このブログで数回取り上げたハーバード大学のラムザイヤー教授の慰安婦に関する論文に関して、韓国と米国で激しい批判が巻き起こり、韓国の新聞は連日この問題を取り上げた。しかし、論争はようやく収束して、このところ韓国のマスコミの関心事ではなくなったようだ。
一方、論壇誌の「正論」「WILL」「HANADA」の5月号は、いずれもこの問題に関する論文を掲載しているので、各論者の意見を参考にしつつ、ラムザイヤー事件を総括してみたい。
発端は1月31日の産経新聞が、ハーバート大学のラムザイヤー教授が発表した学術論文「太平洋戦争における性サービスの契約 (Contracting for sex in the Pacific War)」の要旨を報じたこと。その内容は<慰安婦は契約に基づいて、日本軍兵士に対して売春ビジネスを行った>というものである。その詳細と経過については、当ブログの1月31日、2月2日、2月14日、3月2日、3月10日の投稿をご覧頂きたい。
産経新聞の記事でこの論文に気づいた韓国人(在米韓国人を含む)は猛烈なラムザイヤー攻撃を繰り広げた。韓国人がいきりたったわけは、この論文が<慰安婦=性奴隷説や日本軍による拉致説>を否定することになり、慰安婦運動の大義が地に堕ちてしまい、韓国の道徳性は土台から音をたてて崩れてしまうからである。
この韓国人のラムザイヤー攻撃には問題点が二つあった。
- 契約書の欠如は当然
在米の韓国系学者たちは、「慰安婦たちが契約に基づいて行動したのなら、その契約書を提示すべきだ」と主張した。しかし、契約は口頭の約束だけで成立するものであり、かりに当事者が契約書を作成したとしても、事が終われば廃棄しただろう。私文書を保管しておく理由はまったくない。だから、契約書の提示を求めることは無意味なのである。
- 個人攻撃は不当
韓国人たちは、ラ教授が日本育ちであることや、日本企業の紐付きであることを挙げ、日本贔屓だから事実を歪曲して、日本に有利な論文を書いたと主張した。しかし、ラ教授は資料に基づいての論理的帰結を論文にまとめただけである。韓国人たちは感情的にいきりたつのではなく、論理で反論すべきだった。
結論として、ラ論文は韓国人を困惑させたが、慰安婦問題を終結させるには程遠いものであった。その理由は二つある。
- 沈黙した日本のマスコミ
ラ論文を報じたのは産経新聞だけだった。爺は読売新聞も講読しているが、ラ論文についてはまったく黙殺した。朝日と毎日はしっかりチェックしたわけではないが、読売と同様だったと推測する。一方、韓国の大手紙の日本語版は、この2月から3月にかけて、連日この話題を報じていた。
日本のマスコミが産経新聞のスクープの後追い記事を書きたくなかった気持ちは理解できるが、韓国のマスコミの大騒ぎはニューズヴァリューが十分にあったと思う。彼らは日本のマスコミの報道に神経を尖らせており、歴史問題に関する日本のマスコミの見解は必ず韓国で報道される。
なので、日本のマスコミはラ論文を性奴隷否定論と捉え、ラ教授を援護すべきだった。まるで、無死満塁の絶好のチャンスに、中軸打者3人が打つ気なく、揃って見逃し三振したようなものである。
- 河野談話の足枷
ラ論文は間接的に日本軍による女性拉致を否定するが、韓国側は拉致を肯定した河野談話*との矛盾を突いてきた。河野談話が否定されない限り、慰安婦問題は根本的には解決したことにはならない。
結論として、この事件は韓国人の非論理性を浮き彫りにしたものの、韓国人は喚き散らすことで弱味を揉み消すことに成功した、という印象を受けるのである。
*(注)河野談話は日本軍の非人道性を謝罪したものであり、そして口頭で日本軍の拉致を認めている。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます