これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

かさ まさか!

2014年01月05日 16時47分32秒 | エッセイ
 その日は朝から冷たい雨が降っていた。
 折りたたみではなく、長傘を持って家を出る。駅の人口も多く、電車はすし詰めだ。なんとか乗れたのはよかったが、後から強く押された弾みで、手元から「ボキッ」という鈍い音がした。
 音の正体はわからなかった。どこも痛いところはないので、気にせず本を読む。たしか、桐野夏生の『ハピネス』だった。ママ友の一人が、別のママ友の夫と不倫しているのに、昼間は子どもを一緒に遊ばせ、何事もなかったかのように繕っていた。ドロドロしてきて、ちょうど面白くなってきたところだ。
「終点、池袋に到着します。お出口は左側のドアが先に開きます」
 佳境に入ったところで乗り換えだ。混雑していると、降りるのにも苦労する。押し合いへし合いしながら、ドアの外に吐き出されると、地下通路に続く階段にはすでに行列ができていた。
 行列に続く前に、手元の長傘を左手から右手に持ちかえようとして、異変に気づいた。
「ほえ?」
 何と、私の手には、傘の取っ手しかない。



 さきほどの「ボキッ」音は、プラスチックの柄が折れた音だったのだ。
 ということは、本体はおそらく車内に転がっているのだろう。人波に逆らって、出てきたドアに戻ったら、案の定、床に倒れていた。
 外はまだ雨が降っている。私は壊れた傘を拾い、再び階段に向かった。
 地下通路を歩いていると、だんだん笑いがこみあげてくる。

 柄を引いたら、その先は何もないんだもんなぁ。ぷぷぷ、まいった。

 電車を降りてからは、取っ手をバッグに入れて、本体のみを差して歩いた。「こういうデザインなんです」といえば、それで通用するかもしれない。



 途中で、同僚に会った。
「聞いてくださいよ、今、電車に乗ってたら、傘が……」
「きゃははは、何それ、ビックリしますね」
 朝から会話も盛り上がる。
 しかし、この傘では不便だ。
 早いうちに、新しい傘を買わなければ。
 そういえば、前に「いいな」と思った傘があったっけ。



 傘を開くと、青空が広がるなんて、とてもユニークだ。
 残念なのは、外側が黒一色というところ。オジさんぽいところがマイナスである。

 赤とか緑とか、別の色が出たら買おうかな……。

 メーカーさん。
 確実に1本は売れますから、カラフルな色で作ってください!


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 「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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コメント (12)
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