大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・432『散策部で八尾の条里制を見る』

2023-09-10 15:01:38 | ノベル

・432

『散策部で八尾の条里制を見るさくら   

 

 

 「「「「おお!」」」」

 

 モニターの画像に、散策部の四人は感嘆の声をあげた!

 映ってるのは田んぼと畑、その間に学校やら工場やら資材置き場とかもあるねんけど、そこも元々は田んぼやったことが偲ばれる。

 なんでか言うと、学校も工場も、ほぼ同じ真四角のかたち大きさ、あるいはそれを区切ったものやいうことが分かる。

『これがなぁ、大阪では珍しい条里制の跡なんやぞ』

 車内のスピーカーからテイ兄ちゃんの解説が聞こえて、なるほどなるほどと四人でうなづく。

 車の外では、テイ兄ちゃんが、墨染めの衣のままコントローラーを操作して、上空100メートルぐらいの空に虫が飛んでるみたいにドローンの姿。

「すごいなぁ、地上から見たら、どこにでもある郊外の景色なのに、空から見たら昔の条里制のまんまだ」

 いまや、うちら以上に日本に詳しくなったソニーが感心する。

『……ほんで、あちこちに小さな神社やら祠やらが残ってる』

 テイ兄ちゃんは、器用にドローンを操作させて、あちこちの神社や祠をズームアップしてくれる。

「あ、うちらの車や!」

 神社の駐車場に車が停まってる思たら、うちらのワゴン車。

「せや!」

「ちょ、さくら」

 留美ちゃんの前を無理やり通って車外に。

「どう、見えてる?」

「「「うわ」」」

「驚くことないやろがぁ」

「だって、いきなりさくらのドアップ!」

 テイ兄ちゃんがいちびって、うちの頭をドアップにしたんや。

「イーーー(`皿´;)だ!」

 

 アハハハハハハハ((´◇`))

 

 駐車場を貸してくれた神社にお礼を言うて、八尾市街に入る。

「このあたりは、木村重成のお墓を見に行った時に通ったわね」

 物覚えのええ留美ちゃんが感激。

 たしかに、恩智川を跨ぐと、昭和の雰囲気の街並み。玉櫛川を渡ると昭和でも戦前の雰囲気を残す住宅街。

 そこを坊主ならではの土地勘で、一通やら進入禁止を躱しながら第二の目的地のお屋敷。

 

「ここもすごいなあ……」

 

 ソニーが振り仰ぎながら写真を撮る。きっと、お姉ちゃんのソフィーに見せびらかすんやろね。

 今風の借家やら分譲住宅がならんでる街中に、忽然と茅葺のお屋敷。

 けっこうな規模で、敷地は幼稚園ほどやけど、母屋はお寺の本堂なみの大きさ。

 桜林堂

 控え目に屋号の看板がかかってる。

「あたま打ちそう……」

 入り口は大扉の脇の小さな通用口(?)から。

 無事に入ると、昔ながらの三和土(たたき)の土間。へっついさんやらおくどさんが残ってて、天井の木組は丸出しで、煙出しから、仄かにお日様の光が入ってくる。

「松花堂弁当注文しといたさかい、ゆっくりしよ」

 みんなでお座敷の席に収まる。

「ありがとう、テイ兄ちゃん、お昼までおごってもろて」

「「「ありがとうございます」」」

「ええ、ええ、言い出しべえはボクやねんしなあ」

 そうなんよ、うちも留美ちゃんも仕事がオフ。テイ兄ちゃんも仏教会の会合が延期になって「散策部のみんな空いてるかなあ?」て言いだして、急に春以来お休みになってた部活ができることになった。

 台風一過で、ひところの暑さもマシになって「穴場に行こう!」と、八尾の条里制跡を見に来ることになった。

「条里制って、都が碁盤目状になってることやと思てた」

「それは条坊制と云うんだよ、京都や奈良の区割りには残ってるよ。でも、条里制の跡が、こんな大阪の都心近くに残ってるというのはすごい事だと思う」

「いや、ちゃんと現役の農地なんだから、跡じゃなくて現役そのものだぞ。1000年以上昔の田んぼが、そのまんま田んぼで残ってるというのはすごいことだぞ!」

「そうだよね、駐車場貸していただいた神社も式内社だったし」

「シキナイシャ?」

「えと、延喜式に記載のある神社なんだよ」

「エンギシキ?」

 うちらの会話も、だいぶレベルがあがってきたけど、うちは微妙に遅れてる(^_^;)

「905年に作られた律令の施行細則、つまり、補足説明だな。その中に、全国の大事にすべき神社の一覧があって3000近い神社が登録されているんだ」

「す、すごい」

 式内社もすごいけど、それをスラスラ説明できるソニーは、もっとすごい。

「この桜林堂も、三百年前の庄屋屋敷を使ってるんや。ただ文化財として保護してるより、じっさいに使ったほうが傷めへんし、維持管理の費用も出るさかいなあ」

「うちのお寺もそのくらいやろ、うちもなんかやったら儲かるんやない?」

「お寺で商売やったら、そのぶん税金かかねんぞ。それに、三百年程度のお寺なんか掃いて捨てるほどある。さくらが思うほど値打ちは無い」

「あはは、そうなんや」

「ところで、自分ら、進路はどないすんねん? もう二学期やさかい、心づもりせなあかんねやろ?」

「自分は留学なので、元の勤務に戻ります」

「ああ、ソフィーは現役の軍人さんやったなあ、伍長やったっけ?」

「今月から二等軍曹になりました」

「わ、下士官だ!」

 メグリンが幹部自衛官の娘らしく感動する。

「いや、将来はソフィーといっしょに王室護衛の任務に就くので将校の階級が必要なんです。そのための準備です」

「お姉さんは、どないしてんのん?」

「あ、はい、中尉に昇進して、王立民俗学学校の教官をやっています」

「王立民俗学学校?」

「はい、実質は魔法学校なんですが……」

 説明しながらうちの顔を見るソニー『こんなことも言ってないのか?』という気持ちが籠ってる。

 しゃあないやんか、このごろ声優と学校の掛け持ちで忙しいねんもん。

「古閑さんは?」

「はい……自衛隊に入ります」

「ああ、やっぱりなあ。親子二代の自衛隊やなあ、がんばってな(^▽^)」

「はい、ありがとうございます」

「留美ちゃんは?」

「大学に行きます」

「モデルと役者の道は?」

「はい、いまのお仕事はちゃんと勤め上げて、それが終わったら学生に専念します」

「うん、偉いなあ、ちゃんと見通し持ってて……さくらは?」

「え、あ……」

「おまちどおさまでした、松花堂弁当5つお持ちしましたぁ(^▽^)」

 ラッキー(^▲^;)

 ちょうどウェイトレスのおねえちゃんが注文を持ってきてくれて、言わんですんだ。

 

 せやさかい  第一期 完      

 

            一部内容を『やくもあやかし物語・2』に引き継ぎますご愛読いただければ幸いです

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍中尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍二等軍曹
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
  • 声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
  • さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん) 瀬川(女性警官)
  •   

 

 

 

 

 

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せやさかい・431『新学期が始まったんやけど』

2023-09-03 10:00:43 | ノベル

・431

『新学期が始まったんやけどさくら   

 

 

「それでは、移動になられる先生方を紹介します」

 

 長い訓話のあと、校長先生は紅白の司会者みたいに舞台袖をさし示した。

 先生の移動は四月と決まったもんやけど、たまに年度途中のことがある。たいていは紹介だけで終わるんやけど、都合が合うときには本人が挨拶しはる。

 

 え…………!?

 

 出てきた若草色のワンピースにビックリした。

 ペコちゃん先生!?

 校長先生の話に、俯き加減やった生徒たちの顔が上がる。

 年度途中の若い女の先生の移動は、たいてい、いわゆる寿退社。ピーナツの殻を見ただけでお目出度を連想してしまうお年頃。

 せやさかいに――先生、結婚しはるんや!――と思てしまう。

 早手回しに拍手しかける子ぉもおるんやけど、まあまあと制してペコちゃんが口を開く。

「みんなが期待しているようなことではありません(^_^;)。じつは、年度途中ではありますが、不肖月島さやかは進学のために退職することになりました」

 進学? 斜め上の切り出しで、ますます生徒らの興味が高まってくる。

「承知している人もいるでしょうが、わたしの家は、学校の北にある月島神社です。休みの日には、いわゆる巫女服で、境内を掃除したり、お御籤の番をしていたりしているするので知っている人もいるかもしれませんね」

「あ」という声が上がる。

「神社の娘がミッションスクールの先生をやらせてもらって、ほんとうに感謝です。日本は、文化も宗教も平和共存が成し遂げられている珍しくて素敵な国です。共存できているのは、日ごろのみんなの理解と努力があったからです。だから、聖真理愛の先生方や生徒のみなさん。そして、なによりも見守ってくださったマリア様や八百万の神さまたちには、ただただ感謝です。このたび、わたしは宮司、つまり神主ですね。その勉強をするために大学に行くことになりました。卒業したら、赤い袴を水色に替えて、時どきはハタキの親分みたいなのを持って『かしこみかしこみ』ってやります。しばらく大阪を離れますが、二年後には、また神主で神社に戻ってきます。この中には、前任の中学からいっしょだった人も居ますが、こんなわたしによく付いて来てくれました。ほんとうにありがとう。それではお互い、同じ日本のどこかにはいるわけです。これからも、おたがいがんばりましょう!」

 深々とうちらに、そして舞台奥のマリアさまに頭を下げて引っ込んでいかはりました。

 

 新学期のホームルームが終わるや否や、留美ちゃんが教室に来た。

 

 言わんでも分かってる、ペコちゃんに会いに行こと誘いに来たんや。

「「うん」」「…………」

 メグリンと返事して、ソニーは無言で、四人揃って職員室に向かう。

 留美ちゃんはうちと同様中学から、ソニーは高校に来て散策部の顧問として世話になった。

 顔を見て挨拶しとくのはあたりまえ、っちゅうか、なんで事前に言うてくれへんかったんや!

 先生、水くさいでという気持ち。

 

「あ、いま、理事長先生やらPTAの人やらに挨拶してらっしゃる」

 職員室で居合わせた体育の長瀬先生が――ペコちゃんどこやろ?――いう顔してるうちらに説明してくれる。

「さくら、だいじょうぶ?」

「う、うん、10分くらいやったら」

 けど、15分たってもペコちゃんこーへん。

「ごめん、もう時間ないわ!」

 後ろ髪ひかれる思いで駅に走る。

 3時にはスタジオに入って『宇宙戦艦三笠』の収録。

 

 そんで、この一週間、ずっと学校休んでしもた。

 いつも通り、宗武監督の仕事はジリジリ遅れて、そのまま東京に居続けですわ。

 9月3日、今日は、いよいよ『宇宙戦艦三笠』のオンエア。

 栄えある第一回『黎明の時』は、なんとか家のリビングで観ることができた。

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍中尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
  • 声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
  • さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん) 瀬川(女性警官)
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せやさかい・430『詩ちゃんの写真と西京焼きと新聞記事』

2023-08-28 09:02:51 | ノベル

・430

『詩ちゃんの写真と西京焼きと新聞記事さくら   

 

 

 なんでか、出窓の観葉植物の横に置いたある。

 うちが買っておばちゃんに持って行ってもろた学校机セット。

 

「フフ、さくら、この鉢植えの花わかる?」

 留美ちゃんが鼻にしわを寄せる。わたしに分からんクイズを思いついた時の顔や。

 詩ちゃんが送ってきた画像を見て、ええなあとふたりで頬杖ついてる。

「うちの境内にあるのやったら分かるねんけどなあ」

 さっさと降参しとく。

「ブルーベルって言うんだよ。花をつけるとお辞儀したようになって、ほら鈴なりのベルみたいでしょ」

「ほんまや、花がみんな下向いてて、かいらしいねえ。この学校机1/12やさかいに、フィギュアに座らせたら、妖精の学校みたいやねえ。こんど見繕って送ったげようか」

「ううん、このままがいいんだよ」

「そう……そうか……休み時間に、ちょっと席外してます的な」

「そうだね、妖精学校は二時間目の休み時間です的な?」

「うん、そのキャプションええやんか!」

「写真に付けて送ろ!」

 カチャカチャとキーを叩いて写真を送信。

「「さて」」

 

 二人で声を揃えて、キッチンに行く。

 

 おばちゃんもヤマセンブルグに行ってるんで、ご飯の用意はうちらでやってます。『ご飯ぐらい作れるでえ』とお祖父ちゃんは言うけど、出来る時はうちらでやることにしてる。せめて残り少ない夏休みぐらいはね。

 お寺のキッチンは広い。

 法事やらの時は、大勢のお茶やら食事の用意とかせならあかんさかいね。

 下ごしらえしといた鮭の西京焼きを冷蔵庫から出して、あとは、卵焼きとお味噌汁とサラダの用意。

 ジュワァ

 お味噌の焼ける匂いが食欲をそそります。

 背後に人の気配、お祖父ちゃんが手伝いに来たのかと思たら、テイ兄ちゃん。

「自分ら、このニュース見たか?」

 テイ兄ちゃんが新聞をひらひらさせてる。

「え、なに?」「なんですか?」

 

 ガスを止めてリビングへ。

 

「これ、自分らの担任やった先生とちゃうかぁ」

 ――介護疲れか95歳の母親を殺害――

「え?」

「「ええ!?」」

 介護疲れのお年寄りが、親やら配偶者を殺してしまういう話は時々あるけど、自分の知ってる人が殺したり殺されたりいう話は初めてや。

 

―― 菅井敏行(62)は、要介護5の母親菅井美幸さん(95)を岸和田市内の老人介護施設から散歩に行くと言って連れ出し、岸壁から車いすごと海に突き落とし…… ――

「菅井先生だ!?」

「そんなアホな!?」

「やっぱり、自分らの担任やった先生やねんなあ……」

 菅ちゃん、菅井先生を最後に見たのはお祖父ちゃんに頼まれて天王寺のお寺にお使いにいった帰り(094:『海老煎餅買って意外な人を見かける』)マクドのオープンデッキでハンバーガー食べてて、妹さんと揉めてたとこ。

 話の内容から、親の介護のことで言い合いになってたんを思い出す。

 間もなく菅ちゃんは学校辞めてしもて、それからは知らんかったんやけど……

「先生、なんでまたぁ……」

 留美ちゃんは、自分の身内の事のように眉を顰め、涙まで浮かべてる。

 中一のころの留美ちゃんは、ちょっとコミュ障的なとこがあって、よう菅ちゃんに怒られてた。

 菅ちゃんも不器用な先生で、うちも何べんかカチンときて食って掛かった。

 一言でいうと嫌な先生。

 せやけど、なんか、むちゃくちゃ悔しい。

 菅ちゃんのやったことは同情の余地なんかカケラも有れへん。

 ボケてはったんかも分からへんけど、お母さん、岸壁で乗ってた車いすを押されて、海に落ちるまでの恐怖と絶望。

 押しながら、菅ちゃんは何を思たんやろか?

 

 気を取り戻してキッチンに戻ると、火は切ってたけど、フライパンの上で西京焼きが味噌漬けの干物みたいになってしもてた。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍中尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
  • 声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
  • さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん) 瀬川(女性警官)
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せやさかい・429『新しい学校机』

2023-08-22 11:38:05 | ノベル

・429

『新しい学校机詩(ことは)   

 

 

 ブルーベルの鉢植えの横に二組の学校机。

 

「さくらが持っていけって言ったんだけど、ほんとにシックリ収まるわね」

 持ってきた本人が気に入ってしまった。

 フィギュア用で1/12サイズ。

 収録の仕事が終わって、声優の仲間とアキバに行って、ドールのお店でビビっときて買ったらしい。

「自分用じゃなくてね、最初から『詩ちゃんの部屋に似合う』って思ったんだって」

「ふふ、さくらって、そういうところあるよね」

「そうね以心伝心かな。さてと、ちょっとお庭見てくるわね」

「ごゆっくり」

 

 境内の花の世話をするような調子で部屋を出て行った。宮殿の庭だから手入れする必要なんてないんだけどね、楽しんでくれてるようで、娘としては気が楽だ。

 もう来なくっていいと言ったんだけど、お盆前にお母さんはやってきた。

 前回よりも調子のいい娘を見て「あんまりすることないなあ」と言いながら、まだいる。

 お寺のこともあるので――大丈夫かなあ――とカレンダーを見てしまう。

 お寺のルーチンは頭の中に入っているので、カレンダーを見ただけであれこれ思い浮かんで、やっぱり心配になる。

 

 クーークーー クーークーー

 

 寝息が聞こえて窓辺に目を移すと、バンとナンシーが机に突っ伏して寝息を立てている。

 これは、二時間目くらいに体育があった次の授業みたい。

 窓辺の席になると、こんな感じで寝てしまった。一時間寝てしまうことはなくて、たいてい5分か10分で起きる。先生も分かっているから起こされることは無かった。

 だから、わたしも頬杖ついて見ている。

 カクン

 腕がピクンとした拍子にナンシーが起きて、相棒の頭を張り倒す。

『イテ、なにすんのよ!』

『授業中に寝ちゃダメでしょーが』

『なによ、自分も寝てたくせにぃ』

「おはよう」

『『ヒャ』』

「気持ちよさそうに寝てたわね(^_^;)」

『え、あ、ちょっとの間よ、ちょっとの間』

『そうよ、ちゃんと起きたし』

『わたしが起こしてあげたんでしょーがぁ』

「二人とも、その机でだいじょうぶ?」

 それまでの二人は、聖真理愛学院の学校机を使っていた。妖精の魔法で出したものだから、完ぺきに本物のミニチュア。お母さんが持ってきてくれたのは、プラスチック製で似てるけど違う。

『うん、とっても具合いいわよ』

『うんうん』

『あら、もう、あんなに日が高くなって、ちゃんと勉強しなくっちゃ』

『ああ、もう三時間目よ!』

 フフフ

 そのうちに飽きるだろうと思ったら、まだ学校ごっこを続けてるのよ、この妖精コンビは。

 

 あら?

 

 二人の窓の向こう、庭を民俗学学校の子たちが歩いている。

 ソフィーが先頭を歩いて……そうか、施設見学なんだ。

 こないだ入学式があったけど、あの子たち校舎の中しか知らないものね。

 学校は境目も無しに王宮の敷地に隣接している。というか、王宮の敷地の中に学校がある。

 王宮の敷地面積は堺市よりも広くて、ヤマセン湖なんて湖もある。

 王宮だから立ち入り禁止のところもあるし、レクチャーされなきゃ分からない。

『コトハは行かなくていいの?』

 ナンシーがズル休みを咎めるように言う。

『わたしは聴講生だし……』

 あの子たちは、まだ15・6歳。

『人間は、自分が歳だって思った瞬間から老けるのよ』

「余計なお世話」

『ねえ、あの子すごくない?』

『もう、ナンシーは惚れっぽいんだからぁ』

『あたしはコトハひと筋よ。そういうことじゃなくって……』

「ああ、あの子ね……」

 

 わたしも、ちょっと気になっていた。

 

 小泉やくも

 

 まだ喋ったことも無いんだけども――秘めた好奇心――みたいなものを感じた。

 タイプは真逆なんだけど、さくらと同族。

 それに……もちょっと観察しようかと思ったら、お母さんがガーデニングのエプロンに道具を持って現れて、顔見知りのソフィーがいるもんだから、町内会の感覚でご挨拶し始めた。

 ちょっと恥ずかしい。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍中尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
  • 声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
  • さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん) 瀬川(女性警官)
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せやさかい・428『お盆にパニクル』

2023-08-16 09:38:41 | ノベル

・428

『お盆にパニクルさくら   

 

 

 8月15日は申し合わせたわけでもなく、あたしも留美ちゃんも家に居てる。

 

 15日は、本山でも戦没者追悼法要が行われてて、末寺の如来寺でも法要と講和をやりました。

 お花まつりみたいな華やかさやら、落語会みたいなウキウキ感もないけど、お寺には大事な行事。

 言われんでも家の手伝いするのが当たり前になってます。

 お寺というのは、世間では保守の筆頭みたいに思われてるけど、そうでもありません。

 うちはやってないけど、他のお寺では『安倍政治を許さない!』て習字の見本みたいなビラ貼ってるとこもあったし、教団の連合では『靖国神社公式参拝中止の要請』っちゅうのを出したりしてる。

 ちょっとズレてるなあ……いう気はすんねんけど、おばちゃんも詩ちゃんの世話でヤマセンブルグに行ってしもてる。

 女手は、うちと留美ちゃんだけやし、例年通りにお世話させてもろて、やっと一息の本堂。

 

 ナマンダブナマンダブ…………

 

 二人、阿弥陀さんにトドメのお念仏で手ぇ合わせて、ちょっとボンヤリ。

 

 いつの間にかセミの声もせんようになって、その分、どこからか甲子園の実況放送が微かに聞こえる夏休みの後半戦。

 

「留美ちゃん、ドラマに出るねんてぇ?」

「え……あ……えと……(-_-;)」

 なんや、俯いてモジモジ。

「ミケメが言うてた」

「ミケメ?」

「あ、高瀬川さん、ミケメの声優やねんけど、休憩中に留美ちゃんといっしょにドラマに出ることになった言うてたし」

「あ…………えと…………」

「アハハ、なんや、昔の留美ちゃんに戻ってるしぃ」

「あ……たこ焼きテレビのディレクターから話があって……ね……『台詞なんか喋れません(-_-;)』って言ったんだけどね、『だいじょうぶ、喋れない女の子の役だから(^▽^)』って、『あ、でも、演技なんてできませんから(;'∀')』って言ったら、『だいじょうぶだいじょうぶ、車いすの設定だから(^▽^)』って……決まってしまって……どうしよう、さくらぁ(##゚Д゚##)!!」

 もう、完全にパニクっております。

「ああ、だいじょうぶだいじょうぶ! うちでも立派に声優やってんねんし(立派いうのはハッタリやけど)、単発のドラマやねんし、青春の記念イベントや思て楽しんだらええ!」

「ダメダメダメ!」

「そうやて!」

「でもでも、進路のことだってあるんだよ、スグに三年生になっちゃうし。間に合わなくなっちゃうし(>人<)!」

「あ、大丈夫やて」

「ああ、ずっと考えないようにしてきたのにぃ……(;゚Д゚) ああ、もう夏休みも半分過ぎちゃったよぉ。らしくないよね、なにごとも先回りして解決しなきゃいけないのに、先手必勝の榊原留美なのにぃ!」

「ちょ、留美ちゃん(^_^;)」

「ウグググ……」

 ああ歯ぎしりして……思たよりこじらせてるっぽい。

 さすがのうちも、次の言葉が出てこーへん。

 

 ブブブ ブブブ……

 

 二人のスマホが、同時に鳴った。

 そろっと見てみると、学校から緊急メール。

 

「え、あ、そうだ、修学旅行なんだ!!」

 留美ちゃんの目に火が灯った!

 メールは、修学旅行日程の最終決定のお知らせ。

 中学は流行り病のために修学旅行は無しになって、小学校以来の修学旅行。

『宇宙戦艦三笠』の収録も調整してもろて、前後合わせて一週間は天音(うちの役)は出んでええようにしてもろてる。

 大筋はフランス、イギリスの四泊五日……やねんけど、フランスでは暴動があったりして、ちょっとコースの見直しがやられてたんや。

「夏休み中には最終案出るって、先生言ってたよ」

「パソコンで見よ!」

 さっそく部屋に戻ってパソコンを点ける。こいうのは大きな画面で見た方がええ。

 学校のウェブサイトを開いてアクセスキーを打ち込む。

 ブタネコダミアが『遊んでくれぇ~』と寄って来るけど、邪険にベッドの上に放り上げて操作続行。

『在校生のみなさんへ』をクリックして、修学旅行のページへ。

 

 ええ!?

 

 二人とも、頭のてっぺんから声が出た!

 

 なんと、フランスは宿泊無しの一日だけで、パリを見物したあとはイギリスとヤマセンブルグに二日ずつになってた!

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍中尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
  • 声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
  • さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん) 瀬川(女性警官)
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せやさかい・427『みんながんばってる!』

2023-08-10 09:48:32 | ノベル

・427

『みんながんばってる!さくら   

 

 

 宇宙戦艦三笠には四人(四匹?)の猫が出てくる。

 

 もともとは横須賀のドブ板通りに住んでた街ねこ。

 それがネコミミメイドになって三笠に乗り組んで、乗組員の世話をしてくれるという設定。

 他のメインキャラはプロの声優さん(うちは、ちょっと中途半端)やねんけど、ネコメイド四人は現役の中学生。

 養成所を出てないということでは、うちと一緒やねんけど、四人とも児童劇団所属。うちよりも、よっぽどプロ。

「あ、わたくしは養成所も児童劇団にも所属しておりませんの(^_^;)」

 手をワイパーみたいにして否定するのはミケメ役の高瀬川薫子さん。

「え、せやったん?」

「はい、宗武監督がうちのお店の御常連さんでして、お声をかけていただきましたの」

「え、お店?」

「はい、飲食店を営んでおりまして、監督はお祖父様の代からご贔屓にしてくださっています」

 この子は、めちゃ言葉遣いがていねい。

「ええ、せやけど、高瀬川さんめっちゃうまいやんか」

「アハハ、小さいころからアニメ観て、そんな気になっていただけですぅ」

「え、そんな気てぇ?」

「え、あ、その……(#^_^#)」

「カオルンはね、画面見ていっしょに台詞喋るんですよぉ(^▽^)」

「すごく上手いんです!」

 シロメの浅田さんとクロメの前田さんが加わった。

「あ、いやだあ、二人ともぉ(#^o^#)」

「作品の中に入ったみたいに、すごいんですよ」

「ああ、もうやめてぇ、そんなお話じゃないんですからぁ(#'∀'#)」

「そうそう、カオルン、どうぞぉ」

「あ、はい。実は、わたしたちテレビのお仕事頂戴しまして。榊原留美さんとご一緒させていただくことになったんです」

「え、留美ちゃん、テレビに出るのん!?」

「はい、お正月の単発ドラマなんです。大正時代のお話で、榊原さんは華族のお嬢様で、わたしたちはお屋敷のメイドなんです」

「え、そうなんや!」

「お噂で、酒井さんは……その、ご一緒にお暮らしとお伺いしましたので、榊原さんの人となりをお伺いできればと思いまして、お願いする次第なのです」

「そ、そうなんや」

「あ、今でなくて結構なんです。お仕事が明けた時に、わたくしのお店ででも」

「はい、さくら先輩ぃ、どうでしょうか?」

 高瀬川さんの後ろでお願いポーズする浅田さんも、めっちゃ可愛い。

「ちょっと、あんたたち」

 後ろからチャメの竹内さんが声をかけて、二人は、ちょっとアセアセになって「「すみませんでした(;'∀')!」」と、休憩室の向こうに行ってしまう。

 竹内さんが、深々と頭を下げて、他の三人も、もう一回頭を下げる。

「おもしろいねぇ」

 真鈴先輩がミネラルウォーターの蓋をあけながら横に座ってきた。

「吐夢(かなむ)は甘えん坊の役が多いのに、リアルじゃ委員長タイプなんだ」

「そうですねえ、タイプはちゃうけど、みんなしっかりしてますねえ」

「さくら、留美ちゃんのことは聞いてなかったの?」

「あ、うん。家では、そういう話ぜんぜんしませんからね」

「さくらは、喋るタイプだろ?」

「え、あ、いや、そうなんですけどねえ」

 応えながら思た。

 夏休みに入って、わたしも留美ちゃんも外に出てることが多い。

 うちは、むろん『宇宙戦艦三笠』の収録やねんけど、留美ちゃんは……言わへん子ぉやさかい、気ぃつかへんかったけど、なんや世界が広がってる様子。

 よし、人形焼きと東京バナナ買うて帰って、久々にゆっくり話しょうか。

 

 帰りの新幹線でスマホを開くと、詩ちゃんからのお便り。

 

――お母さんが、またこっちに狂って。もういいのにね。留美ちゃんのこと女王陛下もご存知だったよ、二人ともがんばってるんだね。あ、そうそう、ソフィーが中尉に昇進したよ。仕事も増えるみたいだけど、生き生きしてます。わたしもがんばるね、ボチボチだけど(笑)――

『狂って』は変換ミスやねんやろけど、あえて、そのままにしてる感じ。

 閉じようと思たら、頼子さんからメール。

――今度ね、お祖母ちゃんの一存で『王立民俗学学校』ってのができたんだけどね。その開校式に出ろって言われて出て見たら、学校の総裁ってのに任命された! ぜんぜん聞いてないし、いきなり総裁ってひどくない!? この夏は、留美ちゃんもさくらも、こっちには来れないんだよね。六日は、お祖母ちゃんの発案で広島の原爆忌に合わせて黙とうした。女王の黙とうだから国が黙とうしたのと同じ。うちは小さな国だけど小さいナリにやること出来ることはあるんだと感心した。写真は中尉に昇進したソフィーとツーショット。じゃ、またね――

 髪をアップにして正装のドレスに勲章付けまくりの頼子さんは、めっちゃ貫録! 王女どころか女王さまでも通りそう。ビシッと儀式用の軍服に身を固めたソフィーは攻▢機動隊の少佐みたいにかっこええ!

 ため息ついて窓の外見ると富士さん。

 雪の積もってない富士山はスッピン。

 スッピンでも富士山はかっこええ!

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍中尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
  • 声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
  • さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん) 瀬川(女性警官)
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せやさかい・426『王立民俗学校開校式と8/6の新行事』

2023-08-06 11:24:48 | ノベル

・426

『王立民俗学校開校式と8/6の新行事ソフィー   

 

 

 8月1日付で中尉に昇進した。

 

 士官学校出ではないノンキャリアとしては早い昇進だ。

 諜報部で王女付ガードなのだから将校の階級が必要。

 分かるだろうか、兵や下士官では出入りできないところが、軍の施設にも王宮にも、けっこうあるんだ。

 日本でも『殿上人』というのがあっただろ。

 従五位下(じゅごいのげ)という身分。従五位下というのは天皇のお住まいである清涼殿に上がることを許される最下級の身分で、殿に上がる人と書いて殿上人だ。

 軍隊では将校、英語ではオフィサー、自衛隊では幹部という。

 単なる資格なのだから、最下級の少尉でよかった。少しサバを読んでいるが、この三月に高校を出たばかりだしな。

 身に過ぎた階級や位階は、時に軋轢の元になる。

 ヤマセンブルグは小さな国だが、王室があるので貴族制が残っている。その貴族の子弟で士官学校を出ていても中尉への昇進には三年かかる。まして、わたしは平民だ。

 これには裏があるはずだ。

 なにか新しい任務、転属ということはない。王族のガードというのは、ガードする方もされる方も気心がしれていないと出来るものではない。だから、わたしは王女と同じ日本の聖真理愛学院に留学し、王女と寝食を共にした。おそらくは、いまのガードの仕事に何かが加わる。

 

「ペンが停まってるぞ、ソフィー」

 

 振り返って驚いた。

 一瞬、化物かと思った。

「そんな化物を見るような目で見ないでくれる、自分でも恥ずかしいんだからね」

 恥ずかしいと言いながら余裕しゃくしゃくな軍服姿は、先輩のメグ・キャリバーン。

 もう予備役になっていたはずなのに、夏の第一種軍装(正装)を着用して、胸には嬉しがりの子どものように勲章やら精勤賞やらレンジャーやらのバッジが付いている。

 それに、階級章が中佐になっている。

「昇進したんですか?」

「おまえ同様にな。そろそろ着替えろ」

「え?」

「それは、夏期第三種軍装、つまり事業服だ」

「日常勤務は、いつもこれですが」

「認証式に臨むのだ、第一種軍装が決まりだ」

 ぐぬぬ……中尉への昇進の時でさえ第二種軍装だった。第一種軍装というのは、いわば礼服。

 ただごとではない。

 

 日報を閉じ、一分で着替えて宮殿の前に出ると、総理大臣の専用車が停まっている。

 

 総理が……いや、ボンネットに総理大臣旗は付いていない。

 大臣旗無しの総理大臣専用車を使えるのは……総理大臣経験者だ。

 

「お入りください」

 

 イザベル女史に促されて、女王執務室に入る。

 正面に陛下、一歩下がってヨリコ王女。

 そして、その前に大礼服で立っているのは元総理大臣のカーナボン卿。

 それに、見知ったのや知らないのやらが十人、正装で佇立している。

「時刻です、陛下」

 スックとお立ちになる陛下も夏の礼装をお召しになってサッシュ(礼服のタスキ)には国章のメダリオンが付いている。これは、議会に臨席される時や士官学校の卒業式でお召しになる最高のフォーマルだ。

「ただ今より、王立民俗学校の開校式を挙行いたします」

 民俗学校?  folklore studies School なにをやる学校なんだろう。

「学校長辞令交付」

 イザベル女史が辞令を載せた房付きの盆を恭しく差し上げる。

「フィリップ・カーナボン、卿を王立民俗学学校初代学校長に任じます」

「ははっ」

 総理大臣の認証と同様の所作で辞令を拝受するカーナボン卿。

「臣、フィリップ・カーナボン謹んで拝命いたしました」

「続いて、教頭辞令交付」

「メグ・キャリバーン、予備役の任を解き、中佐に昇進と共に王立民俗学校初代教頭に任じます」

「ははっ」

 ガシャ

 帯剣と勲章をガチャガチャいわせてメグ先輩が進み出る。

「臣、メグ・キャリバーン謹んで拝命いたしました」

 続いて、教官十名の信任が行われて自分の番。

「ソフィア・ヒギンズ」

「ははっ」

「教官団の中では、あなたが最年少です」

「はい」

「この民俗学学校は、78年前に廃校になった王立○○学校の準備学校です。内外の目があって、まだ正式名称を使うわけにはいきませんが、いずれ正式な○○学校になります。生徒は、国内外から50名の生徒を受け入れ、広く一般学問の他に○○を教授して、ゆくゆくは世界を支える○○使いを育てます。あなたには、その未来の○○使いの先頭に立つことを期待しています。今まで封じたり小出しにしか使えなかった○○を大事に磨いてください」

 そういうことだったのか。

「ソフィア・ヒギンズ。あなたには同時にプリンセスのガーディアンもあります。ゆくゆくは、その方面でのプリンセス、未来のクイーンの補佐役にもなります。とりあえずは、週二回の○○実習の講師を務めてもらいますが、それを心に留め置き励んでください」

「ははっ」

 ほとんど寝耳に水のことなんだけど、五日前の昇進以来――なにかある――と覚悟もしてたので、穏やかに胸に収めることができた。

「では、最後に、民俗学学校総裁を任命します」

 陛下は、イザベル女史を介さず、直に宣言された。

「プリンセス、ヨリコ スミス メアリー アントナーペ エディンバラ エリーネ ビクトリア ストラトフォード エイボン マンチェスター ヤマセン。汝を王立民俗学学校総裁に任じます!」

「は、はひ( ゚Д゚)!」

 

 プリンセスは、なにも聞かされていない様子。

 不謹慎だが、ちょっと面白かった。

 

 その後、王宮教会に主だった者、手すきの者が集められ、一分間の黙とうと祈りを捧げる。

 陛下の発案で、今年から始まった。

 何のためかって?

 8月6日だ。それだけで分かるだろ。

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍中尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
  • 声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
  • さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん) 瀬川(女性警官)
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せやさかい・425『回廊の流れ星』

2023-08-01 10:11:21 | ノベル

・425

『回廊の流れ星さくら   

 

 

 夕食のダイニングに向かう回廊で、星が流れるのを見た。

 

 回廊は廊下式のベランダという感じで、空も庭も広く見渡せる。

 この回廊から流れ星に願いをかけると願いが叶うという言い伝えがある。

 七夕の伝説は宮殿の人たちに感動を与えたけど、この回廊の伝説もなかなかロマンチックだ。

 でも、何度かチャレンジしたけど、願いは叶うどころか間に合ったこともない。

 

「あれはね……」

 

 夕食の席で陛下が謎解きをしてくださる。

「ひいお婆さまの発明なのよ」

「え、発明?」

 ウフフ……リッチが笑う。

「人知れず涙を流したいときとか、人とお喋りをしたいときとかに、あそこに佇んでいても見咎められないための言い訳」

「え、そうなんですか!?」

「そうよ、王女が深刻な顔をしていたり、人と話していたら、みんな気にするでしょ『殿下、どうなさいました?』とか『なにかございましたか?』とか『なにかお困りですか?』とか。中には国王や女王に御注進する者もいるしね。それで、ひいお婆さまは『星に願いをかけていましたの』とお返事する。子煩悩なひいひいお祖父様に聞かれると『世界の平和と発展を祈っていたわ(^▽^)』と模範解答」

「なるほど」

「ひいひいお祖父様は『それは、誰が教えてくれたのかなあ』と聞いたわ。分かっていたのね、王女の言い訳だって。ひいお祖母さまは『マリア様が夢に現れて教えてくださった』と応えておしまい」

「あはは、マリア様を疑うわけにはいきませんものねぇ(´艸`)」

「で、コットンは何をお願いするつもりだったの?」

 リッチが顔を寄せてくる。

「世界平和ぁ?」

 陛下も食事の手を停められる。

「あ、えと……留美ちゃんの成功を」

「あ、ああ、パステルカラーの君ね」

「あ、はい」

 この王宮でも留美ちゃんのことは『パステルカラーの君』で通るようになってきている。

「イザベラ、このタブレットをモニターに繋いで」

「はい、陛下」

 ササッとイザベラさんが操作すると、五秒で、留美ちゃんのポスターやら、オフィシャルやらオフィシャルではない写真や動画が映った。

「控え目だけど、ルミには素晴らしい魅力があるわ。ちょっと儚げだけど、微笑んだとこなんて……なんて言ったかしら……」

「これでございますね」

 イザベラさんが阿吽の呼吸で画面を切り替える。

「あ、阿修羅像」

 画面には、興福寺の国宝『阿修羅像』のいろんな画像が映し出される。

「ああ、この感じだ!」

 リッチも指をさす。

 それは、阿修羅が合掌している正面の顔。

 なにか思い詰めたように眉根を寄せ、微妙に目線を上に向けた、何ていうんだろう、儚き者の懸命な祈り。

「これが、ルミの本質なのよね。こちらに来た時も、将来は美人になるとは思っていたけど、こういうスゴミのある子だとは思わなかった。ほんとに、ヨリコの周囲は国宝級の人が多いわよねえ」

「そりゃあ、わたしは世界文化遺産級の王女ですからねえ、感謝してください、お祖母さま<(`^´)>」

「ええ、そうよ、ヨリコの肩にはヤマセンブルグの、いえ、ひょっとしたら、ほんとうに世界……ひょっとしてひょっとしたら銀河宇宙の平和の鍵を握るオルデラン王室の姫のような未来が待っているかもしれないわ」

「そんな斜め上の発想はしないでちょうだい」

 

 日が改まって、八月の一日。

 

 まとわりついていたバンとナンシーが慌てて姿を消したと思ったら、回廊の向こうからソフィーがやってくる。

「おはよう、ソフィー」

「おはよう、コットン」

「あら、昇進したの?」

 襟の階級章が替わっている。

「あ、ああ、本日付けで中尉になった」

 ちょっと照れたように敬礼するソフィー。

 照れると、やはり同世代、眉根を寄せて二割がた可愛くなるんだけど、さすがに陸軍中尉。

 阿修羅ではなくて、ブリュンヒルデの感じ。

「ん、なにか?」

「ううん、なんでも」

 

 こっそり思った。

 昨日、見逃した星はソフィーの襟元に停まったのかもしれない。

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍中尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
  • 声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
  • さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん) 瀬川(女性警官)
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せやさかい・424『原作を読んでみる』

2023-07-27 09:34:56 | ノベル

・424

『原作を読んでみるさくら   

 

 

『宇宙戦艦三笠』は、四人の高校生が三笠に乗って、宇宙の冒険の旅に出るお話。

 

 艦長    修一(CV小早川凜太郎) 

 航海長   樟葉(CV百武真鈴) 

 砲術長   天音(CV酒井さくら)⇐うち(^_^;) 

 機関長   トシ(CV花園あやめ)

 

 三笠の動力は『思い出エナジー』云うて、メンバーの思い出。思い出が昇華されることで三笠は突き進んでいく。

 

 三回にわたって思い出が語られ、その度に三笠は増速して太陽系を脱して銀河宇宙に乗り出す。 

 来週は、いよいようちの天音の思い出がテーマ。 

 監督や演出との話で――そうなんや――と、分かったつもりでおった。

 しかし、いよいよ自分の天音の回が迫って来ると――これでええんやろか(-_-;)?――という気持ちになる。

 

 それで、収録まで間がある今日は、原作の『宇宙戦艦三笠』を読み返す。

 声優の拠り所は、あくまでも台本やねんけど、台本に書かれてる台詞は氷山の一角。本体は海面下、つまり原作の中にある。

『う~ん……でも、あまり深く潜り過ぎると、溺れるから気を付けてね』

 みかさん役の吉永さんは注意してくれながらも初版本を貸してくれはった。

 

 

【宇宙戦艦三笠】

8[思い出エナジー・2]

 

 疾風(高機動車)の前方30メートルほどのところに、チャドル姿の女性が倒れこんだ。

 隊長は、すぐ全車両に停止を命じた。

「隊長、自分が見てきます」

 山本准尉は、隊長と目が合ったのを了解と解して疾風を飛び出した。自爆テロの可能性があるので、うかつに大人数で救助に向かうわけには行かなかった。


「きみ、大丈夫か?」


 姿勢を低くし、二メートルほど離れたところから、山本准尉は女に声を掛けた。爆発を警戒してのことでは無かった。そこここに現地住民の目がある。異民族の男が女性の体に触れるのははばかられるのだ。

「ゲリラに捕まって、やっと逃げてきました。日本の兵隊さんですね……助けてください」

 チャドルから、そこだけ見せた顔は、まだ幼さが残っていた。


「……分かった。君の村まで送ってあげよう」


 山本は、優しく、でも決意の籠った声で少女に応えた。

 山本は、いったん疾風に戻ると装具を解いて、隊長に一言二言声を掛け、様子を見ていた現地のオッサンから、ポンコツのトヨタをオッサンの半年分の収入ほどの金を渡して借りた。オッサンは喜んだが、目で「気をつけろ」と言っていた。それには気づかないふりをして、少女に荷台に乗れと言った。座席に座らせるわけにはいかない。イスラムの戒律では、男と女が同じ車に乗ることはできない。荷台に乗せるのが限界である。

「あたし、体の具合が悪い。日本のお医者さんに診てもらえませんか?」

「あいにくだが、男の医者しかいない。あとで国連のキャンプに連れて行ってあげよう。それまで我慢だ」

 山本が目で合図すると、自衛隊の車列は作業現場へと移動し始めた。山本は長い敬礼で車列を見送ると少女に二本ある水筒の一本を渡して、トヨタを発進させた。

「どうして停まるの?」

 少女は、少しこわばった声で山本に聞いた。

「サラート(礼拝)の時間だろ。専用の絨毯はないけど、これで我慢してくれ」

 山本は、毛布を渡してやり、コンパスでメッカの方角を探し、コンパスの針を少女に見せた。少女は毛布に跪きサラートを始めた。山本は異教徒なので、少女の後ろで跪いて畏敬の念を示した。

「どうもありがとう」

 サラートが終わると、少女は毛布を折りたたんで山本に返した。

「信心は大事にしなきゃな……よかったら、そのチャドルの下の物騒な物も渡してもらえるとありがたいんだけど」

 少女の目がこわばった。

「これを渡したら、村のみんなが殺される……」

 少女の手がわずかに動いた。

「ここで、オレを道連れにしても、日本の兵隊を殺したことにはならない。君を送る前に隊長に辞表を出してある。だから、オレを殺しても、ただのオッサンを一人殺したことにしかならない。後ろを向いているから、その間に外しなさい」

 山本は、無防備に背中を向けた。

 戸惑うような間があって、衣擦れの音と、なにか重いベルトのようなものを外す音がした。

「ありがとう。君も村の人たちも殺させやしないよ」

 それから、山本は少女を村に送り届け、トーブとタギーヤ(イスラムの男性の衣装)を借りた。

 山本は、少女に地図を見せた時、二か所に目をやったことに気づいていた。一か所は自分の村で、もう一か所は、それまで彼女が居たところだろうと見当をつけた。

 案の定、少女が見ていたところは岩場が続く丘の裾野で、声がかかる前に銃弾が飛んできた。ゲリラの前進基地のようだ。車を降りると「手を挙げて、こっちに来い」と言われた。

「隊長、こいつ体に爆弾を巻き付けている!」

 身体検査をした手下が隊長に言った。

「スイッチは、この手の中だ。動くんじゃない! 血を流さずに話し合おうじゃないか」

 そのあと二言三言やり取りがあった後もみ合いになった。

 そして、もつれ合ったショックで、スイッチが入ってしまい、山本は10人あまりのゲリラを道ずれに死んでしまった。

 日本のメディアは、現地で自衛隊員が除隊したことと、山本が民間人として死んだことを別々に報道した。殉職とは認められなかった。


 そして、山本が日本に残した一人娘は、横須賀の海上自衛隊の親友に預けられた。


「だから、あたしの本当の苗字は山本っていうんだ……」

 長い物語を語り終え、天音はため息をついた。

 三笠は速度を上げて遼寧とヴィクトリーを追い越した……。

 

 最後の台詞は台本の中にもある。

 むつかしい台詞やなあ。

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
  • 声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
  • さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん) 瀬川(女性警官)
  •   

 

 

 

          

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せやさかい・423『小鳥遊先生に呼び出される』

2023-07-22 10:16:11 | ノベル

・423

『小鳥遊先生に呼び出されるさくら   

 

 

 ちょっとマヌケ。

 

 夏休みに入って、もう四日目やいうのに制服着て電車に乗ってる。

『朝から会議だから、いつもの登校時間に来てもらえるかなあ』

 担任の小鳥遊先生に『終業式に出られなくてすみませんでした』の電話を入れて、先生と都合を合わせたら22日のこの時間になった。

 ホームも車両の中も制服の高校生いうのはほとんど居てへん。

 スマホを出して動画を観る。

 こないだ『たこやきテレビ』に出た時の留美ちゃん。

 もう何回も観てるねんけど、親友の晴れ姿は何べん見てもええもんや。

 関連して、他の画像やら映像も観れるしね(^▽^)

 

 留美ちゃんは、うちよりも映える。

 

 放送局で思わず眼鏡をとったときの画像。

 アニメ『JK戦士』のポップがロビーに立ってて、それが自分に似てるんで慌ててとったとこを写真に撮られた。

 たしかに、ノッポはメグリン、三白眼はソニー、眼鏡っこは留美ちゃん。

 メグリンとソニーはなんとなくやけど、留美ちゃんはかなり似てる。

 眼鏡っこは、日ごろは無口で恥ずかしがりやねんけど、眼鏡取ったら、めちゃくちゃ雄弁で強くてベッピンさん。

 あんまりベッピンなんで、敵が一瞬見惚れてしもて攻撃のタイミングが遅れてしまうほど。

「見とれてんじゃねえ!」

 ブチギレしながら攻撃するとこがメチャクチャええ! らしい。

 アニメ観て確認したら、まさに留美ちゃんが本気でキレたらこんな感じかなあと思った。

 ポスターの方は、ハンゼイのマスターからもろたパステルカラーのヘルメット姿。

 ベースが淡いエメラルドグリーンで、縁がピンク。

 それが、安全運転を心がけて、ちょびっと緊張してるとこが美しい。

 もう一枚は婦警さんとのツーショット。

 この婦警さんは、瀬川さんいうて、いっつも堺東の駅前で交通指導やら取り締まりやらやってるお馴染みさん。

 この瀬川さんが留美ちゃんに目ぇつけてポスターのモデルになった。

 ちょびっと寂しいのは、いっしょに居てるうちのことは全然目ぇに留まってへんこと。

 まあ、うちのヘルメットは兵隊さんが被ってるようなミリタリー。いかにも戦隊もののモブキャラみたいやし(^_^;)

 

 ニヤニヤしてるうちに駅に着いて学校を目指す。

 

 さすがに部活やら夏期講習やらで登校する聖真理愛の生徒がチラホラ。

 その何人かが日傘差してる。

 うちの感覚では日傘っちゅうのはオバハン以上が差すもんで、JKがさしてるのはちょっと変。

 いま、うちを追い越していった子はキャップを被ってる。

 放課後のグランドでよう見かけるソフボの子。

 めっちゃ日焼けしてて、この子は日傘よりもキャップが似合う。

 うちは、なんにも被ってへん。

 制服の中に帽子が入ってたら被ってたと思う。

 甲子園の入場行進でプラカード持って選手の前を歩いてるJK。

 あの帽子がええなあ。

 御同輩の後姿を観察してるうちに学校に着く。

 

 階段を上がって職員室に向かう廊下。

 

 ちょうどペコちゃん先生が出てくるとこ。

 大きく腕を回して――さあ、がんばるぞ!――的な感じで、向こうの方へ歩き去って行く。

 微妙にタイミングが合わへんで、声をかけそびれる。

「失礼しまぁ……」

 最後まで言い切らんうちに小鳥遊先生が団扇でオイデオイデしてる。

「僕と酒井くんだけやから、ここでええよね」

「はい、めちゃ冷房効いてますし!」

「ハハ、そうやな。今から相談室とか行ったら蒸し風呂やしなあ……はい、通知表と成績伝票。ほかの配布物は榊原さんに預けといたさかい」

「はい、昨日留美ちゃんからもらいました」

 ほんまは通知表とかも預けてもろてもよかったんやけど、こういうとこにキッチリしてる先生はええ先生やと思う。

「あんまりいい成績やないけど、欠点もあれへん」

「わあ、良かった」

「一年やったら『まあ、がんばりやぁ』で済ますねんけどね。もう二年生の夏休み、進学とか考えてるんやったら、ちょっとなあ……」

 痛いとこを突かれた。

「怒られるかもしれませんけど、出たとこ勝負で行こぅと思てます」

「出たとこ勝負なあ……」

「はい、いままでいろいろあったんで、あんまり深刻に将来て考えたことないんです」

「ああ……お家の事は、ちょっとは聞いてるねんけど……暑いなぁ、ちょっと待って、麦茶淹れてくるわ」

「あ、すみません」

 ああ、うちのために間ぁあけてくれはったんや。

 先生は、再任用で、うちのお祖父ちゃんと同い年。ちょっと似てるかも。

「はいどうぞ」

「ありがとうございます」

 出されたグラスは大振りで、日の丸がプリントされてる!

「日の丸は虫よけにきくんや」

「アハハ……」

 微妙に分かってしまうねんけど、スルーしとく。

「声優やっていくつもりなんか?」

「あ、えと……」

「百武真鈴いうえらい先輩もってしもたしなあ」

「真鈴先輩知ってはるんですか?」

「うん、一年の時担任してた」

「え、そうなんですか!?」

「真鈴は才能もあるし、行動力も頭抜けとおる。企画やらプロデュースの能力もすごい」

「はい、そうですね」

「まあ、根はただのイチビリやけどなあ」

「イ、イチビリ!?」

「うん、後先考えへんとこがある。イチビリ根性で百武真鈴と田中真央を使い分けとった。まあ、それだけでも大したやつやねんけどな。ちょっと危うい」

「危ういですか?」

「あいつは、人の才能とか力量とかも見える奴で、生徒会もそっちの仕事もそつがない。あんたも、そんな真鈴に目えつけられた一人や」

 ああ、よう見てはる(^_^;)

「生徒会やる言うた時に、この人の話をしたんや」

 本立てに手を伸ばして新聞を出しはる。

 新聞には二十歳の将棋名人の写真と記事が大きく出てる。

「この名人は何十手、何百手先まで読んで駒を打つ。『真鈴、何十何百とは言わんけど、ちょっとは先の事読んで進めてるんかぁ?』て聞いた」

「なんて答えはりました、先輩?」

「『出たとこ勝負です!』やった」

 やっぱり。

「まあ、そういうことも頭に入れて考えてくれると嬉しいかなあ」

「はい」

「進学を考えるとして、仮の話としてな」

「はい」

「どんな学部を考えるのか、いくとしたら私学でええのか、そこらへんはどうや?」

「あ……えと、いざとなったら坊さんになります」

「あ、そうか、酒井さんとこはお寺やったなあ。宗旨聞いてもええ?」

「はい、浄土真宗です」

「大谷派?」

「本願寺派です」

「そうか……よし。東京と大阪の行ったり来たりやろけど、体に気ぃ付けて頑張ってください。先生で間に合うことあったら、いつでも連絡して」

「はい、ありがとうございました」

 先生もうちも腰を上げて、マウスが動いたんかパソコンの画面が点いた。

「え『JK戦士』?」

『JK戦士』のホームページが出てた( ´艸`)。

「あ、ああ、ちょっと観ててなあ、面白いアニメやなあ(^_^;)」

 微妙に焦ってはるし、それ以上のツッコミはせんと家に帰った。

 

 明日は、東京で収録。早めに台本読んでお昼寝することにする。

 そう決めると、とたんに蝉の声が耳につく梅雨明けの夏空やった。

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
  • 声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
  • さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん) 瀬川(女性警官)
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せやさかい・422『毎朝テレビ』

2023-07-17 14:35:47 | ノベル

・422

『毎朝テレビ留美   

 

 

 生まれついてのコミュ障はだいぶマシになった。

 

 普通に学校に通えてるし、クラスメートとも普通に喋ることができる。

 ときどき来られる檀家の方々との応対でも「留美ちゃんがいちばんええなあ」とテイ兄さんに言ってもらえるようになった。むろん人あたりの良さとか元気さでは、さくらに敵わない。

 でも、お寺の応対って、法事や月参りのこと、時どきお葬式や報恩講などのお寺の行事やお付き合いの話。

 きちんと内容をお聞きして、メモを取って住職のおじさんや副住職のテイ兄さんにお伝えすること。あらかじめ分かっていることなら、それに沿ってご返事をしておくこと。連絡係り、大げさに言うと秘書的な感じ。

 それに、お寺の人間として対応の型というのがあって、それを身に付けてしまえば、さほど難しくはない。

 メインはもちろん坊守さんのおばさんと隠居されたお爺ちゃん。

 でも、この春にヤマセンブルグに留学中の詩(ことは)さんが大けがをして、その看病のため二か月近くお寺を留守にされ、その間実質おばさんの代わりを務めたことが大きかった。

 おばさんは、地域のコミュニティーや、ボランティアの仕事も引き受けて「そっちの方に力を注げるようになったわ」と喜んでくださっている。

 コミュ障のわたしがお寺や人の役に立ってると思うと、中学入学時までは考えられないくらい充実して自信がついた。

 

 でも、今日は無理!

 

 無理!って拒絶の言葉は使いたくないんだけど、やっぱり無理!

「だから、わたしたちが付いてきたんじゃない」「しっかりしろ!」

 メグリンとソニーが脇を固める。

 177センチのメグリン(高校に入って2センチ伸びたらしい)と、母国に帰ったら現役軍人のソニーに付いて来てもらうと、なんかVIP的な感じ。

 この二人が居なかったら毎朝テレビの正面玄関なんかには踏み込めない。

「本日、『たこやきテレビ』に出演を依頼された榊原留美のガードだ。本人は、あそこに控えている。ディレクターを呼んでもらいたい」

「は、はい、榊原留美さまですね。少々お待ちください」

 受付のオネエサンが笑顔のまま緊張している。

 ナリは女子高生だけど、現役軍人の押し出しに圧倒されている。メグリンの視線の方向に目をやると、女子高生戦士が悪をやっつけるアニメの等身大ポップが立っている。

「ちょっと、似てるかも……」

 ポップはデコボコの三人組で、ボレロ風の上着的なところが似てる。一人は外人風の三白眼、一人は高身長、一人は眼鏡のボブ。それが、そろって軍用拳銃を持ってポーズを決めている。

 慌てて眼鏡をはずす。

 受付のもう一人のおねえさんが「あ!」っという顔をする。

 やっぱり面が割れている。

 今日は、例の自転車ヘルメット啓発ポスターに関する出演。

 あのポスターが人気で、警察に問い合わせが殺到し、ネットでは背景の景色と一緒に写っている女性警官の瀬川さんの装備から所轄署を割り出した人も居て、一昨日はとうとう学校まで特定されてしまった。

『これは、もう露出した方が身を護れますよ』

 毎朝テレビは、テイ兄さんという搦手から攻めてきて、今日の出演となった。

 眼鏡を取ったのが薮蛇で、ロビーの視線が集中して来て昔のコミュ障に戻りそう!

 その時、ロビーにいる人たちの視線が微妙にズレた。

 視界の端で捉えると、女性警官の立ち姿。

「あ、瀬川さん!」

 ピシッと敬礼を決めると、わたしの傍に寄ってきた。

「榊原さん、申し訳ない。こんなに目立ってしまって(-_-;)」

「あ、いえ、瀬川さんは?」

「お仕事よ、うちにも一応要請が来てね。いちおう署長命令でね。ほんとうにごめんなさいね(-_-;)」

 ものすごく申し訳なさそうな瀬川さんに申し訳なくて、思わず空元気を発してしまう。

「あ、いえ、大丈夫です! わたしも、一度はテレビ出てみたかったですし!」

「いやあ、それは良かったぁ!」

 声に振り返ると、見覚えのあるディレクターが揉み手して近づいてくるところだった。

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
  • 声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
  • さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん) 瀬川(女性警官)
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せやさかい・421『王室名誉衛士ボビー』

2023-07-12 11:08:13 | ノベル

・421

『王室名誉衛士ボビー』詩(ことは)   

 

 

 宮殿で暮らしはじめて、ほとんど時計を見なくなった。

 

 宮殿には女王陛下を頂点として、王女のリッチ(頼子さん)、ガードのソフィー、それに、それぞれの部署や係りを担当する人たちが、分単位、秒単位の正確さで生活したり働いたりしている。

 5時半には、宮廷庭師のチャーリーさんが猫車(一輪車)を押しながら庭園の花や草木を見回る。

 6時には制服姿の衛士、これは当番制で日によって人は違うんだけど、どの衛士さんも同じ時間、同じリズムで同じ経路を通って巡回していく。窓を少し開けて耳を澄ますと、厨房や宮殿のあちこちで朝の準備をする声や物音がかすかに聞こえてきて、いとおかし。

 7時には、宮殿の親時計が時報の鐘を鳴らして本格的に宮殿の一日が始まる。

 そして、そこから始まる一日は、日本の鉄道並みの正確さで進行していって、そう言う正確さの中に身を置いていると、本当に時計を見なくなる。

 実家もお寺だったので、宮殿ほどでは無いけどルーチンがあって、そういうルーチンの中で暮らしているのは心地いい。

 

 サクサクサク……サクサクサク……

 

 音で陛下と秘書のイザベラさんだと分かるんだけど、時間がルーチンじゃないし、ちょっと急ぎ足。

『なに急いでるんだ、マリアは?』

 ナンシーが陛下を呼び捨てにしながら窓に張り付く。

『ああ、詰所の犬よ……たった今、くたばったみたいよ……』

 バンは興味なさそうに、板書をノートに写すふりを続ける。

『バン、おまえ仮にもバンシーだろ、チラ見ぐらいして涙の一つも流してあげたら』

『バンシーは人専門なの、犬がくたばるのには関わらないわ。それに、今は授業中よ』

 二人とも聖真理愛の制服姿で、日本の女子高生ごっこをするのが気に入ってる。

「詰所に犬がいるの?」

『居るよ、ボビー。躾がいいからむやみに吠えないし、決められた場所以外ではウンコもしないし立ち入らないし』

『十五年前にね、メグって女衛士が拾ってきて、ズーズーしく居ついたのよ』

「それに陛下が?」

『マリアは、そういう子なんだ。バン、おまえも行っていっしょに泣いてやりなよ』

『ナンシーこそ、愛情の妖精でしょ、あんたこそ行ってあげなさいよ』

「二人で行ってあげたら?」

『わたしたちに指図!?』

『なにを考えているのかしら、この東洋人は!?』

「指図なんかじゃないわよ。わたしの部屋に居るんだったら、優しい妖精でいてちょうだい!」

『え、追い出すつもり!?』

『鬼よ、この東洋人!』

「なんだってぇ……」

『わ、わかったわかった(;'∀')』

『行けばいいんでしょ行けば(;'∀')』

 窓を開けると二人は白いオーブになって詰所の方に飛んで行った。

 足元を見ると、ちょうどリッチも詰所の方に向かうところ。

 コンコン

 仮にも王女殿下、高いところから声をかけるのは憚られて、ちょっと強めにガラスをたたく。

「あ、コットン!」

 気づいてくれて、わたしも電動車いすをトップスピードにして詰所に駆けつける。

 

 ソフィーも駆けつけていて、ボビーは特製のベッドに寝かされて息を引き取っていた。

 枕もとにはバンとナンシーも来ていて、さっきの憎まれ口はどこへやら、肩を震わせて泣いていた。

 魔法使いのソフィーには分かってるはずだけど、気づかないふりをしてくれている。

 

 ボビーは正式に飼われていた犬ではないので、法律的な処遇では衛生局が引き取ってゴミとあまり変わらない扱いで火葬にされるんだけど、陛下のお言葉で王室墓地に葬られる。

 その墓誌には『王室名誉衛士ボビー』と記される。

 

 わたしは、チェストの上に『南無阿弥陀仏』のお念仏を置いてお線香をあげた。

 

『ちょっと!』『なによ、この悪魔の呪文は!』

 

 バンとナンシーに説明するのは、ちょっと骨が折れたけどね……。

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
  • 声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
  • さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
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せやさかい・420『ヤマセンブルグの七夕祭』

2023-07-07 17:49:54 | ノベル

・420

『ヤマセンブルグの七夕祭』詩(ことは)   

 

 

 なんだかクリスマスツリーの感覚(^_^;)

 

 宮殿の前に建てられた笹……という触れ込みの孟宗竹は12メートルを超える高さで、ちょっと怯んでしまう。

「一万人分も短冊が集まったんじゃしかたないわねぇ……」

 わたしの車いすを押しながら、呆れたように、それでも楽しそうに頼子さんが動画を撮る。

「ごめんなさい、こんな時にバッテリー切れちゃって」

「いいのよ、この方がゆっくりできるし」

「ふふ、まあ、そうね」

 

 女王陛下の発案で、七夕の短冊を募集した。

 

 陛下が思いつかれたのは、ほんの一週間前。

 もともとは、七夕に備えて、わたしの部屋で笹を立ててささやかにやるつもりだった。

「いいわねえ! どうせなら、みんなに呼びかけて元気にやりましょう!」

 そうおっしゃって、陛下は王室のホームページで『7月7日に七夕をやります』と提案された。

 日本の七夕の紹介と、デジタル短冊を載せられ、希望者は6日までにネットで応募してくださいと書かれた。

 その結果、七万以上のデジタル短冊が集まって、それをプリントアウトして付けるのは笹では不十分で、急きょ日本の京都から孟宗竹が軍の輸送機で送られてきた。

 朝から宮殿の人たちが総出で取り付け、大型のドローンを使って、ついさっき立ち上げたところ。

 

『世界が平和になりますように』『女王陛下が長生きされますように』『戦争のない世の中にしてください』というのが多く、『背が高くなりますよう』『彼女と結ばれますように』『給料が上がりますように』とかの個人的なお願いまで、穏やかなものが多かった。

 中には特定の国や人物を中傷するようなものもあったけど、それは、あらかじめ注意してあったのでそんなには無かった。

 陛下の説明には――日本の伝統行事の一つで宗教的なものではありません――とあったので、抑制がきいたんだと思う。

「アニメの影響もあるんです」

 ソフィーが指を立てる。

「「アニメ?」」

「ええ、日常系アニメを中心にして、七夕をモチーフにしたのがけっこうあるんです。ほら……」

 タブレットを覗いてみると、この笹飾りのコメントにアニメの資料が、いっぱい添付されていた。

「そうだ、サザエさんとか、毎年出てたし……へえ、ロボットアニメにも出てるんだ、あ、このアニメにも……」

「ゴルゴ13にも七夕出てるかなあ?」

「え、あ、さっそく調べて観ます!」

 頼子さんの質問にソフィーは、すぐにググる。

「ムムム……ちょっと、作品にあたってみます!」

「あ、ちょ……行っちゃった」

「ソフィーはゴルゴ13には目が無いからね」

「ねえ、リッチ」

「なに、コットン?」

「今夜、浴衣着て花火しない?」

「あ、いいわねえ!」

 

 提案したんだけど、考えたら肝心の花火が無い(^_^;)

 

 ドッカーーーン! ドッカーーーン!

 

 で、ジョン・スミスが調達してきたヤマセンブルグの花火を上げたんだけど。

「いやあ、これしかなかったから」

 打ち上げに使ったのは、陸軍の迫撃砲(;'∀')。

 いやはや。

 

 でも、頼子さん、ソフィーと三人、浴衣を着てスイカを食べながら花火を見られて、よきかなよきかな(⌒∇⌒)。

 

『ねえ、織姫と彦星って、どうして年に一度しか会えないのよ?』

『こんな悲劇がお目出度いわけ?』

『『ありえなーーい!!』』

『あたしなら死ぬ!』

『あたしなら殺す!』

 

 部屋に戻ったら、バンとナンシーがプリントアウトしてあげた『織姫と彦星』を読んでご立腹。

 いや、二人とも愛情にかかわる妖精だから手厳しい。

 

 寝る前にメールをチェック。

 さくらから、一つ入っていた。

 

―― ビッグニュース! 留美ちゃんがモデルデビューした! ――

 

 添付資料を開けると、大阪府警の『自転車ヘルメット』のポスターに三種類の留美ちゃんの写真が載っていた! 

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
  • 声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
  • さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
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せやさかい・419『半夏生の日曜日』

2023-07-02 15:47:45 | ノベル

・419

『半夏生の日曜日』さくら   

 

 

 はんげしょう。

 

 音からだけだと半化粧、薄化粧と同じ意味だと思った。

 リビングでテイ兄さんが新聞を読んでいて、そこだけ口に出して言った。

「あ、ああ、七月二日を『半夏生』て云うんやて」

 そう言って新聞を示してくれる。

「ああ、これで『はんげしょう』って読むんですね」

「留美ちゃんでも知らんかった?」

「二十四節気はなんとなくわかるんですけど、七十二候は知らなかった。テイ兄さん偉いです!」

「いや、僕も知らんかった。ええ言葉やねえ、半分くらい夏が生えてきた……そんな感じ?」

「プ、夏が生えるんですか( ´艸`)」

「夏が生まれる?」

「なるほど」

「いえいえ、生えるの方が言葉が生きてます」

「そう(^▽^)」

 二人でコラムを読む。

「……そうか、この日までには田植えを済ませておけって、そういう意味があるんですねえ。季節の変わり目」

 日本語には春夏秋冬の他にも、季節を表す言葉がたくさんある。新聞のコラムにも『昨日まで蒼空を映していた田んぼが田植えを終えて青々としている』という意味の俳句が添えてある。やっぱりプロの文章はすごいと思った。

 

 もう令和五年も半分済んでしまった。

 

 中学に入ってさくらと同級になったのは、まだ平成だった。

 入学式、教頭先生が「ただ今より、平成三十一年度入学式を行います」と宣言したのを昨日のことのように思い出す。

 コミュ障のわたしは、中学でうまくやっていけるだろうかって不安でいっぱいだった。だから、教頭先生の開式宣言は、まるで死刑宣告みたいに聞こえた。

 

 酒井さくら、榊原留美、共通点は苗字の頭文字が『さ』ってことだけ。

 

 でも、クラスの女子で苗字に『さ』が付くのは、さくらとわたしだけ。

 だから、出席番号順の座席で前と後ろになった。

 あけすけで、はっきりものを言うさくらに、最初は尻込みしてたけど、いつの間にか友だちになった。

 さくらは、お父さんの失踪宣告があって、不安をいっぱい抱えてお母さんの実家に転がり込んできたところだった。

 それが分かったのはもっと後になってから。

 そんな感じは微塵もなくって、明るく毎日を過ごして、時どきは口癖の「せやさかい!」で、わたしを叱ったり、誘ってくれたり。さくらが居なければ文芸部にも入っていなくて、頼子さんに出会うことも無かった。

 頼子さんは、ハーフなんだけど外形的な遺伝子はお父さんから受け継いでいて、見てくれは金髪碧眼の王女さま。

 今は、ヤマセンブルグで本物の王女さまになってしまった。

 すごいよね。

 さくらが居なければ、きっと口もきけずに文芸部にも入れなかった。

 お母さんが亡くなって、いろいろいきさつがあって、今ではさくらの家である如来寺で姉妹同然に暮らしている。

 

 今日は、さくらはアニメの収録で東京に行っている。

 

 さくらは八月には終わるとか言ってたけど、アニメがスケジュール通りにできるわけはない。まして、江戸川アニメ、監督は宗武真、今までスケジュール通りにできたためしがない監督。ヘタをしたら、年内いっぱい。

 それに、あのイキイキした様子を見ていると、この先も声優の仕事を続けるような気がする。そうなってもならなくても、わたしの親友、どこまでも応援するけどね。

 

 わたしも、三年足らずで二十歳だ。

 

 これまでの五年があっと言う間だったから、そんなの直ぐにやって来る。

 詩(ことは)さんも、いろいろ悩んで、今はヤマセンブルグに留学中。

 女王さまを庇って階段から落ちて、今は車いすだけど、おばさんが看病に行って、今はメキメキ回復中。

 ほんとうに、さくらと関わりのある人たちは、元気で前向きだ。

「さくらのやつ、このごろ巻き舌の発作みたいになっとるやろ、壊れた電話みたいに」

「ルルルルルル……て、やつですね?」

「お、留美ちゃんも伝染ったんか!?」

「違いますよ、発声練習」

「巻き舌がかぁ?」

「はい、他にも、唇を震わせて、プルルルル……というのもあります」

「へえ、うまいもんやなあ」

「つきあわされましたから」

「あ、想像つく。あいつは、なんでも人を巻き込みよるさかいなあ」

「ほんとは、一から訓練とかしたそうなんだけど、監督も『さくらは、そのままでいい』って。でも、負けず嫌いでしょ。真鈴先輩から『じゃあ、ルルルとプルルだけやっとけ』って」

「ああ、あの賑やかなやつ」

「フフフ」

「え、なんか可笑しい?」

「いいえ」

 ほんとは可笑しい。

 頼子さんと真鈴先輩は、わたしの中では同じカテゴリーに入っている。

 明るく積極的で、人や物を見る目が真っ直ぐ。そしてチャーミング。

 違い……違いは、真鈴先輩は最初から売れっ子の高校生声優として出現したこと。わたしたちにとっては有能でアグレッシブな生徒会長でもあったけど。

 頼子さんは、さくらや妹の詩さんと同じ安泰中学の生徒としてテイ兄さんの前に現れた。

 取っつきやすかった……と言ったら怒られるかもだけど、テイ兄さん自身安泰中学のOBだし、そうなんだと思う。

 権力や権威に楯突いてきた堺の町衆の心意気、信長や秀吉にも屈しなかった千利休。

 ちょっとこじつけだけど、そんな風に見てみるのも面白いかも。

 

「留美ちゃん、ひらり行くけどぉ」

「あ、いま行きます!」

 

 おばさんが声をかけてくれて、ここのところお手伝いしている介護喫茶ひらりに手作りパンの配達のお手伝い。

 ヤマセンブルグから戻ってから、おばさんはボランティアの仕事を増やした。

 もともと、趣味のパン作りを活かして、ひらりのスタッフにパンの作り方を教えていたんだけど、このごろは家で作ったパンも売り出したりしている。車で運べば、おばさん一人で済むんだけど、自転車を使っている。

 近所だということもあるんだけど、わたしに人と会うチャンスを作ってくださってるんだ。

 さくらのいない土日は、部屋に籠って本を読んだりパソコンばかりやってるからね。

 

 ハンゼイのマスターからもらったヘルメットを被って、荷台にパンの箱を載せて自転車に跨る。

 せめて、オープンマインドを心がけ、眼鏡を外してコンタクトに切り替える。

 おばさんは、お爺さんが檀家周りに使っていた原チャのヘルメット。

 

 まだ三回目のわたしは、スタッフの人たちやお年寄りと挨拶以上の話ができない。

 アハハと愛想笑いしたり、「はい」「いいえ」とかの返事くらいしかできない。さくらだったら、もう全員と『年の離れたお友だち』とか『みなさんの孫娘とか』になっていたと思う。

「すみません、あまりお話とかできなくて」

「いいのよ、配達ついでに羽伸ばしてるのはわたしなんだから。お天気もいいし、ちょっと散歩して帰るといいわ」

「は、はい、そうします」

「また、お寺の方にもいくからねぇ」

「あ、田中さんのお婆ちゃん!?」

 婦人部のお馴染みさんがいるのにも気づかず「失礼しましたあ(;'∀')」と頭を下げただけで外に出る。

 

 少し蒸し暑い、Tシャツの袖を肩までめくってペダルをこぐ。

 

 中一までは、夏バテがひどくて、スーパーに行くぐらいしか外に出なかった。

 それが、配達のお手伝いもできて、その帰りにプチサイクリングまでやってる。

 まあ、榊原留美としては大進歩。

 もう少し早ければ、メグリンやソニーと急きょ散策部の部活に早変わりするんだけど、まあ、仕方がない。

 

 あ、堺東の駅だ?

 

 いつもとは違う道を走ったつもりなのに、角を曲がって、いつもの堺東の駅前に出てビックリ。

 我ながら生活圏が狭い。

 仕方がない、反正天皇陵の裏を周って帰ろうか……そう思って信号待ち。

「ちょっといいかなぁ」

 いきなり声を掛けられてビックリ。

 信号の向こうから見慣れた女性警官さんが男の人を従えて近寄ってきた。

 え? ええ? なにか違反した!?

「ごめんなさい、違反とか交通指導とかじゃないの」

「あ、ぼくは、大阪府警の請負で『自転車ヘルメット』の啓発ポスター用の写真を撮ってるんだけど」

「あなたの写真を使わせてもらってもいいかしらって、お願いなの」

「十枚ほど撮らせてもらったんだけど……」

 グイッと出されたカメラの画面には、つい数十秒前のわたしが連写されていた。

「あ、ああ……」

「よかったら、もう何枚か撮らせてもらって、使用許可ももらえると嬉しいんだけど(^_^;)」

 いつものキリキリした感じじゃなくて、いかにも場慣れしていない女性警官さんが好印象で、つい、こう応えてしまった。

「女性警官さんとのツーショットもありなら、いいです!」

「え、わたしと!?」

「はい、以前から素敵な女性警官さんだと思ってましたから!」

「え、ええ(# ゚Д゚#)!」

 

 めちゃくちゃビックリして、頬を染める彼女は、あっぱれ民主警察の看板に相応しいと思った。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
  • 声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
  • さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
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せやさかい・418『ミカサンパサランとネコメイド』

2023-06-27 11:24:59 | ノベル

・418

『ミカサンパサランとネコメイド』さくら   

 

 

 ここのとこ週に一回は学校休んでる。

 

 なんで休んでるかというと『宇宙戦艦三笠』ですわ。

 秋アニメなんで、放映までにはだいぶあるねんけど、放映が始まるまでに全編撮っておきたいというのが製作委員会の意向なんです。

 監督の宗武真さんは仕事が遅いのんで有名。

 監督の仕事は絵コンテ描くとこから始まるねんけど、これがなかなか書かれへん。

 ええ作品をつくるため、ええ加減なことはでけへんいうプロ根性やねんけど、ワンクール13回の放映で2回も総集編で誤魔化されては、テレビ局もスポンサーも、その代表組織の製作委員会もかなわんので、早めにスケジュールを組んでるとか。

 それで、現在のところ制作も順調で週に一回は東京に行って収録の仕事というわけです。

 

「出港用意! 碇揚げぇ!」

「各索放せ!」

「両舷前進微速! 150度ヨーソロ! 三笠出港!」

「三笠出港!」

「両舷前進元速! 赤黒無し! 航海長操艦!」

「航海長操艦! いただきました、両舷前進元速! 赤黒無し!」

「両舷前進元速! 赤黒無し!」

「「「ジャンジャン ジャンジャカジャンジャン ジャジャジャジャーン(軍艦マーチ)♪」」」

 

 ええと……別に収録風景やないんです(^_^;)

 リアル戦艦三笠のブリッジで出港ごっこをやってます。天音(酒井さくら)・樟葉(百武真鈴)・トシ(花園あやめ)ミカさん(吉永百合子)の四人で。

「ああ、やっぱり艦長の役ってカッコいいわよね!」

 吉永さんがいちばん無邪気。

「今のん、めっちゃハマってましたね!」

「そりゃそうよ、いつも男前の役やってるからね」

「いまの草薙熱子の声じゃなかったですか?」

「あやめも、いつかそういう役やりたいです」

「あはは、でも、やっぱり艦長は本人がやらなくちゃねえ」

 吉永さんが、ラッタルの下の凜太郎さんを冷やかす。

「勘弁してくださいよ、そんな露天艦橋でやるから、みんな見てますってば(;'∀')」

 ああ、たしかに、前の甲板どころか、三笠の外の公園にいてる人らも見てるしぃ。

 最初は「秋アニメ『宇宙戦艦三笠』よろしくお願いしまーす!」とアピールするつもりやったらしいけど、それは、さすがに凜太郎さん帰ってしまいそうやし、やめた。

 

 カンカンカンカン

 

 小気味よくラッタルを降りて艦内に。

「おお、ここだよここ!」

 真っ先に下りた吉永さんが指差したのは艦内神社。

「あ、もっと大きいのかと思ってた」

「そうだね、お地蔵さんくらいはあるかと思ってた」

 真鈴先輩とあやめさんが不足を言う。

「大きさって関係ないよ、浅草の御本尊は10センチあるかなしかの観音様だよ、ねえ、さくら?」

「ああ、うちは浄土真宗やさかい、よう分かりません」

「ええ、浄土真宗に観音様はいないの?」

「あ、もっぱら阿弥陀さんですよって(^_^;)」

「うん、でも、なかなか立派な神棚だ、みんなでお参りしよう!」

 神棚の下には、小振りやけど立派な賽銭箱があって、スタッフさんらもいっしょにお賽銭を上げてお参り。

「そこで問題です」

 凜太郎さんがふってくる。

「船のデッキは、上中下の甲板に分かれてるんだけど、ここは、その上中下のいずれの甲板でしょうか? 当たった人にはささやかだけど、すごい賞品が当たります!」

「「「中甲板!」」」

 女子三人の声が揃う。

「うう……残念、上甲板!」

「「「ええ!?」」」

 みんなで上を向く。

 上を向くと天井が見えるわけで、当然、その上にはさっきまで居った甲板がある。

「なんでだよ、凜太郎?」

 凜太郎さんを呼び捨てに出来るのは、やっぱりベテラン吉永百合子の貫録!

「あ、草薙熱子の声やめてもらえます、ちょっとオッカナイっす(;'∀')」

「ええ、おせーてくれないと、マコ泣いちゃうぞ」

 おお、これは『魔女っ子マコ』の声や!

「一番上のは最上甲板て言うんですよ」

「なんだと、上の上に最上とは、卑怯ではないか! 貴様、それでも男か!」

 おお、またもや草薙熱子!

「い、いや、そういうものなんっすよ。あ、景品はあげますから(^_^;)」

 ポケットから、なんやカイラシイもんを出した。

「「「あ、ミカさんのマスコット!?」」」

「あ、なんかホワホワしてて、手触りいいですねえ」

「気持ちいいわねぇ」

 真鈴さんあやめさんがスリスリする。

「ふつうのPVCのもあるんだけど、特別バージョン」

「いいなあ、これ……よし、ミカサンパサランと名付けよう!」

「あ、なんか怪しげでいいっすね!」

「わたしらのんは、ありませんのん?」

「鋭意制作中だって、だよね?」

 スタッフに振ると、ディレクターさんが指を七本立てた。

 

 次は、司令長官室。

 上甲板の一番後ろにあって、いちばん豪華な部屋。

 

「おお、アニメといっしょ!」

「今日は、特別に座ってもいいそうだ」

 凜太郎さんが、通せんぼのゲートを開けてくれる。

「ああ、ここだ、この席だ!」

 真鈴先輩が真ん中の席をスリスリする。

「え、なになに?」

「天音がマッパで召喚されて、生尻のまま落ちてきた席!」

「ああ、ここかあ」

「なになに、ここにさくらの生尻がぁ?」

「ちゃいます、天音ですよ、百合子さん!」

 なんか、自分のお尻触られてるみたいにゾクゾク。

「ええ、ここで、みんなに紹介する乗組員が登場しま~す」

「「「ええ?」」」

 スリスリもゾクゾクも止めて、ドアに注目。

 

「「「「しつれいしま~~す(^▽^)」」」」

 

 声が揃ったかと思うと、猫耳を付けた四人のメイドさんたちが入ってきた。

「ピレウスまでの航海の間、皆さんの世話をさせていただきます。ネコメイドのシロメで~す」

「クロメで~す」

「チャメで~す」

「ミケメで~す」

「「「「よろしくおねがいしま~す、ニャン!」」」」

 

 そろいのネコポーズで決めた四人は、6話から登場するネコメイドの声をやる声優さんたちだ。

 なんか、若いと言うか幼い感じがする……と思ったら。

 

 全員、中学三年生だって!

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
  • 声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
  • さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん)
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