最近、コロナのために出不精になり、本は新聞広告を頼りにしてネットで買う。その流れで、12月下旬の新聞広告を見て、山口正之著「中国への断交宣言」(以下本書)(新潮社 2021年12月15日刊行)を購入した。
この著者の名前はWiilやHanadaでお馴染みだし、タイトルから判断して中国をこき下ろす内容だと推測できる。多分、ウィグルでの人権蹂躙、香港における民主化運動の弾圧やインチキ選挙、台湾に対する武力威圧などの中国の傍若無人ぶりがテーマだろう。中国の理不尽な振る舞いには爺も呆れているので、識者の意見を知るのもよかろう、と考えことが本書購入の動機である。
ところが、読み始めると内容がなんとなくしっくりしない。「温家宝はいったい何しに日本にやってきたのか」で始まる文章があったので、“はてこれはいつ書かれたのか”、と不審に思い、その項の最後を見て驚いた。なんと、(2007年5月24日号)とあるではないか。今から15年前に書かれた文章らしい。「号」とあるから、週刊誌に掲載したエッセイを転載したのだろう。
そこで最後のページを開いたら<本書は小社刊行の「変見自在」シリーズより再録し再編集したものです>とある。だが、この文章は論理的に成立しない。なぜなら、新潮社に「変見自在」シリーズという刊行物はないからである。この文章は<小社刊行の週刊新潮に掲載している「変見自在」シリーズより再録し再編集したものです>とするべきではないか。
表紙に<変見自在セレクション>とあるのは、そういう意味であることがやっとわかった。そういわれてみれば、時々買う週刊新潮にそういうエッセイ・シリーズがあったような気がする。
そこで、本書の各項の日付を調べると、最も古いのが2006年1月で、最新が2020年3月9日だから1年10カ月前である。発表済の論考やエッセイを単行本にすることはよくある。しかし、15年前から1年10カ月前までに発表したエッセイを、さも最新の話題を集めた単行本のように装うとはいい度胸である。
内容も<再編集した>にしては疑わしい箇所がある。例えば、「格安中國航空は命も安い」という見出しの項に次のような箇所がある。(赤字)
中国に下水はない。生活排水も工業廃水もみなドブに捨て、それが長江に流れ込む。流入汚水は「年間約300億トン」。油脂に重金属も入って、それがコロイド化して長江の流れに適度なトロミをつける。
中国の環境汚染はよく知られたことだが、このエッセイの日付は2012年12月とある。いくらなんでも、この10年の間に長江の水質は改善されているのではなかろうか。
さて、本書の題名は「中国への断交宣言」であるが、内容はその題名とは無関係であり、最近の中国の理不尽ぶりについてはまたく触れていない。これではまさに羊頭狗肉である。本書に書かれていることには共感するが、全体としては古本を新刊書として購入したような印象である。
出版社と著者の立場から見れば、古い文章を集めて新刊書にしたら手間がかなり省けるから、グッドアイディアである。だが、こんな商法が倫理的に許されるのか。出版社だけではない。著者の高山正之も同罪である。
新潮社は日本の一流出版社だと思っていたし、著者もこれまで贔屓にしていただけに裏切られた感がある、残念である。
本のタイトルを見て、溜飲を下げようと
ネットで買ってしまった爺さんの粗忽さも
だらしないですな。
おおせのとおりです。書店で中味をパラパラめくればすぐ気づくことですが、ネットではそれができないから、こういうミスを冒す。しかし、そのミステークのお蔭で、出版界を批判するネタができた。プラスマイナス・ゼロでしょうか。
さすがです。お見それしました。
お褒め頂き有難うございます。やせ我慢ですけどね。(笑)