「あのテニス選手が【特撮ファン】でなくて、よかったよな」
ある日、唐突にそんなことを言いだしたのは、テニスファンの友人ナカノシマ君であった。
テニスに特撮が、こんなところでどう結びつくのかと問うならば、
「それがさあ、ちょっと前に、マックス・ミルヌイが錦織圭のコーチをするってニュースあったやん」
あったねえ。
昔は「ミルニー」表記だったけど、マックス・ミルヌイとは、今なにかと話題なロシアの元テニス選手。
ダブルスの腕に定評があり、世界ランキングは1位。
グランドスラム複6勝、ミックスで4勝、ロンドン五輪ミックス金。
それだけでなく、シングルスでも最高18位で、2002年にはUSオープンでベスト8にも入った、すばらしいプレーヤーだけど、それがどした?
再び問うならば、友は、
「じゃあさあ、マックスの現役時代のニックネームっておぼえてる?」
おいおい、玄人のテニスファンをなめてもらっては困る。
そんなもん「野獣」。英語やと「ザ・ビースト」って呼ばれとったなんて、常識やないか。
バシッと答えてやると友は、「さすがやな」ニヤリとすると、
「でもさ、じゃあなんで【野獣】って呼ばれてるかの、理由はわかるか? 実は俺も、こないだたまたま知ったんや」
え? そう言われたら、なんやったっけ?
まあ、ふつうに考えたら気が強いとか、荒々しいんだけど、そこまでだったかなあ。
たしかに、アスリートなんだから、気は強いんだろうけど、獣だったらもっとラケットを破壊しまくるとか、審判に暴言をはくとか、記者会見で差別発言を連発とか、そういうキャラの方が似合うのではないか。
そういうのは、どちらかといえば、同胞のマラト・サフィンの方が合ってるよね。今なら、ダニール・メドベージェフかな。
ということで、今回あらためて調べてみると、このニックネームの由来が2000年のUSオープンにあるのでは、という説を発見した。
この大会で、レイトン・ヒューイットと組んでダブルスを優勝したマックスは、ミックス・ダブルスでも準優勝と大活躍。
で、このときのパートナーがアンナ・クルニコワ。
当時大人気だった彼女が「美女」なら、そのパートナーは当然「野獣」しかなかろう、ということだそうな。
だから「ザ・ビースト」。
なるほどねえ。彼のキャラとか以前に、こうの史代先生の名作『夕凪の街 桜の国』で、「石川」さんが、とりあえず「五右衛門」と呼ばれていたように、
「それしか連想しようのない」
というのが理由ということだ。
そういえば、私の知り合いの「健一」君は例外なく「けんいちうじ」と呼ばれていたものだ。
その流れで「服部」君は文字通り「ハットリ君」もしくは「忍者」。
そういや、将棋の近藤誠也七段は「聖闘士星矢」ってアダ名を提案されて、嫌がってましたっけ。同世代くらいが、ゴメイワクをおかけしました。
なんか、ほとんどダジャレというか、「じゃないほう芸人」あつかいというか、いわば「もらい事故」のようなもんだったか。
なるほど、それを聞いてナカノシマ君が、
「特撮ファンじゃなくてよかった」
と言った意味を理解した。
なんたって、それだったらニックネームは野獣じゃなくて、間違いなく「液体人間」になっちゃうもんねえ。