創作小説屋

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窓越しの恋(3/10)

2008年12月30日 07時21分23秒 | 窓越しの恋(一部R18)(原稿用紙50枚)
 そう。私は幸せなのだ。
 三十二歳の時に今の夫と知り合い、半年後に結婚した。夫は、私が思い描いている『平凡で幸せな家庭』を一緒に築いていけると確信できた、初めての人だった。信じた通り、私は平凡な専業主婦になれた。一円でも安いモノを探してスーパーのハシゴをし、月に一度、ママ友と贅沢ランチをする普通の主婦。
 仕事の忙しい夫は、毎日子供達が眠ってから帰ってくる。でも、休日はよく子供達と遊んでくれ、子供達もとても父親に懐いている。夫の最大の良いところは子煩悩なところだと思う。
 では、悪いところは?
「言えないよね~」
 言うと、ユイがアハハと笑う。ユイの笑顔は夫にそっくりだ。子供達はびっくりするほど夫に似ている。不思議なものだ。面倒なだけのセックスの後に、こんなに素敵な贈り物が産まれてくるなんて。
 だからこそ、今するセックスが余計に無駄に思えるのかもしれない。三人目は作らない予定なのだ。だからセックスをしても意味がない。もう贈り物はいらないのだから。
 でも、困ったことに夫は性欲がとても強い。二日に一度は相手をさせられる。内心ゲッソリしてしまう。この性欲の強さと、少々短気なところさえなければ、本当に文句のない夫なのに……。
 そんな時、ふと、彼とのセックスを思い出すことがある。しなやかな体躯。仰け反る顎。腿につたう唇の柔らかさ。甘美な接合。吸い付くようにゆっくりと動く腰。快楽の頂点で悲鳴を上げる。私達、溶け合っている……。
 そこまで思い出して、激しい自己嫌悪に陥る。こんなことを思い出すなんて、私達のために遅くまで働いて、疲れて帰ってくる夫に申し訳ない。夫のセックスが他の男性と比べてとりわけ悪いわけではないのだ。ちゃんと感じる時だってある。彼とのセックスが特別すぎただけなのだ。彼との経験さえなければ、夫とのセックスも、もう少し割り切ることができるのかもしれない。
 私が少し我慢すればいい。そうすればこのまま幸せな生活が続くのだ。
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