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BL小説・風のゆくえには〜30周年付き合いはじめ記念日

2021年12月28日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
【南視点】

 12月23日は、姉と兄にとって特別な日だ。
 姉は「結婚記念日」。兄は「付き合いはじめ記念日」。

 しかも今年は、兄と浩介さんのところは、記念すべき30周年だったりする。紆余曲折ありながらも、ずっと揺るぎなく思い合っている二人。

(今日はどんなお祝いしてるのかな……)

 ホテルでお食事とか?

 最近、変異株とやらの動向が気になるものの、制限も緩和されて外食もしやすくなってるし……

 自慢話を聞いてやろうと思って、夜の8時に浩介さんにLINEを入れてみた。が、

『今日はおうちご飯だよ。もう準備万端。仕上げを残すのみ』
『でも、慶はまだ帰ってきてない』

 って。ありゃま。

「記念日にも残業って、感じ悪いねー」

 速攻でビデオ通話をかけて言うと、浩介さんは、あいかわらずのフニャフニャ笑顔になった。

『しょうがないよ。忙しいお仕事なんだからさー』
「えー、でも、浩介さんにご飯作らせるって……」
『いいのいいの』 

 フニャフニャの浩介さん。

『お前のビーフストロガノフが食べたいって言われてるの♥ だからこの3年、毎回ビーフストロガノフ』
「……へえ」

 照れ屋なお兄ちゃんがそんなこと言うなんて意外……とも思ったけれど、案外と本音をスルッと言っちゃうところあるから、クサイ台詞だって気が付いてないのかもしれない。

『まあ、そうじゃなくても、慶は今、本当に忙しいから、お出かけは無理なんだよ。あ、こないだなんてさ!』

 パタパタと手を振る浩介さん。

『玄関開けたら、慶が廊下で倒れてて!』
「え」

 倒れて?

「お兄ちゃん、具合悪かったの?」
『ううん。単なる寝不足。廊下で爆睡してた』
「…………」

 子供かよ。

『コート着たままうつ伏せで倒れててさ。まさか寝てるなんて思わないから、もー、心臓止まるかと思ったよ』
「そりゃそうだね……」

 迷惑な奴だ……

『あ、心臓止まる、といえばね』

 浩介さん、パチン、と手を叩いた。
 なんだかテンション高い。これは、もしかしなくても、ちょっと酔ってる。ビーフストロガノフを煮込むワインを料理中に飲んだとみた。 

『先月の記念日にね』
「記念日?」
『うん。愛してる記念日♥』
「あー、11月3日ね」

 11月3日は、初めてキスした日で、結婚式の写真を撮った日で、お兄ちゃんが初めて「愛してる」と言ってくれた日、だと数年前に聞いたことがある。
 この日だけは、シラフで「愛してる」って言う約束をしたらしいけど

 あのお兄ちゃんがどんな顔して言うんだろう? 言った後に、真っ赤になって「ぎゃー」ってなってる姿が目に浮かぶ……

『今年はね!』

 浩介さんがヘラヘラと続けた。

『不意打ちで、バックハグからの〜~、耳元で「愛してるよ」!』
「? バックハグで耳元?」

 身長的に無理じゃない?

 という、こちらの不思議顔に気がついたのか、浩介さんはパタパタと手を振った。

『おれ、ソファに座ってたの』
「ああなるほど」
『で、トイレから戻ってきた慶がね、こう後ろから』

『心臓止まるかと思ったー♥』

 …………。

 …………。


 トイレから戻ってきた、ね……

 あいかわらず色気がない二人だな……
 まあ……浩介さんが喜んでるからいいけどさ……

「そりゃー、おめでとうございます」
『ありがとうー……、って、あ! 慶から連絡入った。えーと…今渋谷出たって』
「えー、まだ渋谷なの?遅っ」
『ううん。いつもより少し早いよ。頑張ってくれたんだ〜♥』
「…………」

 あいかわらず、幸せそうで何より……

『じゃー、南ちゃん、仕上げあるからー』
「はーい」

 ひらひらと手を振った浩介さんに、手を振り返す。

「じゃあねー、30周年おめでとう!」
『ありがとー……って、30年前もありがとうね!南ちゃん!』
「…………あ、うん」

 ふっと、よみがえる30年前のシーン。うちの玄関でしゃがみこんだ浩介さん。

「思いっていうのは、言葉にしないと伝わらないよ

と、背中を押した当時の私、偉すぎる。

「じゃあね」

 お幸せに、と笑いながら通話を切った。

 30年前のあの日、帰宅した兄は、頬を少し赤くしていて、なんだかふわふわしていて、とても……とても幸せそうだった。

 今日もきっと、そんな幸せそうな顔で、浩介さんの作ったビーフストロガノフを食べるんだろうな。

「おめでとー」

 画面に向かって独りごちたタイミングで、

『ありがとう』

って、サンタの格好をしたかわいい猫のスタンプが送られてきたから、ちょっと笑ってしまった。



【浩介視点】

 30年前、南ちゃんに背中を押されて、一世一代の告白をした。

 あの時の慶の涙の美しさを、抱きしめた愛しさを、おれは一生忘れない。

 あの時は子供過ぎて、一生一緒にいられたらいいな…と漠然と思っていただけだったけれど……その願いを叶えられる日々を今、送っている。

「ただいまー」

 鍵をあける音の直後に玄関が開いて、キラキラした光が入ってきた。

「お帰りなさい!」

 廊下に顔を出して手を振る。

「おー、いい匂いだな」

 慶がニコニコしながら、コートを脱ぎ始めた。今は感染症対策で、玄関にコートとスーツを置くようにしている。

 その後、風呂場に直行だ。

「着換え出してあるよー」
「おーサンキュー」

 ふいっと、風呂場に消えた慶の後ろ姿。

(あー、早く抱きしめたい)

 触れることにも、こんなに手順をふまなくてはならない世の中がいつまで続くのかは分からないけれど……

(それでも、一緒にいられる)

 当然のように一緒にいる。

 その幸せにひたりながら、30年記念日は過ぎていく。




---

お読みくださりありがとうございました!

一年過ぎるの早いですね〜💦
柚子湯でビーフストロガノフをリクエストしてから、もう一年もたったなんて!!感覚的には、5ヶ月くらいなんですけど💦

ということで、今年も一年本当にありがとうございました。
よろしければ来年もお付き合いいただけますと幸いです。
皆様、良いお年をお迎えくださいませ。



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コメント (2)
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