創作小説屋

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窓越しの恋(1/10)

2008年12月28日 11時30分25秒 | 窓越しの恋(一部R18)(原稿用紙50枚)
 部屋の片づけをしていたら、一冊の本が目に止まった。十年前に購入した本。昔の恋人を忘れられずに生きている男女の物語。五十万部以上売れて、映画化もされた。
 初めの一行を読んだだけで、十年前に引き戻された。映画にはその時付き合っていた男の子と一緒にいった。十八歳の男の子。当時私は二十八歳だった。歳の差十歳。今、彼は当時の私と同じ歳になっているはずだ。
 そして私はもうすぐ三十八になる。

『窓越しのキスしよ!』
 彼の顔を思い浮かべると、必ず一緒に出てくる、癖のある子供っぽい文字。
 当時、私はファミリーレストランで正社員として働いていた。彼は夏の間だけのアルバイトだった。
 開店前、外の窓ふきをしていた彼が、窓辺のテーブルのセットをしにきた私に、紙を広げてみせたのだ。
(家でわざわざ書いてきたのかな?)
 真面目に書いている姿を想像して、思わず笑ってしまうと、彼は「ウー」の口に人差し指をあててみせた。
「ばーか」
 ピンっと窓をはじいてやると、今度は本当にガラスに口をつけてきた。かわいらしい、幼い唇。
 私は周りを見渡して、誰もいないことを確認してから、そっとガラスに口づけた。
 今でも鮮明に思い出す、窓越しの彼の唇。無邪気な瞳。甘えた声。細い腕。
 そのころの記憶で体の隅々まで埋め尽くされる……寸前に。
「あ、泣いてる」
 慌てて和室で寝ているユイのところに戻る。一歳になったばかりのユイは、一晩に最低でも三回は起きて、この世の終わりとばかりに泣き叫ぶ。
「大丈夫よ。ママいるよ」
 抱っこしてリビングに移動する。一緒に寝ているアヤカを起こさないためだ。
 同時にバタンッと勢いよく寝室のドアが閉まる音が聞こえた。イライラした音。夫が起こされた不愉快をドアに当てたようだ。
(夜泣きなんだからしょうがないのに)
 夫の心ない行動が腹立たしい。明日も仕事だし、寝不足になるのを気にして不機嫌になるのだろうけれど……。
「だったら、さっさと寝ればいいのに」
 思わず口に出してしまう。
 意味のないセックスをする時間を睡眠時間に変えればいいのに。そうしたら私も、こんな時間に部屋の片づけをすることもなくなるのに。本の一冊も読めるかもしれないのに。思い出に浸る時間もできるかもしれないのに。



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7ヶ月半もの間、まったく更新していなかったのにもかかわらず、
アクセスしてくださっていた方々、本当にありがとうございます。
ご期待にそえるかどうか自信はありませんが、
これから10日ほど更新させていただきます。

初めて見に来てくださった方、初めまして、です。
これからどうぞよろしくお願いいたします。


突然、深夜に思いつき・・・
夫が出張で二晩いなかった隙に、一気に書いてしまいました。はい。

これから10日間、よろしくお願いいたします。
コメント
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