千早 零式勧請戦闘姫 2040 

30『再びのスクナヒコナ』
「あ、直ってる……」
貞治と並んで校門をくぐると、薄く傷跡は残っているものの結界はきれいに修復されている。岐阜の街に出たときはハッチャけていただけのウズメだが、やることはやってるんだと少しだけ感心する千早だった。
「駐輪場いっぱいだなあ……」
「一年生の分増えたからね、まあ、活気が戻ってきたってことでいいんじゃない?」
「駐輪場は学年別にするべきだよなあ」
いつも停めているスペースは真新しい自転車たちで塞がっている。
「そんなことしたら、駐輪場の管理や指導で先生も風紀委員も大変だよぉ」
「そういや、今日のHR、学級役員選挙だろ。今年も図書委員になれるといいな」
「うん、わたしもぉ」
「図書委員は人気だからなぁ、一応手は上げてみるけどな」
牧師の息子だけあって、こういうところは微妙に諦観している貞治だ。
学級役員で一番なり手のないのは委員長、副委員長、風紀委員、体育委員、保健委員、書記、会計、図書委員という順番。
図書委員は、月に二三度のカウンター業務の他には学期に一度の図書便りの仕事、そして先日千早たちがやった蔵書点検ぐらいのもので――年間を通して一つは学級委員をやること――という九尾高校では人気がある。
一年から連続で図書委員をやっている千早と貞治は外れる可能性が高い。
と思ったら、千早はあっさりと図書委員に成れて、貞治はジャンケンで負けて風紀委員。
その日の放課後には、さっそく第一階の図書委員会が開かれた。
委員会が開かれる図書室に行くと、委員会まではまだ10分あるというのに、数人の一年生が来ていた。
――さすが一年生、初々しいほどに真面目なんだ――
微笑ましく見ていると、大型書架の横で、三人の一年生がしゃがんで顔を寄せ合っている。
「どうかした?」
「あ、もらった図書カード見ていたら、この隙間に入り込んでしまったんです」
人の良さそうな女子が、すまなさそうに、二人の仲間と千早の顔を交互に見る。
「ええと……うん、大丈夫。取れると思う」
そう言うと千早は、書架の反対側に周った。
「だいじょうぶですか、先輩」
「うん、風の流れで、たまにこういうことがあるの。ちょっと待っててね」
チロリン☆
一瞬でスクナヒコナを勧請して、書架の隙間に潜り込む。
蔵書点検の時は二回サイズを切り替えたが、今度は一発で決まった。
――ようし、あとは風で吹き飛ばしてぇ……ピューー!――
『うわあ、出てきた出てきた!』『すごい!』『すごいです、先輩!』
――よし、今度は一発で決まった(^▽^)――
意気揚々と、しかし一年生たちには気取られないように、そのまま反対側から外に出る。
隙間から出たとたんに殺気を感じて、横跳び!
ズバン!
女子用の上靴が踏み下ろされる! たった今いたところに埃がたつ!
チ!
舌打ちが聞こえて、元の千早に戻ると、三人の一年生の姿はすでに無かった。他の一年生たちが少し驚いた顔をするので、愛想笑いを返して、窓際の席につく千早だった。
☆・主な登場人物
- 八乙女千早 浦安八幡神社の侍女
- 八乙女挿(かざし) 千早の姉
- 八乙女介麻呂 千早の祖父
- 神産巣日神 カミムスビノカミ
- 天宇受賣命 ウズメ 千早に宿る神々のまとめ役
- 来栖貞治(くるすじょーじ) 千早の幼なじみ 九尾教会牧師の息子
- 天野明里 日本で最年少の九尾市市長
- 天野太郎 明里の兄
- 田中 農協の営業マン
- 先生たち 宮本(図書館司書)
- 千早を取り巻く人たち 武内(民俗資料館館長)
- 神々たち スクナヒコナ タヂカラオ 巴さん
- 妖たち 道三(金波)
- 敵の妖 小鬼 黒ウサギ(ゴリウサギ)