2ヶ月ほど前に映画館のチラシで知ったこの「マクベス」、ドラマ版シェイクスピア「ホロウ・クラウン」シリーズ2や、19エピも見続けてすっかりスコットランド贔屓にさせられた「アウトランダー」を見た流れで自然に映画館へ足が向いてしまいました。
この映画も原作にしっかり沿っているとのこと(私は読んでません)で、たったの2時間ほどでシェイクスピアの戯曲を1冊見せてもらえると言う嬉しさです。
マクベス/マイケル・ファスベンダー
シェイクスピアを見続けていると殺人が日常茶飯事に思えてくるのですが、それでもやはり「手を血に染める」行為はハムレットしかり、このマクベスしかり、正気を失うほどに罪深いことなのだと、マイケル版マクベスを見ていてわかりました。
戦場の霞に現れた魔女の予言を半信半疑ながらも信じていい気になる様子、最初は「運命ならば何もしなくても王に成る」と言ってたくせに奥さんに「手を下してこそ男よ!」と言われて「ボクできるもん!」とやってしまう様子、なまじっか力は強いし戦で鍛えてるから王の寝首を捉えるものの、自分の行為の恐ろしさに亡霊を見て錯乱する様子がすごく自然に現代劇を見ているかのようでした。つまり、これが演技力がある、ということなのかな。
マクベス夫人/マリオン・コティヤール
最初に見たり聞いたマクベス夫人がジュディ・デンチだったので、こちらの写真を見てずいぶん愛らしいお妃と思いました。ところが!実は私には、この奥さんの方がよっぽど魔女でした・・・!何を考えているのか本心が見えないのです。映画の宣伝や感想に「夫婦愛」「信頼と絆」などの文字があるのですが、とても信じられません。妖気さえ感じましたもの。中世の物語ながらマクベスが普遍的な人間味を持つのに、奥さんは狂ってなくても狂気の世界に生きてたような人に見えました。・・・実はそれが狙い?日本マーケットだから「愛」とか「絆」とかの夫婦にして売り込んでるのかしら?
マクベスの友人バンクォー/パティ・コンシダイン
ベン・ウィショーがキースを演じた「ブライアン・ジョーンズ/ストーンから消えた男」や「パレードへようこそ」に出ていた味のある俳優さん。スコットランドの戦士の猛者い姿はあまり似会ってなかったような。イケメンというほどの派手さはないものの、普通の人に見えてちょっと一癖ある魅力が、ヒゲや汚れで顔が見えないと伝わりにくい。
マクダフの奥さん/エリザベス・デヴィッキ
綺麗でした!のにあっという間に火あぶりにされてもったいなかった。こんな綺麗な奥さんとその子供達を生きたまま見世物にして焼くなんて、そりゃあマクベス王よ、家臣や民衆の反感買うでしょうとも。
映像と衣装について
映像が、まるで実験的なショートフィルムのようにカッコよかったです。
戦争シーンは、剣と剣での集団斬り合いをスローモーションとストップモーションを組み合わせて撮るという、刃物の切れ具合がよくわかる残酷な見せ方の筈が、なぜか映像として美しくなってた。いいのか。
衣装が、11世紀のスコットランドにはまだキルトがなくて残念でした。しかし、マクベスの前の王様の衣装が、キモノ、それも十二単のように何枚も前合わせが重なった衣装で、クロサワの映画が一瞬ワープしてきた?というような感覚に襲われました。そのキモノの上に、半襟のような長い布を首にかけているのですが、その模様が紋章の動物をばらして縫い付けたような興味深いものでした。あれは王の印だったのかな。
全く重要ではないけどカンバーランドについて
マクベスが最初に前王から戦争の褒美としてコーダーの土地をもらった時、友人のバンクォーはカンバーランドをもらったと思うんです。(もしかして違ったからもしれないけど、とにかく、スコットランド王が「カンバーランド公に命じる」とか何とか言ってた)ここで、むむ?!と思われた方も多いのでは?
だってカンバーランドの領主様は、「クリムゾン・ピーク」にも出てきたけど、イングランド人だったはず。
しかし、Wikiってみたら、11世紀の書物に「イングランドのエドモンド王からスコットランドのマルコム1世に譲られた」と書いてあると!場所はイングランドの最北端なので、フランスとドイツの間のアルザス=ロレーヌのような微妙な立場の土地だったのですね。これでまたカンバーランドに詳しくなりましたね。