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風のゆくえには~ あいじょうのかたち32(浩介視点)

2015年10月24日 07時44分34秒 | BL小説・風のゆくえには~ 愛情のかたち

 この世の中に、慶とおれしかいなければいいのに。

 そんなことをよく思う。
 そうすれば、嫉妬したり嫉妬されたりせずに、ただ純粋に愛すること愛されることだけに溺れていられるのに………


 慶は、素晴らしく美しい容姿をしている。ただ美しいだけではなく、人目をひくオーラを持ち合わせているので、どこにいても老若男女問わずちらちらと視線を送られる。でも、その中性的な容姿とは裏腹に、性格は男らしく一刀両断的。そのギャップが魅力的。わりと人懐っこいので友達も多い。

 そんな彼が、こんなどこにでもいるような平凡なおれを一途に想ってくれている。想ってくれているだけでなく、おれに対する独占欲は凄まじく、ものすっごく嫉妬深い……なんて、誰も信じてくれないだろうな。


***

 おれは毎週土曜日の二時から、心療内科の戸田先生の診療を受けている。

 今日は、来週にせまった母親とのカウンセリングに向けて、最終調整を行った。
 合同カウンセリング、本当は先月行うはずだったのだけれども、当日熱を出してしまい(精神的なものだったのか、カウンセリングの予定時間を過ぎたらすぐに下がった)、延期になっていたのだ。でも来週は慶にも同行してもらうので大丈夫だと思う。

 慶は今日も仕事の昼休みを調整して、最後の方だけ顔をだしてくれた。
 もちろん、来週のために慶は来てくれたのだけれども、本当の目的はたぶん違う……。

 今日の診察の後、おれ達の高校時代の先輩である美幸さんのお子さんを、美幸さんが診察を受けている間だけ預かることになっているのだ。

 美幸さんというのは、おれの初恋(というと語弊があるのだけれども…)の人なので、慶はおれと美幸さんが会うことを、ものすごくものすごーく嫌がっている。
 でも、美幸さんのお子さん、優吾君の発達に気になることがあり、それを放っておけない医者の鏡である慶は、おれと美幸さんとの接触を渋々目をつむっている、という状況だ。

 おそらく今日、仕事を調整してまで来てくれたのは、おれと美幸さんを二人きりで話させないため……というのが一番大きな理由なんではないだろうか。

 慶のその嫉妬心、愛してくれている証拠なので嬉しいは嬉しいんだけど……正直、ちょっと面倒くさい時もある。……なんて言ったら、何されるか分からないから怖くて絶対言えないけど。
 慶はあんなに中性的で綺麗な顔をしているのに、鍛えているから力も強いし、わりと短気で手も足もすぐ出るので、怒らせると本当にこわいのだ。
 でも、ベッドの中ではおれに責め立てられて、イイ声で啼いてたり、妙に甘えてきたり、そのかわいさといったら、もう……


「渋谷君! 桜井君!」
「!」

 診察室から出て受付に向かいながら、慶の後ろでイカガワシイ妄想を膨らませていたところに、美幸さんの緊迫した声が飛びこんできた。

「優吾こっちにこなかった?!」
「え?!」

 切羽詰まった表情をした美幸さん。

「受付してる間にいなくなっちゃったの。探してるんだけど見つからなくて」
「え……」

 そ、それは大変……。血の気が引いてしまったところに、慶の淡々とした声が聞こえてきた。

「いつからですか?」
「5、6分前……かな」

 慶は軽く肯くと、おれを振り返った。 

「浩介、お前外を探してくれ。名前は呼ぶな。目視で探せ。見つけたら、危険がない限りは声はかけないで、携帯で知らせて美幸さんの到着を待て」
「は、はい」
「おれは防犯カメラチェックしてくれるよう頼んでくる。美幸さん、もう一度院内を探してください」

 美幸さんが震えながらコクンと肯く。
 トラブルが起きた時、慶はいつもにもまして冷静になる。有無を言わせない迫力に、おれも美幸さんもすぐさま指示に従う。

 外……事故にあったりしてないといいのだが。


 玄関を出ると、熱風が体にまとわりついてきた。今日も35℃まで上がるという予報通り、異常な暑さだ。
 病院前の駐車場にもいないので、敷地内から出てみる。確か駅に行く一本道の途中に公園があったような……

 進んでみると記憶通り、数件の家を挟んで、小さな公園が出てきた。入り口に生い茂っている木の陰からのぞいてみたところ、

「あ、いた」

 ホッと胸をなでおろす。父親である田辺先輩によく似た面差しの、小さな男の子。
 ベンチに日傘をさして座っている女性の横で、何かしているようだが、今はその女性の陰になって何をしているのかよく見えない。

 とりあえず、慶と美幸さんにメールで知らせる。

 慶からは声をかけるなと言われているので、木陰に隠れて様子をうかがっていたのだが……

「………」
 何か、モヤモヤとしたものを感じて心臓をおさえる。なんだろう……この光景、見たことがあるような……

 分からないまま、その場でジッとしていたら、美幸さんがこちらに向かって走ってくるのが見えた。こっち、と指をさすと、美幸さんはおれの前を軽く会釈して通り過ぎ、すぐさま優吾君の元に走り寄った。

「優吾っ何してるのっ」

 美幸さんの尖った声に、日傘の女性が振り返った。

「あら、ボク、ママ来たわよ」
「!!!!」

 その、声……
 その、姿……

 心臓が、止まるかと思った。

 美幸さんにニッコリと笑いかけているその女性は……その女性は。

(お……母さん……)

 おれの母親、だった。


 立っていられず、その場にしゃがみこみ、木の幹に額をあてて息を整える。

(なんでこんなところにいるんだよ……っ)

 苦しい、けれども過呼吸までは起きていない。すごい成長だ。なんて自分で自分を褒めていたところで、

「きゃあっすみませんっ、もう、優吾っ何してるのよっ」

 美幸さんの悲鳴が聞こえてきた。
 どうやら、優吾君が母のカバンの中身をベンチに並べてしまっているようだった。

「すみません。本当にすみません。すぐにやめさせますので…ほら、優吾!やめなさい!」
「あら、いいわよ、お母さん」

 美幸さんのトゲトゲした声にかぶさるように、母が穏やかな口調で言った。

「気になるのよね? このカバンの中、何入ってるのかな? ってね?」
「すみません……っほら、優吾……」
「いいわよいいわよ。好きなだけやらせてあげなさいよ」

 母はなぜか、うふふ、と笑った。

「好奇心旺盛ってことよ。いいことよ? かしこい子になるわ」
「でも……」

 困ったような顔をした美幸さんに、母が微笑みかけている。

「うちの息子もね、小さい頃はこういう風に、何でもかんでも興味を示してね。家じゅうの引き出しから物を出したりしていたのよ」
「あ……うちもです。困りますよね」

 美幸さんが少しホッとしたように笑った。

 うちの息子って……当然、おれのことだ。そんな話、聞いたこともない……。

「息子さん……いつそういうのなくなりました?」
「そうね……幼稚園に入る頃かしら」
「幼稚園かあ……入れるのかな……こんな調子で」
「あら、大丈夫よ」

 母は気軽な感じに、美幸さんの腕をポンポンとたたいた。

「そのうち興味が一つのことに向くようになるわ。それまでは色々なことに触れさせてあげればいいのよ」
「でも……、あ、やだ、優吾っ」
「ああ、いいからいいから」
「ああ……本当に、すみません……」

 ベンチの上から落ちてしまったものを、美幸さんがしゃがんで拾いながら謝っている。

「すみません。本当に………」
「大丈夫よ。謝らないで大丈夫だから。大丈夫よ」
「………」

 美幸さんが、母を見上げて、首を振った。

「でも、ご迷惑を……」
「別に迷惑じゃないわよ。息子の小さい頃をみているみたいで懐かしいわ」
「…………」

 母は目を細めて優吾君を見つめている。

「この子もきっと、うちの息子みたいに、頭が良くて、優しい子になるわよ」
「そう……だといいんですけど」
「大丈夫よ。今が一番大変な時よね? ここが過ぎると……そうね、今度は、幼稚園でお友達できたかしら?とかお勉強はどうかしら?とか別の心配が出てきて……結局、ずっと、子供のことが心配なのよね。親なんてそんなものね。成人した今だって心配でしょうがないんだから」
「そう……ですか」

 ふっと笑う美幸さん。

「ずっと、心配ですね」
「そうよ。そんなものよ?」
「そう……ですよね。あ、優吾……」

 優吾君が、一度出して綺麗に並べたものを、今度はカバンの中にしまいはじめた。

「あら、しまってくれるの。ありがとう」
「もう……優吾……」

 美幸さんが呆れたようにため息をつく。

「本当にすみません……」
「だから大丈夫よ。謝らないで。謝ってばかりじゃ疲れちゃうわよ」
「でも……」
「子供なんてすぐに大きくなって手元から離れていっちゃうんだから、今一緒にいられること楽しまないとね」
「…………」

 美幸さん、おもむろに立ち上がって、深々と頭を下げた。

「ありがとう……ございます」
「こちらこそ。懐かしかったわ。あ、ボク、帰るの? またね」

 カバンの中身を全部入れ終わって満足したのか、優吾君はスタスタと公園の出口に向かって歩きだした。

「す、すみませんっ、ありがとうございましたっ。優吾……っ」

 慌てて美幸さんが追いかけてくる。おれも立ち上がろうとして、

「……慶」

 いつからいたのか、おれの後ろに慶がいて、おれのことを引っ張り上げてくれた。母から見えない角度でコッソリと木陰から道路に出る。


「……びっくりした。なんであの人いるんだろう」

 美幸さんと優吾君の後ろを歩きながら、二人に聞こえないようつぶやくと、慶も小さく言い返してきた。

「お前のこと見るためかもな」
「え」

 おれを見るため……?

「お母さん、合同カウンセリングの予定時間が、お前が普段カウンセリングを受けている時間だって気がついたんじゃないか? だから、この時間にあそこで待ってれば、お前が駅まで行くのに必ず通り過ぎるって思って……」
「……こわっ」

 思わず身震いする。

「まるでストーカーだね」
「まあ、そういうなよ」

 慶が苦笑する。

「お母さん、本当にお前のことが心配なんだろ。さっきも言ってたじゃねえか」
「…………」

 その心配が余計なお世話だというんだ。

「頭が良くて、優しい子、だってな」
「………別に頭良くないし優しくないし」

 意味が分からない。だいたい、あんな理解のある母親面して、偉そうに。自分は散々、思い通りにならないおれに当たり散らしてたくせに。


「お騒がせしてごめんなさい」
 病院の駐車場に入ったところで美幸さんがくるりと振り返った。

「予約の時間、過ぎちゃったね」
「事情説明してあるから大丈夫ですよ?」

 慶がいうと、美幸さんが安心したように微笑んだ。

「なんか迷惑かけて申し訳なかったけど……良かったな」
「え?」

 首を傾げると、美幸さんがんーーっと伸びをした。

「さっきの女の人が言ってくれたの。すぐ手元からいなくなっちゃうんだから、今一緒にいられること楽しまないとって。ああそうだよなーと思ってさ」
「………」
「あんな風に、大丈夫大丈夫って言われたこと初めてだし、謝らなくていいなんて言ってもらえたのも初めてで、なんかすごく嬉しかった」

 美幸さん、少し涙目になってる……。

「それは、良かった」
 慶がニッコリと言うと、美幸さんも小さく笑った。

「…………」

 おれは……何を思えばいいのか分からない。

 あの人はまだあのベンチに座っているのだろうか。手元からいなくなった息子を待って、座り続けているのだろうか……


***


 帰りは慶に車で迎えに来てもらった。
 母がここら辺にいるかもしれないと思ったら、怖くて病院から出られなかったからだ。

「優吾君、どうだった?」
「うん。あのパズルはまったみたいで、結局あの後もずっと大人しくパズルをやってたよ」
「そうか……」

 慶は途中で仕事に戻ったので、優吾君が帰るまでは一緒にいられなかったのだ。

「それで、慶の言った通り、あと一回、の約束して、それが終わったら車で帰る。車の中でDVDを見るって説明したら、すんなり終わることができて、美幸さんも驚いてた」
「ふーん」

 ……あ、しまった。美幸さんの名前を出してしまった……。
 機嫌悪くなった? と心配になったけど、慶はそのまま普通に話を続けてくれた。

「で、美幸さんはどうだったんだ?」
「ああ、うん……美幸さん、なんかスッキリした顔してた、かな」
「ふーん」
「…………」

 ふーん、って、なんかこわいんですけど……。
 慶は運転に集中してるのか、何か考えてるのか分からない真面目な顔で前をジッとみている…。こんなことなら運転代わればよかった…。

 だいたい、慶は美形すぎるから、真面目な顔してるとこわいんだ。その顔で見つめられると固まってしまう。まるで睨んで人を石に変える伝説の何かみたいだ。あれなんて名前だったっけ。えーと……

「ゴルゴン……」
「ゴルゴン?」
「何でもない何でもない」

 思わず言葉に出てしまったのを聞き咎められて、ブンブン手を振る。こんなこと思ってるなんて知られたら、それこそ石にされてしまう。
 慶はいぶかしげに、

「何だよ? ゴルゴンゾーラ? 夕飯の話か?」
「あ……うんうんうん」

 慶の勘違いに乗っかることにする。慶はチーズ系の食べ物が大好きなのだ。

「夕飯、どっか寄るか?」
「あ、ううん。鶏肉、今日が賞味期限だから帰ってもいい?」
「ああ、もちろん」
「ゴルゴンゾーラチーズのソースで煮ようかな」
「それはいいな」

 言いながらも大きく息をはいた慶。……疲れてるのかな?

「大丈夫? 慶? 疲れてる?」
「いや、別に」

 でも、ずっと真面目な顔をして真っ直ぐ前を見たままだ。

「慶……やっぱり今日色々あったから疲れて……」
「悪い。ちょっと話しかけないでくれるか?」
「あ……はい」

 やっぱり美幸さんに会ったことを気にしてるんだろうか…

 静かな車内でうーん……と唸りそうになったところ、急に慶が車を減速させて、路肩に停車した。工場の横の道路で、車通りも人通りも少なく、よくタクシーやトラックの運転手が昼寝のために路駐しているところだ。

「運転交代?」

 やっぱり疲れてるんでしょ? 
 言いながら、運転席の慶の方を向いたのと同時に、

「………え」

 ぽかん、としてしまった。

 今……キスされた。ほんの触れるだけの、したかしてないか分からないくらいの軽いキス。

 目の前に慶の綺麗な瞳がある。慶の細い指がおれの頬を辿っている。

「……慶?」
「限界だ」
「え」

 もう一度、触れるだけのキス。

「心の狭いおれは、お前の口から美幸さんの名前が出てくる度に、唇をふさぎたくなる」
「………」
「だから車の中で美幸さんのこと話すのはやめてくれ。危険過ぎる」
「………慶」

 あいかわらずの嫉妬心、独占欲……

 本当に面倒くさい人だ。

 でも……そんなところも、好き。

「じゃあ、帰ってからするね」
「別にしなくていい」
「するする。だってその分キスしてくれるんでしょ?」
「しなくてもする」

 もう一度、柔らかいキス。
 
「何度でも、する」
「慶………」

 おれたち今まで何回キスしたかな。
 これから何回するのかな。

 慶の唇に触れながら思う。

「慶、大好き」
「ん」

 これからもたくさんたくさんキスしよう。
 嫉妬も愛情もすべてキスに変えよう。




----------------------

以上です。
最後までお読みくださりありがとうございました!

今回はいつもにも増してさらに真面目な話で……すみません。
もう物語終盤に差し掛かっている感じで…。
書き終わるのが寂しいので、またアホらしい短編でもちょいちょい挟もうかな…いやいや、ちゃんと終わらせてからにしようよ…。
という葛藤にかられております。はい。

ということで。次回もよろしければ、お願いいたします!

---

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風のゆくえには~ あいじょうのかたち31(慶視点)

2015年10月22日 12時06分10秒 | BL小説・風のゆくえには~ 愛情のかたち

 浩介は対人潔癖症気味なところがある。人に触れるのも触れられるのも苦手だ。
 でも、おれに対してだけは大丈夫らしく、常にベタベタと触ってきていて、しかも、

『慶のものは何でも欲しい。心も体も、精液も唾液も全部』

 だ、そうだ。……変態だな。あいつ、ホントに変態だ。


 ……それはさておき。
 問題はその前に言っていた浩介の言葉だ。

『おれ、他の人とそういうことするって思うだけで吐き気がこみあげてくる』

 そんな浩介が、万が一あの写真を見てしまったら、それこそトラウマになるんじゃないだろうか。

 あの写真……三好羅々が浩介を睡眠薬で眠らせ、浩介と性行為をしているように見えるように撮った写真……。
 浩介の携帯で撮られた写真はすべて削除した。おれにメールで送られてきたものも削除した。三好羅々と同居している目黒樹理亜に聞いたところ、三好羅々の携帯で撮った写真も、陶子さんがすべて削除してくれたそうだ。

 だから大丈夫だとは思うのだけれども……何となく不安が消えない。


***


「慶……今、機嫌いい?」
「………」

 そのセリフ、先週も聞いたな……。
 あの時は、田辺先輩から連絡があった、という話だった。田辺先輩というのは、浩介の初恋の人・美幸さんの旦那さんで……

「何だ」
「………やっぱりいいです」

 すごすごと台所から出て行こうとする浩介の前を足で通せんぼする。これも先週まったく同じことをした。

「何だよ。また美幸さん関連か?」
「あーうん……」

 話しにくそうに浩介がぽつぽつと言いだした。

 不眠症に悩んでいる美幸さんに、浩介も通っている心療内科クリニックを紹介したのだが、偶然今度の土曜日、浩介の後の予約に急にキャンセルが出たため、そこで診察してもらえることになったそうなのだ。
 でも、今度の土曜日は田辺先輩はどうしても仕事が休めず、優吾君を預かることができないそうで……

「実家のご両親は、優吾君が暴れると手に負えないから預かりたくないっておっしゃってるらしくて」
「で、お前が預かるってことか?」
「うん。預かるっていっても、病院のキッズスペースで遊ばせておくだけなんだけど」
「ふーん。いいんじゃねえの?」

 普通に言ったつもりなんだけれども、浩介はおれの顔色をうかがうように、

「……怒ってるでしょ?」
「怒ってねえよ」
「だって……」

 コーヒーを入れるおれを後ろからぎゅっと抱きしめてきた。

「……ごめんね」
「何が」

 耳元にささやかれる優しい声。

「だって、本当はもう二度と会ってほしくない、とか思ってるでしょ?」
「………思ってねえよ。それより」

 気持ちが崩れる前に、医者モード発動。

「クリニックの写真を、事前に優吾君に見せるようにって伝えてくれ。ホームページから引っ張ってこられるだろ? そのキッズスペースも、写真がないようならおれ明日休みだから撮りに行ってもいいし」
「え、なんで?」
「初めての場所で戸惑わないように予習だ予習。いいな? 必ず写真を印刷して、優吾君に見せながら、これからここに行く、という説明をするようにって」
「あ………はい」

 ホームページに載ってるかな……と台所から出ていった浩介の後ろ姿を見送り、息をつく。

 本当は、もう二度と会ってほしくない。

 当たり前だ。浩介は美幸さんに対する気持ちは恋愛感情じゃなかったと言っているけれど、それでも、感情が動いたのは確かな話で。昔の話だと分かっていても、心が追いつかない。

 昨日、20年以上ぶりに見た美幸さん……。綺麗に年齢を重ねていた。高校時代と印象はまったく変わっていなかった。そして、美幸さんや田辺先輩と話す浩介は、高校時代に戻ったかのように、少し頬を上気させていて……

「慶、キッズスペースも写真あった。こんなもんで大丈夫?」
「………まあ、いいだろ」
「うん。じゃあ、連絡しておくね」

 スマホを手にした浩介の横をすり抜け、リビングに戻る。ソファに座ってコーヒーカップをローテーブルに置いたところで、

「一口ちょうだい」
 手が伸びてきて、コーヒーを奪われた。いつの間に浩介が隣に座っている。

「お前、もう連絡したのか? 早いな」
「してないよ? 明日でもいいでしょ?」

 浩介はニッコリとすると、おれの腰に手を回してきた。

「せっかく慶と一緒にいられるのに、時間もったいないもん」
「…………」

 ………。見抜かれている感じがしてムカつく。

「慶」
 こめかみに、頬に、唇がおりてくる。

「慶、嫌だったら本当に言ってね? おれ、断るよ?」
「別に大丈夫」
「でも眉間にシワ寄ってるよ」
「寄ってねえよ」
「寄ってるって。ほら伸ばしてー」

 眉間のあたりをグリグリ指でおされ、笑ってしまう。するとホッとしたように浩介が息を吐いた。
 
「やっと笑ってくれた」
「………なんだそりゃ」
「だって……」

 ついばむようなキスがくり返され、そのままソファに押し倒される。首筋に顔を埋めながら、浩介がブツブツいっている。

「あーあ。おれも明日研修会じゃなければ休むのになー。サボっちゃおうかなー」
「何言ってんだ」
「このまま明日の夜までずっと慶とイチャイチャしてたい」
「イチャイチャって」

 お前はいくつだ。

「だいたい、おれ明日出かけるから、明日の夜までイチャイチャ、なんてできねえぞ」
「あ、そうなんだ。どこいくの?」
「目黒さんと約束してて」
「……え?」

 浩介の唇がピタッと止まった。そしてゆっくり身を起こすと、

「今、何て言った?」
「だから、目黒さんと約束してるんだって」
「なーにーそーれー!」
「わ、何だよっ」

 いきなり肩を掴まれ思いきり揺すられ、頭がガクンガクンとなる。

「なにそれ? まさか二人きり?」
「さあ?」
「さあって! なんで分かんないの?!」
「知らねえよ。おれはただの付き添い……」
「もー信じられない!」

 浩介は叫ぶと、おれの両頬をつかんで引っ張ってきた。

「はひすんらよっ」
「だって、目黒さんはまだ慶のこと好きなんだよ?! なんでそんな子と一緒に出掛けるの?!」
「だからー」

 浩介の手を無理矢理はがす。

「ネイルの学校の見学の付き添いだって」
「…………」

 浩介はブウッとふくれると、そんなの一人でいけばいいのに、と言いながらおれのYシャツのボタンを外しはじめた。

「お前って、わりと目黒さんに冷たいよな」
「だって」
「元々お前が目黒さんのことを気にかけてたから、おれも……」

 言っている途中で、唇をふさがれた。噛みつくように唇を重ねてくる。浩介のイライラが伝わってくる。

「慶、ひどいよ」
「……何が」

 浩介はふくれたまま、言い放った。

「美幸さんのことで機嫌悪くなっておれのこと困らせて楽しんでるくせに、自分は自分で目黒さんと二人で出かけるなんてさ」
「は? なんだと?」

 聞き捨てならない。

「誰が困らせて楽しんでるって?」
「楽しんでるじゃんっ。おれがオロオロしてるの見るの、そんなに面白い? そんなに楽しい?」
「楽しい、だと?」

 頭にきた。衝動的に浩介を突き飛ばし、胸のあたりを右足で踏みつける。

「お前、おれがどれだけ嫌な思いしてるか分かってねえだろっ」
「自分こそっ。おれだって、慶が目黒さんと連絡取るの本当はすっごい嫌なんだからねっ」

 踏まれながらも、にらむような目でこちらを見上げてくる浩介。ムカつく……っ。

「あんな子供相手に何言ってんだよお前はっ」
「子供って、もうすぐハタチでしょっ。それを言うなら、慶のほうこそ、20年以上も前のこと今さらウダウダ言ってっ」
「ウダウダ?」
「ウダウダ言ってんじゃんっ」
「…………」

 …………ウダウダか。

 少し冷静になって足を下ろすと、浩介も、我に返ったような顔をしてソファーに座り直した。

 たっぷり5分ほど、並んで座りながらもお互い黙っていたのだが、前触れもなく浩介がポツンとつぶやいた。

「慶……さっきのが本音でしょ」
「何が」
「おれがどれだけ嫌な思いしてるのか分かってないって。嫌な思い……してるんだ?」
「…………」

 大人げないこと言ったな……

「別に大丈夫って言ってたけど、ホントは嫌なんだ?」
「…………」

 大きく息を吐き、白状する。

「すっげえ嫌だよ。本当は美幸さんには二度と会ってほしくないって思ってる」
「……じゃあ」
「でも」

 浩介の手を取り、絡ませて繋ぐ。

「優吾君の話は別だ。あの子には療育が必要なんだよ。そのためには母親の精神状態が安定しないことには話が進まない」
「慶………」

 浩介が驚いたようにこちらを見た。

「それじゃ、あの子は……」
「専門家の診察受けられるのが半年後って言ったな。でもそこまで待てねえだろ。優吾君もつらいだろうし、なにより母親がつぶれちまう」
「…………」

「障がいっていうのは、環境さえ整えば障がいではなくなるんだよ。彼に一番あった環境を見つけて整えてやるのが親と医者の役目だ。今、医者にかかれない状態だっていうのなら、おれが診にいけばいいだけの話だろ」
「慶………」

 ポカンとしたような顔をした浩介。

「慶……かっこいいね」
「別にかっこよかねえよ。当たり前のことだ」
「そこがまたかっこいい~」

 笑う浩介。さっきまで喧嘩していたとは思えない穏やかさだ。この隙に言葉を畳みかける。

「それで、目黒さんに関しても、おれは同じこと思ってる」
「………はい」

 浩介が神妙に肯いた。

「あの子はようやく毒親から自立して、自分のやりたいことを見つけられたんだ。でもまだまだ子供だ。まわりにいる大人が手助けしてやる必要があるだろ」
「………ごめんなさい」

 しゅんとして謝ってくる浩介。……ちょっときつく言いすぎたかな……。

「でも……お前が気になるなら、逐一報告のメール入れるぞ? 今どこにいるとか何してるとか」
「…………」

 提案すると、「いい」と断ってくるのかと思いきや、浩介はペコリと頭を下げた。

「お願いします」
「……浩介」

 驚いた。いつもだったら「そんな手間のかかること慶に迷惑がかかるからいいよ」とか言いそうなのに。
 浩介は真面目な顔をして問いかけてきた。

「ごめん、慶。おれ、我慢しなくていい?」
「え」

 両手を握られる。

「慶に迷惑がかかるのはわかってるけど、でもおれ、気になって絶対仕事手につかなくなる。だから、お言葉に甘えさせてください」
「浩介……」

 すごいな……これもカウンセリングの影響か?
 ずっとおれに遠慮しがちだった浩介がこんなことを言ってくるなんて……。

 ちょっと……かなり、嬉しい。

「じゃあ、メールするからな」
「うん、ありがと」
「…………」

 見つめあって、どちらからともなく笑い出してしまった。

「喧嘩しちゃったね」
「久しぶりだよな。前にしたのいつだったっけな」
「んーー覚えてないなあ」

 言いながら、浩介がふんわりと抱きしめてきた。耳元で優しい声がする。

「でも、仲直りのあとたくさんエッチしてたのは覚えてるよ」
「…………」
「今日もしよ?」

 こちらの返答も聞かずに、唇がおりてくる。

「お前明日仕事……」
「大丈夫。いつもより行くの少し遅くていいし」
「そうなのか?」
「だから、ゆっくり……」
「だったら、ちょっと待て」

 グイッと体を押し返すと、浩介がもー!!と怒り出した。

「何?!」
「ゆっくりできるんだろ? だったら明日の準備まで全部終わらせてからにしようぜ」
「…………」

 むっとした顔をした浩介を置いて、飲みかけの冷めたコーヒーを飲み切り、台所に運ぶ。

「慶ってさ……」

 洗面台から浩介の文句を言っている声が聞こえてくる。

「いつも冷静だよね。おればっかりがっついてて悲しくなってくる」
「何言ってんだよ」

 歯磨きをしている浩介の背中に蹴りをいれる。

「お前がゆっくりできるって言ったからだろ。それなら後のこと気にしないで思う存分やりてえからな」
「思う存分……」
「そう。思う存分」

 横から手を出し歯ブラシをとり、おれも歯磨きをはじめる。浩介が鏡越しに言ってくる。

「じゃあ、お風呂も一緒に入りたい」
「分かった分かった」
「お風呂でもしたい」
「分かった分かった」
「リビングでもしたい」
「なんだそりゃ」
「ベッドでも当然するよ?」
「何言ってんだお前」

 変な奴。吹き出してしまう。
 浩介は口をすすぐとこちらを振り返った。

「歯磨きしてあげるー」
「何言って……」
「はい。あーん」

 歯ブラシを奪われ、口を開けさせられる。
 なんだかなあ……

「慶、色っぽーい。たまんなーい」
「………」

 アホだなこいつ。

 でもそこも愛おしい。

 少しずつ少しずつ、浩介の心に変化が起きてきている。
 おれはそれを受け止め、包み込んでやりたい。
 

***


 翌日、目黒樹里亜と一緒に3つの学校を見学した。
 樹理亜はもらってきたパンフレットをみながらウンウンうなっている。

「こういう時は、良い点悪い点を紙に書き出していくといいんだよ」

 言うと、樹理亜は素直に手帳に書き出しはじめた。「駅から近い」「校舎がきれい」「授業料が安い」………

「授業料か……」
 夕食から合流した浩介がウーンとうなる。

「高いところは高いねえ」
「あ、でも、ママちゃんがいくらか負担してくれるって言ってるから何とかなりそうなんだー」
「…………………………え?」

 おれと浩介、一緒に絶句してしまった。

「目黒さん、ママちゃんって………」
「連絡取ってるの……?」
「取ってるよー」

 ケロリとして言う樹理亜。

「だってママだよー? 当たり前じゃん」
「で、でも」

 彼女の母親は、幼い頃から彼女を自分の支配下におき、売春まで強要していたのだ。
 おれ達は3ヶ月前、そんな母親の元から樹理亜を助けだしてきた………つもりだったのだが。

「ママちゃん、樹理亜の応援するって言ってくれてるんだ~」
「でも目黒さん、いいの? 今までのこと許せるの?」

 浩介が真剣な顔で問いかけると、樹理亜はきょとんとした。

「許すも何も、だってママだよ?」
「…………」
「何があっても大好きに決まってるじゃん」

 この愛情の純粋さはどこからくるんだろう……

「あ、噂をすればママちゃんだ! ちょっと失礼しまーす。もしも~し」

 嬉しそうに携帯で話しながら席を外す樹理亜………。
 

「子供って………無条件に母親のこと好きだったりするよね……」
 浩介がポツンと言う。
 
「おれが……変なのかな」
「浩介」

 テーブルの下で浩介の手をギュッと掴む。
 浩介は樹理亜の母に自分の母親を重ねていたところがある。その母を、あっけらかんと「大好き」と言われてしまっては……

「人それぞれだろ、そんなの」
「………」
「それに、目黒さんは今、母親と良い距離感を持ててるってことだろうな」
「………」

 握り返してきた浩介の手に力が入っている。

「おれ……来週、母親に会うんだよね」
「……そうだな」

 今週末のカウンセリングで最終調整をして、問題なければ、来週母親と一緒にカウンセリングを受けることになっている。

「……大丈夫かな」
「大丈夫だ。今度はおれも一緒だからな」
「……うん。ありがと」

 ギュギュっと手を握りあう。
 大丈夫。大丈夫。気持ちをこめて握りしめる。

「あー、またラブラブしてるー」
「……あ」

 戻ってきた樹理亜に言われるまで、ここが都内の普通のパスタ屋だということをすっかり忘れて、おれ達はずっと手を握りあっていた。



----------------------

以上です。
最後までお読みくださりありがとうございました!

また、長々と書いてしまいました。
いきなり喧嘩はじめるので、びっくりしましたが、
でも、浩介がようやく、慶に対して遠慮がなくなってきたかな、と。

以前、「R18・負傷中の・・・」というので、
慶がフェラで飲もうとしたのを浩介がやめさせたって話があるのですが(←はい。下ネタすみません)、
そこでも慶は、浩介が自分に気を遣いすぎてるって気にしてました。
でも、きっと、この夜は……ねえ? 歯磨きのくだりはその布石なんすけどね。
……はい。私の頭の中そんなことばっかりです。

ということで。次回もよろしければ、お願いいたします!

---

クリックしてくださった方々、本当にありがとうございます!

本当に……こんな真面目な話、ご理解くださる方はご理解してくださるんだなあ、と感動しております。
いつも本当にありがとうございます!
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風のゆくえには~ あいじょうのかたち30-2(浩介視点)

2015年10月20日 08時13分30秒 | BL小説・風のゆくえには~ 愛情のかたち

 帰りは、田辺先輩が車で送ってくれるというのを丁重にお断りして、徒歩で駅に向かった。
 ちょうど高校時代の帰り道のような川べりに出たところで、慶がぼそっと言った。

「…………で? どう思った?」
「何が?」

 何のことを指しているか分からず聞き返すと、

「お前、それマジで聞いてんの? それともとぼけてんの?」
「…………え」

 本気で機嫌の悪い顔をしている慶……。
 どう思った?って言われても……。

「ごめん。おれはあんなに小さい子とはあまり接した経験ないから何とも……」
「ちげーよ」
「え」

 違う?

「優吾君のことじゃなくて」
「うん」
「あの………」

 慶は立ち止まり、おれを見上げると……

「やっぱいい」
「え?」

 プイッと歩き出す慶。慌てて追いかける。
 こういうシチュエーション、今までに何度もあった。ここで聞かないと後々まで引きずることは身をもって体験済みだ。

「慶」
 腕を掴んでこちらを向かさせる。慶、眉間にシワがよってる。

「何だよ」
「慶が、やっぱいい、とか、何でもない、とか言って、何でもなかったためしないでしょ。何年付き合ってると思ってるの」
「………」

 慶が一瞬泣きそうな顔になった。

「…………慶」
 ドキッとする。

 と、同時にひどく懐かしい感覚にとらわれた。前にもこんなことが……

 夏の夕暮れの中、慶の腕を掴んで振り向かせ………振り向いた慶は今みたいに泣きそうな顔をしていて………

 あの時おれは、おれ達は何の話を………

『何で慶が泣きそうになってるの?』
『お前が泣きそうだからつられてんだよっ』
『じゃあ一緒に泣こうよ~』
『ばーか』

 それから二人で土手に寝転んで夕焼けの空を見上げた。空の赤と青がすごく綺麗だったのを覚えてる。

 あれは…………

「美幸さんが田辺先輩と付き合うことになったときか……」
「何言ってんだお前?」

 いぶかしげに聞き返した慶に問いかける。

「ほら、高校の時に、今と同じ感じになったの覚えてない? ちょうどこんな夕暮れ時で……」
「ああ」

 慶がすぐに頷いた。

「お前が美幸さんに振られた時な」
「振られてないよ。別に告白もしてないし。ただ田辺先輩のところに美幸さんを連れていっただけで……」

 あの時、慶は………

『お前、本当に美幸さんのこと好きなんだな』

 そう泣きそうな目をして言って、背を向けたのだ。だから、腕を掴んでこちらを向かせて……

 考えてみたら、慶はあの時すでにおれのことを好きだったということになる。どんな思いでその言葉を言ったのだろう。どんな気持ちで隣にいてくれたんだろう……。

「……ちょっと寄り道するか」

 慶は小さくいうと土手を下りていき、途中で腰かけた。河川敷では小学生くらいの子供たちが遊んでいる。

 隣に腰かけ、川に目をやるその整った横顔を惚れ惚れと見つめる。まるで高校時代に戻ったようだ。

 慶はあの頃から全然変わらない。強くて、綺麗で、優しくて、可愛くて、温かくて……
 こんな人が一途におれのことを思い続けてくれているなんて………。

 そんなおれの浮かれた気持ちとは対象的に、慶は思い詰めたような顔をしたままだ。

「慶?」
「………」

 心配になって呼びかけると、慶がふっと息をついた。

「さっき聞きたかったのは……」
「うん」
「お前が久しぶりに美幸さんを見てどう思ったかってこと」
「美幸さん? ………慶?」

 そっと手を重ねられた。慶、手が震えてる……?

「どう、思った?」
「どうって………」

 慶、何を聞きたいんだろう?

「うーん……大変そうだなあって思った」

 素直に答えると、慶の手にさらに力が入った。………慶?

「それだけ?」
「あとは……女の人って母親になるとみんなあんな風になっちゃうのかなあ……とか」

 別人のようになって、息子に手を振り上げた美幸さんの姿を思い出して、胸が痛くなる。

 あの、女神のようだった美幸さんがあんなことをするなんて……まるでおれの母のようで……

 と、思い出の中に入り込みそうになったところ、

「………ごめんっ」
「え?」

 慶の声に呼び戻された。

 ごめん?

「ごめんごめんごめんごめんっ」
「慶?」

 慶はおれの手を掴んだまま、頭を抱え込んでしまった。なんだなんだ?

「何? どうしたの?」
「………ごめん」

 慶は下を向いたまま、言いにくそうにつぶやいた。

「おれ……自分のことばっかだな」
「え?」
「おれ、だめなんだよ、やっぱり。美幸さん苦手」
「え」

 そんな風には全然見えなかった。慶は頼りがいのあるお医者さんって感じで、すごいかっこよかったよ?

 そういうと、慶は苦笑した。

「医者モード入ってないと冷静さ保てる自信なかったからな」
「冷静さって………、あっ」

 しまった! と思い出す。途中までは覚えていたのに、今まで約束をすっかり忘れていた。

「ご、ごめん。忘れてた。おれ、一秒以上続けて見ないっていったのに、最後の方見てたかも……」
「かもじゃなくて、見てたよ、お前」
「………ごめん」

 それで機嫌悪かったのか……っていうか、「どう思った?」ってそういうことか……

「ごめんね、おれ、ホントダメだね。慶の気持ち考えられてなかった」
「いや、嫉妬深すぎるおれが悪い。一秒の話は忘れてくれ」
「慶………」

 掴まれていた手を、絡めるように繋ぎ直す。ギュギュッと握ると慶が少し笑ってくれた。ちょっと安心する。

「あのね、慶」
「ん」

 慶。愛おしい慶。手が震えてしまうほど嫉妬してくれていたなんて。抱きしめたい衝動が沸き起こるけれども何とか我慢する。

「ずっと前にも言ったことあるけど……おれ、美幸さんのことは恋愛感情とは違ったんじゃないかなあって思ってて」
「…………」
「女神、とか思ってたし」
「ああ……そんなこと言ってたな」

 軽く肯く慶。機嫌悪くなってないかな、大丈夫かな、と心配ながらも話を続ける。

「それで、今回もね、おれ、美幸さんはすごいいいお母さんになってるんだろうなって勝手に思ってたんだよね。高校の時みたいにいつもニコニコしててちょっとぽやんとしてて、でも肝心なところではビシッと決める、みたいなお母さんにさ」
「…………」
「あ、そうか」

 ここまで言葉に出してみて、はじめて気が付いた。

「おれ、高校の時も、美幸さんの中に、理想の母親像を見てたのかもしれないね」

 そう考えると、色々なことに納得がいく。
 美幸さんのことを好き、と言いながらも、そばにいられるだけで充分で、性的な欲求がまったく起きなかったのは、母親像を求めていたからなのかもしれない。

 こういう風に振り返られるのは、おそらく心療内科で治療を受けているおかげだろう。最近、自分の言動を冷静に分析できるようになってきている。

「でも、実際お母さんになった美幸さんは……」
 あの姿は少なからずショックだった。あの美幸さんがおれの母みたいに目を吊り上げていて……

「親ってのは大変だよ」
 慶がポツリという。

「おれはその一時しか一緒にいないから、いくらでも冷静に見られるけど、親はそれが24時間続くからな。」
「……………」

 おれの母親も、もしかしたらおれが生まれる前までは、もっと違う人だったのだろうか。

 いや、そもそも、母もおれに関わらなければ、普通のそこらへんにいる女性の一人でしかない気もする。料理上手で裁縫も得意で、本来なら自慢の母になるはずだったのでは……。

「慶……」
「ん」

 再びキュキュキュッと絡めた手に力を入れる。愛おしさが伝わってくる。

 こんな風に冷静に母のことを考えられるようになったのも慶がいてくれるおかげだ。
 昔からずっとずっと一緒にいてくれて、ずっと支えてくれている慶……。

 あらためて、溢れてくる思いを言葉にする。

「おれね、慶が好き」
「………」
「大好き」
「………お前」

 慶は何かを言いかけ、また黙ってしまった。かまわず今湧き上がっている思いを告げる。

「あのね、慶。おれ、潔癖症じゃん?」
「何を急に……」

 眉を寄せた慶に、身を寄せてピッタリくっつく。

「だから一生キスとか出来ないと思ってたんだよ。でも慶とだけはしたいと思った。美幸さんにしたいと思ったことは一度もないよ」
「それは、女神だから穢しちゃいけないとかそういう神聖化の上での……」
「それもあるのかもしれないけど、でも、絶対無理。おれ、他の人とそういうことするって思うだけで吐き気がこみあげてくる」
「…………」

 困ったような顔をした慶の手に口づける。

「でも、慶とだけはしたいと思う。慶のものは何でも欲しい。心も体も、精液も唾液も全部」
「………っ」

 途端に真っ赤になっていく慶。

「おま……っそういう具体的名称言うなよ恥ずかしいっ」
「だって、本当のことなんだもん」
「………」

 変態、とボソッと言う慶に、えへへ、と笑ってみせる。

「自覚あるよ。おれ慶に関してだけは、昔っからおかしいもん」
「………」

「慶だけは特別。だから、美幸さんのことはもう……」
「それとこれとは話は別だ」
「え」

 せっかくいい流れだと思ったのに、バッサリ切られた。

「言うとホントにバカバカしいから言いたくないんだけどこの際だから言うけどな」

 慶は子供みたいに頬を膨らませると、ブツブツいいだした。

「お前、あの頃、美幸さんにぽやーっと見惚れてたり、昇降口の前でソワソワ待ち伏せしたりしただろ。美幸さんのことを恋愛感情的に好きだったんじゃないとしたって、そういう初恋的な行動を美幸さんのためにしてたのは事実だろ」
「……慶」

 ポンポンと頭をなでると、ますます慶の頬が膨らんだ。

「そういう初めてのことの相手がおれじゃないってのが、なんかすっげえ悔しいんだよっ」
「慶………」

 本気で怒ったように言う慶。まるで子供だ。
 かわいいすぎる。本当に高校時代に戻ったみたいだ。

 負けず嫌いの慶。昔から、そう。中学時代に偶然バスケの試合で見た慶も、負けず嫌い全開で……

「あれ?」

 中学時代のことを思い出して、はっと気が付く。

 そうだ。そうじゃないか。

「慶、違うよ。やっぱりおれの初めては慶だ」
「は?」

 眉間にシワを寄せた慶に、ピッと指を立ててみせる。

「おれ、この話したら引かれるんじゃないかと思ってずっと言えなかったんだけどさ」
「なんだ今さら」

 今さら何を言われても引かねえよ、と慶。
 それもそれで何だなあと苦笑いしながら話を続ける。

「中学の時、慶のバスケの試合を見たって言ったでしょ?」
「あー、うん」

 おれは故意に中学の時の話をするのを避けてきたので、慶にこのころの話を詳しくしたことはない。慶もおれが今さら話しだしたことにちょっとビックリしているようだ。

「あの頃おれね、離人症っていうの? こう、ブラウン管の中にいる状態なのがひどくて……」
「うん」

 一度離していた手をもう一度つないでくれる慶。

「そんな褪せてる世界の中で、慶の姿だけが光輝いていて……、それこそ、ぽやーと見惚れてたってレベルじゃなくて、息するの忘れて苦しくなるくらい慶に見惚れてた」
「…………」
「慶は本当に綺麗で眩しくて、こんな人がこの世の中にいるんだって感動した。ずっとずっと見ていたかった」
「…………」

 照れたように慶がうつむく。かわいい。

「それでね、おれ、慶のこともう一度見たくて、慶の中学の校門の近くで待ち伏せしてたことがあるんだよ」
「えええ?!」

 慶が河川敷の子供数人がこちらを振り返るくらい大きな声で叫び、ハッとしたように声をひそめた。

「マジかよ……初めて聞いた」
「うん。だから引かれるかなと思って言えなかったんだって」
「引かねえよ……引くわけねえだろ」

 慶、本気で驚いてる。そんなに驚く話だったか……

「でも、おれ、お前のこと見た覚えねえぞ?」
「うん。1週間ぐらい通ったんだけど、会えなかったから」
「え、なんで……、あ、そうか! おれが怪我して入院してた時ってことか!」

 そうなのだ。高校になって再会してから怪我のことを聞き、あの時会えなかった理由を知った。

「うわーそうか。ごめんなー」
「ごめんって」

 笑ってしまう。何年……何十年も前の話だ。

「だから、見惚れたのも、待ち伏せも、慶が初めてだよ」
「そうか……」

 まだ驚いた表情をしたままの愛おしい慶を見つめ返す。たくさんの初めてを思い出す。

「友達になったのも、自転車の二人乗りしたのも、慶が初めて。……それに」

 繋いでいる手に口づける。

「抱きしめたのも、デートしたのも、キスしたのも、セックスしたのも、慶が初めて」
「………」
「初めてで唯一。おれのたった一人の人」
「………浩介」

 見つめあう。あの頃と少しも変わらない輝く瞳。その瞳に写る自分だけは好きになれた。

 あなたと一緒にいられたら何もこわくない。

「慶………」

 そっと頬に触れ、その愛おしい唇に………

「って、公衆の面前で何しようとしてんだ、お前」
「いたっ」

 思い切り額を叩かれた………。

「けーいーっ」
「子供が見てる。ほら」

 言われて河川敷に視線をやったけど、みんな遊びに夢中でこっちなんか見ていない。

「見てないじゃん」
「さっき見てたんだよ」
「今見てないからっ」

 隙を狙って一瞬だけ唇を合わせる。慶の柔らかい唇……。

「あー、慶の唇って、なんでこんなに柔らかくて気持ちいんだろう……」

 思わずしみじみとつぶやくと、

「うるせえよっ」
「うわわっ」

 真っ赤になった慶が立ち上がって蹴ってきた。

「そういう恥ずかしいことを外で言うなっ」
「じゃ、うちでならいい?」
「…………」

 ピタリと足が止まった。そして、

「………いい」

 ボソッと言うと、慶はさっさと土手を上がって行ってしまった。

 いい、だって。かわいすぎだ。………何言おうかな。慶が照れそうなことたくさん言ってやろう。

「浩介?」
 振り返った慶。夕日に照らされた美しい姿。まるで映画の一シーンのよう。

「帰るぞ?」
「うん」

 帰る。うちに帰る。おれ達のうちに。

 色々な、本当に色々なことがあったけれど、今、一緒の「うち」に帰れることが何よりも嬉しい。

「けいー大好きー」
「だからそういうことはうちに帰ってからにしろっ」

 うちに帰ってから。
 それが何よりも幸せだ。



----------------


以上です。
長っ!長い!いつまで喋ってんの?!え?その話、今するの?
という感じの回でございました。

でも、ちょっとずつ、浩介の、お母さんに対する気持ちに変化が………
そして、慶の、美幸さんに対する対抗心もちょっとは減ったかもしれません。

よろしければ次回もどうぞよろしくお願いいたします!!

----

クリックしてくださった方々、本当に本当にありがとうございます!
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風のゆくえには~ あいじょうのかたち30-1(浩介視点)

2015年10月18日 21時28分21秒 | BL小説・風のゆくえには~ 愛情のかたち

「美幸さんのこと、1秒以上続けて見るなよ」

 言われた時にはビックリして固まってしまった。
 慶。どれだけ嫉妬深いんだ。
 そしておれ。どれだけ愛されてるんだ。


 美幸さんと初めて話したのは、高校二年のゴールデンウィーク明けの部活の最中のことだった。
 ランニングの途中ですっころんでうずくまっていたおれに、

「大丈夫?」

と、ハンカチを差し出してくれた美幸さん。女神のようだ、と感動したのを覚えてる。それからずっと彼女を目で追うようになり……

 ………なんて話、今、慶にしたら本気で殺される気がする……。



 田辺先輩と美幸さんは、大学在学中に一度別れたけれども、三十歳ごろに再会して、すぐに結婚。三年前に念願の子宝に恵まれ、美幸さんは仕事を辞めて育児に専念することにしたそうだ。

「美幸のやつ、お前らが来るからって、朝から張り切ってケーキ焼いたり、あちこち片づけたりしててな」

 車で駅まで迎えにきてくれた田辺先輩が苦笑気味にいう。

「棚の位置変えたりするのに、子供が邪魔だからどっか連れて行ってくれって言われて、このクソ暑い中、さっきまでずっと公園にいたんだよ、オレ」
「へえ、いいパパしてますね」

 言うと、田辺先輩はちょっと渋い顔になった。

「……どうだかなあ。まだ一緒に遊ぶって感じじゃなくて……。いうことも全然聞かねえしな。さっきも無理矢理公園から引き揚げて、玄関の中に放り込んでから、お前ら迎えにきちまったから、もしかしたらすっげえ機嫌悪いかも」
「すみません。この距離だったら全然歩けたのにわざわざ迎えに来てもらっちゃって」
「いや、この炎天下歩くのは………あ、ここだよ」

 まさに新興住宅街、という街並み。真新しい家が立ち並んでいるうちの一軒だった。白い壁が太陽の光で輝いている。でも、どうも雑然としているというか……何か違和感がある。

「あ……」
 玄関に向かっている途中で、田辺先輩がハッとしたように駆け出した。

「なに……」
 呼びかけようとした言葉をひっこめる。玄関を開けた途端に聞こえてきた、子供の叫び声。物がぶつかる音。そして、女性の悲鳴のような声。

「美幸?! 優吾?!」
 靴を脱ぎすて、うちの中に入って行く田辺先輩。
 おれ達はどうしたら……と思っていたら、慶がさっさと田辺先輩の後についていってしまったので、おれも慌てて追いかける。

「…………!」
 扉の向こうは………まさに修羅場だった。あちこちに散乱している物。ずらされたソファー。真っ赤な顔をして叫びながら物を投げている小さな子供。それをやめさせようとしている母親……。

「美幸、何なんだこれは?!」
「………知らないっ。知らないよっ」

 絞り出すように言う美幸さん……。こんな険しい表情見たことない……。

「この子、ずっと暴れてるの。せっかく綺麗にしたのに……っ」
「そんな、優吾、お前……っ痛っ」
 優吾君に手を伸ばした田辺先輩に、優吾君が投げた図鑑がぶつかる。

「優吾!」
 美幸さんが叫んだ。

「どうして? どうしてこんなことするの? 優吾!」

 美幸さんが暴れる息子に手を振り上げる……っ

「やめ……っ」

 ざっと血の気が引いたのが分かった。美幸さんの姿と母の姿が重なる。

『どうして出来ないの? どうして、どうして、どうして……』
『痛い、痛いよ……お母さん』

 フラッシュバックが起こる……

『お母さんやめてお母さんお母さんお母さん……っ』

 背中が痛い。息ができない。苦しい苦しい苦しい……


「浩介」
「!」

 深淵に沈み込みそうになったところを、掴み取られた。慶が心臓を押さえているおれの左手を握ってくれている。

「おれがついてる。大丈夫だから」
「…………」

 慶はもう一度ぎゅっと強く握りしめてくれると、パッと離し、つかつかと美幸さんのそばに歩み寄った。

「元に戻してください」
 慶のピシャリッとした声に、場が一瞬静まりかえる。が、すぐに優吾君は叫びを再開した。こんな小さな体にどれだけのパワーがあるんだと驚くぐらいの力強さ。田辺先輩と美幸さんだけが慶を振り返った。

「なにを……」
「棚の位置を変えたんですよね? それを元に戻してください」
「え?」
「もしかして、ソファーの位置も変えましたか? それも戻してください」
「なにを……」
「早く」

 有無を言わせない慶の言葉に、田辺先輩がソファーを移動させはじめた。おれと慶も手伝う。優吾君の叫びが小さくなってきた。
 そして、隣の部屋の押し入れにしまってしまったという棚を美幸さんが持ってくると、優吾君は叫ぶのをやめ、出していた車のおもちゃを並べ始めた。

「優吾……」
「何だったんだ一体……」

 呆然としている田辺先輩と美幸さんに、慶が冷静に説明をしている。

「いつもと同じ場所に同じものがなかったので、戸惑っていたんだと思いますよ? 模様替えをなさるなら、息子さんにも納得してもらってから、息子さんの目の前でやったほうがいいと思います」
「な…………」

 力が抜けたようにしゃがみ込む二人……。

「ねえ……渋谷君」

 ポツリと美幸さんが言う。

「うちの子……やっぱりおかしいの? ネットに書いてある、障がいのある子の特徴にすごく当てはまってるの。やっぱり何か障がいが……」
「それは私には判断できません」

 慶が冷たいほどキッパリという。

「でも、障がい児対応は、一般の子供にも有効的ですので、障がいの有無は抜きにして、障がい児対応の勉強をしてみませんか? 環境を整えてあげたら、息子さんもずっと落ちつくと思いますよ?」
「例えば?」
「そうですね、まず見通しを……」
「渋谷」

 田辺先輩が、慶と美幸さんの間に割って入った。

「お茶でも飲みながらにしないか? っていうか、お前ら二十年以上ぶりに会ったっていうのに、ロクな挨拶もしてないよな」
「あ………」

 慶と美幸さんが顔を見合わせちょっと笑った。

「久しぶり。渋谷君。あいかわらずカワイイね」
「四十過ぎのオジサンにカワイイはないんじゃないですか?」

 苦笑する慶。そして美幸さんがおれの方をみた。

「久しぶり。桜井君」
「あ……はい」

 一瞬だけ、目を合わせ、すぐに頭を下げる。おそるおそる慶の方をみると……

(………こ、こわい……)

 無表情にこちらを見ている慶……。いや、おれ、ちゃんと一秒しか見てないって!


***


 美幸さんが作ったケーキをいただくことになった。
 彼女は夢を叶えて、ケーキ屋に就職していたそうだ。落ちついたらまた戻りたいけど、いつになるかな……と疲れたように言う美幸さん……。

 その暗い雰囲気を吹き飛ばそうとしたのか、田辺先輩が明るくおれ達に言ってきた。

「お前ら、一緒に住んでるんだってな? あいかわらず仲良いよな。彼女とかいねえのか?」
「二人ともカッコいいから彼女くらいいるでしょー」
「え……」

 そうか。一緒に住んでるっていっても、そういう関係じゃないって思われることもあるのか。

「えーと……」
「彼女はいません」

 真面目な顔で答える慶。機嫌悪そう。たぶん「二人ともカッコいい」って言った美幸さんの言葉にムカついてるんだろう。「浩介のことカッコいいとか言うな!」とか思ってるんだろうな。

 もう、慶、かわいいなあ。

「はい。彼女なんかいるわけがありません」

 かわいすぎる慶の左手を掴み、上にあげさせ、おれも左手をあげ、横に並べる。薬指に輝く結婚指輪。
 ちょっと驚いた顔をした慶に微笑むと、そのまま正面を向いて宣言した。

「おれ達、正式に結婚はできないので、事実婚ってことになっちゃうんですけど」
「え」

 目を丸くした美幸さん。

「え、そういうこと?」
「はい。そういうことです」
「え? どういうことだよ?」
「だからこういうことです」

 結婚指輪を合わせるようにして、左手を重ねてみせると、田辺夫妻が「うわっ」と叫んだ。

「愛の巣ってマジだったのか」
「冗談かと思ってた………」

 まじまじと見られ、苦笑してしまう。慶も頬をかきながら気まずそうに視線をそらした。

 田辺夫婦が矢継ぎ早に聞いてくる。

「いつから?」
「高2の冬からです」
「ずっと? マジか。長えな」
「えー全然気がつかなかった」
「ずっと内緒にしてて、最近ようやくカミングアウトすることにしたんです」
「どうりでお前、合宿のときノリ悪かったわけだな」
「合宿?」

 田辺先輩の言葉に美幸さんが食いついてきた。

「何何? 合宿の時って?」
「いや、まあ、男子高校生にありがちな……なあ?」
「はい」

 女性にはとても話せない話だ。

 美幸さんが、何よも~っと怒って、田辺先輩が、まあまあ、となだめてて……。その様子が高校時代から変わらなくて、ホッとする。二人、うまくやってるんだな……。

 なんかちょっとうらやましくなって、慶を振り返り、

(………慶)

 真剣な表情に引き込まれてしまった。慶、医者の顔をしてる。おれ達が昔話に花を咲かせている間、慶はじっと優吾君を観察していたようだ。

(かっこよすぎ……)

 おれの慶は、なんてかっこいいんだろう。

 優吾君は今はおとなしくミニカーで遊んでいる。あれだけ叫んでいた子供と同一とはとても思えない。

 慶の様子に気がついた美幸さんが、「どう?」と慶に聞く。
 慶は「専門ではないのですが」と断りながらも、優吾君の普段の様子を聞いたり、今遊んでいる様子を見たりしながら、今後の対応について二人に色々提案しはじめた。この日のために勉強したのか、元々持っていた知識なのかはわからないけれど、慶の淡々とした話し方は、専門家そのものだ。

 長い長い打ち合わせの後、

「ありがとう。渋谷君。頑張ってみる」

 頷いた美幸さんに、慶は軽く手を降った。

「いえ、頑張り過ぎないでください。お母さんが倒れたら大変なことになりますから。手を抜けるところは抜いて、適当にお願いします」
「…………渋谷君」

 ふっと笑った美幸さん……。
 田辺先輩が心配そうに美幸さんを覗きこんでから慶に向き直った。

「実は、こいつ最近全然眠れてないんだよ。神経が高ぶって眠れないらしくて。そういうの診てくれるところって………」

 美幸さん、昔、眠るの大好きって言ってたのに……。バスケットボールを抱えたまま、校庭の隅で眠っていた美幸さんの姿を思いだして切なくなる。

 母親というのは、そんなにも大変なものなんだろうか………

「では、私の知り合いの心療内科医を………」

 慶が戸田先生を紹介している横でそんなことをぼんやり思った。

 優吾君はこちらにはまったく興味を示さず、ひたすらミニカーを畳のヘリにそって並べている。

 ふと思う。おれはどんな子供だったんだろう…………。



----------------


書き途中なのですが、この後も長く続いてしまって、スクロールするのが面倒になってきたので、ここで一回切って送ることにしました。

真面目な話ですみません……。いや、ホントに真面目な話になってきた……。
この「風のゆくえには」シリーズは、すべて登場人物任せでして、勝手にストーリー進んでいってしまいます。
それって、ようは、私の生活範囲内の話ってことですよね。なもので、話が地味ですみません、というか、妙に所帯じみててすみません、というか……

私の中では、彼らは本当に実在していて、普通に生活してるので、なので、なんというか……すんごい事件は起こらないと思います。人生そんなにすんごい事件に遭遇することってないじゃないですか?
そんな彼らの日常ですが、よろしければ次回もどうぞよろしくお願いいたします!!

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風のゆくえには~ あいじょうのかたち29(慶視点)

2015年10月15日 21時28分24秒 | BL小説・風のゆくえには~ 愛情のかたち

 浩介が熱を出した。

 おれが目を覚ましたとき、浩介はおれの手を握ったまま、潤んだ瞳でおれのことをじっと見つめていた。たぶん一晩中眠れなかったのだろう。

「……浩介?」
 その手の熱さに嫌な予感がして額をコツンとくっつける。……やっぱり熱がある。

「お前、熱あるな。どっか痛いとこあるか?」
「…………お腹が少し……」
「ちょっと触るぞ」

 触診している間も浩介はぼんやりとしている。これは………。

「………今日は無理だな」
「え」
「戸田先生にはおれから連絡しておくから」
「……自分でするよ。子供じゃあるまいし」

 ちょっと笑う浩介。胸が痛む……。

 今日は、心療内科クリニックで、浩介は初めて母親と一緒に診察を受けることになっていた。
 日にちが決定してからというものの、浩介は気を抜くと深刻な顔になっていて、最近は食事の量も減っていた。

 今日は土曜日。おれはもう仕事にいかなくてはならない。こんなときにそばにいてやれないなんて…………

「一日ゆっくり寝てろ。食欲なかったら食べなくてもいいけど、水分だけは取れよ?」
「うん………」

 素直に頷く浩介。目が潤んでいるのは熱のせいだけではないだろう。

「なるべく早く帰るから」
「ん………ありがと」

 弱々しく微笑んだ浩介の唇に、そっと口づける。びっくりしたように浩介がおれを押し戻した。

「慶、うつっちゃうよ」
「…………そうだな」

 いや、うつらないよ。お前のその熱と腹痛はストレス性のものだ。………って言葉は飲み込む。

「じゃあ、腕出せ」
「腕?」

 きょとんと差し出された腕を手に取る。やっぱり熱い………。

「慶?」
「………しるし」
「え、なに?………っ」

 言いかけたのを無視して、浩介の腕の内側の柔らかい部分に歯をたてて吸い付く。

「…………んっ慶……っ」
「…………」

 浩介が感じているような声をあげたので、つられてモノが固くなってきてしまった。……いやいや、そんなことをしている時間はない。舌で舐めながら吸い込み続ける。………これで付いたか?

「………慶」
 おれが腕を離すと、浩介は赤くなったその場所をみて吐息まじりに呟いた。

「………慶のしるしだ」
「浩介」

 額とこめかみのあたりに軽く口づけてから、頭をぎゅっとかき抱く。

「一緒にいてやれなくてごめんな」

 一緒にいられない分の、おれのしるし。せめて心はここに置いていきたい。

「ん。ありがと……」
「………」

 離れがたくて、頭をなで続けていたら、浩介がそっとおれを押してきた。 

「慶? 遅れちゃうよ? いってらっしゃい」
 手をふる浩介……。

「……いってきます」
 今すぐ重なりたい衝動をどうにか抑え、部屋を出る。

 やはりまだ、母親に会うのは無理だったんだ。
 ……でも、いつならいいというんだ? 大丈夫になる日なんてくるのか……?


***


 浩介の主治医である心療内科医の戸田先生と相談した結果、母親とのカウンセリングは来月まで延ばしてもらうことになった。今度はやはりおれも同席することになりそうだ。


 おれが今気にかかっている問題は3つある。

 一番大きい問題は、浩介とご両親との確執。

 次に、目黒樹理亜のこと。
 彼女は娘に売春を強要させるような母親の元から、ようやく逃げ出すことができた。
 母親の趣味で染められていたピンクの髪も、本来の彼女の髪の色である茶色っぽい黒に戻し、奇抜なピンク一色のひらひらした洋服からシンプルな洋服に変わり、今では普通の可愛らしい少女になっている。
 もうすぐ二十歳の誕生日なので、これを機に、正式に陶子さんの店の従業員として雇用してもらうらしい。

「だから保険証も変わるんだって。住民票も今の住所にうつして、それで、住民税?とか、年金?とかも払うのよって陶子さんが言ってた。なんか大人になるって色々面倒くさいねー」

 樹理亜がニコニコと言っていた。そのために陶子さんが樹理亜の母親と話をつけに行ってくれたことは知らないらしい。
 母親がこのまま樹理亜から手を引くかどうか、それを見極めなければならないと思っている。

 それから、三好羅々のこと。
 彼女は陶子さんの姪。浩介に好意を持っていて、浩介に睡眠薬を飲ませて眠らせ、自分と性行為をしているかのような写真を撮った、とんでもない女だ。
 その後一度浩介に会いに来たらしいが、浩介に拒絶され、また引きこもりの日々を過ごしているらしい。でも知ったことではない。もう二度と出てくるな、と言いたいくらいだ。


 おれのカミングアウト問題は、特に変わりはない。
 一番はじめに病院に密告のメールをし、掲示板に書きこみをしたのは、樹理亜に思いをよせているユウキという、体は女性だが心は男性である子だということがわかり、それは院長である峰先生に報告したが、

「まあ、結果的にカミングアウトできてよかったんじゃねえの?」

と、言われた。確かに、色々言われたり、偏見の目で見られたりする面倒臭さはあるけれども、変なウソをつかなくてよくなった、という気持ちの楽さはある。


 高校時代の同級生にもとうとうカミングアウトした。
 みんな驚いていたけれど、浩介の話の持っていき方が良かったおかげで、なんとか受け入れてもらえたようだった。

 その流れで、当時仲良かった奴ら5人が7月の連休にうちに遊びにきてくれたのだが……


「慶………今、機嫌良い?」
「は?」

 同級生が遊びにきた翌日、海の日で二人とも休みだったため、朝からずっとベッドの上で何をするわけでもなく(あ、いや、することはしてたけど)、ただベタベタしながら過ごし、ようやく、昼過ぎにそうめんでも食べるか、と起きてきたあとのことだった。

 浩介はものすごく話しにくそうに、ボソボソと、

「機嫌良いときに話したいんだけど……」
「なんだそりゃ」

 そうめんを茹でるために鍋に水をいれながら、浩介を振り返る。

「別に悪くねえよ。話せ」
「……あの……」

 浩介、携帯を手に持っている。どこかから連絡があったということか。話しにくいということは、三好羅々の件か?

「なんだ。三好さんか?」
「ちがくて……」

 あの……あの……あの……と、このまま、こいつ「あの」しか言わないつもりか?というくらい逡巡し続け……

 やがて、ようやく、言葉にした。

「田辺先輩から連絡があって……」
「田辺先輩? って、あの田辺先輩?」

 ものすごく懐かしい名前。一つ上のバスケ部のキャプテンだった人だ。
 そして、浩介が片思いしていた美幸さんの彼氏……。

 浩介は高校二年生の一学期の間、美幸さんという一つ年上の女性に想いを寄せていた。フワフワしていて可愛らしいのに、バスケットボールを持たせると途端にキリッとなる、ちょっと不思議な人だった。

 おれは彼女が大っ嫌いだった。彼女自身は悪い人ではなく、おれの単なる嫉妬でしかないんだけれども、いまだに彼女のことを思い出すと、あの時の浩介の、彼女に見とれてぽや~っとしていた顔とかを思い出して、ムカついてどうしようもなくなる。いい加減、もう何年前の話だよ、と思うのだけれど、こればっかりはしょうがない。今も思い出してムカムカが込みあがってきてしまった。

「………で?」
「あの………、やっぱりいいです」

 不機嫌全開になったおれにビビって、浩介が台所から出て行こうとする。それを足で止める。

「なんだ。気になるだろ。言え」
「だからもういいよーこわすぎて言えない」
「言えないなら見せろ」

 携帯に向かって手を出すと、浩介が渋々携帯を差し出してきた。

 そこには田辺先輩からのラインの投稿が……

『渋谷にかみさんと息子に会いにきてくれるよう頼んでくれないか』

 かみさんと息子? なんの話だ??
 って、なんで、おれが??

 ハテナハテナハテナ?となったおれに、浩介が「あのね……」と話しだした。


 昨日、うちに遊びにきたメンバーの中に、元バスケ部の斉藤がいた。
 そいつが、うちでみんなで撮った写真をラインのタイムラインに載せたそうなのだ。見せてもらったら、おれが小児科医であることとか、ここが浩介とおれの愛の巣だとか、好き勝手なことが書いてあった。

 それを見た田辺先輩が、浩介に連絡をしてきたそうなのだ。二人ともバスケ部OBのラインのグループに登録しているので、そこから辿ってきたらしい。

 そこまできいて、再度先ほどのラインを思い出す。

「かみさんと息子……かみさんっていうのは、まさか……」
「うん………」

 言いにくそうに、浩介がうつむく。………そうか。そうなのか……。

「美幸さんのことだな?」
「…………」

 あの二人、結婚したのか……。

「なんでおれに会いたいなんて言ってるんだ?」
「あのね……詳しくは分からないんだけど……」

 浩介が画面をスクロールさせながら言葉を続ける。

「3歳の息子さんがやんちゃすぎて、美幸さんがすごく悩んでて……」
「…………」
「専門の病院を予約したけど、見てもらえるのは半年後って言われて、普通の小児科に連れて行っても、暴れて話もできないんだって。それで……」
「…………」

 美幸さんは、華奢で優し気な人だった。3歳の男の子を抑え込むのは大変だろう…。

「それで医者であるおれに来てほしいってことか」
「うん………、あ、でも、慶が嫌なら断るよ」

 浩介が慌てたように首を振る。おれの美幸さんアレルギーを浩介はよく知ってるからな。でも……

「いいぞ。いくって返事してくれ」
「慶」

 ビックリしたような浩介に指を立てる。

「ただし、おれも専門ではないから、どこまで役に立つのか分かんねえって言っといてくれ」
「あ……うん」

 頷きながら、浩介はジッとおれの目を覗き込んでくる。

「ホントに……いいの?」
「いい。そのかわり条件がある」
「え……怖いな」

 顔をこわばらせた浩介の腰のあたりをぎゅっと掴み、正面から見据える。

「お前……」
「うん」

「美幸さんのこと、1秒以上続けて見るなよ」
「…………え」

 目をまん丸くして固まった浩介にイラッとして、軽く足で小突く。

「返事は?」
「え、それって、話もしない方がいいってこと?」
「当たり前だろ」

 仲良く話なんかされた日には、おれの理性がどうなるか分からない。

「それができないならお前はくるな。おれだけ行く」
「慶………」

 浩介はつぶやくと、おれをジッと見つめて黙ってしまった。

「…………」

 その沈黙に、不安が押し寄せてくる。

 浩介、呆れた?
 おれのあまりもの嫉妬深さに嫌気がさした?

 二十年以上も前のことにこだわってるおれはおかしいのだろうか。
 でも、でも、おれは……

「……慶」
「……なんだよ」

 心の中は泣きそうになりながらも、顔は平静を装って浩介を見上げる。でも、浩介の真っ直ぐな瞳に耐えきれず、視線を逸らした、のと同時に、

「慶」
「!」

 心臓が止まりそうになる。ぎゅううっと強くかき抱かれたのだ。

「……浩介」

 震えてしまう。浩介の匂い。浩介の腕、浩介の胸……。さっきまで散々ベッドで堪能していたというのに、どうしてこんなに愛おしくて手放したくないと思ってしまうのだろう。

 浩介はおれの頭をなでてくれながら、耳元にささやいてきた。

「慶………かわいいね」
「………かわいくねえよ」

 ムッとする。浩介は昔っから何かというと「かわいい」で誤魔化そうとするところがある。
 浩介はちょっと笑いながら、頬にキスしてきた。

「約束するよ。一秒以上見ない。必要以上には話さない。それでいい?」
「………よくない」

 なんだかムカついてしょうがない。合わされたおでこをぐりぐりと押し返す。

「そんなんじゃ、なんか気が済まない」
「んーーー、じゃ、指輪していこう」
「え」

 今年の初めにお揃いで作った結婚指輪。

「おれ達、事実婚状態ですって」
「…………」
「おれは慶のものです。慶はおれのものですって、ね?」

 言いながらも、額に瞼に頬に鼻にキスの嵐が下りてくる。

「………わかった」
「慶……大好きだよ」

 キスの嵐が耳に首筋に、鎖骨のあたりまでおりてきた。
 それ以上下りてくる前に、ぐいっと浩介を押し戻す。

「そうめん、茹でるぞ?」
「………。なんでこの展開でそうめん茹でるって話になるの? って痛っ」

 下半身に伸びてきた手をピシッと弾く。痛いなーと文句を言う浩介の胸をぐりぐり押す。

「もう昼食。朝飯も小さいアンパン一個食っただけだし、腹減った」
「えー」
「だいたい、朝からずっとこんなことばっかして……」
「こんなことって?」
「こんな……」
「こんな?」

 浩介の目がすっと細くなり、唇が近づいてきた。

 ドキッとする。

 浩介は普段は甘ったれな感じなんだけれども、時々、ふっとスイッチが入って強引な人格が出てくるのだ。今、その瞳をしてる……

「こう………」
「おれはまだまだ足りないよ? もっともっと、慶が欲しい」

 言いながら強引に台所の床に組み敷いてくる。ごつんとフローリングの床に頭がつく。

「こんなとこで……」
「気分変わっていいでしょ?」
「狭い」
「それもまた一興」
「………」

 唇が首筋からうなじの方にまわってきて、そのままツーッと背中をなでられる。のけぞったおれを膝立ちの状態に起こし、後ろからぎゅっと抱きしめてくる浩介……

「おれね……慶が愛おしくて、愛おしくて、もう、どうしたらいいのかわかんない」
「……っ」

 後ろから体の中心を掴まれ、ゆっくりと扱かれる。

「この気持ちどうしたら伝わるかな……ねえ、慶、伝わってる?」
「ん……っ」

 ぞくぞくぞくっと体中に震えがくる。耐え切れなくて、冷蔵庫の端に掴まり体をそらせる。

「慶……大好き」
「んん……」
「大好きだよ」

 耳元でささやかれる甘い言葉………理性が、飛ぶ……

「こう……っ、欲しい……っ」
 恥ずかしげもなく求めてしまう。

「我慢できね………早く……」
「慶……」

 かわいいね、とまた言う浩介。そして……

「……っ」

 一つになる。どうしてこんな獣のような行為を愛と呼ぶのだろう。
 でも、もう、止まらない。なんて充実感……。

 愛してるよ……耳元で繰り返される言葉。
 
 愛してるよ、愛してるよ……

 一つになり、強く抱きしめられ、実感する。
 ああ、おれは愛されている……。

「浩介………」

 おれも愛で包んでやれているのだろうか……。




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以上です。
最後までお読みくださりありがとうございました!

短くまとめようと毎回思うのですが毎回長くなります。
つか、最後、君たちなにはじめちゃってるのよ。
R18シリーズじゃないんだから書けませんよ?やめてくださいよ?
と、登場人物と私の間でせめぎあいがあり、その結果のラストシーンでございました。

なんて内部事情はさておき。
次回ようやく美幸さん登場です。出ることは決まっていたので私の中ではようやくって感じです。

ということで。次回もよろしければ、お願いいたします!

---

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こんな真面目な話、どうなのかな…と毎回思うのですが…
ご理解くださる方がいらっしゃるということに励まされ、書き続けております。
いつもありがとうございます!
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コメント (2)
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