これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

お手々ぶらぶら

2013年11月14日 21時11分21秒 | エッセイ
 大き目のバッグを持っていると、荷物が多くなっていけない。
 職場と往復するだけでも、お弁当に化粧品、手帳、本、財布、定期、折りたたみ傘、タオルにティッシュなどが入り、かなり膨らんで重い。
 しかし、中には身軽な人もいる。
「あ、笹木さん、今帰るところ? 僕もなんだよね。じゃあ、一緒に行きましょう」
 ダウンジャケットを着た井川氏と、玄関で合流した。しかし、彼はペットボトルを1本持っているだけで、他には持ち物がない。
「手ぶらなんですか?」
 不思議に思って尋ねてみた。
「うん、カバンは持たない主義。だって、財布は上着の内ポケットに入るでしょ。定期は反対のポケットに入れてるし」
 彼は襟元を広げ、財布の場所を指さした。まあ、男性はそうかもしれない。
「お弁当は?」
「うちのカミさん、僕が出かけてから起きるもん。作ってくれないよ。いつもパンを買ってる」
「じゃあ、朝はパンの袋を持っているとか」
「それがね、パンは上着の外ポケットに入っちゃう。2個買って、左右に1個ずつ入れてるんだ」
 これには、ちょっと驚いた。
「満員電車でつぶれたらどうするんですか?」
「いや、つぶれたことない。へーき、へーき」
 そういうものだろうか。
 さらにしつこく聞いてみる。
「電車の中で本を読んだりしないんですか」
 私はてっきり、パンと一緒に文庫本をしのばせているのだと予想したのだが、そうではなかった。
「あ、僕はね、新聞なんだ。片道90分かかるから、隅から隅まで読めるんだよ」
「さすがに、新聞はポケットに入りませんよね」
「そう。だから別のところに入れてる」
 井川氏は背中を向け、ダウンジャケットと上着をめくってベルトを見せた。ズボンとワイシャツの間には、なんと4つ折りにされた新聞紙がはさまっていた。
 ここまで徹底して「手ぶら」を追求するとは恐れ入る。
 自分と真逆のタイプが珍しくて、思わず感心した。
 さすがに、ペットボトルは収納しきれなかったのかもしれない。
 肩からさげられる、ペットボトルホルダーをプレゼントしようかしら。


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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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コメント (14)
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