大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・169『二回目の三学期が始まった』

2025-01-08 11:01:20 | 小説
(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記

169『二回目の三学期が始まった』  




 ああ……雪だぁ…………


 戻り橋を渡ったわたしは盛大にため息をつく。

 吐いた溜息は即自動車の排気みたく白く目の前にわだかまる。

 今年は寒さひとしおの令和だけども、昭和の一月は、その上を行く。

 地球温暖化なんてウソだと思ってるけど、今朝の温度差を実感すると、感覚的に「そうなんだ」と思ってしまう。

 橋の向こうの令和は例年よりは寒いというだけだけど、昭和の方は夕べ降った雪が氷になって、うっかりしているとグリップの無いローファーでは簡単に滑ってしまう。

 ウワッ!  ムシシシ(((*`艸´)))

 言ってる尻から滑って、集団登校の小学生が遠慮なく笑いやがる。

 ウオ! キャ! ウワ!

 ププ( ´艸`)

 言った尻からガキどもも滑って笑ってしまう。

 やつらもわたしも今日から三学期。

 心を引き締めて学校に向かう。


「教室でのホームルームの前に生徒全員で大掃除をします。暮れの掃除が行き届いていないところもけっこうあります。気を引き締めて掃除に掛かるように。出席番号の奇数は教室、偶数は特別清掃区域。時間は20分。終了は放送で伝えます。かかれ!」

 保健部長の長瀬先生が朝礼台で号令かけて開始。

 ほとんどの先生たちは、そのまま職員室や教官室に戻ってしまう。

 この寒空、屋外で始業式というのも常識外れだけど、そのまま大掃除をさせるのもどうかと思う。

 先生はヌクヌクとストーブにあたってお茶とか飲んでるし、ろくに付き添いもしないし。

 10円男たちがやってた学園紛争はアホかと思うけど、今朝みたいに生徒を使ってると、奴らの言い分にも理はあると思うよ。

「雑巾がけどうする((((;゚Д゚))))?」

 体を揺すりながらたみ子が聞く。両方のポケットに手を突っ込んで言うから――やりたくない――という気分が漏れまくり。大晦日に麗しく巫女舞やってた人とは思えない。

「男子、サボってるしねぇ」

 そうそう、男子で真面目に掃除してるのは、ほんの二三人。

「お湯を確保してくるよ」

 ほんの二三人の中には10円男も居て、それだけでビックリなのに、雑巾がけの為にお湯を確保すると、どこかに行ってしまった。

「お湯無くても、雑巾ぐらいかけるけど……」

 日ごろ部活でやってる佳奈子は気軽なもんで、すでに人数分の雑巾を確保している。雑巾は、四月の配給から八カ月を経過して、定数分揃ってるクラスは多くない。10円男の気の周りようは、やっぱり伊勢半でバイトしたことが実ってるんだろうね。

「あ、戻ってきました」

 ロコが窓の外を指さす。10円男は技能員室でお湯を確保したみたいだ。

 なんだかバイトの延長みたいな感じで掃除を終えて五分余った。

「先生呼んできて、さっさとホームルーム終わらせよう」

 真知子が提案して二人で花園先生を呼びに行く。


 ワハハハハ ヒャヒャヒャヒャ クスクスクス


 職員室では三つのストーブに群がって先生たちが盛り上がっている。聞くつもりも無いんだけど、話題は株と土地の話し。まあ、冷静に見れば、自分の机で黙々と仕事の先生もいるんだけどね。

「先生……」

 小さく声をかけただけで花園先生は小さく頷いて、ホームルームのあれこれを持って立ち上がる。

 まあ、宮之森の標準よりはよくできた担任、よくできた生徒たち。

 
 二回目の三学期が始まった。




☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
高峰 秀夫             2年3組 委員長
吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              2年学年主任
先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  長瀬(保健部長)  藤野先生(大浜高校)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物              アキラ      
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・168『スセリヒメの生姜湯』

2025-01-04 15:20:07 | 小説
(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記

168『スセリヒメの生姜湯』  





「ここの神さまは古い友だちなのよ」


 チマチマとミカンの皮をむきながらスセリヒメ。

「え、友だちだったんですか? って、ここの神さまは……」

 やばい、巫女の助勤しながら神さまの名前も憶えてなかった(^_^;)

「いやだぁ、御祭神の名前も知らずに巫女やってたのぉ(¬д¬)!?」

「ド、度忘れよ(>〇<)」

「『なにごとの おわしますとは知らねども かたじけなさに なみだこぼるる~』かなあ」

「なにそれ?」

「西行法師がね、とある神社に立ち寄ったんだけど、なんの神さまか分からないけど、ありがたさに涙が出てきたって詠んだ和歌よ」

「え、あ、ああ、それですよ、それ!」

 よう知らんけど西行と言えばえらい歌詠みの坊主。西行も同じなら、わたしもノープロブレム!

「ここの神さまはね秩父谷戸姫(チチブヤトヒメ)って言うの」

「あ、女神さまなんだ」

「え、女神さまってことも忘れてたぁ?」

「え、ああ……」

 思い返すと、頼政さんの車を降りて拝殿の前で一礼して、巫女の練習で玉ぐしを捧げたりとかの練習はしたけど、御祭神については教えてもらってない?

 シューージジジーーー

 火鉢に掛けたヤカンが湯気を噴く。怒っているようにも笑っているようにも思えた。

「わたしの亭主知ってるでしょ……」

 コポコポコポ……

 ヤカンのお湯を湯呑に注ぐスセリヒメ。

「あ、オオクニヌシさん」

「うん。いちおう大国主の奥さんはわたしなんだけどね、大国主は、あちこち出かけては女に手を出してねぇ……まあ、あれでも出雲の大神だから、多少のことはね」

「ああ、福井とか新潟あたりまで出かけたんですよね」

「うん、でも、まさか埼玉まで足を延ばしていたとは……」

「え、知らなかったんですか?」

「いや、まあ、最後には分かったんだけどね。大国主はウソ下手だから……」

「そうなんだ」

「で、まあ、一度はヤマタノオロチの息子どもを連れて出張ったんだけど」

 ボ!

 かき回した火鉢の炭が小さな爆炎を上げた。

「でもね……じっさい会ってみたら、けっこういい娘でねえ。ヤマタの息子どもも『こんなに美しい谷川は見たことも無い』って言うしね。それで、気が付いたら友だちになっちゃった」

「え、そうなんだ」

「それに、グッチが写真館のバイトで来るようになってから調子も良くってさ」

「あ、文化祭じゃお世話になりましたぁ(^_^;)」

「そうよ、あの後、特に調子よくてさ。やっぱり神さまって言うのは、みんなが喜んでくれると力が出るわけですよ。ウエディングパラダイス、またやろうね!」

「え、ああ……」

 ウエディングパラダイスは大成功だったけど、佐伯さんが自殺未遂をやっちゃって、このスセリヒメが大汗かいて黄泉平坂から連れ戻してくれたんだ。

「一時は植物人間とか言われてたんだけど、なんとか元に戻りそうなんだ」

「え、そうなんだ!」

「まあ、あれだけ噂になったから復学はしないだろうけど、新しい学校で頑張ってくれたらと思う」

「よかったあ」

「それでね、グッチたちがこっちに来るのを知って、ヤトヒメとも久しぶりだったし、ちょっとテンション上がっちゃったわけよ……ハイ、生姜湯。これ飲んで三が日がんばってね」

「わあ、ありがとう」

「他の子の分は置いておくから、お湯に溶かして飲ませてあげて」

「はい」

 一口すすると、生姜の少し刺激のある甘さが口に広がり、スイッチが入ったみたいに体が温まる。

 ウワァ~~~~~

 その心地よさに思わず目をつぶってしまう。

 再び目を開けるとスセリヒメの姿は消えていた。




☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
高峰 秀夫             2年3組 委員長
吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              2年学年主任
先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物              アキラ      
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・167『昭和の巫女はきつい』

2025-01-04 15:10:44 | 小説
(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記

167『昭和の巫女はきつい』  





 ジョキンと聞いて、あの忌まわしいコロナを思い出すのは令和のJKだ。

 中学の時は学校がまるまる半年も休みだったし、除菌、殺菌、消毒とかうるさく言われたよ。


 でもね、昭和47年のジョキンは助勤のことなんだ。

 巫女バイトが決まった時にお祖母ちゃんに言ったら、こんな話をした。

「ああ、助勤と言えば新選組だねえ」

 想像の斜め上を行く感想なんで、こっちがビックリしてしまう。

「なに、ナントカ太郎とかがやってる政党?」

「ちがうちがう、近藤勇の新選組。局長の次に偉いのが助勤て言って、沖田総司が一番隊の助勤をやってたんだよ。新選組じゃ一番若いのにさ、永倉新八とかのオッサンと並んで立派にやっていたんだよぉ」

「え、お祖母ちゃん、新選組の時代から魔法少女やってたの(ㅎ.ㅎ)?」

「ん、んなわけないだろ(''◇'')!」

「だよね、今度巫女のバイトやるんだけど、正確には助勤て言うんだよ」

「え、そうなの? 昔は巫女は巫女だったんだけどねえ」

 ウプ!

 そんな数日前のスカタンを思い出して、お茶を噴き出しそうになる。

「だいじょうぶですかぁ?」

 同じ休憩組のロコがコタツに潜ったままおざなりな返事。ロコの隣で横になってる真知子は返事もしない。

「ううん、ちょっとむせかえっただけ」

 慣れない助勤の仕事と寒さでグロッキー、そっとしといてあげよう。この律義者は話しかけられたら必ず返事を返してくる。休憩時間はそっとしておいてやるに限る。真知子はほんとに寝てるみたいだし。

 ロコほどじゃないけど、たしかに、この助勤の仕事はきつい。

 とにかく寒い。

 巫女服、いや巫女装束ってのは白衣に緋袴。むろん下にはババシャツに厚手のタイツ、足袋は重ね履き。ほんとは使い捨てカイロを背中とかに貼りまくりたかったけど、使い捨てカイロは、もう5年しないと発明されない。

 授与所には電気カーペット、後ろにはストーブ焚いてもらってるんだけど、なんせ初詣。

 授与所の窓は開けっ放し。宮司の頼政さんが工夫してくれて、工事用のライトを四つ吊るしてくれてる。ケンタとかマックとか、商品が冷めないようにライトあててるでしょ。授与所のためだけに発電機も回してもらってるんだけど、それでも寒い。

 それにね、授与所と言えばお御籤なんだけど、令和みたく自動販売機じゃない。

 お客さん、いや参拝客の人が「お御籤お願いします」と言ったら、巫女がお御籤をひくんだよ。ほら、でっかい木製のシェーカみたいなの。あれをガシャガシャやって「○○番です」と参拝客に示してから、100の小引き出しからお御籤を出して渡す仕掛け。

 自分で引けよって思うんだけど、これがA町のしきたり。自分で引いたらありがたみがないんだとか。

 JC巫女たちは、ほとんど、このお御籤要員と言っても過言じゃない。参拝客も巫女の正体が、近所のA子ちゃんとかY子ちゃんだとか分かってるんだけど、巫女の姿をしていたら神さまのお使いになるわけですよ。

 とにかく元気だしね。

 令和じゃ、映画や芝居の子役だって午後9時以降は働かせちゃいけないことになってる。

 21世紀になったらどうするんだろうね、と余計な心配をしてしまう。

 わたしも、まあ、なんとか務まってる。たぶん、直美さんとこのバイトと、年末のバイトで慣れてるんだ。

 たみ子は、拝殿で高峰君といっしょに頼政さんのお手伝い。ガラス窓の外では、そういう新年早々の神社の営みが静かに進行している……夕べ扉が開いて神さまみたいなのが光になって現れて、あの時のどよめきが嘘みたいに静か……静かすぎる……と思ったら、二重のガラス窓だった。

 ガラスに、コタツにも入らずの巫女姿が映っている。

 え?

「やぁ、わたしも昨日から来てるの」

 場所がら、全然違和感はないんだけど、この場に居るはずのない、御神楽采女さん。

 巫女服姿だけども、この人は宮之森と大浜限定の巫女さん。

「アハハ、いちおうは神さまなんだよ(^_^;)」

 そうだ、この人の本性はスセリヒメ。

 だけど、なんで埼玉に?


 
☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
高峰 秀夫             2年3組 委員長
吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              2年学年主任
先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物              アキラ      
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・166『昭和47年の幕が上がった!』

2025-01-01 08:46:40 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
166『昭和47年の幕が上がった!』   




 大晦日のお昼前に三人がやってきた。


 宮司の頼政さんは忙しいので総代さんの息子さんが駅まで迎えに行ってくれて「息子さんかっこよかったねえ!」というのが到着しての第一声だった。

「高峰君も世間の水準で言えば長身のナイスガイですよ」「そうねえ、たみ子も、そうだし」「二人ともバレー部に入ればよかったのに」

 感想は、ロコ、真知子、加奈子の順。

 三人とも、人のミテクレについてはあまり口にしない。それが小学生みたくあれこれ言うのは、大晦日の旅行だということと、秩父山麓の令和の言葉で言うと異世界めいた町と神社の雰囲気にあてられているせいかもしれない。

 社務所に入る前に、拝殿にお参りするのは偉いなあと思ったら「え、ちゃんとお参りしてから入ったよ」とたみ子に指摘される。アハハ、わたしも微妙にテンパってるかも(^_^;)。

 挨拶もそこそこに、世話役さんや氏子有志の人たちと慌ただしくお昼ご飯を頂いて、昨日のわたし同様に巫女服の着付けと共姫の所作や動きの練習。

 それが終わると、正月三が日の授与品(破魔矢やお守り)の説明を受けて、受け渡しの練習。

「世話役さんが八ミリ見せてくださるよ」

 水色袴の神職姿で高峰君が案内してくれて、参集殿で八ミリを見せてもらう。

 スクリーンを立てて、カーテンを閉めて、映写機がカラカラカラと起動すると、なんとも昭和の趣き……って、リアル昭和なんだけど。わずか十分程度の映像を見るだけで、これだけの手間と秘密結社めいた作業があるのは雰囲気だ。

 昭和に通い始めてほぼ二年、移動したり情報を取ったり音楽を聴いたり、令和じゃスマホをひと撫でするだけで済むことが、ひどく手間がかかったり不可能だったり。でも、だからこそ、大げさに言うと「生きてる」って感じがする……なんて思うのは、やっぱり、この町と神社の特別感なのかもしれない。

 え、音が出てない……と思ったら八ミリはサウンドトラックじゃあないんだ。

 でもね、一メートル四方ぐらいの映像は神秘的だ。いまと同じ神社の舞殿。そこに共姫を引き連れて、シズシズと招き姫が現れ、たみ子と同じ衣装、同じ舞を舞う。

 違うのは、四隅で控えていた共姫たちが吸い寄せられるように招き姫の周囲に寄って来ていっしょに舞っているところ。

 そんなに難しい舞には見えなかったけど、交差したり鈴を振ったり足を踏み鳴らしたり、そのタイミングを合わせるのが難しそう。これは合わせるのが大変だ、だから昭和46年では招き姫の一人舞になってるんだ。

「でも、共姫が控えているだけで、ぜんぜん違うよ」

 高峰君がフォローする。やっぱり、彼は人格者だ。10円男とはちがう。

 そういや、あいつどうしてるんだろ、伊勢半でお給料もらって以来姿を見てない。いやいや、去年は冬休み期間中ぜんぜん姿見てなかったし。

 ぼんやりバカのことが思い浮かんでるうちに八ミリは、クライマックスの扉開けになった。

 神職が襷がけで扉の前に立ち、歌舞伎みたいな仕草で大げさにゆっくりと扉を開ける。音はぜんぜんしないんだけども、観衆の人たちが湧きたっているのが分かる。背後で焚火に映し出されてる笛や太鼓もアップテンポになった感じ。
 扉が開いて、そこから何かが出てくるという演出も感じも無いんだけど、雰囲気なんだろうね。みんな「ウォーー」って感じで沸き立ってるのが分かる。

 これ、レーザーとかプロジェクションマッピングとかやったら映えるだろうなあと思った。


 そして、紅白歌合戦も最終組の対決の11時過ぎ、いよいよ本番!


 わたしは、ダメもとで、ちょっとだけ魔法をかけた。

 わたしの魔法って、壁一枚向こうの声が聞こえる程度。調子がいいと映像として見えることもある。小さなものを動かした……あれは、安倍晴天とかのおせっかいが入ってると思う。まあ、自分に対する景気づけみたいなものさ。

 招き姫のたみ子が蹲踞の姿勢から立ち上がって、神楽鈴をひと振り。

 シャラン

 え?

 自分も他の三人の共姫も立ち上がって、扇を構え鈴を鳴らして床を踏み鳴らす。

 トオオオオン

 思いのほか音が大きく、初詣の人たちが息を呑んで、共姫四人の舞が招き姫のそれに絡んでいく。

 え、なんで?

 思ったのは一瞬で、あとは気分が高揚して、それは招き姫にも伝染して、どんどんビビットになっていく!

 クルクルクルクル ヒラリヒラヒラ トトントン ドドンドン

 お囃子もそれに重なって大きく豊かになっていく、なんちゅうかエキセントリック!

 そして、神主服にタスキ掛けの高峰君が弁慶みたく現れて扉に手をかける。

 ドドンドン ドガラドンドンドン! ピーーヒャ! ピピピヒャ! ドンガラドンドンドン! 

 ダンダダン!!

 太鼓がダメ押しのフォルテシモになると同時に扉が開く!

 ピッシャーーーン ……☆☆☆☆!!

 音がしたわけじゃないんだけど、そんな感じで山から光が降りてきて、拝殿と舞殿の扉を突き抜けて、大晦日の夜に蟠って、一瞬女神の姿になって、次には幾千万、幾億、幾十億の光の欠片となって町に降り注いだ。

 オオオオオオオオオオオ…………

 鳥居の下までいっぱいになった参詣の人たちからどよめきの声が上がって、町の反対側にあるお寺から除夜の鐘も鳴り始めた!


 昭和47年の幕が上がった!

 

☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・165『JC巫女たちと舞のお稽古』

2024-12-31 14:49:40 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
165『JC巫女たちと舞のお稽古』   




 あれから挨拶もそこそこに衣装合わせ。


 令和で言うところの巫女服。

 もの知らずのわたしでも、昭和の時代では巫女装束と呼んだだろうぐらいは分かる。巫女服というのはコスプレ用語だからね。

 式場のアルバイトで御神楽さんの巫女姿で見慣れてるけど、自分が着るのは別だ。

「このコハゼを帯に挟んでね……」

 頼政さんの奥さんが教えてくださる。

「あ、なるほどぉ、これで着崩れないんだ」

 袴の後ろの腰当にコハゼ付いていて、それを帯に引っかけてずり落ちないようになってるんだ。

 それから、立ち居振る舞いを習っていると、後ろで歓声がおこる。

「「「「「うわぁぁぁぁぁぁぁ」」」」」

 お、わたしの巫女姿に見惚れてる奴がいる……と思ったら、姿見の向こうにプリマドンナかっちゅうくらいのゴージャスな巫女服のたみ子。歓声をあげているのは、お手伝い巫女をやる地元のJC(女子中学生)たち。わたしのことは自分たちの同類ぐらいにしか思ってないみたい。

「いやあ、たみちゃんも立派だわぁ!」

 奥さんもお世辞ではない賞賛の声。

「招き姫をやるのは初めてなのよ(^▭^;)」

 招き姫っていうのは、年越祭の主役らしい。

 わたしらは、スタンダードな巫女服の上に千早っていう一重の上を羽織るだけ。でも、たみ子のはほとんどお雛さま!

 十二単っぽくって、裳裾っていうのかなあ、長い御引きずりが付いていて、手にはごっつい房付きの扇、頭にはキンキラキンの冠。

 うわぁぁぁぁぁぁぁ……きれい……たまげたぁ……お招きさまだぁ……美幸ちゃんに負けないねえ……うん、本物だあ……いいなあ……

 JCたちは、たみ子を取り巻いて、なんだか白雪姫と七人の小人かっちゅう感じ。たみ子は令和でもあまり見かけない175センチの長身で美人ときてる。その上、このゴージャス巫女服。太刀打ちできるとしたら大谷翔平の奥さんぐらいだ。

「さあ、あんたたちも準備して!」

「「「「「ハーイ」」」」」

 奥さんが手をメガホンにして言うと、元気のいい返事をして、クルクルと巫女服に着替える。意外に薄着なんでビックリ。わたしなんか巫女服の下は七分袖のババシャツだっちゅうのに(^_^;)。

「はい、では、みんなに紹介します」

 全員正座して招き姫のたみ子と奥さんに向き合う。わたしはたみ子の横。

「今年から、招き姫をやってもらうたみちゃんです。去年までは総代さんとこの美幸ちゃんがやってたけども、お嫁に行っちゃったからね。で、そちらに控えているのが共姫をやっていただく時司巡さんです。最初は兼子ちゃんたちにやってもらうつもりだったけど、インフルエンザだから、急きょ湘南の宮之森から来てもらいました。今日と三が日いっしょにやってもらいます。他にも明日、三人来てもらいますので、よろしくね」

「「「「「よろしくお願いしまーす!」」」」」

「よ、よろしく(^_^;)」

 お互いに挨拶して、簡単に巫女の所作を確認。初めてのわたしは失敗ばかりで恥ずかしかった。

 それから、参集殿という板敷の広いところに行って、たみ子の招き姫を中心に本番の稽古。ええと、お囃子っていうのかなあ、雅楽の楽団まで付いてる……って、本番は明日なんだ!

 JCの平巫女が控えてる前を共姫のわたしが付き従って中央に進む、正面の神さまに一礼して前に置かれた神楽鈴と扇を手に、招き姫が招き舞を舞う。

 小学五年から巫女舞をやってきたというたみ子の舞は見事だった。

 本番は拝殿の前の舞殿(まいどの)で舞って、御祭神である山の神様をお招きする。

 ちなみに、この神社には神さまを祀る本殿が無い。拝殿の奥には扉があって、その扉の向こうは山がそびえている。つまりは山全体が御祭神ということになっていてスケールが大きい。

 日ごろは山にお籠りになっている神さまを大晦日から元旦に掛けてお出ましいただく。お出ましいただくについては招き姫が共姫を引き具してお迎えの舞を舞うという寸法。舞殿の奥には特設の扉が置かれて、神職がそれを開けると同時に拝殿の扉もリンクして開けられるという分かりやすい演出もされるそうだ。

「昔はね、共姫もいっしょに舞ったんだそうよ」「あ、うちのお婆ちゃん娘時代にやったって」「ああ、舞殿、一人舞やるには広すぎるもんねぇ」「シ、聞こえるよ」「あ、気にしないでくださいねただの昔話だから(^_^;)」

 お稽古の後、豚汁とおむすびを振舞ってもらっていると、JCたちがお喋り。悪気はないんだろうけど、微妙に凹む。

「ねえ、明日来てくださる共姫さんたちは、どんな人なんですか?」

 のりちゃんというJCが目を輝かせて聞いてくる。

「あ、ええとね……」

 三人のイメージをかいつまんで話すと目を輝かせるJCたち。スマホの中に三人の写真が入ってるんだけど、スマホを見せるわけにはいかない。そのかわり、修学旅行や万博の話をするとメチャクチャ羨ましがってくれる。

「万博行きたかったねえ」「うんうん」「でも中学生で大阪はねえ」「東京だったらねえ」「横浜でも行けた」「高校は修学旅行関西方面だよ」「うん、でもぉ」「万博やってないしぃ」「万博以外でいいとこありますか?」

「ああ、それならねえ……」

 こないだ行ったばかりの修学旅行の話をすると、目を輝かせて聞いてくれるJCたち。総代さんたちへの挨拶に行っていたたみ子が戻って来ると、湘南の海の話になる。

「東京には行ったことあるんですけど、海は見たことないんですよねぇ」

「湘南の浜辺って、加山雄三が歩いてたりするんですよね?」

「ああ、加山雄三には会ったこと無いけど、小三のころに吉田茂に出くわしたことがあるよ」

「え、あの国葬になった!?」

「うん、和服で袴もちゃんとしてて、こーんな葉巻をね……」

 たみ子はリアル吉田茂を知ってるんだ、吉田茂って麻生さんのお祖父さんだよぉ~。

 いろいろ盛り上がってきて、のりちゃんがすごいことを言った。

「じつはね、もともとの共姫さん、インフルエンザじゃない人がいるんです」

「「え?」」

「じつは、男性経験を持ってしまった人が居てぇ……」「招き姫も共姫も男を知っていてはいけないんです」「みんな仲良しだから、みんなインフルエンザってことに」「あ、これは内緒でお願いします」

 この話題は奥さんがやってきて、それっきりになった。

 なんだけども……お二人は大丈夫ですよねって目で見るのは止めて欲しい(^_^;)。



☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・164『A町の神社に向かう』

2024-12-30 14:51:55 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
164『A町の神社に向かう』   




「埼玉と言うのは、東京の上に設えられた大屋根みたいなものでねえ」

 ハンドルを握りながら頼政さんが話す。たみ子と同じ埼玉が屋根っぽいという話みたい。

「それも、昔のかやぶき屋根、ほら、飛騨地方に合掌造りってあるでしょ」

 ああ、令和では世界的に有名になって、たしか世界遺産。オーバーツーリズムとかで、ちょっとパンクぎみだけど。

「合掌造りに限らず昔の茅葺屋根というのは養蚕をやったり、倉庫だったり作業場だったり、重要な役割が合ってね。埼玉もそうなんだ。国府こそは東京の府中市だけど、武蔵の国の中心は埼玉だった」

「フフ、伯父さんの埼玉王国論が始まった」

「王国というわけじゃないけど、東京は家康の開拓が始まるまでは海沿いの湿地帯だったからね。歴史も農業も埼玉の方が古い。その根っこにあるのが秩父の山や谷。武蔵の国の神々が坐す神社」

「言葉がむつかしいよ伯父さん」

「ああ、すまんすまん」

 文句を言うたみ子だけど、不満とかいうわけでは無くて、親しみの現れという感じ。甥っ子の高峰君は、微笑みながら静かに助手席に収まっている。親類付き合いがほとんどないわたしには、ちょっと羨ましい光景。

「まあ、わたしだけが言うんじゃなくて、町の人たちは、みんな同じように思っているんだ。だから、お祭りとか年末年始の行事は楽しみにしているし、大事に思ってくださってる」

「はいはい、だから、親友たちにも頼んで来てもらったんじゃない」

「ハハ、そうだな。ま、そう言うことだから時司さんよろしくね」

「あ、はい。わたしのことはメグリとか、グッチでいいです」

「ええ、そんな風に呼んでるのか? 秀夫は?」

「僕は時司さんだよ」

「そうだろそうだろ」

「あ、どっちでもいいですから(^_^;)」

「まあ、神主でもあるし、まあ、こんな感じでお願いするよ、時司さん」

「あ、はい」

「秩父の山に降った雨はね、幾つもの流れになって谷を削って扇状地を作って利根川を太らせる。その流れの一つが山を出たところに、うちのA町があるんだ。水は清いし、山が屏風になって風を防いでくれるし……」

「ああ、それを昔の人たちは神さまの恵と思ったんですね(^▽^)」

「うん。だけど、思ったんじゃなくて、神さまはほんとうにいらっしゃるんだよ」

「あ、あ、そうですよね(^_^;)」

 頼政さんは神主さんでもあるんだ「神さまと思った」は失礼だ。

「時司さんは、苗字から察すると、ちょっと由々し気な……」

「そうよ。伯父さん、グッチの家は昔々は朝廷の時間を管理するお役人だったんだよ」

「アハハ、ただの家系伝説ですよ」

「いやいや、時司は延喜式にも書かれている由緒正しい家系だ。いやあ、たみ子はいい友達を持っているなあ」

「そうだよぉ」

「いやあ、止してよ、伝説なんだからあ(^_^;)」

 まあ、魔法少女の家系だとまでは分かってない様子だから、いいとしよう。

「ああ……」

 高峰君が小さく感嘆の声を漏らす。

 小さな林を抜けると、秩父の山々を背負って一面の茶畑。茶畑には防霜扇の電柱が林立していて、その向こうには、それ自体が山々から流れ出て芽を吹いたような町が扇の形に広がっている。

 町が山に向かって窄まったところに大きな鳥居、あれが、たみ子の里の神社に違いない。

 なんか、華やかじゃないけども、雛壇のような床しさを感じさせる風景だ。

 道路が神社への一本道に入ると、ちょうど夕陽が谷の間から差して、町を茜に染めて、いかにも神さまの祝福を受けた町と神社に見える。

「朝は、真っ先に神社の鳥居が日に照らされてね、それもなかなかのもんだよ」

「あ、日の出を拝めっていうのは勘弁してね」

「ああ、今回はやらないよ。風邪でもひかれたら元も子もないからな」

 あ、そうだった。わたしらはインフルエンザで倒れた巫女さんたちのピンチヒッターだったんだ(^_^;)。

「のど飴あるけど、どう?」

 高峰君がのど飴を差し出してくれ、ありがたくいただくと、車は鳥居の前で左に曲がって神社の駐車場に向かうのだった。



☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
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  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・163『今度は巫女のアルバイト』

2024-12-29 14:49:05 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
163『今度は巫女のアルバイト』   




 こういう巡り合わせってあるんだ。


 年末もいよいよ押し詰まった28日、たみ子から電話があった。

『ごめん、良かったらでいいんだけど、バイト頼めないかなあ』

「え、バイト?」

『うん、実はね……うちの身内のことなんだけど……』

「……うん……うん……うん、わかった」

『助かる、ありがとう!』


 というわけで、明くる29日、わたしはたみ子と共に相模線に乗り、二度乗り継いで、埼玉県のA駅に降り立った。


「やっぱり早く着いちゃった。ごめん、迎えがくるまで、30分ある」

「いいよいいよ、初めての土地だし、景色見てたらあっという間だよ」

「五年前にやっと市になったばかりの田舎なんだけど、空気だけはいいからね」

 地元の人が聞いたら気を悪くしそうなことを言う。でも、駅の待合は二人だけだし、わたしに気を使ってのことだから、あいまいに「そうなの?」と「そうなんだ」を返しておく。

 たみ子のお母さんは、これから向かう埼玉の小さな町の生まれ。

「埼玉県って、家の屋根みたいな形しててね、右半分が大宮とか川越とかが市街地で、西の左半分は山いうか田舎」

 なるほど、改札を通して見える東側は田んぼもあるけど、その向こうには街が背景のように見える。

「電柱に扇風機みたいなのが付いてるけど」

「ああ、茶畑。冬にね霜が降りたら茶畑壊滅しちゃうから、霜の降りる朝方に畑の空気かき回して霜が降りないようにしてるの。防霜扇て言うんだよ」

「ボウソウセン……暴走する船を想像した」

「ハハ、わたしも子供のころに聞いて、そう思った(^_^;)」

「お母さんの里は、こっちの山の方なんだよね」

「あ、うん……」

 ちょっと申し訳なさそうに言う。

 埼玉県の西半分は山が連なっている。そういうことには疎いわたしでも知ってる身延山とか秩父山とか。たみ子の話しじゃ、百を超える峰々や山々にはそれぞれ神さまが居て、その多くは神社によって祀られ、社家と呼ばれる神職の家系が守ってきた。

 たみ子のお母さんは、そういう社家の娘で、娘時代には巫女を務めていたそうだ。
 たみ子も、その血を受け継いでいるので、例大祭や年末年始に巫女が足りない時には手伝っているらしい。

「インフルエンザが流行っちゃって、巫女をする子が足りなくてね……」

 そう、それで急きょわたしに電話をかけて来たんだ。

「わたしは、巫女の衣装来て座ってりゃいいんだよね?」

「あ、少しだけ立ったり座ったり。でも、大したこと無いから(^_^;)」

「そうか、それくらいならどんと来いよ!」

 こないだのバイトじゃ、関西弁のオッサンとか、目の回りそうなベルトコンベアに苦労したけど、今度は巫女さんのコスプレだ。三食付いてギャラも出る。ちょっと寒いかもだけど、まあ、何とかなるさ。

 プップー

 駅の外でクラクションがして、たみ子も立ち上がって駆けていく。

「早く着いちゃってぇ、電話しようかと思ったんだけど、もう出てるだろうと思って」

「ああ、秋にダイヤ改正になったからね」

「あ、こちら、手伝ってくれる時司巡」

「時司巡です、よろしくお願いします」

「ああ、こちらこそ。たみ子の伯父の武藤頼政です。今回は無理なお願いして申し訳ない」

「いえいえ、こちらこそ、貴重な経験をさせていただいて喜んでます」

「そう言ってもらえると、少し、こっちも気が楽になるなあ。あ、外は寒いから車の中で待ってて」

「え、伯父さんは?」

「ああ、あ、来た来たぁ」

 ちょうど次の下りの列車が入ってきていて、チラホラとお客が降りてくる。

「おーーい、こっちこっち!」

 頼政さんが手を振って、大股で駅舎を出てきたのは、委員長の高峰君だった!

 そうか、思い出した……たみ子と高峰君は従兄妹同士だったんだ(^_^;)!

 

☆彡 主な登場人物
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  • 滝川                志忠屋のマスター
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  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・162『昭和46年のメリークリスマス』

2024-12-24 11:35:56 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
162『昭和46年のメリークリスマス』   




 うっかりしていた、24日は終業式だ。それにクリスマスイブでもある。


 気が付いたのは頼まれたあくる日なんだけど「こっちこそ間違えて申し訳ない、23日まででかまわないよ」と科長さんの方から言ってくれた。

「加藤君(10円男)が気が付いてね、言ってくれたみたいよ」

 安藤さんが種明かししてくれる。

「いや、仕事の方も20日を過ぎるとバッタリ減るんだ。お歳暮もお仕舞だし、まあ、バイトの中でもベテランクラスは残して稼がせてやろうと声をかけてくれるんだ」

 お礼を言いに行くと、もう一つ奥深い種明かしをしてくれる。

「ああ、なるほどぉ」

 でも、電話の一本くらいしてくれても……と思わないでもない。わたしのスマホは、50年の歳月を超えて令和でも繋がるようになってるんだから。

「電話はしたらしいよ、二回とも留守だったって」

 あ、そうか、1971年は、まだ留守電サービスは無いんだ。スマホは基本マナーモードにしてるしね。


 そして、無事に終業式。


 もらった通知表は赤点もなし。5もないけどね、平均を取ると3.6といったところ。二期校を目指す面々は相応の成績のようで、みんな穏やかな顔をしている。

「いい、二期校とか私学の高めを狙ってる人は、次の三学期が最後のチャンスだからね。その気があるんなら、最後のがんばり見せてね! 三年になったら、その時の成績でしか受験先決められないからね!」

 花園先生が檄を飛ばす。

 全体の終業式じゃ「二年生は、いま持てる力に見合う進路先を探そう。三年になって高望みをすると高い確率で浪人することになる」と校長先生は言っていた。花園先生の方が微妙に夢を持たせてくれている。

「大正生まれと戦後生まれの違いでしょうねえ」

 ロコは冷静に分析する。

「そうだな、日本は自分の力を見誤って戦争に突入して大敗を喫したんだからなぁ」
「異議なーし!」

 委員長の高峰君と10円男は日本の国運まで話を広げながらパイプ椅子を並べる。女子とボランティアは前列にゴザを敷く。花壇の前にはビールケースを並べ、その上にコンパネを敷いて特設ステージ。そして、その背後には去年より一回り大きくなった焚火というか聖火台というかのエフェクト。さらに、その上の渡り廊下から看板が下げられ、去年の三倍マシマシの規模とデコレーション!

 伊勢半のバイトでぜんぜんカメてなかったけど、なんだか文化祭と同じくらいの力の入れようで、令和少女はビックリだ。

 去年も盛り上がったけど、中庭の真ん中に池があることもあって、参加者の半分以上は遠巻きにしていたって感じ。

 それを少しでも集中させようとステージとゴザの桟敷席、パイプ椅子の椅子席と、その後ろに立見席。ぜんぶ埋まったら500人くらいは入れそう。

 ガーガーピーー ピーガーー 

 マイクやアンプのテストを始めると早くも桟敷席に座布団持参の一年生たちが座り始める。顔を見ると、文化祭のウェディングパラダイスやら、テスト中の顔見世とかで来ていた子たちが中心になってる。

 中庭の両脇は本館と南館、この様子を見た生徒たちも次々に集まって来て、準備が整った時点で桟敷席の全部と椅子席の半分が埋まってしまった!

 
 真っ赤なお鼻のぉ トナカイさんは~ いつもみんなの~ 笑いもの~(^^♪


 だれでも知っている『赤鼻のトナカイ』から『クリスマスイブの集い1971!』が始まった!

 今年もいよいよ千秋楽!

 ううん、まだまだありそうな気がする。

 とりあえず昭和46年のメリークリスマス!!



☆彡 主な登場人物
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  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
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  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・161『バイトは24日まで延長』

2024-12-20 11:59:11 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
161『バイトは24日まで延長』   





「時司さん、どうだろ、24日までやってもらえないかなあ」

 ネクタイを締めてない方のカチョウ(漢字では科長らしい)に頼まれて続けることになってしまう。新しく来た四人のうち三人が辞めて行ったんじゃ仕方ない。

 郵便の関西弁は、相変わらず鼻歌交じりのマイペース。「チャッチャとやるでぇ♫」「ほら、そこや!」「伝票取ってちょんまげ(^^♪」「口より手ぇを動かせよ!」「ガムテ使ぅたら元に戻す~♪」「スイッチのオン・オフは指さし確認!」
てな具合。さすがに怒鳴りつけることはしないみたいだけど、この言葉の圧は関東の、それも女子高生やら短大生には厳しいよ。

 10円男は、わたしともう一人残ってるチヨちゃん(金田千代子)をガードしようと、さりげなくフォーローしている。道具の置き場に気を配ってるし、チヨちゃんに声をかける時には笑顔を心がけてるし、関西弁が気にしそうなことは、あらかじめ手を打ってるっぽい。

 こんなことがあった。

 チヨちゃんが伝票の箱をひっくり返しそうになって「オットぉ!」と滑り込むようにして受け止めてやり「ニイチャン、ジャイアンツの外野手が務まりそうやなあ!」と関西弁が褒めた。

「え、ジャイアンツ限定ですか?」

「ああ、阪神では務まらんなあ」

「なんでですか?」

 この時代のジャイアンツは阪神なんて目じゃない、圧倒的な日本一なんで、他の人も思わず聞き耳を立てる。

「阪神やったら、どさくさに紛れて、オケツや胸を触っとく」

 プッ( ´艸`)。

 思わず吹き出す人が半分、嫌な顔する人が半分。

 当のチヨちゃんは顔を赤くして俯いて、10円男は気まずそうに持ち場に戻る。戻りながらも――気にすんなよ――という感じでチヨちゃんの肩をたたき「敵わねえなあ安藤さんわぁ(^_^;)」と頭を掻く。

「せやろせやろ、ワハハハ(ᵔᗜᵔ*) 」

 そして、何事も無かったようにフロアの作業は続いていく。


 
「なんか、学校とは別人だね」

 食堂のテーブルで褒めてやる。

「え、あ……」

 ズルズルズルと蕎麦を掻っ込んでから「そうかぁ」と言葉を結ぶ。

「あんたさあ、労働現場に向いてるよ」

「オレはジャーナリストを目指してんだ」

 ゲフ( >○<)。

「大丈夫かぁ?」

「もう、咽るじゃない! そんなの初めて聞いた、似合わないし」

「初めて言うし」

「ふ~~ん」

「とりあえず、二期校めざす」

「本気ぃ!?」

「ああ、仲間はたいてい一浪してやがるから、入っちまえば同列になる」

 ああ、まだ引きずってやがる……と思うけど口には出さない。

「んだよ……?」

「そう、まあ、がんばって」

「……なんか、バカにしてる?」

「ええ、どうしてそうなんのよ」

「だって、その目がぁ」

「目なんて関係ないでしょ」

「オレは蕎麦なのに、おまえはうどんだしぃ!」

「なによ!」

 ドン

 もうヒトコト言おうと思ったら、目の前にコーラが二本置かれた。

「そうか、君たちはそういう関係やったんやなぁ……ささやかなお祝い、グッとやってちょうだいませぇ~」

「ちょ!」「ちがうし!」

 関西弁は後ろ手でバイバイして、一人納得して食堂を出て行った。

 ヤレヤレ、今日は、これから90分の残業だ。

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・160『バイトのトラブル』

2024-12-17 11:11:23 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
160『バイトのトラブル』   




 手がカサカサになる。

 一日中、紙に触っているからだ。伝票や商品の包装紙に触れまくりなんで、指先だけじゃなくて手の脂も持っていかれる。特に右手の小指側の側面は伝票のインクなんかも付いて悲惨な状況。

「これつけるといいわよ」

 腕カバーの手がオロナイン軟膏の小瓶を進めてくれる。

 腕カバーの主はパートの安藤さん。

「あ、ありがとうございます(^_^;)」

 ありがたくオロナインをすり込んでいる間に、わたしの三倍くらいの速さで伝票を書いていく。

「さすがですねえ」

「慣れよ慣れ、業界特有の略字とか崩し字があるからねぇ……あなたたちは、普通の字で丁寧を心がけてくれるといい。ちゃんと着くことが大事だから……」

 この間にも二枚仕上げてる。大したもんだ。

「時司さんは、宮之森なんだって?」

「あ、はい。郵便の加藤君に頼まれて、一週間だけ」

「いやぁ、助かるわ、女の子みんな辞めちゃったからねぇ」

「アハハ、みたいですねえ……」

 あれから四人入って来てなんとか回ってる。こないだまでは八人いたらしい。

『ボケ! どこに目ぇ付けとんじゃ!』

 関西弁の怒鳴り声がして、女の子たちの「ヒ」「キャ」って悲鳴が続く。

『一人の不注意が事故に繋がるんじゃ! 気ぃつけさらせ!』

「もうッ」

 安藤さんはサッと立ち上がると、サンダルの音を響かせて郵便の方に速足で行った。

『ちょ、浩一!』

『なんや、オバチャン!?』

『ちょっと、こっち……』

 柱の陰から覗いて見ると、安藤さんがオッサンをワゴンの陰に連れて行く。

 いいかげんに!  せやかて!  言ったでしょ!  注意してるだけや!  怒鳴るんじゃない  いや、オレは!  ほら、怒鳴ってる  怒鳴ってへん! ちょ、もぅちょっとこっち……

 なんか安藤さんはオッサンを奥の発送ホームの方まで引っ張って行った。あそこは、二階だけど地方発送のトラックが上がって来るんで、少々の怒鳴り声でも聞こえない。

 10円男がショックで顔色の無くなった女の子を休憩所までエスコートしていくのが見えた。あんなに優し気なところは初めて見る。

「また、やっちまったのかぁ」

 すぐそばで声がして、振り返ると、フロアでたった一人ネクタイを締めている課長が立っている。

 ハァ~(*´Д`)

 溜息一つついただけで、そのまま回れ右して事務所に戻って行ってしまう。

 女の子は戻ってこなかったけど、五分後には何も無かったように作業が再開される。

「時司さん、ちょっと郵便の方回ってくれる?」

 安藤さんがすまなさそうに手を合わせる。

「あ、はい、分かりました」

 
 郵便の方は、事務所から女子事務員の人が来て、もう一人のバイトの子と並んで……というか、オッサンから守るようにして伝票を書いている。この事務員さんも安藤さんみたいに作業が早い。

「グッチはこっち……」

 10円男にオイデオイデされて着いた配置はベルトコンベア。

「上の方から商品が流れてくるから、地方発送の奴をハネて、こっちのワゴンに積んで」

「あ、うん、分かった」

 納品された商品は三階以上で包装され、市内も地方もゴタマゼで流されてくる。それを目視でチェックして地方発送の商品を回収というか取り込む仕事。

 いちいち住所を読んだりはしない。左上に何種類かの記号があって、それを見て分別するんだ。

「取り切れないのは、そのまま流してしまえばいい」

「どうなるの?」

「あとで、一階の担当がワゴンで運んでくる」

「あ、うん、分かった」

「万一、商品が溢れたり、事故が起こった時は、このボタンを押して」

 コンベアのガードのところに赤と緑のスイッチが付いている。

「じっと見てると酔うから、商品が途切れたところで視線を外すといいよ。なにか質問は?」

「いまのところ無い」

「じゃ、がんばって」

「うん」

 返事をすると、コンベアがグニっと曲がったもう一つのチェックポイントに行ってしまう。どうやら、この郵便発送セクション周辺のあれこれを任されてるっぽい。

 こんなのバーコード付けて機械に読ませれば一発なのに……と思ってしまう。人件費は1/10ぐらいになるだろうし、さっきみたいに関西弁がキレることもないだろうし、これで時給330円……ありえん……と思ったら、さっそく目が回ってしまった(^_^;)。 


 お昼は安藤さんが五階の食堂に連れて行ってくれる。たぶん、課長なんかと相談してフォローにまわってくれてるんだ。


 お昼は外に行く人と食堂で済ませる人と半々。学食の半分も無いフロアだけど、値段が安い。ランチなんて100円で学食の五割り増しくらい。ご飯の大盛りはびっくりするくらいで、値段は並と同じ。

「浩一(関西弁のオッサン)、じつはわたしの甥なのよ」

「あ、ああ……」

 あの素早い反応、遠慮のない注意の仕方、タダモノではないと思ってたけど、お身内だったんだ。

「あの子、大阪でしくじってね、それでうちを頼ってやってきて、それで……ここに、身分は、一年更新の準社員。なんとか落ち着いて欲しいんだけどねぇ。明るくていい子なんだけど、気が短くって……それに、関西弁というのはきつく聞こえるでしょ」

「あ、ああ……」

 安倍晴天との関わったり、万博で大阪に行ったりで、必ずしもきつくはないと思うんだけど、そんな傾向はあるのかもしれない。

「まあ、時司さんは、他の子より慣れてるみたい……あ、ごめん、失礼な言い方しちゃったかな」

「あ、いいえ。そう言われると、ちょっと嬉しいかもです」

 まあ、この二年、いろいろあったしね。

「わたしね、宮之森にお茶とお花教えに行ってたのよ」

「ええ!?」

「一時はお琴も教えてたんだけど、高校も予算とか厳しいみたいで、この二年ほどはご無沙汰してるの」

「ああ、そうだったんだ」

 茶華道部の根城の作法室はMITAKAでも使うんで、少しは知ってるけど、お師匠さんが来てのお稽古は話だけで見たことがない。

「今は年に二度ほどお免状持ってる若い人に行ってもらってる。まあ、学校の部活じゃ上手になってもお免状は出せないからね」

「安藤さんて、お師匠さんだったんですね」

「うん。でも、家でお弟子とってやるところまではしないし」

 まあ、いろいろ事情はあるんだろうけど、知り合って三日目のバイトが踏み込んでいい話でもないだろう。

 ランチのエビフライを尻尾の先まで食べて、安藤さんは先に行ってしまう。

 ポリポリ

 わたしも尻尾の先をかじっていると10円男。

「さっきは、ありがとな」

「え、あ、うん」

 こいつも一人前に気を使ってくれる。まあ、自分が無理を言って引きずり込んだんだから当然か。

「コーラでも奢るよ」

 というんで、隅の自販機に連れて行ってくれる。

「え、ええと……」

 知ってる自販機と違う。小さな縦型の窓が付いていて、ビンのコーラが少し斜めになってギッシリ詰まってる。

 ドン ゴロン

 すごい音がして取り出し口に、そのまんまのビンコーラが落ちてくる。

 プルトップとか付いてないから、どうしていいか分からん。

「あ、ここが栓抜きだから」

 縦型窓の横に楕円形の窪みがあって、そこにビンの王冠を噛ませる。

 ガキ!

 けっこうな音がして、10円男の王冠は無事に外れる。

 カキ コキ クキ

 三回失敗して、四回目で成功。

 いつもの10円男なら「ブキッチョめ」とか言うんだろうけど、今日は穏やかに見ている。

 少しは成長したかと、二人でグビグビコーラをあおった。

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・159『伊勢半配送センターでバイト』

2024-12-15 15:04:49 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
159『伊勢半配送センターでバイト』   




 というわけで、大浜線谷口(やとぐち)駅で降りて、伊勢半デパート配送センターを目指して歩いている。


 というわけと言うのは、おとついの帰りのホームで十円男と出くわしてバイトの助っ人を頼まれたから。

 谷口は大浜市に三つある駅の一つで大浜高校に通う生徒の半分はここで乗り降りするらしい。配送センターは大浜市の東の外れ、令和の谷口に足を踏み込んだことのないわたしは「ああ、大浜市の田舎なんだ」という感想。

 大浜市は近在では大きな街だけど、東京や横浜とは比べようもない地方都市。だいいち大浜に伊勢半デパートは無い。地価の高い京浜地方を外して物流センターを持ってきたというのが正直なところなんだろうね。

 でも、名にし負う天下の伊勢半、五階建てのビルの上には営業店と同じ『伊勢半』のロゴマークが掲げられ、マークの下の『配送センター』の文字に気づかなければ買い物客が入って来そう。

「ああ、それは無いなあ」

 昨日事務所に連れて行ってくれた10円男はあっさり言う。

「デパートというのは、都心とか繁華街にあるだろ。ここは、そうじゃないから、看板に気づいても――ちょっと違う――と思う。建物も色気が無いから、すぐに営業店じゃないことに気づく」
 
 色気が無いというところで、わたしの顔を見たけど、それには触れないでおいてやる。

 ブロロ ブロロ ゴゴ ゴゴゴゴ ブィーン ブブブ 

 角を曲がって建物の搬送口が見えてくると、出撃前の軍事基地かと思うような騒音と車の臭い。

「ガソリン臭~い」と言ったら「トラックはディーゼルだからガソリンじゃない」と奴は訂正する。女子にはどっちもいっしょ、ただただやかましくて臭い。

 ガッチャン

 タイムレコーダーがカードに刻印する時の音と手ごたえは面白い「おう、たしかに確認したぞ」ってベテラン守衛さんが言ってる感じがする。

 ブワアアアアアアアー

 車の音が中にまでぇ……と思ったら、ごっつい空調の音。それに、機械や油の臭い、紙や梱包材の臭いが混ざって、いかにも昭和の職場って感じ。

 青春の全てをここに掛けろと言われたらごめん被るけど、一週間限定のバイトだと思えば面白い。

 パンパン! パンパン!

「さあ、始業時間やでえ、みんな、チャッチャと持ち場に付けよー!」

 元気よく手を叩きながら関西弁のオッサンの声が響く。

 いちおう会社のロゴの入った作業着は着てるけど、頭にねじり鉢巻き、耳にボールペン、手には指先ちょん切った軍手、腰に手拭いぶら下げた姿は伊勢半のイメージからは程遠い。

「おう、メグリィ、仕事は覚えたかあ!?」

「はい、ボチボチ!」

「さよか、はよ慣れて小包の方に来いよお~」

「はい、そのうちに~!」

 適当に返事しておく。

 大阪弁のオッサンは、正規の職員じゃないけど、郵便小包のセクションを任されていて、事実上、二階の発送場のボス。さっきの号令でも分かる通り、フロアの仕事の差配をやっている。本物の課長は別に正規の社員のおじさんがいるんだけど、このおじさんは事務所の方に居るらしくて、現場にはあまり顔を出さないんだとか。

 わたしの持ち場は、貨物と呼ばれていて、大型の商品や梱包や取り扱いにコツがいる酒類なんかを扱っていて、わたしは、そこでひたすら伝票を書く仕事。

 伝票を手書きなんて、令和じゃ考えられないんだけど、ここで扱う商品のほとんどは手書き。それで、一般的に男よりは字の綺麗な女子があてがわれる。

「三枚の複写だから、強いめに書いてね」

 日ごろは三人で伝票書きをやっているおばさんが最初に注意してくれる。

 なるほど、四枚つづりの伝票の三枚は裏にカーボンインクが付いている。

 建物の上の階はよく分からないんだけど、納品された商品を包装してコンベアでうちの二階に下ろしてくる。近隣の湘南や京浜地方はそのまま一階に送られて、それぞれの営業所に送られる。それ以外の地方便をうちで引き受けて、郵便や小包に仕立てて、二階の発着場から地方に送り出すという仕組みになっている。

『アホンダラ! どこに目ぇ付けとんねん、そんなとこ置いたらけ躓くやろが!』

 また関西弁が怒鳴ってる。

 実は、この関西弁の当たりがきつくて、伝票係りの女子がみんな辞めてしまって困っていたらしい。

 高校生らしい男の子がビビっちゃってるけど、それをオッサン込みでなだめに行ってるのは、なんと、あの10円男だった。


 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・158『え、そうだったんだ!』

2024-12-12 14:33:53 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
158『え、そうだったんだ!』   




 さすがに試験中は朝礼をやらない。


 金原さん佐伯さんと半年で二人、自ら命を絶つ生徒が出た。

 学校の前に新聞社の車が並び、教育委員会からも調査が入る次第になって、学校は試験的に朝礼を実施するようになった。
 実施と言っても『管理職からのお願い』という形なので実施しているクラスは半分ほどしかない。

 試験中だってやればいいんだけど、元来が強制的な職務命令とかでやっているわけじゃないから、校長も教頭も、いわんや生徒から強いことは言えない。           
 佐伯さんは一命をとりとめた。そのことも先生たちの気持ちをルーズにしているのかもしれない。

 だから、この三日、我が担任の花園先生には会っていない。

 パタパタパタパタパタパタ

 あと五分で一時間目の化学のテストが始まろうという時に、軽やかに廊下を走るサンダルの音……花園先生だ!

 いっしゅんドアの窓に見えた姿は、子どもっぽくテストの袋を胸に抱え、チラリと教室を覗いた顔はヘタレ八の字で屈託の気配は無い。


 そうか、あのお守り無事に届いたんだなぁと思う。学業お守りが良縁成就に変わって、ちょっとビックリかもしれないけど、うん、あの足音と眉毛なら大丈夫だろう……と思う。

 ガラガラ

 一時間目の監督の先生が入って来る。

 顔を上げると……杉野……先生だ。

 そう言えば、直前に花園先生よりも大きく、でももっと軽いサンダルの音がしていたっけ。

 みんなは普通そうにしてるけど、どこか空気が緩い。

「はい、あと一分でテスト配りま~す(^▭^)」

 ああ、本人も緩い。

 考査中は授業も無いし、始業時間も遅いし……この人、ほんとに仕事嫌いなんだなあと思う。


 二時間目の保険のテストも終わって中庭に。


 いの~ち掛けてと~ 誓った日から~ すてきな思い出~♪

 真知子のギターで『あの素晴らしい愛をもう一度』から始まって『若者たち』『戦争を知らない子供たち』『今日の日はさようなら』『翼をください』と続けてぶちかます。

『今日の日はさようなら』『翼をください』が続くとエヴァンゲリオンの雰囲気で『天使のテーゼ』を歌いたくなる(^_^;)。

「今年もクリスマスイヴの集いやりますんで~、よかったら集まって下さ~い」

 真知子が唄うようにオーディエンスに告げて、今日の日はさようなら。

 半分ほどが一年生っぽいんで、ちょっと期待。

 こういう時に、力みかえることも無くお誘いできる真知子はエライと思う。

「さあってと……っ!」

「え、たみ子のカバン重そうじゃない」

「ああ、中身二人分」

「ごめん、ギターあずけたら持つから」

「うん、しばらくここに居るから」

「じゃ、あたし先に行ってる」

 真知子はギターを預けに、佳奈子が昇降口に駆けて行って、このあとおたふくでお昼と思っていた私とロコは、ちょっと置いてけぼり。

「ああ、今日からでしたっけ……」

 おいおい、ロコもなにか思い当たって、知らぬはメグリひとりだけかぁ?

「今日から予備校なのよ」

「進路のポスターにあったS学院ですね」

「うん、べつに相談し合ってじゃないんだけど、進路の部屋でいっしょになって。申し込んだのは別々なんだけどね」

「ああ、なるほどぉ」

「三人とも二期校ねらいですからね」

「え、そうだったんだ!」

 二期校ぐらいは知っている、この時代は共通一次試験もセンター試験も無いんだ。二期校って言えば国公立だよ! 準進学校の宮之森では、ちょっと高嶺の花。けっこうな努力をしないと合格はキビシイ。

「あ、うん、秘密にしてたわけじゃないんだけどね。真知子も佳奈子も家でせっつかれてて、まあ、タイミングがいっしょになったわけ」

「そ、そうなんだ(^_^;)」

 オーーイ

 ギターを置いてきた真知子が通路の方で手を振って、たみ子が「じゃあね(^▽^)/」と去って行って、あっけなく二人きり。

「さ、帰りますか。明日もテストですし」

「あ、そうだね」

 二人でおたふくに行ってももう一つ。時刻は十一時を少し回ったところ。

 大人しく商店街を抜けて家に帰ったよ。

 で、駅のホームに立ったところで、ちょっと番狂わせの展開があるんだけど、それは、また次にね。

 
☆彡 主な登場人物
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  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・157『こっそりお守りを置いて……』

2024-12-08 16:09:53 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
157『こっそりお守りを置いて……』   




「ちょっと、テスト期間中に悪いんだけど」

 監督の先生が出ていくと同時に10円男に声をかける。ちょっとでも間を置くと、こいつはスグに居なくなる。

「ええぇ、バイトなんだけど」

「時間は取らせないから、去年もやった『クリスマスの集い』なんだけど、今年もやろうかって、ちょっと話」

「ああ、いいんじゃない。俺はバイトで参加できないけど」

「ええ、なによ、それぇ」

「ごめん、年末はいろいろあって。じゃぁ」

 後姿で手を振ってサッサと帰っちまいやがる。

「去年はケンカまでして手伝ってくれましたのにねぇ(070『いよいよクリスマスイブの集い』)」

「まあ、いいじゃない。集まってから言うつもりだったけど、ノリでやっていこうと思ってたし」

 真知子が慰めてくれて気持ちを切り替えて職員室に向かう。



「失礼しまーす、2年3組の時任でーす。花園先生いらっしゃいますかぁ」

 ドアを20センチほど開けて、誰に言うともなくエクスキューズしておく。

 試験中なんで、生徒の出入りは禁止なので、いちおうの断りを入れる。教頭先生がチラリと見てくれて、これで入室許可をとったことになる。二年の師走ともなると、たいていのことは阿吽の呼吸。

 我が担任は、向こうの共用テーブルで監督していたクラスの答案を確認している。

 一枚一枚名前と番号を確認して、確認し終えたら、でっかいホッチキスで右上を留めて袋に戻して監督者欄にサイン。そして、テーブルの周囲で待機してる教科の先生に渡して任務終了。

 答案をなくしたり間違ったりしないための重要な儀式。この間は生徒ごときが声をかけても相手にはされない。校長が声をかけても「後にしてください」というくらいのものなんだ。

 実は、これを承知で職員室に来ている。

 試験期間中なので、職員室に長居することもできない。

 それで、勝手知ったる花園先生のデスクに、例のお守りをそっと置いておく。

 教頭先生は書類仕事やってるし、答案受け渡し以外の先生はほとんどいないし、先生のデスクに0.5秒でお守り置くところを目撃した者は居ない。

 静かに頭だけ下げて職員室を出ていく。

 誰も気づいてはいない。

 これで先生は――いったい誰が!?――と驚きながらも詮索することは無い。

 ものが無くなっているのなら大騒ぎだろうけど、落したお守り、それも本来買うはずだった『良縁成就』のお守りなら、少々気味悪くても、ひょっとしたら、神さまのアフターサービス? それとも親切な妖精さん? とか……信じなくても、詮索とかはしないだろう。


 一件落着して中庭へ。


 作法室前のベンチにお仲間たちが先着している。

「あ、新曲の練習するんですよおー(⌒∇⌒)」

 ロコが嬉しそうに手を振って、ヒョコヒョコとベンチの端っこに座る。

「ここで、二三十分歌ってたら、去年を知ってる二三年生なら気づくでしょ」

「一年生は……ほら、もう何人かこっち見てるし」

 真知子とたみ子の仕込も余裕の感じ。


 いの~ち掛けてと~ 誓った日から~ すてきな思い出~♪


 あ、お祖母ちゃんのオハコ!

 時どき『あの、すばらしい愛をもう一度ぉ~』のところを何度もリフレイン、というか、ほとんどここしか口ずさまないから、通しては知らない。

 子どものころから聞いてるから、わたしにとっても懐メロなんだ。

「アハハ、この春に出た新曲だから、まだ憶えてないんですけどねえ」

 ロコが、この一言を言ってくれなかったら「ああ、懐かしいぃ……」と不用意に呟いたかもしれない。



☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・156『お土産を渡しに行くと櫛が居た』

2024-12-05 13:38:15 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
156『お土産を渡しに行くと櫛が居た』   




 修学旅行明け、最初のアルバイト。


 写真館に出勤するとお土産の八つ橋を「マスターとコミコミなんですけど(^_^;)」とお愛想笑顔で渡し、公民館に着いてから残りのひとつを式場の采女さんに渡しに行く。

 控室をノックしようとしたら話し声。

『それで、わざわざ……』

『うん、ちょっと特別でね……じつは……』

『……え……え……え、そうなの!?』

『うん……あ、外に人が』

 しまった(;'∀')。

『あ、ちょうどいい。入って来てグッチ!』

 見破られてるしぃ。

「失礼しまーす」


 入ってびっくり。

 采女さんは、いつものように巫女服でお茶を飲んでるんだけど、部屋には采女さんひとりだけ。で、テーブルの上には見かけない櫛が載っている。

「紹介するわ、この式場で写真屋さんのアルバイトしてる時司巡さん、慣れたらグッチって呼んであげて」

 なんと、テーブルの上の櫛にわたしを紹介する。

 すると、横になっていた櫛がカタリと直立すると、お辞儀をして口をきいた。

『先日はお参りにきてくださってありがとうございました、時司さん』

「え、はあ……」

「彼女、八坂神社の御祭神のクシナダヒメさん」

『きちんと書くと櫛稲田です』

「クシイナダ?」

『まあ、どっちでもいいんですけどね』

「じつはね…………ヒソヒソヒソ」

「ええ、そうだったんですか!?」

 産寧坂で時間を取ったこともあって八坂神社では、お参りしただけで時間切れ、慌ただしくお守りを買ったら集合時間れになってしまった。

『……ということで。どうかしら、お願いできるかしら?』

 櫛に頼まれては頭を下げるしかない。

「わかりました、なんとかいたします」

『そう! うれしいわ、恩にきます!』

 そう言うと、櫛はペコリと45度のお辞儀をしたかと思うと、ドロンと姿を消した。

「先月は前の月が神無月だったでしょ。神無月は日本中の神さまが出雲に集まって好き勝手に言うわけでしょ。亭主の須佐之男命は武神で偉そうにしてるだけしか能がなくって、実務はみんな女房の彼女が取り仕切って、もう師走だって言うのに手が抜けない様子でねぇ、ここへも櫛の姿でしか来れなかったのよ」

「あ、でも、綺麗でかわいい櫛でしたよ」

「そりゃあ、ヤマタノオロチやっつける時に須佐之男の髪に隠すために変換したアバターだからね。アイコンみたいなもので、同時に何十体もコピーして、あちこちで仕事をしたりお使いに行ったり」

「あ、そうなんだ」

「日中国交回復とかしちゃったでしょ。人の往来はともかく、神さまとかはビザもパスポートも要らないから、どんどん入って来ちゃう。向こうも多神教で神さまも妖も多いからねえ」

「アハハ、妖怪太陽光パネルとか……」

「え?」

「あ、なんでも」

 頼まれた用件は、こうなんだ。

 八坂神社で、我が担任のハナちゃんこと花園先生は縁結びのお守りを買おうとしたら、わたしたちが賑やかにやってきてトチ狂ちゃって、縁結びの横の学業お守りを指さして「これください(;'∀')」と言って言い直しも出来なかったわけなんだ。

 神さまは、そんなこともお見通しなわけで、あらためて、花園先生に授けたいんだけども、本業が忙しいので代わりに渡してくれないだろうかと采女さん(スセリヒメ)に頼みに来たわけ。

「あ、それから」

「なんですか?」

「あなたたちが拾ったのが、ハナちゃん先生のお守りだから」

「え?」

「校内放送は聞こえてないみたいよ」

「あ、ああ……」

 そう言えば、あの後、若杉先生が校内放送でゴニョゴニョ言ってた、あれがそうだったんだ。昼休みの放送って、たいてい聞いてないもんね。

「さあ、次のお式、そろそろだわよ!」

「あ、いっけない!」

 慌てて、それぞれの持ち場に飛んで行ったよ。


 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 



 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・155『夢に現れた魔法少女』

2024-12-02 11:35:27 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
155『夢に現れた魔法少女』   




「ああ、ダイエーホークス……」

 新聞に目を落したまま気のない返事のお祖母ちゃん。

「……え、なにそれ?」

 いっしょにコタツに入ってるんで、気のない返事にもリアクションしておく。

「南海ホークス……昔は、そう言ったんだけどね」

「野球チームのホークスだったら、ソフトバンクホークスだよ」

「え、ああ……21世紀になってから野球って観ないからねえ……」

 そう言いながらコタツの上で手をさまよわせているんで蜜柑を載せてやる。

「あ、ありがと……」

「だから、そのダイエーじゃなくて映画の大映」

「ああ、そうか、メグリが通ってるのは昭和の宮之森だったんだ」

「そうよ、昭和46年」

「1971年、ニクソンショックの年だったねぇ……」

「にくそん?」

「うん、アメリカのニクソン大統領がいきなり北京に飛んで国交を結んじまって、それまで中国を敵認定してた世界中がひっくり返った事件。いきなりすぎたから、魔法少女も混乱してねぇ……危うく台湾の魔法少女と衝突するところだった……懐かしいねえ、霖敬麗って魔法少女と一世一代の大勝負になるとこだったぁ」

 なんか話が横道(^_^;)。

「あ、じゃなくて、大映って映画会社が潰れたみたいなんだけどね」

 昨日、八坂神社のお守りを拾って生指に届けに行ったらテレビがニュース流してて、ロコが『大映解散』のニュースにビックリして、令和女子のわたしは付いていけなかったんだ。修学旅行じゃ、いろいろ喜んだり面白がったりできたんで、ちょっとギャップを感じてお祖母ちゃんに振ってみたわけ。

「大映ってのは、東映・日活と並ぶ映画会社でね……勝新太郎の『座頭市』とか『ガメラ』とか『眠狂四郎』とか『大魔神』とか、けっこうがんばってたんだけどねぇ……」

「ああ、ネムリキョウシロウ以外は知ってるかも」

「眠狂四郎知らないのぉ?」

「あ、うん」

「円月殺法って技でね敵をやっつけて『お前はもう眠ってる』って決め台詞言うと、敵が、そのままグーグー寝ちゃうんだ」

「プ( ´艸`)、それ、北斗の拳」

 アハハハハ( *^▢^*)(´∀`*)

 
 その夜、夢を見た。


『時司応(ときつかさこたえ)そこをどいてもらおうか』

 切れ長の目のまつ毛を浜風に戦がせて霖敬麗が声を震わせる。わたしは、お祖母ちゃんの時司応になっている。

『待って、林さん、話せばわかるわ』

『もう話などしている時ではない、それに、わたしはもう林敬子ではない。中華民国魔法少女の霖敬麗だ!』

 そう言い放つと、彼女の頭の上に『林敬麗』の三文字が中華街の電飾を凌ぐ明るさで明滅する。

『ク……あなたのリンは林では無くて雨冠の霖なのね』

『そうよ、日本の裏切りに遭って、雨のように涙が停まらないのよ』

『そんな、帝国魔法大学でいっしょに机を並べた仲じゃないの!』

『その林敬子は死んだ、いま、ここに立っているのは護国の鬼少女、林敬麗。そこをどいて、このまま東京に駆けこんで、佐藤栄作の首をとるんだから』

『待って、まだ佐藤首相は……』

『何を言う、ニクソンショックに「あまりに突然のことで」と狼狽える総理のどこに理がある! 盟友ならば「なにがあろうとも中華民国を支持する!」と宣言するのがあたりまえだろうが!』

『だって!』

『もう、話など無用だ……通さぬとあれば……』

 ム……円月殺法無刀の構え!

 敬麗の両手が大きく弧を描く、あの両手が頭上で交差すると円月殺法が完成してしまう。

 仕方がない、あれに対抗するのに手加減はできない!

『魔法少女時司応、参る! 時司流奥義、転(まろばし)!』

 言い切ると同時に重心をずらして踏み込む!

 え?

 手応えはあったけど、同時に目の前が暗くなる。

『おまえは、もう眠っている』

 敬麗の後姿が斜めになったかと思うと、そのまま朝まで寝てしまった。

 
 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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