大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・074『メイソンが一番の男友達になる』

2024-09-30 12:29:50 | カントリーロード
くもやかし物語 2
074『メイソンが一番の男友達になる』 



 

 黒雲はみるみるうちに広がって、見上げる空のほとんどを覆いつくしていく!

 覆いつくすにしたがって伸びていくためか、厚みが薄くなって、微妙に血の色を含んだ灰色に変わっていく。端っこの方は山や草原の彼方で見えないんだけど、大地そのものを覆うところまではいかないみたい。四方の空の底からは光が入って来て、チョー巨大なドーム球場の中にいるみたい。

「サーカスのテント小屋みたいだ」「夕焼け空を映したプラネタリウム」「巨大なクラゲの下に潜ったみたい」「火星の空みたいだ」

 みんな口々に感想を言う。出身がバラバラだから、みんなイメージが違うんだけどね。

 ギャーギャー ギャーギャー ギャーギャー

 どこに居たのか鳥たちが怯えて、てんでに飛び始める。

 ピシ ピシ ピシピシ ピシ ピシピシ

 高く飛んだ鳥たちが雲の底まで来ると、電気みたいなのに撃たれ、しゅんかん光を放って消えていく。

 ピシ ピシ ピシピシ ピシ ピシピシ ピシ ピシ ピシピシ ピシ 

 それでも鳥たちは、パニックみたいになって電撃を喰らっては蒸発していく!

「ちょっと、下がって来ていないか?」

 ヒューゴが指摘して、みんな空を見渡す。

「うん」「やっぱり下がって来てる」

 ベラ・グリフィスとアイネ・シュタインベルグが怯えた声を上げ、アンナ・ハーマスティンは口に手を当てたまま声も出せない。

「あれが下りきったら、ちょっとまずいかもね」

 ロージーは冷静だけど、ではどうするかというところまでは言えないみたい。メイソンとヒューゴは叶わぬまでも、近衛の剣を抜いて空に突きつけている。

『みなのもの! 空の端っこで雲の裾を掴んで引っ張ってる魔物がいるぞよ!』

 御息所がお局言葉で状況を報告というか叫ぶ!

『ひい ふう みい よぉ……全部で八匹! やつらをやっつけたら、この怪しの雲は消えていきそうじゃぞ! みんなレベル30のゴブリン程度じゃ! わらわが指し示す、みなで退治せよ!』

「よし、じっとしていても始まらない。みんなでやっつけよう!」

 おお!!

 ロージーが声を上げると、全員が雄たけびを上げ、近衛の剣を振るって、四方に散っていった。むろん、御息所も飛んで行ったよ。

 だ、だいじょうぶかなあ。

 ひとり心配になっていると、横の薮がガサッと音がして、メイソンが戻ってきた。

「メイソン!?」

「八人で間に合うからね。ぼくたちは十人。ヒューゴはアンナのサポートに回って、このメイソン・ヒルはヤクモのガードにまわることにした」

「あ、ありがとう。でも大丈夫?」

「ああ、キミの使い魔が力を貸してくれている。きっと大丈夫さ」

 ああ、まだキチンと紹介してないから、御息所は使い魔の認識なんだ(^_^;)

 ゾワゾワゾワ……

 気配に振り仰ぐと、雲はさらに下がって来て、鳥たちが焼き殺される音は間遠になってきた。

「鳥たちは、ほとんどやっつけられたみたいね」

「だいじょうぶ、きっと間に合うさ」

「う、うん」

「ぼくの先祖はアーサー王に仕えていたんだ」

「あ、それでナイトの称号を」

「アーサー王の城の補修をする石工だったんだ。メイソンというのは元来石工という意味だからね」

「そうなんだ」

「ある日、騎士たちの大半が戦に出ていた時、城の隙をついて攻めて来た敵を留守番の騎士たちといっしょにやっつけて、その功績でナイトに叙せられたんだ」

「あ、わたしをガードしてもあげられる称号がないわ」

「きみの第一の友だちの称号でいいさ」

「あ、その席にはネルとハイジが……」

 あ、わたしって、なんて気の利かないことを言うんだ(;'∀')。

「残念」

「あ、いや、それはちがくて……」

「なら、一番の男友達の称号だ!」

「あ、それなら」

「よかった」

 え、あ、一番の男友達ってぇ(#'∀'#)!?


 プッツン!!


 その時、四方でブチギレる音がしたかと思うと血灰色の雲はみるみる縮んでいって、ほとんど真上で広げた傘ほどに縮んでしまった。

「「やったあ!」」

 傘は、あちこち穴が開いている。能力いっぱいに広げたんで支えを失って綻びが出てしまったんだ。

「「あれ?」」

 ゆっくり傘が下りてくると、傘の真ん中から二本の脚が生えてきて、地面に近くなって表の方も見えてくると胴体が付いている。

 胴体の上には首と腕も生えてきて、地上二メートルぐらいの高さにおりてくると、ひどく憎そげなお姫さまになった!

 

☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド  メイソン・ヒル  オリビア・トンプソン  ロージー・エドワーズ  ヒトビッチ・アルカード  ヒューゴ・プライス  ベラ・グリフィス  アイネ・シュタインベルグ  アンナ・ハーマスティン
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人) 魔王子 魔王女
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!16『知井子の悩み・6』

2024-09-30 07:31:03 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 悪魔だけどな(≧▢≦)!
16『知井子の悩み・6』 


 

 オーディションはHIKARIシアターで行われたぜ。


 HIKARIプロの常設劇場なんだけどよ、午後は、そのアイドルユニットの公演がおこなわれるんで、午前八時という異例に早い開始時間なんだぜ。

 歌うにしろ踊るにしろ、きちんと体調、声の調子を合わせにくい時間帯だ。

 マユは思った。わざと、そういう時間帯を選び、オーディション受けるやつらの本当の適性とやる気を見定めるつもりなんだ。黒羽ディレクターの意地悪にも見える本気度がよくわかったぜ。
 
 知井子と駅で待ち合わせして、会場へ行ったぜ。

 そこで、また驚くことがあった。

 会場には三十分前に着いたんだけどよ。もう、ほとんどの奴が来てやがる。

――あと、一人だな――

 会場整理のおっさんが、そう思ったことでわかったぜ。

 そして、このおっさんが、ただの会場整理でないこともな……。

 二三分して最後のやつがやってきて、全員がそろったんだけどよ、時間までは会場には入れねえみてえだ。

 そうやって外で待たせている間にも、おっさんやスタッフ、そして監視カメラなんかが、みんなの様子を観察してやがる。

 もう、すでにオーディションは始まっていることをマユは理解したぜ。

「さあ、時間です。受付を済ませた人は、指示された控え室に入って」

 偉そうなスタッフが、ハンドマイクで穏やかに誘導しやがる。

 受付もなにも、ここに着いた時に胸に付けるように配られたバッジにチップが組み込まれていて、カメラや、スタッフの特殊なメガネを通して個人は特定できるようにしてあるんだけどな。


 受付をすませて、マユは驚いたぞ。


「これって、最終選考だぜ……新ユニットの」

「マユ、気がついていなかったの?」

 知井子が不思議そうな顔をする。

 マユは、やっぱり自分をオチコボレの小悪魔だと思い知った。人間が目につかないことばかり見て、会場の正面に貼り出されていた看板を見落としていたんだぜ。

――HIKARI新ユニット最終選考会――

 受付から先は本人しか入れねえ。母親といっしょに来ているやつも半分近くいてよ、まるで、長期留学の見送りみてえだ。

 試しに心を読んでみると、その親子は、はるばる北海道から来てやがる。他にも、九州や四国から来てるのもいやがる!

 そして、すごいことを読み取っちまった。

「なあ、知井子。このオーディション2400人も受けてたんだぞ!」

「そうだよ、一次で400、二次で、46人まで絞られてたんだよ」

 平然と言う知井子に驚いたぜ。そして、そんなオーディションの最終選考に二人を横滑りのように入れた黒羽のおっさんにもな。


 準備室に入って、また驚いたぜ!


 みんな真剣に、でも静かに着替えてやがる。着替え終わると声も出さずに歌ってるやつ、壁に背中をあずけて姿勢をを整えるやつ、ストレッチをやるやつ。マユみてえにキョロキョロしてるやつは居ねえ(^_^;)

「なあ、知井子……え?」

 横を向くと、知井子も、他のみんなと同じような闘志をみなぎらせ、口パクしながら振りの確認に余念がなかったぜ。

 こっちに補習に来させられてよ、学校や街で若いやつらを見たり混じったりして分かったつもりでいたけどよ、ちょっと認識を改めたかもな。

 そんで、そのエモーションみてえなのにあてられて……いつもなら見落とさねえ気配に気づかねえマユだったぜ。


☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・130『新総裁と文化祭の進行台本』

2024-09-29 12:03:32 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
130『新総裁と文化祭の進行台本』   




 ああ、今度もかぁ……


 おとつい学校から帰るとお祖母ちゃんが居眠りしていた。

 魔法少女だって風邪をひく、ましてお祖母ちゃんはとっくに現役を引退して、その後も再任用やら嘱託で余計に勤めて、やっと現場から離れた。

 でも、やっぱり時どき――応(こたえ)さんじゃなきゃ務まらない!――と言われて、しぶしぶ臨時の仕事に出かけていく。

 どうも、政府がボンクラだと仕事が増えるらしい。

 ナンチャラ眼鏡の総理大臣が辞めるんで、お祖母ちゃんは総裁選挙を楽しみにしていたらしい。

 お祖母ちゃんは、長年の勘で日本初の女性総理になると予想していたんだ。Tさんが総理になると、初の女性総理というだけじゃなくて、魔法少女の仕事が減るらしい。

 あ、そうそう。お祖母ちゃんは開票を見ているうちにうつらうつらして寝てしまったんだ。一回目の投票でTさんがトップになったんで、ちょっと気が緩んだんだね。

 で、わたしが玄関を開ける音で目が覚めて。ちょうどSNSでは株式やら円相場のニュースをやっていたんだ。

 モニター代わのテレビでは、総裁選の結果を受けて円高になったことやら日経平均が2000円も下がったことを報じていた。

 高校生のわたしには、よう分からんけど、この円高と株安はネット民からゲルと呼ばれているIさんが、決選投票のどんでん返しで総裁に選ばれたかららしい。

 まあ、お祖母ちゃんも年だ。思い込みが強くなってるんだろうね。

「なんか、大変だねぇ……」

 気の無い返事をして二階に上がった。

 文化祭の進行台本を書かなきゃいけないんだ。

 なんせ、クラスの女子24人がウェディングドレス着て、それをショーに仕立てるんだ。工夫が居る。

 体育館のステージも考えたんだけど、全員が並ぶのは、ちょっとキツイ。

「照明も音響も貧弱だからねぇ」

 演劇部の牧内さんも舞台は勧めない。「登場は、それこそ新郎新婦入場!」って感じで、ゆっくりやってもサマになるけど、大勢の花嫁が退場するのが大変で、次の取り組みに影響が出る。

「それに、ウェディングドレスってインパクト強いから、写真撮ったり人が集まったりで大変だと思うわ……」

「ああ、そうか……」

 いっしょに相談に行った真知子やたみ子も――さもありなん――と腕を組む。

「フォークの集いやクリスマスでも大変でしたよねぇ」

 アイデアマンのロコも、すぐにはプランは浮かばない。でも、フォークの集いやクリスマスをやったことは、みんなの自信にもなっている。大変だとは思っても音を上げることはない!

「そうだ!」

 やっぱり牧内さんが声を上げた。

「校舎エリアからグラウンドになるところに段差があるじゃない!」

「「「「「あ……ああ!」」」」」

「そうだ、あそこがいいわよ!」

 校舎エリアからグラウンド下りるところは階段とスロープになっている。球技大会の時なんかには、あそこが自然な観客席になってみんなで観ていた。体力測定の時は踏み台昇降とかもやってたしね。

「そうですよ! すぐ後ろの校舎には保健室がありますから、あそこを通らせてもらって、いったんグラウンドに下りて、バージンロードを歩いて階段上って、境目のところに並ぶんですよ! そうだ、ブラバンに頼んでウェディングマーチとかやってもらうのもいいですねえ! あ、そうなると、新婦の父親役がいりますよ!」

「そうね、新婦が一人で歩いちゃさまにならないかも!」

「でもでも、ファッションショーのノリなら、大勢ウェディングドレスが並ぶわけですからぁ」

「希望者だけとか?」

「父親役が入るんなら、新郎とかもいるんじゃない!?」

「ええ、新郎!」「キャー」「ウワァ!」「照れるぅ!」

 いやはや賑やかになるばかりで、話がまとまらず。けっきょく、場所だけ決定して、当日の進行はわたしが台本を書くことになったわけ!

 
『めぐり、わたしこれから仕事に行くからぁ!』


「ええ、そんなの聞いてないよぉ!」

『緊急の任務よ! 晩ご飯は自分で調達してちょうだいね!』

 お祖母ちゃんの思い込みはソッコー現実になってきた。


 久々にコンビニに行ってお弁当やらお菓子やらを買う。


「袋、どうなさいますかぁ?」

 しまった、エコバッグ忘れた。

「すみません、袋下さい」

 5円の中で間に合うかと思ったら入りきらなくて10円の大になる。

 ああ、これも総裁選挙で落ちたK君せいだ。

 ちょっと恨めしくなって、すっかり日の落ちた道を帰っていった。


 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人   
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!15『知井子の悩み・5』

2024-09-29 08:36:11 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 悪魔だけどな(≧▢≦)!

15『知井子の悩み・5』 




「いつまで、親を待たせるつもりなんだ(`Д´)!」
 

 黒羽Dは三十分遅れて応接室に入ってきやがった。

「怒鳴っちゃいけませんよぉ。また心臓がぁ……キャ」

 知井子が心配そうにジイサンの腕をひくけど、ジイサンは意外に力があって、瞬間、知井子をぶら下げる感じになって笑いそうになったぜ。

「なんだよ、この子たちは?」

 事情を呑み込んでねえ黒羽Dは機嫌が悪い。仕事を中断してきたせいか、ジイサンにムカついてんのか、元々そういう親子関係なのか。

 ククク、こういう棘を孕んだ関係ってのは、ちょっと好きだぜ( ´艸`)。

「おまえからも礼を言え。俺が地下鉄の駅で発作をおこして、死にかけているところを助けてくれたんだぞ」

「え、大丈夫かよ、オヤジ( ゚Д゚)!?」

 瞬間でマジな顔になりやがる。ちょっと波乱を予感したのに、つまらん。

「礼を言うのが先だ」

「あ、そうだな、どうもありがとう。ボクも地下鉄の入り口でオヤジのこと待っていたんだけどね、急用で呼び戻されて。ほんとうに迷惑をかけたね、ありがとう」

「呼び戻されたなんて、白々しいことを。下手な言い訳をするんじゃない」

「ほんとうだよ、オヤジ……」

 黒羽は、言い淀んでしまった。ウソをついてやがるからじゃねえ、親父の発作に間に合わなかったことが後ろめたいんだ。マユは、ジイサンが思いこんでいるほど悪いジジイじゃねえと感じたぞ。

「あ、ほんとうです。地下鉄の入り口でずっとお爺さん待ってらっしゃいました!」

「ほんとうかね……」

「は、はい(#'∀'#)」

 自分のことではなんにも言えねえ知井子が真剣に弁明する。並の人間が言うとムカつくんだけどよ、知井子のは微笑ましくて、ついほっぺたが緩んじまうぜ。

「……あ、思い出した。店の前で、シャメ撮ってたよね。そのゴスロリに見覚えがある!」

「この子たちはな、駅の階段で苦しんでいる俺を……そっちの子は、階段の下まで行って、腹這いになって転んだ薬瓶を探してくれて、こっちの子は、薬を口移しで飲ませてくれたんだぞ」

「口移しで!?」

「あ、とっさのことだったのでぇ(#^○^#)」

 マユも思わず猫を被っちまったぜ。

「そ、そうか済まなかった。あ、その服は、買ったばかりだろう」

「あ……いえ」

「ロ-ザンヌって店が、今朝、店先に出していたのを知っているよ。すまん、汚しちまったね」

「なんとかしてやれ( ㆆ△ㆆ) 」

 おじいさんが、息子を睨んだ。

「あ、そうだな」

 黒羽Dは、すぐに部屋の電話をとった。

「あ、マダム。HIKARIの黒羽です。今朝店先に出してたブリティッシュのゴスロリ、まだある……そう、よかった。ええと……7号サイズ。だよね?」

「え、ええ……いえ、でも、うちに帰ったら洗濯しますし……」

「いや、そうはいかないよ」

「そうじゃそうじゃ」

「親父は言うな!」

「口ごたえするな!」

「ムグ……あ、そうそう7号、よろしく」

 知井子がうつむきながら遠慮するのを制してテキパキ対処する黒羽D。そんな黒羽父子のやりとりも爽やかで、マユは微笑んでしまったぞ。


「ははは……というぐあいに、オヤジには叱られっぱなしだったよ」


 あれから、ローザンヌのマダムがきて、知井子は新品に着替えた。そして、近所の肩の張らない洋食屋さんで、お昼をごちそうになった。

「五年も、お家に帰ってらっしゃらないんですか?」

「ボクも、オヤジに言われて、初めて気がついたんだけどね。つい仕事が忙しくて……」

「楽しくて……なんじゃないですか?」

「し、失礼だよマユ」

「はは、マユちゃんの言うとおりだよ。夢を創る仕事だからね、楽しい夢からは、なかなか覚めない」

「で、お父さんが持ってこられたお見合いは……するんですか」

「それは、この業界の秘密。うちの所属の子たちも、恋愛禁止にしてるしね」

「そう、なんですか」

「で、お父さんは?」

「病院、念のためにね。ローザンヌのマダムが口説いてくれた。どうだい、よかったらカラオケでも」

「よろこんで!」


 知井子がのってしまったので、カラオケになってしまった(^_^;)。


 場所も最高級。なんとHIKARIプロのスタジオだぞ!

 まるで、普段のおとなしさを取り返すかのように知井子ははじけやがった。

 しまいには、研究生の子たちまで、いっしょになって、歌って踊り始めた。マユは、あぶない展開だと思ったが、こんなに楽しげな知井子は初めてなので、魔法で邪魔することもはばかられ、ヤケクソで知井子といっしょにはじけてやったぞ。

 ミキサーのブースで、黒羽Dがスタッフとなにやら話していることも気づいていたが、なんだか、このままの自然の流れでいいような気になった。

 これは、悪魔も神さまも、むろんコニクッタラシイおちこぼれ天使の雅部利恵も関わってはいない。これが運命。自然な流れなんだと思ってな。


 案の定、二日後には、知井子のところにHIKARIプロからオーディションのお誘いがきた。これはマユには想定内だ。


 ただし、家に帰ってみると、自分にも学校で見せられたのと同じお誘いが来ていたのは、想定外だった(;'∀')。


 
☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  



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馬鹿に付ける薬 018・ヒュドラを討つ・3『アンデッド』

2024-09-28 10:37:37 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》
018:ヒュドラを討つ・3『アンデッド』 




 ゾワ……のゾ!


 背後に気配の『ゾ』を感じて三人ともに振り返った。

 ジャキン!

 気配がアンデッドのそれだと分かって『ゾワ』っと届ききった時には二人を飛び越えてアンデッドどもの前で大剣を構えているプル-ト!

「アンデッドの気配なんかしなかったぞ!」

 遅れて弓を構えたアルテミスは盗塁を許してしまったピッチャーのように唇を尖らせるが、さすがに矢をつがえている。ベロナは三人の前に防御シールドを張った!

 グワ!

 先頭のアンデッドが闇のような口を開けて飛びかかって来る! その跳躍が放物線の頂点にかかった時にはアルテミスの矢がアンデッドの額を貫いて瞬時に四散させた!

 シュシュシュシュシュ! シュシュシュシュシュ!

 四散した腐肉や骨片が魔素となって蒸発する前に、アルテミスは五連の矢を二斉射して背後の十体のアンデッドを射殺す! プルートは風車のように大剣を振るってアンデッドの群れの中を突き抜ける!

 ジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュ!

 アンデッドどもは、斬撃粉砕の音を立てる間もなく蒸発するように消し飛んでいく。

 グワワワ!

 シールドは十分な広がりを持っていたが、巨大な雪の結晶のように外縁部に隙間があって、そこから数体のアンデッドが侵入。
 アルテミスは弓を剣に変換して越境してきたアンデッドをたちまちのうちに両断する!

 ズサ!

 しかし、その剣をも掻いくぐって襲い掛かる一体のアンデッド!

 キャ!

 ベロナが悲鳴を上げる! 悲鳴は銀色の呼気となって、そいつを瞬間で霧消させ、数秒残った呼気には『ホーリーブレス・レベル1』と出ていた。

 そして、プルートがUターンし、群れの背後を取った時には残ったアンデッド共は森の中に逃げ散っていた。

「ベロナ、シールドを平面にしたのはいいが、それでは中華鍋をプレスしたようなものだ」

 さっそくプルートのダメが入る。

「あ、そうですね。縁に綻びが出てしまったわ(^_^;)」

「しかし、トドメのあれはホーリーブレスだ。咄嗟に出たんだろうが、いい武器になる。シールドと合わせて鍛えておくといい」

「はい」

「見ろ、いまの奴ら、さっきの冒険者のかけらどもだ……」

 アルテミスが指し示した薮や獣道には蒸発しきれなかったカケラが残っていたが、それは、さっき森の入り口辺りで見たものと同じであった。

「支配魔法の痕跡があるわ」

「誰かが操っていたんだな……こういうのは好きじゃない」

「好き嫌いで旅は乗り越えられ……」

「?」

「どうかしました、プルート?」

「ゆっくり振り返ろ、操っていた奴が来ている」


 振り返ると、三頭魔犬のケルベロスが四股を踏んだ横綱のように蟠っていた。


 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          アーチャー 月の女神(レベル10)
  • ベロナ            メイジ 火星の女神 生徒会長(レベル8)
  • プルート           ソードマン 冥王星のスピリット カロンなど五つの衛星がある
  • カロン            野生児のような少女  冥王星の衛星
  • 魔物たち           スライム ヒュドラ ケルベロス
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭

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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!14『知井子の悩み・4』

2024-09-28 07:05:27 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 悪魔だけどな(≧▢≦)!

14『知井子の悩み・4』 




「マユ、あった!」


 知井子が群衆の中から、這うようにして薬の小瓶を探して持ってきた。

「あ、ありがと (;≡д≡;) 」

 おきて破りの蘇生魔法をやったマユは、戒めのカチューシャに頭を締め上げられ、気絶寸前だったぜぇ。

「おじいさん、このスポーツドリンクで……」

「…………」

 しかし、発作が3分近く続いているジジイは薬を飲む力もねえ。

「寄こして!」

 マユは、知井子からスポーツドリンクを取り上げると、口に錠剤を含んで口移しでスポーツドリンクごと飲ませてやったぜ。

 オオ……((;"°;〇°;)) ! 

 野次馬どもは、感動の唸り声をあげやがるけど、手伝おうなんてやつは居ねえ。感動しながらも、どこか気持ち悪がっていやがる。ま、こんなもんだけどな。


 おじいさんは、しばらくすると息も整って元気になってきやがった。


「だ、だいじょうぶですか、なんなら救急車よびますけど」

 今頃になって、駅員さんがやってきた。

「それには及ばん、この子達のお陰で助かった」

「でも……」

「いいと言ったら、いい!」

 おじいさんが睨みつけると、駅員さんはスゴスゴと行ってしまった。

「すまんな、こんなジジイに、口移しで飲ませてくれたんだね……キミもせっかくの洋服を汚させてしまったなあ」

「あ、いいんです……こ、これ、オバアチャンのお古ですから(^_^;)」

「お古に、タグが付いているのかなあ」

 知井子のゴスロリにタグが付いたままだということに、マユは初めて気が付いた。


「じゃ、わたしたち、ここで……」


 マユと知井子は、息子さんが勤めているというビルの前までやってきていた。おじいさんもピンシャンしてやがるんで、もういいだろうと思ったんだ。

「それじゃわたしの気が済まん。息子にも君たちに礼を言わせたい」

 というわけで、マユと知井子は、そのビルの三階まで付いていくことになった。


 エレベーターのドアが開いて驚いたぜ!


 目の前が、HIKARIプロの受付になっていやがる。

 HIKARIプロと言えば、東京、大阪、名古屋などにアイドルユニットを持って、急成長のプロダクションだぜ。

「黒羽を呼んでくださらんか」

 タバコでも買うような気楽さで、受付のおねえさんに言うジジイ。

「クロハと申しますと……」

「チーフプロデューサーとかをやっとる黒羽だ」

「あの、失礼ですが。アポは……」

「わしは、黒羽英二の父親だ!」


 え( ゚Д゚)( ゚Д゚)( ゚Д゚)!?


 黒羽英二と言えば、HIKARIプロの大黒柱、今売り出し中のアイドルユニット生みの親。そして、マユには分かった。さっきまで、地下鉄の入り口で人待ち顔で立っていたプロデユーサーであることにな……。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!13『知井子の悩み・3』

2024-09-27 07:24:41 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 悪魔だけどな(≧▢≦)!

13『知井子の悩み・3』 





 マユはホッとした。


 この近くで眉をひそめてるオーラを感じたんだ。

 地下鉄の入り口あたりで人待ちをしているオッサンだ。小悪魔のマユには、そのオッサンがHIKARIプロの偉い奴であることも分かっていたぞ。

 マユの魔法が、もうちょっと遅ければ……「きみ、ちょっとしつこいよ」と、オッサンが声をかけてイケメンくずれをいなすことになる。そして、知井子の可愛さと才能を一発で見抜いてプロダクションの名刺を渡しやがってよ、「よかったら、一度電話ください」ということになりやがる。

 知井子はオッサンの人柄の良さに心を許して電話しちまって、あっと言う間にシンデレラストーリー、アイドルの階段を上ることになりやがる。

 このベタな展開は、おそらく利恵のしわざだ!
 
 オッサンは、ひとまずイケメンくずれの口がチャックをかけたように静かになったんで、安心してマユたちから興味を失った。

――よしよし――

 マユは、落第天使の利恵が開いた運命の道を閉ざせたと思えたぞ。

 気楽になったマユは、知井子の注文通り、シャメをバシバシ撮ってやった。

「これくらいで、いいんじゃね?」

「うん、でも、この街角ステキだから、あと、もうちょっと」

「へいへい」

――おっと、またオッサンが見てやがる。ちょっちヤバイ――
 
 そのときオッサンは、コールがあったらしくスマホに出た。

「……分かった、すぐに戻る」

 どうやら、事務所からの電話のようで、オッサンは地下鉄の入り口をちょっと覗いて、数十メートル先、プロダクションの入っているビルに、足早に戻っていった。

――やりー! これで運命の扉は完全に閉じられたぜ!――

 安直なシンデレラストーリーなんて、ロクな展開にならねえからな。

「よし、じゃ次は原宿にいこうか!」

「おお!」

 スキップしながら地下鉄へ。入り口から入って、階段の踊り場で、ちょっと人だかりがしてやがる。

 たいていのやつは、ちょっと見るだけで通り過ぎていく。

「なんだろ?」

 踊り場を曲がったとこなんで、すぐ側に降りてみるまで分からなかったぞ。

「「……あ!」」

 知井子とマユは、同時に声を上げちまった。

 踊り場の壁を背にして、ジジイが荒い息してうずくまってやがった!

 階段を上り下りするやつらは、気には留めやがるけど、群集心理「誰かが助けるだろう」と思って通り過ぎていきやがる。

「おじいさん、どうしたんですか!?」

 知井子が駆け寄った。

 重度の心臓発作だ。マユには、すぐに分かったぜ。

「……鞄に薬が……」

「わ、分かった、これですね!?」

 知井子は素早くカバンを開けて薬の小瓶をとりだした。

「そ、それ、二錠……」

 知井子は、素早く小瓶を開けようとしたけど、パニくって蓋を逆に回してやがる。

「うーん、開かないよ……!」

「こっち寄こせ!」

 マユが手を伸ばして、小瓶を受け取ろうとしたとき、ちょうど階段を駆け下りてきた女の足が当たっちまった。

「あ、ごめ~ん」

 女は、言葉だけ残して駆け下りていきやがった。

「「薬ぃ!」」

 マユと知井子は同時に叫んだ。

 小瓶はプラスチックなので、割れることはなかったけど、コロンコロンと階段を落ちていき、たちまち人混みの中に見えなくなっちまった。

「あ、ああ……」

 ジジイが、絶望の声をあげやがる!

 マユは、通り過ぎるやつらが、できそこないの天使のように思えたぞ。

「探してくる!」

 知井子が階段を駆け下りた。

 ジジイの唇から血の気が失せていきやがる。

 グヌヌ……(-_-;)

 マユは、静かに呪文を唱えたぜ。

「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム……」

 マユは小悪魔には許されていない蘇生魔法(レイズ)の呪文を唱えた!

 むろん初めて。おまけに修行中。戒めのカチューシャがキリキリと頭を締め付けてきやがった……!!


☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  
 


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銀河太平記・250『ボートを出て密かに観戦』

2024-09-26 11:02:18 | 小説4
・250

『ボートを出て密かに観戦』 メグミ 




 露蒙騎馬軍団の戦闘は五分五分に見えた。

 むろん、ボ-トを出て草原の窪地に身を潜めての印象だから戦場全体が見えているわけではないけど、西之島戦争や天狗党での経験が、そう判断させる。

ハナ:「くそ、身震いしちまうぜ!」

メグミ:「用を足すなら、あっちの茂みでやってよねぇ」

ハナ:「ち、ちげーよ! 武者震いだ(>▢<)」

メグミ:「これは他人様の戦争だよ」

ハナ:「わ、分かってるよ(;'▭')。でもよ、青銅の騎士は反則じゃねえかぁ……」

 戦争に反則も無いんだけど、ハナの感覚では人の10倍はあるだろう青銅の騎士の戦闘力、防御力は反則めいて見えるんだろう。

マイ:「テムジンは綻びを探してるのよ。いや、綻びを作っている。走り回っていれば、敵も味方も流動化せざるを得なくって、流動化してしまえば、おのずと隙ができるわ。騎兵戦闘ではモンゴルに一日の長がある、隙ができる確率はロシア軍の方が大きい」

 さすがはマイさん、いや児玉元帥。

ハナ:「よくジレねえなあ劉宏も」

メグミ:「漢明は見ているだけよ。ああやって元帥であり大統領である劉宏が出張っていることが最大の抑止力になるのよ。ね、よく見てみ、劉宏の軍団には闘気が感じられないでしょ」

ハナ:「そ、そうだな。メグミもなかなかの読みじゃねえか(`^´)」

 マイさんの視線が目の前の戦闘からハンベに移った。何を見ているんだろう……今のモンゴルではパルス機器は使えない。偵察衛星も軍事に関する情報はほとんどブロックされているはずだ。

マイ:「経済情報は伝わるのよ」

ハナ:「ええ、ここは戦場だろ?」

マイ:「ドンパチやるだけが戦争じゃないのよ。見てごらんなさい」

ハナ:「え、グラフとか数字とかはカラッキシなんだぞ(^△^;)」

メグミ:「え……ルーブルがメチャクチャ下がってる!」

マイ:「劉宏が手持ちのロシア国債を売りに出した。漢明だけじゃない、世界中が売りに出してる。劉宏が手を回したんでしょうねえ。化石燃料も半分以上取引停止にして、各国も追随しつつあるみたいよ」

メグミ:「ロシアは長期戦には耐えられませんねぇ」

マイ:「ええ、このモンゴルの戦闘が最初で最後になるでしょうねえ」

 わざわざ西之島からボートを飛ばしてきたけど、意外にあっけない。

ハナ:「あ、漢明の方から誰か駆けてくるぞ!」

 ハナが目を剥いて指さした方角。漢明の隊列から二騎駆けだしてきた。

メグミ:「あれは……朱元尚……後ろはフーちゃんだ!」

マイ:「まずいなあ……」

 マイさんの心配はすぐに状況の変化として現れた。

 露蒙両軍の一部がこれに気づき、モンゴルは無視したが、ロシアは数瞬で敵認定し、十数騎が二人に向かった。

 今の今まで眠ったように静かだった漢明軍にも、いっせいに緊張が走った!



☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!12『知井子の悩み・2』

2024-09-26 07:01:48 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 悪魔だけどな(≧▢≦)!

12『知井子の悩み・2』 




 知井子が決心をしやがった。

 たいそうな決心じゃねえ。

 じつはな。この半年近くで、身長が五センチも伸びたんで、新しい服を買いに行く決心をしやがったんだ(^_^;)。

 それがなぁ、縦には成長したんだけどよ、横には、それほどに成長してねえんで、服はずっとそのままでいたんだ。
 しかし、さすがにミニスカートがマイクロミニになりかけて、階段の上り下りに気を遣うようになっちまってよ。で、思い切って服を買い換えることにしやがったんだ。


 まずは制服だ。毎日着る物なんで、これが最初になった。


「入学の時、少し大きめのを買ったのにね」

 知井子のお母さんは、そう言いながらも制服を買い直してくれた。不足そうな言い方だったけどよ、娘の成長は嬉しい。単に身長が伸びたことだけじゃなくて、何事にも自信を持ち始めたことが嬉しいんだな。

「他の服も買い直さなくっちゃなあ(^▽^)」

 お父さんが、嬉しそうにお小遣いをくれた。


 マユは知っていたぜ。


 落第天使の利恵がかけやがった白魔法が効いてきたんだ。片岡先生の事件の前に、利恵が知井子のコンプレックスを知って、お気楽にかけた白魔法だ。

 マユはな、知井子が魔法で身長を伸ばして得る自信はにせものだと思った。

 知井子の身長が伸びると、知井子は思いもかけない苦労をしょいこむって分かってた。だからよ、対抗して知井子の身長が伸びない黒魔法をかけたんだ。伸びる魔法は苦手だけどよ、伸びない魔法は使えるんだ。

 でも、結果は、半年で5センチも背が伸びるという、育ち盛りの小学生並の成長になっちまった。

 利恵は10センチ伸ばす気でいやがったから、思ったほどに知井子の背が伸びないことに不満。マユは自分の黒魔法が利恵に勝てなかったことに不満だったぜ。

 実際のとこは、オチコボレ天使と小悪魔の魔法は相殺されてよ、知井子の背が伸びたのは、あくまでも自然な成長だったんだけどな。

 影響があったとすれば、英語の片岡先生が、メリッサ先生と恋人同士になるドラマチックな展開を目の当たりにしたことだと思うぜ。ウブなJKなら、あんな恋をしてみてえとか憧れるよな。

 マユには見えていたぜ。街に服を買いに行ったら、どういう展開になるか(3『知井子の悩み』に書いてある)。

「なあ、知井子、明日いっしょに街に出ねえか?」

 マユの方から声をかけてやった。知井子は沙耶や里依紗もいっしょ行きたかったけど、あいにく二人は検定試験で出かけられない。むろんマユはそれを見越して、声をかけたんだけどな。未熟小悪魔のマユは、人数が多いと、これから起こる問題をさばききれねえと思った。


「ねえ、キミお茶しない?」


 イケメンくずれのお笑いタレントみてえなオニイサンが声をかけてきやがった。

 多少くずれていてもイケメン。知井子は人生で初めて男の人に声をかけられたんだ。中学生のとき、ディズニーランドでスタッフのオニイサンが「迷子になったの?」と声をかけてくれたのを例外としてな。

 予想通り、知井子はゴスロリの店で服を買った。あたりを歩いているヒラヒラのゴスロリじゃなくてよ、シックな二十世紀初頭のイギリスのお嬢さんて感じのワンピ。

 で、イケメン崩れには「いいえ、けっこうです」とは言えなかった。

 なんせ、人生で初めてオトコから声をかけられたんだ。で、ディズニーランドのスタッフのオニイサンとかじゃねえしな。

「え……あの、あの……」

 後の言葉が続かねえ。このままではイケメンくずれの軽いナンパに引っかかっちまう。

 マユは、知井子自身に断って欲しかったぜ。でも、予想通り、知井子は声も出せないでやがる。

「だからさぁ、気楽にさぁ、そっちの子もいっしょにどう?」

 あきらかに、ついでに言われていることにむかついて、マユは、ヒョイと指を横に振ったぜ。


 とたんに、イケメンの口は閉じたチャックになっちまいやがったぜ(`ー´)。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  
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やくもあやかし物語2・073『敵の本性は魔王子らしい』

2024-09-25 11:18:45 | カントリーロード
くもやかし物語 2
073『敵の本性は魔王子らしい』 




「ハイジはね、寸前でお腹の調子が悪くなって」

『プ( ´艸`)』


 ロージーがちょっとだけ眉を吊り上げて言うと、御息所が噴きかける。

『あ、いや、ごめん』

 わたしと二人だけだったら遠慮のない御息所だけど、みんなが居ると少しは遠慮するのかもしれない。

「ああ、ごめん。タイミングがずれたら全員で来るのは無理だと思ってさ」

 メイソンとヒューゴも気を遣ってくれる。メイソンはイギリスの貴族、ヒューゴは相場師。ルームメイトじゃないけど、共通の任務ができると自然と力を合わせられるのは英国紳士だから? ううん、みんな危険を冒してきてくれてるんだ。他のみんなも――すまなかった――という顔をしている。みんなにありがとうだよ。

「うん、そうなんだ」

 入学したころは、みんなピリピリしてたけど、やっと思いやれる感じになってきたんだ。だから「うん、そうなんだ」と普通に返しておく。そして、もう一言付け加える。

「そして、ありがとう」

「よしなさいよ、運よく来れただけ。まだキーストーンが取り返せたわけじゃないんだから。ね、みんな」

「ああ」「うん」「そうさ」

 ロージーがさっぱりした笑顔で言うと、みんなドンマイの笑顔で返してくれる。

「オリビアから聞いてるんだけど、なかなか魔物たちもやってくれるみたいじゃない」

「ああ、ちょっとね(^_^;)」

「ナザニエル卿が結界を繕いながら話してくれたんだけどね、どうも敵の本性は魔王子らしいわよ」

「魔王子ぃ(''◇'')?」

 初めて聞くけど、ゾゾっとした。みんなの顔が曇ったせいかも、わたしの中に――こいつはヤバイ――という直感が働いたせいかもしれない。

 ロージーは、きれいな顔で、でも、ちょっと不敵な笑みを浮かべて続ける。

「うん、なんでも、魔王には王子と王女がいて、跡継ぎを巡って争っているらしいわ」

「そ、そうなんだ(^_^;)」

「くわせものとかの手下をいろいろ使っているから、真の敵が分からなかったけど、ヤクモが突き進んでくれたんで、ハッキリして来たみたいよ」

「そ、そうなんだ(;'∀')」

「でも、だいじょうぶ。ヒューゴがピッタリのタイミングを計ってくれて、メイソンがリーダーシップを発揮してくれたから、大丈夫、みんなで戦えるわよ」

「そ、そうなんだ('◎◇◎')」

「ちょっと、だいじょうぶ?」

「だいじょうぶよ!」

『こういう時のヤクモはいちばんヤバイから』

「うるさい、御息所ッ!」

「わたしたち、ソフィー先生から近衛の剣を持たされてきたんだけど、ヤクモはだいじょうぶ?」

「うん、三つあるし!」

 シャキーーン!

 近衛の剣とミチビキ鉛筆と思い槍が光った。

 ウワア!

 みんなが感動の声を上げた……と思ったら、わたしの後ろの方に黒い雲が現われて、みんなが驚いていたよ!

 えええ( ゚Д゚)!?

 遅れた分、みんなの三倍も驚いて、ワチャワチャするヤクモだったよ。



☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド  メイソン・ヒル  オリビア・トンプソン  ロージー・エドワーズ  ヒトビッチ・アルカード  ヒューゴ・プライス  ベラ・グリフィス  アイネ・シュタインベルグ  アンナ・ハーマスティン
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人) 魔王子 魔王女
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・129『小さい秋と大きくなる話』

2024-09-25 09:13:17 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
129『小さい秋と大きくなる話』   




「面白そうじゃん!」


 ホンダZに機材を積みながら話していると、直美さんの心に火が点いた。

「……でもさ、一クラス分の花嫁衣裳ってたいがいの量だよぉ」

 写真館を出て線路沿いの国道を走るころには、積荷の量の心配をしてくれている。

「え、あ……そうですねえ」

 みんなで花嫁衣裳を着てみようというアイデアだけで決まってしまったので、モロモロのことまで頭が回っていなかった。

 一着分でお布団ぐらいのかさがある。クラスのみんなで取りに行くというのがスタンダードなんだろうけど、ホームルームの時間に取りに行っても放課後にかかってしまう。放課後は部活とかある子には無理っぽい。文化祭の取り組みだから、他にやることもいっぱいある。文化祭恒例の合唱コンクールの練習とか、看板の制作とか……そうそう、修学旅行も近いんだった。その説明会でも一回分ホームルーム取られてたしね。

「そうだ、布団屋のバンを借りよう!」

「え?」

 あっさり、筋向いの石川寝具店のバンを借りて直美さんが運んでくれることに決まった。

「で、提案なんだけど。撮影させてもらえないかしらねえ?」

「え、直美さんが撮ってくれるんですか!?」

「むろん交換条件がある」

「な、なんですか(^_^;)?」

「その写真をコンテストとかに出させて欲しいのよ。一クラス分の女の子使ってウェディングの写真なんてめったに撮れないからね。それも全員高校生でさ、面白い絵になるよぉ」

「あ、ぜったい面白いです!」

 それから直美さんは感じのいい鼻歌を口ずさんでハンドルを握る。鼻歌は聞き覚えがあるんだけど、思いつく前に式場の丘が見えて来た。

 
 そして、半日で式場の人たちにも話が広まって、いろいろ協力してもらえることになる。小さな思い付きが大きな話になってきた。


「ヘアメイクとかは時間がかかるからね、普段のままを整えてセットするだけでいいと思う」

 結髪さんがいい提案をしてくれる。

「メイクもさせて欲しいなあ!」

 メイクさんもその気になる。

 まあ、みなさん本業もあるので、実際のことは、それぞれの助手さんとかバイトがやってくれる。

 式場の本番は一世一代のことなので、冒険的とか試験的な、ましてアシさんとかバイトに任せたりはできないので、いい機会なんだそうだ。


「じゃあ、うちの子も頼もうかなあ」

 
 ベテラン巫女の采女さん(じつはスセリヒメ)も名乗り出る。

「え、ひょっとして神さま?」

 声を潜めて聞くと、めずらしく憂いのある顔で答える采女さん。

「まあ、縁のある子でね、キマタって言うんだ。まだ性別もはっきりしない子なんだ」

「え、LGBTQですか?」

「エルジービーティー……?」

 あ、この時代には、まだこの概念はないんだ(^_^;)

「ええと……」

 軽く説明すると「あ、まあ、そんな感じ(^_^;)」と頷いて「いいですよ」と引き受けた。

 なんだか話が膨らんで――だいじょうぶかなあ?――と不安も湧いてきたけど――面白いことになるかも!――とも思う。

 バイトを終えて令和の時代に戻る。

 戻り橋を渡ると、目の前をトンボが過って行った。

 ほんのこないだまではツクツクボウシが鳴いていたのに。

 風も優しい涼しさになって、ようやく令和にも秋が訪れた。

 思い出した、直美さんの鼻歌は『小さい秋見つけた』だった。


☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  

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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!11『ダークサイドストーリー・7』

2024-09-24 08:29:07 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 悪魔だけどな(≧▢≦)!

11『ダークサイドストーリー・7』 




 こめかみの汗が頬をつたって制服の襟に達するまで、マユは何もできなかったぜ。

 片岡先生の心は閉じてやがる。

 いや、心を閉ざした自分の側にマユが座ったことに不快感さえ感じていやがる。

 こんなやつに、下手に声をかけやら逆効果だ。

 一時的に魔法をかけて、先生の自殺を止めることは簡単だ。たとえば、先生をベンチから立てなくするとか、電車を停めちまうとか……。

 でもよ、それは一時しのぎにしかならねえ。不思議な出来事で、先生を余計に混乱させるだけだ(-_-;)。

 シンディーの記憶を消しちまえば、先生の心は楽にはなる。

 でも、有ったことを無かったことにするのは、悪魔の良心が許さねえ。
 
 有ったことを無かったことにしたり、悪いことを良いことと思いこませることは神さまや天使のオハコだ。

 恋のキューピットなんかもっての他だ。天使の中には、これをゲーム感覚でやっているものもいやがる。天使のイタズラ(天使は、適切なカップリングと言うけどよ)による恋は冷めるのも早くてよ、結果は、離婚率と非婚率の増加というカタチで現れてる……日本とかの先進国で合計特殊出生率てのが低いのは、そういう天使どものせいなんだ。

 なんで、先進国だって?

 決まってるじゃねえか、天使は不便な発展途上国とかは行きたがらねえからだ。ウォシュレットとか憶えちまったら、よそには行けねえ。

 天使がトイレに行くのかって?

 そりゃ、人間界に来るにあたっては人化してるからよ。ま、アバターってやつなんだけど。飯も食えばウンコもするんだ。

 それで、人間は、結婚に対して臆病になっちまった。

 そんな中、片岡先生のシンディーへの気持ちは本物だ。馴れ初めと、シンディーがくたばった別れまでを小説にしたら、海の底に沈んだ宝石みてえにきれいで悲しい物語になるぜ。


『一番線、急行が通過いたします……』


 駅のアナウンスが、急行の間もない通過を告げた。

 レールがカタコト鳴って、列車の通過が間近に迫っていることを感じさせた……。

 先生の心は揺れている。この特急に飛び込んでしまおうか……でも、横の女生徒は何かを察している。下手に止められたら、この子まで巻き添えにしてしまいかねない。

 片岡先生は、優しく気配りのできる人なんだ。先生の思念が伝わってきやがる……。

 急行の気配は、もうすぐそこまで来てやがる……でも、マユはどうしていいか、まるで考えが浮かんでこねえ。

 ゴオオオオオオ!

 急行の先頭車両がホームにさしかかった!

 クソ!

 マユは、自分でも思わない行動に出たぜ。

 ダダ!

 マユ自身が、急行に飛び込んじまった!

 悪魔の勘というか、あとで思い出しても、その時は、ただの衝動だったぜ。

「危ない!」「NO!」

 二つの声が重なったぜ!

 日本語のは片岡先生。瞬間身体を抱きかかえられ、ホームの端を二人で転がった。

 プァアアアアアアン! キキキキーーーーーーーー!

 急行は警笛とブレーキを軋ませて、転がった二人の横五ミリほどのところをかすめて、ホームを二百メートルほど通り過ぎて停止したぜ。

 英語の方は、駆け寄ってきて、マユの頭を抱え、英語でいっぱい罵声を浴びせかけてきやがった。

 そのほとんどが日本語なら放送禁止になるようなスラングで、とても声の主とは思えなかった……声の主はメリッサ先生だ。

 マユは小悪魔なんで、英語でまくし立てられても、しっかり意味は解る。

 「dud! hell! idiot! jerk! knucklehead! nerd! punk! shit! sissy! sly! spaz! turd! wimp! wuss!」と盛りだくさん。

「poor girl……」

 そう結んだあとで、メリッサ先生は泣きながらハグしてくれやがった。

 急行は、この影響で五分停車して、その日K電鉄のダイヤは一時間乱れた。

 かつらをやめた校長と担任が、電鉄会社に謝りにいった。むろん、マユの父親(になっている人間。この人の事情は、この話の後で出てくるかもな)も。

 マユは、痛いふりをして、救急車で病院に連れていかれ、いろいろ検査をされちまった。片岡先生とメリッサ先生は、ずっと付き添ってくれやがったぜ。

 そして、マユは、電車に飛び込むほど心に傷を負った生徒ってことで、スクールカウンセリングを受けることになった。マユは、しばらく傷心の女子高生を演ずるハメになっちまった。

 意外に、担当の悪魔からのおとがめは無かったぜ。

 片岡先生とメリッサ先生は仲の良い……とりあえず、友だちになっていやがった。学校は、一時この話しで持ちきりになってよ。知井子なんか、大感動して、日記帳に、このことを短いエッセーにして書き残しやがった。


 で、片岡先生の授業は……


「……というわけで、接続詞の用法はわかったな」

 一瞬、みんなは先生の方を向くが、すぐにそれぞれ勝手な事を始める。

 マンガやラノベを読む奴。ヒソヒソ声で話している奴。中には、携帯を教科書で隠してメ-ルを打っている奴。むろん率先してやっているのはルリ子たちだけど、マユの友だち、沙耶、里依紗、知井子さえも、この授業の間は内職をやってやがるぜ。

 片岡先生の授業下手は、どうやら天然だ。

 ただな、心は閉ざされてなかった。日ごとメリッサ先生の姿が大きくなってきてやがる。

――どんな手を使ったのさ!?――

 利恵が、心で聞いてきた。

――なにもぉ、ちょっとした事故だ、事故――

――なんで、あそこで飛びこむのぉ、二人そろってミンチになるとこだったでしょ?――

――うっせえ――

――あ、そうか( ´艸`)――

――なんだ、うぜえなあ――

――二人の血と肉をグチャグチャにして悪魔らしい終わりにしたかった。そうすりゃ、そのブスなアバターもリセットできるしぃ。地獄って貧乏だから、簡単にアバターは替えてもらえないんでしょ。残念ねえ――

――そう思ってりゃいいだろ。結果オーライなんだしよ――

――まさか……狙って?――

「フフフ」

「あんなアナログな、魔法も使わないやりかたで!?」

「きみたち、まだ授業中だぞ」

「さーせん(''○'')」「すみません、先生(^_^;)」


 節電のため冷房を切った窓から、初夏の青空が見えた。


 青空の中を一羽のカラスがよぎり、瞬間カラスと目が合った。

 アホー……と、カラスは一声残して飛んでいった。

 それは、どこに打っていいか分からずに、さまよっている片岡先生の板書のピリオドに似ていたぜ。
 

☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  
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馬鹿に付ける薬 017・ヒュドラを討つ・2『森に踏み込む』

2024-09-23 15:42:36 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》
017:ヒュドラを討つ・2『森に踏み込む』 




 峠を下り、北に向かう街道を横目に森に近づくと、甘い香りが漂ってきて思わず足を止めてしまう駆け出しの冒険者とガーディアン。

「こんなにいい香りがするんですねぇ……」

「学食で出てくるリンゴなんて目じゃないなぁ……でも、こんなにいい匂いがしたら街道を通るやつらが取りに来るだろ」

「さっきは、それほどじゃなかった。森の中を進んで果樹園の手前まで行かなきゃ、リンゴの匂いはしなかった……」

 並の勇者や冒険者なら、敬遠して通り過ぎるか、あるいは匂いにつられて森に踏み込んで番人のヒュドラに返り討ちになるかなんだろう。

「じゃあ、入るぞ」

「おお」「はい」

 プルートを先頭に森に足を踏み入れる三人。

 ようやく日が上り始めたと見え、微かに小道が窺える。

 シャワ シャワシャワ……

「なにか変なものを踏みつけていません?」

「枯れ葉……じゃない!?」

「……え!?」

 立ち止まって足元をうかがうと、木の葉や枝の切れに紛れている骨だった。

 獣の骨も混じって入るが、あきらかに人のそれと分かるものも混じっている。

「さっきは獣道を探りながら進んだから気づかなかったが……先客は居たようだな」

「冒険者たちですね、装備や服の切れ端もあります」

「登録書の切れだ……」

「ええ、七級と八級……わたしたちよりもレベルが高いわ!」

「運が悪かったか、ただの間抜けだったかだな」

 それだけ言うと、プルートは「そうか、さっきはあっちを通ったのか……」と小手をかざして薮の向こうを見たりするが、足は緩める様子がない。

「ウン、がんばりましょう!」「おお!」

 ベロナは気合いを入れると髪をひっ詰めにまとめてマントのフードの中に収める。アルテミスも無意識に髪に手をやるが、元がショートカットなので、ペシっと自分の頬を打ってごまかした。

 三人は、さらに森の奥に足を踏み入れた。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          アーチャー 月の女神(レベル10)
  • ベロナ            メイジ 火星の女神 生徒会長(レベル8)
  • プルート           ソードマン 冥王星のスピリット カロンなど五つの衛星がある
  • カロン            野生児のような少女  冥王星の衛星
  • 魔物たち           スライム ヒュドラ ケルベロス
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!10『ダークサイドストーリー・5』

2024-09-23 08:09:04 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 悪魔だけどな(≧▢≦)!

10『ダークサイドストーリー・6』 




 え……各駅停車……?


 片岡先生は、先週からダイヤが変わっていることを忘れてやがる。先週までは、この時間は特急の通過だったんだぜ。

 各駅停車でも目的を果たせねえわけじゃねえけど、ホームに着く寸前なんで速度が遅い。

 片岡先生は、特急列車で景気よく跳ね飛ばしてもらい、きれいに即死したかったんだ。


 それほど、メリッサ先生を見た衝撃は大きかったんだぜ。


 片岡先生は気づかなかったけど、メリッサ先生とシンディーは双子の姉妹なんだ。それも、幼い頃、母親が亡くなって、別々の里親に育てられ、双子の姉妹がいることを二人とも知らなかったんだ。

 だからよ、メリッサ先生が片岡先生を初めて見たときは――変なやつ――と思っただけだったぜ。

 片岡先生も、中庭の池の鯉を見ているうちに、よく似た他人なんだろう……と理解したぜ。

 ネトゲでキャラクリして、オキニのアバター作ったやつがバトルで負けて、アバターを売るとか取られるやつがいるだろ。ログインして、そいつに声かけたらまるっきりの別人でよ。よく見たらIDが違って、ガックリしたとか、そんな感じ。他のプレイヤーに聞いたら「あ、元の持ち主はリアルの事故で亡くなったってよ」と言われた感じ。

 しかし、理解と納得は違う。

 それまで封印していたシンディーへの思い出が、血を流しながら蘇ってきやがった。

 シンディーに会いたい……切なく、理不尽な願望で心が一杯になって、それは心の表面張力の限界を超えて、ドバドバ溢れてきちまった。

 そんで、理不尽な願望は、飛躍した行動を先生に思いつかせやがった。

――死ねば、心乱されることもなくシンディーに会える!――

 で、片岡先生は、ホームのベンチで特急列車を待っていやがるんだ。

 マユはよ、改札に入ったとこで先生の思念に気づいたんだ。

――なんとかしなくっちゃ(''◇'')――

 ビビッちまった! デーモン先生に「おまえ、落第な」って宣告された時みたいにワタワタしたぜ!

 悪魔の立場から言えば、人間の不幸は願ってもないことのように思えるかもしれねえけど、実際は違う。

 悪魔の役割は人を不幸にすることじゃねえ。人が正しい選択をするために、試練を与えるのが役目なんだ。

 たとえば、敵に追われて川辺にたどり着いた人間がいるとする。天使とか神はよ、その時の人間の心の清らかさや信仰心次第で、橋を架けたり川を割って道を造って、ダイレクトに人間を助けてやる。調子に乗った時は海を真っ二つにするなんて反則技を使ったこともあった。

 悪魔は違うぞ!

 ひとまず隠れる場所を与え、あとはホッタラカシにする。人間が苦しみ悩んだ末に自分で結論を出し、行動をおこすのを待つんだ。

 ときにヒントとして、川の側に小さな木を植えたり、ゴロゴロの岩を用意しておく。人がそれに気づき、木を大きく育て橋を造ったり、岩を川に投げ入れ足場を作って、自分の力で解決するのを待つんだ。時に、それは人間の時間で何世代もかかることもあるんだぜ。

 この試練と救済をめぐって、大昔、サタンという天使は神と争った。そして天界を追われ、悪魔の烙印を押されちまった。オチコボレ小悪魔のマユはよ、そのへんの機微が分かってないらしいんで、人間界に落とされて修行中の身なんだ。

 オチコボレ天使の雅部利恵(みやびりえ 天使名・ガブリエ)も、救済のなんたるかや、タイミングが分かっていねえんで、この人間界に落とされ、偶然……実は、神さまと悪魔、それぞれの名誉をかけて同じ学校の女子高生として送られてきたってわけよ。

 で、無気力教師の片岡先生の閉ざされた心の奥を、互いに覗き込んじまって、利恵の早とちりで、今回の不幸が起こっちまった。

 なんとかしなきゃ……このままでは、片岡先生は次の電車に飛び込んじまう!

「先生、横に座っていい?」

 マユは、なんの思惑もなく、声をかけちまったぜ。

「あ、ああ……」

 片岡先生は、力無く答えた。取りあえず先生の飛び込みは阻止……けどよ、後が続かねえ(-_-;)。

――先生の記憶を無くしちゃえばいいのよ――

 閉まった各停のドアから、利恵の思念が、お気楽に飛び込んできやがった。

――んなの解決にならねえ(◎▢◎)!――

 思い切りガンと思念をとばしてやった!

 ……と言って、簡単に道は見つからねえ。
 
 堪えねえ落ちこぼれ天使の薄ら笑いとともに各停は出発し、マユのこめかみから、一筋の汗が流れ落ちてきやがったぜ……。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・128『大谷の快挙と巡の粋狂』

2024-09-22 10:18:56 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
128『大谷の快挙と巡の粋狂』   




 50-50(フィフティーフィフティー)というのはお相子、勝負無し、お互いさま、可もなく不可もなく、五分五分、半々……そんな意味だと思う。

 だからピンとこなかった。

 お祖母ちゃんが時計代わりに点けているテレビが『大谷翔平の50-50』を盛大に褒め称えている。

 野球に興味のないわたしは――そんな大騒ぎするようなことなの?――だ。

「昨日の夕刊に載ってただろ?」

 お婆ちゃんは言う。

「新聞なんて……あ、読んだっけ」

 夕べ「巡(めぐり)、こんなコラムが出てるよ」と、お祖母ちゃんは夕刊を見せた。

「……ああ、これは意義深いねえ」

 内容はこうだ。

 コラム氏が友人から転居のお知らせ葉書を受け取った。

 読んだコラム氏はビックリした。その友人は念願の引っ越をしたんだけど、それが鹿児島の離島。特に定年後の一念発起というのじゃないらしい。葉書は印刷じゃなくてキッチリと肉筆で書かれていて思いのたけが偲ばれる。なんだか、ぶっ飛んだ人、粋狂な人だ。

 うちの家系は、こういう粋狂が好きだ。

 定年後も、いろいろ魔法少女のコボレ仕事を引き受けているらしいお祖母ちゃん。火星に行くんだとNASAで訓練中のお母さん。制服が気に入らないからという理由で、毎日昭和の高校に通っているわたし。

 そういう粋狂のアンテナは、世間的にも、限りなく相似形のお婆ちゃんと比較しても微妙な違いがあるみたい。

 あらためて見た夕刊一面のトップニュースに、この大谷選手の50-50達成のことが載っている。扱いは、どこかの県議会で知事の不信任だったか辞職勧告だったかの決議を満場一致でしたのよりも大きかった。

 でも、その大谷選手の50-50は、わたしの脳みそにインプットされていなかった。

 ま、女子高生の興味や関心はこんなもんだ。

 盗塁50、まあ、一軍の野球選手ならあるだろ。ホームラン50、これもあるだろう。よう知らんけど、イチローとか松井とかは、もっとすごかったと思うよ。 まあ、一回の試合で両方達成したというのがすごいのかもしれないけどさ。

 わたしなんか、一学期末の英数国はそろって50点。大谷のダブル50どころかトリプル50達成だよ。


 戻り橋を渡りながら、わたしの脳みそは大谷選手の快挙は起きる寸前に見てた夢みたいに儚くなって、懸案事項でいっぱいになっていた。


 実は、アルバイトでしょっちゅう行く結婚式場。そこの貸衣裳の花嫁衣裳が大量に放出されることになってるんだよ。

 一着500円とか1000円とか!

 貸衣装っていうのは、ちょっとくたびれただけでダメになる。微妙な黄ばみとかシミとかあるだけでアウト。
 むろん、手入れで取れるものは取って使っているんだけど、ほとんどおニューと変わらないものでないと、ユーザーからは敬遠される。

 1970年代というのはそういう時代なんだ。戦後四半世紀、住はともかく、衣食は足りてきて、花嫁衣裳ぐらいはピシッと決めたい時代なんだ。

 わたしはね、まあ、お遊びですよ。粋狂物のお遊び。

 気に入った一着を着てさ、メイクとかは仲良くなった式場のスタッフにやってもらえるし、撮るのは須之内写真館のスタジオでさ。

 たぶん1000円ぐらいでできるよ。

 令和だったら、ラーメンいっぱい食べられるかどうかって金額で、ちょっとした夢が叶うわけ。

 問題は、その後の花嫁衣裳。

 貸衣装の放出品だから500円とか1000円。

 いま現役で使ってるのはレンタルしたら昭和の時代でも複数の聖徳太子が要る。それが500円とか1000円。

 引き取るにしてもねぇ、花嫁衣裳って一着だけでもかさ張るんだよ。普通の古着なら普段着に使えるけど。うちの家にクロ-ゼットなんちゅうハイカラな収納は無い。ジュニア用の洋服ダンスと押し入れだよ。ウェディングドレスなんか入れたら、それだけで一杯!

 で、大谷君のことなんか1000%飛んで、悶々として学校に着いた。

 で、少しすっ飛ばして、その日のロングホームルーム。

 二年生になると、どこかズボラになって、本番まで一か月を切ろうかというこの日に文化祭の取り組みが議題に上った。

「なにか、取り組みとか出し物のアイデアないですかぁ……」

 副委員長のたみ子が――今日締め切りなんだけど――という想いを籠めて三度目に言った時、わたしは閃いた!

「ねえ、ウエディングのファッションショーとかやってみない!」

 閃いた勢いのまま提案して、あっさり決まってしまった!

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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