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BL小説・風のゆくえには〜素顔の日々

2021年12月14日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
【溝部視点】

 12月1日夕方。

『よつ葉ちゃん、3歳のお誕生日おめでとう』

と、高校時代からの友人、桜井浩介からご丁寧にメッセージが入った。人のうちの娘の誕生日まで覚えてるなんて、マメな奴だよな……

 せっかくだから、顔見て話すかーという流れになり、その日の夜10時過ぎ、Zoomで繋がった。数ヶ月に一度、仲の良いメンバーと「オンライン飲み会」をしているため、桜井の顔を見るのも8月末以来だが……

『久しぶりー』
「…………あれ?」

 にこやかにこちらに手を振った桜井に何か違和感を覚える。何でだろう?

『なに?』
「あー……いや」

 なんだろう? この違和感……

「ええと……もしかして痩せた?」
『え、そうかな。体重測ってないから分かんない……』

 いいながら、桜井は後ろを振り返った。

『慶、おれ、痩せた?』
『いや……どうだろう。毎日見てるから分かんねえな』

 桜井の斜め後ろに、ふいっと、すげーイケメンが現れた。同じく高校の同級生の渋谷慶だ。桜井と渋谷は高校時代から付き合っていて、今は一緒に暮らしている。

 小児科医である渋谷と、学校の先生をしている桜井は、現在世の中に蔓延している感染症対策のために、家の中でもマスクを…………、あれ?

「あ!」

 それだ!
 違和感の正体に気が付いて叫んでしまった。

 渋谷も桜井も、マスクをしていない!……って、マスクしていない方が「違和感」というのも妙な話だけど、久しぶりにこいつらのマスクなしで話す顔を見た!

「お前ら家の中でマスクするのやめたんだな!」
『あー……うん』

 桜井が軽く頬をかいた。

『おれの9月の誕生日にね、結構な金額の空気清浄機を買ってもらって……』
「へー……」

 そりゃすげーな。と思ったけれど、桜井は口を尖らせた。

『でも、厳しいんだよ。1メートル以内に近づく時はマスクしてないとダメで、向かい合わせのときは2メートル離れるとか言うんだよ!』
『当たり前だろ』

 斜め後ろのイケメンが腕を組んで顎を上げている。
 なるほど、これが1メートルの距離……。あれ? でも、離れて座っているわりに、声の聞こえに違和感がない。なんで?と聞いたら、

『職場で使ってる会議用のマイクスピーカーを持って帰ってきたんだよ』

 桜井にピースサインで返された。さすがというかなんというか……

「なんか……お前、あいかわらずだな」
『何が?』
「そういう気を回せるところが、完璧な奥さんというか……、え?」

 いいかけたところで、テーブルの向こうから、うちの奥さん(同じく高校の同級生。鈴木有希サン)にヒラヒラ手を振られた。

「どうした?」
「渋谷君たち、マスクしてないって言った?」

 コソコソと鈴木が言う。

「スクショ撮って!スクショ!」
「え、なんで?」
「見たいから!」
「? 今、こっちに来て見ればいいじゃねーかよ」

 何言ってんだ? 鈴木は渋谷とも桜井とも普通に仲良いのに……

 と、思ったら、鈴木さん、ぷうっと頬を膨らませた。

「お風呂上りだしスッピンだから嫌なの!」
「えー……お前、化粧してもたいして変わんねーじゃん」

 言うと、鈴木さん、今度は眉間にえらいシワを寄せて、

「変わる! とにかく撮ってよ!」

と、ここまでは小さい声で言って、

「じゃ、渋谷君、桜井君、ごゆっくりー」

と、声を大きくして言ってから、自分の部屋に行ってしまった。明日早いのでもう寝るらしい。

 さて……と画面を向き直ったら、桜井がやけにニコニコとしている。

「なんだ?」
『いや~~仲良いなあと思って』
「どこが? つか、会話聞こえてたのか?」
『うん。聞こえてたよ』

 桜井はさらにニコニコとして言った。

『鈴木さんにとって、溝部はスッピンを見せられる人なんだなあと思って。今更だけど、本当に夫婦なんだねえ』
「あー……」

 そうか。そういや、そうだな……。

 鈴木と夫婦になって4年8ヶ月。
 先日の11月22日の「いい夫婦の日」には、息子の陽太が「二人で食事に行ってくれば?」なんて嬉しいことを言ってくれて。でも、さすがに中学生と幼児だけで留守番させるわけにはいかないので遠慮したけれど……

(すっかり、いい夫婦。いい家族だ)

 なんて、ニヤつきそうになったところで、桜井が言葉を継いだ。
 
『旦那さんの前ではいつでも綺麗でいたい!っていう奥さんも、もちろん素敵だと思うけど……』

 桜井、何だか遠い目をしてる。

『旦那さんの前では素顔でいられる関係って……いいよね』
「………そうだな」

 たぶんおそらく……桜井には何か他に思い当たることがありそうな感じだけど……

(聞いたところで、後ろに渋谷がいる限りは口割らないだろうな)

 今までの経験上、そう判断して、これ以上つっこむのはやめた。渋谷はプライベートを話されることを異常に嫌がるのだ。

「と、いうことで」

 パチンと手を打ってやる。

「うちの素敵な奥様からのリクエストにこたえたいから、渋谷も前にきてくれ」
『え』
「息止めてりゃ二人並んでもいいだろ?」
『あー……』

 拒否るかと思いきや、渋谷がおとなしく桜井の隣に移動してきた。鈴木からの頼みだから断りにくいのかもしれない。ニコニコでピースしている桜井につられるように、ピースした渋谷。

「んじゃ適当に撮るからー」

 高校の時から変わらない笑顔が、瞬きする画面の中にある。

(やっぱ良いよな……)

 マスクで覆っていない、二人の素顔。

 早くまた、みんなで素顔で集まれる日が来るといいな……

『データ送ってね!』
『えーいらねー』
『いるから!』

 また前後に1メートル離れて座ってから、画面越しで話している渋谷と桜井。

 早く普通に話せるようになるといいな?

 あらためて、そんなことを思った2021年12月1日。




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お読みくださりありがとうございました!
もう師走ですねえ…日にちたつのが早すぎて。
今年の浩介誕生日は、空気清浄機。病院で使われてるような、めっちゃ高性能の値段高いやつ!

ということで、お付き合いくださり誠にありがとうございました!
ランキングクリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当にありがとうございます!


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「風のゆくえには」シリーズ目次1(1989年~2014年) → こちら
「風のゆくえには」シリーズ目次2(2015年~) → こちら



コメント (2)
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