やくもあやかし物語 2
ズボゥーーーン!! ザッパーーーン!! ドッブーーーン!!
半魚人マーフォークが電柱ほどの化物フォークを振るう! その度にカルデラから水が噴き出し低地の野原を沈め、林を洗う!
ザプーーン グァラーーン ドプーーン
水が噴き出す度に燗風呂はわたし一人を入れたままもみくちゃになる。
このままでは沈んでしまう……ゲホ! ゲホゲホ!
このままでは湯船に水が入って沈んでしまう、ゲホ! いやだ、だってお風呂に入っているんだからすっ裸なわけで、このまま溺れ死んだらメチャクチャみっともない!
ザプーーン!
あ、沈むぅ……と思ったけど沈まない。
相変わらず、湯船の中はお湯のまま。いっしゅん水は入って来るんだけど、すぐに湯船の外に弾かれて、湯船の中はずっと同じ量のお湯のまま。
『それは、元々は八犬伝の八房がお礼にくれた神木の風呂じゃ(やくもあやかし物語128『八房のお礼』)。誇り高き風呂なのじゃ! 風呂の湯と定められた水しか受け付けないのじゃろ!』
手袋を寄せてきて、それだけを言うと、次に来た波を躱してまた飛び去って行く御息所。
沈む心配は無いと分かったけど、このままだと、ただ波に翻弄されているだけで何もできない。
あ、大きいのが来る!
調子に乗ったマーフォークが大きくフォークを振るうと怪獣みたいに凶暴な大波が起こって向かって来る!
「あれに掴まったら、さすがに飛ばされてしまうよ(;'∀')」
『これを使えぇ!』
御息所がミチビキ鉛筆を投げてくる。
「ありがとう!」
取りあえずお礼を言うのは、我ながら性格だろうね(^_^;)。
どうしたらいいんだろう!?
怖気づいていると、握ったミチビキ鉛筆がプルっと震えて空を指した。
すると、湯船からマーフォークの首までチャートみたいに点線とポイントが現れた。
え、これってチャートをたどってマーフォークの首まで行けってこと?
『行って、こやつをやっつけろということじゃろ!』
「簡単に言わないでよ(´;△;`)」
『なんとかしろぉ(>○<)』
「そう言われてもぉ」
チャートは、マーフォークの動きに合わせて絶えず変化している。こんなのどうやってトレースしていきゃいいのよ。
ブルン!
湯船が一瞬震えた、いや武者震い?
ビュン!
「あ、ちょ!」
焦れた燗風呂はわたしを乗せたまま、チャートのポイントをなぞって飛んでいく。
そうだ、元々はミチビキ鉛筆は目的地やら、目的地までの道筋を示してくれる魔道具なんだ。
「よし、信じて行くよ!」
ビュン ビュンビュン
わたしの言葉に勇気づいてミチビキ鉛筆は燗風呂とともにマーフォークの首筋までわたしを運んで行った!
「成敗!」
ミチビキ鉛筆をソードモードにし、横殴りにマーフォークの首を切る!
チャリン
めちゃくちゃショボい音がして鉛筆はやつの首をこすっただけだ(;'▢')。
ギロ
に、睨んできた(;'△')!
ビュン!
とりあえず逃げる!
ブブン!
やつのフォークが頭上に振るわれて生きた心地がしない!
ブン! ブブン! ブンブン!
ビュン ビュンビュン ビュン!
ひたすら逃げる!
ブブン! ブンブン! ブン!
何十回か逃げて、もうダメだと思った時だった。
ズサッ!!!
すごい斬撃の音がしたかと思うと、マーフォークは真っ二つに切られ、切られた部分は、人と魚に分かれて、分かれるととても弱っちくって、それぞれ別々に逃げて行ったよ!?
見下ろすと、時間切れで戻ったはずのハンターがごっつい剣を地面に突き刺して、ゼーゼーあえいでいた。
☆彡主な登場人物
- やくも 斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
- ネル コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
- ヨリコ王女 ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
- ソフィー ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
- メグ・キャリバーン 教頭先生
- カーナボン卿 校長先生
- 酒井 詩 コトハ 聴講生
- 同級生たち アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
- 先生たち マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
- あやかしたち デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人)