵に負けないくらい強いのじゃ!』

「そ、そうか、ならいいか……でも、わたしにはミチビキ鉛筆があるよ」

『武士は二本差しと言って、大小二本の刀を持っているもんじゃ』

「そうか、ならいいや」

『ふふふ( *´艸`)』

「なによ」

『では、参るか』

「おお!」

 緩やかな坂を下っていくんだけど、マーフォーク(半魚人)があれだけの勢いで出した海は水たまりさえ残っていない。振り返るとカルデラからは春のタケノコよりも早いスピードで木が生え始めている。

「ふふ、あの半魚人、見た目にエネルギーを使いすぎなんだよね」

『ふふ、けっこう必死だったけど……まあいい、意気軒昂なのはいいことじゃ』

「見た目も実力もなかなかよ、見てなさい……」

 トォォォーーーー!

 ジャンプすると同時に旋回して、カッコよく背中の剣を抜く!

 グヌ!?

 旋回はできたけど、着地しても剣が抜けない。先っぽの方が鞘に入ったままで、うでは伸びきって突っ張らかってしまう。

『アハハ、なるほど、カッコいいのう』

「なんで、こうなるの?」

『右肩に掛けておるからじゃ』

「ええ、だってドラマとか映画とか、右肩じゃない」

『ためしに左掛けでやってみ』

「……こう?」

『それで、さっきみたいに抜いてみよ』

 トォォォーーーー! シャラン!

「抜けた!」

『さあ、参るぞ』

「お、おお」

 なんで?

『行くぞ』

「うん」

 御息所と二人、さらに先に進んだ。



☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

やくもあやかし物語2・070『マーフォークに一撃くらわせたんだけども』

2024-08-31 10:51:11 | カントリーロード
くもやかし物語 2
070『マーフォークに一撃くらわせたんだけども』 





 ズボゥーーーン!! ザッパーーーン!! ドッブーーーン!!

 半魚人マーフォークが電柱ほどの化物フォークを振るう! その度にカルデラから水が噴き出し低地の野原を沈め、林を洗う!

 ザプーーン グァラーーン ドプーーン

 水が噴き出す度に燗風呂はわたし一人を入れたままもみくちゃになる。

 このままでは沈んでしまう……ゲホ! ゲホゲホ!

 このままでは湯船に水が入って沈んでしまう、ゲホ! いやだ、だってお風呂に入っているんだからすっ裸なわけで、このまま溺れ死んだらメチャクチャみっともない!

 ザプーーン!

 あ、沈むぅ……と思ったけど沈まない。

 相変わらず、湯船の中はお湯のまま。いっしゅん水は入って来るんだけど、すぐに湯船の外に弾かれて、湯船の中はずっと同じ量のお湯のまま。

『それは、元々は八犬伝の八房がお礼にくれた神木の風呂じゃ(やくもあやかし物語128『八房のお礼』)。誇り高き風呂なのじゃ! 風呂の湯と定められた水しか受け付けないのじゃろ!』

 手袋を寄せてきて、それだけを言うと、次に来た波を躱してまた飛び去って行く御息所。

 沈む心配は無いと分かったけど、このままだと、ただ波に翻弄されているだけで何もできない。

 あ、大きいのが来る!

 調子に乗ったマーフォークが大きくフォークを振るうと怪獣みたいに凶暴な大波が起こって向かって来る!

「あれに掴まったら、さすがに飛ばされてしまうよ(;'∀')」

『これを使えぇ!』

 御息所がミチビキ鉛筆を投げてくる。

「ありがとう!」

 取りあえずお礼を言うのは、我ながら性格だろうね(^_^;)。

 どうしたらいいんだろう!?

 怖気づいていると、握ったミチビキ鉛筆がプルっと震えて空を指した。

 すると、湯船からマーフォークの首までチャートみたいに点線とポイントが現れた。

 え、これってチャートをたどってマーフォークの首まで行けってこと?

『行って、こやつをやっつけろということじゃろ!』

「簡単に言わないでよ(´;△;`)」

『なんとかしろぉ(>○<)』

「そう言われてもぉ」

 チャートは、マーフォークの動きに合わせて絶えず変化している。こんなのどうやってトレースしていきゃいいのよ。

 ブルン!

 湯船が一瞬震えた、いや武者震い?

 ビュン!

「あ、ちょ!」

 焦れた燗風呂はわたしを乗せたまま、チャートのポイントをなぞって飛んでいく。

 そうだ、元々はミチビキ鉛筆は目的地やら、目的地までの道筋を示してくれる魔道具なんだ。

「よし、信じて行くよ!」

 ビュン ビュンビュン

 わたしの言葉に勇気づいてミチビキ鉛筆は燗風呂とともにマーフォークの首筋までわたしを運んで行った!

「成敗!」

 ミチビキ鉛筆をソードモードにし、横殴りにマーフォークの首を切る!

 チャリン

 めちゃくちゃショボい音がして鉛筆はやつの首をこすっただけだ(;'▢')。

 ギロ

 に、睨んできた(;'△')!

 ビュン!

 とりあえず逃げる!

 ブブン!

 やつのフォークが頭上に振るわれて生きた心地がしない!

 ブン! ブブン! ブンブン!

 ビュン ビュンビュン ビュン!

 ひたすら逃げる!

 ブブン! ブンブン! ブン!

 何十回か逃げて、もうダメだと思った時だった。

 ズサッ!!!

 すごい斬撃の音がしたかと思うと、マーフォークは真っ二つに切られ、切られた部分は、人と魚に分かれて、分かれるととても弱っちくって、それぞれ別々に逃げて行ったよ!?

 見下ろすと、時間切れで戻ったはずのハンターがごっつい剣を地面に突き刺して、ゼーゼーあえいでいた。

 
☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人)
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする