創作小説屋

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月の王子(2/12)

2008年02月27日 00時28分56秒 | 月の王子(R18)(原稿用紙40枚)
 彼と出会ったのは一ヶ月前。六月の初めの、月が綺麗な晩だった。
 その日の夫とのSEXは特に最悪だった。
 夫と結婚したのは約一年前。つきあっていたころからSEXに満足したことは一度もなかったが、それ以外の面では夫は最高のパートナーであった。
 夫が『結婚』という名の経済的安定をくれたおかげで、私は安心して小さい頃からの夢だったイラストレーターの仕事に専念できるようになった。夫が提示した条件は「オレが家にいるときには仕事をしないこと」のみ。夕食に総菜や冷凍食品が並んでも文句を言わないでくれる寛大な人なので助かっている。
 一回り年下の私は、夫にとって「ひたすらかわいい」存在らしい。ひたすら大事にされ、ひたすら愛されていることを実感できた。
 だから、週に一回のSEXを耐えていることさえ除けば、結婚生活は完璧だった。
 でもある時、夫と共通の友人である美鈴さんが、旦那様とのSEXについて言ったのだ。
「自分が主導権を握るようにしたら、満足いくようになったわよ」
 それを聞いて、なるほど、と思った。「満足できない」と不満ばかり抱えていたけれど、自分から変えるという手もあったんだ。
 そこで土曜日の夜、いつものようにSEXが始まった時に、提案してみたのだ。「今日は私がリードするわ」と。
 すると、夫はいきなり手元にあった枕を投げつけて、怒ったように風呂場へ行ってしまった。何が何だか分からない。
 しばらく呆然としていたのだが、おそるおそる風呂場を覗いてみると、夫は不機嫌そのものの顔をしながらシャワーを浴びていた。
「どうし……」
 言い終わる前に、中に引っ張り込まれた。肩を掴まれ、耳元で怒鳴られる。
「そんなにオレのSEXが不満か!」
「前の男とはそうやってやってたのか!」
 揺すぶられながら、白けていく自分を感じた。馬鹿馬鹿しい。本当に馬鹿馬鹿しい。夫はものすごく嫉妬深いのだ。いい歳をしてまったく……。
 そう思いつつも、夫の怒りを収めるため、頭をフル回転させて言い訳を並べ立てた。
「違うのよ、美鈴さんがね、たまには違うことしないと飽きられちゃうよっていうから、だから私……あなたに飽きられたくなくて」
 夫が私の上目使いに弱いことは知っている。かわいらしい顔を作って見上げると、夫の怒りが治まってきたことが手に取るように分かった。単純な人なのだ。
「美鈴ちゃんも余計なこというなあ。オレがお前に飽きるわけないだろ」
 強く抱きしめられ、内心舌を出してしまう。チョロいもんだ。
 それからはいつも通り夫主導のSEX。蛇口につかまり、つま先立ちをしながらお尻を突き出し、後ろから挿入されるという無理な体勢。余計に感じることなんてできなくなる。
 でも早く終わらせたくて、いつもより過剰に演技する。風呂場はいい具合に反響する。
 AV女優みたいなあえぎ声。「イっちゃう」なんてイキもしないのに言ってみる。夫は興奮したようにますます動きを早くする。
 ……お願いです。さっさと終わらせてください。
 夫が果ててモノを引き抜いたのと同時に、太股に生暖かい液体が伝ってくる。それが床に落ちるのを見てようやく安心する。
 これであと一週間しなくてすむ、と。
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