高校では、教員の時間割に偏りがあることが多い。授業時間の少ない曜日があったり、多い曜日もあったりというのが普通だ。
その日、私の時間割には余裕がなかった。休み時間は10分あるが、職員室に戻ってきたときには、すでに2~3分過ぎているし、チャイムが鳴る前には次の教室に行かねばならない。せめて水をひと口飲んでからと思っていたら、私を呼ぶ女子高生の声がした。
「笹木せんせーい」
生徒は3人ほどで、私のクラスではない。手に持っているのはプールバッグだから、授業での質問ではなさそうだ。どうも、厄介なニオイがする。しかし、呼ばれたからには、行かねばならない。
「はい、どうしました?」
「あのう、今、3階の女子トイレに、変な忘れ物があって……」
「変な?」
言いにくかったのか、その子はモジモジしていたが、隣の女子があとを引きついだ。
「ブラジャーなんです」
「…………」
私は絶句した。
「たぶん、誰かが個室で水着に着替えて、そのまま忘れていったのかも」
それで、男性の先生ではなく、私に声をかけたというわけか。休み時間は残り少ないが、現場を確認しなくてはならない。
「わかりました。これから見てきますね」
「はーい。お願いしま~す」
女の子たちは安心して、教室に戻っていった。
フットワークの軽さが私のウリである。水をゴクリと飲み干すと、職員室から飛び出し、一段抜かしで階段を昇って、3階のトイレに飛び込んだ。プールから上がってきた別の生徒が、まだ数人残っており、こちらを振り返る。
「失礼します。何か、気まずいものがあるって聞いたんだけど」
「そこそこ、2番目の個室ですよ」
案内された個室をのぞくと、サニタリーボックスの上に、黒いブラジャーが無造作に置かれていた。白いレースで縁どられ、真っ赤なバラがデカデカと描かれている。かなり強烈なデザインだ。
通常、忘れ物は職員室前のガラスケースに並べておき、本人の申し出によって返却する。だが、これを並べたらちょっとした騒ぎになるし、「それは私のです」などとは言いにくいだろう。
「うーん、これは困ったねぇ。取りにくるかな?」
「くると思いますよ。なくても気がつかないってことはあり得ないし」
「そうですよ、先生。持っていかないほうがいいと思います」
「じゃあ、もし、このままだったら、生活指導の先生に渡すことにするね」
「はーい」
時計を見たら、あと2分で次の授業が始まる時間になっていた。足早に職員室に戻り、授業道具を持って教室へ向かう。教員という仕事は、間違いなく肉体労働である。
授業が終わったら、ホームルーム、掃除、三者面談と続く。最後の親子と話し終えたのは5時半を回っていた。解放感にひたり、着替えて学校を出る。家に着いてから、大事なことを思い出した。
しまった、ブラジャーを取りに来たか、確認していなかった!
翌日、朝イチで3階の女子トイレに駆け込んだ。
迷わず、2番目の個室に直行すると……期待通り、派手なブラジャーはなくなっている。「はああ~」と肩の力が抜けた瞬間であった。
9月まで水泳の授業は続く。
今度は「先生、トイレにパンツが!」などとならなければいいのだが。
↑
クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
その日、私の時間割には余裕がなかった。休み時間は10分あるが、職員室に戻ってきたときには、すでに2~3分過ぎているし、チャイムが鳴る前には次の教室に行かねばならない。せめて水をひと口飲んでからと思っていたら、私を呼ぶ女子高生の声がした。
「笹木せんせーい」
生徒は3人ほどで、私のクラスではない。手に持っているのはプールバッグだから、授業での質問ではなさそうだ。どうも、厄介なニオイがする。しかし、呼ばれたからには、行かねばならない。
「はい、どうしました?」
「あのう、今、3階の女子トイレに、変な忘れ物があって……」
「変な?」
言いにくかったのか、その子はモジモジしていたが、隣の女子があとを引きついだ。
「ブラジャーなんです」
「…………」
私は絶句した。
「たぶん、誰かが個室で水着に着替えて、そのまま忘れていったのかも」
それで、男性の先生ではなく、私に声をかけたというわけか。休み時間は残り少ないが、現場を確認しなくてはならない。
「わかりました。これから見てきますね」
「はーい。お願いしま~す」
女の子たちは安心して、教室に戻っていった。
フットワークの軽さが私のウリである。水をゴクリと飲み干すと、職員室から飛び出し、一段抜かしで階段を昇って、3階のトイレに飛び込んだ。プールから上がってきた別の生徒が、まだ数人残っており、こちらを振り返る。
「失礼します。何か、気まずいものがあるって聞いたんだけど」
「そこそこ、2番目の個室ですよ」
案内された個室をのぞくと、サニタリーボックスの上に、黒いブラジャーが無造作に置かれていた。白いレースで縁どられ、真っ赤なバラがデカデカと描かれている。かなり強烈なデザインだ。
通常、忘れ物は職員室前のガラスケースに並べておき、本人の申し出によって返却する。だが、これを並べたらちょっとした騒ぎになるし、「それは私のです」などとは言いにくいだろう。
「うーん、これは困ったねぇ。取りにくるかな?」
「くると思いますよ。なくても気がつかないってことはあり得ないし」
「そうですよ、先生。持っていかないほうがいいと思います」
「じゃあ、もし、このままだったら、生活指導の先生に渡すことにするね」
「はーい」
時計を見たら、あと2分で次の授業が始まる時間になっていた。足早に職員室に戻り、授業道具を持って教室へ向かう。教員という仕事は、間違いなく肉体労働である。
授業が終わったら、ホームルーム、掃除、三者面談と続く。最後の親子と話し終えたのは5時半を回っていた。解放感にひたり、着替えて学校を出る。家に着いてから、大事なことを思い出した。
しまった、ブラジャーを取りに来たか、確認していなかった!
翌日、朝イチで3階の女子トイレに駆け込んだ。
迷わず、2番目の個室に直行すると……期待通り、派手なブラジャーはなくなっている。「はああ~」と肩の力が抜けた瞬間であった。
9月まで水泳の授業は続く。
今度は「先生、トイレにパンツが!」などとならなければいいのだが。
↑
クリックしてくださるとウレシイです♪
※ 他にもこんなブログやってます。よろしければご覧になってください!
「いとをかし~笹木砂希~」(エッセイ)
「うつろひ~笹木砂希~」(日記)
下着にはバイアグラ効果があります、黒はいただけないですがバラは刺激的です。
昔はみんな白でしたが中学生にとっては鼻血ものでしたよ(*^^*)ポッ
志津子という女が水色のブラをつけてきて教室が大騒ぎになったことがあったな~
学校という閉鎖社会の中で自分をアピールするのは勇気がいると思いますが、今度は蝶の刺しゅう入りをお試しください(笑)
砂希さんもバリエーションでは負けてないかと…(*^・^*)チュッ♪
たぶん、今回の記事にはコメントが少ないとにらんでいました。
書きにくいですもの(笑)
しかし、さすがですね。
記事にピッタリのコメントをいただき、感心することしきりです。
今の女子は「見せブラ」というのでしょうか。
薄物のシャツから透けて見える色柄の下着を選ぶんですよ。
もちろん全員ではないけれど。
蝶の刺しゅう入りかぁ(笑)
母に買ってあげると若返るかも??
はじめから更衣室で着がえるってのは出来なかったんですね。
それほどまでに女子にも注目されちゃうブツなんだぁ。
本人もプールから上がって驚いたでしょう。
そのままにしておくのが正解でしょう。
男としてはそれを装着しているのが透けて
見えるような状態だったら拝みたいですね。
そんなに派手なんなら…。
男子にはこの事件、伝わらなかったのかな?
もしも伝わってたら、授業どころじゃないし
持ち主も名乗り出られなかったでしょうね。
無事に済んでなによりでした。
私なんて未だにそんな下着つけたことないよ。
夏になるとブラウスで下着がけっこう透けて見えるでしょ。
それが嫌で、夏でもベスト着ている子も多かったけど、昔は…
そうなんですよ、なぜプールに直結している更衣室を使わないのか。
トイレで着替えれば、必然的に廊下を水着で歩く破目になります。
上に制服を着たとは考えにくい。
おそらく、事情がわかっていない1年生なのではないかしら。
こちらの男子はおとなしいものですよ。
人数も少ないし、おそらく何も知らないと思います。
それにしても、自分の持ち物を管理できないところには閉口しますよ。
まるでアウターのような下着でした。
わざわざ、透けて見せる必要はないのに…。
うちの娘はそういう感覚がないのでホッとしています。
家で戦うお母さんもいるようですね。
痴漢にあってからでは遅いんですが。
私も毒々しい柄の下着は持っていません。
品のない柄は、若者を対象にしているのような気がします。
わざと置いたわけではないですよね。
娘がいないから分からないけれど、ちょっと
女子高生がつけそうな感じじゃないし?
ブラといえば・・・
近所のお宅の1階の屋根に乗っかってるのを見たことがありました!
ダンナさんが勢い余って放り投げてしまったのかと思いきや
(朝に、なんてコメント!)
当時保育園だった女の子のいたずらだったようです。
・・・信じることにしました。
プールの後は新しい下着に替える子もいて、使用済みパンツが!なんてことも。
さすがにこの時は落とし主が現れず、艶めかしいレーシーパンツを預かってしまった同僚が困ってましたっけ。
わざとという選択肢は考えにくいです。
下着がないと困りますし、相応の価格ですから。
女子高生の下着は、オバちゃんに比べたらかなり派手ですよ。
そういうデザインが増えているんでしょうね。
しかし、縫製は安っぽいし、体の線が崩れる形状をしています。
ちゃんとしたメーカーのものを選ばないと、5年後10年後が心配ですね。
洗濯ずみのものを用意してくるとは、かなり潔癖な生徒なのかしら。
こちらには、そんな子はいないと思います。
何しろ、濡れた水着の貸し借りをしても平気ですから。
その感覚にはついていけないな~。
そういえば、去年、他クラスの友達に水着を貸したら返って来なくて困っている生徒がいました。
バスタオルも一緒に貸したのに、それも戻らないようです。
ルーズな友人を持つと、あとあと苦労しますね。