悩める小僧どもはこれを読め! 北方謙三『試みの地平線』 その2

2018年04月03日 | 

 前回(→こちら)に続いて、北方謙三試みの地平線』の話。

 あらゆる悩みを

 

 「女を抱け!」

 「ソープへ行け!」

 

 を軸に解決に導く先生は、もう男としてはリスペクトするしかないのであるが、こういうやりかたに反発を覚える人というのもいる。

 女性もさることながら、中には生真面目男子もいて、曰く



 「発想が男中心すぎる」

 「質問によって、意見がちがうことがある」

 「自分に酔っているだけ」



 という、あながち的はずれでもない批判が来たりしたそうだ。

 それに対して北方先生は、



 「小僧ども、お前たちのいいたいことはわかる」



 そこは、いったんは受け入れる。

 続けて先生は、「地平線とはなにか」について語る。

 地平線、それは遠くにあり、追いかけても追いかけてもたどりつけない。

 人生もそれと同じだ。だが俺たちはそれでも、あの地平線に向かって走っていこうではないか。

 それが人生ってもんだろ。そうタイトルの由来について語り、そこから



 「それでも文句のあるやつは、直接俺のところへ来い!」



 真の男はで語り合うという。

 すわ! これはを見るのか! 一瞬ドキリとするが、北方先生は



 「ケンカはよくない。だから、アームレスリングで決着をつけようじゃないか」



 うーむ、日本の男は腕相撲だ。ハードボイルドである。



 「まだまだ、小僧どもには負けないぜ(ニヤリ)」



 公言したところ、実際に「一戦交えてください」という男子が、結構な数来たという。

 もちろん、挑戦受ける。さすがはハードボイルドの大家。

 伊達に西原理恵子さんの漫画で、新宿鮫がドン引きするのをよそに、女体盛りにかぶりついていない。

 ところが北方先生、あるときミニコラムの中で、こんなことを書いておられた。


 「もう、アームレスリングを挑んでくるのはやめてほしい」。



 一体どうしたというのか。

 もしかしたら、手の中に画鋲をしこんでくるとか、そんなことをするタチの悪い奴がいたのかもしれない。

 などと想像しながら読んでみると、そこには


 「こないだある若者に負けてしまった」。


 ええええええええ!!!

 北方謙三、アームレスリングで敗北。まさかの展開である。

 敗退の理由は「どうも最近、衰えてきたようだ」という純粋に年齢的なもの。


 「これはから歳のことも考えて、無体なファイトはひかえたい。なので、これからは腕相撲の代わりに握手の腕を出してくれ」



 方針転換を発表。

 素直に敗北を受け入れるあたり、謙三かわいいところもある。こういうところも、男である。

 そんな北方先生に、第二試練がおとずれる。それは読者による、「北方謙三排斥運動」だ。

 これを起こしたのは、前述のような生真面目男子と、ハードボイルドな北方文体に男尊女卑のにおいを感じた女子から。

 

 「北方の連載をやめさせろ」

 

 そう訴える葉書に、先生はすかさず反応。



 「小僧ども、お前たちの気持ちはわかった」



 そこも、いったんは受け入れる。なんというフトコロの深さか。

 だが、先生は語る。

 自分は本気である。本気で、小僧どもと向かい合っている。

 だからこそ、あんな恥ずかしいセリフをぶつけることができるのだ、と強く主張する。

 恥ずかしいセリフ。なるほど、意外とキャラ自覚があった北方センセ。

 たしかに真面目だ。人柄は誠実である。北方先生はそこで



 「わかった、じゃあこうしよう。どうしても俺を追い出したかったら、『嫌葉書』を送ってこい。それが多ければ、いさぎよくやめてやる」



 野次馬としては、おいおいそんなこといって大丈夫なのかと心配になるが、先生は


 「俺は平気だぜ。なぜならば『嫌葉書』は来るだろうが、それ以上に『良葉書』がくるはずだからな。俺をやめさせるのは大変だぜ(ニヤリ)」



 自信に満ちておられる。やはり、男の中の男だ。シブすぎである。

 その集計の結果はといえば、



 「俺の連載は続くこととなった。『やめないでくれ』という葉書が山ほど来たからな」



 さすがである。このカリスマ性には驚嘆だが、北方先生はそこで



 「だが、残念な知らせもある」



 これには少し、身を固くする。なにかあったのかといえば先生曰く、



 「俺を追い出したかったら『嫌葉書』を送れといった。だが俺はなんの心配もしていなかった、それ以上に『良葉書』が来るからだ」。


 たしかにそうおっしゃっていた。実際にそうなった。たいしたものである。

 が、先生によると



 「ただ、俺が思っていた予想よりも、まあまあ多めの数の『嫌葉書』が来ていた」



 あー、そうなのか。

 おそらくは、北方先生の挑発的な口調をストレートに受けとってしまった人が、ムキになって送ってきたんだな。

 どうも北方先生、そのことに若干ションボリしておられるようなのである。

 アハハハハハ! 軽く傷ついてますやん! かわいいなあ。

 そのコラムの結びには、



 「特にひとりで6枚の『嫌葉書』を送ってきた君、フェアにやろうや、切ないぜ」



 先生、結構どころでなくヘコんでます。

 なんか、6枚というところが妙なリアリティーというか。

 本当にやめさせたかったんだけど、若者の手間財力的にはこんなもん、という感じが伝わってきて、そこがなんともおかしい。

 それにへこむ北方謙三。ハードボイルドなのに。うーん、まったく切ないぜ。

 先生を慕う小僧のひとりとしては、やはりこういうときこそ、ソープへ行って元気を出していただきたいものである。

 そして、また地平線を目指そうじゃないか(ニヤリ)と、ついつい本を読みながら爆笑、もといニヒルな笑みを浮かべる私なのであった。




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