母方の祖母が亡くなったのは、私が小学一年生のときだった。
ちょうど遠足の前日で、「明日は行かれないね」と母に言われた。大好きだった祖母が死んでしまったことより、遠足に行かれないことが悔しくて、泣いて抗議したおぼえがある。
しかし、アルバムを見ると、リュックをしょって水筒さげて、ちゃっかり集合写真に写っている私がいた。記憶はないが、行かせてもらえたようだ。
その年から、春と秋のお彼岸には祖母の墓参りが恒例行事となった。
母には妹3人と弟1人がいて、それぞれ別々の場所で暮らしている。ちょうどこの頃には、都合のいい日を前もって決めておき、姉弟全員でお墓参りをすることになっていたらしい。叔父は、当時健在だった祖父を連れてきた。
「久しぶりねぇ」
「元気だった?」
母は、叔母や叔父と笑顔で言葉を交わすと、まず墓石の掃除に取り掛かる。特に文字の彫り込みに汚れが溜まりやすく、木の枝や雑巾の隅で一生懸命こすっていた。花瓶にも雨水が溜まっているから、叔母たちが水道まで足を運んで洗った。
掃除が終わると花を活け、線香に火を点ける。お供え物を並べて用意が整ったところで、一人ひとりが歳の順に墓前で手を合わせるのだ。
しかし、このあとが長い。線香が燃え尽きるのを見届けてから、お墓参りが終わるのだという。母も叔母たちも、レジャーシートを引いてくつろぎながら、おにぎりやお供え物の和菓子を食べ始めた。大人は話すことが山ほどあるが、子供は退屈で仕方ない。おはぎとフルーツを食べたあとは、時間を持て余した。
私は姉と妹と一緒に、この巨大霊園を探検することにした。墓の数は35000、あるいはそれ以上らしい。えらく広いので、とても全部は回れなかったけれども、200個くらいは見たと思う。3姉妹はあれこれ勝手な批評をしながら、お墓ウォッチングを楽しんだ。
「この苗字、珍しいね」
○○家と書かれた文字が、初めて目にする苗字だったり、フォントが個性的だったりするとちょっと得した気分になる。
「この墓石には十字架がついているよ。キリスト教徒かな?」
キリスト教徒のものと思われるお墓は、どこか洗練されていて垢抜けた感じがした。角ばった墓石が普通なのに、十字架のついているお墓は丸くカットされていたり、球体のオブジェのような墓石だったりした。
家紋を見るのも興味深い。色々な種類があるのだとわかった。
「鶴の家紋ってカッコいいね」
「桐もなかなか」
そのときの実家の家紋は、勾玉が2つのデンデン太鼓のようなものだった。
「……ウチのはダメね」
決して狙ったわけではないが、笹木の家紋は「五三の桐」である。結婚してからそれを知ったとき、私は係長から部長に昇進したような気がした。
「もう線香は燃え尽きたかな? そろそろ戻ろう」
姉に促されて母の元に帰ると、線香は灰になっているのに、大人の話は終わっていなかった。なんのことはない、線香は建前に過ぎず、年に数えるほどしか会わない姉弟が満足するまで帰れないのだ。
「しょうがないな、今度はあっちに行ってみよう」
そして、私たち3人は、見ごたえのあるお墓を求めて、また歩かなくてはならなかった……。
それから30年後の今、偶然通りかかった石材店で、キャラクターものの墓石を見つけた。
これって、ディズニー墓石!?
ミニーちゃんだけでなく、ミッキーも発見した。
隣にはドナルドの姿もあった。
さらに、奥にはスヌーピーもいた。
結婚してから墓参りにはとんとご無沙汰だが、最近ではこんな墓石まであるのかと驚いた。
早速、家に帰ってから、インターネットでキャラクター墓石を調べてみたら……。
墓石じゃなくて、スタチュー(石像)だって……。
大変失礼いたしました!!
だって、墓石と並べて置いてあったんだもの……。
まあ、奇抜な墓石もいいけど、線香が燃え尽きても帰ろうとしない遺族がいるほうが大事かな。
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※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
ちょうど遠足の前日で、「明日は行かれないね」と母に言われた。大好きだった祖母が死んでしまったことより、遠足に行かれないことが悔しくて、泣いて抗議したおぼえがある。
しかし、アルバムを見ると、リュックをしょって水筒さげて、ちゃっかり集合写真に写っている私がいた。記憶はないが、行かせてもらえたようだ。
その年から、春と秋のお彼岸には祖母の墓参りが恒例行事となった。
母には妹3人と弟1人がいて、それぞれ別々の場所で暮らしている。ちょうどこの頃には、都合のいい日を前もって決めておき、姉弟全員でお墓参りをすることになっていたらしい。叔父は、当時健在だった祖父を連れてきた。
「久しぶりねぇ」
「元気だった?」
母は、叔母や叔父と笑顔で言葉を交わすと、まず墓石の掃除に取り掛かる。特に文字の彫り込みに汚れが溜まりやすく、木の枝や雑巾の隅で一生懸命こすっていた。花瓶にも雨水が溜まっているから、叔母たちが水道まで足を運んで洗った。
掃除が終わると花を活け、線香に火を点ける。お供え物を並べて用意が整ったところで、一人ひとりが歳の順に墓前で手を合わせるのだ。
しかし、このあとが長い。線香が燃え尽きるのを見届けてから、お墓参りが終わるのだという。母も叔母たちも、レジャーシートを引いてくつろぎながら、おにぎりやお供え物の和菓子を食べ始めた。大人は話すことが山ほどあるが、子供は退屈で仕方ない。おはぎとフルーツを食べたあとは、時間を持て余した。
私は姉と妹と一緒に、この巨大霊園を探検することにした。墓の数は35000、あるいはそれ以上らしい。えらく広いので、とても全部は回れなかったけれども、200個くらいは見たと思う。3姉妹はあれこれ勝手な批評をしながら、お墓ウォッチングを楽しんだ。
「この苗字、珍しいね」
○○家と書かれた文字が、初めて目にする苗字だったり、フォントが個性的だったりするとちょっと得した気分になる。
「この墓石には十字架がついているよ。キリスト教徒かな?」
キリスト教徒のものと思われるお墓は、どこか洗練されていて垢抜けた感じがした。角ばった墓石が普通なのに、十字架のついているお墓は丸くカットされていたり、球体のオブジェのような墓石だったりした。
家紋を見るのも興味深い。色々な種類があるのだとわかった。
「鶴の家紋ってカッコいいね」
「桐もなかなか」
そのときの実家の家紋は、勾玉が2つのデンデン太鼓のようなものだった。
「……ウチのはダメね」
決して狙ったわけではないが、笹木の家紋は「五三の桐」である。結婚してからそれを知ったとき、私は係長から部長に昇進したような気がした。
「もう線香は燃え尽きたかな? そろそろ戻ろう」
姉に促されて母の元に帰ると、線香は灰になっているのに、大人の話は終わっていなかった。なんのことはない、線香は建前に過ぎず、年に数えるほどしか会わない姉弟が満足するまで帰れないのだ。
「しょうがないな、今度はあっちに行ってみよう」
そして、私たち3人は、見ごたえのあるお墓を求めて、また歩かなくてはならなかった……。
それから30年後の今、偶然通りかかった石材店で、キャラクターものの墓石を見つけた。
これって、ディズニー墓石!?
ミニーちゃんだけでなく、ミッキーも発見した。
隣にはドナルドの姿もあった。
さらに、奥にはスヌーピーもいた。
結婚してから墓参りにはとんとご無沙汰だが、最近ではこんな墓石まであるのかと驚いた。
早速、家に帰ってから、インターネットでキャラクター墓石を調べてみたら……。
墓石じゃなくて、スタチュー(石像)だって……。
大変失礼いたしました!!
だって、墓石と並べて置いてあったんだもの……。
まあ、奇抜な墓石もいいけど、線香が燃え尽きても帰ろうとしない遺族がいるほうが大事かな。
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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)