ざっくばらん(パニックびとのつぶやき)

詩・将棋・病気・芸能・スポーツ・社会・短編小説などいろいろ気まぐれに。2009年「僕とパニック障害の20年戦争出版」

右か左か

2023-04-27 12:04:26 | Weblog

旅人は迷っていた

「右に行くべきか、左に行くべきか」と

彼は足を止め、腕を組む

 

少し前に二人の男の話を聞いた

髭面の男は「青年よ、右に曲がれ」と

眼鏡の男は「青年よ、左に曲がれ」と

大まかには二人の話は同じだ

髭も眼鏡も自らが主張する方向は快適で

逆方向はいばらの道だと説いた

こういう類いの話は大抵あてにならず

彼は真っ直ぐ進もうとした

しかし、近づいてみるとそこは行き止まりで

右か左かを選ぶしかない

心は何度か揺れて、彼は右を選んだ

 

しばらく歩くと道は上り坂になり

雨が降りだした

そのうち向かい風が強くなった

「あの髭面の奴」

彼は顔をしかめて呟いた

「左を選んでいれば今頃は」

思いがよぎった時、雨はさらに激しさを増した

 

逆風の坂道を登り続け、体力も限界に達した

雨に撃たれた服はボロボロで泥だらけだ

「少し年老いたような気がする」

彼はその場にへたり込んだ

伸ばし放題の髪や髭は白くなっていた

 

雨は止み、空が少し明るくなった

旅人は細めていた目を大きく見開いた

「これまでにこんなに美しい虹を見たことはない」

大の字の彼はしばらく眺め、目を閉じた

「これでよかったのかもしれない」

彼の口元は微笑んでさえいた

 


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