【哲成視点】
今度は、松浦暁生が村上享吾を殴った。でもまた、理由は教えてもらえなかった。
「だから、テツ君を巡っての三角関係のもつれなんでしょ?」
「は?」
「やっぱり!って一部で盛り上がってるよ?」
「……………」
隣の席の学級委員の西本ななえの言葉にムーッとしてしまう。
「他人事だと思って好き勝手言って……」
「じゃ、本当の理由は何なの?」
「………知らない」
全然、分からない。あえて理由を探すと、村上享吾が渋谷慶の怪我に関係していることくらいだけど、それももう、何ヵ月も前の話だし……
「じゃ、三角関係ってことでいいんじゃない?」
「なんでだよ」
意味が分からない。
「そもそもさ、前もそれ言ってたけど、三角関係って恋愛関係で使う言葉なんだから、使い方間違ってるだろ」
「えー、そうかな」
西本はあくまでも真面目な顔で言った。
「テツ君、松浦君のこと恋愛対象としてみたことないの?」
「は!?」
恋愛対象!?
「んなことあるわけないだろっ」
速攻で否定すると、さらに畳みかけてきた。
「じゃ、享吾君のことは?」
「んなこと考えたこともないっ」
と、いうか、恋愛自体、したことない!……ってことは、言わないでおく。
すると、西本は「ふーん」とうなずいてから、一拍おいて、小さく、小さく言った。
「じゃ、私のことは?」
「え?」
私って………、西本?
西本の瞳がまっすぐこちらを向いている。揺るぎ無さすぎて、戸惑う。何を……
「私のことは、恋愛対象としてみたこと、ない?」
「え………」
それは、だから……
「えと……、え?」
答える前に、いきなり、ポンと頭に手を乗せられた。なんだ?
「なに……」
「どう? キュンッてきた?」
「………」
西本は昔から冗談なのか本気なのか分からない時がある。今もそうだ。じっと真面目な顔をしてこちらを見ているけれど、その本心がなんなのか……
(あ……そうだ)
ふっと、昔の記憶がよみがえってきた。西本とは小学校一年生の時も同じクラスだった。あの頃はよくこうして頭を撫でくり回されて……
「懐かしい。ななちゃん」
「…………」
当時の呼び名で呼んでやると、西本は「うわ……そうきたか」となぜか頭を抱えた。
「テツ君……。ここは嘘でも、キュンッてきたって言ってよ」
「えええ」
なんだそれ。
意味が分からないけれど、とりあえずリクエストに応えておく。
「ええと、うん。キュンときた。キュンときた」
「今さら遅い!」
アハハと西本はひとしきり笑ってから、今度は机を2列はさんだ先にいる村上享吾の方に目をやった。
「享吾君は、どうなのかな」
「どうって?」
「彼女とか、いるのかな?」
「……………」
いないって言ってたけど、それはオレの口から言う話じゃないしな……と思って黙ってしまう。でも、西本は村上享吾のことをジッと見続けたままで……その横顔はなぜかとても大人っぽくて綺麗で……
(……………西本?)
あれ? もしかして………
まさか……でも……
その時感じた予感は、その後、確信に変わっていく。
(………。あ、まただ)
オレが村上享吾と一緒にいると、必ずと言っていいほど、西本の視線はこちらにチラチラ向いている。いままで気が付かなかった。
(西本……村上享吾のことが好きなのか)
そうか……そうなのか。
それは、小一からの友人として応援するべきなのか? でも……
(西本ななえと村上享吾……)
確かにお似合いのカップルだけど……でも……
(なんだろう。モヤモヤする……)
二人が付き合ったら、と考えると、胸のあたりがモヤモヤしてきて……
「村上?」
「!」
いきなり頭にポン、と手を乗せられ、ドキッとする。村上享吾だ。
「どうした?ボーッとして」
「あ……うん。たまにはボーッとしようかと」
「なんだそれ」
小さく笑った村上享吾。
(…………あ)
その顔を見て、モヤモヤの理由に即座に気がついてしまった。
(なんだ。簡単なことだ)
今はオレだけに見せているこの顔を、彼女になった西本にも見せるかもしれないってことが、ものすごく、果てしなく……
嫌だ。
理由はただそれだけだ。
【享吾視点】
松浦暁生がオレを殴った件は、オレの時とは違って、さほど騒ぎにならなかった。松浦の人望のおかげなんだろう、と思うと複雑だ。
でも、今回の件で、知ってしまった。
松浦暁生は、本当に、N高の野球推薦を辞退するかもしれないらしい。最近では、全然野球に身が入っておらず、硬式野球の練習もサボりがちだと、うちに謝りにきた松浦の父親が言っていた。
(まさか、本当に、白浜高校受ける気か?)
そう思うとゾッとする。
せっかく、村上哲成から松浦を引き離せると思ったのに……
それから、もう一つ、最近気になることがある。
(…………まただ)
西本ななえの視線の先が、村上哲成に向いている。
『なれるもんならなりたいよ』
先日、西本に、村上の彼女になれば?と冗談で言ったのに対して、西本は真剣な顔をして、そう言ったのだ。思わぬ形で知ってしまった、西本の恋心……。このことを考えると、なぜか不快な気持ちになるので、なるべく考えないようにしようと思うのに、こうもあからさまに視線を向けられると、どうしたって考えてしまう。
なんてことを思っていた矢先……
西本が村上の頭を撫でているところを目撃してしまった。
(………西本!)
思わず叫んで立ち上がりかけたけれど、なんとか冷静を取り戻して座り直す。
(彼女じゃないから、頭撫でることはできないって言ってたくせに……)
……………。
……………。
え、まさか……
(彼女になったとか……?)
そんなこと……あるか?
不安にかられて、それとなく確認したけれど、別にそんな話にはなっていないらしい。
(紛らわしい……)
腹が立つのと、ホッとしたのと、なんでそんなこと思うんだ?という疑問と………
最近、自分の気持ちが、本当に分からない。
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お読みくださりありがとうございました!
この物語は今から四半世紀ほど前、私が高校生の時にノートに書いたお話を元に書いています。で、今回あらためて気が付きました。
「相手に、嫉妬、独占欲、性欲、を感じたらそれは恋」という私の持論は、この頃から存在していたみたいです。
「嫉妬」と「独占欲」には火がついたので、あとは「性欲」‼
次回、火曜日更新予定です。どうぞよろしくお願いいたします。
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