大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・181『志忠屋で頼まれごと』

2025-02-14 11:03:19 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
181『志忠屋で頼まれごと』   




 学校の帰りに志忠屋に寄ってみようと思った。


 ナースチャのことやら魔法のことやら分からないことがいっぱいあるからね。

 それに、10円男だけじゃなくて、ナースチャに興味津々な子がいっぱいいるし。ナースチャのこと、ちゃんと分かっておかないと、さらにとんでもないことが起こりそうだし。

 そんなこんなを思いながら廊下を歩いていると、一人の女生徒が横に並んだ。

「そこの空き教室に入って」

 横顔で言われてビックリ……うちの制服を着たペコさん!

「ペコさん!?」

「話は中で」

 ドアの前に立つと、まるで自動ドアのように開いて、ペコさんに続いて入ったら……志忠屋だ!

 え、ええ!?

 振り返ると、ちゃんと志忠屋の自動ドア。もう一回振り返ると、タキさんが仕込の真っ最中で、シチューの鍋をかきまわしてる。

「……まあ座れ」

 後姿のまま命令されて、いつものカウンター席に座る。

 ピ

 パスタをゆでる時のタイマーを押すと、鍋から立ち上る湯気が停まってしまった。

「メグリも学校やろし、時間停めた」

「時間を……」

「ナースチャのこっちゃ」

「あ、ああ……」

「あいつは、違う時間軸から来た。こっちの世界ではアナスターシア皇女は家族もろとも殺されとる」

「やっぱし!」

「ロシアはエカチェリーナ二世とか、女でも皇位に就けるから、あいつが女帝になってロマノフ朝を再興する可能性がある。やりようによっては、立憲君主制が進んで、ソビエトが短期間で終了するか、帝政ロシアと並んで、こっちのソ連ほどの力を持つことなく衰退していくか」

「そんな大層なことなの……?」

「ああ、17歳のロシア少女が無残に殺されるのを黙って見てるわけにもいかんやろ……」

「う、うん……」

「メグリが覚醒したいうのも意味のあるこっちゃ、この流れは動かしがたいと、儂は思う」

「そ、そうなんだ(;'∀')」

「せやから、メグリ、おまえも気を引き締めてナースチャを護ってやれ」

「ええ、でも……わたしの力って知れてるしぃ」

「そんなことはない」

「ちゃんとコントロールとかできないし」

「慣れたらできる……それに、学校には結界が張られてるし、ペコとかもガードで入らせるし」

「え、ペコさんも!?」

「その制服姿はダテやない」

 タキさんが振ると、ペコさんは、こんな顔(^▭^;)して笑った。

 ペコさんて……?

「過去の世界に通ぅてるのはメグリだけやない」

「あ、それは……(๑º口º๑; ) 」

 アタフタと手を振るペコさん。

 志忠屋で普通の人間なのはペコさんだけだと思っていた……いや、きのう戻り橋のとこで普通じゃないとじゃ思ったけど……ああ、頭がついてこない!

「まあ、学校では日本語の上手いロシアのお友だちいう感じで付き合ってたらええ」

「う、うん……」

「せや、せっかく来たんやさかい、ほれ……」

 カウンターの下から信玄袋を二つ取り出すタキさん。

「これは?」

「弁当や、保温したある。二人で食え」

「あ、ああ、ども……」

 ピピピ ピピピ

 タイマーが鳴ると、再びシチュー鍋から湯気が立った。

 ペコさんは、まだ志忠屋に用事があるとかで「メグリ一人で学校へ戻れ」と言われ、おっかなびっくりで――学校へ――と思ったら、さっきの空き教室の前に戻っていた。

 

☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • ナースチャ             アナスタシア(ニコライ二世の第四皇女)
  • ユリア               ナースチャを狙う魔法少女
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・180『転校生』

2025-02-11 11:16:25 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
180『転校生』   




「お早うみんな。突然だけども転校生を紹介します」


 朝礼の冒頭、花園先生はイレギュラーなことを言う。

 高校で転校生というのは珍しい、この二年間で一度も無かったし、もう二月も半ば。学年末テストまで十日ほどしかない。

 みんなビックリしながらもドアの外の気配に注目している。

「じゃあ、入って来て!」

 先生が大きめの声で言うと、ドアがガタピシいって5センチほど開く。

 5センチのすき間から見えるのは女子の制服。

 ガタ ガタピシ

 ドアは癖があって、普通に引いただけでは開かない、ちょっと手前側にひいて持ち上げるようにしないと一発では開かないんだ。

 ウ ウウ(''v'')

 ちょっと焦った声に廊下側の佳奈子が先生よりも早く助けに行く。

 ガタ ガラガラガラ

 え( ゚Д゚)!?

 目の前に転校生を見て目を丸くする加奈子。

 ドアが完全に開いて、その子の姿が露わになって、今度はクラスの全員がビックリ! 

 わたしは座ったまま30センチも跳びあがってチョービックリ(◎Д◎)!

「はい、簡単に自己紹介してちょうだい」

「はい、ロシアからやってきましたアナスタシアと言います。ナースチャと呼んでください」

 ホォォォォォォ

 教室のみんなからため息が漏れる。

 カワイイ! 外人! ロシア語訛の日本語! 抜けるような白い肌! プラチナブルーの瞳! 制服を着てさえ分かるナイスボディー! 侵し難い品の良さ! 微妙な緊張感にくすぐられる保護してあげたい感!

「ナースチャはご家庭の都合で日本に来ました、日本語に不自由はないけども、慣れない日本での生活なので、みんな、協力してあげるようにね」

「先生、一つだけ質問いいですか?」

 10円男が手を挙げる。

「簡単にね。気が進まなかったら答えなくてもいいからね」 

「よかったらフルネーム教えてもらえませんか? ちなみに、ボクのフルネームは加藤高明」

 花園先生に伺うような顔をしてから、ナースチャはロシア語で黒板に名前を書いた。

 Анастаси́я Никола́евна Рома́нова, 

「アナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァと読みます。でも、フルネームで呼ぶと舌噛みますからね。ナースチャでいいです(^_^;)」

 アハハハ ウフフフ ハハハハ

 暖かい笑い声が起こって教室は和やかな空気に包まれる。

「もう一つだけ、ロシアっていうことはソ連ということでいいんですよね?」

 笑みを絶やさず、でも、キッパリとナースチャは言った。

「いいえ、ロシア人です」

 10円男が鼻白んで、ナースチャは付け加えた。

「日本だって言うでしょ、ボクは東京人とか、北海道は道産子とか、沖縄はウチナンチューとか……ね(^ー^)」

「あ、ああ、そういう意味ね。うん、わかるわかる(#^○^;)」

 デレた顔で頭を掻く10円男。みんなもクスクス笑って「じゃ、席は……時司さんの横ね」

「ハイ、よろしくトキツカサさん(^▽^)」

「ええ、こちらこそ(^□^)」

 笑顔で応えながら昨日のことを思った。


「時空を超えてナースチャを保護することになったの、1919年じゃ庇いきれないから、2025年でね」

 そう言いながらスマホにタッチすると、スマホの上にタキさんの首が浮かんだ。

「ナースチャを確保、敵のエージェントは追払ったけどメグリちゃんに見られてしまったわ」

『しゃあないなあ……』

「あ、それと、メグリちゃん、ちょっと覚醒したっぽくて、ファイアーボールとか撃てるようになったみたい」

『そうか、覚醒したのはペコばっかりやないちゅうこっちゃな。おい、メグリ』

「な、なによ、タキさん」

『ワケあってナースチャを預かることになった、お前にも協力してもらわならあかんさかい、そのつもりでな』

「え、あ、ちょ……」

「じゃ、よろしく。ナースチャも行くよ」

「Да (ダー)」

 そう言うと二人の姿が消えて、わたしが居るのも令和のこっち側になっていて、振り返ると我が家が見えた。

 ペコさんのなのかタキさんのなのか、それとも、その合わせ技なのか、すごい魔力だ。

 
 そして、家に帰ってググって驚いた!


 ナースチャ、皇女アナスタシアは1918年、皇帝や皇帝一家とその従者もろともボルシェビキに撃ち殺されていた!


 え、え? じゃあ、あのナースチャは? お前にも協力してもらわならあかん……とは?


 そして、今朝からナースチャはわたしの横の席でクラスメートになってしまった!


☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • ナースチャ             アナスタシア(ニコライ二世の第四皇女)
  • ユリア               ナースチャを狙う魔法少女
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・179『ナースチャ』

2025-02-08 11:24:53 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
179『ナースチャ』   




 
「Пожалуйста! Помогите!(パジャァオスタ! ロマギニア!)」


 ロシア語だ!

 たびたびソ連のエージェントに襲われたので、この言葉の響きは一発で分かって、瞬時に日本語に変換された。

『おねがい、助けて!』

 声の主は褐色の髪にプラチナブルーの瞳の少女。万博のソ連館のコンパニオンが同じ感じ。ほら、ガガーリンバッジくれたユリアってやつ。バッジは70年代の世界には存在しないICで、それが発信機になってて、花火見物の夜に撃ち殺されそうになった!(049『宮之森城花火大会』)

 でも声の主は髪と瞳こそは同じだけど、メチャクチャ怯えて助けを求めて突進してくる。

 新聞社を四つもやっつけて高揚してるわたしは、少女を背中で庇って立ちふさがった!

「そこをどけ!」

「Het(ニェット)!」

 ユリアの日本語にロシア語で応えるわたし。

 その返事にユリアの瞳が一瞬でソ連国旗のように赤くなり、鎌とトンカチの代わりに二発の銃弾のイメージ!

 ゾワ

 髪の毛が逆立つ! 

 自分で分かる。このあとピシっと弾けたら、5メートル先のユリアは炎に包まれて弾け飛んでしまう!

 ズザ

 ユリアは一瞬でジャンプ、電柱を蹴って反動をつけたあと、戻り橋を音速ほどの速さで渡って消えた。

 ボ……シュ

 その瞬間までユリアが立っていたところにバスケットボールほどの火球が灯って消えた。キャンセルしきれなかった爆裂魔法の余韻だ。

 ユリアは瞬間で姿を消したつもりなんだろうけど、わたしは全部トレースできていた。殺そうと思えば、そのコンマ一秒足らずの間に5回は殺せた。

「ど、どうもありがとう」

 翻訳魔法なんだろうか、そういうのがかかったままなので、その子の声は普通の日本語で聞こえた。

「だいじょうぶ? ケガはない?」

「ええ、あなたのおかげで……あなたも魔法少女だったんですね。おかげで助かりましたぁ(#'∀'#)」

「あなたもって……あなたも魔法少女なの?」

「いえ、魔法少女は、さっきの女です。ボルシェビキの魔法少女なんです。探知能力に長けているので、さっき見つかって追いかけて来たんです」

 ボルシェビキ?

「あ、ロシア共産党、去年改名したところだからボルシェビキって前の名前で呼んでしまって……日本にも魔法少女は居るって聞いてましたが、さっそく助けてもらえるとは……これも神のご加護です」

 その子は、サウンドオブミュージックのマリアみたいにきれいに十字を切った。

「あ、よかったら、説明してくれる。あのユリアってのはわたしにも因縁のあるやつなんで」

「その前に、ひとつだけ確認させてください。あなたのファミリーネームはトキツカサなんですね?」

「あ、うん。時司巡」

「よかったぁ、ほんとうによかったあ! 日本に着いたら魔法少女のトキツカサに頼れと言われてきたんです!」

「そ、それはそれは……で、あなたは?」

「はい、ロシア皇帝ニコライ二世第四皇女、アナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァと申します」

「え、ロシア皇帝第四皇女( ゚Д゚)!?」

「はい、去年ボルシェビキに命を狙われたんですけど、日本政府のお蔭で助かって、先日日本にやってくることができたんです」

「そ、そうなんだ」

 さっきまでの高揚感は微妙に冷めてきて、ちょっと面倒なことに巻き込まれたなあという気がしてきた。

「アナスターシャは微妙に長いですから、ナースチャと呼んでください」

「う、うん」

 どうしようかと思ったら、戻り橋のところで気配!

 反射的にナースチャを背中で庇う!


「ああ、間に合った!」


 その声は志忠屋のアルバイトのペコさんだった( ゚Д゚)!



☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • ナースチャ             アナスタシア(ニコライ二世の第四皇女)
  • ユリア               ナースチャを狙う魔法少女
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・178『「Пожалуйста! Помогите!」と叫ぶ声!』

2025-02-05 10:52:00 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
178『「Пожалуйста! Помогите!」と叫ぶ声!』   




 危うく新聞に書かれるのを防いで帰路に着く。

 ジィィィィィィィィ…………

 頭の奥がしびれてるみたいで、電車に乗っても駅を出て戻り橋を目指しても、どこか頼りない……自分と周囲の景色の間に薄皮が張ったような、VRのゴーグルで仮想世界を見ているみたいによそよそしい。

 あれ?

 いつものように護岸のGの標(003『ええ! 1970年!?』)が見えて戻り橋が現れるはずなのにGの標が現れない。

 左岸のM、右岸のGを認識することで、人には見えない戻り橋が現われて、戻り橋を渡ることで令和と昭和を行き来できる。

 もう二年になるので、普通の橋を渡るように当たり前になっていた……標が無くなる、いや、見えなくなるのは初めて。

 ちょっと焦った(;゚Д゚)。

 昭和の宮之森に通っているけど、自分のリアルは令和にある。

 このまま昭和に置いてけぼりになったら帰るところが無くなってしまう。

 キョロキョロして、上流側の寿橋を渡る。寿橋は令和にも昭和にもあるリアルの橋だから、当然渡れる。

 戻り橋の下は時間が流れているんだけど、寿橋の下は普通に水が流れていて、渡った先はとうぜん昭和の町で、自分の家があるはずのところはただの空き地。

 少しだけ踏み込んで川沿いを歩いて見ると……え?

 護岸のコンクリートにMの標。

 混乱した。

 Mの標は令和側にあって、それを認識したら戻り橋が現われて昭和に行ける……で、戻り橋が現れた。

 サラサラサラ サラサラサラ サラサラサラ…………

 ゆったりと時間が流れる音がして、それは紛れもなく異界の戻り橋。

 でも、立っているのは昭和の橋のたもと。不用意に渡ったら昭和よりも古い時代に行ってしまうかもしれない。

 だって、Mの標は時を遡る標だからね。

 令和から昭和に渡って1972年。その差は53年。

 1972年の昭和から53年遡ったら……1919年。

 たぶん昭和の前の大正時代。大正は西暦から11を引くんだから……大正8年?

 ええと、こないだ関東大震災100周年とか言ってたからぁ……だめだ、大正時代の知識なんか全然ないよ。

 さっき、新聞社を周って杉田先生の記事を消しまくった勢いは消え失せて、橋のたもとに立っているのは、元々のわたし。

 とりあえず、寿川の向こう側に戻ろう。

 回れ右して、速足で寿橋に向かう。

 タタタタタタ!

 戻り橋を渡って来る足音! それも走ってるし!

 かかわりになっちゃダメだ! そう思って目を背けようとした時に、足音は橋を渡り切って叫んだ!

「Пожалуйста! Помогите!(パジャァオスタ! ロマギニア!)」

 

☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・177『ひょっとして、なにか覚醒した?』

2025-02-02 11:09:29 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
177『ひょっとして、なにか覚醒した?』   




――くそ、くそ、くそ……妹尾死ね! 妹尾のクソ! 死んじまえ妹尾! おまえに関係ないだろ! 自宅謹慎だぞ! 追って連絡あるまで謹慎! 懲戒! 懲戒処分だぞ! 戒告か? 訓告か? 停職? まさか解雇? くそ! クソクソ!――

 十円男の予測通り、杉野先生の心には妹尾先生への憎しみと懲戒処分が下ることへの恐怖心が渦巻いてる。

 校長先生から、処分内容が決まるまでは自宅謹慎してろと申し渡されたんだ。

――金が要るんだ! 優子は専業主婦になることを条件に結婚したんだからな……お袋も体弱いし……学校の給料だけじゃ足りないんだ! 仕方がないんだ! 給料安いから! 外で働かなきゃしかたないんだ! それを……それなのに……――

 ああぁ、どす黒い憎しみと不満が渦巻いて、近づいたらスターウォーズだったかの暗黒面に取り込まれそうで……でも、蛇に睨まれた蛙みたいで、蛇に睨まれたら身動き取れないんだろうけど。違うんだ、この距離とペースを崩したら、先生が振り返って「覗いたなあ(◣д◢) 」って牙を剥きそうで、ペースを崩せない。

 けっきょく、駅の通路で先生が向かう上りを避けて下りのホームに向かうまで後ろについてしまった。

 ホームに上がると、ちょうど電車が入って来て乗ってしまう。

 家に帰るには、先生と同じ上りに乗らなきゃいけないんだけどね。

 不可抗力で大宮市駅まで来てしまう。


 電車を降りて上りのホームに戻ろうと階段を下りる。


――夕刊は無理だけど、朝刊には十分間に合う――

 先生のではない想念が伝わってきた!

――二回も自殺者を出して、今度は教師の不祥事だぁ、まったく宮之森はクソだ。徹底的に叩いてやらなきゃな……くたばれ、日教組!――

 ゲゲ!

 こいつ毎朝新聞の記者だ!

 学校の周辺で取材して、これから教育委員会でウラを取って三面記事のトップに載せる気なんだ。

 杉野先生は自業自得だ。だけど、学校が新聞に書かれるのはイヤだ!

 これ以上、学校のみんなの心を掻き乱されるのはごめんだ!!

 ピシャーーン!

 なにかが弾けた……わたしの中でなにかが弾けた……クラっときて、思わず階段の手すりを掴む。

 胸がドキドキ、視野の端っこが白く光って……立ち眩み?
 
 いや、立ち眩みでドキドキはしないし、あれは目の前が暗くなる……なんだか、自分の中のエネルギーが鋭く放出されて、その余韻みたい。

 え……記者のオッサンも階段降りたところで立ちすくんでいる。

――え……オレ、なにをしようとしていたんだ?――

 あれ……記者の頭の中から杉野先生に関する情報が消え去っている。とうぜん、新聞社に戻って記事にしようという気持ちも消え去っている……。

 わたしがやった?

 湧き上がった疑問を咀嚼する間もなかった。

 イメージが湧いてきた。

 O新聞とK新聞……それにY新聞……その三社も杉野先生のことを記事にする気でいる。

 Y新聞は駅の近くだ!

 階段を一段飛ばしで降りて、改札もダッシュで抜けてロータリーの向こう側にあるY新聞に向かった。

 社会部の前に立つと、女性記者とデスクの姿が際立った。

 そうか、記事は書き上げられてデスクのところまで回っているんだ。

 ピッシャーーン!

 再び弾けて、二人の頭の中から杉野先生のことが消える。

 よし……エレベーターの前まで行って、まだ記事原稿が残っていることに気づいてイメージが湧く。

 念じると手の中に原稿、少し怒りがこみあげて――消去――と念ずる。

 ボ!

 一瞬の炎になって原稿は灰も残さずに消えてしまう。廊下をこっちに歩いて来ていた女性職員がビックリしている。ニッコリ笑っておくと、女性職員も少しぎこちないけど笑顔を返してくれて、まあ、なにかの錯覚だろうと思い直してくれる。

 次はK新聞! いや、近ければO新聞! 両方とも場所が曖昧。

 駅前に戻って『駅前付近の地図』で確認。

 K新聞が近い。

 ダッシュで二ブロック先のK新聞に向かって、さっきと同じように記者とデスクの記憶を消して記事原稿も……こんどは書かれた字だけ消す。

 さあ、残るはO新聞!

 グ……地方紙のO新聞は駅一つ向こうの谷口(やとぐち)だ。

 間に合わない!

 O新聞の社屋が頭に浮かぶ、続いて、社屋が爆発してボウボウ燃えるイメージ!

 だめだ、念じたらほんとうになってしまう!

 どうしよう……迷っていると、O新聞の正面玄関のイメージ。

 すると、念じたわけでもないのにO新聞の玄関前に移動している。

 テレポテーション?

 考えている暇はない、すぐに社会部に飛んで、それまでと同じように記憶と記事原稿を消去した。

 終わったぁ……(-_-;)

 谷口の駅に向かう、二つ向こうの通りに伊勢半配送センターが見える。

 ほんのひと月前なんだけど、なんか懐かしい。

 首を駅に向け直す……視野の端に人影。

 あ

 どこか見覚えのある外人女性……たぶんソ連人。

 ブル

 いっしゅん怖気を振るって、そいつは消えた。

 蒸発したわけじゃなく、たぶんテレポーテーションだ。


 時司巡    


 ひょっとして、なにか覚醒した?

 

☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・176『熱は下がったけど……』

2025-01-30 11:59:30 | 小説
(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記

176『熱は下がったけど……』  




「ありがとうございました、教室に戻ります」

 熱も下がったので、お礼を言って保健室を出ようとした。

「ちょっと待って」

 机で書類仕事をしていた長瀬先生が呼び止める。妹尾先生は用件を済ませてすでに姿がない。

「ハヒ(;'∀')」

 あんな話を聞いた後なので変な声が出てしまう。

「つぎの時間は体育でしょ、5時間目だし、今日は、もう早退しなさい」

「え、あ……」

 先生は返事も待たずに早退許可書を書いてくれる。


 キンコーンカンコーン……

 
 教室への階段を踊り場まで上がったところでチャイムが鳴って、学食に向かう生徒たちが結構な勢いで降りてくる。

 おっと(;'∀')

 思わず隅に身を避けたところで、ちょうど駆け下りて来た十円男と目が合ってしまう。

「大丈夫か?」

 残り二段ぐらいのところから声をかけられ、その勢いで踊り場の隅へ。

「あ、うん」

「ほんとか?」

 あんな話を聞いた後なので、あまり大丈夫じゃない返事になる。

 人の流れを避けながらなので、ますます隅っこ。20センチくらいの近さになる。

――あ、伊勢半の時の顔だ――

 年末のバイトで見せた人を気遣う顔だ。

「実は……」

 その気遣いに甘えるように、さっきの話をした。

「懲戒処分……よくて戒告、下手すりゃ停職、首もありうる」

「ええ……!?」

「講師登録して講義までやってちゃなあ。それに妹尾は予備校まで踏み込んでるんだろ……下手すりゃ新聞とかに書かれるかもな」

「あ、ああ……」

 学生運動をやって留年しただけあって、こいうことには詳しそう。

「去年、書かれてるだろ」

 そうだ、去年は栗原さん金原さんの件で新聞に書かれたんだ! 同じ宮之森で不祥事があったら絶好のネタに違いない。

「まあ、杉野は授業もサボりまくりだったからなぁ、自業自得。おまえも、あんまり関わるな」

「あ、うん」

「早退すんのか?」

 手にした許可証を見られてしまった。

「うん、家で寝てる」

「ああ、そうしろ。一人で大丈夫か?」

 気遣う彼の後ろを続々と学食に向かう生徒たち……同級生たちも混じって、ちょっと誤解っぽい顔つきで通り過ぎていく。

「だ、だいじょうぶ、じゃね!」

 自分でも分かるくらいの赤い顔になって階段を駆け上がって教室に向かった。


 準備を整えて昇降口を出ると、バツの悪いことにちょっと前を杉野先生が歩いている。

 コートにポケットを突っ込み、トボトボうな垂れて歩く姿は正視に堪えない。

 何かあったんだ――おまえも、あんまり関わるな――十円男の言葉が蘇り、横道に入る。

 商店街の手前で戻る。

 え!?

 さっきの半分の近さに先生の後姿。

――#$%&@?+ωΛ%&#=##!――

 ああ……読む気も無いのに、先生の想念が飛びこんでくるよお!




☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
高峰 秀夫             2年3組 委員長
吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              2年学年主任
先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  長瀬(保健部長)  藤野先生(大浜高校) 樫山文男(化学の講師)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物              アキラ      
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・175『聞いてしまった(;'∀')』

2025-01-28 08:48:53 | 小説
(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記

175『聞いてしまった(;'∀')』  




 少しまどろみかけてきた時、ドアの開く音がして誰かが入ってきた。


『長瀬さん、少しいいかなあ』

 あ、グラマーの妹尾先生だ。

『生徒が寝てるから、静かにね……』

 長瀬先生も予測していたようで、奥のデスクでヒソヒソ話し始めた。

『実は……』

 先生同士の内緒話……聞いちゃいけないと思うけど、聞いてしまう……聞こえてしまう。

――こんな葉書が来たよ――

――え……なに、これぇ!?――

 長瀬先生の声には驚きと軽蔑の響きがあった。

――差出人の住所も名前も無いけど、これは杉野のやつだ――

 え、杉野……杉野って、現国の杉野先生?

 え…………ええ!?

 葉書の文面が見えて息を呑んでしまった!

 病院のそれのようにベッドはカーテンで仕切られていて、葉書が見えるはずも無いんだけど、それはハッキリイメージとして浮かんできた。

〔教師と言えど勤務時間外に人が何をしようと自由のはず、それに干渉するのは、一個の独立した人格への謂れなき攻撃であり、厳に慎まなければならない行為であって……〕

 え?

――実は、現場を押えた――

――とうとうやったんだね――


 イメージが浮かんできた。


 大浜市の予備校が入っている雑居ビル、その向かいの喫茶店で妹尾先生は冷めたコーヒーを飲み干すと、レシートと料金を置いて表に飛び出した。

 予備校は、講義が終わって生徒たちが出てくるところだ。

 待つこと数分、ビルの自動ドアから生徒と談笑しながら出てきたのは杉野先生だ。

「杉野、貴様、やっぱり予備校で働いていたんじゃないか(-ˇ_ˇ-) !」

「ゲ( ꒪⌓꒪)!?」

 目を剥く杉野先生。 キョロキョロと目が泳ぎながらも怒りに顔が赤黒くなっていく。

「明らかな服務規程違反だ! これまで、さんざん指摘され注意されてきて、ずっとシラを切ってきたが、さっき、事務所で講師登録していることも確認したぞ!」

「…………」

「武士の情け、学校には黙っておいてやる、これを機に本務に専念しろ……いいな」

「お、おう……(-_-;)」

 それだけ言うと、妹尾先生はクルリと踵を返し、夜の駅前通りを駅に向かって歩いていった。


――それで、妹尾先生、どうするつもり?――

――本人に突きつけた――

「貴様が出したんだな!」「知らん!」

 ああ……このやり取りで妹尾先生はブチギレたんだ。


 えらいことを聞いてしまった。

 むろん、長瀬先生も妹尾先生もチョーヒソヒソ声で、並の人間には聞こえない。

 でも、魔法少女の血を引くわたしには聞こえてしまう。

 それに……具体的な待ち伏せの話しは妹尾先生してないよ。

――実は、現場を押えた――とうとうやったんだね――

 そのやりとりを聞いただけで分かってしまったんだ……(;'∀')

 
 ちょっと、自分の能力が恐ろしくなってきた……。


 
☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
高峰 秀夫             2年3組 委員長
吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              2年学年主任
先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  長瀬(保健部長)  藤野先生(大浜高校) 樫山文男(化学の講師)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物              アキラ      
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 

 

 


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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・174『学校の暖房についてからのぉ……ヘーックチ!』

2025-01-25 09:07:18 | 小説
(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記

174『学校の暖房についてからのぉ……ヘーックチ!』  




 教室のストーブは円筒形と箱型の二種類がある。

 両方とも腰ぐらいの高さで、鳥かごみたいなボディーの中にスケルトンという穴だらけの素焼きの筒が入っていて、筒の中にガスバーナーがある。箱型は外からは様子が分からない。

 両方とも、職員室入ったところの壁に全クラス分の連結ホースがぶら下げてあって、連結ホースは50センチほど青いゴムホースで、両端にカチット栓が付いている。

 朝一番に来たものは職員室まで、このゴムホースを取りに行って、ストーブと元栓を連結して自分で点ける。

 カチカチカチカチカチカチカチカチ……

 気ぜわしく点火プラグが明滅して、数秒から数十秒後、ボッと音がしてガスに火が点く。日によってはガスの巡が悪くって、何度もカチカチカチを繰り返さなければならない。

 やっと安定して燃え始めると、ストーブのパーツが熱膨張してチンチンチンと音がする。やがて、スケルトンがオレンジ色に焼けて、やっとストーブは暖房力を発揮する。箱型も同じだと思うんだけど、こいつは外からは様子がうかがえない。カチカチカチカチとボッは同じなので似たような作りなんだろうね。

 そうそう、ゴム管には(2-3)とかクラスの札が付いている。職員室のホース掛けを見れば、どのクラスが使用中か一発で分かる仕掛けになっている。

 ゴム管の取り忘れは放っておかれるけど、昼休を過ぎてもゴム管を返しに来ないと『2年3組、連結ホースが返却されていません、至急職員室まで返却しなさい』と名指しで放送される。

 それで、ここからが本題なんだけど、ストーブの使用は4時間目まで。

 規定では――4時間目を過ぎても室温が18度を下回る時は連続して使用を認める――ということにはなっている。

 でもね、この18度っていうのは教室で計った温度じゃない。

「あれはな、事務室と校長室の間が両方からイケイケの給湯室兼倉庫になっていて、そこの温度計で判断してるんだ」

 十円男がこっそり教えてくれる。

 さすがは留年生、並みの二年生ではうかがい知れないことまで知っている。

「でも、それって事務室と校長室の間なんでしょ!?」

「おお」

「ハア……」

 短くも非難がましい会話になる。

 十円男の話では、事務室・校長室・保健室というのは、地球規模で言うと亜熱帯。ガンガンに暖房効いてるからね。その亜熱帯に挟まれた給湯室は広さが教室の1/3しかないし、境目のドアは開けっ放しのことが多く、その亜熱帯からの気流で、あの給湯室は温帯なんだ。

 でも、給湯室独自には暖房設備が無いので、そこで学校全体の室温にしているわけなんだと。

 前にも言ったけど、教室は窓側も廊下側も隙間だらけ。校舎は鉄筋コンクリートだけどもドアは木製。窓は鉄製だけどもパッキングされてないんで、キッチリ閉めても風が侵入してくる。

 なにが言いたいかと言うと、給湯室で18度を超えていても、教室はそうじゃない場合が多いってこと! 特に窓側の後ろの席は全然違う!

 ヘーックチ!

 五時間目の樫山文男の授業で盛大にクシャミが出てしまう。ヘーックチ!のチ!は、なんとか我慢したんでマックスのヘーックション!にはならなかったことの現れなんだけど、盛大に鼻水と涎を噴出してしまってグチャグチャ。

「顔赤いですよぉ」

 ロコが心配してオデコに手を当ててくれて、直後に叫んだ。

「先生、時司さん、すごい熱です!」

「ああっ……保健室に行って来なさい(-_-;)」

 樫山文男は、授業を中断させられた不快感をもろにため息に載せて、それでも指示だけはする。

 十円男でさえ、心配そうな顔をする中、わたしは保健室に。

 廊下を歩いていると悪寒がし始め、保健室で計ったら8度2分も熱があった。

「しばらく寝てなさい」

 ちょうど居合わせた長瀬先生にベッドで寝ているように指示され、毛布を顎の下まで被って目をつぶった……。

 

 
☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
高峰 秀夫             2年3組 委員長
吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              2年学年主任
先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  長瀬(保健部長)  藤野先生(大浜高校) 樫山文男(化学の講師)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物              アキラ      
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・173『化学の講師はガタピシ男』

2025-01-22 15:00:49 | 小説
(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記

173『化学の講師はガタピシ男』  




 化学の富永先生が休職された。


 去年の秋ぐらいから具合が悪かったらしく、お医者さんからは――仕事をお休みになって治療に専念された方がいいですよ――と言われていた……と担任のハナちゃんが朝礼の時、固い表情で告げて、クセのある前の引き戸を器用に開け閉めして出て行った。

 窓や戸をキッチリ閉めても冷気が忍び寄るポンコツ校舎なので、キチンと開け閉めするのは、先生も生徒も必須のスキルなんだ。

「花園先生のお父さんも北支からの引揚者ですからねえ」

「ホクシ?」

「え、ああ、中国ですよ、中国の北の方」

「あ、ああ」

 入学以来の親友も、やっぱり昭和人。同じ17歳だけど、生まれはゴジラと同じ昭和29年。たまにだけど、今みたく、とっさに言葉が分からないことがある。

「実験室を温めていたのも、自分の健康のためだったんだなぁ……」

 アンパンを頬ばりながら十円男。

 アルバイトでは、ちょっとだけ見直してやったけど、今の一言はいただけない。

「不謹慎だぞ」

「え、ああ……すまん」

 以前なら鼻で笑うか、批判的シカト面になった奴だけど「すまん」の三文字が言えただけ進歩と許してやる。

「今日の化学は教室、代わりの先生が来るからな」

 さっそく調べて来たんだ。委員長の高峰君が教卓で簡潔に説明。むろん引き戸はキチンと閉めてる。


 かくして、二時間目の化学はひざ掛けを下半身に巻き付けて代わりの先生を待つ。


 ガタ ガタピシ ガタガタ

 
 前の引き戸をガタピシ言わせながら代わりの先生が入って来る。大学を出たばかりという感じのニイチャンだ。

「起立」

「あ、そういうのはいいから」

 高峰君の礼節を手をヒラヒラさせていなすと、そいつは出席をとることも無く、黒板に名前を書いた。

 樫山文男

 意外という感じの「え?」と、主に女子のクスクス笑い( ´艸`)が起こる。

 なんでクスクス?

「一字違いだけど『おはなはん』とは関係ない。学年末テストまで一か月だけど、富永先生に代わって君たちの化学を受け持ちます。むろん、学年末テストも僕が作るから、そのつもりで」

 それだけ言うと、とっとと授業を開始する樫山文男。

 一時間、仏頂面で授業をやると「今日はここまで」と宣言して同時に二時間目終了のチャイムが鳴る。

 キンコーンカンコーン……

 終わりの起立・礼も、むろん省略して、ガタ! ピシ! 力技で戸を開けて出て行ってしまった。

 なんかムカつく若造だ。

 あとでググると『おはなはん』は4年前に爆発的にヒットした朝ドラと分かる。主演は樫山文枝さんというメチャクチャ可愛い女優さんだった。

 午後からは室内温度が18度を超えているとかでストーブは無し!

 このムカつく話題は次回!

 
☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
高峰 秀夫             2年3組 委員長
吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              2年学年主任
先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  長瀬(保健部長)  藤野先生(大浜高校) 樫山文男(化学の講師)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物              アキラ      
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 

 


 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・172『近ごろ化学の授業は化学実験室』

2025-01-18 09:35:18 | 小説
(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記

172『近ごろ化学の授業は化学実験室』  




 二学期の終り頃から化学の授業は化学実験室。

 と言っても、とくに実験をするわけじゃなくて、ずっと座学なんだけどね。


 なぜかというと寒さしのぎのためなんだ……聞いたわけじゃないんだけどね。

 先生は、あと一年で定年という富永先生。

 終戦までは満州の中学で教えていたというんだから寒さには強いはずなんだけどね。

 化学実験室にはストーブが二つある、実験室の前と後ろ。実験室だから、ガス栓は実験テーブルに一つずつあるしね。

 窓のカーテンは閉められていて、カーテンをめくるとすき間のできる『横滑り窓』にはゴムのパッキングがしてある。隅っこではスタンド付きの扇風機が首を振って空気をかき回してくれて部屋が均一に暖まるように工夫がされている。

「精神論言わないところがいいですね(^▽^)」

 ロコがストーブにあたりながら先生を褒める。部屋の暖かさに文句は無いんだけど、ストーブが点いてると、とりあえず集まってしまう(^_^;)。

「だよね、小学校の頃さ『体中顔だと思えば寒くない!』とか言われなかった?」

 たみ子が言うと「うんうん」とか「そうそう」とかの合いの手が入って、「顔が寒いんだからしょうがないよねえ」とか言って笑う。

「ほんとうに寒いところに居た人は、精神論じゃなくて、きちんと対策してるものなんだね」

 富永先生は半年かけて満洲から引上げてきたらしい。笑顔がそのまま顔のしわになったような人だけども、抑留もされずに引き上げられたのは相当な工夫と苦労があったと思う。

「独身だったからなんでしょうね」

 真知子がポツリと言って、「「ああ……」」とみんなが納得。

 親はみんな戦争を体験している。それも学童疎開とかじゃなくて、リアルに兵隊だったり女子挺身隊だったり。中には引揚者の親も居て、そういう機微は21世紀生まれのわたしには想像つかないところで理解してるんだ。

「春になったら、一年のときみたいに花見にいきたいわね」

 加奈子が水を向けてきて思い出した。

 おたふくでパンとか買って、みんなで宮之森城址公園に行ったんだ。

「そうですね、こんどはちゃんとしたお弁当持っていきましょう!」

 ガチャ

 ロコが小学生みたいに手を挙げた時、準備室との境目のドアが開いた。

 富永先生かと思ったら、実習助手のAさん(名前憶えてない)がぶっきらぼうな顔で宣言する。

「先生のご都合で自習。ここは閉めるから、教室に戻って。いいわね」

 そういうと、前のストーブを切って、こっちにやってくる。なんか、消されるのヤなんで、自分たちで消して廊下に出る。

 背中を丸めたり、ポケットに手を突っ込んで廊下を行く。

 化学準備室から教室へは三年の廊下を通る。

「半分もいないわねえ……」

 加奈子が微妙に棘のある言い方をする。

「ああ、もうすぐ卒業ですからねえ」

 そうなんだ。去年もそうだったけど、三学期になると三年生は半分も来ない。授業もほとんど自習みたいだし。

 ルーズというかファジーというか。

 図書室か学食という選択肢もあったけど、それは、なんだかいけないような気がして、みんな真面目に教室に戻った。

 


☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
高峰 秀夫             2年3組 委員長
吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              2年学年主任
先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  長瀬(保健部長)  藤野先生(大浜高校)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物              アキラ      
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 

 

 


 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・171『ちょっとコラージュ』

2025-01-14 14:36:54 | 小説
(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記

171『ちょっとコラージュ』  




「ああ、これじゃダメだ」

 そう言うと直美さんは焼き付けたばかりの印画紙を左のトレーに入れた。

 左はボツ、右が合格品を収めるトレー。左には四枚入っていて、右は空のまま。

「一息つこう」

 直美さんは、わたしを促して現像室を出た。



 二年生も三学期、高校生活も2/3が終わってしまって、あれこれがルーチンというか慣れてしまった。それは前回も言ったよね。

 じつは写真館のバイトもそう。

 事実上の館主である直美さんの助手をやってるんだけど、仕事の八割以上は結婚式場の記念写真。

 だから、人から「なんのバイトやってるの?」と聞かれたら「結婚式場です」と答えてしまう。

 慣れてしまうと、特別に語ることも無くなってきて、改まってお話することもないんだけど、成人式の前日に特別な結婚式があった。

 新郎は25歳のサラリーマン、新婦は短大を出たばかりの20歳。

 新婦は光子さんといって、ほんとは高校卒業と同時に結婚して、新郎の鈴木さんといっしょに新郎の赴任先であるアメリカに行くところだった。

 しかし、高三の夏に脳腫瘍であることが分かって、結婚は延期。

 光子さんは健気な人で、短大に通いながら病気の治療に励んだんだ。

 なにもしないで病気の治療をするんじゃなくて、人生、なにごとも前向きで田中さんの横を歩いて行きたかったんだ。

 短大で保育の勉強をして、結婚したら自分も保母さんとして働く。ただ、漫然と病院に通って、いつかは入院。そして、ずっとベッドの上で病人として過ごすのは嫌だったんだね。たとえ、週に三日とか四日しか通えない短大でも目的のある生活を送りたかったんだ。

 田中さんは、会社に頼んで光子さんが治るまでアメリカ行きを伸ばしてもらった。

 でも、光子さん、去年の6月には入院せざるを得なくなった。

「June bride じゃなくってjune patient(六月の病人)だね」

「なに言ってるんだ、前向きに行くんだろ。予定通り成人式に合わせて結婚しよう、式場も予約しよう」

「……うん、そうね」

 でも、光子さんは結婚式に間に合わず、クリスマスの前の日に神に召されてしまった。


 でもね、田中さんは結婚式を挙げることにしたんだ。


 披露宴は無し、神前のお式と写真撮影だけの結婚式。

「ねえ、なんとかならないのかしら?」

 なんだか胸に迫って来て、須世理姫である采女さんに声をかけた。大晦日の埼玉では、あれだけの奇跡を見せてくれたんだ。ひょっとしたらと思ったんだ。

「無茶いわないでよ、伊邪那岐命(イザナギノミコト)だって、奥さんの伊邪那美(イザナミノミコト)を生き返らせることはできなかったのよ」

「やっぱし……」

 光子さんは顔なしのマネキンに花嫁衣裳を着せて、式と写真撮影を行った。

 顔のところは、光子さんの別の写真から切り取ってはめ込んだもの。

「でも、アングルとか光の当たり具合とかに不自然さは無いですよ」

「うん、プロだからね、あたし」

「だったら」

 直美さんは春のコンテストに出す作品も手掛けている。そんなに時間をかけているわけにもいかない。

「空気感が全然違う」

「ああ……」

「でも、納期は迫ってるし……安請け合いしちゃったかなぁ」

「あのう、ちょっと借りていいですか?」

「え?」

 知り合いにアマチュアの写真家が居る……ということで、式場でのネガとコラージュ用の写真を借りた。


 家に持って帰って、AIのツールを使って創ってみた。


 あっという間に十枚ほど出来あがった。

 直美さんは「すごいすごい!」を連発して、そのうちの二枚を表装して田中さんに送ってあげた。

 ほんとうは十秒の動画も作ったんだけど、さすがに21世紀のAI技術を晒すわけにもいかない。

 花嫁衣装で旦那様と向き合って一言二言喋って、こちらを向いてニッコリ。

 上出来なんだけど、ファイルにしまって、そっ閉じにした。


☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
高峰 秀夫             2年3組 委員長
吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              2年学年主任
先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  長瀬(保健部長)  藤野先生(大浜高校)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物              アキラ      
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・170『年度末と防寒対策』

2025-01-14 14:24:36 | 小説
(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記

170『年度末と防寒対策』  




 三学期が始まって三日目の朝、いつものようにロコと駅を出たところでいっしょになって学校を目指す。

 ガガガガガガ ガガガガガガ ガガガガガガ

 交番の前を通って商店街に入ったところで、盛大に道路工事をやっている。

 さすがに塞がっているのは道幅の半分なんだけど、通勤通学の邪魔。

「迂回しますか」

 二年の三学期ともなると近隣の地理に明るくなって、相談しなくてもう回路に足が向く。

「年度末が近いから、駆け込み工事が増えるんですよね」

「駆け込み?」

「市とか県の予算ですよ。使い切らないと来年度の予算減らされますからね」

「そうなん……ウワ!」

 ちょっとした舗装の段差に引っかかって、ロコが咄嗟に手を引いてくれて助かる。

「あ、ありがとう(;'∀')」

「ここはクリスマス前に工事したとこですねえ、舗装工事は向こうと合わせて来年度予算といったところですね」

「アハハハ……来年度予算ねぇ(^_^;)」

 これだけの工事なのにガードマンも付いていないし、案内板すらない。

 だいたい通学時間帯の通学路の道路工事なんて反則だと思う。まあ、片側封鎖だし、昭和的ファジーさと嘆きの虫を押し殺して学校へ急ぐ。

 ロコはいつも通りにカバン一つ。わたしはカバンを右手に、左手で紙袋を抱えている。この紙袋で足元が視界不良になってるんだ。

「ああ、窓際になったんですねぇ……」

 ロコも思い当たって、今さらながら同情してくれる。


 実は、昨日の席替えで入学以来初めて窓際になったんだ。


 宮之森はいちおう鉄筋校舎だけど、中身はポンコツ。

 教室のドアは鍵も掛からない木製で、教室は年に二回は油びきが必要な板張り。

 むろんエアコンなんてあるはずもなく、冬の暖房は教壇横のガスストーブで間に合わせている。

 間に合わせているというのは、他にも改善しなきゃならないところがあるからなのよ。

 それが、南側の窓。

 窓枠は、さすがに木製じゃないけど、令和じゃ常識のアルミサッシでもない。

 なんと鉄製!

 それも左右に開く引き違い式じゃなくて、まるで車のハッチバック!

 下の方に真鍮のクランクというか掛け金があって、それを横にクイっと倒して外側に押す!

 すると窓は0度~45度くらいに傾斜して、傾斜した窓の上と下から空気が出入りするというシロモノ。

 密かにググると『横滑り窓』というらしい。気密性が高いのが売りらしいけど、ゴムとかシリコンとかのパッキングが無いものだから隙間風がハンパない。

 横滑り窓の上にはスライド式の窓もあるんだけど、こいつも隙間風を遮断するようにはできていない。

 この隙間風と、一重の窓から容赦なく忍び寄る寒気防止のための防寒具が必要なわけ。

 毛糸のひざ掛けと座布団。

「もうちょっと魔法が使えたら、妖気の膜を張って寒さなんて一発で克服できんのにね」

 お祖母ちゃんは、わたしを本物の魔法少女にしたくて余計なことを言うけど、その手にはのらない。

 それに、ストーブなんだけど。暖気は全部教室の上1/3ぐらいのところに溜まって降りてこない。

 埼玉の茶畑にあった防霜扇を付けて欲しいと思った。

 一時間目が終わって、わたしの後ろになった加奈子が質問してきた。

「ねえ、ずっと指を回してたけど、なんなのあれ?」

「え、ああ……寒さで指が凍えそうで……アハハハ(^_^;)」

「え、ああ、そうなんだ……」

 不得要領な顔の加奈子。

 実は、魔法で教室の空気を循環させようと無駄な努力をしていた。

 壁の向こうの覗き見魔法しか使えないわたしには無理な魔法なんだけどね、溺れる者は~的な悪あがき。

 まあ、手首だけは、ちょっとだけ暖かくなったかも。


 
☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
高峰 秀夫             2年3組 委員長
吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              2年学年主任
先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  長瀬(保健部長)  藤野先生(大浜高校)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物              アキラ      
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・169『二回目の三学期が始まった』

2025-01-08 11:01:20 | 小説
(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記

169『二回目の三学期が始まった』  




 ああ……雪だぁ…………


 戻り橋を渡ったわたしは盛大にため息をつく。

 吐いた溜息は即自動車の排気みたく白く目の前にわだかまる。

 今年は寒さひとしおの令和だけども、昭和の一月は、その上を行く。

 地球温暖化なんてウソだと思ってるけど、今朝の温度差を実感すると、感覚的に「そうなんだ」と思ってしまう。

 橋の向こうの令和は例年よりは寒いというだけだけど、昭和の方は夕べ降った雪が氷になって、うっかりしているとグリップの無いローファーでは簡単に滑ってしまう。

 ウワッ!  ムシシシ(((*`艸´)))

 言ってる尻から滑って、集団登校の小学生が遠慮なく笑いやがる。

 ウオ! キャ! ウワ!

 ププ( ´艸`)

 言った尻からガキどもも滑って笑ってしまう。

 やつらもわたしも今日から三学期。

 心を引き締めて学校に向かう。


「教室でのホームルームの前に生徒全員で大掃除をします。暮れの掃除が行き届いていないところもけっこうあります。気を引き締めて掃除に掛かるように。出席番号の奇数は教室、偶数は特別清掃区域。時間は20分。終了は放送で伝えます。かかれ!」

 保健部長の長瀬先生が朝礼台で号令かけて開始。

 ほとんどの先生たちは、そのまま職員室や教官室に戻ってしまう。

 この寒空、屋外で始業式というのも常識外れだけど、そのまま大掃除をさせるのもどうかと思う。

 先生はヌクヌクとストーブにあたってお茶とか飲んでるし、ろくに付き添いもしないし。

 10円男たちがやってた学園紛争はアホかと思うけど、今朝みたいに生徒を使ってると、奴らの言い分にも理はあると思うよ。

「雑巾がけどうする((((;゚Д゚))))?」

 体を揺すりながらたみ子が聞く。両方のポケットに手を突っ込んで言うから――やりたくない――という気分が漏れまくり。大晦日に麗しく巫女舞やってた人とは思えない。

「男子、サボってるしねぇ」

 そうそう、男子で真面目に掃除してるのは、ほんの二三人。

「お湯を確保してくるよ」

 ほんの二三人の中には10円男も居て、それだけでビックリなのに、雑巾がけの為にお湯を確保すると、どこかに行ってしまった。

「お湯無くても、雑巾ぐらいかけるけど……」

 日ごろ部活でやってる佳奈子は気軽なもんで、すでに人数分の雑巾を確保している。雑巾は、四月の配給から八カ月を経過して、定数分揃ってるクラスは多くない。10円男の気の周りようは、やっぱり伊勢半でバイトしたことが実ってるんだろうね。

「あ、戻ってきました」

 ロコが窓の外を指さす。10円男は技能員室でお湯を確保したみたいだ。

 なんだかバイトの延長みたいな感じで掃除を終えて五分余った。

「先生呼んできて、さっさとホームルーム終わらせよう」

 真知子が提案して二人で花園先生を呼びに行く。


 ワハハハハ ヒャヒャヒャヒャ クスクスクス


 職員室では三つのストーブに群がって先生たちが盛り上がっている。聞くつもりも無いんだけど、話題は株と土地の話し。まあ、冷静に見れば、自分の机で黙々と仕事の先生もいるんだけどね。

「先生……」

 小さく声をかけただけで花園先生は小さく頷いて、ホームルームのあれこれを持って立ち上がる。

 まあ、宮之森の標準よりはよくできた担任、よくできた生徒たち。

 
 二回目の三学期が始まった。




☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
高峰 秀夫             2年3組 委員長
吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              2年学年主任
先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  長瀬(保健部長)  藤野先生(大浜高校)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物              アキラ      
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・168『スセリヒメの生姜湯』

2025-01-04 15:20:07 | 小説
(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記

168『スセリヒメの生姜湯』  





「ここの神さまは古い友だちなのよ」


 チマチマとミカンの皮をむきながらスセリヒメ。

「え、友だちだったんですか? って、ここの神さまは……」

 やばい、巫女の助勤しながら神さまの名前も憶えてなかった(^_^;)

「いやだぁ、御祭神の名前も知らずに巫女やってたのぉ(¬д¬)!?」

「ド、度忘れよ(>〇<)」

「『なにごとの おわしますとは知らねども かたじけなさに なみだこぼるる~』かなあ」

「なにそれ?」

「西行法師がね、とある神社に立ち寄ったんだけど、なんの神さまか分からないけど、ありがたさに涙が出てきたって詠んだ和歌よ」

「え、あ、ああ、それですよ、それ!」

 よう知らんけど西行と言えばえらい歌詠みの坊主。西行も同じなら、わたしもノープロブレム!

「ここの神さまはね秩父谷戸姫(チチブヤトヒメ)って言うの」

「あ、女神さまなんだ」

「え、女神さまってことも忘れてたぁ?」

「え、ああ……」

 思い返すと、頼政さんの車を降りて拝殿の前で一礼して、巫女の練習で玉ぐしを捧げたりとかの練習はしたけど、御祭神については教えてもらってない?

 シューージジジーーー

 火鉢に掛けたヤカンが湯気を噴く。怒っているようにも笑っているようにも思えた。

「わたしの亭主知ってるでしょ……」

 コポコポコポ……

 ヤカンのお湯を湯呑に注ぐスセリヒメ。

「あ、オオクニヌシさん」

「うん。いちおう大国主の奥さんはわたしなんだけどね、大国主は、あちこち出かけては女に手を出してねぇ……まあ、あれでも出雲の大神だから、多少のことはね」

「ああ、福井とか新潟あたりまで出かけたんですよね」

「うん、でも、まさか埼玉まで足を延ばしていたとは……」

「え、知らなかったんですか?」

「いや、まあ、最後には分かったんだけどね。大国主はウソ下手だから……」

「そうなんだ」

「で、まあ、一度はヤマタノオロチの息子どもを連れて出張ったんだけど」

 ボ!

 かき回した火鉢の炭が小さな爆炎を上げた。

「でもね……じっさい会ってみたら、けっこういい娘でねえ。ヤマタの息子どもも『こんなに美しい谷川は見たことも無い』って言うしね。それで、気が付いたら友だちになっちゃった」

「え、そうなんだ」

「それに、グッチが写真館のバイトで来るようになってから調子も良くってさ」

「あ、文化祭じゃお世話になりましたぁ(^_^;)」

「そうよ、あの後、特に調子よくてさ。やっぱり神さまって言うのは、みんなが喜んでくれると力が出るわけですよ。ウエディングパラダイス、またやろうね!」

「え、ああ……」

 ウエディングパラダイスは大成功だったけど、佐伯さんが自殺未遂をやっちゃって、このスセリヒメが大汗かいて黄泉平坂から連れ戻してくれたんだ。

「一時は植物人間とか言われてたんだけど、なんとか元に戻りそうなんだ」

「え、そうなんだ!」

「まあ、あれだけ噂になったから復学はしないだろうけど、新しい学校で頑張ってくれたらと思う」

「よかったあ」

「それでね、グッチたちがこっちに来るのを知って、ヤトヒメとも久しぶりだったし、ちょっとテンション上がっちゃったわけよ……ハイ、生姜湯。これ飲んで三が日がんばってね」

「わあ、ありがとう」

「他の子の分は置いておくから、お湯に溶かして飲ませてあげて」

「はい」

 一口すすると、生姜の少し刺激のある甘さが口に広がり、スイッチが入ったみたいに体が温まる。

 ウワァ~~~~~

 その心地よさに思わず目をつぶってしまう。

 再び目を開けるとスセリヒメの姿は消えていた。




☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
高峰 秀夫             2年3組 委員長
吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              2年学年主任
先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物              アキラ      
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 

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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・167『昭和の巫女はきつい』

2025-01-04 15:10:44 | 小説
(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記

167『昭和の巫女はきつい』  





 ジョキンと聞いて、あの忌まわしいコロナを思い出すのは令和のJKだ。

 中学の時は学校がまるまる半年も休みだったし、除菌、殺菌、消毒とかうるさく言われたよ。


 でもね、昭和47年のジョキンは助勤のことなんだ。

 巫女バイトが決まった時にお祖母ちゃんに言ったら、こんな話をした。

「ああ、助勤と言えば新選組だねえ」

 想像の斜め上を行く感想なんで、こっちがビックリしてしまう。

「なに、ナントカ太郎とかがやってる政党?」

「ちがうちがう、近藤勇の新選組。局長の次に偉いのが助勤て言って、沖田総司が一番隊の助勤をやってたんだよ。新選組じゃ一番若いのにさ、永倉新八とかのオッサンと並んで立派にやっていたんだよぉ」

「え、お祖母ちゃん、新選組の時代から魔法少女やってたの(ㅎ.ㅎ)?」

「ん、んなわけないだろ(''◇'')!」

「だよね、今度巫女のバイトやるんだけど、正確には助勤て言うんだよ」

「え、そうなの? 昔は巫女は巫女だったんだけどねえ」

 ウプ!

 そんな数日前のスカタンを思い出して、お茶を噴き出しそうになる。

「だいじょうぶですかぁ?」

 同じ休憩組のロコがコタツに潜ったままおざなりな返事。ロコの隣で横になってる真知子は返事もしない。

「ううん、ちょっとむせかえっただけ」

 慣れない助勤の仕事と寒さでグロッキー、そっとしといてあげよう。この律義者は話しかけられたら必ず返事を返してくる。休憩時間はそっとしておいてやるに限る。真知子はほんとに寝てるみたいだし。

 ロコほどじゃないけど、たしかに、この助勤の仕事はきつい。

 とにかく寒い。

 巫女服、いや巫女装束ってのは白衣に緋袴。むろん下にはババシャツに厚手のタイツ、足袋は重ね履き。ほんとは使い捨てカイロを背中とかに貼りまくりたかったけど、使い捨てカイロは、もう5年しないと発明されない。

 授与所には電気カーペット、後ろにはストーブ焚いてもらってるんだけど、なんせ初詣。

 授与所の窓は開けっ放し。宮司の頼政さんが工夫してくれて、工事用のライトを四つ吊るしてくれてる。ケンタとかマックとか、商品が冷めないようにライトあててるでしょ。授与所のためだけに発電機も回してもらってるんだけど、それでも寒い。

 それにね、授与所と言えばお御籤なんだけど、令和みたく自動販売機じゃない。

 お客さん、いや参拝客の人が「お御籤お願いします」と言ったら、巫女がお御籤をひくんだよ。ほら、でっかい木製のシェーカみたいなの。あれをガシャガシャやって「○○番です」と参拝客に示してから、100の小引き出しからお御籤を出して渡す仕掛け。

 自分で引けよって思うんだけど、これがA町のしきたり。自分で引いたらありがたみがないんだとか。

 JC巫女たちは、ほとんど、このお御籤要員と言っても過言じゃない。参拝客も巫女の正体が、近所のA子ちゃんとかY子ちゃんだとか分かってるんだけど、巫女の姿をしていたら神さまのお使いになるわけですよ。

 とにかく元気だしね。

 令和じゃ、映画や芝居の子役だって午後9時以降は働かせちゃいけないことになってる。

 21世紀になったらどうするんだろうね、と余計な心配をしてしまう。

 わたしも、まあ、なんとか務まってる。たぶん、直美さんとこのバイトと、年末のバイトで慣れてるんだ。

 たみ子は、拝殿で高峰君といっしょに頼政さんのお手伝い。ガラス窓の外では、そういう新年早々の神社の営みが静かに進行している……夕べ扉が開いて神さまみたいなのが光になって現れて、あの時のどよめきが嘘みたいに静か……静かすぎる……と思ったら、二重のガラス窓だった。

 ガラスに、コタツにも入らずの巫女姿が映っている。

 え?

「やぁ、わたしも昨日から来てるの」

 場所がら、全然違和感はないんだけど、この場に居るはずのない、御神楽采女さん。

 巫女服姿だけども、この人は宮之森と大浜限定の巫女さん。

「アハハ、いちおうは神さまなんだよ(^_^;)」

 そうだ、この人の本性はスセリヒメ。

 だけど、なんで埼玉に?


 
☆彡 主な登場人物

時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
滝川                志忠屋のマスター
ペコさん              志忠屋のバイト
猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
辻本 たみ子            2年3組 副委員長  伯父:武藤頼政
高峰 秀夫             2年3組 委員長
吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
藤田 勲              2年学年主任
先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫 キタマの面倒を見ている
早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
妖・魔物              アキラ      
その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
安藤さん              伊勢半のバイトでいっしょになったおばさん、お茶の先生
灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 

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