創作小説屋

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窓越しの恋(2/10)

2008年12月29日 08時53分33秒 | 窓越しの恋(一部R18)(原稿用紙50枚)
「ナナちゃんママ、オメデタなんだって」
 アヤカを幼稚園に送りに行った帰り道、同じクラスのコウ君ママが教えてくれた。
「え、下の子、まだ6ヶ月だよね?」
「うん。偉いよね~。出産早々に旦那の夜の相手してあげてるってことでしょ。アヤカちゃんママのとこは三人目は? やることやってる?」
「んー、やってるっていうより……」
「ちょっとあんた達、朝っぱらから下ネタ?」
 ミオちゃんママが笑いながら話しに入ってきたので、出かけた言葉を止められた。
 今、うっかり本音をいうところだった。「やってるっていうより、やらされてるよ」

 小さい頃から、人と肌が触れあうのが嫌いだった。女の子同士で手を繋いでいる同級生達を、不思議に思ってみていたものだ。
 高校生になって、普通に恋をして男の子と付き合うようになったけれど、やはりベタベタするのは好きではなかった。話をしたり、一緒に映画を観たり、時間を共有するだけで十分なのに、どうして触れようとしてくるのだろう。まわしてきた腕をはねのけたことが原因で、初めての彼とは三ヶ月で破局した。
 その後もその感覚は変わらなかった。一応、結婚するまでに何人かの男性と付き合った。恋はするのだ。一緒にいたいとも思う。セックスも、感じることもある。
 でも、自分からしたいと思ったことは一度も無かった。一人の男の子をのぞいては。
「ユイ、公園に行こうか」
 駅近くの公園からは、以前に働いていたファミリーレストランのチェーン店が見える。窓越しのキス。自分から触れたいと思った唯一の男の子。
 彼の腕はとても白くて細かった。彼とは溶け合うように一つになれた。
「サエコさん」
 彼の声はいつでも甘く響く。嫌いだった自分の名前が好きになった。
「オレ、今日で十八歳になったんだよ。だからセックスしよ!」
 彼がアルバイトに来はじめて、ちょうど一週間目の日。「夕飯食べに行こう」というのと同じ軽さで、彼が言った。仕事が終わって、店を出たときだった。まだ四時だったので、夏の空は高く青かった。
「なんで?」
 呆れて振り返ると、彼はにっこりと言った。
「だって、サエコさん、『十八歳未満に手を出したら淫行条例に引っかかる』って言ってたでしょ。オレ今日から十八。もう大丈夫だよ」
「それは……」
 君がしつこく食事や映画に誘ってくるから、その断りのために言ってたのよ。どうしてそこからセックスにまで話が飛ぶのよ?
「だって、したいんだもん」
 あっさりと言った彼の唇が、あまりにも無防備で……。それだけで十分だった。もう降参だ。
「じゃ、うちくる?」
 言うと、彼は「ワン!」と言った。犬みたい。振っている尾が見えるようだ。
 夏の間だけの短い恋だったのに、ずいぶん長い時間を一緒に過ごしたような気がする。
 八月の終わりの、私の二十八歳の誕生日も、一日中一緒に過ごした。
「二十八かあ。重いなあ……」
 駅前の噴水を囲む石に並んで座って、三段重ねのアイスクリームを食べながらつぶやくと、彼は首をかしげた。
「二十八って重いの? オレもあと十年したら二十八になるんだけど」
「重いよ。十年後には分かるよ」
 そう。そして、君が二十八になるときには、私は三十八になる。
「十年後もこの噴水あるかな」
「あるんじゃないの?十年前にもあったし」
「じゃあ、約束」
 おもむろに彼は立ち上がって言った。
「十年後、重いと思うか重くないと思うか、この場所で答えるよ」
「…………」
 ふいに胸をつかれた。この恋が終わることを感じた。十八歳の少年にとってのこれからの十年と、二十八歳の私にとってのこれからの十年は、あまりにも違いすぎる。もう、潮時だ。夏休みはもうすぐ終わる。九月から彼は高校生に戻る。大学付属の高校なので、来春から大学生になることも決定している。
「ね、うちくる?」
「ワン!」
 無性に彼を抱きたくなった。彼を少しでも多く体に刻みたかった。彼の快楽と苦痛の間で揺れる表情を、瞼の裏に焼き付けたかった。
つーっと彼の指に耳をなぞられ、快感のあまり仰け反ってしまう。
「感度良好」
 くくく、と笑いながら彼が言う。
「バカ」
 軽くこづきながら、幸せを感じる。もうすぐ終わる、満ち足りた時間。幸せな時……。
「……ユイ、もしかしてウンチしてる?」
 ベビーカーの中でユイが赤い顔をして踏ん張っている。聞くと、口を真一文字に結んだまま、こくりと肯いた。その真剣な顔が面白くてついつい笑い出してしまう。
 私、今も十分幸せだ。


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引き続きお読みくださりありがとうございます。
(初めてお立ち寄りくださった方、はじめまして、です。
これからよろしくお願いいたします)

以前書いたものはすべて非公開にしていたのですが、
一つだけというのも寂しいので
直近の一作品だけ公開にしました。。。

コメント
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