大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・070『マーフォークに一撃くらわせたんだけども』

2024-08-31 10:51:11 | カントリーロード
くもやかし物語 2
070『マーフォークに一撃くらわせたんだけども』 





 ズボゥーーーン!! ザッパーーーン!! ドッブーーーン!!

 半魚人マーフォークが電柱ほどの化物フォークを振るう! その度にカルデラから水が噴き出し低地の野原を沈め、林を洗う!

 ザプーーン グァラーーン ドプーーン

 水が噴き出す度に燗風呂はわたし一人を入れたままもみくちゃになる。

 このままでは沈んでしまう……ゲホ! ゲホゲホ!

 このままでは湯船に水が入って沈んでしまう、ゲホ! いやだ、だってお風呂に入っているんだからすっ裸なわけで、このまま溺れ死んだらメチャクチャみっともない!

 ザプーーン!

 あ、沈むぅ……と思ったけど沈まない。

 相変わらず、湯船の中はお湯のまま。いっしゅん水は入って来るんだけど、すぐに湯船の外に弾かれて、湯船の中はずっと同じ量のお湯のまま。

『それは、元々は八犬伝の八房がお礼にくれた神木の風呂じゃ(やくもあやかし物語128『八房のお礼』)。誇り高き風呂なのじゃ! 風呂の湯と定められた水しか受け付けないのじゃろ!』

 手袋を寄せてきて、それだけを言うと、次に来た波を躱してまた飛び去って行く御息所。

 沈む心配は無いと分かったけど、このままだと、ただ波に翻弄されているだけで何もできない。

 あ、大きいのが来る!

 調子に乗ったマーフォークが大きくフォークを振るうと怪獣みたいに凶暴な大波が起こって向かって来る!

「あれに掴まったら、さすがに飛ばされてしまうよ(;'∀')」

『これを使えぇ!』

 御息所がミチビキ鉛筆を投げてくる。

「ありがとう!」

 取りあえずお礼を言うのは、我ながら性格だろうね(^_^;)。

 どうしたらいいんだろう!?

 怖気づいていると、握ったミチビキ鉛筆がプルっと震えて空を指した。

 すると、湯船からマーフォークの首までチャートみたいに点線とポイントが現れた。

 え、これってチャートをたどってマーフォークの首まで行けってこと?

『行って、こやつをやっつけろということじゃろ!』

「簡単に言わないでよ(´;△;`)」

『なんとかしろぉ(>○<)』

「そう言われてもぉ」

 チャートは、マーフォークの動きに合わせて絶えず変化している。こんなのどうやってトレースしていきゃいいのよ。

 ブルン!

 湯船が一瞬震えた、いや武者震い?

 ビュン!

「あ、ちょ!」

 焦れた燗風呂はわたしを乗せたまま、チャートのポイントをなぞって飛んでいく。

 そうだ、元々はミチビキ鉛筆は目的地やら、目的地までの道筋を示してくれる魔道具なんだ。

「よし、信じて行くよ!」

 ビュン ビュンビュン

 わたしの言葉に勇気づいてミチビキ鉛筆は燗風呂とともにマーフォークの首筋までわたしを運んで行った!

「成敗!」

 ミチビキ鉛筆をソードモードにし、横殴りにマーフォークの首を切る!

 チャリン

 めちゃくちゃショボい音がして鉛筆はやつの首をこすっただけだ(;'▢')。

 ギロ

 に、睨んできた(;'△')!

 ビュン!

 とりあえず逃げる!

 ブブン!

 やつのフォークが頭上に振るわれて生きた心地がしない!

 ブン! ブブン! ブンブン!

 ビュン ビュンビュン ビュン!

 ひたすら逃げる!

 ブブン! ブンブン! ブン!

 何十回か逃げて、もうダメだと思った時だった。

 ズサッ!!!

 すごい斬撃の音がしたかと思うと、マーフォークは真っ二つに切られ、切られた部分は、人と魚に分かれて、分かれるととても弱っちくって、それぞれ別々に逃げて行ったよ!?

 見下ろすと、時間切れで戻ったはずのハンターがごっつい剣を地面に突き刺して、ゼーゼーあえいでいた。

 
☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人)
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)137・啓介 災難に遭う

2024-08-31 07:06:42 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
137・啓介 災難に遭う 小山内啓介 





 惣堀高校は穏やかな学校や。

 学校も生徒ものんびりしていて、あんまりもめ事めいたことは起こらへん。

 この一年で最大のもめ事が、部室棟に湧いたダニ・ノミ事件であったというだけでも分かってもらえると思う。

 人の事には干渉せえへんというのが惣堀の不文律なんで、うちみたいに演劇をしない演劇部でも存在が許され、仮とは言え部室まであてがってもらっている。

 その演劇部の部長がオレなんやから、オレの中身は純正の『ノンビリ』で出来ていると宣言してもいい。

 その、ノンビリの代表みたいなオレが、生活指導室にしょっ引かれて取り調べを受けようとしてるんやから、大変な事件なんや。


 事の始まりは昼休みの食堂。


 一番人気のランチの列に並んでいる時に事件は起こった。

 ランチの列はランチを始めとする『ご飯系』を食いたい奴が並んでる。せやから、学年や男女による偏りはほとんどない。

 まあ、四時間目終了のチャイムが鳴った瞬間は学食まで走る男子はおるけどな。それもカウンターの前に列ができてしまうと、もともと穏やかな校風やし、他校に比べてノンビリした感じになる。

 オレの後ろに、一年の女子たちが続いていた。

 クラスの仲良し同士みたいで、並びながらでもピーチクパーチクお喋りに余念がない。

 女子のお喋りと言うのはクラブの三人娘で免疫ができてるんで、オレには単なる環境音でしかない。

 一年の女子たちは、たとえ食堂の列であっても、必要以上に他人、とくに男子の他人にはくっ付きたくない。せやから、オレとお喋り女子たちの間には微妙な隙間が空いている。

 たまに松井先輩やお馴染みの生徒会女子たちと並ぶことがあるんやけど、彼女たちは遠慮も油断もない。
 きっちりと間隔を詰めて並んでくる。列が動いた時なんか、車で言う玉突きになることがある。たいてい肩とか腕がぶつかる。女子でも、肩とか腕やったらどうということはない。
 松井先輩やミリーは、そういうところにこだわりが無さすぎで、どうかするとぶつかって来る事がある。むろん、そのままにしているはずはなく、よっこらしょッと、腕を使って押し返してくる。

 反応が「あ、ごめん」と「気を付けてね」もしくは無言に分かれるが、ま、そんなもん。

 一年の女子たちは、車に例えれば若葉マークで、オレとの間に十分過ぎる車間距離をとって並んでる。

 事件と言うのは、その十分過ぎる車間距離の中に割り込んできたやつがいたことや。

 ……………………

 お喋りが中断したことで割り込みに気が付いた。

 振り返るほどやないけど、ちょっと首を捻ったところで、そいつが視界に入ってきた。

 野球部の田淵や。

 同学年やけど、同じクラスになったことはない。たまに練習に励んでいる姿を目にしているんで、ユニホームの名前で、いつしか憶えてしまっていた。

「田淵くん、後ろに周った方がええんとちゃうかなあ」

 穏やかに言うて、後ろの一年女子たち目で示してやった。

「え? ここ最後尾ちゃうん?」

「一年の女子らが並んでると思うねんけど」

「え? この子ら喋ってるだけちゃうんか」

「どいたりいや、迷惑そうな顔してるで」

「迷惑て、そうなんか?」

 よせばええのに、一年の女子たちをね目回しやがった。こういう威嚇をするやつは好きやない。

「野球部やったら、ちゃんとフェアにやれや」

「なんやとお!」

 田淵は『野球部』という言葉で切れてしまいよった。

 どっちが先やったのか、互いに胸ぐらをつかんで床を転がりまわった。

 ガシ! ゴロゴロゴロ……!

 食堂の床と言うのは、うどんの汁やらラーメンの千切れたのやらがあって、それが服につくは鼻につくはで、他の床よりも狂暴になってしまう。

 転がりまわりながらも、ここに演劇部の女子が居ったら仲裁に入ってくれるんやけどと思ってしまう。

 松井先輩やったら、胸ぐらをつかみ合う前にいなしてくれてたやろ。

 で。

 けっきょく、どこの誰かだかが通報しやがって、こうやって生活指導の取り調べを受ける羽目になっている。

 こないだの温泉旅行といい今度の食堂といい、ほんまについてへん(-_-;)。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
 


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銀河太平記・244『お岩食堂でKMミリタリー放送を聴く』

2024-08-30 16:49:29 | 小説4
・244

『お岩食堂でKMミリタリー放送を聴く』 メグミ



 島のクセモノたちがお岩食堂に集まっている。

 西之島最大の食堂はブンカ―の基地食堂なんだけど、みんなお岩食堂に集まりたがる。

 安くておいしいご飯が食べられるだけじゃなくて、アットホームな雰囲気が好まれてる。本来はカンパニーの社員食堂なんだけど、来る者は拒まずで、胡同(フートン)やナバホ村、ちょっと遠いけど市役所のある北区からも人が来る。

 ちなみに西之島はいちおう日本領で、日本の地方自治法が適用され、島は東西南北四つの区になっている。けれど日ごろ〇区と呼ばれるのは北区だけで、あとは旧来の呼称(胡同・ナバホ村・カンパニー)と呼ばれて結びつきが強い。

 食堂の主はお岩さん。

 昔々は月で金融関係の仕事をしていたらしいけど、その後いろんな道をたどって食堂の女将に収まった。西之島戦争の時は部隊指揮も立派にこなして、ほんとうに正体不明の女傑。

 従業員は食堂の近くにある氷室神社巫女のハナ。神主のシゲ老人ともどもカンパニーの鉱山で働いていたんだけど、シゲ老人が神社を造ると巫女を兼ねるようになり、今では食堂の人気ウェイトレスでもある。

 近ごろは北区の街の子たちもバイトで入ってくれるようになった。単に小遣い稼ぎというだけではなく、人間関係や人との接触、付き合い方の勉強になるというので、地味に人気がある。

 かくいうわたしもラボの仕事のキリが付くと自然と足が向く島のホットステーション。

メグミ:「はい、来月のシフト表できたわよ~」

 ハンベで作ったシフトを厨房のPCに送る。

お岩:「ごめんねメグ、ビールでも飲んで帰ってぇ!」

メグミ:「うん、ありがとう!」

 お礼を言った時には、もうシフト表のプリントアウトと張り出し用の指示ををしてカツ丼五人前を作り始めている。

 カツ丼の他に油の爆ぜる音がしたかと思うと、いつの間にかハナが巫女服のまま炒め物を作り、その横でバイトの子がカツ丼のご飯をよそって炒め物の皿を並べている。

シゲ:「こらぁ! 食堂じゃ巫女服脱げって言ってんだろがあ!」

 シゲ老人がビールの泡を飛ばしながら文句を言う。

ハナ:「もう、自分は神主服のままだろがあ! ちょっと頼む」

 バイトの見習いに頼むと、その場で巫女服を脱ぎ始める。

 みんなは慣れっこだけど、バイトの子たちは慣れなくて目のやり場に困ってる。ここに来たころのハナは野生児というか、ほんの子どもだったけど、このごろは一人前の体格になってきた。

 ヒィ!

 バイトの一人が小さく悲鳴を上げる。

 身を隠すと言うことをしないので、体のあちこちの傷跡が丸見えになるんだ。

 顔や手先の見えるところは直してやったんだけど、服で隠れるところは後回しになってる……そろそろ直してやらなくちゃなあ。

 はい、おまちぃ! ハナぁ、あと頼んだよぉ!

 へい!

 隣りのテーブルの客にカツ丼を渡すと、お岩さんが横に座って、それを待っていたかのようにモニターにフーちゃんの軍服姿が映った。

お岩:「ピッタリのタイミングだ」

メグミ:「タイマーでもかけてんのぉ?」

お岩:「フーちゃんは娘みたいなもんだからねぇ、気になって、いつもタイミングが合っちまう」

 この時間はKMミリタリー放送(漢明の軍隊放送)の時間で、近ごろ国内外で評判のいいフーちゃんが担当している。

胡盛媛中尉:「ニーメンハオ漢明軍のみなさん。こんにちは世界のみなさん。胡盛媛がお送りします『KMミリタリー』の時間です。先日マンチュリーへのミサイル攻撃に失敗したロシアは、その攻撃をモンゴルに向けました。ロシアの狙いはモンゴルを勢力下に置いたのち、我が漢明と雌雄を決するところにあると思われます。一昨日ハルハ川河畔で痛手を被ったロシア第三騎兵旅団は西に向かって東より侵入してきた第一第二旅団と合流を目指している模様です」

 画面がモンゴルの地図に切り替わる。

胡盛媛中尉:「西のモンゴル平原では第三旅団に壊滅的打撃を加えたテムジンの息子、リムジン、ドライジンの騎兵部隊が待ち受けている様子です。合流の為に西に向かっている第一旅団ですが、現在はその進撃速度が落ち、待ち受けていたテムジン部隊に痛手を受けたと思われ、一両日にには火ぶたが切られるであろう西部戦線の展開は予断は許さないと、我が統合参謀本部戦略室は見ております……あ、追加のニュースが入ってきました」

 画面の外から原稿が手渡される。なんか大昔のテレビニュースみたいだけど、こういうアナログ感がフーちゃんにも合っていて人気になっている。

 原稿を渡されたフーちゃんが、一瞬、笑顔のまま固まってしまう。

胡盛媛中尉:「ただいま命令を拝受いたしました。本職は、このままモンゴル平原に取材に参ります。つきまして……え、部長?」

 食堂中に怨嗟の声が上がった!

 なんと画面に朱元尚大佐が割り込んできた。

朱元尚大佐:「中央軍広報部はホットなニュースを全国の兵士諸君並びに世界のみなさんにお伝えするべくモンゴル平原に現地取材に向かいます。むろん担当は我らが胡盛媛中尉。むろん中尉ひとりではありません。この朱元尚自らが若干の部隊を引き連れ安全万全の取材であります」

 乞うご期待とばかりの笑顔の前にもう一枚の原稿が送られ、大佐はそのままフーちゃんに渡した。

胡盛媛中尉:「追加のニュースです。モンゴル平原でロシア軍とモンゴル軍の戦闘が開始されました」

朱元尚大佐:「おお、意外に早い展開になってきました。これは、ただちに出発しなければ!」

胡盛媛中尉:「まだです部長」

朱元尚大佐:「なにかね?」

胡盛媛中尉:「ロシア軍の中核には青銅の騎士が含まれており、これにモンゴル軍は苦戦中の模様で……」

朱元尚大佐:「青銅の騎士だと……」

胡盛媛中尉:「はい青銅の騎士……あ、部長!」

 画面から朱元尚が消える、いや、泡を吹いて倒れた?

お岩:「青銅の騎士……ちょっと面白くなってきたじゃない( ,,ÒωÓ,, ) 」

メグミ:「え?」

 お岩さんが目を輝かせて戦闘モードになって、周りを見ると他にも目を輝かせているろくでなしどもがチラホラいた。

 青銅の騎士……Bronze Horseman !?

 英語に変換してやっとわたしもピンときた!

 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
  
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)136・温泉旅行本番!・2

2024-08-30 07:43:46 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
136・温泉旅行本番!・2 小山内啓介 




 浴室内の介助の仕方もあれこれ教えてくれる。仲居さんの説明の都合というか説明の義務があるらしい。

 オレが千歳の介助をやるわけやないけど(^_^;)。引率者には介助のアレコレを伝授しておくのが条例とか安全規則とかで決められてんねんやろなあ。そやけど、女子の浴場に足を踏み込むのはなんともなあ(#´o`#)。

 脱衣かごには女子が脱いだ下着やらが入っていて、脱衣棚の前にはタオルで前を隠す女子の後姿というかヒップ、洗面のドライヤー持って髪を乾かす女子からはシャンプーのいい香り……とかが思い浮かんでしまう。

「なに赤くなってんのよ、浴場は日替わりで男女は入れ替わるのよ。今日が女子だから昨日は男子。ちなみに利用者の大半は高齢者だそうよ(´¬_¬) 」

 松井先輩がジト目で真実を伝える。

「え、そうなん(;'∀')?」

 とたんに女子のヒップが弛んだ爺さんのケツに変わる。

 惣堀高校はバリアフリーのモデル校やから、障害を持った生徒の率は他校より高い。同学年には車いすの男子が二人居てる。修学旅行も数カ月後には控えてるし、聞いておいて無駄にはならへんと自分に言い聞かす。

 葛城山を借景にした庭はなかなかのもので、女子たちは陽のあるうちに見ておこうと連れだって出て行った。

 一緒に行こうと誘われたけど、オレは先に温泉に入ることにした。

 船場女学院の発声練習も聞こえへん、庭に出ても彼女らとは行き違いやろなあ。

 それよりも、基礎練の後や。ひょっとして入浴の出入りくらいで会えるかもしれへんしな。

 備え付けの浴衣とタオルを持って浴室への階段を降りる。


 カッポーン……ザザザザ……アハハハ……


 踊り場に差し掛かったところで、浴室のくぐもった音やら声が聞こえてくる。

 話の中身までは分からへんけど、~ちゃんとかの愛称とか、ああ極楽~の声が笑い声と共に聞こえてくる。

 この声は……八人くらいは居そうやなあと想像してしまう。

 女湯の手前の男湯の暖簾をくぐる。

 さっきの下見では気が付かんかったけど、どうやら浴室内の壁は上の所でイケイケになっているようで、脱衣場では楽しそうな声が一段と大きくなってきた。

 女子の嬌声なんか、学校ではしょっちゅうなんやけど、このシュチエーションは興奮するぞ(^△^;)!

 幸い、男湯はオレ一人なんで、遠慮なく顔がデレてしまう。


 キャーーー!!


 ちょ、サワちゃん!

 タオルを巻いて浴室の引き戸を開けたところで異変がおこった!

 女湯に悲鳴があがって、ドタバタ、パシャパシャ、ザブザブと慌てる気配!

 ひ、人を呼ばなきゃ!

 人工呼吸!

 担架持ってきてー!

 事故や! 

 船場女学院の生徒たちが裸でうろたえているイベントが脳内画面に浮かんでドキッと……している場合やない。

 担架の場所は、さっき確認したとこや。他に人はいてへん……それ以上は考える前に体が動いた!

 担架持ってきましたあ!!

 ゲ!?

 浴室に飛び込んで、心臓が停まりそうになった。

 女湯の浴室には、推測した通り八人の裸の女性がいた……が、ひいき目に見ても五十代から八十代という、熟年の方々ばっかり。

「人工呼吸できる!?」

 さっき聞こえた声だ。声質は若いけど、声を発しているのはお袋と同年配。タイルの上で伸びているのは……描写している場合やない!

「や、やってみます!」

「サワちゃん! 今から人工呼吸してもらうからね!」

 中学野球のころから何度も救命救急講習は受けてる。

「気道確保!」

 バスタオルを丸めて首の下に回す。サワちゃんの鼻をつまんで、口を斜めに交差させるように合わせる。

 ああ、オレのファーストキスがあ(;゜Д゜)……。

 オレの救命救急措置がうまくいったのか、サワちゃんは事なきを得て、番頭さんが呼んだ救急車に載せられていった。

 振り返って歓迎札を見ると『船場女子演劇部の会御一行様』とあった。


 なんやこれは?


 スマホで検索すると船場女学院の卒業生で活動してる地域劇団と出てた……。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
 
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馬鹿に付ける薬 011・ガードはソードマンのプルート

2024-08-29 11:20:38 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

011:ガードはソードマンのプルート 



 
 町の北門を三人が出ていく。

 ソードマン(剣士) アーチャー(弓士) メイジ(魔法使い)のナリをした三人なので最低要件を満たした冒険者一行には違いない。

 ソードマンが先頭なのだが、アーチャーのアルテミスもメイジのベロナも、この小柄なソードマンが何者なのかよく分かっていない。

 ジョバンニ教頭が「学校の方から依頼したガードが待っている」と言っていたので間違いはない。しかし「話はあとだ、さっさと手続きを済ませろ」とソードマンが言うので、あっという間に用件を済ませ、取りあえず町を出ていくところだ。


「では、話だ」


 ソードマンが道祖神の前で立ち止まった。

「おう」

 自分よりも小柄なソードマンに素直に返事してしまうアルテミス。ベロナは品よく頷いた。

「ガードのプルート、冥王星のスピリットだ。お前たちが目的を果たして学校に戻るまで付き合う。身分的にはお前たちの方が上だが、冒険に関しては俺の方が遥かに上だ。冒険が終わるまで、このプルートの指示に従ってもらう。いいな」

「はい」「お、おう」

「インタフェイスを開け」

「はい」「おう」

「所持金とアイテムの半分を預かる」

「「え?」」

 ジャキーーン

 反論する間もなく現金とアイテムの半分がインタフェイスから消えていった。

「金とアイテムが欲しければ稼げ。常に稼ぎの半分は俺が管理する。食事、宿泊、アイテムの出し入れは俺がやる」

「あ、オレだって……」

「アルテミス、お前の『オレ』は禁止だ」

「え、なんでだ!?」

「おまえ、一応はかぐやの妹で女なんだろ。女がオレとかボクとか言うもんじゃない」

「オレだって神さまなんだぞぉ……なに見てんだ!」

「……胸を張るな、ほとんど痕跡器官にしか見えんぞ」

「な、なんだとヽ(`Д´)ノ !」

 アハハハ

「わ、笑うな!」

「アルテミスだって、時どきは『あたし』って言ってますよ」

「TPOで使い分けてんだ、こんなオッサンに言われる筋合いはねえ!」

「それから、ベロナ」

「はい」

「最初に行っておく。地球と同じ公転軌道を周ろうなどと思うな」

「え、なぜですか( ゚Д゚)!?」

「惑星というのは、自分の軌道を守ってこその惑星だ」

「でも、それは!」

「いま分からんでもいい。大事なことだから最初に言っておいた。もう、当分は言わん。では、行くぞ。夜までには曙の谷で用事を済ませて、正式に出発するからな……返事!」

「「ハ、ハイ」」

「では、駆け足!」

「「え?」」

 いきなり駆けだしたプルートを追いかけるベロナとアルテミス。

 最低限で妙なパーティーに行きかう冒険者たちが笑っていく。

 異世界を照らす太陽は、そろそろ南中しようとしていた。


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          アーチャー 月の女神
  • ベロナ            メイジ 火星の女神 生徒会長
  • プルート           ソードマン 冥王星のスピリット
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭

 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)135・温泉旅行本番!・1

2024-08-29 07:10:20 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
135・温泉旅行本番!・1 小山内啓介 




 なにボーっとしてんの?


 先にロビーに向かった須磨先輩が引き返してきた。

「え、あ、いや、なんでも(^○^;)」

 焦って応えると、ちょっと軽蔑した一瞥といっしょにルームキーを渡された。

「あたしたち、部屋に行ったら、とりあえず温泉に直行だから。食事までは自由時間てことで。部屋出る時は、必ずキー持ってね。閉じ込めなんて情けないことにならないように」

 それだけ言うと、クルリと踵を返してロビーの女子組に合流する先輩。いつになく「キャハハ」とか笑ってるし、先輩なりにリラックスしてるんやろなあ。

 まあ、降ってわいたような温泉一泊旅行に、女子たちはウキウキしている。

 めでたいこっちゃ。

 オレは、福引コーナーに張り出されていたもう一組の当選者『船場女学院演劇部』に気をとられた。

 気をとられるだけじゃなくて、彼女たちも一緒になるに違いないと思い込んでしまった。

 だから、玄関前の『歓迎~御一行様』の札の列に気をとられてしもた。


 そこには、うちの『惣堀高校演劇部御一行様』しか見当たらへん。


 アホやなあ~(^_^;)

 いっしょに当選したからと言って、同じ日に来るわけがない。

「小山内君、館内の説明とか受けるから、来てえ」

 朝倉先生に呼ばれる。

「いま、行きます」

 千歳の事があるから、動線とか館内の様子は事前確認と言われてた。

 今年きたばっかりの新任やけど、こういうところは、やっぱり先生。ちょっと見直す。

「「あ、すんません」」

 入れ違いに出てきた番頭さんとぶつかりかけて同時に謝る。

 すぐにロビーに行ったんやけど、番頭さんが手にした『歓迎~御一行様』の札がチラリと見えた。

 どうやらかけ忘れてたんで、慌てて掛けに行くところみたいや。


 お!?


 ほんの一瞬やけど見えた『船場女……』の歓迎札。

 番頭さんの体に隠れて上半分だけやけど、間違いない!

 オレは、やっぱりツイテいる!

 担当の仲居さんから、一通りの説明を受けて、オレと朝倉先生とで動線の確認をしておくことになる。

「先生、やっぱり、しっかりしてるわ」

「当たり前でしょ、引率のイロハだわよ」

 仲居さんに先導されて、あちこちの確認。

「一応、お風呂も確認しますか?」

「え、女湯も!?」

「うん、万一というときは小山内君の力も借りなきゃだからね」

 仲居さんが『準備中』と札を返した女湯に続く。

 準備中やから、当然無人なんやけど、数分後か数十分後かには船場女学院御一行様がお入りになるのかと思うと、ちょっとだけ脈拍が早くなる。ちょ、ちょっとだけやからな、ちょっとだけ(;^_^。

 リフト付きの入浴用車いすとか、あちこち付けられた手すりやスロープに感心する。万一の場合のAEDの場所やら通報ブザーの場所など、やっぱり、確認しておかんと役に立たへん。

「担架は、男女共用なので廊下にございます」

 廊下に出ると、入り口の向かいの壁に『担架』の張り紙がある。

「事前に見ておきませんと、いざという時は、この字が見えないものなんです」

 仲居さんは、以前、必要になった時に役に立たなかった話をドラマチックに話してくれる。この仲居さん、演劇部向きかもしれへん。


 ア エ イ ウ エ オ アオ……


 どこからともなく、演劇部の定番発声練習の声がしてきた!

「同宿の演劇部の方たちですね、裏の丘なんですけど、風向きによって聞こえてくるんでしょうけど、ハツラツとなさって、いいものですね」

 仲居さんは、それとなく「お騒がせします」のエクスキューズを言ってるんやろうけど、オレは『船場女学院演劇部』のロゴ入りジャージを着て発声練習に勤しんでいる美少女たちの姿がアリアリと浮かんでくるのであった! 

 ゴックン(;゜-゜;)



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・123『軍艦突堤もしくは防波堤』

2024-08-28 14:56:11 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
123『軍艦突堤もしくは防波堤』   




「待ってたわ、すぐに案内するから(^▽^)/」


 車が停まると同時に奥さんの恵さんが飛び出してきた。

「いいの、直で?」

「うん、ぜんぜん!」

 直美さんに元気に返事すると、クルンと振り返り手のひらを庇にして空を見上げる。

「ヘクチ! アハハ、朝の光の方がだんぜんいいから。じゃ、ちょっと行ってきまーす!」

 奥さんの恵さんが声をかけると空の手前で旦那さんの勲さんが手を振る。

 勲さんは灯台のライトハウスっていうんだろうか、そこのガラスを元気に拭いている。Tシャツ姿だけどちゃんと制帽を被って、首に双眼鏡、手にはウエスを持ってガラスを拭いて、いかにも灯台守。

「毎日拭かないと塩がついちゃうの。でもね、灯台のことは自分の仕事だって手伝わせてくれないのよ」

「フフ、いい旦那だ」

 てっきり灯台か灯台下の磯や岩場を撮るんだと思ったら、わたしは後部座席、恵さんが助手席に収まって、大浜港の方に向かった。


 ザップーーーン!


「土用の波だねぇ」

 カシャカシャカシャ

「え?」

 ちょっと混乱、今日は火曜日だし。

「立秋の頃に寄せてくる。不規則に大きな波が来るから要注意」

「波を撮るんですか?」

「波も撮るけど、も少し大きい景色をね。あの突堤をね……」

 突堤なんか撮ってどうするんだろう。

「トッテイモいいんだぞぉ」

 ( ̄m ̄〃)ぷぷっ!

 直美さんがヘタな洒落をカマシて移動。

「漁協に話はしてあるから」

「助かるぅ!」

 わたしが機材を担いで、直美さんはカメラ二つを持ち、恵さんの案内で漁協の建物に向かう。「お世話になります」と受付で声だけかけて、そのまま屋上へ……と思ったら給水塔の上まで上がるしい(^_^;)。

「うん、ちょうどいい。望遠と広角用意しといて」

「はい」

「それと、これ!」

 ビュン

 恵さんが命綱を放り上げてくれる。

「え、こんなのするんですか?」

「撮りだすと夢中になるからね、グッチも付けといて」

「あ、はい(^_^;)」

 腰に命綱を付けて、端っこの金具を給水塔のフックにかける。

「……まあ、ギリいけるかなあ」

 パシャパシャパシャ

「望遠300!」

「はい」

「いや、広角、光が変わりそうだ」

「は、はい」

 レンズをケースから出して渡す。

 パシャパシャパシャ パシャパシャパシャ

「やっぱり高いところはいいわねぇ」

 気が付いたら恵さんんも上がって来た。

「直美さん、どこを撮ってるんですかねえ……」

「突堤を右に据えて、港を撮ってるんだと思うわ……突堤の上、よぉく見て」

「突堤の上ぇ……あ」

「分かった?」

「あれって……船……ですか?」

 注意して見ると、突堤の上面にうっすらと船の形が見える。

「うん、軍艦が埋まってるの」

「軍艦!?」

 パシャパシャパシャ

「うん、あそこにね旧海軍の駆逐艦を沈めて臨時の突堤にしたんだ。コンクリートで固めちゃったから、もう船の縁が見えてるだけなんだけどね……あ、フィルムお願い」

「あ、はい」

 我ながら慣れた手つきでフィルムを装填すると恵さんが横に来る。

「葉月って駆逐艦。お父さんが乗ってたんだ」

「え、そうなんですか」

「戦後しばらく引揚船に使われてたんだけど、二年で引退して、あとはあそこで防波堤になった。わたしもね、ついこないだ知ったんだけどね」

「上の方は無いんですね、大砲とか煙突とか」

「必要なのは胴体だけだから鉄くずにしたんでしょうねえ」

「葉月って八月の和名でしょ、突堤になったのが二十二年の秋だから、なんかピッタリで、それで直美さんに話したら、ぜひ撮りたいって」

「よし、次は突堤そのものを撮るよ!」


 三人で漁協を出て突堤に向かう。


「うん、横から光が来ればクリアーになるね。レフ板!」

「はい!」

 レフ板で頭上の日光を横向きに変換。僅かに残った縁と微妙な高低差が際立ってくる。

「ブリッジはこのへんかなあ……」

 給水塔から見下ろして大よその形は分かっている。葉月は舳先を海に向けている。

「最後の引揚船の時にお母さんが乗ってて、その縁で結婚したんだって」

「え、そうだったんですか!?」

「ブリッジの前の方、左舷て言ってたから、このへんかなあ……ここで、お父さんプロポーズしたんだって」

「ええ、そうなんですか(^▽^)!?」

「昔の話しなんてちっともしない人だったんだけどね、こないだ、たまたま話してくれて」

「それを聞いた直美さんが閃いたってわけですね」

「ねえ、ちょっと走ってみようか!」

「走るんですか!?」

「うん、舳先からお尻までちょうど百メートルほどだから。ねえ、直美も!」

「ええ?」

 渋る直美さんもいっしょに突堤を走る。

 現役女子高生だから楽勝……と思ったら、ゴール近くでラストスパートをかけてきた恵さんにあっさり抜かされる。むろん、直美さんはドンケツだったけどね。


 帰り道、直美さんが教えてくれた。


 恵さんは、夏の初めに流産していた。

 ちょっとこじらせたらしくて、しばらく入院していて、心配したご両親がこっちにこられて、その時に突堤の話を聞いたそうだ。

 令和に戻って改めて突堤を見に行く。

 
 ああ……


 突堤は近辺の海といっしょに埋め立てられて跡形も無かった。ググって見ると『軍艦防波堤』というくくりで出ていた。防波堤と突堤というのは厳密には違うらしいけど、一般には軍艦防波堤と呼ばれて、全国に数カ所残っている。

 名残惜しくてウロウロしていると『軍艦防波堤跡』という説明書きが残っていた。地元では軍艦突堤とも呼ばれていたけど、記念碑を残す時に全国的な軍艦防波堤という名称にしたと書いてある。

 その説明書きも半ば赤さびて、もうネットの中でしか知ることは出来なくなるのかもしれない。


 わたしの夏休みが終わった。

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)134・真面目に下見・2

2024-08-28 07:00:06 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
134・真面目に下見・2 朝倉美乃梨 




 たいてい視覚障害か下肢障害ですから。


 ボブ子さんは一発で見抜いた。

 なんで分かってしまったのか、不思議だったので夕食の席で聞いてみた。

「普通の学校に通っている障がいの子は、その二つがほとんどですし」

「あ、そうなんだ」

「視覚障害なら、付き添ってあげれば済む話ですし、事前に現場を見るっていえば下肢障害かなって。それに女の先生が来るんだから、生徒さんは女の子」

「あ、なるほどお!」

 感心して、大学の専攻を聞くと介護福祉系の大学だった。話が盛り上がって、思わず五人にビールを奢……ろうとした。

「あ、それならお風呂あがったあとにしません!?」

 なるほど、風呂上がりの方がだんぜんビールは美味しい。

「わたしたちも飲むつもりだったんですけど、風呂上がりの方が断然おいしいから夕食は食前酒だけで我慢してたんです」

 なるほど、克己心のある子たちだ。

 そして、実際に車いすで温泉に入ることにした。これはポニ子さんの勧めだ。

「『百聞は一体験に如かず』ですから(^▽^)/」

 客室から、車いすを押してもらい、脱衣場で入浴用の車いすに乗り換えてお風呂に向かう。

 入浴用の車いすは、浴槽の専用の縁(へり)まで行くと、座面が十センチまで下がり、浴槽の中まで続いている手すりに摑まれば一人でも入浴できる。

「でも、水場ですから必ず介助ですね」

「そうね、車いすを交換するときも感じたけど、腕の力だけでお尻もち上げるって……ちょっと……大変(;>∀<)!」

 手すりを掴む手がプルプル震えて笑いそうになる。

「本人たちは、いつもやってることだから、健常者が感じるほどじゃないんですけどね」

「……うんこらしょっと!」

 浴槽に浸かってからは、体験は中断して、ガールズトークに花が咲く。

 演劇部の顧問だと言うと「すてき!」と喜ばれる。

 ポニ子さんとショートヘアの子は高校で演劇部に入りたかったらしいんだけど、入学する前の年に廃部になったんだそうだ。

「別に、役者になろうとかコンクールで優勝したいとかじゃないんです。なんてのか、表現力とか付けたくって」

「教科教育法の講座で言われたんですけど、アメリカとかじゃ、教職に『ドラマ』のコマがあるらしいですよ。人を相手にする職業は表現力がなくっちゃいけないって」

「そういえば、弁護士とかも。法学部とかロースクールとかじゃ、表現力の講座があるって聞いたことがあるわ。表現力一つで判決が変わることがあるって」

「ケント・ギ〇バートさんだったかが、そんなに細い目で喋ってちゃ法廷闘争に勝てないって指導されたってゆってた」

「どんな演劇部なんですか?」

 ボブ子さんの質問で、うちの演劇部の話に変わった。

「あ、それがねぇ……」

 この半年の顛末を話すと、五人の女子大生は手を叩いて面白がってくれた。

 部室が欲しいためだけに集まった演劇部だけど、文化祭で『夕鶴』をやったらけっこうノッタ話とか、部室が取り上げられそうになった時の松井さんの活躍とかは大いにウケけた。

 風呂上りには、約束通り生ビールを奢ってあげて、夜遅くまで新米教師と女子大生五人組との浴衣パーティーになった。

 意地と成り行きで急きょやってきた南河内温泉。いわばアリバイ的にやってきたんだけど、楽しい下見になって、結果オーライの週末ではありました(^▽^)/。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
 





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やくもあやかし物語2・069『マーフォーク現る!』

2024-08-27 08:28:12 | カントリーロード
くもやかし物語 2
069『マーフォーク現る!』 



 あ……


 オリビアがきれいな横顔で驚いた。

 鼻筋もきれいで、顎から喉にかけてのラインがディズニーのプリンセスみたいに優雅。

「虹が掛かってるわ」

「フヘ?」

 もうかれこれ三十分もお湯に浸かっているのでふやけた返事になる。

「ほら」

 首をひねるとカルデラの上に『オーバーザレインボー』を歌いたくなるような、おあつらえ向きの虹が出ている。

「ああ、まだポンプが回ってるんだ」

 カルデラから引いたホースは、あちこち穴が開いていてミスト発生機みたいに水を噴き出し続けていたんだ。それに、太陽の角度がドンピシャで虹を描いてる。

『ポンプのスイッチはとっくに切ってあるぞよ』

「え……」「だってぇ……」

 虹に見惚れて、お風呂の湯気みたいにあいまいな返事をしてしまう。

『……おかしい!』

 ジャブ

 お風呂から跳びあがると、手袋に収まってポンプを見に行く御息所。

 ザッパーーーーン!!

 盛大に水が噴き上がったかと思うと、身の丈20メートルはあろうかという半魚人が空中に躍り出た!

「グゥワハッハッハ! 礼を言うぞ人間! 我は、この海に君臨し、このあたりを知ろしめていたマーフォークだ!」

 そう言うと、噴き上がっていた水の一部が凝り固まってでっかいフォークみたいに変わってマーフォークの手に収まった。

『な、なにを申しておる、ここは一面の野原とか林とかではないか!』

「ここは、元々は海だったのじゃ。それが、要らざる神が現われて海の水を大地の底に、このマーフォークと共に落とし込み、このカルデラに儂を封印したのだ」

「そのフォークさんが、どうして……」
「怪獣みたいに現れたのよ!?」

「ワハハハハハハ!!」

 チャプチャプ グラグラグラ

「「キャァ~~((>〇<))」」

 カルデラも地面も振動し、わたしはオリビアと鍋の中のゆで卵みたいに揺れてしまう。

『あ、ゆで卵みたいだなんて思うではない!』

 御息所の忠告は遅かった!

 ピキ ピキピキ ピキ!

 オリビアの体にひびが入った!

「オリビア!」

「あ、だめ、もうここに居られないわ(''◇'')」

 ヒビが全身にまわったかと思うと、割れ目からタマシイみたいなのが滲み出てすぐに消えて行ってしまった!

 学校の仲間は魔法の効果で助けに来てくれているんだけど、まだまだ未熟なので時間に制限があるんだ! マーフォークの出現にビックリして、それが早まってしまったんだ!

 くそ、せっかく裸の付き合いができたところだったのにぃ!

『やくも、あぶない!』

 御息所の声に振り仰ぐと、まさにマーフォークの化物フォークが振り下ろされるところだったよ!



☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人)
 
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)133・真面目に下見・1

2024-08-27 06:52:55 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
133・真面目に下見・1 朝倉美乃梨 





 T駅の改札を出てロータリーに向かう階段を降りると、驚いたことにお迎えが来ていた。

 南河内温泉の法被を着て温泉の小旗を持った、ちょっと髪の毛が寂しい番頭さん。

「わざわざお迎え有難うございます、予約しておいた朝倉です」

「あ、おいでなさいませ! どうぞ、車の中へ(^▽^)」

 髪の毛とは真逆の笑顔で出迎えてくれて、たった四十分前、行き掛かり上決めてしまった一泊旅行も――ま、いいか――ぐらいには治まってきた。予約の後に家に電話して「もう、もっと早く言いなさいよ、晩ご飯無駄になるでしょ」と母に文句を言われて、ちょっと凹んでたしね。

 温泉のロゴの入ったワンボックスに収まる、直ぐに発車……と思ったら、番頭さんは小旗を振りながら走り出した。

 何事かと思ったら、もう一つ出口があったようで、五人連れの女子学生風といっしょに戻ってきた。どうやら、他にもお客が居たんだ。

「では、出発いたします」


 六人の客を乗せて走り出す。


「すみません、後ろに追いやったみたいで」

 わたしの横に座ったボブの似合う子が頭を下げる。

「いいえ、学生さん?」

「はい、おひとりですか?」

「ええ」

 あなたも学生さん? とは聞いてこなかった。

 半年とは言え、教師をやっていると『らしさ』が身に付いたのかもしれない。一泊の、それも下見なんだ。同宿の人に気を使うこともないわよね。

「朝倉先生、夕食は承っていたのですが、気を付けなければならない食材とかございますか?」

「え、ああ、特にアレルギーとかはありませんから」

 簡単に済ませた予約だから確認が遅れたんだろうけど、先生の敬称は余計だ。

「あ、先生だったんですか?」

 ボブ子さんが笑顔を向けてくる。

「ええ、こんど生徒を連れてくるんで、下見に」

「あ、そうなんだ。高校ですか?」

「あ、はい」

 それから、前のシートの四人も話に加わる。ボブ子さんとポニ子(ポニーテール)さんが教職をとっていて、この春に教育実習を済ませたところだったので、いろいろと質問される。

 まあ、同宿のよしみ。半分は社交辞令と和やかに話しているうちに、和泉山脈麓の宿に到着。

 まだ半年にしかならないと言うと「え、そうなんですか!?」「なんか、ベテランに見えます!」とか驚かれる。

 驚かれるということは……実年齢よりも……歳食って見えるってこと?


 正体がバレてしまったので、宿の駐車場に着くと、ロビーに至るまでの動線を確認。スロープとか、玄関ロビーの段差とか。

 千歳の事があるからね。

「朝倉さん、送迎の車、折り畳みの車いすなら後ろから載せられるそうですよ!」

 ポニ子さんが教えてくれる。

 抜かっていた、まずは車いすが載せられるかどうかが問題なんだ。千歳は普段は電動を使っている。

 あ、でも、なんで千歳の事知ってるんだ? あ、自覚無いけど話しちゃったんだっけ?

「朝倉さん、入浴用の車いす完備しているそうなんで、あとで試してみません?」

 ボブ子さんがフロントで確認してくれてご注進。

 優雅に温泉に浸ろうかと思っていたんだけど、なんだか真剣に下見しなければならなくなってきた(;^_^A


 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
 
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銀河太平記・243『怪我人治療と蜂形ドローン』

2024-08-26 16:37:23 | 小説4
・243

『怪我人治療と蜂形ドローン』孫大人 




 テムジン部隊の馬は先祖から受け継いできたリアル馬だ。

 巡行速度25キロ 最大戦速65キロ 航続距離45キロ

 軍用的表現をすれば、まあ、こんなところで並の馬と変わらず。大方の軍隊で使っているオートホースの足元にも及ばない。

 だが、テムジンの馬にはブースターが付いていて、瞬間的には150キロを超える速度が出る。馬の運動神経と連動させているので、高速移動や方向転換をしても馬に負担はかからならない。馬は自分の意識と力で飛んでいると思っている。近接戦闘ではOH(オートホース)でも太刀打ちできないだろう。

 敵は、易々と接近して撃つなり切るなり自由に攻撃できるが、攻撃した瞬間にテムジンの馬は目の前から消えてしまう。
 実際はブースターを使って数メートルから十数メートル、馬との呼吸が合っていれば百メートル以上を瞬時に移動。敵からは消えたように見えるのだ。
 敵がオートホースに乗ったロボットでも、このブースト移動を数回続ければ演算速度が間に合わずに撃破されてしまう。

 テムジンは千騎余りの部下と共に、このブーストを使って西の戦場を目指している。ハルハ川のロシア軍を手玉に取ったあと、テムジンは眼前の敵が陽動であることを悟り、全軍に移動を命じた。50秒普通の並足で走らせ、残りの10秒でブーストをかける。
 50秒の並足も10秒のブーストも同じ距離を駆けるので、普通のリアル馬の倍の速度が出ていることになる。

 時々、テムジンは右手を上げ、手信号で最後尾の10騎に殿(しんがり)を命じる。10騎は5騎ずつに分かれ、追撃して来た敵をワイヤーで引っかけ、その都度数十騎の敵を人馬共々撃破する。敵は、その度に捜索と態勢の立て直しに追われ、なかなか追いつくことができない。

 五度目にゴルジンが殿に出た時は一気に200騎も撃破して、敵は追撃を諦めた。


「なんだか自分の目で見たようね」

 春鈴が馬乳酒と乾パンを配りながら冷やかす。やっと怪我人の手当てが山を越えたようだ。乾パンを配り終わって、最後の一人の包帯を巻きなおしてやっている。

「自分の目と同じだぞ」

 蜂形ドローンを充電してやりながら文句を言う。

「儂だって、あのブースト馬があれば十分に付いていけるぞ」

 ワハハハハ

 明るい笑い声が湧き上がる。

「大人、そりゃ無理だって」

 腕を吊った若いのが目をへの字にして笑う。

「儂だって、満州馬賊の頭目なんだぞぉ」

 ワハハハハ

「大人、あんたの商売人としての腕は認めるよ。でも、馬にかけちゃ世界で俺たちの右に出る者はいねえよ」

「そうだよ、孫大人。ブースト馬を使いこなすのはモンゴル人でも早くて五年、普通でも八年はかかる」

「俺は十年かかったぞ」

「だから怪我が一番ひどい」

「うっせえ!」

 ワハハハハ

 儂は、落伍したテムジンの部下を拾いながらテムジンを追いかけている。

 テムジンの部下とて万能ではない。ハルハ川で七人、途中の殿で脱落した者を二人拾った。

 戦死者が八名出ている、戦死者は遺品と少しの遺髪をとって、その場で葬った。

 行方不明が数名いるそうだ。おそらくは生きてはいないだろうが「死んだ」とは言わない。この点も満洲馬賊と変わらない。ただ、馬の技術については馬賊はモンゴルに敵わない。

「大人、そんなもので長距離の偵察とかできるのかい?」

「ああ、お前たちの馬といっしょさ。まあ、普通に使うなら、儂が馬に乗る程度にはできるだろうがな」

「見ていいかい?」

「ああ、同期してやるから、自分で使ってみ」

「うん」

 ハンベを操作して蜂形ドローンと同期してやる。

「おお、180度の3Dだ……」

 ブ~~ン

「思った方向に飛んでいく」

「ああ、見たいと念じたら固定される」

 ブ~~ン

「「「「おお!」」」」

 ハンベの画面が春鈴の尻のアップで固定された。

「ちょっと、どこ見てんのよ(ꐦ°᷄д°᷅) !」

 バシ!

 イッテエエエ(˚>ᯅ<) !

 春鈴が包帯を巻き終わった腕をシバキタオシて、我々はテムジンを追いかけた。
 



☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)132・正直苦手なのよ

2024-08-26 09:18:48 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
132・正直苦手なのよ 朝倉美乃梨 





 宿泊を伴う部活には顧問の付き添いが原則なのよ。

 宿泊と言っても、商店街の福引に当って大阪府内の温泉に一泊。

 やかましく『原則』を振り回さなくてもいいと思うんだけど、職員室に来て報告されたんじゃ「あ、そう」というわけにはいかないわよ。

 まして、参加メンバーの中には車いすの沢村千歳がいる。

 温泉というからには入浴するんだろうから介助が必要でしょう。

 惣堀高校はバリアフリーのモデル校。

 つまり、身障者の教育環境には大阪でいちばん気を配ってますって学校。

 その惣堀の演劇部が部員揃って宿泊する。それに顧問が付き添わないのはまずいでしょ。

 反射的に言ってしまった「……下見に行く」と。

「しゃくし定規にやらんでもええですよ」

 横の席のB先生は松井さんが出ていくのを待って言ってくれた。

「個人旅行なんだから、関与しなくても。ね」

 前の席のM先生も目配せしてくれる。

 でもね、聞こえてるはずの教頭先生は無言。

 無言と言うのは、なにか起こった時には「教頭としては承知していません」と言い逃れるためで、そう言う時には、聞いていながら手を打たなかった顧問の責任になるんだ。

 ああ、知らせになんか来ないで、勝手に行ってくれればよかったのにぃ。

 煮え切らない気持ちのまま仕事を終えて駅に向かう。

 ホームに降りると、ギョッとした。

 松井さんが待っているではないか!?

「あら、いま帰り?」

 まるで同僚に話しかける口調。

 松井須磨は三年生の生徒なんだけど、わたしの同級生でもある(-_-;)。

 最初は気づかなかった。

 向こうから挨拶されたときは心臓が停まるかと思った。

 本人には悪いけど『化け物か!?』と慄いたわよ。

 風のうわさで松井さんが留年したとは聞いていたけど、ふつう女子が留年したら退学する。だから、とっくに退学して別の人生を歩んでいると思っていた。その後も留年を繰り返して、わたしが新任教師として赴任して出くわすとは思わなかった。

 これだけでもとんでもないことなのに、何の因果か、松井さんが所属する演劇部の顧問になってしまった。

 正直苦手なのよ、松井さんは(-_-;)。

 彼女が元同級生だと分かって、図書室の卒アルとかで確認したら、なんと一年生の時も同級だった。松井さんは最初から気づいていたようだけど、メチャ恥ずかしい機会で分かるまで一言も言わなかった。

 だから、ホームで出くわして「あ、今から下見」とか、みっともなく言って、帰宅するのとは逆方向の八尾南行きの電車に乗ってしまった(;^_^A

 いまさら、谷九で乗り換えて家に帰るわけにもいかないでしょ。

 だから、そうなんだ。

 わたしは生徒の為に下見をしに行くんだ。そうなんだ、そう決めていたんだ!

「すみません、惣堀高校の朝倉と申しますが、今夜一泊でお願いできるでしょうか……はい、今度お世話になる生徒たちの、はい、下見のためです(''◇'')!」

 谷九を過ぎて、南河内温泉に電話をいれるわたしだった。


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
 
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馬鹿に付ける薬 010・ギルドの扉はめちゃくちゃ重い

2024-08-25 11:45:22 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》

010:ギルドの扉はめちゃくちゃ重い 




 ギイイイイ……


 ギルドの扉は思いのほかに重く、でも、重そうに開けては中に居る冒険者やギルドの受付たちに軽く見られてしまうと思って、ポーカーフェイスで押し開けるアルテミス。

 半ばまで開けると視界の端にベロナも押しているのが分かる。

 ザワ

 昼時の学食を思わせる殺気だった賑わいの中、冒険者やクエストの依頼人、ギルドのスタッフたちの視線が集まる。

 半ばは意外そうな、半ばはバカにしたような目だ。

 一瞬たじろぐ二人だが、みんなかかずらってはいられないという感じで、クエストの張り紙、ステータスアップの手続き、ドロップアイテムの査定や買取、苦情の処理などに忙しい。

「目がキョドってますわよ(^_^;)」

「そう言うベロナも手が震えてるぞ(-_-;)」

「ええと……」

「フーー まずは登録だな」

 一つ深呼吸をして登録の窓口に向かう。

「窓口、二つあるわ」

「あ……初回登録の方かな」

「でしょうね」

 自分たちと歳の変わらない若者や自分たちの不向きを悟って転籍したい中年たちが並んでいるBの列に並ぶ。
 隣りのAの窓口は遠くからやってきた冒険者たちで、すでに持っているランクやステータスをこの街の表記に切り替えに来ているベテランたちだ。

 窓口から一メートルほどは仕切りを兼ねた観葉植物が置いてあるが、A列からの圧はハンパではない。ベテランとルーキーの違い以外にも、この街の冒険者たちへの侮蔑や揶揄が感じられる。

――クソ、こいつら舐めてやがる――

 ムカつくアルテミス。

――でも、保険やら年金があって、インフラやら老後の生活に目が向いているんだから、外からは軟弱に見えるんでしょうねえ――

 こないだまで生徒会長をやっていたベロナは冷静に分析する。

「お次の方ぁ」

 眼鏡っこの受付が笑顔で応対してくれる。

「初めての方ですね、スキルとステータスを伺ってもよろしいですかぁ」

「ええと、学生証でいいか?」

「ええと……卒業証明書と単位取得証明などはお持ちではないのでしょうか?」

「あ、それは」

「あ、まだ在学中なんですかぁ?」

「うん」「はい、そうです」

「少々お待ちください」

 眼鏡っこは後ろの課長に伺いに行った。

「次の方、先におうかがいしまーす」

 バレッタで髪をまとめたのが次の受付を始めてしまう。

――学生?――わけありか?――段取り悪ぅ――弱そう――生意気そう――

 揶揄やら馬鹿にしたのやら物珍しげな眼が突き刺さって来て居心地が悪い。

「クソぉ」

「ここは辛抱ですよアルテミス(^_^;)」

 なだめるベロナの目も引きつっているが、さすがにアルテミスは突っ込まない。

「お待たせいたしましたぁ」

 眼鏡っこがバレッタの横から体を斜めにして書類を見せる。

「ええと、曙の谷のあたりに初級のモンスターが出ますので、取りあえずそれを狩ってきていただけますか? その成果でスキルとステータスを決定する運びになります。よろしいでしょうかぁ?」

「あ、ああ」

 曙の谷は広場でも聞いた。大したところではなさそうなので小さく頷く二人。

「それでは、魔石とかドロップアイテムがありましたらぁ、必ずお持ち帰りください。それを元に査定いたしますのでぇ」

「おお」「承知しました」

「ええと、前衛はどうなさいますかぁ?」

「前衛?」

「お見かけしたところ、アーチャーとメイジ(魔法使い)のようにお見受けするんですが?」

「ああ」

「だとしたら、近接防御の戦士とか剣士が必要だと……あ、腕に覚えがおありなら構わないんです。まあ、曙の谷ですからぁ(^_^;)」

 聞こえたのか眼鏡っこの応対で想像がつくのか、フロアーの半分ほどがクスクス笑う。

「お、おう、なんとかする」「はい」

「そうですか、では向こうの窓口で冒険者保険をおかけになってからお出かけください……」

 もう少し話したそうにしていた眼鏡っこだが、バレッタと次の登録者に押されて消えてしまった。

「そうだ、学校で用意したガードがいるって教頭先生がおっしゃってなかったかしら?」

「あ、そういや……ギルドに行って登録のついでに確認しなさいとか言ってたなあ」

「登録のついでなら、ここだなあ……」

「どこに居るんでしょう……」

――ここだ――

 直接頭の中で声がして、振り返ると柱の横にドアーフの戦士が見えて、ビックリする二人だった。



 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          月の女神
  • ベロナ            火星の女神 生徒会長
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)131・谷六のホームにて

2024-08-25 08:27:14 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
131・谷六のホームにて 松井須磨 






 けっこう大変なんだ。

 気軽な温泉旅行だと思っていた。

 南河内温泉は、学校からの直線距離で十キロもない。車だと三十分、電車を乗り継いでも一時間あれば楽勝だ。

 ところが、念のために学校に届け出ると意外な反応。

「……下見に行くから」

 ちょっと間をおいて顧問の朝倉さ……先生が宣言した。

「個人的な旅行だからいいですよ」

「わたしも行きたいから、ね(^_^;)」

「でも、景品のクーポン券は四人分しかないし」

「いいわよ、自分のは出すから! 赴任してから温泉なんか行ったことなかったし。ね(^▽^)/」

 他の子の手前もあるので「じゃ、よろしくお願いします」お礼を言っておしまいにした。


 帰りの地下鉄、八尾南行きが先だったので、ひとりホームで大日行きを待つ。


 そして、一本見逃す。

 予想通り、朝倉先生がホームに降りてきた。谷六の駅は島型のホームだから、上りも下りも同じ。

「あら、いま帰り?」

 自然なかたちで話しかける。

「あ……」

 ちょっとビックリしたような顔になる先生。いや、朝倉さん。

「無理してるんじゃない?」

「え、あ、ううん、そんなことないわよ(^_^;)」

「遠慮しないで言ってね」

 学校を出ると昔に戻る。

 だって、朝倉さんとは同級生だ。

 わたしって、過年度生で入学して6回目の三年生をやってるからね。ま、事情を知りたかったらバックナンバー読んで。

「うちって、バリアフリーのモデル校でしょ、部活とかの校外活動にも気を配らなくちゃならないのよ」

「あ、そか……(千歳のことか……分かってるけど声には出さない)」

「温泉だったら当然入浴とかもあるし、その辺のバリアフリーの状況とか、必要な介助のこととかね」

「なるほどね」

 その辺は、すでに調べてある。ホームページも見たし、疑問のある所は事前に問い合わせて確認も済ませた。

 伊達に高校八年生をやっているわけじゃない、それなりに大人なんですよ。朝倉さんへの返事も、いま気が付いたようにする。

「でも、福引で当てるってすごいわね」

「あ、それはダメもとでね。ま、部員を見渡したら、一番運がよさそうなのは小山内くんだから」

「小山内くんて、運がいいの?」

「いいわよ、五月で潰れるはずの演劇部残っちゃったし、こんな美少女にも取り囲まれてるしさ(^▽^)/」

「ああ、そうね!」

「アハハ、真顔で受け止められると、ちょっと辛い」

 高校生の制服を着ていても、もう『美』はともかく『少女』の範疇に入る歳じゃない。なんせ、朝倉さんは高一と高三の時の同級生だ。

「でも、福引十回も引けたのよね、ずいぶん買い物したのね」

「ああ、あれはね、薬局のオッチャン。四月のミイラ事件のお詫びだって」

 そう、あれは連日警察やらマスコミが来て、惣堀高校は『美少女ミイラ発見!』とか『惣堀に猟奇殺人事件!』とか大騒ぎになったけど、結局は、二十年以上昔に演劇部が作った小道具だったって話。そのミイラを作ったのが現在は薬局をやっている先輩だったというわけ。

 わたしたちには楽しい出来事で、演劇部の存続を間接的に助けてくれたんだけど、本人のオッチャンは気にしていたというわけ。

「下調べ、わたしも付き合おうか?」

 朝倉さんは無理してる。

 公式の合宿とかじゃないんだ、たまたま当たった近場の温泉。生徒同士の個人旅行に付き合う必要なんかない。
 でも、事前に報告に行ったことが朝倉さんにはプレッシャーなんだ。いま、待ち伏せみたいにしてるのも軽い気持ち。電車が来る数分の間だけでも昔に戻って話ができたらって、半分はいたずら心。彼女は大日方面だし、わたしは八尾南方面だしね。
 この半年の部活と、甲府で大お祖母ちゃんや林美麗と話せたことで、少しアグレッシブになった。

「いいわよ、ちょこっと行っておしまいだから」

「いつ行くの?」

「あ、近場だから今から」

「今から!?」

「あ、明日は土曜だし、ゆっくり温泉に浸かってくるわ」

「あ、えと……だったら、八尾南方面じゃないかなあ」

「え、あ……つい、いつもの調子で、こっち立っちゃった(^_^;)」

「あ、もう来るわよ!」

「あ、ほんと! じゃね!」

 慌てて反対側の八尾南方面の停車位置に移る朝倉さん、頭上の電光案内板を見る。わたしの下宿先も八尾南方面だけど、さすがに一緒に乗るのは躊躇われる。

 まあ、ここだけ話を合わせて次の谷九で朝倉さんは乗り換えるだろう。その邪魔をしてはいけない。

 八尾南方面行は谷四を出て間もなく着くと電車のマークが点滅している。大日方面も点滅しだしたし(^_^;)。

 

☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
 







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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・122『再び岬の灯台へ』

2024-08-24 11:28:40 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
122『再び岬の灯台へ』   



 小指を突っ込んで左に半回転……カチャっとカセットを戻し、パカンとふたを閉め、ガチャンと再生ボタンを押す。


 おーいでみなさん聞いとくれぇ♫ ボークは悲しい受験生ぇ……(^^♪


 ドンピシャで頭から再生が始まる。

 頭から繰り返して聞き直すだけで四つ、再生を停めてカセットを取り出す作業まで含めると六つ、カチャっとかパカンとかガチャンとかのアナログ操作。

「高石ともやって知ってます?」

 写真館に着いて直美さんに聞くと「あ、テープあるよ」とラジカセとテープを貸してくれた。

「特定の曲をリプレイするときはね……」

 そう言って教えてくれたのが今の操作。

 スマホだっら「高石ともや、受験生ブルース」と囁くだけでやってくれる。電車の中だったりしたら曲名を出してリピートに触れるだけ。

 小指を突っ込んで半回転なんて、めちゃくちゃアナログなんだけどね。それで、きちんと頭から音が出るのは感動。

 なんだか、蒸気機関車の熟練運転手になったみたいで嬉しくなってくる。

「肩に力が入り過ぎてないのがいいよね」

 一式の機材を並べ終わって一息つく直美さん。

 この時代ではフォークソングというんだ。去年クリスマスイブに学校の中庭で歌った歌はそういうジャンルになるらしい。

「プロテストソングとか反戦歌になるとね、ちょっとついていけない。あ、こんなのもあるよ」

 別のテープを入れると、早回しの変な曲が流れて来た。

 おらは死んじまった おらは死んじまった 天国に行っただぁ♪

 プ( ´艸`)

「アハハ、いつ聞いても笑っちゃうよね。でも、これがリムジン川とかになると、メロディーはいいけど政治的メッセージが強すぎてねぇ……ウイシャルオーバーカムはモロ公民権運動のプロテストだしぃ、そうそう、これなんか……」

 次にかかったのは『自衛隊に入ろう』と勧誘してるみたいなんだけど『男の中の男はみんな自衛隊に入って花と散る!』と締めくくって、完全にコケにしている。

「おもしろいけど、わたしは評価しないなあ……他にも『死んだ女の子』とか『戦争を知らない子供たち』とか……まあ、好き好きはあるんだろうけどね……そうそう、今回のテーマはね」

 いまは もう秋 だれもいない海ぃ~♪

「あ、いい曲ですね(^^♪」

「でしょ、このイメージで撮りたいわけですよ。さ、機材もそろえたし、そろそろ出るかぁ」

「はい!」

 ホンダZの後部座席に必要な機材を載せると、とりあえずは、十カ月ぶりの岬の灯台を目指した。

 カーエアコンなんて付いていない車だけど、八月も下旬、窓から吹きこんでくる風は、もう、秋の気配を感じさせた。


 あ、生きてる。


 『し』の字の宮之森線の脇ををなぞるように南に下ると『し』の字の底を曲がったあたりから灯台の先っぽが見えてくる。

 令和に戻ってから見に行った灯台は完全に無人化されて、敷地ぐるみ立ち入り禁止。広大な敷地に立っている灯台は歴史上の有名人物の墓標のようだった。

 それが、ゲートは開きっぱなしで、入り口から灯台までの小道には雑草も無くて、令和の時代にも変わらず灯台に寄り添っている官舎。その網戸の窓が開いているだけで生きているという感じがする。

 ブチブチブチ……

 タイヤが陽気に砂を噛む音を響かせると、奥さんが窓から顔を出した。

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  
 

 

 
 
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