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BL小説・風のゆくえには~その瞳に・裏話2

2018年03月06日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~  その瞳に*R18
 
 俺の運命の相手。天使のような『渋谷慶』。
 彼の生き生きとした瞳、触りたくなる白皙を思い出すだけで、自然と頬がゆるんできてしまう。

「真木ちゃん、今日は特にご機嫌ねえ?」
「………………まあね」

 この2ヶ月ですっかり行きつけになったバーのママから指摘され、素直にうなずいた。

「今、ものすっごい美形の子を狙っててね。今日、その子の友達と三人で飯行ってきたんだよ」

 天使の親友『桜井浩介』。俺とは勝負にならない、つまらない男だった。やせ型で背も高く、顔も悪くないのに、内面からにじみ出る自己肯定感の低さが、外面の魅力を損なわせてしまっている。俺はノンケ喰いもタチ喰いもするけれど、あんな奴には少しも興味を持てない。あの男が俺の天使と付き合っているかと思うと腹立たしくてしょうがない。

「その美形、近いうちに落として連れてくるから楽しみにしてて」
「わー。なんか悪い顔してるっ」

 ケラケラと笑うママ。短髪、顎髭、ギョロッとした目、程よく筋肉のついたガッチリした体。でもその見た目と反して声はわりと高い。優しい音色はとても心地が良い。

「美形ってどのくらい美形なの?」
「うーん……非の打ちどころのない美形。だけどそれだけじゃないんだなあ……」
「それだけじゃない?」

 きょとんと首を傾げたママに指を揺らして見せる。

「溢れでるオーラが凄いんだよ。キラキラしてて……あんな子みたことない」
「あら、あたしは見たことあるわ。すっごいオーラの子!」
「え」

 ニッと笑ったママに、へえっと身を乗り出す。

「どこで……」
「ここ」

 シルバーの指輪が光るママの太い指が俺を指さしている。

「真木ちゃんも相当なオーラの持ち主よ。それにすっごい美形だし。知らなかった?」
「………知ってる」

 ママの手を掴んでその指先に軽くキスを送って上目遣いで見返す。と、

「……悪い顔」
「痛っ」

 ビシっと額を弾かれてしまった。なんだ。やっぱり乗ってこないか。

「アタクシ、二度と騙されませんから」
「つまらないなあ……」

 ここに通うようになって早々に、ママとは一回だけ関係を持った。20歳ほど年上のママはさすがの手練れで、いつもとはひと味違った楽しい時間を過ごせたけれど、その後は誘ってもなびいてこない。泥沼にハマりたくないそうだ。まあ、お互いのためにも賢明な判断かもしれない。

「じゃあ、今日、ママがオススメの子、教えてよ」
「んー……、今いるお客さんの中で一番カワイイ子って言ったら……」

 ママがジャズの流れる木目調の店内を見渡して……ピッと指さした。

「あの子じゃない? チヒロ」
「ああ……」

 ソファに座って数人に囲まれている20代半ばくらいの男の子。時々見かける。一度話したこともある。顔は系統的には彼と同じ感じで、確かに綺麗な子だけれども……

「俺、あいにく人形遊びの趣味はないんだよねえ……」
「何それ」
「だってあの子、人形みたいじゃない? 中身が入ってないって感じ」

 何も写していないような目。人形を相手にしている気分になる。

「それだったら、その隣の子の方が……」
「ああ、コータね? コータ!」

 ママの呼びかけに、丸メガネの背のわりと高めの男の子が、「はーい!」と元気よく返事をして、こちらに跳ねるようにやってきた。

「なに~?」
「真木ちゃんが、今晩どうかって」
「えええええ?!」

 ママのコソコソ声に、わあああっと手で頬を押さえたコータ。チヒロと同年代くらいなのに、真オレンジのシャツにオーバーオールが良く似合っている。確かショップ店員と言ってたな……

「ホントにー?! 噂にきく真木スウィート!行きたかったー!」
「噂にきくって……」

 噂になってるのか、と苦笑してしまう。
 宿泊しているホテルは、親が懇意にしているホテルで、まあ、名前を出して恥ずかしくないレベルのホテルと言える。俺が今、連泊しているのは、キングサイズベッドのあるベッドルームと、ソファとテーブルとテレビのあるリビングルームが、スライディング式ドアで仕切られているスイートルームだ。ホテルの一室というよりも、自分の部屋のようで大変居心地が良くて気に入っている。

 コータはその場でもぴょんぴょん跳びはねると、

「チヒロも一緒でもいい?」
「………」

 イタズラそうな目でこちらをのぞきこんできた。

(………チヒロ)

 人形の相手はしたくないけれど、何か趣向があるというのなら、それはそれでいいか。

「どっちでもいいよ」

 肩をすくめてみせると、コータは「やった!」と握りこぶしを作って、「チヒロもこっちおいでー!」と、ニッコニコで振り返った。

 その視線の先、ソファに埋もれるように座っている色白の男の子。やっぱりその瞳は何も写していない。

(顔は似てるのに………)

 俺の天使君とは大違いだ。



***



 10月2週目の日曜日、天使と約束をした。

「俺の持ってる資料映像、部屋に見にくる?」

 そう誘ったら、彼は目を見開いて、

「わあ!いいんですか!?是非!!」

 キラキラ笑顔をこちらに向けてきた。本当に、この子は内側から光を放っているようだ。

 たまらないな………

「そのまま泊まっていきなよ」

 頭をナデナデしながら言うと、彼は「あはは」と笑って、

「そこまで甘えられませんよー」

と、さらにくすぐったそうに笑った。その笑顔の可愛いこと………。彼も次のステップへ進みたがっていることが伝わってくる。

(もう………いいだろう)

 さあ、最後の仕上げに取りかかろう。

 


 まだ仕事の残っている彼を置いて、俺は先に病院を出た。彼の『親友』桜井浩介に会うためだ。
 浩介は、俺の呼び出しに応じて、日曜の午後の公園には似合わない、覚悟を決めたような表情で俺を待ち構えていた。

「単刀直入に聞くけど……」

 早々に容赦なく、切り込んでやる。

「君と慶君って、付き合ってるよね?」
「…………はい」

 浩介が青白い顔をしたままうなずいた。

「高2の冬からなので、もうすぐ丸11年になります」
「へえっ、11年!」

 まさかとは思っていたけれど、高校時代からずっととは!

「長いね~」

と、いうことは、おそらく彼は浩介以外の男を知らないだろう。それは開発のしがいがあるというものだ。ああ………楽しみだ。

「あの………話ってなんですか?」

 耐えかねたように言った浩介に、わざと明るく言ってやる。

「うん。君、慶君と別れてくれる?」
「何を……」

 目をみはった浩介に畳み掛ける。

「だって、君は慶君にふさわしくないよ」


 さあ、これで心置きなく、彼は俺のものになれる。




-------------------------------

お読みくださりありがとうございました!
「その瞳に」の2の真木さん視点でございました。

コータ&チヒロは2年前「その瞳に」を書いたときから存在していたので、こうして書けて嬉しかったです。
次回、金曜日も、お時間ありましたらどうぞよろしくお願いいたします。


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BL小説・風のゆくえには~その瞳に・裏話1

2018年03月02日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~  その瞳に*R18

「その瞳に」の真木視点です。
本編・裏話、どちらを先に読んでも大丈夫、のつもりで書いております。


-------


2002年秋


【真木視点】


 幼い頃から、願いが叶わなかったことは、一度もない。

 裕福な家庭で育った上に、この完璧な容姿、人を魅了するオーラ、優れた記憶力・分析力、抜群の運動神経、手先の器用さ、等々、天が二物も三物も与えてくれたおかげで、求めて手に入らないものはなかったのだ。

 だから、彼を「欲しい」と思ったことは、いつものように「手に入る」に繋がるはずだった。絡めとる網を張って、自分の手に落ちてくるように仕掛けたはずだった。

 けれども……


***


 彼との出会いは9月の初め。さして興味のない勉強会に参加したときのことだった。

 開始ギリギリに会場に飛び込んできた彼を見て、思わず「へえ……」と感嘆の声を漏らしてしまった。

(綺麗な子だな……)

 綺麗なだけでなく、人目を引くオーラを放っている。俺と同じだ。

「ここ、空いてるよ」

 座る場所を探している様子の彼に手を挙げて教えてあげると、

「ありがとうございます!」
「………!」

 キラキラキラ………と光が舞ったような笑顔をこちらに向けてきた。息を飲んでしまう。まるで天使だ。

(これは………欲しい)

 こんな子、今まで見たことない。震えるような衝撃が走った。この出会いは運命だ。

 完璧な俺の隣には、彼のような子がふさわしい。
 



 彼……『渋谷慶』は、驚いたことに、卒後3年目の28歳だという。ずいぶん若くみえる。まあ、おれも若くみられるので、実年齢の6歳の差は見た目と合っているかもしれない。

 彼は非常に真面目な青年で、勉強会の最中は、メモを取ったり、資料に印をつけたり、と、ずっと熱心に話を聞いていた。
 中でも、小児アレルギーの小林先生の講義を食い入るように聞いていたので、

「もしかして、小林先生目当てで参加した?」

 終了後にたずねてみたら、彼は恥ずかしそうにうなずいて、

「実は先生の本、何冊も持ってて……」

 頬を赤らめたその様子………かわいすぎるじゃないか。

「……………。俺、小林先生と面識あるから、紹介してあげるよ?」
「え!?」
「おいで?」

 戸惑った様子の彼の肩に手を回す。

(へえ……結構鍛えてるな)

 華奢に見えるけれど、体はガッチリしている。そんなところも、好ましい。

「ご迷惑では……?」
「大丈夫だよ」

 微笑みかけると、彼は大きく瞬きをしてから、

「ありがとうございます。お言葉に甘えます!」

と、ニッコリとした。その物怖じしないところも気に入った。



 知れば知るほど、彼は俺にふさわしい理想的な青年だと思えた。

 医者としてはまだまだ未熟。でも、それを自覚して懸命に取り組んでいるところが良い。少々、空回っているところも微笑ましい。

 勉強会では常に隣に座るようにして、その後、飲みに行ったり、スポーツジムに行ったり……、と、計画通り、この一ヶ月ほどで着々と距離を縮めた。健康的で真っ直ぐな彼が俺に向けてくる視線は、すっかり『頼りになる先輩』だ。込み入った仕事上の悩みを打ち明けてくるくらい、俺に気を許している。


 そろそろ次の段階へ行こうかな………と思っていた矢先のことだった。


「今日は浩介のうちから直接来たので……」
「………そう」

 彼から発せられる『浩介』の言葉に、またか、と思う。一度何かの話題に出たのをキッカケに、彼はよく『浩介』の話をするようになった。高校時代からの『親友』だと言う。高校の社会科の教師をしているバスケ部顧問。その名前を口にするとき、彼の瞳は少し柔らかくなる。

(彼氏……とか?)

 以前、恋人はいるのかと聞いたら、少し間を空けてから「いません」と答えていた。あの間が、同性の恋人を隠すためのものだとしたら、彼も『こちら側』の人間ということになり………話が早くて好都合だ。恋人の有無なんて、俺にとっては何の問題にもならない。

 よし。決めた。

「ねえ、慶君」

 ポンッとその小さくて可愛らしい頭に手をのせる。

「俺、その親友君に会ってみたいなあ」
「え」
「今度一緒に食事でもどう?」
「いいんですか?!」

 ぱあっと目を輝かせ、キラキラ笑顔になった彼。眩し過ぎる。

「おれも是非、真木さんに会っていただきたいって思ってたんです!」
「………」
「わ~嬉しいなあ」

 無邪気な瞳。溢れでる真っ直ぐさ。触りたくなる白皙……

(ああ。欲しい……)

 今すぐ落としてしまいたい。……けれども、まだだ。ゆっくりと、着実に、俺のものにしてやる。




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お読みくださりありがとうございました!
「その瞳に」の1の真木さん視点でございました。
この調子で「その瞳に」の裏話を書き終えてから、あらためて!真木さん主役のお話を書こうと思っております。
なので、真木さんの詳細……家庭環境とかそういったことはその時に。今回は裏話に徹します。

次回もお時間ありましたらどうぞよろしくお願いいたします。
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