大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・043『不発弾』

2023-07-31 09:29:56 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

043『不発弾   

 

 

 最初はフェイクだと思った。

 

 あるでしょ、SNSって、時どきウソが混じってる。

 地震で動物園のライオンが逃げ出したとか、コロナのころのあれこれとか、スーパーからトイレットペーパーが消えたとか。

 質の悪いのは、発信者が突き止められて逮捕されたりしている。これも、そうだと思った。

 

 名古屋で不発弾発見!

 

 もう、戦争から何年たってるって言いたいよ。

 ……78年だよ! ちょっと計算に時間がかかるくらいたってる。

 でも、本当だった!

 先月の22日に発見されて、昨日の30日に撤去作業が行われた。

 道路工事やってる歩道と車道の境目辺りに錆びだらけのガスボンベみたいなのが顔を覗かせている。

 250キロ爆弾だって!

 こんな錆々のが爆発すんのかなあと思ったけど、カメラが切り替わると、家の高さほどに土嚢が積まれて、半径300メートル以内にいる人たちが避難してた。

『はやく取り除いて日常の生活にもどしてほしいですねぇ』

 マイクを向けられた小母さんが、意外に穏やかな表情で言ってる。

 外国で戦争が起こって感想を求められたみたいな穏やかさ。

 自衛隊とかの処理を信頼しているからなんだろうけど、なんか他人事。

「日本人はね、目の前で身内が亡くなっても、こんな感じのことが多いのよ。生の感情をぶつけたりしないのよ」

 お祖母ちゃんが言う。

 こないだ、希望が丘で出会った小母さんもそうだった。

 旦那さんが亡くなって、結婚式を挙げた思い出の公民館にやってきて。その手に旦那さんの写真が無かったら、ちょっとトイレ休憩に車を停めましたって感じだった。

 お年だから、病気で亡くなられたのかと思ったら、先月不慮の事故で亡くなられたんだった。

 

 バン

 

「ちょ、なにすんの、お祖母ちゃん!」

 いきなり背中をどやされて、ムカっとする。

「しみじみしてると、伝染っちゃうわよ」

「え、お祖母ちゃんが死ぬとか?」

「勝手に殺すな」

「イテ」

 トドメの空手チョップをもらうと、スマホが鳴った。

 ピピピ ピピピ

 防犯アラームだ。

「え……ほんとうになった!?」

 アラームは――寿町三丁目で不発弾が発見されました――というものだった。

 

 自転車に乗って、春以来足を向けていない学校の方に走る。

 高校じゃないよ、中学。

 正確には中学と小学校の間の、通称学校道。ここいらが寿町三丁目。

 

 現場に着くと、すでにパトカーと消防が来ていて規制線が張られている。

――校内に居る人は、ただちに学校の外に出てください――

――校内の生徒、教職員の人はすぐに校外に退避してください――

 小学校と中学から同じ内容の校内放送が流れている。

『申し訳ありません、不発弾の確認作業をやっていますので、交通規制をやっています。路線バスも通れません。警察官の指示に従って迂回してください』

 パトカーから丁寧な案内がされる。

 べつに警察のせいじゃないのに、日本というのは、みんな腰が低い。

 わけが分かってない後輩たちが正門から出てくるが、お巡りさんに注意されてる。

 バカな中学生にも、ちゃんと対応するお巡りさんはえらい。

 見覚えのある先生が出てきて「裏門から出ろ!」と追い返している。小学校の二階からは、これまた、わたしのころから居る教頭先生が両手で大きな○を作って、お巡りさんに示している。お巡りさんは敬礼しながらお辞儀。

 他には騒ぐ者も居なくて、アラームの割には穏やかだ。

 ピピピ ピピピ

 また、アラームが鳴る。

 

――不発弾は、○○○○爆弾と判明。爆発の危険はありませんが、処理が終わるまでは規制が続きます――

 

 読み飛ばしたので、もう一度○○○○爆弾に目を戻す。

 

 ゲゲ!!

 

 読み返したそれは、模擬原子爆弾とあった( ゚Д゚)!

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。

 

 

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RE・かの世界この世界:174『目覚めた男女神』

2023-07-31 06:28:37 | 時かける少女

RE・

174『目覚めた男女神』テル(光子) 

 

 

「あの二人はテルが起こせ」

「え?」

 
 霞の向こうにイザナギ・イザナミの姿が見えてくると、急にホバリングしてヒルデが言う。

 勢いで追い越してしまったわたしは、大きくUターンしてヒルデと並ぶ。

 ヴァルキリアの姫騎士は腕組みして考えている。

「どうした、ヒルデ?」

「いや……な、ここは日本神話の世界だ。なにかの因縁で出てきてしまったが、ここは日本人のテルが声をかけるべきだ。このアメノヌホコは、この神話を……どこまで続いているかは分からないが、偉大な出発点だろ。異民族のわたしがしゃしゃり出るべきではないと思うぞ」

「それは気にしなくてもいいよ」

「神話とは神聖なものだろう」

「そうなのか?」

「そうだ」

「日本は、あまり、そういうことにはこだわらないと思う」

 そもそもの始まりは、冴子と神楽舞の巫女をやったこと。

 神楽舞の巫女は十三歳の女の子が一生に一回だけやるものと定められているけど、わたしも冴子も十七歳になってもやっていた。神主も氏子の人たちも、同じ校区のご近所同士、地域の運動会に歳をごまかして参加してるくらいの認識だった。

「そうか、それなら……」

 再び前に進もうとしたら、わたしたちの騒ぎで目覚めたのだろう、イザナギ・イザナミが飛んできた。

「いやあ、あなたたちが取り返してくれたんですか!」

「はい、これが無ければ始まりませんから」

「どうも、生まれたばかりで、わたしもイザナミも血圧が低くて。イザナミ、おまえからもお礼を言いなさい」

「どうも、ありがとうございます。謹んでお礼申し上げます」

 丁寧に頭を下げる男女神。

「本来なら、わたしどもが取り返さなければならないところでしたが……そちらは異国の神でいらっしゃいますか?」

「あ、ああ。北欧の主神オーディンの娘でブリュンヒルデと言う。ヴァルキリアの戦士の束ねをしている。ヒルデと呼んでくれればいい。よろしくな」

「それはそれはお勇ましいことで、そのように戎装(武装)されていなければ、さぞや美しい姫様であられましょうに……」

「あ、ああ」

 ちょっと上から目線?

「イザナミ、まずは、国生みをしなければならない、時間が無いぞ」

「では、わたしたちは、これで」

「お二人は雲の上でおくつろぎになってください。国生みが終わったら、お礼の宴を持ちたいと思います。ぜひ加わってください」

「え、国生みをお見せするんですか!?」

「ああ、目出度いことだ。目出度いことは、みんなで祝うのがいいだろ」

「え、ええ、あなたがおっしゃるなら(#'∀'#)」

 ちょっと、この夫婦には温度差があるような気がするけど、好奇心が――見ていけ――と言っているので付き合うことにする。

 ヒルデはポーカーフェイスだけども、イザナミの物言いに、ちょっとカチンときている。そのカチンから見届けてやろうという気になっているようだ。

 アメノヌホコは、ほとんど脊髄反射で取り返したんだけど、この異世界に放り出されたのは意味があるはずだ。

 ヒルデといっしょに国生みがよく見える雲の上に落ち着いた。

 

「それでは始めます」

 

 折り目正しくお辞儀をしたイザナギはイザナミを促して、二人で矛の柄を握った。

「お、結婚式のウェディングケーキ入刀に似ているなあ、『初めての共同作業』とか言うんだろ。そうか、これが起源だったのか!」

「ちょ、写真なんか撮っちゃダメよ」

 いつの間にかスマホを構えているし(^_^;)

「そうか、ならば、キャンドルサービスの時にでも」

「いや、だから、結婚式じゃないから(^▽^;)」

 バカを言っていると、二人が手にしたアメノヌホコはヌルヌルと伸びていき、はるか下方で割りたての玉子のようにドロドロしているところに下りて行った……。

 

☆ ステータス

 HP:10000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・0 マップ:14 金の針:0 福袋 所持金:450000ギル(リボ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケアル ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

    テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官  ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官  ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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銀河太平記・173『周温来撃たれる』

2023-07-30 11:03:21 | 小説4

・173

『周温来撃たれる』周温来 

 

 


 流しの坑夫は便利屋だ。

 頼まれれば坑夫以外の仕事もこなすし、話があれば、どこにでも出かけ、たとえ半日の賃仕事だってやる。

 今日は、カルデラの外に出て通信設備の保守点検。

 月も火星も通信設備は多元化されている。

 日ごろはパルス通信だが、万一のことも考えて光通信や電気通信も残されている。電気通信にも二通りあって、無線と有線。無線は中継設備の点検だが、有線の方は長いケーブルを目視確認しなくてはならない。

 何事にもチャランポランな月社会だが、通信インフラに関してだけはキチンとしている。通信がダウンしてしまえば、悪党どもの密売や違法賭博もできなくなってしまうからね。

 ケーブルの点検は二人一組でやる規則になっている。組み合わせはロボットと人間という決まりになっているが、それでは人件費が倍になってしまうので、二人でやったことにして、ベテランの人間一人にやらせる。

 やらせる方も、信用が掛かっているので、そうそういい加減な奴にはやらせない。

 鉱山でも呑屋街でも、そこそこに評判と実績のある流れ者には打って付けのアルバイトだと言うわけだ。



 B区間4000mの点検を終えて作業車を停める。


 4000というのは、いい区切だ。

 古典的に言えば1里。集中を途切らせずに作業をするには1里という単位がベスト。

 顔を上げると、少し先に軍のドームプラントが見える。

 東京ドームほどのそれは、巨大な金魚鉢のようで、金魚鉢の下半分は様々な植物が枝を伸ばし葉を茂らせている。ところどころ、花や実を付けているのが遠目にも覗える。

 たとえ実験プラントであっても、こういうことを大真面目にやるところが扶桑流なんだろう。

 彩の中央にあるのは桜だろうか。

 どこに行っても桜を咲かせたがるのは、扶桑の宗主国である日本の血なんだろう。

 中国人の俺も桜は好きだ。

 ヒムロのシゲ爺が神社を造って桜を植えたとか、西之島紛争で神社は破壊されたが桜は残っているらしい。

 島に帰るつもりは無いが、桜を眺めながら氷室とマヌエリトと三人で酒を酌み交わし、エンドレスの法螺話。

「日本人は、桜を見て『きれい』とか『美しい』とか『潔よさ』とか思うらしいが」

「あ、まあ、そうだね。僕は、ただボンヤリ見ているのが好きだけどね」

「ボンヤリかぁ?」

「ボンヤリ、大事」

「どう大事なんだ酋長?」

「ボンヤリ、先祖や地の聖霊といっしょになる。こころ、たましいキレイになる」

「日本もインディアンもアニミズムだもんな」

「あはは、カタカナで括られると、ちょっと、カックンですね(^_^;)」

「桜というのは豊かさのシンボル。満開になったら大金持ちになる前兆みたいで気持ちいい。大盃でググっとやりたくなるだろうが」

「チビチビがいいです」

「酒はほどほど、飲み過ぎたら白人に土地とられる」

「白人に盗られたら、この周温来が取り返してやる!」

「中国頼む、あと、怖い」

「ああ、マヌエリト、俺はそんじょそこらの中国とは違うんだぞぉ!」

「まあまあまあ」


 てな具合になあ…………あ、星が流れた。

 !?

 プシュ!

 咄嗟に身を躱したたが、スーツ(宇宙服)の肩を射抜かれた。

 体には当たっていないが、エアーが漏れる。

 シューーー

 ハンベをアクトにしてジャンプ。着地してダッシュ!

 ピシピシピシ!

 アクトにしたので、銃撃音も聞こえる。

 いつか来るとは思っていたが、それは鉱山事故に見せかけてか、町の中で事故に見せかけてかと思っていた。

 出来ることなら、ゴールデン街あたりで、華々しくと思っていたんだが。

 バイザーの端にスーツ姿の二人組が見える。

 ここは逃げるにしかず。

 セイ!

 岩を蹴った勢いで作業車にジャンプ。スロットルを上げて急発進!

 ピシピシピシ! ピシピシピシ!

 二連射を躱して、ハンドルを回したところで衝撃がきた!

 ドッゴーーーン!

 瞬間、ひびの入ったバイザーに三人目の姿が映ったが、喰らってからでは遅い。

 ドサ!

 地球だったら完全に五体バラバラという勢いで地面に叩きつけられる。

 ピシピシピシ! ピシピシピシ! ピシピシピシ! ピシピシピシ!

 念押しに撃ってくるが、微妙に窪地になっているせいか当らない。

 当らなくても、十分に死にかけている。

 腹を撃ち抜かれて血が噴き出している。スーツに穴をあけられているので、出血が止まらない。

 バイザーの中にも薄く血がスプレーされていく。

 自分の血で窒息死……ちょっと勘弁してほしい。

 あ……その前にエアーが切れる……もういいか……。


 
☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス

 

 

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RE・かの世界この世界:173『アメノヌホコ・2』

2023-07-30 06:37:46 | 時かける少女

RE・

173『アメノヌホコ・2』テル(光子) 

 

 

 ヒルデと並んで飛んでいくと、カオスは出来損ないの綿アメのように疎らになり、疎らはやがてフワフワと七つの人形(ひとがた)に凝ってきた。

 シュゥゥゥゥゥゥ

 人形はジェット気流に流される雲の切れ端のような速度で突き進んでいく。人形たちの中ほどには、アメノヌホコが見え隠れする。

「あいつら、アメノなんとかを盗むつもりだぞ」

「取り返す!」「おお!」

 シャリン! 

 ヒルデがオリハルコンの剣を抜く、さすがに異世界の名刀、冴えた鞘走りの音だ!

 チャリン

 わたしのはシケた音しかしない(^△^;)

「行くぞ!」

 ブワァアアアアアアアア!

 それだけで100メガバイトは使いそうなエフェクトを残してヒルデは突撃。

「させるかあああああああ!」

 敵に言っているのか、ヒルデに怒っているのか分からない雄たけびを上げて、わたしもつき進む!

 ボン

 レンジの中で卵が弾けるような音をさせて、人形どもが散開する。

 チャリン チャリン

 ヌホコを持った人形に打ち込むと、寸前に別の人形がやってきてパスされてしまう。

 敵ながら、連携の取れたラグビーチームのようだ。

「「くそ!」」

 ヌホコを持った人形に切りかかると、剣を振り下ろす直前にヌホコが消える。

 消えるのは錯覚で、目にもとまらぬ速さでパスされてしまう。残った人形を切っても、煙を切ったように手応えがない。一瞬飛散したようになる人形たちだが、すぐにまとまってしまってキリがない。

 自分では分からないが、ヒルデが空振りした時に分かる。わたしも、ヒルデから見ると、そう見えているに違いない。

 シュワン! ブワン!

 名刀とナマクラが空を切る音ばかりする。

「ラチが明かないわよ(;'∀')」

「人形とはいえ形があるんだ、形ある者どこかに欠点がある!」

「欠点?」

「探るんだ!」

 ブワン! ブワン!

 言いながらも手を休めることなくオリハルコンを振り回している。

 さすがはヴァルキリアの姫騎士、主神オーディンの娘だ、闘志がハンパない!

 接近すると、人形たちの中にボンヤリと神名が浮かび上がる。

 

 ☆クニノトコタチ ☆トヨクモノ ☆ウヒヂニ ☆スヒヂニ ☆ツノグヒ ☆イクグヒ ☆オホトノヂ ☆オホトノベ ☆オモダル ☆アヤカシコネ

 

 さっきよりも輝きが増して、存在がハッキリして来ている。

 放っておいてはロクなことにならない気がする。

「その通りだ! とにかく切りまくれ!」

「分かった!」

 シュワン! ブワン!

 人形たちの神名は一定ではない、追い回しているうちにも、同一の澱の中で神名がコロコロ変わっていく。

「こいつら、まだ神名が定着しないんだ、定着する前に倒すぞ!」

「お、おう!」

 返答はするが、こっちはヴァルキリアの戦士ではない、息切れがしてくる。

 そう言えば、ムヘンではレベル幾つだったか……

 HP:1500 MP:400 属性:テル=剣士

 忘れかけていたステータスが浮かび上がってくる。

 そうか、HP MPのレベル概念があるきりだったな。

 ん?

 待てよ、HPは20000はあったはずだぞ?

 そうか、スタミナを使い果たしかけている!

 ポーションを呼び出そうとしたが、ストックはゼロになってしまっている。

「白魔法をクリックしろ! テルにもケアルぐらいはあるだろ!」

「わたしが?」

 ケアルはケイトに任せていた、そんな白魔法が……あった!

 MPだけは400あったので、100を使って機関銃のように自分にケアルを掛ける。

 ピピピピピピピピピピピピピピピピピピ

「よし、HP10000にまで戻った!」

 気を取り直して再び人形たちに挑みかかる。

 ケアルを掛けるのにかまけ、ヒルデから遠ざかってしまっている。

 今行くぞ!

 急いで戻ると、一つのことに気が付いた。

 オリハルコンの斬撃も暖簾に腕押しの人形たちだが、近くに居てあおりを受けた人形のHPは一瞬減っているのだ。HPが減ると、すぐに近くの人形が寄ってきてケアルをかけて回復させている。

 そうか! 人形たちが無敵なのはヌホコを持っている間だけなんだ!

 手放した瞬間から防御力は急速に落ちるんだ!

「ヒルデ、ヌホコを持っていない人形は防御力が低い! いや、無いも同然だ!」

「分かった!」

 矛先を変えて、ヒルデと二人で手ぶらの人形たちを切りまくる。

 ズバ ズビ ズバズビ ズバ ズブ

 数秒で六体の人形を倒し、最後の一体は、ヌホコに手を伸ばす前にHPを使い果たして消えて行ってしまった。

「よし、ヌホコを返しに行くぞ!」

「こっち!」

 アメノヌホコを回収して、ヒルデと二人、イザナギ・イザナミの二神の元に駆けつけた。

 

☆ ステータス

 HP:10000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・0 マップ:14 金の針:0 福袋 所持金:450000ギル(リボ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケアル ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

    テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官  ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官  ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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くノ一その一今のうち・67『化学分析場地下の戦い』

2023-07-29 12:13:16 | 小説3

くノ一その一今のうち

67『化学分析場地下の戦い』そのいち 

 

 

『地下に続いています!』

「あ、ちょ……」

 

 壁の向こう、えいちゃんはわたしの言葉を待たずに地下への階段を下りて行く様子。

 壁は地下への階段を隠すための擬装だったんだ。

 階段の手前に部屋があったり廊下が続いていたら、えいちゃんはわたしを待っただろう。しかし、直ぐ足もとから階段が伸びていて、見通せるところまでは行ってみようと思ったんだ。

 単なるアシスタントではなく、洞察力を持った助手を目指そうと言う気概を感じた。

 だから、気弱なカンフーみたいに「あ、ちょ……」しか言えなかった。

 

 五分待って、おかしいと思った。

 

 先を見通すには時間を超えている。

 先行した仲間や部下が戻ってこないのは事故があった証拠。並の忍者なら、直ぐにその場を離れる。

 別のルートを探すか、調べ直して日を改める。

 助けに行って自分もやられては任務が果たせない。忍者と言う者は、けして倫理観では動かない。

 

 思わず魔石を握った。

 

 もし魔石の力で壁が開くなら、えいちゃんを助けに行こう!

 心の声に従った。

 と言っても、魔石に開錠の力が無ければ、ただのバカなんだけど。これまでも、何度か魔石に助けられている。

 困った時の石頼み、握った手に力が籠る。

 ジ~~

 魔石が震え、制服を通しても手に熱が伝わってくる。

 ガチ

 手応えのある音がして壁が開いた。

 アチ!

 手を離すと、魔石が直接肌に触れて忍者らしからぬ声が出る。

 一秒だけ立ち止まって気を飛ばす。

 たった一秒だけど、空堀では、この程度の慎重さも失って、まんまと多田さんの目くらましに騙されてしまった。

 コンクリートの階段を下ると、古ぼけてはいるけど、しっかりしたコンクリートの通路が伸びている。

 あ!?

 曲がって直ぐの壁にプリントしたようにえいちゃんが貼り付けられていた。

『すみません、不覚を取りました(;'∀')』

「待って、すぐに剥がしてあげる」

 メリ!

「ごめん、痛かった?」

『大丈夫です、一気に剥がしてください!』

「うん!」

 メリメリメリ!

 …………………!!

 かなり痛そうだったけど、えいちゃんは声も立てずに堪えてくれた。

『すみません、独断専行して、この有様です(-_-;)』

「やっぱり、昨日の多田さんたちだった?」

『気配はそうです。角を曲がったと思ったら、すごい圧を感じて、次の瞬間には壁に貼り付けられていました』

「よし、慎重に進もう……」

 少し進むと下り坂になって、20メートルほどの平坦な通路。地下鉄の向かい側ホームに行く通路に似ている。

 その四倍は長いから……おそらくは、内堀の下を潜って本丸か西の丸に抜ける通路だ。

『頑丈だけど、剥き出しのコンクリート……おそらく、戦時中のものですね』

「……上がった先に何かある」

 傍らの壁の崩れをとって思い切りの力で天井に投げる。

 パシ!

 ブシュッ! ブシュブシュ! ブシュッ!

 消音拳銃の弾が飛んできて、壁や床で爆ぜる。

 三人、あるいは四人。

『牽制してきます』

 言うと同時にカバンを飛び出すえいちゃん。

 今度は大丈夫。なんせ厚みが無い、横を向いて進めば敵からは視認されない。

 翻ってわざと姿を見せたえいちゃんに敵が発砲する。

 ブシュッ! ブシュブシュ! ブシュッ!

 えいちゃんが引き付けてくれている。

 …………!

 声も上げずに飛び出し、えいちゃんとは反対側の壁に周る。

 甲府の地下で見たようなパレットの陰に敵の姿。

 ドス! バシ! ビシ! ドゲシ!

 続けざまに四人ぶちのめし、一人が逃げる。

 シュッ!

 パレットの山を掠めて、一反木綿のようにえいちゃんが飛び出し、敵の脚にまといつく。

 ドシン ズザザーー

「動くな!」

 馬乗りになってクナイを構える。

 プシューー

 とたんに空気が抜ける音がして、敵は空気の抜けた風船のように萎んでしまう。

 傀儡か!?

『こっちも、萎んでます!』

 さっきやっつけた敵も萎んで、僅かな空気の流れにフワフワ崩れ始めている。

『なんですかぁ、これぇ!?』

「傀儡……だと思う。上級忍法の使い手が調子がいいと、こういう魔法めいたことをやるらしい」

『わたしの3D版という感じですね』

「え、ああ……」

 わたしも思っていたんだけどね(^_^;)

『パレットだけということは、敵は、もう運び出したんでしょうか?』

「先を探ろう」

 甲府の隧道でも、枕木やパレットが放置された先に結構な金塊が残っていた。

『こっちに続いています』

「うん!」

 四人目の傀儡を仕留めた先は、曲がったところで行き止まりだったけど、第一の部屋の壁にはパッと見には気づかない扉があった。

 おお!

 視聴覚教室ほどの空間には、荷物を載せていないパレットがいくつも置かれていたけど、奥の方にトラック一杯分ほどの金塊が積まれたままになっている。

 甲府から転送された金塊は、こんな量ではないけど、さすがに運びきれないものが残されたんだろう。

 近寄って見ると、どの金塊にも武田菱の刻印がされている。

 間違いない、いくらかは取り戻せたんだ。

 残念と安心が同時にやってくる。

 えいちゃんが、どんな顔をしていいか分からないという感じで微笑んでいる。

 うん、この微笑みには、ちょっと救われる。

 

 ドッゴーーーン!!

 

 大音響がしたかと思うと、地下室がグラグラと揺れ、天井からはパラパラと小さなカケラが落ちてくる。

 

 しまった!

 

 地下室は崩れるようなことは無いみたいだけど――してやられた――という気持ちが湧いて来て、急いで地上に出てみる!

『西の丸の方です!』

 レンガ造りの屋上から見ると堀を挟んだ南側の森から光の柱が空に延びている。

 チリチリとプラズマを纏って聳える光の柱は、諏訪湖の真ん中に聳えたそれと同じ。

 つまり、大量の金塊が国外に転送されたしるしなんだ。

 

 また負けてしまった……。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟

 

 

 

 

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RE・かの世界この世界:172『アメノヌホコ・1』

2023-07-29 06:17:51 | 時かける少女

RE・

172『アメノヌホコ・1』テル(光子) 

 

 

 ヒルデと二人で手を繋いだ。

 

 手を繋いでいないと、上下も判然としないカオスの中をグルグル回って、いつ離れ離れになるか分からないのだ。

 重力が無いので、髪が大変なことになっている。

 ホワホワとタンポポの綿毛のように広がってしまっている。

「ウ……口の中に入った……」

 ヒルデの方に顔を向けようとしたら、慣性の法則で顔の前に残った髪が口の中に入ってしまう。

 プペ ペッ ペッ

「ジッとしてろ」

 ヒルデがわたしを手繰り寄せ、脚でわたしをホールド。フリーにした手で手際よく髪をまとめてくれる。ヒルデ自身は、いつの間にやったのか軽やかなポニーテールにまとめてしまっている。さすがはヴァルキリアの姫騎士だ。

「なんだ?」

「あ、今までのヒルデはツィンテールだったから」

「あ、とっさにやってしまった。父の戒めも、ここでは半分なのかもしれぬな。しかし、ポニテとひっつめではイメージが似てしまう。ちょっと動くなよ」

「え、変えるのか?」

 肩を掴んで後ろ向きされて、数秒で髪形を変えられた。

 ブルン

 首を振ると、太くてザックリした三つ編みが見えた。

「ドラゴンテールだ、歴戦の戦乙女に相応しい」

「あ、ありがとう」

「なに、無重力の中での間に合わせだ。とりあえず、ここを抜けなければな。それを考えろ……ここは、どこなんだ?」

「ここが神話の世界なら……」

 思い出そうとするが、出てこない。日本神話は冴子のジャンルだ……日本神話の初めはイザナギ・イザナミだったはず……その前というと……?

 アニメなどに出てくるのは、アマテラスとか高天原とか……イザナミは黄泉の国でラスボスのような化け物になり果てて……そうだ、最初はイザナギ・イザナミの二人で島とか神さまとかを産むんだ。

「思い出したか?」

「男神と女神がいるはず!」

 ウワ

 首を動かしただけのモーメントで体がグルグル回ってしまう。

 こんな重力もないカオスの中では、国生みどころか、二人並んでいることもむつかしい。

「あれはなんだ?」

 わたしが、あれこれ考えているうちにもヒルデは首を巡らし目を凝らし、カオスの中に何かを発見した。

 カオスの鈍色が凝り固まって、澱(おり)のようなものが浮かんできた。

 しばらくすると、澱のようなものはボンヤリと人の形をしてくるんだけど、霧の中の提灯のように滲むばかりで、頼りない。

「傍に寄ってみよう」

「だめ、行かない方がいい」

「そうなのか?」

 確証はないんだけども、神話の始まりはイザナギ・イザナミだ。それ以前のものに関わってしまったら、永遠のカオスの中に閉じ込められてしまいそうな気がする。

 

 澱のようなものは七つあって、目を凝らしていると澱の中に文字が浮かび始めた。

 

 クニノトコタチ、トヨクモノ、ウヒヂニ、スヒヂニ、ツノグヒ、イクグヒ、オホトノヂ、オホトノベ、オモダル、アヤカシコネ、

「なにか意味があるのか?」

 ヒルデは北欧神話の神なので、意味を考えてしまう。

 ヒルデが彷徨し始めたのも、父であり主神であるオーディンとの関りに疑問を持ったからなのだ。

「見ていれば流れるか消えていくと思う、始まりは男神と女神の二人の神だ……」

「しかし、名前があると意味を考えてしまう……アヤカシコネとかは、妖(あやかし)に関係する神なのではないか……」

 そう考えながら、ヒルデの空いた手は剣の柄に手がかかっている。

「ヒルデ」

「あ、すまん。未知のものには、すぐに警戒の心が湧いてきてしまってな」

 ヒルデの手が柄から離れると、七つの澱はゆっくりと背後のカオスの中に流れていき、代わりに現れた二つの澱は、すぐに人の形になった。男女二柱の神だ。

 

 現れた!

 

「これが、目的の神たちか?」

「イザナギ・イザナミだ、間違いない」

「眠っているのか?」

「目覚めると思う。これから、二人で国やら神を産むはずだ……」

 数十分も見つめていただろうか、二柱の神は目覚める様子もない……なぜだ?

 なにか足りない……。

 おぼろげな記憶が不足のシグナルを挙げているのだけど、それが何かなのかは、もどかしくも浮かび上がってこない。

 二柱の神は……神は……なにかをかき回していた……その雫が島に……そうだ、かき回す棒のようなものがあったはずだ!

 首を巡らせると、反対側に、今まさに混沌の中に沈みそうになっている矛を発見した。

 

 アメノヌホコ!

 

「あれだな!」

 察したヒルデは、わたしよりも早く突進していった!

 

☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・300 マップ:14 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リボ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

    テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官  ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官  ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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鳴かぬなら 信長転生記 134『西遊記でいこう!』

2023-07-28 09:26:32 | ノベル2

ら 信長転生記

134『西遊記でいこう!信長 

 

 

「「「なぜだ!?」」」

 

 三人の声が揃った。

 俺たちが変身したのは、サル(信長) ブタ(市) カッパ(茶姫)の三人、いや、 三匹だったのだ!

「お兄ちゃん、サルに似てる!」

「いや、似てるどころか猿そのものだろう?」

 俺たち兄妹がいうサルは、茶姫の頭に浮かんだ猿ではない。秀吉のことだ。

「で、わたしは、なんでブタなのよ(`_´)?」

 これまで、扶桑でも三国志でもいろんな目に遭ってきたので、少々のことでは驚かないが、ブタにされた市は機嫌が悪い。

「ああ……まあ、ブタにしては器量がいい方ではないか」

「んもーー!」

 両手で顔をクシャクシャする市……すると、鼻だけが人間に戻った。

「ん~~ブタ面に鼻だけが人間というのも気持ちが悪いかもなあ」

 茶姫が腕組みをする。

「じゃあ、目だって!」

 もう一度クシャクシャすると、目も人間になったが、気持ち悪いのに変わりはない。

「もういい!」

 ブルっと首を振ると、元のブタに戻った。

「茶姫はカッパでいいのか?」

「ああ、まあ、わたしは泳いでいる時がいちばん自由を感じるから、まあいい」

 ああ、そう言えば、成都からの帰り道のことを思い出す。

 

 魏・蜀・呉の緩衝地帯の川辺で小休止したとき、茶姫は水着に着替えて泳いでいた(80『突然の小休止』)。

 あの時の茶姫は一番自由な感じだったな……そこを狙って写真を撮りまくっていた孫権も分かっていたんだ。

 しかし、その後、すぐに現れた曹素によって反乱軍に仕立て上げられ、それ以来の逃避行だ。

 茶姫には忸怩たる思いがあるのだろう。

 

「しかし、この組み合わせは西遊記のようだな」

 

 茶姫の言葉に互いを見ると、得物こそ持ってはいないが西遊記の組み合わせだ。

「孫悟空にしては、頭に輪が無いよ。あの輪って、戒めなんだろ? 悪さするとキリキリ絞まるんだ。平手の爺が話してくれたよ」

「あれは緊箍児(きんこじ)と言うんだ。三蔵法師が呪を唱えると絞められる」

「ん?」

 茶姫が思いつくと、指輪が抜け、あっと言う間に大きくなって、俺の頭に収まった。

「一言主、じぶんで間に合わせおった」

「というか、肝心の三蔵法師が居ないでしょ?」

「三蔵法師が遅れていて、我々三人で待っている的な?」

「あ、なんか『ゴドーを待ちながら』的な?」

「ウラジミールとエストラゴン……シイが余るな」

「ちょ、なんなのよ『ゴドーを待ちながら』って?」

「ダメだ、市のような奴には通じないぞ」

「そうだな、それに『三蔵法師を待ちながら』では動きが取れない」

「それに、飛行機どうにかしないと。前のよりも大きいから、穴掘って埋めるのも大変だよ」

 ブブブ ブブブ  マナーモードのスマホが震えた。

「ん、あ、忠八からだ……」

『よかった、なんとか圏内ですね。みなさんの姿……あ、西遊記ですね。分かりました、こっちで操作します……』

 スマホの向こうで、なにやらピコピコと音がする。

『ちょっと離れていてください、飛行機を変態させますので』

「「「おお」」」

 ハタハタハタ……

 かそけき音がして紙飛行機が畳まれた……かと思うと、次には、直ぐに展開して白馬に変わった。

「すごい、忠くん、馬になったよ!」

「おお、見事な白馬だ。玉龍の化身として十分通用する」

「しかし、馬だけ居てもなぁ、肝心の三蔵法師が居らんぞ」

『馬になって小さくなった分、ポリゴンに余裕がありますんで……』

 ハタハタハタ……

 再びかそけき音がすると、馬の背に三蔵法師が現れた。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ)

   

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RE・かの世界この世界:171『最初の仲間』

2023-07-28 06:06:15 | 時かける少女

RE・

171『最初の仲間』テル(光子) 

 

 

 ひょっとしたら分岐?

 
 ハチャメチャな異世界を巡ってきたけど、あとから思うと分岐のようなところがいくつもあった。

 その時は分岐だなんて思っていなかったから、流れるままに身を任せたけども……。

 いま形を現わそうとしている仲間は、はっきりイメージを思いうかべないと、とんでもない事態になっりかねない。冴子との関係がこじれたのも、肝心の時にきちんとした選択ができていなかったからだ。

 ええと……ええと……

 ケイト……ヒルデ……タングリス……タングニョースト……ロキ……ポチ……ユーリア……ナフタリン……とストロボのように巡っていく。

 あ……あ……

 迷っているうちに、その巡りそのものが薄くなり始めてきた。このままでは消えてしまう。

 シュボン!

 唐突にエフェクトが入ったかと思うと、それはヒルデ。

 主神オーディンの姫にしてヴァルキリアの主将たるブリュンヒルデの姿に固着した。

「もぉ、自分で出てきたぞヽ(`Д´)ノ!」

 

 まずはヒルデとの再出発になった。

 

「懐かしい、もう会えないかと思ったわ(#*0*#)」

「そのわりには迷っていたようだな」

「ごめん、ちょっと気弱になっているのかもしれない」

「まあいい、わたしの旅も中断してしまったからな」

「他の仲間は?」

「バラバラだ、この先再び現れるのかテルと二人旅になるのか……」

「しかし……足元が定まらないわね……」

 ヒルデの姿こそ定まったけれど、周囲は穏やかになったとはいえ相変わらず鈍色の渦で、慣れないスカイダイビングをしているような感じ。

「キャ」

「す、すまん、不可抗力だ(n*´△`*n)」

 わずかに流れが変わったかと思うと、急にヒルデの顔がわたしの胸に密着した。

 互いに押して離れたかと思ったら、クルンと回って、今度はお尻同士で密着、ドンケツして離れたら、またまた回転して、今度はあやうく女子同士でキスしてしまいそうになる。

「アハハ(^△^)」

「しかし、どうして、こんなに不安定なんだろ(^_^;)」

「ここは、ムヘンでもヴァルキリアの世界でもない……ちょっと待て」 

 なにやらゴソゴソしたかと思うと、ヒルデはアーマーの胸板からスマホを取り出した。

「スマホ……あ、わたしも持ってる」

 胴着のポケットをまさぐると、わたしもスマホを持っていた。

 そしてGPSを使うと表記が出てきた。

「The Japanese mythology?」

「えと……日本神話?」

「どうやら、テルの国の異世界のようだな」

 北欧神話にも暗いわたしだけど、日本神話も似たり寄ったり、アニメやラノベで知っているだけで、全体の流れと言うと、小学生のそれと変わらない。

「あ、なにか現れるぞ!」

 斜め上から気配が降りてくる。

 互いに、それに気づくと、シャリンと音をさせて剣を鞘走らせた。

 最初からボス戦……それは勘弁してほしい(;'∀')!

 口に出さずに身構えていると、気配は形を現した。

『天地(あめつち)のはじめ』

 それは、巨大なタイトルとなって、二人の前に立ちふさがった……。

 

☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・300 マップ:14 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リボ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

    テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官  ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官  ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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滅鬼の刃・31『H先生の大声』

2023-07-27 16:42:02 | エッセー

 エッセーラノベ    

31『H先生の大声』   

 

 

 武者走は、よく武者小路と間違われていました。

 

 武者走という苗字は稀で、武者小路は、みなさんご存知のように白樺派の大作家であります。

 学校の教科書や副読本にも必ず出ていて、作品を読んだことが無い人でも名前は知っておられるでしょう。

 飲み屋のお品書きの横に――仲良きことは美しきかな――と書かれた野菜の絵がありますが、あれの作者です。

 武者走のフルネームは武者走幸次(むしゃばしりこうじ)と云います。

 約めれば「むしゃこうじ」で、武者小路と言っても、そうそう間違いでもないというのが奴の理屈です。

 郵便物も『武者小路』と誤記されていても、ちゃんと届くそうです。

「でも、一度だけ新米の郵便屋が『武者足さんのお宅でいいんでしょうか?』って訊ねてきやがった」

「むしゃたり?」

「ああ『むしゃたり』って読みやがった(^_^;)。それ以来、武者小路の表札も出したある」

「アハハハ」

 お茶を出しに来て、そのまま居ついてしまった栞も笑います。

「武者のおじさん、よかったら晩ご飯食べてってください。スーパーの朝市でしめじいっぱい買っちゃったから炊き込みご飯にするんです」

「おお、そりゃありがたい。今日は息子夫婦も出かけてるから、コンビニ飯で済まそうと思ってたところや」

「じゃ、味には文句言わないってことで承ります(^▽^)」

 タタタタ

 古希のジジイには真似のできない軽やかさで階段を下りて行きます。

「いい娘さんになったなあ」

「その分、こっちもいいクソジジイになったけどな。で、初回のネタはなんだ?」

「おっと、その前に電話しとくわ」

 武者はスマホを持って廊下に出ます。

『……おお、おれおれ。今日は大橋んちで飯食って帰るから、あ、ああ、憶えてるぅ。とちくるって晩飯買って帰らんようにな「念のため電話」や。じゃあな、勤労中年』

「あいかわらず、声でかいなあ……」

「あはは、お互い小声じゃ通じひん職場におったからなあ」

「そうだな」

「息子にはウザがられてるけどな。連絡やら情報は、直に音声で伝えるのが基本や」

「確かにな」

「そういや、中学のH先生は声でかかったなあ」

「あ、ああ……」

 

 何年かぶりでH先生を思い出しました。

 

 転任の挨拶で朝礼台に立ったH先生は、地声で「気を付けえっ!!」とかましました。

 1200人の生徒が、ビシっと気を付けになります。

 人の体というのは吸音体で、それが露天のグランドに1200人も居るとマイクを通さない声など届くものではありません。

 70年の人生で、大声の人間に二人で会いましたが、二人とも恩師あるいは先輩の先生です。

 H先生は旧海軍の御出身で、乗っていた艦が魚雷にやられて、まる一日フィリピンの海に浮いておられました。

「先生の腕の傷、見たか?」

「あ、ああ……」

 元気な先生で、受け持ちの体育の授業は、冬でも半袖を通しておられ、右腕の傷がよく見えました。

 ただ、先生自身が無頓着で、明るく授業をやられるので、いつのまにか生徒も気にしなくなりました。

「あのころのオッサンは、チラホラ居たなあ……」

 昔は銭湯でしたので、たまにそういう人を見かけました。

 たいていは、戦時中の傷です。そして、たいていは銃創であったり、破片に肉を持っていかれたりの傷でした。

「火傷のケロイドいうのもあったなあ」

「あ、ああ……」

 ごく小さいころは、お袋に連れられて女風呂に入っていました。

 数は少ないのですが、女性の中にもそいう方がいらっしゃって、子ども心にも驚いた記憶があるのですが、ジロジロ見たりはしません。大人たちの態度で見て見ぬふりをするものだと思っていました。

「そうやったなあ、あのころの風呂屋は教育の場でもあった。せやけど、H先生の傷は、ちょっと違たやろ」

 そう言われて思い出しました。

 先生の傷は二の腕にあって、少し欠けているのですが、欠けた周囲には歯形のようなものがついていました。

 だからかもしれません、先生の傷のわけを聞いた話は聞いたことはありません。

 それを武者走は聞いたようなのです。

「あれはなあ、魚に食われた痕やそうや」

「魚に?」

「うん、漂流して、ほとんど死んでもたようになってると、ごく普通の魚が食いにくるそうや。魚は、みんな肉食やからなあ」

「え、そうなんか……」

 こういう秘密めいた話は、驚いたり感心した方が負けです。

 こっちも一発かまします。

「海軍にはな、高声電話というのがあった」

「こうせい電話?」

「ああ、高い声の電話と書く」

 古本屋で『丸』というミリオタ雑誌を見ていたので、少しばかりは知識があります。

「海軍は艦内通信には伝声管を使っていたんだけどな、なかなか明瞭には伝わらなかったので、音量を電気的に増幅して伝える電話が使われるようになった」

「へえ、そんなものがあったんか?」

「ああ、海軍は進んでいてな。新造の大型艦には冷房もあったし、照明は蛍光灯だった」

「え、蛍光灯なんて、俺の家は小学校に入ってからやったで」

「うちも、そうだったけどな。あ、高声電話。それをH先生に聞いてみたことがあるんだ」

「『ああ、あれはな、大きな声でなきゃ通じないから高声電話っていうんだ』だ、そうだ」

「え、そうなんかぁ」

「それで、遠くに味方の船が見えて、ここ一番の大声を張り上げたら気が付いて助けられたそうだ」

「あ、ああ、なるほど……」

 

 けっきょく、第一回目の内容に踏み込むことも無く、武者は栞のしめじご飯を食べて帰って行きました。

 

☆彡 主な登場人物

  •  わたし        武者走走九郎 Or 大橋むつお
  •  栞          わたしの孫娘 
  •   武者走                   腐れ縁の友人

 

 

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せやさかい・424『原作を読んでみる』

2023-07-27 09:34:56 | ノベル

・424

『原作を読んでみるさくら   

 

 

『宇宙戦艦三笠』は、四人の高校生が三笠に乗って、宇宙の冒険の旅に出るお話。

 

 艦長    修一(CV小早川凜太郎) 

 航海長   樟葉(CV百武真鈴) 

 砲術長   天音(CV酒井さくら)⇐うち(^_^;) 

 機関長   トシ(CV花園あやめ)

 

 三笠の動力は『思い出エナジー』云うて、メンバーの思い出。思い出が昇華されることで三笠は突き進んでいく。

 

 三回にわたって思い出が語られ、その度に三笠は増速して太陽系を脱して銀河宇宙に乗り出す。 

 来週は、いよいようちの天音の思い出がテーマ。 

 監督や演出との話で――そうなんや――と、分かったつもりでおった。

 しかし、いよいよ自分の天音の回が迫って来ると――これでええんやろか(-_-;)?――という気持ちになる。

 

 それで、収録まで間がある今日は、原作の『宇宙戦艦三笠』を読み返す。

 声優の拠り所は、あくまでも台本やねんけど、台本に書かれてる台詞は氷山の一角。本体は海面下、つまり原作の中にある。

『う~ん……でも、あまり深く潜り過ぎると、溺れるから気を付けてね』

 みかさん役の吉永さんは注意してくれながらも初版本を貸してくれはった。

 

 

【宇宙戦艦三笠】

8[思い出エナジー・2]

 

 疾風(高機動車)の前方30メートルほどのところに、チャドル姿の女性が倒れこんだ。

 隊長は、すぐ全車両に停止を命じた。

「隊長、自分が見てきます」

 山本准尉は、隊長と目が合ったのを了解と解して疾風を飛び出した。自爆テロの可能性があるので、うかつに大人数で救助に向かうわけには行かなかった。


「きみ、大丈夫か?」


 姿勢を低くし、二メートルほど離れたところから、山本准尉は女に声を掛けた。爆発を警戒してのことでは無かった。そこここに現地住民の目がある。異民族の男が女性の体に触れるのははばかられるのだ。

「ゲリラに捕まって、やっと逃げてきました。日本の兵隊さんですね……助けてください」

 チャドルから、そこだけ見せた顔は、まだ幼さが残っていた。


「……分かった。君の村まで送ってあげよう」


 山本は、優しく、でも決意の籠った声で少女に応えた。

 山本は、いったん疾風に戻ると装具を解いて、隊長に一言二言声を掛け、様子を見ていた現地のオッサンから、ポンコツのトヨタをオッサンの半年分の収入ほどの金を渡して借りた。オッサンは喜んだが、目で「気をつけろ」と言っていた。それには気づかないふりをして、少女に荷台に乗れと言った。座席に座らせるわけにはいかない。イスラムの戒律では、男と女が同じ車に乗ることはできない。荷台に乗せるのが限界である。

「あたし、体の具合が悪い。日本のお医者さんに診てもらえませんか?」

「あいにくだが、男の医者しかいない。あとで国連のキャンプに連れて行ってあげよう。それまで我慢だ」

 山本が目で合図すると、自衛隊の車列は作業現場へと移動し始めた。山本は長い敬礼で車列を見送ると少女に二本ある水筒の一本を渡して、トヨタを発進させた。

「どうして停まるの?」

 少女は、少しこわばった声で山本に聞いた。

「サラート(礼拝)の時間だろ。専用の絨毯はないけど、これで我慢してくれ」

 山本は、毛布を渡してやり、コンパスでメッカの方角を探し、コンパスの針を少女に見せた。少女は毛布に跪きサラートを始めた。山本は異教徒なので、少女の後ろで跪いて畏敬の念を示した。

「どうもありがとう」

 サラートが終わると、少女は毛布を折りたたんで山本に返した。

「信心は大事にしなきゃな……よかったら、そのチャドルの下の物騒な物も渡してもらえるとありがたいんだけど」

 少女の目がこわばった。

「これを渡したら、村のみんなが殺される……」

 少女の手がわずかに動いた。

「ここで、オレを道連れにしても、日本の兵隊を殺したことにはならない。君を送る前に隊長に辞表を出してある。だから、オレを殺しても、ただのオッサンを一人殺したことにしかならない。後ろを向いているから、その間に外しなさい」

 山本は、無防備に背中を向けた。

 戸惑うような間があって、衣擦れの音と、なにか重いベルトのようなものを外す音がした。

「ありがとう。君も村の人たちも殺させやしないよ」

 それから、山本は少女を村に送り届け、トーブとタギーヤ(イスラムの男性の衣装)を借りた。

 山本は、少女に地図を見せた時、二か所に目をやったことに気づいていた。一か所は自分の村で、もう一か所は、それまで彼女が居たところだろうと見当をつけた。

 案の定、少女が見ていたところは岩場が続く丘の裾野で、声がかかる前に銃弾が飛んできた。ゲリラの前進基地のようだ。車を降りると「手を挙げて、こっちに来い」と言われた。

「隊長、こいつ体に爆弾を巻き付けている!」

 身体検査をした手下が隊長に言った。

「スイッチは、この手の中だ。動くんじゃない! 血を流さずに話し合おうじゃないか」

 そのあと二言三言やり取りがあった後もみ合いになった。

 そして、もつれ合ったショックで、スイッチが入ってしまい、山本は10人あまりのゲリラを道ずれに死んでしまった。

 日本のメディアは、現地で自衛隊員が除隊したことと、山本が民間人として死んだことを別々に報道した。殉職とは認められなかった。


 そして、山本が日本に残した一人娘は、横須賀の海上自衛隊の親友に預けられた。


「だから、あたしの本当の苗字は山本っていうんだ……」

 長い物語を語り終え、天音はため息をついた。

 三笠は速度を上げて遼寧とヴィクトリーを追い越した……。

 

 最後の台詞は台本の中にもある。

 むつかしい台詞やなあ。

 

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学三年生 ヤマセンブルグに留学中 妖精のバンシー、リャナンシーが友だち 愛称コットン
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 愛称リッチ
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       中二~高一までさくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 
  • 声優の人たち      花園あやめ 吉永百合子 小早川凜太郎  
  • さくらの周辺の人たち  ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん) 小鳥遊先生(2年3組の担任) 田中米子(米屋のお婆ちゃん) 瀬川(女性警官)
  •   

 

 

 

          

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RE・かの世界この世界:170『飛ぶぞ!』

2023-07-27 06:13:11 | 時かける少女

RE・

170『飛ぶぞ!』光子 

 

 

 飛ぶぞ!

 

 その声は時美先輩だ。声の背後に息をのむ気配、これは美空先輩だろう。

  突然の決心に二人の先輩は短く声をあげることと息をのむことしかできなかったようだ。

 駅前の風景はグニャグニャになって渦を巻き始め、体がフワリと浮き上がったかと思うと、渦の中心に鈍色の穴が開いて引き込まれていく。

 
 仕方ない、ここからは自分でやるしか……これまでもそうだったけど、わたしの時空の飛び方に脈絡は無い。たとえ、犬のウンコを握りつぶしたことがきっかけであったとしても、自分の選択だ。

 前を向いて行くしかないよ。

 洗濯機の中を思わせる時空の渦の中をグルグル振り回されながら落ちていく……目が回るようなことはなかった。

 手にこびりついた犬のウンコが遠心力で飛び散ってきれいになっていく。

 よかった、ババ掴みのままで異世界探訪なんてまっぴらだ。

 しかし、飛び散っていくのはウンコだけではなかった。

 身に着けた制服がビリビリと音を立てて裂けていく。

 ちょ、なによ(;゜Д゜)!?

 手で押さえたり、脚を絡めたりして制服の分解を防ごうとするのだけど、巨大な台風に取り込まれたように儚い抵抗でしかない。

 ビリ ビビビ ビリビリビリ!

 上着が、スカートが、ブラウスが、その下にまとっているものも次々と千切れて引き剥がされ、鈍色の渦の彼方へ吹き飛ばされていく!

 ムヘン以来身に降りかかったアレコレに慣れて、気を失ったりパニックになることは無かったけど、マッパにされるのはかなわない!

 プツ

 儚い音を立てて最後の一枚が吹き飛ばされた(#*0*#)!

 誰が見ているというものでもないのだけど、両膝を抱えるようにして、露出する肌の面積を最小にしようと努力する。これって、羊水の中の赤ちゃんに似てるかも……。

 異世界慣れした感覚が『目だけは開けておけ』と囁く。

 とことんのところは自分の選択だ、巨大な渦に巻き込まれているとしても、自分の意識だけは覚醒しておかなければ、さっきみたく、犬のウンコを握るようなことになってはたまらない。

 それでも、風圧のために日本史で習った土偶のような細目でしか見開けない。

 あの土偶、なんて言ったっけ……ぼんやり思っていると、そのスリットのような視界の中に、何かが見えてきた。

 人か……?

 いや、人の輪郭はしているけど、帽子の下も袖の先も空虚だ……これって、コスのサンプル?

 最初はトンガリ帽子に黒を基調としたローブで、袖口の先にはロッドが揺れている。魔導士……黒魔導士。

 次は草色の胴着にレイピア、剣士か。

 枯れ葉色の胴着に短弓、アーチャーだ。

 白のローブにお揃いの尖がり帽子、白魔導士。

 冒険者のコスが、次々に現れて、目の前で数秒留まっては流されていく。そして数十秒かかって元のコスが現れて……どうやら、わたしの周りをサンプルのコスが回っているようだ。

 選べと言うことか?

 そうか……以前は剣士をやっていたから、今度は白魔導士くらいがいいかなあ?

 そう思っていると、聞き覚えのある声が風の中から聞こえてきた。

『ごめんなさい、テルは剣士だったわね!』

 あ、荒地の万屋!?

 ペギー!

 そこまで思い出すと、ホワンと音を立ててコスたちは消えていき、体が引き締まったかと思うと、剣士の姿になった。

「ペギー、どこにいるの?」

『ここじゃ、店も姿も現せないのよ。始原のカオスだからね。もう、たいていのことには驚かないだろうから、幸運を祈ってるわよ』

「じゃ、コスの代金は?」

『お得意さんだから、こんどでいいわよ。それから、パートナーをひとり選べるから』

「え、そうなの?」

『ちょっと待って……あ、コンプリートしてないから、指定さ……れて……る……みた……い……』

 そこまで言うと、かき消すようにペギーの気配が無くなってしまった。

 あれ? サンプルの消し忘れ?

 コスの一つがボンヤリと残っている……いや、そのコスには、ちゃんと首も手の先も残っている。

 パートナー……?

 それは、懐かしい仲間の姿を取り始めた。

 

☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・300 マップ:14 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

    テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官  ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官  ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・042『EXPO70』

2023-07-26 11:32:32 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

042『EXPO70   

 

 

 え、宮之森の人口より多いんですか!?

 

 開場の一時間前から並んでんだけど、人波の中、ゲートの屋根さえ見えない。

 それで、直美さんが気晴らしに話してくれる。

「うん、この分だと、80万人はいくって話だよ」

 万博は夏休みに入って入場者がうなぎ上り、昨日は宮之森の人口に匹敵する75万人の入場者があったそうだ。

「むろん朝の開場から夜に閉めるまでの総合計だから、同時に入ってるのは20万くらいかな?」

「それでも、うちの学校の……200倍ですよ!」

「あはは、そうなるか(^_^;)」

「…………」

 会話が途絶えて、とたんに蝉の声が耳に付く。

 前後左右には、わたしたち同様に開場を待ってる人たちがひしめいているんだけど、ほとんど話声がしない。

 ゲートが開いたら、我先に飛び出してお目当てのパビリオンに行くためにエネルギーを温存してる感じ。

「突撃前の軍隊って感じだね」

「軍隊ですか?」

「うん、戦時中、お父さん中国とか満州で兵隊やっててね、酔っぱらうとよく軍隊時代の話するんだ」

 そうか、この時代、親はリアルに戦争に行ってたんだ。

「耳にタコだけどね、うん、なんか敢闘精神湧いてくるなあ(^皿^)/」

 

――間もなく開場ですが、けして走らないよう、押し合わないようお願い申し上げます。ゲートを入られましたら警備員の指示に従って、合図があるまではけして飛び出さないようお願い申し上げます――

 

 ズズ

 

 開場予告のアナウンスが終わったとたん、何万という人たちが一歩前に出る。それが一斉に起こるものだから、巨大なアメーバーが身じろぎしたみたい。体の中で、何かが目覚めてアメーバーの一部になったみたいに高揚するものがある。

 中二の運動会で、学年女子全員でグランドに入場した時の感じ。それの何千倍もすごい。

 日本人というのはスゴイ。

 怒鳴る人も人を押しのける人も居ない。最前列でガードマンの人たちが暴走を抑止してるんだけど、たった一列。

 全部で十数人のガードマンが横一列になって抑止……っていうよりは『走らないでください』とサインを送ってるだけ。ガードマンはこっちには背を向けてるし、ちょっと押したら、そのまんま乗り越えられ、群衆に押しつぶされて、けつまずいた入場者も半分くらいは圧死する。

「わたしの傍、離れないでね」

「はひ、死にたくないですから!」

 悲鳴のような返事をする。

「左に抜けるから」

「え、あ、はい」

 直美さんは、いつの間にかサブカメラを出して左右と後ろを撮っている。

 インスピレーションなんだろうね。

 きっと、タイトルを付けたら『突撃0秒前!』とかって名作ができると思う。

 先頭のもう一つ前に、サッと旗が上がって、左右にニ回振られる。

 とたんに、ガードマンさんたちがトウセンボウを解いてこちらを向く。ここからはフリーのサインだ!

「よし、走るよ!」

「え、あ、はい!」

 けして後ろ向きにはならないんだけど、振り向き振り向きしながら解き放たれた群衆にシャッターを切りまくる直美さん。

「お代わり!」

「はい!」

 たすき掛けにしていたカメラを渡す。

 それも十秒もかからずに取り終え、さらにお代わり。

 やっと人波が過ぎると、横の植え込みに入ってフィルムの交換。

「パビリオンには入らないんですか?」

「ああ、ごめん。人撮ってる方が面白い。あとで何カ所か周るから辛抱してね」

 いや、わたしはバイトで来てるからいいんですけどね。

 直美さんは出たとこ勝負なんだ。

 写真なんてインスピレーションだから、それでいいんだけど、これまでは結婚式場のルーチンだったから、ちょっと戸惑う。

「月の石とか凄いんだろうけど、やっぱり人だね。目を輝かせてる日本人を、こんなに集団で撮れる機会ってないよ」

「はい、そうですね!」

「よかった」

「え、なにがですか?」

「メグちゃんが、こういうの嫌がる人でなくって」

「はい、おもしろいですよ(直美さんも含めて)」

「しかし、フィルムは考えて使わないとね。今ので四本使っちゃった」

「ああ……あと50本ですね」

「ごめんね、重たいの持たせちゃって」

「いえ、大丈夫です」

 わたしの仕事は荷物持ちだ。

 カメラバッグ二つ、背中には三脚とレフ板。

 並の女子なら三十分ももたないだろうけど、昭和の高校に通うにあたって、お祖母ちゃんが少しばかり魔法をかけてくれた。その全ては分からないけど、とりあえず力持ちなのは、この四カ月で立証済み。

「よし、アメリカ館とソ連館に行くよ!」

「はい!」

 むろん中には入らない。待っている人たちを撮るんだ。

「ただいま四時間待ちで……」

 アメリカ館に行くと、案内のおねえさんが済まなさそうに説明してくれる。

 いいんですよ、こっちは人を撮るだけだから。

 総じて、大人が元気で若者や子供たちがゲンナリしている。

「お爺ちゃんたち、お元気ですねえ」

「なに、引き揚げのことをお思えば屁でもねえさ」

「南方ですか?」

「満州!」

「満州でいばるな、わしはシベリア帰りじゃ!」

「俺はガダルカナルだ!」

「なるほどぉ(^_^;)」

「女だってね、買い出しで大変だったんだからね!」

「お婆さん、シャキッとなさってますねえ」

「まだ五十五よ!」

「失礼しましたぁ」

「あんた、何年生まれ?」

「あ、二十二年です」

「お父さんは引き揚げ?」

「はい、北支にいました」

「おお、どおりでベッピンさんじゃ」

「北支だとベッピンですか?」

「いや、復員とか引き揚げは溜まっとるからなあ」

「溜まってる?」

「わはは、若い人をからかうんじゃねえわ」

「え、あ、そういう意味ぃ!? アハハハ」

「そっちは妹さん?」

「妹分、こっちはからかわないでくださいねえ」

 結婚式場でもそうだったけど、直美さんは被写体とのコミニケーションがうまい。

 

 楽しくおしゃべりしてるうちに、またフィルム四本使ってソ連館へ。

 

「あなたたち、大阪?」

「うん、そやけど」

「さすがね、ソ連館から周るんだ」

「そら、宇宙開発いうたらソユーズ!」

「そうよね、写真撮りながらでいい?」

「オーケーオーケー」

「ひょっとしてハンパクとか行った口?」

「行った行った!」

「おねえさんもハンパク行ったん?」

「うん、岡林とかタクローとか好きだし。大阪って凄いよね」

「え、そう?」

「そうよ、反戦のための万国博って名乗りでさ、大阪城公園貸してくれるんだもん。東京だったらあり得ないよぉ」

「せやせや、御堂筋デモは五万人集まったしなあ」

「そのポケットから覗いてんのは毛沢東語録?」

「あ、青少年必読の書や」

 10円男といっしょだ(^_^;)

「造反有理だねぇ、三人並んでくれるぅ、え、なんで語録隠すの?」

「ちょっと照れくさい」

「そうか、まあ、いいや。はい、チーズ!」

「「「チーズ!!」」」

 

 パシャ

 

 それから十か所ほど周って、三菱館の前までくると、さっきの御年寄たち。

「ちょっと、様子が変だ」

 近づいてみると、お婆さんがしゃがみ込んでる。

「大丈夫ですか?」

「あ、さっきの」

「あ……だいじょうぶ……ちょっと立くらんで……」

 息が苦しそうで顔が赤い……熱中症だ!

 直ぐにスマホを出して、用心のために入れていた万博会場の見取り図を出す。

 よし、通りの向こうに救護所がある。

「直美さん、ちょっとだけ荷物頼みます!」

「え、あ、うん」

「小母さん、すぐ近くに救護所だから、オンブ、いや、ダッコしますね!」

「それなら、儂らが」

「いえ、大丈夫です!」

 よいしょ!

 小母さんをダッコすると「ちょっと、道開けて下さーーい!」と叫びながら三十秒で救護所に救急搬送!

 

 直美さんが、十数枚写真を撮ってしまって「これは発表しないでください!」と説得するのが大変だった。

 

彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。

 

 

 

 

 

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RE・かの世界この世界:169『再びの決意』

2023-07-26 06:11:05 | 時かける少女

RE・

169『再びの決意』光子 

 

 

 そうだったの……。

 

 お茶のエッセンスを絞り切るように急須を上下させて美空先輩は呟いた。

「完全じゃないと思うけど、このあたりで手を打つか」

 時美先輩が、見かけのボーイッシュさとは裏腹な優しい手つきでケーキをお皿に移す。

「ハハハ、不思議か?」

「あ、いえ」

「普段は雑だけど、ここ一番という時は丁寧にやるんだ」

「時美はね、思ったよりも見かけにこだわるのよ」

「潰れたケーキってやだろ。三人で食べるんだったら三つとも綺麗にしとかなきゃつまらん」

「そうですね」

 時美先輩のこだわりにホッコリする。

「さ、いただきましょ(^▽^)」

 美空先輩は解れるような笑顔でケーキにフォークを入れる。

「……おいしい」

 久々に(現実世界では二時間ほどしかたってないんだけど)先輩といただくケーキはため息が出るほど美味しかった。

「じつは、目当てのケーキ屋さんお休みでね、別のお店で買ってきたの」

「え、そうなんですか!?」

「うん、ごめんね。最初に言ったらがっかりするだろうって思って」

「言わなきゃ、分かんねえのに」

「い、いえ、ちゃんと言ってくださるのは思いやりだと思います。じっさい美味しかったですし」

「そう、よかった」

「それで、冴子はどうだった?」

「はい、それが……」

 冴子が赤の他人のようになってしまったことを説明した。

 吉野屋文学賞には触れなかった。

「でも、これで、殺すことも殺されることも無くなったわけだ」

「うん、そうね……」

 言葉遣いはちがうけど、美空先輩も時美先輩も等しく労わってくれる。

 異世界疲れしたわたしには身に染みて嬉しい。

「はい、落ち着いて、ここからやり直します」

 美空先輩は穏やかに微笑むことで、時美先輩は「もう一つ食おう」という食欲で賛同してくれた。

 

 一人で下校する。

 

 赤信号で立ち止まったり、電車がくるまでホームで待っていたりすると、無意識にスマホに手が伸びる。

 冴子のメールを意識してるんだ。

 もともと、いつも一緒にいるようなことはなかったけれど、何かにつけてメールのやりとりはしていた。

 正しくはラインというらしいんだけど、違いがよく分からないわたしはメールという呼び方で納得している。ラインは個人情報を抜かれるという噂だったけど、便利で無料だし納得。

 納得を二回も使ってしまう。ほんとは納得していないんだろうか。

 

 郵便受けに新聞が溜まっている。

 

 昨日の夕刊からとり忘れているところへ回覧板や市政だよりが入っている。

 朝刊の折り込みチラシはスーパーワンダイの新装開店。市政だよりのカガミ(表紙)は神社の巫女舞の稽古の様子だ。

 ちゃんと、見知らぬ中学生の女の子が緊張した表情で舞っている。

 ここでは、三年連続でわたしと冴子がやらされることは無いんだ。

 あれこれ見ていると、冴子に電話したくなる。

 でも、もう他人なんだ……。

 なんだか無性に寂しくなる。

 ま、いい。

 ゆっくり時間をかけて……また、なれるものなら友だちになればいい。

 

 あくる日、駅の改札を出ると、ちょっと前を冴子が歩いている。

 

 ちょっと追い越したぐらいのタイミングで気が付いたことにして、ペコリと頭を下げるくらいの挨拶。

 そうだ、一から始めればいいんだ。

 そう思って、少し早足になる。

 すこし横に出て、肩が並ぶ……。

 ドン!

 キャ!

 わたしの後ろから自転車が来て、わたしが急に横に出たものだから、追い越しざまに接触。

 チ!

 自転車の主は舌打ちして行ってしまう。

 グニュ(⊙ꇴ⊙)

 手を着いたところに犬のウンチ。

「あ、ああ……」

 間抜けなため息が漏れる。

 前を歩いていた人たちが振り返る。一番間近に冴子。それも、仁王様のように怖い顔。

「あ、昨日の……!」

 そこまで言うと、ひどく蔑んだ迷惑顔。

「ギョエ!! ちょ、離して!」

「あ!?」

 わたしは、ウンチを握りつぶした手で冴子のスカートを掴んでいたのだ……。

 疫病神を見るような冴子の視線を浴びながら、わたしは、もう一度時空をジャンプする決心をした。

 

☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・300 マップ:14 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

    テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官  ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官  ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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銀河太平記・172『実験プラントのマス桜』

2023-07-25 15:42:46 | 小説4

・172

『実験プラントのマス桜』緒方未来 

 

 

「ほかにご質問が無いようでしたら、時間も押してまいりましたのでお開きにさせていただきたいと存じます」

 

「写真いいですか!?」「サインしてください!」「動画かまいませんか!?」「かわいい!」「握手!!」てな要望が会場中から出て……シンポジウムはアイドルの営業のようになってしまった。

「一列に並んで欲しいのよさ! ご要望にお応えしゅゆのよさ!」

「次の予定も迫っていますので、これで打ち切らせていただきます!」

 ダッシュがマネージャーのように立ちふさがり、わたしがかっさらうようにしてテルを控室に連れ帰る。

「もうちょっとやっててもよかったのよしゃ(^▽^)」

「あんたも調子にのるんじゃないわよ」

「らってらってぇ!」

「らってじゃねえ!」

「控室、しょっちなのよさ!」

「「こっち!」」

 

 控室を素通りして廊下の突き当りのドアを開けると、回しておいた車にテルを抱えたまま乗り込む。

 バタム

 ダッシュがドアを閉めると同時にアクセルを踏んで、文字通りダッシュ!

 ブィーーン!

 

「あ、あ、だましたにゃ! お弁当まだ食べてないのよさ!」

「ここにあるわよ、さっさと食べて」

「おお……で、どこに行くのよさ?」

「あ、えと……」

「え、ダッシュ考えてなかったの?」

「あ、いや、とにかく連れ出さなきゃ、話もできないだろ」

「じゃあ、マス桜観に行こう、もう満開近いよ」

「おお、よし、じゃあ」

 グィン!

「プギャ!」「キャ!」

「おお、すまん」

「もう、急にハンドル切らないでよ!」

「近道を逃してしまいそうだったからな」

「え、こっちってカルデラ出ちゃうよ」

 ピタゴラスは直径130キロのクレーターで、外への出入りは飛行能力が無い限り12カ所のトンネルかカルデラ越えの山道を通るしかない。

「3号トンネルの外に軍の実験プラントがあるんだ。マス桜の固有種もあるし、なによりほかの人間が居ないからな」

「おお、絶景なのよしゃ!」

 ピタゴラスは他のクレーターのようにお皿のような底面ではなくて、すり鉢状になっている。中腹の3号トンネルまでは九十九折れになっていて景色がいい。

 ダッシュもわたしも、月には任務で来ていて、たまの休日は、せいぜい買い物をする程度。

 移動途中とは言え、友だち三人でつかの間のサイトシーングするのは面白い。

 特に観光ルート化されているわけでもなく、10分ほど「おお!」「うわあ!」「しゅごい!」と言ってるうちにトンネルに突入した。

 

 トンネルを抜けて見えてきたプラントは東京ドームほどの大きさで、雰囲気が扶桑城の御庭に似ている。ほら、上様が実験的に品種改良なさっているプライベートガーデン。

 

「ほら、あれがマス桜だ」

「「おお!」」

 満開ちょっと前、まだ花びらが散ることもなく、木にも花にも勢いがある。

「ピタゴラス公園は数は多いけど、こんなのは無いよね」

「大きさ的にはあるんだろうけど、色や勢いでは、こっちの方だろ」

「これも上様の品種改良なのかにゃ?」

「栽培方法が違うんだそうだ」

「でも、日照とかはどうしてるの、オートソレイユ(太陽灯)とかは無さそうだけど?」

 月は自転周期が27日、つまり夜が27日も続くわけで、オートソレイユが無ければドームの中でも植物は育たない。

「ソレイユはこの真上」

「「え?」」

「静止衛星が三つ上がっていて、夜間は衛星を経由して太陽光が降り注ぐ」

「なるほど……でも、衛星でそこまで賄えるの?」

「あ、パルスギ使ってるにゃあ?」

「ああ、パルスギは生成エネルギー量もすごいが、蓄光量も桁外れで、衛星一個分の蓄光でこれくらいのドームプラントを賄える」

「あ、しょれって……」

「ああ、テルのパルスチャージの応用らしいぞ」

「お、おお……テルってしゅごいのよさ! 褒めていいじょ!」

 パチパチパチ

「ハハハ、なんかショボくて悪いな(^_^;)」

「ううん、友だちに認めてもらえるのがいちばんなのよさ(n*´ω`*n)」

「そうだな、これでヒコが居たら同窓会だな」

「ヒコ、まだ隠密課?」

「あ、えとにゃ……」

 テルが言い淀む。

 仕方がない、隠密課というのは、幕府の機密を扱うセクションで、ここに配属されると身内であっても連絡が取れない。

「今は南町奉行所にいるにゃ」

「え、なんかやったの?」

 ヒコは、若年寄穴山新右衛門の息子で、わたしたち同期の中でも主席の成績。

 親の七光りが通用するような幕府じゃないけど(老中の孫娘がパスカルの診療所で働かされてるのでも分かるでしょ!)毛並みの良さと才能に恵まれて、おまけに人柄もいい。隠密課で機密のイロハを学んだあとは外国奉行か勘定奉行所あたりでエリ-トコースの階段を上って行くと思っていた。

 隠密課から町奉行所に行くなんて、ハッキリ言って左遷!

「でも、年番方とか吟味方(裁判官)かなんかだろ?」

 ダッシュでも、そう思う。せめて、町奉行所のエリートではあるだろう。

「定廻同心(じょうまわりどうしん)にゃ」

「え、平同心なの!?」

「えと……ここだけの話にゃ」

「「う、うん」」

「ココちゃん(心子内親王)がにゃ現場の仕事がしたいってにゃ……」

「「あ、ああ……」」

 聞かずとも分かる。

 ココちゃんは、宗主国日本からの大事な預かりもの(絶対内緒だけど)。でも、扶桑に来て四年。あの性格から言っても、いつまでもお客様扱いの資料整理係りじゃ収まらないだろう。

 それで、民政最前線の町奉行所。扶桑は火星の中では最も安定した国だけど、民政の最前線まで下りてくるといろいろある。お姫様一人にはしておけないものねぇ。

「上様は、じゅっと先を観てるにゃ」

「ずっと……」

「先……」

「パルスギはエネルギー革命にゃ、まだ周辺のぎじゅちゅが追いつかにゃいけど、そのうちに人類は光のしょくどを超えて太陽系を飛び出すにゃ。銀河の時代になるにゃ。上さまは、その銀河の時代に立ち向かえる人材や指導者の養成に力を入れはじめたにゃ」

「そうなんだ……」

「よし、今度は、扶桑の飛鳥山で、みんな揃って花見をしようぜ。そのころにゃ、上様も、もっとすごい桜を作ってるかもしれないしな」

「再来年くらいかにゃ?」

「アハハ、テルはせっかちだなぁ」

「いや、分かんねえぞ。テルの頭の中には何が入ってるか分かんねえからなあ」

「あ、もう、あたまクシャクシャはなしにゃあ!」

「アハハ……」

『親子みたい!』という言葉が出てきそうになったけど抑えた。

 修学旅行に行ったころは、こういうじゃれ合いを見て『年の離れた兄妹みたい』と続いたんだ。

 あのころと全然変わらないテル。

 ちょっとずつ大人になっていく私たち。

 テルは……と思って、考えるのを止めた。

 

 見上げるとマス桜の上、ドームを通して星が流れるのが見えた。

 むろん願い事をする暇もなかった。

 

☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス

 

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RE・かの世界この世界:168『ほとんど元の世界』

2023-07-25 06:18:07 | 時かける少女

RE・

168『ほとんど元の世界』光子 

 

 

 

 学校の中を一通りまわってみた。

 

 そんなに居るわけじゃないけど、友だちにも声をかけたり視線を向けたり。

 みんな返事をしてくれる、手を振ってくれる、笑ってくれる、ピースしてくれる。

 冴子が他人になってしまった以外は何も変わっていないように感じる。

 クラスの友だちも普通に話しかけてくれるし、席に戻って五時間目の教科書を出すと、表紙の隅に憶えのあるシミがちゃんとついている。

 黒板に目を向けると……今日は日直だ。

 

 そうだ、日直だった。

 

 日直の最大の仕事は黒板を消すことだ。

 改めて確認すると、四時間目の板書はきれいに消してある。

 相棒の戸倉さんがやってくれたんだ。

「ごめん、戸倉さん、ボーっとしてて日直忘れてた(^_^;)」

「いいわよ、寺井さん考え事してたみたいだったし」

「え、あ、ちょっとね(^_^;)」

「よかったら、学級日誌とってきてくれる? ちょっと担任には会いにくくって」

 そう言うと、戸倉さんは手元のプリントに視線を落とす。

 プリントは進路希望調査票だ。文系・理系・就職・その他の四択の欄は白紙のまんま。提出期限は二日前。

「任しといて」

「ありがと(^▽^)」

 事情を察して職員室に向かう。

 うちの学校は規模の割に職員室が狭い。

 半分くらいの先生が担任をやっていても準備室などに籠っている。連携の悪い学校だと思うんだけど、それで回っているんだから、まあいい。そんな中でもうちの担任は朝から職員室に居る。ちゃんとした先生なんだ。でも、戸倉さんは、そういうのが苦手なんだ。

「おう、寺井、ちょっと」

 日誌をとって「失礼しました」を言おうとしたら担任に呼び止められる。

「はい、なんでしょうか?」

「進路希望なんだけど」

「はい」

「『その他の選択』はいいんだけど、異世界・勇者というのはなんだ?」


「え……あ……(;゜Д゜)」


「なにかのナゾか?」

「あ、ラノベとか読んでたんで、ちょっとボーっとしていて」

「ラノベもいいけど、勉強もな。揺れる気持ちは分かるけど、元々は文学部志望なんだろ寺井」

「え、あ、はい」

「基本的な文学作品読まないと、大学じゃ試験対策の小手先ばっかりで四年間過ぎるぞ。『その他の選択』で揺れてないで、シャンと前を……」

「先生、これ! あ、ごめん、寺井さん」

 隣の金沢先生がスマホを手に割り込む。金沢先生は冴子の担任だ。

「うちの冴子が、見てください!」

「お、二宮……受賞したんですか!?」

「はい、高校生じゃ初めての吉野屋文学賞ですよ!」

「すごいなあ……」「え、どれどれ?」「わあ!」「ほんとだ!」

 目を丸くしてスマホを囲む先生たち。
 
 チラっと見えた画面には――大賞『犬のまほろば猫の高天原・二宮冴子』――の文字が他の受賞作を圧倒していた。

 そうだ、ファンタジー手当たり次第のわたしと違って、冴子は日本の古典専門だった。

「書き直します……」

「お、おお……」

 先生の生返事を背に教室に戻り、戸倉さんに「わたし書いとくから」と学級日誌を示して中庭に向かった。

 ここは、ほとんど元の世界だ。冴子が他人だと言うことを除いて、とても穏やかな感じ。この分だと、ヤックンともうまくいってるような気がする。ヤックンと言う名前を思い浮かべても、穏やかに温もって、胸を刺すような痛みは起こらないもの。

 それに、冴子は単なるラノベ好きを超え、オタクの殻を割って文学の階段を上り始めている。

 ラノベ好きと文学まっしぐら、似てるようで全然違う。

 冴子との間に波風が立つこともないだろう。

 いっそ、ここに留まれば……という気持ちもしないではないけど、わたしは数分花壇を前に立ち止まり。そして、空を仰ぐと部室に向かった。

 

☆ ステータス

 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・300 マップ:14 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾

☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

    テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官  ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官  ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 ナフタリン       ユグドラシルのメッセンジャー族ラタトスクの生き残り
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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