ざっくばらん(パニックびとのつぶやき)

詩・将棋・病気・芸能・スポーツ・社会・短編小説などいろいろ気まぐれに。2009年「僕とパニック障害の20年戦争出版」

エリートとホームレス

2023-05-12 16:39:48 | Weblog

エリートサラリーマンと化した彼は

通勤途中の公園で声を掛けられた。

「食い物くれよ」と

 

声の主は白髪まじりの汚れた顔

伸び放題の顎髭 

服や靴も黒ずんでいる。

エリートはそこを通りすぎると

「ホームレスか、どうしようもねえ」と

小さく吐き捨てる

 

1カ月ほど経ったある日

ホームレスはすっかり定番の食い物ねだり

エリートはうんざりした顔を浮かべ

足を速めた。

その背中にエリートの名前をぶつけられた

彼は足を止め、振り向いた。

 

「なぜ俺の名を知っている?」

ホームレスは名を名乗り

「俺を覚えていないか?」

エリートの目と耳と記憶が繋がった。

「お前、高校の時の」 

「やっと思い出したか」

ホームレスは呆れた口調だ。

「それにしてもお前、どうしたんだよ。俺よりも良い大学に入ってその様か」

 

「お前、汚れちまったなあ」

ホームレスは寂しそうに呟いた。

「えっ、俺が?まあ30年も経てば、多少変わるのは仕方ない」

エリートは軽く頬を撫でた。

「違う。外見じゃない。人間がだ」

「ホームレスのお前に何が分かるんだ」

エリートの顔が赤みを帯びた。

「高校の時、お前が教えてくれたんだよ。俺が友人の悪口を言うたびに、人には事情があるって」

 

エリートは何も言葉を返さなかった。

そしてホームレスの顔を見た。

彼の目はどこまでも深く洞察し

どこまでも遠くを射抜いていた。

エリートは「お前と話している時間はない」と言い残し、足早に立ち去った。

 

 

 

 


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