「緑澤君!」
あわてて緑澤君の腕をつかんで引っ張る。まるで綱引きのようだ。
緑澤君が痛そうに顔をゆがめた。
「ごめん、僕・・・」
「謝ってる場合じゃない! 緑澤君も力入れて、足を抜いて!」
「ねえ、ねえ」
この緊急事態に場違いな呑気な声をかけられた。姉妹の姉が首をかしげてこちらをみている。
「七重は達之のことが好きなの?」
「は?」
何をこんな時に・・・
「ねえ、二人は結婚するの?」
「そんな先のことは分からない! でも今、一緒にいたいのよ!」
「それならここで一緒に暮らせばいいじゃないの?」
「ここでは生きている実感がない!」
おもわず叫んでしまった。
「生きてるっていうのはね、ご飯を食べたり、映画をみたり、おしゃべりしたり、感動したり、傷ついたりすることなんだよ!」
わずかに、光が弱まった。その隙に力をこめて緑澤君を引っ張り上げる。その瞳を見上げて、切に訴える。
「緑澤君、生きよう。私たち、一緒に生きよう。六年前、あなたが私を助けてくれた。今度は私が助ける番だよ」
「山本さん・・・」
眼鏡の奥の優しい瞳が、ふっと笑って・・・、ふいに、抱きしめられた。
「ありがとう・・・」
緑澤君のぬくもりが伝わってくる。胸がきゅうっとなって、体の力が抜けていく・・・場合じゃない!
「早く! 行こう!」
「ど、どっちへ?!」
「あっちだよ」
すっと姉妹の姉が指をさした。
「ここずっとまっすぐいくと扉につくよ」
「・・・どうして・・・」
姉は肩をすくめた。
「もういいよ。無理強いしていてもらっても楽しくないしさ。また違う人に来てもらうから別にいいよ」
「・・・・・・」
「それより、早く行った方がいいよ。今ちょうど『白い女の人』の力が弱まったみたいだから。あの人、自分のいる扉から離れると強い力を出し続けられないみたいなんだよ」
「ねえ、あの人っていったい何者なの?」
「さあ?」
さあって・・・。
「分からないけど、別に悪い人じゃないよ。私たちにおうち作ってくれたし」
確かに、妹を抱き上げたときの彼女は母性に満ちあふれていた。おそらくこの子達に危害を加えることはないのだろうが・・・。
「ねえ、あなたたちはこれからどうするの?」
聞くと、姉は妹をふわりと抱きしめた。
「私たちの居場所はここなの。二人一緒だから寂しくないよ」
「・・・そっか」
「ここは居心地がいいよ。いつでも戻ってきて」
「・・・・・・」
私と緑澤君は顔を見合わせ、しっかりと手を握りあった。
「じゃ、行くね。教えてくれてありがとう」
「うん。じゃあね」
後は振り返りもせず、教えてもらった通り、まっすぐ走った。二人で一緒に。
「あれかな・・・」
しばらく走ると扉がうっすらと見えてきた。そこから和也とおばさんの声がもれ聞こえてくる。
緑澤君の手に力がこもった。
「大丈夫だよ」
私も力いっぱい握りかえす。
家に居場所がない? 学校に居場所がない? だったら他に居場所を作ればいい。それは公園のベンチでもいい。デパートの洋服売り場でもいい。本屋でもいい。そんなの自分次第なんだ。そこで力を蓄えて、また戦いに出ればいい。
『本当にいいの?』
扉の前に着くと、突然、空から白い女の人の声が聞こえてきた。
『本当にいいの? 外には嫌なことがたくさんあるわよ。また傷つくわよ』
「・・・大丈夫」
緑澤君が力強くうなずいた。
「がんばってみる。山本さんがいてくれるからがんばれると思う」
「・・・行こう」
そして・・・二人で扉を開けた。
あわてて緑澤君の腕をつかんで引っ張る。まるで綱引きのようだ。
緑澤君が痛そうに顔をゆがめた。
「ごめん、僕・・・」
「謝ってる場合じゃない! 緑澤君も力入れて、足を抜いて!」
「ねえ、ねえ」
この緊急事態に場違いな呑気な声をかけられた。姉妹の姉が首をかしげてこちらをみている。
「七重は達之のことが好きなの?」
「は?」
何をこんな時に・・・
「ねえ、二人は結婚するの?」
「そんな先のことは分からない! でも今、一緒にいたいのよ!」
「それならここで一緒に暮らせばいいじゃないの?」
「ここでは生きている実感がない!」
おもわず叫んでしまった。
「生きてるっていうのはね、ご飯を食べたり、映画をみたり、おしゃべりしたり、感動したり、傷ついたりすることなんだよ!」
わずかに、光が弱まった。その隙に力をこめて緑澤君を引っ張り上げる。その瞳を見上げて、切に訴える。
「緑澤君、生きよう。私たち、一緒に生きよう。六年前、あなたが私を助けてくれた。今度は私が助ける番だよ」
「山本さん・・・」
眼鏡の奥の優しい瞳が、ふっと笑って・・・、ふいに、抱きしめられた。
「ありがとう・・・」
緑澤君のぬくもりが伝わってくる。胸がきゅうっとなって、体の力が抜けていく・・・場合じゃない!
「早く! 行こう!」
「ど、どっちへ?!」
「あっちだよ」
すっと姉妹の姉が指をさした。
「ここずっとまっすぐいくと扉につくよ」
「・・・どうして・・・」
姉は肩をすくめた。
「もういいよ。無理強いしていてもらっても楽しくないしさ。また違う人に来てもらうから別にいいよ」
「・・・・・・」
「それより、早く行った方がいいよ。今ちょうど『白い女の人』の力が弱まったみたいだから。あの人、自分のいる扉から離れると強い力を出し続けられないみたいなんだよ」
「ねえ、あの人っていったい何者なの?」
「さあ?」
さあって・・・。
「分からないけど、別に悪い人じゃないよ。私たちにおうち作ってくれたし」
確かに、妹を抱き上げたときの彼女は母性に満ちあふれていた。おそらくこの子達に危害を加えることはないのだろうが・・・。
「ねえ、あなたたちはこれからどうするの?」
聞くと、姉は妹をふわりと抱きしめた。
「私たちの居場所はここなの。二人一緒だから寂しくないよ」
「・・・そっか」
「ここは居心地がいいよ。いつでも戻ってきて」
「・・・・・・」
私と緑澤君は顔を見合わせ、しっかりと手を握りあった。
「じゃ、行くね。教えてくれてありがとう」
「うん。じゃあね」
後は振り返りもせず、教えてもらった通り、まっすぐ走った。二人で一緒に。
「あれかな・・・」
しばらく走ると扉がうっすらと見えてきた。そこから和也とおばさんの声がもれ聞こえてくる。
緑澤君の手に力がこもった。
「大丈夫だよ」
私も力いっぱい握りかえす。
家に居場所がない? 学校に居場所がない? だったら他に居場所を作ればいい。それは公園のベンチでもいい。デパートの洋服売り場でもいい。本屋でもいい。そんなの自分次第なんだ。そこで力を蓄えて、また戦いに出ればいい。
『本当にいいの?』
扉の前に着くと、突然、空から白い女の人の声が聞こえてきた。
『本当にいいの? 外には嫌なことがたくさんあるわよ。また傷つくわよ』
「・・・大丈夫」
緑澤君が力強くうなずいた。
「がんばってみる。山本さんがいてくれるからがんばれると思う」
「・・・行こう」
そして・・・二人で扉を開けた。