大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・連載戯曲『となりのトコロ・1・そぼ降る雨のなか』

2019-07-31 06:59:13 | 戯曲

1『そぼ降る雨のなか』 

大橋むつお

 

  • 時       現代
    所       ある町
  • 人物(女3)  のり子  ユキ  よしみ

 

 そぼ降る雨のなか、バス停の横に貧相な少女ユキがたたずんでいる。さした傘に押しつぶされそうになりながらも手にはもう一本、大きめの古い男物の傘。背中には、小さな子どもを背負っているように見える。

 バス停の下手よりに古ぼけた街灯。それが懐かし色にバス停の周囲を包んでいる。背後には鎮守の森。雨音しきり。ときにカエルの鳴き声。

 ややあって、下手から、のり子がスケッチブックを頭にかざし、ボストンバッグを抱え、雨をしのぎながらやってくる。バス停の時刻表と携帯の時間を見比べ、雨のしのげそうなところをさがす。二三度場所を変えるが、どこも大して変わりはない。

 この間ユキは無関心。

 やがて……

 

のり子: ……えと、一本貸してもらえないかしら……
ユキ: ……(一瞬ドキリと身じろぎするが、聞こえないふりをする)
のり子: ……バス……来るまででいいんだけどね……
ユキ: …………………………………………………………………………
のり子: あなたも、バス……待ってんでしょ?
ユキ: …………………………………………………………………………
のり子: 次のバス……だいぶある……よな……
ユキ: …………………………………………………………………………

のり子: よく遅れるんだよな……ここ……
ユキ: …………………………………………………………………………
のり子: 二本持ってんでしょ。今さしてんのと、手に持ってんのと(`Д´)!
ユキ: ……(黙って、さしていた傘をのり子にさしかけて、渡してやる)
のり子: え……あ、ありがと(^_^;)。
ユキ: ……(傘を渡すと、またもとのところへもどり、もう一本の傘はささずに大事そうに持ち、黙って濡れている)
のり子: え……ささないの、その傘。
ユキ: …………………………………………………………………………
のり子: 怒った?
ユキ: ……(かぶりをふる)
のり子: じゃあ、さしなよその傘。
ユキ: いいんです。
のり子: よかないよ。
ユキ: いいんです。
のり子: なんだか、これじゃ、あたしがむりやり傘とりあげて、いじめてるみたいじゃないよ……返すよ。
ユキ: いいの、それはあなたに貸したんだから。
のり子: 返すよ!(傘の押し付けあいになる。ユキの背中の子どもの異常に気づく)あんた、その背中の……ブタ?
ユキ: 人形、ぬいぐるみの人形……
のり子: うそ。今あたしのことギロってにらんで、牙むいてうなったわよ。ガルル……って。
ユキ: 気のせいよ。ブタさんのぬいぐるみがそんなこと……
のり子: でも、ほんとうにそう見えたんだから…………あれ? ほんと。やっぱしぬいぐるみ(^_^;)。
ユキ: でしょ。
のり子: でも、やっぱし生きてるみたいな感じがする。
ユキ: そんなことないわ……
のり子: …………ううん、やっぱし生きてるよ。そのぬいぐるみ!

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・42〈高安幻想・1〉

2019-07-31 06:41:23 | 小説・2

高安女子高生物語・42
〈高安幻想・1〉     


 有馬温泉から帰ってからはボンヤリしてる。

 なんせ、明菜のお父さんの殺人容疑を晴らして、離婚旅行やったんを家族再結束旅行にしたんやさかい、うちとしては、十年分のナケナシの運と正義感を使い果たしたようなもん。十六の女子高生には手に余る。ボンヤリもしゃあないと思う。

 しかし、三月も末。

 そろそろ新学年の準備っちゅうか、心構えをせんとあかん。中学でも高校でも二年生言うのは不安定でありながら、一番ダレる学年。お父さんの教え子の話聞いてもそうや。ちょっとは気合い入れなあかん。そう思て、教科書の整理にかかった。国・数・英の三教科と、将来受験科目になるかもしれへん社会、それに国語便覧なんか残して、あとはヒモで括ってほかす。
 で、空いた場所に新二年の教科書を入れる。二十四日に教科書買うて、そのまんまほっといた。包みを開けると、新しい本の匂い。たとえ教科書でも、うちには、ええ匂い。これは、親の遺伝かもしれへん。

 せやけど、手にとって眺めるとゲンナリ。教科書見て楽しかったんは、せいぜい小学校の二年生まで。あとは、なんで、こんな面白いことをつまらんように書けるなあと思う。

 日本史を見てタマゲタ。山川の詳説日本史や! 

 みんな知ってる? これて、日本史の教科書でいっちゃんムズイ。うちの先生らは何考えてんねやろ。わがOGHは偏差値6・0もあらへん。近所の天王寺やら高津とはワケが違う。ちなみに、うちが、こんなに日本史にうるさいかというと、お父さんが元日本史の先生いうこともあるけど、うち自身日本史は好きやから。

 で、ページをめくってみる。

 最初に索引を見て「楠木正成」を探す。

 正成は河内の英雄や! 

 で、読んでガックリきた。

――後醍醐天皇の皇子護良親王や楠木正成らは、悪党などの反幕勢力を結集して蜂起し……――

 114ページにそれだけ。ゴシック体ですらあれへん。

 とたんに、やる気無くした。

 ガサッと本立てにつっこむと、ようよう暖こなってきた気候に誘われて、気ぃのむくまま散歩に出かける。
 桜の季節やったら近鉄線を西に超えて玉串川やねんけど、まだちょっと早い。で、気ぃつくと東の恩地川沿いに歩いてた。
 最近は、川も整備されてきれいになって、鯉やら鮒やらが泳いで、浅瀬には白鷺がいてたりする。五月になったら川を跨いでぎょうさん鯉のぼりが吊されて壮観。そんな恩地川を遡って南へ……。

 気ぃついたら、高安の隣りの恩地まで来てしもた。

「おんろりゃ、ろこのガキじゃ!?」

 ビックリして川から目ぇ上げると一変した景色の中に、直垂(ひたたれ=相撲の行司さんの格好)姿のオッサンが目ぇ向いてた。あたりに住宅も近鉄電車ものうなって、一面の田んぼに村々が点在してた。どない見ても江戸時代以前の河内の景色や。
「おんろりゃ、耳聞こえへんのか!?」
 この二言目で分かった。これはえげつないほど昔の河内弁や。

 昔の河内弁は「ダ行」の発音がでけへん。

「淀川の水飲んで腹ダブダブ」は「よろ川のミルのんれ、はらラブラブ」になる。
「仏壇の修繕」は「ブツランのシュウレン」という具合。

 せやから、今のオッチャンの言葉は、こうなる。

「おんどりゃ、どこのガキじゃ!?」
「おんどりゃ、耳聞こえへんのか!?」

 現代語訳してる場合やない。オッサン、刀の柄に手ぇかけよった!

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高校ライトノベル・里奈の物語・41『鈴野宮悦子・1』

2019-07-31 06:32:56 | 小説3

里奈の物語・41
『鈴野宮悦子・1』



 三叉路の右手は、西に向かって下り坂になっている。

 彼方に海の気配。見えるわけじゃないけどスマホのナビが、浪速区、住之江区の向こうに海があることを示している。
 海って懐かしい……そう思わせたのは、昔住んでいた横浜が、あたしの原風景なせいかもしれない。
 坂からのビューに見とれていたあたしを咎めるように、ウズメが「ニャー」と鳴いた。

「あ、ごめん」

 ウズメは、右手の道から、人一人通るのが精いっぱいの生活道路に入っていく。入っていく曲がり角のところに恐ろしく古いレトルトカレーのホーローの看板。それから角を曲がるごとにホーローの看板。住居表示まで紺色のホーローになってきた。

 阿倍野區――町――丁目――番…………ん、區? 一瞬読み方が分からない。

 昔の「区」か……思い至ると、景色が開けた。
 開けた景色の真ん中に、レトロな洋館が立っている。ペンキの匂いがしそうな鉄門を開け、ウズメのお尻に着いていく。
 よく手入れされたバラ園を二つ曲がって車寄せのアプローチ。
「お待ちしておりました、悦子様は、中でお待ちでございます」
 メイドさんが、玄関のドアを開けて待っている。文化祭のコスプレ以外で初めて見るメイドさん……たぶん本物。
 あれ、ウズメの姿が見えない? 思っているうちにメイドさんが立ち止まり、観音開きのドアの前で、こちらを向いた。

「お嬢様、葛城さまが見えられました」

「どうぞ」の声がして、観音開きの中に入る。

 教室くらいの部屋は、外に面した側がガラス張りのテラスに続いていて、そのガラス張りに向かい、やわらかな陽を浴びながら、その人は座っていた。

「こんにちは、メールを頂いて参りました、葛城里奈です」
 
 振り返った悦子さんは、少し驚いたような、そして「よかった」というような表情をした。

 遠くで汽笛の音がした。ガラス張りの向こうを汽船がゆっくりと通っていく。
 
 阿倍野区の真ん中に汽船……その風景を不思議とも思わなかった……。

 

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高校ライトノベル・須之内写真館・14【美花の증조모(ジュンゾモ)・1】

2019-07-31 06:26:43 | 小説4

須之内写真館・14
【美花の증조모(ジュンゾモ)・1】  



「いらっしゃいませ、美花さんのジュンゾモ様」

「よしてくださいよ、ただのバアサンです。美花にとっては難儀なひい婆ちゃんですけど」
 九十六歳とは思えない軽さと明るさで美花のひい婆ちゃんは笑った。

 美花から聞いてひい婆ちゃんが写真を撮りに来たのだ。

 直美はもとより、ジイチャンの玄蔵までが緊張のしまくりだった。なんと言っても在日一世、バリバリの韓国文化を背負ったお年寄りを想像した。日本語がご不自由であってはと、タブレットに韓日翻訳機能を付けさせたり、持たなくてもいい民族的な引け目などでガチガチになっていた。そう、なにより美花の帰化を思いとどまらせた人物である。学校で習った知識やマスコミの情報を無意識に前提として、待ち受けていた。

「お供の方は……」

「わたし一人です……なにか?」
「ひいお祖母様とうけたまわっておりましたので……」
「ハハ、バカは歳をとらないって申しますでしょ。それに付いてこられた日には恥ずかしくって。住所さえ分かっていれば、もう70年も住んでいる東京。どこへだってまいります」

 そこへ、美花からメールが来た。

――そろそろ着きます。ひい婆ちゃん、名前は金美子です。元気そうだけど歳なんでよろしく――

 もう着いてるわよ……そう返事しようかと思ったが、「了解」とだけ打っておいた。
「美花ちゃんが、よろしくって、メール寄こしてきました」
 直美は、スマホの画面ごと見せた。すると美子ひいばあちゃんは、やにわに立ち上がって、ブラインドの隙間から外を窺った。
「どうかなさいましたか?」
「そのメールですよ」
「え……」
「そろそろ着きますで、丸を打ってますでしょ。うちの者がつけてきてるんじゃないかと……いないようですね」
「直美、念のため見にいきなさい。美花ちゃんも一回来ただけだから」
「うん、失礼します」

 大通りまで出たが、それらしい姿は見えなかった。念のためメールを打つと――ひい婆ちゃんだけが行きます――と、返ってきた。

「まあ、今の子は、句読点の打ち方も知らないんですね。これじゃ、打った本人が来る意味になります。お恥ずかしいかぎりです」
 で、孫やひ孫の棚卸しになり、お茶を飲み終わったところで撮影になった。
「ちょっと着替えたいと思いますので」
「あ、どうぞ、こちらで」
 直美は、更衣室へ案内した。

「さぞご立派なチマチョゴリなんだろうな……」
「直美、ライトとレフ板を、心持ち下げてくれ。裾が広がるだろうから」
「うん……OK」

 そして、意外な早さで現れた美子ひい婆ちゃんは、チマチョゴリではなかった……。 

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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・82』

2019-07-31 06:19:51 | はるか 真田山学院高校演劇部物語

はるか 真田山学院高校演劇部物語・82
『第八章 はるかの決意5』 


 目が覚めると、きちんと課題ができていた。

 ちゃんとわたしの字。わたしは、お母さんと違って、わりに整理整頓するほう。しかし、机の上の課題は、わたし以上。きちんと行儀良く教科別に耳をそろえて積んであった。

 金曜日、晴れて停学が明けた。

 細川先生は、ちょっと不満げな顔をしていた。
 乙女先生は、大喜び。
「さあ、本番は明後日や、きばっていかなあかんで!」

 一回通しただけで勘がもどってきた。
「はるか。なんや、らしなってきたな。停学になって、よかったんちゃうか」
 と、大橋先生。みんなが笑った。
「アハハ」
 わたしも笑ったが、マサカドさんとやったとは言えない。
「しかし、コンクールはシビアや、腹くくっていきや」
 と、乙女先生はくぎを刺す。


 いよいよ、予選本番。

 わたしたちの出番は、幸か不幸か、二日目の一番最後。
 初日と、二日目の午前中は稽古で、他の学校を観ることができなかった。
 大橋先生は、初日の芝居を観たあと、学校に戻って一本通すだけでいいと言ったが、
「万全を期しましょう」という乙女先生の説に従うことになった。

 本番の一時間前には控え室で衣装に着替え、スタッフ(といっても、音響の栄恵ちゃんとギターの山中先輩。そして照明の乙女先生)との最終チェックを兼ねて、台詞だけで一本通した。
 大橋先生は、お気楽に観客席で、お母さんといっしょ(NHKの子ども番組みたい)に観劇しておられました。

 本ベルが鳴って、客電がおちる。

――ただ今より、真田山学院高校演劇部によります、大橋むつお作『すみれの花さくころ 宝塚に入りたい物語』を上演いたします。なお、スマホ、携帯電話など……と、場内アナウンス。
 一呼吸おいて、山中先輩にピンがシュートされたんだろう、うららかなギターが、舞台袖まで聞こえてきた。
 そして十五秒、舞監のタロくん先輩のキューで、緞帳が十二秒きっちりかけて上がった。

 あとは夢の中だった。

 舞台に立っているうちは、演じている自分。それを冷静に見つめ、コントロールしている自分がいたはずなんだけど。
 あとで思い出すと、マサカドさんから受け止めたものがヒョイとカオルの気持ちとなって蘇ってきていた。

 わたしは、あの時間、カオルとして生きた。

 新しく増えて六曲になった歌。自然な気持ちが昇華したエモーションとして唄うことができた。
『おわかれだけど、さよならじゃない』ここは、新大阪でのお父さんとの別れ。それが蘇り、辛いけど爽やかな心で唄えた。
 そして観客の人たちの拍手。
 全てが夢の中。

 ハッと、自分に戻ったのは、フィナーレが終わって、唄いながら上手に入る。
 顔を客席に向けたままハケて衝撃が来た。

 ドスン!

 収納されていた可動壁(元来チャペルなので、そのとき用のやつ)に、思い切りぶつかってしまった。
 痛さという物理的な記憶があるので、そこのところだけは鮮明だ。

 そして、講評と審査結果の発表。

 わたしたちは、他の学校のお芝居をまるで観ていない(わたしの停学というアクシデントがあったせいなんだけど……)
 ひたすら演りきったという爽快感に停学の疲れさえここ地いい。

 審査員というのは偉いものだと思った。

 けなす。ということをしない。
 まず誉める。それもどの学校もほぼ同じ時間。
 最後に「……なんだけども、どこそこがね」と本題に入る。
「あそこさえ、どうこうなったら、かくかくしかじか……」と、いう具合。

 いよいよ、わたしたちの番がまわってきた。
 他の学校と同じ時間、同じように誉められた。
 しかし「……なんだけれども」がない。

 各賞の発表になった……。
 個人演技賞に三人とも選ばれた。
――やったー! と思った。
 タロくん先輩が、ヒソヒソ声で水を差した。
「最優秀とちゃうとこは各賞が多いねん……」

 わたしは、それでもいいと思った。精いっぱいやったんだから……。

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高校ライトノベル・せやさかい・044『エディンバラて……?』

2019-07-30 13:34:50 | ノベル
せやさかい・044
『エディンバラて……?』 

 

 

 魔法使いになれるかも!

 

 廊下を隔てた部屋から詩(ことは)ちゃんの陽気な声。

 わたしに向けられた言葉やと気ぃつくのに一瞬の間が開く。

 詩ちゃんは、落ち着いたベッピンさんで、廊下を挟んだ部屋から声をかけてくるような子ぉやない。一瞬の間に、わたしの後ろに来て「エクスペクト・パトローナム!」と言うまで気ぃつけへんかった。

「え、えと……」

「守護霊よ守りたまえ! という呪文。エディンバラはハリーポッター発祥の地なんよ。知らんかった?」

「え、ほんと?」

「えーー!? 明後日からエディンバラに行こっていう人が!」

「あー、頼子さんにまかせっきりから(;^ω^)」

「少しは調べな、ごりょうさん(仁徳天皇陵)だって、知らずに近寄ったら、ただの森だもんね。はい、これあげる」

 目の前に差し出されたのは、映画でも見たハリーポッターの魔法の杖、たしかニンバスなんちゃら。

 真理愛女学院はキリスト教系の学校やけど、選択科目とかに魔法の授業でもあるんやろか?

「あーー、それ違うから。魔法はキリスト教以前の土着文化の産物。だからこそ面白い。杖はUSJのお土産だから~」

 それだけ言うと、詩ちゃんはお風呂セットを抱えて一階へ降りて行った。

 

 ちょっとびっくりした。

 

 詩ちゃんは、真面目なお嬢様タイプで『けいおん!』の澪ちゃんという感じ。

 今みたいに、魔法の杖を振り回して従妹にチョッカイかけてくるような子ぉやない。

 どうも、一昨日の部活で次期部長に指名されたことが影響してるみたい。

 

 もう一つビックリしたんは、文芸部の合宿が明後日に迫ってるいうこと。

 

 頼子さんが、しっかりしすぎてるんで、わたしはお母さんからパスポートもろて、着替えとかをキャリーバッグに詰め込んだらしまいやとタカをくくってる。

 そうや、ちょっとくらい調べとかならなあ。

 パソコンを立ち上げてググってみる。

 エディンバラ……エディンバラ……と……え!?

 エディンバラて、てっきりアメリカやと思てた。イギリスなんですわ。ハリーポッターて、イギリス人やったんか!

 京都府と姉妹都市……「きょうちゃん! エディー!」 ムフフ、黒髪とブロンドの姉妹都市が萌えキャラになって頭に浮かんでくる。

 浮かぶと、ゴニョゴニョとイラストを描いてみたりする。エディーは、なんやフェイトみたいな甲冑乙女になってしまう。

 あかんあかん、もっとググっておかなければ。

 なになに……秋篠宮家の真子様がご留学になってた? 

 オオ、ロイヤルプリンセスやんか!

 エディンバラ城は、フォグワーツの魔法学校みたいに岩山に屹立してるし、これはもう、ファンタジー全開になってきた!

 

 しかし、文芸部の夏季合宿て、なにやるんやろか?

 そういえば、市の図書館に本を借りに行ったぐらいで、文芸部らしいことはほとんどやったことがないことに思い至った。

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高校ライトノベル・連載戯曲『月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・12』

2019-07-30 06:25:09 | 戯曲

月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・12

大橋むつお

 


時   ある日ある時
所   あるところ
人物  赤ずきん マッチ売りの少女 かぐや姫

 

 

赤ずきん: わっ!……いてて……
マッチ: 大丈夫、赤ちゃん?
赤ずきん: おう、大丈夫……ここ……?
マッチ: さっききたとこみたい……
赤ずきん: また鳥取砂丘?
かぐや: ……
マッチ: うさぎさん……?
赤ずきん: とっくに、花火見物にいっちゃったんだろ。
マッチ: ……波の音がしない。
赤ずきん: 営業時間終わったんじゃないか?
マッチ: そっか……
赤ずきん: んなわけないだろ。
かぐや: ……(じっと「月」を見つめている)
赤ずきん: 月……少し大きくなってない?
マッチ: ……ほんと、さっきは一円玉くらいだったけど。
赤ずきん: ……五百円玉くらいの大きさだよ。
かぐや: ……あれ、月じゃありません。
二人: え?
かぐや: あれは……地球。
赤ずきん: え……あれが!?
マッチ: でも……地球って、青いんじゃなかった?
かぐや: そのはずなんだけど……今の地球は、なつかし色の月にそっくり。
赤ずきん: じゃ、ここは?
かぐや: 月よ。月にもどってきてしまったみたい……月から見たら、地球はあんなふうに見えるのね……
マッチ: じゃ……ここ、本物の……
赤ずきん: しゃれじゃなくって、月の砂漠? でも、この家には月までもどる力はないんだろ?
かぐや: はい、鳥取砂丘へ行くのが関の山……
赤ずきん: ……それじゃ……
かぐや: 神様のおぼしめし……それとも……
赤ずきん: それとも……
かぐや: わたし……月にもどりたかったのかしら……
赤ずきん: そんな……帰ろう、地球に帰ろうぜ! こんなところでひきこもっていちゃだめだ! たとえずっこけても、前むいて歩かなくちゃ!
かぐや: ほほほ、金八郎先生みたいよ、
マッチ: あ、金八郎先生のカードだ。
赤ずきん: あ、またなくしたんだ。
マッチ: ほんとだ。
かぐや: わたし、にがて。で、これは、なににつかいますの?
赤ずきん: IDカードっていってね。首からぶら下げて、学校入るときと出るときに機械をとおすんだよ。で、校長とかがいつもこれで監視してんだ。
マッチ: 金八郎先生よくなくすんだよ。いつも校長先生にしかられてる。
赤ずきん: 犬の首輪みたいなもんだ。
マッチ: でも、これが先生の証明になるんだよ。
かぐや: こんなものがね。おいたわしい……あ……いま、オオカミ男さんがお吠えになったわ。
マッチ: ほんと?
かぐや: ええ、わたしには聞こえましてよ……お手紙間にあわなかったけど、よろしくお伝えくださいな。
マッチ: よろしくって……
赤ずきん: かぐやは元気にひきこもってますってか!? こんなの、どうやってよろしく伝えられんだ。
マッチ: かぐやさん……
かぐや: また千年ほど眠ります。千年たったら、またお会いしましょう。
赤ずきん: かぐや……
かぐや: 大丈夫。赤ちゃんさんやマッチさんなら……千年たっても生きてるわ。
マッチ: でも千年たって、あの地球は残っているかしら、あんなになつかし色で……(赤ずきんと並んで地球を見つめる)
かぐや: ほほほ、それほどやわじゃございませんでしょ……たぶん、このかぐやも……あ、星の王子さまの宅配便……(トラックの接近音と停止とアイドリングの音)オーイ、星の王子さまあ! ほーら、お気づきになった。お二人は、星の王子さまのトラックにのせてもらって、おもどりなさいな。ね、王子さま、このお二人どうかよろしく。
赤ずきん: かぐや……
マッチ: かぐやさん。
かぐや: ほら、おいそぎになって、王子さまもおいそがしい方ですから(クラクション、かわいく鳴る)さ、早く。
二人: う、うん。

 

下手に去る二人、続いてトラックの発進音。

 

二人:(声) かぐや、かぐやさ~ん!
かぐや: みなさんによろしくお伝えくださ~い。ごきげんよう……!

 

去りゆくトラックに手をふるかぐや。月の沙漠のオルゴールの音、かぐやの姿フェードアウト。ややあって赤ずきんあらわれる。
  
赤ずきん: あれから十年、あたしはファンタジーの国で老人介護の仕事をしてるんだよ。いま、こぶとりじいさんの世話をしてるんだ。出ぶしょうの運動不足で、すぐに太っちゃうので、大ぶとりじいさんになるなア! とハッパをかけてるんだ。マッチは、花火の職人さんになり、あちらこちらで大きな花火を打ち上げては、「かぐやさん、見えるかなあ……」と言ってる。昨日ひさびさに、天体望遠鏡で、月をのぞいてみたぞ。そしたら、かぐやの家のドアには……

 

かぐや(声): あと九百九十年眠ります。おこさないでくださいね。

 

赤ずきん: ……と、ふだがかかっていたぞ。そのドアの前では、オオカミ男さんからのプレゼントを届けにきた星の王子さまが伝票片手に「置き配はいやだしなあ……」と、小さくため息をついておりました。オオカミ男さんは、今日も月にむかって吠えておりました……とさ……

 

オオカミ男の遠吠え、マッチの花火の音がして、オルゴールの音が重なる。赤ずきん、最初と同じようにクルクルと回り始める。顔が正面を向いたとき、バイバイと手をふりニッコリと笑う。その姿きわだつうちに幕。

 

 

 

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・41〈有馬離婚旅行随伴記・6〉

2019-07-30 06:07:08 | 小説・2

高安女子高生物語・41
〈有馬離婚旅行随伴記・6〉
   


 パーーーーーーーン

 え 銃声?

 めったに旅行なんかいかへんうちは、いっぺんに目が覚めてしもた。
 殺人事件やら、明菜のお父さんが逮捕されたりで、興奮してたこともある。
 明菜は、当事者やから疲れがあるのか、旅慣れてるのかグッスリ寝てる。

 やっぱり、うちは野次馬や。
 顔も洗わんとGパンとフリースに着替えて、音のした方へ行ってみた。
 旅館の玄関を出ると、また鉄砲の音がした。

「やあ、すんません。目覚まさせてしまいましたか」

 旅館の駐車場で、番頭さんらが煙突みたいなもん立てて鉄砲の音をさせてる。
「いや、うち旅慣れへんさかい、早う目ぇ覚めてしもたんですわ。何してはるんですか?」
「カラス追い払うてますんや。ゴミはキチンと管理してますんやけどね、やっぱり観光客の人らが捨てていかはったもんやら、こぼれたゴミなんか狙うて来よりまっさかいな」
「番頭さん、カースケの巣が空だっせ」
 スタッフのオニイサンが言った。
「ほんまかいな!? カースケは、これにも慣れてしもて効き目なかったんやで」
「きっと、他の餌場に行ってますねんで。昨日の事件のあと、旅館の周りは徹底的に掃除しましたさかいに」
「カースケて、カラスのボスかなんかですか?」
 単なる旅行者のうちは気楽に聞いた。
「めずらしいハグレモンやけど、ここらのカラスの中では一番のアクタレですわ。行動半径も広いし、好奇心も旺盛で、こんな旅館のねきに巣つくりよりますのや」
 スタッフが、長い脚立を持ってきた。
「カースケ居らんうちに撤去しましょ。顔見られたら、逆襲されまっさかいなあ」
「ほなら、野口君上ってくれるか」
「はい」
 若いスタッフが脚立を木に掛け、棒きれでカースケの巣をたたき落とした。

 落ちてきた巣はバラバラになって散らばった。木の枝やハンガー、ポリエチレンのひも、ビニール袋、ポテトチップの残骸……それに混じって大小様々な輪ゴムみたいな物が混じってた。
 輪ゴムは、濃いエンジ色が付いて……うちはピンと来た。

 これは手術用のゴム手袋をギッチョンギッチョンに切ったもん……それも、事件で犯人が使うたもん。そう閃いた。

「オッチャンら触らんといてくれます。これ、殺人事件の証拠やわ!」

 うちは知ってた。殺人にゴム手袋を使うて、そのあと捨てても、内側に指紋が残る。うちのお父さんが、それをネタに本書いてたさかいに。幸いなことに、指先が三本ほど残ってた。

 番頭さんに言うと、直ぐに警察を呼んで、お客さんらのチェックアウトが始まる頃には、見事に鑑識が指紋を採取した。

「出ました、椎野淳二、前があります!」

 今の警察はすごい。指紋が分かると、直ぐに情報が入って現場でプリントアウトされる。写真が沢山コピーされて、近隣の警察に配られ、何百人という刑事さんが駅やら観光施設を回り始めた。

 そして、容疑者は有馬温泉の駅でスピード逮捕された。

 椎野淳二……杉下の仮名を使てた。そう、明菜のお父さんの弾着の仕掛けをしたエフェクトの人。表は映画会社のエフェクト係りやけど、裏では、そのテクニックをいかして、その道のプロでもあったらしい。

 明菜のお父さんは、お昼には釈放され、ニュースにもデカデカと出た。
 たった一日で、娘と父が殺人の容疑をかけられ、明くる日には劇的な解決。

 この事件がきっかけで、仮面家族やった明菜の両親と明菜の結束は元に……いや、それ以上に固いものになった。

 春休み一番のメデタシメデタシ……え、まだあるかも? あったら嬉しいなあ!

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高校ライトノベル・里奈の物語・40『猫の恩返し・6』

2019-07-30 05:59:13 | 小説3

里奈の物語・40
『猫の恩返し・6』


 


 大阪に、こんなところが……。

 車窓のガラスに頬っぺを付けたのは子どもっぽ過ぎると思ったけど、大阪離れした街並みから目が離せなくなった。
 阪堺電車(今時珍しいチンチン電車)に乗って、五つほど停留所を過ぎたあたりから街の景色が変わってきた。
 阿倍野区に入ったあたりなんだろうけど、街並みが……描写するんで改めて街並みに目をやる……高級住宅街というわけじゃないけど、なんとなく……。

 ゆかしい。

 昭和の頃の文化住宅でも――おお、レトロ!――って感じになるのに、このあたりの家は長屋から一戸建てまで戦争前の雰囲気。
 玄関の前に一坪足らずのアプローチがあり、防犯的には何の意味も無い屋根付き格子の門があったり、玄関わきが木製の出窓になっていたり、屋根は重そうな瓦屋根、どうかするとゴミ箱が重厚なコンクリート製だったりする。
 道路の真ん中に巨大な楠なんかも見えて、その幹には神寂びてしめ縄が巻かれていたりする。

 ゆかしいというよりも、街そのものが、時代に対して一言ありげな雰囲気がある。

 顔を洗って部屋に戻るとスマホが「メールでござる」と呟いていた。拓馬のお祖父さんが「おもしろい着信音があるよ」と教えてくれて切り替えた。ちょっとお侍さん風な着信音。

 阿倍野区――町――番地―番と住所があって、『お待ちしています、鈴野宮悦子』と結んであった。

 鈴野宮悦子……ウズメの飼い主。五十年前に葛城骨董店でトワエモアの指輪の片っぽを買った女の人。ウズメに持たせた指輪のケースの二次元バーコードと店の記録に残っているシリアスで、ビデオメッセージを見せた人。
「あれから一週間なんだ……」
 そしてスマホで検索して、このチンチン電車に乗っている。
 地図では阪堺線としか分からなかったので、チンチン電車だとは思わなかった。
 そして着いたところがが、こんな一言有り気な町なんだ。

 あたしは、いつもサロペットパンツなんだけども、鈴野宮さんに失礼があってはいけないと、サロペットだけどスカートにした。

 もう半年ぶりくらいのスカート。内股が擦れあうのがくすぐったい……というか、女の子であることがこそばゆい。
 この半年余りで、女であるということからも……離れていたんだと思った。

 あ……あたしと同じ服装。

 一瞬錯覚した。

 三叉路の角に美容院があって、そこの大きなガラス窓に自分の姿が映っていた。
 自分の姿でありながら、とても町の雰囲気に合っている。
 あたしも一言有り気な子なんだろうか。
 お正月と言うこともあるんだろう、三叉路の道に通行人はいない。あたしは自分の姿を見ながら三叉路の分岐にさしかかった。

 足許にかそけき気配……目を落とすと、ウズメがいた。

 ニャーと一声、ウズメは三叉路の右手の道に、あたしを誘った。

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校ライトノベル・須之内写真館・13【優しい水・2】

2019-07-30 05:50:25 | 小説4

須之内写真館・13
【優しい・2】        


「なんとなく、そう思っただけなんですよ」

 サキという子は、ほんのり頬を染めて、そう言った。
 ガールズバー『ボヘミアン』で働く女の子は、採用前に面接があり、そこでグラスに半分入った水を見せられる。
「まだ半分残っている」
 そういう楽観的な感想をいう子が、オーナーである松岡の好みであった。

「優しい水です……」

 サキは、意表を突く答をし、表情が少し暗かったが、採用することに決めた。
「水は、チェコのミネラルウォーターでした。杏奈のことがあったんで、チェコの友人にメールしたら、この水を紹介してくれましてね」
「ハハ、でも、あたしは全然気がつかなかったですけど」
 チェコ人とのハーフの杏奈は、実もフタもない答をする。
「うちの子は、総じて元気がいいんです。たいていのお客さんは、それでいいんですけどね。中には、自分と同じようなテンションのサキに安心するお客さんもいるんですよ」
 松岡は、タブレットを操作して、サキがシェーカーを振っている写真を見せた。
「オーナー、これはヤダって言ってるでしょ」
「まあ、専門家に一度みてもらおうよ」

 直子は、一目で、その写真……いや、写っているサキが気に入った。

「いいですよ。一見困った風だけど、女の子の健気さがよく出ています。さっきスタジオで撮ったのよりいい!」
「そうですか!?」
「いや、モデルがですよ。写真の腕は……それなりです」
「じゃ、一度、店で直子さんに撮ってもらえないかなあ!?」
 どこまでもポジティブな松岡だった。

 というわけで、営業中の『ボヘミアン』に出向き、サキや、女の子達の写真を撮ることになった。

「今時の日本の子じゃないわね。竹久夢二の感じだ……」
「ど、ども……」
 直子の呟きが聞こえて、サキはうつむきながら礼を言った。
「サキちゃん、もう決めたの?」
 お客の一人が聞いた。サキは困ったような眉のまま笑顔をつくり、顔を横に振った。
「決めちゃえばいいのに。四世だったら、話は早いよ、自分の経験からもね」
「ひい婆ちゃんがね……」
「ひい婆ちゃんなんか関係ないって。二十一世紀なんだぜ。年寄りの反対なんか聞くことはないよ」
「ううん。反対してくれたら逆に踏み切れたんだけどね」
「え……?」
「この水飲んで、感想聞かして」
 サキは、例の水を、お客に勧めた。
「……うん、なんだか優しい味だね」
「だって、杏奈。やっぱチェコの水は優しいんだよ!」
「ありがとう、お客さん!」
 杏奈が嬉しそうに言うので、お客も楽しくなり、見るからにハーフ美人の杏奈と話し始めた。サキは洗い物に専念した。

 看板近くになって、やっとサキは話してくれた。
 彼女の本名は呉美花(オ ミファ) 

 ひい婆ちゃんの賛成の笑顔に、どうしても寂しさを感じて帰化に踏み切れなかったことを。

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校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・81』

2019-07-30 05:44:19 | はるか 真田山学院高校演劇部物語

はるか 真田山学院高校演劇部物語・81
『第八章 はるかの決意4』 


 二日目の夜は、深夜になってマサカドクンが現れた。

 わたしは、リビングのテーブルで反省文を書き終えていた。
「ようし、できあがり……」
 疲れのせいか、一瞬意識がとんでしまった。
 気づくと、昨日と同じように、わたしの机でマサカドクンがカリカリと課題をやっていたのだ。

――あ、わたしも今終わったところ。
「これって……」
――難しいことは考えなくていいわ。こうやってお話ができる。それだけでいいじゃないの。
「でも、あなたのこと、マサカドクンじゃ……」
――それでいいわよ。こうやって本来の姿を取り戻して、お勉強ができて、はるかちゃんと、お話ができる。それで十分。
「だって、きちんと名前で呼ばなきゃ失礼だわ」
――わたし、代表のつもりなの。
「代表……なんの?」
――こうやって、命を落としていった仲間達の……だから、名前を言っちゃったら、わたし一人だけの奇跡になっちゃう。幸せになっちゃう。
「あなたって……カオル?」
――びっくりしたわ、わたしによく似た話だったから。おかげで、こうやって早く元の姿に戻れたけどね。
「戦争で死んだの……」
――うん、三月十日の空襲で。でも、わたしはカオルちゃんみたいな夢はなかった。十六歳で、学徒勤労報国隊に入って、毎日、課業と防空演習。考えることは、せいぜい、その日まともなご飯が食べられるのかなって……そんなんで死んじゃったから、せめて、叶えられなくてもいい。なにか、夢が、生きた証(あかし)を持ちたかった。だから五歳だったはるかちゃんにくっついてきちゃった。
「わたしみたいなのにくっついても、楽しくなんかなかったでしょ」
――ううん、楽しかったよ。特に大阪に来てからの五ヶ月あまりの泣いたり笑ったり。
「でも、わたしは苦しかった……」
――その苦しみさえ、わたしには楽しかった。
「もう……」
――ふふ、怒らないの。その苦しみって、生きてる証じゃない。青春だってことじゃない。そして、はるかちゃんは成長したわ。だから、わたしも元の姿で、出られるようになった。
「そうなんだ。でも、わたしってこれでいいのかなあ……ね、マサカド……さん」

――……もう一回呼んでみて、わたしのこと。

「マサカド、さん……」
――ありがとう。「さん付け」で、呼ばれたなんて何十年ぶりだろ。わたしたちずっと「戦没者の霊」で一括りにされてきたじゃない、あれってとても切ないの。呼ぶ方はそれで気が済むんだろうけど。わたしたちは、みんな一人一人名前を持った人間だったんだもん。泣きも笑いもした人間だったんだもん。
「だから、名前を教えてちょうだいよ」
――それは贅沢。「さん付け」で十分よ。えと、それから一つお願い。
「なあに?」
――こうやって姿現しちゃったから、わたしのことだれにもしゃべらないでね。しゃべっちゃったら、二度とはるかちゃんの前には出られなくなっちゃうから。
「うん、今までだってだれにも、あなたのことはしゃべったことないもん」
――そうだったわね。はるかちゃん、そういうところしっかりしてるもんね。例のタクラミだって、ギリギリまで言わなかったもんね。
「あ、それはもう言わないでよ。恥ずかしいから」
――そんなことないわ、あれが、はるかちゃんの本心。そして……あれで、みんなの心があるべきところに収まった。それに、あれは、はるかちゃんには、どうしても通っておかなきゃならない道だったのよ。
「ひょっとして……マサカドさん、わたしの未来まで分かってるんじゃない。あのタクラミの実行も、あなたのジェスチャーがきっかけだった」
――目次程度のことはね。でもそのページの中で、はるかちゃんがどう対応するかまでは分からない。はるかちゃんの人生なんだもの。せいぜい何ヶ月先のことまで、それもこのごろ予測がつかなくなってきた。はるかちゃんが自分の足で歩き始めたから……ほら、見て、目玉オヤジ大権現様があんなに神々しい……。
「ほんとだ、いつの間にライトアップするようになったんだろう……」

「ねえ、マサカドさん……」

 振り返ると、もう彼女の姿は無かった。

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高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・051『どうするブリンダ!?』

2019-07-29 14:43:44 | 小説

 魔法少女マヂカ・051  

 
『どうするブリンダ!?』語り手:マヂカ  

 

 

 大塚台公園秘密基地完成祝賀会は大盛況だった!

 

 主役はわたしとブリンダだ。

 なんといっても、先頭に立って、直接敵と戦うのは魔法少女なんだ。高機動車たる北斗は主力兵器である魔法少女のトランスポーターに過ぎないし、北斗のクルーたる調理研の三人も機能的には北斗運行のための制御システムに過ぎない。司令の来栖一佐と隊長の安倍先生も例外ではない、上位の制御システムのコアに過ぎない。

 だから、目いっぱい楽しんでくれ!

 口の周りをビールの泡だらけにしながら司令がサムズアップ! テーブルのみんなも盛大な拍手! スタッフのテディーベアたちも縫いぐるみとは思えない器用さでバックミュージックを奏でる。基地のクルーロボットならヒューマノイドがいいと思うんだけど「これには意味がある」と、司令が真顔で言う。

「それでは、これからの健闘を祈って、マヂカとブリンダに歌ってもらおう!」

 有無を言わさずマイクを握らされ、ピンクレディー、ザ・ピーナッツ、海原千里真理、こまどり姉妹、などなどの曲を歌わされる。

 なんで主役が熱唱させられるんだ!?

 司令に抗議の視線を送ると『二人の連携に敬意を払い、磨きをかけ、基地のクルーみんなで連携、共感の素晴らしさを感得するためだ!』というテンションの高い思念が飛び込んでくる。

 し、しかし、なんか違うと思うぞ!(;´Д`)? そーだそーだ!

『じゃ、これでどーだ!』

 再び司令がサムズアップ!

 すると、調理研の三人と、ケルベロス、ガーゴイルの使い魔コンビ、須藤公園の河童、江ノ島の八音さんまで加わってAKBとか乃木坂のノリになってきた。

「次はゲームだ!」

 ホイッスルが鳴ると、瞬間でドッジボールに切り替わり、汗まみれになったところで、各科対抗ツイスターゲーム。手足の短いテディーたちは早々と脱落する。調理研の三人はクルーとしてのスキルはインストールされているが、魔法少女に匹敵するほどの体力はなく、汗みずくになった末にリタイア、これもブリンダとの最終決戦に持ち込まれる。

 ラディカルビンゴ、ロシアンヌーレット(当たると、盛大に水が落ちてくる)、反重力バレーボールなどなど……。

 どれをやっても、魔法少女の性で最後までがんばってしまう。

 くそ、ついさっきまでアレキサンドル三世と死闘を繰り広げていたんだぞ……(;^_^A

 心では文句たらたらなんだけど、弱みを見せるわけにもいかず(とくにブリンダ! ブリンダも同じだろうけど)、がんばってしまう。

 笑顔が引きつり、やせ我慢に膝が笑いだした頃に締めのスピーチが行われた。

 演壇に立ったのは『主賓』の紅白リボンを付けた緋縅の大鎧を身にまとった神田明神だ。

「平和主義をモットーにする神田明神でありまするがあ……今般の東アジアの状況を鑑みるにい……で、ありまするからにして……特務師団並びに魔法少女に寄せらるる期待は、本朝開闢以来の熱気をもってえ……」

 長いスピーチだったが、どうやら、霊魔相手の戦いは、おまえたち魔法少女に丸投げするからガンバレ!

 そういう内容で、祝賀会に出席した全員の拍手をもって歓迎されてしまった。

 ど、どうする、ブリンダ!?

 なんか言え!

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高校ライトノベル・連載戯曲『月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・11』

2019-07-29 06:41:57 | 戯曲

月にほえる千年少女かぐや(改訂版)・10

大橋むつお

 


時   ある日ある時
所   あるところ
人物  赤ずきん マッチ売りの少女 かぐや姫

 

マッチ: うん、行こ行こ(^▽^)/。夕焼けもきれえだし(窓から夕陽がさしこんでいる)あ、大きな鳥……
赤ずきん: 白鳥……鶴だな……(鶴の鳴き声)
かぐや: 鶴の恩返しの鶴さんです。
マッチ: ツルノオンガエシ?
赤ずきん: 何にも知らないんだな。助けられたお礼に、鶴が男の女房になって、自分の羽根で、ビンテージもんの布を織ってやる。織ってるところを見ちゃいけないっていうのを、男はスケベー根性おさえきれずにのぞいて、悲しんだ鶴が家を出てっちゃう……
マッチ: ああ、思い出したあ。
かぐや: お家をとびだしてから、ああして飛び続けていらしゃるの……
赤ずきん: 降りてこないの?
かぐや: ええ、対人恐怖症でしょうね……
マッチ: ……かわいそう……
赤ずきん: 疲れて落ちてしまうでしょうに……
かぐや: 銀河鉄道さんがね……
マッチ: 銀河鉄道?
赤ずきん: 宮沢賢治の?
かぐや: カムパネルラとジョバンニがいっしょに乗って走ってもらっているの。落ちたときにクッションになってもらえるように……

轟音をたてて銀河鉄道が通過する。それぞれの姿勢で見送る三人。

 

マッチ: ほんとだ……銀河鉄道さ~ん、ごくろうさま!
赤ずきん: あ、カムパネルラとジョバンニが手をふった!

 

     三人手をふる。

 

かぐや: さ、まいりましょうか。
赤ずきん: ようし、ゴーアヘッド!

マッチ: え、なにそれ?

赤ずきん: なにって「さあ、いくぞ!」って意味だ、軍隊じゃ「前進!」って号令に使うんだ。

マッチ: レッツゴーじゃないの?

赤ずきん: レッツゴーって、ダセーなあ、おまえ昭和かよ。

マッチ: そんな、掛け声一つで差別しないでよお!

赤ずきん: て、言い出したのはおまえだろが!
かぐや: ……あら……ドアが開かない。
マッチ: 押すんじゃないの?
かぐや: ホホ、そうだったかしら……押しても開かない。
赤ずきん: ちょっと(かわる)ほんとだ開かない。
マッチ: なんだか暗くなってきたよ。窓の外まっくら。
かぐや: え……?
赤ずきん: くそ、ほんとに開かないよ。どうなってんだ!? くそ! くそ!!

 

     ドア、急に開く。そのいきおいで、赤ずきん、外へとびだしてしまう。

 

 

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・40〈有馬離婚旅行随伴記・5〉

2019-07-29 06:35:16 | 小説・2

高安女子高生物語・40
〈有馬離婚旅行随伴記・5〉   


 明菜のお父さんが逮捕されてしもた!

 逮捕理由は、杉下さんいう効果係の人といっしょになって、拳銃殺人のドッキリをやったときの血染めのジャケット。
 ジャケットに付いてた作り物の血に、なんと大量の被害者の血が混じって付いてた。

 話は、ちょっとヤヤコシイ。

 ドッキリを面白がった番頭さんが、そのジャケットを借りて、休憩時間中の仲居さんらを脅かしてた。
 で、最初、警察は番頭さんを疑うた。しかし、番頭さんにはアリバイがある。お客さんを客室へ案内して仕事中やった。
 お父さんは、この旅館には泊まり慣れてて、番頭さんとも仲ええし、旅館の中の構造にも詳しい。
 殺人事件のあった時間帯は、旅館の美術品が収められてる部屋で、一人で、いろいろ美術品を鑑賞してたらしい。事件に気づいて部屋の鍵を返しにロビーへ行ったけど、警察は、これを怪しいと睨んだ。
 美術品の倉庫に入るふりして、番頭さんに貸したジャケットを着て被害者のヤッチャンを殺し、殺した直後ジャケットを番頭さんのロッカーにしもた。そう睨んでる。

 ただ一つ誤算があって、第一発見者が明菜で、明菜が犯人にされてしまい。お父さんは必死で正当防衛やと……叫びすぎた。で、警察は逆に怪しいと睨んだ。調べてみると、アリバイがない。その時間、美術倉庫の鍵は借りてたけど、入ってるとこを見た人がおらへん。ほんで、お父さんが触った言う美術品からは、お父さんの指紋が一切出てけえへん。

「美術品触るときは、手袋するのが常識じゃないですか!?」

 なんでも鑑定団みたいなことを言うたけど、警察は信じひん。お父さんは、ドッキリ殺人のあと、一回この美術倉庫に来てる。せやから、ドアなんかに指紋が付いてても、一回目か二回目か分からへん。お父さんは一回目で、ええ茶碗見つけたんで、もっかい見にいった……これは、いかにも言い訳めいて聞こえる。

「うちの主人は、そんなことをする人間じゃありません。わたし、美術倉庫の方に行く主人を見かけています」
 身内の証言は証拠能力がない。例え離婚寸前でも夫婦であることに違いはない。

 まずいことに、お父さんの会社は資金繰りが悪く、ある会社から融資をしてもらっていたが、その資金の出所が、殺された経済ヤクザのオッチャンの組織。
「そんなことは知らなかった」
「知らんで通ったら警察いらんのんじゃ!」
 と言われ、ニッチモサッチモいかなくなった。

「明菜、あんたの疑いは晴れたけど。今度はも一つえらいことになってしもたな」
「ええねん、これで」
「なんでやのん、お父さん捕まってしもたんやで?」
「今度はドッキリとちゃう」
「あんた、まさかお父さんが……」
「あほらし。お父さんは、そんなことでけへんよ。なあ、お母さん」
「そうや、せやけど、警察は身内の証言は信用しないし……」
「お父さんの疑いが晴れたら、全部うまいこといく、家族に戻れる。あたしは、そない思てんねん」

 親友明菜は、しぶとい子や。うちは、そない感じた。

 そのためにも真犯人見つからんとなあ……。

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高校ライトノベル・里奈の物語・39『あけましておめでとうございます』

2019-07-29 06:28:40 | 小説3

里奈の物語・39
『あけましておめでとうございます』



「あけましておめでとうございます」

 去年は言えなかったけど、今年はすんなり言えた。

 朝起きて、伯父さんとおばさんに。猫たちの世話に公園に行って猫田さんたちにも、むろん猫たちにも。

 去年は誰にも言わなかった「あけましておめでとうございます」。「あけましておめでとうございます」というのは、一年で一番晴れがましい挨拶。言ったとたんに人間関係が始まる。
 あたしの周囲の人間は、あたしが抱えている問題とか悩みとかを解決する力も意志も無い。
 そんな人たちと、なし崩しに、何にもなかったみたいに人間関係を再開するなんてあり得ない。

「はい、年賀状です」

 公園から戻ると、ちょうど郵便屋さんが周ってきたところで、お店の前で年賀状の束を渡された。
「伯父さん、年賀状来たわよ!」
 後ろ手でお店の戸を閉めながら、思いのほか大きな声が出るのでうろたえる。
「今からお雑煮やから、リビングに持ってきて」
 ジャンパーを脱ぎ、洗面所で手を洗ってからリビングへ。
「……すいません、こんな正月らしくないかっこうで」
 起き抜けのときと違って、伯父さんもおばさんも、元日らしいフォーマルなナリをしている。
「いや、これから骨董仲間の年始があるから。ほんのさっきまで、いつもの格好や。元旦早々浮世の付き合いや」
「あ、そうなんだ」
 お母さんが、お正月用の服を送ってきてくれていたけど、猫たちの世話があるのをいいことに、あたしはいつものサロペット。

 お豆腐ほどの年賀状の束は横に置いて、お屠蘇から始まる元旦の朝餉になる。

 お節が終わって、伯父さんが年賀状を仕分ける。お店、伯父さん、おばさん、妙子ちゃんの四つの山ができる。
 人の年賀状は楽しい。謹厳実直なものから可愛いものまで。中には「見たる!」「聞いたる!」「言うたる!」の三猿を大阪風に逆転したのもあり笑ってしまう。妙子ちゃんに来たのは、キラキラお目目の萌え系をアレンジしたものが多いので「妙ちゃんも、まだまだ子どもを引きずってるんだ」と楽しくなる。

「あら、里奈ちゃんにも来てるわ」

 おばさんが二枚の年賀状を、あたしの前に置いた。
「お母さんと先生……」
 二人とも申し合わせたように「明けましておめでとう」の年賀状。
「よかったら、これで返事書きよし」
 おばさんが、サラの年賀状を置いてくれる。
「あたし、年賀状は出さないから……」
 年賀状を繰る伯父さんの手が止まった。
「年賀状出せへんのはええけど、来たもんには返事書いたほうがええで」
「でも……」
「おためごかしに感じるんやろけど、何分の一かは気持ちが籠ってる。里奈ちゃんも、何分の一、何十分の一の気持ちで返したらええのとちゃうか? コメントなんかいらん、宛名だけ書いてさ」
「…………」
「ま、里奈ちゃんも、思いがけずに年賀状もろうてびっくりポンやわな。松の内に考えたらええから、で、もし使えへんかったら返して。この年賀状の番号は当たりそうな気いするから」
「あ、せやせや。うちのオバハン、去年も書き残した年賀状で三等賞当てよったさかいな」
「そ、そうなんだ」

 それから半日たった。

「ごめん、おばさん。あの年賀状当たっていても、賞品は他の人にいくかも……」
「え……ああ、ええんとちゃう。賞品が無駄になれへんかったら」
「うん、番号は控えてあるから」
「当たったら、また知らせたげたらええやんか」
「お母ちゃん、肩揉んでんか」

 おばさんは、伯父さんの肩を揉みながらリビングに入って行く。
 そんな二人に、あたしはお茶を入れることにしたんだよ……。 

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