学校勤めのメリットは、図書室でベストセラーが読めることである。アドラー心理学やビブリア古書堂シリーズ、火花、教場、半沢直樹シリーズなどなど、手当たり次第に読破した。
たしか、8月の終わりだったはずだ。読みかけの本が終わってしまい、私は「何か」を求めて図書室に行った。運よく、伊坂幸太郎の本が人気本の棚に、仰向けになって寝そべっている。バカンスを楽しんでいるところだったかもしれないが、右手でひょいとつかみ「貸し出し、お願いします」と司書さんに声をかけた。
そこからなぜか記憶がない。
やっと時間ができて「さあ、伊坂本を読もう」と探した。しかし、職場の机にも、自宅にも見当たらない。「借りたと思ったのは記憶違いだったかしら」と図書室に行った。
「えっと、8月26日に『死神の浮力』という本を借りていらっしゃいますね。9月12日までです」
「ああそうでしたか。やっぱり借りているんですね」
実のところ、著者名はおぼえているが、本のタイトルを忘れていた。だが、いよいよ本腰を入れて探すときが来たようだ。借りた本をなくすなど、もってのほかである。
「どこかに置き忘れたのかも……」
ものをなくす原因として、それを一時的にどこかに置いて、忘れてしまうことが挙げられる。まずは、机の周りを探してみた。
「笹木さん、何か探しているの?」
隣の席のオジさん先生が話しかけてきた。
「図書室で借りた本がどこか行っちゃって。もしかして、席に紛れ込んでいません?」
オジさん先生は国語科だ。本は大好きなはず。しかも、机の上は教科書や問題集、プリントやらがうず高く積みあがっている。もしや、この中に紛れていないだろうか。
「え、伊坂幸太郎? どこかで見たなぁ。面白そうだと思ったんだけど、僕は取っていないはず」
どうやらオジさん先生は潔白のようだ。では、彼はどこでそれを見たのか。
「何ていう題名ですか」
オジさん先生の隣のおかあさん先生も話に加わってきた。こういうときは、なるべくたくさんの人を巻き込んだほうがいいと、過去の経験から知っている。
「えっと、死神の……死神の……何だっけ」
さっき、聞いたばかりのタイトルが思い出せない。
「調べてみます。伊坂幸太郎、死神」
彼女はパソコンを操作して、本を検索しているようだ。
「表紙は何色でしたか」
「青だったと思います」
「青だと、『死神の精度』ですかね。もうひとつ、『死神の浮力』っていうのもありますけど」
「あ、それそれ。『死神の浮力』のほうです」
「表紙は青じゃないですよ」
彼女はパソコンの画面をこちらに向け、本の画像を見せた。そこには見たこともない本が映っていた。
「オレンジだ~」
タイトルも表紙の色もおぼえていないとは情けない。対照的に、彼女の記憶は冴えていた。
「たしかこれ、副校長の前の空席に置いてありました」
そこで、ようやくピンと来た。たしか、その席に座って休暇簿に記入したおぼえがある。おそらく、図書室から本を持って席に着き、端に置いたままにしたのだろう。
「じゃあ、僕、取ってきてあげるよ」
オジさん先生が立ち上がった。意外とフットワークが軽いのだ。
本を受け取ると、私は彼に礼を言い、返却期限のページを開いた。
「28.9.12」
司書さんの言葉通りだ。間違いない。
かくして、どうにかこうにか、本が戻ってきた。
ワタクシ、名探偵になれるかしら!?
↑
クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
たしか、8月の終わりだったはずだ。読みかけの本が終わってしまい、私は「何か」を求めて図書室に行った。運よく、伊坂幸太郎の本が人気本の棚に、仰向けになって寝そべっている。バカンスを楽しんでいるところだったかもしれないが、右手でひょいとつかみ「貸し出し、お願いします」と司書さんに声をかけた。
そこからなぜか記憶がない。
やっと時間ができて「さあ、伊坂本を読もう」と探した。しかし、職場の机にも、自宅にも見当たらない。「借りたと思ったのは記憶違いだったかしら」と図書室に行った。
「えっと、8月26日に『死神の浮力』という本を借りていらっしゃいますね。9月12日までです」
「ああそうでしたか。やっぱり借りているんですね」
実のところ、著者名はおぼえているが、本のタイトルを忘れていた。だが、いよいよ本腰を入れて探すときが来たようだ。借りた本をなくすなど、もってのほかである。
「どこかに置き忘れたのかも……」
ものをなくす原因として、それを一時的にどこかに置いて、忘れてしまうことが挙げられる。まずは、机の周りを探してみた。
「笹木さん、何か探しているの?」
隣の席のオジさん先生が話しかけてきた。
「図書室で借りた本がどこか行っちゃって。もしかして、席に紛れ込んでいません?」
オジさん先生は国語科だ。本は大好きなはず。しかも、机の上は教科書や問題集、プリントやらがうず高く積みあがっている。もしや、この中に紛れていないだろうか。
「え、伊坂幸太郎? どこかで見たなぁ。面白そうだと思ったんだけど、僕は取っていないはず」
どうやらオジさん先生は潔白のようだ。では、彼はどこでそれを見たのか。
「何ていう題名ですか」
オジさん先生の隣のおかあさん先生も話に加わってきた。こういうときは、なるべくたくさんの人を巻き込んだほうがいいと、過去の経験から知っている。
「えっと、死神の……死神の……何だっけ」
さっき、聞いたばかりのタイトルが思い出せない。
「調べてみます。伊坂幸太郎、死神」
彼女はパソコンを操作して、本を検索しているようだ。
「表紙は何色でしたか」
「青だったと思います」
「青だと、『死神の精度』ですかね。もうひとつ、『死神の浮力』っていうのもありますけど」
「あ、それそれ。『死神の浮力』のほうです」
「表紙は青じゃないですよ」
彼女はパソコンの画面をこちらに向け、本の画像を見せた。そこには見たこともない本が映っていた。
「オレンジだ~」
タイトルも表紙の色もおぼえていないとは情けない。対照的に、彼女の記憶は冴えていた。
「たしかこれ、副校長の前の空席に置いてありました」
そこで、ようやくピンと来た。たしか、その席に座って休暇簿に記入したおぼえがある。おそらく、図書室から本を持って席に着き、端に置いたままにしたのだろう。
「じゃあ、僕、取ってきてあげるよ」
オジさん先生が立ち上がった。意外とフットワークが軽いのだ。
本を受け取ると、私は彼に礼を言い、返却期限のページを開いた。
「28.9.12」
司書さんの言葉通りだ。間違いない。
かくして、どうにかこうにか、本が戻ってきた。
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「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
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