大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・96『世田谷ボロ市』

2024-12-16 16:21:07 | 小説3
くノ一その一今のうち
96『世田谷ボロ市』そのいち 




 まあやと二人で『世田谷ボロ市』に来ている。


 ロケ先が京王線沿いだったので、そのまま電車に乗って下高井戸で世田谷線に乗り換え四つ目の上町で降りる。

「うわぁ、けっこうな人だねぇ」

 ロケ先もけっこう賑やかなショッピングモールだったんだけど、この売れっ子女優は改まって驚く。

「え、おかしい?」

「ううん」

「ウソ、いま笑ったでしょ」

「いや、そんなことは……(^_^;)」

 明けて三年の付き合いになるまあやに嘘は通じない。

「いや、無邪気に驚いてるからさ」

「だって、仕事はさ、体力も気力も本番にとっておかなきゃだからさ」

「なるほどぉ」

 追及はしない。ペース配分を覚えたってことで、スルーしておく。

「すごいねぇ、この人波が上町まで続いてるんでしょ。2キロぐらいかなあ」

「そうねえ、直線だと1キロほどだけど、枝道にも出店が出てるから、合わせたらそれぐらいあるかもね」

「渋谷とかアキバは、人も店もすごいけど、なんだろ、このボロ市がすごいと思うのはさ」

「400年、いや450年の歴史だろうねぇ、始まりは戦国時代の楽市だっていうからねぇ」

「450年かあ……」

 遠い目をするまあや。

 450年前、まやのご先祖の秀吉はまだ織田家の家臣で、苗字を木下から羽柴に切り替えたころだ。

「ソノッチは知ってるよね、羽柴の苗字の由来?」

「うん、丹羽長秀と柴田勝家の苗字から一字ずつもらってつけたんだよね」

「うん、信長さんは大笑いして、丹羽も柴田も苦笑いして喜んだんだよね」

「苗字をゴマすりの種にするなんて思いつかないよね、ふつう」

「豊臣って、元来は平和主義なんだ……」

「そうだね」

 現代の豊臣家は、秀頼の子や孫の代で分裂して二十代あまり。木下家と鈴木家に分かれたまま対立している。草原の国のクーデター騒ぎが頓挫して最悪の事態になることは避けられた。今は停戦状態だけども両家が存亡をかけた対立状態にある。そのことに、この豊臣家嫡流(木下の方も自分こそと思ってる)のお姫さまは心を痛めている。

『よう、ソノッチじゃねえか!』

 人ごみの中から声が上がったかと思うと、古本屋の親父だ。

「え、忍冬堂さんも出店してるんですか!?」

「ああ、モチよ。世田谷が北条の領地だったころから店は出してる。楽市ってのは忍びにとって大事な情報源だからなあ」

 人が聞いたら、忍者オタクの痛い話だと思うだろうけど、この忍冬堂は百地流忍術使いの上忍の家系らしい。

「こっちは、今を時めく――鈴木まあや(声を潜めてる)――のお忍びだな」

「アハハ、別に忍んでませんよ(^_^;)」

「そうだ、社長から言付かってたんだ」

「え、うちの社長?」

「ああ、代官所の手前に神棚の出店出してるジジイがいるから、そこで神棚もらってくるようにって。お代は済んでるはずで『甘味喫茶とどろき』っていや分かるってさ」

「あ、うん。ありがとう」

 お礼を言って人波に戻る。渋谷とかとは違って年配の人が多い。といってもとげぬき地蔵ほどではなくて赤パンツを売っているような出店は無い。

「神棚って?」

「ああ、去年、お店の近くの木が倒れて、その衝撃で神棚が落っこちたままなの……でも言付かっていたって……」

「フフ、読まれてるわね( ´艸`)」

 ウウ、油断がならない。

「あら、いい匂い」

「あ、代官餅!」

 代官餅のお店を見つけ、まずは腹ごしらえ。神棚なんか持ったらお店に入れないからね。

 まあやはきな粉餅、わたしは大根おろしのを買って半分こ。

「できたてだから、アツアツ……」

 二人でフーフーやりながら、お茶まで頂いて、アンコのもおいしそうなんで、それも買ってしまう。

「ウウ、ボロ市450年の味がするぅ~」

「そうだね~」

 機嫌よく食べたけど、スマホで検索したら意外と新しく昭和50年からだとあった。まあ、美味しければなんでもいい!

「あ、手作りアクセ!」

 間口一間くらいのところで、オッサンが器用に真鍮線を曲げてアクセの実演販売をやっている。

 この手のやつは、あちこちでやってるけど、ボロ市でやってるのは微妙に場違いで、かえって面白い。

「オーダーメイドもやりますよぉ、八文字以内なら税込み1000円ですぐにできますよぉ」

 オッサンが意外に若やいだ声で宣伝しながら、ラジペンをクネクネ、あっという間に一個こしらえて女の子に渡した。

「うわぁ、かわいい!」

「「…………たしかに」」

 たしかに、アルファベットのくねらせ方が独特で、ちょっとイカシてる。

 で、オッサンの策略に乗って、SonoichiとMayaのアクセを頼んでしまう。

「ちょうど100番目のお客さんなんでオマケです」

 そう言ってデザインリングをくれた。

「「おお!」」

 喜んだんだけど、一個だけだからどうしようかと思う。

「あ、それ、トワエモアなんですよ」

「トワエモア!」

 まあやは喜ぶけど、わたしはお祖母ちゃんが口ずさむ「あ~る日とつぜん……」という歌い出しの懐メロしか出てこない。

「そこを捻ってもらうと……」

「「おお……」」

 それまで五弁の花だったのが二つに分かれて、別々の指輪になった!

「いいんですか、こんなに手の込んだものを」

 まあやはゆかしい子だよ(^_^;)

「ほんの手すさびです」

「ありがとう」「大事にしますね」

 二人で一人前の返事をして、代官所前に。

 場所を聞いていなかったらぜったい見つけられなかった出店からブツを受け取って代官所を横目に殺して世田谷駅に急いで、とりあえずはタクシーを拾って等々力の店に戻る。

 等々力渓谷は倒木や落石があって、その調査と復旧工事で遊歩道が閉鎖されて、店もほとんど開店休業。来年には調査や復旧工事も終わって再開できそう。

 それで、それまでは、まあやの付き人兼友人。少しはピンの仕事とかもね。

 来年は、ちょっと波乱の気配……いや、考えたら本当になってしまうかも。

 だから、もうしばらくはノホホン少女。

 春には活動再開の予感。では、またいずれ……。


☆彡 主な登場人物
  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
  • ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
  • アデリヤ         高原の国第一王女
  • サマル          B国皇太子 アデリヤの従兄
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くノ一その一今のうち・95『等々力渓谷』

2024-01-24 13:52:16 | 小説3
くノ一その一今のうち
95『等々力渓谷』そのいち 




 え……卒業?


「うん、三年生は先週で授業が終わって、あとは卒業式だけだからな」

 嫁持ちさんが、わたしの姿形で言う。

「明日は学年末テストの最終日だけど、自分で行くか?」

「そ、それは……」

 三年生になってからは半分も学校に行けてないし、定期考査は一度も受けていない。
 それが、学年末テストの最終日のテスト受けて何になる!
 忍びの術は格段に上がったけど、学校の勉強はサッパリ。

 任務に就いている間は、主に嫁持ちさんがわたしに化けて学校に行ってくれていた。
 正直クラスメートともほとんど付き合いもない。クラスメートで一番喋ったのは、交換留学生の触れ込みで学校に潜り込んでいたランツクネヒト(傭兵)のミッヒなんだから話にならない。

 で、嫁持ちさんが高校生活最後のテストを受けに行って、わたしのJK生活は幕を閉じた。

 わたしの青春を返せぇ!

 叫べるほど思い入れはないし、致し方ない(-_-;)


「吠えよ剣の続投決まったよ!」

 撮影所に行くと、まあやが目を輝かせて飛びついてきた。

「え?」

 こっちも百地組の先輩たちがわたしに化けて付き人兼キャストをやってくれていたのでノープロブレムなんだけど、まあやの様子が、ちょっと変。

 なんだか、めちゃくちゃ懐かしそうだし、ドラマの続投なら先輩たちが聞いているから風魔そのとしては知っているはず(わたしは聞いていなかったけどね)。それが、初めてッぽく、かつメチャクチャ懐かしそうに言うのは変だ。

「あ……もう気が付いてたよわたし」

「え?」

「百地社長が化けてたのは、ちょっと不自然だったしぃ……でね『本物はどこですか?』って聞いたら、ぜんぶ教えてくれた」

「え、ええ! そうなのぉ!?」

「でもでも、撮影所の人たちは誰も知らないからね、その点は大丈夫。三村さんだって知らなかったからねえ」

 アハハ……作者の三村紘一こそは服部半三って実は課長代理の親玉だからねえ……言わないけど。

「でねでね、千葉さなは明治になっても生きてたからね、明治編で続くんだって!」

 取りあえずは、飯の種には困ら無さそうなので一安心。


「明日からは等々力勤務だ」

 その親玉に命じられた。

「等々力は等々力百人同心の本拠地だ、心して働け」

「え、えと、等々力のどこに行けばいいんでしょうか?」

「東急等々力駅下車、西へすぐの等々力渓谷。そこにある甘味処だ、百地が徳川の姓を許されて以来、その甘味処、昔は茶屋だったが、そこが百人衆の会所になっている。そこに詰めていろ」

「は、はい(;'∀')」

 目力の強さに、それ以上は聞けずに等々力へ出発。

 秘密組織の女子スナイパーが日ごろは喫茶店のウェイトレスやってるアニメがたあけど、そんな感じかなあ……と等々力の駅を降りる。

 西に進むと、神社の森みたいなのが見えてきて進んで行くと、驚いた。

 森みたいなのの下は大きな谷になっていて、木々がワッサカと繁茂して、それがずっと続いている。看板と案内板があって『等々力渓谷公園』とある。

 谷だと言われてもビックリするのに渓谷、渓谷というのは山の中にこそ相応しいもので、日本アルプスとか箱根の山とか、東京なら奥多摩にでも行かなければそぐわない名前。じっさい眼下に広がっているのは幅で二十メートル、深さは十メートルはあろうかという大渓谷。
 振り返ってみると、うちの近所にもありそうな二車線の道路と街並み。すぐむこうは目黒通りで、車がビュンビュン走っている。

 鉄道模型のジオラマがこんな感じ、狭いスペースに山やら街やらを作りこむので、真逆の景色が隣り合っていたりする。

 そういうジオラマか夢の中に潜っていくような気がする。

 谷への石段を下りると、それまでの「小春日和」が「やっぱり冬」に変わる。

 地図と案内板を頼りに、左岸を行ったり右岸を歩いたり。

 五分ほど行ったところで『甘味喫茶とどろき→』の看板。

 二メートルほどの石段を上ると『吠えよ剣』のセットに出てきそうな古寂びた、でも学食ほどの大きさのお店。

「本社からやってきました、風間です」

 ガラス戸を開けて名乗りを上げる。

 はいぃ、ただいまぁ……

 奥の方から声がして、カラコロと下駄の音をさせて現れた女性にびっくりした。


 え、お祖母ちゃん!?


 くノ一そのの第二章が始まった。



 第一章 完

 

☆彡 主な登場人物
  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
  • ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
  • アデリヤ         高原の国第一王女
  • サマル          B国皇太子 アデリヤの従兄


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くノ一その一今のうち・94『月が綺麗だぞ』

2024-01-18 10:43:58 | 小説3
くノ一その一今のうち
94『月が綺麗だぞ』そのいち 




 ――月が綺麗だぞ――


 いきなり思念が飛び込んできた……動けない。


 姿も気配も完ぺきに隠していた。

 実戦では多田さんにも敵わない。まして、その棟梁の猿飛佐助には勝てない。これまでにも何度かぶつかったことはあるけど、勝負にならなかった。

 でも、手出しをせずに見ているだけなら気づかれることは無い。

 これでも風魔流の統帥なんだ、自分の力量は分かっている。

――そこはな、ムクドリの休憩場所なんだ。その休憩場所にムクドリの気配がない。ということは、そこに誰かが居る。すっかり気配を消していたんだろうけど、今ので動揺して気配が漏れてソノッチだと分かったぞ――

 ク……そういうことか。

 立ち上がると最短距離で佐助の横に座る。

「大胆だな」

「見つかってしまったのなら、少しばかりの距離を置いても同じですから」

「そうだな、的確な判断だ」

「どうしたんですか?」

「満月と云うのは魂の道しるべという言い伝えがある。星々でもしるべにはなるんだがな、満月は星の何十倍も明らかに死者の魂を冥界に誘ってくれる」

「はあ……」

「太閤殿下が身罷られた時はあいにくの曇り空で、月はおろか星も出ていなかったという……太閤殿下の御霊は、往生できずに淀の方様に憑りついて豊臣の家の行方を誤ったと言われている」

「そうなんですか?」

「どうだ、月をしるべに飛んで行く魂が見えないか?」

「え?」

 何を言ってるんだ、昼間の戦闘で命を落とした者たちのことか? いや、佐助は人の死にいちいち感傷を抱くような男ではない……!?

 ハッとして俯せている王子の方に目がいく。

「王子は眠らせてある、動揺が激しいんでな」

「?」

「国王が死んだ」

「え……ええ!?」

「腹上死だ」

「フクジョウシ……?」

『愛し合っているうちに突然死することですッ』

「え(#'∀'#)」

 えいちゃんが教えてくれて、あたしは狼狽えて佐助は声を出さずに笑った。

「ノッチ、お前はいい助手をもったな」

 しまった。

「王子に全権を握らせるために、国王は好きにさせていた。王子については十分すぎるほどに気を付けていた。必要な時は、こんな風に俺が代役をやっていたしな。しかし、親父の国王はノーマークだった。まだ52歳だし、健康には何の問題も無かったしな……草原の国は戦争どころでは無くなってしまった」

「どうするんですか?」

「国王の死は伏せてあるが、じきに知れてしまう。医者と側室には『極秘』を言い渡してあるがな、どこまでもつか……しばらくは混乱が続く。我々は当分手を引く」

「え、そうですか」

「おまえ……」

「はい?」

「こういう時でもタメ口にならないんだな」

「え、あ……」

「忍びにあるまじき美点だ」

「はあ」

「褒めてるんだぞ」

「ども……あの……」

「なんだ」

「素朴な質問なんですが、どうして国王に化けなかったんですか? 最高権力者は国王なんだから、国王に化けた方が確実じゃないですか?」

「アハハハ(ᵔᗜᵔ*) 」

「なんで笑うんですかぁ!?」

「まあ、しっかりやれ、俺たちが次の手を考えるまではな」


 ほんの一瞬月が陰ったかと思うと佐助の姿はかき消えていた。

 

☆彡 主な登場人物
  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
  • ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
  • アデリヤ         高原の国第一王女
  • サマル          B国皇太子 アデリヤの従兄

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くノ一その一今のうち・93『奥つ城』

2024-01-11 12:15:16 | 小説3
くノ一その一今のうち
93『奥つ城』そのいち 




 忍者に教範とか教科書めいたものはないけど、もし教範を作って『忍者の基本姿勢』というページがあったら、忍者の待機姿勢の見本に使えそう。

 そんな感じで蹲っている多田さんだけど、次の行動が読めない。

 重心の位置、筋肉の緊張、そして滲み出るオーラ、そういったもので七割がたの予測はつく。
 しかし、トラスの重なりの向こうの多田さんには、そう言うものはない。
 
 ひょっとしたら傀儡(人形)かと疑うほどだ。

 深夜に田舎の道を走っていると、急に警察官が見えることがある。本物じゃない。長方形のパネルに蛍光塗料でひしゃげたL字が描かれている。それが夜道では警察官の帯革に見えるのだ。お祖母ちゃんは「忍者の知恵だ」と言っていた。その類かと思った。

 思った瞬間、わずかに笑って多田さんは姿を消した。

 ……もう、多田さんが姿を現すことは無いような気がした。

 
 外周警備本部の屋根裏を抜けて奥つ城に向かう。


 ついさっきまで内城の街を歩き、その直前には外城の外も一周した。えいちゃんが観察した上空からの情報も頭に入っている。
 
『カメラの位置は、あそこと、あそこと……』

 えいちゃんが監視カメラの位置を教えてくれて、避けられるものは避け、避けきれないカメラには目つぶしをかける。

 奥の方で人の出入り、警備の厳重なところを見ると作戦指導の施設。独裁国家だから、統帥権は国王、実質は王子が握っている。その王子は猿飛佐助が化けているか、あるいは傀儡にしている。

 機甲旅団の不始末はとっくに知られて当面の対策はとられている。外周警備本部は、機甲旅団の生き残りの収容と警備の強化に忙しくしていたしね。

 城内の街にも混乱の様子は無かったし、内城もアンテナが立っているエリアを除いては落ち着いている。
 
 作戦の失敗というイレギュラーな状況でも、いたずらに混乱させない。

 さすがに中央アジアに覇を唱えようとする国だ。

 王子の指揮能力、人心収攬の技はなかなかのものだ。
 
 堀を超え宮殿奥の王子執務室、ドアの前に警備兵が二名小銃を持って立っている。

 小さな石ころを拾って壁に当てる。

 チャリ

 二人とも小銃を構えて音のした壁に寄っていく。

『中に王子はいませんね』

 えいちゃんの言う通りだ、こういう場合、最低でも一人はドアに張り付いて動かないのが警備のセオリーだ。

 このエリアの概要を思い浮かべる。

 建物の向こう、外とは二重の塀で隔てられた庭がある。おそらくは、執務に疲れた王子が休憩をとるためのプライベート庭園だ。

 多分、そこだ。

 プライベート庭園といっても小学校のグラウンドほどの広さに明治神宮にありそうなたくましい木々があって、その中ほどに二つの四阿(あずまや)と温室がある。

 目を凝らすと、四阿のベンチで王子が居眠っている。

 作戦指導に疲れて、しばしの微睡……のように見える。

 しかし違う。

 四阿の裏には、もう一人の王子が月を愛でるように顔を上げているのだ。

 ちょっとシュール。

 
☆彡 主な登場人物
  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
  • ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
  • アデリヤ         高原の国第一王女
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くノ一その一今のうち・92『桔梗の決意』

2024-01-03 12:06:42 | 小説3
くノ一その一今のうち
92『桔梗の決意』桔梗 



 大層な賑わいだ。


 内郭と外殻を分ける城壁、その上にいくつかある物見櫓の中で思う。

 皇居で言えば、二重橋の奥にある富士見櫓にあたる。

 眼下には商業区域、居住区域、そして、その混在区域が広がっている。

 東京で言えば丸の内に当るのだろうが、丸の内よりも広く、猥雑雑多な気に満ちている。長大な城壁に囲まれているせいだろうか、街行く車や店や人々のさんざめきが、煮え立つ鍋の底のように沸き立っている。

 ついさっきまで、横で居眠っているミッヒといっしょに街を歩いてきた。

 自分の目と耳と肌感覚で草原の国の鼎の重さを測っている。

 
 草原の国をぶちのめすという大目的に変わりはない。


 高原の国をはじめ、周辺の国々を蹂躙してきた草の国を放っておくことはできない。まして背後には我々の宿敵である木下豊臣家が付いている。

 木下豊臣家は世界征服、控え目に見ても東アジアの四半分ほどを手中に収めようとしている。地理的にはロシアと中国の中ほどに楔を打つように進出しようとしている。
 やがては、それを背景に日本を木下豊臣家のものにしようと画策しているのだ。

 少し前までは、草の国にも期待を寄せていた。上忍である社長自らが下忍を引き連れて草の王子救出を図ったが、囚われの王子は猿飛佐助が化けたものだった。

 つまりは、そこまで木下豊臣家の浸透が進んでいる。

――もう、王家共々滅ぼしてしまわなければ鈴木豊臣家にも等々力百人衆の末裔たる徳川物産にも明日は無い――

 しかし、王家そのものを倒してしまったら、この眼下に広がる草の国の人たちはどうなるのだ。経済的にも文化的にも草の国は大きな経済圏文化圏の中心の一つなんだ。生かすにしろ殺すにしろ、高原の国やA国B国、その他の中央アジアの国々も巻き込んでしまう。おそらくは混乱の末に南北の大国に呑み込まれてしまうだろう。

 
 よし、まずは見極めるか。


 決意すると、足もとのドイツ人も目を覚ました。

「決心がついたようだな」

「ああ、中忍の分際を超えるが、王子を見極めるところからやる」

「そうだな、できることなら、ソノッチに修羅場は踏ませない方がいい」

「ノッチに気付いていたのか?」

「ああ、さっき街で見かけただろう……いまは、北側ヤードの天井裏で敵とにらみ合っているようだがな」

「……いくぞ」

「Alles ist gut !」

「横文字で返事するな」

「桔梗さん schnuckelig! 」

「かわいい言うなぁ!」

 
☆彡 主な登場人物
  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
  • ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
  • アデリヤ         高原の国第一王女
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くノ一その一今のうち・91『敵の心意気』

2023-12-27 10:25:34 | 小説3
くノ一その一今のうち
91『敵の心意気』そのいち 




 機甲部隊の生き残りを確認する。

 ほぼ壊滅させたと思うんだけど、実際にこの目で見ておきたい。

 敵味方にかかわらず、状況をハッキリつかんでおくことが忍びの基本だ。

 街の西部、皇居で言うと半蔵門あたり。城郭都市から張り出すような一画がある。半蔵門で例えれば警視庁、おそらくは外周警備本部。その車だまりの屋根裏に身を潜める。


『……銃撃の痕はわずかです、衝突やこすった傷ばかりですね』


 えいちゃんが先に分析。

 敵の混乱は、上空から投げつけられた風魔流癇癪玉(めちゃくちゃ煙が出る)と、ちょうどタイミングよくアデリヤ王女が逃走しながら車載機銃を撃ってくれた合わせ技によるものだ。

『僥倖だったようですね』

「ギョウコウ?」

『偶然が重なってうまくいったということです』

「あ、そか」

 えいちゃんは昭和五年ごろの女優の卵だ、ときどき言葉が難しい。

 しかし、意味は分かる。たまたま上手く行ったことでことで調子にのったら痛い目に遭うという戒めだ。


――車両の被害は大きいが、兵の損失はそれほどでもない――

 魔石がほんのりと熱を持って、敵の隊長の声が頭に飛び込んでくる。

――敵は調子づいて仕掛けてくるかもしれない。兵たちが戻って来るのは明日の昼頃になるだろう、それまでは警戒を厳にするように――

――了解しました、王子殿下に連絡します――

――いや、自分で進言する。貴様は警備司令として持ち場の警備に務めてくれ――

――イエッサー、非番の者に非常呼集をかけろ!――


 敵ながら対応が早い、いつもならこれから警戒が厳重になる敵の本拠地に飛び込んだりはしないけど、まだまだ危機が遠のいたわけではない。

 とっくに手足の指の先、下忍の分際を超えている。

 だけど、ここが高原の国と草原の国、二つ国の運命の分かれ道。そして、木下豊臣にとっても野望の胸突き八丁だろう。

 胸の魔石も熱を持ったままだ。

「行くよ!」

『承知!』

 えいちゃんも忍者風に返事をしてくれ、敵の本丸を目指すべく身を翻した。

 スタ……

 トラス(骨組み)の横桁に跳んだところで動けなくなった。

 幾重にもトラスが重なった向こうに……多田さんが蹲っていた。

 

☆彡 主な登場人物
  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
  • ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
  • アデリヤ         高原の国第一王女
  • サマル          B国皇太子 アデリヤの従兄
 
 

 
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くノ一その一今のうち・90『潜入城塞都市』

2023-12-21 11:52:49 | 小説3
くノ一その一今のうち
90『潜入城塞都市』そのいち 



 日干し煉瓦の家や店舗、少しは鉄筋らしいのも混じっているけど、ちょっと見すぼらしい。
 しかし、商業地区らしい活気はあって、道路というか通路というかは微妙にうねっていて、でたらめに紐やら電線やらケーブルやらに商品や看板や洗濯物がぶら下がり、道路というか通路というかには商品やゴミ袋が我がままに場所を占め、年末特番の障害物競走をやるのにいいロケーション。住民や買い物客は慣れていて、よそ見したりお喋りしながら器用に行きかっている。
 
 お祖母ちゃんが子どもの頃、曽祖母ちゃんの手伝いで走り回っていた闇市というのは、こんな感じだったのかもしれない。

『区角割りされてるようですね……』

 スカーフに化けたえいちゃんが耳もとで呟く。

 高さ3mほどの壁が家や店の間から覗いている。壁のところまで行ってみると、所どころに正規のものやそうではない出入り口があって、人も犬も自由に行き来している。

 壁を抜けると車が通れる道、道を挟んで商業地と住宅地が混在していて、その向こうには多少の低層の鉄筋コンクリート。多少というかまばらなのは、商業地区同様に古い町並みを抱えているからだと思われる。

 皇居と丸の内を合わせたよりも大きな城塞都市だけども、ちょっと手狭。

 街の活気は、育ち盛りの子どものよう。子どもが、お下がりの服や靴が窮屈で、陽気に身もだえしているみたいだ。

 町を一巡して道路に戻って北に目を向けると、他の地区とは異なる城壁。城壁の向こうにはお伽の国のような宮殿が聳えている。

『長瀬の街に似ています』

 ああ、長瀬も駅から商店街が伸びていて、どん詰まりには西洋の城郭を思わせる大学の楼門が聳えている。

 しかし、向こうに聳えているのは日本の平和な学問の府などではない。

 実力で中央アジアの国々を従わせようという悪の城だ。

『見てください、あれを』

 えいちゃんに促されて目を向けると、夜間仕様になったプロジェクターが通りの広告や商店の明るさを圧倒していた。


 新首都建設!


 英語と現地語のタイトルが浮かび出て、数秒で別の標語に入れ替わる。

 中央アジア国家連合建設!

 続いて滲み出てきた地図はA・B・C・D四か国を間に挟み高原の国をも含んだものだ。

 そして、新首都として明滅しているのは、いまの高原の国の都だ!

 オオ! すごい! さすが! やるもんだ! ついにきたんだ! 待ってました! 大同団結! 盟主は草原の国だ! 我らが草の国だ!

 いろんな賛辞が飛び交って拍手が起こった。

 草原の国の国民は、国家連合が出来て、そこの盟主に自分たちの国王が収まると思っている。そして、それがそれこそが正義であると高揚しているんだ。

『……ノッチ、街の外に車の気配……軍用車両です』

 えいちゃんの感覚はさらに研ぎ澄まされたようで、わたしよりも先に気が付いた。

――見に行こう――

 裏通りを駆け抜けて東側の城壁に上る。


 グゴゴゴゴ……


 数両の戦車と兵員輸送車が城壁に沿って走っている。

『あの時の生き残りですね』

 わたしとえいちゃんとで混乱に陥れた機甲部隊の生き残りが帰ってきたんだ。

『北側に出入り口があるようですね』

「よし、行ってみよう!」

 もう少し街の様子を探りたかったけど、忍者の勘は――さらに奥に進め――と言っていた。

 魔石も再び熱を帯びてきた。警告か鼓舞か、わたしは忍者の勘に従った。

 

☆彡 主な登場人物
  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
  • ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
  • アデリヤ         高原の国第一王女
  • サマル          B国皇太子 アデリヤの従兄
 

 

 
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くノ一その一今のうち・89『再び草原の国』

2023-12-16 06:15:08 | 小説3
くノ一その一今のうち
89『再び草原の国』そのいち 


 散らばった破片に見覚えがある。


 以前、米軍の輸送機で草原の国に潜入した時に戦った跡だ。

 破片の向こうに城壁が聳えている。

 大きい!

 以前来た時は、城外で戦っただけで、中に入ることはしなかった。

 あの時は月も半ば雲間に隠れ、城壁は篝のある正面がぼんやり浮かぶ程度で、その果てまでは見通せなかった。
 作戦の目的は王子の奪還であり、やっと奪い還した王子は猿飛佐助が化けていたものだった。正体を現した佐助と城外で戦った、その時の跡が片づけられることも無く、そのままになっている(32『王子を逃がす』33『猿飛佐助の陰謀』)

 あの戦いは、おそらくは時間稼ぎ。そして、鈴木豊臣家への警告。

 あるいはブラフ。

 すでに敵は高原の国への工作には失敗している。

 B国の同時多発の爆破には成功しているけど、機甲旅団は壊滅させた。

 テストの点数で言えば30点。赤点のオンパレードで追試験。

 しかし、城壁の外から伺う限り、このまま赤点を認める風もなく、来たらば来たれと待ち受けている様子。

 ようし、赤点を確定させてやる!

 下忍には過ぎた判断かもしれないけれど、高原の国への攻撃を断念させるという命令は生きている。

 取りあえず潜入、懐の鉤爪に手を伸ばす。

『空から行きましょう!』

 魔石を包んでいるえいちゃんが力強く提案する。

「空から?」

『はい、ちょっと自信がつきました。空からの偵察にも慣れました、機甲旅団も空から攻撃できましたし、ソノッチ一人ぐらいなら城内に運べると思います!』

「そうか、じゃあ……」

 すぐにその場から飛び立つようなことはしない。

 姿勢を低くし、岩や灌木の陰を拾いながら城の西側に周る。とっくに太陽は西に傾いているので、太陽を背に侵入するには西側に出なければならないのだ。

 長い……皇居は東西方向に、永田町―桜田門―日比谷と地下鉄で二駅分、1.5キロほどだけど、この草原の城は優に2キロ四方、それ以上はありそうだ。

 ようやく南東の櫓が見えて城の西側。

 300mほど走ると、城壁の向こう側にさんざめきや車の音、陽気な呼び込みの声やらがしはじめて……どうやら西側は商業地域のようだ。

 よし!

 えいちゃんを西風に載せ、わたしは、軽く地面を蹴った。

 グーーン

 太陽を背に、無事に西の城壁を超えた……

 
☆彡 主な登場人物
  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
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  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
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くノ一その一今のうち・88『立ちふさがる多田さん』

2023-12-09 10:27:28 | 小説3
くノ一その一今のうち
88『立ちふさがる多田さん』そのいち 



「魔石との相性が良くなったようだね、そのちゃん」

 立ちふさがった多田さんは、まあやの付き人になったころの気安さで語り掛けてくる。

「惜しいなあ……木下についていてくれたら、僕のようなロートルは、さっさと引退して里で子守でもしていられたんだけどね。魔石をそこまで使いこなすようになっては見過ごすことはできない」

「どうしようと……」

「そのちゃんを止めます」

「どうやって」

「やり方は色々だよ」

「いろいろ」

「うん」

「ですか……」

 言葉少なに対応しながら多田さんの周囲を駆けまわる。魔石の力もあってレギュラーの数倍の速度が出ている。もし、多田さんが並みの視力なら、わたしの姿は五人以上に見えているはずだ。

 ビュン ビュン ビュビュン ビュンビュン ビュン ビュン

「おお、首が大きくなってきた……」

 遠心力を消すために内側に傾斜している。

 つまり、多田さんに一番近づいているのは、わたしの顔で、体とのバランスは『不思議の国のアリス』のハートの女王ぐらいに見えているはずだ。

「どう、多田さん」

「フフフ、フレームレートが24くらいに落ちたと思っているんじゃないかな?」

 フレームレート24。

 昔のアニメぐらいのコマ数だ。この速度で走っていれば、多田さんに見える姿はカクカクして、五人、いや八人くらいの分身の術になっている。

 混乱させて隙を突けば、簡単に倒せる。

 シュバ!

 やられた( *o*)! 

 目の前が真っ白……目の前でフラッシュのような閃光が走った!

 ホワイトアウトしてしまって、しばらくは視力を奪われてしまう!

 犬のウンコを見つけた時みたいに脊髄反射で飛び退る!

 さすがは照明技師、絶好のタイミングでマグネシウムかなんかを焚いたんだ!

 ズチャ

 しかし、着地しても視力は奪われてはいなかった。

『大丈夫ですか!?』

 視界の外からえいちゃんの声。

 ――う、うん、大丈夫――

 口に出して言おうと思ったら、目の下にえいちゃんが張り付いている。

「とっさに目を庇ってくれたんだ」

 えいちゃんとも、まさに阿吽の呼吸。


 すでに多田さんははるか後方でこちらを睨んで動かない。

 
 忍びの脊髄反射で走り続ける。あの目くらましは、閃光を放った瞬間、自分も目をつぶらなくてはならない。
 
 その僅かの隙に、わたしはリードしたんだ。足にかけては多田さんにひけはとらない。

 黒煙を上げ、半ば以上を撃破された機甲旅団を背に数秒佇んでいた多田さんだったが、その姿に闘志は感じられなかった。

 放っておいても大丈夫だろう。

 胸の魔石に手を当て、草原の国を目指して疾走する。

 あたしは……風魔忍者、そのだ! そのいちだ!


☆彡 主な登場人物
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くノ一その一今のうち・87『魔石の熱』

2023-12-03 06:43:32 | 小説3
くノ一その一今のうち
87『魔石の熱』そのいち 




 胸のあたりがジーーンと熱い。


 魔石が熱をもっているんだ。

 よくできたカイロが胸のツボに当って、全身が温まっているような感触。

 これまでも魔石が力を発揮してくれた時は、今と同様に熱を持ったものだけど、今回は今までにない熱さだ。

 夢中で駆け抜けたが、敵の車列は見込みの倍近く、通り抜けた分だけで一個旅団の規模がある。左右に展開し始めていた別動隊を含めれば師団規模だったかもしれない。
 お祖母ちゃんからもらった時は単なるお守り程度にしか思っていなかったけど、こいつはすごい力を持っている。

 でも、これ以上魔石に頼っては、魔石をダメにしてしまう、ひょっとしたら魔石も自分も両方ダメにしてしまうかもしれない。

――見えている限り一キロ四方に敵はいません。一時の方向十キロに草原の国の都が見えます――

 えいちゃんも慣れてきたようで、自分から糸を外して上空で警戒してくれている。
 
――長瀬に戻ったら一反木綿の役が来るかもね――

――いえいえ、いつか必ず三次元になってリアルの女優になるんです!――

――ごめんごめん、そろそろ下りてきて――

――はい――

 クルクル下りてきたえいちゃんは、目の高さでソヨソヨして動かない。

「え、どうかした?」

『ええ、もう少し小さくなれるような気がするんです』

「えいちゃんが?」

『はい、小さくなって魔石を包んだら気持ちがいいかなあって……』

「え、そうなの(n*´ω`*n)」

『あ、変な意味じゃないんですけどね(^_^;) そうしたら、魔石の断熱にもなるし、わたしもなんだか力がもらえそうな気がするんです。いいですか?』

「あ、うん」

『では!』

 シュルシュル

 小さくなって丸まったかと思うと、襟の隙間から飛び込んできて魔石を繭のようにくるんでしまった。

 剥き出しのカイロが保温袋に入ったみたいで、調子が良くなった。

『うん、とってもいい感じです』

「じゃ、いくよ!」

 草原を駆けながら思った。

 魔石は、わたしだけではなくえいちゃんにもいい影響を与えているのかもしれない。

 胸の高さほどに茂った草をかき分けて走る。

 社長たちといっしょに来た時は顔や手足に草の葉っぱや穂が当たって煩わしかったけど、今は、草が当たる感触がない。

 ひょっとしたら、薄いバリアーを張れる力が身に付いたのかもしれない。

 パージ

 小さく念じてみる。

 ピシピシピシ(>.<) ……痛い。

 慌てて――バリア――と念じる。とたんにピシピシが無くなる。

『なにやってるんですか!?』

「忍法バリア……的な?」

『ウフフ、調子いいみたいですね』

「えいちゃんこそ」

 いつの間にか声に出して会話している。

 ちょっと浮かれ過ぎた……思った瞬間、前方に敵の気配!

―― !? ――
――停まって――

 わたしの勘とえいちゃんの警告は同時だった。

 ザザ

 急停止して草の間から様子を伺う。

 え?

 敵は大胆にも、草の中から姿を現している。
 
 一応の忍者服に身を包んではいるが、素で晒した顔は、朝のプラットホームに立てばいくらでも目につくサラリーマン風。

――これから先には行かせない――

 その懐かしい思念は、照明技師にして猿飛佐助の筆頭配下である多田さんだった!


☆彡 主な登場人物
  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
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  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
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くノ一その一今のうち・86『ウンコを避けただけの足としてはうまくいった』

2023-11-27 10:19:15 | 小説3

くノ一その一今のうち

86『ウンコを避けただけの足としてはうまくいった』そのいち 

 

 

 鬼灯(ほおづき)のような炎が立ったかと思うと二秒遅れて衝撃と爆発音。

 

 ドォーーーーン

 

「北に向かって!」

 サマル王子の耳もとで叫ぶ。

「ウワ! と、ととと……トォ!」

 ズザザザザ!

 衝撃と私の声にジープが揺れ、王子は数秒かかってジープを北に北に向けた。

「いまの爆発は( ゚Д゚)!?」

「…………」

 王子は狼狽えながら、アデリヤは無言で左後方に立ち昇る煙を睨んだ。

「仲間が作戦を変更したんです、直接向かいます」

 どう変更したのかは分からない、直接向かってどうするかも、この瞬間には分かっていない。

 視野の端にウンコをとらえ、とっさに跳ぶように北に向かっただけだ。北からは草原の国の戦闘車両が車列を組んでこちらに向かって来る。

「お二人は、ジープで敵の東側を掠め、D国を突き抜け高原の国に戻ってください」

「ノッチは?」

「草原の国に向かいます」

「草原……敵の本拠地だぞ!?」

「行けば、なにか開けるでしょう。えいちゃん、行くよ!」

『はい!』

 丸めたえいちゃんを手に握ると、ジープを飛び降りた。

「ソノッチぃぃぃ!」

 怒ったようなビックリしたような王女にサムズアップ、全力疾走する。

「えいちゃん、敵の車列の上を飛んだら、これを撒いて」

『これは?』

「風魔流癇癪玉、大した打撃は与えられないけど、派手に破裂して煙が出る」

『了解です!』

「いくよ」

『はい!』

 バシュ

 走りながらえいちゃんを手放すと、みるみる数十メートルの高さに舞い上がるえいちゃん。

 ピンと張った糸を少しだけ右に振ると、グンと手ごたえがあって、えいちゃんは砂煙を上げて驀進してくる車列の上に出る。

 シュパン シュパン シュパン シュパン シュパン シュパパパーン

 連続して車列の上で音がして、車列は濛々とした煙に覆われる。

 ダダダダダ ダダダダダ ダダダダダ ダダダダダ ダダダダダ ダダダダダ

 ドローンの襲撃と勘違いした敵が空に向かって、てんでに機銃を撃ちまくる。

 タタタタタ タタタタタ タタタタタタ

 反対側から乾いた音が響く、アデリヤ王女が機転を利かせて車載機銃を撃っているんだ。

 ダダダダダ ダダダダダ

 敵は、アデリヤの方にも撃ち始める。

 こちらに注意を向けさせなきゃ!

 加勢はありがたいけど、二人を危険に晒しておくわけにはいかない。

 シュパン シュパン シュパパパーン

 こちらからも癇癪玉を投げて、煙に巻く。

 キキー! グワッシャーン! ガッシャンガッシャン! ドゲシ! ボコ! グチャ!

 混乱した敵は、砂煙と癇癪玉の煙の中で多重衝突を起こす。

 

 ウンコを避けただけの足としてはうまくいった。

 

 えいちゃんを手繰り戻すと、車列の最後尾で立ち往生しているバイクを奪って北を目指した。

 

☆彡 主な登場人物

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  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
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くノ一その一今のうち・85『桔梗のプランB』

2023-11-19 18:42:18 | 小説3

くノ一その一今のうち

85『桔梗のプランB』桔梗 

 

 

 中忍は戦略的な判断はしない。

 

 戦略とは、攻めるか攻めないかという大局的な判断。これは上忍の仕事、いや責任。

 中忍は、その決定に従って具体的な戦術を決める。

 日本最大の忍者組織である徳川物産においては、この中忍の仕事は服部半三と、総務二課秘書のわたし(桔梗)と樟葉が当たっている。

 いつ、どのように、どんな規模で攻めるかを決めて下忍に命じ、時に、その先に立って戦いの指揮を執る。これが戦術。

 下忍は集団として、時には個人として登録されていて、任務に応じて指名され戦闘や諜報の任にあたる。本社直属の下忍集団も今年から発足した。

 百地芸能事務所。

 この春まで、百地は独立した忍者集団だったが、社長同士の話し合いで、神田の事務所を引き払って、丸の内の本社ビルに移転してきた。

 その下忍たちの中で、密かに社長が好んでいるのが風魔その。

 身分は下忍集団である百地事務所のアルバイト。すでに世襲名の『そのいち』を戴いているが、良くも悪くも女子高生気質が抜け切れておらず、俗名の『その』や『ソノッチ』あるいは『ノッチ』で呼んでも機嫌よく返事する。

 忍者の棟梁は世襲名にこだわる。うちの服部半三、百地三太夫、敵の猿飛佐助など。

 あ、うちの服部半三は別に三村紘一を名乗っているが、あくまでも任務上の偽名の一つ。

 天然なのか、企みあってのことなのか、社長も半三もそのの呼び名にはこだわりがないようなので、わたしも時と場合と気分次第でファジーに接している。

 そのは下忍だから、判断していいのは戦闘術の範疇にあることだけだ。

 盗めと命ぜられたら、殺せと命ぜられたら、どうやって盗むか殺すかの判断だけだ。

 

 半三とわたしで決めたのは、A国B国の行動を遅らせることだ。

 

 草原の国がA・B両国を抱き込んで、あるいは恐喝して高原の国を滅ぼそうとしている。

 高原の国が落とされれば、草原の国の力は中央アジア全域に広がり、ロシアや中国に並ぶ勢力になる。

 草原の国の背後には木下豊臣家がいる。

 木下豊臣は、その力の根源を海外に求め、その勢力を持って鈴木豊臣家を滅ぼし、さらには日本を支配しようと目論んでいる。

 

 当面の障害、それは高原の国のアデリヤ王女。

 

 まだ17歳だが、国を想う心は国王のそれを超えている。

 頭脳も明晰で、いささか未熟で跳ねっかえりではあるが、その行動力と統率力には目を見張るものがある。

 敵ならば、殺すか排除すれば済む。

 しかし、将来においては高原の国の優れた指導者になる逸材だ。

 彼女の祖母は日本人で、その血の1/4は日本の血だ。

 アデリヤ王女の保護と教育、うがった見方をすれば、それが本作戦のキモと言っても差し支えない。

 おっと、これは、中忍の分際を超える。

 

 トントン

 

 合図のノックを天井裏で聞いて、わたしは筋向いの部屋から廊下に出る。

「もう、ビックリするなあ!」

「部屋に入って」

「うん」

 ミッヒを部屋に入れて、わたしは隣の部屋に入る。そして、二人とも床下に潜り込んで、出会うのは二つ隣の、そのまた裏の空き倉庫。

 旧ソ連時代の地下道の図面が役に立った。

 

「ドローンを二つ飛ばして注意をひいておいた。五分もすれば墜とされるだろうけど、これでみんなの注意は空に向く」

「その間に、ミサイルを破壊するのね」

「ああ、草原の国の細胞が予想以上に入っている。時を稼ぐのにはこれしかない。これは中忍の判断でいいんだよな」

「ええ、予定通りでは無いけど、プランB、わたしの権限の内よ。草原の国の浸透は予想より進んでいる、荒事で阻止するしか手は無い」

「10分で爆発する、そろそろ行こう」

「仕掛けは?」

「日差しが傾いてブツに影が伸びたら爆発する」

「そう、じゃあ、ここからは別々にね」

「了解」

 言い終った時には、もうミッヒの姿は無かった。

 ここからは別々に脱出する。

 では、なぜ、わざわざ待ち合わせたか。

 直に顔を見て、事の成否を見極めるため。

 わたしの特技は、人の目とオーラを見て、人物と事の成否を見極めること。

 ミッヒは、急な変更にもかかわらず、きちんと任務を果たしたようだ。

 

 ドオオオオオオン!

 

 変装してゲートを抜けたところで大爆発。

 ゲートの兵士たちは、警備どころではなくなり、銃を構えてゲートを閉鎖。

 振り返ると――早く行ってしまえ――とジェスチャーしている。

 

 やれやれ、次善の策でなんとか任務終了。

 

 彼方を一台のジープが疾走していく。

 三人乗っている、二人は女性兵士…………まさか?

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
  • ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
  • アデリヤ         高原の国第一王女
  • サマル          B国皇太子 アデリヤの従兄

 

 

 

 

 

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くノ一その一今のうち・84『忍者は手足、考えてはいけないのだが』

2023-11-13 11:15:38 | 小説3

くノ一その一今のうち

84『忍者は手足、考えてはいけないのだが』そのいち 

 

 

 すごい圧だ。

 

 ジープで疾走しているのだから、当然風圧はあるけど、風圧なんかじゃない。

 なにか、とんでもない事態が起こりそうな、歴史の歯車が大きく動き出しそうな、そんな圧だ。

 アデリヤ王女とサマル王子を引き連れて、A国に潜入している桔梗さんとミッヒのところに行けば道は開ける。

 高原の国王女とB国の王子が先頭に立って、どんなカタチであるかは分からないけど、A国の国王と政府に迫れば切り開ける道がある。ここから先は中忍である桔梗とミッヒの仕事、あるいは指令に従えば良いと思っていた。

 それでは済まない、そんな圧を全身に感じる。

 

 忍者は手足、考えてはいけない。

 

 まして、わたしは下忍だ。下忍は、手足ですらない、指一本、いや、指の先かもしれない。

 いざという時には、本体を救うために手足が犠牲になることもある。まして指の先、判断なんかしてはいけない。

 

 でも、お祖母ちゃんは言った。

 

 あれは、日暮里の駅を降りて内職の真田紐を納めにいく途中だった。

「火傷をしそうなとき、とっさに手をひっこめるだろ。あれは手足が勝手に判断してるんだ」

「え、そうなの?」

「脳みそに判断を仰いでいたら間に合わないときは、そうするようにできている」

「そうなんだ」

「それからね……」

 微妙な間に、思わずお祖母ちゃんの顔を覗き込む。

 その時、足の裏がゾワっとして、小さく横に飛んだ。

 見ると、犬のウンコ。

 あやうく踏んでしまうところだった。

「いま、何をした?」

「え、ウンコ踏みそうになったから、避けた」

「目で見たかい?」

「え……えと、なんとなく感じて、横に跳んだ」

「足が感じたんだよ。で、足は、咄嗟に全身の筋肉に警報を発して跳んだんだ。跳ぶっていうのは全身運動だからね、足一本だけでできる技じゃない」

「う、うん……」

「いまの東京、めったに犬のウンコなんて落ちてやしないけど、そのめったにないことに対処しなくちゃならないことが世の中にはある。憶えておきな」

 

 あの時のことを思い出した。

 

「サマル殿下、あの灌木の群れのとこで停めてください」

「お、おう」

 キーー

「なにかあるのか、ノッチ?」

 アデリヤが友だち言葉で見上げる。

「一分だけ待って」

 返事は木の上からした。

――えいちゃん、30メートルほど上がって下りてこれる?――

――後ろ45度の角度で投げてください。20秒観察して、ここに戻ってきます――

――見える範囲でいい、草原の国の気配を掴めるだけ掴んで――

――了解――

 セイ!

 風は高原の国からの吹きおろしている。えいちゃんは、W字型に広がると20秒間空中に留まって、灌木の5メートルほど先に下りてきた。

――すみません、少しズレました――

――ううん、上出来だ。で、どうだった?――

――A国の向こう、C国とD国の境目をすごい数の軍用車両が……A国の王都目がけて突き進んでいます!――

 C国D国の向こうは草原の国だ。

 事態はA国B国をどうにかするレベルを超えて、動き始めている。

 埼玉県が足立区・葛飾区をシカトして、台東区・荒川区を蹂躙しながら都心に攻め寄せてくるようなもんだ。

 

 なんの成算もないが、わたしは足の裏として、ウンコを避ける。

 避けるだけではなく、避けた先の草原の国の横っ面に回し蹴りをかけるつもりになっていた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
  • ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
  • アデリヤ         高原の国第一王女
  • サマル          B国皇太子 アデリヤの従兄

 

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くノ一その一今のうち・83『えいちゃんの不幸とそのいちの企み』

2023-11-06 11:41:34 | 小説3

くノ一その一今のうち

83『えいちゃんの不幸とそのいちの企み』そのいち 

 

 

 風に飛ばされてしまいましたぁ(;゚Д゚)

 

 窓枠から解放してやったえいちゃんは、シワクチャになった全身の口のところだけ手で伸ばして説明した。

「あっという間に舞い上げられて、なんとか風を拾いながらここまで……」

「B国の城には戻れなかったの?」

「はい、風が一方通行で……」

「今の季節は高原から吹き下ろす南風だから、こっちに来るしか手が無いだろうが、何者なんだこれは?」

 アデリヤはえいちゃんとは初対面だ。

「実はね……」

 アハハハハ

 えいちゃんのあれこれを説明してやると、アデリヤは初めて年相応の少女の顔になって笑った。

「そんな面白いことがあるのか、さすがはアニメ大国日本だなぁ」

「ちょっと皴を伸ばしてあげるね……忍法スチームアイロン!」

 プシュー

 手のひらをアイロンにしてしわを伸ばしてやると、ホッと溜息をつくえいちゃん。

「しかし、こうやって前から見ている分には普通に見えるんだなあ」

「はい、いつか三次元の女優になれるように頑張っています! 監視哨の屋上では、ちゃんとアデリヤ王女に化けていたんですからね」

「え、影武者はドーカンがジープに載せていたのだけではなかったのか?」

「いろいろ手は打っております……そうだ!」

「……え、ええ!?」

 耳打ちすると目を剥くえいちゃん。

 しかし、女優魂に火が点いたようだ「ま、まかせてください( ๑•̀o•́๑ )!」と胸を叩いた。

 

 サマル王子は足取りも軽く宮殿の駐車場に向かうところだった。

 

 すぐにキャンプに戻るつもりだったが、せっかく宮殿に戻ったのだからと自室でアニメのソフトを選んでいたのだ。

――まあ、100本も持っていけば、当分宮殿には戻らなくてもいいだっちゃ(^▽^)――

 100本の中に虎柄ビキニの鬼娘の円盤も入っていて、これなら何度でも繰り返して観られる。

 サマルは国同士の付き合いなどどうでもよかった。王子の身分が保証され、好きなアニメが見られるなら独立国であろうが草原の国の属国であろうが頓着は無い。

 難民保護のポーズさえとっていれば、周囲の国々も悪いようにはしないと高をくくっている。

 

 ガッシャ!!

 

 門を出たところでジープが跳ねた。

「あ、おまえら!?」

 なんと、後部座席には都合よく捨てたと思ったアデリヤとメグリが乗っている。

「あそこから飛び乗ってきたのか!?」

「そうよサマル、この程度のスタント、アニメのキャラでなくったってできるんだっちゃ」

「ア、アデリヤ(;'∀')」

「このままA国との国境まで走ってください、サマル殿下」

 バックミラーに映る女忍者の目に一言も言い返せない皇太子であった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
  • ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
  • アデリヤ         高原の国第一王女
  • サマル          B国皇太子 アデリヤの従兄

 

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くノ一その一今のうち・82『B国王城接見の間』

2023-10-31 15:25:08 | 小説3

くノ一その一今のうち

82『B国王城接見の間』そのいち 

 

 

「サマラ(アデリヤの母)は元気にしておるか?」

 

 アデリヤ姫に言葉を向ける国王は、サマラ王妃の兄というよりは父親、いや祖父かと見間違えるほどに老けている。

 サマル王子が父親似だということが初対面でも知れるのだけど、刻まれた皴や目の縁のクマ、丸くなった背中に国王として置かれた立場が容易なものではないことを物語っている。ここのところの草原の国からの圧力、軍事的緊張で心身ともに擦り減っているんだろう、王立牧場の難民キャンプでボーイスカウトみたいに生き生きしているサマル王子とは対照的すぎる。

「はい、大臣たちが父をよく輔弼し、国連や友好国からの援助も受け、緊張感はありますが、いたって前向きに過ごしております。母も、そんな父に安心して明るく過ごしております」

「そうか、それはよかった。王族第一の役目は臣民たちを安心させることだからな、なによりのことだ」

「父上は気に病み過ぎです、我がB国にも優秀な軍人や役人が山ほど居ります。みな、父上を輔弼し、我が国の進路過たぬように努力しております」

「え、あ、そうであったな……しかし、サマル、そなたも皇太子なのだから、少しは城に居て大臣たちの話に加わらぬか」

「我が国は、三権も軍事も国王が最終最高の権能を持ちます。むろん、大臣たちの輔弼を受けてのことでありますが、国事の最高意思決定を国王隣席の御前会議で行うのは、その基本を外さぬためであります。その席に皇太子たる自分までが同席するのは大臣たちへの圧が強すぎましょう。闊達に意見を交わし、過たぬ決定をするには要らぬ圧力になりかねないことは控えるべきかと。いま、国民と世界の目は難民への対応に向いております。これを抜かりなく処理するのが、陸軍少佐でもある、このサマルの役目かと存じます」

「む、そうではあるが……このままでは、A国と肩を並べてアデリヤの国に攻め入ることになりかねないぞ」

「陛下は国家の良心であります、常に臣民と地域の安定発展に向けた決断をされるものと信じております」

「弁えておるのう」

「はい、国家の意思決定にあっては皇太子と言えど、一臣民にすぎません」

「やれやれ、百年前の革命のおりにサマル一世が残した言葉であったな……そう言えば、アデリヤ、その衣装は映画の撮影のためか?」

「これは……」

「そうなのですよ、父上。B国は、いよいよ『バトル オブ ハイランド』の製作に入るのです。世の中が平和な証拠です」

 キャンプから直接王城までやってきたので、わたしもアデリヤ姫も変装のままだ。

「『バトル オブ ハイランド』は三国がまだ一つであった頃の物語、あの時代もいろいろ争いはありましたが一つにまとまりました。この難局もA国とB国、それに高原の国も加わり、多少の困難があってもまとまるに違いありません」

「そうか……そうであれば良いがのう……で、アデリヤ、それは何の役の衣装なのだ?」

「はい、難民の衣装です。ひょっとしたら、映画だけではなく、アデリヤの普段着になるかもしれませんが」

 

 コンコン

 

 接見の間のドアがノックされ、侍従が御前会議の時間が迫っていることを告げに来た。

「すまん、日本のお方には挨拶もできなかったな。落ち着いたら、またゆっくりと話しができたらと思う」

「恐れ入ります、陛下」

「それではな……」

 侍従に先導され、国王は会議の間に向かわれた。

「では、僕はキャンプに戻るよ、君たちはどうする?」

「今夜はお城に居る。もう少し伯父上とお話しできたらと思うし」

「そうか、では近衛には話を通しておく。万一のことがあっても、二人を敵認定しないように。明日の朝には迎えを寄こす、最終的な身の振り方はキャンプで決めるといいだっちゃ」

 バシっと敬礼を決めると軽い足取りで接見の間を出て行った。

 

 侍女に案内されて客間に通される途中、中庭の木の間隠れに軍服姿が見えた。

 

 慌てて身を隠していなければ、ここいら旧ソ連の国々は似たような軍服、草原の国の将校とは気が付かなかっただろう。

 事態は、姫やわたしの想像を超えて進み始めているようだ。

 

 ガタガタ ガタガタ

 

 通された客間、窓の建付けが悪いと思ったら、窓枠にえいちゃんが挟まってもがいていた(^_^;)。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
  • ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
  • アデリヤ         高原の国第一王女
  • サマル          B国皇太子 アデリヤの従兄

 

 

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