欧米でラーメンがブームらしい。日本文化が世界で認められることは嬉しいことだが、ラーメンがなぜ人気を呼ぶのか。
もちろん美味しいからに相違ないが、寿司がブームになって何十年も経ってから、ラーメンがブームになったのはなぜなのか。私は某商社を早期退職後2006年までの10数年、ロサンゼルスで日本食レストラン業界向けの情報誌を発行していたので、当時の資料から最近のラーメン・ブームの背景を振り返ってみたい。
1975年ごろ、ニューヨークに「札幌ラーメン・どさんこ」が華々しく登場し一時9店舗になったが、90年代半ばに撤退した。ロサンゼルスでも日本のモスバーガーが「ミコシ」というネーミングでラーメン店チェーンを始めたが、数年で消えた。
それ以前にもラーメンがアメリカになかったわけではない。それは、おなじみのインスタント・ラーメン。日清食品が1970年にアメリカで現地生産を開始、その数年後マルチャンが追従して、熾烈な戦いを繰り広げていた。だから、ラーメンそのものは既に認知されてはいたのだが、ラーメン専門店の追い風にはならなかったのである。
レストランで提供されるラーメンに類似の料理としては、チキン・ヌードル・スープがあったが、ラーメンとはまったくコンセプトが異なる。中国料理店には柳麺または拉麺というスープ麺があったが、スープにコクがないし具も貧弱で、グルメ界の注目を引く存在ではなかった。
後年、ベトナム料理のフォーという野菜がたくさん入ったスープ麺が多少評判になったが、健康志向に凝り固まったごく一部の人々だけのものだった。
一方、1976年ごろにはじまった寿司ブームは、2000年ごろにはアメリカ全土隅々まで広まった。しかし、アジア系人の参入によって質の低下が懸念され、次のスターの開発が日本食業界の課題となっていた。
それでも、ラーメンについては否定的な意見が支配的だった。
「値段がインスタント・ラーメンの30倍から40倍では、味オンチで値段ばかり気にするアメリカ人には受けるはずがないよ」
「スープ麺はしょせん前座の料理。ディナーのメインにならないからね」
「アメリカ人はズルズルと音を立てて吸い込む作業ができないんだ」
「日本食ファーストフードなら、寿司やチキン・テリヤキ丼があるし、経営者はなにもラーメンで冒険する必要はないだろう」
それでもラーメンに挑戦した専門店があった。熊本に本拠がある「味千」である。2001年にニューヨークのチャイナタウンにアメリカ第一店をオープンした。しかし、数年間はパッとせず、苦労したらしい。
風向きが変わったのは2004年に「ミンカ」がオープンしたとき。当初は客の半分以上が日本人を含むアジア系だったが、ニューヨークタイムスに紹介されて白人客が増え、たちまち6割ほどが白人になった。
「ギョウザを肴にビールを飲み、つぎにラーメン。それでは足りずにシソ振りかけご飯を注文する人もいます。アメリカ人に人気があるのは豚骨ラーメン($8.0 現在の為替レートで1,020円)です」(オーナーシェフの鎌田成人氏談)。
「ミンカ(Minca)」の成功の鍵は豚骨スープを採用したこと。コッテリしたスープがアメリカ人に受けたのである。そして、ラーメン・ブームの土台が出来上がったところで、2008年に出店したのが「博多一風堂」。「味千」も勢いづき、カフォルニアに出店を開始した。今では両者ともアメリカでの成功を足掛かりとして、欧州・アジア諸国に出店の輪を広げ、堂々たるグローバルチェーンにのし上がった。
寿司の次のスターはラーメンだったのである。この二品目が中心となって、日本食全体の人気をさらに拡大することだろう。
日本人が経営しているラーメン屋に飛び込んだことがある。醤油味の素朴なラーメンだった。お客は皆日本人。
アメリカの中華で食べた麺はお説のとおりスープ麺で
ガックリきた。しかし海外に行くと、普段そんなに食べて
いないのに、ラーメンを食べたくなるのは何故だろう?