頑固爺の言いたい放題

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乃木希典将軍の評価

2016-08-03 15:37:18 | メモ帳

数カ月前、司馬遼太郎の「坂の上の雲」1-6巻を再読した。数十年前にもベストセラーだった同書を興味本位に読んだが、この度の再読は「なぜ日本は朝鮮を植民地にしなくてはならなかったのか」を知ることが目的だった。朝鮮問題はともかくとして、再読で強く印象に残ったことは、乃木希典将軍がまるきりの阿呆と評価されていること。

私が軍国小学生だった頃、乃木将軍と言えば、日露戦争においてロシア軍が立てこもる旅順要塞を陥落させた国民的英雄で、明治天皇に夫妻で殉死し、乃木神社の祭神になった現人神(あらひとがみ)、とう認識だった。それが「坂の上」では、要塞の中から機関銃を打ちまくるロシア軍に対し、何度も何度も肉弾攻撃を繰り返し、数千人を死なせる結果を招いた愚将、という評価である。正直申して、私は‘なるほど、そういう観方もあるのか’と驚きつつも納得した。

ところが、つい最近読んだ「乃木希典と日露戦争の真実」(桑原獄著 PHP新書 2016年7月刊)では、乃木将軍の戦術は正しかった、と評価し「坂の上」とは真逆である。副題は≪司馬遼太郎の誤りを正す≫であり、司馬遼太郎の記述がいかに独断と偏見に満ちていたかが軍事専門家の視点で詳しく説明されていて、説得力がある。私は‘えっ、そうだったの?’とまたびっくり(主体性がないねぇ)。

著者の桑原氏がどんな人物かというと、昭和14年に陸軍士官学校を卒業、中国各地で実戦を経験、昭和19年に陸軍中野学校を卒業後、インドでインド国民軍に参加、戦後陸上自衛隊に勤務したというバリバリの軍事専門家。退官後中央乃木会(乃木神社の崇敬団体)に勤務し、「坂の上」等の司馬氏の著作があまりにも真実からかけ離れていることに憤慨し、司馬氏の乃木像に反論する論考を中央乃木会の機関誌に発表(昭和60年前後)。その論考を中央乃木会が出版し、それがこの度新書版として復刊されたといわけだ。

司馬説と桑原説を比較すると、信憑性に関しては桑原説の方が正しいことは確かである。しかし、桑原氏は乃木将軍の人命軽視戦術を肯定している。時代とともに価値観は変化するとはいえ、情緒的には「何千人もムダに死なせた」と乃木将軍を批判する司馬説を全面的に退ける気にはなれないのである。