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BL小説・風のゆくえには~翼を広げて・二年目-3

2017年09月22日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~  翼を広げて


【浩介視点】


 朝起きたら、慶がいなくなっていた。荷物もない……

「………慶?」

 ………夢? 慶がいたっていう夢を見たのか? おれ。

 そう一瞬思ったけれど、リアルに残っている慶のぬくもりにそうではない、と思い直す。
 話した内容も覚えているし、シーナたちに紹介したっていう記憶もある。

 夢、じゃない。じゃあ、慶と慶の荷物はどこにいったんだ?

「………母屋かな?」

 釈然としないまま、母屋に顔を出したところ、

『あああ! 良かった! 浩介! 今、呼びに行くところだったのよ!』

 いきなり、シーナに叫ばれた。いつもはそんな大声をだしたりしないシーナの様子にビックリしてしまう。

『どうし……』
『学校の門が壊されてるって報告があって、今見に行ったら、子供たちがルイスが犯人だって決めつけてて』
『えええ?!』

 なんだそれはっ

『すぐ行きます!』

 ……と、行きかけたけれども、振り返り、部屋を見渡す。やっぱり、慶、いない……

「あのー……」
『何?』

 立ち止まったおれに、キョトンとしたシーナ。と、そこへ、

『慶なら帰ったわよ』
「?!」

 淡々とした調子の声に振り返ると、アマラが腕組みをして立っていた。

「え?!」

 帰った?? え? え? えええ?!

 驚き過ぎて叫び声も出ない。

 来たばかりなのに。しばらくいるっていってたのに。なんでおれに何も言わないで……

『とりあえず、学校行って』
「…………」

 なんで? なんで慶………

 頭の中が「?」でいっぱいになったけれど、とにかくトラブル解決が先だ。思考に蓋をして、シーナに急かされるまま、猛ダッシュで学校に駆け込んだ。

『ストップストップ! 何やってんの!』

 手を叩きながら、子供達の輪の中に割って入る。興奮した子供達から事情を聞いて、壊れた門の様子をみて……

 結局、野性動物の仕業らしい、と結論がでた。それから、子供達を仲直りさせて、他の先生方と門の修理をして……、とあいかわらずの忙しい時間を過ごしていたため、慶のことを聞けたのは、夜になってからだった。


「なんで……慶」

 慶は朝早く、出て行ってしまったという……


 慶、つらそうだった。何かあったことは確かなんだ。
 せっかく会いに来てくれたのに。せっかくおれを頼ってくれたのに。


 慶。慶……会いたいよ。


 ちょうど学校も長期の休みに入る。一度、日本に戻ろう。
 と、密かに思いながら、数日たったころ……

 突然やってきた、<恋人のあかね>が、おれが目を背けていた現実を運んできた。


「あんたのお母さん、慶君がケニアに来たこと知ってたわよ」



***
 


 久しぶりに過呼吸の発作を起こしてしまった……


「ごめん。心の準備してもらってから話すべきだった」
「…………ううん」

 枕元で謝ってくれたあかねに静かに首を振る。比較的すぐに落ち着いたのだけれども、シーナが過剰に心配して、ベッドで休むようにと、無理矢理寝かされてしまったのだ。

「どう言われても、破壊力は同じだよ」
「破壊力、ね……」

 ふっと笑ったあかね。

「まあ……あいかわらずよ。あんたのお母さん」
「…………」
「気持ちがいいくらい、一本筋が通ってる」
「…………」

 その筋がおかしいからおかしなことになっているんだ……

「どうやら、定期的に慶君のことも調べてたみたい」
「え………」

 また、調査会社を使ったのか? なんなんだあの人……

「慶君に遠距離恋愛中の恋人がいるって噂聞いて心配になってたんじゃない? まさか、自分の息子のことじゃないかって」
「…………」
「で、さらに、慶君がケニアに行ったって知って、『あかねさんも行かないと!』って私に言いにきてくれたってわけ」

「………バカじゃないの」
「ね」

 あかねは真面目に肯くと、

「だから、つい『私も来週夏休みなので行くんです~』って言っちゃって」
「………ごめん」

 本当に、昔から変わらない。どうしてあの人は、自分の考えを人に押し付けるんだ……

 でも、あかねは「いや?」と手を振ると、

「今、ストーカーちっくな子につきまとわれてるからちょうどいいの。休み期間中、ここにいさせてよ」
「…………うん」

 ホントかな……おれに気を遣わせないために言ってるんじゃないかな……

 とも思ったけれど、あえて何も言わなかった。それを追求したところで、あかねが認めるわけがない。


「慶のこと……何か知ってる?」
「んー………」

 あかねは頬に手を置いたまま天井を向いた。これは、知ってる、ということだ。なんだかんだで、あかねとも付き合いが長いから、分かる。

「何でもいいから教えて」
「んー……私も慶君とは別の科の子に聞いてるだけだから、そんなに詳しくないんだけどね」

 あかねは顔が広い。慶の病院にもガールフレンドがいるらしい。
 あかねはスッと真面目な顔になると、静かに話し出した。

「慶君の担当の患者さんが亡くなって………それで慶君、ものすごく落ち込んで、仕事もままならなくなっちゃって……」
「……………」
「それで、強制的に休みを取らされたらしい」

 慶………

 思い出す。あれは、慶が働きはじめてすぐの頃……
 真夜中に突然、事前になんの連絡もなく、慶がおれのアパートまでやってきたことがあった。

 窓から差し込む街灯の明かりだけの部屋の中で、

「ぎゅーーって」

 そう、慶は言って、おれに抱きついてきた。
 ずっと後になって、あの日、初めて患者さんの死に立ちあったのだと知った。

(そうだったんだ……)

 こないだ、慶は、おれに「ぎゅーーって」されに来たんだ……

(慶………)

 胸が痛い……
 慶は、やっぱり、ずっと変わらず、おれのことを好きでいてくれて……

(慶……会いたい)

 おれはやっぱり、慶と一緒にいたい……
 

「……おれ、やっぱり日本に帰ろうかな……」
「…………」

 思わず出てしまった言葉に、あかねが目を瞠った。

「帰って、どうするの?」
「慶と一緒にいる」
「………」
「………」
「………」
「………痛ッ」

 グサッと人差し指で額を突き刺された。

「何……」
「ちょっと冷静になりなさいよ」

 あかねの呆れたような声。

「今まだ、お母さんの話ししただけで発作起こしてるような人が、日本で普通に暮らしていけるの?」
「それは……」
「また、同じこと繰り返すんじゃないの?」
「…………」

 同じこと……また慶のことを殺そうとしてしまうかもしれない……?

「それだったら、慶君をこちらに呼びよせた方がまだ現実的だと思うけど」
「そうなんだけど、それはちょっと無理………」

 慶は、憧れの島袋先生みたいな先生になるために、先生のいたあの病院を選んで頑張っている。それを「辞めて」とはとても言えなかった。
 それに………実は、ケニア行きの打診があった際、慶の勤め先がないか確認してみたのだ。でも、一応、年齢経験問わず、と言いつつも、求められているのは、やはりそれなりに経験のある医師で………。当時、大学を卒業してまだ丸3年の慶には無理があった。

「だったらやっぱり、あんたが強くなるしかないじゃないのよ」

 あかねがまた額を突いてくる。

「どうなのよ? 慶君を支えられるくらい強くなれそうなの?」
「それは……」

 そうなるつもりで離れた。そうなるつもりで頑張ってきた。でも結果を出せているのかと問われると……

「……………」
「慶君はね」

 ダメ押し、とでも言うように、もう一度突き刺してから、あかねが言う。

「新・渋谷慶、になったらしいわよ」
「新?」

 なんか10年くらい前にそんな流行語があったような……

「どういうこと?」
「休暇から帰ってきたら、雰囲気がガラッと変わって、大人~~って感じになってたんだってさ。仕事もバリバリこなしてるって」
「え……」

 大人……? なんで……?

「で、女性陣がソワソワしてるらしいんだけど」
「え!?」

 そ、それは……っ
 あわあわしてしまったおれに対し、あかねが軽く肩を叩いてきた。

「でも、あいかわらず、誘いにはまったく乗ってこないっていうから安心しなさい」
「………………」

 それは……嬉しいけど………

「でも……慶、それでいいのかな……」

 不安が広がっていく。

「おれに気を遣って断ってるんだよね……。おれには、慶をそこまでさせる権利はないっていうか……」

 おれのせいで慶が幸せな未来を逃してしまってるんじゃないか? でも、その未来を慶が選んだら、そしたら……

 どーんと暗くなったところで、

「は~~白々しい」

 はあ……とあかねに大きくため息をつかれた。

「もし慶君に本当に恋人ができたりしたら、あんた発狂するでしょ」
「………………」

「なのに、それでいいのかな……なんてイイ人ぶってんじゃないわよ。白々しい」
「…………」

 あかね、鋭い。でも、自分でも分かってる。自分の中で2つの気持ちがせめぎあっているのだ。

 1つは、純粋に慶に幸せになってほしい、と思う気持ち。

 もう1つは……醜い独占欲。


「だいたいさ」

 あかねは引き続き厳しい表情でいう。

「それは慶君が決めることでしょ。あんたがどうこう口出しする話じゃない」
「………」

 それはそうなんだけど……

「慶……大人になったって……なんなんだろう」
「…………」
「それに……なんでおれに何も言わず帰っちゃったのかな……」
「それは……」

 あかねが「んー」と言いながら首を傾げた。

「まあ、何も言わずに帰ったのは、言ったら別れがつらくなるから、かしらね?」
「…………」
「大人になったのは……、何か吹っ切れるものがあった……とか?」
「吹っ切れる……」

 おれのこと吹っ切ってたらどうしよう……

 ヒヤッと背中に冷たいものが落ちる。

 でも、誘いは全部断ってるっていうし……
 でも、本当は、慶のためには、日本で幸せを見つけたほうが……
 でも、そんなことになったら、おれは……

 グルグルと答えの出ない問題が頭の中で回りはじめる。………けれども、

「ま、今後も何か動きがあったら知らせるわよ」
「あかね……」

 有り難いあかねの申し出に、思わず拝んでしまう。

「ありがとうございます。ありがとうございます……」
「拝むな」

 ピシッと手を弾かれた。

「タダとは言わないわよ? とりあえず、今回は、休み明けのテスト作るの手伝って」
「え、仕事持ってきたんだ?」

 あかねは都立中学の英語教師をしている。

「部活忙しいから、休み中に終わらせたいのよ」
「そっか……」

 部活、テスト……たったの一年四ヶ月前のことなのに、ずいぶん昔のことみたいだ。

「これ、ここ数年の高校受験の過去問。ここから中2の一学期までに習う文法の問題を……」
「……………」

 ベッドの上にテキストが並べられていく。中学英語、懐かしい。大学生の時に中学生向けの塾で講師のアルバイトをしていたので、それ以来だ。

『お前が先生してるとこ見るの好き』

 ふいに思い出す、慶の言葉。
 おれは、慶の好きだった『浩介先生』になりたい。そう思ってここにきた。

 慶が、『新・渋谷慶』になって、またお医者さんの仕事を頑張っているというのなら、おれも、新しい自分になって、それで……


「あとさー、女の子紹介してよー」

 おれの思い詰めた顔をゆるめるためか、あかねがおどけたようにいってきた。

「去年来たときは長居できなかったから、こっちの子と少しもお近づきになれなかったのよねー」
「別にいいけど……」

 あかね、あいかわらずの女好き。

「一応、あかねサン、おれの恋人ってことになってるからね? そこのところ……」
「分かってる分かってる。別にどーこーしたいわけじゃなくて、単に遊びたいだけだからー」
「…………」

 そんなこといって、手の早いあかねのことだから、どーこーなるのは目に見えているような……。まあ……いいか。それは本人たちの問題だ。

「じゃ、明日の夜の授業、ちょうどいいから手伝ってよ。女性もいるから」
「だったら喜んで」

 即答っぷりに笑ってしまう。

 こんなに気の許せる異性の友人ができるなんて、昔のおれだったら考えられなかった。
 恋人のふり、なんて妙なことも、こんなに長い間してくれて………

「あかね………色々ありがとね」
「だからホントに、そういうのいらない」

 あかねが心底嫌そうに鼻にシワを寄せたので、ますます笑ってしまった。

(慶………)

 おれ、頑張るよ。早く、慶を迎えに行けるように、少しでも自分に自信がつくように……



***



 でも、その五ヶ月後。
 あかねとの奇妙な「恋人」の関係を、親の前では解消することになった。あかねがおれの母親から「別れてくれ」と言われた、という。

 電話口、暗い声で話してくれた話によると、結婚に踏み切らないおれ達を心配したおれの母親が、あかねの母親に会いにいき、そこであかねが高校時代に「不純同性交遊」で停学処分くらった話を聞いてしまったそうなのだ。それで、「桜井家の嫁にふさわしくないから別れてくれ」と…

「…………ごめん」

 きっと嫌なこといっぱい言われただろう……
 でも、あかねは「何いってんの」と言葉を続けた。

「ごめんはこっちよ。うちの母、娘の不幸が三度の飯より大好きだから。背びれ尾びれつけて、あんたのお母さんがそう言うように仕向けたに決まってる」
「…………」

 あかねとおれの最大の共通点は、親を殺したいほど憎んでいる、ということだ。
 せっかくあかねの母親は長野に住んでいるので、あまり関わらないで暮らしているというのに、おれの母のせいで……申し訳ない。

 あかねが淡々とした調子で宣言した。

「そういうわけだから、私たち、お別れしましょう」
「…………うん」

 思い出す……あかねがおれの『恋人』として、どれだけおれの盾になって両親の間にたってくれたか……

「あかね……今までありがとう」
「こっちこそ。私も職場ではこれ利用してたからお互い様」

 肩をすくめたあかねの姿が見えるようだ。

「これまで通り、電話は時々する。でもそっちに行くのはやめておくわね。私もたぶん、しばらくはあんたのお母さんの見張りがつきそうな気がするし」
「そう……だね」

 あかねの声を聞きながら、どうしようもない怒りが胸の中にたまっていくのを感じる。

 どうしてあの人は、おれの大切な人を傷つけるんだ。どうしてここまでしておれを支配しようとするんだ。こんなに遠く離れたのに。もう2年近くも会っていないのに。いつになったら、おれはこの鎖から自由になれるんだ……

 苦しくて、息ができない……

「この話はこれでおしまい!」

 こちらの様子が見えるかのように、あかねが明るくいってくれた。

「暗い話のあとは、明るい話! 慶君情報、聞きたいでしょ?」
「!」

 途端に、目の前が明るくなる。電話だから見えないのに、うんうんうなずく。

「あのね……」

 あかねから語られる慶の話……

 慶はその頑張りに実力が伴ってきて、看護師の中でも評価が上がっている、らしい。あいかわらず忙しく、休み返上で働いているけれど、体力無尽蔵で、クールなカッコよさは崩れることはなく、みんな感心している、と……


(慶………)

 また、慶は前を歩いてる……

 あかねに頼ったり、母のことを憎んだり、そんなことをしている場合じゃない。
 おれも、頑張らないと……





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お読みくださりありがとうございました!
長々とすみません……お疲れ様でございます……

あかねが訪ねてきた、という話は何かの後書きで書いた気がするけど探せなかった……
あかねと浩介が「別れさせられた」の話は、「光彩」6-4であかねが、「あいじょうのかたち」9で浩介が話していた話、なのでした。
なんかどんどん穴埋めが進んでる感じがするっっ。(←めっちゃ自己満足^^;)

次回、金曜日は3年目突入。高校の同窓会。長谷川委員長視点でいこうと思います。

クリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当に本当にありがとうこざいます!
真面目な話が続きますが、今後とも何卒よろしくお願いいたします。


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コメント (4)
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